(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】プリプレグ、金属張積層板、及び配線板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20241115BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241115BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20241115BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20241115BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C08J5/24 CER
B32B15/08 105A
C08F2/44 B
C08F290/06
H05K1/03 610T
(21)【出願番号】P 2021548881
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035436
(87)【国際公開番号】W WO2021060181
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019177946
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】和田 淳志
(72)【発明者】
【氏名】幸田 征士
(72)【発明者】
【氏名】小澤 龍成
(72)【発明者】
【氏名】北井 佑季
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-028078(JP,A)
【文献】特開2019-001965(JP,A)
【文献】特表2007-524736(JP,A)
【文献】特開2010-189517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08F
C08J
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物と、フリーラジカル化合物とを含有し、
前記フリーラジカル化合物が、下記式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)で表される構造の群から選ばれる少なくとも1つのフリーラジカル基を分子中に有することを特徴とする
、樹脂組成物
又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグ。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテル化合物において、前記置換基が、下記式(5)または式(6)で表される基から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の
プリプレグ。
【化5】
(式(5)中、sは0~10の整数を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。)
【化6】
(式(6)中、R
4は、水素原子又はアルキル基を示す。)
【請求項3】
前記フリーラジカル化合物が、下記式(7)~式(9)で示される化合物から選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項1または2に記載の
プリプレグ。
【化7】
【化8】
【化9】
(式(7)および式(8)中、X
AおよびX
Bは、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート、メトキシ基、カルボキシ基
、アミド基、
または、ベンゾイルオキシ
基を示す。式(9)中、X
Cはアルキレン基、芳香族構造、カルボニル
基またはエーテル結合を示す。)
【請求項4】
前記樹脂組成物がさらに硬化剤を含む、請求項1~3のいずれかに記載の
プリプレグ。
【請求項5】
前記フリーラジカル化合物の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤の合計100質量部に対し、0.01~0.4質量部である、請求項4に記載の
プリプレグ。
【請求項6】
前記硬化剤が、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタアクリレート化合物、分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、
ブロモスチレン、ジブロモスチレン、分子中にアリル基を有するアリル化合物、分子中にマレイミド基を有するマレイミド化合物、分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項4または5に記載の
プリプレグ。
【請求項7】
前記樹脂組成物がさらに反応開始剤を含む、請求項
1に記載の
プリプレグ。
【請求項8】
前記樹脂組成物がさらに反応開始剤を含む、請求項4に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記反応開始剤が、金属過酸化物、アゾ化合物、及び、有機過酸化物から選択される少なくとも1つを含む、請求項7
または8に記載の
プリプレグ。
【請求項10】
前記反応開始剤の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合
物の合計100質量部に対し、0.5~8.0質量部である、請求項
7に記載の
プリプレグ。
【請求項11】
前記反応開始剤の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤の合計100質量部に対し、0.5~8.0質量部である、請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記フリーラジカル化合物及び前記反応開始剤の割合(質量比)が、0.005:1.0~0.2:1.0である、請求項7~
11のいずれかに記載の
プリプレグ。
【請求項13】
前記樹脂組成物がさらに無機充填剤を含む、請求項1~1
2のいずれかに記載の
プリプレグ。
【請求項14】
請求項1~1
3のいずれかに記載の
プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板。
【請求項15】
請求項1~1
3のいずれかに記載の
プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板。
【請求項16】
前記絶縁層を複数層有し、前記配線が、前記絶縁層と前記絶縁層との間に配置される請求項1
5に記載の配線板。
【請求項17】
前記樹脂組成物の、最低溶融粘度(T2)及び最低溶融粘度の温度から+10℃での溶融粘度が(T1)が、T1/T2=1.0超10.0以下である、請求項1~1
3のいずれかに記載の
プリプレグ。
【請求項18】
前記T2が12000(poise))以下で、かつ、前記T1が15000(poise))以下である、請求項1
7に記載の
プリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器は、情報処理量の増大に伴い、搭載される半導体デバイスの高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術が進展している。また、各種電子機器に用いられる配線板としては、例えば、車載用途におけるミリ波レーダ基板等の、高周波対応の配線板であることが求められる。各種電子機器において用いられる配線板には、信号の伝送速度を高めるために、信号伝送時の損失を低減させることが求められ、高周波対応の配線板には、特にそれが求められる。この要求を満たすためには、各種電子機器において用いられる配線板の基材を構成するための基材材料には、誘電率及び誘電正接が低いことが求められる。
【0003】
このような基材材料としては、例えば、分子内に不飽和結合を有するラジカル重合性化合物と、所定量の金属酸化物を含む無機充填材と、酸性基と塩基性基とを有する所定量の分散剤とを含む硬化性組成物が報告されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、誘電特性及び耐熱性に優れ、熱膨張率の小さい硬化物を好適に製造することができる硬化性組成物を得ることができる旨が開示されている。特許文献1に記載されているような、誘電率及び誘電正接等の誘電特性が低い樹脂組成物を用いて得られた配線板は、信号伝送時の損失を低減させることができると考えられる。
【0005】
その一方で、配線板としては、長期的に使用した場合でも、その誘電特性が悪化しないことが求められる。配線板の誘電特性が長期的に劣化しないためには、それを構成している硬化物の電気特性(実施例での誘電正接)に変化がないことが必要である。
【0006】
一般的に長期的な電気特性の変化を観察する手法として、熱環境下での処理試験があり、熱環境下でも、硬化物の電気的特性の変化が小さいことが求められる。
【0007】
また、湿度の高い環境下でも配線板を用いることができるように、配線板の基材には、吸水されたとしても、その低誘電特性が維持されることも求められる。
【0008】
すなわち、温度が高い環境下や湿度が高い環境下でも配線板を用いることができるように、配線板の基材を構成するための基材材料には、高温や吸水などによって誘電特性が影響されないことも要求されている。
【0009】
また、配線板、とくに多層積層配線板への適用には、回路パターン(配線間)に基材材料(絶縁層成形材料)を充填させる必要があり、そのために十分な樹脂流れ性の確保が求められている。この点、上記従来技術には、微細な回路パターン(配線間)に成形材料を充填させるための技術については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、誘電特性が低く、高耐熱性で、外部環境の変化等の影響を受けにくい硬化物を得ることができ、積層配線板への適用が可能な成形性を備えた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板を提供することを目的とする。
【0012】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の構成により達成されることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を達成した。
【0013】
