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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】圧縮機、およびそれを用いた冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20241115BHJP
   F04B 39/02 20060101ALI20241115BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20241115BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20241115BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
F04B39/00 103R
F04B39/02 P
F04C29/00 G
F04C29/02 A
F16C17/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023500656
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2022002181
(87)【国際公開番号】W WO2022176505
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2021022259
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴規
(72)【発明者】
【氏名】荒木 優作
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-092031(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105545750(CN,A)
【文献】特開平05-172073(JP,A)
【文献】特開2012-097574(JP,A)
【文献】特開2005-240693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04B 39/02
F04C 29/00
F04C 29/02
F16C 17/02
F16C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に電動機構部と、圧縮機構部と、貯油部とを備え、
前記圧縮機構部は、潤滑油を介して回転摺動する回転軸と軸受とを有するジャーナル軸受部を有するとともに、
少なくとも前記回転軸の外周または前記軸受の内周のどちらか一方に、右巻き螺旋溝と、左巻き螺旋溝と、を形成し、
前記右巻き螺旋溝と前記左巻き螺旋溝とが交差するクロス点を有
前記回転軸の回転方向に対し、
前記右巻き螺旋溝と前記左巻き螺旋溝とが交差して形成されるクロス角度が0°よりも大きく、かつ30°以下とした、
圧縮機。
【請求項2】
JIS B0671-2に基づいて求められた、
前記右巻き螺旋溝と前記左巻き螺旋溝とが形成された前記軸受の内周面、または回転軸の外周の油溜り深さRvkが0.5μm以上、かつ3μm以下であるとともに、
平坦部粗さRpkが0.01μm以上、かつ0.5μm以下である、
請求項に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記右巻き螺旋溝の前記回転軸あるいは前記軸受の軸心方向における溝間隔と、前記左巻き螺旋溝の前記回転軸あるいは前記軸受の軸心方向における溝間隔とが、互いに異なる、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記右巻き螺旋溝および前記左巻き螺旋溝の少なくともどちらか一方は、前記回転軸あるいは前記軸受の軸心方向の溝間隔が、軸受の内周面の下端から上端にかけて不均一である、
請求項1からのいずれかに記載の圧縮機。
【請求項5】
前記軸受の内周にブッシュ軸受を備え、前記ブッシュ軸受の摺動面に、前記右巻き螺旋溝と前記左巻き螺旋溝とを形成した、
請求項1からのいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
少なくとも前記回転軸の外周または前記軸受の内周のどちらか一方に潤滑油搬送溝を形成した、
請求項1からのいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記潤滑油搬送溝は、前記右巻き螺旋溝および前記左巻き螺旋溝に比べての深さおよび幅が大きいとともに、
前記回転軸の回転方向に対し粘性抵抗が作用する向きに形成された、
請求項に記載の圧縮機。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の圧縮機を用いた冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機およびそれを用いた空気調和機、給湯器、冷蔵庫等の冷凍サイクル装置を用いた冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、空気調和機等に用いられているロータリ圧縮機を開示する。このロータリ圧縮機は、密閉容器内に圧縮機構部と、これを駆動する電動機構部とが内蔵されている。電動機構部の固定子には回転軸の一端が連結固定され、回転軸の他端には、圧縮機構部のシリンダ内で偏心して回転するピストンローラが設けられている。
【0003】
ロータリ圧縮機における回転軸を支持する軸受構造には、ジャーナル軸受がある。ジャーナル軸受は、回転軸が潤滑油の膜を介して支持される。そして、回転軸は、冷媒の圧縮により発生する大きな荷重により、ジャーナル軸受の内周面に強く押し付けられながら回転する。
