(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】コネクタハウジングおよび電気コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/46 20060101AFI20241115BHJP
H01R 4/2452 20180101ALI20241115BHJP
【FI】
H01R13/46 B
H01R4/2452
(21)【出願番号】P 2019187748
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-09-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】TE Connectivity Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】安井 達雄
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】内田 博之
【審判官】横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-163090号公報-(JP,A)
【文献】特開2005-108650(JP,A)
【文献】実開平2-148565号公報(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/46 , H01R 4/2452
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に開口して被覆電線を受容する受容溝を隔てて
該受容溝の左右に立設することで該受容溝を形成する、前後方向に延びた立壁と、該立壁の肉厚を減滅させることなく該立壁の肉厚を該受容溝に入り込む向きに膨らませることにより形成された、前後方向に延びて該立壁の上部から前記受容溝内に互いに近づく向きに斜めに垂下し、該被覆電線の該受容溝内への受容を許容するとともに受容後の該被覆電線の該受容溝から上方への抜けを抑える
、左右一対の電線押さえ片とを有する電線保持部が形成されたコネクタハウジングであって、
前記受容溝および前記電線保持部が、左右方向に並ぶように複数配列され、
複数配列された前記受容溝各々の左右に立設する前記立壁
の全てが、前記電線押さえ片の後端よりも後方にまで延在していることを特徴とするコネクタハウジング。
【請求項2】
前記立壁が、前記電線押さえ片の後端と該立壁の後端との間に後方斜め上向きの斜面を有することを特徴とする請求項1に記載のコネクタハウジング。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコネクタハウジングと、
前記被覆電線の被覆を切断して芯線と導通する圧接刃を有し、前記コネクタハウジングに、該圧接刃が前記電線保持部よりも前方に位置し該被覆電線が該電線保持部に保持される際に該被覆電線の被覆を切断する姿勢に支持されたコンタクトとを備えたことを特徴とする電気コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線を保持する電線保持部を備えたコネクタハウジング、およびそのコネクタハウジングを備えた電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電線保持部を有するコネクタハウジングおよび電気コネクタが知られている。例えば、特許文献1には、電線保持部を備えたコネクタハウジングと、被覆電線の被覆を切断して芯線と導通する圧接刃を有するコンタクトとを備えた電気コネクタが開示されている。この特許文献1に開示された電気コネクタの電線保持部には、受容溝を隔てて受講溝の両側に立設する立壁と、立壁から受容溝内に互いに近づく向きに垂下した電線押さえ片とが備えられている。電線押さえ片は、被覆電線が受容溝内に受容される際には弾性変形して被覆電線の受容溝内への受容を許容する。そして、この電線押さえ片は、受容後の被覆電線の受容溝からの上方への抜けを抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電線保持部を有するコネクタハウジングおよび電気コネクタにおいて、被覆電線の太さは変えずに被覆電線の配列ピッチを狭めることが要求されている。この場合、配列ピッチを狭めるには、立壁の厚さを薄くする必要がある。立壁の厚さを薄くすると、受容溝内にある被覆電線に上方に抜け出る向きの力が加わったときに立壁が外向きに撓みやすくなる。すると、立壁の厚さが厚い場合と比べ、小さい力で被覆電線が受容溝から抜け出てしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、被覆電線に上方に抜け出る向きの力が加わったときに、被覆電線が受容溝から容易には抜け出ない構造のコネクタハウジング、およびそのコネクタハウジングを備えた電気コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のコネクタハウジングは、