つまり、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物と、フリーラジカル化合物とを含有し、前記フリーラジカル化合物が、後述する式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)で表される構造の群から選ばれる少なくとも1つのフリーラジカル基を分子中に有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグの一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る配線板の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る樹脂付き金属箔の一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る樹脂付きフィルムの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0016】
[樹脂組成物]
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物と、フリーラジカル化合物とを含有し、前記フリーラジカル化合物が、下記式(1)、式(2)、式(3)及び式(4)で表される構造の群から選ばれる少なくとも1つのフリーラジカル基を分子中に有することを特徴とする。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂組成物に、上記のような構造を有するフリーラジカル化合物を含有させることによって、誘電特性が低く、耐熱性が高く、熱処理や吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られ、かつ成形性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0022】
すなわち、本発明によれば、誘電特性が低く、高耐熱性の硬化物であって、熱処理または吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物を得ることができ、かつ、回路パターンを充填することのできる成形性に優れた樹脂組成物を提供することができる。さらに本発明によれば、前記樹脂組成物を用いることにより、優れた性能を有するプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線基板を提供できる。
【0023】
これは、フリーラジカル化合物添加により、高Tg等の硬化物特性をある程度維持したまま、成形性を向上させることができるためであると考えられる。
【0024】
まず、本実施形態の樹脂組成物の各成分について説明する。
【0025】
(変性ポリフェニレンエーテル化合物)
本実施形態の変性ポリフェニレンエーテル化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物であれば、特に限定されない。このような変性ポリフェニレンエーテル化合物を含有することによって、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物を得ることができる樹脂組成物となると考えられる。
【0026】
前記炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、特に限定されない。前記置換基としては、例えば、下記式(5)で表される置換基、及び下記式(6)で表される置換基等が挙げられる。
【0027】
【0028】
式(5)中、pは0~10の整数を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R1~R3は、それぞれ独立している。すなわち、R1~R3は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R1~R3は、水素原子又はアルキル基を示す。
【0029】
なお、式(5)において、pが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合していることを示す。
【0030】
上記Zのアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0031】
【0032】
式(6)中、R4は、水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0033】
前記式(5)で表される置換基の好ましい具体例としては、例えば、ビニルベンジル基を含む置換基等が挙げられる。前記ビニルベンジル基を含む置換基としては、例えば、下記式(10)で表される置換基等が挙げられる。また、前記式(6)で表される置換基としては、例えば、アクリレート基及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0034】
【0035】
前記置換基としては、より具体的には、p-エテニルベンジル基及びm-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0036】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物は、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(11)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0037】
【0038】
式(11)において、tは、1~50を示す。また、R5~R8は、それぞれ独立している。すなわち、R5~R8は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R5~R8は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0039】
R5~R8において、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0040】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0041】
アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0042】
アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0043】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0044】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0045】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0046】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(11)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、tは、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、tは、1~50であることが好ましい。
【0047】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係る変性ポリフェニレンエーテル化合物は、末端に不飽和二重結合を以上有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0048】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物における、変性ポリフェニレンエーテル化合物1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがある。
【0049】
なお、変性ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、変性ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、変性ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0050】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであればよいが、0.04~0.11dl/gであることが好ましく、0.06~0.095dl/gであることがより好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0051】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0052】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、下記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。また、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、これらの変性ポリフェニレンエーテル化合物を単独で用いてもよいし、この2種の変性ポリフェニレンエーテル化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
【0054】
【0055】
式(12)及び式(13)中、R9~R16並びにR17~R24は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。X1及びX2は、それぞれ独立して、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基を示す。A及びBは、それぞれ、下記式(14)及び下記式(15)で表される繰り返し単位を示す。また、式(13)中、Yは、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素を示す。
【0056】
【0057】
【0058】
式(14)及び式(15)中、m及びnは、それぞれ、0~20を示す。R25~R28並びにR29~R32は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。
【0059】
前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記構成を満たす化合物であれば特に限定されない。具体的には、前記式(12)及び前記式(13)において、R9~R16並びにR17~R24は、上述したように、それぞれ独立している。すなわち、R9~R16並びにR17~R24は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R9~R16並びにR17~R24は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0060】
