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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】伸縮スパッド装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 21/50 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
B63B21/50 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024113964
(22)【出願日】2024-07-17
【審査請求日】2024-07-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511107957
【氏名又は名称】三国屋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】和田 英司
(72)【発明者】
【氏名】清水 健
(72)【発明者】
【氏名】服部 友幸
(72)【発明者】
【氏名】下斗米 義幸
(72)【発明者】
【氏名】木場田 健司
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-118678(JP,A)
【文献】特開2015-30443(JP,A)
【文献】特開2005-35429(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108791715(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1258916(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 21/50
B63B 21/00
B63B 35/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のテレスコピック筒が上下方向に摺動自在に順次嵌挿されて伸縮するテレスコピック構造を有し、伸長時に最上部に位置する最上テレスコピック筒が船に取り付けられ、伸長時に最下部に位置する最下テレスコピック筒に前記船に備えられた巻上装置のワイヤロープが取り付けられ、前記ワイヤロープを緩めることにより、前記船から下側に伸長する伸縮スパッドと、
前記伸縮スパッドの内部に配置され、伸縮可能であるとともに内部に水を封入可能な蛇腹式ウオータパックと、
を備え、
伸長する前記伸縮スパッドの下端が水底に接地した状態で前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入することにより、前記伸縮スパッドが収縮するのを抑制して接地した状態を維持することを特徴とする伸縮スパッド装置。
【請求項2】
前記船の上に第1の開閉弁と外部流路とが配置され、
前記第1の開閉弁により、前記蛇腹式ウオータパックの内部と前記外部流路との間または前記蛇腹式ウオータパックの内部と外気との間を連通状態及び閉鎖状態に切り替えることを特徴とする請求項1に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項3】
前記ワイヤロープを緩めて、前記伸縮スパッドを自重で前記船から下側に伸長させるとき、前記第1の開閉弁を開にして、前記外部流路から水を前記蛇腹式ウオータパックの内部に注入し、
前記伸縮スパッドの下端が水底に接地し、前記蛇腹式ウオータパックの内部が所定の圧力になるまで継続して水の注入を継続した後、前記第1の開閉弁を閉にして、前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入してて接地した状態を維持し、
前記伸縮スパッドの接地を終了するとき、前記第1の開閉弁を開にし、前記ワイヤロープを巻き上げて、前記外部流路を介して前記蛇腹式ウオータパックの内部の水を外部に流出させながら、前記伸縮スパッドを収縮させることを特徴とする請求項2に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項4】
前記最下テレスコピック筒の下端の領域に形成され、前記最下テレスコピック筒の内部及び外部を繋ぐ吸水口と、
前記最下テレスコピック筒の内部の前記吸水口の近傍に配置され、前記吸水口と前記蛇腹式ウオータパックの内部との間の流路に配置された第2の開閉弁と、
を備え、
前記第2の開閉弁が、前記吸水口から前記蛇腹式ウオータパックの内部への水の流れに対して開となり、前記蛇腹式ウオータパックの内部から前記吸水口への水の流れに対して閉となる逆止弁であることを特徴とする請求項2に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項5】
前記ワイヤロープを緩めて、前記伸縮スパッドを自重で前記船から下側に伸長させるとき、前記第2の開閉弁が開になって、前記吸水口から前記伸縮スパッドの下端の周囲の水が前記蛇腹式ウオータパックの内部に流入し、
前記伸縮スパッドの下端が水底に接地し、前記第1の開閉弁を開にして、前記外部流路から外部の水を前記蛇腹式ウオータパックの内部に注入し、前記第2の開閉弁が閉となって前記蛇腹式ウオータパックの内部が所定の圧力になった後、前記第1の開閉弁を閉にして、前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入してて接地した状態を維持し、
前記伸縮スパッドの接地を終了するとき、前記第1の開閉弁を開にし、前記ワイヤロープを巻き上げて、前記外部流路を介して前記蛇腹式ウオータパックの内部の水を外部に流出させながら、前記伸縮スパッドを収縮させることを特徴とする請求項4に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項6】
前記最下テレスコピック筒の下端の領域に、水底の土砂を除去するために流体を吹き出すノズルが取り付けられていることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項7】
前記蛇腹式ウオータパックの内部と前記ノズルとの間を連通状態及び閉鎖状態に切り替える第3の開閉弁を備え、
前記第3の開閉弁が閉のとき、前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入可能であり、
前記第3の開閉弁が開のとき、前記ノズルから前記蛇腹式ウオータパックの内部に封入された水が吹き出されることを特徴とする請求項6に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項8】
前記第3の開閉弁が圧力に応じて開閉を行う弁であり、
前記伸縮スパッドが接地した状態を維持できるだけの前記蛇腹式ウオータパックの内部圧力よりも高い開放圧力に達したとき、前記第3の開閉弁が開の状態になって、前記ノズルから前記蛇腹式ウオータパックの内部に封入された水が吹き出されることを特徴とする請求項7に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項9】
前記船に前記最上テレスコピック筒を上下に移動させる機構が備えられ、
前記伸縮スパッドが接地した状態で前記最上テレスコピック筒を下方に移動させ、前記伸縮スパッドの下端を水底に更に強く押し付けることにより、水が封入された前記蛇腹式ウオータパックの内部圧力を前記開放圧力まで高めて、前記第3の開閉弁を開にすることを特徴とする請求項8に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項10】
上端から下端側まで前記伸縮スパッドの内部に配置されたホースが前記ノズルに取り付けられ、前記ホースを介して、前記ノズルから水、空気または水及び空気の混合流体が吹き出されることを特徴とする請求項6に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項11】
前記ホースが前記蛇腹式ウオータパックの内部に位置し、前記蛇腹式ウオータパックの伸縮に合わせて伸縮可能なようにスパイラル状に配置されていることを特徴とする請求項10に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項12】
前記蛇腹式ウオータパックが弾性を有するゴム材料または樹脂材料から形成されていることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項13】
嵌挿された前記テレスコピック筒の外側に位置する前記テレスコピック筒の内面に突設されたストッパと内側に位置する前記テレスコピック筒の外面に突設されたストッパとが当接して、嵌挿された前記テレスコピック筒の間の伸長方向の動きが制限されることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項14】
