(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】グリコールリグニン微粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20241115BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241115BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20241115BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20241115BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241115BHJP
C08J 3/14 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C08H7/00
A61K47/36
A61K8/86
A23L29/262
C08L101/00
C08J3/14 CEZ
(21)【出願番号】P 2021061423
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2020166996
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(73)【特許権者】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 依里
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 史帆
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】宮内 謙一
(72)【発明者】
【氏名】二村 晴美
(72)【発明者】
【氏名】三村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】焼田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】今井 朋美
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特許第7383260(JP,B2)
【文献】特開2013-147768(JP,A)
【文献】特開2017-197517(JP,A)
【文献】特開2010-116465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08H 7/00
A23L 29/262
A61K 8/86
A61K 47/36
C08J 3/14
C08L 101/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折・散乱法によって測定された個数基準のメジアン径(D50)が50μm以下であり、
顕微鏡画像に基づき測定された粒子の真球度(最長径/最短径)の平均値として定義される平均真球度が1.5以下である、グリコールリグニン微粒子。
【請求項2】
前記メジアン径(D50)が20μm以下である、請求項1に記載のグリコールリグニン微粒子。
【請求項3】
前記平均真球度が1.1以下である、請求項1または2に記載のグリコールリグニン微粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のグリコールリグニン微粒子を含む、医薬品用、化粧料用、飲食品用または樹脂用の添加剤。
【請求項5】
請求項4に記載の添加剤を含有する、医薬組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の添加剤を含有する、化粧料組成物。
【請求項7】
請求項4に記載の添加剤を含有する、飲食品組成物。
【請求項8】
請求項4に記載の添加剤を含有する、樹脂組成物。
【請求項9】
(a)アルカリの共存によりグリコールリグニンが溶解してなるグリコールリグニン溶液を、酸を用いて酸性化することにより、グリコールリグニンを析出物として沈殿させることと、
(b)酸を用いて酸性化したグリコールリグニン析出物が分散した分散液に含まれる前記グリコールリグニン析出物を洗浄して、前記(a)において生成した塩が除去され、前記グリコールリグニン析出物が分散した分散液を得ることと、
(c)前記分散液を撹拌することと、
を含む、グリコールリグニン微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記溶液画分の液温度が0℃超80℃以下となるように前記(a)の酸性化処理を行う、請求項9に記載のグリコールリグニン微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記酸が硫酸または酢酸である、請求項9または10に記載のグリコールリグニン微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記アルカリが水酸化ナトリウムである、請求項9~11のいずれか1項に記載のグリコールリグニン微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記グリコールリグニン溶液の酸性化を、強制薄膜式マイクロリアクター中で行う、請求項9~12のいずれか1項に記載のグリコールリグニン微粒子の製造方法。
【請求項14】
前記強制薄膜式マイクロリアクターは、互いに対向する第1処理面と第2処理面とにより形成された反応場を有し、第1処理面と第2処理面とは相対的に回転し、かつ相対的に接近したり離反したりすることが可能で、原料の供給圧によって2つの処理用面を離反させる方向に力を発生させ、かつ2つの処理用面を接近させる方向に移動させる力を別途加え、反応場を微小間隔に維持するものである、請求項13に記載のグリコールリグニン微粒子の製造方法。
【請求項15】
前記反応場のクリアランスが200~500μmである、請求項14に記載のグリコールリグニン微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコールリグニン微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子のなかでも特にナノ粒子は、そのサイズがナノメートル(nm)オーダーであることで比表面積が極めて大きくなり、量子サイズ効果によって特有の物性を示す。この性質を利用して、ナノ粒子は電子部品、顔料、化粧品、医薬品、食品、農薬などの各種用途において広範囲に利用されている。