式(14)及び式(15)中、m及びnは、それぞれ、上述したように、0~20を示すことが好ましい。また、m及びnは、mとnとの合計値が、1~30となる数値を示すことが好ましい。よって、mは、0~20を示し、nは、0~20を示し、mとnとの合計は、1~30を示すことがより好ましい。また、R25~R28並びにR29~R32は、それぞれ独立している。すなわち、R25~R28並びにR29~R32は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R25~R28並びにR29~R32は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0061】
R9~R32は、上記式(11)におけるR5~R8と同じである。
【0062】
前記式(13)中において、Yは、上述したように、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素である。Yとしては、例えば、下記式(16)で表される基等が挙げられる。
【0063】
【0064】
前記式(16)中、R33及びR34は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(16)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられ、この中でも、ジメチルメチレン基が好ましい。
【0065】
前記式(12)及び前記式(13)中において、X1及びX2は、それぞれ独立して、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基である。この置換基X1及びX2としては、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基であれば、特に限定されない。前記置換基X1及びX2としては、例えば、上記式(5)で表される置換基及び上記式(6)で表される置換基等が挙げられる。なお、前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物において、X1及びX2は、同一の置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
【0066】
前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(17)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0067】
【0068】
前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(18)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(19)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0069】
【0070】
【0071】
上記式(17)~式(19)において、m及びnは、上記式(14)及び上記式(15)におけるm及びnと同じ意味であり、独立して0~20である。また、上記式(17)及び上記式(18)において、R1~R3、p及びZは、上記式(5)におけるR1~R3、p及びZと同じである。また、上記式(18)及び上記式(19)において、Yは、上記(13)におけるYと同じである。また、上記式(19)において、R4は、上記式(6)におけるR4と同じである。
【0072】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成できれば、特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンエーテルに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0073】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、例えば、前記式(5)、(6)、(10)で表される置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が挙げられ、この中でも、塩素原子が好ましい。炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、より具体的には、p-クロロメチルスチレンやm-クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0074】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
【0075】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述した方法が挙げられる。具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、本実施形態で用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物が得られる。
【0076】
前記反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基が、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0077】
アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0078】
反応時間や反応温度等の反応条件は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0079】
反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0080】
上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0081】
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0082】
本実施形態で用いられる樹脂組成物には、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物として、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0083】
(フリーラジカル化合物)
本実施形態で用いるフリーラジカル化合物は、上述の式(1)~(4)で示される構造のうち少なくとも一つを有するフリーラジカル化合物であれば、特に限定はない。このようなフリーラジカル化合物を含むことにより、本実施形態の樹脂組成物は、低誘電特性や耐熱性等の特性を有しつつ、優れた成形性(回路パターンを充填することができる成形性)を発揮することができると考えられる。さらに、熱処理または吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物を得ることができると考えられる。
【0084】
好ましくは、本実施形態のフリーラジカル化合物は、下記式(7)~式(9)で示される化合物から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
前記式(7)および式(8)において、XAおよびXBは、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート、メトキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、ベンゾイルオキシ基、または、エーテル結合を示す。
【0089】
これらのより具体的な例示としては、例えば、4-アセトアミド、4-グリシジルオキシ、4-ベンゾイルオキシ、4-(2-ヨードアセトアミド)、4-[2-[2-(4-ヨードフェノキシ)エトキシ]カルボニル]ベンゾイルオキシ、4-メタクリロイルオキシ、4-オキソ、4-プロパルギルオキシ等が挙げられる。
【0090】
また、前記式(9)中、XCはアルキレン基、芳香族構造、カルボニル基、アミド基またはエーテル結合を示す。
【0091】
前記アルキレン基は、直鎖構造、側鎖構造および/または環状構造を有していてもよく、直鎖および側鎖の長さは特に限定はない。あまりに炭素数が大きくなると樹脂成分の溶媒に対する溶解性が低下する場合があるため、例えば、炭素数16以下であることが好ましく、炭素数8以下程度であることがとくに好ましい。
【0092】
前記アルキレン基が環状構造を有する場合、例えば、七員環、六員環、五員環構造等が挙げられる。
【0093】
また、前記芳香族構造としては、例えば、フェニル基、ピロール基、チアゾール基等が挙げられる。
【0094】
本実施形態で好ましく使用されるより具体的なフリーラジカル化合物としては、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-カルボキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-シアノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-グリシジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルフリーラジカル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルベンゾアート フリーラジカル、4-イソチオシアナト-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-(2-ヨードアセトアミド)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-[2-[2-(4-ヨードフェノキシ)エトキシ]カルボニル]ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルフリーラジカル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、2,2,6,6-テトラメチル-4-(2-プロピニルオキシ)ピペリジン1-オキシル フリーラジカル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4,5-ジヒドロ-4,4,5,5-テトラメチル-2-フェニル-1H-イミダゾール-1-イルオキシ-1-オキシド、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)、3-カルボキシ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン1-オキシル フリーラジカル、4-(2-クロロアセトアミド)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、2-(4-ニトロフェニル)-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-3-オキシド-1-オキシル フリーラジカル、2-(14-カルボキシテトラデシル)-2-エチル-4,4-ジメチル-3-オキサゾリジニルオキシ フリーラジカル、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル フリーラジカル等が挙げられる。
