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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20241115BHJP
【FI】
A01G31/00 618
A01G31/00 617
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024157173
(22)【出願日】2024-09-11
【審査請求日】2024-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519386969
【氏名又は名称】アグリ・コア・システム合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519386970
【氏名又は名称】株式会社Cultivera
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 学
(72)【発明者】
【氏名】豊永 翔平
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特許第7148090(JP,B2)
【文献】特開2021-69281(JP,A)
【文献】特開2012-100595(JP,A)
【文献】特開2017-23022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0183062(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - A01G 31/06
A01G 9/00 - A01G 9/08
A01G 25/00 - A01G 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方への開口が形成された容器状のベッド本体と、
前記ベッド本体の前記開口を覆うように設けられ、植物が配置されるカバー貫通孔を形成し、かつ、前記ベッド本体の内側に内部空間を画成するベッドカバーと、
前記内部空間を上下に仕切るとともに前記植物の根が通過可能な下部根通過用孔が形成され、前記内部空間において前記ベッド本体の底面との間に、塩分を含む水、または養液(以下、主養液)が貯留される下部領域を画成する下部仕切板部と、
前記内部空間を上下に仕切るとともに前記植物の根が通過可能な上部根通過用孔が形成され、前記内部空間において前記下部仕切板部との間に中間領域を画成し、かつ、前記ベッドカバーとの間に上部領域を画成する上部仕切板部と、
前記上部領域を、前記カバー貫通孔に配置される前記植物を支持する培地または該植物の根が浸漬される養液(以下、培地代替養液)が位置する第一領域と、該第一領域以外の領域となる第二領域とに区画し、かつ、該第一領域と該第二領域とを連通する領域連通孔が形成された区画壁と、
前記第一領域、および/または、前記第二領域に給水する潅水部と、
を備える栽培システム。
【請求項2】
前記区画壁を構成するとともに、前記培地または前記培地代替養液を収容する栽培容器をさらに備え、
前記栽培容器は前記ベッドカバーおよび前記ベッド本体とは別体となっており、前記カバー貫通孔を通じて前記上部仕切板部上に載置されている請求項1に記載の栽培システム。
【請求項3】
前記上部領域において前記上部仕切板部の上に設けられ、保水性、および、前記植物の根が通過可能となる透根性を有する上部保水マットをさらに備える請求項1に記載の栽培システム。
【請求項4】
前記中間領域において前記下部仕切板部の上に設けられ、保水性、および、前記植物の根が通過可能となる透根性を有する下部保水マットをさらに備え、
前記下部保水マットと前記上部保水マットとは同一の材料で形成され、
前記下部保水マットは、前記上部保水マットよりも厚みが薄くなっている請求項3に記載の栽培システム。
【請求項5】
前記下部仕切板部の上に設けられ、保水性、および、前記植物の根が通過可能となる透根性を有する下部保水マットをさらに備え、
前記下部保水マットは、前記上部保水マットにくらべて前記内部空間への単位時間当たりの水分の供給量が多くなっている請求項3に記載の栽培システム。
【請求項6】
前記下部領域において、前記塩分を含む水または前記主養液の水面は、前記下部仕切板部の下面から下方に離れている請求項1から5のいずれか一項に記載の栽培システム。
【請求項7】
