(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】建築物又は土木構造物の管理支援方法、並びに、建築物又は土木構造物の管理支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20241115BHJP
【FI】
G06Q50/08
(21)【出願番号】P 2021027294
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】505466295
【氏名又は名称】株式会社イクシス
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 文敬
(72)【発明者】
【氏名】狩野 高志
【審査官】田川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-111111(JP,A)
【文献】特開2016-045868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物又は土木構造物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて前記建築物を三次元に表すBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)又は前記土木構造物を三次元に表すCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)の属性情報を記憶しているデータベースと、
周囲に存在する物体を検知するセンサを有しており、前記建築物又は前記土木構造物の構内を自走する自走ロボットと、
ユーザの操作を受け付ける操作受付手段を有しており、前記自走ロボットと通信可能に接続されている通信端末と、
を用いて行う建築物又は土木構造物の管理支援方法であって、
前記通信端末が、前記BIM又は前記CIMを構成するオブジェクトのうち複数の特定オブジェクトを、前記操作受付手段が受け付けたユーザの操作に基づいて指定する指定工程と、
前記自走ロボットが、前記指定工程において指定された前記特定オブジェクトに対応する特定の構造物を検知可能な位置まで、前記センサにより検知される物体との衝突を回避する移動経路を自走する自走工程と、
前記自走ロボットが、前記自走工程において自走して到達した位置から前記特定の構造物の形状や位置を変更するアクチュエーション工程と、
前記自走ロボットが、前記自走工程において自走して到達した位置から
、前記アクチュエーション工程において変更させた前記特定の構造物について位置、姿勢、又は形状の情報を含むデータを取得するセンシング工程と、
を含み、
前記指定工程において前記通信端末が指定した複数の前記特定オブジェクトについてデータを取得するまで、前記自走ロボットが前記自走工程
、前記アクチュエーション工程及び前記センシング工程を行い、
更に、前記センシング工程において取得された前記特定オブジェクトに関するデータに基づいて、前記データベースに記憶されている前記属性情報が更新されるデータベース更新工程を含む、
ことを特徴とする建築物又は土木構造物の管理支援方法。
【請求項2】
前記センシング工程において、前記自走ロボットは、自走して到達した位置から前記特定の構造物の方向をカメラによって撮影して画像データを取得し、
前記データベース更新工程において、前記画像データが前記特定オブジェクトに係る前記属性情報に紐付けられて、前記データベースに記憶されている前記属性情報が更新される、
請求項1に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
【請求項3】
前記データベース更新工程において、前記画像データに前記特定の構造物が収まっているか否かに関わらず、当該画像データの撮影位置への移動経路を求める際に目標とした前記特定オブジェクトに係る前記属性情報に当該画像データが紐付けられる、
請求項2に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
【請求項4】
前記通信端末は表示手段を有しており、
前記指定工程における前記通信端末は、
ユーザの操作に基づいて複数の前記特定オブジェクトを指定し、
指定した前記特定オブジェクトのそれぞれに対して、前記カメラによる撮影位置と撮影アングルを指定し、
指定した前記撮影位置と前記撮影アングルから撮影される見込みの前記特定オブジェクトのプレビューを、前記BIM又は前記CIMに基づいて生成して前記表示手段に表示し、
ユーザは、前記表示手段に表示される前記プレビューを視認して、前記撮影位置と前記撮影アングルの指定を調整可能である、
請求項2又は3に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
【請求項5】
前記自走工程における前記自走ロボットは、
前記BIM又は前記CIMに基づいて事前に生成された前記建築物又は前記土木構造物の構内の事前地図と、前記センサによって検知された周囲の物体と、を照合して前記移動経路を求め、
