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  • 特許-燃料電池用ガス拡散層 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20241115BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20241115BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20241115BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20241115BHJP
   D03D 15/275 20210101ALI20241115BHJP
   D03D 15/41 20210101ALI20241115BHJP
   D03D 15/513 20210101ALI20241115BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241115BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/96 B
H01M4/96 M
B32B5/24 101
D03D1/00 Z
D03D15/275
D03D15/41
D03D15/513
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021018899
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022121912
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(73)【特許権者】
【識別番号】322000041
【氏名又は名称】ENETEK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(72)【発明者】
【氏名】吉野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 久司
(72)【発明者】
【氏名】高木 順
(72)【発明者】
【氏名】犬山 久夫
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-261421(JP,A)
【文献】特開2018-026347(JP,A)
【文献】特開2010-192425(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030553(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/96
H01M 8/10
B32B 5/24
D03D 1/00
D03D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸および緯糸から形成されている炭素繊維製織物と、導電性粒子としてカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを含有するマイクロポーラス層と、を有して、前記炭素繊維製織物および前記マイクロポーラス層が積層されている燃料電池用ガス拡散層であって、前記マイクロポーラス層の表面から視認できる前記カーボンナノチューブの割合が全表面積に対して7.0%~13.5%の範囲であることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
前記炭素繊維製織物の経糸または緯糸の少なくとも一方が無撚りであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記炭素繊維製織物と前記マイクロポーラス層の合計の目付が、30g/m以上70g/m以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両,船舶,航空機等で使用される燃料電池用途の炭素繊維製ガス拡散層(GDL)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の関心の高さから新たなエネルギー源として、家庭用や車両用として燃料電池が注目されており、その構成は、高分子膜の両面に電極が接合された膜・触媒接合体と燃料ガス、酸化剤ガスを電極反応域に導くガス拡散層とガス導入・排出溝を持つセパレータやシール材等からなる単位ユニットが繰り返し積層されている。
【0003】
中でも、ガス拡散層は一般的に1mm以下の炭素繊維製の薄いシート状に形成された部材(カーボンペーパ等)で、外部からの水素を含む燃料ガス或いは酸素を含む酸化剤ガスの2つの反応ガスを電極触媒層に円滑に供給できる機能を有する。ガス拡散層の表面には、マイクロポーラス層(多孔質平滑層:MPL層)が形成されており、膜・触媒接合体と直接接触することにより内部で発生する水蒸気を外部へ排出する役目を担っている。
【0004】
また、マイクロポーラス層は内部で発生した水蒸気が層内を通過するとともに、通電性能を具備させるために、カーボンブラック等の導電性粒子と撥水性のある合成樹脂から構成されている。特に、層内における水蒸気を効率的に通過させるように、目付を小さくして厚みを小さくする(厚さ50μm程度)ように設計されている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-199988号公報
【文献】再公表特許WO2015/125748
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガス拡散層の基材が炭素繊維製織物である場合、カーボンペーパに比べて起伏の大きい表面が形成されている。そのため、炭素繊維製織物である基材上にマイクロポーラス層を形成させると、起伏の激しい表面の凹部に嵌まり込み、マイクロポーラス層の一部が陥没するという問題があった。
【0007】
