(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】蛍光発光素子、蛍光発光モジュール及び発光装置
(51)【国際特許分類】
F21S 2/00 20160101AFI20241115BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20241115BHJP
F21V 29/502 20150101ALI20241115BHJP
F21V 29/77 20150101ALI20241115BHJP
F21V 29/89 20150101ALI20241115BHJP
F21V 9/32 20180101ALI20241115BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20241115BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20241115BHJP
【FI】
F21S2/00 375
G03B21/14 A
F21V29/502 100
F21V29/77
F21V29/89
F21V9/32
F21Y115:30
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2020202120
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中島 功康
(72)【発明者】
【氏名】本多 洋介
(72)【発明者】
【氏名】北岡 信一
(72)【発明者】
【氏名】高平 宜幸
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0137062(US,A1)
【文献】特開2019-139205(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070253(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131730(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0287341(US,A1)
【文献】特開2015-121606(JP,A)
【文献】特開2015-143824(JP,A)
【文献】特開2016-177979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0068604(US,A1)
【文献】特開2018-180343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00
F21V 29/00
F21V 9/00
F21K 2/00
G03B 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体材料を有し、第1主面及び前記第1主面に背向する第2主面を有する平板形状の波長変換部材と、
前記第1主面及び前記第2主面の少なくとも一方に接合して設けられる金属膜と、を備え、
前記波長変換部材を平面視したときに、前記波長変換部材は、前記金属膜とは重ならない領域を有し、
前記金属膜は、前記一方と接合する接合面と、前記接合面に背向する露出面と、を有
し、
前記金属膜は、複数の放熱フィンを有する
蛍光発光素子。
【請求項2】
前記波長変換部材を平面視したときに、前記複数の放熱フィンは、放射状に延びるように設けられ、
前記波長変換部材の厚み方向において、前記複数の放熱フィンの厚みは、前記波長変換部材の厚みよりも大きい
請求項
1に記載の蛍光発光素子。
【請求項3】
前記複数の放熱フィンは、前記第1主面側に設けられる
請求項
1又は2に記載の蛍光発光素子。
【請求項4】
蛍光体材料を有し、第1主面及び前記第1主面に背向する第2主面を有する平板形状の波長変換部材と、
前記第1主面及び前記第2主面の少なくとも一方に接合して設けられる金属膜と、を備え、
前記波長変換部材を平面視したときに、前記波長変換部材は、前記金属膜とは重ならない領域を有し、
前記金属膜は、前記一方と接合する接合面と、前記接合面に背向する露出面と、を有し、
前記金属膜は、銅によって構成されている
蛍光発光素子。
【請求項5】
蛍光体材料を有し、第1主面及び前記第1主面に背向する第2主面を有する平板形状の波長変換部材と、
前記第1主面及び前記第2主面の少なくとも一方に接合して設けられる金属膜と、
前記金属膜と前記波長変換部材との間に設けられたニッケル膜
とを備え
、
前記波長変換部材を平面視したときに、前記波長変換部材は、前記金属膜とは重ならない領域を有し、
前記金属膜は、前記一方と接合する接合面と、前記接合面に背向する露出面と、を有する
蛍光発光素子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の蛍光発光素子と、
前記蛍光体材料を励起する光であって、前記第1主面側から前記領域に入射する励起光を出射する光出射部と、を備える
蛍光発光モジュール。
【請求項7】
請求項
6に記載の蛍光発光モジュールを備える
発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光発光素子、蛍光発光モジュール及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、励起光により励起され蛍光を発生する蛍光発光素子が知られている。蛍光発光素子は、例えば、プロジェクタなどの発光装置に応用されている。
【0003】
特許文献1には、蛍光発光素子の一例として、蛍光発生部が開示されている。また、特許文献1で開示される光源装置は、板状のガラス部材で構成される蛍光体用基板と、蛍光発生部(蛍光発光素子)と、蛍光体用基板及び蛍光発光部の間に位置するダイクロイック膜と、蛍光発生部を励起する励起光を射出する光射出部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、励起光の照射により蛍光発光素子の温度が高くなると、発生する蛍光が減少する現象(所謂、温度消光現象)が起こることが知られている。例えば、特許文献1で開示される光源装置においては、蛍光発光素子の放熱性が十分でないため温度消光現象が起こりやすく、この結果、蛍光発光素子から出射される蛍光が減少する。このため、特許文献1で開示される蛍光発光素子の光の利用効率が低くなってしまう場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、光の利用効率が高い蛍光発光素子、蛍光発光モジュール及び発光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る蛍光発光素子は、蛍光体材料を有し、第1主面及び前記第1主面に背向する第2主面を有する平板形状の波長変換部材と、前記第1主面及び前記第2主面の少なくとも一方に接合して設けられる金属膜と、を備え、前記波長変換部材を平面視したときに、前記波長変換部材は、前記金属膜とは重ならない領域を有し、前記金属膜は、前記一方と接合する接合面と、前記接合面に背向する露出面と、を有する。
【0008】
また、本発明の一態様に係る蛍光発光モジュールは、上記の蛍光発光素子と、前記蛍光体材料を励起する光であって、前記第1主面側から前記領域に入射する励起光を出射する光出射部と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係る発光装置は、上記の蛍光発光モジュールを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光の利用効率が高い蛍光発光素子、蛍光発光モジュール及び発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、実施の形態に係る蛍光発光素子の平面図である。
【
図1B】
図1Bは、実施の形態に係る蛍光発光素子の下面図である。
【
図2】
図2は、
図1AのII-II線における蛍光発光素子の切断面を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るプロジェクタの外観を示す斜視図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態に係るプロジェクタの構成を示す模式図である。
【
図4B】