前記事前地図に存在しない物体を検知した場合、当該物体の衝突を回避する前記移動経路を自走する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
【請求項6】
建築物又は土木構造物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて前記建築物を三次元に表すBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)又は前記土木構造物を三次元に表すCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)の属性情報を記憶しているデータベースと、
周囲に存在する物体を検知するセンサを有しており、前記建築物又は前記土木構造物の構内を自走する自走ロボットと、
ユーザの操作を受け付ける操作受付手段を有しており、前記自走ロボットと通信可能に接続されている通信端末と、
を備える建築物又は土木構造物の管理支援システムであって、
前記通信端末が、前記BIM又は前記CIMを構成するオブジェクトのうち複数の特定オブジェクトを、前記操作受付手段が受け付けたユーザの操作に基づいて指定し、
前記自走ロボットが、
前記通信端末が指定した前記特定オブジェクトに対応する特定の構造物を検知可能な位置まで、前記センサにより検知される物体との衝突を回避する移動経路を自走し、
自走して到達した位置から前記特定の構造物の形状や位置を変更し、
自走して到達した位置から
変更した前記特定の構造物について位置、姿勢、又は形状の情報を含むデータを取得し、
前記通信端末が指定した複数の前記特定オブジェクトについてデータを取得するまで、自走と
前記特定の構造物の形状や位置の変更とデータ取得
とを繰り返し、
前記データベースに記憶されている前記属性情報が、前記自走ロボットが取得した前記特定オブジェクトに関するデータに基づいて更新される、
ことを特徴とする建築物又は土木構造物の管理支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物又は土木構造物の管理支援方法に関すると共に、当該管理支援方法を実現する管理支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国土交通省からBIM及びCIMのガイドラインが公表され、建築分野や土木分野における業務へのBIM/CIMの導入が進んでいる。
ここでBIMとは、ビルディングインフォメーションモデリング(Building Information Modeling)の略称であり、コンピュータ上に作成した建築物の三次元モデルに、種々の属性データを追加したものである。また、CIMとは、コンストラクションインフォメーションモデリング(Construction Information Modeling)の略称であり、BIMの概念を土木分野に応用したものである。
【0003】
BIM/CIMを計画、調査、設計段階から導入することによって、その後の施工、維持管理の各段階における情報共有を容易にし、一連の作業や業務の効率化、高度化を図ることができる。
また、BIM/CIMの導入の副次的な効果として、よりよいインフラの整備・維持管理による国民生活の向上、建設分野や土木分野に従事する従業員のモチベーション向上等も期待される。
【0004】
上記のような背景を鑑みて、BIM/CIMの導入を前提とする種々の施工管理システムの提案が相次いでいる(例えば、特許文献1)。
特許文献1に係るシステムは、BIMを構成する各部材をカメラで撮影し、その撮影対象となったパーツと撮影した画像との紐づけを行うものである。
このシステムにより、施工対象物を構成する部材単位でのトレーサビリティを容易とし、施工管理の利便性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係るシステムにおいて、各部材を撮影する作業の主体は作業員(人間)であり、作業員の工数削減や安全性確保という観点からは未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、建築工事や土木工事における作業員の工数削減や安全性確保を向上させることができる管理支援方法、及びその方法を実現するための管理支援システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、建築物又は土木構造物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて前記建築物を三次元に表すBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)又は前記土木構造物を三次元に表すCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)の属性情報を記憶しているデータベースと、周囲に存在する物体を検知するセンサを有しており、前記建築物又は前記土木構造物の構内を自走する自走ロボットと、ユーザの操作を受け付ける操作受付手