【0004】
回転軸とジャーナル軸受はともに表面に凹凸またはうねりを有している。この凹凸またはうねりを有する表面同士が互いに接近しあうと、潤滑油の平均膜厚が一定量あったとしても、流体潤滑領域から混合潤滑領域へ、さらに固体接触が主となる境界潤滑領域への移行が起こる可能性がある。このような潤滑領域の移行は、ジャーナル軸受と回転軸との摩擦抵抗または摩耗量の増加を招くおそれがある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、回転軸の、少なくともジャーナル軸受と摺動する部分の表面粗さσaが、下記の数式(1)を満たし、かつ数式(1)のジャーナル軸受の表面粗さσbが1μmであり、回転軸の、少なくともジャーナル軸受と摺動する部分の表面粗さσaが0.7μmより小さくしたものが開示されている。
【0006】
【数1】

なお、上記数式(1)における「hs」は最小油膜厚さであり、「σa」は回転軸の表面粗さであり、「σb」はジャーナル軸受の表面粗さである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-275645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、回転軸と軸受との間における油膜切れまたは摩耗粉の噛み込みによる、焼付きまたは異常摩耗を抑制または回避することで、運転効率および信頼性をより良好なものとした圧縮機、並びにそれを用いた冷凍装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る圧縮機は、前記の課題を解決するために、密閉容器内に電動機構部と、圧縮機構部と、貯油部とを備え、前記圧縮機構部は、潤滑油を介して回転摺動する回転軸と軸受とを有するジャーナル軸受部を有するとともに、少なくとも前記回転軸の外周または前記軸受の内周のどちらか一方に、右巻き螺旋溝と、左巻き螺旋溝と、を形成した構成である。
【0010】
前記構成によれば、回転軸または軸受のどちらかに左右方向に螺旋溝を形成しているので、回転軸と軸受と間の油膜の形成を促すことができるとともに、回転軸と軸受との間に摩耗粉が生じても当該摩耗粉の排出を促すことができる。これにより、摺動部において焼付きまたは異常摩耗を抑制、回避するができる。
【0011】
また、本開示には、前記圧縮機を用いた冷凍装置も含まれる。これにより、圧縮機の運転効率および信頼性がより良好なものとなるので、当該冷凍装置の品質をより良好なものにできる。
【0012】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、以上の構成により、回転軸と軸受とn間における油膜切れまたは摩耗粉の噛み込みによる、焼付きまたは異常摩耗を抑制または回避することで、運転効率および信頼性をより良好なものとした圧縮機、並びにそれを用いた冷凍装置を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施の形態1におけるロータリ圧縮機の縦断面図である。
図2図2は、図1に示すロータリ圧縮機の圧縮機構部の拡大断面図である。
図3図3は、図1に示すロータリ圧縮機の圧縮工程を示す圧縮室の平面図(工程図)である。
図4図4は、図1に示すロータリ圧縮機の要部の一例となる上軸受の内周面の拡大断面模式図である。
図5図5は、図1に示すロータリ圧縮機の上軸受の内周面を金属顕微鏡で観察した図である。
図6図6は、図1に示すロータリ圧縮機の上軸受の内周面の断面プロファイル測定結果図である。
図7A図7Aは、図1に示すロータリ圧縮機の他の上軸受の内周面の拡大断面模式図である。
図7B図7Bは、図1に示すロータリ圧縮機の他の上軸受の内周面の拡大断面模式図である。
図7C図7Cは、図1に示すロータリ圧縮機の他の上軸受の内周面の拡大断面模式図である。
図7D図7Dは、図1に示すロータリ圧縮機の他の上軸受の内周面の拡大断面模式図である。
図8図8は、実施の形態1における代表的な実施例および従来例を対比した、ジャーナル摩擦試験によるゾンマーフェルト数と摩擦係数の相関関係図である。
図9図9は、実施の形態2におけるロータリ圧縮機の上軸受の内周面の拡大断面模式図である。
図10図10は、図9に示すロータリ圧縮機の他の上軸受の内周面、並びに上軸の外周面の拡大断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、ロータリ圧縮機は、特許文献1にあるように、回転軸の外周面または軸受の内周面の表面粗さを小さくすることで、互いの表面の微視的な凸部の接触による摩擦抵抗または摩耗量の増加を抑制または回避するようにしていた。
【0016】
しかしながら、昨今のロータリ圧縮機は、高性能化のために摺動部品の摺動面積を狭小化しており、それに伴い回転軸の摺動面に作用する面圧が増大する傾向にある。加えて、潤滑油の低粘度化が進められている。そのような中、表面粗さを小さくするといった鏡面仕上げでは、回転軸と軸受との隙間における潤滑油の保持能力は低いので、面圧が増大したり、低粘度の潤滑油では油膜が十分形成されなかったり、油膜が破れたりすることにより、回転軸と軸受とが直接的に接触摺動して摩擦抵抗または摩耗量の増加につながるという課題があった。
【0017】
また、ロータリ圧縮機の回転軸は、シリンダ上部の上軸受と下部の下軸受とで支持されている。接触荷重として作用するラジアル方向の荷重は、冷媒の吸入および圧縮プロセス中に付加され、回転軸は曲げ変形するとともに、上軸受および下軸受の内部で傾斜しながら回転している。そのため、特に軸受の下端部付近では、回転軸と軸受との隙間が極微小、もしくはほぼゼロ(接触)となる可能性が高い。
【0018】
