(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】被膜構造物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20241115BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241115BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
B05D7/24 303B
B05D7/24 303G
B05D7/24 302L
(21)【出願番号】P 2020150673
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】ダイキンファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】前田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌秀
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-057868(JP,A)
【文献】特開2015-078345(JP,A)
【文献】特開2005-335184(JP,A)
【文献】特開2013-231129(JP,A)
【文献】特開2020-132792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂、及び導電性フィラーを含む被膜構造物であって、
前記被膜構造物の表面は、海島構造を呈しており、
前記海島構造の海部に導電性フィラーが存在
し、
前記海島構造の海部と島部は、同一のフッ素樹脂材料からなるフッ素樹脂を主成分として含む、
被膜構造物。
【請求項2】
前記導電性フィラーは、カーボンナノチューブである、請求項
1に記載の被膜構造物。
【請求項3】
前記被膜構造物の表面の表面粗さ(Ra)は、5μm以下である、請求項
1又は2に記載の被膜構造物。
【請求項4】
基材と、該基材の表面に設けられた、請求項1~
3のいずれか1項に記載の被膜構造物とを有する、被覆部材。
【請求項5】
基材と、該基材の表面に設けられた被膜構造物とを有する被覆部材の製造方法であってs、
第1のフッ素樹脂を含む第1原料と、第2のフッ素樹脂及び導電性フィラーを含む複合樹脂材料である第2原料とを混合して、被覆用混合材料を得る混合工程、
前記被覆用混合材料を基材に塗工して被膜構造物を形成する塗工工程、
を含
み、
前記第1のフッ素樹脂と、前記第2のフッ素樹脂は、同一のフッ素樹脂材料を用いる、
被覆部材の製造方法。
【請求項6】
前記塗工工程は、前記第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂の融点以上に加熱する加熱工程を含む、請求項
5に記載の被覆部材の製造方法。
【請求項7】
前記塗工工程は、ロトライニング工程である、請求項
5又は6に記載の被覆部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被膜構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ等の導電性フィラーとフッ素樹脂の複合材料を用いて成形された成形体は、フッ素樹脂が有する耐熱性及び耐薬品性等を保ちつつ、導電性を示すことが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等が、上記のような導電性フィラーとフッ素樹脂の複合材料を塗料原料として用い、当該複合材料を含む塗料を基材にコーティングして被膜を形成したところ、極少量の導電性フィラーの使用で十分な導電性が得られたものの、得られた被膜の表面状態は平滑性に乏しく、外観に劣ることが見出された(
図2参照)。
【0005】
本開示の目的は、導電性に優れ且つ外観に優れた被膜構造物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、下記の態様を含む。
[1] フッ素樹脂、及び導電性フィラーを含む被膜構造物であって、
前記被膜構造物の表面は、海島構造を呈しており、
前記海島構造の海部に導電性フィラーが存在する、被膜構造物。
[2] 前記海島構造の海部と島部は、同一のフッ素樹脂を主成分として含む、上記[1]に記載の被膜構造物。
[3] 前記導電性フィラーは、カーボンナノチューブである、上記[1]又は[2]に記載の被膜構造物。
[4] 前記被膜構造物の表面の表面粗さ(Ra)は、5μm以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の被膜構造物。
[5] 基材と、該基材の表面に設けられた、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の被膜構造物とを有する、被覆部材。
[6] 基材と、該基材の表面に設けられた被膜構造物とを有する被覆部材の製造方法であって、
第1のフッ素樹脂を含む第1原料と、第2のフッ素樹脂及び導電性フィラーを含む複合樹脂材料である第2原料とを混合して、被覆用混合材料を得る混合工程、
前記被覆用混合材料を基材に塗工して被膜構造物を形成する塗工工程、
を含む被覆部材の製造方法。
[7] 前記塗工工程は、前記第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂の融点以上に加熱する加熱工程を含む、上記[6]に記載の被覆部材の製造方法。
