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特許7588479状態測定装置、状態測定方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】状態測定装置、状態測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020133419
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029866
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河室 佑貴
(72)【発明者】
【氏名】塩入 章弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 直人
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-222651(JP,A)
【文献】特開2013-167485(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0261847(US,A1)
【文献】特開2016-027316(JP,A)
【文献】特開2009-115747(JP,A)
【文献】特開2008-157840(JP,A)
【文献】特開2012-149899(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0131226(US,A1)
【文献】特表2020-517953(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0212492(US,A1)
【文献】国際公開第2017/056981(WO,A1)
【文献】特開2013-088148(JP,A)
【文献】特開2013-026114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
H01M 4/00 - H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に不溶性の固体物質が混合された混合液の状態を測定する状態測定装置であって、
前記混合液に交流信号を印加する電極と、
前記交流信号が印加された際に前記混合液に流れる応答信号に基づいて前記混合液のインピーダンスを前記交流信号の周波数ごとに測定する測定手段と、
前記固体物質の内部抵抗成分及び前記固体物質同士の接触抵抗成分の少なくとも一方の成分を含む電気成分に対応する要素に基づく一又は複数の並列回路を含む等価回路を設定する設定手段と、
前記等価回路のインピーダンスを前記混合液のインピーダンスに近似するための等価回路解析を実行して前記並列回路のパラメータを算出する算出手段と、
前記並列回路のパラメータに基づいて前記混合液の状態を特定するための指標を導出する導出手段と、を備え
前記混合液には、複数の前記固体物質が混合されており、
前記等価回路は、第一の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、第二の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第二の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質及び前記第二の固体物質の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、を直列に接続した直列回路を含む、状態測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態測定装置であって、
前記並列回路は、抵抗器とコンデンサとの並列回路、及び抵抗器とコンスタント・フェーズ・エレメントとの並列回路の少なくともいずれか一方である、状態測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の状態測定装置であって、
前記導出手段は、一又は複数の前記並列回路の抵抗値、コンデンサの静電容量及びCPE指数pの少なくともいずれか一つの値に基づいて、前記混合液の均一性を導出する、状態測定装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の状態測定装置であって、
前記導出手段は、一又は複数の前記並列回路の抵抗値、コンデンサの静電容量、CPE定数T及びCPE指数pの少なくともいずれか一つの値に基づいて、前記混合液の導電性を導出する、状態測定装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の状態測定装置であって、
前記設定手段は、前記並列回路の数を、前記混合液における前記固体物質の前記内部抵抗成分及び前記接触抵抗成分の総数以下に設定する、状態測定装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の状態測定装置であって、
前記混合液には、複数の固体物質が混合されており、
前記並列回路は、抵抗器とコンデンサとの並列回路、及び抵抗器とコンスタント・フェーズ・エレメントとの並列回路の少なくともいずれか一方であり、
前記導出手段は、前記複数の固体物質の前記内部抵抗成分に対応する前記並列回路、又は前記接触抵抗成分に対応する前記並列回路における、前記抵抗器、前記コンデンサ及び前記コンスタント・フェーズ・エレメントのうち少なくとも一つのパラメータ同士を合成した値に基づいて前記混合液の状態を特定するための指標を導出する、状態測定装置。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の状態測定装置であって、
前記混合液は、リチウムイオン電池の正極又は負極に用いられるスラリーであって、前記固体物質として、活物質、バインダ及び導電助剤が混合されたものである、状態測定装置。
【請求項8】
液体に不溶性の固体物質が混合された混合液の状態を測定する状態測定方法であって、
前記混合液に交流信号の周波数を変化させながら前記交流信号を印加し、
前記混合液に前記交流信号が印加された際に前記混合液に流れる応答信号に基づいて前記混合液のインピーダンスを前記交流信号の周波数ごとに測定し、
前記測定されたインピーダンスから、前記固体物質の内部抵抗成分及び前記固体物質同士の接触抵抗成分の少なくとも一方の成分を含む電気成分に対応する要素に基づく並列回路を含む等価回路を求め、
前記等価回路のインピーダンスを前記混合液のインピーダンスに近似するための等価回路解析を実行して前記並列回路のパラメータを算出し、
前記並列回路のパラメータに基づいて前記混合液の状態を特定するための指標を導出
前記混合液には、複数の前記固体物質が混合されており、
前記等価回路は、第一の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、第二の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第二の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質及び前記第二の固体物質の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、を直列に接続した直列回路を含む、
状態測定方法。
【請求項9】
液体に不溶性の固体物質が混合された混合液の状態の測定をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記混合液に交流信号の周波数を変化させながら前記交流信号を印加し、
前記混合液に前記交流信号が印加された際に前記混合液に流れる応答信号に基づいて前記混合液のインピーダンスを前記交流信号の周波数ごとに測定し、