前記塩分を含む水または前記主養液を温調する水温調節装置をさらに備える請求項1から5のいずれか一項に記載の栽培システム。
【請求項8】
前記下部領域において、前記塩分を含む水または前記主養液に振動を付与する振動付与部をさらに備える請求項1から5のいずれか一項に記載の栽培システム。
【請求項9】
前記塩分を含む水または前記主養液に気泡を含ませる気泡発生部をさらに備える請求項1から5のいずれか一項に記載の栽培システム。
【請求項10】
前記ベッドカバーの下面に設けられ、該ベッドカバーよりも熱伝導率の高い材料からなるカバーシートをさらに備える請求項1から5のいずれか一項に記載の栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物等の植物の栽培を行う栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常気象の影響等によって海面の水位も上昇しつつあり、例えば海沿いの地域においては、海水が沿岸の土壌や河川、井戸に侵入し、水中、土壌中の塩分濃度が上昇し、野菜や花等の植物の栽培が困難となってきている。このため現在、塩分を含む水や土壌であっても植物の栽培が可能な技術が求められている。
【0003】
ここで例えば特許文献1には、栽培ベッド内の空間を上部領域と下部領域とに区画し、上部領域において湿気中根を発生させ、下部領域の塩水から蒸発した水(ほぼ純水)を湿気中根に吸収させることで、塩水による生育への悪影響を回避しつつ植物の栽培を可能とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第7148090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上述した湿気中根は、培地からの十分な水分吸収が不足し、かつ空気中の湿度が高いときに、湿度の高い環境で植物が生き残るための重要な適応機構となっており、湿気中根では通常の根(土中根等)と比べて根毛が多く発達し、これにより水分や栄養分を効率よく吸収することができる。よって湿気中根の発達を促すには、湿気中根周りの環境を高湿度に保つ必要がある。この点、特許文献1に記載の装置では栽培ベッドとカバーとの間の密閉性が十分ではなく、上部領域内を高湿状態に維持する技術に関しては改善の余地があった。
【0006】
そこで本発明は、植物の湿気中根まわりの空間を高湿状態に保ち、湿気中根の発生を最大限に促進することのできる栽培システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る栽培システムは、上方への開口が形成された容器状のベッド本体と、前記ベッド本体の前記開口を覆うように設けられ、植物が配置されるカバー貫通孔を形成し、かつ、前記ベッド本体の内側に内部空間を画成するベッドカバーと、前記内部空間を上下に仕切るとともに前記植物の根が通過可能な下部根通過用孔が形成され、前記内部空間において前記ベッド本体の底面との間に、塩分を含む水、または養液(以下、主養液)が貯留される下部領域を画成する下部仕切板部と、前記内部空間を上下に仕切るとともに前記植物の根が通過可能な上部根通過用孔が形成され、前記内部空間において前記下部仕切板部との間に中間領域を画成し、かつ、前記ベッドカバーとの間に上部領域を画成する上部仕切板部と、前記上部領域を、前記カバー貫通孔に配置される前記植物を支持する培地または該植物の根が浸漬される養液(以下、培地代替養液)が位置する第一領域と、該第一領域以外の領域となる第二領域とに区画し、かつ、該第一領域と該第二領域とを連通する領域連通孔が形成された区画壁と、前記第一領域、および/または、前記第二領域に給水する潅水部と、を備える。
【0008】
上記栽培システムは、前記区画壁を構成するとともに、前記培地または前記培地代替養液を収容する栽培容器をさらに備え、前記栽培容器は前記ベッドカバーおよび前記ベッド本体とは別体となっており、前記カバー貫通孔を通じて前記上部仕切板部上に載置されている。
【0009】
上記栽培システムは、前記上部領域において前記上部仕切板部の上に設けられ、保水性、および、前記植物の根が通過可能となる透根性を有する上部保水マットをさらに備えてもよい。
【0010】
上記栽培システムは、前記中間領域において前記下部仕切板部の上に設けられ、保水性、および、前記植物の根が通過可能となる透根性を有する下部保水マットをさらに備え、前記下部保水マットと前記上部保水マットとは同一の材料で形成され、前記下部保水マットは、前記上部保水マットよりも厚みが薄くなっていてもよい。
