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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】データ分析装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20241115BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20241115BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022527483
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2020043658
(87)【国際公開番号】W WO2021240845
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2020092464
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 寛
(72)【発明者】
【氏名】沖本 純幸
(72)【発明者】
【氏名】市村 大治郎
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 瞳
(72)【発明者】
【氏名】多鹿 陽介
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-027470(JP,A)
【文献】特開2017-167599(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013196(WO,A1)
【文献】特開2012-252662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工程を含む流れ作業を行う効率を分析するデータ分析装置であって、
前記流れ作業が行われる毎に各工程が実行された履歴を示すログデータを取得する取得部と、
前記流れ作業に関する確率分布を演算する確率モデルにより生成される情報に基づいて、前記ログデータが示す履歴の分析結果を示す分析情報を生成する制御部とを備え、
前記確率モデルは、
前記流れ作業における工程毎の効率の確率分布を示す工程効率分布、及び各工程において前記流れ作業の効率を変動させる要因の確率分布を示す変動要因分布を生成し、
前記工程効率分布および前記変動要因分布に基づいて、前記流れ作業の効率の確率分布を示す作業効率分布を生成し、
前記確率モデルは、特定の要因に関する前記変動要因分布の代わりに前記ログデータが示す履歴における当該要因の観測値を用いて、当該要因が観測された状態の作業効率分布を生成し、
前記分析情報は、当該要因が観測された状態の作業効率分布と、観測されていない状態の作業効率分布との間の差分に応じて、前記流れ作業の効率に対する当該要因の影響を評価する情報を含む
データ分析装置。
【請求項2】
前記確率モデルは、前記工程毎に予め設定された係数に基づいて、前記工程毎の前記変動要因分布を重み付けして、前記作業効率分布を生成する
請求項1に記載のデータ分析装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記ログデータが示す履歴における前記流れ作業の効率が、前記作業効率分布において生じる確率に基づいて、前記効率の変動を検出し、
前記効率の変動の検出結果に応じて、前記分析情報を生成する
請求項1又は2に記載のデータ分析装置。
【請求項4】
前記確率モデルは、前記複数の工程の効率において最も低い効率の確率分布を示す最低効率分布に基づいて、前記作業効率分布を生成する
請求項1~のいずれか1項に記載のデータ分析装置。
【請求項5】
前記確率モデルは、前記最低効率分布の代わりに前記ログデータが示す履歴における前記各工程の効率のうちの特定の工程の効率の観測値を用いて、当該工程の効率が観測された状態の作業効率分布を生成し、
前記分析情報は、当該工程の効率が観測された状態の作業効率分布と、観測されていない状態の作業効率分布との間の差分に応じて、前記流れ作業の効率に対する当該工程の効率の影響を評価する情報を含む
請求項に記載のデータ分析装置。
【請求項6】
前記流れ作業は、前記各工程を実行する複数の設備を含む生産ラインにおいて物品を生産する作業であり、
前記各工程の要因は、当該工程を実行する設備のエラーによる停止、及び前記物品における不良品の発生のうちの少なくとも一方を含む
請求項1~のいずれか1項に記載のデータ分析装置。
【請求項7】
前記確率モデルを示すモデルデータを格納する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記記憶部に格納されたモデルデータに基づいて、前記確率モデルとして前記作業効率分布を生成する演算を実行する
請求項1~のいずれか1項に記載のデータ分析装置。
【請求項8】
前記確率モデルは、前記流れ作業が過去に行われた履歴に基づくベイズ推定によって構築される
請求項1~のいずれか1項に記載のデータ分析装置。
【請求項9】
複数の工程を含む流れ作業を行う効率を分析するデータ分析方法であって、
前記流れ作業が行われる毎に各工程が実行された履歴を示すログデータを取得するステップと、
前記流れ作業に関する確率分布を演算する確率モデルにより生成される情報に基づいて、前記ログデータが示す履歴の分析結果を示す分析情報を生成するステップとを含み、
前記確率モデルは、
前記流れ作業における工程毎の効率の確率分布を示す工程効率分布、及び各工程において前記流れ作業の効率を変動させる要因の確率分布を示す変動要因分布を生成し、
前記工程効率分布および前記変動要因分布に基づいて、前記流れ作業の効率の確率分布を示す作業効率分布を生成し、
前記確率モデルは、特定の要因に関する前記変動要因分布の代わりに前記ログデータが示す履歴における当該要因の観測値を用いて、当該要因が観測された状態の作業効率分布を生成し、
前記分析情報は、当該要因が観測された状態の作業効率分布と、観測されていない状態の作業効率分布との間の差分に応じて、前記流れ作業の効率に対する当該要因の影響を評価する情報を含む
データ分析方法。
【請求項10】
請求項に記載のデータ分析方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流れ作業を行う効率を分析するデータ分析装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、生産ラインの管理装置を開示している。生産ラインの管理装置は、物品を計量して包装する生産ラインにおいて、包装装置の稼働ログやエラーログなどに記録された動作情報に基づいて、計量装置損失時間を計算する。計量装置損失時間は、包装装置が物品を包装するために本来費やすことができた時間のうち、計量装置の運転動作が遅延することに起因して、包装装置の物品を包装する能力が低下したことにより失われた時間である。すなわち、計量装置損失時間は、生産ラインの稼働率低下の要因である。生産ラインの管理装置は、生産ラインの管理者が、生産ラインの稼働率低下の要因を容易に特定できるようにすることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-252662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、複数の工程において流れ作業を行う効率の変動を分析し易くすることができるデータ分析装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示におけるデータ分析装置は、複数の工程を含む流れ作業を行う効率を分析する。データ分析装置は、流れ作業が行われる毎に各工程が実行された履歴を示すログデータを取得する取得部と、流れ作業に関する確率分布を演算する確率モデルにより生成される情報に基づいて、ログデータが示す履歴の分析結果を示す分析情報を生成する制御部とを備える。確率モデルは、流れ作業における工程毎の効率の確率分布を示す工程効率分布、及び各工程において流れ作業の効率を変動させる要因の確率分布を示す変動要因分布を生成し、工程効率分布および変動要因分布に基づいて、流れ作業の効率の確率分布を示す作業効率分布を生成する。
【0006】
これらの概括的かつ特定の態様は、システム、方法、及びコンピュータプログラム、並びに、それらの組み合わせにより、実現されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示におけるデータ分析装置及び方法によると、複数の工程において流れ作業を行う効率の変動を分析し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態1に係るデータ分析装置の概要を説明するための図