前記測定されたインピーダンスから、前記固体物質の内部抵抗成分及び前記固体物質同士の接触抵抗成分の少なくとも一方の成分を含む電気成分に対応する要素に基づく並列回路を含む等価回路を求め、
前記等価回路のインピーダンスを前記混合液のインピーダンスに近似するための等価回路解析を実行して前記並列回路のパラメータを算出し、
前記並列回路のパラメータに基づいて前記混合液の状態を特定するための指標を導出
前記混合液には、複数の前記固体物質が混合されており、
前記等価回路は、第一の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、第二の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第二の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質及び前記第二の固体物質の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、を直列に接続した直列回路を含む、
状態測定方法を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に不溶性の固体物質が混合された混合液の状態を測定する状態測定装置、状態測定方法、及びコンピュータに混合液の状態の測定を実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業分野では、不溶性を有する粒子状の固体物質が混合された混合液が、例えば、異なる物性を有する物質を複合化することによる新たな機能の創出や、物質の形状の変更、微細化又は造形などの目的で使用されている。
【0003】
例えば、電子部品等の分野では、近年、高機能化・高性能化の要求が高まっている。このため、電子部品に使用される混合液の品質についても、特定の評価指標に基づいて厳密に管理できるようにすることが要求されている。
【0004】
混合液に含まれる粒子の粒子径分布を測定する方法の一つとして、沈降法が知られている。この沈降法には、自然重力を利用する液相重力沈降法(非特許文献1)と、遠心力を利用する液相遠心沈降法(非特許文献2)とがある。
【0005】
上述の沈降法に準拠した沈降試験では、混合液を沈降管に投入し、時間経過とともに沈降した粒子層と上澄み液との界面高さの変化や、上澄み液が透明か濁っているかなどの状態変化を測定者が観察する。そして、これらの変化から混合液の粒子径分布が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本産業規格 JIS Z8820-1:2002
【文献】日本産業規格 JIS Z8823-1:2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した沈降試験は、混合液における粒子の沈降が安定するまでに時間を要するものであり、また、測定者が混合液を観察する必要があった。このため、測定者にとって、混合液の状態を特定するための指標を取得することは煩雑な作業であり、容易ではなかった。
【0008】
本発明は、上記問題点に着目してなされたものであり、混合液の状態を特定するための指標を容易に導出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様としての状態測定装置は、液体に不溶性の固体物質が混合された混合液の状態を測定する状態測定装置であって、前記混合液に交流信号を印加する電極と、前記交流信号が印加された際に前記混合液に流れる応答信号に基づいて前記混合液のインピーダンスを前記交流信号の周波数ごとに測定する測定手段と、前記固体物質の内部抵抗成分及び前記固体物質同士の接触抵抗成分の少なくとも一方の成分を含む電気成分に対応する要素に基づく一又は複数の並列回路を含む等価回路を設定する設定手段と、前記等価回路のインピーダンスを前記混合液のインピーダンスに近似するための等価回路解析を実行して前記並列回路のパラメータを算出する算出手段と、前記並列回路のパラメータに基づいて前記混合液の状態を特定するための指標を導出する導出手段と、を備え、前記混合液には、複数の固体物質が混合されており、前記等価回路は、第一の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、第二の固体物質の内部抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第二の固体物質同士の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、前記第一の固体物質及び前記第二の固体物質の接触抵抗成分に対応する前記並列回路と、を直列に接続した直列回路を含む
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、測定した混合液のインピーダンスから、固体物質の電気成分に対応する要素に基づく並列回路を含む等価回路を用いて、混合液の状態を特定するための指標が導出されるので、混合液の状態を特定するための指標を容易に導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る状態測定装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、測定装置本体における処理部の機能構成を示すブロック図である。
図3A図3Aは、複素平面インピーダンスデータ生成モジュール及び等価回路解析モジュールにおいて作成される複素平面インピーダンス図を説明するための図である。
図3B図3Bは、等価回路解析に用いられた等価回路を説明するための図である。
図4図4は、本実施形態に係る状態測定装置において実行される等価回路解析を説明するための概念図である。
図5図5は、図4に示した概念を、二次元グリッドを用いて表したモデルを示す図である。
図6図6は、図5に示されたモデルを表す等価回路の一例を説明するための図である。
図7図7は、状態測定装置により実行される状態測定処理を示すフローチャートである。
図8図8は、図5に示されたモデルを表す等価回路の第一変形例を説明するための図である。
図9図9は、導出モジュールによって作成される緩和時間τと抵抗値Rとの対応関係を表す図である。
図10図10は、図5に示されたモデルを表す等価回路の第二変形例を説明するための図である。
図11図11は、導出モジュールによって作成される抵抗値Rと出現頻度との対応関係を表す図である。
図12A図12Aは、導出モジュールによって作成される位置座標iとRの出現頻度との対応関係を表す図である。
図12B図12Bは、導出モジュールによって作成される位置座標iとRの出現頻度との対応関係を連続表現にて表した図である。
図13図13は、撹拌時間に対する導電性の指標をプロットした図である。
図14図14は、撹拌時間に対する均一性の指標をプロットした図である。
図15図15は、均一性と導電性とがともに良好であるスラリーの状態を説明するための模式図である。
図16図16は、均一性は良好ではないが、導電性が良好であるスラリーの状態を説明するための模式図である。
図17図17は、均一性は良好であるが、導電性が良好ではないスラリーの状態を説明するための模式図である。
図18図18は、均一性と導電性とがともに良好でないスラリーの状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[状態測定装置の説明]
本発明の実施形態に係る状態測定装置1について、図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る状態測定装置1の構成を示す概略図である。
【0014】
