(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】熱交換器用ブレージングシートおよび空気調和装置用熱交換器
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20241115BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20241115BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20241115BHJP
F28D 9/02 20060101ALI20241115BHJP
F28F 19/02 20060101ALI20241115BHJP
F28F 19/06 20060101ALI20241115BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 D
C22C21/00 J
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
F28D9/02
F28F19/02 501Z
F28F19/06 A
F28F21/08 B
F28F21/08 D
(21)【出願番号】P 2019188044
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-02-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】広田 正宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲昭
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-303988(JP,A)
【文献】特開2009-155679(JP,A)
【文献】特開2017-145463(JP,A)
【文献】特開2014-54656(JP,A)
【文献】特開2009-155673(JP,A)
【文献】特開2014-205876(JP,A)
【文献】特開平11-199957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C21/00-21/18
B23K35/22-35/32
F28D9/00-9/04
F28F19/00-21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合されることにより接合部を構成する接合部位と、この接合部位に隣接する傾斜部位と、を有し、前記接合部位に対する前記傾斜部位の傾斜角は40°以下であるブレージングシートの接合構造を含み、前記ブレージングシートの接合時の温度が580~660℃の範囲内に設定された、空気調和装置の熱交換器に用いられるブレージングシートであって、
アルミニウム合金製の心材と、
当該心材の一方の面に被覆され、シリコン(Si)を含有するアルミニウム合金のろう材からなるろう材層と、
当該心材の他方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からな
り、前記接合部位を成す犠牲陽極材層と、
を備え、
前記犠牲陽極材における前記亜鉛の含有量が2.5~6.0質量%の範囲内であり、
前記犠牲陽極材層の厚さが15~25μmの範囲内であり、
前記犠牲陽極材における前記シリコンの含有量X
Siは、接合時の温度をTとしたときに、次式(1)
T=660-8×exp(0.3X
Si) ・・・(1)
から導き出される値以下であり、かつ、次式(2)
T=580+55×exp(-0.5(X
Si-1.7)) ・・・(2)
から導き出される値以上に調整されることを特徴とする、
ブレージングシート。
【請求項2】
互いに接合されることにより接合部を構成する接合部位と、この接合部位に隣接する傾斜部位と、を有し、前記接合部位に対する前記傾斜部位の傾斜角が40°以下であるブレージングシートの接合構造を含み、前記ブレージングシートの接合時の温度が580~660℃の範囲内に設定された、空気調和装置の熱交換器に用いられるブレージングシートであって、
アルミニウム合金製の心材と、
当該心材の両方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からな
り、少なくとも一方が前記接合部位を成す犠牲陽極材層と、
を備え、
前記犠牲陽極材における亜鉛の含有量が2.5~6.0質量%の範囲内であり、
前記犠牲陽極材層の厚さが15~25μmの範囲内であり、
前記犠牲陽極材における前記シリコンの含有量X
Siは、接合時の温度をTとしたときに、次式(1)
T=660-8×exp(0.3X
Si) ・・・(1)
から導き出される値以下であり、かつ、次式(2)
T=580+55×exp(-0.5(X
Si-1.7)) ・・・(2)
から導き出される値以上に調整されることを特徴とする、
ブレージングシート。
【請求項3】
前記温度Tは、610~620℃の範囲内であることを特徴とする、
請求項1または2に記載のブレージングシート。
【請求項4】
前記心材は、3000系、5000系、または6000系のいずれかのアルミニウム合金であり、
前記犠牲陽極材は、4000系のアルミニウム合金であり、かつ、前記の範囲内で亜鉛およびシリコンを含有するものであることを特徴とする、
