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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】IL-18の産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/42 20060101AFI20241115BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241115BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241115BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20241115BHJP
   A61K 135/00 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
A61K36/42
A61K8/9789
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/107
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61P17/00
A61P29/00
A61Q19/00
A61K127:00
A61K135:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018182494
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020050619
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】517383939
【氏名又は名称】株式会社マックビー
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】長島 孝樹
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184439(JP,A)
【文献】Molecules, 2016, Vol.21, Article.454(p.1-15)
【文献】Food Funct., 2015, Vol.6, p.25550-2560
【文献】IJPT., 2008, Vol.7 No.1, p.43-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K36/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツルレイシからの抽出物を有効成分として含有する
IL-18の産生抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載のIL-18の産生抑制剤であって、
前記抽出物は、前記ツルレイシの葉及び茎のみからの抽出物である
IL-18の産生抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のIL-18の産生抑制剤であって、
錠剤状、粉末状、顆粒状、液状、ゲル状、カプセル状又はクリーム状の形態である
IL-18の産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツルレイシからの抽出物を含有する抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の我が国は世界に類を見ない超高齢化社会に突入しており、高齢者の悪性新生物(癌)への罹患率も、年々増加の一途を辿っている。
【0003】
各種癌の治療薬として、抗ガン剤の投与が一般的に行われている。しかしながら、この療法は、頭痛や吐気、口内炎、下痢等の強い副作用を伴うため、これらの副作用の緩和が課題となっていた。
【0004】
抗ガン剤投与時の副作用は、その多くは炎症性サイトカインが介在する炎症性疾病である。
【0005】
炎症性サイトカインとは、リンパ球やマクロファージなどから産生され、細菌やウイルス感染、腫瘍、組織損傷に伴う炎症反応に関与する物質であり、例えば、腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン(IL)-1α、IL-1β、IL-2、IL-6、IL-8、IL-12A、IL-18、単球走化活性因子(MCP-1)、インターフェロン(IFN)-γ等がある。