【0003】
また、化学製品の原料として、従来は石油等の化石資源が用いられてきたが、カーボンニュートラルの概念の導入によってバイオマス由来製品の需要が高まっており、木材由来のバイオマスナノ構造体の研究開発が精力的に行われてきた。
【0004】
木材の90%以上は細胞壁成分で構成されているが、その三大主成分はセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンである。これらのうち、リグニンは天然の芳香族系ポリマーであり、地上で2番目に蓄積されている有機化合物である。このリグニンは化学パルプ化工程やバイオエタノール前処理工程で分離され、紙パルプ生産やバイオエタノール生産で副産されるが、熱源以外の有効な利用法に乏しく、その有効利用法が模索されている。なお、リグニンは多糖のセルロースやヘミセルロースとともに、高次構造かつ難溶性の高分子混合物であるリグノセルロースとして天然界に存在している。
【0005】
ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール系薬剤を使用し、濃硫酸を触媒としてリグノセルロースを加溶媒分解して得られたリグニンは、グリコール系薬剤で誘導体化されたグリコールリグニンであり、リグニン本来の特性を保持しつつ、熱加工性が付与されているという特徴がある。例えば特許文献1には、このようにして得られたグリコールリグニンを用いて炭素繊維や活性炭素繊維を製造する方法が開示されている。このような酸加溶媒分解法により得られたグリコールリグニンには熱加工性が付与されているため、炭素繊維の他にも、エンジニアリングプラスチック、各種熱可塑性樹脂、フィルム、電子基板、繊維強化材、各種接着剤、カーボンファイバー、各種炭素材料、コンクリート用化学混和剤、分散剤、各種界面活性剤等の高付加価値材料の原料として利用が期待できる。
【0006】
一方、日本国内で最大量の未利用バイオマスは、農山村地域で年間約2000万m3発生する林地残材といわれている。林地残材においてもその約30%はリグニンであるが、現時点においてその利活用はされていない。また、林地残材の輸送コストの問題があり、地域の林地残材を地域で処理することが求められている。林地残材の生成場所である農山村地域において、林地残材から得られたグリコールリグニンに高い付加価値を付与することができれば、リグニンの有効利用だけでなく、農山村地域での新たな産業創出と地方創生への貢献にもなる。
【0007】
ここで、特許文献2には、リグノセルロースからグリコールリグニンをプラントスケールで安全に製造しうる手段として、ポリエチレングリコール(PEG)等の安全なグリコール系薬剤を用いた常圧酸加溶媒分解法を採用する技術が開示されている。特に特許文献2の実施例では、スギ木粉を原料としてグリコールリグニンを製造したことが開示されている。一般に広葉樹材のリグニンは、分離は容易であるものの多様性が高く、樹木の生息環境や、同じ樹木内でも部位により構造が大きく異なり、安定性を担保するのが比較的困難である。これに対し、スギのリグニンは、地域や部位によって量には差があるものの性質にはバラツキが少なく、常に同一性能を求められる工業原料としては適しているという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-147768号公報
【文献】特開2017-197517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
各種用途において添加剤として用いられる微粒子には、高い性能を発現するという観点から、粒子径が小さく、真球に近い形状を有することが求められている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の技術では、製造されるグリコールリグニン微粒子の粒子径を十分に小さいものとしたり、真球に近い形状としたりすることが困難であることが判明した。また、特許文献2以外にも、このように特徴的な形状を有するグリコールリグニン微粒子を製造可能な手法はいまだ知られていないのが現状である。
【0010】
本発明は、従来技術における上述したような課題に鑑みなされたものであり、粒子径が小さく、真球に近い形状を有するグリコールリグニン微粒子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、酸を用いてグリコールリグニンを酸性化してグリコールリグニンを析出物として沈殿させた後、この溶液画分から前記析出物を洗浄することで酸性化の際に生成した塩を除去し、さらに当該析出物の分散液を撹拌することで、上記の課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一形態によれば、レーザー回折・散乱法によって測定された個数基準のメジアン径(D50)が50μm以下であり、顕微鏡画像に基づき測定された粒子の真球度(最長径/最短径)の平均値として定義される平均真球度が1.5以下である、グリコールリグニン微粒子が提供される。
【0013】
また、本発明の他の形態によれば、上述した形態に係るグリコールリグニン微粒子を製造しうる手段として、(a)アルカリの共存によりグリコールリグニンが溶解してなるグリコールリグニン溶液を、酸を用いて酸性化することにより、グリコールリグニンを析出物として沈殿させることと、
(b)酸を用いて酸性化したグリコールリグニン析出物が分散した分散液に含まれる前記グリコールリグニン析出物を洗浄して、前記(a)において生成した塩が除去され、前記グリコールリグニン析出物が分散した分散液を得ることと、
(c)前記分散液を撹拌することとを含む、グリコールリグニン微粒子の製造方法もまた、提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒子径が小さく、真球に近い形状を有するグリコールリグニン微粒子、およびその製造方法が提供される。このような構成を有する本発明に係るグリコールリグニン微粒子は、各種用途において添加剤として用いられたときに、高い性能を発現することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一形態に係るグリコールリグニン微粒子の製造方法の一実施形態を図示するフロー図である。
【
図2】工程(a)において用いられうる強制薄膜式マイクロリアクターの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
