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特許7588316繊維メッシュシートとその製造方法、及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップ
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  • 特許-繊維メッシュシートとその製造方法、及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップ 図1A
  • 特許-繊維メッシュシートとその製造方法、及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップ 図1B
  • 特許-繊維メッシュシートとその製造方法、及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップ 図2
  • 特許-繊維メッシュシートとその製造方法、及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップ 図3
  • 特許-繊維メッシュシートとその製造方法、及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップ 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】繊維メッシュシートとその製造方法、及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップ
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/12 20060101AFI20241115BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241115BHJP
   D04H 3/04 20120101ALI20241115BHJP
   D04H 3/14 20120101ALI20241115BHJP
【FI】
B32B5/12
C12M1/00 C
D04H3/04
D04H3/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021023538
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2021146733
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020045525
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】中村 太一
(72)【発明者】
【氏名】塚原 法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】辻 清孝
【審査官】山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0114077(US,A1)
【文献】特開2005-281924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0045109(US,A1)
【文献】特開2019-024340(JP,A)
【文献】特開2018-014993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0015700(US,A1)
【文献】特開2021-172912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C12M1/00-3/10
C12N1/00-7/08
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる複数の繊維が面内で前記繊維の長手方向を一方向に沿って配列した平面状の配列繊維群を2層以上積層させたメッシュ構造であって、
隣接する2層の配列繊維群は、それぞれの配列繊維群の前記繊維のそれぞれの長手方向が、面に垂直な方向から見た平面視で30°以上150°以下の交差角で交差しており、
最下層の配列繊維群の繊維の断面の隣接する配列繊維群のある側の上部が略円形状で、隣接する配列繊維群のない側の下部が略平坦状であり、