請求項1または2に記載のブレージングシート。
【請求項5】
前記ろう材は、4000系のアルミニウム合金であることを特徴とする、
請求項1に記載のブレージングシート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のブレージングシートを用いて構成される、空気調和装置用熱交換器。
【請求項7】
プレートフィン積層型であることを特徴とする、
請求項6に記載の空気調和装置用熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器を構成する部材に用いられるブレージングシートと、当該ブレージングシートを用いて構成される空気調和装置用熱交換器と、に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な熱交換器は、通常、管およびフィンを備えており、管の外周に複数のフィンが取り付けられた構成を有している。管の材料としては、銅(Cu)またはその合金(便宜上「銅材」と称する)が用いられてきたが、近年ではアルミニウム(Al)またはその合金(アルミニウム材)も用いられている。フィンの材料としては、一般的にはアルミニウム材が用いられている。
【0003】
熱交換器の製造に際して、管にフィンを取り付けるためには、一般的にはろう材による接合が用いられる。管およびフィンのいずれもアルミニウム材製であれば、例えば、アルミニウム合金製の心材の少なくとも一方の面にろう材層がクラッド(被覆)されたブレージングシートが用いられる。管およびフィンの防食性を考慮すれば、心材の一方の面にろう材がクラッドされ他方の面に犠牲陽極材層がクラッドされたブレージングシートが用いられる。
【0004】
ろう材としては、一般的には、アルミニウム合金のろう付けに用いられるアルミニウム-シリコン(Si)系合金が用いられ、犠牲陽極材としては、その電位を卑とするために、一般的にはアルミニウム合金に亜鉛(Zn)を添加したものが用いられる。代表的な犠牲陽極材としては、一般的なアルミニウム-シリコン系合金のろう材に亜鉛を添加したものが挙げられる。これにより、犠牲陽極材がろう材としても機能することになる。
【0005】
ところで、自動車用の熱交換器は、排気ガスに接触する可能性があることから、建築物用の空気調和装置等に用いられる熱交換器に比較してより高い耐食性が求められる。例えば、特許文献1には、自動車用熱交換器の流体通路構成材として使用可能なアルミニウム合金ブレージングシートが開示されている。このブレージングシートでは、犠牲陽極材が、Si:2.5~7.0mass%、Zn:1.0~5.5mass%、Fe0.05~1.0mass%を含有し、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、当該犠牲陽極材のクラッド厚さが25~80μmである。
【0006】
一方、特許文献2には、例えば空気調和装置(ルームエアコン、空調機)または冷蔵庫用の熱交換器に用いられる、熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材が開示されている。このブレージングフィン材では、犠牲陽極材が、Zn:7~15質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されており、この犠牲陽極材のクラッド厚さとして、好ましくは7μm以上、さらに好ましくは7~40μmが挙げられている。また、犠牲陽極材は、結晶粒の過度の粗大化を抑制するとともに耐食性を向上させる観点から、8.0質量%以下のSiを含有してもよい組成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/034102号公報
【文献】特開2017-155308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、本発明者らの鋭意検討の結果、空気調和装置用熱交換器におけるブレージングシートでは、自動車用のブレージングシートに比較して接合強度を高める必要があることが明らかとなった。これは、一般に、空気調和装置用熱交換器では、自動車用熱交換器よりも許容される冷媒の圧力(許容内圧)の上限が相対的に高くなるためである。犠牲陽極材がろう材を兼ねる場合には、もちろん犠牲陽極材にも高い接合強度が求められる。
【0009】
特許文献1に開示のブレージングシートは、自動車用であり、かつ、鉄(Fe)を含有することが必須である。一方、特許文献2に開示のブレージングフィン材は、犠牲陽極材がろう材を兼ねることは想定されておらず、Siの含有は犠牲陽極作用への寄与が目的である。
【0010】