本発明の一形態は、レーザー回折・散乱法によって測定された個数基準のメジアン径(D50)が50μm以下であり、顕微鏡画像に基づき測定された粒子の真球度(最長径/最短径)の平均値として定義される平均真球度が1.5以下である、グリコールリグニン微粒子に関する。
【0018】
また、本発明の他の形態は、上述した形態に係るグリコールリグニン微粒子を製造しうる手段として、(a)アルカリの共存によりグリコールリグニンが溶解してなるグリコールリグニン溶液を、酸を用いて酸性化することにより、グリコールリグニンを析出物として沈殿させることと、(b)酸を用いて酸性化したグリコールリグニン析出物が分散した分散液に含まれる前記グリコールリグニン析出物を洗浄して、前記(a)において生成した塩が除去され、前記グリコールリグニン析出物が分散した分散液を得ることと、(c)前記分散液を撹拌することとを含む、グリコールリグニン微粒子の製造方法に関する。この製造方法は、上述した本発明の一形態に係るグリコールリグニン微粒子を製造するのに好適に用いられうる。ただし、上述した本発明の一形態に係るグリコールリグニン微粒子の技術的範囲が、当該製造方法によって製造されたものに限定されるわけではなく、他の製造方法によって製造されたものであっても、上述した本発明の一形態に係るグリコールリグニン微粒子の要件を満たす限り、当該発明の技術的範囲に含まれるものとする。
【0019】
以下ではまず、上述したグリコールリグニン微粒子の製造方法について工程順に説明する。その後、当該製造方法によって製造が可能な、本発明の一形態に係るグリコールリグニン微粒子について、説明する。
【0020】
《グリコールリグニン微粒子の製造方法》
上述したように、本発明によって提供される「グリコールリグニン微粒子の製造方法」は、(a)アルカリの共存によりグリコールリグニンが溶解してなるグリコールリグニン溶液を、酸を用いて酸性化することにより、グリコールリグニンを析出物として沈殿させることと、(b)酸を用いて酸性化したグリコールリグニン析出物が分散した分散液に含まれる前記グリコールリグニン析出物を洗浄して、前記(a)において生成した塩が除去され、前記グリコールリグニン析出物が分散した分散液を得ることと、(c)前記分散液を撹拌することとを含むものである。このような本発明の一形態に係るグリコールリグニン微粒子の製造方法の一実施形態を図示するフロー図を
図1に記載する。
【0021】
<工程(a)>
工程(a)では、アルカリの共存によりグリコールリグニンが溶解してなるグリコールリグニン溶液を、酸を用いて酸性化する。これにより、グリコールリグニン溶液において、グリコールリグニンが析出物として沈殿する。
【0022】
原料であるグリコールリグニンの由来は特に制限されない。このようなグリコールリグニンは、例えば、リグノセルロースを、蒸解溶媒を用いて加溶媒分解することにより得ることが可能である。
【0023】
リグノセルロースの種類としては特に限定されず、スギ、モミ、ヒノキ、マツ等の針葉樹、ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナ、ナラ等の広葉樹、稲藁、穀物、バガス、竹、ケナフ、葦等の草本植物等に由来するものが挙げられる。間伐材、林地残材、製材残材、建築廃材などの未利用およびリサイクル木質系バイオマスがその資源量および有効利用の観点から好ましい。なかでも、スギのリグニンは、地域や部位によって量には差があるものの性質にはバラツキが少なく、常に同一性能を求められる工業原料としては適しているという利点がある。このため、スギに由来するリグノセルロースを原料として用いることが特に好ましい。なお、リグノセルロースは、木片および木材チップの形態で用いても構わないが、粉末形態であることが好ましい。リグノセルロースを粉末形態にするための粉砕手段は特に限定されず、切削チッパー、破砕チッパー、カッターミル、振動ミル、ハンマーミル等の慣用の粉砕機が挙げられる。リグノセルロースの含水率は50%以下に調整すればよいが、20%以下が好ましい。
【0024】
蒸解溶媒としては、例えば、ポリエチレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなども含む)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなども含む)、グリセリンおよびポリグリセリン(ジグリセリン、トリグリセリンなども含む)からなる群から選択される少なくとも1種のグリコール系溶媒が挙げられる。なお、これらの蒸解溶媒は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。ポリエチレングリコールとしては、得られるグリコールリグニンの熱溶融性に応じて様々な平均分子量のポリエチレングリコールを選択可能であり、例えば平均分子量100~2000、好ましくは平均分子量200~600のポリエチレングリコールが用いられうる。蒸解溶媒は、求めるグリコールリグニンの性能に応じて選択することができるが、少なくとも1種は分子量が小さい(例えば、平均分子量100~400)グリコール系溶媒を用いた方が、得られるグリコールリグニンの収率が高くなる。これは、分子量が小さいグリコール系溶媒のほうが、リグノセルロースへの浸透性が良くさらにリグニンとの反応性も高いためと考えられる。これら溶媒は可燃性が低く安全であるため、地域における小型ベンチプラントでの使用に優れている。また、蒸解において常圧反応が可能となるため、リアクターは高価な耐圧容器でなくともよい点でも有利である。さらに、これら蒸解溶媒がリグニンに導入され、得られたグリコールリグニンが熱溶融性を示すために好ましい。溶媒添加量としては、リグノセルロース1質量部(絶乾質量)に対し2~10質量部が好ましく、3~6質量部がより好ましい。
【0025】
蒸解は、硫酸等の酸性触媒存在下、常圧下で行われる。この方法に限定されないが、例えば、蒸解溶媒と酸性触媒とをリアクターに入れ撹拌混合した後、リグノセルロースを投入し、リアクターの温度を120~180℃、好ましくは130~140℃で、60分間~240分間、好ましくは60分間~90分間撹拌下で反応させる。昇温時間は特に限定されないが、15分間~40分間であることが好ましい。酸性触媒の添加量は、蒸解溶媒の質量に対して0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.2~1.0質量%であることがより好ましい。本発明において、加溶媒分解工程の加溶媒分解反応は常圧反応であるため、反応中にもかかわらず、リアクターの内部を上部の上窓から直接目視することや、内容物をサンプリングすることが可能である。この点は、本発明の簡便性や安全性を象徴している。