【0011】
上記栽培システムは、前記下部仕切板部の上に設けられ、保水性、および、前記植物の根が通過可能となる透根性を有する下部保水マットをさらに備え、前記下部保水マットは、前記上部保水マットにくらべて前記内部空間への単位時間当たりの水分の供給量が多くなっていてもよい。
【0012】
上記栽培システムでは、前記下部領域において、前記塩分を含む水または前記主養液の水面は、前記下部仕切板部の下面から下方に離れていてもよい。
【0013】
上記栽培システムは、前記塩分を含む水または前記主養液を温調する水温調節装置をさらに備えてもよい。
【0014】
上記栽培システムは、前記下部領域において、前記塩分を含む水または前記主養液に振動を付与する振動付与部をさらに備えてもよい。
【0015】
上記栽培システムは、前記塩分を含む水または前記主養液に気泡を含ませる気泡発生部をさらに備えてもよい。
【0016】
上記栽培システムは、前記ベッドカバーの下面に設けられ、該ベッドカバーよりも熱伝導率の高い材料からなるカバーシートをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上記の栽培システムによれば、植物の湿気中根まわりの空間を高湿状態に保ち、湿気中根の発生を最大限に促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る栽培システムの縦断面図である。
図2】上記栽培システムを上面視した図であって図1のI矢視図である。
図3】上記栽培システムの上部仕切板部、および下部仕切板部を示す上面図である。
図4】実際の湿気中根の発生の様子を示す参考図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(全体構成)
図1に示すように栽培システム100は、例えばハウス内や植物工場内等、栽培環境の調整が可能な場所に設置され、植物PLを栽培するための装置となっている。具体的に栽培システム100は、上方への開口1xが形成されたベッド本体1と、ベッド本体1の開口1xを覆うベッドカバー2と、ベッド本体1に設けられた下部仕切板部3、下部保水マット4、上部仕切板部5、上部保水マット6、および栽培容器7と、植物PLへ給水する潅水部8とを備えている。
(ベッド本体)
【0020】
ベッド本体1は、開口1xを通じて、自身の内部空間Sを上方へ露出させた容器状をなしており、例えば断熱性を有する発泡スチロール等の材料によって形成されている。なおベッド本体1の材質は特に限定されるものではない。また図2に示すようにベッド本体1は、複数の植物PLを一列(二列以上であってもよい)に並べて配置可能となるように、水平方向(図1の紙面に向かう方向)に延びる細長い形状をなしている。植物PLを栽培する際には、このベッド本体1をハウス内や植物工場内に複数並べて使用する。なお図2では栽培システム100の構造を視認し易くするため、植物PLを非表示としている。
【0021】
(ベッドカバー)
図1に戻ってベッドカバー2は板状をなし、ベッド本体1の上部に着脱可能に設けられることで、ベッド本体1との間に上記の内部空間Sを画成する。ベッドカバー2の材質は特に限定されないが、ベッド本体1と同様に断熱性を有する例えば発泡スチロール等が用いられるとよい。ベッドカバー2には、詳しく後述する栽培容器7とともに植物PLが一つずつ配置されるカバー貫通孔2xが、ベッド本体1の長手方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0022】
ここでベッドカバー2とベッド本体1との間においてベッドカバー2の下面2aには、ベッド本体1の開口1xを覆うようにカバーシート10が設けられている。カバーシート10の外縁部分10aは、ベッド本体1の外面に対向するようにベッド本体1の外側に配置され、カバーシート10がベッド本体1を外側から覆うように設けられている。またカバーシート10には、ベッドカバー2のカバー貫通孔2xに対応する位置で、カバー貫通孔2xと同程度の大きさのシート貫通孔10xが形成されている。カバーシート10はベッドカバー2よりも熱伝導率の高い材料からなっており、カバーシート10の材料としては例えばアルミニウム、銅などの熱伝導率の高い金属材料が好適に使用される。またカバーシート10全体がアルミニウム、銅など材料で形成されていなくともよく、表面にアルミニウムや銅の被膜を設けた蒸着フィルム等をカバーシート10に使用してもよい。