[8] 前記塗工工程は、ロトライニング工程である、上記[6]又は[7]に記載の被覆部材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、導電性に優れ、且つ外観に優れた被膜構造物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例及び比較例における評価サンプルのSEM画像である。
【
図2】
図2は、比較例2における評価サンプルの外観写真である。
【
図3】
図3は、実施例3における評価サンプルの外観写真である。
【
図4】
図4は、実施例8におけるロトライニング塗工後の配管の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<被膜構造物>
本開示の被膜構造物は、フッ素樹脂、及び導電性フィラーを含み、当該被膜構造物の表面は、海島構造を呈しており、海島構造の海部に導電性フィラーが存在する。
【0010】
上記フッ素樹脂は、通常公知の市販品を使用することができ、本発明が目的とする被膜構造物を得ることができる限り、特に制限されることはなく、具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)から選択される少なくとも1種が挙げられ、好ましくはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)が挙げられ、特に好ましくはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)又はエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)が挙げられる。上記フッ素樹脂は、1種であっても、2種以上を混合して用いてもよいが、好ましい態様において、本開示の被膜構造物に含まれるフッ素樹脂は、1種である。
【0011】
上記フッ素樹脂の融点は、好ましくは170℃以上、より好ましくは200℃以上であり得る。
【0012】
上記フッ素樹脂のメルトフローレートは、好ましくは5~60g/10分、より好ましくは20~40g/10分であり得る。この範囲であれば、特にロトライニング技術に好適に適用できる。
【0013】
上記導電性フィラーは、導電性を有するフィラーであれば特に限定されないが、好ましくはカーボンナノ材料が挙げられる。
【0014】
上記カーボンナノ材料は、典型的には、炭素六員環構造を有する材料であり、具体的には、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、グラフェン、フラーレン、アセチレンブラック、ケッチョンブラック、カーボンブラック、カーボンファイバーが挙げられ、好ましくはカーボンナノチューブが挙げられる。
【0015】
上記カーボンナノ材料の平均長さは、特に限定されないが、例えば、10~600μmとすることができる。カーボンナノ材料の平均長さを10μm以上とすることにより、被膜構造物の導電性が向上する。カーボンナノ材料の平均長さを600μm以下とすることにより、カーボンナノ材料のフッ素樹脂への分散性又は担持性が向上する。カーボンナノ材料の平均長さは、例えば、後述する走査電子顕微鏡による観察で測定できる。
【0016】
上記カーボンナノ材料の含有量は、被膜構造物全体に対して、好ましくは0.001~2.0質量%、より好ましくは0.005~1.5質量%、さらに好ましくは0.01~1.0質量%、特に好ましくは0.05~1.0質量%である。被膜構造物におけるカーボンナノ材料の含有量を、0.001~2.0質量%の範囲とすることにより、より良好に導電パスを形成することができ、導電性がより向上する。
【0017】
好ましい態様において、上記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブである。
【0018】
上記カーボンナノチューブは、本開示の被膜構造物を得ることができる限り、特に限定されず、1層のSWCNT(single wall carbon nanotube)又は2層以上のMWCNT(multiwall carbon nanotube)のいずれであってもよい。カーボンナノチューブとして市販品を使用することができ、カーボンナノチューブは、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記カーボンナノチューブの平均長さは、特に限定されないが、好ましくは40μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは70~250μm、さらにより好ましくは100~200μm、特に好ましくは150~200μmである。カーボンナノチューブの平均長さを40μm以上とすることにより、導電パスが繋がりやすくなり、被膜構造物の導電性が向上する。
【0020】
本明細書において、カーボンナノ材料の平均長さとは、SEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像から得られる平均長さをいう。即ち、被膜構造物の一部を、300℃~600℃に加熱して、灰化し、残渣物(SEM撮影用サンプル)を得る。その残渣物のSEM画像を撮影する。そのSEM画像に含まれる各カーボンナノ材料の長さを画像処理によって求める。その画像処理によって得た長さの平均値を計算によって求め、その平均値をカーボンナノ材料の平均長さという。
【0021】
本開示の被膜構造物は、その表面に海島構造を有する。
【0022】
