(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】抗疲労剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/215 20060101AFI20241115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241115BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20241115BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20241115BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241115BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241115BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A61K31/215
A61P43/00 111
A61P1/14
A61P3/02
A61P25/22
A61P25/20
A61P29/00
A61P37/06
A61K31/045
(21)【出願番号】P 2020090212
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000121512
【氏名又は名称】塩野香料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山内 明
(72)【発明者】
【氏名】西村 泰光
(72)【発明者】
【氏名】野見山 謙太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真哉
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-256996(JP,A)
【文献】国際公開第2012/079057(WO,A1)
【文献】特開2007-169245(JP,A)
【文献】国際公開第2012/079058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロジャスモン酸メチルを含む、
睡眠不足による疲労抑制剤。
【請求項2】
疲労時の食欲増進により疲労抑制効果を有する、請求項1に記載の疲労抑制剤。
【請求項3】
d-ROMs増加抑制、BAP増加抑制、アドレナリン増加抑制、ノルアドレナリン増加抑制及びドーパミン増加抑制により疲労抑制効果を有する、請求項1に記載の疲労抑制剤。
【請求項4】
血清中のIL-1β増加抑制、血清中のIL-2低下抑制、血清中のIL-10増加抑制、血清中のIL-5低下抑制及び血清中のIL-17A低下抑制により疲労抑制効果を有する、請求項1の疲労抑制剤。
【請求項5】
d-ROMs増加抑制、BAP増加抑制、アドレナリン増加抑制、ノルアドレナリン増加抑制、ドーパミン増加抑制、血清中のIL-1β増加抑制、血清中のIL-2低下抑制、血清中のIL-10増加抑制、血清中のIL-5低下抑制及び血清中のIL-17A低下抑制により疲労抑制効果を有する、請求項1の疲労抑制剤。
【請求項6】
疲労による免疫機能低下を改善させる効果を有する、請求項5に記載の疲労抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロジャスモン酸メチル及び/又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(リナロール)
リナロール(IUPAC名:3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール)は、モノテルペンアルコールの一種であり、香料として利用されている(特許文献1)。また、リナロールは、抗酸化効果、抗炎症効果があることが知られている。
【0003】
(ジヒドロジャスモン酸メチル)
ジヒドロジャスモン酸メチルは、種子発芽、根の伸長、開花、果実の熟成、老化といった種々の発生経路において用いられる揮発性有機化合物である。また、香料、トイレタリー用品配合原料として知られている(特許文献2)。
【0004】
(先行文献)
ジヒドロジャスモン酸メチル及び3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールは香料等の用途として知られているが、本発明に関する用途は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-012022号公報
【文献】特開2018-203628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から香料として知られているジヒドロジャスモン酸メチル及び3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの新規用途を見出し、本発明に関する香料(ジヒドロジャスモン酸メチル及び3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール)を含む新規剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ジヒドロジャスモン酸メチル又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを疲労モデルラットに曝露して、該ラットでの各マーカーを測定することにより、本発明に関する香料の新規用途を見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下を含む。
1.ジヒドロジャスモン酸メチルを含む、以下の1)~20)のいずれか1の剤。
1)のどの渇き抑制剤若しくは飲水量抑制剤
2)BAP増加抑制剤又はBAP抑制剤
3)CD14発現調節剤及びCD14発現抑制剤
4)CD16発現調節剤及びCD16発現抑制剤
5)食欲増進剤若しくは体重減少抑制剤
6)d-ROMs増加抑制剤又はd-ROMs抑制剤
7)アドレナリン増加抑制剤又はアドレナリン抑制剤
8)ノルアドレナリン増加抑制剤又はノルアドレナリン抑制剤
9)ドーパミン増加抑制剤又はドーパミン抑制剤
10)IL-1β増加抑制剤又はIL-1β抑制剤
11)IL-2低下抑制剤又はIL-2促進剤
12)IL-10増加抑制剤又はIL-10抑制剤
13)IL-5低下抑制剤又はIL-5促進剤
14)IL-17A低下抑制剤又はIL-17A促進剤
15)IL-6発現促進剤又はIL-6発現剤
16)TNFα増加抑制剤又はTNFα抑制剤
17)疲労抑制剤
18)ストレス抑制剤
19)炎症抑制剤
20)免疫抑制剤
2.3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む、以下の1)~20)のいずれか1の剤。
1)のどの渇き抑制剤若しく飲水量抑制剤
2)BAP増加抑制剤又はBAP抑制剤
3)CD14発現調節剤及びCD14発現抑制剤
4)CD16発現調節剤及びCD16発現抑制剤
5)食欲増進剤若しくは体重減少抑制剤
6)d-ROMs増加抑制剤又はd-ROMs抑制剤
7)アドレナリン増加抑制剤又はアドレナリン抑制剤
8)ノルアドレナリン増加抑制剤又はノルアドレナリン抑制剤
9)ドーパミン増加抑制剤又はドーパミン抑制剤
10)IL-1β増加抑制剤又はIL-1β抑制剤
11)IL-2低下抑制剤又はIL-2促進剤
12)IL-10増加抑制剤又はIL-10抑制剤
13)IL-5低下抑制剤又はIL-5促進剤
14)IL-17A低下抑制剤又はIL-17A促進剤
15)IL-6発現促進剤又はIL-6発現剤
16)TNFα増加抑制剤又はTNFα抑制剤
17)疲労抑制剤
18)ストレス抑制剤
19)炎症抑制剤
20)免疫抑制剤
3.ジヒドロジャスモン酸メチル又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む、のどの渇き抑制剤若しくは飲水量抑制剤。
4.ジヒドロジャスモン酸メチル又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む、BAP増加抑制剤又はBAP抑制剤。
5.ジヒドロジャスモン酸メチル又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む、CD14発現調節剤及びCD14発現抑制剤。