【0023】
(下部仕切板部)
下部仕切板部3は、ベッド本体1における内部空間Sに配置され、この内部空間Sを上下に仕切っている。図3に示すように下部仕切板部3には、植物PLの根Rが通過可能となるように、複数の根通過用孔(下部根通過用孔)3xが形成されている。下部仕切板部3の材質は特に限定されないが、耐塩水性を有する材料によって形成されているか、または耐塩水性被膜を表面(特に下面)に有しているとよい。下部仕切板部3はベッド本体1に対して着脱可能に設けられるとよい。具体的には例えば、不図示の突起をベッド本体1の内面に設け、この突起上に下部仕切板部3を設置してもよいし、後述する供給管20上に載置してもよい。そして図1に戻って、下部仕切板部3はベッド本体1の内部空間Sにおいてベッド本体1の底面1tとの間に下部領域SLを画成している。
【0024】
そして下部領域SLには、塩分を含む水(以下、塩水とする)Wが貯留されている。塩水W中の塩分には、塩化ナトリウムだけでなく塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム等の塩類も含まれていてもよい。塩水Wの塩分濃度(体積パーセント濃度)は特に限定されるものではない。また塩水Wとして海水をそのまま使用したり、希釈海水を使用したりすることも可能である。塩水Wとして例えば海水を4倍以上15倍以下に希釈したものを使用するのであればアブラナ科の野菜等の栽培に好適である。この場合、海水の塩分濃度(体積パーセント濃度)は3.1%~3.8%程度であることを鑑みると、塩水Wの塩分濃度(体積パーセント濃度)は0.20%以上0.95%以下であり、好ましくは0.30%以上0.50%以下であるとよく、さらに好ましくは0.40%であるとよい。なお塩水Wに代えて肥料分を含む養液(主養液)を使用してもよい。
【0025】
下部領域SLにおける塩水Wの水面は、下部仕切板部3の下面3bよりもさら下方に位置しており、下面3bと水面とが離れている。よって下面3bと水面との間には、気中空間ARが形成されている。
【0026】
(水温調節装置)
ここでベッド本体1の例えば底面1tには水温調節装置15が設置されている。水温調節装置15は不図示の防水カバー等によって塩水Wが侵入しないようになっている。水温調節装置15は下部領域SLにおける塩水Wの温度を調整することで塩水Wの蒸発量を制御している。例えば制御装置において、温湿度計から内部空間Sの温度や湿度の情報、塩水Wの温度の情報を取得して水温調節装置15を制御し、内部空間Sの温湿度を自動調整するようにしてもよい。なお水温調節装置15は、例えば塩水Wを加温するヒータや、塩水Wを冷却するペルチェクーラー、冷却ファン等によって構成されて塩水Wの加温と冷却の双方が可能となっていることが好ましいが、塩水Wの加温のみが可能なヒータであってもよい。
【0027】
(振動付与部)
ここで下部領域SLには、塩水Wを供給する供給管20が設けられている。供給管20は例えば塩ビ管や金属管であって、ベッド本体1の長手方向に延びるように設けられている(図2参照)。供給管20はベッド本体1の長手方向に交差するベッド本体1の幅方向に間隔をあけて一対が設けられ、それぞれの供給管20はベッド本体1の幅方向の外側に配置されている。また各々の供給管20からは振動付与部としての分岐管21がベッド本体1の幅方向内側に向かって延びている。分岐管21は供給管20からの塩水Wを下部領域SLに流出させる。分岐管21は例えばベッド本体1の長手方向に間隔をあけて複数設けられており(図2参照)、各々の分岐管21は全体(もしくは少なくとも一部)が塩水W内に配置されており、塩水Wの水流によって変形、動作可能な柔軟なゴム製等のチューブとなっている。分岐管21は塩水Wの水流によって変形、動作することで塩水Wに振動を与えるものとなっている。
【0028】
(循環装置・気泡発生部)
また供給管20には、ベッド本体1を貫通してベッド本体の外側に延びており、塩水Wを循環させる循環装置30に接続されている。循環装置30はポンプ31、および、塩水Wに気泡(例えばナノバブル)を含ませる気泡発生部32を主に有している。気泡発生部32は、例えば外部から空気を取り込み、取り込んだ空気を塩水Wとともに撹拌すること等の一般的な技術によって塩水Wに気泡を含ませる。
【0029】