【0006】
これらの炎症性サイトカインの発現を抑制することは、上記副作用の予防、治療、改善に非常に有益となり得る。
【0007】
炎症性サイトカインの発現を抑制する抗炎症剤としては、アナキンラなど人工的に合成されたものがよく知られているが、天然物由来の物質において、炎症性サイトカインの発現を抑制するものも報告されている。例えば、特許文献1には、藻類の一種であるオーランチオキトリウムの抽出物を有効成分として含有する抗炎症剤が報告されている。また、特許文献2には、同じく藻類の一種であるウスバノコギリモク抽出物を有効成分とする組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-137265号公報
【文献】特表2018-516986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のオーランチオキトリウムは従属栄養生物のため、大量生産には向いていない。また、特許文献2のウスバノコギリモクは、特定の地域に遍在する藻類であり、これも大量生産には向いていない。
【0010】
よって本発明は、大量生産可能な天然物由来の物質を含有する抗炎症剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願の発明者は、ツルレイシ(momordica charantia)からの抽出物が、炎症性サイトカインの発現を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、第1の抗炎症剤として、
ツルレイシからの抽出物を有効成分として含有する
抗炎症剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、第2の抗炎症剤として、第1の抗炎症剤であって、
前記抽出物は、前記ツルレイシの葉及び茎のみからの抽出物である
抗炎症剤を提供する。
【0014】
また、本発明は、第3の抗炎症剤として、第1又は第2の抗炎症剤であって、
錠剤状、粉末状、顆粒状、液状、ゲル状、カプセル状又はクリーム状の形態である
抗炎症剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の抗炎症剤は、ツルレイシからの抽出物を有効成分として含有している。これにより、本発明の抗炎症剤は、ツルレイシからの抽出物が炎症性サイトカインの発現を抑制するため、抗炎症作用を発揮することができる。
【0016】
加えて、本発明の抗炎症剤の原料であるツルレイシは、地上において場所を選ばず容易に栽培することができ、また成育速度が速い上に、多量の葉及び茎を付けることができる。これにより、本発明の抗炎症剤は、製造コストを低減しつつ大量生産が可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態による抗炎症剤の製造工程の一例を示すフロー図である。
図2】対照試験1、対照試験2及び添加試験におけるTNF-αのmRNA量を比較した図である。
図3】対照試験1、対照試験2及び添加試験におけるIL-1αのmRNA量を比較した図である。
図4】対照試験1、対照試験2及び添加試験におけるIL-8のmRNA量を比較した図である。
図5】対照試験1、対照試験2及び添加試験におけるIL-12AのmRNA量を比較した図である。
図6】対照試験1、対照試験2及び添加試験におけるIL-18のmRNA量を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態の抗炎症剤は、ツルレイシ(momordica charantia)からの抽出物を有効成分として含有している。より詳しくは、本実施の形態の抗炎症剤は、ツルレイシの葉及び茎のみからの抽出物を有効成分として含有している。この抽出物の主成分は、モモルディシン(momordicin)、チャランチン(charantin)及びコロソリン酸であるが、他の成分が入っていてもよい。また、ツルレイシ属(即ち、ニガウリ属 Momordica)の他の植物、例えば、ナガレイシ、ナンバンカラスウリ、カックロール等を、本発明の抗炎症剤の原料として用いてもよい。また、本実施の形態の抗炎症剤の原料となるツルレイシの葉及び茎は、着蕾させて育成されたツルレイシから採取されたものであってもよいし、着蕾させずに育成されたツルレイシから採取されたものであってもよい。しかしながら、着蕾させずに育成されたツルレイシにおいては、有効成分を葉及び茎に集約させることができるため、本発明の抗炎症剤の原料としては、着蕾させずに育成されたツルレイシから採取された葉及び茎がより好ましい。
