(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】モータ制御装置、及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 23/04 20060101AFI20241115BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20241115BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H02P23/04
H02P27/08
H02P21/05
(21)【出願番号】P 2024530040
(86)(22)【出願日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2023043449
【審査請求日】2024-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2023021717
(32)【優先日】2023-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】三木 康稔
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182889(JP,A)
【文献】国際公開第2013/084289(WO,A1)
【文献】特開2017-093240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相以上の多相モータを制御するモータ制御装置であって、
前記多相モータの各相それぞれに対応して形成され、高電位側スイッチング素子、低電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子よりも低電位側に配置されたシャント抵抗を直列に有する相回路それぞれを並列接続して構成されるブリッジ回路と、
前記シャント抵抗に流れる相電流を、第1計測期間、又は前記第1計測期間よりも遅れて開始される第2計測期間に計測する相電流計測部と、
前記多相モータの各相毎に、前記相電流に基づき、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子を駆動するためのPWM信号の目標デューティ比であって、所定の大きさの振幅を有し50%を振動中心値として最大0%~100%の範囲で変動する目標デューティ比を算出し、算出した前記目標デューティ比を有する前記PWM信号を前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子それぞれのゲートに出力するPWM信号生成部と、
前記目標デューティ比のうちの最大の目標デューティ比の前記PWM信号がゲートに入力される前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子によるスイッチングノイズが前記第1計測期間に重畳し始めるデューティ比と前記第1計測期間が完了するタイミングに相当するデューティ比のうち小さいデューティ比よりも所定値小さく設定した第1閾値、及び前記目標デューティ比のうちの2番目に大きい目標デューティ比である次点デューティ比の前記PWM信号がゲートに入力される前記低電位側スイッチング素子がオンからオフに切り替わるタイミングが前記第2計測期間の終了よりも後になるデューティ比である第2閾値を記憶している記憶部と、を備え、
前記相電流計測部は、
前記目標デューティ比の振幅に50%ポイントを加えた値である目標デューティ比振幅値が前記第1閾値よりも小さい場合、又は前記目標デューティ比振幅値が前記第1閾値以上で且つ前記次点デューティ比が前記第2閾値よりも大きい場合には、前記相電流の検出を前記第1計測期間に行い、
前記目標デューティ比振幅値が前記第1閾値以上で且つ前記次点デューティ比が前記第2閾値以下である場合には、前記相電流の計測を前記第2計測期間に行う
モータ制御装置。
【請求項2】
前記第1計測期間は、前記PWM信号の
PWM搬送波である三角波信号がピーク値をとるタイミングから所定の遅延時間だけ遅れて開始される期間である
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記多相モータは、3相モータであり、
前記PWM信号生成部は、
前記相電流に基づき、所定の大きさの振幅を有し0%を振動中心値として最大-50%~50%の範囲で変動する各相の電圧指令値を生成する電圧指令値演算部を更に備え、
前記各相の電圧指令値に50%ポイントを加えて前記目標デューティ比を算出する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記多相モータは、3相モータであり、
前記PWM信号生成部は、
前記相電流に基づき、所定の大きさの振幅を有し0%を振動中心値として最大-50%~50%の範囲で変動する各相の電圧指令値を生成する電圧指令値演算部と、
前記各相の電圧指令値それぞれから、3相のなかで電圧指令値が最大である最大相の電圧指令値と、電圧指令値が最小である最小相の電圧指令値との平均値を減じて、補正後3相電圧指令値を生成する指令値補正部と、を更に備え、
前記補正後3相電圧指令値に50%ポイントを加えて前記目標デューティ比を算出し、
前記相電流計測部は、
前記第1閾値と比較する前記目標デューティ比振幅値として、前記各相の電圧指令値の振幅を√3/2倍した値に50%ポイントを加えた値を用いる
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記多相モータは、3相モータであり、
前記PWM信号生成部は、
前記相電流に基づき、所定の大きさの振幅を有し0%を振動中心値として最大-50%~50%の範囲で変動する各相の電圧指令値を生成する電圧指令値演算部と、
前記各相の電圧指令値それぞれから、前記各相の電圧指令値の振幅の√3/2倍の値を超えた超過分を減じて、補正後3相電圧指令値を生成する指令値補正部と、を更に備え、
前記補正後3相電圧指令値に50%ポイントを加えて前記目標デューティ比を算出し、
前記相電流計測部は、
前記第1閾値と比較する前記目標デューティ比振幅値として、前記各相の電圧指令値の振幅を√3/2倍した値に50%ポイントを加えた値を用いる
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記多相モータは、3相モータであり、
前記PWM信号生成部は、
前記相電流に基づき、所定の大きさの振幅を有し0%を振動中心値として最大-50%~50%の範囲で変動する各相の電圧指令値を生成する電圧指令値演算部と、
前記各相の電圧指令値それぞれから、3相のなかで電圧指令値が最小である最小相の電圧指令値を減じて、補正後3相電圧指令値を生成する指令値補正部と、を更に備え、
前記補正後3相電圧指令値を前記目標デューティ比として算出し、
前記相電流計測部は、
前記第1閾値と比較する前記目標デューティ比振幅値として、前記各相の電圧指令値の振幅を2倍した値を用いる
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記多相モータは、3相モータであり、
前記PWM信号生成部は、
前記相電流に基づき、所定の大きさの振幅を有し0%を振動中心値として最大-50%~50%の範囲で変動する各相の電圧指令値を生成する電圧指令値演算部と、
前記各相の電圧指令値それぞれから、予め定められた
第2所定値を超えた超過分を減じて、補正後3相電圧指令値を生成する指令値補正部と、を更に備え、
前記補正後3相電圧指令値に50%ポイントを加えて前記目標デューティ比を算出し、
前記相電流計測部は、
前記各相の電圧指令値の振幅と前記
第2所定値とのうちの小さい方の数値に50%ポイントを加えた値を、前記目標デューティ比振幅値として用いる
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記PWM信号生成部は、
前記目標デューティ比振幅値を求める際に、さらにデッドタイム補償量を加算して前記目標デューティ比振幅値とする
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置で制御される多相モータと、を備え、
前記多相モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する