(上部仕切板部)
上部仕切板部5は、ベッド本体1の内部空間Sにおいて下部仕切板部3よりも上方に間隔をあけて配置されて内部空間Sを上下に仕切っている。図3に示すように上部仕切板部5には、下部仕切板部3と同様に、植物PLの根Rが通過可能となるように、複数の根通過用孔(上部根通過用孔)5xが形成されている。本実施形態では上部仕切板部5は下部仕切板部3と同様のものが使用されており、下部仕切板部3と同様のベッド本体1に対して着脱可能に設けられるとよい。そして図1に戻って上部仕切板部5は、内部空間Sにおいて下部仕切板部3との間に中間領域SMを画成し、かつ、ベッドカバー2との間に上部領域SUを画成している。ここで中間領域SMは、ベッド本体1の側壁と、上部仕切板部5と下部仕切板部3とによって囲まれ、密閉性の高い空間となっている。また中間領域SMに向けて直接的に潅水する装置は無いため、中間領域SMの内外を連通する給水管等も存在しない。よって湿気は、上部仕切板部5とベッド本体1の側壁との微小な隙間、下部仕切板部3とベッド本体1の側壁との微小な隙間、上部仕切板部5の根通過用孔5x、および下部仕切板部3の根通過用孔3xのみを通じて中間領域SMに出入りするようになっている。
【0030】
(下部保水マット)
下部保水マット4は、中間領域SMにおいて下部仕切板部3の上面3aの全体を覆うように下部仕切板部3上に積層して設けられ、透湿性、蒸散性、保水性、および、植物PLの根Rが通過可能となる透根性を有する不織布、天然繊維や合成繊維から作られた布、もしくは天然繊維および合成繊維を混紡したもの等によって形成されている。下部保水マット4は塩水Wから蒸発した水分を吸収する機能と、放出する機能と、布に吸収した水分を布全体に水分を移動させる機能を兼ね備えており、内部に水分を捕捉する空隙を有したものとなっている。下部保水マット4は非常に薄いシート状の部材であってもよいし、シート状部材の表面に吸湿性、透湿性、蒸散性、展開性を有する材料を積層したものであってもよい。
【0031】
(上部保水マット)
上部保水マット6は、上部領域SUにおいて上部仕切板部5の上面5aの全体を覆うように上部仕切板部5上に積層して設けられ、透湿性、蒸散性、保水性、および、植物PLの根Rが通過可能となる透根性を有する不織布、天然繊維や合成繊維から作られた布、もしくは天然繊維および合成繊維を混紡したもの等の材料によって形成されている。本実施形態では下部保水マット4と上部保水マット6とは同一の材料によって形成されており、上部保水マット6の厚みよりも下部保水マット4の厚みの方が薄くなっていることで、下部保水マット4の方が透湿性および蒸散性に優れており、自身から内部空間Sへの単位時間当たりの水分の供給量が上部保水マット6よりも多くなっている。ここでいう「水分の供給量」とは、自身に保水した水分(水蒸気)の蒸散量、および自身を透過する水分(水蒸気)の透湿量を含めたものである。上部保水マット6は非常に薄いシート状の部材であってもよいし、シート状部材の表面に透湿性、蒸散性、保水性を有する材料を積層したものであってもよい。
【0032】
(栽培容器)
栽培容器7は、本実施形態ではポットとなっている、このポットの構造は特に限定されるものではないが、例えば側面には複数のスリット7xが形成されている。栽培容器7の内側には培養土等の培地Mが収容されており、この培地Mによって植物PLが支持されている。また栽培容器7はベッドカバー2およびベッド本体1とは別体となっており、ベッドカバー2のカバー貫通孔2xを通じて、上部仕切板部5との間に上部保水マット6を挟持した状態で上部仕切板部5上に載置されている。栽培容器7が上部仕切板部5に載置された状態で、栽培容器7の上端がベッドカバー2よりも上方に位置するように設けられている。これにより栽培容器7は、上部領域SUを、培地Mが配置される容器内の領域となる第一領域SU1と、栽培容器7の外側の領域となる第一領域SU1以外の第二領域SU2と、に区画する区画壁を構成している。よって栽培容器7のスリット7xは第一領域SU1と第二領域SU2とを連通する領域連通孔となっている。
【0033】
(潅水部)
潅水部8は、本実施形態では、上部領域SUにおける第一領域SU1に給水するための管であって、栽培容器7内の培地Mに給水するための給水口をベッドカバー2の上方に配置した培地給水管40を有している。さらに潅水部8は、第二領域SU2に給水するための管であって、すなわち上部保水マット6に給水するための給水口を第二領域SU2内における上部保水マット6の上方に配置したマット給水管41を有している。潅水部8は不図示の制御装置によって制御され、例えば夜間は潅水が停止されるようになっている。