最下層以外の配列繊維群の繊維の断面は略円形状であって、
前記配列繊維群の前記繊維の平均径は、1μm以上50μm以下である、
繊維メッシュシート。
【請求項2】
最下層以外の前記配列繊維群の前記繊維の前記略円形状の水との接触角は、90°以上150°以下である、請求項1に記載の繊維メッシュシート。
【請求項3】
高分子材料からなる複数の繊維が面内で前記繊維の長手方向を一方向に沿って配列した平面状の配列繊維群を、面に垂直な方向から見た平面視で30°以上150°以下の交差角で隣接する2層の配列繊維群の前記繊維のそれぞれの長手方向が交差するように、2層以上積層させる工程と、
前記繊維の前記高分子材料の融点以上前記繊維が溶融切断する温度(融点+100℃)以下の温度で加熱処理する工程と、
を含み、
前記加熱処理する工程により隣接する2層の前記配列繊維群の相接部分の過半数部を交絡させると共に、
前記繊維の前記高分子材料の融点以上前記繊維が溶融切断する温度(融点+100℃)以下の温度で加熱処理する工程により、最下層の前記配列繊維群の前記繊維の断面の隣接する前記配列繊維群のない側の下部を略平坦状とする、繊維メッシュシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の繊維メッシュシートを含む、細胞培養チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維メッシュシートとその製造方法及び繊維メッシュシートを用いた細胞培養チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞培養に用いるチップとして、生体機能チップ(Organ On a Chip:OoC)の開発が盛んに行われている(例えば、特許文献1参照。)。OoCとは、ガラス、樹脂等を組み合わせた人工の微小空間において、細胞を培養することで、生体内の組織機能をマイクロスケールで再現した、細胞培養チップである。
【0003】
このような細胞培養チップを用いて培養した細胞に対して、薬剤を投与することで、薬剤の薬効、毒性試験や吸収、代謝、排泄等、従来マウスを用いた動物試験によって評価していた試験を生体外の人工チップにおいて、生体内により近い機能を持つ細胞での評価が実施可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-180354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体内により近い機能を持つ肝細胞または腸管細胞を含む細胞シートを提供するために、例えば、特許文献1に記載されている従来の細胞培養チップでは細胞を培養するための足場にマイクロメッシュシートが用いられている。
【0006】
しかしながら、2種類の細胞を上下別々の細胞シートとして培養により形成して、上下別々に異なる流体を灌流させて細胞シートに対する薬物透過の評価を行う場合がある。これには、上下の細胞を分離したまま培養するためにメッシュ開口部を細胞1個の通過を抑制する大きさにする必要があり、それによってメッシュ開口部に被験物質が詰まりやすく、薬物透過性が阻害されるといった課題があった。
【0007】
特に、近年、新薬の候補化合物として高分子量化が進んでいることからこの課題はより顕在化している。
【0008】
そこで、本発明は、前記従来の課題を解決するもので、メッシュ開口部に対する被験物の詰まりを抑制し得る適度な大きさのメッシュ開口部を有した状態であっても、2種類の細胞を上下で分離しながら培養できる細胞培養チップに用いる繊維メッシュシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る繊維メッシュシートは、高分子材料からなる複数の繊維が面内で前記繊維の長手方向を一方向に沿って配列した平面状の配列繊維群を2層以上積層させたメッシュ構造であって、
隣接する2層の配列繊維群は、それぞれの配列繊維群の前記繊維のそれぞれの長手方向が、面に垂直な方向から見た平面視で30°以上150°以下の交差角で交差しており、
最下層の配列繊維群の繊維の断面の隣接する配列繊維群のある側の上部が略円形状で、隣接する配列繊維群のない側の下部が略平坦状であり、