さらに特許文献2では、犠牲陽極材のZnの含有量が7.0質量%以上でないと犠牲陽極作用を発揮できないとされるが、本発明者らの検討によればZnの含有量は7.0質量%よりも少なくすることが可能である。一方、犠牲陽極材がろう材を兼ねる場合、Siの含有量を多くすることで接合強度を高めることが可能であるものの、Siの含有量が多くなり過ぎると、その流動性が高くなり過ぎ、ブレージングシートの耐食性が著しく低下することも明らかとなった。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、空気調和装置用熱交換器に用いられ、耐食性および耐圧性を良好に両立させることが可能な、犠牲陽極材層を備えるブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るブレージングシートは、前記の課題を解決するために、空気調和装置の熱交換器に用いられるブレージングシートであって、アルミニウム合金製の心材と、当該心材の一方の面に被覆され、シリコン(Si)を含有するアルミニウム合金のろう材からなるろう材層と、当該心材の他方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からなる犠牲陽極材層と、を備え、前記犠牲陽極材層の厚さが15~25μmの範囲内であり、前記ブレージングシートの接合時の温度Tが580~660℃の範囲内であるときに、前記犠牲陽極材における前記シリコンの含有量XSiは、次式(1)
T=660-8×exp(0.3XSi) ・・・(1)
から導き出される値以下であり、かつ、次式(2)
T=580+55×exp(-0.5(XSi-1.7)) ・・・(2)
から導き出される値以上である構成である。
【0013】
あるいは、本発明に係るブレージングシートは、前記の課題を解決するために、空気調和装置の熱交換器に用いられるブレージングシートであって、アルミニウム合金製の心材と、当該心材の両方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からなる犠牲陽極材層と、を備え、前記犠牲陽極材層の厚さが15~25μmの範囲内であり、前記ブレージングシートの接合時の温度Tが580~660℃の範囲内であるときに、前記犠牲陽極材における前記シリコンの含有量XSiは、次式(1)
T=660-8×exp(0.3XSi) ・・・(1)
から導き出される値以下であり、かつ、次式(2)
T=580+55×exp(-0.5(XSi-1.7)) ・・・(2)
から導き出される値以上である構成であってもよい。
【0014】
前記構成によれば、空気調和装置用熱交換器に用いられるブレージングシートにおいて、犠牲陽極材層が前記の範囲内で亜鉛およびシリコンを含有している。これにより、ろう材を兼ねる犠牲陽極材において、亜鉛の含有量だけでなくシリコンの含有量を好適化することができる。そのため、犠牲陽極材層の厚さが前記の範囲内であっても、ブレージングシートの接合構造における耐食性および耐圧性を両立させることが可能になる。
【0015】
また、本発明には、前記構成のブレージングシートを用いて構成される、空気調和装置用熱交換器も含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、以上の構成により、空気調和装置用熱交換器に用いられ、耐食性および耐圧性を良好に両立させることが可能な、犠牲陽極材層を備えるブレージングシートを提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は、本発明の代表的な実施の形態に係るブレージングシートの概略構成を示す模式的断面図であり、(B)は、本発明の代表的な実施の形態に係るブレージングシートの接合構造の概略構成を示す模式的断面図である。
【
図2】
図1に示すブレージングシートを用いて構成されるプレートフィン積層型熱交換器のヘッダの一例を示す模式的断面図である。
【
図3】両面に犠牲陽極材層を備えるブレージングシートを用いて構成されるプレートフィン積層型熱交換器のヘッダの一例を示す模式的断面図である。
【
図4】(A)~(D)は、実施例または比較例に係るブレージングシートの接合構造の耐食性試験結果を示す図である。
【
図5】他の実施例に係るブレージングシートの接合構造の耐食性試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示に係るブレージングシートは、空気調和装置の熱交換器に用いられるものであって、アルミニウム合金製の心材と、当該心材の一方の面に被覆され、シリコン(Si)を含有するアルミニウム合金のろう材からなるろう材層と、当該心材の他方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からなる犠牲陽極材層と、を備え、前記犠牲陽極材層の厚さが15~25μmの範囲内であり、前記ブレージングシートの接合時の温度Tが580~660℃の範囲内であるときに、前記犠牲陽極材における前記シリコンの含有量XSiは、次式(1)
T=660-8×exp(0.3XSi) ・・・(1)
から導き出される値以下であり、かつ、次式(2)
T=580+55×exp(-0.5(XSi-1.7)) ・・・(2)
から導き出される値以上である構成である。
【0019】
また、本開示に係るブレージングシートは、空気調和装置の熱交換器に用いられるブレージングシートであって、アルミニウム合金製の心材と、当該心材の両方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材からなる犠牲陽極材層と、を備え、前記犠牲陽極材層の厚さが15~25μmの範囲内であり、前記ブレージングシートの接合時の温度Tが580~660℃の範囲内であるときに、前記犠牲陽極材における前記シリコンの含有量XSiは、次式(1)
T=660-8×exp(0.3XSi) ・・・(1)
から導き出される値以下であり、かつ、次式(2)
