(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】パルボウイルスの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20241115BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C12N7/00
C12Q1/70
(21)【出願番号】P 2020008613
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柳田 恒一郎
(72)【発明者】
【氏名】粥川 太貴
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/080676(WO,A1)
【文献】特表2018-523992(JP,A)
【文献】国際公開第2018/128688(WO,A1)
【文献】米国特許第05688676(US,A)
【文献】特表2013-523175(JP,A)
【文献】特表2019-519221(JP,A)
【文献】特表2018-518164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)パルボウイルス含有液を、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心に適用する工程と、
2)パルボウイルスを含む画分を回収する工程を含み、
パルボウイルスがマウス微小ウイルスであり、 前記密度勾配超遠心における密度勾配が、段階的(ステップグラジエント)密度勾配であ
り、
前記密度勾配液が、40%以下のスクロース溶液層及び50%以上のスクロース溶液層を少なくとも含む段階的密度勾配液であり、
前記密度勾配超遠心の相対遠心力(g)×遠心時間(h)の積(h×g)が1,500,000~7,000,000(h×g)である、単分散化されたパルボウイルスを製造する方法。
【請求項2】
パルボウイルス含有液が、パルボウイルスに感染した細胞の培養上清及び/又は当該細胞の破砕物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
単分散化されたパルボウイルスを35nmの孔径を持つ膜で濾過した場合の対数除去率LRVが1.0未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記密度勾配液が、40%スクロース溶液層及び60%スクロース溶液層を含む段階的密度勾配液である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記密度勾配液が、15%スクロース溶液層、30%スクロース溶液層、45%スクロース溶液層、及び60%スクロース溶液層を含む段階的密度勾配液である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記パルボウイルスを含む画分の溶媒を交換する工程をさらに含む、請求項1~
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
パルボウイルスの回収率が50%以上である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記密度勾配液が、60%以上のスクロース溶液層及び30%を超え、60%未満のスクロース溶液層を少なくとも含む段階的密度勾配液である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
パルボウイルス含有液を有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心に適用し、単分散化されたパルボウイルスを取得する工程と、
前記単分散化されたパルボウイルスをタンパク質含有溶液に添加する工程と、
前記タンパク質含有液をウイルス除去膜で濾過する工程と、
濾過前後の前記タンパク質含有液におけるウイルス量を定量する工程を含む、
を含み、
パルボウイルスがマウス微小ウイルスであり、
前記密度勾配超遠心における密度勾配が、段階的(ステップグラジエント)密度勾配であ
り、
前記密度勾配液が、40%以下のスクロース溶液層及び50%以上のスクロース溶液層を少なくとも含む段階的密度勾配液であり、
前記密度勾配超遠心の相対遠心力(g)×遠心時間(h)の積(h×g)が1,500,000~7,000,000(h×g)である、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を評価する方法。
【請求項10】
前記密度勾配液が、60%以上のスクロース溶液層及び30%を超え、60%未満のスクロース溶液層を少なくとも含む段階的密度勾配液である、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルス量が、プラーク法又はTDID50法によって測定されるウイルス力価である、請求項9又は10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単分散化されたパルボウイルスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスはヒトを含め多くの動植物や微生物に感染して増幅する。ウイルスにはゲノムとしてDNAを有するものとRNAを有するものが存在し、それぞれに異なる増幅機構を有する。ウイルスはそれ単独で増えることはできず、動物、植物又は微生物の細胞に感染して、その細胞の機能を利用して自らを複製することができる。
【0003】
主なウイルスの一つにパルボウイルスがある。パルボウイルス科のウイルスは、いずれも4~6kb一本鎖DNAを持つウイルスであり、ウイルス粒子の直径は18~22nmで、生二十面体をしており、エンベロープを持たず、エーテル、クロロホルム、熱等に耐性を有する(非特許文献1)。
【0004】
パルボウイルス科のウイルスは、パルボウイルス亜科とデンソウイルス亜科に分けられる。パルボウイルス亜科のウイルスは、複数の属に分類される。遺伝子治療に利用されるアデノ随伴ウイルスなどからなるディペンドウイルス属、ヒトに感染しリンゴ病を引き起こすB19などからなるエリスロウイルス属、そしてイヌパルボウイルス(CPV)、ネコパルボウイルス(FPV)、ガチョウパルボウイルス(GPV)、マウス微小ウイルス(MVM)などからなるパルボウイルス属などがある。
【0005】
パルボウイルスは製薬業界において重要視されるウイルスである。遺伝子組換え製剤(バイオ医薬品)や抗体医薬などの生物由来の医薬品は、製剤がウイルスに汚染されていないこと(ウイルス安全性)を保証するために、製造工程のウイルスクリアランス(除去性能)を評価しバリデーションする必要がある。バイオ医薬品等のウイルス安全性に関する研究文献においても、細胞・組織加工製品に混入する可能性のあるウイルスとして、マウス微小ウイルス(MVM)が挙げられている(非特許文献2)。
【0006】
そのため、医薬品製造の各工程前の段階の中間製造品にMVMを添加して、工程前後のウイルス量を定量することにより、個々の工程のウイルスクリアランスの測定が行われる。その際、107単位又は108単位以上のウイルスを準備することが必要な場合がある。さらに、実際には一つの試験について同一条件を複数回繰り返す必要があるため、107単位又は108単位の何倍ものウイルスの準備が必要となる。このように、バイオ医薬品のウイルスクリアランス試験を行うためには、大量のウイルス溶液が必要とされる。
【0007】
パルボウイルスを生産する方法としては、宿主細胞を培養し、ウイルスを感染させて培養し、回収したウイルスを精製する方法が知られている。マウス微小ウイルスの宿主細胞としては、A9細胞や324K細胞(シミアンウイルス40で形質転換されたヒト線維芽細胞、NB324Kと表記される場合もある)が知られている(特許文献1~3、非特許文献3)。培養上清に108 TCID50/mL以上の高感染価のマウス微小ウイルスを生産させる方法も知られている(特許文献2、4)。
【0008】
回収したウイルスは、力価が十分高ければ、濃縮などの精製を必要とせずに、低速遠心や除菌膜濾過(membrane for separation of microorganisms)のみでウイルスクリアランス試験に使用することができる(特許文献2、特許文献4)。また、濃縮・精製を行ってウイルスの感染価を高めたり不純物濃度を下げたりする方法も知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2012/0088228号明細書
【文献】国際公開第2017/077804A1号公報
【文献】国際公開第2011/130119A2号公報
【文献】国際公開第2014/080676A1号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】T.W. Tinsley and J.F. Longworth. (1973) J. gen. Virol.(20), 71-5. pp.7-15.”Parvovirus”
【文献】T. Kobayashi et.al. (2013) Bull. Natl. Inst. Health Sci. 131. pp.7-15.