【0019】
本実施の形態の抗炎症剤は、錠剤状、粉末状、顆粒状、液状、ゲル状、カプセル状又はクリーム状の形態を有している。これにより、本発明の抗炎症剤は、経口摂取のみならず皮膚への直接塗布も可能な形態となっている。
【0020】
図1を参照して、本実施の形態の抗炎症剤は、以下のように製造される。
【0021】
図1に示されるように、本実施の形態の抗炎症剤は、step1(栽培工程)、step2(採取工程)、step3(抽出工程)及びstep4(分離工程)を経て製造される。換言すれば、本実施の形態の抗炎症剤の製造工程は、栽培工程と、採取工程と、抽出工程と、分離工程とを備えている。
【0022】
まず、ツルレイシ(momordica charantia)を、つるに着蕾するまで常法に従って栽培し、着蕾した蕾をつるから摘み取り、栽培を継続する、栽培工程を遂行する。これにより、ツルレイシの有効成分を、葉及び茎に集約させることができる。なお、より多くの有効成分を葉及び茎に集約させるために、摘蕾処理は、出蕾した後できるだけ早く行うことが好ましく、出蕾した全ての蕾に対して行うことが好ましい。特に、出蕾した蕾の長さが1cmに達する前に摘蕾処理を行うことが好ましい。なお、本発明はこれに限定されず、植物ホルモンの投与や温度管理によって着蕾を抑制してもよい。
【0023】
栽培工程の遂行後、生育したツルレイシの葉及び茎を採取して乾燥し、本実施の形態の抗炎症剤の原料とする、採取工程を遂行する。ツルレイシの葉及び茎の採取の方法としては、特に限定されないが、手摘みが好ましい。
【0024】
採取工程の遂行後、採取されたツルレイシの葉及び茎から、抽出物を回収する、抽出工程を遂行する。具体的には、ローラーや遠心分離機等で原料を潰すことにより抽出物を得る圧搾法、粉砕された原料を加熱水蒸気中に暴露して抽出物を回収する水蒸気蒸留法、及び所定の溶媒に溶出させて抽出物を得る溶媒抽出法を適宜用いることができる。ここで、抽出物の熱分解を避ける観点から、上述の圧搾法や溶媒抽出法が好ましく、また、圧搾による負荷を低減するため、溶媒抽出法がより好ましい。
【0025】
より詳しくは、本実施の形態の抽出工程は、粉砕工程と、浸漬工程とを備えている。即ち、本実施の形態の抽出工程においては、粉砕工程と、浸漬工程とをこの順に実施する。
【0026】
粉砕工程において、採取された葉及び茎は、適当な大きさに切断された後、粉砕機により粉砕される。なお、採取された葉及び茎を乾燥させてから粉砕することとしてもよい。粉砕機としては、各種ミル、乳鉢、ホモジナイザー及び超音波処理等のように物理的に粉砕する装置を用いてもよいし、セルラーゼ又はペクチナーゼ等の細胞壁を分解する酵素を使用して化学的に粉砕してもよい。また、凍結粉砕法により粉砕すれば、粉砕過程での有効成分の流出を最低限とすることができるため、より好ましい。この粉砕工程の遂行によって、原料の葉及び茎は、数μm~数百μmの粒径に調製される。
【0027】
粉砕工程の遂行後、粉砕された原料を適当な溶媒に浸漬させる、浸漬工程を遂行する。この浸漬工程において使用する溶媒は、水や各種有機溶媒を用いることができる。また、この工程で溶媒として使用される水は、塩類や残留塩素等の不純物が除去された状態のものが好ましい。例えば、蒸留水、RO水(逆浸透膜を通した水)、脱イオン水(イオン交換樹脂などにより金属イオン等を除去した水)等の純水であることが好ましい。加えて、この工程で溶媒として使用される有機溶媒の例としては、1価又は多価アルコール、エーテル、エステル、芳香族炭化水素等が挙げられる。例えば、取扱や入手の容易性を考慮すると、エタノール、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)、エチレングリコール(EG)、ポリエチレングリコール(PEG)、1,3-ブチレングリコール(BG)、グリセリン等が好ましい。
【0028】
この浸漬工程において、溶媒として水を使用した場合には、溶液を100℃に加熱することにより、抽出時間を短時間化することができる。また、この浸漬工程において、溶媒として有機溶媒を使用した場合には、溶媒の沸点等を考慮した上で加熱温度を決定すればよい。加えて、上記加熱中においては、溶液を撹拌することにより、より多くの成分を溶出させることができることから、抽出物の回収率を向上させることもできる。撹拌には、回転翼式のミキサーや、加熱と共に撹拌を行うことのできるヒートプレート付きマグネティックスターラー等を用いることもできるが、加熱しながら撹拌棒等で撹拌してもよい。
