(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
E04G23/02 B
(21)【出願番号】P 2021064109
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2020079630
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512267704
【氏名又は名称】楽建株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】田中 耕介
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-051538(JP,A)
【文献】特開平11-036613(JP,A)
【文献】特開2014-070451(JP,A)
【文献】特開2016-199950(JP,A)
【文献】特開2012-117227(JP,A)
【文献】特開2019-157335(JP,A)
【文献】米国特許第05000890(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04F 13/08-13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体に圧着モルタルを介してタイルが張り付けられている構造からなる建築物の前記コンクリ
ート躯体と前記圧着モルタルとの間に発生している浮陸に対する補修工法であって、
前記浮陸が発生している領域におけるタイルの目地部に、当該目地部が伸びている長手方向に伸びる所定の上端開口長さと、前記コンクリート躯体の表面内部に達する深さまで伸びている所定の刻設深さと、前記長手方向に直交する横方向に所定の狭い横幅とを有する溝を形成する溝形成工程、
上端辺が前記溝の前記上端開口長さに対応する上端辺長さを有し、前記上端辺から前記上端辺側に対向する下端辺までの上下方向長さが前記溝の前記刻設深さに対応する大きさを有し、前記溝の前記横幅に対応する厚み
であって前記横幅より小さい大きさの厚みを有する薄板状のアンカー部材を前記溝に装入するアンカー装入工程と、
前記溝の内壁面と前記アンカー部材の両側壁面との間及び、前記コンクリ
ート躯体と前記圧着モルタルとの間の浮陸とに第一の接着剤を注入する
工程であって、記圧着モルタルに形成された前記溝の内壁面と前記アンカー部材の両側壁面との間及び、前記コンクリート躯体の表面内部に形成された前記溝の内壁面と前記アンカー部材の両側壁面との間に前記第一の接着剤が注入される第一の接着剤注入工程と、
前記接着剤硬化後に前記目地部を目地詰めする目地詰め工程と
を備えている外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【請求項2】
前記溝形成工程後、前記アンカー装入工程の前に、
前記タイルの表面か
ら浮陸部までの深さを確認する浮陸深さ確認工程を備えている請求項1記載の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【請求項3】
前記アンカー装入工程の前に、前記溝の底部に第二の接着剤を注入する第二の接着剤注入工程を備えている請求項1又は2記載の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【請求項4】
前記
アンカー部材は、前記上端辺の中央部に前記下端辺の側に向かって窪んでいる上端辺凹部を備えている請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【請求項5】
少なくとも前記第一の接着剤注入工程を行う前に、前記浮陸が発生している領域における前記タイルを前記建築物の外側から前記コンクリート躯体側に向かって押さえつける共浮き押さえ治具を前記建築物に取り付ける共浮き押さえ治具取り付け工程を備えている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法に関する。特に、45二丁タイル、45モザイクタイルなどを使用した湿式工法のモザイクシート張り施工における浮陸部に対する補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
45二丁タイル、45モザイクタイルなどを使用した湿式工法のモザイクシート張り施工は、外壁に高級感を与え、また管理も簡易となると考えられて爆発的に普及し広く使用されている。このため、建築業界において競争が加速し、安価な施工も行われるようになっていた。これにより、一部では、施工の品質低下などの問題が発生したと考えられている。