6.ジヒドロジャスモン酸メチル又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む、CD16発現調節剤及びCD16発現抑制剤。
7.以下の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個のマーカーを測定する、疲労度の判定方法又は判定補助方法。
体重、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、d-ROMs、BAP、IL-1β、TNFα、CD14、CD16、IL-2、IL-5、IL-6、IL-10、IL-17A
8.以下の1、2、3、4、5、6、7又は8個のマーカーを測定する、疲労度の判定方法又は判定補助方法。
ドーパミン、IL-1β、TNFα、d-ROMs、BAP、IL-2、IL-5、IL-10
9.以下の1、2、3、4、5又は6個のマーカーを測定する、疲労度の判定方法又は判定補助方法。
ドーパミン、IL-1β、d-ROMs、BAP、IL-2、IL-5
10.以下の1、2、3、4又は5個のマーカーを測定する、炎症度の判定方法又は判定補助方法。
IL-1β、TNFα、IL-10、CD14、CD16
11.以下の1、2、3、4又は5個のマーカーを測定する、神経異常、内分泌異常、高酸化ストレス又は異常な免疫発生の判定方法又は判定補助方法。
IL-1β、TNFα、IL-10、CD14、CD16
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ジヒドロジャスモン酸メチル又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む新規剤を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】体重測定結果。縦軸は、各群における体重(g)の平均値を示す。
【
図4】血清d-ROMsテストの結果。縦軸は、各群における血清d-ROMs(U.CARR)の平均値を示す。
【
図5】BAPテストの結果。縦軸は、各群における血清BAP濃度の平均値を示す。
【
図6】カテコラミン測定の血漿アドレナリンの結果。縦軸は、各群における血漿アドレナリン濃度の平均値を示す。
【
図7】カテコラミン測定の血漿ノルアドレナリンの結果。縦軸は、各群における血漿ノルアドレナリン濃度の平均値を示す。
【
図8】カテコラミン測定の血漿ドーパミンの結果。縦軸は、各群における血漿ドーパミン濃度の平均値を示す。
【
図9】左図:d-ROMs及びBAPの主成分分析の結果。右図:d-ROMs及びBAPの主成分の抽出結果。noは負荷なし、FTは負荷ありを示す。
【
図10】疲労5指標のPearson相関解析の結果。
【
図11】左図:ドーパミン、d-ROMs及びBAPの主成分分析の結果。右図:ドーパミン、d-ROMs及びBAPの主成分の抽出結果。PC1は第1主成分を示す。FTGは負荷ありを示す。
【
図12】血清中サイトカイン(IL-1β、IL-2、IL-10、IL-5及びIL-17A)濃度の測定結果。FTGは負荷ありを示す。
【
図13】血清中サイトカイン濃度の相関性の解析結果。上段左図及び下段図:血清中サイトカイン濃度の相関性プロット。数値の単位は
図12と同様である。上段右図:相関解析結果を示す。
【
図14】左上図:血清中サイトカイン(IL-1β、IL-2、IL-10、IL-5及びIL-17A)の主成分分析の結果。左下図:因子負荷量プロットを示す。横軸はPC1の因子負荷量、縦軸はPC2の因子負荷量を示す。右上図:血清中サイトカインの主成分PC1のスコア。右下図:血清中サイトカインの主成分PC2のスコア。PC1は第1主成分、PC2は第2主成分を示す。FTGは負荷ありを示す。
【
図15】白血球mRNA発現のIL-1βの測定結果。縦軸は、各群における負荷無し・香料曝露なしのサンプル番号1(サンプルは各条件で3個ずつ取得)の発現を1とする相対的発現の平均値を示す。
【
図16】白血球mRNA発現のIL-6の測定結果。縦軸は、各群における負荷無し・香料曝露なしのサンプル番号1(サンプルは各条件で3個ずつ取得)の発現を1とする相対的発現の平均値を示す。
【
図17】白血球mRNA発現のTNFαの測定結果。縦軸は、各群における負荷無し・香料曝露なしのサンプル番号1(サンプルは各条件で3個ずつ取得)の発現を1とする相対的発現の平均値を示す。
【
図18】白血球mRNA発現のCD14の測定結果。縦軸は、各群における負荷無し・香料曝露なしのサンプル番号1(サンプルは各条件で3個ずつ取得)の発現を1とする相対的発現の平均値を示す。
【
図19】白血球mRNA発現のCD16の測定結果。縦軸は、各群における負荷無し・香料曝露なしのサンプル番号1(サンプルは各条件で3個ずつ取得)の発現を1とする相対的発現の平均値を示す。
【
図20】左上図:疲労3因子(ドーパミン、d-ROMs、BAP)と血清中サイトカイン5因子(IL-1β、IL-10、IL-2、IL-5、IL-17A)に香料曝露で低下傾向の見られた白血球中 IL-1βmRNA及びTNFαmRNAの2因子を加えた10因子による総合的な主成分分析の結果。左下図:因子負荷量プロットを示す。横軸はPC1の因子負荷量、縦軸はPC2の因子負荷量を示す。右上図:10因子の主成分PC1のスコア。右下図:血清中サイトカインの主成分PC2(左側)及びPC3(右側)のスコア。PC1は第1主成分、PC2は第2主成分、PC3は第3主成分を示す。FTGは負荷ありを示す。
【
図21】左上図:16因子による主成分分析の結果(左側)及び16因子の主成分PC1のスコア(右側)。左下図:クラスター解析の結果。対照は負荷なし、疲労は負荷ありを示す。右上図:8因子による主成分分析の結果。右下図:8因子の主成分PC1のスコア。
【
図22】飲水量測定結果。縦軸は、各群における飲水量の平均値を示す。
【
図23】白血球mRNA発現のIL-1βの測定結果。縦軸は、各群における負荷無し・香料曝露なしのサンプル番号0(サンプルは各条件で4-5個ずつ取得)の発現を1とする相対的発現の平均値を示す。
【
図24】左図:ドーパミン、IL-1β mRNA、TNFα mRNA、d-ROMs、BAP、IL-2、IL-5、IL-1β及びIL-10の9因子による総合的な主成分分析の結果。右図:9因子の主成分PC1のスコア。PC1は第1主成分、PC2は第2主成分、PC3は第3主成分を示す。FTGは負荷ありを示す。
【
図25】左図:ドーパミン、IL-1βmRNA、d-ROMs、BAP、IL-2及びIL-5の6因子による総合的な主成分分析の結果。右図:6因子の主成分PC1のスコア。PC1は第1主成分、PC2は第2主成分を示す。FTGは負荷ありを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の剤)
本発明の剤は、以下を対象とする。
ジヒドロジャスモン酸メチルを含む、以下の剤。特に、疲労時、ストレス時、炎症時、異常な免疫発生時、睡眠時に使用する剤に関する。
〇のどの渇き抑制剤若しくは飲水量抑制剤。
〇食欲増進剤若しくは体重減少抑制剤。
〇d-ROMs増加抑制剤又はd-ROMs抑制剤。
〇BAP増加抑制剤又はBAP抑制剤。
〇アドレナリン増加抑制剤又はアドレナリン抑制剤。
〇ノルアドレナリン増加抑制剤又はノルアドレナリン抑制剤。
〇ドーパミン増加抑制剤又はドーパミン抑制剤。
〇IL-1β増加抑制剤又はIL-1β抑制剤。
〇IL-2低下抑制剤又はIL-2促進剤。
〇IL-10増加抑制剤又はIL-10抑制剤。
〇IL-5低下抑制剤又はIL-5促進剤。
〇IL-17A低下抑制剤又はIL-17A促進剤。
〇IL-6発現促進剤又はIL-6発現剤。
〇TNFα増加抑制剤又はTNFα抑制剤。
〇CD14発現調節剤及びCD14発現抑制剤。
〇CD16発現調節剤及びCD16発現抑制剤。
〇疲労抑制剤。
〇ストレス抑制剤。
〇炎症抑制剤。
〇免疫抑制剤。
【0012】
3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む、以下の剤。特に、疲労時、ストレス時、炎症時、異常な免疫発生時、睡眠時に使用する剤に関する。
〇のどの渇き抑制剤若しくは飲水量抑制剤。
〇食欲増進剤若しくは体重減少抑制剤。
〇d-ROMs増加抑制剤又はd-ROMs抑制剤。
〇BAP増加抑制剤又はBAP抑制剤。