ここで、マイクロポーラス層にカーボンブラック100%を含有した燃料電池用ガス拡散層の顕微鏡写真を図3に示す。炭素繊維製織物上にマイクロポーラス層を形成すると、図3に示すようにマイクロポーラス層には陥没した部分や大きく開口した部分が発生する。同時に、炭素繊維製織物の一部が浮き出ていることも確認できた。
【0008】
なお、図3の拡大写真中央部において任意の2点間における高低差を専用の解析装置(キーエンス社製:VHX700)により測定した結果、その高低差は約35μm(最高点:114.46μm、最低点:79.62μm)となり、電解質膜との接触面積が不十分となる課題が残った。
【0009】
一方、マイクロポーラス層を厚く形成することで、前述の凹部にマイクロポーラス層が陥没することを防止できるが、電気抵抗が増加し、燃料電池内で発生する水蒸気の排出特性も著しく低下し、燃料電池としての発電性能が低下するという別の問題が発生した。
【0010】
そこで、本発明においては炭素繊維製織物を基材とする場合に、マイクロポーラス層の厚みを薄くしても発電特性が維持できる燃料電池用ガス拡散層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するために、本発明の燃料電池用ガス拡散層を経糸および緯糸から形成される炭素繊維製織物および導電性粒子としてカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを含有するマイクロポーラス層を積層して、かつマイクロポーラス層の表面から視認できるカーボンナノチューブの割合を全表面積に対して7.0%~13.5%の範囲とした。炭素繊維製織物については、織物を構成している経糸または緯糸の少なくとも一方が無撚りとすることもできる。また、炭素繊維製織物とマイクロポーラス層の合計の目付が、30g/m以上70g/m以下の範囲としても構わない。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、燃料電池用ガス拡散層の基材として炭素繊維製織物を使用する場合、当該織物上のマイクロポーラス層に所定の割合でカーボンナノチューブを含有させることで炭素繊維製織物の表面に、目付が20g/m以下であり、比較的に薄い(厚さ30μm程度)マイクロポーラス層を平滑な状態で形成できる。つまり、炭素繊維製の基材にマイクロポーラス層を設けても、燃料電池用ガス拡散層は厚くならず、燃料電池部品のガス拡散層として電気抵抗を低くして、要求される発電特性も阻害されない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】燃料電池用ガス拡散層の顕微鏡写真である。
図2】本発明の燃料電池用ガス拡散層の顕微鏡写真である。
図3】従来の燃料電池用ガス拡散層の顕微鏡写真である。
図4】実施例1で用いた試験体の画像解析例(カーボンナノチューブの重量比率20%:画像面積率10.5%)である。
図5】実施例1で用いた試験体の画像解析例(カーボンナノチューブの重量比率40%:画像面積率13.5%)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態の一例について図面を用いて説明する。本発明の一実施形態である燃料電池用ガス拡散層の顕微鏡(倍率:5000倍)による断面写真を図1に示す。本発明の燃料電池用ガス拡散層は、図1の断面写真に示すようにマイクロポーラス層(図1の上層部分)および炭素繊維製織物(図1の下層部分)の計二層から形成されている。該マイクロポーラス層は所定の厚みを有する層状の物質であり、炭素繊維製織物は経糸と緯糸から構成されている。
【0015】
なお、マイクロポーラス層の厚みは10~40μm、好ましくは13~30μmとする。また、炭素繊維製織物とマイクロポーラス層の合計の目付としては30~70g/m、好ましくは30~57g/mとする。
【0016】
次に、本発明の燃料電池用ガス拡散層を形成するマイクロポーラス層について説明する。該マイクロポーラス層には導電性粒子としてカーボンナノチューブ(重量比率:40%)およびカーボンブラック(重量比率:60%)が含有されている燃料電池用ガス拡散層の拡大写真を図2に示す。なお、図2はマイクロポーラス層の表面側から撮影した写真である。
【0017】
マイクロポーラス層にカーボンナノチューブ40%、カーボンブラック60%(表面積中の13.5%)をそれぞれ含有した燃料電池用ガス拡散層は、図2に示すようにマイクロポーラス層のみが一面に形成されており、マイクロポーラス層の下層部にある炭素繊維製織物は写っていない。また、図2の拡大写真中央部において任意の2点間における高低差を測定した結果、その高低差は約4μm(最高点:1563.80μm、最低点:1559.36μm)であり、ほぼ平滑な状態と言える。
【0018】
前述した課題を解決するために、本発明の燃料電池用ガス拡散層を経糸および緯糸から形成される炭素繊維製織物および導電性物質としてカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを含有するマイクロポーラス層を積層する。
【0019】
カーボンナノチューブやカーボンブラック等の導電性物質を含有するマイクロポーラス層の形成方法について説明する。まず、カーボンナノチューブなど導電性物質、少量の分散剤や増粘剤、水溶性のフッ素系ポリマー(PTFE、FEP,PFA等)からなるインク(マイクロポーラス層用インク)を調合する。このマイクロポーラス層用インクを転写法やスクリーン印刷法で炭素繊維製織物に積層した後、焼成することで結着させる。
【0020】
ここで、マイクロポーラス層の表面をより平滑にするためには、転写法による積層方法がより望ましい。具体的には、転写法の1つとしてドクターブレード法を用いる場合、薄膜であるマイクロポーラス層を樹脂フィルムに塗り、当該樹脂フィルムのマイクロポーラス層側を炭素繊維製織物に押し当てて、マイクロポーラス層を炭素繊維製織物に転写する。その後、マイクロポーラス層が炭素繊維製織物上に積層したことを確認し、乾燥後に樹脂フィルムのみを剥離させて、加熱固定する方法が望ましい。
【0021】