上方に開口して被覆電線を受容する受容溝を隔てて受容溝の左右に立設することでその受容溝を形成する、前後方向に延びた立壁と、該立壁の肉厚を減滅させることなく該立壁の肉厚を該受容溝に入り込む向きに膨らませることにより形成された、前後方向に延びて立壁の上部から受容溝内に互いに近づく向きに斜めに垂下し、被覆電線の受容溝内への受容を許容するとともに受容後の被覆電線の受容溝から上方への抜けを抑える、左右一対の電線押さえ片とを有する電線保持部が形成されたコネクタハウジングであって、
受容溝および電線保持部が、左右方向に並ぶように複数配列され、
複数配列された受容溝各々の左右に立設する立壁の全てが、上記電線押さえ片の後端よりも後方にまで延在していることを特徴とする。
【0007】
本発明のコネクタハウジングは、受容溝を形成している立壁の後端部が電線押さえ片の後端よりも後方にまで延在している。このため、被覆電線に上方に抜け出る向きの力が加わったときに、電線押さえ片の後端が立壁の後端と同じ位置にある場合よりも被覆電線が受容溝から抜け出ないように強く抑えられる。
【0008】
ここで、本発明のコネクタハウジングにおいて、上記立壁が、電線押さえ片の後端と立壁の後端との間に、方斜め上向きの斜面を有することが好ましい。
【0009】
斜面が形成されていると、コネクタハウジングに被覆電線を装着する際に被覆電線を傷つけるおそれが減少する。これにより、被覆電線の切断や被覆の剥がれなどの事故が生じるおそれが減少する。
【0010】
また、上記目的を達成する本発明の電気コネクタは、
本発明のいずれかの態様のコネクタハウジングと、
被覆電線の被覆を切断して芯線と導通する圧接刃を有し、コネクタハウジングに、圧接刃が電線保持部よりも前方に位置し被覆電線が電線保持部に保持される際に被覆電線の被覆を切断する姿勢に支持されたコンタクトとを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明は、圧接コンタクトを備えた電気コネクタに好適に適用される。
【発明の効果】
【0012】
以上の本発明によれば、被覆電線に上方に抜け出る向きの力が加わったときに、被覆電線が受容溝から容易には抜け出ないように抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態としての電気コネクタの斜視図である。
【
図3】
図1の円R1の部分の拡大図(A)と、
図2の円R2の部分の拡大図(B)である。
【
図4】比較例としての電気コネクタの斜視図である。
【
図6】
図4の円R3の部分の拡大図(A)と、
図5の円R4の部分の拡大図(B)である。
【
図7】電線押さえ片の形成位置の相違による作用の相違を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態としての電気コネクタの斜視図である。
【0016】
また、
図2は、
図1の電気コネクタの3面図である。ここで、
図2(A)は平面図、
図2(B)は側面図、
図2(C)は背面図である。
【0017】
さらに、
図3は、
図1の円R1の部分の拡大図(A)と、
図2の円R2の部分の拡大図(B)である。
【0018】
この電気コネクタ10Aには、コネクタハウジング20とコンタクトとが備えられている。コンタクトについては、圧接刃31が示されているが、その他の部分はハウジング20に隠れていて図面上には現れていない。この電気コネクタ10には、13個のコンタクトが配列されている。そして、各コンタクトには、圧接刃31が前後2か所に設けられている。この電気コネクタ10には、13本の被覆電線50(
図7参照)が装着される。そして、圧接刃31は、装着されてきた被覆電線50の被覆を切断して芯線と導通する。
【0019】
また、コネクタハウジング20には、コンタクトの圧接刃31よりも後方に、被覆電線50を保持する電線保持部21が形成されている。この電線保持部21も、コンタクトの数と同数、配列されている。各電線保持部21は、上方に開口して被覆電線を受容する受容溝22を有する。この受容溝22は、その受容溝22を隔ててその受容溝22の両側に立設する、前後方向に延びた立壁23により形成されている。またこの電線保持部21には、受容溝22の両側に、電線押さえ片24が形成されている。これらの電線押さえ片24は、前後方向に延びて立壁23から受容溝22内に互いに近づく向きに垂下した形状を有する。そして、これらの電線押さえ片24は、被覆電線50が受容溝22内に受容されるに際し弾性変形して被覆電線50の受容溝22内への受容を許容する。また、これらの電線押さえ片24は、受容後の被覆電線50に上向きの力が加わったときには、受容溝22からの上方への抜けを抑える。
【0020】
ここで、本実施形態では、
図3(B)に示すように、立壁23の後端は、コネクタハウジング20の後端と同じ位置E1にある。一方、電線押さえ片24の後端は、位置E1よりも距離dだけ前方に寄った位置E2にある。すなわち、立壁23は、電線押さえ片24の後端よりも後方にまで延在している。この電線押さえ片24は、前後方向に長さLを有する。
【0021】