最下層以外の配列繊維群の繊維の断面は略円形状である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係る繊維メッシュシートによれば、最下層の配列繊維群の繊維の略平坦状の下部において1細胞サイズの物質を分離して捕捉、回収することが可能となる。
また、その繊維メッシュシートを細胞を培養するための足場として用い、細胞培養チップを構成することで、メッシュ開口部に対する被験物の詰まりを抑制し得る適度な大きさのメッシュ開口部を有した状態でも2種類の細胞を上下で分離しながら培養可能となる。これにより、高分子量化が進む近年の新薬の候補化合物の評価にも対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】実施の形態1に係る繊維メッシュシートの構成を示す概略斜視図である。
図1B図1Aの繊維メッシュシートの第1層及び第2層を構成する繊維の構造及び寸法を示す概略斜視図である。
図2】実施の形態1に係る繊維メッシュシートの製造方法のフローチャートである。
図3】実施の形態1に係る細胞培養チップの構成を示す分解斜視図である。
図4】比較例と実施例とのそれぞれの条件及び細胞培養チップに用いた場合の培養結果を示す表1である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様に係る繊維メッシュシートは、高分子材料からなる複数の繊維が面内で前記繊維の長手方向を一方向に沿って配列した平面状の配列繊維群を2層以上積層させたメッシュ構造であって、
隣接する2層の配列繊維群は、それぞれの配列繊維群の前記繊維のそれぞれの長手方向が、面に垂直な方向から見た平面視で30°以上150°以下の交差角で交差しており、
最下層の配列繊維群の繊維の断面の隣接する配列繊維群のある側の上部が略円形状で、隣接する配列繊維群のない側の下部が略平坦状であり、
最下層以外の配列繊維群の繊維の断面は略円形状である。
【0013】
第2の態様に係る繊維メッシュシートは、上記第1の態様において、最下層以外の前記配列繊維群の前記繊維の前記略円形状の水との接触角は、90°以上150°以下であってもよい。
【0014】
第3の態様に係る繊維メッシュシートは、上記第1又は第2の態様において、前記配列繊維群の前記繊維の平均径は、1μm以上50μm以下であってもよい。
【0015】
第4の態様に係る繊維メッシュシートの製造方法は、高分子材料からなる複数の繊維が面内で前記繊維の長手方向を一方向に沿って配列した平面状の配列繊維群を、面に垂直な方向から見た平面視で30°以上150°以下の交差角で隣接する2層の配列繊維群の前記繊維のそれぞれの長手方向が交差するように、2層以上積層させる工程と、
前記繊維の前記高分子材料の融点以上前記繊維が溶融切断する温度(融点+100℃)以下の温度で加熱処理する工程と、を含み、
前記加熱処理する工程により隣接する2層の前記配列繊維群の相接部分の過半数部を交絡させる。
【0016】
第5の態様に係る繊維メッシュシートの製造方法は、上記第4の態様において、前記繊維の前記高分子材料の融点以上前記繊維が溶融切断する温度(融点+100℃)以下の温度で加熱処理する工程により、最下層の前記配列繊維群の前記繊維の断面の隣接する前記配列繊維群のない側の下部を略平坦状としてもよい。
【0017】
第6の態様に係る細胞培養チップは、上記第1から第3のいずれかの態様に係る繊維メッシュシートを含む。
【0018】
以下、実施の形態に係る繊維メッシュシート及びその製造方法、細胞培養チップについて添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0019】
(実施の形態1)<繊維メッシュシート>
図1Aは、実施の形態1に係る繊維メッシュシート101の構成を示す概略斜視図である。図1Bは、図1Aの繊維メッシュシートの第1層及び第2層を構成する繊維の構造及び寸法を示す概略斜視図である。なお、図面において、便宜上、第1層の配列繊維群102及び第2層の配列繊維群103の面内をXY平面とし、積層方向をZ方向として示している。