T=580+55×exp(-0.5(XSi-1.7)) ・・・(2)
から導き出される値以上である構成であってもよい。
【0020】
前記構成によれば、空気調和装置用熱交換器に用いられるブレージングシートにおいて、犠牲陽極材層が前記の範囲内で亜鉛およびシリコンを含有している。これにより、ろう材を兼ねる犠牲陽極材において、亜鉛の含有量だけでなくシリコンの含有量を好適化することができる。そのため、犠牲陽極材層の厚さが前記の範囲内であっても、ブレージングシートの接合構造における耐食性および耐圧性を両立させることが可能になる。
【0021】
前記構成のブレージングシートにおいては、当該ブレージングシートは、互いに接合されることにより接合部を構成する接合部位と、この接合部位に隣接する傾斜部位と、を有し、前記接合部位に対する前記傾斜部位の傾斜角は40°以下である構成であってもよい。
【0022】
また、前記構成のブレージングシートにおいては、前記心材は、3000系、5000系、または6000系のいずれかのアルミニウム合金であり、前記犠牲陽極材は、4000系のアルミニウム合金であり、かつ、前記の範囲内で亜鉛およびシリコンを含有するものである構成であってもよい。
【0023】
また、前記構成のブレージングシートにおいては、前記ろう材は、4000系のアルミニウム合金である構成であってもよい。
【0024】
本開示に係る空気調和装置用熱交換器は、前記構成のブレージングシートを用いて構成されるものであればよい。
【0025】
また、前記構成の空気調和装置用熱交換器においては、プレートフィン積層型である構成であってもよい。
【0026】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0027】
本開示に係るブレージングシートは、熱交換器に用いられるアルミニウム合金製である。具体的には、例えば、
図1(A)に示すように、本開示に係るブレージングシート10は、心材11、ろう材層12、および犠牲陽極材層13を備えている。ろう材層12は、心材11の一方の面に被覆(クラッド)され、犠牲陽極材層13は心材11の他方の面すなわちろう材層12が被覆されている面とは反対側の面に被覆されている。心材11、ろう材層12を構成するろう材、および、犠牲陽極材層13を構成する犠牲陽極材はいずれもアルミニウム合金である。
【0028】
あるいは図示しないが、本開示に係るブレージングシート10は、心材11および犠牲陽極材層13を備え、ろう材層12を備えていない構成でもよい。このようなブレージングシート10では、心材11の両方の面に犠牲陽極材層13が形成されている。
【0029】
本開示に係るブレージングシート10は、少なくとも犠牲陽極材層13の側に接合部位を有しており、この接合部位の接合面同士を互いに接合することで接合部を形成する。ブレージングシート10同士を接合部位で接合した構造が、本開示に係るブレージングシート10の接合構造である。本開示に係るブレージングシート10の具体的な形状は特に限定されないが、代表的には、接合部位に隣接し、当該接合部位に対して傾斜する傾斜部位を有する構成を挙げることができる。
【0030】
具体的には、例えば、
図1(B)に示すように、本開示に係るブレージングシート10の接合構造20は、ブレージングシート10の接合部位10a同士を接合して構成される。接合部位10aには傾斜部位10bが隣接しており、接合部位10aに対する傾斜部位10bの傾斜角θ1は特に限定されないが、接合構造20における傾斜部位10b同士で形成される角度θ2が鋭角すなわち90°未満であればよい(θ2<90°)ので、傾斜角θ1はその1/2である45°未満であればよい。また、
図1(B)に示すように、傾斜部位10b同士の間にはフィレット22が形成される。このフィレット22は、本実施の形態では、接合時に接合部位10aから流出したろう材または犠牲陽極材が固化したものとして定義される。
【0031】
なお、接合構造20を構成する各傾斜部位10bにより形成される角度θ2を、説明の便宜上「傾斜部位形成角」と称する。また、
図1(B)では、傾斜角θ1、および、傾斜部位形成角θ2は、点線で図示しているが、これら角度の基準は、図中点線で示すように、ブレージングシート10の厚さの中間線(一方の面と他方の面との双方から中間の厚さ(深さ)となる線)としている。ただし、これら角度θ1およびθ2の基準は厚さの中間線に限定されず、その他の公知の基準(例えば接合側の面を基準とした角度等)であってもよい。
【0032】
傾斜角θ1は、前記の通り45°未満であればよいが、その上限は、好ましくは40°未満であり、より好ましくは35°未満であればよい。空気調和装置用熱交換器の構造にもよるが、傾斜角θ1が40°を超えると、プレス加工時にブレージングシート10に部分的な減肉が生じたり、心材11に部分的なエロージョンが生じたりするおそれがある。
【0033】
接合部位10aに対する傾斜部位10bの傾斜角θ1が相対的に大きくなると、プレス加工時にブレージングシート10に対して大きな加工が加えられることになる。これによりレージングシート10に部分的に減肉が発生する。ブレージングシート10が部分的に減肉すると、減肉部分に応力集中または耐圧不足等が発生するため、当該部分から破損してしまうおそれがある。
【0034】