嵌挿された前記テレスコピック筒の間に隙間があり、水中で前記伸縮スパッドが下側に伸びていくとき、周囲から水が前記伸縮スパッドの内部に流入することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の伸縮スパッド装置。
【請求項15】
前記最下テレスコピック筒の下端に下が凸の先端部が取り付けられていることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の伸縮スパッド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体を係留するためのスパッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工事作業等で船舶を係留するとき、岸壁からロープを掛ける、またはアンカー(錨)を用いて係留(停泊)するのが一般的である。しかし、狭隘河川、運河や他船舶の航路に隣接した場所の場合、他船舶等の航行に支障が生ずるため、アンカー(錨)等での係留は困難である。これに対処するため、自船を係留するための係留杭であるスパッドを自船に装備した工事作業船が知られている。スパッドを自船から垂直に水底に下ろして、係留しながら、橋梁や水門等の工事を行うことができる。
【0003】
しかし、スパッドを上げた状態では、長尺な柱状のスパッドの上端は、船の甲板からかなり上方に突出した状態となる。このため、橋梁や水門等の上空制限がある水域の場合、長尺な柱状のスパッドが上空制限物に接触してしまい、使用することができない。一方、制限に影響しない程度の長さのスパッドの場合には、長さが足りず水底に届かないため、船舶を係留することができない。
【0004】
これに対処するため、スパッドを伸縮可能にした伸縮スパッド装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の伸縮スパッド装置では、複数の異径筒を重ね、それらを摺らせながら伸長、収縮させる構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-35429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の伸縮スパッド装置では、スパッドは伸縮可能であるが、伸縮機能を固定することができない。このため、スパッドを水底に押し込むことができないので、水底の地盤が固い場合、伸縮スパッドの先端部を貫入できない。よって、横滑りが発生し、船体の動揺防止もできない。また、浚渫作業、杭打ち作業等に使用される大型のスパッド台船であるハーフセップ台船として使用することもできない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、船の上側に大きなスペースを要さず、スパッドを水底に押し込んで、確実に船を係留可能な伸縮スパッド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様に係る伸縮スパッド装置は、
複数のテレスコピック筒が上下方向に摺動自在に順次嵌挿されて伸縮するテレスコピック構造を有し、伸長時に最上部に位置する最上テレスコピック筒が船に取り付けられ、伸長時に最下部に位置する最下テレスコピック筒に前記船に備えられた巻上装置のワイヤロープが取り付けられ、前記ワイヤロープを緩めることにより、前記船から下側に伸長する伸縮スパッドと、
前記伸縮スパッドの内部に配置され、伸縮可能であるとともに内部に水を封入可能な蛇腹式ウオータパックと、
を備え、
伸長する前記伸縮スパッドの下端が水底に接地した状態で前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入することにより、前記伸縮スパッドが収縮するのを抑制して接地した状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0009】
上記態様により、船の上側に大きなスペースを要さず、スパッドを水底に押し込んで、確実に船を係留可能な伸縮スパッド装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の1つの実施形態に係る伸縮スパッド装置の外形を模式的に示す側面図であって、(a)は収縮した状態を示し、(b)は伸長した状態を示す。
図2A】第1の開閉弁を備えた本発明の第1の実施形態に係る伸縮スパッド装置の構造を模式的に示す側面断面図であって、伸縮スパッドが収縮した状態を示す図である。
図2B図2Aに示す状態から、伸縮スパッドが下方に伸びている途中の状態を模式的に示す側面断面図である。
図2C図2Bに示す状態から、伸縮スパッドが更に下方に伸びて水底に接地し、伸縮スパッドの長さが固定されて状態を維持しているところを模式的に示す側面断面図である。
図2D図2Cに示す状態から、伸縮スパッドが上方へ収縮していく状態を模式的に示す側面断面図である。
図3】蛇腹式ウオータパックの外形を模式的に示す斜視図である。
図4A】第1の開閉弁及び第2の開閉弁を備えた本発明の第2の実施形態に係る伸縮スパッド装置の構造を模式的に示す側面断面図であって、伸縮スパッドが収縮した状態を示す図である。
図4B図4Aに示す状態から、伸縮スパッドが下方に伸びている途中の状態を模式的に示す側面断面図である。
図4C図4Bに示す状態から、伸縮スパッドが更に下方に伸びて水底に接地し、蛇腹式ウオータパックの内部の圧力を更に高めているところを模式的に示す側面断面図である。
図4D図4Cに示す状態から、伸縮スパッドが上方へ収縮していく状態を模式的に示す側面断面図である。
図5】水底の土砂を除去するためのノズル及びホースを備えた本発明の第3の実施形態に係る伸縮スパッド装置の下端領域の構造を模式的に示す側面断面図である。
図6】水底の土砂を除去するためのノズル及び第3の開閉弁を備えた本発明の第4の実施形態に係る伸縮スパッド装置の下端領域の構造を模式的に示す側面断面図である。
図7図6に示す伸縮スパッド装置においてノズルを噴出させるその他の方法を模式的に示す側面断面図である。
図8】試作した伸縮スパッド装置の外形を示す画像(写真)であって、伸縮スパッドが収縮した状態を示す画像である。
図9】試作した伸縮スパッド装置の外形を示す画像(写真)であって、伸縮スパッドが伸長した状態を示す画像である。
図10】試作した伸縮スパッド装置が船に取り付けられた状態を示す画像(写真)である。
図11】試作した伸縮スパッド装置が取り付けられた船が、伸縮スパッド装置を用いて橋の下の位置で係留されているところを示す画像(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示す場合があるが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態では前述の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。以下の説明及び図面では、鉛直方向を上下方向として記載している。
【0012】
(1つの実施形態に係る伸縮スパッド装置)
はじめに、図1を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る伸縮スパッド装置の概要の説明を行う。図1は、本発明の1つの実施形態に係る伸縮スパッド装置の外形を模式的に示す側面図であって、(a)収縮した状態を示し、(b)伸長した状態を示す。
【0013】
本実施形態に係る伸縮スパッド装置2は伸縮スパッド10を備え、その伸縮スパッド10は、4つのテレスコピック筒12、16A、16B及び14が上下方向に摺動自在に順次嵌挿されて伸縮するテレスコピック構造を有する。更に詳細に述べれば、伸縮スパッド10は、伸長時における配置で上から順に、最上テレスコピック筒12、中間テレスコピック筒16A、16B、及び最下テレスコピック筒14を備える。上側から下側に行くにつれてテレスコピック筒の外形が小さくなっており、収縮時には、下側のテレスコピック筒が上側のテレスコピック筒の中に嵌挿される構造を有する。後述するように、テレスコピック筒の内外面に形成されたストッパが当接して、所定の長さ以上伸びないようになっている。
【0014】
伸長時に最上部に位置する最上テレスコピック筒12が船に取り付けられる。更に詳細に述べれば、本実施形態では、最上テレスコピック筒12の外側に取り付けフレーム(図示せず)が配置され、最上テレスコピック筒12が取り付けフレームに取り付けられ、その取り付けフレームが船に取り付けられている(図10参照)。伸縮スパッド10(取り付けフレーム)は、平面視で船の外形に沿って取り付けられ、収縮時には、側面視で概ね水面よりも上方の位置に配置される。