【0026】
工程(a)では、上記加溶媒分解工程で得られたグリコールリグニンを含む溶液にアルカリを共存させて、グリコールリグニンが溶解してなるグリコールリグニン溶液を得る。このようなグリコールリグニン溶液を得るには、上記加溶媒分解工程の後、当該工程の反応混合物とアルカリとを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液画分と固形分とを分離すればよい。具体的には、例えば、加溶媒分解反応後のリアクターを冷却し、内部が40℃以下になったら水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液をリアクター内に投入し、再度撹拌する。この際、pHを10.5以上に調整することで、アルカリ水溶液にグリコールリグニンが抽出され、グリコールリグニンを含む溶液画分となる。なお、アルカリ水溶液に添加されるアルカリとしては、水酸化ナトリウムのほか、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムの水酸化物、テトラアンミン銅(II)水酸化物などのアンミン錯体の水酸化物などが挙げられるが、単位質量あたりの塩基性の強さやコスト、後の処理で生じる塩の溶解性という観点からは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
その後、グリコールリグニンを含む溶液画分と、セルロースおよびヘミセルロースを主成分とする固形残渣であるパルプとを分離する。分離するための分離機としては、以下に限定されないが、フィルタープレス、真空濾過機、ベルトプレス、遠心分離機などが挙げられ、中でも、フィルタープレスが好ましい。なお、分離後の固形残渣(パルプ)にはグリコールリグニンが含まれる溶液画分が少量残存するが、このパルプに残存するグリコールリグニンを回収するために、水でパルプの洗浄を行ってもよい。この洗浄水は、洗浄後、グリコールリグニンを含む溶液画分と一緒にされて、次の工程に供することができる。このようにして、グリコールリグニン溶液(典型的には、水溶液)が得られる。
【0028】
続いて、工程(a)では、上記のようにして得られたグリコールリグニン(水)溶液を、酸を用いて酸性化する。これにより、グリコールリグニン溶液において、グリコールリグニンが析出物として沈殿する。
【0029】
グリコールリグニン(水)溶液を酸性化するのに用いられる酸について特に制限はなく、グリコールリグニン(水)溶液を酸性化することができ、グリコールリグニンの構造や装置に対して悪影響を及ぼさないものであれば特に制限なく用いられうる。用いられうる酸の一例としては、硫酸、塩酸、乳酸、酢酸、リン酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸などが挙げられるが、なかでも、入手の容易さという観点からは硫酸または酢酸が好ましく、より粒子径の小さいグリコールリグニン微粒子を得るという観点からは、酢酸がより好ましい。また、用いられる酸は通常は水溶液の形態で用いられるが、酸の水溶液における酸の濃度について特に制限はなく、酸性化させるグリコールリグニン溶液および酸のそれぞれの使用量や、混合後に得られる溶液のpHなどを考慮して適宜決定されうる。
【0030】
酸を用いたグリコールリグニン(水)溶液の酸性化は、バッチ式、セミバッチ式、連続反応式など、いずれの方法を用いて行ってもよい。例えば、バッチ式で酸性化工程を行う場合には、上記で得られたグリコールリグニン(水)溶液に対し、ポンプなどを用いて酸(通常は水溶液の形態である)を滴下するなどの方法が採用されうる。なお、バッチ式の場合に処理されるグリコールリグニン(水)溶液の量およびこれに対して添加される酸(水溶液)の量(またはその比率)を決定する際には、混合後に得られる溶液のpHを考慮すべきである。具体的には、得られる混合液のpHについては、好ましくは1.0~5.5であり、より好ましくは2.5~5.0であり、特に好ましくは3.0~4.8である。
【0031】
一方、連続反応式で酸性化工程を行う場合には、マイクロリアクターなどの連続的に反応可能な装置へグリコールリグニン(水)溶液および酸(通常は水溶液の形態である)をそれぞれ流通させ、装置内において混合するなどの方法が採用されうる。このようなマイクロリアクターの具体的な構成について特に制限はないが、例えば、強制薄膜式マイクロリアクターなどが用いられうる。「強制薄膜式マイクロリアクター」とは、膜厚が数マイクロメートル程度の強制薄膜中において混合や反応を行う装置である。
【0032】
ここで、工程(a)において連続反応式を採用する場合に用いられうる強制薄膜式マイクロリアクターの一例を
図2に示す。強制薄膜式マイクロリアクターは、互いに対向する第1処理面1と第2処理面2とにより形成された反応場を有し、第1処理面1と第2処理面2とは相対的に回転し、かつ相対的に接近したり離反したりすることが可能で、原料の供給圧によって2つの処理用面を離反させる方向に力を発生させ、かつ2つの処理用面を接近させる方向に移動させる力を別途加え、反応場を微小間隔に維持するものが好ましい。
【0033】
工程(a)における混合対象物の一方であるグリコールリグニン(水)溶液(A液)は、所定の圧力でリアクターの中央部から反応場に供給される。一方、工程(a)における混合対象物の他方である酸(例えば、酸の水溶液)(B液)は、A液とは別の供給口から反応場に供給される。本発明においては、A液とB液とが反応場において混合・拡散することにより、A液であるグリコールリグニン(水)溶液が酸性化される。その結果、A液に溶解していたグリコールリグニンが析出物として沈殿する。このように沈殿したグリコールリグニンの析出物は、スラリーの状態で排出口3から連続的に排出される。したがって、混合時間について特に制限はなく、A液およびB液の処理量(言い換えれば、調製したいグリコールリグニンの析出物の分散液の量)を考慮して混合時間を決定すればよい。
【0034】
図2において、第1処理面1は中空円板状であり、円板状の固定ディスク4に固定されている。一方、第2処理面2も中空円板状であり、円板状の回転ディスク4に固定されている。ここで、回転ディスク4は回転し、固定ディスク5は回転しないが、回転ディスク4および固定ディスク5は相対的に回転すればよく、一方が回転し、他方が停止していてもよいし、互いに逆方向に回転してもよい。回転ディスク4の相対回転数は好ましくは400~3500rpmであり、より好ましくは500~2000rpmである。