繊維メッシュシート101は、高分子材料からなる複数の繊維1、2が面内(XY平面)で繊維の長手方向を一方向に沿って配列した平面状の配列繊維群102、103を2層以上積層したメッシュ構造を有する。隣接する2層の配列繊維群102、103は、それぞれの配列繊維群102、103の繊維1、2のそれぞれの長手方向が、面に垂直な方向(Z方向)から見た平面視で30°以上150°以下の交差角θで交差している。第1層の配列繊維群102は、複数の繊維1の長手方向を同一方向に等間隔に細線状で整列した高分子材料からなる繊維群であり、各繊維1の断面形状は、上部が略円形状であり、下部が略平坦状である。なお、上部とは、隣接する配列繊維群のある側、つまりZ方向の正方向であり、下部とは、隣接する配列繊維群のない側、つまりZ方向の負方向である。第2層の配列繊維群103は、複数の繊維2の長手方向を同一方向に等間隔に細線状で整列した高分子材料からなる繊維群であり、第2層の配列繊維群103を構成する繊維2の断面形状は略円形状である。第2層の配列繊維群103の繊維2の下部の過半数部分は、第1層の配列繊維群102の繊維1の上部に交絡し、接合されている。なお、「交絡」とは、繊維1と繊維2とが交差し、互いに接する箇所でそれぞれの一部が接合されていることを意味する。
【0020】
この繊維メッシュシートによれば、隣接する2層の配列繊維群102、103は、それぞれの繊維1、2の長手方向が、面に垂直な方向(Z方向)から見た平面視で30°以上150°以下の交差角θで交差している。これによって、細胞の通過と被験物の詰まりの両方の抑制が可能である。
【0021】
また、最下層ではない第2層の配列繊維群103の繊維2の略円形状の水との接触角は、90°以上150°以下であってもよい。これによって、繊維2の略円形状の側面方向に対して濡れることでメッシュの開口部を介して、細胞種と接することで生体内により近い機能を持つ細胞シートを得ることが更に期待できる。
【0022】
さらに、第1層及び第2層の配列繊維群102、103の繊維1、2の平均径は、例えば、1μm以上50μm以下であってもよい。
なお、平均径とは、繊維1、2の直径の平均値である。繊維1、2の直径とは繊維の長さ方向に対して垂直な断面の直径である。そのような断面が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、第1層及び第2層の配列繊維群102、103の1つの主面の法線方向からみたときの、繊維の長さ方向に対して垂直な方向の幅を、繊維の直径と見なしてもよい。平均繊維径は、例えば、第1層及び第2層の配列繊維群102、103に含まれる任意の10本の繊維の任意の箇所の直径の平均値を画像処理計測にて求めた平均値である。
なお、第2層の配列繊維群103のさらに上方、つまりZ方向の正方向に第3層以上の配列繊維群が設けられていてもよい。
【0023】
<繊維メッシュシートの製造方法>
図2は、実施の形態1に係る繊維メッシュシート101の製造方法のフローチャートである。(1)S01は、フィルムを準備する工程である。フィルム表面は、フッ素処理等で適度な剥離性を有する物が望ましい。これは、後述するS02、S04の各工程でフィルム上に繊維を紡糸する際は繊維に対する粘着機能が必要であると共に、繊維メッシュシートを後で細胞培養チップに組み込む際にはフィルムからの繊維メッシュシートの剥離機能が必要となるからである。(2)S02は、第1層の配列繊維群102を紡糸する工程である。繊維メッシュシート101として用いる高分子材料を加熱による溶融もしくは、有機溶媒により膨潤させた溶液をS01の工程で準備したフィルム上に同一方向に等間隔に細線状で塗布する。
ここで、溶融もしくは、溶液状態で供給された高分子材料は自然冷却もしくは、自然乾燥されることによって固形状態のみの繊維が形成される。
実施の形態1では、高分子材料として細胞毒性の低いポリスチレンを採用し、またペレット状のポリスチレンを有機溶媒であるDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に30重量%膨潤させた溶液を用いて、5μm相当径の繊維を同一方向に30μm相当間隔で塗布した。なお、繊維の平均径は、1μm以上50μm以下であってもよい。
【0024】
(3)S03は、S02の工程で第1層の配列繊維群102を紡糸したフィルムを面内で90°回転する工程である。(4)S04は、S03の工程において、面内で90°回転したフィルム上に第2層の配列繊維群103を紡糸する工程である。繊維メッシュシート101として用いる高分子材料を加熱による溶融もしくは、有機溶媒により膨潤させた溶液をS03の工程で準備したフィルム上に細線状態で同一方向に等間隔に細線状で塗布する。