図2】データ分析装置の構成を例示するブロック図
図3】データ分析装置における設備ログデータのデータ構造を例示する図
図4】製造ラインのデータ分析動作の概要を説明するための図
図5】データ分析装置におけるラインタクト推定モデルを説明するための図
図6】ラインタクト推定モデルにおけるタクト推定部を説明するための図
図7】データ分析装置におけるモデル構築動作を例示するフローチャート
図8】データ分析装置におけるモデルデータのデータ構造を例示する図
図9】製造ラインのデータ分析動作を例示するフローチャート
図10】製造ラインのデータ分析動作を説明するための図
図11】データ分析動作における要因評価リストの一例を示す図
図12】データ分析動作における処理の詳細を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0010】
なお、出願人は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0011】
(実施形態1)
以下、本開示の実施形態1について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
1.構成
1-1.概要
図1は、本実施形態に係るデータ分析装置2の概要を説明するための図である。本実施形態のデータ分析装置2は、例えば工場1の製造ライン10に含まれる種々の設備11を稼働する流れ作業において各種の製造品を生産する性能のデータ管理に適用される。工場1の稼働時においては、例えば製造ライン10において個々の設備11が稼働した時間、及びエラーを起こした状況などのデータが収集され、設備ログデータD1として蓄積される。
【0013】
図1に例示する製造ライン10は、例えば製造品を製造する第1工程から第n工程までの一連の工程における各工程に対応した複数n個の設備11と、連続する工程の設備11間で完成前の製造品(即ち仕掛品)を格納する仕掛バッファ12とを含む。各設備11は、それぞれ対応する工程を実施するための種々の機械設備で構成される。仕掛バッファ12は、仕掛品を格納可能な数量である許容量を有する置場である。
【0014】
工場1においては製造品を持続的に生産するように製造ライン10の生産性能を維持する観点から、生産性能が低下する不調に陥ったときには機動的に、不調が発生したことを検出して不調の原因を特定することが求められている。製造ライン10では、一つの工程における設備11の停止が別の工程における設備11の待ちに繋がるといった事態が生じ得る。従来技術のデータ管理では、製造ライン10における性能低下の不調が、製造ライン10の全工程の中でどの設備11の何れの要因にあるのかを分析するデータ分析は実現し難かった。
【0015】
例えば製造ライン10における生産性能の低下は、1ロット等の製造品を生産する際に単位数量(例えば1個)の製造品が得られる時間すなわちタクトタイムの増加に対応すると考えられる。しかしながら、タクトタイムは、普段から性能が低い設備を用いた場合あるいは製造の難度が高い工程を行う場合にも増加し、こうした場合は性能低下の不調ではない。本実施形態のデータ分析装置2では、こうした場合から区別して製造ライン10の不調を検出するデータ分析を実現する。
【0016】
又、設備11の不調の要因としては、例えば各設備11における様々な種類のエラーによる稼働停止が想定される。ここで、普段から頻繁に起こるエラーが、不調時にも普段と同様に起こった場合、当該エラーが性能低下に及ぼす影響は、比較的小さいと考えられる。一方、普段は起きないエラーが不調時に起こった場合、当該エラーの影響は大きく、不調の要因である可能性が高いと考えられる。さらに、製造ライン10の各種工程の中では、ボトルネックに近い工程におけるエラーの影響が大きくなると考えられる。本実施形態のデータ分析装置2では、こうした影響を反映して、各種の要因毎に不調の原因と考えられる程度を評価するデータ分析を実現する。
【0017】
1-2.データ分析装置の構成
本実施形態におけるデータ分析装置2の構成について、図2図3を参照して説明する。図2は、データ分析装置2の構成を例示するブロック図である。
【0018】
データ分析装置2は、例えばPCなどの情報処理装置で構成される。図2に例示するデータ分析装置2は、制御部20と、記憶部21と、操作部22と、表示部23と、機器インタフェース24と、ネットワークインタフェース25とを備える。以下、インタフェースを「I/F」と略記する。
【0019】
制御部20は、例えばソフトウェアと協働して所定の機能を実現するCPU又はMPUを含み、データ分析装置2の全体動作を制御する。制御部20は、記憶部21に格納されたデータ及びプログラムを読み出して種々の演算処理を行い、各種の機能を実現する。
【0020】
例えば制御部20は、機能的構成として、計算部30と、モデル構築部31と、検出部32と、評価部33とを備える。計算部30は、設備ログデータD1から各種の観測値を計算する。モデル構築部31は、後述するラインタクト推定モデル4(図5参照)を生成するモデル構築動作を実行する。検出部32は、ラインタクト推定モデルを用いて製造ライン10の不調を検出する。評価部33は、ラインタクト推定モデルを用いて不調の要因を評価する。こうしたデータ分析装置2の各種機能による動作については後述する。
【0021】
制御部20は、例えば上記のようなデータ分析装置2の機能或いはデータ分析動作又はモデル構築動作を実現するための命令群を含んだ各種プログラムを実行する。当該プログラムは、インターネット等の通信ネットワークから提供されてもよいし、可搬性を有する記録媒体に格納されていてもよい。また、制御部20は、上記各機能を実現するように設計された専用の電子回路又は再構成可能な電子回路などのハードウェア回路であってもよい。制御部20は、CPU、MPU、GPU、GPGPU、TPU、マイコン、DSP、FPGA及びASIC等の種々の半導体集積回路で構成されてもよい。
【0022】
記憶部21は、データ分析装置2の機能を実現するために必要なプログラム及びデータを記憶する記憶媒体である。記憶部21は、図2に示すように、格納部21a及び一時記憶部21bを含む。
【0023】
格納部21aは、所定の機能を実現するためのパラメータ、データ及び制御プログラム等を格納する。格納部21aは、例えばHDD又はSSDで構成される。例えば、格納部21aは、上記のプログラム、並びに設備ログデータD1及びモデルデータD2などを格納する。
【0024】
設備ログデータD1は、製造ライン10における流れ作業が行われる毎に各々の設備11において各工程が実行された履歴の各種情報を記録するログデータの一例である。モデルデータD2は、ラインタクト推定モデルを構成するデータである(詳細は後述)。設備ログデータD1の一例を図3に例示する。
【0025】
設備ログデータD1は、例えば図3に示すように、稼働ログデータD11と、エラーログデータD12とを含む。稼働ログデータD11は、例えば「製造品番」、「ロット番号」、「ライン番号」、「設備名」、「構造パラメータs」、「構造パラメータl」、「開始時刻」、「終了時刻」、「停止時間」、「製造数」及び「良品数」を関連付けて記録する。設備ログデータD1は、例えば製造品のロットを識別する「ロット番号」により、製造ライン10で行われた流れ作業の履歴をロット毎に管理する。
【0026】
例えば、「製造品番」を有する製造品の1ロット分の生産において、「ライン番号」で識別される製造ライン10において「設備名」で識別される各設備11がそれぞれ「開始時刻」から「終了時刻」まで稼働し、そのうち「停止時間」だけ停止したことが記録される。さらに、この際に「製造数」の個数分の製造品が得られ、その内の「良品数」の個数分の良品が得られたことが記録される。構造パラメータs,lは、製造品の構造等に応じて設定される。また、設備ログデータD1におけるエラーログデータD12は、例えば各ロットにおいて、「設備名」の設備11が、エラーの種類を識別する「エラーコード」毎に停止した「停止時間」、および「停止回数」を記録する。
【0027】
図2に戻り、一時記憶部21bは、例えばDRAM又はSRAM等のRAMで構成され、データを一時的に記憶(即ち保持)する。また、一時記憶部21bは、制御部20の作業エリアとして機能してもよく、制御部20の内部メモリにおける記憶領域で構成されてもよい。
【0028】
操作部22は、ユーザが操作を行う操作部材の総称である。操作部22は、表示部23と共にタッチパネルを構成してもよい。操作部22はタッチパネルに限らず、例えば、キーボード、タッチパッド、ボタン及びスイッチ等であってもよい。操作部22は、ユーザの操作によって入力される諸情報を取得する取得部の一例である。
