(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20241115BHJP
H02P 21/18 20160101ALI20241115BHJP
【FI】
H02P6/16
H02P21/18
(21)【出願番号】P 2021124017
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2024-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【氏名又は名称】安形 雄三
(72)【発明者】
【氏名】南平 紘一
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-023419(JP,A)
【文献】特開2018-082604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
H02P 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
dq軸電流指令値に基づいて
演算される3相電圧指令値又はdq軸電流指令値に基づいて演算される指令値及びdq軸非干渉のための指令値の加算値である2相電圧指令値を出力する電圧指令値演算部と、
モータに発生する逆起電圧を補償する逆起電圧補償電圧を演算する逆起電圧補償部と、
前記逆起電圧補償電圧を前記3相電圧指令値又は前記2相電圧指令値に加算して制御電圧指令値を出力する加算部と、
モータ角度検出器からの出力角を校正用位相角で補正して、補正後モータ角度として出力する原点補正部と、
を具備し、前記制御電圧指令値に基づいて前記モータを駆動制御するモータ制御装置において、
前記校正用位相角を求める時に、前記電圧指令値演算部の出力をゼロとする処理部と、
前記モータを
外部サーボ機構を用いて所定速度で時計方向又は反時計方向に回転させた時に、
前記補正後モータ角度に対して位相を変化させた角度に基づいて
前記逆起電圧補償電圧を変化させると共に、前記モータのdq軸電流の変化に基づいて
前記校正用位相角を求める位相調整部
と、
を具備し、
前記校正用位相角を求めた後に、前記校正用位相角により
前記の出力角を補正した前記補正後モータ角度及び前記dq軸電流指令値に基づいて前記制御電圧指令値を演算し、前記制御電圧指令値に基づいて前記モータを駆動制御することを特徴とする
モータ制御装置。
【請求項2】
前記位相調整部が、
前記補正後モータ角度に対して位相の変化を与える位相変化部と、
前記dq軸電流のうち少なくとも一方の電流の最小値若しくは前記dq軸電流の大きさの最小値を判定する電流判定部と、
前記最小値が判定されたときの最小時位相角を記憶するメモリと、
時計方向回転時の最小時位相角及び反時計方向回転時の最小時位相角の平均値を前記校正用位相角とする平均値算出部と、
で構成されている請求項1に記載の
モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、d軸電流指令及びq軸電流指令に基づいてベクトル制御される同期モータの磁極位置(回転角)を、正確に校正して検出する回転角検出装置を備えたモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータなどの同期モータの制御装置は、dq軸座標制御系を用いてロータの磁極位置に応じて適切な励磁位相巻線に電流を流し、所望のトルクを発生させるようにしている。かかる同期モータでは、電気角の原点を正確に校正しておくことは、モータ出力を正確に制御する上で重要である。同期モータには、ロータの磁極位置を検出するためのエンコーダ等の磁極位置センサを備えた同期モータと、磁極位置センサを備えない同期モータとの2種類がある。
【0003】
このうち磁極位置センサを備えない同期モータの場合、同期モータの電源投入(始動)の度に磁極位置検出処理を行って、磁極の初期位置(以下、「磁極初期位置」とする)を検出し、この磁極初期位置を基準とした磁極位置に基づいて、同期モータの回転を制御する必要がある。しかしながら、この電源投入時の磁極位置検出処理の検出精度にバラツキがある場合には、同期モータの駆動時におけるトルク定数にもバラツキが生じることになり、最大トルクを発生できないことがある。特に、界磁弱め制御が必要な高速回転まで駆動する場合には、磁極位置にずれがあると、適正なd軸電流を流すことができず、このため同期モータに印加される駆動電圧が不足し、制御が不安定になる問題がある。