状態測定装置1は、液槽Xに貯蔵された混合液の一つであるスラリーXcを評価する装置である。スラリーXcは、液体Xaに不溶性の個体物質Xb(以下では、活物質Xbという)が混合されたものである。
【0015】
本実施形態において、スラリーXcは、一例として、リチウムイオン電池の正極又は負極に用いられるスラリーである。本実施形態において、スラリーXcは、バインダ樹脂Bと活物質Xbとを含んだ溶媒に、導電率が高い導電助剤Cが分散したものである。
【0016】
すなわち、スラリーXcには、固体物質として、活物質Xb、バインダ樹脂B、及び導電助剤Cが含まれる。なお、導電率の大小関係は、一般的に、導電助剤C>活物質Xb>バインダ樹脂Bである。
【0017】
状態測定装置1は、スラリーXcに交流信号を印加し、その際にスラリーXcに流れる応答信号に基づいてスラリーXcのインピーダンスを測定する。さらに、状態測定装置1は、スラリーXcの等価回路を設定してその等価回路のインピーダンスが測定結果に近づくように等価回路解析を実行することにより、スラリーXcの状態として本実施形態では物理的特性と電気的特性とを導出する。
【0018】
状態測定装置1は、電極2と、測定装置本体3とを備える。
【0019】
電極2は、液槽Xに貯蔵されたスラリーXcに交流信号としての交流電圧を印加するためのものであり、一対が備えられている。一対の電極2は、互いに対向するように液槽Xの周壁に設けられる。電極2は、例えば、白金又は銅などの不活性金属により形成される。一対の電極2の間には、スラリーXcに印加された交流電圧に応じた応答信号としての応答電流が流れる。なお、スラリーXcに印加される交流信号は、交流電圧に限らず、交流電流であってもよい。
【0020】
測定装置本体3は、図1に示すように、測定手段としての測定部31、記憶手段としての記憶部32、操作部33、表示部34、及び処理手段としての処理部35を含む。
【0021】
測定部31は、一対の電極2の間に位置するスラリーXcに交流電圧が印加された際に流れる応答電流からスラリーXcのインピーダンスを測定する。測定部31は、一対の電極2に、周波数が段階的に変化する交流電圧を印加する。なお、一対の電極2に印加される交流電圧は、測定部31に内蔵される定電圧電源(CV)又は定電流電源(CC)から供給される。そして、測定部31は、交流電圧の周波数が段階的に変化されるたびに、一対の電極2の間の応答電流からインピーダンスを測定して測定信号として処理部35に出力する。
【0022】
記憶部32は、RAM及びROMによって構成される。記憶部32には、スラリーXcの状態を特定するための指標を導出する状態測定処理を実行するプログラムが記憶されている。すなわち、記憶部32は、処理部35の動作プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。記憶部32は、測定装置本体3に対して、着脱可能に構成されていてもよい。
【0023】
また、記憶部32には、状態が既知であるスラリーXcについて、交流電圧の周波数とその交流電圧を印加したときのインピーダンスの実測値との対応関係を示す周波数特性テーブルが記憶されている。具体的には、状態が既知であるスラリーXcに対して印加した交流電圧に対応するインピーダンスの実測値が、その交流電圧の周波数と紐付けられて、周波数特性テーブルとして記憶されている。
【0024】
操作部33は、測定条件の設定操作及び状態測定処理の開始等を指示する各種の操作スイッチを備える。操作部33は、これらの操作に応じた操作信号を処理部35に出力する。操作部33は、機械的に構成される操作スイッチの代わりに、表示部34に形成されるタッチパネルであってもよい。
【0025】
表示部34は、処理部35の指示に従って、スラリーXcの状態測定に係る各種設定画面や測定結果等を表示する。本実施形態においては、表示部34は、液晶パネル等によって構成される。
【0026】
処理部35は、操作部33からの操作信号に従って状態測定装置1を構成する各部を制御する。また、処理部35は、一対の電極2に印加する交流電圧の周波数を制御するとともに、印加した交流電圧に対応するインピーダンスを取得し、取得したインピーダンスに基づいて、スラリーXcの状態を特定するための指標を導出する処理を実行する。
【0027】
本実施形態において、処理部35は、コンピュータとしてのCPUによって構成される。処理部35は、複数のマイクロコンピュータによって構成することも可能である。
【0028】
続いて、測定装置本体3の処理部35の機能構成及び動作について説明する。
【0029】
図2は、測定装置本体3の処理部35の機能構成を示すブロック図である。
【0030】
処理部35は、解析設定モジュール111と、インピーダンス取得モジュール112と、複素平面インピーダンスデータ生成モジュール113と、等価回路解析モジュール114と、導出モジュール115とを備える。以下では、複素平面インピーダンスデータ生成モジュール113のことを、単に生成モジュール113と称する。
【0031】
解析設定モジュール111は、測定部31に対し、電極2に交流電圧を印加する処理とインピーダンスを測定する処理とを実行させるための制御信号を生成する。
【0032】
インピーダンス取得モジュール112は、測定部31によって測定されたインピーダンスを取得する。本実施形態におけるインピーダンス取得モジュール112は、測定部31から送られてきたスラリーXcの応答電流に基づくインピーダンスからインピーダンスの虚数成分及び実数成分を示す実測データを生成し、生成モジュール113に出力する。
【0033】
生成モジュール113は、インピーダンス取得モジュール112から交流電圧の周波数ごとに取得したインピーダンスの虚数部分と実数部分とを示す実測データから、複素平面インピーダンスを示すデータを作成する。
【0034】
本実施形態においては、生成モジュール113は、複素平面インピーダンスを示すデータとして、測定されたインピーダンスの虚数部分を縦軸とし、実数部分を横軸とする複素平面インピーダンス図を作成する。なお、複素平面インピーダンス図は、ナイキスト線図と記される場合もある。
【0035】
生成モジュール113は、作成した複素平面インピーダンス図を等価回路解析モジュール114に出力する。
【0036】
等価回路解析モジュール114は、抵抗器及びコンデンサ等の要素を組み合わせてなる等価回路を用いた等価回路解析を実行する。
【0037】
等価回路解析モジュール114は、設定部121とパラメータ算出部122とを有する。
【0038】
設定部121は、固体物質の電気成分として、固体物質(活物質Xb、バインダ樹脂B、導電助剤C)のそれぞれが有する抵抗成分(インピーダンス)に基づいて等価回路を設定する。本実施形態においては、抵抗成分には、さらに直流抵抗成分と容量成分(交流抵抗成分)とが含まれる。
【0039】
設定部121は、抵抗成分として、固体物質(活物質Xb、バインダ樹脂B、導電助剤C)の内部抵抗成分及び固体物質同士の接触抵抗成分のうち、少なくとも一方の成分を設定することができる。本実施形態では、設定部121は、固体物質の内部抵抗成分に対応する並列回路と、固体物質同士の接触抵抗成分に対応する並列回路とを直列に接続した直列回路を含む等価回路を設定する。
【0040】
設定部121は、並列回路として、抵抗器とコンデンサとの並列回路(R-C)、及び抵抗器とコンスタント・フェーズ・エレメント(以下、CPEと記す)との並列回路(R-CPE)の少なくともいずれか一方を用いて、これらの並列回路を接続してなる等価回路を設定する。
【0041】
設定部121は、スラリーXcに複数の固体物質が混合されている場合には、異なる固体物質ごとに固体物質の内部抵抗成分及び固定物質同士の接触抵抗成分に対応する並列回路と、互いに異なる固体物質の各組合せの接触抵抗成分に対応する並列回路と、設定する。つまり、設定部121は、スラリーXcの等価回路において、第一の固体物質としての活物質Xbの内部抵抗成分に対応する並列回路と、活物質Xb同士の接触抵抗成分に対応する並列回路と、第二の固体物質としてのバインダ樹脂Bの内部抵抗成分に対応する並列回路と、バインダ樹脂B同士の接触抵抗成分に対応する並列回路と、活物質Xbとバインダ樹脂Bとの接触抵抗成分に対応する並列回路とを設定する。