【0003】
このような様々な問題により、今日、タイル剥離-タイル浮陸の症状が露呈し、多く発生している。
【0004】
タイル陶片の剥離や、施工上の問題により孕んでいるもの等に関しては、張替え施工が行われるべきだと思われる。また、タイルの剥落防止やタイル直張り外壁の浮き補修工法などに関しては従来から種々の提案が行われている(例えば、特許文献1、2、3)。
【0005】
45二丁タイル、45モザイクタイルなどを使用した湿式工法のモザイクシート張り施工において、モザイク張りの納まりは、コンクリート躯体を高圧洗浄・目荒らしを行い、下地調整モルタル(最近では目違い払いの補修程度などで部分的に行われている程度)、圧着モルタル塗、モザイクシート張り施工、タイル目地詰めとなるのが一般的である。
【0006】
このようにして構築されているタイル外壁では、コンクリ-ト躯体と圧着モルタルとの間で剥離が発生し、これがコンクリ-ト躯体と圧着モルタルとの間の浮陸となることがある。
【0007】
特許文献1、2、3等の技術は、主に、圧着モルタルとタイル材の間の剥離(タイル陶片の浮き)を補修する工法に関するものである。
【0008】
表面層と躯体との間に浮陸が発生している外壁の外側に形成している補修モルタル層を躯体と一体化させて強固に形成することを目的にしている外壁補修方法の提案があるが(特許文献4)、これは、モルタルまたはタイルによって形成した表面層と躯体との間に浮陸が発生している外壁の外側にアンカーによって躯体に固定したネットを埋設させたモルタル層を形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-51538号公報
【文献】特開2016-199950号公報
【文献】特開2018-197477号公報
【文献】特開平11-36610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、45二丁タイル、45モザイクタイルなどを使用した湿式工法のモザイクシート張り施工における浮陸部に対する補修工法、特に、コンクリ-ト躯体と圧着モルタルとの間に発生している浮陸に対する補修工法、すなわち、外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]
コンクリート躯体に圧着モルタルを介してタイルが張り付けられている構造からなる建築物の前記コンクリ-ト躯体と前記圧着モルタルとの間に発生している浮陸に対する補修工法であって、
前記浮陸が発生している領域におけるタイルの目地部に、当該目地部が伸びている長手方向に伸びる所定の上端開口長さと、前記コンクリート躯体の表面内部に達する深さまで伸びている所定の刻設深さと、前記長手方向に直交する横方向に所定の狭い横幅とを有する溝を形成する溝形成工程、
上端辺が前記溝の前記上端開口長さに対応する上端辺長さを有し、前記上端辺から前記上端辺側に対向する下端辺までの上下方向長さが前記溝の前記刻設深さに対応する大きさを有し、前記溝の前記横幅に対応する厚みを有する薄板状のアンカー部材を前記溝に装入するアンカー装入工程と、
前記溝の内壁面と前記アンカー部材の両側壁面との間及び、前記コンクリ-ト躯体と前記圧着モルタルとの間の浮陸とに第一の接着剤を注入する第一の接着剤注入工程と、
前記接着剤硬化後に前記目地部を目地詰めする目地詰め工程と
を備えている外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【0012】
[2]
前記溝形成工程後、前記アンカー装入工程の前に、
前記タイルの表面から前記浮陸部までの深さを確認する浮陸深さ確認工程を備えている[1]の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【0013】
[3]
前記アンカー装入工程の前に、前記溝の底部に第二の接着剤を注入する第二の接着剤注入工程を備えている[1]又は[2]の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【0014】
[4]
前記溝の内壁面と前記アンカー部材の両側壁面との間に前記第一の接着剤が注入される前記第一の接着剤注入工程で、前記圧着モルタルに形成された前記溝の内壁面と前記アンカー部材の両側壁面との間及び、前記コンクリート躯体の表面内部に形成された前記溝の内壁面と前記アンカー部材の両側壁面との間に前記第一の接着剤が注入される