【0004】
このような問題に対処するため、同期モータを初めて立ち上げる場合や、モータセンサの交換保守時などの場合に、磁極の基準位置と同期モータの回転センサの基準位置とのずれ量である磁極補正値を、予めメモリに記憶しておき、実際に同期モータの電源投入時における磁極位置の検出処理後に、最初に同期モータの回転センサの基準位置を検出した時に、基準位置に対応する磁極補正値に基づいて回転制御に用いる磁極位置を補正することで、同期モータの駆動時には、常に同じ磁極位置を基準として制御できるようにする方法がある。この方法によれば、センサ基準位置に対応した磁極補正値をメモリに予め設定しておき、磁極初期位置を補正することで、それ以降は常に、センサ基準位置に対応する磁極補正値を基準として制御できる。
【0005】
また、直流励磁してロックしたモータ固定子側の基準点にエンコーダの基準点を合わせ、その後、初期磁極推定結果及びエンコーダ情報からずれ量を求め、ずれ量をエンコーダのメモリに記憶しておいて補正する方法がある。
【0006】
このような磁極補正値を用いる方法では、同期モータの電源投入時における磁極位置の検出処理後に、最初に同期モータの回転センサの基準位置を検出した時に、この位置に対応した磁極初期位置を基準とした磁極位置を磁極補正値として設定する。しかしながら、磁極位置検出処理には上述のように検出精度にばらつきがあるので、この検出精度のばらつきに起因する磁極補正値の設定への影響を低減するためには、磁極位置検出処理を複数回行って平均値を算出する必要があり、算出に時間がかかるという問題がある。また、磁極補正値を用いる方法では、磁極位置検出処理を何回実行すれば良いかといった明確な指標はなく、磁極補正値内に含まれる誤差を十分に除去できないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した問題を解決する手法として特許第5174205号公報(特許文献1)に記載された検出装置が提案されている。即ち、同期モータの磁極位置を検出する検出装置は、同期モータの電源投入時における磁極初期位置の検出後に、所定のd軸電流指令値を与えて同期モータを正転及び逆転させた時に、それぞれ生成される同期モータを回転させるための正転時d軸電圧指令値及び逆転時d軸電圧指令値の差に基づいて磁極補正値を生成する生成手段と、磁極補正値及び同期モータのセンサの基準位置であるセンサ基準位置に基づいて、磁極初期位置を補正する補正手段とを備えており、補正後の磁極初期位置に基づいて同期モータの回転を制御するようになっている。
【0009】
しかしながら、かかる特許文献1に記載の検出装置では、電流値をarctan演算したり、多くの演算を実施しており、演算コストが高くなる問題がある。また、フィードバック制御部が作用しているため、正確な補正量を求めることが困難であるといった問題がある。
【0010】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、構成的に演算コストが安価であり、正確な補正量を容易に求めて校正することが可能な回転角検出装置を備えたモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、dq軸電流指令値に基づいて演算される3相電圧指令値又はdq軸電流指令値に基づいて演算される指令値及びdq軸非干渉のための指令値の加算値である2相電圧指令値を出力する電圧指令値演算部と、モータに発生する逆起電圧を補償する逆起電圧補償電圧を演算する逆起電圧補償部と、前記逆起電圧補償電圧を前記3相電圧指令値又は前記2相電圧指令値に加算して制御電圧指令値を出力する加算部と、モータ角度検出器からの出力角を校正用位相角で補正して、補正後モータ角度として出力する原点補正部とを具備し、前記制御電圧指令値に基づいて前記モータを駆動制御するモータ制御装置に関し、本発明の上記目的は、前記校正用位相角を求める時に、前記電圧指令値演算部の出力をゼロとする処理部と、前記モータを外部サーボ機構を用いて所定速度で時計方向又は反時計方向に回転させた時に、前記補正後モータ角度に対して位相を変化させた角度に基づいて前記逆起電圧補償電圧を変化させると共に、前記モータのdq軸電流の変化に基づいて前記校正用位相角を求める位相調整部とを具備し、前記校正用位相角を求めた後に、前記校正用位相角により前記出力角を補正した前記補正後モータ角度及び前記dq軸電流指令値に基づいて前記制御電圧指令値を演算し、前記制御電圧指令値に基づいて前記モータを駆動制御することにより達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の回転検出装置によれば、モータ逆起電圧を補償する逆起電圧補償部を介挿しているので、dq軸次元でも3相次元でもモータの逆起電圧補償を実施することができる。