【0042】
また、設定部121は、活物質Xbと導電助剤Cとの間、バインダ樹脂Bと導電助剤Cとの間にも同様の並列回路を設定することができる。
【0043】
本実施形態では、スラリーXcの等価回路は、活物質Xb、バインダ樹脂B及び導電助剤Cそれぞれが有する抵抗成分に基づいて設定される。ここにいう抵抗成分には、活物質Xb、バインダ樹脂B及び導電助剤Cそれぞれの内部抵抗成分と、同じ物質同士の接触抵抗成分と、互いに異なる物質の接触抵抗成分がある。固定物質の数が三つの場合には、抵抗成分の総数の上限、すなわち、等価回路に設定される並列回路の総数の上限は九つとなる。
【0044】
設定部121は、並列回路の数を、要求される導出結果の精度に応じて、固体物質の全ての抵抗成分の総数以下に設定することができる。なお、並列回路の数は、印加される変化する交流電圧の周波数範囲において、当該交流電圧に応答する固体物質の抵抗成分の数に限定してもよい。
【0045】
パラメータ算出部122は、設定部121において設定された等価回路のインピーダンスを、測定部31によって測定された混合液のインピーダンスに近似するための等価回路解析を実行し、設定された等価回路を構成する並列回路の各パラメータを算出する。
【0046】
算出される並列回路の各パラメータとしては、抵抗器の抵抗値、コンデンサの静電容量、コンスタント・フェーズ・エレメント(CPE)のパラメータなどが挙げられる。例えば、R-C回路を一要素とした場合には、並列回路のパラメータは、抵抗器Rの抵抗値及びコンデンサCの静電容量である。また、R-CPE回路を一要素とした場合には、並列回路のパラメータには、後述のCPE定数T、CPE指数p等が含まれる。
【0047】
等価回路解析モジュール114は、スラリーXcの等価回路にCPEを適用した場合には、適用した等価回路における初期のパラメータに基づいて、等価回路におけるインピーダンスの実部及び虚部の周波数特性を示す初期のインピーダンス特性データを生成する。
【0048】
等価回路解析モジュール114は、生成した初期のインピーダンス特性データがスラリーXcのインピーダンスの実測データに近づくよう、等価回路のパラメータを順次変更する。等価回路解析モジュール114は、実測データと一致するインピーダンス特性データが得られる等価回路のパラメータを解析結果として出力する。このように、等価回路解析モジュール114は、CPEを適用した等価回路を用いて等価回路解析を実行する。
【0049】
本実施形態においては、等価回路解析モジュール114は、インピーダンス特性データとして、設定部11において設定された等価回路の複素平面インピーダンス図を作成する。
【0050】
なお、コンスタント・フェーズ・エレメント(CPE)とは、通常のコンデンサCに対して、種々の外乱を考慮することのできる因子を含む要素である。CPEのインピーダンスZCPEは、以下の式(1)により表される。
【0051】
【数1】
【0052】
ただし、上式(1)において、
jは、虚数単位であり、
ωは、角周波数であり、
Tは、CPE定数であり、
pは、CPE指数(ZCPEの次数)である。
【0053】
上式(1)に示したように、CPEのインピーダンスZCPEは、CPE定数TとCPE指数pとで構成される。例えば、インピーダンスZCPEが単純な容量性挙動を示す場合においては、CPE指数pは、0から1までの範囲内の値をとる。
【0054】
また、上式(1)において、p=1のとき、CPE定数Tは、通常のコンデンサCと等価となり、スラリーXcの等価回路は、通常のコンデンサCから構成されることになるので、インピーダンスZCPEは、通常のコンデンサCの値を示す。
【0055】
図3Aは、生成モジュール113及び等価回路解析モジュール114において作成される複素平面インピーダンス図を説明するための図である。また、図3Bは、等価回路解析に用いられた等価回路CCPEを示す図である。
【0056】
図3Aに示す実線は、インピーダンスの測定データに基づいて、生成モジュール113によって作成された複素平面インピーダンス図Aである。また、破線は、等価回路解析モジュール114によって作成された複素平面インピーダンス図Bを示す。
【0057】
図3Bに示す等価回路CCPEの一例は、抵抗器R1とCPE1とからなる並列回路R-CPE1と、抵抗器R2とCPE2とからなる並列回路R-CPE2と、抵抗器R3とCPE3とからなる並列回路R-CPE3とを直列接続して得られる等価回路である。
【0058】
図3Aにおける複素平面インピーダンス図Bは、図3Aに示す等価回路CCPEを用いて等価回路解析を実行して得られる複素インピーダンス図である。
【0059】
等価回路解析モジュール114は、複素平面インピーダンス図Bが複素平面インピーダンス図Aと重なるように、等価回路CCPEの各並列回路における抵抗器R及びCPEに関連するパラメータの変更を繰り返す。
【0060】
等価回路解析モジュール114は、等価回路解析モジュール114によって生成された複素インピーダンス図を取得し、これを解析する。
【0061】
等価回路解析モジュール114は、複素平面インピーダンス図Bが複素平面インピーダンス図Aに重なるように、等価回路の回路素子のパラメータを設定する。
【0062】
複素平面インピーダンス図Bが複素平面インピーダンス図Aに重なったときの、抵抗器R及CPEに関連するパラメータを導出モジュール115に出力する。
【0063】
導出モジュール115は、パラメータ算出部122から入力したパラメータに基づいて、スラリーXcの状態を特定するための指標を導出する。本実施形態において、スラリーXcの状態を特定するための指標の一例として、電気的特性としては導電性が挙げられる。また、物理的特性としては、均一性が挙げられる。
【0064】
以上の構成を有することにより、処理部35は、測定部31によって測定されたスラリーXcのインピーダンスから複素平面インピーダンス図Aを作成する。また、処理部35は、等価回路解析モジュール114によって、抵抗器RとCPEとからなる並列回路を一要素とする等価回路を用いて複素平面インピーダンス図Bを作成し、複素平面インピーダンス図Bが複素平面インピーダンス図Aに重なるように、等価回路の並列回路の要素のパラメータを設定する。そして処理部35は、複素平面インピーダンス図Bが複素平面インピーダンス図Aに重なったときの抵抗器の抵抗値R、コンデンサの静電容量C、及びCPEに関連するパラメータに基づいて、スラリーXcの状態を特定するための指標を導出する。
【0065】
<等価回路解析及び指標導出計算>
次に、本実施形態において、処理部35で実行される等価回路解析について説明する。図4は、状態測定装置1において実行される等価回路解析を説明するための概念図である。
【0066】
本実施形態において、スラリーXcは、バインダ樹脂Bと活物質Xbとを含んだ溶媒に、導電率が高い導電助剤Cが分散したものである。
【0067】
等価回路解析を説明するにあたり、まず、本実施形態において導入するスラリーXcのモデルについて説明する。
【0068】
図4に示されるように、スラリーXcにおいて、活物質Xbは、一次粒子として存在したり、凝集して二次粒子を形成したりしている。また、導電助剤Cも同様に、一次粒子として存在したり、凝集して二次粒子を形成したりしている。そして、バインダ樹脂Bを含む溶媒における活物質Xbと導電助剤Cとの分散状態によって、部分的に電気的導通が形成されていると考えられる。
【0069】
図5は、図4に示したスラリーXcのモデルを二次元グリッドを用いて表したモデルを示す図である。