その結果、前述したように、表面粗さを小さくするといった鏡面仕上げでは、特に軸受の下端部において潤滑油では油膜が十分形成されなかったり、油膜が破れたりすることにより、固体接触が顕在化しやすい。さらには固体接触等により生じた摩耗粉が、回転軸と軸受との隙間で噛み込まれ、凝着摩耗またはアブレシブ摩耗の起点となるという課題もあった。
【0019】
発明者らはこのような課題を見出し、これを解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0020】
そこで本開示では、面圧の増大または低粘度の潤滑油の使用時において、回転軸と軸受との隙間における油膜の形成を促し、あるいは、回転軸と軸受との隙間から摩耗粉の排出を促し、直接的な接触摺動に伴う焼付きまたは摩耗(もしくは焼付きおよび摩耗の双方)を抑制することができるようにして、長期に亘り、高い性能と信頼性を保有する圧縮機および冷凍装置を提供する。
【0021】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0022】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0023】
(実施の形態1)
以下、図1図8を参照して、本開示に係る実施の形態1を説明する。
【0024】
[1-1.構成]
図1図3に示すように、ロータリ圧縮機は、密閉容器1、電動機構部2、圧縮機構部3等を備えている。電動機構部2と圧縮機構部3とは、クランクシャフト31で連結されて密閉容器1内に収容されている。密閉容器1の底部には貯油部6が設けられ、密閉容器1の上部には吐出管5が設けられている。
【0025】
密閉容器1内は、電動機構部2によって、吐出管5のある上方の容器内空間81と貯油部6や圧縮機構部3を含む下方の容器内空間82に分割されており、これら容器内空間81および82は、電動機構部2に設けられた複数の冷媒通路によって繋がっている。
【0026】
電動機構部2は、外側に配置された固定子22と内側に配置された回転子24とで構成されている。回転子24は、圧縮機構部3のクランクシャフト31と固着かつ連結され、回転子24の自転に伴ってクランクシャフト31を回転させる。圧縮機構部3はアキュームレータ40を介して吸入管4と接続されている。
【0027】
また、圧縮機構部3は、図2または図3に示すように、シリンダ30、軸受35、ピストンローラ32、ベーン33等を備えている。シリンダ30内には、当該シリンダ30の両端面を閉塞することにより吸入室49および圧縮室39が形成される。軸受35は、上軸受35aおよび下軸受35bからなる。ピストンローラ32は、シリンダ30内に軸受35に支持されたクランクシャフト31のクランク軸31cに嵌合されている。ベーン33は、シリンダ30内を吸入室49と圧縮室39とに仕切る。
【0028】
クランクシャフト31は、図1において向かって上方に位置する軸31aと、軸中心が偏心したクランク軸31cと、その下方(図1の下方)に位置する下軸31bとから構成される。上軸31aと下軸31bの軸中心は同じである。
【0029】
クランクシャフト31には軸線部に油穴41が設けられるとともに、上軸受35aに対する上軸31aの壁部には給油穴42が設けられ、下軸受35bに対する下軸31bの壁部には給油穴43が設けられている。また、クランクシャフト31のクランク軸31cの壁部には油穴41に連通した給油穴44が設けられ、外周部には油溝45が形成されている。
【0030】
一方、シリンダ30には、吸入室49に向けてガスを吸入する吸入ポート46が開通され、上軸受35aには、吸入室49から転じて形成される圧縮室39からガスを吐出する吐出ポート38(図3参照)が開通されている。
【0031】
吐出ポート38は、上軸受35aを貫通する平面視円形の孔として形成されている。吐出ポート38の上面には所定の大きさ以上の圧力を受けた場合に解放される吐出弁(図示せず)とその弁の最大変位を規制するバルブストップ(図示せず)が設けられている。
【0032】
上軸受35aの上部にはマフラーカバー37が設けられ、上軸受35aとマフラーカバー37とによって区切られた空間が吐出空間52となる。この吐出空間52は、吐出ポート38を介して圧縮室39と連通し、吐出口(図示せず)を介して下方の容器内空間82に開口している。上軸受35aの外周近辺には、潤滑油戻し通路35cが設けられている。
【0033】
吸入管4から吸い込んだ冷媒ガスは、アキュームレータ40を介して吸入ポート46から圧縮機構部3へと導かれる。アキュームレータ40は、圧縮機構部3での過度な液圧縮を防止するため、吸入管4から流入する冷媒中に液成分が混在した場合に、その中から冷媒ガスを選択的に吸入ポート46に導く。アキュームレータ40は、円筒状のケースの上部に吸入管4、下部に冷媒ガス導出管が接続されている。冷媒ガス導出管の一端は吸入ポート46に接続され、他端はケースの内部空間の上部まで延出している。
【0034】
圧縮機構部3においては、ピストンローラ32がクランク軸31cに嵌合し、偏心回転する。ベーン33は、ピストンローラ32の偏心回転に対して、ピストンローラ32の外周に向かって往復運動する。ベーン33により、偏心回転するピストンローラ32の外周面とシリンダ30の内周面との接触が維持される。これにより、シリンダ30内には、容積を拡大していく吸入室49と、吸入ポート46から区画されて容積を縮小していく圧縮室39とが形成される。
【0035】
つまり、吸入室49の容積拡大に伴って、冷媒ガスは吸入管4から吸い込まれる。そして、圧縮室39での容積縮小に伴って、圧縮された冷媒ガスが吐出ポート38から吐出空間52へと吐出される。吐出空間52の冷媒ガスは、吐出口(図示せず)から下方の容器内空間82へと送り出される。
【0036】
この冷媒ガスは、電動機構部2の固定子22と回転子24との間の冷媒通路26および回転子24中の回転子冷媒通路27を通って上方の容器内空間81へ流れ、吐出管5より密閉容器1の外へ送り出される。