【0035】
第1処理面1と第2処理面2との隙間、すなわち反応場のクリアランスは、好ましくは200~500μmである。
【0036】
A液およびB液を強制薄膜式マイクロリアクターへ供給する際の流量については特に制限はないが、良好な混合を達成し、均一な粒子径の析出物を得るという観点からは、反応場における流量として、A液については、好ましくは200~1mL/分であり、より好ましくは50mL/分である。また、B液については、好ましくは200~1mL/分であり、より好ましくは7.5mL/分である。なお、A液およびB液の流量を決定する際には、混合後に得られる溶液のpHを考慮すべきである。具体的には、得られる混合液のpHについては、好ましくは1.0~5.5であり、より好ましくは2.5~5.0であり、特に好ましくは3.0~4.8である。
【0037】
強制薄膜式マイクロリアクターとしては、例えば、エム・テクニック株式会社製のマイクロリアクターULREA SS-11シリーズなどを使用することができる。
【0038】
上述したように、A液に溶解していたグリコールリグニンは、B液との混合によって酸性化されて析出物として析出し、スラリーの状態で排出口3から排出される。
【0039】
なお、本形態に係る製造方法によって最終的に得られるグリコールリグニン微粒子の平均粒子径をより小さいものとしうるという観点からは、工程(a)における酸性化工程を実施する際の温度を制御することが好ましい。具体的に、工程(a)において得られる、グリコールリグニンの析出物を含む溶液画分の液温度が、好ましくは0℃超80℃以下となるように、より好ましくは0℃超60℃以下となるように、さらに好ましくは0℃超45℃以下となるように、さらにより好ましくは0℃超30℃以下となるように、特に好ましくは0℃超15℃以下となるように、最も好ましくは0℃超5℃以下となるように、上述した酸性化工程を実施するとよい。なお、得られるグリコールリグニンの析出物を含む溶液画分の液温度を制御するには、酸性化工程に供されるグリコールリグニン(水)溶液および酸(通常は酸の水溶液)のそれぞれの使用量を考慮しつつ、これらの液温度を調節した状態で酸性化工程を実施すればよい。
【0040】
<工程(b)>
工程(b)では、工程(a)において酸を用いて酸性化したグリコールリグニン析出物が分散した分散液に含まれる前記グリコールリグニン析出物を洗浄する。この際の洗浄処理の具体的な方法について特に制限はなく、例えば、純水やイオン交換水などの水を用いて上記グリコールリグニン析出物の洗浄を行うことが好ましい。また、浸透膜を用いて上記分散液ごと、上記グリコールリグニン析出物を洗浄することも好ましい実施形態の1つである。
【0041】
なお、工程(b)においては、上述した洗浄処理に先立ち、工程(a)において酸を用いて酸性化したグリコールリグニン析出物が分散した分散液からグリコールリグニンの析出物を分離してもよい。この際の分離手段について特に制限はなく、遠心分離や膜分離等の従来公知の分離手段が適宜採用されうる。なかでも、微細な析出物をフィルター表面で捕捉することができるという観点からは、メンブレンフィルターを用いたろ過処理によってグリコールリグニンの析出物を分離した後に上記洗浄処理を施すことが好ましい。なお、この際に用いられるメンブレンフィルターの孔径(目開き)について特に制限はなく、分離されるグリコールリグニンの析出物の粒子サイズなどを考慮して適宜設定されうる。
【0042】
そして、工程(b)においては、上述した分離処理と洗浄処理とを繰り返し行ってもよい。好ましい実施形態において、分離処理と洗浄処理とのセットを、1~5回行うことが好ましく、2~4回行うことがより好ましい。
【0043】
上述した工程(a)で得られたグリコールリグニンの析出物には、工程(a)において添加された酸が、溶液中に共存していたアルカリと中和反応を起こすことによって生成していた塩が付着している。この塩は、例えば、アルカリが水酸化ナトリウムであって酸が硫酸である場合には、芒硝(硫酸ナトリウム十水和物;Na2SO4・10H2O)である。工程(b)においては、上述したような洗浄処理(または分離処理および洗浄処理)を実施することで、グリコールリグニンの析出物に付着していた塩が除去される。これにより、工程(b)では、工程(a)において生成した塩が除去され、前記グリコールリグニン析出物が分散した分散液(通常は、水分散液)が得られる。ただし、工程(b)において得られた分散液からは、上述した塩が完全に除去されていることは必要ではない。言い換えれば、本発明の作用効果に悪影響を及ぼさない痕跡量程度の塩の残留は許容されうる。
【0044】
<工程(c)>
工程(c)では、工程(b)で得られたグリコールリグニンの析出物の分散液を撹拌する。これにより、本形態に係る製造方法によって最終的に得られるグリコールリグニン微粒子の粒子径をいっそう小さいものとすることができる。
【0045】
工程(c)において、グリコールリグニンの析出物の分散液を撹拌するための撹拌装置について特に制限はないが、例えば、マイルダー、圧力式ホモジナイザー、高速回転せん断型ホモジナイザー(ディスパー)、湿式粉砕機等が挙げられる。ただし、分散液を撹拌することができる装置であればその他の装置が用いられてももちろんよい。
【0046】
マイルダーとしては、例えば、エバラマイルダー(株式会社荏原製作所製)、マイルダー(大平洋機工株式会社製)等が用いられうる。また、圧力式ホモジナイザーとしては、例えば、圧力式ホモジナイザーLAB1000(株式会社エスエムテー製)等が用いられうる。なお、高速回転せん断型ホモジナイザーは、マイルダーと類似した構成を有しており、高速回転するローターと狭い間隙を経て近接するステーターとの間でせん断処理を行う処理装置である。高速で回転するローターにより分散液が流動し、ステーターとの間で生じる速度勾配で発生したせん断と、分散液同士の衝突によるせん断で均一な分散が達成されると考えられる。高速回転せん断型ホモジナイザーとしては、例えば、ウルトラタラックス(IKA社製)、T.K.ロボミックス(プライミクス株式会社製)、精密乳化分散機クレアミックスCLMシリーズ(エム・テクニック株式会社製)、ホモジナイザー(マイクロテック・ニチオン社製)等が用いられうる。
【0047】