【0015】
伸長時に最下部に位置する最下テレスコピック筒14には、滑車42a、42bが取り付けられている。また、伸縮スパッド10の下端、つまり最下テレスコピック筒14の下部に、下が凸となった先端部40が取り付けられている。
【0016】
船の甲板上には、巻上装置70が設置されており、伸縮スパッド10(取り付けフレーム)の両側、つまり巻上装置70側及びその反対側に滑車72a、72bが接置されている。巻上装置70のドラムに巻き取られるワイヤロープWが、滑車72aに掛けられて下側に延びる。下側に延びたワイヤロープWが、最下テレスコピック筒14に取り付けられた滑車42a、42bに順に掛けられて上側に延びる。上側に延びたワイヤロープWは、甲板上の滑車72bに掛けられ、矢印Xで示す位置で船に固定されている。
【0017】
伸縮スパッド10(取り付けフレーム)の上端は、巻上装置70の上部以下の高さに収められている。ただし、この配置に限られるものではなく、伸縮スパッド10(取り付けフレーム)の上端が、巻上装置70の上部よりもやや高い位置にある場合もあり得る。何れの場合でも、伸縮スパッド10(取り付けフレーム)の上端が船の甲板からあまり高くならないように配置されている。
【0018】
図1の(a)に示すように、ワイヤロープWが巻上装置70のドラムに巻き取られて伸縮スパッド10が収縮した状態から、ドラムを反巻き取り方向に回転させてワイヤロープWを緩めていくと、自重で伸縮スパッド10が下側に伸びていく。ワイヤロープWを継続的に緩めていくと、テレスコピック筒のストッパどうしが当接するまで伸び、最終的に図1の(b)に示すような、伸縮スパッド10が最大長さまで伸びた状態となる。
【0019】
実際に船に取り付けられた伸縮スパッド装置2を使用する場合には、伸縮スパッド10が最大長さまで伸びる前に、伸縮スパッド10の下端の先端部40が水底に当接する。後述するように、本実施形態では、伸縮スパッド10の下端が水底に接地した状態で伸縮スパッド10が収縮するのを抑制して接地した状態を維持する機構を有する。伸縮スパッド10が収縮するのを抑制する機構については、図2A図2D等を参照しながら、追って詳細に説明する。なお、図1に示す伸縮スパッド装置2は、図2A以降の図を参照しながら説明する全ての実施形態を適用することができる。このようなテレスコピック構造を有する伸縮スパッド10により、船の上側に大きなスペースを要さず、橋梁の下のような上部空間が限られたところを含む、様々な領域で確実に船を係留することができる。
【0020】
図1(b)に示すような伸縮スパッド10が伸長した状態から、巻上装置70のドラムを巻き取り方向に回転させてワイヤロープWを巻き取ることにより、滑車42a、42bを介して伸縮スパッド10の下端部が上側に引かれ、伸縮スパッド10が収縮していく。そして、図1の(a)に示すようなテレスコピック筒12、16A、16B、14が互いに重なった伸縮スパッド10が最も収縮した状態に戻る。
【0021】
本実施形態では、テレスコピック筒12、16A、16B、14がそれぞれ略正方形の断面形状を有する厚み16mmの金属製角管で形成されている。テレスコピック筒12、16A、16B、14の長さは、それぞれ4000mmとなっている。最上テレスコピック筒12は、500mm×500mmの外形の角管から形成され、中間テレスコピック筒16Aは、450mm×450mmの外形の角管から形成され、中間テレスコピック筒16Bは、400mm×400mmの外形の角管から形成され、最下テレスコピック筒14は、350mm×350mmの外形の角管から形成されている。つまり、嵌挿されたテレスコピック筒12、16A、16B、14の間に隙間がある。
【0022】
最下テレスコピック筒14の下部に取り付けられた先端部40の長さは、500~800mm程度を例示できる。各部材がこのような寸法を有する場合、最も収縮した状態では、各テレスコピック筒12、16A、16B、14が重なり、4~5m程度の全長となり、最も伸長した状態では、12~13m程度の全長となる。ただし、これらの寸法はあくまで一例であり、用途に応じて、その他の任意の寸法を採用することができる。
【0023】
上記のように、嵌挿されたテレスコピック筒12、16A、16B、14の間に隙間があるので、水中で伸縮スパッド10を伸長させていくと、周囲から水が伸縮スパッド10の内部に流入する。流入する水の流れにより、伸縮スパッド10の内部に溜まっていた空気が外部へ押し出される。これにより、空気溜りによる浮力で伸縮スパッド10が下側に伸びるのが妨げられる虞なく、確実に伸縮スパッドを水底に向けて伸長させることができる。
【0024】
ただし、上記の寸法は一例に過ぎず、その他の任意に断面の大きさ及び長さを有する角管を用いることができる。上記の例では、4つのテレスコピック筒を有しているが、伸縮スパッド装置2を使用する場所の水深に応じて、2以上の任意の数のテレスコピック筒を有する伸縮スパッド10を採用することができる。また、角管でなく、略円形の断面形状を有する円管を用いることもできる。角管や円管として、炭素鋼、ステンレス鋼をはじめとする任意の金属材料で形成することができる。
【0025】
図1に示すように、最下テレスコピック筒14の下部に下が凸の先端部40が取り付けられているので、伸縮スパッド10を水底により深く突き刺して、より確実に接地状態を維持させることができる。
【0026】
(第1の実施形態に係る伸縮スパッド装置)
次に、図2Aから図2D及び図3を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る伸縮スパッド装置の説明を行う。図2Aは、第1の開閉弁を備えた本発明の第1の実施形態に係る伸縮スパッド装置の構造を模式的に示す側面断面図であって、伸縮スパッドが収縮した状態を示す図である。図2Bは、図2Aに示す状態から、伸縮スパッドが下方に伸びている途中の状態を模式的に示す側面断面図である。図2Cは、図2Bに示す状態から、伸縮スパッドが更に下方に伸びて水底に接地し、伸縮スパッドの長さが固定されて状態を維持しているところを模式的に示す側面断面図である。図2Dは、図2Cに示す状態から、伸縮スパッドが上方へ収縮していく状態を模式的に示す側面断面図である。図3は、蛇腹式ウオータパックの外形を模式的に示す斜視図である。
【0027】
本実施形態では、3つテレスコピック筒12、16、14が上下方向に摺動自在に順次嵌挿されて伸縮するテレスコピック構造を有する。更に詳細に述べれば、最上テレスコピック筒12、中間テレスコピック筒16及び最下テレスコピック筒14の3つのテレスコピック筒を有する。上記のように、最上テレスコピック筒12は、その外側に配置された取り付けフレームに取り付けられており、取り付けフレームが船に取り付けられている。伸縮スパッド10(取り付けフレーム)は、平面視で船の外形に沿って取り付けられ、収縮時には、側面視で概ね水面よりも上方の位置に配置される。
【0028】
本実施形態では、嵌挿されたテレスコピック筒12、16、14のうち、外側に位置するテレスコピック筒12の内面に突設されたストッパ18aと内側に位置するテレスコピック筒16の外面に突設されたストッパ18bとが当接して、嵌挿されたテレスコピック筒12、16の間の伸長方向の動きが制限されるようになっている。同様に、外側に位置するテレスコピック筒16の内面に突設されたストッパ18aと内側に位置するテレスコピック筒14の外面に突設されたストッパ18bとが当接して、嵌挿されたテレスコピック筒16、14の間の伸長方向の動きが制限されるようになっている。
【0029】
このように、テレスコピック筒12、16、14のストッパ18a、18bどうしの当接により、確実にテレスコピック筒12、16、14の間の伸長方向の動きを制限でき、信頼性の高いテレスコピック構造が得られる。
【0030】
更に、伸縮スパッド10の内部には、伸縮可能であるとともに内部に水を封入可能な蛇腹式ウオータパック20が配置されている。図3に示すように、蛇腹式ウオータパック20の蛇腹構造により、矢印で示した方向にスムーズに伸縮することができる。
【0031】
蛇腹式ウオータパック20の上端には、金属製の端部プレート24aを備え、下端には、金属製の端部プレート24bを備えている。蛇腹式ウオータパック20の上端の端部プレート24aが、最上テレスコピック筒12の内面に取り付けられている。蛇腹式ウオータパック20の下端の端部プレート24aが、最下テレスコピック筒14に取り付けられた先端部40の内面に取り付けられている。これにより、テレスコピック筒10の伸長、収縮に追従して、蛇腹式ウオータパック20も伸長、収縮する。端部プレート24a、24bとテレスコピック筒12、14の内面とは、ボルトナット等の締結部材により接合されている。また、少なくとも、端部プレート24aとテレスコピックピック筒12の内面との間にガスケットが挿入され、シールされた状態で接合されている。