【0037】
圧縮室39、吸入室49を除く密閉容器1の内部空間は、圧縮されて高温高圧状態となった冷媒ガスが滞在する空間であり、貯油部6の潤滑油も高圧状態となる。
【0038】
クランクシャフト31は、貯油部6から油穴41を通じて潤滑油を汲み取り、給油穴43、44、42を通じて下軸受35b、吸入室49、圧縮室39、および上軸受35aへと供給する。吸入室49および圧縮室39へと供給された潤滑油は、圧縮された冷媒ガスとともに吐出ポート38を通って吐出空間52から吐出口を経て下方の容器内空間82へと吐出される。また、上軸受35aの上端から排出された潤滑油も同様に下方の容器内空間82に排出される。
【0039】
下方の容器内空間82に排出された潤滑油の一部については、下方の容器内空間82の表面に付着して自重により落下し、上軸受35aの潤滑油戻し通路35cを通って貯油部6へと戻る。その他の潤滑油については、冷媒ガスと共に回転子冷媒通路27もしくは冷媒通路26を通って上方の容器内空間81へ至る。
【0040】
上方の容器内空間81においては、潤滑油は、当該容器内空間81の表面への付着、潤滑油の自重、または潤滑油の表面張力等によって、電動機構部2の上部に集まり、下方の容器内空間82および潤滑油戻し通路35cなどを経由して、貯油部6へと戻る。
【0041】
前記構成のロータリ圧縮機は、回転軸と、それを軸支する軸受とから構成されるジャーナル軸受部を複数備えている。具体的には、例えば、本実施の形態では、クランクシャフト31の下軸31bと下軸受35bとの組合せ、あるいは、上軸31aと上軸受35aとの組合せなどが挙げられる。
【0042】
図4は、同ロータリ圧縮機の上軸受35aの内周面の拡大断面模式図である。図4に示すように、本実施の形態において、上軸受35aの内周面には、右巻き螺旋溝61と、左巻き螺旋溝62が形成されている。
【0043】
ここで、図1に示すロータリ圧縮機の縦断面図を元に、以降、貯油部6側から見て回転軸中心に時計回りを左回転、反時計回りを右回転と定義する。左回転で貯油部6側から見て電動機構部2側に向かって延伸するように形成された螺旋溝62を「左巻き螺旋溝62」と称し、もう一方の右回転で貯油部6側から見て電動機構部2側に向かって延伸するように形成された螺旋溝61を「右巻き螺旋溝61」と称す。
【0044】
右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62は、荒砥石を配設したホーニング加工を行った後、仕上げ砥石を配設したホーニング加工する。これにより、これら螺旋溝61、62における表面粗さの凸部分を排除し、凹部分(溝部)を残存させている。
【0045】
図4、並びに当該図4のA部拡大で示すように、右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62とが交差してクロス点65が形成される。図4に示すように、クランクシャフト31の上軸31aの回転方向において形成される角度をクロス角度とする。本実施の形態においては、上軸受35aのクロス角度は、上軸受35aの上端から下端にかけて、20°でほぼ同じである。
【0046】
図5は、上軸受35aを傾斜させながら内周の表面状態を観察した金属顕微鏡写真であり、図6は、図5に示す図中矢印の方向(軸心に平行な方向)の断面プロファイル測定結果である。
【0047】
図4および図5に示すように、右巻き螺旋溝61および左巻き螺旋溝62により、上軸受35aの内周表面には、平坦部63および溝部64が形成されている。平坦部63と溝部64の定量的なパラメータについては、JIS B0671-2に基づいて求めることができる。JIS B0671-2に規定される試験方法は、各国の国家規格または国際規格で代替できる。
【0048】
本実施の形態では、平坦部63の指標は平坦部粗さRpkで示される。図5および図6に示す具体的な実施例の平坦部粗さRpkは、実測で0.1~0.2μmであった。同じく、溝部64の指標は油溜り深さRvkで示される。図5および図6に示す具体的な実施例の油溜り深さRvkは、実測で1.0~2.0μmであった。
【0049】
このように、金属顕微鏡による表面観察、あるいは、形状測定機による軸受内周の断面プロファイル計測等により、本開示に係るロータリ圧縮機の構造(回転軸の外周、あるいは軸受の内周のいずれか一方に、右巻き螺旋溝および左巻き螺旋溝を形成した構造)を容易に認識可能である。
【0050】
また、ホーニング砥石の回転数および送り速度、並びに内周面への押付け圧力等を調整することにより、右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62とが交差して形成されるクロス角度、平坦部粗さRpkや油溜り深さRvkを制御することが可能である。
【0051】
なお、図4に示す内周面の拡大断面模式図では、各螺旋溝61、62は等間隔で示している。しかしながら、実際のホーニング加工では、図5に示すように、各螺旋溝61、62は必ずしも等間隔とはならず、いわゆる不等間隔となる部位も存在する。
【0052】
本開示における技術は、前述した説明内容に限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。そこで、以降、他の実施の形態の構成の例示を説明する。図7A図7Dは、他の実施の形態におけるロータリ圧縮機の上軸受35aの内周面の拡大断面図である。
【0053】
図7Aに示す形態では、上軸受35aの内周面に形成された右巻き螺旋溝61における上軸受の軸心方向の溝間隔P1と、左巻き螺旋溝62における上軸受の軸心方向の溝間隔P2とが異なっている。具体的には、溝間隔P2は、溝間隔P1よりも小さくしている。
【0054】