段を有しており、前記自走ロボットと通信可能に接続されている通信端末と、を用いて行う建築物又は土木構造物の管理支援方法であって、前記通信端末が、前記BIM又は前記CIMを構成するオブジェクトのうち複数の特定オブジェクトを、前記操作受付手段が受け付けたユーザの操作に基づいて指定する指定工程と、前記自走ロボットが、前記指定工程において指定された前記特定オブジェクトに対応する特定の構造物を検知可能な位置まで、前記センサにより検知される物体との衝突を回避する移動経路を自走する自走工程と、前記自走ロボットが、前記自走工程において自走して到達した位置から前記特定の構造物の形状や位置を変更するアクチュエーション工程と、前記自走ロボットが、前記自走工程において自走して到達した位置から、前記アクチュエーション工程において変更させた前記特定の構造物について位置、姿勢、又は形状の情報を含むデータを取得するセンシング工程と、を含み、前記指定工程において前記通信端末が指定した複数の前記特定オブジェクトについてデータを取得するまで、前記自走ロボットが前記自走工程、前記アクチュエーション工程及び前記センシング工程を行い、更に、前記センシング工程において取得された前記特定オブジェクトに関するデータに基づいて、前記データベースに記憶されている前記属性情報が更新されるデータベース更新工程を含む、ことを特徴とする建築物又は土木構造物の管理支援方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、建築物又は土木構造物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて前記建築物を三次元に表すBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)又は前記土木構造物を三次元に表すCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)の属性情報を記憶しているデータベースと、周囲に存在する物体を検知するセンサを有しており、前記建築物又は前記土木構造物の構内を自走する自走ロボットと、ユーザの操作を受け付ける操作受付手段を有しており、前記自走ロボットと通信可能に接続されている通信端末と、を備える建築物又は土木構造物の管理支援システムであって、前記通信端末が、前記BIM又は前記CIMを構成するオブジェクトのうち複数の特定オブジェクトを、前記操作受付手段が受け付けたユーザの操作に基づいて指定し、前記自走ロボットが、前記通信端末が指定した前記特定オブジェクトに対応する特定の構造物を検知可能な位置まで、前記センサにより検知される物体との衝突を回避する移動経路を自走し、自走して到達した位置から前記特定の構造物の形状や位置を変更し、自走して到達した位置から変更した前記特定の構造物について位置、姿勢、又は形状の情報を含むデータを取得し、前記通信端末が指定した複数の前記特定オブジェクトについてデータを取得するまで、自走と前記特定の構造物の形状や位置の変更とデータ取得とを繰り返し、前記データベースに記憶されている前記属性情報が、前記自走ロボットが取得した前記特定オブジェクトに関するデータに基づいて更新される、ことを特徴とする建築物又は土木構造物の管理支援システムが提供される。
【0010】
上記発明によれば、通信端末を用いたユーザの遠隔操作(センシングの対象となる特定オブジェクトの指定)に基づいて、自走ロボットが特定オブジェクトに対応する特定の構造物を対象としてセンシングし、自走ロボットが取得したデータがデータベース上のBIM又はCIMの属性情報に反映される構成になっているので、ユーザが上記特定の構造物の近くまで移動する必要がなく、作業工数を削減することができる。また、上記特定の構造物が高所等の危険性の高い場所に存在する場合であっても、作業員の安全性は確保される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、建築工事や土木工事における作業員の工数削減や安全性確保を向上させることができる管理支援方法、及びその方法を実現するための管理支援システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における管理支援システムの構成図である。
【
図3】通信端末の表示画面において三次元表示される事前地図を示す図である。
【
図4】通信端末の表示画面において二次元表示される事前地図を示す図である。
【
図5】特定のオブジェクトに対応付けられているプロパティを表示した通信端末の表示画面を示す図である。
【
図6】カメラアイコンの位置を調整する前における通信端末の表示画面を示している。
【
図7】カメラアイコンの位置を調整した後における通信端末の表示画面を示している。
【
図8】特定のオブジェクトのプレビューを表示して通信端末の表示画面を示す図である。
【
図9】5つのオブジェクトを点検対象として指定した場合における通信端末の表示画面を示す図である。
【
図10】壁への衝突を回避しながら自走する自走ロボットを描いた図である。
【