また、大きな加工がブレージングシート10に加わることにより、当該加工が加えられた部位において、ろう材層12から心材11へのシリコンの拡散係数が大きくなり、これによりエロージョン(心材11の溶融)が生じるおそれが高まる。エロージョンが発生すると、溶融した心材11の周囲に存在する犠牲陽極材層13が含有する亜鉛を巻き込むことになり、心材11の一部が「犠牲陽極材」化する。その結果、エロージョンが発生した部位からブレージングシート10が早期貫通する可能性が生じる。
【0035】
これに対して、傾斜角θ1が40°以下であれば、ブレージングシート10に対して大きな加工が加えられるおそれが低減する。それゆえ、ブレージングシート10に部分的な減肉が生じたり、心材11に部分的なエロージョンが生じたりするおそれを有効に抑制することができる。もちろん、空気調和装置用熱交換器の構造によっては、傾斜角θ1が40°を超えても、プレス加工時のブレージングシート10の部分的な減肉、または、心材11の部分的なエロージョンの発生が抑制される場合もあるので、傾斜角θ1の上限は必ずしも40°とは限らない。
【0036】
一方、傾斜角θ1の下限も特に限定されず、空気調和装置用熱交換器の構造に応じて好適な下限値を設定すればよい。例えば、後述するプレートフィン積層型熱交換器であれば、構造上、隣接する空気(第2流体)の流路を確保する観点から傾斜角θ1をあまり小さくしない方がよい。プレートフィン積層型熱交換器における傾斜角θ1の下限値としては、好ましくは15°以上を挙げることができ、より好ましくは20°以上を挙げることができる。
【0037】
本開示に係るブレージングシート10が備える心材11は、熱交換器の種類または構造等の諸条件に応じて求められる物性を実現し得る公知のアルミニウム合金であればよい。心材11として用いられるアルミニウム合金としては、例えば、熱交換器の分野では、代表的には、3000系(アルミニウム-マンガン(Al-Mn)系合金)、5000系(アルミニウム-マグネシウム(Al-Mg)系合金)、または6000系(アルミニウム-マグネシウム-シリコン(Al-Mg-Si)系合金)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0038】
あるいは、心材11は、前記のアルミニウム合金に対して公知の元素を、不可避的不純物を超える含有量(濃度)で添加してもよい。なお、不可避的不純物として許容される濃度の上限は、諸条件によっても異なるが、例えば、アルミニウム合金全体における0.1質量%未満を挙げることができる。あるいは、不可避的不純物の濃度の上限は、JIS等の公知の規格に規定される合金組成に準じてもよい。
【0039】
ろう材として用いられるアルミニウム合金は、本開示においては、シリコン(ケイ素、Si)を含有するもの、すなわち、アルミニウム-シリコン(Al-Si)系合金であればよい。ろう材におけるSiの含有量は特に限定されず、ろう材として好適な使用が可能な程度の範囲内であればよい。具体的には、例えば、ろう材におけるSiの含有量(濃度)としては、2.5~13質量%の範囲内を挙げることができ、3.5~12質量%の範囲内であってもよい。Siの含有量が少なすぎると、Al-Si系合金がろう材として十分に機能しなくなるおそれがある。一方、Siの含有量が多すぎると、心材11または相手材にSiが拡散してブレージングシート10そのものに溶融が生じるおそれがある。また、ろう材としてのAl-Si系合金には、ろう材としての機能に影響を及ぼさない範囲で、不可避的不純物を超える含有量でSi以外の元素を含有してもよい。
【0040】
犠牲陽極材として用いられるアルミニウム合金は、犠牲陽極作用を発揮するために、亜鉛(Zn)を2.5~6.0質量%の範囲内で含有している。また、本開示においては、前記の通り犠牲陽極材がろう材を兼ねているため、ろう材と同様にSiを含有している。犠牲陽極材におけるSiの含有量(Si濃度)は3.0~6.0質量%の範囲内を挙げることができる。したがって、犠牲陽極材として用いられるアルミニウム合金は、アルミニウム-シリコン-亜鉛(Al-Si-Zn)系合金であればよい。
【0041】
犠牲陽極材としてのAl-Si-Zn系合金において、Znの含有量(濃度)が2.5質量%未満であれば、良好な犠牲陽極作用を発揮することができない。一方、Znの含有量が6.0質量%を超えると、犠牲陽極作用が早期に進行し過ぎてブレージングシート10から犠牲陽極材層13が早期に消失してしまい、ブレージングシート10の耐食性が低下するおそれがある。
【0042】
また、犠牲陽極材としてのAl-Si-Zn系合金において、Siの含有量が3.0質量%未満であると、Siが少なすぎて当該犠牲陽極材が十分に流動せず、ろう材として良好な接着強度を発揮できなくなるおそれがある。一方、Siの含有量が6.0質量%を超えると、犠牲陽極材としての流動性は向上するものの流動性が高くなり過ぎて耐食性が低下するおそれがある。
【0043】
特に本開示においては、ブレージングシート10は、空気調和装置用熱交換器に用いられるが、この場合、ブレージングシート10が冷媒の流路を構成する接合構造20に用いられる場合(後述するプレートフィン積層型熱交換器等)、冷媒の許容圧力の上限に耐え得る程度の接着強度が要求される。なお、この許容圧力は、空気調和装置の種類、用途、性能等の諸条件によって異なるため、犠牲陽極材に求められる接着強度も諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0044】