また、図7Bに示す形態では、上軸受35aの内周面に形成された左巻き螺旋溝62において、上軸受35aの軸心方向に対し下側の溝間隔P22と、上側の溝間隔P21とが異なっている。具体的には、溝間隔P22は、溝間隔P1よりも小さくしている。
【0055】
なお、図7Cに示す形態では、上軸受35aの内周面に形成された左巻き螺旋溝62において、上軸受35aの軸心方向に対し下側の溝間隔P22と、上側の溝間隔P21とが異なっていることに加え、右巻き螺旋溝61において、上軸受35aの軸心方向に対し下側の溝間隔P12と、上側の溝間隔P11とが異なっている。具体的には、溝間隔P22は、溝間隔P21よりも小さく、また溝間隔P12は、溝間隔P11よりも小さくしている。
【0056】
また、図7Dに示す形態では、上軸受35aの内周に、圧入あるいは焼き嵌めなどにより挿入、固着されたブッシュ軸受67の摺動面に、右巻き螺旋溝61および左巻き螺旋溝62が形成されている。ブッシュ軸受67の摺動面には、後述する潤滑油搬送溝が形成されてもよい。
【0057】
なお、本開示に係るロータリ圧縮機のより具体的な構成は特に限定されず、公知の各種構成を好適に用いることができる。例えば、ロータリ圧縮機が横置きであっても、ピストンローラ32が2個あっても、また下軸受35bに形成してもよい。また、圧縮機のタイプも特に限定されない。本実施の形態ではロータリ圧縮機について説明したが、公知のレシプロ圧縮機またはスクロール圧縮機等に対しても本開示における技術を適用することができる。
【0058】
[1-2.動作および効果等]
以上のように構成された本実施の形態に係るロータリ圧縮機について、以下その動作および作用について説明する。
【0059】
本実施の形態では、図4に示すように、上軸受35aの内周に、右巻き螺旋溝61および左巻き螺旋溝62を形成している。これにより、螺旋溝61、62に流入した潤滑油が、これら螺旋溝61、62相互のクロス点65で合流してぶつかり合う。そのため、クロス点65から漏出した潤滑油が平坦部63に滲み出して油膜を形成する。これにより、軸と軸受との直接的な接触によるキズまたは摩耗を良好に抑制することができる。
【0060】
ここで、回転軸と軸受を用いて、運転条件(回転速度、粘度、摺動面圧)をパラメータとしたジャーナル摩擦試験を行った。摺動面が鏡面仕上げされた従来例を比較として用いた。図8は、ジャーナル摩擦試験によるゾンマーフェルト数と摩擦係数との相関関係図である。ゾンマーフェルト数とは、回転速度と粘度とを掛けた値を摺動面圧で除した無次元数のことであり、潤滑の厳しさを示す指標としてよく用いられている。
【0061】
回転軸と軸受間の潤滑状態は、潤滑油の粘度、回転速度および摺動面圧により3つの領域に区分することができる。図8には、従来例における摩擦特性曲線から想定される、流体潤滑領域(X)、混合潤滑領域(Y)、および境界潤滑領域(Z)を示す。流体潤滑領域(X)では、潤滑油が回転軸と軸受と間に介在し、完全に両者が分離された状態で潤滑する。一方、境界潤滑領域(Z)では、潤滑油膜が著しく薄くなり、摩擦現象が潤滑油の粘性からは説明できない領域で潤滑油の界面化学的性質が重要となる。混合潤滑領域(Y)では、流体潤滑と境界潤滑とが混在して生じる。
【0062】
図8では、本実施の形態における代表的な実施例を図中の実線で示し、代表的な従来例を破線で示す。実施例では、軸受の内周に右巻き螺旋溝61および左巻き螺旋溝62を設け、平坦部63および溝部64を有するプラトー面としている。これにより、従来例における潤滑領域のうち、境界潤滑領域(Z)および混合潤滑領域(Y)において、顕著に摩擦係数が低減している。回転軸と軸受と間の油膜の形成を促すことで、回転軸と軸受との接触摺動を緩和して、摩擦係数を顕著に低減できることから、実施例では、焼付きまたは摩耗(もしくは焼付きおよび摩耗の双方)を良好に回避できる。圧縮機のジャーナル軸受部に展開しても同様に油膜の形成状態が顕著に良化するので、長期に亘って圧縮機の性能と信頼性を向上させることができる。
【0063】
また、クランクシャフト31の上軸31aの回転方向を図4に示すように左回転とすると、左巻き螺旋溝62は、粘性抵抗により貯油部6側から電動機構部2側に向かって上向きに潤滑油を搬送させる能力を担う。これにより、圧縮機構部3の摺動部の潤滑性をさらに向上させることができる。
【0064】
一方の右巻き螺旋溝61は、左巻き螺旋溝62とは逆に、軸受の下方(貯油部6側)に潤滑油を導く能力を担う。軸と軸受とが片当たりすることにより、軸受の下端で摩耗粉が生じた場合、当該摩耗粉は、潤滑油の粘性抵抗による流れに乗って軸受の上方に(貯油部6から電動機構部2に向かって)揚げられるのではなく、右巻き螺旋溝61を通して軸受の下方(貯油部6側)に導かれる。そのため、摩耗粉は軸受外に排出される。これにより、回転軸と軸受との隙間において、摩耗粉の噛み込みを起点としたアブレシブ摩耗または凝着摩耗の発生を未然に回避、抑制することができる。
【0065】
また、本実施の形態では、右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62とはホーニング加工により形成している。そのため、前記の通り、各螺旋溝61、62は必ずしも等間隔とはならず、部分的に、不等間隔となる部位も確認される。螺旋溝61、62にこのような不等間隔が生じても、同様な油膜の形成作用または摩耗粉の排出作用が得られることは、実験的に確認されている。加えて、一般的な軸受の穴加工に用いられているホーニング技術であることから、加工ラインへの展開も容易である。そのため、本開示における技術は量産性に優れている。
【0066】
なお、本実施の形態では、上軸受35aの内周に螺旋溝61、62を形成したが、上軸31aの外周に形成しても同様の作用効果が得られる。また、下軸受35bの内周、もしくは下軸31bの外周のいずれかに螺旋溝61、62を形成することで、下軸31bと下軸受35bとの性能および信頼性を向上させることができる。