電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置、及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多相モータを回転駆動するブリッジ回路の各相の相電流を第1計測期間、又は第1計測期間よりも遅い第2計測期間に行うモータ制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載のモータ制御装置では、ブリッジ回路の各スイッチング素子を駆動するためのPWM信号の目標デューティ比のうちの、最大の目標デューティ比≦第1閾値である場合、又は最大の目標デューティ比>第1閾値で且つ2番目に大きい目標デューティ比≧第2閾値である場合に、相電流の計測を第1計測期間に行う構成となっている。また、最大の目標デューティ比>第1閾値で且つ2番目に大きい目標デューティ比<第2閾値である場合に、相電流の計測を第2計測期間に行う構成となっている。これにより、第1計測期間と第2計測期間とを交互に切り替えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、相電流の計測が第2計測期間に行われた場合には、第1計測期間に行われた場合に比べ、計測される相電流に位相ずれが発生し、q軸電流の検出結果が小さくなる。それゆえ、このような検出結果がフィードバックされることで、q軸電流がより多く流れ、多相モータの出力トルクが増大することになる。そのため、特許文献1に記載のモータ制御装置では、第1計測期間と第2計測期間との切り替えに伴い、多相モータの出力トルクが変動し、多相モータが搭載された装置に作動音や振動が発生する可能性があった。
【0005】
本発明は、多相モータの出力トルクの変動を抑制可能なモータ制御装置、及び電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によるモータ制御装置は、(a)3相以上の多相モータを制御するモータ制御装置であって、(b)多相モータの各相それぞれに対応して形成され、高電位側スイッチング素子、低電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子よりも低電位側に配置されたシャント抵抗を直列に有する相回路それぞれを並列接続して構成されるブリッジ回路と、(c)シャント抵抗に流れる相電流を、第1計測期間、又は第1計測期間よりも遅れて開始される第2計測期間に計測する相電流計測部と、(d)多相モータの各相毎に、相電流に基づき、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子を駆動するためのPWM信号の目標デューティ比であって、所定の大きさの振幅を有し50%を振動中心値として最大0%~100%の範囲で変動する目標デューティ比を算出し、算出した目標デューティ比を有するPWM信号を高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子それぞれのゲートに出力するPWM信号生成部と、(e)目標デューティ比のうちの最大の目標デューティ比のPWM信号がゲートに入力される高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子によるスイッチングノイズが第1計測期間に重畳し始めるデューティ比と第1計測期間が完了するタイミングに相当するデューティ比のうち小さいデューティ比よりも所定値小さく設定した第1閾値、及び目標デューティ比のうちの2番目に大きい目標デューティ比である次点デューティ比のPWM信号がゲートに入力される低電位側スイッチング素子がオンからオフに切り替わるタイミングが第2計測期間の終了よりも後になるデューティ比である第2閾値を記憶している記憶部と、を備え、(f)相電流計測部は、目標デューティ比の振幅に50%ポイントを加えた値である目標デューティ比振幅値が第1閾値よりも小さい場合、又は目標デューティ比振幅値が第1閾値以上で且つ次点デューティ比が第2閾値よりも大きい場合には、相電流の検出を第1計測期間に行い、(g)目標デューティ比振幅値が第1閾値以上で且つ次点デューティ比が第2閾値以下である場合には、相電流の計測を第2計測期間に行うことを要旨とする。
【0007】
また、本発明の他の一態様による電動パワーステアリング装置は、(a)上記のモータ制御装置と、(b)モータ制御装置で制御される多相モータと、を備え、(c)多相モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、多相モータの出力トルクの変動を抑制可能なモータ制御装置、及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置の全体構成を示す図である。
【
図3】SIN波タイプの3次高調波を示す図である。
【
図5】PWM信号の搬送波、ゲート電圧及びPWM信号の関係を示す図である。
【
図6】タイミング生成処理のフローチャートを示す図である。
【
図7】比較例のタイミング生成処理のフローチャートを示す図である。
【
図8】モータ制御装置において、PWM信号の目標デューティ比、相電流の計測タイミング、及びモータの出力トルクの関係を示す図である。
【
図9】PWM信号の目標デューティ比、相電流の計測タイミング、及びモータの出力トルクのシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】変形例(1)の三角波タイプの3次高調波を示す図である。
【
図11】モータ制御装置において、PWM信号の目標デューティ比、相電流の計測タイミング、及びモータの出力トルクの関係を示す図である。
【
図12】PWM信号の目標デューティ比、相電流の計測タイミング、及びモータの出力トルクのシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】変形例(2)のPWM信号の目標デューティ比、相電流の計測タイミング、及びモータの出力トルクのシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】変形例(3)のPWM信号の目標デューティ比、相電流の計測タイミング、及びモータの出力トルクのシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】変形例(4)の電子制御ユニットの構成を示す図である。
【
図16】PWM信号の目標デューティ比、相電流の計測タイミング、及びモータの出力トルクのシミュレーション結果を示す図である。
【
図17】モータ制御装置を適用した直動テーブル装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態に係るモータ制御装置、及び電動パワーステアリング装置の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法の例示であって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等が下記のものに限定されない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
また、以下の説明では、車両の電動パワーステアリング装置に用いられ、操舵補助力を付与する多相モータ(例えば3相モータ)を制御するモータ制御装置に本発明を適用した場合について記載するが、本発明は、電動パワーステアリング装置への適用に限定されるものではなく、さまざまな用途に広く適用可能である。例えば、
図17に示すように、直動テーブル装置を駆動するモータを制御するモータ制御装置に本発明を適用してもよい。
【0011】
本発明の実施形態は以下の順序で説明する。
1.第1実施形態
1-1 電動パワーステアリング装置の全体構成
1-2 タイミング生成処理
1-3 変形例
【0012】
〈1.第1実施形態〉
[1-1 電動パワーステアリング装置の全体構成]
図1は、第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置100の全体構成を示す図である。
図1に示すように、ステアリングホイール1の操舵軸2は、減速機構を構成する減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a、4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、ハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、ピニオン5aと噛み合うラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
【0013】