【0029】
表示部23は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイで構成される出力部の一例である。表示部23は、操作部22を操作するための各種アイコン及び操作部22から入力された情報など、各種の情報を表示してもよい。
【0030】
機器I/F24は、データ分析装置2に外部機器を接続するための回路である。機器I/F24は、所定の通信規格にしたがい通信を行う通信部の一例である。所定の規格には、USB、HDMI(登録商標)、IEEE1395、WiFi、Bluetooth等が含まれる。機器I/F24は、データ分析装置2において外部機器に対し、諸情報を受信する取得部あるいは送信する出力部を構成してもよい。
【0031】
ネットワークI/F25は、無線または有線の通信回線を介してデータ分析装置2を通信ネットワークに接続するための回路である。ネットワークI/F25は所定の通信規格に準拠した通信を行う通信部の一例である。所定の通信規格には、IEEE802.3,IEEE802.11a/11b/11g/11ac等の通信規格が含まれる。ネットワークI/F25は、データ分析装置2において通信ネットワークを介して、諸情報を受信する取得部あるいは送信する出力部を構成してもよい。
【0032】
以上のようなデータ分析装置2の構成は一例であり、データ分析装置2の構成はこれに限らない。データ分析装置2は、サーバ装置を含む各種のコンピュータで構成されてもよい。本実施形態のデータ分析動作及びモデル構築動作は、それぞれ分散コンピューティングにおいて実行されてもよい。また、データ分析装置2における取得部は、制御部20等における各種ソフトウェアとの協働によって実現されてもよい。データ分析装置2における取得部は、各種記憶媒体(例えば格納部21a)に格納された諸情報を制御部20の作業エリア(例えば一時記憶部21b)に読み出すことによって、諸情報の取得を行うものであってもよい。
【0033】
2.動作
以上のように構成されるデータ分析装置2の動作について、以下説明する。
【0034】
2-1.全体動作
本実施形態におけるデータ分析装置2の全体的な動作について、図1図4を用いて説明する。図4は、データ分析装置2における製造ライン10のデータ分析動作の概要を説明するための図である。
【0035】
本実施形態において、例えばデータ分析装置2のモデル構築部31は、蓄積された設備ログデータD1に基づく機械学習により、ラインタクト推定モデル4を構築するモデル構築動作を行う。ラインタクト推定モデル4は、ベイズ推定により製造ライン10におけるタクトタイムを推定する確率モデルである。ラインタクト推定モデル4は、性能低下の不調を引き起こす様々な要因に関する推定を実行可能であり、且つ当該要因に関する観測値を付加的な知識として入力可能に構築される。
【0036】
本実施形態のデータ分析装置2は、構築されたラインタクト推定モデル4を利用するデータ分析動作を実行して、製造ライン10の生産性能を管理する。例えば、データ分析装置2の検出部32は、データ分析動作の対象とする設備ログデータD1における観測値から、ラインタクト推定モデル4による推定結果よりも大幅に生産性能が低下した場合を製造ライン10の不調として検出する。
【0037】
図4(A)は、ラインタクト推定モデル4による推定結果を例示する。図4(A)の横軸は、製造ライン10が稼働した稼働時期を示し、縦軸は製造ライン10のタクトタイムを示す(図4(B)も同様)。縦軸のタクトタイムは、例えば後述する実効タクトである。
【0038】
図4(A)では、実効タクトの観測値を示す観測曲線Coと共に、ラインタクト推定モデル4による推定結果として推定曲線C1と信頼区間I1とを示す。推定曲線C1は、ラインタクト推定モデル4による各時点の実効タクトの推定結果として得られる確率分布における中央値を示す。信頼区間I1は、各時期の確率分布において所定の信頼水準によって規定される区間を示し、例えば信頼水準が95%である信頼区間I1は、上記確率分布における2.5%~97.5%の範囲である。
【0039】
図4(A)の例では、時期T1,T2において観測曲線Coが、推定曲線C1を大幅に上回り、信頼区間I1の上限を超えている。つまり、この時期T1,T2では、実際のタクトタイムが、ラインタクト推定モデル4の推定結果よりも大幅に増大し、生産性能が低下していると考えられる。本実施形態のデータ分析装置2は、こうした時期T1,T2を製造ライン10の不調として検出する。例えば製造ライン10の不調が検出された時期T1,T2に関して、データ分析装置2の評価部33は、不調の原因となり得る各種要因の観測値をラインタクト推定モデル4に入力して、各要因が製造ライン10の不調に与えた影響の評価値を示す影響度を算出する。
【0040】
図4(B)は、図4(A)の状態から特定のエラーに関する観測値を入力した場合のラインタクト推定モデル4による推定結果を示す。図4(B)において、観測曲線Coは図4(A)と同様である。一方、推定曲線C2及び信頼区間I2は、ラインタクト推定モデル4が入力されたエラーの観測値を知得したことに応じて図4(A)の推定曲線C1及び信頼区間I1から変化している。
【0041】
図4(B)の例では、観測曲線Coが、時期T2においては信頼区間I2の範囲内に収まっている。つまり、入力されたエラーの観測値が既知である状態のラインタクト推定モデル4の推定結果は、不調の時期T2については推定できていると考えられる。一方、観測曲線Coは、時期T1においては信頼区間I2の上限を超えたままである。以上のことから、入力されたエラーが及ぼす影響は、時期T2の不調については大きく、時期T1の不調については小さいといったことが分かる。本実施形態のデータ分析動作では、ラインタクト推定モデル4を用いて、以上のような影響度を各種エラー等の要因毎に算出することにより、不調の要因を定量的に評価する。
【0042】
本実施形態において、以上のような各種データ分析方法が適用される製造ライン10においては、工程順に複数の設備11が、仕掛バッファ12を介して直列的に連結されている。各設備11は、各々の工程を実行する際のタクトタイムをそれぞれ有する。製造ライン10においては、個々の設備11のエラー停止に加えて、互いに前後する工程間のタクトタイムの差から前工程待ち又は後工程待ちといった状況が生じ得る。
【0043】
以上のような状況を踏まえて、製造ライン10全体の生産性能が低下した不調時に、不調の原因が、どの設備のどういった要因であるのかを分析可能にすることが課題となる。そこで、本実施形態では、各工程における設備11毎のエラー等が、製造ライン10全体に影響を与える程度も反映されるように、ラインタクト推定モデル4を構築する。
【0044】
2-2.ラインタクト推定モデルについて
本実施形態におけるラインタクト推定モデル4について、図5を用いて説明する。
【0045】
例えば図5に示すように、本実施形態におけるラインタクト推定モデル4は、製造ライン10に含まれる設備11毎に設けられる第1~第nのタクト推定部5と、各タクト推定部5による推定結果を統合するライン統合部40とを含む。本実施形態のラインタクト推定モデル4は、1つの製造ライン10に対応する。データ分析装置2は、製造ライン10毎に複数のラインタクト推定モデル4を構築してもよい。
【0046】
ラインタクト推定モデル4における第iのタクト推定部5は、製造ライン10における第i工程の設備11に対応する確率モデルで構成される(iは1~nの自然数)。本実施形態において、各タクト推定部5は、例えば下記の関係式(1)のように、設備11毎の実効的なタクトタイムを複数の要因に分解する観点から構築される(詳細は後述)。
Ot/Pc+Ot(Pc-Gc)/(Pc・Gc)+Et/Gc=Mt/Gc …(1)
【0047】
上式(1)において、Otは製造時間であり、Pcは製造個数であり、Gcは良品数であり、Etはエラー停止時間であり、Mtは稼働時間である。上記の各種時間及び個数は、例えば設備ログデータD1におけるロット毎に管理される。例えば、稼働時間Mtは、1ロット分の製造品が製造される際に、特定の設備11が稼働した時間の長さを示す。製造時間Otは、稼働時間Mt中で同設備11による工程の実行すなわち製造にかかった時間長さを示す。エラー停止時間Etは、稼働時間Mt中で同設備11における各種エラーにより製造が停止した時間長さを示す。製造数Ptは、例えば1ロットで製造された製造品の個数を示す。良品数Gcは、製造数Ptのうちの不良品でない良品の個数を示す。
【0048】