撹拌装置の撹拌速度や回転数について特に制限はないが、ホモジナイザーや撹拌翼を用いて撹拌を行う場合の回転数は、好ましくは1000~30000rpmであり、より好ましくは5000~18000rpmである。また、撹拌処理を行う時間についても特に制限はなく、例えば数秒間~30分間であり、好ましくは30秒間~15分間であり、より好ましくは3分間~10分間であり、特に好ましくは5分間~8分間である。
【0048】
工程(c)において、グリコールリグニンの析出物の分散液の撹拌操作を行う際の温度条件について、例えば30~100℃であり、好ましくは40~90℃であり、より好ましくは65~75℃である。
【0049】
《グリコールリグニン微粒子の物性》
上述したように、本発明によって提供される「グリコールリグニン微粒子」の、レーザー回折・散乱法によって測定された個数基準のメジアン径(D50)が50μm以下であり、顕微鏡画像に基づき測定された粒子の真球度(最長径/最短径)の平均値として定義される平均真球度が1.5以下であるという点に特徴を有するものである。
【0050】
使用用途によって、好適に用いられるグリコールリグニン微粒子の粒子径は異なるが、各種添加剤として高い性能を発現するという観点からは、グリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)は、50μm以下であるが、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5.0μm以下であり、さらにより好ましくは2.0μm以下であり、さらにより好ましくは1.0μm以下であり、いっそう好ましくは700nm以下であり、特に好ましくは200nm以下であり、最も好ましくは120nm以下である。なお、グリコールリグニン微粒子のメジアン径(D50)の下限値については特に制限はないが、好ましくは1.0nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。グリコールリグニン微粒子のメジアン径(D50)の測定は、レーザー回折・散乱法によって行われ、具体的には後述する実施例の欄に記載の手法によって測定された値を採用するものとする。
【0051】
また、本発明によって提供される「グリコールリグニン微粒子」の平均真球度は1.5以下であるが、好ましくは1.1以下であり、より好ましくは1.06以下であり、特に好ましくは1.03以下である。グリコールリグニン微粒子の平均真球度の下限値について特に制限はなく、理論上は1以上である。グリコールリグニン微粒子の平均真球度は、顕微鏡画像に基づき測定された数個~数百個の粒子の真球度(最長径/最短径)の平均値として定義される値であり、具体的には後述する実施例の欄に記載の手法によって測定された値を採用するものとする。なお、正確な値が算出される限り、顕微鏡としては光学顕微鏡が用いられてもよいし、電子顕微鏡が用いられてもよい。
【0052】
本発明の一形態に係るグリコールリグニン微粒子は、単分散であることが好ましい。「単分散である」とは、各微粒子の粒子径が揃っていて、粒子径分布のピークがシャープであることを意味する。単分散であるか否かの指標としては、変動係数が用いられうる。本明細書において、変動係数は、粒子径の標準偏差の値の、粒子径の算術平均値に対する百分率(%)として定義されるものとし、変動係数の値が小さいほど各微粒子の粒子径が揃っていて、粒子径分布のピークがシャープである(すなわち、より単分散である)ことを意味する。本発明に係るグリコールリグニン微粒子の好ましい実施形態において、当該微粒子の粒子径の変動係数の値は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下である。
【0053】
上述したような構成を有するグリコールリグニン微粒子を製造するための手法の一例としては、上述した本発明によって提供されるグリコールリグニン微粒子の製造方法が挙げられる。ただし、他の製造方法によって得られたものであってもよいことについては、上述した通りである。
【0054】
《グリコールリグニン微粒子の用途》
上述したように、本発明に係るグリコールリグニン微粒子は、粒子径が小さく、真球に近い形状を有するという構成を有していることで、各種用途において添加剤として用いられたときに、高い性能を発現することが期待される。また、石油化学原料由来であるプラスチック製の微粒子もまた、各種添加剤として従来用いられているが、生分解性を有しないことからマイクロプラスチックとしていわゆるプラスチックごみ問題を引き起こしうるという課題を抱えている。これに対し、天然由来の材料である本発明に係るグリコールリグニン微粒子は生分解性を有していることから、上述したようなプラスチック製の微粒子の代替材料としての利用が期待される。
【0055】
具体的に、本発明に係るグリコールリグニン微粒子は、例えば、医薬品用の添加剤として医薬組成物に配合されうる。また、その他にも、化粧料用の添加剤として化粧料組成物に配合されたり、飲食品用の添加剤として飲食品組成物に配合されたり、樹脂用の添加剤として樹脂組成物に配合されたりして、各種の機能を発現しうるものである。なお、本発明に係るグリコールリグニン微粒子が添加剤として添加された際に発現しうる機能としては、例えば、紫外線吸収剤、顔料、光拡散剤、絶縁材、抗菌剤、難燃剤、分散剤、酸化防止剤としての機能などが挙げられる。したがって、本発明の他の形態によれば、本発明に係るグリコールリグニン微粒子の添加によってこれらの機能が付与または増強された、医薬組成物、化粧料組成物、飲食品組成物および樹脂組成物などの各種組成物もまた、提供される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
【0057】
《グリコールリグニン微粒子の製造例》
[実施例1]
図1に示すフロー図に従い、以下の手法により、グリコールリグニン微粒子を製造した。
【0058】
加溶媒分解の薬剤には、平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)を用いた。
【0059】
PEG400 230kgおよび硫酸触媒0.68kg(PEGに対して0.3質量%)をリアクターに入れてよく撹拌した後、フィーダーで気乾スギ木粉約53kg(5メッシュパス、含水率10~14%、絶乾重量46kg)を投入した。蒸気ラインを作動させ、リアクターを140℃に昇温し、所定の反応時間(90~120分間)保持した。反応中はリアクター全体を混練撹拌可能なリボン翼で撹拌した。温度の安定性は非常に高く、反応を繰り返し行った場合も再現性のよい温度変化を示した。いずれも昇温時間は約20分で、反応中の内部温度は平均141℃であった。常圧反応であるため、反応中も上窓から内部を目視できる。上記の操作により、滑らかな撹拌が可能なスラリー状の溶液が確認できた。