[1]乃至[3]のいずれかの外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【0015】
[5]
前記アンカー部材は、前記上端辺の中央部に前記下端辺の側に向かって窪んでいる上端辺凹部を備えている[1]乃至[4]のいずれかの外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【0016】
[6]
少なくとも前記第一の接着剤注入工程を行う前に、前記浮陸が発生している領域における前記タイルを前記建築物の外側から前記コンクリート躯体側に向かって押さえつける共浮き押さえ治具を前記建築物に取り付ける共浮き押さえ治具取り付け工程を備えている[1]乃至[5]のいずれかの外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、45二丁タイル、45モザイクタイルなどを使用した湿式工法のモザイクシート張り施工における浮陸部に対する補修工法、特に、コンクリ-ト躯体と圧着モルタルとの間に発生している浮陸に対する補修工法、すなわち、外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】コンクリート躯体に圧着モルタルを介してタイルが張り付けられている構造からなる建築物のコンクリ-ト躯体と圧着モルタルとの間に浮陸が発生している一例を説明する一部を省略した断面図。
【
図2】本発明の一実施形態において浮陸が発生している領域におけるタイルの目地部に電動サンダーを用いて溝を形成する工程の一例を説明する一部を省略した断面図。
【
図3】本発明の一実施形態において溝形成工程後に行う、タイルの表面から浮陸部までの深さを確認する作業を説明する一部を省略した断面図。
【
図4】本発明の一実施形態において溝形成工程で形成した溝に薄板状のアンカー部材を装入するアンカー装入工程の一例を説明する図であって、(a)は薄板状のアンカー部材の一実施形態の正面図、(b)は
図4(a)図示のアンカー部材が溝に装入された状態の一例を説明する一部を省略した断面図。
【
図5】溝形成工程で形成した溝に薄板状のアンカー部材が挿入される状態を説明する
図4(b)に直交する方向で断面した一部を省略した断面図。
【
図6】
図4(a)図示の薄板状のアンカー部材とは異なる形状のアンカー部材を用いて形成工程で形成した溝に薄板状のアンカー部材を装入するアンカー装入工程の一例を説明する図であって、(a)は薄板状のアンカー部材の一実施形態の正面図、(b)は
図6(a)図示のアンカー部材が溝に装入された状態の一例を説明する一部を省略した断面図。
【
図7】(a)、(b)は、本発明の一実施形態において行われる第一の接着剤注入工程を説明する一部を省略した断面図。
【
図8】本発明の一実施形態において行われる目地詰め工程を説明する一部を省略した断面図。
【
図9】本発明の一実施形態において行われる共浮き押さえ治具取り付け工程で使用される共浮き押さえ治具の一実施形態を表すものであって、(a)は側面図、(b)は斜視図。
【
図10】本発明の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法が実施される建築物に対して共浮き押さえ治具取り付け工程で共浮き押さえ治具が取り付けられた状態を建築物の外側から見た一部を省略した正面図。
【
図11】本発明の一実施形態において行われる第二の着剤注入工程を説明する一部を省略した断面図。
【
図12】(a)~(f)は第二の着剤注入工程が行われる場合の本発明の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法の一例を説明する一部を省略した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この実施形態の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法は、コンクリート躯体に圧着モルタルを介してタイルが張り付けられている構造からなる建築物の前記コンクリ-ト躯体と前記圧着モルタルとの間に発生している浮陸に対する補修工法である。
【0020】
図1は、コンクリート躯体1に圧着モルタル2を介してタイル3a、3b、3c、3dが張り付けられている構造からなる建築物のコンクリ-ト躯体1と圧着モルタル2との間に浮陸4が発生している一例を説明する一部を省略した断面図である。以下、本明細書、図面において、タイル3a、3b、3c、3d、・・・を総称して「タイル3」と表すことがある。