【文献】Susanne I. Lang et. al. (2005) J. Virol,Vol.79.,No.1. pp. 289-298
【文献】ウイルス実験学各論、丸善出版、国立衛生研究所学友会編. pp22-23
【文献】M.S.Collett et. al. (1983) J. Virol. pp.842-854.
【文献】B-W. Kong et.al. (2008) Bio Techniques. 44: 97-99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を正確に評価することのできるパルボウイルスを製造する方法を提供すること等にある。また、別の課題は、会合状態にあるパルボウイルスを単分散化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
生物製剤の製造におけるウイルス除去工程として、粒子サイズのふるい効果に基づいた分離機構(size exclusion)を有する膜分離工程を導入する場合、ウイルス除去膜のパルボウイルスのクリアンス能力を評価することになる。本発明者らは、使用するウイルスによっては会合状態で存在し、そのような会合状態にあるウイルスをウイルスクリアランス試験において使用すると、本来ウイルス除去膜を通るはずのウイルスがウイルス除去膜に捕捉されてしまい、ウイルス除去性能を過剰評価(過大評価)してしまうリスクがあるという問題点を見出した。これは、ウイルスが会合状態で存在するとウイルスの実質的なサイズが一分子のサイズよりも大きくなるためである。
【0013】
本発明者らは上記問題点を初めて見出し、当該問題点への気づきをきっかけに鋭意検討を行った結果、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心にウイルスを適用することにより単分散化されたウイルスを取得することを可能とした。そしてウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能評価試験において当該単分散化されたウイルスを使用することにより、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能の評価を従来よりも正確にすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
従来公知のパルボウイルスの生産方法や精製方法は、パルボウイルスの感染価を高くすることや不純物濃度を低くすることに目的が置かれており、ウイルス粒子の分散状態に関して全く着目しておらず、単分散状態にあるウイルスの取得方法は全く知られていない。また、実際にウイルス分散性に関し、パルボウイルス懸濁液を0.1μm膜で濾過して、通過するかどうかを確認することで検証されているケースもある(特許文献1)。しかし、パルボウイルスの一分子(one virion)の大きさは18~22nmであり(非特許文献1)、二分子が会合した36~44nmサイズの会合体や、三分子又は四分子が会合した凝集体でも0.1μm膜を通過する。そのため、0.1μm膜による濾過を用いた検証はパルボウイルスの凝集状態の確認には不十分であり、凝集状態が確認できているとは言えない。0.1μm膜で濾過したウイルス懸濁液をウイルスクリアランス試験に使用した場合、これらの会合体を含んでいる可能性が否定できず、サイズ分離膜の評価で過大評価をしてしまうリスクがある。
【0015】
すなわち、本発明としては以下が挙げられる。
[1]1)パルボウイルス含有液を、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心に適用する工程と、2)パルボウイルスを含む画分を回収する工程を含む、単分散化されたパルボウイルスを製造する方法。
[2-1]パルボウイルス含有液が、パルボウイルスの培養液である、前記[1]に記載の方法。
[2-2]パルボウイルスの培養液が、パルボウイルスの感染細胞を培養した培養上清及び/又は感染細胞破砕物である、前記[2-1]に記載の方法。
[3]単分散化されたパルボウイルスを35nmの孔径を持つ膜で濾過した場合の対数除去率LRVが1.0未満である、前記[1]~[2-2]のいずれかに記載の方法。
なお、上記[1]~[2-2]のように引用するが範囲で示され、その範囲内に〔2-1〕等の枝番号を有する項が配置されている場合には、〔2-1〕等の枝番号を有する項も引用されることを意味する。以下においても同様である。
[4]前記密度勾配超遠心における密度勾配が、段階的(ステップグラジエント)密度勾配である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記密度勾配液がスクロースを含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記有機物媒体含有液が、40%以下のスクロース溶液層及び40%を超えるスクロース溶液層を少なくとも含む段階的密度勾配液である前記[5]に記載の方法。
[7]前記有機物媒体含有液が、40%スクロース溶液層及び60%スクロース溶液層を含む段階的密度勾配液である、前記[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記有機物媒体含有液が、15%スクロース溶液層、30%スクロース溶液層、45%スクロース溶液層、及び60%スクロース溶液層を含む段階的密度勾配液である、前記[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
[9]前記密度勾配が、連続的密度勾配である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[10-1]前記密度勾配液が、段階的(ステップグラジエント)に重層した溶液を12~24時間静置することによって準備される連続的密度勾配液である、前記[9]に記載の方法。
[10-2]前記密度勾配液が、段階的(ステップグラジエント)に重層した溶液を14~18時間静置することによって準備される連続的密度勾配液である、前記[9]に記載の方法。
[11]前記段階的に重層した溶液が、40%以下のスクロース溶液層及び40%を超えるスクロース溶液層を少なくとも含む溶液である、前記[9]~[10-2]のいずれかに記載の方法。