【0095】
以上、様々なフリーラジカル化合物を挙げたが、これらは1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0096】
本実施形態の上述したようなフリーラジカル化合物は市販のものを使用することもでき、例えば、東京化成工業株式会社などから入手可能である。
【0097】
(硬化剤)
本実施形態の樹脂組成物は、さらに硬化剤を含んでいることが好ましい。
【0098】
前記硬化剤としては、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と反応して、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂組成物を硬化させることができる硬化剤であれば、特に限定されない。前記硬化剤は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との反応に寄与する官能基を分子中に少なくとも1個以上有する硬化剤等が挙げられる。前記硬化剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、分子中にアクリロイル基を有する化合物、分子中にメタクリロイル基を有する化合物、分子中にビニル基を有する化合物、分子中にアリル基を有する化合物、分子中にマレイミド基を有する化合物、分子中にアセナフチレン構造を有する化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0099】
前記スチレン誘導体としては、例えば、ブロモスチレン及びジブロモスチレン等が挙げられる。
【0100】
前記分子中にアクリロイル基を有する化合物が、アクリレート化合物である。前記アクリレート化合物としては、分子中にアクリロイル基を1個有する単官能アクリレート化合物、及び分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物が挙げられる。前記単官能アクリレート化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、及びブチルアクリレート等が挙げられる。前記多官能アクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。
【0101】
前記分子中にメタクリロイル基を有する化合物が、メタクリレート化合物である。前記メタクリレート化合物としては、分子中にメタクリロイル基を1個有する単官能メタクリレート化合物、及び分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物が挙げられる。前記単官能メタクリレート化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、及びブチルメタクリレート等が挙げられる。前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等が挙げられる。
【0102】
前記分子中にビニル基を有する化合物が、ビニル化合物である。前記ビニル化合物としては、分子中にビニル基を1個有する単官能ビニル化合物(モノビニル化合物)、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、及びポリブタジエン等が挙げられる。
【0103】
前記分子中にアリル基を有する化合物が、アリル化合物である。前記アリル化合物としては、分子中にアリル基を1個有する単官能アリル化合物、及び分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物が挙げられる。前記多官能アリル化合物としては、例えば、ジアリルフタレート(DAP)等が挙げられる。
【0104】
前記分子中にマレイミド基を有する化合物が、マレイミド化合物である。前記マレイミド化合物としては、分子中にマレイミド基を1個有する単官能マレイミド化合物、分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物、及び変性マレイミド化合物等が挙げられる。前記変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中の一部がアミン化合物で変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン化合物及びシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
【0105】
前記分子中にアセナフチレン構造を有する化合物が、アセナフチレン化合物である。前記アセナフチレン化合物としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン化合物としては、前記のような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。
【0106】
前記分子中にイソシアヌレート基を有する化合物が、イソシアヌレート化合物である。前記イソシアヌレート化合物としては、分子中にアルケニル基をさらに有する化合物(アルケニルイソシアヌレート化合物)等が挙げられ、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0107】
前記硬化剤は、上記の中でも、例えば、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタアクリレート化合物、分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、スチレン誘導体、分子中にアリル基を有するアリル化合物、分子中にマレイミド基を有するマレイミド化合物、分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物が好ましい。
【0108】
前記硬化剤は、上記硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0109】
前記硬化剤は、重量平均分子量が100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。前記硬化剤の重量平均分子量が低すぎると、前記硬化剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、前記硬化剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、前記硬化剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との反応により、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物を含有する樹脂組成物を好適に硬化させることができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0110】
前記硬化剤は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との反応に寄与する官能基の、前記硬化剤1分子当たりの平均個数(官能基数)は、前記硬化剤の重量平均分子量によって異なるが、例えば、1~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
【0111】
(反応開始剤)
本実施形態に係る樹脂組成物には、さらに、反応開始剤(開始剤)を含有してもよい。前記樹脂組成物は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤とからなるものであっても、硬化反応は進行し得る。また、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物のみであっても、硬化反応は進行し得る。しかしながら、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。
【0112】
前記反応開始剤は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物(前記硬化剤を含む場合は硬化剤も)の硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、金属酸化物、アゾ化合物、有機過酸化物等が挙げられる。
【0113】
金属酸化物としては、具体的には、カルボン酸金属塩等が挙げられる。
【0114】
有機過酸化物としては、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる
【0115】
アゾ化合物としては、具体的には、2,2’ -アゾビス(2,4,4―トリメチルペンタン)、2,2’ -アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’ -アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等が挙げられる。
【0116】
中でも好ましい反応開始剤は、2,2’ -アゾビス(2,4,4―トリメチルペンタン)、2,2’ -アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)等である。これらの反応開始剤は、誘電特性への影響が小さい。また、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、前記樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができるといった利点があるからである。
【0117】
上述したような反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
(無機充填材)
本実施形態に係る樹脂組成物には、さらに、無機充填材等の充填材を含有してもよい。充填材としては、樹脂組成物の硬化物の、熱膨張を抑えるため及び難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。また、充填材を含有させることによって、耐熱性及び難燃性等をさらに高めることができる。充填材としては、具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。また、充填材としては、この中でも、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。また、充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、充填材としては、そのまま用いてもよいし、前記シランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。
【0119】