また、操舵軸2には、運転者の操舵トルクThを検出するトルクセンサ9と、ステアリングホイール1の操舵角θhを検出する操舵角センサ10とが取り付けられている。
また、操舵補助力を付与するモータ20は、減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。モータ20としては、例えば、3相以上の多相モータを採用できる。以下の説明では、3相モータを用いた場合を例示する。モータ20の数は、2以上としてもよい。また、モータ20は、3相以上の巻線を複数組もつ構成でもよい。
【0014】
また、電動パワーステアリング装置100を制御する電子制御ユニット30(広義には「モータ制御装置」)には、バッテリ11から電力が供給されるとともに、イグニションスイッチ12を経てイグニションキー信号が入力される。電子制御ユニット30は、トルクセンサ9で検出された操舵トルクThと、操舵角センサ10で検出された操舵角θhと、車速センサ13で検出された車速Vhとに基づきアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧指令値によってモータ20に供給する電流(例えば、各相A、B、Cの相電流ia、ib、ic)を制御する。即ち、モータ20は、電子制御ユニット30によって制御され、車両の操舵系に操舵補助力を付与する、と言える。
【0015】
なお、操舵角センサ10は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角センサ14から得られるモータ角度θmを減速ギア3のギア比で除して、トルクセンサ9のトーションバーの捩れ角を加えて、操舵角θhを算出してもよい。回転角センサ14としては、例えば、モータ20の回転位置を検出するレゾルバ、モータ20の回転軸に取り付けられた磁石の磁界を検出する磁気センサを採用できる。また、操舵角θhに代えて、操向車輪8L、8Rの転舵角を用いてもよい。操向車輪8L、8Rの転舵角の検出方法としては、例えばラック5bの変位量を基に検出する方法を採用できる。モータ角度θmの計測は、相電流ia、ib、icの計測期間である第1計測期間Ts1に行う。
【0016】
電子制御ユニット30は、例えば、プロセッサ31と、記憶部32等の周辺部品とを有するコンピュータを含んでいる。プロセッサ31としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)を採用できる。また、記憶部32としては、例えば、半導体記憶部、磁気記憶部、光学記憶部を採用できる。例えば、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶部として使用されるROM、RAM等のメモリが挙げられる。以下に説明する電子制御ユニット30の各機能は、例えば、電子制御ユニット30のプロセッサ31が、記憶部32に格納されたコンピュータプログラムを実行することで実現される。また記憶部32は、後述するタイミング生成処理で用いる第1閾値TH1、第2閾値TH2等、コンピュータプログラムの実行に必要な各種データを記憶する。
【0017】
なお、コンピュータは、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアで形成してもよい。専用のハードウエアとしては、例えば、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を採用できる。例えば、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等が挙げられる。
【0018】
電子制御ユニット30は、
図2に示すように、PWM信号生成部33と、インバータ34と、相電流計測部35とを有している。
PWM信号生成部33は、モータ20の各相A、B、C毎に、相電流ia、ib、icに基づき、PWM信号の目標デューティ比Da、Db、Dcを算出し、算出した目標デューティ比Da、Db、Dcを有するPWM信号を高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qch及び低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclそれぞれのゲートに出力する。具体的には、PWM信号生成部33は、角速度変換部36と、電流指令値演算部37と、3相/2相変換部38と、減算器39、40と、PI制御部41と、2相/3相変換部42と、指令値補正部43と、PWM制御部44とを有している。電流指令値演算部37、3相/2相変換部38、減算器39、40、PI制御部41、2相/3相変換部42は、相電流ia、ib、icに基づき、各相A、B、Cの電圧指令値va0、vb0、vc0を生成する電圧指令値演算部45を構成する。角速度変換部36~PWM制御部44は、プロセッサ31が、記憶部32に格納されたコンピュータプログラムを実行することで実現される。
【0019】
角速度変換部36は、回転角センサ14から得られるモータ角度θmに基づき、モータ20の回転角速度ωを算出する。回転角速度ωは、電流指令値演算部37に入力される。電流指令値演算部37は、トルクセンサ9から得られる操舵トルクThと、車速Vhと、モータ角度θmと、モータ20の回転角速度ωとに基づき、モータ20に流すべきq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を演算する。q軸電流指令値Iq0は、減算器39に入力される。d軸電流指令値Id0は、減算器40に入力される。
3相/2相変換部38は、相電流計測部35から得られる各相A、B、Cの相電流ia、ib、icを、d-q2軸の電流id、iqに変換する。q軸電流iqは、減算器39に入力される。また、d軸電流idは、減算器40に入力される。
減算器39は、q軸電流指令値Iq0からq軸電流iqを減じてq軸偏差電流Δqを算出する。減算器40は、d軸電流指令値Id0からd軸電流idを減じてd軸偏差電流Δdを算出する。q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流ΔdはPI制御部41に入力される。
【0020】
PI制御部41は、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdのそれぞれを「0」とするためのq軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdを算出する。q軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdは、-50%~50%の範囲のデューティ比として算出される。q軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdは、2相/3相変換部42に入力される。
2相/3相変換部42は、d軸電圧指令値vd及びq軸電圧指令値vqを、所定の大きさの振幅A0を有し0%を振動中心値として最大-50%~50%の範囲で変動する各相A、B、Cの電圧指令値va0、vb0、vc0に変換する。以下、各相A、B、Cの電圧指令値va0、vb0、vc0は、「3相電圧指令値va0、vb0、vc0」とも呼ぶ。3相電圧指令値va0、vb0、vc0は、下記(1)式で表されるように、振幅A0が同一で位相が120°ずれた正弦波又は余弦波である。下記(1)式では正弦波を用いた場合を例示している。振幅A0の大きさは、例えば、バッテリ11の電圧やモータ20の目標出力トルクで変化する。
va0=A0・sinθ、vb0=A0・sin(θ-2/3・π)、vc0=A0・sin(θ+2/3・π) ………(1)
【0021】
指令値補正部43は、3相電圧指令値va0、vb0、vc0に、電圧利用率の改善等のための補正を行う。以下の説明では、
図3に示すように、3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれから、SIN波タイプの3次高調波thw1を減算する補正を行って、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する場合を例示する。SIN波タイプの3次高調波thw1としては、例えば、3相電圧指令値va0、vb0、vc0のうちの、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A
0の√3/2倍の値(A
0・√3/2)を超えた超過分を合成して得られる波形と等しい波形を有する3次高調波を採用できる。
図3では、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A
0の√3/2倍の値(A