[12]前記段階的に重層した溶液が、15%スクロース溶液層、30%スクロース溶液層、45%スクロース溶液層、及び60%スクロース溶液層を含む、前記[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13-1]前記密度勾配超遠心の相対遠心力(g)×遠心時間(h)の積(h×g)が20,000~300,000(h×g)である、前記[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[13-2]前記密度勾配超遠心の相対遠心力(g)×遠心時間(h)の積(h×g)が1974100(h×g)である、前記[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13-3]前記密度勾配超遠心の相対遠心力(g)×遠心時間(h)が103900(g)× 19(h)である、前記[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[14]前記パルボウイルスを含む画分の溶媒を交換する工程をさらに含む、前記[1]~[13-3]のいずれかに記載の方法。
[15]パルボウイルスの回収率が50%以上である、前記[1]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]パルボウイルスがマウス微小ウイルスである、前記[1]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17-1]単分散化されたパルボウイルスをタンパク質含有溶液に添加する工程を含む、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を評価する方法。
[17-2]前記[1]~[16]のいずれかに記載の方法により単分散化されたパルボウイルスをタンパク質含有溶液に添加する工程を含む、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を評価する方法。
[18]パルボウイルス含有液を有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心に適用し、単分散化されたパルボウイルスを取得する工程、及び
前記単分散化されたパルボウイルス含有液をタンパク質含有溶液に添加する工程
を含む、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を評価する方法。
[19]前記単分散化されたパルボウイルス含有液が添加されたタンパク質含有溶液をウイルス除去膜に供する工程をさらに含む、前記[17]又は[18]に記載の方法。
[20]ウイルスの除去又は不活化を評価する工程をさらに含む、前記[17-1]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]前記[1]から[15]に記載の特徴を有する、前記[17-1]~[20]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、単分散化されたパルボウイルスを製造することが可能となる。これにより、パルボウイルスを用いたウイルス除去膜のウイルスクリアランス試験において、ウイルス除去膜のウイルス分離性能を過大評価することなく、従来よりも正確に評価することが可能となる。ウイルス除去膜のウイルスクリアランスを正確に評価できることは、生物製剤の安全性担保をより正しく行うことができる点で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と言うことがある)について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための方法等を例示するものであって、これらの例示に限定されるものではない。
【0018】
一つの実施形態において、パルボウイルスは、アデノ随伴ウイルス、ヒトパルボウイルスB19、イヌパルボウイルス(CPV)、ネコパルボウイルス(FPV)、ガチョウパルボウイルス(GPV)、又はマウス微小ウイルス(MVM)が例示される。好ましいパルボウイルスの例として、マウス微小ウイルスが例示される。マウス微小ウイルスは、パルボウイルス科、その中のパルボウイルス亜科におけるパルボウイルス属に属するウイルスである。マウス微小ウイルスはMVM(Minute virus of mice)又はMMV(Mice minute virus)と呼ばれることもある。
【0019】
一つの実施形態において、単分散化の対象とされるパルボウイルスは、会合状態にあればよい。パルボウイルスを感染させた宿主細胞を培地で培養した結果得られる、パルボウイルスの培養液も、パルボウイルス含有液の一つとして例示される。パルボウイルスは、宿主細胞に感染した状態で存在していてもよいし、パルボウイルス含有液(例えばパルボウイルスの培養液)中に遊離した状態で存在していてもよい。パルボウイルス含有液は、宿主細胞にパルボウイルスを感染させて培養することにより得られた培養物の培養上清及び/又は感染した細胞の破砕物(以下、単に「感染細胞破砕物」ともいう)であってもよい。「培養上清」としては、感染培養後の培地が例示される。「感染細胞破砕物」としては、感染培養後の細胞を凍結融解やホモジェナイズによって破砕した、いわゆるライゼートが例示される。
【0020】
凍結融解やホモジェナイズは、細胞と培養上清を一緒にして行うこともできるし、培養上清を分離した後に、適切な液体(新鮮培地、PBSなどの緩衝液など)を細胞に加えて行うこともできる。
凍結融解による細胞破壊は周知の方法である(非特許文献4、非特許文献6)。凍結と融解を交互に3~6回繰り返せばよい。通常は5回の凍結融解で十分に細胞は破壊され、内部のウイルスを回収することができる。また、細胞のホモジェナイズもすでに汎用的な方法であり、既知の方法(非特許文献4等)で細胞を破壊すれば、内部のウイルスを回収できる。あるいは、純水を加えて行う浸透圧により細胞破壊することによっても、細胞内部のウイルスを抽出することができる(非特許文献6)。
【0021】
パルボウイルス含有液に含まれる不純物量を減らし、精製効率を上げる観点から、不純物の少ない培養上清から精製することが好ましい。さらに、不純物量をより少なくするために、培地は血清を含まない無血清培地であることが好ましい。
【0022】
一つの実施形態において、培養液は、パルボウイルスが感染した宿主細胞を培養可能なものであれば特に限定されないが、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium培地、Eagle’s Minimal Essential Medium培地、又はF-12培地を含む液が例示される。
【0023】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液は、パルボウイルスを含有する液であれば特に限定されないが、溶液、懸濁液、又はゲル状液が例示され、溶液が好ましい態様として例示される。溶液の例として、パルボウイルスの培養液が挙げられる。
【0024】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液のpHとしては、パルボウイルスを培養できるpHであれば特に限定されないが、pHの下限値として5以上、6以上、7以上が例示される。pHの上限値としては、10以下、9以下、8以下が例示される。