また、無機充填剤として、シラノール基に含まれるSi原子の数の比率が全Si原子の数に対して3%以下であるシリカを用いることも好ましい。本実施形態の樹脂組成物に、上記のようなシラノール基が少ないシリカを無機充填材として含有させることによって、さらに、熱処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物となると考えられる。前記シリカは、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下であり、さらには、2.5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。また、この比率は低いほど好ましいが、実際には、0.1%程度が限界である。このことから、前記比率は、0.1~3%であることが好ましい。
【0120】
シリカにおける、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率の測定は、シリカに含まれる全Si原子の数に対する、シリカに含まれるシラノール基(Si-OH)に含まれるSi原子の数の比率を測定することができれば、特に限定されない。例えば、固体29Si-NMR測定によりシリカのスペクトルを得ること等によって測定可能である。
【0121】
(各含有量)
前記フリーラジカル化合物の含有量は、前記樹脂組成物における前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤の合計100質量部に対して、0.01~0.4質量部であることが好ましく、0.05~0.3質量部であることがより好ましく、0.1~0.2質量部であることがさらに好ましい。前記フリーラジカル化合物の含有量が上記範囲内であれば、誘電特性が低く、耐熱性が高く、熱処理および/または吸水処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られ、かつ成形性に優れる樹脂組成物がより確実に得られると考えられる。
【0122】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、前記樹脂組成物における樹脂成分(有機成分)100質量部に対して、10~95質量部であることが好ましく、15~90質量部であることがより好ましく、20~90質量部であることがさらに好ましい。すなわち、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有率は、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分に対して、10~95質量%であることが好ましい。
【0123】
前記樹脂組成物に上述の通り、前記硬化剤を含有してもよく、前記樹脂組成物に前記硬化剤を含有する場合は、例えば、前記硬化剤の含有量が、前記樹脂組成物における樹脂成分(有機成分)100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。また、前記硬化剤の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。
【0124】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記硬化剤の各含有量が、上記範囲内の含有量であれば、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物になる。このことは、前記重合体と前記硬化剤との硬化反応が好適に進行するためと考えられる。
【0125】
本実施形態の樹脂組成物が前記反応開始剤を含む場合、その含有量としては、特に限定されないが、例えば、前記重合体と前記硬化剤と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との合計質量100質量部に対して、0.5~8.0質量部であることが好ましく、0.5~5.0質量部であることがより好ましく、0.5~2.0質量部であることがさらに好ましい。前記反応開始剤の含有量が少なすぎると、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との硬化反応が好適に開始しない傾向がある。また、前記開始剤の含有量が多すぎると、得られたプリプレグの硬化物の誘電正接が大きくなり、優れた低誘電特性を発揮しにくくなる傾向がある。よって、前記反応開始剤の含有量が上記範囲内であれば、優れた低誘電特性を有するプリプレグの硬化物が得られる。
【0126】
本実施形態の樹脂組成物が前記反応開始剤を含む場合、樹脂組成物中における前記フリーラジカル化合物と前記反応開始剤との割合は、フリーラジカル化合物:反応開始剤=0.005:1.0~0.2:1.0程度となっていることが好ましく、0.01:1.0~0.2:1.0程度となっていることがより好ましく、0.1:1.0~0.2:1.0程度となっていることがさらに好ましい。それにより、本発明の効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0127】
また、本実施形態の樹脂組成物が無機充填材を含有する場合、その含有率(フィラーコンテンツ)は、前記樹脂組成物に対して、30~270質量%であることが好ましく、50~250質量%であることがより好ましい。
【0128】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上述した成分以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。本実施形態に係る樹脂組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、反応促進剤、触媒、分散剤、レベリング剤、シランカップリング剤、難燃剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、及び滑剤等の添加剤をさらに含んでもよい。また、前記樹脂組成物には、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物、前記硬化剤、前記重合体以外にも、ポリフェニレンエーテル、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含有してもよい。
【0129】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、難燃剤を含有してもよい。難燃剤を含有することによって、樹脂組成物の硬化物の難燃性を高めることができる。前記難燃剤は、特に限定されない。具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用する分野では、例えば、融点が300℃以上のエチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、及びテトラデカブロモジフェノキシベンゼンが好ましい。ハロゲン系難燃剤を使用することにより、高温時におけるハロゲンの脱離が抑制でき、耐熱性の低下を抑制できると考えられる。また、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン含有難燃剤などが挙げられる。具体的には、例えば、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤が挙げられる。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステルが挙げられる。ホスファゼン系難燃剤の具体例としては、フェノキシホスファゼンが挙げられる。ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤の具体例としては、キシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。ホスフィン酸塩系難燃剤の具体例としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩が挙げられる。前記難燃剤としては、例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0130】
(製造方法)
前記樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記フリーラジカル化合物と、必要に応じてその他の成分を混合する方法等が挙げられる。具体的には、有機溶媒を含むワニス状の組成物を得る場合は、後述するプリプレグの説明において記載している方法等が挙げられる。
【0131】
本実施形態の樹脂組成物は、最低溶融粘度(T2)及び最低溶融粘度の温度から+10℃での溶融粘度(T1)が、T1/T2=1.0超10.0以下となっていることが好ましい。それにより、さらに粘度が低い状態が低く、樹脂組成物が広がりやすくなるという利点があると考えられる。特に、T1/T2=1.0超5.0以下であることがより好ましく、T1/T2=1.0超1.7以下であることがさらに好ましい。
【0132】
さらに、前記T2が、12000(poise)以下で、かつ、前記T1が15000(poise)以下であることが好ましい。それにより、パターンへの樹脂組成物が充填されやすくなり、成形性が向上すると考えられるからである。さらに、T2が4000(poise)以下で、T1が5000(poise)以下、特にT2が1300(poise)以下、T1が1520(poise)以下であることが特に好ましい。
【0133】
また、本実施形態の樹脂組成物は、その硬化物において、誘電正接(10GHz)が0.0028以下であることが好ましく、0.0026以下であることがさらに好ましい。
【0134】
さらに、本実施形態の樹脂組成物の硬化物をJIS C 6481(1996年)を参考にして吸湿処理(温度85℃湿度85%の環境で120時間処理)させ、処理前の硬化物における誘電正接との差異を測定した場合において、(吸湿処理後の誘電正接)-(吸湿処理前の誘電正接)が0.0006以下であることが好ましい。より好ましくは、0.0004以下である。
【0135】
また、本実施形態の樹脂組成物の硬化物を130℃の条件下で120時間保持(加熱処理)させ、この加熱処理させた硬化物の誘電正接(加熱処理後の誘電正接)を、処理前の硬化物の誘電正接との差異を測定した場合において、(加熱処理後の誘電正接)-(加熱処理前の誘電正接)が0.0012以下であることが好ましい。より好ましくは、0.0010以下である。
【0136】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いることによって、以下のように、プリプレグ、金属張積層板、配線板、樹脂付き金属箔、及び樹脂付きフィルムを得ることができる。なお、以下の説明において、各符号はそれぞれ:1 プリプレグ、2 樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物、3 繊維質基材、11 金属張積層板、12 絶縁層、13 金属箔、14 配線、21 配線板、31 樹脂付き金属箔、32、42 樹脂層、41 樹脂付きフィルム、43 支持フィルムを示す。