0・√3/2)を、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の大きさが超えた超過分をハッチングで示す。3相電圧指令値va0、vb0、vc0から3次高調波thw1を減算することで、3相電圧指令値va0、vb0、vc0が(A
0・√3/2)を超える範囲の波形を平坦化できる。即ち、指令値補正部43は、下記(2)式に表すように、3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれから、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A
0の√3/2倍の値を超えた超過分を減じて、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する。
va1=va0-thw1、vb1=vb0-thw1、vc1=vc0-thw1 ………(2)
【0022】
PWM制御部44は、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1に基づき、高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qch及び低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclを駆動するためのゲート信号(以下、「PWM信号」とも呼ぶ)を生成する。具体的には、まず、下記(3)式で表されるように、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1に50%ポイントを加えて、所定の大きさの振幅A1を有し50%を振動中心値として最大0%~100%の範囲で変動する目標デューティ比Da、Db、Dcを算出する。目標デューティ比Da、Db、Dcの振幅A1は、下記(4)式で表されるように、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A0を√3/2倍した値になる。
Da=va1+50%、Db=vb1+50%、Dc=vc1+50% ………(3)
A1=A0・√3/2 ………(4)
3次高調波を重畳された目標デューティ比Da、Db、Dcは正弦波の信号ではないが、振動中心値50%から最大となる値(≧50%)までの差を目標デューティ比Da、Db、Dcの振幅(A1)と定義する。以下で示す変形例においても同様である。
【0023】
続いて、PWM制御部44は、
図5(a)に示すように、目標デューティ比Da、Db、Dcと、三角波信号のPWM搬送波Pとを比較して、PWM搬送波Pが各目標デューティ比Da、Db、Dcを上回る区間において、
図5(b)、
図5(c)、
図5(d)及び
図5(e)に示すように、高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchをオフとし、対応する低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、QclをオンとするPWM信号を生成する。逆に、PWM制御部44は、
図5(a)~
図5(e)に示すように、PWM搬送波Pが各目標デューティ比Da、Db、Dcを下回る区間において、高電位側スイッチング素子Quh、Qvh、Qwhをオンとし、対応する低電位側スイッチング素子Qa1、Qbl、QclをオフとするPWM信号を生成する。PWM信号は、インバータ34に入力される。
【0024】
なお、
図5にはC相に対する目標デューティ比Dc及びPWM信号が省略されている。
実際の回路では、パルスのオン・オフ時には過渡応答(立ち上がり遅れ、立ち下がり遅れを含む)が発生する。過渡応答による高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子の同時オンを避けるために、PWM信号にはデッドタイムが設けられている。
図5においては、説明を簡単にするためにデッドタイムや遅れを図示せず、理想的な波形として示している。
【0025】
インバータ34は、PWM制御部44から入力されたゲート信号(PWM信号)によって駆動され、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを「0」とするための電流をモータ20に供給する。具体的には、
図4に示すように、インバータ34は、モータ20の各相A、B、Cそれぞれに対応して形成された相回路Ca、Cb、Ccを並列接続して構成されるブリッジ回路21を備えている。ブリッジ回路21は、直流電源VR(例えば、バッテリ11の正極側)に接続されて直流電力が供給される電源ライン22と接地ライン23との間に接続されている。ブリッジ回路21の各相回路Ca、Cb、Ccは、電源ライン22側(高電位側)に配置された高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchと、高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchよりも接地ライン23側(低電位側)に配置された低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclと、低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclよりも接地ライン23側(低電位側)に配置されたシャント抵抗Ra、Rb、Rcとを直列に有している。高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qch、低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclとしては、例えば、MOSFETを採用できる。
【0026】
高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchは、ドレインが電源ライン22に接続されている。また、高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchのソースは、低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclのドレインに接続されている。また、低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclのソースは、シャント抵抗Ra、Rb、Rcを介して、接地ライン23に接続されている。そして、高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qch及び低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclは、PWM制御部44で生成されたゲート信号(PWM信号)がゲートに入力され、ソース-ドレイン間がオン・オフされる。高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchと低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclとの接続点は、それぞれ、モータ20の相A、B、Cのコイルに接続されている。
【0027】
シャント抵抗Ra、Rb、Rcは、低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclよりも低電位側に配置され、ブリッジ回路21からモータ20の各相A、B、Cに供給された電流(相電流ia、ib、ic)が流れる。低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclとシャント抵抗Ra、Rb、Rcとの接続点は、相電流計測部35に接続されている。相電流計測部35には、シャント抵抗Ra、Rb、Rcの電圧降下va、vb、vcが入力される。
【0028】
相電流計測部35は、シャント抵抗Ra、Rb、Rcに流れる電流(相電流ia、ib、ic)を、第1計測期間Ts
1、又は第1計測期間Ts
1よりも遅れて開始される第2計測期間Ts
2に計測する。第1計測期間Ts
1は、
図5(b)に示すように、目標デューティ比Da、Db、Dcのうちの最大の目標デューティ比(以下、「最大デューティD1」とも呼ぶ)のPWM信号がゲートに入力される高電位側スイッチング素子Qah、Qbh又はQch(以下、「第1スイッチング素子Q1h」とも呼ぶ)がオフである期間であって、
図5(f)に示すように、第1スイッチング素子Q1hがオンからオフに切り替わるときに発生するノイズ(