【0029】
なお、抗炎症剤の生産量等に応じて、上記浸漬工程では、ソックスレー抽出法、高速溶媒抽出法(ASE法)、超音波抽出法、マイクロ波抽出法、高圧液体抽出法(PLE法)、超臨界流体抽出法(SFE法)等を用いてもよい。
【0030】
なお、本発明はこれに限定されず、抽出工程は、ナノ化工程を更に有していてもよい。即ち、抽出工程は、粉砕工程と、ナノ化工程と、浸漬工程とを順に遂行してもよい。より詳しくは、このナノ化工程では、粉砕工程の遂行後、原料の葉及び茎の粒径が数nm~数百nmの大きさになるまで更に微細化される。これにより、原料である葉及び茎の表面積を最大化し、抽出量を増加させることができる。また、このナノ化工程は、超高圧湿式微粒化法、超音速液滴衝突法、レーザーアブレーション法等を使用することができるが、ナノ化の方法はこれに限定されない。なお、クリーム剤や固形剤の剤型を有する抗炎症剤については、このナノ化工程を省略することができる。
【0031】
抽出工程の遂行後、抽出物及び溶媒を含む液体部分(以下、「抽出原液」という。)と、葉及び茎の残渣部分とを分離し、抽出原液のみを得る、分離工程を遂行する。具体的な分離の方法としては、濾過機によって自然濾過、加圧濾過、減圧濾過を行うこととしてもよいし、遠心分離機によって分離してもよい。なお、抽出工程で使用した溶媒をそのまま抗炎症剤の溶剤として使用しない場合には、抽出原液から溶媒を更に分液する、溶媒分離工程を遂行してもよい。この溶媒分離工程の例としては、使用した溶媒が水の場合には緩やかに加熱して水分を蒸発させる方法や、使用した溶媒が有機溶媒の場合は当該溶媒のみが溶解することのできる別の溶媒によって分液する方法が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0032】
上記の抽出原液には、他の成分を含めることとしてもよい。例えば、ポリフェノール類、アミノ酸又はミネラル等を添加することができる。即ち、上記抽出工程は、ポリフェノール類、アミノ酸又はミネラル等を添加する添加工程を更に有していてもよい。添加されるポリフェノール類としては、皮膚の殺菌や抗菌等の観点からフラボノイド系(カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン)が好ましく、皮脂の抗酸化作用を有するアントシアニン類が更に好ましい。なお、アントシアニン類を天然物から抽出する場合は、当該天然物に対して上記ナノ化工程を施してアントシアニンを抽出することとしてもよい。また、必要に応じて、アントシアニンを抽出する天然物(例えば草花等)と、ツルレイシの葉及び茎とを混合した後に粉砕してナノ化工程を行い、ツルレイシの成分と、アントシアニン類を同時に抽出することとしてもよい。添加されるアミノ酸は、必須アミノ酸のいずれでも構わない。添加されるミネラルとしては、ミネラルの主要元素であるナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素、カリウム、カルシウムの他、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素等を添加してもよい。また、必要に応じて、ホホバ種子油などの植物由来エキス、海藻由来エキス、鉱物由来エキス、動物由来エキス、血行促進成分、ビタミン類等の栄養補給成分、保湿成分、香料、防腐剤等を添加してもよい。
【0033】
上記分離工程で得られた抽出原液を、適量の水及び増粘剤と混合して攪拌することにより、ゲル状又はクリーム状の抗炎症剤を得る。また、上記分離工程で得られた抽出原液を、水やエタノール等の溶媒で適宜希釈、濃縮して、液状の抗炎症剤を得る。
【0034】
上記分離工程を遂行後、抽出原液を乾燥して溶液中の溶媒を揮散させ、残留物を得る、乾燥工程を遂行する。
【0035】
この乾燥工程で得られた残留物に対して、乳清カルシウム、ナタネ硬化油、結晶セルロース、二酸化ケイ素及びビオチンを適量混合し、成型機で成形して、錠剤状の抗炎症剤を得る。
【0036】
また、この乾燥工程で得られた残留物に対して、常法に従って、粉末状、顆粒状、カプセル状の抗炎症剤を得る。
【0037】
以下、本発明の実施例及び抗炎症効果の評価について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0038】
(原料の採取及び乾燥)
発芽から50日間、摘蕾処理しながら栽培したツルレイシの葉及び茎を採取し、水分が6重量%になるまで乾燥させた。