【0025】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液の血清含有量としては、0%、3%、5%、10%が例示される。
【0026】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液が含有する血清としては、FBS(牛胎児血清)、FCS(仔牛血清)が例示される。
【0027】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液中のウイルス濃度としては、密度勾配超遠心により単分散化されたウイルスを取得できるウイルス濃度であれば特に限定されないが、上限として1012単位/mL以下、1011単位/mL以下、1010単位/mL以下、又は109単位/mL以下が例示される。下限として、106単位/mL以上、107単位/mL以上、又は108単位/mL以上が例示される。
【0028】
一つの実施形態において、密度勾配超遠心に使用される有機性の密度勾配液の溶質としては、密度勾配超遠心により単分散化されたパルボウイルスを取得できる有機性の密度勾配液であれば特に限定されないが、スクロース(ショ糖)又はイオジキサノールが例示され、スクロース(ショ糖)が好ましい態様として例示される。
【0029】
一つの実施形態において、有機性の密度勾配液の溶媒としては、前記有機性の密度勾配液の溶質を溶解できる液体であれば特に限定されないが、TNE緩衝液(Tris-NaCl-EDTA緩衝液)、TE緩衝液(Tris-EDTA緩衝液)、又はPBS緩衝液(Phosphate buffered saline)であることが例示され、TNE緩衝液であることが好ましい。
【0030】
一つの実施形態において、有機性の密度勾配液のpHとしては、密度勾配超遠心により単分散化されたウイルスを限定できるpHであれば特に限定されないが、pHの下限値として5.0以上、5.5以上、6.0以上、6.5以上、7.0以上が例示される。pHの上限値としては、9.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下が例示される。
【0031】
一つの実施形態において、単分散化された状態(単に「単分散化」ともいう)とは、ウイルスが会合(凝集)していない状態をいう。具体的には、本実施形態における単分散化とは、ウイルスを35nmの孔径を持つ膜で濾過した際に、対数除去率(Logarithmic Reduction Value:LRV)が1.0未満になることが例示される。会合状態とは、パルボウイルス同士が結合し、35nmの孔径を持つ膜で濾過した際のLRVが1.0以上になる状態が例示される。会合状態は凝集状態と呼ばれることもある。単分散化したウイルスのサイズは、そのウイルスとして通常認識されているウイルスサイズとなる。そのため、ウイルスの単分散化は、ウイルスが会合することによってウイルスサイズが大きくなった結果、ウイルス除去膜のウイルスクリアランスが過大評価されるのを防ぐことができる。
【0032】
LRVは以下の通り算出することができる。
LRV={濾過前のウイルス感染価(log10[TCID50/mL])}-{濾過後のウイルス感染価(log10[TCID50/mL])}
【0033】
感染価は、ウイルスの量(濃度)を表記する単位である。感染価の測定方法には、最小感染単位を決定する終末点(End point)方式と、ウイルスによって形成される局所病巣算定方式がある。終末点方式としては、ウイルスを段階希釈して、一定数以上の培養細胞に接種し、一定期間培養して、感染の陽性/陰性を判定することで、50%感染陽性となる希釈倍率を求める、50%感染終末点(TCID50: Tissue culture infectious dose50)法が一般的である。局所病巣算定方式としては、宿主細胞の単層培養上にウイルスを接種し、ウイルス吸着を行わせたあと、寒天を含む培地を重層して固まらせ、接種したウイルスの数だけ形成されるプラークを測定する、プラーク法がある。プラーク法を行った場合は、前述のLRVの算出式の感染価の単位は、log10[TCID50/mL]の代わりにlog10[pfu/mL]となる。pfuはplaque forming unit(プラーク形成単位)の略である。
【0034】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液としては、パルボウイルスが単分散状態で存在することができる液であれば特に限定されないが、溶液、懸濁液、又はゲル状液が例示され、溶液が好ましい態様として例示される。当該溶液としては、PBS緩衝液、TNE緩衝液、又はTE緩衝液が例示される。
【0035】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液のpHとしては、パルボウイルスが単分散状態で存在することができる液であれば特に限定されないが、pHの下限値として5以上、6以上、7以上が例示される。pHの上限値としては、10以下、9以下、8以下が例示される。
【0036】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液の組成は、有機性の密度勾配液を含有する、pH7~8の範囲のPBS緩衝液が例示される。
【0037】
一つの実施形態において、パルボウイルスは例えば以下の通り製造することができる。
まず、パルボウイルスの(非感染の)宿主細胞を培養する。宿主細胞としては、パルボウイルスが感染して増幅する細胞であれば特に限定されないが、マウス線維芽細胞A9、シミアンウイルス40形質転換ヒト線維芽細胞(324K細胞、NB324K細胞等)、又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などを使用することができる。
【0038】
一つの実施形態において、宿主細胞の培養方法としては、培養フラスコを用いる方法、マイクロキャリアに固定して攪拌培養する方法、ローラーボトルを用いる方法、又はバイオリアクターを用いる方法が例示される。
【0039】
一つの実施形態において、培養フラスコは、市販の、例えばファルコン社製の組織培養用フラスコや、マルチウェルプレートが例示される。
【0040】
一つの実施形態において、マイクロキャリアは、市販の、例えばGEヘルスケア社製のCytodex、Cytoporeが例示される。
【0041】
一つの実施形態において、ローラーボトルは、市販の、例えばGreiner Bio-One社製のCELLMASTER細胞培養ローラーボトルが例示される。
【0042】
いずれの培養方法においても、培養温度は、哺乳類動物細胞培養に汎用的に適用される33℃~39℃が例示され、特に37℃が好ましい。培地のpHは、哺乳類動物細胞培養に汎用的に適用される7~8が好ましい。培地の濃度は、宿主細胞と等張圧となる(浸透圧が等しくなる)濃度が好ましい。