また、モータ回転角の原点を校正する誤差調整モードにおいて、モータを所定速度で回転させながら、進角又は遅角となる位相を変化させ、d軸電流(若しくはdq軸電流ベクトルの大きさ)が最小となったときの位相角を、CW方向回転及びCCW方向回転について求め、平均値を算出して原点補正(校正)の補正値としているので、正確に校正された回転角の検出が可能である。モータ逆起電圧を補償する逆起電圧補償部は、通常制御モードにおいても使用される。誤差調整モード用の逆起電圧補償部と通常制御モード用の逆起電圧補償部との演算処理の差は小さい。このため、プログラム容量の増加、プログラム検証に掛かる時間の増加などの課題に対し、少ない容量増加、短い検証時間で対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】原点からの誤差がある場合において、逆起電圧補償によるdq軸電流が流れることを示す概念図である。
【
図2】3相制御電圧指令値に逆起電圧補償電圧を付与する形態の構成例(通常制御モード)を示すブロック図である。
【
図3】3相制御電圧指令値に逆起電圧補償電圧を付与する形態の構成例(誤差調整モード)を示すブロック図である。
【
図4】誤差調整モードにおける構成例の一部を示す結線図である。
【
図5】誤差調整モードにおける構成例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の動作例を示すフローチャート図である。
【
図7】dq軸制御電圧指令値に逆起電圧補償電圧を付与する形態の構成例(通常制御モード)を示すブロック図である。
【
図8】dq軸制御電圧指令値に逆起電圧補償電圧を付与する形態の構成例(誤差調整モード)を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、原点からの誤差がある場合において、逆起電圧補償によるdq軸電流が流れることを示す概念図である。このとき、dq軸電流指令値に基づく電圧指令値はないものとしている。d及びqはそれぞれモータ軸上のd軸及びq軸を示し、d
d及びq
dはそれぞれ制御上のd軸及びq軸を示す。また、q
ccw及びq
cwは、角度検出時から逆起電圧補償値がモータ端子に反映されるまでの時間経過を考慮したときのモータ軸上のq軸を示している。そして、「CW」はモータの時計方向回転を示し、「CCW」はモータの反時計方向回転を示す。基準角度からの角度に誤差Δθがあるとdq軸の電流が流れるが、誤差Δθが小さいので、q軸電流よりもd軸電流の割合が大きくなっている。また、角度検出時点から逆起電圧補償電圧がモータ端子に生じるまでの遅れ時間があり、このため、回転方向によりdq軸電流に差異が生じている。
【0015】
逆起電圧補償が正しく機能すると、回転時のdq軸電流値はゼロになる(PI補償が無い場合)。しかし、逆起電圧補償の位相がずれていると不完全な補償になり、dq軸電流値がゼロでなくなる。この場合、dq軸電流値がゼロになるように、進角又は遅角となる位相α(原点からの誤差)の調整が必要になる。電気角検出値の原点が真値からずれている場合、位相αの適値は回転方向で異なる値をとる。d軸電流をゼロとするようなCW方向の逆起電圧補償の位相角αcwと、d軸電流をゼロとするようなCCW方向の逆起電圧補償の位相角αccwとを求め、その位相角平均値αmを角度誤差とすれば良く、これが電気角オフセット校正量(原点からの誤差補正量)に相当する。
【0016】
進角又は遅角となる位相αの適値を検索するのに用いる電流は、dq軸電流値や相電流振幅など種々あるが、位相αの操作に対する変化が大きいことから、d軸電流を計測するのが望ましいが、q軸電流であっても良い。即ち、dq軸電流の少なくとも一方の電流値がゼロとなるような位相αを求めても良い。また、d軸電流及びq軸電流の二乗和平方根(dq軸電流ベクトルの大きさ)或いは二乗和が最小となるような位相αを求めても良い。