【0034】
(植物の根の状態)
上記構成により、植物PLの根Rは、栽培容器7に収容された培地M中の培地中根(一般的には土中根という)R1と、栽培容器7のスリット7xを通じて培地中根R1から上部領域SU、中間領域SM、および下部領域SLへと延びる湿気中根R2と、湿気中根R2から塩水W中に延びる水中根R3とに機能分化する。水中根R3からは塩水Wが直接吸収され、塩水W中の水分だけでなく、塩分(ミネラル分)も同時に吸収されるようになっている。また湿気中根R2は上部仕切板部5の根通過用孔5x、上部保水マット6、下部仕切板部3の根通過用孔3x、および下部保水マット4を通じて上部領域SUから中間領域SMを経由して下部領域SLへと下方に延びていく。そして湿気中根R2は、図4に示すようにある程度高い湿度の空間内においては当該空間内に非常に密に張り巡らされた状態となり、周囲の水分(淡水、純水)を根で結露させて吸収するようになっている。
【0035】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の栽培システム100によれば、ベッド本体1とベッドカバー2とによって画成される内部空間Sを下部仕切板部3および上部仕切板部5によって三層の領域、すなわち下部領域SL、中間領域SM、および上部領域SUに仕切ることができる。このため、中間領域SMは、上部領域SUと下部領域SLとによって挟まれることでより密閉性の高い空間とすることができる。このため、中間領域SM内の湿気が栽培システム100の外部へ流出してしまうこと抑制でき、中間領域SMを高湿状態に保ち、中間領域SMでの湿気中根R2の発生を最大限に促進することができる。そして湿気中根R2が塩水Wの淡水化装置のように機能し、湿気中根R2を通じて塩分を含まない水を植物PLに十分に供給することが可能となる。
【0036】
また、栽培容器7がベッド本体1やベッドカバー2と別体となっていることで、例えば培地Mの交換や植物PLの植え替え等の作業を容易化でき、栽培システム100の繰り返しの利用が容易となる。
【0037】
また上部保水マット6を設けたことで、上部領域SUの湿度を高く保つことができるだけでなく、中間領域SMの湿気が逃げることを抑制でき、中間領域SMでの湿気中根R2の発生をさらに促進できる。
【0038】
また下部保水マット4を設け、下部保水マット4の厚みを上部保水マット6の厚みよりも薄くすることで、下部保水マット4からの水分の蒸散量を増大させて中間領域SMへの単位時間当たりの水分の供給量を大きくしつつ、より厚みのある上部保水マット6によって中間領域SMから湿気が上方に逃げないようにすることができる。特に上部保水マット6が保水した状態では、上部保水マットの空隙が水分で満たされ、中間領域SMからの湿気が上部保水マット6を通過し難くなるため、中間領域SMでの湿気中根R2の発生をさらに促進することができる。
【0039】
また下部領域SLに貯留された塩水Wの水面が、下部仕切板部3の下面3bと離れた位置に配置されて下部領域SLに気中空間ARが形成されているため、この下部領域SLにおいても湿気中根R2を張り巡らせることができる。
【0040】
ここで単に下部領域SLに塩水Wを貯留しただけでは中間領域SMへの湿気の供給が十分でないおそれがあるが、この点、本実施形態ではベッド本体1に水温調節装置15を設け塩水Wを温調(加温)することで塩水Wの蒸発量を制御(増大)でき、内部空間Sの湿度を適切な状態に保つようにすることができ、湿気中根R2の発生を促進できる。また塩水Wを下部領域SLに供給する供給管20に振動付与部としての分岐管21を設け、貯留された塩水Wに振動を付与することで塩水Wの蒸発を促進でき、内部空間Sの湿度を上げ、湿気中根R2の発生をさらに促進できる。
【0041】
また気泡発生部32によって塩水Wに空気を混入させることで、内部空間Sへ空気を効率よく供給できる。
【0042】
またベッドカバー2に、ベッドカバー2よりも熱伝導率の高い材料からなるカバーシート10を設けたことで、例えば栽培システム100が設置される環境の温度が内部空間Sの温度に比べて低いような場合には結露が生じる。よってこの結露水を、水分として植物PLに吸収させることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、上記実施形態おける各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0044】