【0021】
45二丁タイル、45モザイクタイルなどを使用した湿式工法のモザイクシート張り施工では、一般的に、コンクリート躯体を高圧洗浄・目荒らしした後に圧着モルタル2を塗り、その上にタイル3を貼り付けた後、目地部5a、5b、5cを形成するタイル目地詰めを行っている。以下、本明細書、図面において、目地部5a、5b、5cを・・・を総称して「目地部5」と表すことがある。
【0022】
このようなコンクリート躯体1に圧着モルタル2を介してタイル3が張り付けられている構造からなる建築物でコンクリ-ト躯体1と圧着モルタル2との間に浮陸4が発生することがある。
【0023】
この実施形態の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法は、このような浮陸に対する補修工法である。以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【0024】
(浮陸発生領域確認工程)
上述した建築物のタイル外壁に対してテストハンマー等を用いた打診調査などにより浮陸が発生していて、本実施形態の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法を実施する領域及び、その広がりを確認する。
【0025】
建築物のタイル外壁に対してテストハンマー等を用いた打診調査などにより浮陸が発生していて、本実施形態の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法を実施する領域及び、その広がりを確認するものである。
【0026】
例えば、
図10に「浮陸部」と表示されている領域が、浮陸が発生していて、本実施形態の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法を実施する領域ということになる。
【0027】
(共浮き押さえ治具取り付け工程)
浮陸発生領域等の事情を勘案して、後述する第一の接着剤注入工程の際に、第一の接着剤が浮陸部に注入、充填されることで発生する内圧の高まりによって、浮陸部の周辺で接着力は弱くてもコンクリート躯体外壁表面から剥離していない圧着モルタル2が剥がれて、そこに新たな隙間が形成されてしまうような事態が発生するおそれが考えられることがある。
【0028】
このような場合には、そのような事態の発生を未然に防止すべく、浮陸が発生している領域あるいは、浮陸が発生している領域の周辺領域あるいは、浮陸が発生している領域とその周辺領域におけるタイル3を建築物の外側からコンクリート躯体1の側に向かって押さえつける共浮き押さえ治具を建築物に取り付ける工程を実施する。
【0029】
図10はこのような共浮き押さえ治具取り付け工程で共浮き押さえ治具30が取り付けられた状態を建築物の外側から見た一部を省略した正面図である。
【0030】
浮陸発生領域等の事情を勘案して
図10に「共浮き予想範囲」と表示した領域で上述したような、後述する第一の接着剤注入工程の際に、第一の接着剤が浮陸部に注入、充填されることで発生する内圧の高まりによって、浮陸部の周辺で接着力は弱くてもコンクリート躯体外壁表面から剥離していない圧着モルタル2が剥がれて、そこに新たな隙間が形成されてしまうような事態が発生するおそれが予想された。
【0031】
そこで、
図9に符号30で示している共浮き押さえ治具(押さえ金物30)を用いてこの共浮き予想範囲に共浮き押さえ治具取り付けを行ったものである。
【0032】
図9、
図10では、十字状の薄状金属片30a、30bからなる共浮き押さえ治具(押さえ金物30)を、金ビス31を目地部5に締め付け固定することで共浮き押さえ治具(押さえ金物30)によって、浮陸が発生している領域あるいは、浮陸が発生している領域の周辺領域あるいは、浮陸が発生している領域とその周辺領域におけるタイル3を建築物の外側からコンクリート躯体1の方向に向かって押さえつけている。
【0033】
(溝形成工程)
浮陸4が発生している領域におけるタイル3の目地部5にスリットを形成する。
図10では浮陸部に合計8本のスリットである溝6が形成されている。
【0034】
溝6の上端開口6aは、目地部5が伸びている長手方向に伸びる所定の上端開口長さL1(
図4(b))を備えている。
【0035】
溝6がコンクリート躯体1の方向に向かって形成される刻設深さD1(
図4(b))は、溝6の深さがコンクリート躯体1の表面内部にまで達する大きさである。
【0036】
このような溝6は、