実施の形態1では、S02の工程と同様に高分子材料として細胞毒性の低いポリスチレンを採用し、またペレット状のポリスチレンを有機溶媒であるDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に30重量%膨潤させた溶液を用いて、5μm相当径の繊維を同一方向に30μm相当間隔で塗布した。(5)S05は、S04の工程までで作成したフィルム上の繊維メッシュシートを加熱する工程である。具体的には高分子材料(実施の形態1ではポリスチレン)の融点以上前記繊維が溶融切断する温度(融点+100℃)以下の温度で一定時間加熱することで第1層の配列繊維群102の上部と第2層の配列繊維群103の下部の接点における過半数部を交絡させると共に、第1層の配列繊維群102の下部を略平坦状とする。なお、第1層の配列繊維群102の上部と第2層の配列繊維群103の下部との接点の交絡は、例えば、交差する繊維の溶融による接合であってもよい。
以上によって、繊維メッシュシートが得られる。
【0025】
<細胞培養チップ>
以下では、さらに、実施の形態1に係る繊維メッシュシート101を用いた細胞培養チップ300について説明する。
図3は、実施の形態1に係る細胞培養チップ300の構成を示す分解斜視図である。なお、図面において、便宜上、第1基板11等の面内をXY平面とし、これに垂直な方向をZ方向として示している。
実施の形態1に係る細胞培養チップ300は、本体部と、繊維メッシュシートの製造方法で作製した繊維メッシュシート101とを備える。本体部は、各々がXY平面に平行な主面を有し、第1基板11と、第1隔壁層12と、第2隔壁層14と、第2基板15とが所定方向(図中のZ軸方向)に沿ってこの順に積層された積層構造を有する。また、繊維メッシュシート101は、本体部の第1隔壁層12及び第2隔壁層14によって挟持されている。
【0026】
以下に、この細胞培養チップ300を構成する部材について説明する。
【0027】
<第1基板>
第1基板11は、ガラス等の材料を用いて形成された板状の部材である。なお、第1基板11の材料は、ガラスに限られず、樹脂、セラミックス等の任意の材料を用いてもよい。また、第1基板11は、細胞を培養する際に当該細胞と接触するため、細胞毒性を有さない材料で形成される。
第1基板11は、実施の形態1においては、矩形の主面を有する板状である。また、第1基板11には、積層される第1隔壁層12に通じるように、所定方向に沿って第1基板11を貫通する孔31が設けられる。
【0028】
<第1隔壁層>
第1隔壁層12の一部が第1基板11と重ならずに露出している場合等、第1基板11の孔31を介さずに、直接に第1隔壁層12に通じる構成であってもよい。第1隔壁層12は、シリコーン樹脂によって形成された板状の部材である。
第1隔壁層12は、少なくとも一部が第1基板11に第1隔壁層12を厚み方向(Z軸方向)に貫通する第1貫通孔を有する。詳細は後述するが、第1貫通孔は、第1流路33に対応している。
第1貫通孔の両端は、第1基板11に形成された孔31のうちの2つに対応している。また、第1隔壁層12には、孔31のうち、第1貫通孔に対応する2つを除く、残り2つの孔31に対応し、積層される第2隔壁層14に通じるように、第1隔壁層12を厚み方向に貫通する孔32が設けられる。
【0029】
<繊維メッシュシート>
繊維メッシュシート101は、第1隔壁層12側の第1主面101a及び第2隔壁層側の第2主面101bを有する。第1主面101aは、図1Aの第2層の配列繊維群の繊維の断面形状が略円状であり、第2主面101bは、図1Aの第1層の配列繊維群の繊維の断面形状が平坦状となる。また、互いに背向する第1主面101aと第2主面101bとを貫通する所定の開口が形成されている。なお、「背向」とは、第1主面101aと第2主面101bとが背中合わせにあるという意味である。
ここで、所定の開口とは、細胞培養チップ300を用いて培養される細胞の細胞径よりも小さく設定される。したがって、繊維メッシュシート101は、所定の開口よりも大きい細胞が第1主面101aから第2主面101b、又は第2主面101bから第1主面101aへと通過することを抑制し、所定の開口よりも小さい溶液成分(例えば、被験物や培地成分)を通過させる半通過性の機能を持つ。
【0030】