〇アドレナリン増加抑制剤又はアドレナリン抑制剤。
〇ノルアドレナリン増加抑制剤又はノルアドレナリン抑制剤。
〇ドーパミン増加抑制剤又はドーパミン抑制剤。
〇IL-1β増加抑制剤又はIL-1β抑制剤。
〇IL-2低下抑制剤又はIL-2促進剤。
〇IL-10増加抑制剤又はIL-10抑制剤。
〇IL-5低下抑制剤又はIL-5促進剤。
〇IL-17A低下抑制剤又はIL-17A促進剤。
〇IL-6発現促進剤又はIL-6発現剤。
〇TNFα増加抑制剤又はTNFα抑制剤。
〇CD14発現調節剤及びCD14発現抑制剤。
〇CD16発現調節剤及びCD16発現抑制剤。
〇疲労抑制剤。
〇ストレス抑制剤。
〇炎症抑制剤。
〇免疫抑制剤。
【0013】
(疲労度の判定方法)
本発明の疲労度の判定方法は、以下の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個のマーカーを測定する。
体重、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、d-ROMs、BAP、IL-1β、TNFα、CD14、CD16、IL-2、IL-5、IL-6、IL-10、IL-17A
本発明の疲労度の判定方法は、好ましくは、以下の1、2、3、4、5、6、7又は8個のマーカーを測定する。
ドーパミン、IL-1β、TNFα、d-ROMs、BAP、IL-2、IL-5、IL-10
本発明の疲労度の判定方法は、さらに好ましくは、以下の1、2、3、4、5又は6個のマーカーを測定する。
ドーパミン、IL-1β、d-ROMs、BAP、IL-2、IL-5
本発明の方法では、測定対象は限定されず、mRNA、cDNA、タンパク質等のいずれでも良い。
【0014】
(炎症度の判定方法)
本発明の炎症度の判定方法は、以下の1、2、3、4又は5個のマーカーを測定する。
IL-1β、TNFα、IL-10、CD14、CD16
【0015】
(神経異常、内分泌異常、高酸化ストレス及び異常な免疫発生の判定方法)
本発明の神経異常、内分泌異常、高酸化ストレス及び異常な免疫発生の判定方法は、以下の1、2、3、4又は5個のマーカーを測定する。
IL-1β、TNFα、IL-10、CD14、CD16
【0016】
(本発明の剤)
本発明の各剤は、有効成分として、香料として知られているジヒドロジャスモン酸メチル及び/又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール(LINALOOL)を含む。
ジヒドロジャスモン酸メチルは、日本ゼオン株式会社より商品名CLAIGEONTMとして販売されている。
3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールは、東京化成工業株式会社等より販売されている。
【0017】
(本発明の剤の形態)
本発明に関する香料は、単独で用いてもよいし、互いに組み合わせて用いてもよい。さらに、他の香料と組み合わせても良い。
他の香料としては、アルデヒド類、フェノール類、アルコール類、エーテル類、エステル類、炭化水素類、ケトン類、ラクトン類、ムスク類、テルペン骨格を有する香料、天然香料、天然精油、植物エキス、動物性香料等が挙げられる。また、例えば、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第III部香粧品香料、P26-103、平成13年6月15日発行」等に記載の香料が挙げられる。
その具体例としては、リモネン、α-ピネン、β-ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン、等の炭化水素類;シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス-3-ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、β-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルヘキサノール、2,2,6-トリメチルシクロヘキシル-3-ヘキサノール、1-(2-t-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、4-イソプロピルシクロヘキサンメタノール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、イソカンフィルシクロヘキサノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール等のアルコール類;オイゲノール、チモール、バニリン等のフェノール類;リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート、n-ヘキシルアセテート、シス-3-ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、3-ペンチルテトラヒドロピラン-4-イルアセテート、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2-シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn-ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート、メチル2-ノネノエート、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、メチルサリシレート、n-ヘキシルサリシレート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、ゲラニルチグレート、シス-3-ヘキセニルチグレート、メチルジャスモネート、メチル-2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチルベンゾエート、エチルメチルフェニルグリシデート、メチルアントラニレート、フルテート等のエステル類;n-オクタナール、n-デカナール、n-ドデカナール、2-メチルウンデカナール、10-ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-シクロヘキシルプロパナール、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-イソプロピル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-エチル-α,α-ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ピペロナール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等のアルデヒド類;メチルヘプテノン、4-メチレン-3,5,6,6-テトラメチル-2-ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3-メチル-2-(シス-2-ペンテン-1-イル)-2-シクロペンテン-1-オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ-メチルヨノン、α-ヨノン、カルボン、メントン、ショウ脳、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ-ナフチルケトン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、マルトール、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン等のケトン類;アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、シス-3-ヘキセナールジエチルアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールケタール類のアセタール類およびケタール類;アネトール、β-ナフチルメチルエーテル、β-ナフチルエチルエーテル、リモネンオキシド、ローズオキサイド、1,8-シネオール、ラセミ体または光学活性のドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン等のエーテル類;シトロネリルニトリル等のニトリル類;γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、σ-デカラクトン、γ-ジャスモラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11-オキサヘキサデカノリド等のラクトン類;オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナム等の天然精油や天然抽出物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