図4Bは、実施の形態に係る蛍光発光モジュールを示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る蛍光発光素子と回転部との位置関係を示す平面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る波長変換部材の温度と複数の金属膜の厚みとの関係を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る波長変換部材の温度と複数の放熱フィンが設けられる位置との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る波長変換部材の温度と複数の放熱フィンの厚みとの関係を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る波長変換部材の温度と複数の放熱フィンの個数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施の形態に係る蛍光発光素子などについて、図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、製造工程、製造工程の順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。
【0014】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0015】
本明細書において、平行又は直交などの要素間の関係性を示す用語、及び、円形状などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0016】
また、本明細書及び図面において、x軸、y軸及びz軸は、三次元直交座標系の三軸を示している。各実施の形態では、波長変換部材が有する第1主面と平行な2軸をx軸及びy軸とし、x軸及びy軸と直交する軸をz軸としている。
【0017】
(実施の形態)
[構成]
はじめに、本実施の形態に係る蛍光発光素子1の構成について図面を用いて説明する。
図1Aは、本実施の形態に係る蛍光発光素子1の平面図である。
図1Bは、本実施の形態に係る蛍光発光素子1の下面図である。なお、z軸負方向から蛍光発光素子1を見た場合を平面図、z軸正方向から蛍光発光素子1を見た場合を下面図、とする。また、平面図での視点を平面視、下面図での視点を下面視とする。
図2は、
図1AのII-II線における蛍光発光素子1の切断面を示す断面図である。
図2には、蛍光発光素子1の断面の一部を拡大した断面図が、二点鎖線の矩形で囲まれた矩形範囲内に図示されている。
【0018】
蛍光発光素子1は、励起光L1を受光して蛍光を含む透過光L2を放つ光学部材である。蛍光発光素子1は、プロジェクタ及び照明装置などに代表される発光装置に適用される。本実施の形態においては、蛍光発光素子1は、プロジェクタに適用され、当該プロジェクタにおいて蛍光体ホイールとして利用される。この場合、透過光L2は、当該プロジェクタが出力する投射光として利用される光である。
【0019】
図1A、
図1B及び
図2が示すように、蛍光発光素子1は、波長変換部材10と、複数の金属膜と、複数のニッケル膜とを備える。本実施の形態においては、複数の金属膜とは第1金属膜21、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24であり、複数のニッケル膜とは第1ニッケル膜31、第2ニッケル膜32、第3ニッケル膜33及び第4ニッケル膜34である。
【0020】
まず、波長変換部材10について説明する。
【0021】
波長変換部材10は、第1主面11及び第2主面12を有する平板形状の部材である。より具体的には、波長変換部材10は円形状を有する基板であり、つまりは、円板形状を有する。波長変換部材10は、支持基板として、複数の金属膜及び複数のニッケル膜を支持する部材である。第1主面11は基板である波長変換部材10が有する1つの主面であり、第2主面12は波長変換部材10が有する他の1つの主面である。また、第2主面12は、第1主面11に背向する主面である。第1主面11及び第2主面12は、ここでは、平面である。
【0022】
円板形状である波長変換部材10の直径は、一例として30mm以上90mm以下であるとよく、35mm以上70mm以下であるとよりよく、40mm以上50mm以下であるとさらによいが、これに限られない。蛍光発光素子1がプロジェクタに適用される場合には、当該プロジェクタの筐体内に収まるように、波長変換部材10の直径が定められる。
【0023】
波長変換部材10の厚み(つまりは、z軸方向の長さ)は、50μm以上700μm以下であるとよい。波長変換部材10の厚みは、80μm以上500μm以下であるとよりよく、100μm以上300μm以下であるとさらによい。本実施の形態においては、波長変換部材10は、200μmである。
【0024】
波長変換部材10は、蛍光体材料を有する部材である。本実施の形態においては、波長変換部材10は、主成分である蛍光体材料のみによって構成されている部材である。より具体的には、波長変換部材10は、蛍光体材料のみによって構成されている焼結蛍光体によって構成されている基板である。
【0025】
なお、ここで本明細書における焼結蛍光体について説明する。
【0026】
焼結蛍光体とは、上記の主成分である蛍光体材料(一例として、蛍光体材料の原料粉が造粒された造粒体)の原料粉が、蛍光体材料の融点よりも低い温度で焼成された焼成体である。また、焼結蛍光体は、焼成の過程で原料粉同士が結合される。そのため、焼結蛍光体は、造粒体同士を結合させるための結合剤をほとんど必要としない。より具体的には、焼結蛍光体は、結合剤を一切必要としない。結合剤とは、一例として、上記の特許文献1では、透明樹脂である。また、結合剤とは、Al2O3材料、及び、ガラス材料(つまりはSiOd(0<d≦2))などが公知の材料として用いられている。なお、同様に、結合剤に限られず、焼結蛍光体は、焼結蛍光体が有する蛍光体材料以外の材料(以下その他材料)をほとんど必要とせず、より具体的には、その他材料を一切必要としない。
【0027】
例えば、焼結蛍光体の全体の体積を100vol%としたとき、焼結蛍光体の全体の体積における蛍光体材料の体積が70vol%以上であるとよい。また、焼結蛍光体の全体の体積における蛍光体材料の体積が、80vol%以上であるとよりよく、90vol%以上であるとさらによく、95vol%以上であるとさらによりよくなる。
【0028】
なお、換言すると、焼結蛍光体の全体の体積を100vol%としたとき、焼結蛍光体の全体の体積におけるその他材料(例えば結合剤)の体積が30vol%未満であるとよい。また、焼結蛍光体の全体の体積におけるその他材料(例えば結合剤)の体積が、20vol%未満であるとよりよく、10vol%未満であるとさらによく、5vol%未満であるとさらによりよくなる。
【0029】
焼結蛍光体の全体の体積におけるその他材料のvol%が高い(つまり、その他材料の体積の割合が多い)と、蛍光体材料とその他材料との界面に存在する欠陥によりフォノン散乱が発生する。この結果、焼結蛍光体の熱伝導率が低下する。特に、その他材料の体積が30vol%以上で熱伝導率の低下が著しい。また、上記界面での非発光再結合も多くなり、発光効率が低下する。換言すると、焼結蛍光体の全体の体積におけるその他材料のvol%が低い(つまり、その他材料の体積の割合が少ない)ほど、熱伝導率、及び、発光効率が向上する。本発明の焼結蛍光体は、上記理由により、焼結蛍光体の全体の体積におけるその他材料の体積を30%未満としている。
【0030】
ここで、蛍光体材料について説明する。
【0031】
蛍光体材料は、例えば、ガーネット構造を有する結晶相によって構成されている材料である。ガーネット構造とは、A3B2C3O12の一般式で表される結晶構造である。元素Aには、Ca、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb及びLuなどの希土類元素が適用され、元素Bには、Mg、Al、Si、Ga及びScなどの元素が適用され、元素Cには、Al、Si及びGaなどの元素が適用される。このようなガーネット構造としては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Yttrium Aluminum Garnet))、LuAG(ルテチウム・アルミニウム・ガーネット(Lutetium Aluminum Garnet))、Lu2CaMg2Si3O12(ルテチウム・カルシウム・マグネシウム・シリコン・ガーネット(Lutetium Calcium Magnesium Silicon Garnet))及びTAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット(Terbium Aluminum Garnet))などが挙げられる。本実施の形態においては、蛍光体材料は、(Y1-xCex)3Al2Al3O12(つまりは、(Y1-xCex)3Al5O12)(0.0001≦x<0.1)で表される結晶相、つまりはYAGによって構成されている。
【0032】