上式(1)において、左辺における第1項は理想タクトを示し、第2項は不良時間幅を示し、第3項はエラー時間幅を示し、右辺は実効タクトを示す。理想タクトは、不良品もエラーによる停止も生じないような理想的な場合における1個の製造品あたりのタクトタイムである。理想タクトは、例えば製造品の品種及び設備11の各種設定に応じて変動する工程毎の効率に対応する。不良時間幅は、製造時間Ot中で不良品の製造に費やしたと考えられる時間長さを、1個の良品あたりに換算した時間幅である。エラー時間幅は、エラー停止時間Etを1個の良品あたりに換算した時間幅である。実効タクトは、不良品及びエラーの影響を考慮した実効的な1個の良品あたりのタクトタイムである。
【0049】
以下、製造ライン10中の第i工程の設備11における理想タクトを「t 」とし、不良時間幅を「y」とし、エラー時間幅を「Σ 」とし、実効タクトを「t 」とする。ここで、エラー時間幅Σ は、エラーコード毎のエラー時間幅s の総和を取る。第iのタクト推定部5は、第i工程の設備11についての設備ログデータD1に基づくベイズ推定により、理想タクトt と、不良時間幅yと、各種エラー時間幅s と、実効タクトt との各々の確率分布を生成するように構築される(詳細は後述)。
【0050】
本実施形態のラインタクト推定モデル4は、ライン統合部40において、製造ライン10における設備11間の関係を反映するように、設備11毎の各タクト推定部5による算出結果を統合する。例えば、設備11毎のタクトタイムのうち、最も遅いタクトタイムが製造ライン10全体を律速すると考えられる。こうしたことを反映する観点から、製造ライン10全体の理想タクトt及び実効タクトtは、次式(2),(3)のように表される。
=max(t ) …(2)
=max(t ) …(3)
【0051】
上式(2)は、i=1~nの範囲すなわち製造ライン10中の第1工程から第n工程の各設備11の理想タクトt ~t における最大値を取る。上式(3)についても同様に、各設備11の実効タクトt ~t における最大値を取る。
【0052】
本実施形態のラインタクト推定モデル4は、製造ライン10全体においても一設備11あたりと同様に、エラー停止および不良品製造を生産性低下の要因として取り入れる。ここで、製造ライン10においては、例えば第i工程の設備11がエラーで停止したとき、後段の設備11は、両者の間の仕掛バッファ12に予め格納された仕掛品の分だけ、待ち状態とならずに稼働できると考えられる。又、第i工程の設備11の停止時に、前段の設備11は、両者の間の仕掛バッファ12が許容量に到らない限り、待ち状態とならず稼働できると考えられる。
【0053】
上記のように、製造ライン10において各設備11によるエラー停止等の影響は、仕掛バッファ12によって緩和されることが考えられる。こうした仕掛バッファ12の作用を反映する観点から、本実施形態では、次式(4)のように、設備11毎の吸収係数αを導入する。
+Σα(Σ +y)=t …(4)
【0054】
上式(4)では、製造ライン10中のi=1番目からn番目までにわたる吸収係数αにより、各設備11のエラー時間幅Σ 及び不良時間幅yを重み付けする加重和を取る。i番目の吸収係数αは、第i工程の設備11に対応している。吸収係数αは、それぞれ0以上1以下の値に設定される。
【0055】
本実施形態のラインタクト推定モデル4は、第i工程の設備11前後の仕掛バッファ12の許容量が大きいほどi番目の吸収係数αを「0」に近づけ、許容量が小さいほど吸収係数αを「1」に近づけてライン統合部40に設定する。こうした設備11毎の吸収係数αにより、仕掛バッファ12によって製造ライン10の実効タクトtにおける第i工程のエラー停止等の影響が小さくなるといったことを、ラインタクト推定モデル4に反映することができる。
【0056】
ラインタクト推定モデル4のライン統合部40は、製造ライン10の実効タクトtの確率分布すなわち実効タクト分布D(t)を、例えば次式(5)のように算出する。
D(t)=N(t+Σα(Σ +y),σ) …(5)
【0057】
上式(5)において、N(μ,σ)は、平均μ及び標準偏差σの正規分布を表す。本実施形態おいて、製造ライン10の実効タクト分布D(t)のモデルパラメータσは、ベイズ推定により確率分布としてライン統合部40に設定される。実効タクト分布D(t)は、製造ライン10における流れ作業の効率に対応する実効タクトtについての作業効率分布の一例である。
【0058】
本実施形態のラインタクト推定モデル4は、上式(5)の演算において、各タクト推定部5の推定結果を使用可能であることに加えて、当該推定結果の一部又は全ての代わりに設備ログデータD1の観測値を使用可能である。なお、製造ライン10の実効タクト分布D(t)の関数形は、特に式(5)のような正規分布に限らず、例えば対数正規分布などであってもよい。
【0059】
2-2-1.タクト推定部について
本実施形態のラインタクト推定モデル4における設備11毎の各タクト推定部5についての詳細を、図6を用いて説明する。
【0060】
図6では、第iのタクト推定部5をDAG(有効非巡回グラフ)で示している。図6において、大きな黒塗りの丸印は、観測される確率変数で推定対象の変数を示す。白抜きの丸印は、潜在変数と呼ばれる観測することのできない確率変数で、モデルパラメータを示す。小さな黒塗りの丸印は、所定値として与えられるパラメータを示し、例えば機械学習前に予め設定されるハイパーパラメータ及び製造条件を示すパラメータを含む。
【0061】
各タクト推定部5は、それぞれ理想タクトモデル51と、エラー停止モデル52と、不良時間モデル53と、実効タクトモデル54とを含む。例えば、各タクト推定部5における推定対象の製造条件を示す構造パラメータs,lにおいて、構造パラメータsは理想タクトモデル51に入力され、構造パラメータlは理想タクトモデル51とエラー停止モデル52と不良時間モデル53とに入力される。
【0062】
第iのタクト推定部5において、理想タクトモデル51は、第i工程の設備11の理想タクトt を推定する確率モデルであり、例えばモデルパラメータw,w,σ及びハイパーパラメータβを有する。理想タクトモデル51は、例えば次式(11)のように、第i工程の理想タクトt の確率分布すなわち理想タクト分布D(t )を算出する。
D(t )=N(ws+wl,σ) …(11)
【0063】
理想タクト分布D(t )は、本実施形態における工程効率分布の一例である。
【0064】
また、本実施形態において、構造パラメータを表す変数s,lはカテゴリカルな離散値である。上式(11)において、s,lは例えばそれぞれカテゴリの種類の数の次元数のベクトルで、s,lが属するカテゴリに対応する次元のみ1、それ以外は0となるベクトルである。モデルパラメータw,wは、s,lと同じ次元のベクトルで、s,lの各カテゴリごとの重みを表す確率変数である。モデルパラメータσは、理想タクトt の揺らぎを表す確率変数で、ハイパーパラメータβによる分布を事前分布とする。これらモデルパラメータw,w,σはベイズ推定により推定される。
【0065】
エラー停止モデル52は、設備11における各種エラーのエラー時間幅s を推定する確率モデルであり、例えば、エラーコード毎にモデルパラメータγ,θ及びハイパーパラメータγ,θを有する。エラー停止モデル52は、例えば次式(12)のように各エラー時間幅s の確率分布すなわちエラー停止分布D(s )を算出する。
D(s )=Exp(γ,θ) …(12)
【0066】
上式(12)において、Exp(γ,θ)は、指数分布とベルヌイ分布を組み合わせたゼロ過剰指数分布を示し、値xが生じる確率密度Exp(x;γ,θ)として次式(13)のように規定される。
Exp(x=0;γ,θ)=θ
Exp(x≠0;γ,θ)=(1-θ)γe-γx …(13)
【0067】
上式(13)のようなゼロ過剰指数分布によると、指数分布よりもx=0の場合を多く含めた分布を得られる。各エラーコードのモデルパラメータγ,θは、例えば構造パラメータlに応じて別個の値を有し、それぞれのハイパーパラメータγ,θに基づき機械学習により推定される。
【0068】
不良時間モデル53は、設備11の不良時間幅yを推定する確率モデルであり、例えばモデルパラメータκ,Θ及びハイパーパラメータκ,Θを有する。不良時間モデル53は、例えば次式(14)のように不良時間幅yの確率分布すなわち不良時間分布D(y)を算出する。
D(y)=Γ(κ,Θ) …(14)
【0069】
上式(14)において、Γ(x;κ,Θ)は、所謂ガンマ分布を示す。不良時間モデル53の各モデルパラメータκ,Θは、例えば構造パラメータlに応じて別個の値を有し、それぞれのハイパーパラメータκ,Θに基づき機械学習により推定される。各分布D(t ),D(y),D(s )は、それぞれ本実施形態における変動要因分布の一例である。
【0070】