また、繊維メッシュシート101は、細胞培養チップ300において培養される細胞の足場としての機能を有する。したがって、繊維メッシュシート101は、培養される細胞に対する毒性が低く接着可能な材料が選定されて用いられればよい。
【0031】
繊維メッシュシート101は、第1貫通孔及び後述する第2貫通孔に対応する箇所に配置され、積層方向(Z方向)から見た平面視における第1貫通孔及び第2貫通孔の外側で第1隔壁層12と第2隔壁層14との間に挟持される。
このようにすることで、第1貫通孔と第2貫通孔とが重なる箇所において、繊維メッシュシート101によって第1貫通孔及び第2貫通孔がそれぞれ区画される。このようにして、第1基板11の主面、第1貫通孔、ならびに第1主面101aによって画定される第1主流路36を有する第1流路33が形成される。言い換えると、第1基板11と繊維メッシュシート101との間に第1貫通孔によって第1主流路36が形成される。
【0032】
第1主流路36は、第1貫通孔によって形成される第1流路33の一部である。このように画定される第1流路33の、特に、第1主流路36に接しており、第1主流路36内を第1主流路36に沿って延びる。
また、第1流路33には、孔31に対応する一端に第1流入口34、他端に第1流出口38が形成され、それぞれ孔31を介して細胞培養チップ300の外部に連通している。
また、第1流路33は、第1流入口34から第1主流路36につながる第1入流路35、及び、第1流出口38から第1主流路36につながる第1出流路37を有する。第1入流路35及び第1出流路37は、第1主流路36に対して、繊維メッシュシート101に代えて第2隔壁層14によって画定される。
【0033】
<第2隔壁層>
第2隔壁層14は、シリコーン樹脂によって形成された板状の部材である。詳細は後述するが、第2貫通孔は、第2流路41に対応している。第2貫通孔の両端は、第1基板11に形成された孔31、及び、第1隔壁層12に形成された孔32に対応している。
【0034】
<第2基板>
第2基板15は、ガラス等の材料を用いて形成された板状の部材である。なお、第2基板15の材料は、ガラスに限られず、樹脂、セラミックス等の任意の材料を用いてもよい。第2基板15は、実施の形態1においては、矩形の主面を有する板状である。
【0035】
このようにして、第2基板15の主面、第2貫通孔、ならびに第2主面101bによって画定される第2主流路44を有する第2流路41が形成される。
言い換えると、第2基板15と繊維メッシュシート101との間に第2貫通孔によって第2主流路44が形成される。第2主流路44は、第2貫通孔によって形成される第2流路41の一部である。
【0036】
繊維メッシュシート101は、第1流路33のうちの第1主流路36が第1主面101a上に位置し、かつ、第2流路41のうちの第2主流路44が第2主面101b上に位置するように、第1流路33及び第2流路41の間に配置されている。
したがって、繊維メッシュシート101を介して、第1主流路36と第2主流路44とは、それぞれの流路を通流する被験物や培地成分等の、所定の孔径よりも小さい成分を交換可能である。
【0037】
また、第2流路41には、孔31及び孔32に対応する一端に第2流入口42、他端に第2流出口46が形成され、それぞれ孔31及び孔32を介して細胞培養チップ300の外部に連通している。
また、第2流路41は、第2流入口42から第2主流路44につながる第2入流路43、及び、第2流出口46から第2主流路44につながる第2出流路45を有する。第2入流路43及び第2出流路45は、第2主流路44に対して、繊維メッシュシート101に代えて第1隔壁層12によって画定される。
【0038】
つまり、積層方向(Z方向)から見た平面視において、第1入流路35と第2入流路43とは重ならず、かつ、第1出流路37と第2出流路45とは重ならない。これにより、第1入流路35及び第1出流路37では、第2隔壁層14の第2貫通孔が形成されていない主面によって第1流路33の一部を形成している。
また、第2入流路43及び第2出流路45では、第1隔壁層12の第1貫通孔が形成されていない主面によって第2流路41の一部を形成している。
【0039】
<実施例と比較例の対比>
以下、実施の形態1における比較例と実施例とを図4の表1を用いて説明する。