また、立壁23は、電線押さえ片24の後端(位置E2)と立壁23の後端(位置E1)との間に、後方斜め上向きの斜面231を有する。
【0022】
立壁23が電線押さえ片24の後端よりも後方にまで延在していることの作用、および、斜面231の作用については、比較例を挙げた後で説明する。
【0023】
図4は、比較例としての電気コネクタの斜視図である。
【0024】
また、
図5は、
図4の電気コネクタの3面図である。ここで、
図5(A)は平面図、
図5(B)は側面図、
図5(C)は背面図である。
【0025】
さらに、
図6は、
図4の円R3の部分の拡大図(A)と、
図5の円R4の部分の拡大図(B)である。
【0026】
これら、
図4~
図6に示した比較例の電気コネクタ10Bにおいて、
図1~
図3に示した本発明の実施形態の電気コネクタ10Aの要素と対応する要素には、
図1~
図3において付した符号と同一の符号を付して示す。そして、この比較例においては、本発明の実施形態の電気コネクタ10Aとの対比に必要な点のみ説明し、他の説明は省略する。
【0027】
この比較例の電気コネクタ10Bでは、電線押さえ片24の後端は、立壁23の後端と同じ位置E1にある。この電線押さえ片24の長さLは、実施形態の電気コネクタ10Aの電線押さえ片24の長さLと同一である。すなわち、比較例の電気コネクタ10Bの場合、他の要素は実施形態の電気コネクタ10Aと同一であって、電線押さえ片24のみ、位置E1にまで寄った位置に形成されている。
【0028】
図7は、電線押さえ片の形成位置の相違による作用の相違を示した説明図である。ここで、
図7(A)は、本実施形態の説明図、
図7(B)は、比較例の説明図である。
【0029】
この
図7には、電線保持部21の受容溝22に被覆電線50が受容された状態が示されている。ここで、被覆電線50に、受容溝22から抜け出る上向きの力が加わったものとする。被覆電線50に上向きの力が加わるということは、
図2(C),
図5(C)に示すように、被覆電線50の、コネクタハウジング20から出て後方(
図7の下方)に延びる部分が上向きに持ち上げられることを意味している。この場合、電線押さえ片24には、その後端に、図示の破線の矢印Dの向きに力が加えられる。すると、立壁23にも矢印Dの向きの力が加わり、立壁23が左右に開こうとする。
【0030】
ここで、本実施形態(
図7(A))の場合、立壁23の後端(位置E1)は、電線押さえ片24の後端(位置E2)よりも後方にある。このため、この立壁23は、電線押さえ片24の後端(位置E2)に力が加わったときに位置E1の後端と位置E3の前端との双方が固定された両持ち張りのように作用する。これに対し、比較例(
図7(B))の場合、電線押さえ片24の後端は、立壁23の後端(位置E1)と同じ位置E1にある。このため、電線押さえ片24の後端(位置E1)に力が加わると、立壁23は、位置E3の前端のみが固定された片持ち梁に近い振る舞いとなる。この相違により、同一の力が加わったときの立壁23の変位量は、
図7(A)と
図7(B)の双方の矢印Dの大きさの相違で表すように大きく異なる。すなわち、本実施形態の場合、比較例と比べ、電線押さえ片24を距離dだけ前方に形成したことにより、立壁23の変位量が小さくて済み、その分、被覆電線50の、受容溝22からの抜けが抑えられる。
【0031】
ここで、被覆電線50の、受容溝22からの抜けを強く抑える手段として、電線押さえ片24の前後方向の長さLを長くすることが考えられる。この長さLを長くすると、電線押さえ片24の後端が立壁23の後端と同じ位置にあっても抜けを強く抑えることができる。ただし、電線押さえ片24の前後方向の長さLを長くすると、被覆電線50を受容溝22に受容させるにあたり、より大きな力を必要とし、被覆電線50を傷つけるおそれが増す。このため、本実施形態では、電線押さえ片24の前後方向の長さLは比較例と同じとし、電線押さえ片24の形成位置を前方に移動させている。
【0032】
また、本実施形態の場合、立壁23に斜面231が形成されている。これを、この斜面231が形成されていなくて、立壁23の後端が垂直に切り立ったままの立壁23と比べる。斜面231が形成されていると、コネクタハウジング20に被覆電線50を装着する際に被覆電線50を傷つけるおそれが減少する。したがって、被覆電線50の切断や被覆の剥がれなどの事故が生じるおそれが減少する。また、この斜面231を形成すると立壁23の肉厚の薄い部分が減り、外力が加えられた際の立壁23の破損や割れが防止される。
【0033】
なお、ここでは、圧接刃31を持ったコンタクトを備えた電気コネクタ10Aに本発明を適用した例について説明した。ただし、本発明の電気コネクタを構成するコンタクトは、必ずしも圧接刃を持ったコンタクトである必要はなく、例えば電線に圧着されたコンタクトなどを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10A,10B 電気コネクタ
20 コネクタハウジング
21 電線保持部
22 受容溝
23 立壁
231 斜面
24 電線押さえ片
31 圧接刃
50 被覆電線