【0137】
[プリプレグ]
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。
【0138】
本実施形態に係るプリプレグ1は、
図1に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0139】
なお、本実施形態において、半硬化物とは、樹脂組成物をさらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0140】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物そのものを備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。
【0141】
プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材である繊維質基材3に含浸するために、樹脂組成物2は、ワニス状に調製されて用いられることが多い。すなわち、樹脂組成物2は、通常、ワニス状に調製された樹脂ワニスであることが多い。このようなワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)は、例えば、以下のようにして調製される。
【0142】
まず、樹脂組成物の組成のうち有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられる、有機溶媒に溶解しない成分(例えば、無機充填剤など)を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物や前記硬化剤等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0143】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態で用いる樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0144】
前記繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工として、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮する方法が挙げられる。なお、一般的に使用される繊維質基材の厚さは、例えば、0.01mm以上、0.3mm以下である。
【0145】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0146】
プリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物2、例えば、ワニス状に調製された樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。樹脂組成物2は、繊維質基材3へ、浸漬及び塗布等によって含浸される。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に希望とする組成及び含浸量に調整することも可能である。
【0147】
樹脂組成物(樹脂ワニス)2が含浸された繊維質基材3は、所望の加熱条件、例えば、80℃以上180℃以下で1分間以上10分間以下加熱される。加熱によって、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0148】
本実施形態に係る樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を備えるプリプレグは、誘電特性が低く、耐熱性が高く、熱処理や吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られるプリプレグである。さらに、成形性が良好であり、配線板などに使用する際には、回路パターンへの充填性にも優れる。
【0149】
[金属張積層板]
図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板11の一例を示す概略断面図である。
【0150】
金属張積層板11は、
図2に示すように、
図1に示したプリプレグ1の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12とともに積層される金属箔13とから構成されている。すなわち、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた金属箔13とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。また、前記金属箔13の厚みは、最終的に得られる配線板に求められる性能等に応じて異なり、特に限定されない。金属箔13の厚みは、所望の目的に応じて、適宜設定することができ、例えば、0.2~70μmであることが好ましい。また、前記金属箔13としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられ、前記金属箔が薄い場合は、ハンドリング性を向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔であってもよい。
【0151】
前記金属張積層板11を製造する方法としては、前記金属張積層板11を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグ1を用いて金属張積層板11を作製する方法が挙げられる。この方法としては、プリプレグ1を1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、金属箔13およびプリプレグ1を加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層板11を作製する方法等が挙げられる。すなわち、金属張積層板11は、プリプレグ1に金属箔13を積層して、加熱加圧成形して得られる。また、加熱加圧条件は、製造する金属張積層板11の厚みやプリプレグ1の組成物の種類等により適宜設定することができる。例えば、温度を170~210℃、圧力を3.5~4MPa、時間を60~150分間とすることができる。また、前記金属張積層板は、プリプレグを用いずに製造してもよい。例えば、ワニス状の樹脂組成物を金属箔上に塗布し、金属箔上に樹脂組成物を含む層を形成した後に、加熱加圧する方法等が挙げられる。
【0152】
本実施形態に係る樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層を備える金属張積層板は、誘電特性が低く、耐熱性が高く、熱処理や吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える金属張積層板である。さらに、成形性が良好であり、配線板などに使用する際には、回路パターンへの充填性にも優れる。
【0153】
[配線板]
図3は、本発明の実施形態に係る配線板21の一例を示す概略断面図である。
【0154】
本実施形態に係る配線板21は、
図3に示すように、
図1に示したプリプレグ1を硬化して用いられる絶縁層12と、絶縁層12ともに積層され、金属箔13を部分的に除去して形成された配線14とから構成されている。すなわち、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた配線14とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。
【0155】
前記配線板21を製造する方法は、前記配線板21を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、前記プリプレグ1を用いて配線板21を作製する方法等が挙げられる。この方法としては、例えば、上記のように作製された金属張積層板11の表面の金属箔13をエッチング加工等して配線形成をすることによって、絶縁層12の表面に回路として配線が設けられた配線板21を作製する方法等が挙げられる。すなわち、配線板21は、金属張積層板11の表面の金属箔13を部分的に除去することにより回路形成して得られる。また、回路形成する方法としては、上記の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。配線板21は、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層12を有する。
【0156】
このような配線板は、誘電特性が低く、耐熱性が高く、熱処理や吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板である。さらに、本実施形態の樹脂組成物は成形性が良好で、配線板における回路パターンへも良好な充填性を発揮する。そのため、導体回路(配線)間の距離が狭い配線板においても使用することができという利点がある。本実施形態の樹脂組成物であれば、特に限定はされないが、導体回路間が少なくとも一部で、例えば、50μm以下となっている導体回路パターンが設けられた配線板においても好適に使用することができる。
【0157】
特に、本実施形態の配線板は、回路層が2層以上ある多層配線板であってもよく、本実施形態の樹脂組成物であれば、当該多層配線板の層間絶縁材料としても好適に使用することができる。特に限定はされないが、例えば、配線間の距離が少なくとも一部で50μm以下である配線パターンが設けられている、2層以上の回路層とを備える多層配線板であってもよい。さらには、例えば、前記配線間の距離が少なくとも一部で30μm以下である配線パターンが設けられていてもよい。
【0158】
また本実施形態の樹脂組成物は、特に限定はされないが、回路層が5層以上、更には回路層が10層以上の高多層配線基板の絶縁層の絶縁材料に使用することが好ましい。回路層が5層以上、更には10層以上の高多層配線基板の製造において、本実施形態の層間絶縁材料を用いて、各層間絶縁層を形成する多層化工程での各内層回路を安定して埋め込むことができ、優れた成形性を確保できる。優れた成形性を確保できることで、回路層が5層以上、更には10層以上の高多層配線基板を、例えば吸湿させて高温処理した際に、多層配線基板の内層回路と層間絶縁層との接着面での隔離を防止できる。
【0159】
[樹脂付き金属箔]
図4は、本実施の形態に係る樹脂付き金属箔31の一例を示す概略断面図である。
【0160】
本実施形態に係る樹脂付き金属箔31は、
図4に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と、金属箔13とを備える。この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32の表面上に金属箔13を有する。すなわち、この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と、前記樹脂層32とともに積層される金属箔13とを備える。また、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と前記金属箔13との間に、他の層を備えていてもよい。