実効タクトモデル54は、設備11の実効タクトt を推定する確率モデルであり、例えばモデルパラメータσ及びハイパーパラメータβを有する。第iのタクト推定部5の実効タクトモデル54は、例えば次式(15)のように、第i工程の設備11の実効タクトt についての実効タクト分布D(t )を算出する。
D(t )=N(t +Σ +y,σ) …(15)
【0071】
上式(15)によると、第i工程の設備11について、実効タクトt は、理想タクトt 、各エラー時間幅s 及び不良時間幅yの合計を平均値とする正規分布に従うと考える。第iのタクト推定部5において、実効タクトモデル54は、上式(15)の演算において、理想タクトモデル51、エラー停止モデル52及び不良時間モデル53の算出結果を用いたり、設備ログデータD1の観測値を用いたりしてもよい。実効タクトモデル54のモデルパラメータσは、実効タクトt の揺らぎを表すように、ハイパーパラメータβによる分布を事前分布として機械学習により推定される。
【0072】
以上のように説明した工程毎の各種分布D(t ),D(s ),D(y),D(t )の関数形は一例であり、それぞれ特に式(11),(12),(14),(15)に限定されない。例えば対数正規分布など、各種確率分布の関数形が適宜、採用されてもよい。また、モデルパラメータは構造パラメータs,lにより別個の値を有する例を示したが、設備番号など他の変数がモデルパラメータに作用するとしてもよい。
【0073】
2-3.モデル構築動作
以上のようなラインタクト推定モデル4を構築するモデル構築動作について、図7図8を用いて説明する。
【0074】
図7は、データ分析装置2におけるモデル構築動作を例示するフローチャートである。図7のフローチャートに示す各処理は、例えばデータ分析装置2の制御部20によって実行される。
【0075】
まず、制御部20は、例えば記憶部21から、機械学習に用いるための設備ログデータD1を取得する(S1)。例えば、過去の数月分の設備ログデータD1が、予め記憶部21に蓄積され、取得される。
【0076】
次に、制御部20は、計算部30として機能して、取得した設備ログデータD1から、学習用のデータセットとして理想タクトt 、各種エラー時間幅s 、不良時間幅y及び実効タクトt の観測値を算出する(S2)。学習用のデータセットは、例えば各ロットの設備11毎の観測値と構造パラメータs,lの組で構成され、例えばN組の上記各観測値を含む。
【0077】
以下、学習用のデータセットにおける観測値には上付き添え字の「(N)」を付すこととする。例えば、計算部30は、学習用のデータセットにおける組毎に、式(2),(3)のように全工程の理想タクトt i(N)及び実効タクトt i(N)における最大値を、それぞれ製造ライン10の理想タクトt (N)及び実効タクトt (N)として得る。以降、制御部20は、モデル構築部31として機能する(S2~S8)。
【0078】
例えば、制御部20は、学習用のデータセットにおける各工程の理想タクトt i(N)及び構造パラメータs,lに基づき、第1~第nのタクト推定部5における各工程の理想タクトモデル51を構築する(S3)。例えば第iのタクト推定部5における理想タクトモデル51は、第i工程の観測された理想タクトt i(N)から、構造パラメータs,l毎に変化するモデルパラメータw,w,およびσの分布を推定することにより構築される。このパラメータ推定は、次式(20)によるベイズ推定によって推定される。
p(w,w,σ|t i(N),s,l)
∝p(t i(N)|s,l;w,w,σ)p(w,w,σ
=N(t i(N);ws+wl,σ)p(w,w,σ) …(20)
【0079】
上式(20)は、ベイズの定理と式(11)に基づく。上式(20)において、左辺は各モデルパラメータw,w,σの事後分布であり、学習用の観測値を知得した状態における確率分布を示す。上式(20)の右辺において、N(x(N);μ、σ)は平均μ及び標準偏差σの正規分布に対する観測値x(N)の尤度を意味する。また、p(w,w,σ)は事前分布であり、一般には定義域のあらゆる値に対し、一様な確率を与える分布を設定する。
【0080】
ステップS3において、制御部20は、例えば上式(20)にMCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ)法を適用し、構造パラメータs,l毎に変化するモデルパラメータw,w,およびσのサンプル群を算出する。各サンプル群は、それぞれ上式(20)の左辺の分布に従うM個のサンプル値をランダムな順序で含む(図8参照)。例えば、M個は1000個から1万個である。制御部20は、第1~第n工程について上記の演算を行うことにより、各工程の理想タクトモデル51を構築する。
【0081】
制御部20は、学習用のデータセットにおける各種エラー時間幅s i(N)及び構造パラメータlに基づき、各工程のエラー毎にエラー停止モデル52を構築する(S4)。第i工程におけるj番目のエラーコードのエラー停止モデル52は、観測されたエラー時間幅s i(N)に基づいて、上式(20)において式(11)の代わりに式(12)を用いたベイズ推定によって構築される。例えばステップS3と同様に、制御部20は、各工程についてエラーコード及び構造パラメータl毎に変化するモデルパラメータγ,θの事後分布に従うサンプル群を算出する。
【0082】
制御部20は、学習用のデータセットにおける不良時間幅yi(N)及び構造パラメータlに基づき、各工程の不良時間モデル53を構築する(S5)。第i工程の不良時間モデル53は、上式(20)において式(11)の代わりに式(14)を用いたベイズ推定によって構築される。例えばステップS3と同様に、制御部20は、各工程について構造パラメータl毎に変化するモデルパラメータκ,Θの事後分布に従うサンプル群を算出する。
【0083】
制御部20は、学習用のデータセットにおける各工程の実効タクトt i(N)等に基づき、第1~第nのタクト推定部5における各工程の実効タクトモデル54を構築する(S6)。第i工程の実効タクトモデル54は、上式(20)において式(11)の代わりに式(15)を用いたベイズ推定によって構築される。例えばステップS3と同様に、制御部20は、各工程についてモデルパラメータσの事後分布に従うサンプル群を算出する。この際、例えば学習用のデータセットにおける種々の値が適宜、利用できる。
【0084】
さらに、制御部20は、学習用のデータセットにおける各種観測値t (N),s i(N),yi(N),t (N)に基づいて、ラインタクト推定モデル4のライン統合部40におけるモデルパラメータσ及び各吸収係数αを算出する(S7)。例えば、制御部20は、上式(20)において式(11)の代わりに式(5)を用いたベイズ推定により、モデルパラメータσ及び各吸収係数αの事後分布に従うサンプル群を、ステップS3と同様に算出する。ただし、工程毎のエラー停止モデル52の場合とは異なり、ラインのタクト推定モデルでは、エラー停止種類として、前工程遅延や次工程遅延による工程待ち停止時間は考慮に入れない。さらに、制御部20は、各吸収係数αについてはサンプル群におけるサンプル値の平均を演算して、工程毎の係数値を算出する。
【0085】
制御部20は、以上のように算出されたラインタクト推定モデル4の各種モデルパラメータの分布、及び各吸収係数αの設定値を記憶部21にモデルデータD2として格納する(S8)。モデルデータD2の一例を図8に例示する。図8では、ラインタクト推定モデル4のモデルデータD2において一工程の理想タクトモデル51のモデルパラメータw,wの分布が格納された状態を例示する。
【0086】
図8の列方向に示すように、各モデルパラメータw,wは、それぞれ構造パラメータs,lの値に応じて用いられる複数成分を有する。各モデルパラメータw,wのサンプル群は、例えば図8の各行に示すように格納される。制御部20は、例えばMCMC法によって生成された順序で各々のサンプル群におけるサンプル値を格納して(S8)、各行におけるサンプル値の並び順にランダム性を持たせる。
【0087】
制御部20は、モデルデータD2を格納した(S8)後、図7のモデル構築動作を終了する。
【0088】
以上のモデル構築動作によると、製造ライン10における設備ログデータD1を用いたベイズ推定により、ラインタクト推定モデル4を構築することができる。すなわち、本実施形態のモデル構築動作によると、ラインタクト推定モデル4を生成するモデル生成方法が提供される。
【0089】
また、図7のフローチャートに示す処理は、構築済みのラインタクト推定モデル4を、新たな設備ログデータD1の機械学習により再構築する際にも適用されてもよい。例えば、構築済みの各種モデル51~54における事後分布のサンプル群が、再構築時における事前分布として用いられてもよい。
【0090】
2-4.データ分析動作