また、蛍光体材料がYAGによって構成されている場合、原料としてAl2O3が用いられる場合がある。この場合、焼結蛍光体において、未反応の原料としてAl2O3が残るときがある。しかし、未反応の原料であるAl2O3は、上記結合剤とは異なる。また、焼結蛍光体の全体の体積を100vol%としたとき、焼結蛍光体の全体の体積における未反応の原料であるAl2O3の体積は、5vol%以下である。
【0033】
なお、蛍光体材料を構成する結晶相は、化学組成の異なる複数のガーネット結晶相の固溶体であってもよい。このような固溶体としては、(Y1-xCex)3Al2Al3O12(0.001≦x<0.1)で表されるガーネット結晶相と(Lu1-yCey)3Al2Al3O12(0.001≦y<0.1)で表されるガーネット結晶相との固溶体((1-a)(Y1-xCex)3Al5O12・a(Lu1-yCey)3Al2Al3O12(0<a<1))が挙げられる。また、このような固溶体としては、(Y1-xCex)3Al2Al3O12(0.001≦x<0.1)で表されるガーネット結晶相と(Lu1-zCez)2CaMg2Si3O12(0.0015≦z<0.15)で表されるガーネット結晶相との固溶体((1-b)(Y1-xCex)3Al2Al3O12・b(Lu1-zCez)2CaMg2Si3O12(0<b<1))などが挙げられる。蛍光体材料が化学組成の異なる複数のガーネット結晶相の固溶体から構成されることで、蛍光体材料が放つ蛍光の蛍光スペクトルがより広帯域化し、緑色の光成分と赤色の光成分が増える。そのため、色域の広い投射光を放つプロジェクタを提供できる。
【0034】
また、蛍光体材料を構成する結晶相は、上記の一般式A3B2C3O12で表される結晶相に対して、化学組成がずれた結晶相が含まれていてもよい。このような結晶相としては、(Y1-xCex)3Al2Al3O12(0.001≦x<0.1)で表される結晶相に対してAlがリッチな(Y1-xCex)3Al2+δAl3O12(δは正の数)が挙げられる。また、このような結晶相としては、(Y1-xCex)3Al2Al3O12(0.001≦x<0.1)で表される結晶相に対してYがリッチな(Y1-xCex)3+ζAl2Al3O12(ζは正の数)などが挙げられる。これらの結晶相は、一般式A3B2C3O12で表される結晶相に対して、化学組成がずれているが、ガーネット構造は維持している。
【0035】
さらに、蛍光体材料を構成する結晶相には、ガーネット構造以外の構造を有する異相が含まれていても良い。
【0036】
YAGで構成される蛍光体材料は、波長変換部材10が有する第1主面11側(つまりはz軸負側)から入射する光を励起光L1として受光して、蛍光を放つ。より具体的には、励起光L1が蛍光体材料に照射されることで、蛍光体材料から波長変換光として蛍光が放たれる。つまり、蛍光体材料から放たれる波長変換光は、励起光L1の波長よりも長い波長の光である。
【0037】
励起光L1は、一例として、波長380nm以上490nm以下にピーク波長を有する近紫外から青色の範囲内の光である。このとき、励起光L1のピーク波長は、例えば455nmであり、励起光L1は青色光である。
【0038】
本実施の形態において、蛍光体材料から放たれる波長変換光には、黄色光である蛍光が含まれる。蛍光体材料は、例えば、波長が380nm以上490nm以下の光を吸収し、波長が490nm以上580nm以下の領域に蛍光ピーク波長を有する黄色光である蛍光を放つ。蛍光体材料がYAGで構成されることで、容易に波長が490nm以上580nm以下の領域に蛍光ピーク波長を有する蛍光を放つことができる。
【0039】
本実施の形態においては、
図2が示すように、入射した励起光L1の一部は、蛍光体材料によって波長変換されて、蛍光発光素子1を透過して第2主面12側から出射される。また、入射した励起光L1の他部は、蛍光体材料によって波長変換されずに、蛍光発光素子1を透過して第2主面12側から出射される。波長変換部材10を透過した透過光L2は、波長変換された黄色光である蛍光と波長変換されていない青色光である励起光L1とを含む。つまり、透過光L2は、これらの光が複合された光であり、白色光である。
【0040】
次に、このような励起光L1が入射する領域A1について説明する。
【0041】
波長変換部材10は、平面視したときに、複数の金属膜とは重ならない領域A1を有している。なお、領域A1は、下面視したときに、複数の金属膜とは重ならない領域でもある。また、
図1A及び
図1Bにおいては領域A1にはドットが付されており、
図2においては領域A1は一点鎖線で囲まれた矩形の領域に該当する。
【0042】
さらに、
図1Aが示すように、波長変換部材10を平面視したときに、領域A1の形状は円環形状であり、当該円環形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。領域A1は、波長変換部材10の中心点C1からの距離が等しい円周上に円形のリング形状に設けられている。つまり、領域A1は、平面視において周方向に沿う帯状に設けられている。
【0043】
また、
図1A、
図1B及び
図2が示すように、波長変換部材10は、他の構成要素によって支持されることを必要としない。つまり、波長変換部材10は、リジッドな性質を有する。波長変換部材10が焼結蛍光体であり、かつ、波長変換部材10の厚みが上記範囲にあることで、波長変換部材10はリジッドな性質を有する。また、特許文献1に開示されている蛍光体と透明樹脂とを含む塗料によって形成される蛍光発生部などと比較し、本実施の形態に係る波長変換部材10は、はるかに剛性が高く、波長変換部材10が回転されたときの外力による変形量が小さいという性質を有する。
【0044】
次に、金属膜について説明する。
【0045】
上述のように、蛍光発光素子1は、複数の金属膜として第1金属膜21、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24を備えている。また、第1金属膜21は、本体部211と複数の放熱フィン212とを有している。第1金属膜21、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24は、金属材料によって構成されている構成要素である。
【0046】
また、蛍光発光素子1が1個の金属膜を備える場合には、1個の金属膜は波長変換部材10が有する第1主面11及び第2主面12の少なくとも一方に接合して設けられる部材である。本実施の形態においては、蛍光発光素子1が複数の金属膜を備えており、複数の金属膜が第1主面11及び第2主面12の両方に設けられている。第1金属膜21及び第2金属膜22は、z軸負側に位置する第1主面11に接合して設けられている。第3金属膜23及び第4金属膜24は、z軸正側に位置する第2主面12に接合して設けられている。波長変換部材10を平面視及び下面視したときに、複数の金属膜は、領域A1の形状である円環形状の内側と外側とに設けられる。以下では、内側に設けられた金属膜を「内側の金属膜」と称し、第1金属膜21及び第3金属膜23が「内側の金属膜」と称する。また、外側に設けられた金属膜を「外側の金属膜」と称し、第2金属膜22及び第4金属膜24が「外側の金属膜」と称する。
【0047】
第1金属膜21が有する本体部211と、第2金属膜22と、第3金属膜23と、第4金属膜24とは、波長変換部材10と積層されるように設けられる薄膜である。本体部211と、第2金属膜22と、第3金属膜23と、第4金属膜24とのそれぞれの厚み(z軸方向の長さ)は、10μm以上1200μm以下であればよい。当該厚みは、30μm以上500μm以下であればよりよく、50μm以上200μm以下であればさらによい。なお、本実施の形態においては、本体部211と、第2金属膜22と、第3金属膜23と、第4金属膜24とのそれぞれの厚みは、同一であるが、これに限られない。
【0048】
平面視で、本体部211の形状は円形状であり、当該円形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。また、平面視で、第2金属膜22の形状は円環形状であり、当該円環形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。平面視で、第2金属膜22の円環形状の外側の円周は、波長変換部材10の円形状の外側の円周と重なる。
【0049】
同様に、下面視で、第3金属膜23の形状は円形状であり、当該円形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。また、下面視で、第4金属膜24の形状は円環形状であり、当該円環形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。下面視で、第4金属膜24の円環形状の外側の円周は、波長変換部材10の円形状の外側の円周と重なる。