図5(f)の左側のノイズ)が収束したタイミングと、第1スイッチング素子Q1hに対応する低電位側スイッチング素子Qal、Qbl又はQcl(以下、「第1スイッチング素子Q1l」とも呼ぶ)がオンからオフに切り替わるタイミングとの間に設定された、相電流ia、ib、icの計測を行うための期間である。または、第1スイッチング素子Q1lがオンである期間であって、第1スイッチング素子Q1lがオフからオンに切り替わるときに発生するノイズが収束したタイミングと、第1スイッチング素子Q1lがオンからオフに切り替わるタイミングとの間に設定された期間である。例えば、PWM信号の中央C(つまり、PWM搬送波Pがピーク値をとるタイミング)から所定の遅延時間Td
1だけ遅れて開始される期間を採用できる。
【0029】
また、第2計測期間Ts
2は、
図5(g)に示すように、
図5(f)の右側のノイズ(第1スイッチング素子Q1hがオフからオンに切り替わるときに発生するノイズ、及び第1スイッチング素子Q1lがオンからオフに切り替わるときに発生するノイズ)と連動して発生したノイズが収束したタイミングと、目標デューティ比Da、Db、Dcのうちの2番目に大きい目標デューティ比Da、Db又はDc(以下、「中間デューティD2」とも呼ぶ)のPWM信号がゲートに入力される低電位側スイッチング素子Qal、Qbl又はQcl(以下、「第2スイッチング素子Q2l」とも呼ぶ)がオンからオフに切り替わるタイミングとの間に設定された、相電流ia、ib、icのうち少なくとも2相の相電流の計測を行うための期間である。例えば、PWM信号の中央Cから所定の遅延時間Td
2(>Td
1)だけ遅れて開始される期間を採用できる。
図5では、相回路Caの高電位側スイッチング素子Qahが第1スイッチング素子Q1hであり、相回路Caの低電位側スイッチング素子Qalが第1スイッチング素子Q1lであり、相回路Cbの低電位側スイッチング素子Qblが第2スイッチング素子Q2lである場合を例示している。
【0030】
ここで、
図5は、PWM信号の搬送波、ゲート電圧及びPWM信号の関係を示す図である。
図5(a)は、PWM搬送波Pを示す図であり、
図5(b)は、高電位側スイッチング素子Qah(第1スイッチング素子Q1h)に供給されるPWM信号を示す図であり、
図5(c)は、低電位側スイッチング素子Qalに供給されるPWM信号を示す図である。また、
図5(d)は、高電位側スイッチング素子Qbhに供給されるPWM信号を示す図であり、
図5(e)は、低電位側スイッチング素子Qbl(第2スイッチング素子Q2l)に供給されるPWM信号を示す図である。また、
図5(f)は、相回路Caに流れる相電流iaを示す図であり、
図5(g)は、相回路Cbに流れる相電流ibを示す図である。
【0031】
相電流計測部35は、計測タイミング生成部46と、計測実行部47とを有している。
計測タイミング生成部46は、
図6に示したタイミング生成処理を実行し、相電流ia、ib、icの計測を行う計測期間として第1計測期間Ts
1及び第2計測期間Ts
2の何れかを選択し、選択した計測期間の開始から終了まで計測実行部47にサンプリング信号Sを継続的に出力する。
図6は、タイミング生成処理のフローチャートを示す図である。
計測実行部47は、シャント抵抗Ra、Rb、Rcの電圧降下va、vb、vcに基づき、相電流ia、ib、icを計測する。相電流ia、ib、icの計測は、計測タイミング生成部46がサンプリング信号Sを出力している間に行われる。これにより、計測タイミング生成部46で決定された第1計測期間Ts
1又は第2計測期間Ts
2に相電流ia、ib、icの計測が行われる。なお、相電流ia、ib、icのうちの1つの相電流が計測できなかった場合、残りの2つの相電流に基づいて、その計測できなかった相電流を推定する。相電流の推定方法としては、例えば、キルヒホッフの法則を基に推定する方法を採用できる。相電流ia、ib、icは、3相/2相変換部38に入力される。また、計測実行部47としては、例えば、AD(Analog-to-Digital)コンバータを採用することができる。
【0032】
[1-2 タイミング生成処理]
次に、計測タイミング生成部46が実行するタイミング生成処理について説明する。
タイミング生成処理は、例えば、PWM信号の各周期(例えば、50μs)毎に実行される。なお、タイミング生成処理の実行タイミングは、2以上の周期毎としてもよい。
タイミング生成処理が実行されると、
図6に示すように、まずそのステップS101で、計測タイミング生成部46が、2相/3相変換部42で生成された3相電圧指令値va0、vb0、vc0に基づき、下記(5)式に従って、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A
0を算出する。なお、振幅A
0は、PI制御部41で算出されたq軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdに基づき、下記(6)式に従って算出するようにしてもよい。
A
0=(2/3)
1/2・(va0
2+vb0
2+vc0
2)
1/2 ………(5)
A
0=(vq
2+vd
2)
1/2 ………(6)
【0033】
続いて、計測タイミング生成部46が、算出した振幅A
0に基づき、上記(4)式に従って目標デューティ比Da、Db、Dcの振幅A
1を算出する。続いて、算出した振幅A
1に50%ポイントを加えた値(以下、「目標デューティ比振幅値(A
1+50%)」とも呼ぶ)が第1閾値TH
1よりも小さいかを判定する。第1閾値TH
1としては、例えば、最大デューティD1のPWM信号がゲートに入力される高電位側スイッチング素子Qah、Qbh又はQch(第1スイッチング素子Q1h)及び低電位側スイッチング素子Qal、Qbl又はQcl(第1スイッチング素子Q1l)によるスイッチングノイズが第1計測期間Ts
1に重畳し始めるデューティ比と第1計測期間Ts
1が完了するデューティ比のうち小さいデューティ比より所定値小さい値を採用できる。例えば、Da>Db>Dcであるときには、
図5(b)、
図5(c)、
図5(f)に示すように、第1期間Ts
1が、第1スイッチング素子Q1hである高電位側スイッチング素子Qahがオンからオフに切り替わるときのノイズ、並びに第1スイッチング素子Q1lである低電位側スイッチング素子Qalがオフからオンに切り替わるときのノイズ(
図5(f)の左側のノイズ)が重畳しない限界の値に対応するデューティ比と第1計測期間Ts
1が完了するタイミングに相当するデューティ比のうち小さいデューティ比より所定値小さい値を、第1閾値TH
1として採用できる。そして、計測タイミング生成部46が、目標デューティ比振幅値(A
1+50%)が第1閾値TH
1よりも小さいと判定した場合には(Yes)、ステップS103に移行する。一方、計測タイミング生成部46が、目標デューティ比振幅値(A
1+50%)が第1閾値TH
1以上であると判定した場合には(No)、ステップS102に移行する。
【0034】
続いてステップS102では、計測タイミング生成部46が、中間デューティD2(広義には「次点デューティ比」)が第2閾値TH
2よりも大きいかを判定する。第2閾値TH
2としては、例えば、中間デューティD2のPWM信号がゲートに入力される低電位側スイッチング素子Qal、Qbl又はQcl(第2スイッチング素子Q2l)がオンからオフに切り替わるタイミングが第2計測期間Ts
2の終了よりも後になるデューティ比を採用できる。例えば、Da>Db>Dcであるときには、
図5(e)、
図5(g)に示すように、第2計測期間Ts
2が、第2スイッチング素子Q2lである低電位側スイッチング素子Qblがオンからオフになる前に終了する限界の値に対応するデューティ比を、第2閾値TH
2として採用できる。また、限界の値に対応するデューティ比より所定値小さい値を第2閾値TH
2としてよい。また、第1実施形態では、
図8(a)に示すように、第2閾値TH
2は、最大デューティD1>第1閾値TH
1が満たされるときには、中間デューティD2<第2閾値TH
2が満たされるという関係が成り立つように大きな数値に設定されている。即ち、第2閾値TH
2としては、
図6のステップS101が「No」となるときには、ステップS102も必ず「No」となる数値が採用される。そして、計測タイミング生成部46が、中間デューティD2が第2閾値TH
2よりも大きいと判定した場合には(Yes)、ステップS103に移行する。一方、計測タイミング生成部46が、中間デューティD2が第2閾値TH
2以下であると判定した場合には(No)ステップS104に移行する。
【0035】