【0161】
また、前記樹脂層32としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔であってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0162】
また、金属箔としては、金属張積層板に用いられる金属箔を限定なく用いることができる。金属箔としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
【0163】
前記樹脂付き金属箔31及び前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィル等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、及びこれらのフィルムに離型剤層を設けて形成されたフィルム等が挙げられる。
【0164】
前記樹脂付き金属箔31を製造する方法は、前記樹脂付き金属箔31を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付き金属箔31の製造方法としては、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を金属箔13上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、金属箔13上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上180℃以下、1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層32として、金属箔13上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0165】
本実施形態に係る樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付き金属箔は、誘電特性が低く、耐熱性が高く、熱処理や吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂付き金属箔である。さらに、成形性が良好であり、配線板などに使用する際には、回路パターンへの充填性にも優れる。例えば、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。
【0166】
[樹脂付きフィルム]
図5は、本実施の形態に係る樹脂付きフィルム41の一例を示す概略断面図である。
【0167】
本実施形態に係る樹脂付きフィルム41は、
図5に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層42と、支持フィルム43とを備える。この樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と、前記樹脂層42とともに積層される支持フィルム43とを備える。また、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と前記支持フィルム43との間に、他の層を備えていてもよい。
【0168】
また、前記樹脂層42としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0169】
また、支持フィルム43としては、樹脂付きフィルムに用いられる支持フィルムを限定なく用いることができる。前記支持フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリアリレートフィルム等の電気絶縁性フィルム等が挙げられる。
【0170】
前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリメチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0171】
前記支持フィルム及びカバーフィルムとしては、必要に応じて、マット処理、コロナ処理、離型処理、及び粗化処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0172】
前記樹脂付きフィルム41を製造する方法は、前記樹脂付きフィルム41を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付きフィルム41の製造方法は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を支持フィルム43上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、支持フィルム43上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上180℃以下、1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層42として、支持フィルム43上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0173】
本実施形態に係る樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付きフィルムは、誘電特性が低く、耐熱性が高く、熱処理や吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂付きフィルムである。さらに、成形性が良好であり、配線板などに使用する際には、回路パターンへの充填性にも優れる。例えば、配線板の上に積層した後に、支持フィルムを剥離すること、又は、支持フィルムを剥離した後に、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。
【0174】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0175】
[実施例1~15、及び比較例1~5]
本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0176】
(PPE成分)
・変性PPE1:ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル(上記式(19)で表され、式(19)中のYがジメチルメチレン基(式(16)で表され、式(16)中のR33及びR34がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw2000、末端官能基数2個)
【0177】
・変性PPE2:ポリフェニレンエーテルとクロロメチルスチレンとを反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。具体的には、以下のように反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0178】
まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、攪拌した。そして、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、徐々に加熱し、最終的に液温が75℃になるまで加熱した。そして、その溶液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、75℃で4時間攪拌した。次に、10質量%の塩酸でフラスコの内容物を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、フラスコ内の液体に沈殿物を生じさせた。すなわち、フラスコ内の反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、この沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0179】
得られた固体を、1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5~7ppmにビニルベンジル基(エテニルベンジル基)に由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、前記置換基としてビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を分子中に有する変性ポリフェニレンエーテル化合物であることが確認できた。具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。この得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記式(18)で表され、Yがジメチルメチレン基(式(16)で表され、式(16)中のR33及びR34がメチル基である基)であり、Zが、フェニレン基であり、R1~R3が水素原子であり、nが1であり、pが1である変性ポリフェニレンエーテル化合物であった。
【0180】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数を、以下のようにして測定した。
【0181】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、その溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV-1600)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの末端水酸基数を算出した。
【0182】
残存OH量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×106
ここで、εは、吸光係数を示し、4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、1cmである。
【0183】
そして、その算出された変性ポリフェニレンエーテルの残存OH量(末端水酸基数)は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数からの減少分は、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数であることがわかった。すなわち、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数であることがわかった。つまり、末端官能基数が、2個であった。
【0184】