【0039】
(抽出原液の作製)
乾燥した葉及び茎50gを粉砕した後、粉砕された葉及び茎を精製水(日本薬局方)500mLに浸漬し、ヒートプレート付きマグネティックスターラーで撹拌しながら加熱し、100℃にて30分間沸騰させた。その後、10000rpmで15分間遠心分離し、上清みの部分を採取して抽出原液(実施例)を得た。
【0040】
(抗炎症効果の試験方法)
得られた抽出原液(実施例)の抗炎症効果の評価として、炎症性サイトカイン発現解析試験を実施した。この炎症性サイトカイン発現解析試験は、添加試験と、対照試験1と、対照試験2とで構成されている。添加試験、対照試験1及び対照試験2は、以下のように実施した。
【0041】
48well plateにヒト単球系細胞THP-1を3×10cells/0.3ml/wellとなるように播種し、播種と同時に終濃度0.5μg/mlとなるようにPhorbol 12-Myristate 13-Acetate(PMA)を添加し、同時に終濃度が所定濃度となるように上記工程で得られた抽出原液(実施例)を添加したうえで、4日問、CОインキュベーター(5%CO、37℃)内で培養した。その後、所定濃度の抽出原液(実施例)を含むリポ多糖(LPS:終濃度1μg/ml)含有培地に交換し、24時間培養した。培養終了後、Fastlane Cell RT-PCR Kit(Qiagen社製)を使用して、各細胞からトータルRNAの回収及びcDNAの作製を実施し、リアルタイムPCR法により炎症性サイトカイン(腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン(IL)-1α、IL-8、IL-12A及びIL-18)のmRNA量を定量し、添加試験の結果とした。
【0042】
また、抽出原液(実施例)及びLPSを使用しない以外は同条件で上記添加試験を実施し、対照試験1の結果とした。更に、抽出原液(実施例)を使用しない以外は同条件で上記添加試験を実施し、対照試験2の結果とした。
【0043】
添加試験及び対照試験2の測定結果に対して、Studentのt検定を実施し、危険率(P)5%未満を統計学的有意と判定した。図2~6において、P<0.05を*で、P<0.01を**で、P<0.001を***で示した。
【0044】
(抗炎症効果の試験結果及び評価)
図2~6は、対照試験1、対照試験2及び添加試験における炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1α、IL-8、IL-12A及びIL-18)のmRNA量(n=3、平均値±標準誤差)を示している。図2~6から、抽出原液(実施例)及びLPSを使用した添加試験における炎症性サイトカインのmRNA量は、抽出原液(実施例)を使用しない対照試験2における炎症性サイトカインのmRNA量と比較して有意に低値であることが確認された。即ち、抽出原液(実施例)は、LPSにより誘導される炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1α、IL-8、IL-12A及びIL-18)の産生を顕著に抑制することが明らかとなった。
【0045】
これらの結果から、ツルレイシからの抽出物を有効成分として含有する抗炎症剤は、優れた抗炎症効果を発揮することが理解される。
【0046】
(クリーム状の抗炎症剤の調製)
得られた抽出原液と増粘剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)とを重量比で、抽出原液:増粘剤=1:49となるように混合することにより、クリーム状の抗炎症剤を調製した。
【0047】
(液状の抗炎症剤の調製)
得られた抽出原液5gにエタノール20gを加えてエタノール希釈液を得た後、このエタノール希釈液を30倍濃縮し、液状の抗炎症剤を調製した。
【0048】
(錠剤状の抗炎症剤の調製)
得られた抽出原液を乾燥して溶液中の溶媒を揮散させ、残留物を得た。この得られた残留物に対して、乳清カルシウム、ナタネ硬化油、結晶セルロース、二酸化ケイ素及びビオチンを適量混合し、成型機で成形して、錠剤状の抗炎症剤を調製した。
【0049】
(錠剤状の抗炎症剤の試験結果及び評価)
上記の製法により得られた本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤について、抗ガン剤の投与を受けている被験者4人(A、B,C,D)に投与し、抗ガン剤の投与による副作用の緩和、即ち、抗炎症効果を確認した。結果及び評価を以下に示す。