図11】IFCファイルの更新後に、特定のオブジェクトに対応付けられているプロパティを表示した通信端末の表示画面を示す図である。
【
図12】管理支援システムを用いた管理支援方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0014】
<管理支援システム100のシステム構成>
先ず、管理支援システム100のシステム構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態における管理支援システム100の構成図である。
【0015】
図1に示すとおり、管理支援システム100は、通信端末110と、データベース120と、自走ロボット130と、を備える。
通信端末110、データベース120、及び自走ロボット130は、相互に通信可能に構成されている。従って、通信端末110から自走ロボット130に対して制御コマンドを送信すること、通信端末110がデータベース120に記憶されているデータファイルを読み出すこと、自走ロボット130が取得したデータ(撮影した画像データを含む)をデータベース120にアップロードすること、等が可能である。
【0016】
データベース120は、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)又はCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)の属性情報を記憶している。
本実施形態の説明において、BIMとは、建築物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて建築物を三次元に表す三次元モデルのことである。そして、CIMとは、土木構造物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて土木構造物を三次元に表す三次元モデルのことである。
データベース120に記憶されているBIM又はCIMの属性情報とは、BIM又はCIMに対応している複数とおりのソフトウェア(以下、単にBIMソフトウェアにと称する)に対して互換性を有するデータファイルであり、具体的にはIFC(Industry Foundation Classes)形式のデータファイルをいう。
なお、データベース120には、IFC形式のデータファイルに加えて、三次元CADデータの属性情報や、カメラ132によって撮影された画像データ等が記憶されてよい。
【0017】
自走ロボット130は、建築物又は土木構造物の構内を自走するロボットである。ここで自走するとは、自律走行することと同義であり、移動経路を自律的に定めて移動することをいう。
【0018】
図2は、自走ロボット130の斜視図である。
図示のとおり、自走ロボット130は、周囲に存在する物体を検知するセンサ131を搭載しており、センサ131により検知される物体との衝突を回避しながら自走することができる。なお、本発明の実施において、センサ131は、周囲に存在する物体を非接触に検知することができるものであれば足り、その検知方式は特に制限されない。例えば、センサ131は、赤外線センサや超音波センサ等によって実現することができる。
また、自走ロボット130は、回転式のカメラ132を搭載しており、自走ロボット130の全方位(360°方向)を撮影することができる。なお、本発明の実施において、カメラ132は、自走した位置から目標となる構造物を撮影できれば足り、必ずしも全方位を撮影可能である必要はない。また自走ロボット130の形態も、車輪で走行する態様のものに限られず、ドローンのように空中移動するものであってもよい。
【0019】
なお、
図2には不図示であるが、自走ロボット130は、後述するセンシング工程に用いる感知器(センサ131及びカメラ132以外のもの)を備えてもよく、例えば、対象物の位置を検知する位置センサ、対象物の姿勢を計測する姿勢センサ、対象物の形状を計測する形状センサ等を備えてもよい。
【0020】
通信端末110は、ユーザの操作を受け付ける操作受付手段と、ユーザが視認可能に種々のデータの内容を表示する表示手段と、を有している。例えば、通信端末110は、ユーザの操作に基づいて生成された制御コマンドを自走ロボット130に送信したり、ユーザの操作に基づいて指定されたデータベース120に記憶されているデータファイルを読み込んで表示したり、することができる。
なお、本実施形態における通信端末110は、操作受付手段と表示手段の双方を一体的に実現するタッチパネルを採用することを前提として以下説明するが、それぞれを別々のデバイスで実現してもよい(例えば、操作受付手段をキーボードで実現し、表示手段を液晶ディスプレイで実現してもよい)。
【0021】
<事前地図について>
続いて、自走ロボット130の自走制御に用いられる事前地図について説明する。
ここで事前地図とは、自走ロボット130を移動させる範囲、すなわち管理対象となる建築物又は土木構造物に関する地図データであり、自走ロボット130が自己位置を推定するために用いられる。
本実施形態における事前地図は、データベース120に予め記憶されており、通信端末110はデータベース120から事前地図を読み込んで表示可能であるものとして、以下説明する。