また、変性ポリフェニレンエーテルの、25℃の塩化メチレン中で固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)を、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0185】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPCを用いて、測定した。そして、その得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)を算出した。その結果、Mwは、2300であった。
【0186】
(硬化剤)
・アセナフチレン:JFEケミカル株式会社製のアセナフチレン
・マレイミド化合物:株式会社日本触媒製のN-フェニルモノマレイミド
・イソシアヌレート化合物:三菱ケミカル株式会社製のトリアリルイソシアヌレート(TAIC)
【0187】
(反応開始剤)
・アゾ系開始剤:富士フィルム和光純薬社製の「VR-110」
・過酸化物開始剤:PBP(1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン;日油株式会社製のパーブチルP)
【0188】
(フリーラジカル化合物)
・フリーラジカル化合物1:下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「H0865」
【0189】
【0190】
・フリーラジカル化合物2:下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「T3751」
【0191】
【0192】
・フリーラジカル化合物3:下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「H0878」
【0193】
【0194】
・フリーラジカル化合物4:下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「B5642」
【0195】
【0196】
・フリーラジカル化合物5:下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「C1406」
【0197】
【0198】
・フリーラジカル化合物6:下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「D4313」
【0199】
【0200】
・フリーラジカル化合物7:下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「G0020」
【0201】
【0202】
(カテコール化合物)
・4-tert-ブチルカテコール:東京化成工業株式会社社製の4-tert-Butylcatechol
【0203】
(無機充填材)
シリカフィラー1:アドマテックス社製の「SC-2300SVJ」(シラノール基量が4.0%のシリカ)
シリカフィラー2:アドマテックス社製の「5SV-C5」(シラノール基量が1.0%のシリカ)
【0204】
(調製方法)
まず、無機充填材以外の上記各成分を表1に記載の組成(質量部)で、固形分濃度が55質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた。その混合物を60分間攪拌した。その後、得られた液体に無機充填材を添加し、ビーズミルで充填材を分散させた。そうすることによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0205】
[溶融粘度]
上記プリプレグから得られた、樹脂組成物の粉状態の半硬化物0.5gを、直径1.0cm、高さ0.5cmのペレット状に、圧力2.8MPaで押し固めたものを測定サンプルとした。測定サンプルの溶融挙動は、Rheosol製G3000NT動的粘弾性測定機器を用い、測定した。測定条件としては、サンプル温度を、毎分4度で昇温させ、その際のサンプルの粘度を測定した。そして、半硬化状態(Bステージ)から、硬化状態(Cステージ)に至るまでの昇温過程において、最も粘度の測定値が減少した時の温度を、最低溶融粘度(T2)とした。
【0206】
[T1/T2]
前記最低溶融粘度(T2)から+10℃昇温したときの溶融粘度をT1とし、T1/T2を求めた。T1/T2は、昇温過程で、一度T2になった状態(粘度が最も小さくなった状態)から、硬化の速度を図る指標であり、T1/T2の値が小さいほうが、硬化の速度が遅いということになり、成形性が高い樹脂組成物の特徴のひとつと考えられる。
【0207】
次に、以下のようにして、評価基板(プリプレグの硬化物)を得た。
【0208】
得られたワニスを繊維質基材(ガラスクロス:旭化成株式会社製の1078L、#1078タイプ、Lガラス)に含浸させた後、120℃で3分加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。その際、硬化反応により樹脂を構成する成分の、プリプレグに対する含有量(レジンコンテント)が67質量%となるように調整した。そして、得られた各プリプレグを2枚重ねて、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより評価基板(プリプレグの硬化物)を得た。
【0209】
次に、以下のようにして、評価基板(金属張積層板)を得た。
【0210】
前記ワニスを繊維質基材(ガラスクロス:旭化成株式会社製のGC1078L、#1078タイプ、Lガラス)に含浸させた後、110℃で2分間加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。その際、硬化反応により樹脂を構成する成分の、プリプレグに対する含有量(レジンコンテント)が67質量%となるように調整した。
【0211】
得られた各プリプレグを2枚重ねて、その両側に、銅箔(古河電気工業株式会社のFV-WS、厚み18μm)を配置して被圧体とし、温度200℃、圧力3MPaの条件で2時間加熱・加圧して、両面に銅箔が接着された評価基板(金属張積層板)である銅箔張積層板を作製した。
【0212】
上記のように調製された評価基板(プリプレグの硬化物、及び金属張積層板)を、以下に示す方法により評価を行った。
【0213】
[成形性]
残銅率80%、同線厚みが35μmとなる、格子上の銅パターンが200mm×200mmの硬化物を用意した。その上に、200mm×200mmのプリプレグを重ねた。その上から、厚さ35μmで250mm×250mmの銅箔を重ねた。これらを厚さ3mm程度の金属製プレートで挟み、積層成形用プレス機で、以下に示す、条件で、加熱加圧した。加温条件としては、30度から、200度に到達するまでに、毎分4度で昇温させた。加圧条件としては、加温開始時は、プリプレグにかかる圧力が1MPaとなるように設定し、その後、温度は110℃になった際に、プリプレグにかかる圧力が3MPaとなるようにし、プリプレグを硬化させた。
【0214】
その結果、格子パターンと硬化物との間に隙間が発生せず、充填された場合は「〇」と評価し、隙間が発生する場合は「×」と評価した。隙間の有無については、積層成形用プレス機で作製した硬化物の銅箔を、除去し、他面から光を透過させた際に、白っぽく見える隙間が確認できるかどうかで判断した。
【0215】
[吸湿処理前の誘電正接]
10GHzにおける評価基板(プリプレグの硬化物)の誘電正接を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワーク・アナライザ(キーサイト・テクノロジー株式会社製のN5230A)を用い、10GHzにおける評価基板の誘電正接を測定した。
【0216】
[吸湿処理後の誘電正接]
前記吸水処理前の誘電正接の測定で用いた評価基板を、JIS C 6481(1996年)を参考にして吸湿処理させ、この吸湿処理させた評価基板の誘電正接(吸湿後の誘電正接)を、前記吸湿処理前の誘電正接の測定と同様の方法で測定した。なお、前記吸湿処理としては、前記評価基板を温度85℃湿度85%の環境で120時間処理した後、評価基板上の水分を、乾燥した清浄な布で充分にふき取り、前記測定を行った。
【0217】
[誘電正接の変化量(吸湿処理後-吸湿処理前)]
吸湿処理前の誘電正接と吸湿処理後の誘電正接の差(吸湿処理後の誘電正接-吸湿処理前の誘電正接)を算出した。
【0218】
[加熱処理前の誘電正接]
10GHzにおける評価基板の誘電正接を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワーク・アナライザ(キーサイト・テクノロジー株式会社製のN5230A)を用い、10GHzにおける評価基板の誘電正接を測定した。
【0219】
[加熱処理後の誘電正接]
前記加熱処理前の誘電正接の測定で用いた評価基板を、130℃の条件下で120時間保持(加熱処理)させ、この加熱処理させた評価基板の誘電正接(加熱処理後の誘電正接)を、前記加熱処理前の誘電正接の測定と同様の方法で測定した。
【0220】
[誘電正接の変化量(加熱処理後-加熱処理前)]
加熱処理前の誘電正接と加熱処理後の誘電正接の差(=加熱処理後の誘電正接-加熱処理前の誘電正接)を算出した。
【0221】
[ガラス転移温度(DMA)(Tg)]
セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS6100」を用いて、硬化物のTgを測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から320℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。
【0222】
上記各評価における結果は、表1に示す。
【0223】
【0224】
(考察)
表1からわかるように、本発明の樹脂組成物を使用した実施例では、いずれも、誘電特性が低く、耐熱性が高く、外部環境の変化等の影響を受けにくい硬化物を得ることができ、積層配線板への適用が可能な成形性を備えた樹脂組成物が提供できることが確認された。
【0225】
一方、フリーラジカル化合物を含有していない比較例1~3では、外部環境の変化の影響を受け、低誘電特性を維持することができなかった。さらに、フリーラジカル化合物および反応開始剤を含有していない比較例1では、最低溶融後から、硬化が速やかに始まってしまうため、成形性としては劣る結果となった。比較例2、比較例3も、比較例1同様、反応開始剤添加の効果により、最低溶融後、硬化が速やかにすすんでしまい、成形性が劣る結果となった。
【0226】
この出願は、2019年9月27日に出願された日本国特許出願特願2019-177946を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0227】
本発明を表現するために、前述において具体例や図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0228】
本発明は、電子材料やそれを用いた各種デバイスに関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。