ステップS103では、計測タイミング生成部46が、相電流ia、ib、icの計測を行う計測期間として第1計測期間Ts1を選択する。具体的には、計測実行部47に対して、第1計測期間Ts1にサンプリング信号Sを出力する。これにより、計測実行部47が、第1計測期間Ts1に、サンプリング信号Sに基づき相電流ia、ib、icを計測し、計測した相電流ia、ib、icを3相/2相変換部38にフィードバックする。
一方、ステップS104では、計測タイミング生成部46が、相電流ia、ib、icの計測を行う計測期間として第2計測期間Ts2を選択する。具体的には、計測実行部47に対して、第2計測期間Ts2にサンプリング信号Sを出力する。これにより、計測実行部47が、第2計測期間Ts2に、サンプリング信号Sに基づき相電流ia、ib、icを計測し、計測した相電流ia、ib、icを3相/2相変換部38にフィードバックする。
【0036】
ここで、比較例の電子制御ユニット30(ECU30)として、例えば、
図7のステップS201に示すように、
図6に示したタイミング生成処理のステップS101を、最大デューティD1が第1閾値TH
1未満であるかを判定する構成とした場合を考える。このような構成とした場合、
図8(b)に示すように、D1<第1閾値TH
1である場合に第1計測期間Ts
1が選択され、D1≧第1閾値TH
1である場合に第2計測期間Ts
2が選択される。しかし、例えば、相電流ia、ib、icの計測が第2計測期間Ts
2に行われた場合、第1計測期間Ts
1に行われた場合に比べ、計測される相電流ia、ib、icに位相ずれが発生し、q軸電流iqの検出結果が小さくなる。それゆえ、このようなq軸電流iqがフィードバックされることで、q軸偏差電流Δqが増大し、モータ20にq軸電流がより多く流れ、モータ20の出力トルクが増大することになる。そのため、
図8(c)に示すように、第1計測期間Ts
1と第2計測期間Ts
2との切り替えに伴い、モータ20の出力トルクが変動し、モータ20が搭載された電動パワーステアリング装置100に作動音や振動が発生する可能性がある。
図8は、電子制御ユニット30において、PWM信号の目標デューティ比Da、Db、Dc、相電流ia、ib、icの計測タイミング、及びモータ20の出力トルクの関係を示す図である。出力トルクは、目標とするq軸電流値や位相ずれの大きさ等により変化するため、
図8(c)では、モータ20の出力トルクに正規化を行い、計測される相電流ia、ib、icに位相ずれが発生したときのトルクを1とし、計測される相電流ia、ib、icに位相ずれが無いときのトルクを0としている。
【0037】
例えば、スイッチングノイズの重畳期間を考慮すると、第1計測期間Ts1と第2計測期間Ts2とのずれは3μs程度と考えられる。この3μsのずれは、モータ極対数=4、モータ回転数=3000rpmとした場合、モータ電気角で0.216°の角度差を生じる。また、この0.216°の角度差は、q軸電流=70A、d軸電流=71.4A、トルク定数=0.046Nm/A、ギア比=20.5とした場合、q軸電流に0.27Aの偏差(q軸偏差電流Δq)、操舵軸2に0.26Nmのトルク差を生じる。そして、この0.26Nmのトルク変動がモータハウジングや機構部を励振し、差動音として運転者は感じることになる。なお、0.26Nmのオフセットは、操舵速度が878deg/s(モータ回転数=3000rpm、ギア比=20.5の場合の数値)と高いため、運転者は操舵力の重さ・軽さを感じない。また、操舵トルクThに応じた制御系が操舵力の重さ・軽さを補正する指令値を出力するため、問題ないレベルに軽減すると考えられる。
【0038】
これに対し、第1実施形態に係る電子制御ユニット30では、(4)式で示される目標デューティ比Da、Db、Dcの振幅A1に50%ポイントを加えた値である目標デューティ比振幅値(A1+50%)が第1閾値TH1よりも小さい場合(A1+50%<TH1)、又は目標デューティ比振幅値(A1+50%)が第1閾値TH1以上(A1+50%≧TH1)で且つ目標デューティ比Da、Db、Dcのうちの2番目に大きい目標デューティ比Da、Db又はDcである中間デューティD2(次点デューティ比)が第2閾値TH2よりも大きい場合(D2>TH2)には、相電流ia、ib、icの計測を第1計測期間Ts1に行う構成とした。また、目標デューティ比振幅値(A1+50%)が第1閾値TH1以上(A1+50%≧TH1)で、且つ中間デューティD2が第2閾値TH2以下である場合(D2≦TH2)には、相電流ia、ib、icの計測を第2計測期間Ts2に行う構成とした。
【0039】
これにより、
図8(b)に示すように、目標デューティ比振幅値(A
1+50%)が第1閾値TH
1以上である場合(A
1+50%≧TH
1)には、中間デューティD2が第2閾値TH
2よりも大きい場合(D2>TH
2)に、第1計測期間Ts
1が選択され、また、中間デューティD2が第2閾値TH
2以下である場合(D2≦TH
2)に、第2計測期間Ts
2が選択される。ここで、
図8(a)に示すように、D1<TH
1となる電気角の範囲よりも、D2>TH
2となる電気角の範囲のほうが狭くなる。それゆえ、第1実施形態に係る電子制御ユニット30は、上記の比較例に比べ、第1計測期間Ts
1が選択される期間を短くすることができる。そのため、第1計測期間Ts
1が選択される期間が短くなることで、モータ20の出力トルクが低減している期間が短くなる。これにより、
図8(c)に示すように、第2計測期間Ts
2から第1計測期間Ts
1に切り替えられた場合に、上記の比較例の電子制御ユニット30に比べ、モータ20の出力トルクが十分に小さくなる前に、再び第2計測期間Ts
2に切り替えられるようになるため、モータ20の出力トルクの変動幅が小さくなり、電動パワーステアリング装置100の作動音や振動を抑制できる。
【0040】
ここで、実施例として、モータ20の出力トルクのシミュレーションを行い、
図9に示したシミュレーション結果を得た。
図9は、PWM信号の中央Cから第1計測期間Ts
1の開始時刻=1μs、ノイズ収束期間=2μs、PWM信号の中央Cから第2計測期間Ts
2の開始時刻=3.75μs、第1閾値TH
1=95%、第2閾値TH
2=84%とした場合のシミュレーション結果である。
図9によれば、第1実施形態に係る電子制御ユニット30は、モータ20の出力トルクの変動幅が十分に小さくなることがわかる。
図9では、目標デューティ比の振幅A
1が徐々に増大する場合を例示している。
【0041】
[1-3 変形例]
(1)なお、第1実施形態では、指令値補正部43が、3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれから、SIN波タイプの3次高調波thw1を減算する補正を行う例を示したが、他の構成としてもよい。例えば、
図10に示すように、3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれから、三角波タイプの3次高調波thw2を減算する補正を行って、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する構成としてもよい。三角波タイプの3次高調波thw2としては、例えば、下記(7)式で表されるように、3相A、B、Cのなかで電圧指令値が最大である最大相の電圧指令値va0、vb0又はvc0と、電圧指令値が最小である最小相の電圧指令値va0、vb0又はvc0との平均値と等しい波形を有する3次高調波を採用できる。即ち、指令値補正部43は、3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれから、3相A、B、Cのなかで電圧指令値が最大である最大相の電圧指令値va0、vb0又はvc0と、電圧指令値が最小である最小相の電圧指令値va0、vb0又はvc0との平均値を減じて、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する。3相電圧指令値va0、vb0、vc0から三角波タイプの3次高調波thw2を減算することで、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の波形のピークを凹ませることができる。
【0042】
va1=va0-thw2、vb1=vb0-thw2、vc1=vc0-thw2
thw2=(MAX(va0、vb0、vc0)+MIN(va0、vb0、vc0))/2 …(7)