例えば潅水部8は上述のような形態に限定されず、少なくとも培地Mまたは上部保水マット6に給水可能な構造であればどのようなものでもよい。
【0045】
また栽培容器7はベッド本体1やベッドカバー2と一体となっていてもよく、例えば上部領域SUをベッド本体1の長手方向に仕切るように当該長手方向に間隔をあけて区画壁を設け、区画壁同士の間の空間となる第一領域SU1に培地Mを配置してもよい。この際には、栽培容器7のスリット7xに代わる領域連通孔としての貫通孔を区画壁に設けるとよい。
【0046】
また下部保水マット4は、上部保水マット6に比べて内部空間Sへの単位時間当たりの水分の供給量(放湿量)が多くなっていればよく、保水力も上部保水マット6よりも低くともよく、互いに異なる材料(繊維)によって形成されていてもよい。また下部保水マット4と上部保水マット6とが同じ材料や厚みからなっていても、例えば下部保水マット4の方が上部保水マット6に比べて空隙率が高い構造を有していることで、下部保水マット4の方を透湿性および蒸散性に優れるようにしてもよい。
【0047】
また振動付与部として、分岐管21に代えて下部領域SLの塩水Wを振動させる振動発生装置等を採用してもよい。振動発生装置は超音波を用いて塩水Wを振動させるような超音波発生器であってもよい。
【0048】
また水温調節装置15は塩水W中に入れられて直接的に塩水Wを温調するものであってもよいし、ベッド本体1の外部において循環経路上で塩水Wを温調するものであってもよい。
【0049】
また内部空間Sにおける中間領域SMは複数層に分かれていてもよい。すなわち上述のような三層構造でなくともよく、三層以上の構造となっていてもよい。
【0050】
また培地Mに代えて培地代替養液を栽培容器7に収容してもよい。この場合、植物PLを支持するための構造を栽培容器7やベッドカバー2等に設けるとよい。
【0051】
また上部仕切板部5や下部仕切板部3をトレイ状にし、上部保水マット6、下部保水マット4の上に土壌や固形培地を設置することで根Rを絡ませるようしに、湿気中根R2の発生をさらに促進させてもよい。
【0052】
また塩水Wからの蒸発を促進するため、下部領域SLに貯留された塩水Wに光を照射する装置を設けてもよい。具体的には例えば、下部領域SLの位置においてベッド本体1に窓を設け、この窓を通じてベッド本体1の外部から塩水Wに光を照射して加熱してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の栽培システムによれば、植物の湿気中根まわりの空間を高湿状態に保ち、湿気中根の発生を促進することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1…ベッド本体
1x…開口
2…ベッドカバー
3…下部仕切板部
3x…根通過用孔(下部根通過用孔)
4…下部保水マット
5…上部仕切板部
5x…根通過用孔(上部根通過用孔)
6…上部保水マット
7…栽培容器
8…潅水部
10…カバーシート
15…水温調節装置
32…気泡発生部
100…栽培システム
AR…気中空間
M…培地
PL…植物
R…根
R1…培地中根
R2…湿気中根
R3…水中根
S…内部空間
SL…下部領域
SM…中間領域
SU…上部領域
SU1…第一領域
SU2…第二領域
W…塩水
【要約】
【課題】植物の湿気中根まわりの空間を高湿状態に保ち、湿気中根の発生を促進することが可能な栽培システムを提供する。
【解決手段】
ベッド本体1の内部空間Sにおいてベッド本体1の底面1tとの間に塩水Wが貯留される下部領域SLを画成する下部仕切板部3と、上記内部空間Sにおいて下部仕切板部3との間に中間領域SMを画成し、かつ、ベッドカバー2との間に上部領域SUを画成する上部仕切板部5と、栽培容器7と、潅水部8とを備える。栽培容器7は、上部領域SUを、植物PLを支持する培地Mが位置する第一領域SU1と、それ以外の領域となる第二領域SU2とに区画し、かつ、第一領域SU1と第二領域SU2とを連通するスリット7xが形成された区画壁を有している。潅水部8は、第一領域SU1および/または第二領域SU2に給水を行う。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4