【0070】
活物質Xb、バインダ樹脂B及び導電助剤Cは、それぞれ所定の内部抵抗(インピーダンス)を有するので、図5に示されるように、活物質Xb、バインダ樹脂B、導電助剤Cの各々を、抵抗器とコンデンサとを用いた並列回路で表すことができ、さらに、スラリーXc全体も一つの回路として表すことができる。また、活物質Xb、バインダ樹脂B、導電助剤Cの各々を、抵抗器、コンデンサ、コンスタント・フェーズ・エレメント(CPE)等を用いた並列回路で表すこともできる。
【0071】
図6は、図5に示されたモデルを表す等価回路の一例を説明するための図である。
【0072】
図5に示されたモデルは、図6に示す等価回路として表すことができる。図6において、R11、T11及びp11からなる一要素はそれぞれ、複数ある固体物質の抵抗成分のうちの一つの成分を表したものである。
【0073】
本実施形態において、スラリーXcには、活物質Xbと、バインダ樹脂Bと、導電助剤Cとが含まれる。このため、固体物質の抵抗成分として、活物質Xb、バインダ樹脂B及び導電助剤Cそれぞれの内部抵抗成分と、同じ物質同士(活物質Xb同士、バインダ樹脂B同士及び導電助剤C同士)の接触抵抗成分とを等価回路に設定することができる。
【0074】
また、固体物質間の接触抵抗成分として、活物質Xbとバインダ樹脂Bとの接触抵抗成分、活物質Xbと導電助剤Cとの接触抵抗成分、バインダ樹脂Bと導電助剤Cとの接触抵抗成分とを設定することができる。
【0075】
図5に示されたモデルにおいて、実際には、抵抗値が最も低い導通経路に優先的に電流が流れる。このため、図6に示された等価回路では、多数の導通経路のうち抵抗値が最も低い導通経路を構成するいくつかの要素の影響が支配的となるため、電気的に殆ど導通しないと考えられる導通経路については、省略できる場合がある。
【0076】
このため、図6に示された等価回路は、上述した抵抗成分のうち、特定の抵抗成分に対応する並列回路を直列に接続した直列回路として表すことができる。
【0077】
このような直列回路の一例として、図3Bに示した等価回路CCPEを設定することができる。
【0078】
図3Bに示す等価回路の一例では、並列回路(要素)の数が三つの場合が示されている。ここで、並列回路(要素)の数は、図5に示すように、スラリーXcを構成する固体物質に基づく抵抗成分の種類の数に応じて決定することができる。このため、スラリーXcに含まれる固体物質に基づく抵抗成分の総数が、等価回路において設定可能な並列回路の上限数となる。
【0079】
ここで、抵抗成分の種類の数の上限値NP maxは、以下の式で表すことができる。
【0080】
【数2】
【0081】
一例として、固体物質の種類数NM=2であれば、上式により、抵抗成分の種類の上限値NP maxは、NP max=5となる。また、固体物質の種類数NM=3であれば、抵抗成分の種類の上限値NP maxは、NP max=9となる。
【0082】
固体物質の種類が2種類である場合の上限である5種類の成分について、図4を用いて説明する。
【0083】
5種類の成分には、活物質Xbのインピーダンス(Z1)と、導電助剤Cのインピーダンス(Z2)、活物質Xbと活物質Xbとの界面のインピーダンス(Z11)、活物質Xbと導電助剤Cとの界面のインピーダンス(Z12)、導電助剤Cと導電助剤Cとの界面のインピーダンス(Z22)の、5成分がある。
【0084】
ここで、図4から、活物質Xbに流れる電流が微少であると考えられることから、各インピーダンスの絶対値の間には、下記式の関係が成り立つ。
|Z2|<<|Z1|,|Z12|,|Z11|
【0085】
また、|Z22|による電圧降下は、|Z2|に比べて無視できる程度に小さい場合には、|Z22|成分を要素として含めなくてもよい。この場合には、|Z2|の要素のみを考慮すれば足りる。したがって、NP maxの最小値は、1とすることができる。
【0086】
処理部35は、上記等価回路に基づいて複素平面インピーダンス図Bを作成し、この複素平面インピーダンス図Bが複素平面インピーダンス図Aに重なるように、等価回路の各要素のパラメータである抵抗値R、CPE定数T及びCPE指数p等を設定する。CPE定数T及びCPE指数pの代わりに、静電容量Cが設定される場合もある。
【0087】
そして、導出モジュール115は、複素平面インピーダンス図Bが複素平面インピーダンス図Aに重なったときの各要素のパラメータに基づいて、スラリーXcの状態を特定するための指標を導出する。
【0088】
本実施形態において、導出モジュール115は、上記指標として、スラリーXcの物理的特性を表す指標と、電気的特性を表す指標と、をそれぞれ導出する。
【0089】
物理的特性を表す指標の一例としては、均一性が挙げられる。導出モジュール115は、得られた等価回路のパラメータのうち、並列回路の抵抗値R、コンデンサの静電容量C及びCPE指数pの少なくともいずれか一つの値に基づいて、スラリーXcの均一性を表す指標を導出することができる。
【0090】
具体例として、CPE指数pに基づいて、以下の式P1から式P3により、スラリーの均一性を表す指標を導出することができる。
【0091】
【数3】
【0092】
上記式P1から式P3において、λは、スラリーXcのある特定の電流の導通経路であり、λ'は、固体物質の種別と固体物質同士の接点の種別を表す。本実施形態では、活物質Xb、バインダ樹脂B及び導電助剤Cである。
【0093】
uλλ'は、固体物質の一つの要素の均一性を表す。したがって、上記モデルにおいては、CPE指数pが固体物質の均一性uを表している。
uλは、ある導通経路における、ある固体物質と、この固体物質同士の接点に関する均一性の総和を表す。
uは、ある導通経路における、ある固体物質とこの固体物質同士の接点に関する均一性の総和を、含まれている複数の固体物質のそれぞれについて求め、これを足し合わせた均一性の総和を表す。
【0094】
また、電気的特性を表す指標の一例としては、導電性が挙げられる。導出モジュール115は、得られた等価回路のパラメータのうち、並列回路の抵抗値R、コンデンサの静電容量C、CPE定数T及びCPE指数pの少なくともいずれか一つの値に基づいて、スラリーXcの導電性を導出することができる。
【0095】
すなわち、抵抗値Rの合計から、スラリーXcの直流抵抗に依存する指標を導出できる。また、コンデンサC又はCPE定数Tの合計から、スラリーXcの高周波極限の容量に依存する指標を導出できる。また、スラリーXc全体の抵抗に対する着目する固体物質の抵抗の割合を導出できる。また、スラリーXc全体の容量に対する着目する固体物質の容量の割合を導出できる。
【0096】
より具体的には、以下の式E1から式E10により電気的特性を表す指標を導出できる。
【0097】
【数4】
【0098】
【数5】
【0099】
上記式E1から式E10において、λは、スラリーXcのある特定の電流の導通経路であり、λ'は、固体物質の種別と固体物質同士の接点の種別を表す。本実施形態では、活物質Xb、バインダ樹脂B及び導電助剤Cである。
【0100】
αλλ'は、複数の電流の導通経路のうち、着目する導通経路λにおける、着目する固体物質又は接点λ'に関する抵抗に関わる導電性を表す。
αは、スラリーXcの抵抗の総和を表す。
α-1は、スラリーXcの容量の総和を表す。
αλは、着目する経路λにおける抵抗の和を表す。
αλ-1は、経路λにおける容量の和を表す。
【0101】
また、導出モジュール115は、等価回路解析により得られた各要素のパラメータから、各要素の緩和時間τx calcを算出する。
【0102】
本発明者らは、上述のモデルに基づいて設定された、固体物質自身、同一の固体物質同士の接点、又は異なる固体物質間の接点には、それぞれ固有の緩和時間があることを見出した。
【0103】