【0032】
蛇腹式ウオータパック20の上端には、蛇腹式ウオータパック20の内部22と連通し、端部プレート24a及び最上テレスコピック筒12を貫通して、テレスコピック筒12の上側にまで延びた配管26が配置されている。配管26は、シールされた状態で蛇腹式ウオータパック20の内部22から外側(上側)へ延びている。船の甲板上に、外部流路50aが配置されている。外部流路50aの入側にはポンプ52が接続され、出側には第1の開閉弁30が接続されている。ポンプ52の吸込側配管は、船の周囲の水中にまで延びている。
【0033】
第1の開閉弁30は三方弁になっており、外部流路50aに加え、第1の開閉弁30に対して外部流路50aの反対側に延びた外部流路50bと接続されている。外部流路50bの他端は、船の周囲の水面上、つまり外気に開口している。更に、三方弁である第1の開閉弁30には、蛇腹式ウオータパック20の内部22と連通した配管26が接続されている。図面で、第1の開閉弁30を模式的に示す円の一部が黒く示されている場合には弁が閉の状態を示し、円の一部が白く示されている場合には弁が開の状態を示す。
【0034】
よって、図2Bに示すように、第1の開閉弁30において、外部流路50aと蛇腹式ウオータパック20の内部22(実際には配管26)との間の流路を開にし、内部22(配管26))と外部流路50bとの間の流路をと閉にして、ポンプ52を稼働させることにより、船の周囲の水を吸い上げて蛇腹式ウオータパック20の内部22に供給することができる。また、図2Cに示すように、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水が満たされた状態で、外部流路50aと内部22(配管26))との間の流路、及び内部22(配管26))と外部流路50bとの間の流路を共に閉にすることにより、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入することができる。これにより、伸縮スパッド10の下端が水底に接地した状態で蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入することにより、伸縮スパッド10が収縮するのを抑制して接地した状態を維持することができる。
【0035】
更に、図2Dに示すように、第1の開閉弁30において、外部流路50aと内部22(配管26))との間の流路を閉にし、内部22(配管26)と外部流路50bとの間の流路を開にした状態で、蛇腹式ウオータパック20を収縮させると、蛇腹式ウオータパック20の内部22の水を外部へ放出される。本実施形態では、蛇腹式ウオータパック20の中の水は、船の周囲の水面に放出される。
【0036】
図示した例では、船の周囲の水を吸い上げて蛇腹式ウオータパック20の内部22に供給し、蛇腹式ウオータパック20の内部22の水を船の周囲の水面に放出しているが、これに限られるものではない。例えば、タンクに収容された水を蛇腹式ウオータパック20の内部22に供給する、または蛇腹式ウオータパック20の内部22の水をタンクに戻すように構成することもできる。また、ポンプを用いずに、サイフォンの原理を用いてタンク内の水を蛇腹式ウオータパック20の内部22に流入させることもできる。その場合、巻き上げられるワイヤロープWにより伸縮スパッド10、延いては蛇腹式ウオータパック20が収縮することにより、蛇腹式ウオータパック20の内部22の水をタンクに戻すことができる。
【0037】
本実施形態に係る蛇腹式ウオータパック20は、弾性を有するゴム材料または樹脂材料から形成されている。これにより、伸縮スパッド10の伸長、収縮に合わせてスムーズに伸長、収縮するとともに、水を注入したときに適度に弾性変形して、確実に、蛇腹式ウオータパック20の内部に所定の圧力で水を封入して、伸縮スパッド10が収縮するのを抑制して接地した状態を維持することができる。
【0038】
<第1の実施形態に係る伸縮スパッド装置を用いた船の係留方法>
次に、図2Aから図2Dを参照しながら、上記のような構造を有する第1の実施形態に係る伸縮スパッド装置2を用いて、船を係留する方法を説明する。図2Aでは、伸縮スパッド10が最も収縮した状態になっている。第1の開閉弁30では、外部流路50aと内部22(配管26))との間の流路、及び内部22(配管26))と外部流路50bとの間の流路が共に閉になっている。ただし、巻上装置70のドラムに巻き取られたワイヤロープWにより、伸縮スパッド10が収縮した状態が維持されているので、第1の開閉弁30を開の状態にしていても問題はない。図2Aに示す伸縮スパッド10が最も収縮した状態では、伸縮スパッド10の大半の部分が水面よりも上方に位置し、船は自由に航行することができる。伸縮スパッド10により、船の甲板から上方へスパッドが飛び出していないので、橋梁の下のような高さに制限のある場所でも、問題なく航行し、伸縮スパッド10を溝底側に伸ばして、船を係留することができる。
【0039】
次に、船を係留する手順を説明する。図2Aに示す状態から、巻上装置70のドラムを反巻き取り方向に回転させてワイヤロープWを緩め、伸縮スパッド10を自重で船から下側に伸長させる(図の太線矢印参照)。このとき、第1の開閉弁30の外部流路50a側を開にし、ポンプ52を稼働させて、外部流路50aから水を蛇腹式ウオータパック20の内部22に注入していく。図2Aの状態では、実際には蛇腹式ウオータパック20の内部22に残留する空気量は僅かであり、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を注入していくことにより、浮力の影響を抑制して、自重で伸縮スパッド10がスムーズに下側に伸長していく。また、伸縮スパッド10の伸長に連れて、伸縮スパッド10の各テレスコピック筒12、16、14の間にある隙間から周囲の水が流入するので、浮力が生じるのが抑制される。
【0040】
そして、図2Cに示すように、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地する。伸縮スパッド10の最大伸長時の長さは、伸縮スパッド装置2を取り付けた船を係留する領域の水深よりも長く設定されている。よって、水底Gの水深に応じて、任意の長さで伸縮スパッド10の伸長が停止する。そして、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地した状態で、ポンプ52の稼働を継続することにより、蛇腹式ウオータパック20の内部22の圧力が更に高まる。これにより、腹式ウオータパック20、延いては伸縮スパッド10が下側に伸びて、水底Gに対して伸縮スパッド10の下端を更に深く押し込むことができる。特に伸縮スパッド10の下側には、下が凸となった先端部40が取り付けられているので、より効果的に伸縮スパッド10の下端が水底Gの地盤に突き刺さる。このときの蛇腹式ウオータパック20の内部22の圧力として、0.8~1.2MPaを例示できる。
【0041】
このように、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地し、蛇腹式ウオータパック20の内部22が所定の圧力になるまで水の注入を継続した後、第1の開閉弁30を閉にして、蛇腹式ウオータパック20の内部に水を封入し、接地した状態を維持させる。弁の開閉を更に詳細に述べれば、第1の開閉弁30の外部流路50b側は予め閉の状態になっており、開の状態になっていた第1の開閉弁30の外部流路50a側を閉にする。
【0042】
これにより、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地した状態を確実に維持することができ、船を安全に係留することができる。本実施形態では、蛇腹式ウオータパック20の内部に水を封入することにより、伸縮スパッド10が収縮するのを抑制して、伸縮スパッド10が接地した状態を維持することができる。これにより、複雑な固定機構を要さず、シンプルな構造で確実に接地状態を維持することができる。
【0043】
図2Cに示すような伸縮スパッド10の接地を終了するには、図3Dに示すように、巻上装置70のドラムを巻き取り方向に回転させてワイヤロープWを巻き上げ、伸縮スパッド10を収縮させていく。これにより、水底Gに接地した伸縮スパッド10の下端が上方に離れていく。このとき、第1の開閉弁30の外部流路50b側を開にする。ワイヤロープWを巻き上げるにつれて、伸縮スパッド10、延いては蛇腹式ウオータパック20が収縮していく。ことき、外部流路50bを介して蛇腹式ウオータパック20の内部22の水を外部に流出させることができるので、伸縮スパッド10をスムーズに収縮させることができる。これを継続することにより、、最も短い状態まで伸縮スパッド10を収縮させることができ、第1の開閉弁30の外部流路50b側を閉にすることにより、図2Aに示す状態に戻る。これにより、係留していた船を再び航行させることができる。