図2図示のように、例えば、電動サンダー20などを用いて形成することができる。このようにすれば、電動サンダー20の刃先21の厚みに対応する横幅W1(
図3)の溝6を、コンクリート躯体1の表面内部にまで達する所定の深さで、
図2、
図3、
図4(b)に示すように、コンクリート躯体1方向に向かって凸湾している状態で形成することができる。すなわち、目地部5が伸びている長手方向に直交する横方向に所定の狭い横幅(W1)を有する溝6を刻設することができる。
【0037】
刃先21が
図2図示のように円弧状に湾曲している電動サンダー20を用いてスリットとなる溝6を刻設すると、
図2、
図4(b)図示のように、建築物の外壁表面側からコンクリート躯体1方向に向かって凸湾している溝6を形成することができる。
【0038】
なお、
図10では、8本の溝6が
図10で上下方向になる、目地部5が伸びている長手方向に形成されているが、
図10で左右方向になる、目地部5が伸びている長手方向に溝6を形成してもよい。
【0039】
浮陸4が発生している領域におけるタイル3の目地部5に、目地部5が伸びている長手方向に形成されるものであれば、
図10で上下方向に伸びる溝であっても、
図10で上下方向に伸びる溝であっても構わない。
【0040】
(浮陸深さ確認工程)
溝形成工程後、タイル3の外側表面から浮陸部4までの深さを確認する浮陸深さ確認工程を実施する。
【0041】
図3図示の実施形態では、目盛り付きの浮陸深さ計測器40を用いて計測を行っている。浮陸深さ計測器40を先端から
図3図示のように、溝6内に挿入し、浮陸深さ計測器40の先端部で浮陸箇所の確認を行い、タイル3の外側表面から浮陸部4までの深さに対して、溝形成工程で形成した溝6の刻設深さD1が十分ではない場合には、再度、電動サンダー20などを用いて、タイル3の外側表面から浮陸部4までの深さに対して十分な刻設深さD1を有する溝6を形成する。
【0042】
浮陸深さ確認工程を実施することで、タイル3の外側表面から浮陸部4までの深さに対して、十分な刻設深さD1を有する溝6を形成しておくと、後述するように、コンクリート躯体1と浮陸したモルタル2とを、接着剤8とアンカー部材7を介して接着し、コンクリート躯体1と浮陸したモルタル2との間の強固な固定を図る上で有利である。
【0043】
(アンカー装入工程)
溝形成工程で形成した溝6に、
図4(a)、(b)、
図5図示のように、薄板状のアンカー部材7を装入する。
【0044】
アンカー部材7の上端辺7aは、アンカー部材7の長手方向に上端辺長さL2を有している。この上端辺7aの上端辺長さL2は、目地部5の長手方向における溝6の上端開口長さL1に対応する長さ(大きさ)になっている。
【0045】
上端辺7aから上端辺7a側に対向する下端辺7bまでのアンカー部材7の上下方向長さD2は、溝6の刻設深さD1に対応する長さ(大きさ)になっている。
【0046】
アンカー部材7の肉厚W2の大きさは、溝6の横幅W1に対応する大きさである。
【0047】
溝6の上端開口長さL1に対応する上端辺長さL2は、ほぼ上端開口長さL1に等しく、溝6内にアンカー部材7を装入することから、上端開口長さL1より若干小さい大きさである。
【0048】
溝6の刻設深さD1に対応する上端辺7aから下端辺7bまでの上下方向長さD2は、ほぼ刻設深さD1に等しく、溝6内にアンカー部材7を装入することから、刻設深さD1より若干小さい大きさである。
【0049】
溝6の横幅W1に対応するアンカー部材7の肉厚W2は、溝6の横幅W1にほぼ等しい大きさで、溝6内にアンカー部材7を装入することから、横幅W1より若干小さい大きさである。
【0050】
アンカー部材7の正面側から見た形態は、上述の実施形態では、溝6が、建築物の外壁表面側からコンクリート躯体1方向に向かって凸湾している形態であることから、これに対応して、
図4(a)図示のように、上端辺7aの上端辺長さL2が最も長く(大きく)、上端辺7aから下端辺7bに向かうにつれて次第に長手方向の長さが小さくなる形態にすることができる。
【0051】
図4(a)図示の実施形態では、アンカー部材7の正面側から見た形態は截頭錐体状で、下端辺7bは上端辺7aに対して平行な辺になっている。建築物の外壁表面側からコンクリート躯体1方向に向かって凸湾している溝6の形態に対応して、アンカー部材7の正面側から見た下端辺7bが、
図4(a)で下側に向かって円弧状に凸湾している形態にすることもできる。
【0052】
図6(a)、(b)は、