ここで、本開示においては、ブレージングシート10同士の接合時の温度(ろう付け温度)を考慮すると、Siの含有量は、ブレージングシート10の接合構造20において、十分な耐圧性を実現し得る接着強度と十分な耐食性とのバランスが重要となる。この点について本発明者らが鋭意検討した結果、ブレージングシート10の接合時の温度Tが580~660℃の範囲内であるときに、犠牲陽極材におけるSiの特に好適な含有量は、下記式(1)および(2)により定義することが可能であることが明らかとなった。
【0045】
具体的には、犠牲陽極材において、Znの含有量(濃度)が2.0~6.0質量%の範囲内であるときに、Siの含有量(濃度)をXSiとすると、このSi濃度、次式(1)から導き出される値以下であり、かつ、次式(2)から導き出される値以上であればよい。
T=660-8×exp(0.3XSi) ・・・(1)
T=580+55×exp(-0.5(XSi-1.7)) ・・・(2)
なお、犠牲陽極材としてのAl-Si-Zn系合金においても、犠牲陽極作用およびろう材としての機能に影響を及ぼさない範囲で、SiおよびZn以外の元素を、不可避的不純物を超える含有量で含有してもよい。
【0046】
ろう材および犠牲陽極材として具体的に用いられるアルミニウム合金の種類は特に限定されないが、代表的には、いずれも4000系(アルミニウム-シリコン(Al-Si)系合金)を用いることができる。犠牲陽極材では、Siの含有量が前記の範囲内に入るような4000系のアルミニウム合金を選択するか、Siを公知の手法で添加することによって前記の範囲内に入るように調整するとともに、Znについても含有量が前記の範囲内となるように、公知の手法でZnを添加すればよい。
【0047】
本開示に係るブレージングシート10においては、ろう材および犠牲陽極材のクラッド率は特に限定されず、一般的な範囲内を挙げることができる。一般的なクラッド率としては、例えば、2~30質量%の範囲内を挙げることができ、3~20質量%の範囲内であってもよい。
【0048】
また、本開示に係るブレージングシート10の厚さ、並びに、心材11、ろう材層12、および犠牲陽極材層13のそれぞれの厚さについても特に限定されず、当該ブレージングシート10の構成または製造しようとする熱交換器の種類または部品等に応じて適宜設定することができる。ただし、本開示では、犠牲陽極材層13の厚さは15~25μmの範囲内である。
【0049】
本開示に係るブレージングシート10は、空気調和装置用熱交換器に用いられるため、自動車用に比べて犠牲陽極材層13の厚さをより薄くすることができる。犠牲陽極材層13の厚さを薄くすることができれば、犠牲陽極材の使用量を低減することができるので、ブレージングシート10の製造コストの増加を抑制することが可能になる。
【0050】
特に、本開示では、後述するように熱交換器としてプレートフィン積層型を好ましい一例として挙げることができるが、プレートフィン積層型熱交換器は、複数のプレートフィンを重ねて積層体とし、この積層体を治具で押さえ付けて接合(ろう付け)する。そのため、犠牲陽極材層13の厚みが大きすぎると積層体の寸法変化が大きくなり、接合構造20に影響を及ぼすおそれがある。犠牲陽極材層13を25μm以下とすることができれば、このような接合構造20への影響を有効に抑制することができる。
【0051】
一方、犠牲陽極材層13が15μm未満であると、ブレージングシート10に対する犠牲陽極材の絶対量が少なくなり過ぎる。そのため、ブレージングシート10から犠牲陽極材層13が早期に消失してしまい、ブレージングシート10の耐食性が低下するおそれがある。
【0052】
本開示では、複数枚のブレージングシート10を接合部位10a同士で重ね合わせて、高温(580℃以上)の温度でろう材および犠牲陽極材を溶融させてろう付けすることにより、ブレージングシート10同士が接合される。このようにして製造されるブレージングシート10の接合構造20では、
図1(B)に示すように、傾斜部位10bの間で接合部位10a(接合部21)に隣接する部位には、接合部位10aの犠牲陽極材層13から流出した犠牲陽極材が固化してフィレット22が形成される。
【0053】
本開示においては、ブレージングシート10の耐食性を評価する観点から、接合部21(フィレット22を含む)、公知の方法で犠牲陽極材層13等の電位を評価(測定)すればよい。代表的な電位の評価方法としては、ポテンショスタット/ガルバノスタットに、電位測定用の試料(例えば、ブレージングシート10、もしくは、心材11、ろう材、犠牲陽極材、フィレット22または接合部21、あるいはこれらを模擬した組成の合金等)と、対極と、参照電極(例えば銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極)とを接続して電解液(例えば5重量%の塩化ナトリウム(NaCl)溶液)に浸漬し、試料と参照電極との電位差を測定する方法を挙げることができる。
【0054】