【0044】
以上のように、第1の実施形態では、船の上に第1の開閉弁30と外部流路50a、50bとが配置され、第1の開閉弁30により、蛇腹式ウオータパック20の内部22と外部流路50aとの間また蛇腹式ウオータパック20の内部22と(外部流路50bを介して)外気との間を連通状態及び閉鎖状態に切り替えることができる。
【0045】
第1の実施形態によれば、第1の開閉弁30で蛇腹式ウオータパック20の内部22と外部流路50a、50bとの間を連通状態及び閉鎖状態に切り替えることができるので、第1の開閉弁30を開にして、伸縮スパッド10が伸長するときに蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を流入させたり、伸縮スパッド10が収縮するときに蛇腹式ウオータパック20の内部22から水を流出させたりすることができ、更に、第1の開閉弁30を閉にして、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入することもできる。
【0046】
第1の実施形態では、ワイヤロープWを緩めて、伸縮スパッド10を自重で船から下側に伸長させるとき、第1の開閉弁30を開にして、外部流路50aから水を蛇腹式ウオータパック20の内部22に注入し、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地し、蛇腹式ウオータパック20の内部22が所定の圧力になるまで継続して水の注入を継続した後、第1の開閉弁30を閉にして、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入してて接地した状態を維持し、伸縮スパッド10の接地を終了するとき、第1の開閉弁30を開にし、ワイヤロープWを巻き上げて、外部流路50bを介して蛇腹式ウオータパック20の内部22の水を外部に流出させながら、伸縮スパッド10を収縮させることができる。
【0047】
このように、外部流路50a、50bと蛇腹式ウオータパック20の内部22との間を開閉する第1の開閉弁30により、伸縮スパッド10を伸長させ、接地した状態を維持し、伸縮スパッド10を収縮させる船の係留に関する各工程を確実に行うことができる。
【0048】
(第2の実施形態に係る伸縮スパッド装置)
次に、図4Aから図4Dを参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る伸縮スパッド装置の説明を行う。図4Aは、第1の開閉弁及び第2の開閉弁を備えた本発明の第2の実施形態に係る伸縮スパッド装置の構造を模式的に示す側面断面図であって、伸縮スパッドが収縮した状態を示す図である。図4Bは、図4Aに示す状態から、伸縮スパッドが下方に伸びている途中の状態を模式的に示す側面断面図である。図4Cは、図4Bに示す状態から、伸縮スパッドが更に下方に伸びて水底に接地し、蛇腹式ウオータパックの内部の圧力を更に高めているところを模式的に示す側面断面図である。図4Dは、図4Cに示す状態から、伸縮スパッドが上方へ収縮していく状態を模式的に示す側面断面図である。
【0049】
第2の実施形態では、第1の実施形態で示した構成に加えて、伸縮スパッド10の下端に第2の開閉弁32を備えている。更に詳細に述べれば、伸縮スパッド10の最下テレスコピック筒14の下部の領域に、最下テレスコピック筒14の内部及び外部を繋ぐ吸排水口44が形成されている。そして、最下テレスコピック筒14の内部の吸排水口44の近傍に、吸排水口44と蛇腹式ウオータパック20の内部22との間の流路に配置された第2の開閉弁32を備えている。この第2の開閉弁32は、吸排水口44から蛇腹式ウオータパック20の内部22への水の流れに対して開となり、蛇腹式ウオータパック20の内部22から吸排水口44への水の流れに対して閉となる逆止弁となっている。その他の構造については、基本的に第1の実施形態と同様であり、更なら詳細な説明は省略する。
【0050】
<第2の実施形態に係る伸縮スパッド装置を用いた船の係留方法>
次に、図4Aから図4Dを参照しながら、上記のような構造を有する第2の実施形態に係る伸縮スパッド装置2を用いて、船を係留する方法を説明する。図4Aでは、伸縮スパッド10が最も収縮した状態になっており、第1の開閉弁30は、外部流路50a側及び外部流路50b側共に閉の状態になっている。逆止弁である第2の開閉弁32も、吸排水口44側から圧力を受けていないので、閉の状態となっている。図4Aに示す状態は、基本的に、図2Aに示す第1の実施形態と同様である。図4Aに示す伸縮スパッド10が最も収縮した状態では、伸縮スパッド10の大半の部分が水面よりも上方に位置し、船が自由に航行することができる。
【0051】
次に、船を係留する手順を説明する。図4Aに示す状態から、巻上装置70のドラムを反巻き取り方向に回転させてワイヤロープWを緩め、伸縮スパッド10を自重で船から下側に伸長させる(図の太線矢印参照)。仮に蛇腹式ウオータパック20の内部22が密閉状態の場合には、蛇腹式ウオータパック20の内部22は広がることができず伸長することができない。しかし本実施形態では、図4Bに示すように、逆止弁である第2の開閉弁32が、吸排水口44から蛇腹式ウオータパック20の内部22への水の流れに対して開となり、吸排水口44から伸縮スパッド10の下端の周囲の水が蛇腹式ウオータパック20の内部22に流入する。この点で、図4Bに示す工程は、図2Bに示す第1の実施形態とは異なる。
【0052】
これにより、自重で伸縮スパッド10がスムーズに下側に伸長していく。なお、図4Bでは、第1の開閉弁30が閉の状態で示されているが、第1の開閉弁30の外部流路50a側を開にし、ポンプ52を稼働させて、外部流路50aから水を蛇腹式ウオータパック20の内部22に注入することもできる。この場合には、蛇腹式ウオータパック20の下端側だけでなく、上端側からも内部22に水が流入するので、伸縮スパッド10が伸長する速度を高めることができる。
【0053】
そして、図4Cに示すように、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地する。伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地した状態で、第1の開閉弁30の外部流路50a側を開にし、ポンプ52を稼働させて、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を更に注入する。これにより、蛇腹式ウオータパック20の内部22の圧力が更に高まる。このとき、内部22の圧力により、逆止弁である第2の開閉弁32は閉の状態となっている。よって、腹式ウオータパック20、延いては伸縮スパッド10が下側に伸びて、水底Gに対して更に深く押し込むことができる。図4Cは、外部流路50aから蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を供給しているところを示す。
【0054】
このように、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地し、蛇腹式ウオータパック20の内部22が所定の圧力になるまで継続して水の注入を継続した後、第1の開閉弁30を閉にして、蛇腹式ウオータパック20の内部に水を封入して接地した状態を維持させる。これにより、伸縮スパッド10の下端が水底に接地した状態を確実に維持することができ、船を安全に係留することができる。
【0055】
図4Cに示すような、伸縮スパッド10が接地した状態を終了するには、図4Dに示すように、巻上装置70のドラムを巻き取り方向に回転させてワイヤロープWを巻き上げ、伸縮スパッド10を収縮させていく。これにより、水底に設置していた伸縮スパッド10の下端が上方に離れていく。このとき、第1の開閉弁30の外部流路50b側を開にする。ワイヤロープWを巻き上げるにつれて、伸縮スパッド10、延いては蛇腹式ウオータパック20が収縮していく。このとき、蛇腹式ウオータパック20が収縮していくので、内部圧力は高くなり、第2の開閉弁32は閉の状態になっている。そして、最も短い状態まで伸縮スパッド10を収縮させることができ、第1の開閉弁30の外部流路50b側を開にすることにより、図4Aに示す状態に戻る。これにより、係留していた船を再び航行させることができる。
【0056】