【0050】
このような構成により、平面視及び下面視で、領域A1は、内側の金属膜と外側の金属膜とによって挟まれているともいえる。
【0051】
また、例えば、蛍光発光素子1が1個の金属膜を備える場合には、1個の金属膜は第1主面11及び第2主面12の少なくとも一方に接合する接合面と、当該接合面に背向する露出面と、を有する。本実施の形態においては、複数の金属膜のそれぞれは、波長変換部材10が有する主面に接合する接合面と、当該接合面に背向する露出面と、を有する。
【0052】
図2が示すように、第1金属膜21は、接合面21a及び露出面21bを有している。同様に、第2金属膜22は接合面22a及び露出面22bを、第3金属膜23は接合面23a及び露出面23bを、第4金属膜24は接合面24a及び露出面24bを、有している。2個の接合面21a及び22aは、第1主面11と接合する面である。2個の接合面23a及び24aは、第2主面12と接合する面である。4個の露出面21b、22b、23b及び24bは、蛍光発光素子1の周囲の大気に露出されている面である。換言すると、4個の露出面21b、22b、23b及び24bは、それぞれ4個の接合面21a、22a、23a及び24aに背向して外界に露出する面である。
【0053】
なお、複数の金属膜と波長変換部材10との間には複数のニッケル膜が設けられている。一例として、第1金属膜21の接合面21aが第1ニッケル膜31を介して第1主面11に接合している。同様に、第2金属膜22の接合面22aは、第2ニッケル膜32を介して第1主面11に第3金属膜23の接合面23aは、第3ニッケル膜33を介して第2主面12に第4金属膜24の接合面24aは、第4ニッケル膜34を介して第2主面12に接合している。
【0054】
本実施の形態においては、このように、波長変換部材10の第1主面11及び第2主面12と複数の金属膜の接合面21a、22a、23a及び24aとが接合する。そのため、励起光L1の照射により波長変換部材10において熱が発生した場合でも、当該熱が波長変換部材10から複数の金属膜へ移動しやすくなる。また、一般に、複数の金属膜を構成する金属材料は、YAGなどの蛍光体材料に比べ、熱伝導率が高い。これにより、当該熱は、複数の金属膜中を移動しやすい。さらに、複数の金属膜が大気に露出されている面である露出面21b、22b、23b及び24bを有することで、当該熱が露出面21b、22b、23b及び24bから放熱されやすくなる。つまりは、蛍光発光素子1を上記構成とすることで、蛍光発光素子1の放熱性を高めることができる。
【0055】
ここで、本実施の形態に係る蛍光発光素子1の効果について説明する。
【0056】
上述の通り、従来の蛍光発光素子において、温度消光現象が起きると、光の利用効率が低くなってしまう。しかし、本実施の形態においては、蛍光発光素子1の放熱性を高めることができるため、励起光L1の照射による波長変換部材10の温度の上昇を抑制できる。これにより、温度消光現象が起きにくいため、蛍光の減少が抑制される。つまりは、光の利用効率が高い蛍光発光素子1を実現できる。
【0057】
また、本実施の形態においては、領域A1が内側の金属膜と外側の金属膜とによって挟まれている。このとき、励起光L1の照射により領域A1で発生した熱は、領域A1を挟む2個の金属膜の両方に移動することができる。この場合、例えば蛍光発光素子1が領域A1の内側又は外側の一方のみに金属膜を備える場合と比べて、波長変換部材10の放熱性を高めることができる。これにより、波長変換部材10の温度の上昇を抑制できるため、蛍光の減少が抑制される。
【0058】
さらに、複数の放熱フィン212について説明する。本実施の形態においては、第1主面11に設けられた内側の金属膜である第1金属膜21が複数の放熱フィン212を有する。
【0059】
複数の放熱フィン212は、本体部211から波長変換部材10に向かう方向とは反対方向に立設する突起である。つまり、複数の放熱フィン212は、本体部211に接しており、z軸負方向に突出している領域である。また、
図2には、波長変換部材10の厚み方向(z軸方向)における複数の放熱フィン212の厚みDが示されている。なお、複数の放熱フィン212のそれぞれの厚みDは同一であるが、これに限られない。
【0060】
図1Aが示すように、ここでは、8個の放熱フィン212が設けられている。平面視したときに、8個の放熱フィン212は、放射状に延びるように設けられている。より具体的には、8個の放熱フィン212は、波長変換部材10の中心点C1を中心に放射状に延びるように配置されている。
図1Aが示すように、8個の放熱フィン212は、中心点C1を中心に、等間隔に広がるように放射状に延びている。
【0061】
例えば、n個の放熱フィン212が設けられる場合、「等間隔に広がるように」とは、1個の放熱フィン212が延びる方向と当該1個の放熱フィン212と、隣接する他の1個の放熱フィン212が延びる方向とがなす角度が360°÷nとなることを意味する。本実施の形態においては、8個の放熱フィン212のうち、1個の放熱フィン212が延びる方向と、当該1個の放熱フィン212と隣接する他の1個の放熱フィン212が延びる方向とがなす角度は、45°である。
【0062】
なお、ここでは、8個の放熱フィン212が設けられているが、これに限られず、1以上の放熱フィン212が設けられていてもよい。また、複数の放熱フィン212は、上記に限られず、例えば行列形状又は中心点C1を中心とした円環形状となるように配置されてもよい。また、モータである回転部(詳細は後述)への負荷、及び、長期信頼性の観点から、蛍光発光素子1の重心が波長変換部材10の中心点C1(詳細は後述)と一致するとよい。そのため、ここでは、重心と中心点C1とを一致させることが容易な構造として、複数の放熱フィン212が等間隔に広がるように配置される構造が提示されている。しかし、重心と中心点C1とを一致させていれば、必ずしも複数の放熱フィン212が等間隔に広がるように配置される必要は無い。
【0063】
金属膜の1個である第1金属膜21が複数の放熱フィン212を有することで、第1金属膜21の表面積が増加する。表面積が増加することで、第1金属膜21から熱がより放たれやすくなり、つまりは、蛍光発光素子1の放熱性をより高めることができる。
【0064】
さらに、複数の金属膜は、銅(Cu)によって構成されている。Cuは高い熱伝導率を示す金属材料であって、Cuの熱伝導率は395W/m・Kである。蛍光体材料を構成するYAGの熱伝導率は11.2W/m・Kである。そのため、複数の金属膜がCuによって構成されていることで、波長変換部材10の放熱性をさらに高めることができる。
【0065】
なお、複数の金属膜はCu以外によって構成されていてもよく、例えば、Ni、Pd、Rh、Mo及びWから選ばれる1以上の金属元素又は合金により構成されているとよい。それぞれの元素の熱伝導率は、Niが83W/m・K、Pdが73W/m・K、Rhが150W/m・K、Moが135W/m・K、Wが163W/m・Kである。そのため、複数の金属膜がこれらの金属材料によって構成されることで、波長変換部材10の放熱性をより高めることができる。
【0066】
続いて複数のニッケル膜について説明する。
【0067】
複数のニッケル膜は、上述のとおり、複数の金属膜と波長変換部材10との間に設けられた膜である。複数のニッケル膜は、Niによって構成されている膜である。
【0068】
複数のニッケル膜のそれぞれの厚み(z軸方向の長さ)は、0.1μm以上100μm以下であればよい。当該厚みは、0.5μm以上50μm以下であればよりよく、1μm以上5μm以下であればさらによい。
【0069】
複数のニッケル膜は、波長変換部材10と複数の金属膜との両方と高い密着性を有する。そのため、複数のニッケル膜が設けられない場合と比べ、複数の金属膜の剥離を抑制することができる。複数の金属膜が剥離すると、蛍光発光素子1の放熱性が低下してしまう。また、複数のニッケル膜が設けられることで、複数の金属膜を構成するCuが波長変換部材10に拡散することを抑制することができる。つまり、複数のニッケル膜は、Cuの拡散防止のためのバリア膜として利用することができる。また、Niは、上述の通り熱伝導率が高い。よって、複数のニッケル膜が波長変換部材10と複数の金属膜との間に設けられても、波長変換部材10から複数の金属膜への熱の移動を阻害し難い。
【0070】