【0060】
加溶媒分解反応後、冷水ラインを作動させてリアクターを速やかに冷却した。内部が40℃以下になったら水酸化ナトリウム水溶液(0.1~0.2N)を約280kg投入し、再度30分間撹拌して、グリコールリグニンを溶解させた。リアクター下部のバルブを開き、混合物をフィルタープレス工程に送り込み、グリコールリグニンを含む溶液画分と、セルロースおよびヘミセルロースを主成分とする固形残渣であるパルプとを分離した。フィルタープレス後のパルプには、グリコールリグニンを含む溶液画分が少量残存する。この残存するグリコールリグニンを含む溶液を回収するために、温水(50℃以下)200kgを用いてパルプの洗浄を行った。洗浄に用いた温水は、リアクターから投入し、この後フィルタープレスへ送った。フィルタープレス工程で分離したグリコールリグニンを含む溶液(グリコールリグニン水溶液;グリコールリグニン濃度=2質量%)は、別途タンクに貯蔵した。なお、PEG200(0.3質量%硫酸)を蒸解溶媒として用いた場合、残渣収率は46.7%であった。
【0061】
続いて、強制薄膜式マイクロリアクター(ULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製))を用い、グリコールリグニン溶液を酸と混合させて、グリコールリグニン溶液を酸性化させ、グリコールリグニン溶液中にグリコールリグニン微粒子を析出物として沈殿させた。ここで、グリコールリグニン溶液については第一原液供給部からポンプを用いて上記マイクロリアクターへと供給した。一方、酸としては0.6Nの硫酸水溶液を用い、第二原液供給部からポンプを用いて上記マイクロリアクターへと供給した。なお、上記マイクロリアクターを用いた混合操作の各種条件は以下の通りである。
【0062】
<装置条件>
背圧力:0.02MPa
ディスク回転速度(回転ディスクと固定ディスクとの相対回転速度):5000rpm
<第一原液供給部条件>
液温度:3.9℃
流量:50mL/分
<第二原液供給部条件>
液温度:2.9℃
流量:7.5mL/分
このようにして得られた混合液(グリコールリグニン微粒子懸濁液;上記マイクロリアクターの吐出液)のpHは3.50であり、温度は21.5℃であった。
【0063】
次に、上記で得られた混合液(酸を用いて酸性化した溶液画分)からグリコールリグニン微粒子の析出物を分離して洗浄することを目的として、メンブレンフィルターにてろ過を行い、イオン交換水にて洗浄・分散する操作を3回行うことで水洗処理を施した分散液とした。この洗浄処理により、上記の酸性化処理によってグリコールリグニン微粒子を析出させた際に副生した塩(芒硝;硫酸ナトリウム十水和物;Na2SO4・10H2O)をグリコールリグニン微粒子から分離し、除去した。
【0064】
その後、上記で得られた分散液(グリコールリグニン微粒子の析出物を含む)を精密乳化分散機(クレアミックス(エム・テクニック株式会社製))を用いて撹拌した。撹拌は、65℃、20000rpmの条件下で7分間行った。これにより、本実施例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0065】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)および90%累積径(D90)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、それぞれ111nmおよび180nmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個と顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.03であった。
【0066】
[実施例2]
第一原液供給部から供給されるグリコールリグニン溶液の液温度を25.0℃とし、第二原液供給部から供給される硫酸水溶液の液温度を38.3℃としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0067】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)および90%累積径(D90)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、それぞれ200nmおよび289nmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個を顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.05であった。なお、本実施例において、酸性化処理によって得られた混合液(グリコールリグニン微粒子懸濁液;上記マイクロリアクターの吐出液)のpHは3.16であり、温度は29.2℃であった。
【0068】
[実施例3]
第一原液供給部から供給されるグリコールリグニン溶液の液温度を61.9℃とし、第二原液供給部から供給される硫酸水溶液の液温度を60.3℃としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0069】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)および90%累積径(D90)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、それぞれ686nmおよび1198nmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個を顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.01であった。なお、本実施例において、酸性化処理によって得られた混合液(グリコールリグニン微粒子懸濁液;上記マイクロリアクターの吐出液)のpHは3.64であり、温度は41.5℃であった。
【0070】
[実施例4]
上述した実施例1と同様の手法により、グリコールリグニンを含む溶液(グリコールリグニン水溶液;グリコールリグニン濃度=2質量%)を得た。
【0071】
次いで、上記で得られたグリコールリグニン水溶液(液温度30.0℃)200gに、ポンプを用いて0.3Nの硫酸(液温度30.0℃)を滴下することにより、グリコールリグニン溶液を酸性化させ、グリコールリグニン溶液中にグリコールリグニン微粒子を析出物として沈殿させた。この際、ポンプによる硫酸の滴下速度は7.5mL/minとした。