以上のように、第2の実施形態では、最下テレスコピック筒14の下部の領域に形成され、最下テレスコピック筒14の内部及び外部を繋ぐ吸排水口44と、最下テレスコピック筒14の内部の吸排水口44の近傍に配置され、吸排水口44と蛇腹式ウオータパック20の内部22との間の流路に配置された第2の開閉弁32と、を備え、第2の開閉弁32が、吸排水口44から蛇腹式ウオータパック20の内部22への水の流れに対して開となり、蛇腹式ウオータパック20の内部22から吸排水口44への水の流れに対して閉となる逆止弁となっている。
【0057】
第2の実施形態では、最下テレスコピック筒14の下部の領域に形成された吸排水口44と連通する逆止弁である第2の開閉弁32を備えるので、伸縮スパッド10が水底Gに向かって伸長するとき、吸排水口44から周囲の水が蛇腹式ウオータパック20の内部22に流入する。これにより、特別な動力を要さず、容易に蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を満たすことができる。水底Gに設置後、外部流路50aから蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を注入するときには、第2の開閉弁32は閉となるので、確実に蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入することができる。
【0058】
第2の実施形態では、ワイヤロープWを緩めて、伸縮スパッド10を自重で船から下側に伸長させるとき、第2の開閉弁32が開になって、吸排水口44から伸縮スパッド10の下端の周囲の水が蛇腹式ウオータパック20の内部22に流入し、伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地し、第1の開閉弁30を開にして、外部流路50aから外部の水を蛇腹式ウオータパック20の内部22に注入し、第2の開閉弁32が閉となって蛇腹式ウオータパック20の内部22が所定の圧力になった後、第1の開閉弁30を閉にして、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入してて接地した状態を維持し、伸縮スパッド10の接地を終了するとき、第1の開閉弁30を開にし、ワイヤロープWを巻き上げて、外部流路50bを介して蛇腹式ウオータパック20の内部22の水を外部に流出させながら、伸縮スパッド10を収縮させることができる。
【0059】
第2の実施形態では、外部流路50a、50bと蛇腹式ウオータパック20の内部22との間を開閉する第1の開閉弁30と、吸排水口44と蛇腹式ウオータパック20の内部22との間を繋ぐ逆止弁である第2の開閉弁32とにより、伸縮スパッド10を伸長させ、接地した状態を維持し、伸縮スパッド10を収縮させる船の係留に関する各工程を確実に行うことができる。特に、吸排水口44と連通した第2の開閉弁32により、他の動力を要さずに蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を流入させて、確実に伸縮スパッド10を伸長させることができる。なお、吸排水口44を用いて、蛇腹式ウオータパック20の内部22に封入された水を外部に吹き出すこともできる。これにより、水底Gの土砂を除去することができる。関連する記載を第4の実施形態に示す。
【0060】
(第3の実施形態に係る伸縮スパッド装置)
次に、図5を参照しながら、本発明の第3の実施形態に係る伸縮スパッド装置の説明を行う。図5は、水底の土砂を除去するためのノズル及びホースを備えた本発明の第3の実施形態に係る伸縮スパッド装置の下端領域の構造を模式的に示す側面断面図である。
【0061】
水底Gの地盤が固い場合、上記のように伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地した状態で蛇腹式ウオータパック20の内部22に所定の圧力で水を封入したとしても、先端部40が地中に貫入せず、横滑りが生じる虞がある。これに対処するため、第3の実施形態では、伸縮スパッド10の下端に高圧水を噴射するノズル60が取り付けられている。
【0062】
ノズル60からの高圧水噴射で水底Gの土砂を攪乱させて、先端部40を水底Gの地盤中に貫入させて横滑りを防ぐことができる。本実施形態では、水を噴出させているが、これに限られるものではない。環境に悪影響を与えずに水底Gの土砂を攪乱させることができるのであれば、水以外の液体を用いることもできるし、空気をはじめとする気体を用いることもできる。つまり、任意の流体を噴出するノズルを採用することができる。
【0063】
次に、図5を参照しながら、第3の実施形態に係る伸縮スパッド装置2の構造を説明する。
伸長時に最下部に位置する最下テレスコピック筒14の下部の領域に、水底Gの土砂を除去するために流体(水)を吹き出すノズル60が取り付けられている。更に詳細に述べれば、最下テレスコピック筒14の下部に取り付けられた先端部40の下端に開口が設けられ、ノズル60の先端部がこの開口に挿入されている。ノズル60の先端と反対側の端部が、蛇腹式ウオータパック20の下端の端部プレート24bに接合されている。ノズル60の端部と端部プレート24bとの間にはガスケットが配置され、ボルトナットのような締結部材で、ノズル60が、シールされた状態で、蛇腹式ウオータパック20の下端に取り付けられている。蛇腹式ウオータパック20の端部プレート24bには、ノズル60の流路と連通した貫通孔が形成されている。
【0064】
蛇腹式ウオータパック20の内部22に、ホース62が配置され、ホース62の下端部は、蛇腹式ウオータパック20の外殻部を貫通して、端部プレート24bにシールされた状態で取り付けられている。これにより、ホース62の流路とノズル60の流路が連通した状態になっている。ホース62は、蛇腹式ウオータパック20の内部22を端部プレート24bから上側に向けて、螺旋状に巻かれた状態で延びている。ホース62の上端部は、蛇腹式ウオータパック20の外殻部を貫通して、端部プレート24aにシールされた状態で取り付けられている。端部プレート24aには、ホース62の流路と連通した貫通孔が設けられている。
【0065】
螺旋状に巻かれたホース62は、伸縮スパッド10の伸縮、収縮に合わせて、スムーズに伸縮、収縮するようになっている。端部プレート24aの外側には、貫通孔と連通した流路64が接続され、流路64には高圧ポンプ(またはコンプレッサ)66が配置されている。なお、上記の第1の開閉弁30及びそれに関連した配管26等とは、干渉しないように、ホース62に関連する流路が配置されている。
【0066】
このような構成により、高圧ポンプ66により吐出された高圧水が、流路64、ホース62の流路を流れて、ノズル60の流路に流入し、ノズル60の先端部から水底Gの地盤に設けて噴出させることができる。噴出する水圧として、水量にもよるが、0.7MPa~7MPaの圧力を例示できる。
【0067】
以上のように、第4の実施形態では、最下テレスコピック筒14の下部の領域にノズル60が取り付けられ、上端から下端側まで伸縮スパッド10の内部22に配置されたホース62がノズル60に取り付けられ、ホース62を介して、ノズルから高圧水が吹き出される。ホース62を用いて高圧水を供給することにより、確実にノズル60からの高圧水を噴出させて、水底Gの土砂を攪乱させ、先端部40を地盤中に貫入させて横滑りを防ぐことができる。
【0068】
ただし、ホースを用いてノズルから水だけでなく、水及び空気の混合流体が吹き出すこともできる。その場合には、エアリフト効果で、水底Gの土砂を効果的に除去することができる。
【0069】
更に、第4の実施形態では、ホース62が蛇腹式ウオータパック20の内部22に位置し、蛇腹式ウオータパック20の伸縮に合わせて伸縮可能なようにスパイラル状に配置されている。ホース62が蛇腹式ウオータパック20の内部22に位置するので、伸縮スパッド10の内部空間を効率的に利用できる。更に、伸縮スパッド10及び蛇腹式ウオータパック20の伸縮に合わせて、ホース62がスムーズに伸縮して、確実にノズル60から流体を噴出させることができる。
【0070】
なお、ホース62が蛇腹式ウオータパック20の内部22に配置される場合に限られるものではない。伸縮スパッド10及び蛇腹式ウオータパック20の伸縮に合わせて、スムーズに伸縮できるのであれば、ホース62が蛇腹式ウオータパック20の外部に配置される場合もあり得る。また、回転するリールにホースが巻き取られる構造により、伸縮スパッド10及び蛇腹式ウオータパック20の伸縮に合わせて、ホースの長さを調整することもできる。
【0071】
(第4の実施形態に係る伸縮スパッド装置)
次に、図6を参照しながら、本発明の第4の実施形態に係る伸縮スパッド装置の説明を行う。図6は、水底の土砂を除去するためのノズル及び第3の開閉弁を備えた本発明の第4の実施形態に係る伸縮スパッド装置の下端領域の構造を模式的に示す側面断面図である。
【0072】