図4(a)、(b)に図示されているアンカー部材7とは異なる形状のアンカー部材17を用いる場合を説明するものである。アンカー部材7と同様に、アンカー部材17の正面側から見た形態は截頭錐体状で、下端辺17bは上端辺17aに対して平行な辺になっているが、アンカー部材7の場合よりは緩やかな凸湾形状になっている。
【0053】
狭い横幅W1で、建築物の外壁表面側からコンクリート躯体1方向に向かって凸湾している形態の溝6に、上述したように、上端辺7aが溝6の上端開口長さL1に対応する上端辺長さL2を有し、上端辺7aから上端辺7a側に対向する下端辺7bまでの上下方向長さD2が溝6の刻設深さD1に対応する大きさを有し、溝6の横幅W1に対応する肉厚W2を有する薄板状のアンカー部材7が装入されている。そこで、コンクリ-ト躯体1と圧着モルタル2との間に発生している浮陸4は、目地部5の長手方向における広い領域(長い領域)で、アンカー部材7の側壁面7d、7eに対向している。
【0054】
溝6に薄板状のアンカー部材7を装入した後、後述する第一の接着剤注入工程で、溝6の内壁面6d、6eとアンカー部材7の両側壁面7d、7eとの間及び、コンクリ-ト躯体1と圧着モルタル2との間の浮陸4とに第一の接着剤を注入すると、上述したように、コンクリ-ト躯体1と圧着モルタル2との間に発生している浮陸4が、目地部5の長手方向における広い領域(長い領域)で、アンカー部材7の側壁面7d、7eに対向していることから、第一の接着剤を注入、充填することが容易であり、注入された第一の接着剤は、浮陸4内に広範囲に広がることが可能になる。
【0055】
これによって、第一の接着剤がコンクリート躯体1と浮陸したモルタル2を接着させ、モルタル2を強固に固定することができる。
【0056】
また、浮陸4内に充填された第一の接着剤(エポキシ樹脂、等)により薄板状のアンカー7に水平方向(
図5の左右方向)に架かる荷重に対して耐力を増加させることができる。
【0057】
更に、溝6に薄板状のアンカー部材7が装入されている状態で注入された第一の接着剤(エポキシ樹脂、等)が、外壁表面側のコンクリート躯体1の表面に広がることで、浮陸4が発生しているコンクリート躯体1の外壁表面側の表側面からコンクリート躯体1内部に向かって進行するコンクリート中性化の深化を抑制することができ、コンクリート躯体1の保全につながることを期待できる。
【0058】
アンカー部材7は、上述したように、上端辺7aが溝6の上端開口長さL1に対応する上端辺長さL2を有し、上端辺7aから上端辺7a側に対向する下端辺7bまでの上下方向長さD2が溝6の刻設深さD1に対応する大きさを有し、溝6の横幅W1に対応する厚みW2を有する薄板状であれば種々の形態にすることができる。
【0059】
例えば、ステンレス、等の金属製の薄板を採用することができる。また、接着剤との接着性の向上という観点から、ステンレス、等の金属製の薄板で波状に屈曲あるいは凹凸して屈曲しているもの、ステンレス、等の金属製の薄板であって複数の微小な透孔が穿設されている、あるいは両側壁面7d、7eの表面に複数の微小な凹凸が形成されているもの、ステンレスメッシュのようにメッシュ材から薄板体が形成されているものなどを採用することができる。
【0060】
(第一の接着剤注入工程)
溝6に薄板状のアンカー部材7を装入した後、
図7(a)、(b)図示のように、エポキシ樹脂、等の接着剤8を注入する。
【0061】
図7(a)、(b)は、第一の接着剤注入工程を説明する一部を省略した断面図である。
【0062】
注入器50の注入ノズル51先端を溝6の上端開口6aから溝6内に差し入れ、接着剤8を溝6内に注入する(
図7(a)、(b))。
【0063】
これにより、溝6の内壁面6d、6eとアンカー部材7の両側壁7d、7e面との間及び、コンクリ-ト躯体1と圧着モルタル2との間の浮陸4とに接着剤8が注入される。
【0064】
狭い横幅W1で、上端開口6aが目地部5が伸びている長手方向に所定の上端開口長さL1で伸び、コンクリート躯体1の表面内部にまで達する所定の刻設深さD1で、建築物の外壁表面側からコンクリート躯体1方向に向かって凸湾している形態の溝6に、上述したように、上端辺7aが溝6の上端開口長さL1に対応する上端辺長さL2を有し、上端辺7aから上端辺7a側に対向する下端辺7bまでの上下方向長さD2が溝6の刻設深さD1に対応する大きさを有し、溝6の横幅W1に対応する肉厚W2を有する薄板状のアンカー部材7が装入されていて、ここに接着剤8が注入される。
【0065】
そこで、接着剤8は、圧着モルタル2の部分に形成されている溝6の内壁面2d、2eとアンカー部材7の上端側における両側壁面7d、7eとの間及び、コンクリート躯体1の表面内部に形成された溝6の内壁面6d、6eとアンカー部材7の両側壁面7d、7eとの間に注入される。