図5に示されたモデルを表す等価回路として、図6に示された等価回路を適用した場合には、等価回路解析によって得られた各要素の抵抗器の抵抗値Rと、CPE定数T及びCPE指数pを用いて、以下の式により、各要素の緩和時間を算出することができる。
【0104】
【数6】
【0105】
一例として、測定されたスラリーXcのインピーダンスの等価回路解析により算出された各要素の緩和時間τx calcとスラリーの状態が既知である基準スラリーを測定して得られた各要素の標準緩和時間τλrefとを比較することにより、各要素のインピーダンス値と固体物質の種類(固体物質間の界面の種類)とを特定することができる。
【0106】
以上のように、本実施形態に係る状態測定装置1は、等価回路解析を実行して得られた各要素に関するパラメータから、上述のようにして、物理的特性と電気的特性とを導出することができる。
【0107】
<状態測定処理>
次に、図7を参照しながらスラリーXcの評価指標としての物理的特性と電気的特性とを導出する測定する状態測定処理について説明する。
【0108】
図7は、状態測定装置1により実行される状態測定処理を示すフローチャートである。
【0109】
まず、測定者による操作部33への操作によって、状態測定処理が開始されると、ステップS1に進む。
【0110】
ステップS1において、処理部35の解析設定モジュール111は、測定部31に対して、スラリーXcへの電圧印加処理の実行を指示する。具体的には、解析設定モジュール111は、測定部31に対して、周波数を変化させながらスラリーXcへ交流電圧を印加する処理の実行を指示する。
【0111】
これにより、測定部31は、解析設定モジュール111からの指示に従って、一対の電極2を介してスラリーXcに交流電圧を印加し、印加する交流電圧の周波数を変化させる制御を実行する。
【0112】
また、測定部31は、交流電圧の周波数が変化させられるたびに一対の電極2によってスラリーXcに流れる応答電流からスラリーXcのインピーダンスを測定する。そして、測定部31は、測定されたインピーダンスを測定データとして、測定装置本体3のインピーダンス取得モジュール112に出力する。
【0113】
続いて、ステップS2において、インピーダンス取得モジュール112は、インピーダンスの測定データを測定部31から取得する。
【0114】
ステップS3において、インピーダンス取得モジュール112は、インピーダンスの虚数成分及び実数成分を生成する。インピーダンス取得モジュール112は、生成した虚数成分及び実数成分を生成モジュール113に出力する。
【0115】
続いて、ステップS4において、生成モジュール113は、インピーダンスの測定データに基づいて、図3Aに示したように、複素平面インピーダンス図Aを作成し、作成した複素平面インピーダンス図Aを等価回路解析モジュール114に出力する。
【0116】
ステップS5において、等価回路解析モジュール114は、測定データに基づいて、スラリーXcに含まれる固体物質の抵抗成分に基づいて、等価回路を構成する抵抗器RとCPEとの並列回路(R-CPE回路)及びR-CPE回路の数を設定した後、等価回路解析を実行し、等価回路のパラメータを算出する。
【0117】
そして、等価回路解析モジュール114は、設定した等価回路の複素平面インピーダンス図Bを作成する。
【0118】
例えば、等価回路解析モジュール114は、初期値を必要とする場合には、スラリーXcの測定データに基づいて複素平面に描かれる半円の直径をRとし、その半円の頂点の周波数をftopとし、初期のCPE定数Tを次式(2)のように設定し、初期のCPE指数pを1に設定する。そして等価回路解析モジュール114は、CPE定数T及びCPE指数pの設定値に基づいて、初期の等価回路の複素平面インピーダンス図Bを生成する。
【0119】
【数7】
【0120】
ステップS6において、等価回路解析モジュール114は、複素平面インピーダンス図Aと複素平面インピーダンス図Bとを比較し、両者が重なるか否か判別する。
【0121】
複素平面インピーダンス図Aと複素平面インピーダンス図Bとが重ならない場合(ステップS6:No)、ステップS5に戻って、等価回路解析モジュール114は、等価回路CCPEの回路素子のパラメータ(変数)を設定し直し、新たな複素平面インピーダンス図Bを作成する。
【0122】
等価回路解析モジュール114は、複素平面インピーダンス図Bが、生成モジュール113から取得した複素平面インピーダンス図Aに重なるように、等価回路CCPEの各並列回路における抵抗器R及びCPEに関連するパラメータの設定を繰り返す。これをフィッティング処理という。
【0123】
等価回路解析モジュール114は、複素平面インピーダンス図Aと複素平面インピーダンス図Bとが重なった際(ステップS6:Yes)、等価回路解析モジュール114は、最終的に得られた複素平面インピーダンス図Bを導出モジュール115に出力する。
【0124】
ステップS7において、導出モジュール115は、等価回路解析モジュール114から複素平面インピーダンス図Bに関する等価回路パラメータ(抵抗値R、静電容量C、CPE定数T及びCPE指数p)を取得する。
【0125】
導出モジュール115は、各要素のパラメータに基づいて、スラリーXcの物理的特性を表す指標と電気的特性を表す指標とを導出する。
【0126】
次に、ステップS8において、表示部34は、処理部35の指示に従って、スラリーXcの電気的特性及び物理的特性を表示する。そして、処理部35は、状態測定処理を終了する。
【0127】
<状態測定プログラム>
上述した状態測定方法は、均一度の測定をコンピュータに実行させるためのプログラムとして提供することもできる。
【0128】
すなわち、本実施形態に係るプログラムは、液体Xaに不溶性の固体物質(活物質Xb)が混合された混合液としてのスラリーXcの状態の測定をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、スラリーXcに交流信号の周波数を変化させながら交流信号を印加し、スラリーXcに交流信号が印加された際にスラリーXcに流れる応答信号に基づいてスラリーXcのインピーダンスを前記交流信号の周波数ごとに測定し、測定されたインピーダンスから、抵抗器RとコンデンサC又はコンスタント・フェーズ・エレメント(CPE)との並列回路を活物質Xbの内部抵抗成分に対応する要素とする等価回路を求め、等価回路のインピーダンスをスラリーXcのインピーダンスに近似するための等価回路解析を実行して並列回路のパラメータを算出し、並列回路のパラメータに基づいてスラリーXcの状態を特定するための指標を導出する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0129】
本実施形態においては、上述のプログラムは、記憶部32に記憶されていてもよく、状態測定装置1に対して着脱可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0130】
<作用効果>
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
【0131】
本実施形態に係る状態測定装置1は、混合液であるスラリーXcに流れる応答電流からスラリーXcのインピーダンスを測定し、スラリーXcに含まれる固体物質(活物質Xb、バインダ樹脂B及び導電助剤C)の抵抗成分に対応する並列回路(R-C/R-CPE)を少なくとも一要素とする等価回路を設定する。そして、状態測定装置1は、設定した等価回路の複素平面インピーダンス図Bを作成し、フィッティング処理を行うことによって等価回路に関するパラメータを算出し、得られた並列回路のパラメータからスラリーXcの状態を特定するための指標を導出する。
【0132】