上記の第3の実施形態では、ホース62で供給された高圧水をノズル60から水底Gに噴出させているが、第4の実施形態では、蛇腹式ウオータパック20の内部22に充填された水をノズル60から噴出させる点で異なる。
【0073】
次に、図6を参照しながら、第4の実施形態に係る伸縮スパッド装置2の構造を説明する。本実施形態でも、最下テレスコピック筒14の下部に取り付けられた先端部40の下端に開口が設けられ、ノズル60の先端部がこの開口に挿入されている。ノズル60の先端と反対側の端部が、蛇腹式ウオータパック20の下端の端部プレート24bに接合されている。ノズル60の端部と端部プレート24bとの間にはガスケットが配置され、ボルトナットのような締結部材で、ノズル60が、シールされた状態で、蛇腹式ウオータパック20の下端に取り付けられている。蛇腹式ウオータパック20の端部プレート24bには、ノズル60の流路と連通した貫通孔が形成されている。
【0074】
端部プレート24bに形成された貫通孔に連続して、蛇腹式ウオータパック20の外殻部を貫通した流路68が形成され、流路68は蛇腹式ウオータパック20の内部22に開口している。そして、本実施形態では、蛇腹式ウオータパック20の内部22とノズル60との間を連通状態及び閉鎖状態に切り替える第3の開閉弁34を備える。第3の開閉弁34が閉のとき、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入可能であり、第3の開閉弁34が開のとき、ノズル60から蛇腹式ウオータパック20の内部22に封入された水を吹き出すことができる。
【0075】
蛇腹式ウオータパック20の内部22とノズル60との間を連通状態及び閉鎖状態に切り替える第3の開閉弁34を備えることにより、更なる給液機構を備えることなく、ノズル60から蛇腹式ウオータパック20の内部22に封入された水を吹き出して、水底Gの土砂を除去することができる。
【0076】
更に、本実施形態では、第3の開閉弁34が圧力に応じて開閉を行う弁で構成されている。第3の開閉弁34が開となる開放圧力は、伸縮スパッド10が接地した状態を維持できる蛇腹式ウオータパック20の内部圧力よりも高い圧力とするのが好ましい。伸縮スパッド10が接地した状態を維持できるように蛇腹式ウオータパック20の内部22に水が封入された状態で、更に、第1の開閉弁30を介して、ポンプ52により蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を供給することにより、蛇腹式ウオータパック20の内部圧力を高めることができる。そして、蛇腹式ウオータパック20の内部圧力が開放圧力に達したとき、第3の開閉弁34が開の状態になって、ノズル60から蛇腹式ウオータパック20の内部22に封入された水が吹き出される。
【0077】
以上のように、第3の開閉弁34が圧力に応じて開閉を行う弁であり、伸縮スパッド10が接地した状態を維持できるだけの蛇腹式ウオータパック20の内部圧力よりも高い開放圧力に達したとき、第3の開閉弁34が開の状態になって、ノズル60から蛇腹式ウオータパック20の内部22に封入された水が吹き出される。本実施形態では、第3の開閉弁34が圧力に応じて開閉を行う弁なので、蛇腹式ウオータパック20の内部22の圧力を高めるだけで、電磁弁等を用いることなく、蛇腹式ウオータパック20の内部22に封入された水が吹き出すことができる。
(第5の実施形態に係る伸縮スパッド装置)
次に、図7を参照しながら、本発明の第5の実施形態に係る伸縮スパッド装置の説明を行う。図7は、図6に示す伸縮スパッド装置においてノズルを噴出させるその他の方法を模式的に示す側面断面図である。
【0078】
第5の実施形態に係る伸縮スパッド10及び蛇腹式ウオータパック20の構造は、上記の第4の実施形態と同様であり、蛇腹式ウオータパック20の内部22とノズル60との間に圧力に応じて開閉を行う第3の開閉弁34が配置されている。第5の実施形態では、図7に模式的に示したように、船に最上テレスコピック筒12(実際には、最上テレスコピック筒12の外側の取り付けフレーム)を上下に移動させる機構Kを備える。例えば、船に備えられた巻き上げ装置を用いて、このような機構Kを構成することができる。
【0079】
伸縮スパッド10が接地した状態で、上記の機構Kを用いて、最上テレスコピック筒12を下方に移動させ、伸縮スパッド10の下端を水底Gに更に強く押し付ける。これにより、水が封入された蛇腹式ウオータパック20の内部圧力を開放圧力まで高めて、第3の開閉弁34を開にすることができる。これにより、ノズル60から蛇腹式ウオータパック20の内部22の水を噴出させて、水底Gの土砂を除去することができる。
【0080】
以上のように、第5の実施形態では、船に最上テレスコピック筒12を上下に移動させる機構Kが備えられ、伸縮スパッド10が接地した状態で最上テレスコピック筒12を下方に移動させ、伸縮スパッド10の下端を水底Gに更に強く押し付けることにより、水が封入された蛇腹式ウオータパック20の内部圧力を開放圧力まで高めて、第3の開閉弁34を開にすることができる。なお、機構Kは、最上テレスコピック筒12を上下に移動させるとともに、所望の位置で最上テレスコピック筒12を固定することができる。よって、伸縮スパッド10の下端を水底Gに強く押し込んだ状態で船を安定させることができ、更にハーフセップ台船として使用することもできる。
【0081】
本実施形態では、伸縮スパッド10が接地した状態で伸縮スパッド10の下端を水底Gに更に強く押し付けることにより、蛇腹式ウオータパック20の内部圧力を開放圧力まで高めて、蛇腹式ウオータパック20の内部22に封入された水が吹き出すことができる。これにより、機構Kを用いて最上テレスコピック筒12を下側へ移動させるだけで、ノズル60から水を噴出させて水底Gの土砂を除去し、伸縮スパッド10を更に深く水底に押し込むことができる。
【0082】
上記の第3から第5の何れの実施形態においても、最下テレスコピック筒14の下部の領域に、水底Gの土砂を除去するために流体を吹き出すノズル60が取り付けられており、ノズル60から流体を吹き出すことにより、水底Gの土砂を除去して、確実に伸縮スパッド10を水底Gに設置させることができる。
【0083】
上記の任意の実施形態に係る伸縮スパッド装置2において、複数のテレスコピック筒12、16、14が上下方向に摺動自在に順次嵌挿されて伸縮するテレスコピック構造を有し、伸長時に最上部に位置する最上テレスコピック筒12が船に取り付けられ、伸長時に最下部に位置する最下テレスコピック筒14に船に備えられた巻上装置70のワイヤロープWが取り付けられ、ワイヤロープwを緩めることにより、船から下側に伸長する伸縮スパッド10と、伸縮スパッド10の内部に配置され、伸縮可能であるとともに内部に水を封入可能な蛇腹式ウオータパック20と、を備え、伸長する伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地した状態で蛇腹式ウオータパック20の内部に水を封入することにより、伸縮スパッド10が収縮するのを抑制して接地した状態を維持することができる。
【0084】
テレスコピック構造を有する伸縮スパッドを備えた場合、船の上側に大きなスペースを要さず、橋梁の下のような高さ制限のある領域でも船を係留することができる。伸長する伸縮スパッドの下端が水底に接地したとき、伸縮スパッドの伸縮を固定する手段がない場合には、伸縮スパッドが縮んで、伸縮スパッドが接地した状態を維持することができない。これに対処するため、個々のテレスコピック筒を互いに固定及び固定解除する機構を設ければ、テレスコピック筒ごとに複雑な構造の機構を備える必要があり、重量が増加し、製造コストも増加する。また、伸縮スパッドの任意の伸長状態(長さ)で固定することも困難である。
【0085】
上記の実施形態に係る伸縮スパッド装置2は、伸縮スパッド10の内部に、伸縮可能であるとともに内部に水を封入可能な蛇腹式ウオータパック20を備える。様々な水深の水底において、伸縮スパッド10の下端が接地してそれ以上伸長しない状態で、蛇腹式ウオータパック20の内部22に水を封入することにより、伸縮スパッド10が収縮するのを抑制して接地した状態を維持することができる。これにより、複雑な固定機構を要さず、シンプルな構造で確実に接地状態を維持することができ、重量増加や製造コストの増加を抑制できる。これにより、船の上側に大きなスペースを要さず、スパッドを水底に押し込んで、確実に船を係留可能な伸縮スパッド装置2を提供することができる。
【0086】
(実施例)
次に、図8から図11を参照しながら、実際に試作した伸縮スパッド装置の実施例の説明を簡潔に行う。図8は、試作した伸縮スパッド装置の外形を示す画像(写真)であって、伸縮スパッドが収縮した状態を示す画像である。図9は、試作した伸縮スパッド装置の外形を示す画像(写真)であって、伸縮スパッドが伸長した状態を示す画像である。図10は、試作した伸縮スパッド装置が船に取り付けられた状態を示す画像(写真)である。図11は、試作した伸縮スパッド装置が取り付けられた船が、伸縮スパッド装置を用いて橋の下の位置で係留されているところを示す画像(写真)である。