【0067】
また、本実施の形態では、回転軸の回転方向に対し、右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62とが交差して形成されるクロス角度を20°に設定しているが、クロス角度はこの角度に限定されない。本開示においては、クロス角度は、0°よりも大きく、かつ、30°以下としても(0°<[クロス角度]≦30°)同様な作用効果が得られる。
【0068】
クロス角度が0°であれば、各々の溝は、螺旋溝61、62ではなく、個々が独立した環状の溝となる。そのため、潤滑油の合流による潤滑油の滲み出しは得られない。また、環状の溝は互いに繋がらないので、潤滑油は搬送されない。
【0069】
一方、クロス角度を30°よりも大きくすると、右巻き螺旋溝61からの潤滑油の流出量が過大となる。そのため、クロス角度が30°を超えるときには、潤滑油の滲み出しによる平坦部63の油膜形成を促す十分な効果は得られなかったことを実験的に確認している。
【0070】
なお、本実施の形態では、前記の通り、平坦部63は、平坦部粗さRpkで0.1~0.2μmであるとともに、溝部64は、油溜り深さRvkで1.0~2.0μmとした。しかしながら、本開示はこれに限定されない。
【0071】
右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62とが形成された回転軸の外周、または軸受の内周面では、油溜り深さRvkが0.5μm以上かつ3μm以下(0.5μm≦Rvk≦3μm)であるとともに、平坦部粗さRpkが0.01μm以上かつ0.5μm以下(0.01μm≦Rpk≦0.5μm)であれば同様な作用効果が得られる。また、油溜り深さRvkまたは平坦部粗さRpkにおける前記の各範囲の上限値または下限値は適宜組み合わせることもできる。例えば、諸条件に応じて、油溜り深さRvkは、1.0~3,0μmの範囲にでき、平坦部粗さRpkは、0.1~0.5μmの範囲とすることもできる。
【0072】
螺旋溝61、62において、油溜り深さRvkが0.5μm未満では実質的に鏡面化とほぼ同じ表面性状となり、潤滑油の保持能力が不十分である。一方、油溜り深さRvkが3μmよりも大きいと、潤滑油が、螺旋溝61、62のクロス点65で合流しても十分に平坦部63に滲み出ることができず、油膜の生成が不十分であったことを実験的に確認している。
【0073】
また、平坦部粗さRpkを0.01μmよりも小さくしても効果は得られるが、部品点数1点当たりの加工時間が長く、また加工ツールの損耗も早くなる。そのため、圧縮機の量産性、製造コストの観点から、平坦部粗さRpkが0.01μmを下回ることは望ましくない。一方、平坦部粗さRpkが0.5μmよりも大きいと、軸と軸受との隙間が過少な場合、平坦部63の凸部が油膜切れの起点となる可能性がある。
【0074】
また、図7Aに示す実施の形態では、左巻き螺旋溝62における上軸受の軸心方向の溝間隔P2が、右巻き螺旋溝61における上軸受の軸心方向の溝間隔P1よりも小さくなっている。これにより、上軸31aの回転方向を図に示すように左回転としたときに、左巻き螺旋溝62の溝間隔P2を小さくすることで、上軸31aと上軸受35a内に保持される潤滑油量は増加する。さらに、溝間隔P2を小さくすると平坦部63の面積が小さくなるので、クロス点65から漏出した潤滑油によって、平坦部63全域に亘って油膜の形成が容易となる。
【0075】
なお、左巻き螺旋溝62の溝間隔P2を大きくすると、潤滑油の搬送速度はより速くなる。一方、右巻き螺旋溝61の溝間隔P1を大きくすると、軸受内で生じた摩耗粉が排出されやすい作用効果が得られる。圧縮機の運転条件またはジャーナル軸受の仕様等の諸条件に応じて、右巻き螺旋溝61または左巻き螺旋溝62(若しくはその両方)について、各々適正な溝間隔を選択することが望ましい。
【0076】
また、図7Bまたは図7Cに示す実施の形態では、上軸受35aの軸心方向に対し貯油部6側(向かって下側)の溝間隔と、電動機構部2側(向かって上側)の溝間隔とが異なっている。
【0077】
例えば、上軸31aが上軸受35a内で傾斜しながら回転摺動する状況では、上軸受35aの下端部付近上軸31aと上軸受35aとの隙間が過少となりやすい。このときには、上軸受35aの下端部付近の溝間隔を小さくすればよい。
【0078】
これにより、上軸31aと上軸受35aとの間に保持される潤滑油量を増加させることができる。しかも、溝間隔を小さくすることで平坦部63の面積も小さくできるので、この部位付近の潤滑状態を顕著に向上させることができる。
【0079】
一方、前記の通り、上軸31aが上軸受35a内で傾斜しながら回転摺動するような状況では、上軸受35aの軸方向の中央付近では、上軸31aと上軸受35aとの隙間が十分確保されやすい。そこで、前記の中央付近では溝間隔を小さくする必要はない。このように、螺旋溝61、62の軸心方向の溝間隔については、潤滑状態に応じて変更することができる。
【0080】
ずなわち、右巻き螺旋溝61および左巻き螺旋溝62の少なくともどちらか一方は、回転軸あるいは軸受の軸心方向の溝間隔が、軸受の内周面の下端から上端にかけて不均一である構成を採用することができる。
【0081】
なお、図7Dに示す実施の形態では、上軸受35aの内周に挿入されたブッシュ軸受67の摺動面に、右巻き螺旋溝61および左巻き螺旋溝62を形成している。ブッシュ軸受67は、一般的には、鋳鉄、青銅系材料、またはアルミニウム合金系材料等の金属系材料、あるいは公知の樹脂系材料、樹脂および金属の複合材、合金または樹脂を含浸させた黒鉛を含む炭素材等を用いて形成されているので、自己耐摩耗性が非常に高い。
【0082】