まず、発明者らは、並列回路(R-C/R-CPE)を混合液に含まれる固体物質の抵抗成分とみなすことにより、並列回路(R-C/R-CPE)のパラメータから混合液の状態を把握できることを見出した。このため、状態測定装置1は、上記指標を導出するにあたり、得られた並列回路のパラメータを、混合液に含まれる固体物質の抵抗成分として扱う。これにより、得られた並列回路のパラメータに基づいて導出される指標は、混合液における固体物質の状態変化に応じて変化するものとなるので、その指標から混合液の状態を特定することが可能になる。
【0133】
したがって、状態測定装置1は、スラリーXcに電流を印加することで得られるスラリーXcのインピーダンスの実測データを用いて等価回路解析を実行することにより、混合液の状態を特定するための指標を容易に導出することができる。
【0134】
状態測定装置1において、設定部121は、固体物質の内部抵抗成分に対応する並列回路と、固体物質同士の接触抵抗成分に対応する並列回路とを直列接続した直列回路を含む等価回路を設定する。これにより、状態測定装置1は、固体物質の内部抵抗成分に加え、接触抵抗成分を考慮することにより、等価回路解析の精度を向上させることができる。
【0135】
状態測定装置1において、設定部121は、スラリーXcに複数の固体物質が混合されている場合には、複数の固体物質それぞれの内部抵抗成分に対応する並列回路と、同じ固体物質同士の接触抵抗成分に対応する並列回路と、異なる固体物質間の接触抵抗成分に対応する並列回路とを設定する。これにより、状態測定装置1は、複数の個体物質が混合された液体であっても、混合液の状態を特定するための指標を容易に導出することができる。
【0136】
また、設定部121は、上述の並列回路(要素)の数を固体物質の全ての抵抗成分の総数以下に設定することができる。したがって、等価回路解析の要素の数を適正な数にすることができ、演算量を低減することができる。
【0137】
導出モジュール115は、上記の式P1から式P3、式E1から式E10に示したように、複数の固体物質の内部抵抗成分又は接触抵抗成分に対応する並列回路における、抵抗器の抵抗値R、コンデンサの静電容量C、CPE定数T及びCPE指数pのうち少なくとも一つのパラメータ同士を合成した値に基づいて混合液の状態を特定するための指標を導出する。したがって、状態測定装置1によれば、混合液の状態を容易に取得することができる。
【0138】
状態測定装置1によれば、等価回路の各要素のパラメータである抵抗値R、静電容量C、及びCPE指数pに基づいて、スラリーXcの均一性を導出することができる。また、等価回路の各要素のパラメータである抵抗値R、静電容量C、CPE定数T及びCPE指数p等に基づいて、スラリーXcの導電性を導出することができる。このため、客観的に混合液の状態を特定し得るデータを取得可能である。
【0139】
状態測定装置1は、本実施形態に示すように、固体物質として、活物質、バインダ及び導電助剤が溶媒に分散されてなるリチウムイオン電池の正極に用いられるスラリーに対して、好適に用いることができる。
【0140】
[等価回路解析と指標導出計算の他の実施形態]
<第一変形例>
図8は、図5に示されたモデルを表す等価回路の第一変形例を説明するための図である。
【0141】
図8に示されるように、図6に示された等価回路は、抵抗器RとコンデンサCとからなる並列回路を一要素とする等価回路に置き換えてもよい。
【0142】
第一変形例の場合も、上述した等価回路解析と同様に、並列回路(要素)の数は、スラリーXcに含まれる固体物質に基づく抵抗成分の数に応じて設定することができる。
【0143】
また、第一変形例においては、スラリーXcの複素平面インピーダンスを、以下の式(3)で定義することができる。
【0144】
【数8】
【0145】
第一変形例の等価回路解析において、等価回路解析モジュール114は、複素平面インピーダンス図Aと複素平面インピーダンス図Bとのフィッティング処理を行い、Rkと、Ckとを算出する。また、導出モジュール115は、RkとCkとの積から、下記式により、緩和時間τkを導出する。
【0146】
【数9】
【0147】
導出モジュール115は、横軸を緩和時間τとし縦軸を抵抗値Rとする対応関係をプロットする。
【0148】
図9は、導出モジュール115によって作成される緩和時間τと抵抗値Rとの対応関係を表す図である。導出モジュール115は、図9に示されたτ-Rプロットにおいて、任意の区間τ1~τ2により区画される領域S12を設定する。
【0149】
第一変形例によれば、下記の式(4)に示すように、領域S12における緩和時間τの分散を算出することにより、スラリーXcの均一性uを導出することができる。また、均一性uは、下記の式(5)に示すように、領域S12におけるRの半値幅からも導出できる。
【0150】
また、下記の式(6)又は式(7)により、スラリーXcの導電性αを導出することができる。
【0151】
【数10】
【0152】
また、測定されたスラリーXcのインピーダンスの等価回路解析により算出された各要素の緩和時間τkと、スラリーの状態が既知である基準スラリーを測定して得られた各要素の標準緩和時間τλrefとを比較することにより、各要素のインピーダンス値と固体物質の種類(固体物質間の界面の種類)とを特定することができる。
【0153】
<第二変形例>
図10は、図5に示されたモデルを表す等価回路の第二変形例を説明するための図である。
【0154】
第二変形例においては、固体物質の内部抵抗成分は、離散表現を用いて(Rix,Cix),(Riy,Ciy),(Riz,Ciz)により表すことができ、固体物質同士の接触抵抗成分は、Ri-j,Cijで表すことができる。なお、各抵抗成分は、離散表現ではなく、連続表現を用いて表してもよい。
【0155】
第二変形例の等価回路解析において、等価回路解析モジュール114は、図10に示す三次元格子モデルに基づく等価回路を用いて、複素平面インピーダンス図Aと複素平面インピーダンス図Bとのフィッティング処理を行い、等価回路の各パラメータを算出する。
【0156】
導出モジュール115は、横軸を抵抗値Rとし縦軸をRの出現頻度とする対応関係をプロットする。
【0157】
図11は、導出モジュール115によって作成される抵抗値Rと出現頻度との対応関係を表す図である。導出モジュール115は、図11に示されたプロットにおいて、任意の区間R1~R2により区画される領域S12を設定する。
【0158】
第二変形例によれば、下記の式(8)に示すように、領域S12における抵抗値Rの分散を算出することにより、スラリーXcの均一性uを導出することができる。また、均一性uは、下記の式(9)に示すように、領域S12における出現頻度の半値幅からも導出できる。
【0159】
さらに、下記の式(10)又は式(11)により、スラリーXcの導電性αを導出することができる。
【0160】
【数11】
【0161】
また、図10に示す三次元格子モデルに基づく等価回路では、緩和時間は、以下の式で表される。
【0162】
【数12】
【0163】
測定されたスラリーXcのインピーダンスの等価回路解析により算出された各要素の緩和時間τix(iy,iz) calcと、スラリーの状態が既知である基準スラリーを測定して得られた各要素の標準緩和時間τλrefとを比較することにより、各要素のインピーダンス値と固体物質の種類(固体物質間の界面の種類)とを特定することができる。
【0164】
<第三変形例>
第三変形例として、導出モジュール115は、第二変形例の三次元格子モデルを用いて算出された等価回路の各パラメータのうち、緩和時間τと抵抗値Rとを用いて、第一変形例同様、横軸を緩和時間τとし縦軸を抵抗値Rとする対応関係をプロットしてもよい。
【0165】
導出モジュール115は、図9に示したものと同様に得られるτ-Rプロットにおいて、任意の区間τ1~τ2により区画される領域S12を設定し、式(4)から式(7)を適用することにより、スラリーXcの均一性uを導出することができる。
【0166】