以上のように構築されたラインタクト推定モデル4を用いて、データ分析装置2において製造ライン10の生産性能を分析するデータ分析動作について、図9図12を用いて説明する。
【0091】
図9は、製造ライン10のデータ分析動作を例示するフローチャートである。図9のフローチャートに示す処理は、例えば記憶部21に、予め構築されたラインタクト推定モデル4を示すモデルデータD2が格納された状態で開始する。本フローチャートに示す各処理は、例えばデータ分析装置2の制御部20によって実行される。
【0092】
まず、データ分析装置2の制御部20は、ラインタクト推定モデル4を用いた分析の対象とする設備ログデータD1を取得する(S11)。ステップS11では、例えば数日分の設備ログデータD1が取得される。設備ログデータD1は、例えばユーザ操作により操作部22から取得されてもよいし、機器I/F24又はネットワークI/F25を介して取得されてもよい。
【0093】
次に、制御部20は、計算部30として機能して、取得した設備ログデータD1から分析対象の各種観測値を算出する(S12)。以下、分析対象の観測値には、上付き添え字の「(V)」を付すこととする。ステップS12では、図7のステップS2と同様の計算により、分析対象の観測値としての理想タクトt i(V)、各種エラー時間幅s i(V)、不良時間幅yi(V)及び実効タクトt i(V)が算出される。又、製造ライン10の理想タクトt (V)及び実効タクトt (V)は、上述した式(2),(3)のように全工程の理想タクトt i(V)及び実効タクトt i(V)における最大値として得られる。
【0094】
また、制御部20は、例えば分析対象の設備ログデータD1における構造パラメータs,lに応じて、ラインタクト推定モデル4における第1~第nタクト推定部5において、ベイズ推定により各工程における各種分布を生成する(S13)。制御部20は、構造パラメータs,lとモデルデータD2に基づき各タクト推定部5の各種モデル51~54の演算を行い、工程毎に理想タクト分布D(t )、エラー停止分布D(s )、不良時間分布D(y)及び実効タクト分布D(t )を生成する(詳細は後述)。
【0095】
さらに、制御部20は、ラインタクト推定モデル4のライン統合部40において、第1~第n工程の各種分布に基づいて、ベイズ推定により製造ライン10の実効タクト分布D(t)を生成する(S14)。ライン統合部40は、ステップS14において、モデルデータD2におけるモデルパラメータσ及び各吸収係数αとステップS13の演算結果とに基づき、式(5)の演算を行う。
【0096】
この際、ライン統合部40は、第1~第n工程の理想タクト分布D(t )~D(t )に基づき、全工程の理想タクトt ~t の最大値を示す分布を、製造ライン10の理想タクトtの理想タクト分布D(t)として用いる。また、第1~第n工程のエラー停止分布D(s )~D(s )及び不良時間分布D(y)~D(y)に対しては、ライン統合部40はそれぞれ1~n番目の吸収係数αにより重み付けを行って、実効タクト分布(t)の演算に取り入れる。ステップS13,S14の処理の詳細については後述する。
【0097】
制御部20は、ラインタクト推定モデル4により生成した実効タクト分布D(t)に基づいて、検出部32として、製造ライン10の不調を判定するためのしきい値、即ち不調しきい値thを決定する(S15)。図10(A)に、不調しきい値thと実効タクト分布D(t)との関係を例示する。
【0098】
不調しきい値thは、実効タクト分布D(t)において実効タクトtが不調しきい値thを上回る確率すなわち上側確率P(th<D(t))が所定比率となるように設定される。上側確率P(th<D(t))は、図10(A)中の斜線部分の面積に対応する。不調しきい値thは、実効タクト分布D(t)における信頼区間の上限に対応している(図4(A)参照)。不調しきい値thの所定比率は、例えば5%等であり、信頼区間の信頼水準と相補的に設定される。ステップS15において、制御部20は、構造パラメータs,l別に算出された実効タクト分布D(t)の各々において、例えば分布中のサンプル値を計数することにより、各々の不調しきい値thを決定する。
【0099】
次に、制御部20は、検出部32として機能し、算出した不調しきい値thを用いて製造ライン10の性能低下が生じた不調を検出する(S16)。ステップS16の処理例を図10(B)に示す。
【0100】
図10(B)は、図10(A)の実効タクト分布D(t)において不調が検出される例を示す。ステップS16において、検出部32は、分析対象の設備ログデータD1における観測値の実効タクトt (V)と、算出した不調しきい値とを比較して、実効タクトt (V)が不調しきい値を上回る場合を、製造ライン10の不調として検出する。これにより、例えば図4(A)の例における不調の時期T1,T2が検出される。なお、ステップS16の検出は、ロット単位で行われてもよく、例えば不調が検出されたロットに関する警告表示などが行われてもよい。
【0101】
制御部20は、例えば以降は評価部33として機能し、製造ライン10の不調が検出された場合について各種要因の影響度を評価する処理を行う(S17~S20)。影響度は、不調が検出された場合において要因毎の観測値をラインタクト推定モデル4に入力し、入力前後のラインタクト推定モデル4の出力の変化に応じた情報量に基づき算出される。
【0102】
例えば不調時の製造ライン10の理想タクトt (V)に基づいて、制御部20は、次式(30)の演算により、製造ライン10の理想タクトt (V)による影響度I(t (V))を算出する(S17)。
I(t (V)
=-log[P(t (V)<D(t))]
+log[P(t (V)<D(t|t (V)))] …(30)
【0103】
上式(30)において、D(X|Y)は、情報Yを知得した条件下での確率変数Xの分布を示す。対数log[]は、例えば二進対数である。上式(30)の右辺第1項における上側確率P(t (V)<D(t))を図10(B)に例示する。同第2項における上側確率P(t (V)<D(t|t (V)))を図10(C)に例示する。
【0104】
図10(C)は、図10(B)から不調時における観測値の製造ライン10の理想タクトt (V)を既知とした条件下の実効タクト分布D(t|t (V))を例示する。図10(B),(C)に示すように、不調時の実効タクトt (V)に対する上側確率P(t (V)<D(t)),P(t (V)<D(t|t (V)))は、観測値の理想タクトt (V)の知得に応じて変化する。上式(30)によると、不調が生じた状況が、理想タクトt (V)のような情報Yによって説明できる程度を定量的に示す情報量を影響度I(Y)として算出できる。
【0105】
ステップS17において、制御部20は、上式(30)の第1項の実効タクト分布D(t)として、例えばステップS14の処理結果を使用できる。同第2項について、制御部20は、例えばステップS14と同様の処理において、製造ライン10の理想タクト分布D(t)の代わりに不調時における観測値の理想タクトt (V)をラインタクト推定モデル4に入力する。これにより、ラインタクト推定モデル4は、ステップS14と同様の演算を行って、理想タクトt (V)が既知の実効タクト分布D(t|t (V))を生成する。
【0106】
また、制御部20は、不調時の各種エラー時間幅s i(V)に基づいて、各工程におけるエラーコード毎のエラー停止の影響度I(s i(V))を算出する(S18)。例えば、第i工程におけるj番目のエラー時間幅s i(V)による影響度I(s i(V))は、式(30)において理想タクトt (V)を既知とした代わりに、当該エラー時間幅s i(V)を既知として、ステップS17と同様の処理により算出できる。この際、ラインタクト推定モデル4は、第i工程におけるj番目のエラー停止分布D(s )の代わりに不調時における観測値のエラー時間幅s i(V)を用いることで、対応する実効タクト分布D(t|s i(V))を生成する。
【0107】
また、制御部20は、不調時の不良時間幅yi(V)に基づいて、各工程の不良製造の影響度I(yi(V))を算出する(S19)。例えば、第i工程の不良時間幅yi(V)による影響度I(yi(V))は、式(30)において理想タクトt (V)の代わりに当該不良時間幅yi(V)を既知として、ステップS17と同様の処理により算出できる。この際、ラインタクト推定モデル4は、第i工程の不良時間分布D(y)の代わりに不調時における観測値の不良時間幅yi(V)を用いることで、対応する実効タクト分布D(t|yi(V))を生成する。
【0108】
次に、制御部20は、算出した各種の影響度I(t (V)),I(s i(V)),I(yi(V))に基づき、各々の要因の評価結果として、例えば要因評価リストD5を出力する(S20)。本実施形態における分析情報の一例として要因評価リストD5の一例を図11に例示する。