ここで、ロータリ圧縮機は、電動機構部2に通電がなされてクランクシャフト31が回転することで、潤滑油は貯油部6から電動機構部2に向けて持ち上げる構成である。よって、起動直後では、上軸31aと上軸受35aとの隙間に十分な潤滑油が確保されていない可能性がある。
【0083】
しかしながら、図7Dに示すような耐摩耗性の高いブッシュ軸受67を形成することで、起動直後のような潤滑油の過不足時における摩耗を回避することができる。加えて、運転中は、右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62とにより、油膜の形成と摩耗粉の排出という作用効果が良好に発揮される。これにより、起動時、運転時のいずれにおいても、長期に亘って優れた性能と信頼性とを実現する圧縮機を得ることができる。
【0084】
以上のように、本実施の形態に係る圧縮機は、密閉容器内に電動機構部と、圧縮機構部と、貯油部とを備え、圧縮機構部は、潤滑油を介して回転摺動する回転軸と軸受とを有するジャーナル軸受部を有するとともに、少なくとも回転軸の外周または軸受の内周のどちらか一方に、右巻き螺旋溝と、左巻き螺旋溝と、を形成した構成である。
【0085】
これにより、回転軸と軸受との隙間における油膜の形成を促進したり、回転軸と軸受との隙間から摩耗粉の排出を促進したりできる。そのため、直接的な接触摺動に伴う焼付きまたは摩耗(もしくは焼付きおよび摩耗の双方)を抑制できる。その結果、圧縮機の性能と信頼性との向上を図ることができる。
【0086】
前記構成の圧縮機においては、回転軸の回転方向に対し、右巻き螺旋溝と左巻き螺旋溝とが交差して形成されるクロス角度が0°よりも大きく、かつ30°以下とした構成であってもよい。
【0087】
また、前記構成の圧縮機においては、JIS B0671-2に基づいて求められた、右巻き螺旋溝と左巻き螺旋溝とが形成された軸受の内周面、または回転軸の外周の油溜り深さRvkが0.5μm以上、かつ3μm以下であるとともに、平坦部粗さRpkが0.01μm以上、かつ0.5μm以下である構成であってもよい。
【0088】
また、前記構成の圧縮機においては、右巻き螺旋溝の回転軸あるいは軸受の軸心方向における溝間隔と、左巻き螺旋溝の回転軸あるいは軸受の軸心方向における溝間隔とが、互いに異なる構成であってもよい。
【0089】
また、前記構成の圧縮機においては、右巻き螺旋溝および左巻き螺旋溝の少なくともどちらか一方は、回転軸あるいは軸受の軸心方向の溝間隔が、軸受の内周面の下端から上端にかけて不均一である構成であってもよい。
【0090】
また、前記構成の圧縮機においては、軸受の内周にブッシュ軸受を備え、ブッシュ軸受の摺動面に、右巻き螺旋溝と左巻き螺旋溝とを形成した構成であってもよい。
【0091】
そして、このような圧縮機を搭載して冷凍装置を構成すれば、当該冷凍装置は、高効率化に加え、信頼性をより一層良好なものとすることができる。なお、本開示に係る冷凍装置の具体的な構成は限定されず、本開示に係る圧縮機を含む公知の冷媒回路(冷凍サイクル)を備える構成であればよい。冷凍装置の具体的な構成も特に限定されず、空気調和機、給湯器、冷蔵庫等の公知の冷凍装置であればよい。
【0092】
(実施の形態2)
以下、図9を参照して、本開示に係る実施の形態2を説明する。
【0093】
[2-1.構成]
前記実施の形態1で説明した構成と同一の構成、すなわち、図1から図8で説明した構成と同一構成には、同一符号を付して説明を一部省略する場合がある。
【0094】
図9は、ロータリ圧縮機の上軸受35aの内周面の拡大断面模式図である。本実施の形態においては、上軸受35aの内周面に、右巻き螺旋溝61、左巻き螺旋溝62、並びに潤滑油搬送溝66aを形成している。
【0095】
前記実施の形態1で説明した通り、平坦部63の指標は平坦部粗さRpkで示され、溝部64の指標は油溜り深さRvkで示される。本実施の形態2における具体的な実施例では、平坦部63の平坦部粗さRpkは、実測で0.1~0.2μmであるとともに、溝部64の油溜り深さRvkは、同じく実測で1.0~2.0μmであった。
【0096】
潤滑油搬送溝66aは、右巻き螺旋溝61と左巻き螺旋溝62に比べて溝深さ、並びに、溝幅が大きいとともに、回転軸の回転方向に対し粘性抵抗が作用する向きに、回転軸に対して傾斜するように形成されている。
【0097】
潤滑油搬送溝66aの溝深さをd1、右巻き螺旋溝61または左巻き螺旋溝62の溝深さをd2とすると、潤滑油搬送溝66aの溝深さd1に対して螺旋溝61、62の溝深さd2は、4.0×10-4~2.0×10-3の範囲内であればよい。言い換えれば、溝深さ比率d2:d1=4.0×10-4~2.0×10-3:1であればよい。
【0098】
また、潤滑油搬送溝66aの溝幅をw1、右巻き螺旋溝61または左巻き螺旋溝62の溝幅をw2とすると、潤滑油搬送溝66aの溝幅w1に対して螺旋溝61、62の溝幅は、6.0×10-3~1.0×10-2の範囲内であればよい。言い換えれば、溝幅比率w2:w1=6.0×10-3~1.0×10-2:1であればよい。
【0099】
[2-2.動作および効果等]
以上のように構成されたロータリ圧縮機について、以下その動作、作用について説明する。なお、実施の形態1で説明したロータリ圧縮機と実質的に同一の構成に対する重複説明は基本的に省略する。
【0100】
本実施の形態では、左巻き螺旋溝62よりも溝幅および溝深さが大きい潤滑油搬送溝66aが、回転軸の回転方向に対し粘性抵抗が作用する向きに形成されている。そのため、貯油部6側から電動機構部2側に向かって上向きの潤滑油の搬送量を顕著に増加できる。これにより、潤滑油搬送溝66aから、左巻き螺旋溝62および右巻き螺旋溝61への潤滑油の流入量を増やすことができるので、平坦部63へのクロス点65からの潤滑油の滲み出し量も増加できる。また、右巻き螺旋溝61からの摩耗粉の排出も促進できる。さらに、上軸31aと上軸受35aとの隙間への潤滑油の流入量を増大させることで、摺動による発熱を良好に抑制でき摩耗進行の回避または油膜形成の促進に寄与できる。