事前地図は、通信端末110にインストールされているBIMソフトウェアに対応するファイル形式になっているものであれば足り、その生成手法は特に制限されない。本実施形態では、現実空間に極力近しい事前地図を生成するために、管理対象となる建築物をレーザースキャナで計測して取得した点群データを、BIM又はCIMに変換した後に、自走ロボット130に搭載されたカメラ132の高さでクロスセクションした断面を事前地図として使用する。その変形例として、例えば、通信端末110は、事前地図として設計時に生成されたCADデータを参照してもよい。
【0022】
図3は、通信端末110の表示画面において三次元表示される事前地図を示す図である。
図3の表示態様は、自走ロボット130の走行面からカメラ132の高さの断面までにおける建築物の形状を、三次元的に視認可能に表示したものである。
図3に図示するとおり、通信端末110の表示画面における事前地図の中には、その時点における自走ロボット130の位置(自走ロボット130が推定した自己位置)が表示されるようになっており、通信端末110のユーザが自走ロボット130の位置を容易に認識できるように構成されている。
【0023】
<点検対象となるオブジェクトと撮影位置の指定について>
続いて、点検対象となるオブジェクトと撮影位置の指定について説明する。
図4は、通信端末110の表示画面において二次元表示される事前地図を示す図である。より詳細には、
図4の表示態様は、
図3に図示した事前地図を、自走ロボット130の上方向から視た平面図として表示したものである。
以下、
図4に図示されている事前地図の中に含まれるオブジェクトOB1を点検対象として指定する処理について説明する。
【0024】
図5は、オブジェクトOB1に対応付けられているプロパティを表示した通信端末110の表示画面を示す図である。
図5に示すとおり、オブジェクトOB1は、プロパティにおいて箱(BOX)に分類されているオブジェクトである。このように、BIM又はCIMを構成する各オブジェクトには、プロパティを対応付けることができ、そのプロパティを表示することによって、いずれの種別(壁、床、配管、ダクト等)に該当するオブジェクトとして設計されたものであるかを確認することができる。
【0025】
ユーザが、オブジェクトOB1のプロパティを確認した後に、オブジェクトOB1を点検対象として指定する操作をしたものとする。この場合における通信端末110の表示画面を
図6に示す。
図6に示すとおり、オブジェクトOB1を点検対象として指定すると、自動的にカメラアイコンCIが生成され、オブジェクトOB1の近傍に表示される。このカメラアイコンCIの位置が、現実空間における自走ロボット130(カメラ132)がオブジェクトOB1に対応する構造物を撮影する位置に相当する。
また、カメラアイコンCIが生成されると同時に、カメラアイコンCIを撮影位置とした場合において撮影可能な範囲を示すアングルアイコンAIが生成されて通信端末110に表示される。
【0026】
ユーザは、表示されたカメラアイコンCIに対してドラッグ操作をすることによって、カメラアイコンCIの位置を移動させることができ、自走ロボット130によるオブジェクトOB1の撮影位置を任意に調整することが可能になっている。当然ながら、カメラアイコンCIの位置を移動させると、その位置から撮影可能な範囲が変化するので、カメラアイコンCIの移動に付随してアングルアイコンAIも移動するようになっている。
図7は、カメラアイコンCIの位置を調整した後における通信端末110の表示画面を示している。
図7に示すとおり、当該表示画面における右下方向から自走ロボット130がオブジェクトOB1を撮影するように指定したものとする。
【0027】
上記のように撮影位置と撮影アングルの指定を終えると、通信端末110は、指定した撮影位置と撮影アングルから撮影される見込みのオブジェクトOB1のプレビューを生成し、表示画面に表示させる。
当該プレビューは、指定した撮影位置と撮影アングルと、その指定に用いた事前地図と、に基づいて通信端末110によって生成される。上述したように、本実施形態における事前地図は、データベース120に記憶されているBIM又はCIMに基づいて生成されたものであるため、当該プレビューもBIM又はCIMに基づいて生成されたものと言える。
なお、本実施形態におけるプレビューは、事前地図に基づいて生成されるものとして説明したが、データベース120に記憶されているBIM又はCIMを直に用いて生成されてもよい。
【0028】
図8は、オブジェクトOB1のプレビューを表示して通信端末110の表示画面を示す図である。
ユーザは、オブジェクトOB1のプレビューを視認して、オブジェクトOB1を別のアングルから撮影することが望ましいと判断した場合には、当該プレビューを表示しながら、撮影位置と撮影アングルの指定を再調整することができる。言い換えれば、
図7に示すプレビューの表示画面において、
図6に示す点検対象の指定画面と同様に、撮影位置と撮影アングルの指定を調整することができる。