【0017】
図1では、逆起電圧補償電圧(太実線)と実逆起電圧(点線)との合成ベクトル電圧(太破線)を図示している。モータ電流に寄与する合成ベクトル電圧がモータ端子に印加されたよう見えるため、dq軸電流はそのdq軸電圧成分に見合う大きさになる。基準点(原点)からの誤差は、モータ出荷時にある程度調整されているため小さいと考えられるが、
図1では図示のし易さ、分かり易さを考慮して大きな角度誤差としている。また、合成ベクトルの成分としてはd軸の方が大きく寄与するが、誤差が大きいと逆転することがある。
【0018】
図2は、3相制御電圧指令値v
u、v
v、v
wに逆起電圧補償電圧(v
u1*、v
v1*、 v
w1*)を付与する形態のモータ制御系の構成例(通常制御モード)を示しており、原点補正部70には、予め誤差調整モードで求められている補正値(位相α
m)が記憶されている。d軸電流指令値idref及びq軸電流指令値iqrefはそれぞれ減算部12d及び12qに加算入力され、計測されたd軸電流id及びq軸電流iqをそれぞれ減算される。減算結果である電流偏差がそれぞれPI(Proportion-Integral)制御部11d及び11qに入力される。PI制御部11d及び11qからの電圧指令値v
d及びv
qは、2相/3相変換部10に入力されて3相の制御電圧指令値v
u、v
v、v
wに変換される。制御電圧指令値v
u、v
v、v
wはそれぞれ加算部31u、31v、31wに入力され、逆起電圧補償部41からの逆起電圧補償電圧v
u1*、v
v1*、v
w1*と加算される。加算部31u、31v、31wの加算結果の制御電圧指令値はそれぞれ減算部32u、32v、32wに加算入力され、実逆起電圧部40からの逆起電圧v
u2*、v
v2*、v
w2*が減算されてモータのそれぞれモータの巻線モデル30u、30v、30wに入力される。減算部32u、32v、32w及び実逆起電圧部40は、実際にモータに発生する逆起電圧をモデル化したものである。巻線モデルの出力は電流Iで、端子電圧をVとすると、電圧方程式は下記数1で表わされる。
(数1)
V=L・dI/dt+R・I
上記数1をラプラス変換すると、下記数2となる。
(数2)
V(s)=L・s・I(s)+R・I(s)
そして、伝達関数(出力電流/入力電圧)の記述では、“1/(L・s+R)=I(s)/V(s)”とる。なお、抵抗Rには駆動回路の抵抗も含まれている。
【0019】
また、モータには下記数3に従ったモータ実逆起電圧vu2*、vv2*、vw2*が発生され、モータ実逆起電圧vu2*、vv2*、vw2*は、3相の制御電圧指令値の経路の減算部32u、32v、32wに減算入力される。なお、数3における“Ker”は、モータ逆起電圧定数、“θr”は実回転角度、“ωr”は実角速度である。
【0020】
【数3】
モータ巻線モデル30u、30v、30wからの3相の相電流はモータモデル20に入力されると共に、3相/2相変換部50に入力される。モータモデル20の伝達関数は“Kt/(Js+d)”であり、“Kt”はモータトルク定数(Nm/A)、“J”はモータ慣性モーメント、“d”は粘性係数である。モータモデル20の出力は積分(s)のモータモデル(p/s)21で実回転角度(電気角)θrとして出力される。また、モータモデル(p)24からは、実角速度ωrが出力される。実回転角度θrは、角度検出器23を介して回転角度θsとして、原点補正用の減算部71に加算入力される。角度検出器23の取り付け誤差及び原点補正部の調整誤差が、原点誤差Δθを生じさせる。
【0021】
なお、モータモデル21及び24の“p”は、いずれもモータ極対数を示している。モータモデル21では、p倍することでモータ機械角を電気角に変換し、モータモデル24では、p倍することでモータ機械速度を電気速度に変換している。
【0022】