本明細書において、海島構造とは、大きくみて低部領域(以下、「海部」ともいう)と高部領域(以下、「島部」ともいう)からなる構造をいう。海島構造において、海部は、必ずしも島部を囲んでいる必要はなく、島部に囲まれた状態であってもよい。
【0023】
上記海島構造の有無は、被膜構造物の表面をSEM(走査電子顕微鏡)により75倍の倍率で観察した表面状態において判断する。
【0024】
導電性フィラーは、主として上記海島構造の海部に存在する。
【0025】
好ましい態様において、上記海島構造の島部には、導電性フィラーが実質的に存在しない。ここで、「実質的に」とは、導電性フィラーが当該島部に対して0.01質量%以下であることをいう。
【0026】
一の態様において、上記海島構造の海部と島部は、異なるフッ素樹脂を主成分として含む。ここに、本明細書において、上記主成分とは、海部又は島部におけるフッ素樹脂のうち、最も多く含まれるフッ素樹脂をいい、典型的には海部又は島部におけるフッ素樹脂全体に対して50質量%を超える量で含まれる。
【0027】
上記態様において、上記海島構造の海部及び島部のそれぞれにおいて、主成分として含まれるフッ素樹脂は、当該部分に含まれるフッ素樹脂全体に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、最も好ましくは実質的に100質量%である。
【0028】
好ましい態様において、上記海島構造の海部と島部は、同一のフッ素樹脂を主成分として含む。
【0029】
上記海島構造において、海部と島部の面積比(海部:島部)は、特に限定されないが、好ましくは99:1~1:99、より好ましくは90:10~10:90、さらに好ましくは70:30~20:80、さらにより好ましくは60:40~20:80である。海部と島部の面積比を上記の範囲とすることにより、被膜構造物の導電性と外観が向上する。
【0030】
上記被膜構造物の体積抵抗率は、導電性を有していれば特に限定されないが、好ましくは1×108Ω・cm以下、より好ましくは1×105Ω・cm以下、特に好ましくは1×103Ω・cm以下であり得る。当該体積抵抗率の下限は、特に限定されないが、例えば1×10-1Ω・cmであり得る。
【0031】
上記体積抵抗率は、JIS K6911に従い、抵抗率計(例えば、三菱化学アナリテック製「ロレスター」)により測定される。
【0032】
上記被膜構造物の表面粗さ(Ra:算術表面粗さ)は、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下、さらにより好ましくは1μm以下であり得る。当該表面粗さ(Ra)の下限は、特に限定されないが、例えば0.05μmであり得る。
【0033】
上記被膜構造物の表面粗さ(Rz:最大高さ)は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下、さらにより好ましくは5μm以下、特に好ましくは4μm以下であり得る。当該表面粗さ(Rz)の下限は、特に限定されないが、例えば0.5μmであり得る。
【0034】
上記表面粗さ(Ra及びRz)は、ISO 4284:1997に従って、表面粗さ測定機(例えば、株式会社小坂研究所製「サーフコーダ SE3500」)により測定される。
【0035】
本開示の被覆構造物の厚みは、特に限定されないが、例えば、20μm~10mm、好ましくは50μm~5mmであり得る。
【0036】
本開示の被覆構造物は、基材の表面に設けられ、被覆部材を構成する。即ち、本開示は、基材と、該基材の表面に設けられた、本開示の被膜構造物とを有する被覆部材を提供する。
【0037】
上記基材としては、本開示の被覆構造物を支持することができるものであれば特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス、その他の金属又はそれら金属の数種からなる合金等の金属、石英ガラス、セラミック等の無機化合物、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等のプラスチック等が挙げられ、好ましくは金属及び無機化合物であり得る。基材の形状、大きさ等は、特に限定されず、例えば、板状、棒状、円柱状、円錐状、櫛刃状等の形状であり得、用途に応じて、適宜その形状及び大きさを選択することができる。
【0038】
上記被覆部材は、基材上に直接被覆構造物を形成することにより製造してもよく、基材上に別途製造した被覆構造物を貼り付けることにより製造してもよい。
【0039】
本開示は、本開示の被覆構造物及び被覆部材の製造方法を提供する。
【0040】
本開示の、基材と、該基材の表面に設けられた被膜構造物とを有する被覆部材は、
第1のフッ素樹脂を含む第1原料と、第2のフッ素樹脂及び導電性フィラーを含む複合樹脂材料である第2原料とを混合して、被覆用混合材料を得る混合工程、
前記被覆用混合材料を基材に塗工して被膜構造物を形成する塗工工程、
を含む。
【0041】
本開示の方法において、まず、第1のフッ素樹脂を含む第1原料、及び第2のフッ素樹脂及び導電性フィラーを含む複合樹脂材料である第2原料を準備する。
【0042】
上記第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂は、上記被覆構造物に含まれるフッ素樹脂と同様のものが挙げられる。第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂は、同じであっても、異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0043】
上記第1のフッ素樹脂は、上記被覆構造物の島部に主成分として含まれるフッ素樹脂である。