これにより、ユーザが所望するアングルからの撮影を高精度に実現することができる。
【0029】
上述したような操作手順で、オブジェクトOB1以外のオブジェクトも点検対象として指定することができ、それぞれに対して自走ロボット130(カメラ132)による撮影位置と撮影アングルを指定することができる。
なお、本実施形態では、1つのオブジェクトに対して1回の撮影を指定することができることを前提として説明するが、1つのオブジェクトに対して複数回の撮影を指定可能であってもよい。
【0030】
図9は、5つのオブジェクト(オブジェクトOB1~オブジェクトOB5)を点検対象として指定した場合における通信端末110の表示画面を示す図である。
通信端末110から自走ロボット130に行動計画を定めた制御コマンドを送信する際に、指定したオブジェクトOB1~オブジェクトOB5を最短で巡回できる経路が通信端末110の表示画面に表示される(
図9参照)。
図9に示すとおり、当該経路は、指定したオブジェクトOB1~オブジェクトOB5を単純に直線で結んだものであるため、プロパティが壁であるオブジェクトOB6~オブジェクトOB9と交差する経路となる。
【0031】
図10は、壁への衝突を回避しながら自走する自走ロボット130を描いた図である。
このように、自走ロボット130は自律的に壁への衝突を回避する機能を有しているので、
図9に図示した壁に衝突する経路を行動計画として自走ロボット130に伝送したとしても、自走ロボット130は、壁に衝突することなく指定したオブジェクトOB1~オブジェクトOB5を撮影する経路を自走することができる。
自走ロボット130が自走する建築物や土木構造物の構内には、事前地図の中に配置されていない物体や人間が存在する可能性があるので、計画段階(通信端末110に対するユーザの操作段階)ではラフな経路を作成し、自走ロボット130の自律的な判断に任せて移動するように構成していることが管理支援システム100の特徴の一つである。
【0032】
自走ロボット130が衝突を回避する機能は、上述した事前地図(BIM又はCIMに基づいて事前に生成された建築物又は土木構造物の構内を表すもの)と、搭載しているセンサ131によって検知され周囲の物体と、を照合して、自走しながらリアルタイムに移動経路を求めることによって実現されるものである。
従って、自走ロボット130は、事前地図に存在しない物体を検知した場合、当該物体の衝突を回避する移動経路を自走することができる。
【0033】
自走ロボット130は、周囲の物体や人間への衝突を回避しながら指定した撮影位置に自走し、自走して到達した位置から指定した撮影アングルでオブジェクトOB1~オブジェクトOB5のそれぞれに対応する構造物を撮影する。
自走ロボット130によって撮影された画像データをオブジェクトOB1~オブジェクトOB5のそれぞれに紐付けて、データベース120に記憶されているIFCファイルを更新する。
この更新において、具体的には、データベース120に記憶されているIFCファイルに含まれるオブジェクトOB1~オブジェクトOB5のそれぞれのプロパティに、対応付ける画像データを格納したアドレスが付加される。
【0034】
図11は、IFCファイルの更新後に、オブジェクトOB1に対応付けられているプロパティを表示した通信端末110の表示画面を示す図である。
上述したように撮影した画像データと各オブジェクトとを対応付けることによって、ユーザが通信端末110の表示画面に各オブジェクトのプロパティを表示した際に、そのオブジェクトを点検した際に取得した画像データを確認することができるようになる。
【0035】
なお、
図11では、撮影した画像データに点検対象となる構造物(オブジェクトOB1に対応する構造物)が収まっていることを図示しているが、必ずしも当該構造物が画像データの中に収まっている必要はない。すなわち、画像データに点検対象の構造物が収まっているか否かに関わらず、当該画像データの撮影位置への移動経路を求める際に目標としたオブジェクトOB1に係る属性情報(IFCファイルのプロファイル)に当該画像データが紐付けられる、ことが望ましい。
点検の目的によっては、点検対象となる構造物が設計上は存在するべき位置に存在しないことを確認する必要が生じることも想定されるので、画像データ内に点検対象である構造物が収まっていることをデータベース120の更新条件とするべきではないからである。
【0036】
<管理支援システム100を用いた管理支援方法のフローについて>
これまで説明した管理支援システム100を用いた管理支援方法のフローについて説明する。
図12は、管理支援システム100を用いた管理支援方法のフローチャートである。
【0037】
ステップS110の指定工程において、通信端末110が、BIM又はCIMを構成するオブジェクトのうち複数の特定オブジェクト(オブジェクトOB1~オブジェクトOB5)を、通信端末110の操作受付手段が受け付けたユーザの操作に基づいて指定する。
ステップS120の自走工程において、自走ロボット130が、ステップS110において指定された特定オブジェクトに対応する特定の構造物を検知可能な位置まで、センサ131により検知される物体との衝突を回避する移動経路を自走する。