減算部71に加算入力された回転角度θsは、誤差調整モードで算出された原点補正部70からの補正信号CR(位相角αm)を減算される。補正信号CR(位相角αm)を減算されて補正された回転角度θ(θ=θs-αm)が、微分部22、逆起電圧補償部41、2相/3相変換部10及び3相/2相変換部50に入力される。微分部22で微分されて得られた角速度(モータ回転数)ωは逆起電圧補償部41に入力される。逆起電圧補償部41では、回転角度θ及び角速度ωに基づいて下記数4に従って逆起電圧補償電圧vu1*、vv1*、vw1*が演算され、逆起電圧補償電圧vu1*、vv1*、vw1*が3相の制御電圧指令値の経路の加算部31u、31v、31wに入力される。なお、数4の“g・ω”は、角度検出時点からモータ端子電圧発生までに要する時間による位相遅れを調整する角度である。
【0023】
【数4】
加算部31u、31v、31wの加算結果がそれぞれ減算部32u、32v、32wに加算入力される。また、3相/2相変換部50で得られた2相のd軸電流id及びq軸電流iqは、それぞれ減算部12d及び12qに減算入力される。
【0024】
このような構成において、通常の制御モードでは、原点補正部70からの補正値(位相αm)CRを角度検出器23からの実回転角度θsから減算して制御させ、減算部71からの回転角度θが逆起電圧補償部41、3相/2相変換部50、2相/3相変換部10及び微分部22に入力される。そして、モータはd軸電流指令値idref及びq軸電流指令値iqrefに従ってベクトル制御され、通常制御では、電流偏差が小さくなるように電流偏差をPI制御して、3相の制御電圧指令値をモータに印加する手法が一般に採用される。実逆起電圧部40の実逆起電圧vu2*、vv2*、vw2*は制御電圧指令値を低減する方向に発生するため、PI制御には負荷(外乱)として見える。本発明ではこの外乱を相殺(補償)するために、逆起電圧補償はフィードフォワード的に制御電圧指令値に印加(加算)している。即ち、逆起電圧補償部41からの逆起電圧補償電圧vu1*、vv1*、vw1*がそれぞれ加算部31u、31v、31wに入力され、実逆起電圧vu2*、vv2*、vw2*の各減少分を補償するようになっている。
【0025】
誤差調整モードにおいては、既存の逆起電圧補償のブロックを、誤差調整モードに少し修正して使用する。詳細は後述する。少しの修正で使用できるため、ソフトウエア資産(記憶容量)を有効に利用できることになる。異なる他の手法では、追加ロジックを実装する必要があるため、追加分の記憶容量が必要となる。
【0026】
次に、誤差調整モードの動作について、
図3を参照して説明する。
【0027】
モータ出荷時にある程度、逆起電圧位相とモータ回転角センサ(レゾルバ、MRセンサなど)の出力の位相が調整されているとし、モータをECU(Engine Control Unit)と接続した初期に、誤差調整モードを起動させる。従って、誤差調整モードでは、モータは制御対象と連結されていない状態であり、後述するように外部測定装置100を介して外部サーボ機構111によって、負荷なしに回転することができる。誤差調整モードでは
図3に示す位相調整部60において、d軸電流idが最小となる位相αを時計方向CW、反時計方向CCWについて求め、時計方向CWの最小位相α
CW及び反時計方向CCWの最小位相α
CCWの平均値を算出し、算出された平均値の位相α
mを、原点を補正する補正値CRとしてECU(原点補正部70)に記憶しておく。通常の制御では、回転角度θsを誤差調整モードで予め求められて記憶されている補正値CR(位相角α
m)で原点補正(校正)した回転角度θで制御する。
【0028】
誤差調整モードでは、
図4に示すように、2相/3相変換部10の出力側に切換スイッチSW1~SW3を設け、通常制御モードではONして3相制御電圧指令値v
u、v
v、v
wを通過させ、誤差調整モードでは、外部測定装置100からの切換信号SWSによって切換スイッチSW1~SW3をOFFし、3相制御電圧指令値v
u、v
v、v
wを接地してゼロとする。この切換手法の他に、減算部12d及び12q、PI制御部11d及び11qを全て無効化し、3相制御電圧指令値v
u、v
v、v
wを接地してゼロとする形態、或いはPI制御の制御定数等を変更して電圧指令値v
d及びv
qをゼロにする形態(比例ゲイン、積分ゲイン及び積分過去値をゼロとする)、2相/3相変換部10の出力を強制的にゼロとする形態でも良く、要は3相制御電圧指令値v
u、v
v、v
wをゼロにできれば良い。
【0029】
また、誤差調整モードでは、逆起電圧補償部41の数4の遅れ角g・ωを、位相調整部60からの位相αに置き換える。