【0072】
このようにして得られた混合液(グリコールリグニン微粒子懸濁液:バッチ反応での混合液)のpHは3.78であり、温度は29.7~29.9℃であった。
【0073】
次に、上記で得られた混合液(酸を用いて酸性化した溶液画分)からグリコールリグニン微粒子の析出物を分離して洗浄することを目的として、メンブレンフィルターにてろ過を行い、イオン交換水にて洗浄・分散する操作を3回行うことで水洗処理を施した分散液とした。この洗浄処理により、上記の酸性化処理によってグリコールリグニン微粒子を析出させた際に副生した塩(芒硝;硫酸ナトリウム十水和物;Na2SO4・10H2O)をグリコールリグニン微粒子から分離し、除去した。
【0074】
その後、上記で得られた分散液(グリコールリグニン微粒子の析出物を含む)をディスパー(プライミクス社製 T.KロボミックスTYPE)を用いて攪拌した。攪拌は、65℃、1500rpmの条件下で15分間行った。これにより、本実施例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0075】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、115nmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個を顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.02であった
[実施例5]
グリコールリグニン溶液を酸性化させる際の酸として、0.3Nの硫酸に代えて0.3Nの酢酸を用い、かつ、グリコールリグニン溶液および0.3Nの酢酸の液温度を5.0℃に変更したこと以外は、上述した実施例4と同様の手法により、本実施例のグリコールリグニン微粒子懸濁液を得た。このようにして得られた混合液(グリコールリグニン微粒子懸濁液:バッチ反応での混合液)のpHは4.73であり、温度は5.0~6.4℃であった。
【0076】
また、上記で得られたグリコールリグニン微粒子懸濁液に対して、上述した実施例4と同様の手法により洗浄処理および攪拌処理を施すことで、本実施例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0077】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、85nmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個を顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.06であった
[実施例6]
グリコールリグニン溶液を酸性化させる際のグリコールリグニン溶液の液温度および0.3Nの酢酸の液温度をそれぞれ32.5℃および30.0℃に変更したこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、本実施例のグリコールリグニン微粒子懸濁液を得た。このようにして得られた混合液(グリコールリグニン微粒子懸濁液:バッチ反応での混合液)のpHは4.76であり、温度は31.0~32.8℃であった。
【0078】
また、上記で得られたグリコールリグニン微粒子懸濁液に対して、上述した実施例5と同様の手法により洗浄処理および攪拌処理を施すことで、本実施例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0079】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、87nmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個を顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.02であった
[実施例7]
グリコールリグニン溶液を酸性化させる際のグリコールリグニン溶液の液温度および0.3Nの酢酸の液温度をそれぞれ61.2℃および60.0℃に変更したこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、本実施例のグリコールリグニン微粒子懸濁液を得た。このようにして得られた混合液(グリコールリグニン微粒子懸濁液:バッチ反応での混合液)のpHは4.72であり、温度は58.1~61.0℃であった。
【0080】
また、上記で得られたグリコールリグニン微粒子懸濁液に対して、上述した実施例5と同様の手法により洗浄処理および攪拌処理を施すことで、本実施例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0081】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、287nmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個を顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.03であった
[比較例1]
特許文献2(特開2017-197517号公報)の実施例1に記載の手法により、本比較例のグリコールリグニン微粒子の水分散液を得た。
【0082】
このようにして得られた水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子の個数基準のメジアン径(D50)および90%累積径(D90)を、粒度分布計を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、それぞれ17.8μmおよび51.3μmであった。また、上記水分散液中に分散しているグリコールリグニン微粒子数十個を顕微鏡により観察し、各粒子の真球度(=最長径(a)/最短径(b))を算出した。そして、得られた算出値の算術平均値から、平均真球度を算出したところ、1.61であった。
【0083】
以上の実施例および比較例に示す結果から、本発明によれば、粒子径が小さく、真球に近い形状を有するグリコールリグニン微粒子を製造することが可能となることがわかる。
【符号の説明】
【0084】
1 第1処理面、
2 第2処理面、
3 排出口、
4 回転ディスク、
5 固定ディスク、
A グリコールリグニン(水)溶液(A液)、
B 硫酸水溶液(B液)。