比較例・実施例共に繊維メッシュシートとして本実施の形態1に記載の繊維メッシュシートの製造方法により作製し、本実施の形態1に記載の細胞培養チップに対して、第1層を第2主流路側に、第2層を第1主流路に向けて搭載する。
但し、比較例は、本実施の形態に記載の繊維メッシュシートの製造方法のS05の加熱温度/時間を制御することで第1層・第2層間の交絡は形成するものの、第1層・第2層共に断面形状が略円状としたものを用いる。
また、細胞培養チップに対して播種する細胞として、第1主流路側に播種する細胞種Xとして浸潤性の低い細胞と、高い細胞と、を用い、第2主流路側に播種する細胞種Yとして浸潤性の低い細胞と、高い細胞と、を用い、また第1主流路側、第2主流路側に播種する順番を変えることで培養の評価を行う。
【0040】
ここで、実施の形態においては細胞種X、細胞種Y共に、1つの細胞サイズが20μm相当の細胞を用い、また被験物質として高分子化合物溶液1μM(分子量75万相当)を用いる。
【0041】
本実施の形態に記載の繊維メッシュシートの製造方法で作製した繊維メッシュシートは、5μm相当径、30μm相当間隔で25μm相当四方の開口となり、1つの細胞サイズである20μm相当より大きく、被験物質として用いた高分子化合物溶液1μM(分子量75万相当)は詰まりにくい。
【0042】
一方、培養評価結果は、細胞種Xと細胞種Yとが混合せずに各々シート状に形成される状態を示し、AからEは、それぞれ、A:細胞種Xと細胞種Yが混合せずに各々がシート状に形成される割合が100%B:細胞種Xと細胞種Yが混合せずに各々がシート状に形成される割合が100%未満80%以上C:細胞種Xと細胞種Yが混合せずに各々がシート状に形成される割合が80%未満60%以上D:細胞種Xと細胞種Yが混合せずに各々がシート状に形成される割合が60%未満40%以上E:細胞種Xと細胞種Yが混合せずに各々がシート状に形成される割合が40%未満であることを示す。
【0043】
表1の比較例1、比較例2では第1主流路側に播種する細胞種Xと、第2主流路側に播種する細胞種Yとについて、共に浸潤性の低い細胞を用いた場合、細胞を播種する順番に関わらず、培養結果はCである。
【0044】
これは、播種する1つの細胞サイズよりも繊維メッシュシートの開口サイズが大きいことにより、一部の細胞が播種された主流路側から対向する主流路側へとすり抜けたためと推察される。
【0045】
これに対して比較例3、比較例4では、第2主流路側に播種する細胞種Yを浸潤性の高い細胞を用いた場合、細胞を播種する順番が第1主流路側→第2主流路側では培養結果がDと悪化し、第2主流路側→第1主流路側では培養結果が更に悪化してEとなる。
これは、比較例3では第1主流路側に播種した浸潤性の低い細胞の大部分が先にシート状に形成されたものの、次に第2主流路側に播種した浸潤性の高い細胞の多くが第1主流路側にすり抜けて混合したためと推察される。
【0046】
また、比較例4では第2主流路側に播種した浸潤性の高い細胞がほぼ全数第1主流路側に繊維メッシュシートをすり抜けてしまうことで、次に第1主流路側に播種した細胞種Xがシート状に形成されなくなったものと推察される。
【0047】
同様に、比較例5、比較例6では第1主流路側に播種する細胞種Xを浸潤性の高い細胞を用い、第2主流路側に播種する細胞種Yを浸潤性の低い細胞を用いた場合、上記比較例3、比較例4同様に、浸潤性の高い細胞を先に播種する比較例5がE、浸潤性の高い細胞を次に播種する比較例6がDとなる。
【0048】
一方、比較例7、比較例8では第1主流路側に播種する細胞種Xと、第2主流路側に播種する細胞種Yとについて、共に浸潤性の高い細胞を用いた場合、細胞を播種する順番に関わらず、培養結果はEである。これについても同様に、先に播種される培養が次に細胞が播種される主流路側へと繊維メッシュシートをすり抜けてしまうことで、次に播種される細胞種がシート状に形成される部分が極少化したものと推察される。
【0049】
一方、比較例に対応する実施例は全て培養結果が良化し、特にその傾向は第2主流路側から先に浸潤性の高い細胞種を播種する実施例において顕著となる(実施例4・6・8)。
つまり、実施の形態における繊維メッシュシート101を用い、浸潤性の高い細胞種Yを播種する第2主流路側から先に播種することで、繊維メッシュシート101をすり抜けることなく第2主流路側で細胞種Yがシート状に培養され、次に、第1主流路側に播種する細胞種Xの浸潤性の高/低問わずシート状に培養されることから、第1主流路側、第2主流路側両方の細胞種X・Yの細胞が共にシート状で積層することができるものと推察される。