この場合、PWM制御部44は、下記(8)式で表されるように、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1に50%ポイントを加えて、目標デューティ比Da、Db、Dcを算出する。また、計測タイミング生成部46は、下記(9)式で表されるように、第1閾値TH1と比較する目標デューティ比振幅値(A1+50%)として、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A0を√3/2倍した値に50%ポイントを加えた値を用いる。
Da=va1+50%、Db=vb1+50%、Dc=vc1+50% ………(8)
A1+50%=A0・√3/2+50% ………(9)
【0043】
ここで、比較例の電子制御ユニット30(ECU30)として、例えば
図7のステップS201に示すように、
図6に示したタイミング生成処理のステップS101を、最大デューティD1が第1閾値TH
1未満であるかを判定する構成とした場合を考える。このような構成とした場合、三角波タイプの3次高調波thw2が用いられると、
図11(b)に示すように、波形のピークが凹んで形成された凹部(
図11(a)の凹部E)においても、D1<第1閾値TH
1となって第1計測期間Ts
1が選択される可能性がある。これにより、第1計測期間Ts
1と第2計測期間Ts
2との切り替え回数が増える可能性がある。
また、比較例では、
図11(c)に示すように、モータ20の出力トルクは、電気角6次の振動を行う。電気角6次の振動は、電動パワーステアリング装置100に不具合を引き起こす可能性がある。特に、機械振動と重畳した場合に不具合を生じる可能性がある。
【0044】
これに対し、本変形例に係る電子制御ユニット30では、相電流計測部35が、目標デューティ比振幅値(A
1+50%)と第1閾値TH
1とを比較するため、
図11(b)に示すように、波形のピークが凹んで形成された凹部(
図11(a)の凹部E)で、第1計測期間Ts
1が選択されない。それゆえ、電気角1周期において、第1計測期間Ts
1と第2計測期間Ts
2との切り替え回数が比較例の1/2となり、モータ20の出力トルクの変動回数が1/2となり、電動パワーステアリング装置100の作動音や振動を抑制できる。ここで、実施例として、モータ20の出力トルクのシミュレーションを行い、
図12に示したシミュレーション結果を得た。
図12は、PWM信号の中央Cから第1計測期間Ts
1の開始時刻=1μs、ノイズ収束期間=2μs、PWM信号の中央Cから第2計測期間Ts
2の開始時刻=3.75μs、第1閾値TH
1=95%、第2閾値TH
2=84%とした場合のシミュレーション結果である。
図12によれば、本変形例に係る電子制御ユニット30は、モータ20の出力トルクの変動回数が1/2になることがわかる。
また、本変形例に係る電子制御ユニット30では、モータ20の出力トルクの変動回数が1/2になるため、
図11(c)に示すように電気角6次の振動を生じないで済む。なお、
図12では、目標デューティ比の振幅A
1が徐々に増大する場合を例示している。
【0045】
(2)また、例えば、
図13に示すように、指令値補正部43が、3相電圧指令値va0、vb0、vc0に対して、最小デューティ値0%固定タイプの補正を行って、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する構成としてもよい。
図13は、PWM信号の中央Cから第1計測期間Ts
1の開始時刻=1μs、ノイズ収束期間=2μs、PWM信号の中央Cから第2計測期間Ts
2の開始時刻=3.75μs、第1閾値TH
1=95%、第2閾値TH
2=84%とした場合のシミュレーション結果である。最小デューティ値0%固定タイプの補正では、指令値補正部43は、下記(10)式で表されるように、3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれから、3相A、B、Cのなかで電圧指令値va0、vb0、vc0が最小である最小相の電圧指令値va0、vb0又はvc0を減じて、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する。これにより、相電流ia、ib、icを計測できないくらいに目標デューティ比Da、Db、Dcが大きな値となることを抑制でき、相電流ia、ib、icをより精度よく検出することができる。
【0046】
va1=va0-MIN(va0、vb0、vc0)、vb1=vb0-MIN(va0、vb0、vc0)、vc1=vc0-MIN(va0、vb0、vc0) ………(10)
この場合、PWM制御部44は、下記(11)式で表されるように、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を目標デューティ比Da、Db、Dcとして算出する。また、計測タイミング生成部46は、下記(12)式で表されるように、第1閾値TH1と比較する目標デューティ比振幅値(A1+50%)として、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A0を2倍した値を用いる。
Da=va1、Db=vb1、Dc=vc1 ………(11)
A1+50%=A0・2 ………(12)
【0047】
(3)また、例えば、
図14に示すように、指令値補正部43が、3相電圧指令値va0、vb0、vc0に対して、範囲超過分のみオフセットする補正を行って、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する構成としてもよい。
図14は、PWM信号の中央Cから第1計測期間Ts
1の開始時刻=1μs、ノイズ収束期間=2μs、PWM信号の中央Cから第2計測期間Ts
2の開始時刻=3.75μs、第1閾値TH
1=95%、第2閾値TH
2=84%とした場合のシミュレーション結果である。範囲超過分のみオフセットする補正では、指令値補正部43は、下記(13)式で表されるように、3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれから、予め定められた所定値Bを超えた超過分を合成して、3次高調波thw3を生成する。3相電圧指令値va0、vb0、vc0それぞれからthw3を減じて、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する。これにより、相電流ia、ib、icを計測できないくらいに目標デューティ比Da、Db、Dcが大きな値となることを抑制でき、相電流ia、ib、icをより精度よく検出できる。
【0048】
va1=va0-thw3、vb1=vb0-thw3、vc1=vc0-thw3 ………(13)
この場合、PWM制御部44は、下記(14)式で表されるように、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1に50%ポイントを加えて、目標デューティ比Da、Db、Dcを算出する。また、計測タイミング生成部46は、下記(15)式で表されるように、第1閾値TH1と比較する目標デューティ比振幅値(A1+50%)として、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A0と所定値Bのうちの小さい方の数値MIN(A0、B)に50%ポイントを加えた値を用いる。
Da=va1+50%、Db=vb1+50%、Dc=vc1+50% ………(14)
A1+50%=MIN(A0、B)+50% ………(15)
【0049】
(4)また、例えば、
図15に示すように、指令値補正部43を省略した構成としてもよい。この場合、PWM制御部44は、下記(16)式で表されるように、3相電圧指令値va0、vb0、vc0に50%ポイントを加えて、目標デューティ比Da、Db、Dcを算出する。また、計測タイミング生成部46は、下記(17)式で表されるように、第1閾値TH
1と比較する目標デューティ比振幅値(A
1+50%)として、3相電圧指令値va0、vb0、vc0の振幅A
0に50%ポイントを加えた値を用いる。
【0050】
Da=va0+50%、Db=vb0+50%、Dc=vc0+50% ………(16)
A
1+50%=A
0+50% ………(17)
ここで、指令値補正部43を省略した構成とした場合の、モータ20の出力トルクのシミュレーションを行い、
図16に示したシミュレーション結果を得た。
図16は、PWM信号の中央Cから第1計測期間Ts
1の開始時刻=1μs、ノイズ収束期間=2μs、PWM信号の中央Cから第2計測期間Ts
2の開始時刻=3.75μs、第1閾値TH
1=95%、第2閾値TH
2=84%とした場合のシミュレーション結果である。
【0051】