なお、加熱固定する温度は、マイクロポーラス層に含有されている水溶性のフッ素系ポリマーのキュア温度に依存する。例えば、当該ポリマーがPTFEの場合には、370℃の加熱温度で5分間程度固定することが望ましい。
【0022】
次に、マイクロポーラス層の表面から視認できるカーボンナノチューブの割合を拡大鏡で観察し、全表面積に対して7.0%~13.5%の範囲とした。ここで、マイクロポーラス層の表面から視認できるカーボンナノチューブの割合を算出する方法は、例えば、キーエンス社製の専用解析ソフト(VHX7000)により光沢のあるカーボンナノチューブ部分を抽出し、粒子サイズの面積を1.48μm以上であり、かつ円形度が0.6以下の条件をしきい値としてふるい分けを行い、対象画面における各粒子の総表面積が占める割合をパーセント(%)として表すことができる。ここで、「円形度」とは、4π×粒子面積/粒子の周長の二乗として算出する数値を指し、対象となる形状が真円に近いほどその数値は1に近づき、逆に形状が細長くなるほど、その数値は0に近づくことになる。
【実施例
【0023】
(実施例1)
燃料電池用ガス拡散層の一部を形成するマイクロポーラス層中の導電性物質の含有量を変化させて、発電面積が1cmである1Dセル(試験体)を製作して、その過加湿特性等を測定したので、その試験結果について説明する。1Dセル(試験体)の製作については、基材となる炭素繊維製織物(目付:25g/m)上にフッ素樹脂中に導電性物質を所定量含有したマイクロポーラス層を形成することで製作した。
【0024】
マイクロポーラス層中の導電性物質はカーボンナノチューブ(直径:150nm、長さ:6μm、アスペクト比:40)およびカーボンブラック(平均粒子径:0.5μm)を所定の比率で配合し、本実施例においては全導電物質(カーボンナノチューブおよびカーボンブラックの総和)中におけるカーボンナノチューブの割合(重量比率:%)として算出した値を表1に示す。ここで、使用したマイクロポーラス層の目付けは各水準ともに15g/m、厚みは30μm、最大表面粗さは12μmとした。
【0025】
また、マイクロポーラス層中のカーボンナノチューブの配合比率を変えた1Dセル(試験体)については、専用ソフトによる画像解析を行い、特定の領域においてカーボンナノチューブの表出が視認できる割合(画像面積率)も算出した。本実施例で使用した試験体表面のマイクロポーラス層の解析画像例を図4(カーボンナノチューブの重量比率20%:画像面積率10.5%)および図5(カーボンナノチューブの重量比率40%:画像面積率13.5%)に示す。なお、カーボンナノチューブの画像面積率は、円形度0.6以下、面積1.48μm以上の条件を閾値とした場合の専用ソフト(キーエンス社製)による解析結果とした。
【0026】
次に、本実施例では、1Dセルによる過加湿特性,加湿特性および発電特性の3項目について評価した。過加湿特性は1Dセルを45℃および55℃の雰囲気下において165%の過加湿空気(酸素含有率:1%)の発電時におけるガス拡散抵抗値を測定する試験である。加湿特性は、1Dセルを60℃および55℃の雰囲気下において80%の高加湿空気(酸素1%)における発電時のガス拡散抵抗値を測定する試験である。
【0027】
このとき前述の2つのガス拡散抵抗値Rgは、Rg=(4FP)/(RTI)として、後述する物理量から算出される。F:ファラデー常数、R:気体定数、P:セル出入り口の実測平均圧力、T:1Dセルの設定温度(絶対 温度)、I:0.2V時の実測出力電流値とする。
【0028】
最後に発電特性は、空気極、燃料極ともに1Dセルを55℃の加湿ガスを供給しながら、1Dセル部分を60℃の雰囲気下に置いた状態で0.2V発電時の電流値を測定する試験である。ここで、空気極の酸素濃度は21%の通常空気としている。以上の3項目の特性について評価項目ごとに試験結果を説明する。
【0029】
【表1】
【0030】
まず、過加湿特性の評価結果について説明する。マイクロポーラス層中のカーボンナノチューブの配合比率が0%(画像面積率:0.3%)および50%(画像面積率:14.2%)の試験体は、いずれも84s/m、82s/mであったが、同配合比率が10%(画像面積率:7.0%)~40%(画像面積率:13.5%)の試験体については、71~76s/mまで減少した。
【0031】
次に、加湿特性の評価結果について説明する。マイクロポーラス層中のカーボンナノチューブの配合比率が0%(画像面積率:0.3%)の試験体は81s/mであったが、同配合比率が10%(画像面積率:7.0%)~50%(画像面積率:14.2%)の試験体については、63~65s/mまで減少した。
【0032】
最後に、発電特性について説明する。マイクロポーラス層中のカーボンナノチューブの配合比率が0%(画像面積率:0.3%)の試験体は2.2A/cmであったが、同配合比率が10%(画像面積率:7.0%)~50%(画像面積率:14.2%)の試験体については、2.5~3.5A/cmまで増加した。
【0033】
以上の試験結果より、加湿特性および発電特性については、マイクロポーラス層中のカーボンナノチューブの配合比率が大きいほど、それらの特性は向上することがわかった。一方、過加湿特性については、マイクロポーラス層中のカーボンナノチューブの配合比率が0%および50%の試験結果よりも、同配合比率を10%(画像面積率:7.0%)~40%(画像面積率:13.5%)の範囲に調整することで特性が向上した。
【0034】
したがって、炭素繊維製織物および導電性粒子を含有するマイクロポーラス層から形成される燃料電池用ガス拡散層において、同マイクロポーラス層中の導電性物質としてカーボンナノチューブの配合比率を10~40%(マイクロポーラス層の表面から視認できるカーボンナノチューブの割合として全表面積の7.0%~13.5%)とすることで、凹凸の少ない表面を有するマイクロポーラス層が得られ、1Dセルによる過加湿特性,加湿特性および発電特性の3項目の特性において大きな改善が見られる結果となった。
【0035】
また、導電性物質として、カーボンブラックに対するカーボンナノチューブの割合を50%以下とすることが過加湿特性,加湿特性および発電特性の3項目の特性の点で最も望ましいことも判明した。
図1
図2
図3
図4
図5