ステップS130のセンシング工程において、自走ロボット130が、ステップS120において自走して到達した位置から特定の構造物に関するデータを取得する。上述したように、本実施形態におけるステップS130において取得するデータは、点検対象となるオブジェクトに対応する構造物を撮影した画像データであるが、自走ロボット130に搭載している感知器に応じて他のデータを取得してもよい。例えば、自走ロボット130が温度センサを搭載している場合には、自走ロボット130は点検対象となる構造物の温度データを取得してもよい。或いは、自走ロボット130が形状センサを搭載している場合には、自走ロボット130は点検対象となる構造物の形状を計測した計測データを取得してもよい。
【0038】
ステップS110において通信端末110が指定した全ての特定オブジェクト(オブジェクトOB1~オブジェクトOB5)についてデータを取得するまで(ステップS140の判定がNOである間)、自走ロボット130がステップS120及びステップS130を繰り返し行う。
ステップS140の判定がYESになった後に、ステップS150のデータベース更新工程において、ステップS130において取得された特定オブジェクトに関するデータに基づいて、データベース120に記憶されている属性情報(IFCファイルにおいて特定オブジェクトに紐付いているプロファイル)が更新される。
【0039】
上述したように、管理支援システム100を用いた管理支援方法は、自走ロボット130が、建築物又は土木構造物の構内を自走して巡回し、点検対象となる構造物のデータを取得する。そして、自走ロボット130が取得したデータが、データベース120に記憶されているBIM又はCIMの属性情報に反映されるので、ユーザは通信端末110を用いて自走ロボット130を遠隔操作するだけでよく、その作業工数を削減できる。また、点検対象の構造物が高所等の危険性の高い場所に存在する場合であっても、作業員の安全性は確保される。
【0040】
<変形例>
以上に説明した本発明の実施形態は、本発明の目的と達成する範囲において、種々の変形が可能である。
以下、未だ説明していない本発明の変形例について、言及する。
【0041】
図1に図示したシステム構成に含まれる構成要素のうち、一部を省いてもよく、また図示していない構成要素を追加してもよい。
また、
図1に図示したシステム構成において、一つの構成要素として図示したものを、複数の構成要素によって実現としてもよい。
【0042】
図2には不図示であるが、自走ロボット130は、指定したオブジェクトに対応する構造物の位置、姿勢、形状等を変化させるための構成物(ロボットアーム等)を、更に備えてもよい。これにより、自走ロボット130が、自走工程において自走して到達した位置から特定の構造物の形状や位置を変更するアクチュエーション工程を実現することができる。
この変形例において、管理支援システム100およびそれを用いて実現される管理支援方法は、センシング工程において、自走ロボット130が、アクチュエーション工程において変更させた特定の構造物について位置、姿勢、又は形状の情報を含むデータを取得することが望ましい。そして、指定工程において通信端末110が指定した複数の特定オブジェクトについてデータを取得するまで、自走ロボット130が自走工程、アクチュエーション工程及びセンシング工程を行うことが望ましい。
これにより、ユーザの遠隔操作によって建築物又は土木構造物を施工することができると共に、施工が進捗している過程において対象となる構造物が変化する様についてデータ収集することができる。
【0043】
図12のフローチャートに含まれる工程(ステップ)のうち、一部を省いてもよく、図示していない手順を追加してもよい。
例えば、上述した変形例におけるアクチュエーション工程を、当該フローチャートに追加してもよい。
【0044】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)建築物又は土木構造物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて前記建築物を三次元に表すBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)又は前記土木構造物を三次元に表すCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)の属性情報を記憶しているデータベースと、周囲に存在する物体を検知するセンサを有しており、前記建築物又は前記土木構造物の構内を自走する自走ロボットと、ユーザの操作を受け付ける操作受付手段を有しており、前記自走ロボットと通信可能に接続されている通信端末と、を用いて行う建築物又は土木構造物の管理支援方法であって、前記通信端末が、前記BIM又は前記CIMを構成するオブジェクトのうち複数の特定オブジェクトを、前記操作受付手段が受け付けたユーザの操作に基づいて指定する指定工程と、前記自走ロボットが、前記指定工程において指定された前記特定オブジェクトに対応する特定の構造物を検知可能な位置まで、前記センサにより検知される物体との衝突を回避する移動経路を自走する自走工程と、前記自走ロボットが、前記自走工程において自走して到達した位置から前記特定の構造物に関するデータを取得するセンシング工程と、を含み、前記指定工程において前記通信端末が指定した複数の前記特定オブジェクトについてデータを取得するまで、前記自走ロボットが前記自走工程及び前記センシング工程を行い、更に、前記センシング工程において取得された前記特定オブジェクトに関するデータに基づいて、前記データベースに記憶されている前記属性情報が更新されるデータベース更新工程を含む、ことを特徴とする建築物又は土木構造物の管理支援方法。