平面視で、複数のニッケル膜のそれぞれの形状は、複数のニッケル膜のそれぞれが接している複数の金属膜のそれぞれの形状と、同じであるとよい。つまり、第1ニッケル膜31の形状は、第1金属膜21が有する本体部211と同じく、平面視で円形状であり、当該円形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。第2ニッケル膜32の形状は、第2金属膜22と同じく、平面視で、円環形状であり、当該円環形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。第3ニッケル膜33の形状は、第3金属膜23と同じく、平面視で円形状であり、当該円形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。第4ニッケル膜34の形状は、第4金属膜24と同じく、平面視で、円環形状であり、当該円環形状の中心は波長変換部材10の中心点C1と重なる。
【0071】
複数のニッケル膜の形状が上記であることにより、複数の金属膜のそれぞれと波長変換部材10とが複数のニッケル膜のそれぞれを介さずに接合されない。つまりは、複数の金属膜のそれぞれと波長変換部材10とが直接接さないため、複数の金属膜の剥離、及び、Cuの拡散の抑制が実現されやすくなる。
【0072】
[プロジェクタの構成]
以上のように構成されている蛍光発光素子1は、
図3が示すプロジェクタ500に用いられる。
図3は、本実施の形態に係るプロジェクタ500の外観を示す斜視図である。
図4Aは、本実施の形態に係るプロジェクタ500の構成を示す模式図である。
図4Bは、本実施の形態に係る蛍光発光モジュール300を示す模式図である。
図5は、本実施の形態に係る蛍光発光素子1と回転部100との位置関係を示す平面図である。以下では、本実施の形態に係るプロジェクタ500の構成について、
図4A、
図4B及び
図5を用いて説明する。なお、
図4Bにおいては、
図2と同じく蛍光発光素子1が断面図で示されている。
【0073】
図4Aが示すように、本実施の形態に係るプロジェクタ500は、蛍光発光モジュール300を備える。また、プロジェクタ500は、公知のプロジェクタと同様、均一化光学系601、表示素子部602、投光部603、及び、表示素子部602を制御する制御回路604を備える。均一化光学系601は、2枚のマルチレンズアレイ(MLA)によって構成されている。表示素子部602は、蛍光発光モジュール300から出力され、均一化光学系601を経た透過光L2を制御して映像として出力する略平面状の素子である。換言すると、表示素子部602は、映像用の光を生成する。表示素子部602は、具体的には、透過型液晶パネルである。表示素子部602は、透過光L2を赤色光、緑色光及び青色光に分離する。その後、分離された赤色光、緑色光及び青色光は、それぞれに対応した表示素子部602によって、それぞれ光学変調される。この結果、映像が生成され、赤色光、緑色光及び青色光は、RGB合成部であるクロスプリズム(不図示)にて波長合成される。投光部603は、テッサー型である。蛍光発光モジュール300から出力された透過光L2は、均一化光学系601、表示素子部602及び投光部603によって、この順に制御され、例えばスクリーンなどに拡大投射される投射光となる。制御回路604は、表示素子部602を制御する回路であり、例えば、マイクロコンピュータによって実現されるが、プロセッサによって実現されてもよい。ただし、本構成に限定されるものではなく、均一化光学系601はライトパイプなどのカレイドスコープ系の構造物でもよい。また、投影像の均一性が不要なプロジェクタ及び発光装置では、均一化光学系601は設けられていなくてもよい。表示素子部602は、DMD(Digital Micromirror Device)及びLCOS(Liquid crystal on silicon)でもよい。また、例えば、表示素子部602は、反射型液晶パネルであってもよく、DMDを有するDLP(Digital Light Processing)であってもよい。時分割方式及び白黒方式のプロジェクタ及び発光装置では、透過光L2が赤色光、緑色光及び青色光に分離されなくてもよい。投光部603はガウス型など、他の形式でもよい。
【0074】
図4Bが示すように、蛍光発光モジュール300は、蛍光発光素子1と、2つの光出射部200とを有するモジュールである。なお、蛍光発光モジュール300は、1つの光出射部200を有してもよい。また、蛍光発光モジュール300は、回転部100と、第1光学素子301と、第2光学素子302と、第3光学素子303と、第4光学素子304とを有する。
【0075】
2つの光出射部200は、励起光L1を出射する光源である。励起光L1は、波長変換部材10が有する蛍光体材料を励起する光である。2つの光出射部200は、例えば半導体レーザ光源又はLED(Light Emitting Diode)光源であり、駆動電流によって駆動されて所定の色(波長)の励起光L1を出射する。
【0076】
本実施の形態においては、2つの光出射部200は、半導体レーザ光源である。なお、2つの光出射部200が備える半導体レーザ素子は、例えば窒化物半導体材料によって構成されたGaN系半導体レーザ素子(レーザチップ)である。本実施の形態において、半導体レーザ光源である2つの光出射部200は、コリメートレンズ一体型TO-CANタイプの発光装置である。なお、2つの光出射部200は、特許文献である特開2016-219779に示されているような、マルチチップタイプレーザーでもよく、コリメートレンズとTO-CANとが別体になっていてもよい。
【0077】
上述のように、2つの光出射部200は、波長380nm以上490nm以下にピーク波長を有する近紫外から青色の範囲内のレーザ光を励起光L1として出射する。このとき、励起光L1のピーク波長は、例えば445nmであり、励起光L1は青色光である。
【0078】
回転部100は、蛍光発光素子1の厚み方向(z軸方向)に延びる軸B1を中心として蛍光発光素子1を回転させる部材であり、一例として、モータである。一例として、
図5の矢印が示すように、回転部100は、軸B1を中心として平面視で時計回りに蛍光発光素子1を回転させる。軸B1は、蛍光発光素子1の中心である中心点C1を通り、つまりは蛍光発光素子1を貫いている。また、回転部100は、軸B1を軸芯とする回転軸を有する。なお、
図5が示すように、平面視で、蛍光発光素子1は、このような回転部100と重なる位置に設けられている。
【0079】
第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303は、蛍光発光素子1から出力された透過光L2の光路を制御するための光学部材である。一例として、第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303のそれぞれは、透過光L2を集光するためのレンズである。
図4Bが示すように、第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303は、波長変換部材10の第2主面12側に配置されている。また、プロジェクタ500の小型化が必要な場合には、蛍光発光素子1と第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303との距離を小さくすることが求められる。
【0080】
第4光学素子304は、2つの光出射部200から出力された励起光L1の光路を制御するための光学部材である。一例として、第4光学素子304は、透過光L2を集光するためのレンズである。
図4Bが示すように、第4光学素子304は、波長変換部材10の第1主面11側に配置されている。
【0081】
【0082】
2つの光出射部200によって出射された励起光L1は、蛍光発光素子1における波長変換部材10が有する領域A1に入射する。入射した励起光L1の一部は、領域A1が含む蛍光体材料によって波長変換されて蛍光として、波長変換部材10を透過する。また、入射した励起光L1の他部は、領域A1が含む蛍光体材料によって波長変換されずに、波長変換部材10を透過する。波長変換部材10を透過した透過光L2は、黄色光である蛍光と波長変換されていない青色光である励起光L1とを含む複合された光であり、白色光である。さらに、透過光L2は、蛍光発光素子1から略ランバーシアン配光で出射される。つまりは、
図4Bが示すように、本実施の形態においては、蛍光発光素子1は、光透過型の蛍光体ホイールとして利用される。
【0083】
また、上記の通り、領域A1の形状が円環形状であるため、回転部100により蛍光発光素子1が回転されるときに、励起光L1が領域A1に入射しやすくなる。このため、蛍光発光素子1を蛍光体ホイールとして利用することがより容易になる。
【0084】