【0043】
一つの実施形態において、DMEM培地、MEM培地、CD培地、SFM培地、OptiPro SMF培地、Viral Vaccine Platform 培地(SFM4Mega Vir培地、Vaccine Xpress培地、CDM4Avian培地)等が例示される。これらの培地は、ギブコ社、サーモフィッシャー社、GEヘルスケア社等から入手することができる。
【0044】
パルボウイルス含有液中のパルボウイルス以外の不純物量をより少なくするために、培地は血清を含まない無血清培地であることが望ましい。ウイルスの効率的な増幅は、ウシ胎児血清(FBS)などの血清を含む培地で培養することにより達成することができる。また、特許文献2に記載の方法などにより、回収する24時間以上前に、培養培地を、血清含有培地から無血清培地に交換しておくことで、血清由来の不純物を含まない培地中にウイルスを生産させて回収することができる。次工程の密度勾配超遠心の前に、パルボウイルス含有液中に存在する細胞の破片などの大きな粒子系の夾雑物を除去するために、低速遠心と除菌膜濾過を行うこともできる。低速遠心は、ウイルスが沈殿しないが細胞の破片が沈殿する重力加速度を選択して実施することができる。例えば3,000rpm×20分の遠心分離や、12,000g×30分の遠心分離(非特許文献5)が行われるが、これらの条件に限定されない。また、除菌膜濾過は、孔径0.45μm、0.22μm又は0.1μmの膜を使用することができる。これらの孔径を有する膜として、サーモフィッシャー社製ボトルトップフィルター(0.45μm)、サーモフィッシャー社製ボトルトップフィルター(0.22μm)、Merck社製マイレクス(0.22μm、0.45μm)、Merck社製ステリベクス(0.22μm、0.45μm)、又はザルトリウス社製ミニザルト(0.2μm)等が挙げられる。
【0045】
続いて、培養した非感染状態の宿主細胞にパルボウイルスのシードを感染させる。シードウイルスは、ATCCなどから購入したウイルスを、本願明細書に記載する方法等で増やした後にクライオチューブ等に小分けし、-80℃で凍結保存しておいたものを使用できる。購入するシードウイルスの例として、ウイルスがPPVならばVR-742(ATCC)、MVMならばVR-1346(ATCC)が例示される。
【0046】
続いて、培養上清を回収する。培養上清を回収するまでの培養時間は、ウイルスが十分に増幅する時間をかける。培養上清中及び細胞内のウイルス量を毎日測定し、最も好ましい時間を設定すればよい。細胞内のウイルス量を測定するには、培養上清を除去したあとに、細胞を3~5回の凍結融解で破砕して感染価を測定すればよい。ウイルス感染から、回収までの培養時間としては5日~14日が例示される。
【0047】
パルボウイルスが十分に増幅するのに十分な時間培養した培養上清中にはパルボウイルスが含まれている。しかしながら、パルボウイルスが培養上清中に放出されずに感染宿主細胞内にとどまっている場合、感染宿主細胞を培養容器ごと3~5回凍結融解することで細胞を破砕し、細胞外に出てきたウイルスを回収することができる。凍結融解は、培養器材に培地が入った状態のまま行うこともでき、また、培地をPBS(Phosphate buffered saline)やTNE(トリス緩衝液+NaCl+EDTA)などの緩衝液に交換して行うこともできる。以上の方法で、パルボウイルス含有液を得ることができる。
【0048】
続いて、前記得られたパルボウイルス含有液を密度勾配超遠心に適用する。密度勾配超遠心は、汎用的に使用されている超遠心の一つの方法である。超遠心とは、通常の遠心機よりも大きな重力で遠心することにより、通常の遠心では沈殿しないウイルスのような微粒子をも沈殿させることができる。このとき、遠心チューブ内の液体密度がウイルスよりも高いと、ウイルスは底面まで沈殿せず、その液体の上で沈降が止まる。遠心チューブ内にウイルスより密度が高い液体と密度が低い液体とを重層しておくと、ウイルスは密度の低い液体は通過して沈降するが、ウイルスより密度の高い液体内へは沈降できない。このように、密度勾配がかかった状態で超遠心することで、含まれる物質が密度によって異なる位置にとどまるようになる。この方法を密度勾配超遠心という。
【0049】
超遠心でかける力は、地球の重力gに対して何倍の力かという指標であらわされる。その指標として、Relative Centrifugal forceの略でRCF(相対遠心力)を表記する。
【0050】
一つの実施形態において、密度勾配超遠心は、例えば以下の通り実施することができる。
最初に、濃度の異なる有機性の密度勾配液を準備する。それを、超遠心チューブに、密度の大きい溶液の上に軽い溶液が層をなすように重層する。このとき、軽い液を先に添加し、その下方にシリンジやピペットなどで重い液を注入してもよいし、重い液を先に添加し、その上部に軽い液を乗せてもよい。次に、重層された有機性の密度勾配液の上に、パルボウイルス含有液を重層する。その後、超遠心機にかける。超遠心により、最後に重層したパルボウイルス含有液中の成分が、密度に応じて、有機性の密度勾配液の中で層状に分離した状態になる。超遠心機からチューブを取り出して、チューブの上層から下層にかけて液を分画採取する。分画採取の方法は、上面から一定量ずつピペットで吸い出す方法と、チューブ側面に注射器の針をさして、所定の部分だけを吸い出す方法と、チューブ底面に針で穴をあけて、下層液から順番に一定量ずつ分画する方法がある。
【0051】
一つの実施形態において、パルボウイルス含有液は、使用するローターのサイズに応じ適宜濃縮することができる。濃縮方法としては、CsCl2を用いた塩析沈殿、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿、限外濾過膜による濾過、又は超遠心による沈殿等、公知の方法を使用することができる。濃縮率を自由に設定できる観点又は溶媒交換が容易である観点から、超遠心による沈殿が好ましい方法として例示される。
【0052】
例えばパルボウイルスを超遠心により濃縮する場合、相体遠心力(g)と遠心時間(h)の積(h×g)としては、上限としては1,200,000(h×g)以下、700,000(h×g)以下、300,000(h×g)以下が例示される。下限としては20,000(h×g)以上、10,0000(h×g)以上、200,000(h×g)以上が例示される。
【0053】
超遠心の条件の一例として、超遠心機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)で、Type45 Tiローター(Beckman Coulter社製)で29,400rpm、2時間超遠心する方法が例示される。
【0054】
次に、沈殿させたパルボウイルスを、適切な溶媒に再懸濁することで、濃縮されたパルボウイルス含有液を得ることができる。