加えて、本発明に関する香料は、適当な溶媒(水、油脂、有機溶媒で希釈しても良い。有機溶剤としてはクエン酸トリエチル、ジプロピレングリコール、エタノール、イソプロパノール、ベンジルベンゾエート、イソプロピルミリステート、ジエチルフタレート、流動パラフィン、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられるが、これらに特に限定されない。)で希釈しても良い。
加えて、本発明の剤は、本発明に関する香料を含む液体組成物(特に、フレーバー)、本発明に関する香料を含む固体組成物(特に、パウダー)、本発明に関する香料を含む揮発組成物を例示することができる。
本発明に関する香料は、必要に応じて、各種の繊維(布、不織布)、天然高分子、多孔質物質、ゲル、樹脂、ワックス、セラミック、木材、粘土物質、ローション剤、乳剤、クリーム、軟膏、貼付剤等に担持させて用いてもよい。
【0018】
本発明の剤に対する香料の含有量は、使用する用途によって適宜変更可能である。特に、本発明に関する香料の含有量は、吸入により本発明の剤の効果を得ることができる量であることが好ましい。
全量に対しての配合量は、使用目的などを考慮して適宜決定すればよく、吸入または経皮、経口などで効果が充分得られる量であればよく、使用形態および選択される香料によって異なる。特に、本発明に関する香料の含有量は、吸入、経皮または経口により本発明の剤の効果を得ることができる量であることが好ましく、全量に対しての配合量は、0.001~50%、0.01~30%を例示することができる。
【0019】
本発明の剤は、飲食品に含まれていても良い。飲食品としては、茶、ジュース、ノンアルコールビール、ビール、発泡酒、ウィスキー、リキュールなどの飲料のほか、飯、粥、パン、ラーメン、パスタ、うどん、そうめん、ピザ、ナン、焼き菓子などの食品が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の剤は、化粧品に含まれていても良い。化粧料としては、香水、オードパルファム、オードトワレ、コロン等のフレグランス化粧品、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、ヘアースタイリングフォーム、ヘアースタイリングスプレー、ヘアースタイリングジェル、ヘアコロン、白髪または黒髪用ヘアーカラーリング剤、ヘアーリムーバー等の頭髪化粧品、スキンローション、スキンミルク、スキンクリーム、日焼け防止剤等の人体用基礎化粧品、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、マスカラ、アイライナー、口紅、リップグロス、リップクリーム、ネイルカラー等の各種メイクアップ化粧品、ボディクリーム、ボディミルク、ボディローション、ボディパウダー、石鹸、ボディシャンプー、粉末状入浴剤、液体入浴剤、デオドラント剤、制汗剤、日焼け防止剤等のボディ化粧品、口腔用化粧料等が挙げられる。
【0021】
本発明の剤は、医薬品もしくは医薬部外品に含まれていても良い。医薬品もしくは医薬部外品としては緩和な作用から特に経口、経皮吸収に適した剤形が好ましく、液剤、粉剤、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、懸濁剤、座剤、浴剤、軟膏、クリーム、ゲル、貼付剤、注射液、点眼剤等の剤形が挙げられる。
本発明の剤は、保健衛生材料に含まれていても良い。保健衛生材料としては清潔ティッシュ、マスク、絆創膏、ガーゼ、包帯、洗浄綿等が挙げられる。
【0022】
(投与対象)
本発明の各剤の投与対象は、哺乳動物を包括的に含む。哺乳動物の例として、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル等であるが、特に限定されない。
例えば、本発明の剤をヒトで使用する場合、本発明の剤の効果を得ることができれば特に限定されないが、揮発した本発明に関する香料濃度として、0.001~100mg/m3、好ましくは0.01~10mg/m3を鼻、口、皮膚等から摂取することが好ましい。
また、1時間当たり、0.1mg~50mgを摂取することが好ましい。
【0023】
(本発明の剤の製造方法)
ジヒドロジャスモン酸メチル、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの製造方法としては特に制限されず、合成してもよいし、また、天然物から抽出してもよく、また、市販品を購入できる。
本発明の剤は、飲食品、化粧品、医薬品、医薬部外品および保健衛生材料等への用途に応じて、他の香料と混合し、水、エタノール等の溶剤で希釈する方法、界面活性剤とともに乳化する方法、さらに賦形剤と混合したのち粉末化する方法等が挙げられる。
【0024】
(のどの渇き抑制剤)
本発明ののどの渇き抑制剤若しくは飲水量抑制剤は、飲水量を抑制できる。例えば、本来の疲労時の飲水量を100とした場合において、飲水量を90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は1%以下に抑制することを意味する。
【0025】
(食欲増進剤及び疲労時の食欲増進剤)
本発明の食欲増進剤若しくは体重減少抑制剤は、体重減少、特に疲労時の体重減少を抑制できる。例えば、本来の疲労時の体重減少を100とした場合において、体重減少を90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は1%以下に抑制することを意味する。
【0026】
(増加抑制剤)
本発明の各増加抑制剤は、IL-1β、IL-10、TNFα、CD14及び/又はCD16のmRNA及び/又はタンパク質、好ましくは白血球mRNA及び/又は血清中のタンパク質の増加を抑制できる。例えば、本来の疲労時のmRNA及び/又はタンパク質の発現レベルの増加量を100とした場合において、mRNA及び/又はタンパク質の発現レベルの増加量を90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は1%以下に抑制することを意味する。
【0027】
(低下抑制剤)
本発明の各低下抑制剤は、IL-2、IL-5及び/又はIL-17AのmRNA及び/又はタンパク質、好ましくは白血球mRNA及び/又は血清中のタンパク質の低下を抑制できる。例えば、本来の疲労時のmRNA及び/又はタンパク質の発現レベルの低下量を100とした場合において、mRNA及び/又はタンパク質の発現レベルの低下量を90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は1%以下に抑制することを意味する。
【0028】
(IL-6発現促進剤)
本発明のIL-6発現促進剤は、IL-6のmRNA及び/又はタンパク質、好ましくは血清中のタンパク質の発現を促進できる。例えば、本来のmRNA及び/又はタンパク質の発現レベルを100とした場合において、mRNA及び/又はタンパク質の発現レベルを110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上又は200%以上に促進することを意味する。
【0029】
(CD14発現調節剤)
本発明のCD14発現調節剤は、CD14のmRNA及び/又はタンパク質、好ましくは白血球mRNAの発現を調節できる。
例えば、本来の平常時のmRNA及び/又はタンパク質の発現レベルを100とした場合において、mRNA及び/又はタンパク質の発現レベルを50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上又は200%以上に維持又は増加し、本来の疲労時のmRNA及び/又はタンパク質の発現レベルの増加量を100とした場合において、mRNA及び/又はタンパク質の発現レベルの増加量を90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は1%以下に抑制することを意味する。