蛍光発光素子1から出射された透過光L2は、第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303によって略コリメートされて出射される。なお、第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303は、蛍光発光素子1から出射された透過光L2を集光しなくてもよい。例えば、第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303は、出射された透過光L2を集光又は弱拡大放射してもよい。第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303から出射された透過光L2の放射角が、蛍光発光素子1が用いられるプロジェクタ500及び照明装置において、効率よく光伝達できる放射角であればよい。
【0085】
出射された透過光L2は、
図4Aが示す均一化光学系601へと向かう。上記のように、蛍光発光モジュール300から出力された透過光L2は、均一化光学系601、表示素子部602及び投光部603の順に制御され、スクリーンに拡大投射される投射光となる。つまり、透過光L2は、プロジェクタ500が出力する投射光として利用される光である。なお、第3光学素子303と均一化光学系601との間には、図示されない光学素子などが設けられ、当該光学素子によって透過光L2の光路が制御されてもよい。
【0086】
本実施の形態においては、蛍光発光モジュール300は、光の利用効率の高い蛍光発光素子1を有する。よって、光の利用効率の高い蛍光発光モジュール300が実現される。また、蛍光発光モジュール300は、領域A1に入射する励起光L1を出射する2つの光出射部200を有する。領域A1は、波長変換部材10における複数の金属膜とは重ならない領域である。よって、励起光L1が複数の金属膜によって反射されるなどの光ロスが起こりにくい。このため、励起光L1が容易に波長変換部材10に入射し、波長変換された光である蛍光を発生させることができる。
【0087】
上記の通り、透過光L2は、蛍光発光素子1から略ランバーシアン配光で出射される。このため、蛍光発光素子1から出射された透過光L2が効率よく利用され、かつ、光制御されるためには、蛍光発光素子1の近傍に第1光学素子301を配置する必要がある。具体的には、第2主面12から第1光学素子301の入射側面までの距離は、第1光学素子301の厚さよりも小さいとよい。より具体的には、第2主面12から第1光学素子301の入射側面までの距離は、2mm以下であるとよく、1.5mm以下であるとよりよく、1.0mm以下であるとさらによい。
【0088】
プロジェクタ500の小型化のために蛍光発光素子1と第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303との距離をさらに小さくすることが求められる場合がある。このような場合でも、第1金属膜21が有する複数の放熱フィン212が第1主面11側に設けられていることで、第1光学素子301と複数の放熱フィン212とが接触し、破損することを抑制することができる。
【0089】
上記の通り、蛍光発光素子1から略ランバーシアン配光で出射された透過光L2が効率よく制御されるために、蛍光発光素子1の近傍に第1光学素子301を配置する必要がある。一方、第4光学素子304は、励起光L1を蛍光発光素子1上で集光できればよいため、第1主面11から第4光学素子304の出射面までの距離は、第2主面12から第1光学素子301の入射側面までの距離よりも大きくすることができる。例えばこのとき、蛍光発光素子1上での、励起光L1のスポットサイズは、透過光L2のスポットサイズよりも小さい。よって、第3金属膜23及び第4金属膜24に複数の放熱フィン212が形成される場合、複数の放熱フィン212の高さは、第1金属膜21(より具体的には本体部211)に形成された複数の放熱フィン212の高さよりも低くする必要がある。また、第2金属膜22に複数の放熱フィン212が形成されてもよい。この第2金属膜22に形成された複数の放熱フィン212の高さは、第1金属膜21に形成された複数の放熱フィン212と同じ高さでもよい。しかし、後述するように、複数の放熱フィン212は第1金属膜に形成される方が、冷却効果が高い。また、複数の放熱フィン212が、第2金属膜22及び第4金属膜24に形成されると、より蛍光発光素子1の外周部に位置することとなる。この場合、複数の放熱フィン212が第1金属膜21及び第3金属膜23に形成される場合に比べ、モータである回転部100の負荷が高くなる。つまり、第1金属膜21、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24のそれぞれに複数の放熱フィン212を形成する場合、複数の放熱フィン212の高さは、以下の通りであるとよい。つまり、第4金属膜24の複数の放熱フィン212、第3金属膜23の複数の放熱フィン212、第2金属膜22の複数の放熱フィン212、第1金属膜21の複数の放熱フィン212の順に高さが高くなるとよい。
【0090】
また、本実施の形態においては、発光装置の一例であるプロジェクタ500は、光の利用効率の高い蛍光発光モジュール300を備えている。よって、光の利用効率の高い発光装置としてプロジェクタ500が実現される。
【0091】
[所定のパラメータと波長変換部材の温度との関係]
以下では、蛍光発光素子1に関する4つの所定のパラメータのそれぞれと波長変換部材10の温度との関係について説明する。
【0092】
4つの所定のパラメータとは、複数の金属膜の厚み、複数の放熱フィン212が設けられる位置、複数の放熱フィン212の厚みD、及び、複数の放熱フィン212の個数である。4つの所定のパラメータのそれぞれについて第1例~第4例で説明する。ここでは、熱シミュレーションを用いて、励起光L1が照射された場合の波長変換部材10の温度が計算されている。なお、第1例~第4例においては、簡単のため、以下の3個の場合でも蛍光発光素子1として記載して説明している。3個の場合とは、「蛍光発光素子が複数の金属膜を備えていない場合」、「蛍光発光素子が備える金属膜が複数の放熱フィンを有していない場合」及び「蛍光発光素子が備える複数の金属膜が有している複数の放熱フィンが外側の金属膜に設けられている場合」である。
【0093】
<第1例>
まず、所定のパラメータが複数の金属膜の厚みである場合について説明する。より具体的には、複数の金属膜の厚みとは、z軸方向の、本体部211、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24のそれぞれの厚みを意味する。
【0094】
また、ここでは、波長変換部材10の厚みが、100μm、200μm及び550μmの3条件について熱シミュレーションが行われている。
【0095】
図6は、本実施の形態に係る波長変換部材10の温度と複数の金属膜の厚みとの関係を示す図である。より具体的には、
図6には、波長変換部材10が有する領域A1に励起光L1が照射されているときの温度(以下、波長変換部材10の温度)と、及び、複数の金属膜の厚みの関係を示すグラフが示されている。なお、
図6が示すグラフにおいては、縦軸が波長変換部材10の温度であり、横軸が複数の金属膜の厚みである。このグラフの左端、つまりは複数の金属膜の厚みが0μmである場合とは、蛍光発光素子1が複数の金属膜を備えていない場合を示している。また、波長変換部材10の厚みが100μmの例が四角で、波長変換部材10の厚みが200μmの例が三角で、波長変換部材10の厚みが550μmの例が丸で、示されている。
【0096】
また、
図6が示すグラフの縦軸は、100%を「蛍光発光素子1が複数の金属膜を備えていない、かつ、波長変換部材10の厚みが100μmである」場合の温度(℃)とし、0%を0℃として、規格化されている。
【0097】
波長変換部材10の厚みがいずれの例においても、複数の金属膜の厚みが0μmから100μmまで増加すると、波長変換部材10の温度が急激に低下する。同様に、複数の金属膜の厚みが100μmから1000μmまで増加すると、波長変換部材10の温度がわずかに低下する。
【0098】
つまりは、複数の金属膜の厚みが厚いほど、蛍光発光素子1の放熱性を高められることが示されている。一例として、蛍光発光素子1が十分な放熱性を有するためには、複数の金属膜の厚みが100μm以上であればよいことが示されている。一方で、複数の金属膜の厚みが厚いほど蛍光発光素子1の重量が増加する。このため、上記の回転部100などにより蛍光発光素子1が回転されるときに、より多くのエネルギーが必要になってしまう問題が起きる。よって、複数の金属膜の厚みは、上記の通り、10μm以上1200μm以下であればよく、30μm以上500μm以下であればよりよく、50μm以上200μm以下であればさらによい。
【0099】
また、