【0050】
膵臓癌及び転移性肝臓癌(ステージ4b)を患う被験者A(66歳)に、本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤を、1日3回(朝食前、昼食前及び夕食前)投与し、抗ガン剤の副作用の緩和状況を観察した。なお、被験者Aに投与されている抗ガン剤はアブラキサン及びゲムシタビンであり、抗ガン剤の投与により現れた副作用としては、十二指腸内にピロリ菌による潰瘍の発生、吐き気、めまい、食欲不振、脱毛、発熱、顔色悪化、疲労感、倦怠感、味覚障害、臭覚障害、下痢及び口内炎であった。本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤の投与後、上記副作用のうち、吐き気、めまい、食欲不振、脱毛、発熱、顔色悪化、疲労感、倦怠感、味覚障害、臭覚障害、下痢及び口内炎の症状は現れなかった。
【0051】
直腸部位の大腸癌(ステージ3b)を患う被験者B(60歳)に、本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤を、1日3回(朝食前、昼食前及び夕食前)投与し、抗ガン剤の副作用の緩和状況を観察した。なお、被験者Bに投与されている抗ガン剤はオキサリプラチン及びゼローダ錠であり、抗ガン剤の投与により現れた副作用としては、ストマ―装着部分の化膿、喉の違和感、抹消神経障害、血管痛、吐き気、めまい、食欲不振、脱毛、発熱、顔色悪化、疲労感、倦怠感、味覚障害、臭覚障害、下痢及び口内炎であった。本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤の投与後、上記副作用のうち、吐き気、めまい、食欲不振、脱毛、発熱、顔色悪化、疲労感、倦怠感、味覚障害、臭覚障害、下痢及び口内炎の症状は現れなかった。
【0052】
乳腺癌(ステージ4b)を患う被験者C(50歳)に、本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤を、1日3回(朝食前、昼食前及び夕食前)投与し、抗ガン剤の副作用の緩和状況を観察した。なお、被験者Cに投与されている抗ガン剤はナベルビン酒石酸塩及びホルモン剤であり、抗ガン剤の投与により現れた副作用としては、軽い脱毛、脱毛、吐き気、めまい、食欲不振、発熱、顔色悪化、疲労感、倦怠感、味覚障害、臭覚障害、下痢及び口内炎であった。本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤の投与後、上記副作用のうち、脱毛、吐き気、めまい、食欲不振、発熱、顔色悪化、疲労感、倦怠感、味覚障害、臭覚障害、下痢及び口内炎の症状は現れなかった。
【0053】
胃癌(ステージ4a:その後、肝臓、腹膜・胆のうに癌転移)を患う被験者D(63歳)本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤を、1日3回(朝食前、昼食前及び夕食前)投与し、抗ガン剤の副作用の緩和状況を観察した。なお、被験者に投与されている抗ガン剤はグリベック錠であり、抗ガン剤の投与により現れた副作用としては、低血糖、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状、浮腫、発疹やかゆみなどの皮膚症状、筋肉の痛みやけいれん、肝機能障害、貧血、疲労感、倦怠感、発熱、味覚障害、臭覚障害、食欲不振、下痢及び口内炎であった。本実施の形態の錠剤状の抗炎症剤の投与後、上記副作用のうち、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状、浮腫、発疹やかゆみなどの皮膚症状、筋肉の痛みやけいれん、肝機能障害、貧血、疲労感、倦怠感、発熱、味覚障害、臭覚障害、食欲不振、下痢及び口内炎の症状は現れなかった。
【0054】
本実施の形態の抗炎症剤は、悪性新生物(癌)に治療に用いる抗ガン剤が引き起こすサイトカイン介在炎症性疾病に対して効果を有するものであるが、本発明はこれに限定されない。即ち、本発明の抗炎症剤は、炎症性サイトカインの過剰産生により引き起こされる炎症性疾患、全身性炎症反応症候群、慢性関節リウマチなどの膠原病、アレルギー疾患、動脈硬化、経皮的血管形成術後の再狭窄、インスリン抵抗性、糖尿病などの代謝性疾患や、多発性硬化症、移植片対宿主症、ウイルス肝炎、HIV感染などの感染症等に対しても緩和効果を有するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6