【0030】
(CD16発現調節剤)
本発明のCD16発現調節進剤は、CD16のmRNA及び/又はタンパク質、好ましくは白血球mRNAの発現を調節でき、平常時は発現状態を維持でき、疲労時は増加を抑制できる。
【0031】
(判定方法)
本発明の疲労度の判定方法、炎症度の判定方法、並びに神経異常、内分泌異常、高酸化ストレス及び異常な免疫発生の判定方法の工程は、以下を含むことを例示することができるが、特に限定されない。
(1)被験者(好ましくは疲労時)の被験者から、生物学的試料を採取する工程。
(2)前記工程(1)において得られた生物学的試料中のmRNA発現解析、タンパク質発現解析(サイトカイン濃度測定)及び/又はカテコラミン測定をする工程。
(3)被験者の体重を測定する工程。
(4)前記被験者の測定結果を、カットオフ値又は前記被験者の平常時の測定結果と比較する工程。
【0032】
(生物学的試料)
本明細書において「生物学的試料」は、mRNA発現解析、タンパク質発現(サイトカイン濃度)解析及び/又はカテコラミン(カテコールアミン)測定が可能であれば特に限定されず、例えば被験者から単離された組織、細胞、体液、尿及びそれらの混合物若しくは該混合物から調製された核酸抽出液を挙げることができる。核酸抽出物はゲノムDNAを含むものであることが好ましい。核酸抽出液の調製は、自体公知の核酸調製法に従い、核酸を抽出することにより実施できる。
ここで体液とは、血液、リンパ液、組織液(組織間液、細胞間液、間質液)などを例示できる。好ましくは、被験者から単離された血液を例示できる。mRNA発現解析のためには白血球分画がより好ましく、タンパク質発現解析のためには血清分画がより好ましく、カテコラミン測定のためには血漿分画がより好ましい。
【0033】
(本発明のカットオフ値)
本発明は、「被験者由来生体試料の各測定対象(マーカー)のカットオフ値」を予め設定することができる。「被験者由来生体試料の各測定対象(マーカー)のカットオフ値」は、疲労を有する被験者由来の生体試料中の各測定対象(マーカー)の平均値、炎症を有する被験者由来の生体試料中の各測定対象(マーカー)の平均値、神経異常、内分泌異常、高酸化ストレス及び異常な免疫発生を有する被験者由来の生体試料中の各測定対象(マーカー)の平均値、又は、健常者由来生体試料中の各測定対象(マーカー)の平均値から算出することができる。
Cut off(カットオフ)値の設定方法としては、上記述べた各平均値、及び/又は、健常者由来生体試料中の各測定対象(マーカー)の平均値から算出する。通常、予め設定したカットオフ値(さらには、標準偏差±70%以内、標準偏差±50%以内、標準偏差±30%以内、標準偏差±20%以内、又は標準偏差±50%以内)以上の場合には、陽性と判定できる。
また、別のカットオフ値の設定方法としては、市販の統計解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成し、最適な感度及び特異度を求めることができる。
【0034】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(香料物質の抗疲労効果の評価)
疲労モデルラットへ香料物質ばく露および疲労マーカーの測定を行い、香料物質ばく露による抗疲労効果を評価した。疲労マーカーとして体重、血清d-ROMs/BAP、血漿カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)、白血球mRNA発現(IL-1β、TNFα、CD14、CD16)、血清タンパク発現(ルミネックス)を評価した。
【0036】
(実験動物および使用香料)
7週齢の雄ラット(Sprague-Dawley rat)18匹(疲労なし9匹[香料なし、LINALOOL曝露、CLAIGEON曝露 各3匹]、疲労あり9匹[香料なし、LINALOOL曝露、CLAIGEON曝露 各3匹])を使用した。
【0037】
(測定項目)
体重、血清d-ROMs/BAP、血漿カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)、白血球mRNA発現(IL-1β、TNFα、CD14、CD16、IL-6、TGFβ)、血清タンパク発現(ルミネックス)
【0038】
(試験対象グループ)
以下の群について試験した。
水浸ストレス負荷なし/香料なし群
水浸ストレス負荷なし/LINALOOL曝露群
水浸ストレス負荷なし/CLAIGEON曝露群
水浸ストレス負荷あり/香料なし群
水浸ストレス負荷あり/LINALOOL曝露群
水浸ストレス負荷あり/CLAIGEON曝露群
【0039】
(香料曝露)
香料としては、CLAIGEON(ジヒドロジャスモン酸メチル)又はLINALOOL(3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール)を用いた。
香料あり群のラットは、100% CLAIGEON又は100% LINALOOLを各l g秤量してろ紙に浸みこませ、ガラスシャーレ上に静置し、ガラスシャーレを
図1に示す香料曝露ボックスの一角に静置した。香料曝露ボックスは、空気穴を前後の面のみ使用し、側面の空気穴をテープで塞いだ(ラットの呼吸が苦しそうな場合は側面の空気穴を開放した)。
24時間香料曝露した。
香料なし群のラットは、香料を入れたガラスシャーレが無いこと以外は同条件のボックスに24時間収容した。
【0040】
(疲労負荷およびサンプル採取方法)
水浸ストレス負荷あり群は、ラットから休息および睡眠を奪うため、1.5 cm(23℃)の水浸ケージ内で24時間飼育を行った。水浸ストレス負荷なし群は、23℃のケージ内で24時間飼育を行った。
飼育は1ケージにつき1匹を収容した。また、飼育中は自由飲水および自由摂餌とした(
図1、
図2)。経時的(0及び24時間)にラットの体重を測定した。負荷開始後24時間後に、4%セボフルランによる麻酔後、心臓採血、臓器採取(脾臓、肝臓)を行った。
【0041】
(サンプル分離)
水浸ストレス負荷後に各ラットから採血し、白血球、血清、血漿を分離した。
白血球は各2 mLの血液(5mM EDTA添加)からデキストラン水溶液(最終濃度1.5%)と混合し、赤血球成分を沈殿させた後、上清の白血球分画を採取し、余分な赤血球を溶血して除いたものを白血球サンプルとした。その後、1st strand DNAまで作製した後、凍結保存した。
血漿は、各2 mLの血液(5 mM EDTA添加)を3000 rpm、10分間、室温にて遠心し、上清を血漿として用いた。直ちに-70℃にて凍結した。
血清は、各5 mL程度の採血後(EDTA無し)、30分以上(100分以内)静置し、血液凝固・線溶させたのち、3000 rpm、10分間、室温にて遠心を2回行い、上清を採取した。
【0042】
(d-ROMsテスト及びBAPテスト)
各群の凍結保存した血清をドライアイスの入った箱に入れて配送し、日研ザイル株式会社日本老化制御研究所へ委託した。
【0043】
(カテコラミン測定)
各群の凍結保存した血漿を配送し、カテコラミン3分画(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)の測定をエスアールエル社へ委託した。
【0044】
(血清中サイトカイン濃度)
分離した血清を用いて、血清中の発現タンパク質を定量した。凍結ストックを氷上で解凍し、各血清から1 wellあたり10 μLを用いた。Multiplexラットサイトカインパネルセレクトキット(Merck社)を用いて10種類のラットサイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-17A、IFNγ、TNFα)について検出装置Luminex 200 (Merck社)にて測定した。
【0045】
(リアルタイムPCR)
白血球は、RNeasy kit(QIAGEN社製)にてtotal RNAを分離した。分離したRNAは、Ready-to-GO You prime kit (GE healthcare社製)にて1st strand DNAを合成し、-30℃で凍結保存した。翌日、SYBRgreen mix(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてリアルタイムPCRを施行した。機器はStep OnePlus (Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。使用したプライマーを表1に示す。