図3の誤差調整モードは、初回の調整を前提としており、再度実施する場合には、位相調整部60からの指示に応じて所定の値(例えばゼロ又は原点補正部70の現状の値)を新しい補正値CRとして再設定する。そして、以下に詳細を説明する手順で求めた位相進角若しくは位相遅角の平均値α
mを、再設定後の補正値CRと加算し、最終補正量として原点補正部70に記憶する手順になる。
【0030】
誤差調整モードにおける全体の調整系の構成は
図5であり、作業者が操作して測定する外部測定装置100が、通信部101を介して位相調整部60及びサーボ回転指示部110に有線若しくは無線で接続されている。サーボ回転指示部110は、外部サーボ機構111を介してモータを所定速度で回転する機構となっている。
図5では、モータに制御対象が連結された構成を示しているが、最初の誤差調整モードでは、モータに制御対象が連結されていない状態となっている。
【0031】
位相調整部60は通信部61を備えており、外部測定装置100とは通信部101を介して通信することができ、位相調整部60は、位相を進角で連続的に変化させる位相変化部62と、変化する位相αを出力する位相出力部63と、位相出力部63からの位相αを適宜記憶するメモリ64と、記憶された位相の平均値αmを算出する平均値算出部65と、d軸電流idの最小値を判定する電流判定部67とを具備している。d軸電流を最小にする位相αを求めるようにしているが、これは逆起電圧補償に用いる逆起電圧定数が実逆起電圧定数と完全に一致することがないため、ある程度電流が流れることを前提としているためである。
【0032】
このような構成において、誤差調整モードにおける補正値CR(位相α
m)の求め方を、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
誤差調整モードになった場合、ほぼ自動校正と作業者を介した手順とがある。作業者を介した手順としては、外部測定装置100を介してサーボ回転指示部110を起動し、外部サーボ機構111によりモータを時計方向CWに所定速度(例えば1500rpm)で回転させる(ステップS10)。そして、進角となる位相を、外部測定装置100から通信部101及び61を介して位相調整部60に指示する(ステップS11)。位相調整部60では、位相変化部62が位相を変化させ、変化する位相αが位相出力部63から出力され、位相αは逆起電圧補償部41に入力される。位相調整部60にはd軸電流id及びq軸電流iqが入力されるが、本例ではd軸電流idの大きさを電流判定部67が判定する。そして、作業者は、d軸電流idが最小となるときを、電流判定部67の結果を通信部101及び61を介して観測して判定し(ステップS12)、その時の位相αCWをメモリ64に記憶する(ステップS13)。
【0034】
逆起電圧補償部41は入力される位相αに従い、下記数5により逆起電圧補償電圧vu1**、vv1**、vw1**を演算して、それぞれ加算部31u、31v、31wに加算して逆起電圧補償を実施する。
【0035】
【数5】
その後、作業者は同様に、外部測定装置100を介して、サーボ回転指示部110及び外部サーボ機構111によりモータを反時計方向CCWに同じ所定速度(例えば1500rpm)で回転させ(ステップS20)、進角となる位相を外部測定装置100から通信部101及び61を介して位相調整部60に指示する(ステップS21)。位相調整部60では、位相変化部62が位相を変化させ、変化する位相αが位相出力部63から出力され、位相αは逆起電圧補償部41に入力される。逆起電圧補償部41で、上述と同様な数5に従った逆起電圧補償電圧v
u1**、v
v1**、v
w1**が演算され、それぞれ加算部31u、31v、31wに加算されて逆起電圧補償が実施される。そして、作業者は、d軸電流idが最小となるときを、電流判定部67の結果を観測して判定し(ステップS22)その時の位相α
CCWをメモリ64に記憶する(ステップS23)。
【0036】
次いで、平均値算出部65は、メモリ64に記憶されている位相αCW及びαCCWを読み出して平均値αmを算出し(ステップS30)、外部測定装置100からCAN等を介して原点補正部70に補正値として記憶させる(ステップS31)。
【0037】
上述は作業者を介した手順であるが、ほぼ自動校正で行うことも可能である。この場合、作業者は、外部サーボ機構111とモータを接続した後、通信部101を介して位相調整部60に誤差調整モードへの移行を指示する。位相調整部60は、上記ステップS10及びステップS20の外部サーボ機構111の回転を通信部101を介して指示し、その他のステップの処理を位相調整部60内部で実行する。