【0109】
要因評価リストD5は、製造ライン10における不調の原因となり得る各種の要因の中で、顕著な影響を有する要因を列挙したリストである。図11の例において、要因評価リストD5は、不調が検出された「ロット番号」、製造ライン10中の「設備」、「エラーコード」、各設備11のエラーコード毎の「停止時間」、「停止回数」、及び「影響度」を関連付けて表示している。要因評価リストD5においては、製造ライン10中における複数の設備11の各種のエラー停止等を同列に比較することができる。
【0110】
ステップS20において、制御部20は、影響度I(Y)が最大の要因から順番に、所定の個数(例えば10~50個)の要因を抽出して、要因評価リストD5を生成する。影響度I(Y)は負の値を取ることもある。これは当該の要因Yがむしろ性能が良化するように働いたにも関わらず、他の要因の悪化により全体として性能が低下した場合に起こる。このように影響度I(Y)が負の値を有する要因Yは、要因評価リストD5から削除してもよい。各種設備11の不良製造時間または理想タクトが要因として抽出された場合、要因評価リストD5は、「エラーコード」の代わりにこうした要因の名称を表示してもよい。制御部20は、例えば要因評価リストD5を表示部23に出力して表示させる。ステップS20の出力は特にこれに限らず、例えば要因評価リストD5が記憶部21に記録される出力であってもよいし、各種出力部に出力されてもよい。
【0111】
制御部20は、要因評価リストD5を出力した(S20)後、図9のデータ分析動作を終了する。
【0112】
以上のデータ分析動作によると、ベイズ推定により構築したラインタクト推定モデル4を用いて、製造ライン10における不調を検出し、検出した不調の原因と考えられる各種設備11の種々の要因の影響度を評価するといったデータ分析を行うことができる。
【0113】
以上のデータ分析動作におけるステップS13,S14の処理の詳細について説明する。例えば、制御部20は、図8のモデルデータD2における各種モデルパラメータのサンプル群の各列による組毎にそれらモデルパラメータによる分布に従うサンプルの生成(即ちサンプリング)を行って、ステップS13,S14の処理を実行する。
【0114】
例えば、第i工程の理想タクトモデル51では、モデルパラメータw,w,σの1列において分析対象の構造パラメータs,lに対応する成分を用いて、理想タクト分布D(t )におけるK個のサンプル値の組が生成される(例えばK=1~10)。同モデル51の計算は、モデルデータD2の列数に応じてM回、繰り返される。これにより、一工程あたりの理想タクト分布D(t )の算出結果として、K×M個のサンプル値をランダムな順序で含むサンプル群が生成される。
【0115】
各工程の理想タクト分布D(t )のサンプル群は、以上と同様の演算により生成される。図12(A)は、各理想タクト分布D(t )の算出結果を示す理想タクト分布テーブルD6を例示する。理想タクト分布テーブルD6は、例えば一時記憶部21bに記憶され、一工程あたりの理想タクト分布D(t )のサンプル群の各サンプル値が格納された複数の行を含む。図12(B)は、理想タクト分布テーブルD6における各行のサンプル群のヒストグラムを例示する。
【0116】
例えば、ステップS13において制御部20は、理想タクト分布テーブルD6の各行において、サンプリングによって生成された順序で、工程毎の理想タクト分布D(t )のサンプル値を格納する。これにより、各行における理想タクト分布D(t )のサンプル値の並び順にランダム性を持たせることができる。さらに、制御部20は、例えばステップS14において、理想タクト分布テーブルD6の列毎に式(2)を適用して、各列の最大値で構成されるK×M個のサンプル値によるサンプル群を含む行を生成する。これにより、例えば図12(B)のヒストグラムに示すように、製造ライン10の理想タクト分布D(t)を得ることができる。
【0117】
ステップS13において、工程毎の各種エラー停止分布D(s )、及び工程毎の不良時間分布D(y)も、上記の工程毎の理想タクト分布D(t )と同様にそれぞれサンプル群として生成される。また、工程毎の実効タクト分布D(t )の演算には、例えば同じ工程の各種分布D(t ),D(s ),D(y)のサンプル群におけるサンプル値の列毎の組が用いられる。又、ステップS14では、例えば上記の理想タクト分布D(t )と共に全工程の各分布D(s ),D(y)のサンプル値の列毎の組を用いて、製造ライン10の実効タクト分布D(t)のサンプル群が算出される。
【0118】
3.まとめ
本実施形態におけるデータ分析装置2は、例えば製造ライン10において複数の工程を含む流れ作業を行う効率に対応するタクトタイムを分析する。データ分析装置2は、各種の取得部22,24,25と、制御部20とを備える。取得部は、流れ作業が行われる毎に各工程が実行された履歴を示すログデータの一例である設備ログデータD1を取得する(S11)。制御部20は、流れ作業に関する確率分布を演算する確率モデルの一例であるラインタクト推定モデルにより生成される情報に基づいて、設備ログデータD1が示す履歴の分析結果を示す分析情報の一例として要因評価リストD5を生成する(S20)。ラインタクト推定モデル4は、流れ作業における工程毎の理想タクト分布D(t )、エラー停止分布D(s )及び不良時間分布D(y)を生成する(S13)。工程毎の理想タクト分布D(t )は、流れ作業における工程毎の効率の確率分布を示す工程効率分布の一例である。ラインタクト推定モデル4は、工程毎の各種分布D(t ),D(s ),D(y)に基づいて、流れ作業の効率の確率分布を示す作業効率分布の一例である製造ライン10の実効タクト分布D(t )を生成する(S14)。
【0119】
以上のデータ分析装置2によると、例えば製造ライン10の性能低下のような流れ作業における効率の変動について、ラインタクト推定モデル4に基づき、各工程における各種要因の影響を推定できる。これにより、流れ作業を行う効率の変動を分析し易くすることができる。又、コンピュータが上述したような流れ作業についてのデータ分析を実行する分析精度および処理効率などを良くすることができる。
【0120】
本実施形態において、ラインタクト推定モデル4は、工程毎に予め設定された係数である吸収係数αに基づいて、工程毎のエラー停止分布D(s )及び不良時間分布D(y)を重み付けして、実効タクト分布D(t )を生成する(式(4),(5)参照)。これにより、製造ライン10において仕掛バッファ12によって各工程のエラー停止等の要因が製造ライン10の性能低下に及ぼす影響が緩和される状況を反映して、製造ライン10における性能低下のような流れ作業の効率の変動を分析し易くすることができる。
【0121】
本実施形態において、制御部20は、実効タクト分布D(t)から決定される不調しきい値thを用いることで、設備ログデータD1が示す履歴における流れ作業の効率が、実効タクト分布D(t)において生じる確率に基づいて製造ライン10の性能低下を検出する(S16)。制御部20は、製造ライン10の性能低下の検出結果に応じて、分析情報を生成する(S17~S20)。各種要因の影響が勘案された実効タクト分布D(t)を用いることで、普段からの低性能などと区別して、製造ライン10の性能低下を検出できる。このように、流れ作業の効率の変動を分析し易くすることができる。
【0122】
本実施形態において、ラインタクト推定モデル4は、ある工程の特定のエラー又は不良製造など特定の要因に関する変動要因分布D(s ),D(y)の代わりに設備ログデータD1が示す履歴における当該要因の観測値s i(V),yi(V)を用いて、当該要因が観測された状態の実効タクト分布D(t|s i(V)),(t|s i(V))を生成する(S18,S19)。分析情報は、当該要因が観測された状態の実効タクト分布D(t|s i(V)),(t|s i(V))と、観測されていない状態の実効タクト分布D(t)との間の差分に応じて、流れ作業の効率に対する当該要因の影響を評価する情報の一例である影響度I(s i(V)),I(yi(V))を含む。これにより、例えば製造ライン10の不調において各工程における特定の要因による影響を評価でき、製造ライン10の不調の原因を分析し易くすることができる。
【0123】
本実施形態において、ラインタクト推定モデル4は、製造ライン10の理想タクト分布D(t)に基づいて、製造ライン10の実効タクト分布D(t)を生成する(S14)。製造ライン10の理想タクト分布D(t)は、各工程の理想タクト分布D(t )における最大値の分布であって、理想タクトt が長いほど効率は低くなることから、各工程の効率において最も低い効率の確率分布を示す最低効率分布の一例である。これにより、流れ作業が、各工程における最大のタクトタイムすなわち最低の効率が律速される状況を勘案して、流れ作業の効率の変動を分析し易くすることができる。