【0046】
【0047】
(結果)
体重
結果を表2、表3及び
図3に示す。
体重は負荷なし群では体重増加傾向、負荷あり群で明らかな低下傾向がみられた。
負荷なし/LINALOOL曝露群では、負荷なし/香料なし群と比べて体重が増加した。
負荷あり/CLAIGEON曝露群では、負荷あり/香料なし群と比べて体重減少が抑制された(
図3)。
体重は負荷なし群では体重増加傾向、負荷あり群で明らかな低下傾向が観られた。
負荷あり・CLAIGEON曝露群では、香料なし群と比べて体重減少が抑制された。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONの食欲増進効果(体重減少抑制効果)及び疲労時の食欲増進効果(疲労時の体重減少抑制効果)が確認された。
【0048】
【0049】
【0050】
d-ROMs
結果を表4及び
図4に示す。
負荷あり群では、LINALOOL及びCLAIGEON群で抑制傾向がみられた。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのd-ROMs(dROMs)増加抑制効果が確認された。
【0051】
【0052】
BAP
結果を表4及び
図5に示す。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較して血清BAP濃度が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群及び水浸ストレス負荷なし群共に、それぞれ香料なし群と比較して、血清BAP濃度が低かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群の血清BAP濃度の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのBAP増加抑制効果が確認された。
【0053】
アドレナリン
結果を表5及び
図6に示す。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較して血漿アドレナリン濃度が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群の血漿アドレナリン濃度の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのアドレナリン増加抑制効果が確認された。
【0054】
【表5】
Ad: アドレナリン、Nor: ノルアドレナリン、Dopa: ドーパミン
【0055】
ノルアドレナリン
結果を表5及び
図7に示す。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較して血漿ノルアドレナリン濃度が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群及び水浸ストレス負荷なし群共に、それぞれ香料なし群と比較して、血漿ノルアドレナリン濃度が低かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群の血漿ノルアドレナリン濃度の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのノルアドレナリン増加抑制効果が確認された。
【0056】
ドーパミン
結果を表5及び
図8に示す。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較して血漿ドーパミン濃度が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群及び水浸ストレス負荷なし群共に、それぞれ香料なし群と比較して、血漿ドーパミン濃度が低かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群の血漿ドーパミン濃度の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのドーパミン増加抑制効果が確認された。
【0057】
(疲労5指標の分析)
d-ROMs及びBAPの主成分分析を行ったところ、両変数を統合する主成分PC1を抽出することが出来、疲労負荷時に増加するPC1値をLINALOOL曝露又はCLAIGEION曝露は抑制した(
図9)。
また、これら疲労5指標(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、d-ROMs、BAP)の相関性(Pearson)を調べた。アドレナリン、ノルアドレナリンについては幾つかの組み合わせで高い相関係数を示したが、1個体の高値のみに起因していた。一方、ドーパミンはd-ROMsと有意な相関性を示し、BAPは有意な相関性を示さなかったが、上記の主成分分析でd-ROMsとの間に主成分を介して関連していることは明らかであった。そこで、アドレナリンとノルアドレナリンを除いた3因子の主成分分析を実行した(
図10、
図11左図)。
その結果、3因子より1つの主成分が抽出され、そのスコアは疲労負荷時に有意に増加し、LINALOOL曝露又はCLAIGEON曝露により低下した(
図11右図)。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONによる疲労抑制(低減)効果が確認された。
【0058】
(血清中サイトカイン濃度)
Luminexを用いて血清中IL-1α、IL-4、IL-1β、IL-2、IL-6、IL-10、IFNγ、IL-5、IL-17A及びTNFαの濃度を測定した。このうち、IL-1α、IL-4、IL-6、IFNγ及びTNFαについては多くが測定限界以下となった。そこで、IL-1β、IL-2、IL-10、IL-5及びIL-17Aについて、測定限界以下となったものは検出限界値の1/10値とし、解析した。結果を表6及び
図12に示す。
IL-1β及びIL-10については、いずれも疲労負荷により上昇し、LINALOOL(LIN)またはCLAIGEON(CLG)曝露により上昇が抑制される傾向を示した。他方、IL-2やIL-5は疲労負荷により濃度が低下する傾向にあり、LINALOOLまたはCLAIGEON曝露により低下が抑制された。また、IL-17Aについても疲労負荷により濃度の低下が確認され、CLAIGEONおよびLINALOOL曝露で回復した(
図12)。
これらの5つのサイトカインについて濃度の相関性を調べた。IL-1βはIL-10と、IL-2、IL-5、IL-10それぞれ相互に正の相関性を示した(
図13)。これらの血清中サイトカイン濃度の5因子について主成分分析を行ったところ、2つの主成分を抽出し、その第1主成分PC1(寄与率61.008%)にはIL-2、IL-5、IL-17Aが正に寄与し、IL-10、IL-1βが負に寄与したが(
図13の因子負荷量プロット参照)、PC1のスコアは疲労負荷により有意に低下し、LINALOOLまたはCLAIGEON曝露により有意に低下が抑制された(
図14上段)。他方、第2主成分PC2(寄与率32.130%)のスコアは群間で差を示さなかった(
図14右下)。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONによるIL-1β増加抑制効果、IL-2低下抑制効果、IL-10増加抑制効果、IL-5低下抑制効果及びIL-17A低下抑制効果が確認された。
【0059】
【0060】
(白血球mRNA発現)
IL-1β、IL-6、TNFα、CD14及びCD16の白血球mRNAについてqPCRにより測定した。
【0061】
IL-1β
結果を表7及び
図15に示す。
IL-1βのmRNA発現では、負荷あり/香料なし(曝露なし)群に対してLINALOOL曝露群、CLAIGEON曝露群ともに発現が抑制されている傾向がみられた。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較してIL-1βのmRNA発現が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群及び水浸ストレス負荷なし群共に、それぞれ香料なし群と比較して、IL-1βのmRNA発現が低かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群のIL-1βのmRNA発現の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのIL-1β発現抑制効果が確認された。