【0087】
図11に示すように、試作した伸縮スパッド装置により、橋梁の下のような高さ制限のある場所であっても、確実に安全に船を係留できることが実証された。
【0088】
(全般的記載)
<1>
複数のテレスコピック筒が上下方向に摺動自在に順次嵌挿されて伸縮するテレスコピック構造を有し、伸長時に最上部に位置する最上テレスコピック筒が船に取り付けられ、伸長時に最下部に位置する最下テレスコピック筒に前記船に備えられた巻上装置のワイヤロープが取り付けられ、前記ワイヤロープを緩めることにより、前記船から下側に伸長する伸縮スパッドと、
前記伸縮スパッドの内部に配置され、伸縮可能であるとともに内部に水を封入可能な蛇腹式ウオータパックと、
を備え、
伸長する前記伸縮スパッドの下端が水底に接地した状態で前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入することにより、前記伸縮スパッドが収縮するのを抑制して接地した状態を維持することを特徴とする伸縮スパッド装置。
<2>
前記船の上に第1の開閉弁と外部流路とが配置され、
前記第1の開閉弁により、前記蛇腹式ウオータパックの内部と前記外部流路との間または前記蛇腹式ウオータパックの内部と外気との間を連通状態及び閉鎖状態に切り替えることを特徴とする<1>に記載の伸縮スパッド装置。
<3>
前記ワイヤロープを緩めて、前記伸縮スパッドを自重で前記船から下側に伸長させるとき、前記第1の開閉弁を開にして、前記外部流路から水を前記蛇腹式ウオータパックの内部に注入し、
前記伸縮スパッドの下端が水底に接地し、前記蛇腹式ウオータパックの内部が所定の圧力になるまで継続して水の注入を継続した後、前記第1の開閉弁を閉にして、前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入してて接地した状態を維持し、
前記伸縮スパッドの接地を終了するとき、前記第1の開閉弁を開にし、前記ワイヤロープを巻き上げて、前記外部流路を介して前記蛇腹式ウオータパックの内部の水を外部に流出させながら、前記伸縮スパッドを収縮させることを特徴とする<2>に記載の伸縮スパッド装置。
<4>
前記最下テレスコピック筒の下端の領域に形成され、前記最下テレスコピック筒の内部及び外部を繋ぐ吸水口と、
前記最下テレスコピック筒の内部の前記吸水口の近傍に配置され、前記吸水口と前記蛇腹式ウオータパックの内部との間の流路に配置された第2の開閉弁と、
を備え、
前記第2の開閉弁が、前記吸水口から前記蛇腹式ウオータパックの内部への水の流れに対して開となり、前記蛇腹式ウオータパックの内部から前記吸水口への水の流れに対して閉となる逆止弁であることを特徴とする<2>または<3>に記載の伸縮スパッド装置。
<5>
前記ワイヤロープを緩めて、前記伸縮スパッドを自重で前記船から下側に伸長させるとき、前記第2の開閉弁が開になって、前記吸水口から前記伸縮スパッドの下端の周囲の水が前記蛇腹式ウオータパックの内部に流入し、
前記伸縮スパッドの下端が水底に接地し、前記第1の開閉弁を開にして、前記外部流路から外部の水を前記蛇腹式ウオータパックの内部に注入し、前記第2の開閉弁が閉となって前記蛇腹式ウオータパックの内部が所定の圧力になった後、前記第1の開閉弁を閉にして、前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入してて接地した状態を維持し、
前記伸縮スパッドの接地を終了するとき、前記第1の開閉弁を開にし、前記ワイヤロープを巻き上げて、前記外部流路を介して前記蛇腹式ウオータパックの内部の水を外部に流出させながら、前記伸縮スパッドを収縮させることを特徴とする<4>に記載の伸縮スパッド装置。
<6>
前記最下テレスコピック筒の下端の領域に、水底の土砂を除去するために流体を吹き出すノズルが取り付けられていることを特徴とする<1>から<5>の何れかに記載の伸縮スパッド装置。
<7>
前記蛇腹式ウオータパックの内部と前記ノズルとの間を連通状態及び閉鎖状態に切り替える第3の開閉弁を備え、
前記第3の開閉弁が閉のとき、前記蛇腹式ウオータパックの内部に水を封入可能であり、
前記第3の開閉弁が開のとき、前記ノズルから前記蛇腹式ウオータパックの内部に封入された水が吹き出されることを特徴とする<6>に記載の伸縮スパッド装置。
<8>
前記第3の開閉弁が圧力に応じて開閉を行う弁であり、
前記伸縮スパッドが接地した状態を維持できるだけの前記蛇腹式ウオータパックの内部圧力よりも高い開放圧力に達したとき、前記第3の開閉弁が開の状態になって、前記ノズルから前記蛇腹式ウオータパックの内部に封入された水が吹き出されることを特徴とする<7>に記載の伸縮スパッド装置。
<9>
前記船に前記最上テレスコピック筒を上下に移動させる機構が備えられ、
前記伸縮スパッドが接地した状態で前記最上テレスコピック筒を下方に移動させ、前記伸縮スパッドの下端を水底に更に強く押し付けることにより、水が封入された前記蛇腹式ウオータパックの内部圧力を前記開放圧力まで高めて、前記第3の開閉弁を開にすることを特徴とする<8>に記載の伸縮スパッド装置。
<10>
上端から下端側まで前記伸縮スパッドの内部に配置されたホースが前記ノズルに取り付けられ、前記ホースを介して、前記ノズルから水、空気または水及び空気の混合流体が吹き出されることを特徴とする<6>に記載の伸縮スパッド装置。
<11>
前記ホースが前記蛇腹式ウオータパックの内部に位置し、前記蛇腹式ウオータパックの伸縮に合わせて伸縮可能なようにスパイラル状に配置されていることを特徴とする<10>に記載の伸縮スパッド装置。
<12>
前記蛇腹式ウオータパックが弾性を有するゴム材料または樹脂材料から形成されていることを特徴とする<1>から<11>の何れかに記載の伸縮スパッド装置。
<13>
嵌挿された前記テレスコピック筒の外側に位置する前記テレスコピック筒の内面に突設されたストッパと内側に位置する前記テレスコピック筒の外面に突設されたストッパとが当接して、嵌挿された前記テレスコピック筒の間の伸長方向の動きが制限されることを特徴とする<1>から<12>の何れかに記載の伸縮スパッド装置。
<14>
嵌挿された前記テレスコピック筒の間に隙間があり、水中で前記伸縮スパッドが下側に伸びていくとき、周囲から水が前記伸縮スパッドの内部に流入することを特徴とする<1>から<13>の何れか1項に記載の伸縮スパッド装置。
<15>
前記最下テレスコピック筒の下端に下が凸の先端部が取り付けられていることを特徴とする<1>から<14>の何れかに記載の伸縮スパッド装置。
【0089】
以上、本発明の実施形態及び実施例を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施形態及び実施例における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0090】
2 伸縮スパッド装置
10 伸縮スパッド
12 最上テレスコピック筒
14 最下テレスコピック筒
16、16A、16B 中間テレスコピック筒
18a、18b ストッパ
20 蛇腹式ウオータパック
22 内部
24a、24b 端部プレート
26 配管
30 第1の開閉弁
32 第2の開閉弁
34 第3の開閉弁
40 先端部
42a、42b ワイヤ用滑車
44 吸排水口
46 流路
50a、50b 外部流路
52 ポンプ
60 ノズル
62 ホース
64 流路
66 高圧ポンプ
70 巻上装置
72a、72b ワイヤ用滑車
W ワイヤ
G 水底
K 機構
【要約】
【課題】船の上側に大きなスペースを要さず、スパッドを水底に押し込んで、確実に船を係留可能な伸縮スパッド装置を提供する。
【解決手段】 複数のテレスコピック筒12、16、14が上下方向に摺動自在に順次嵌挿されて伸縮するテレスコピック構造を有し、伸長時に最上部に位置する最上テレスコピック筒12が船に取り付けられ、伸長時に最下部に位置する最下テレスコピック筒14に船に備えられた巻上装置70のワイヤロープWが取り付けられ、ワイヤロープwを緩めることにより、船から下側に伸長する伸縮スパッド10と、伸縮スパッド10の内部に配置され、伸縮可能であるとともに内部に水を封入可能な蛇腹式ウオータパック20と、を備え、伸長する伸縮スパッド10の下端が水底Gに接地した状態で蛇腹式ウオータパック20の内部に水を封入することにより、伸縮スパッド10が収縮するのを抑制して接地した状態を維持する伸縮スパッド装置2を提供する。
【選択図】図2C
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11