このような本開示に係るブレージングシート10の製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を好適に用いることができる。具体的には、例えば、所望の組成のアルミニウム合金を公知の方法で板状に成形して心材11とし、この心材11の一方に対して、Siを含有するアルミニウム合金のろう材を公知の方法でクラッドし、心材11の他方の面に対して、Znを2.0~6.0質量%の範囲内、および、Siを3.0~6.0質量%の範囲内で含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材を公知の方法でクラッドすればよい。本開示においては、ブレージングシート10の製造における諸条件は、当該ブレージングシート10の構成または製造しようとする空気調和装置用熱交換器の種類または部品等に応じて適宜設定することができる。
【0055】
本開示に係るブレージングシート10は、前記の通り空気調和装置用熱交換器の製造に特に好適に用いることができる。本開示に係るブレージングシート10を熱交換器に適用した場合に形成される接合構造20は、前述したように、
図1(B)に例示するような構造であるが、より具体的には、
図2に示すような構造を有するプレートフィン積層型熱交換器、あるいは、
図4(A),(B)に示すような構造を有するAir To Waterヒートポンプ用積層型熱交換器等を挙げることができる。
【0056】
プレートフィン積層型熱交換器は、図示しないが、第1流体である冷媒が流れる流路を有するプレートフィン積層体において、各プレートフィン積層間に第2流体である空気を流して、これら第1流体および第2流体との間で熱交換を行うものである。この熱交換器が備えるプレートフィンは、第1流体が並行に流れる複数の第1流体流路を有する流路領域と、この流路領域における各第1流体流路に連通するヘッダ流路を有するヘッダ領域と、を備えている。
【0057】
プレートフィン積層型熱交換器では、プレートフィン積層体の積層方向の両側に、当該プレートフィンと平面視が略同一形状のエンドプレートが設けられており、これら一対のエンドプレートとこれらの間に介在する複数のプレートフィンとは、積層された状態でろう付けにより接合されて一体化している。
図2は、このプレートフィン積層体30におけるヘッダ部分の概略構造を部分断面として示しており、図中最上部に位置するエンドプレート31に対して複数のプレートフィン32が積層されている。
【0058】
エンドプレート31およびプレートフィン32には、それぞれ開口部が設けられており、これらプレートが積層されてプレートフィン積層体30を形成することにより、ヘッダ開口33が形成される。
図2に示す構成では、ヘッダ開口33の外側から図中ブロック矢印で示す方向に第1流体である冷媒が流入し、さらにプレートフィン32の間に冷媒が流入する。各プレートフィン32には、前記の通り、第1流体流路が設けられているので、プレートフィン32の間に流入した冷媒は、第1流体流路を流れる。また、第2流体である空気は、プレートフィン32の間に形成される空間を、冷媒の流れる方向(第1流体流路の方向)に交差するように流れる。これにより、空気が冷媒により冷却される。
【0059】
このようなプレートフィン積層型熱交換器の具体的な構成例としては、例えば、特開2017-180856号公報、特開2018-066531号公報、特開2018-066532号公報、特開2018-066533号公報、特開2018-066534号公報、特開2018-066535号公報、特開2018-066536号公報等に記載されており、これら公開公報の記載内容は、本明細書で参照することにより本明細書の記載の一部とする。
【0060】
Air To Waterヒートポンプ用積層型熱交換器を構成するプレートフィン積層体34は、
図3に示すように、その基本構成は、
図2に示す一般的なプレートフィン積層型熱交換器のプレートフィン積層体30と同様である。ただし、プレートフィン積層体34を構成するプレートフィン35(本開示に係るブレージングシート10)は、その両面に犠牲陽極層13を有する構成となっている。そのため、
図3に示すように、フィレット22は、ヘッダ開口33側(内側)に位置する接合部21だけでなく、ヘッダ開口33側とは反対側(外側)に位置する接合部21にも形成されている。なお、
図3に示す構成は、プレートフィン35およびフィレット22の形成位置以外は
図2に示す構成と同様であるので、その説明を省略する。
【0061】
このように、本開示に係るブレージングシートは、空気調和装置の熱交換器に用いられるものであって、アルミニウム合金製の心材と、当該心材の一方の面に被覆され、シリコン(Si)を含有するアルミニウム合金のろう材層と、当該心材の他方の面に被覆され、亜鉛(Zn)およびシリコン(Si)を含有するアルミニウム合金の犠牲陽極材層と、を備えるものであるか、あるいは、心材の両方の面に犠牲陽極材層が被覆されたものである。
【0062】
さらに、本開示に係るブレージングシートでは、犠牲陽極材層の厚さが15~25μmの範囲内であり、ブレージングシートの接合時の温度Tが580~660℃の範囲内であるときに、犠牲陽極材におけるシリコンの含有量XSiは前記式(1)から導き出される値以下であり、かつ、前記式(2)から導き出される値以上である。これにより、ろう材を兼ねる犠牲陽極材において、亜鉛の含有量だけでなくシリコンの含有量を好適化することができる。そのため、犠牲陽極材層の厚さが前記の範囲内であっても、ブレージングシートの接合構造における耐食性および耐圧性を両立させることが可能になる。
【実施例】