(5)また、例えば、指令値補正部43が、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1のうちの2番目に大きい電圧指令値va1、vb1又はvc1(以下、「中間指令値vm」とも呼ぶ)が閾値TH以上である場合に、中間指令値vmと上記の閾値THとの差(vm-TH)を、3相電圧指令値va1、vb1、vc1それぞれから減じて、改めて補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を生成する構成としてもよい。これにより、相電流ia、ib、icを2相同時に計測できないくらいに目標デューティ比Da、Db、Dcが大きな値となることを抑制でき、相電流ia、ib、icをより精度よく検出することができる。第1閾値TH1と比較される目標デューティ比振幅値としては、更に中間指令値vmと閾値THとの差(vm-TH)を減算した値(A1-(vm-TH)+50%)を採用してよい。
【0052】
(6)また、第1実施形態では、説明の簡単化のため、高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchと低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclとの両方がオフになるデッドタイムを設けない例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、高電位側スイッチング素子Qah、Qbh、Qchと低電位側スイッチング素子Qal、Qbl、Qclとの両方が同時にオンになって短絡を生じることを防止するために、デッドタイムを設ける構成としてもよい。デッドタイムを設ける場合、デッドタイム補償を行う構成としてもよい。この場合、例えば、補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1算出後にデッドタイム補償量αを振幅とする3相デッドタイム補償値を加算して目標デューティ比Da、Db、Dcを算出することになる。したがって、第1閾値TH1と比較される目標デューティ比振幅値としては、更にデッドタイム補償量αも加算した値(A1+α+50%)が採用される。
【0053】
(7)また、本発明に係るモータ制御装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、第1実施形態では、本発明に係るモータ制御装置の適用例として、電動パワーステアリング装置100を例示して説明したが、本発明に係るモータ制御装置の適用範囲はこれに限定されず、モータ制御装置を用いる各種機械装置に適用可能である。
図17は、本発明のモータ制御装置を適用した直動テーブル装置200の全体構成を示す図である。
図17に示すように、直動テーブル装置200は、2個のリニアガイド70(直動案内装置)と、送りねじ装置71と、テーブル72と、基台73とを備えている。
【0054】
2個のリニアガイド70は、それぞれ、案内レール74と、2個のスライダ75(移動体)と、複数の転動体(不図示)とを有している。案内レール74は、基台73に固定されている。また、案内レール74及びスライダ75は、互いに対向する位置に、転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有している。両軌道面は、案内レール74の長手方向に沿って延びている。これにより、スライダ75は、転動通路内を負荷状態で転動する転動体を介して、案内レール74の長手方向に沿って直線移動可能となっている。各リニアガイド70は、基台73上のテーブル72の移動方向Yと垂直な方向の両端に配置されている。案内レール74は、テーブル72の移動方向Yと平行に配置されている。
【0055】
送りねじ装置71は、ねじ軸76と、ナット77と、多相モータ78とを有している。ねじ軸76は、軸方向両端部に転がり軸受が取り付けられ、転がり軸受の外輪にハウジング79が固定され、各ハウジング79が基台73に固定されている。これにより、ねじ軸76は、基台73に対して回転自在に支持されている。ねじ軸76及びナット77は、互いに対向する位置に螺旋溝をそれぞれ有し、ねじ軸76の螺旋溝とナット77の螺旋溝がボールを介して点接触するボールねじ機構を構成している。送りねじ装置71は、2個のリニアガイド70の間に配置されている。ねじ軸76は、テーブル72の移動方向Yと平行に配置されている。多相モータ78は、ねじ軸76の軸方向一端に結合されている。
【0056】
テーブル72は、各リニアガイド70の2個のスライダ75及び送りねじ装置71のナット77の上方に配置され、スライダ75に対しては直接に固定され、ナット77に対してはブラケットを介して固定されている。即ち、各リニアガイド70の2個のスライダ75及び送りねじ装置71の76が、テーブル72の一面に固定されている。
この直動テーブル装置200では、多相モータ78を駆動して送りねじ装置71を稼働させると、ねじ軸76が回転し、ボールねじ機構によりナット77が直動する。そして、テーブル72が、リニアガイド70に案内されながら移動方向Yと平行な方向に直動する。また、電子制御ユニット80(広義には「モータ制御装置」)は、多相モータ78を駆動する電流指令値を設定し、第1実施形態の電子制御ユニット30と同様に、電流指令値から電圧制御指令値Vrefを演算して、多相モータ78に供給する電流を制御する。
【0057】
(8)また、第1実施形態では、説明の簡単化のため、q軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdの算出から補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1の算出までをデューティ比[%]の次元で表記する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、q軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdから補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を電圧[V]の次元で算出し、インバータ34に供給される電源電圧及びデッドタイム量から算出される換算係数で補正後3相電圧指令値va1、vb1、vc1を変換して目標デューティ比Da、Db、Dcとしてよい。このときは、振幅A0も同様に変換して目標デューティ比振幅値を算出する。
【符号の説明】
【0058】
1…ステアリングホイール、2…操舵軸、3…減速ギア、4a…ユニバーサルジョイント、4b…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオン、5b…ラック、6a…タイロッド、6b…タイロッド、7a…ハブユニット、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、9…トルクセンサ、10…操舵角センサ、11…バッテリ、12…イグニションスイッチ、13…車速センサ、14…回転角センサ、20…モータ、21…ブリッジ回路、22…電源ライン、23…接地ライン、30…電子制御ユニット、31…プロセッサ、32…記憶部、33…PWM信号生成部、34…インバータ、35…相電流計測部、36…角速度変換部、37…電流指令値演算部、38…3相/2相変換部、39、40…減算器、41…PI制御部、42…2相/3相変換部、43…指令値補正部、44…PWM制御部、45…電圧指令値演算部、46…計測タイミング生成部、47…計測実行部、70…リニアガイド、71…送りねじ装置、72…テーブル、73…基台、74…案内レール、75…スライダ、76…ねじ軸、77…ナット、78…多相モータ、79…ハウジング、80…電子制御ユニット、100…電動パワーステアリング装置、200…直動テーブル装置
【要約】
多相モータの出力トルクの変動を抑制可能なモータ制御装置を提供すること。具体的には、目標デューティ比の振幅(A1)に50%ポイントを加えた値である目標デューティ比振幅値(A1+50%)が第1閾値(TH1)よりも小さい場合(A1+50%<TH1)、又は目標デューティ比振幅値(A1+50%)が第1閾値(TH1)以上(A1+50%≧TH1)で且つ目標デューティのうちの2番目に大きい目標デューティ比である中間デューティ(D2)が第2閾値(TH2)よりも大きい場合(D2>TH2)に、相電流の計測を第1計測期間(Ts1)に行う構成とした。また、目標デューティ比振幅値(A1+50%)が第1閾値(TH1)以上(A1+50%≧TH1)で且つ中間デューティ(D2)が第2閾値(TH2)以下である場合(D2≦TH2)に、相電流の計測を第2計測期間(Ts2)に行う構成とした。