【0062】
IL-6
結果を表8及び
図16に示す。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較してIL-6のmRNA発現の変化が無かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群及び水浸ストレス負荷なし群共に、それぞれ香料なし群と比較して、IL-6のmRNA発現が高かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群のIL-6のmRNA発現の増加を促進した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのIL-6発現促進効果が確認された。
【0063】
TNFα
結果を表9及び
図17に示す。
TNFαのmRNA発現では、負荷あり/香料なし(曝露なし)群に対してCLAIGEON曝露群に発現が抑制されている傾向がみられた。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較してTNFαのmRNA発現が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群及び水浸ストレス負荷なし群共に、それぞれ香料なし群と比較して、TNFαのmRNA発現が低かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群のTNFαのmRNA発現の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのTNFα発現抑制効果が確認された。
【0064】
CD14
結果を表10及び
図18に示す。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較してCD14のmRNA発現が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷なし群で、それぞれ香料なし群と比較して、CD14のmRNA発現が高かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群で、それぞれ香料なし群と比較して、CD14のmRNA発現が低かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群のCD14のmRNA発現の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのCD14発現調節効果及びCD14発現抑制効果が確認された。
【0065】
CD16
結果を表11及び
図19に示す。
CD16のmRNA発現では、負荷あり群の中で、香料なし(曝露なし)群に対してLINALOOL曝露群およびCLAIGEON曝露群で発現が抑制されている傾向がみられた。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群は、水浸ストレス負荷なし/香料なし群と比較してCD16のmRNA発現が増加した。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、水浸ストレス負荷あり群で、それぞれ香料なし群と比較して、CD16のmRNA発現が低かった。
LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群は、それぞれ香料なし群と比較して、負荷なし群に対する負荷あり群のCD16のmRNA発現の増加を抑制した。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONのCD16発現抑制効果が確認された。
【0066】
【表7】
(負荷なし/曝露なしのサンプルの1つを1としたときの相対値)
【0067】
【表8】
(負荷なし/曝露なしのサンプルの1つを1としたときの相対値)
【0068】
【表9】
(負荷なし/曝露なしのサンプルの1つを1としたときの相対値)
【0069】
【表10】
(負荷なし/曝露なしのサンプルの1つを1としたときの相対値)
【0070】
【表11】
(負荷なし/曝露なしのサンプルの1つを1としたときの相対値)
【0071】
(総合分析:主成分分析による疲労・免疫スコアの算出)
疲労3因子(ドーパミン、d-ROMs、BAP)と血清中サイトカイン5因子(IL-1β、IL-10、IL-2、IL-5、IL-17A)に香料曝露で低下傾向の見られた白血球中IL-1β mRNA、白血球中TNFα mRNAの2因子を加えた10因子による総合的な主成分分析を実施し、抽出される主成分としての疲労・免疫スコアの算出を試みた。3つの主成分が抽出され、そのうち第1主成分(PC1、寄与率47.865%)はドーパミン、d-ROMs、BAP、白血球中IL-1β mRNA、白血球中TNFα mRNA、血清中IL-1βおよび血清中IL-10が正に寄与する成分であり、そのスコアは疲労負荷で有意に増加し、LINALOOLまたはCLAIGEON曝露により増加は抑制され、その抑制程度はCLAIGEON>LINALOOLであった(
図20上段)。その他の主成分である第2主成分(PC2)、第3主成分(PC3)は群間で差を示さなかった(
図20右下)。
よって、LINALOOL及びCLAIGEONの疲労・ストレス抑制効果、炎症抑制効果及び免疫抑制効果が確認された。
他方で、多くが測定限界値以下となったサイトカイン以外の全測定項目(16因子)による主成分分析を実施したところ4つの主成分が抽出されたが、PC1のスコアは群間で有意差を示さなかった(
図21左上)。
一方、クラスター解析の結果は
図21の主成分分析結果を支持し、疲労によるIL-1β mRNA、TNFα mRNA、d-ROMs、BAPの増加傾向、IL-2、IL-5、IL-17A濃度の低下傾向を明示した(
図21左下)。更に、#10検体(負荷あり/香料なし群の1個体)の特異な特徴を排除する目的でIL-1β、IL-10を除外した8因子による主成分分析を行ったところ、抽出され第1成分PC1(寄与率53.922%)のスコアは疲労で有意に増加し、LINALOOL曝露で増加抑制傾向、CLAIGEON曝露で有意に増加は抑制された(
図21右)。
【0072】
実施例1の結果より、疲労マーカーとして、体重、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、d-ROMs、BAP、IL-1β mRNA、TNFα mRNA、CD14 mRNA、CD16 mRNA、IL-1β、IL-2、IL-5、IL-10及びIL-17Aが有効であることを確認し、炎症マーカーとして、IL-1β、TNFα mRNA、IL-1βmRNA、IL-10、CD14 mRNA、CD16 mRNAが有効であることを確認した。
【実施例2】
【0073】
(CLAIGEONばく露による抗疲労効果の評価)
疲労モデルラットへの香料物質ばく露および疲労マーカーの測定を行い、CLAIGEONの濃度を変化させて、反応の違いを評価した。
CLAIGEONの濃度を変化させて、疲労モデルラットへのCLAIGEONばく露および疲労マーカーの測定を行い、反応の違いを評価した。飲水量、白血球mRNA発現(IL-1β)を評価した。
【0074】
(実験動物および使用香料)
7週齢の雄ラット(Sprague-Dawley rat)21匹(すべて疲労あり[香料なし5匹、溶媒のみ(キャリア)4匹、CLAIGEON濃度0.5%4匹、20%4匹、100%4匹(計5群)])を使用した。
【0075】
(測定項目)
飲水量、白血球mRNA発現(IL-1β)
【0076】
(試験対象グループ)
以下の群について試験した。
水浸ストレス負荷あり/香料なし群(5匹)
水浸ストレス負荷あり/溶媒曝露群(4匹)
水浸ストレス負荷あり/0.5%CLAIGEON曝露群(4匹)
水浸ストレス負荷あり/20%CLAIGEON曝露群(4匹)
水浸ストレス負荷あり/100%CLAIGEON曝露群(4匹)
【0077】
(香料曝露)
香料としては、CLAIGEON(ジヒドロジャスモン酸メチル)を用いた。