【0124】
本実施形態において、ラインタクト推定モデル4は、製造ライン10の理想タクト分布D(t)の代わりに設備ログデータD1が示す履歴における各工程の効率のうちの最大の理想タクトt (V)といった特定の工程の効率の観測値を用いて、当該工程の効率が観測された状態の実効タクト分布D(t|t (V))を生成する(S17)。分析情報は、当該工程の効率が観測された状態の実効タクト分布D(t|t (V))と、観測されていない状態の実効タクト分布D(t)との間の差分に応じて、流れ作業の効率に対する当該工程の効率の影響を評価する情報の一例である影響度I(t (V))を含む。これにより、例えば製造ライン10の不調において特定の工程におけるタクトタイム等による影響を評価でき、製造ライン10の不調の原因を分析し易くすることができる。
【0125】
本実施形態において、流れ作業は、各工程を実行する複数の設備を含む生産ラインの一例である製造ライン10において物品の一例である製造品を生産する作業である。各工程の要因は、当該工程を実行する設備のエラーによる停止、及び物品における不良品の発生の双方を含む。例えばエラーによる停止と不良品の発生のうちの一方の影響が無視できるような状況等においては、各工程の要因に上記の双方に含めなくてもよい。
【0126】
本実施形態におけるデータ分析装置2は、ラインタクト推定モデル4を示すモデルデータを格納する記憶部21をさらに備える。制御部20は、記憶部21に格納されたモデルデータD2に基づいて、ラインタクト推定モデル4として実効タクト分布D)(t)を生成する演算を実行する(S13,S14)。ラインタクト推定モデル4の演算を実行して、流れ作業の効率の変動を分析し易くすることができる。
【0127】
本実施形態において、ラインタクト推定モデル4は、流れ作業が過去に行われた履歴に基づくベイズ推定によって構築される(S1~S8)。ベイズ推定により、ラインタクト推定モデル4における各種モデルパラメータを確率分布として得られ、各種分析を行い易くすることができる。
【0128】
本実施形態におけるデータ分析方法は、複数の工程を含む流れ作業を行う効率を分析する方法である。本方法は、流れ作業が行われる毎に各工程が実行された履歴を示す設備ログデータD1を取得するステップ(S11)と、流れ作業に関する確率分布を演算するラインタクト推定モデル4により生成される情報に基づいて、設備ログデータD1が示す履歴の分析結果を示す分析情報を生成するステップ(S16~S20)とを含む。ラインタクト推定モデル4は、流れ作業における工程毎の効率の確率分布を示す工程効率分布、及び各工程において流れ作業の効率を変動させる要因の確率分布を示す変動要因分布を生成し(S13)、工程効率分布および変動要因分布に基づいて、流れ作業の効率の確率分布を示す作業効率分布を生成する(S14)。
【0129】
本実施形態において、以上のようなデータ分析方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供されてもよい。本実施形態のデータ分析方法によると、複数の工程において流れ作業を行う効率の変動を分析し易くすることができる。
【0130】
(他の実施形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置換、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記各実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施形態を例示する。
【0131】
上記の実施形態1では、データ分析動作とモデル構築動作との双方を行うデータ分析装置2について説明した。本実施形態において、例えばモデル構築動作は、データ分析装置2の外部の情報処理装置で行われてもよい。本実施形態のデータ分析装置2は、例えば各種I/F24,25を介して外部で生成されたモデルデータD2を取得して、上記実施形態と同様のデータ分析動作を行ってもよい。
【0132】
上記の各実施形態では、データ分析装置2においてラインタクト推定モデル4の演算が実行される動作例を説明した。本実施形態において、ラインタクト推定モデル4の演算は、データ分析装置2の外部で実行されてもよい。本実施形態のデータ分析装置2は、例えば各種I/F24,25を介して、外部のラインタクト推定モデル4を有する情報処理装置等に送信して、外部のラインタクト推定モデル4において生成された情報を取得してもよい。この場合であっても、データ分析装置2の制御部20は、取得した情報に基づいて、上記各実施形態と同様に分析情報を生成できる。
【0133】
また、上記の各実施形態では、分析情報の一例として要因評価リストD5を例示したが、本実施形態の分析情報はこれに限らない。例えば、データ分析装置2の制御部20は、分析情報として、図9のデータ分析動作において不調を検出した場合(S16)に各種警告を出力してもよいし、図4のようなグラフ表示を生成してもよい。
【0134】
また、上記の各実施形態では、ラインタクト推定モデル4の一例を説明したが、本実施形態におけるラインタクト推定モデル4はこれに限定されず、種々の変更が行われてもよい。例えば、本実施形態におけるラインタクト推定モデル4は、構造パラメータs,lに加えて又はこれに代えて、設備番号を説明変数のパラメータとして入力可能に構成されてもよい。例えば、共通の工程において別々の製造ライン10に含まれる複数の設備を識別する設備番号が工程毎に用いられてもよい。また、理想タクトや各要因の分布として、正規分布やガンマ分布などを利用したが、これに限らない。分布はそれら観測値の実際の分布に基づきより当てはまりの良いものが選ばれるべきである。又、本実施形態におけるラインタクト推定モデル4において、工程毎の実効タクトモデル54は省略されてもよい。
【0135】
また、上記の各実施形態では、データ分析装置2により製造ライン10の生産性能が低下する不調、すなわち流れ作業の効率の低下が分析された。本実施形態において、データ分析装置2は、製造ライン10の不調に限らず、生産性能が良好な好調を分析してもよく、流れ作業の効率の上昇を含む各種の変動を分析してもよい。
【0136】
また、上記の各実施形態では、データ分析装置2及びデータ分析方法が工場1における製造ライン10に適用される例を説明したが、特にこれに限らず、種々の適用が可能である。例えば、本実施形態のデータ分析装置及び方法が適用される製造ライン10は、1つの工場1内に限らず、複数の工場等を介して構成されてもよい。
【0137】
又、本実施形態のデータ分析装置及び方法は、製造ライン10に限らず、種々の工程を含む流れ作業において複数の設備を用いる生産ラインに適用されてもよい。例えば、生産ラインにおける工程は、製造に限らず、検査及び包装といった様々な工程であってもよい。こうした場合においても、設備の停止または不良品の発生が、生産性能の低下となり得る。よって、本実施形態においても、上記と同様のデータ分析方法により、流れ作業の効率の変動を分析しやすくすることができる。
【0138】
又、本実施形態のデータ分析装置及び方法は、工場内の機械設備に限定されない様々な設備を用いた流れ作業に適用可能である。例えば、本実施形態における分析対象の流れ作業は、配送或いはデータ通信などであってもよい。流れ作業に用いる設備は、配送車両または通信設備などあってもよい。また、本実施形態のデータ分析装置及び方法は、必ずしも設備を用いた流れ作業に限らず、人手による各種の作業についても適用可能である。この場合であっても、流れ作業の履歴のログデータに基づいて、上記各実施形態と同様に流れ作業の効率の変動を分析可能である。
【0139】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0140】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0141】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、種々の変更、置換、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本開示は、各種の流れ作業を行う際の効率の分析に適用可能であり、例えば生産ラインにおいて複数の設備を用いる流れ作業の生産性能の分析に適用可能である。
図1
図2
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図11
図12