【0066】
そして、それぞれの間で接着、硬化が行われる。これによって、コンクリート躯体1と浮陸したモルタル2とが、接着剤8とアンカー部材7を介して、接着され、ンクリート躯体1と浮陸したモルタル2との間の強固な固定が行われる。
【0067】
図4(a)、(b)、
図6図示のように、アンカー部材7が、上端辺7aの中央部に下端辺7bの側に向かって窪んでいる上端辺凹部7c、17cを備えていると、
図7(b)図示のように、注入器50の注入ノズル51先端を上端辺凹部7c内に突入させて接着剤の注入を行うことができるので有利である。
【0068】
(目地詰め工程)
第一の接着剤注入工程で注入した接着剤8が硬化した後、
図8図示のように、目地部5を目地材を用いて目地詰めする。
【0069】
目地部5に形成された溝6の中にアンカー部材7が挿入され、そこへエポキシ樹脂、等の接着剤が注入されて硬化した後に目地詰めが行われるので、タイル目地仕上げが容易になる。
【0070】
以上、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態に限られることなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
【0071】
例えば、浮陸発生領域確認工程で確認した、浮陸が発生していて、本実施形態の外壁タイルの薄層浮陸部に対する補修工法を実施する領域があまり広くない場合などでは、共浮き押さえ治具取り付け工程を省略することができる。
【0072】
また、
図4~
図6に図示した上述のアンカー装入工程を行う前に、
図11、
図12(b)に示したように、溝6の底部(すなわち、スリットである溝6のコンクリート躯体1の内部側であって、
図11における下側)に第二の接着剤を注入する第二の接着剤注入工程が実施されるようにすることができる。溝形成工程(
図2)で切削形成した溝6の底部にエポキシ樹脂などからなる第二の接着剤を充填する工程である。
【0073】
図12(a)~(f)は、アンカー装入工程(
図12(c))を行う前に第二の接着剤注入工程(
図11、
図12(b))が実施される本発明の補修工法を説明する一部を省略した断面図である。
図1~
図10を用いて説明した実施形態と共通しているところには共通する符号をつけて説明を省略している。
【0074】
図12(a)が
図2で説明している溝形成工程に対応し、
図12(c)が
図4、
図6で説明しているアンカー装入工程に対応し、
図12(d)、
図12(e)がそれぞれ
図7(a)、(b)で説明している第一の接着剤注入工程に対応し、
図12(f)が
図8で説明している目地詰め工程に対応している。
【0075】
第二の接着剤としては、上述した第一の接着剤と同じく、高粘度型のエポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、等を使用することができる。
【0076】
アンカー装入工程(
図12(c))を行う前に、上述した第二の接着剤注入工程を実施して、アンカー装入工程(
図12(c))で溝6に装入されるアンカー部材7の先端側(
図4(b)、
図6(b)における下側)に
図11、
図12(b)図示のように第二の接着剤(例えば、高粘度型のエポキシ樹脂)を充填する。これによって、
図12(c)図示のように、次工程のアンカー装入工程が実施されると、アンカー部材7の先端側が第二の接着剤(例えば、高粘度型のエポキシ樹脂)によって固定される。
【0077】
上述した第一の接着剤注入工程(
図7(a)、(b))で、剥離によって生じている狭幅の空隙部に第一の接着剤(エポキシ樹脂など)を充填するが、充填に伴う加圧によって空隙部が広がってしまう可能性がある。
【0078】
そこで、あらかじめ、上述した第二の接着剤注入工程(
図11、
図12(b))を実施しておくことでアンカー部材7の先端側が第二の接着剤(例えば、高粘度型のエポキシ樹脂)によって固定されていると空隙部が広がることを防止することができて有利である。
【0079】
第二の接着剤注入工程は上述した目的で行われるものであるから、アンカー装入工程が実施される前に行われればよく、
図12(a)~(f)では図示していないが、溝形成工程(
図2)後に浮陸深さ確認工程(
図3)が行われる場合には、浮陸深さ確認工程(
図3)後でアンカー装入工程(
図12(c))が実施される前に、第二の接着剤注入工程(
図11、
図12(b))を行えばよいことになる。