【0055】
再懸濁する溶媒は、汎用的に使われるTNE緩衝液などのトリス緩衝液、PBS緩衝液、DMEM培地(無血清)などの細胞培養培地などが利用できる。好ましくは、TNE緩衝液、PBS緩衝液、細胞培養用培地、より好ましくはTNE緩衝液、PBS緩衝液、DMEM培地(無血清)がよく、最も好ましくはTNE緩衝液である。再懸濁した際のパルボウイルスの状態は、分散状態にあっても、凝集状態にあってもよい。
【0056】
密度勾配超遠心における有機性の密度勾配液の溶質としては、スクロース(ショ糖)又はイオジキサノールが例示される。溶質の好ましい例として、スクロースが例示される。
【0057】
スクロースを溶質とした場合、密度勾配超遠心用の遠心チューブに、濃度の異なるスクロース溶液を重層する。スクロース溶液の溶媒は、TE緩衝液(トリス緩衝液-EDTA)などが使用できる。
【0058】
パルボウイルスは超遠心にかけた際に、40%スクロース層は通過する。50%スクロース溶液と40%スクロース溶液を重層し、その上部にパルボウイルス懸濁液(濃縮液)を重層して超遠心すると、パルボウイルスは40%スクロース層と50%スクロース層の界面から回収できる。
【0059】
60%スクロース層と40%スクロース層を重層したときも、パルボウイルスは超遠心後に、それら2層の界面から回収することができる。
【0060】
重層の濃度はこれらに限られたものではなく、60%、45%、30%、15%のスクロース溶液を重層して、その上にパルボウイルス懸濁液(濃縮液)を重層して密度勾配超遠心を行うと、パルボウイルスは45%層から回収できる。
【0061】
60%、50%、40%、30%のスクロース溶液を重層して、その上にパルボウイルス懸濁液(濃縮液)を重層して密度勾配超遠心を行うと、パルボウイルスは50%層と40%層の界面から回収できる。
【0062】
これらの密度勾配超遠心の相対遠心力(g)×遠心時間(h)は、パルボウイルスが自身の比重と平衡する溶液の位置まで落ちてくるのに十分な程度行えばよく、相体遠心力(g)と遠心時間(h)の積(h×g)としては、1,500,000(h×g)以上行えばよい。より好ましくは1,800,000(h×g)以上7,000,000(h×g)以下であり、最も好ましくは1,974,100(h×g)である。一例として、Beckman Coulter社製Optima L-90K+のスイングローターSW-28を使用して24,000rpmで超遠心する場合、相対遠心力は103,900gであるため、19時間超遠心を行うことで、マウス微小ウイルスは目的の位置から回収できる。
【0063】
なお、密度勾配溶液の重層は、重い層を分注した上に軽い層を乗せていく方法でも、軽い層を先に分注して重い層を下に注入する方法でも実施できる。そして、これらの超遠心は、ウイルスの失活を防ぐために通常4℃で行うのが業界の標準である。
【0064】
また、スクロース溶液を重層した直後に、ウイルス懸濁液を上に重層して密度勾配超遠心に適用することができるが、スクロース溶液を重層したのちに8~24時間静置しておくと、それぞれのスクロース層の界面が拡散によりなじんで、濃度を連続的な勾配にすることができる。この方法でも密度勾配超遠心後にウイルスが回収できる位置は同じになる。
【0065】
重層後に静置しない場合は、密度勾配は段階的であり、「段階的(ステップグラジエント)密度勾配超遠心」となるが、静置させることで、「連続的密度勾配超遠心」となる。
【0066】
連続的密度勾配超遠心は、段階的密度勾配超遠心よりも、回収したい物質(パルボウイルス)と、除去したい不純物との分離がより細かく厳密に行えるようになる。超遠心の種類は目的に応じて使いわけることができる。
【0067】
重層後の静置は1℃~30℃で行うのが好ましく、より好ましくは2℃~10℃、最も好ましくは4℃で行う。静置時間は、短すぎると連続的にならず、長すぎると互いの濃度が拡散によって混ざり合いすぎて勾配が保たれなくなる。静置時間としては12~24時間が好ましく、より好ましくは14~18時間であり、最も好ましくは16時間である。
【0068】
パルボウイルスが密度勾配超遠心後にどの位置から回収できるかは、密度勾配超遠心後の遠心チューブ内の溶液を上から順に適当な体積(例えば1mL)ずつ分画採取し、感染性をアッセイすればよい。
【0069】
上記の密度勾配超遠心は、2回以上繰り返してより精製度を高めてもよい。このとき1回目と2回目でパルボウイルスを回収できる溶媒濃度は等しい。また、1回目と2回目で、重層する濃度組成を変えてもよい。例えば、1回目はスクロース濃度60%、50%、40%、30%と重層して、50%と40%の界面画分を回収し、2回目は60%と40%の2層で密度勾配超遠心を行い、両層の界面を回収することができる。またその逆でもよい。
【0070】
スクロース密度勾配超遠心において、パルボウイルスが回収される位置(スクロース濃度)は常に一定(40%と50%の間)であるため、目的や作業性に応じて重層方法を変更すればよい。
【0071】
不純物濃度をより低下させたい場合は、40%と50%の界面にウイルスを回収するとよい。不純物濃度がすでに十分低いなどの理由で、気にしなくてよい場合は、40%と60%のように濃度差の開いた界面にウイルスを回収するとよい。
【0072】
有機性の密度勾配液の溶質がイオジキサノールの場合も、同様に2層以上の濃度に重層し、パルボウイルスが平衡化する界面の位置からウイルスを回収すればよい。
【0073】
本実施形態の方法で有機性の密度勾配液を用いて密度勾配超遠心されたパルボウイルスは、密度勾配超遠心前に凝集状態であったとしても、単分散状態で回収することができる。
【0074】
有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心により得られたマパルボウイルス含有液は、さらに溶媒交換することもできる。溶媒交換の方法としては、半透膜を用いた透析や、限外濾過膜による溶媒交換、限外濾過膜と遠心分離を組み合わせた方法、脱塩カラムによる溶媒交換法などを行えばよい。
【0075】
有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心により得られたパルボウイルス含有液中で、パルボウイルスが凝集していないかどうかを確認するためには、孔径が80nm~30nmのフィルターで濾過して、濾過前後のウイルス量を感染価などで測定すればよい。
【0076】
濾過膜の孔径は、好ましくは75nm~35nmであり、より好ましくは40nm~30nm、最も好ましくは35nmの孔径の膜である。
【0077】
パルボウイルス含有液から、密度勾配超遠心により得られたパルボウイルスの回収率は、感染価×体積の式で得られる絶対感染価の回収率で求めることができる。本明細書で使用する場合、「絶対感染価」とは感染価に体積をかけた値を意味する。
【0078】