図6が示すグラフでは、波長変換部材10の厚みが厚いほど、波長変換部材10の温度が低下しており、蛍光発光素子1の放熱性を高められることが示されている。しかし、波長変換部材10の厚みが厚いほど蛍光発光素子1の重量が増加する。このため、複数の金属膜の厚みが厚いときと同様に、回転部100などにより蛍光発光素子1が回転されるときに、より多くのエネルギーが必要になってしまう問題が起きる。さらに、波長変換部材10の厚みが厚いほど、波長変換部材10において励起光L1が散乱されやすくなる。この結果、下面視したときの波長変換部材10における透過光L2の発光スポット径が大きくなってしまう。この結果、例えばプロジェクタ500において、透過光L2の光路上に配置されるレンズ(第1光学素子301、第2光学素子302及び第3光学素子303)などの光学素子が巨大化し、これに従って、プロジェクタ500が巨大化するなどの問題が発生する。よって、波長変換部材10の厚みは、上記の通り、50μm以上700μm以下であるとよく、80μm以上500μm以下であるとよりよく、100μm以上300μm以下であるとさらによい。
【0100】
<第2例>
次に、所定のパラメータが複数の放熱フィン212が設けられる位置である場合について説明する。より具体的には、複数の放熱フィン212が、内側の金属膜、又は、外側の金属膜に設けられた場合について説明する。なお、第2例では、複数の金属膜の厚み(z軸方向の、本体部211、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24のそれぞれの厚み)は100μmであり、波長変換部材10の厚みは200μmである。複数の金属膜の厚みと、波長変換部材10の厚みとは、以下の第3例及び第4例においても同様である。
【0101】
図7は、本実施の形態に係る波長変換部材10の温度と複数の放熱フィン212が設けられる位置との関係を示す図である。
【0102】
なお、
図7が示すグラフにおいては、「放熱フィンなし」、「放熱フィンあり 位置:内側」及び「放熱フィンあり 位置:外側」のいずれの場合でも、本体部211、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24が設けられている。さらに、「放熱フィンなし」は複数の放熱フィン212が設けられていない場合が示されている。また、「放熱フィンあり 位置:内側」は複数の放熱フィン212が内側の金属膜に設けられた場合、「放熱フィンあり 位置:外側」は複数の放熱フィン212が外側の金属膜に設けられた場合が示されている。
【0103】
また、
図7が示すグラフの縦軸は、100%を「放熱フィンなし」の場合の温度(℃)とし、0%を0℃として、規格化されている。
【0104】
図7では、「放熱フィンあり 位置:外側」においては、「放熱フィンなし」と同等程度の波長変換部材10の温度が示されている。一方、「放熱フィンあり 位置:内側」においては、「放熱フィンなし」に比べ、波長変換部材10の温度が低下することが示されている。
【0105】
複数の放熱フィン212が設けられていることで、上記の回転部100などにより蛍光発光素子1が回転されるときに、気流が発生する。このとき、波長変換部材10の中心点C1から円形状を有する波長変換部材10の円周に向かって当該気流が発生する。
【0106】
上記説明したように、本実施の形態においては、複数の放熱フィン212は、内側の金属膜の1個である第1金属膜21に設けられている。この場合には、当該気流は、励起光L1が照射される領域A1に向かった後、波長変換部材10の円周に向かう。よって、励起光L1の照射により領域A1に発生した熱が当該気流によって冷却されるため、波長変換部材10の温度の上昇が抑制される。つまり、複数の放熱フィン212が内側の金属膜に設けられることで、蛍光発光素子1の放熱性をより高めることができる。
【0107】
さらに、平面視で、複数の放熱フィン212は、放射状に延びるように設けられている。このため、回転部100などにより蛍光発光素子1が回転されるときに、より流速の高い気流が発生する。これにより、励起光L1の照射により発生した熱がより冷却されやすくなるため、波長変換部材10の温度の上昇がより抑制される。つまり、複数の放熱フィン212が放射状に設けられることで、蛍光発光素子1の放熱性をより高めることができる。
【0108】
一方で、複数の放熱フィン212が外側の金属膜(例えば、第2金属膜22など)に設けられた場合では、当該気流は領域A1には、向かわない。よって、この場合においては、当該気流による冷却の効果は得られにくい。
【0109】
<第3例>
続いて、所定のパラメータが複数の放熱フィン212の厚みDである場合について説明する。
【0110】
図8は、本実施の形態に係る波長変換部材10の温度と複数の放熱フィン212の厚みDとの関係を示す図である。第3例においては、4個の条件の下で、波長変換部材10の温度が計算されている。簡単のため、
図8での「第1条件 放熱フィンあり 厚み:200μm 個数:36個」を「第1条件」と省略して記載する。同様に、「第2条件 放熱フィンあり 厚み:600μm 個数:12個」を「第2条件」、「第3条件 放熱フィンあり 厚み:900μm 個数:8個」を「第3条件」と省略して記載する。
【0111】
図8が示すグラフにおいては、「放熱フィンなし」、「第1条件」、「第2条件」及び「第3条件」のいずれの場合でも、本体部211、第2金属膜22、第3金属膜23及び第4金属膜24が設けられている。
【0112】
「放熱フィンなし」は、複数の放熱フィン212が設けられていない場合が示されている。さらに、「第1条件」、「第2条件」及び「第3条件」の3条件のそれぞれにおいては、以下の条件で設計されている。この3条件のそれぞれにおいては、複数の放熱フィン212の全ての表面積(複数の放熱フィン212が大気と接する全ての面の総面積)が等しくなるように、複数の放熱フィン212の形状が設計されている。具体的には、「第1条件」での複数の放熱フィン212の全ての表面積と、「第2条件」での複数の放熱フィン212の全ての表面積と、「第3条件」での複数の放熱フィン212の全ての表面積とは、等しい。
【0113】
ここでは、「第1条件」では、複数の放熱フィン212の厚みDは200μm、複数の放熱フィン212の数は36個である。また、「第2条件」では、複数の放熱フィン212の厚みDは600μm、複数の放熱フィン212の数は12個である。また、「第3条件」では、複数の放熱フィン212の厚みDは900μm、複数の放熱フィン212の数は8個である。
【0114】
また、
図8が示すグラフの縦軸は、100%を「放熱フィンなし」の場合の温度(℃)とし、0%を0℃として、規格化されている。
【0115】
図8では、「放熱フィンなし」、「第1条件」、「第2条件」、「第3条件」の順に、波長変換部材10の温度が低下することが示されている。複数の放熱フィン212の厚みDが厚いほど、回転部100などにより蛍光発光素子1が回転されるときに、より流速の高い気流が発生する。このため、複数の放熱フィン212の厚みDが厚いほど、波長変換部材10の温度の上昇がより抑制される。
【0116】
さらに、波長変換部材10の厚み方向(z軸方向)において、複数の放熱フィン212の厚みDは、波長変換部材10の厚みよりも大きいとよい。例えば、複数の放熱フィン212の厚みDは、100μm以上1500μm以下であるとよく、200μm以上1000μm以下であるとよりよく、400μm以上800μm以下であるとさらによい。
図8が示すように、「第1条件」から「第2条件」へ条件が変更されたときに、波長変換部材10の温度の低下が大きい。「第1条件」から「第2条件」へ条件が変更されたときとは、複数の放熱フィン212の厚みDが200μmから600μmへ変更されたときである。つまりは、本実施の形態に係る波長変換部材10の厚みは200μmであり、複数の放熱フィン212の厚みDが、波長変換部材10の厚みよりも大きくなると、波長変換部材10の温度の上昇がより抑制される。つまりは、蛍光発光素子1の放熱性をより高めることができる。
【0117】
<第4例>
最後に、所定のパラメータが複数の放熱フィン212の個数である場合について説明する。
【0118】
図9は、本実施の形態に係る波長変換部材10の温度と複数の放熱フィン212の個数との関係を示す図である。上述の通り、本実施の形態においては、複数の放熱フィン212の数は8であり、8個の放熱フィン212が設けられている。
【0119】
ここでは、複数の放熱フィン212は、内側の金属膜(例えば、第1金属膜21)に設けられている。なお、第3例とは異なり、複数の放熱フィン212の個数に関わらず、複数の放熱フィン212の全ての厚みは一定である。
【0120】
図9が示すグラフにおいては、縦軸が波長変換部材10の温度であり、横軸が複数の放熱フィン212の数である。このグラフの左端、つまりは複数の放熱フィン212の数が0である場合とは、複数の放熱フィン212が設けられていない場合を示している。
【0121】
また、
図9が示すグラフの縦軸は、100%を「複数の放熱フィン212が設けられていない」の場合の温度(℃)とし、0%を0℃として、規格化されている。