(2)前記自走ロボットが、前記自走工程において自走して到達した位置から前記特定の構造物の形状や位置を変更するアクチュエーション工程を更に含み、前記センシング工程において、前記自走ロボットが、前記アクチュエーション工程において変更させた前記特定の構造物について位置、姿勢、又は形状の情報を含むデータを取得し、前記指定工程において前記通信端末が指定した複数の前記特定オブジェクトについてデータを取得するまで、前記自走ロボットが前記自走工程、前記アクチュエーション工程及び前記センシング工程を行う、(1)に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
(3)前記センシング工程において、前記自走ロボットは、自走して到達した位置から前記特定の構造物の方向をカメラによって撮影して画像データを取得し、前記データベース更新工程において、前記画像データが前記特定オブジェクトに係る前記属性情報に紐付けられて、前記データベースに記憶されている前記属性情報が更新される、(1)又は(2)に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
(4)前記データベース更新工程において、前記画像データに前記特定の構造物が収まっているか否かに関わらず、当該画像データの撮影位置への移動経路を求める際に目標とした前記特定オブジェクトに係る前記属性情報に当該画像データが紐付けられる、(3)に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
(5)前記通信端末は表示手段を有しており、前記指定工程における前記通信端末は、ユーザの操作に基づいて複数の前記特定オブジェクトを指定し、指定した前記特定オブジェクトのそれぞれに対して、前記カメラによる撮影位置と撮影アングルを指定し、指定した前記撮影位置と前記撮影アングルから撮影される見込みの前記特定オブジェクトのプレビューを、前記BIM又は前記CIMに基づいて生成して前記表示手段に表示し、ユーザは、前記表示手段に表示される前記プレビューを視認して、前記撮影位置と前記撮影アングルの指定を調整可能である、(3)又は(4)に記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
(6)前記自走工程における前記自走ロボットは、前記BIM又は前記CIMに基づいて事前に生成された前記建築物又は前記土木構造物の構内の事前地図と、前記センサによって検知された周囲の物体と、を照合して前記移動経路を求め、前記事前地図に存在しない物体を検知した場合、当該物体の衝突を回避する前記移動経路を自走する、(1)から(5)のいずれか一つに記載の建築物又は土木構造物の管理支援方法。
(7)建築物又は土木構造物に配置されている各構造物に対応する複数のオブジェクトを組み合わせて前記建築物を三次元に表すBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)又は前記土木構造物を三次元に表すCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)の属性情報を記憶しているデータベースと、周囲に存在する物体を検知するセンサを有しており、前記建築物又は前記土木構造物の構内を自走する自走ロボットと、ユーザの操作を受け付ける操作受付手段を有しており、前記自走ロボットと通信可能に接続されている通信端末と、を備える建築物又は土木構造物の管理支援システムであって、前記通信端末が、前記BIM又は前記CIMを構成するオブジェクトのうち複数の特定オブジェクトを、前記操作受付手段が受け付けたユーザの操作に基づいて指定し、前記自走ロボットが、前記通信端末が指定した前記特定オブジェクトに対応する特定の構造物を検知可能な位置まで、前記センサにより検知される物体との衝突を回避する移動経路を自走し、自走して到達した位置から前記特定の構造物に関するデータを取得し、前記通信端末が指定した複数の前記特定オブジェクトについてデータを取得するまで、自走とデータ取得を繰り返し、前記データベースに記憶されている前記属性情報が、前記自走ロボットが取得した前記特定オブジェクトに関するデータに基づいて更新される、ことを特徴とする建築物又は土木構造物の管理支援システム。
【符号の説明】
【0045】
100 管理支援システム
110 通信端末
120 データベース
130 自走ロボット