CLAIGEON曝露群のラットは、0.5%CLAIGEON、20%CLAIGEON又は100%CLAIGEONを各l g秤量してろ紙に浸みこませ、ガラスシャーレ上に静置し、ガラスシャーレを
図1に示す香料曝露ボックスの一角に静置した。香料曝露ボックスは、空気穴を前後の面のみ使用し、側面の空気穴をテープで塞いだ(ラットの呼吸が苦しそうな場合は側面の空気穴を開放した)。
24時間香料曝露した。
香料なし群のラットは、香料を入れたガラスシャーレが無いこと以外は同条件のボックスに24時間収容した。
【0078】
(疲労負荷およびサンプル採取方法)
全ての群について、ラットから休息および睡眠を奪うため、1.5 cm(23℃)の水浸ケージ内で24時間飼育を行った。
飼育は1ケージにつき1匹を収容した。また、飼育中は自由飲水および自由摂餌とした(
図1、
図2)。経時的(0及び24時間)にラットの体重、餌の質量、飲用水の質量を測定した。負荷開始後24時間後に、4%セボフルランによる麻酔後、心臓採血を行った。
【0079】
(サンプル分離)
水浸ストレス負荷後に各ラットから採血し、白血球、血清、血漿を分離した。
白血球は各2 mLの血液(5mM EDTA添加)からデキストラン水溶液(最終濃度1.5%)と混合し、赤血球成分を沈殿させた後、上清の白血球分画を採取し、余分な赤血球を溶血して除いたものを白血球サンプルとした。その後、1st strand DNAまで作製した後、凍結保存した。
血漿は、各2 mLの血液(5 mM EDTA添加)を3000 rpm、10分間、室温にて遠心し、上清を血漿として用いた。直ちに-70℃にて凍結した。
血清は、各5 mL程度の採血後(EDTA無し)、30分以上(100分以内)静置し、血液凝固・線溶させたのち、3000 rpm、10分間、室温にて遠心を2回行い、上清を採取した。
【0080】
(リアルタイムPCR)
白血球は、RNeasy kit(QIAGEN社製)にてtotal RNAを分離した。分離したRNAは、ReverTraAce qPCR RT master mix (TOYOBO社)にて1st strand DNAを合成し、-30℃で凍結保存した。翌日、SYBR green mix(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてリアルタイムPCRを施行した。機器はStep OnePlus (Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。使用したプライマーを表12に示す。
【0081】
【0082】
飲水量
結果を表13及び
図22に示す。
CLAIGEON曝露群で飲水量の減少傾向が観られた。
よって、CLAIGEONの飲水量抑制効果が確認された。
【0083】
【0084】
IL-1β
結果を表14及び
図23に示す。
溶媒曝露群と比較して、20%CLAIGEON曝露群及び100%CLAIGEON曝露群でIL-1βのmRNA発現が低かった。
よって、これらの濃度においてもCLAIGEONのIL-1β発現抑制効果が確認された。
【0085】
【表14】
(香料なしのサンプルの1つを1としたときの相対値)
【実施例3】
【0086】
実施例1及び2の疲労負荷および回復の状況から、ドーパミン、IL-1β mRNA、TNFα mRNA、d-ROMs、BAP、IL-2、IL-5、IL-1β及びIL-10の9項目、並びに、ドーパミン、IL-1βmRNA、d-ROMs、BAP、IL-2及びIL-5の6項目について、実施例1の測定結果を用いて主成分分析(PCA)をした。
その結果、9項目及び6項目共に、第1主成分(PC1)のスコアは疲労負荷で有意に増加し、LINALOOLまたはCLAIGEON曝露により増加は抑制され、その抑制程度はCLAIGEON>LINALOOLであった(
図24及び
図25)。
特に、6項目のPCAのスコア値の群間比較の有意差は、実施例1の10項目による疲労・免疫スコアと同様であったが、PC1の寄与率は56.871%であり、10項目によるPCA(10項目のPC1: 47.865%)及び9項目によるPCA(9項目のPC1: 48.303%、
図24)より高かった(
図25)。
これら6項目は、ドーパミンが神経・内分泌、IL-1βmRNAが炎症、d-ROMs及びBAPが酸化ストレス、IL-2及びIL-5が免疫機能に関するものであるため、神経・内分泌・炎症・酸化ストレス・免疫機能を網羅する新規の指標としても活用できる。
【0087】
(総論)
a. 体重変化
全体的に負荷なし群では増加の傾向があり、負荷あり群で減少の傾向があったのはリーズナブルで、予備実験からの再現性がみられた。
負荷あり群の中で、LINALOOL曝露群及びCLAIGEON曝露群で体重減少は抑制された。CLAIGEONはLINALOOLよりも体重減少抑制の効果が高いことが分かった。
体重は、摂食とも関連しているので、摂食量にも違いがあると考えられる。
b. 血清d-ROMs/BAP
d-ROMs・BAPともに、CLAIGEON曝露群で抑制傾向がみられた。
c. 血漿カテコラミン3分画
アドレナリン・ノルアドレナリンでは、LINALOOL曝露群・CLAIGEON曝露群で抑制傾向がみられた。抑制の強さはLINALOOL<CLAIGEONであると言える。負荷なし群でも抑制効果は観られており、安静時でもドーパミン抑制効果があることが分かった。
d. 疲労指標の主成分分析
主成分分析を用いてd-ROMs、BAPから主成分PC1を抽出し群間比較を検討したところ、PC1値は疲労負荷あり群の中で香料なし群とCLAIGEON曝露群で差が観られることが分かった。このことは、両値から測られる疲労程度の減弱にCLAIGEON曝露が作用することを示している。さらに単独でも香料曝露効果がみられたドーパミンも加えた3因子の主成分分析により抽出された主成分のスコアは疲労負荷に寄り増加し、スコアの増加はCLAIGEON曝露でのみ抑制された。ここからもCLAIGEIONの疲労低減効果を捉えることができる。
e. 血清中サイトカイン濃度の群間比較および主成分分析
炎症に寄与するIL-1β、IL-10濃度が疲労負荷により増加し、香料曝露により増加が抑制される傾向がみられた。一方、NK細胞活性化やT細胞増殖に働くIL-2や抗体産生(中でもIgA産生)に働くIL-5は疲労負荷により低下または低下傾向を示し、香料曝露は何れも低下を抑制した。これらの特徴は主成分分析の第1成分PC1として明確に示され、従って血清サイトカイン濃度の多項目測定は疲労程度の判定に有効な方法であることが明らかとなった。
f. 末梢血白血球中のmRNA発現
IL-1β、TNFαなどの炎症のマーカーでは、負荷あり群においてLINALOOL曝露群・CLAIGEON曝露群で発現が抑制された。
g. 総合分析、結論
疲労3因子(ドーパミン、d-ROMs、BAP)と血清中サイトカイン5因子(IL-1β、IL-10、IL-2、IL-5、IL-17A)に香料曝露で低下傾向の見られた白血球中IL-1βmRNA、TNFα mRNAの2因子を加えた10因子による主成分分析は第1成分PC1として疲労負荷の特徴を明瞭に示した。ドーパミン、d-ROMs、BAPは疲労・ストレスの指標として、また、TNFα mRNA、IL-1β及びIL-10濃度は炎症の指標として理解でき、PC1のスコアはそれらが寄与する疲労増悪指標であり、他方で免疫機能指標であるIL-2、IL-5、IL-17Aが負に寄与することは、PC1スコアの低下は免疫機能低下の意味を含むことを示す。クラスター解析結果は疲労負荷影響の特徴を明示し、IL-1β、IL-10濃度を外した8因子に基づくスコアも類似の結果を示した。以上のことから、これらの10因子または8因子に基づく“疲労・免疫スコア”とも言える指標は、疲労・ストレス、炎症、免疫機能を包含する不良指標であると言え、LINALOOLまたはCLAIGEON曝露はこの不良を改善できたことを示す。疲労負荷が炎症応答を誘導し、その結果として一過性に起こった免疫機能低下を香料曝露は改善したと考えられる。香料曝露による疲労改善を機序とした健康増進および疾病予防の可能性が示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
ジヒドロジャスモン酸メチル又は3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールを含む新規剤を提供することができる。
【配列表】