【0050】
これは、浸潤性の高い細胞種は略円形状側からはすり抜けやすいが、略平坦側からはすり抜けにくい効果を発現していることを意味する。
つまり、浸潤性の高い細胞種は略円形状の表面よりも側面方向に対して濡れることでメッシュの隙間に填まりやすく、そのまま開口をすり抜けやすくなるのに対し、略平坦状側では略円形状側に比べて表面方向に対して濡れやすくなることでメッシュの隙間への填まり現象を抑制するものと推察される。
【0051】
加えて、浸潤性の高い細胞種Xを第1主流路側に播種する場合、略円形状の側面方向に対して濡れることでメッシュの開口部を介して、第2主流路側に予め播種された細胞種Yと接することで生体内により近い機能を持つ細胞シートを得ることが更に期待できる。
このような効果を得るために、実施の形態においては略円形状として最も望ましい水との接触角を90°としたが、接触角は90°以上150°以下であれば同様の効果の発現が期待できる。
【0052】
また、実施の形態においては1つの細胞サイズが30μm相当の細胞種X、細胞種Yを用い、また被験物質として1μM(分子量75万相当)を用い、繊維メッシュシート101の間隔として被験物の詰まりを抑制し得る30μmとするが、適宜設定可能である。
具体的には、下限としては用いる被験物の分子量や濃度によってその被験物が詰まるサイズよりも大きくしておく必要があるが、上限としては播種する細胞の通過を抑制できる間隔とすればよい。
また、実施の形態においては5μm径のポリスチレン繊維を用いたが、適宜設定可能である。
【0053】
具体的には、培養する細胞の足場として機能が期待される1μm以上50μm以下であればよい。材質もポリスチレンに限らず、細胞毒性の低いポリ乳酸系やシリコーン系であってもよいが、細胞の足場としての機能としては柔軟性があることが求められることから高分子材料であることが望ましい。
加えて、本実施の形態に記載の繊維メッシュシートの製造方法のS03の工程における面内での回転角度90°もこの限りではなく、30°以上150°以下であれば細胞の通過と被験物の詰まりの両方の抑制が可能である。
【0054】
また、用いる細胞培養チップによって繊維メッシュシートの厚みを増やす必要がある場合は、本実施の形態に記載の繊維メッシュシートの製造方法のS04の工程以降に、フィルムの回転と紡糸を同様に繰り返せばよい。この場合、回転する角度と繊維の間隔とは統一することが被験物の詰まりを抑制するにあたって望ましい。
【0055】
<1細胞レベルでの捕捉・回収>
実施の形態における繊維メッシュシートの細胞培養チップで示した効果は、細胞の捕捉・回収においても奏功する。
具体的には、例えば、繊維メッシュシートを試料(例えば、血液)から1細胞サイズの物質(例えば、8μm相当径の赤血球)を捕捉・回収する分離隔膜として用いる場合、断面形状が略円状の繊維のみで構成された比較例では、略円形状の表面よりも側面方向に対して濡れることでメッシュの隙間に1細胞サイズの物質が填まりやすく、捕捉は可能であるものの回収し難い。
一方、断面形状が略平坦状の繊維を有する実施例では、略円形状側に比べて表面方向に対して濡れやすくなることでメッシュの隙間への填まり現象を抑制し、1細胞サイズの物質の捕捉と回収との両立が可能となる。
【0056】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示に係る繊維メッシュシートによれば、当該繊維メッシュシートを用いて、例えば、細胞培養チップを用いて培養された細胞による試験系の構築等、医薬品開発等における新たな展開に寄与する。
【符号の説明】
【0058】
1、2 繊維
101 繊維メッシュシート
102 第1層の配列繊維群
103 第2層の配列繊維群
S01 フィルム準備
S02 第1層紡糸
S03 90°回転
S04 第2層紡糸
300 細胞培養チップ
11 第1基板
12 第1隔壁層
14 第2隔壁層
15 第2基板
31 孔
32 孔
33 第1流路
34 第1流入口
35 第1入流路
36 第1主流路
37 第1出流路
38 第1流出口
41 第2流路
42 第2流入口
43 第2入流路
44 第2主流路
45 第2出流路
46 第2流出口
図1A
図1B
図2
図3
図4