例えば、マウスレトロウイルス含有液の感染価が、109 TCID50/mL×1000mLの場合、精製原料の絶対感染価は1012 TCID50となる。これに対して密度勾配超遠心により得られたマウス微小ウイルス含有液が1011 TCID50/mL×10mLであれば、精製品の絶対感染価も1012 TCID50であるため、回収率は100%となる。
【0079】
本実施形態の方法で得られる単分散化されたパルボウイルス含有液は、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心の前後で30%以上の回収率であり、より好ましくは50%以上である。このように回収率が高い理由は、本実施形態が提供する、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心工程が、複雑ではなく、比較的短時間であるため、経時的なウイルスの失活を回避できるためである。
【0080】
本実施形態において、単分散化されたパルボウイルス含有液を用いてウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を評価することにより、従来過大評価されていたウイルスクリアランス性能をより正確に評価することができる。単分散化されたパルボウイルスは、本願明細書に記載の方法により製造したものを使用することができるし、それ以外の方法で製造された単分散化されたパルボウイルスであっても、単分散化されたウイルスであれば特に限定されない。
【0081】
本実施形態において、ウイルス除去膜は、ウイルスを除去可能な膜であれば特に限定されないが、パルボウイルス用のウイルス除去膜であることが好ましい。パルボウイルス用のウイルス除去膜としては、例えばMVMに対するLRVが4以上である濾過膜が例示される。MVMに対するLRVが4以上である濾過膜とは、使用する濾過膜に対し、MVMを含む溶液を50L/m2負荷した場合におけるLRVが4以上となる膜である。MVMを含む溶液としては、1mg/mLのヒト免疫グロブリン溶液(0.1M NaCl、pH4.5)にMVM濃度を106TCID50/mLとしたものが用いられる。また、パルボウイルス用のウイルス除去膜としては、その平均孔径がパルボウイルスの大きさ前後以下であれば特に限定されないが、5~24nmの範囲が例示され、14~22nmの範囲が好ましく、18~20nmの範囲がより好ましい例として挙げられる。パルボウイルス除去用ウイルス除去膜としては、Planova 20N、Planova BioEX、Pegasus SV4、Virosart CPV又はViresolve Proが例示され、特に、Planova 20N、Planova 15N、Planova BioEX、Ultipore VF-DV20、Pegasus Prime、Pegasus SV4、又はViresolve Pro、Virosart CPV、Virosart HFが例示される。
【0082】
本実施形態において、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能の評価は、以下の通り行うことができる。生物製剤等の実生産工程をスケールダウンした条件で行うことが好ましい。
【0083】
まず生物製剤の中間製品等のタンパク質を含有する溶液に、単分散化されたパルボウイルス含有液を添加する。タンパク質としては、血漿分画製剤のグロブリン、アルブミン、血液凝固第7因子(F-VII)、血液凝固第8因子(F-VIII)、遺伝子組み換えタンパク質、モノクローナル抗体、トロンモジュリン製剤、腫瘍壊死因子、タンパク質性のワクチン、培地、培地添加剤、又はタンパク質分解酵素が例示されるがこれらに限定されるものではない。
【0084】
パルボウイルスを含有する液体を添加後、タンパク質含有溶液中のパルボウイルスが単分散状態であることは、プレフィルターで濾過を行うことにより確認することができる。プレフィルターの孔径としては、75nm~25nmが例示されるが、より好ましくは40~30nmであり、最も好ましくは35nmである。プレフィルターによるパルボウイルスの対数除去率LRVを測定する。LRVが1.0未満であることを確認する。
【0085】
続いてウイルス除去膜に供する、プレフィルター後のタンパク質含有溶液の一部を2本サンプリングしておく。1本は速やかに冷凍保管し、もう1本は濾過完了まで濾過条件と同じ環境下に静置して対照品とする。
【0086】
次に、単分散化されたパルボウイルスをウイルス除去膜に供する。単分散化されたパルボウイルスをウイルス除去膜に供することとしては、パルボウイルスを除去することができれば特に限定されないが、単分散化されたパルボウイルスをウイルス除去膜で濾過を行うことが例示される。濾過時の送液方法は、加圧濾過、低速ポンプ濾過が例示される。濾過時の膜間差圧は、使用するフィルターの耐圧性以内で行うことがきる。例えば、Planova 20Nの場合は70~100kPa、Planova BioEXの場合は、196~343kPaで行うことができる。所定の量の濾過が完了したあと、濾液の一部を採取する。
【0087】
直ちにウイルス除去率の測定を行わない場合は、サンプリングした濾液と、濾過前にサンプリングした対照品を凍結保管しておき、後日、濾過前溶液のサンプリング品と共に解凍してウイルス力価測定を行うことができる。直ちにウイルス除去率の測定を行う場合は、最初に凍結した濾過前溶液のサンプリング品を解凍して、濾過後溶液、対照品とともにウイルス力価測定を行う。
【0088】
ウイルス力価測定は、プラーク法又はTCID50法等、既知の方法で行う。濾過前溶液と、対照品とのウイルス力価を比較し、濾過中の力価の低下がないことを確認する。合否判定については測定ばらつき等のリスクに応じて事前に定めておけばよい。
濾過前後の溶液のウイルス力価の対数値の差から、対数除去率を求める。例えば、濾過前溶液のウイルス力価が106.0 TCID50/mLで、濾過後溶液のウイルス力価が102.0 TCID50/mLの場合、対数除去率は4.0となる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例において示される試験方法は以下の通りである。
【0090】
〔実施例1〕
マウス微小ウイルスの宿主細胞として形質転換ヒト繊維芽細胞(以下「宿主細胞」と呼ぶ)を用い、10%牛胎児血清を添加したDMEM(以下、「10%血清培地」と呼ぶ)で、37℃、5%CO2環境下にて、75cm2底面積、容量15mLの組織培養用フラスコ(以下、「フラスコ」と呼ぶ)を用いて継代培養した。フラスコから宿主細胞をはがして、新しいフラスコに1.5×106 cells/15ml/flaskの密度で2.5%FBSを含むDMEM培地(以下、「2.5%血清培地」と呼ぶ)に植え付けて、マウス微小ウイルスをMOI=0.01で感染させた。4日後に培地を、血清を含まない培地(以下「無血清培地」と呼ぶ)に交換し、さらに3日間培養した。