【0063】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例における耐食性試験は次に示すようにして行った。
【0064】
[耐食性試験]
ブレージングシートの接合構造の耐食性は、ASTM G85-A3で規定されるSWAAT試験(Sea Water Acidified Test)に基づいて評価した。
【0065】
(比較例1)
比較例1に係るブレージングシートとしては、心材が3003のアルミニウム合金であり、ろう材層が4343のアルミニウム合金であり、犠牲陽極材層が、シリコン(Si)2.5質量%、亜鉛(Zn)4.0質量%、残部アルミニウム(Al)のアルミニウム合金(Al-2.5%Si-4.0%Zn)であるものを用いた。また、ブレージングシートが備える傾斜部位の傾斜角θ1は約30°であった。
【0066】
このブレージングシートを互いの接合部位でろう付けして接合部を形成した。接合部位の接合面は犠牲陽極材層とした。なお、ろう付け温度は610℃としたので、このときの犠牲陽極材におけるSiの含有量(濃度)は、前記式(1)および(2)から約2.9~6.1質量%の範囲内となる。接合部を目視で観察すると、接合が不十分であることが確認された。
【0067】
また、ブレージングシート同士の接合部について、前述した腐食試験により耐食性を評価した。その結果、
図4(A)の断面写真に示すように、犠牲陽極材層の犠牲陽極作用は確認できたが心材の腐食は確認できなかった。
【0068】
(実施例1)
実施例1に係るブレージングシートとして、犠牲陽極材層がシリコン(Si)2.8質量%、亜鉛(Zn)4.0質量%、残部アルミニウム(Al)のアルミニウム合金(Al-2.8%Si-4.0%Zn)であるものを用いた以外は、比較例1と同様にしてブレージングシート同士をろう付けして接合部を形成した。なお、ろう付け温度は620℃としたので、このときの犠牲陽極材におけるSiの含有量(濃度)は、前記式(1)および(2)から約2.3~5.3質量%の範囲内となる。接合部を目視で確認すると、良好な接合が確認された。
【0069】
また、ブレージングシート同士の接合部について、前述した腐食試験により耐食性を評価した。その結果、
図4(B)の断面写真に示すように、犠牲陽極材層の犠牲陽極作用は確認できたが心材の腐食は確認できなかった。
【0070】
(実施例2)
実施例2に係るブレージングシートとして、犠牲陽極材層がシリコン(Si)4.4質量%、亜鉛(Zn)4.0質量%、残部アルミニウム(Al)のアルミニウム合金(Al-4.4%Si-4.0%Zn)であるものを用いた以外は、比較例1と同様にしてブレージングシート同士をろう付けして接合部を形成した。なお、ろう付け温度は620℃としたので、このときの犠牲陽極材におけるSiの含有量(濃度)は、前記式(1)および(2)から約2.3~5.3質量%の範囲内となる。接合部を目視で確認すると、良好な接合が確認された。
【0071】
また、ブレージングシート同士の接合部について、前述した腐食試験により耐食性を評価した。その結果、
図4(C)の断面写真に示すように、犠牲陽極材層の犠牲陽極作用は確認できたが心材の腐食は確認できなかった。
【0072】
(比較例2)
比較例2に係るブレージングシートとして、犠牲陽極材層がシリコン(Si)7.0質量%、亜鉛(Zn)4.0質量%、残部アルミニウム(Al)のアルミニウム合金(Al-4.4%Si-4.0%Zn)であるものを用いた以外は、比較例1と同様にしてブレージングシート同士をろう付けして接合部を形成した。なお、ろう付け温度は610℃としたので、このときの犠牲陽極材におけるSiの含有量(濃度)は、前記式(1)および(2)から約2.9~6.1質量%の範囲内となる。接合部を目視で確認すると、良好な接合が確認された。
【0073】
また、ブレージングシート同士の接合部について、前述した腐食試験により耐食性を評価した。その結果、
図4(D)の断面写真に示すように、犠牲陽極材層の犠牲陽極作用だけでなく、心材における粒界腐食の進行が確認された。
【0074】
(実施例3)
実施例3に係るブレージングシートとして、実施例1と同様の組成を有する犠牲陽極材層を心材の両面に備え、ろう材層を備えていないもの用いた以外は、比較例1と同様にしてブレージングシート同士をろう付けして接合部を形成した。接合部を目視で確認すると、良好な接合が確認された。
【0075】
また、ブレージングシート同士の接合部について、前述した腐食試験により耐食性を評価した。その結果、
図5の断面写真に示すように、犠牲陽極材層の犠牲陽極作用は確認できたが心材の腐食は確認できなかった。
【0076】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、犠牲陽極材層を有する空気調和装置用熱交換器に用いられるブレージングシートの分野だけでなく、当該ブレージングシートを用いた空気調和装置用熱交換器の分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
10:ブレージングシート
10a:接合部位
10b:傾斜部位
11:心材
12:ろう材層
13:犠牲陽極材層
20:ブレージングシートの接合構造
21:接合部
22:フィレット
30:プレートフィン積層体
31:エンドプレート
32:プレートフィン
33:ヘッダ開口
34:プレートフィン積層体
35:プレートフィン