<第四変形例>
第三変形例として、導出モジュール115は、第二変形例の三次元格子モデルを用いて算出された等価回路の各パラメータを用いて、以下の処理を行う。
【0167】
第四変形例で用いるモデルは、近似が少なく、実際のスラリーXcの状態に近いモデルを設定することができる。
【0168】
第二変形例の等価回路解析において、等価回路解析モジュール114は、三次元格子モデルに基づく等価回路を用いて、複素平面インピーダンス図Aと複素平面インピーダンス図Bとのフィッティング処理を行い、各要素に対応する抵抗値Riを、三次元格子を構成する各要素の位置座標に対応付けて算出する。
【0169】
三次元格子において、抵抗値Riに任意の範囲R1からR2を設定する。この範囲により設定される領域Ω12において、フィッティング処理により得られた抵抗値RiがR1~R2に収まる値になっている位置座標(ix,iy,iz)=iを、抵抗値Riの出現頻度1の格子として抽出する。
【0170】
図12Aは、導出モジュール115によって作成される位置座標iとRの出現頻度との対応関係を表す図である。ただし、図12Aは、離散表現で表した場合である。図12Bは、導出モジュール115によって作成される位置座標iとRの出現頻度との対応関係を連続表現にて表した図である。
【0171】
導出モジュール115は、図12Bに示されるように、横軸をixとし、縦軸をRの出現頻度とする対応関係をプロットする。横軸は、iy,izの場合であってもよい。このi-Rプロットにおいて、任意の区間i1~i2により区画される領域S12を設定する。
【0172】
導出モジュール115は、式(12)から式(15)により、スラリーXcの均一性uと導電性αとを導出することができる。
【0173】
【数13】
【0174】
なお、図12Aでは、一例として、位置座標の範囲は、1~30に設定されている。この場合には、均一性uは、以下の式にて算出できる。
【0175】
【数14】
【0176】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0177】
状態測定装置1は、一対の電極2を備えているが、3つ以上の電極を備えていてもよい。3以上の電極を用いて、スラリーXcのインピーダンスを測定することも可能である。
【0178】
状態測定装置1において、記憶部32、操作部33及び表示部34は、測定装置本体3とは別に構成されていてもよい。また、測定部31は、状態測定装置1から切り離されて、例えば、解析装置のように別の装置として提供されてもよい。
【0179】
状態測定装置1は、種々の形態を取り得る。例えば、状態測定装置1は、据え置き型に構成されていてもよい。また、状態測定装置1は、携帯型の装置として構成されていてもよい。
【実施例
【0180】
本実施形態に係る状態測定装置1を用いて、混合液の物理的特性と電気的特性とを導出し、混合液の評価を行った。混合液としては、リチウムイオン電池の正極に用いられるスラリーを用いた。
【0181】
<供試体の組成>
供試体の組成は、次のとおりである。
(固体物質)
活物質:LiCO2 42.3質量%
導電助剤:ファーネスブラック 2.4質量%
バインダ樹脂:ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVdF) 2.4質量%
(溶媒)
N-メチルピロリドン(NMP) 52.9質量%
【0182】
すなわち、LiCO2、ファーネスブラック、PVdFが溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)に分散されてなるスラリーである。
【0183】
<供試体の作製>
上述のスラリーに対して撹拌時間を異ならせた複数の供試体を作製した。具体的には、撹拌時間1分間、6分間、12分間、18分間、24分間、30分間の供試体を作製した。スラリーの撹拌は、シンキー社製、商品名:あわとり錬太郎により行った。
【0184】
<供試体の状態測定>
状態測定装置1を用いて、撹拌時間を異ならせて作製された各供試体の状態を測定した。本例では、スラリーの状態を特定するための指標として、物理的特性のうち均一性に関する指標、電気的特性のうち導電性に関する指標をそれぞれ導出した。
結果を図13及び図14に示す。
【0185】
<結果>
図13は、撹拌時間に対する導電性の指標をプロットした図であり、図14は、撹拌時間に対する均一性の指標をプロットした図である。
【0186】
図13によれば、スラリーの導電性は、撹拌時間を長く設定することで良好になるが、撹拌時間が12分間を超えると、導電性は低下し、特定値に収束する傾向があることがわかった。
【0187】
また、図14によれば、スラリーの均一性は、撹拌時間を長く設定することで良好になり、撹拌時間12分間から24分間の間にピークに達し、その後は概ね、ピーク値付近において安定する傾向があることがわかった。
【0188】
図15から図18は、スラリーの状態を説明するための模式図であり、バインダ樹脂が含まれる有機溶媒に導電助剤が分散した状態を表した模式図である。図15は、均一性と導電性とがともに良好であるスラリーの状態を説明するための模式図であり、図16は、均一性は良好ではないが、導電性が良好であるスラリーの状態を説明するための模式図である。また、図17は、均一性は良好であるが、導電性が良好ではないスラリーの状態を説明するための模式図であり、図18は、均一性と導電性とがともに良好でないスラリーの状態を説明するための模式図である。
【0189】
図15に示された状態では、活物質が単粒子として有機溶媒内において適度に分散されている。また、分散した活物質同士が導電助剤の単粒子の結合によって接続されることで電気的な導通経路が形成されている。
【0190】
図16に示された状態は、活物質の一部が二次粒子を形成しており、活物質の単粒子同士、また、活物質の二次粒子同士の間に、導電助剤の単粒子、二次粒子、又はその両方の結合によって電気的な導通経路が形成されている状態である。撹拌時間の初期におけるスラリーは、このような状態になっていると考えられる。
【0191】
図17に示された状態では、活物質が単粒子として分散しているが、導電助剤も分散されており、活物質同士を接続する十分な導通経路が形成されていない。撹拌時間の後半におけるスラリーは、この状態になっていると考えられる。このようなスラリーは、均一性は良好であっても、電気的な導通経路が形成されにくいため、電気的特性は低く示されると考えられる。
【0192】
図18に示された状態では、活物質の一部が二次粒子を形成しており、導電助剤の一部も二次粒子を形成している。撹拌開始直後には、スラリーはこの状態になっていると考えられる。
【0193】
撹拌時間が適切であれば、スラリーは、図15に示された状態になっていると考えられる。このようなスラリーは、均一性と導電性ともに良好である。
【0194】
以上のように、状態測定装置1を用いた測定によれば、スラリーの物理的特性と電気的特性とを取得可能になったため、スラリーの均一性と導電性について、両者のバランスを目的に応じて調節し得る条件を管理することが可能となった。
【0195】
また、本実施形態に係る状態測定装置1によれば、電気的特性を特定するための指標と物理的特性を特定するための指標とを容易に導出できるため、スラリーのような混合液の品質を管理する分野に有用である。
【符号の説明】
【0196】
1 均一度測定装置
2 電極
3 測定装置本体
31 測定部
32 記憶部
33 操作部
34 表示部
35 処理部
111 解析設定モジュール
112 インピーダンス取得モジュール
113 複素平面インピーダンスデータ生成モジュール
114 等価回路解析モジュール
115 導出モジュール
121 設定部
122 パラメータ算出部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18