【0122】
図9では、複数の放熱フィン212の数が0個から8個に増えると、波長変換部材10の温度が低下する。つまりは、複数の放熱フィン212が設けられることで、回転部100などにより蛍光発光素子1が回転されるときに、気流が発生するため、波長変換部材10の温度の上昇が抑制される。つまりは、蛍光発光素子1の放熱性をより高めることができる。
【0123】
また、複数の放熱フィン212の数が0個から8個に増えると、波長変換部材10の温度が急激に低下する。しかし、複数の放熱フィン212の数が8個から48個の範囲においては、波長変換部材10温度は同等程度である。つまりは、本実施の形態が示すように、8個の放熱フィン212が設けられることで、蛍光発光素子1の放熱性を十分に高めることができる。
【0124】
[製造方法]
ここで、蛍光発光素子1の製造方法について簡単に説明する。
【0125】
まず、波長変換部材10が製造される。
【0126】
波長変換部材10が有する蛍光体材料は、(Y0.999Ce0.001)3Al5O12で表される結晶相によって構成されている材料である。また、蛍光体材料は、いずれも、Ce3+賦活蛍光体で構成される。
【0127】
波長変換部材10を製造するために、化合物粉末として以下の3種類が原料として使用された。具体的には、Y2O3(純度3N、日本イットリウム株式会社)、Al2O3(純度3N、住友化学株式会社)及びCeO2(純度3N、日本イットリウム株式会社)が使用された。
【0128】
まず、化学量論的組成の化合物(Y0.999Ce0.001)3Al5O12となるように、上記原料が秤量された。次に、秤量された原料とアルミナ製ボール(直径10mm)とが、プラスチック製ポットに投入された。アルミナ製ボールの量は、プラスチック製ポットの容積の1/3程度を充填する程度の量であった。その後、純水がプラスチック製ポットに投入され、ポット回転装置(日東化学株式会社製、BALL MILL ANZ-51S)を利用して、原料と純水とが混合された。この混合は、12時間実施された。このようにして、スラリー状の混合原料を得た。
【0129】
スラリー状の混合原料が、乾燥機を用いて乾燥された。具体的には、金属製バットの内壁を覆うようにナフロンシートが敷かれ、ナフロンシートの上方に混合原料が流し込まれた。金属製バットとナフロンシートと混合原料とは、150℃に設定した乾燥機で8時間処理され、乾燥された。その後、乾燥後の混合原料が回収され、スプレードライヤ装置を利用して混合原料が造粒された。なお、造粒時には、粘着剤(バインダ)として、アクリル系バインダーが使用された。
【0130】
造粒された混合原料は、電動油圧プレス機(理研精機株式会社製、EMP-5)と円柱形状の金型とを利用して、円柱形状に仮成型された。成型時の圧力は、5MPaとした。次に、冷間等方圧加圧装置を利用して、仮成型後の成型体が本成型された。本成型時の圧力は、300MPaとした。なお、本成型後の成型体は、造粒時に使用された粘着剤(バインダ)を除去する目的で、加熱処理(脱バインダー処理)が行われた。加熱処理の温度は、500℃とした。また、加熱処理の時間は、10時間とした。
【0131】
加熱処理後の成型体は、管状雰囲気炉を用いて、焼成された。焼成温度は、1675℃とした。また、焼成時間は、4時間とした。焼成雰囲気は、窒素と水素との混合ガス雰囲気とした。
【0132】
焼成後の円柱形状の焼成物は、マルチワイヤーソーを用いて、スライスされた。スライスされた円柱形状の焼成物の厚みは、約700μmとした。
【0133】
研磨装置を用いて、スライス後の焼成物が研磨され、焼成物の厚みの調整が行われた。この調整が行われることで、焼成物が波長変換部材10となる。波長変換部材10の厚みが200μmとなるように、厚みの調整が行われた。
【0134】
続いて、波長変換部材10に、複数のニッケル膜及び複数の金属膜が形成される。
【0135】
ここでは、波長変換部材10に複数のニッケル膜が形成された後、さらに、複数のニッケル膜と接するように複数の金属膜が形成される。複数のニッケル膜及び複数の金属膜はドライプロセス又はウエットプロセスにより形成されるが、一例として、電界メッキを用いて形成された。
【0136】
(その他の実施の形態)
以上、本発明に係る蛍光発光素子1等について、各実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態に施したものや、各実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0137】
蛍光発光素子1は、波長変換部材10と、複数の金属膜と、複数のニッケル膜とを備えたが、これに限られない。
【0138】
例えば、蛍光発光素子1は、波長変換部材10と、1個の金属膜(例えば、第3金属膜23)とを備えていればよい。この場合においても、蛍光発光素子1の放熱性を高めることができる。よって、励起光L1の照射による波長変換部材10の温度の上昇を抑制できる。これにより、温度消光現象が起きにくいため、蛍光の減少が抑制される。つまりは、光の利用効率が高い蛍光発光素子1を実現できる。
【0139】
なお、上記の通り、本実施の形態に係る蛍光発光素子1は、波長変換部材10を支持するための構成要素(例えば特許文献1で示す透明の蛍光体用基板)などを備えていない。特許文献1では、励起光は、大気から蛍光体用基板へ入射することが開示されている。さらに、蛍光体用基板へ入射した励起光は、蛍光体用基板を透過して蛍光発生部へ入射し、蛍光発生部で蛍光が発生する。よって、この蛍光体用基板の屈折率と大気の屈折率との差により、大気から蛍光体用基板に入射する励起光の一部が大気側に向けて反射されてしまう。つまり、蛍光体用基板と大気との界面で、励起光の光ロスが発生する。
【0140】
しかし、本実施の形態においては、上述の通り、本実施の形態に係る蛍光発光素子1は、波長変換部材10を支持するための構成要素を備えていない。そのため、上記のような、励起光L1の光ロスがないため、波長変換部材10に入射する励起光L1が増加する。この結果、波長変換部材10における蛍光体材料で発生する蛍光が増加する。つまりは、蛍光発光素子1の光の利用効率をより高めることができる。
【0141】
また、上記とは異なり、蛍光発光素子1は、波長変換部材10を支持するための基板を備えていてもよい。基板は、高い透光性を有しているとよい。基板は、例えばソーダ石灰ガラス、低アルカリ硼珪酸ガラス及び無アルカリアルミノ硼珪酸ガラスなどのガラス板を使用することができる。また、ポリカーボネート、アクリル系樹脂及びポリエチレンテレフタレートなどの樹脂板も使用することができる。さらに、基板は、ガラス板及び樹脂板のような硬質な材料に加え、フィルムのような柔軟性のある材料を利用することもできる。高い透光性を有している基板が設けられた場合には、蛍光発光素子1は、光透過型の蛍光体ホイールとして利用されることができる。
【0142】
また、上記実施の形態では、内側の金属膜である第1金属膜21のみが複数の放熱フィン212を有したが、これに限られない。つまり、内側の金属膜である第1金属膜21が複数の放熱フィン212を有し、かつ、外側の金属膜である第2金属膜22が複数の放熱フィンを有してもよい。
【0143】
例えば、第2金属膜22が有する複数の放熱フィンの数は、複数の放熱フィン212と同じであってもよく、異なっていてもよい。第2金属膜22が有する複数の放熱フィンは、波長変換部材10の中心点C1を中心に放射状に延びるように配置されているとよい。
【0144】
このように、内側及び外側の金属膜のそれぞれが複数の放熱フィンを有してもよい。これにより、第1金属膜21及び第2金属膜22の表面積が増加する。表面積が増加することで、第1金属膜21及び第2金属膜22から熱がより放たれやすくなり、つまりは、蛍光発光素子1の放熱性をより高めることができる。
【0145】
なお、励起効率及び光取り出し効率を上げるために、蛍光発光素子1は、波長変換部材10の第1主面11側に、励起光L1を透過し蛍光を反射するダイクロイック膜を備えていてもよい。ダイクロイック膜としては、Ta2O3/SiO2多層膜がよいが、TiO2/SiO2多層膜でもよく、また、これらに限られない。また、蛍光発光素子1は、波長変換部材10の第2主面12側にAR(Anti-Reflect)膜を備えていてもよい。
【0146】
また、上記の実施の形態は、特許請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0147】
1 蛍光発光素子
10 波長変換部材
11 第1主面
12 第2主面
21a、22a、23a、24a 接合面
21b、22b、23b、24b 露出面
A1 領域
L1 励起光
200 光出射部
212 放熱フィン
300 蛍光発光モジュール