【0101】
よって、本実施の形態では、上軸31aと上軸受35aと間の油膜の形成作用、並びに、摩耗粉の排出作用の顕著な促進に加えて、潤滑油による摺動部の冷却作用を実現することができる。この冷却作用により、直接的な接触摺動に伴う焼付きまたは摩耗(もしくは焼付きおよび摩耗の双方)を抑制し、圧縮機の性能と信頼性を向上させることができる。
【0102】
また、本実施の形態では、上軸受35aの内周に潤滑油搬送溝66aを形成したが、本開示はこれに限定されない。例えば、潤滑油搬送溝66aは、螺旋溝61、62とは別の周面に分けて形成してもよい。
【0103】
例えば、図10に示すように、左巻き螺旋溝62および右巻き螺旋溝61を上軸受35aの内周面側に形成し、潤滑油搬送溝66bを上軸31aの外周面側に形成してもよい。あるいは、その逆、すなわち、螺旋溝61、62を上軸31aの外周面側に形成し、潤滑油搬送溝66bを上軸受35aの内周面側に形成してもよい。このように、潤滑油搬送溝66aと、螺旋溝61、62とを分けて形成しても前記と同様の作用効果が得られる。
【0104】
さらに、左巻き螺旋溝62および右巻き螺旋溝61も上軸受35aの内周面側、あるいは、上軸31aの外周面側のいずれか一方に纏めて設けてもよいし、上軸受35aの内周面側、あるいは、上軸31aの外周面側に分けて形成しても同様の作用効果が得られる。
【0105】
なお、下軸受35bの内周、もしくは下軸31bの外周に、右巻き螺旋溝61、左巻き螺旋溝62、潤滑油搬送溝66a、あるいは潤滑油搬送溝66bを形成しても、下軸31bおよび下軸受35bの性能と信頼性とをより良好にすることができる。
【0106】
また、本実施の形態では、潤滑油搬送溝66aの溝深さをd1、右巻き螺旋溝61や左巻き螺旋溝62の溝深さをd2としたときに、前記の通り、溝深さ比率d2:d1=4.0×10-4~2.0×10-3:1の範囲としたが、本開示はこれに限定されない。例えば、d2:d1=2.0×10-4~2.0×10-2の範囲としてもよい。この範囲内であっても同様の作用効果が得られる。また、溝深さ比率における前記の各範囲の上限値または下限値は適宜組み合わせることもできる。例えば、諸条件に応じて、d2:d1=4.0×10-4~2.0×10-2の範囲とすることもできる。
【0107】
あるいは、本実施の形態では、右巻き螺旋溝61または左巻き螺旋溝62の溝幅をw2とすると、前記の通り、溝幅比率w2:w1=6.0×10-3~1.0×10-2:1としたが、本開示はこれに限定されない。例えば、w2:w1=3.0×10-3~2.0×10-2としてもよい。この範囲内であっても同様の効果が得られる。また、溝幅比率の前記の各範囲の上限値または下限値は、溝深さ比率と同様に適宜組み合わせることもできる。
【0108】
以上のように、本実施の形態に係る圧縮機は、密閉容器内に電動機構部と、圧縮機構部と、貯油部とを備え、圧縮機構部は、潤滑油を介して回転摺動する回転軸と軸受とを有するジャーナル軸受部を有するとともに、少なくとも前記回転軸の外周または前記軸受の内周のどちらか一方に、右巻き螺旋溝と、左巻き螺旋溝と、を形成し、さらに、 少なくとも前記回転軸の外周または前記軸受の内周のどちらか一方に潤滑油搬送溝を形成した構成であってもよい。
【0109】
これにより、面圧が増大したり低粘度の潤滑油を使用したりする場合でも、回転軸と軸受との隙間における油膜の形成作用、あるいは、回転軸と軸受との隙間から摩耗粉の排出作用とを促すとともに、潤滑油による摺動部の冷却作用も促すことができる。これにより、直接的な接触摺動に伴う焼付きまたは摩耗(もしくは焼付きおよび摩耗の双方)を抑制するので、その結果、圧縮機の性能と信頼性との向上を図ることができる。
【0110】
前記構成の圧縮機においては、潤滑油搬送溝は、右巻き螺旋溝および左巻き螺旋溝に比べての深さおよび幅が大きいとともに、回転軸の回転方向に対し粘性抵抗が作用する向きに形成された構成であってもよい。
【0111】
そして、このような圧縮機を搭載して冷凍装置を構成すれば、当該冷凍装置は、高効率化に加え、信頼性をより一層良好なものとすることができる。
【0112】
なお、本開示に係る圧縮機は、前記の通り、ジャーナル軸受部における油膜の形成状態を良化し、摺動部の焼付きまたは摩耗を効果的に抑制できるので、長期に亘る信頼性が高い。加えて、本開示に係る圧縮機は、信頼性および効率が向上し、冷凍冷蔵庫、温水暖房装置、空気調和装置、給湯器、または冷凍機などの冷凍サイクル装置に有用である。加えて、本開示に係る圧縮機は、本実施の形態で例示した冷凍装置に適用可能な圧縮機だけでなく、車のエンジン等に用いても同様の効果が得られ、冷媒を作動媒体としない他の圧縮機に適用しても同様の効果が得られる。
【0113】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、例えば冷凍装置に用いられる圧縮機の分野に広く好適に用いることができ、さらには、冷媒を作動媒体としない他の圧縮機の分野等にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0115】
1:密閉容器
2:電動機構部
3:圧縮機構部
6:貯油部
31:回転軸
31:クランクシャフト
31a:上軸
31b:下軸
35:軸受
35a:上軸受
35b:下軸受
61:右巻き螺旋溝
62:左巻き螺旋溝
P1、P11、P12:(右巻き螺旋溝の)溝間隔
P2、P21、P22:(左巻き螺旋溝の)溝間隔
66a、66b:潤滑油搬送溝
67:ブッシュ軸受
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10