【0091】
マウス微小ウイルスを含む培養上清を回収して、3,000rpm、20分間遠心して沈殿した細胞の破片を除去し、上清を0.45μmフィルター(ナルゲン社製)による濾過で簡易精製して、培養上清を得た。
【0092】
この簡易精製した培養上清を超遠心機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)で、Type45 Tiローター(Beckman Coulter社製)で29,400rpm、2時間超遠心して、マウス微小ウイルスを沈殿させた。上清を除去し、沈殿したマウス微小ウイルスペレットに6mLのTNE緩衝液(50mM Tris-HCl pH7.4/100mM NaCl/1mM EDTA)を添加して再懸濁し、濃縮されたマウス微小ウイルスを含むTNE緩衝液(以下「濃縮MVM培養液」と呼ぶ)を得た。
【0093】
この濃縮MVM培養液のマウス微小ウイルス感染価を測定した。感染価の測定は、96-wellプレートを用いて、宿主細胞を2×104 cells/well分注後に、10倍段階希釈した検体を4wellずつ添加して、Spearman-Karber法によりTCID50/mLを算出した。
【0094】
次に、表1の(1)又は(2)の重層条件のスクロース密度勾配溶液(スクロース/TNE緩衝液)を作成し、それぞれの最上面に、上記の濃縮MVM培養液を重層した。
【0095】
【表1】
(上記重層条件における各要素の並び順は、遠心チューブの下方から上方への順序を示す。)
【0096】
超遠心機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)でスイングローターSW-28(Beckman Coulter社製)を使用して24,000rpm(103,900g)、19時間、密度勾配超遠心を行った。超遠心後の溶液を、上から3mLずつマイクロピペットで分画採取し(全部で12画分)、ウイルスの感染価を前述の方法で測定した。
【0097】
マウス微小ウイルス感染価のピークとなった、連続する2画分(1画分3mL×2=6mL)を、マウス微小ウイルス含有液としてプールした。このマウス微小ウイルス含有液を、1%ヒトグロブリン水溶液(0.1M NaCl)に添加して、孔径35nmの分離膜であるPlanova 35Nフィルター(旭化成メディカル社製)で濾過した。濾過条件は、49kPa、10L/m2とした。
【0098】
スクロース密度勾配超遠心のマウス微小ウイルス回収率は、条件(1)、(2)ともに100%以上であった(表2)。
濾過前後のマウス微小ウイルス感染価を測定し、下記式に基づいて対数除去率LRVを算出した(表3)。
LRV={濾過前のマウス微小ウイルス感染価(log10[TCID50/mL])}-{濾過後のマウス微小ウイルス感染価(log10[TCID50/mL])}
スクロース密度勾配超遠心後のマウス微小ウイルスでは対数除去率が1未満であり、単分散状態であった(表3)。
【0099】
【表2】
条件:表1の条件番号に対応。
MVM:Minute virus of mice(マウス微小ウイルス)
回収率=100×(密度勾配超遠心後のMVMの感染価×体積)/(密度勾配超遠心前のMVM培養液の感染価×体積)
【0100】
【0101】
〔実施例2〕
上記実施例1と同様の方法で濃縮MVM培養液を得た。
次に、表3の重層条件のスクロース密度勾配溶液(スクロース/TNE緩衝液)を作成し、4℃で16時間静置したのちに、それぞれの最上面に、上記の濃縮MVM培養液を重層した。
【0102】
【表4】
(上記重層条件における各要素の並び順は、遠心チューブの下方から上方への順序を示す。)
超遠心機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)でスイングローターSW-28(Beckman Coulter社製)を使用して24,000rpm(103,900g)、19時間、密度勾配超遠心を行った。超遠心後の溶液を、上から1mLずつマイクロピペットで分画採取し(全部で12画分)、ウイルスの感染価を前述の方法で測定した。
マウス微小ウイルス感染価のピークとなった、連続する3画分(1画分3mL×3=9mL)を、マウス微小ウイルス含有液としてプールした。
【0103】
スクロース密度勾配超遠心のマウス微小ウイルス回収率は、60%であった(表5)。
【0104】
【0105】
このマウス微小ウイルス含有液を、実施例1と同様の方法により、Planova 35N(旭化成メディカル社製)フィルターで濾過し、対数除去率LRVを算出した(表6)。
【0106】
【0107】
スクロース密度勾配超遠心後のマウス微小ウイルスでは対数除去率が1未満であり、単分散状態であった(表6)。
【0108】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法で、培養上清からマウス微小ウイルスを含む培養上清を3バッチ回収した。それぞれを、3,000rpm、20分間遠心して沈殿した細胞の破片を除去し、上清を0.45μmフィルター(ナルゲン社製)で濾過した。
【0109】
これらを、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心工程を経ずに、実施例1と同様の方法により、Planova 35Nフィルターで濾過し、対数除去率LRVを算出した。
【0110】
〔比較例2〕
実施例1と同様の方法で、濃縮MVM培養液を得た。これを、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心工程を経ずに、実施例1と同様の方法により、Planova 35Nフィルターで濾過し、対数除去率LRVを算出した。
【0111】
〔比較例3〕
実施例1と同様の方法で、濃縮MVM培養液を得た。ただし、超遠心で得たウイルスペレットの再懸濁に、TNE緩衝液ではなく、PBS(-)緩衝液を使用した。これを、有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心工程を経ずに、実施例1と同様の方法により、Planova 35Nフィルターで濾過し、対数除去率LRVを算出した。
【0112】
結果を表7に示す。
【0113】
【0114】
有機性の密度勾配液を用いた密度勾配超遠心を行っていないマウス微小ウイルスは、比較例1、比較例3、比較例3いずれも35nmフィルターの対数除去率が1以上であり、凝集状態であった。これは、本来Planova 35Nを通過するはずのマウス微小ウイルスがPlanova 35Nで捕捉されてしまうことを意味しており、比較例1~3のウイルスを使用してウイルス除去膜の性能を評価した場合、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能が過大評価されることが示唆された。