【0038】
図7は、通常制御における形態を示している。dq軸上で誤差調整モード用の逆起電圧補償電圧Vd及びVqを付与する形態を示しており、太線はdq軸信号を示している。即ち、d軸電流id及びq軸電流iqはdq軸非干渉化部14に入力されると共に、減算部12に減算入力される。dq軸非干渉化部14にはモータ回転数ωが入力され、dq軸非干渉化部14からの電圧指令値v
n1は誤差調整モード用の加算部16に入力され、減算部12からの電流指令値(idref、iqref)とdq軸電流(i
d、i
q)との電流偏差がPI制御部13に入力され、PI制御部13からの電圧指令値v
n2は加算部15に入力され、加算部15からのdq軸制御電圧指令値が2相/3相変換部10に入力される。2相/3相変換部10以降の構成等は、前述3相補償の場合と同様である。通常制御においては、誤差調整モード用の逆起電圧補償電圧Vd及びVq(v
c1)は強制的にゼロに設定される。
【0039】
ここで、dq軸2相の逆起電圧補償(非干渉化制御)について説明する。
【0040】
d軸電機子電圧をVdd、q軸電機子電圧をVqq、d軸電機子巻線抵抗をRd、q軸電機子巻線抵抗をRq、q軸に誘起される速度起電力をφω(鎖交磁束φ、モータ角速度ω)、d軸制御対象(モータ)の自己インダクタンスをLd、q軸制御対象(モータ)の自己インダクタンスをLq、ラプラス演算子をsとすると、d軸制御対象(モータ)は“1/(Ld・s+Rd)”で表記され、q軸制御対象(モータ)は“1/(Lq・s+Rq)”で表記され、d軸電機子電圧Vdd及びq軸電機子電圧Vqqは下記数6で表される。
【0041】
【0042】
【数7】
数7のd軸電機子電圧Vddの右辺第1項はモータの逆関数、第2項は非干渉成分、数7のq軸電機子電圧Vqqの右辺第1項はモータの逆関数、第2項は非干渉成分、第3項は逆起電圧成分である。d軸電機子電圧Vddから“-ωL
qi
q”を減算した電圧降下後有効電圧によってd軸電流が発生し、d軸電機子電圧Vqqから“ωL
di
d+ωφ”を減算した電圧降下後有効電圧によってq軸電流が発生する(特許第6658995号参照)。従って、dq軸非干渉化部14による非干渉化制御としては、これを相殺する方向に補正する。
【0043】
誤差調整モードにおいては、dq軸非干渉化部14に替えて、下記数8で示される逆起電圧vc1(Vd、Vq)を逆起電圧補償部41Aで生成して逆起電圧を相殺するようにする。
【0044】
【数8】
このような構成において、通常制御モードにおいては前述の3相補償の場合と同様な動作であり、モータ出力角度θを原点補正部70からの補正信号CR(位相α
m)で補正して制御する。
【0045】
誤差調整モードでは
図8に示すように、前述と同様な形態で、PI制御部13の出力である電圧指令値v
n2及びdq軸非干渉化部14の出力である電圧指令値v
n1をそれぞれゼロとし、
図6と同様な動作で平均値の位相α
mを求める。
【0046】
dq軸上で誤差調整モード用の逆起電圧補償電圧部41Aは、3相上での逆起電圧補償電圧部41と異なるが、位相調整部60の処理は共通である。逆起電圧補償電圧部41Aでの演算式及びその他の信号のゼロ化処理は簡単であり、プログラム容量増加及び処理負荷も少ない。dq軸非干渉化部14には位相に関連する情報がないが、逆起電圧補償電圧部41Aには位相を直接調整するようになっており、校正が容易となる利点がある。
【0047】
なお、モータを制御対象に組み込んだ後に誤差調整モードで測定する場合、モータに制御対象が連結されているため、制御対象等が負荷となり、大容量の外部サーボ機構が必要となる。
【符号の説明】
【0048】
10 2相/3相変換部
11d、11q、13 PI制御部
12、12d、12q 減算部
14 dq軸非干渉化部
20 モータモデル
21 モータモデル(積分)
22 微分部
23 角度検出器
40 実逆起電圧部
41、41A 逆起電圧補償部
50 3相/2相変換部
60 位相調整部
62 位相変化部
63 位相出力部
64 メモリ
65 平均値算出部
70 原点補正部
100 外部測定装置
101 通信部
110 サーボ回転指示部
111 外部サーボ機構