【0044】
上記第2のフッ素樹脂は、上記被覆構造物の海部に主成分として含まれるフッ素樹脂である。
【0045】
上記第1原料は、第1のフッ素樹脂を含み、好ましくは第1のフッ素樹脂から成る。
【0046】
上記第1のフッ素樹脂を含む第1原料は、好ましくは粒子状である。
【0047】
上記第1原料の粒子の平均粒径は、好ましくは1~500μm、より好ましくは5~300μm、特に好ましくは10~250μmであり得る。
【0048】
本明細書において、平均粒径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味するメジアン径(D50)であり、レーザー回折散乱式粒度分布装置を用いて測定される。
【0049】
上記第2原料は、第2のフッ素樹脂及び導電性フィラーを含む複合樹脂材料であり、好ましくは第2のフッ素樹脂及び導電性フィラーから成る。
【0050】
上記導電性フィラーは、上記被覆構造物に含まれる導電性フィラーと同様のものが挙げられ、好ましくはカーボンナノチューブである。
【0051】
上記第2原料における導電性フィラーの含有量は、第2原料全体に対して、好ましくは0.001~4.0質量%、より好ましくは0.005~3.0質量%、さらに好ましくは0.010~2.0質量%、さらにより好ましくは0.020~1.0質量%、特に好ましくは0.020~0.10質量%である。導電性フィラーの含有量を上記の範囲とすることにより、被膜構造物の導電性と外観が向上する。
【0052】
上記第2原料として用いられる複合樹脂材料は、予め第2のフッ素樹脂の表面層に導電性フィラーの一部分又は全部が分散状に埋設又は固着する混合層が形成されたフッ素樹脂組成物であり、例えば特開2015-030821号に開示される方法により得られるフッ素樹脂組成物が挙げられる。
【0053】
上記複合樹脂材料の粒子の平均粒径は、好ましくは5~500μm、より好ましくは10~250μm、さらに好ましくは10~100μm、さらにより好ましくは10~50μm、特に好ましくは15~30μmの平均粒径を有する。複合樹脂材料の平均粒径を上記の上限以下とすることにより、被膜構造物における導電性フィラーの分散性を高めやすく、帯電防止性及び/又は導電性を均一に高めやすいため好ましい。複合樹脂材料の平均粒径を上記の下限以上とすることにより、複合樹脂材料の製造しやすさの観点から好ましい。
【0054】
上記第2原料の形状は、特に限定されず、例えば、液状又は粒子状であってもよく、好ましくは粒子状である。液状の場合は、上記複合樹脂材料を、水、アルコール等の塗料化をする際に通常用いられる溶媒に分散させて得ることができる。
【0055】
次いで、上記第1原料と第2原料を混合して、被覆用混合材料とする。混合方法は、特に限定されず、両者が均一に混ざる方法であれば特に限定されない。
【0056】
上記第1原料と第2原料の混合比(第1原料:第2原料)は、好ましくは1:5~5:1、より好ましくは1:2~4:1、さらに好ましくは1:1~3:1であり得る。第1原料と第2原料の混合比を上記の範囲にすることにより、被膜構造物の表面の平滑性が向上し、外観に優れた被膜構造物となる。
【0057】
次いで、上記で得られた被覆用混合材料を基材に塗工して被膜構造物を形成する。
【0058】
上記塗工方法は、特に限定されず、被覆部材の用途や形状によって適宜選択することができ、例えば、スプレー塗装、静電粉体塗装、ロトライニング、盛置き、アプリケーター塗装などが挙げられ、好ましくはロトライニングである。
【0059】
好ましい態様において、上記塗工工程は、第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂の融点以上に加熱する加熱工程を含む。かかる加熱工程を行うことにより、被覆部材の外観及び機械特性が向上する。
【0060】
上記加熱工程の温度は、第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂の融点以上であり、例えば、150~400℃、好ましくは200~380℃であり得る。
【0061】
上記加熱工程の加熱時間は、特に限定されないが、好ましくは10~150分、より好ましくは30~120分であり得る。
【0062】
上記のようにして、本開示の被覆部材を製造することができる。上記被覆部材の製造後に、基材を取り外すことにより、被膜構造物単体を得ることもできる。
【0063】
上記のように製造された、被膜構造物、及び被覆部材における被膜構造物は、その表面に海島構造を呈しており、導電性フィラーは海島構造の海部に存在する。また、被膜構造物表面の平滑性が向上し、外観に優れた被膜構造物となる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0065】
[第1原料]
第1原料として、ETFEの粉体である、ネオフロン(登録商標)EC-6820及びEC-6510(ダイキン工業株式会社製)を準備した。
M1-1:ネオフロン(登録商標)EC-6820
M1-2:ネオフロン(登録商標)EC-6510
【0066】
[第2原料(CNT複合樹脂材料)]
第2のフッ素樹脂としてのネオフロン(登録商標)EC-6820又はEC-6510に、平均長さが100μmのカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)がそれぞれ所定量担持された複合樹脂材料(大陽日酸株式会社製、以下、「CNT複合樹脂材料」という)を次のとおり準備した。
M2-1:0.025質量%CNT担持ネオフロン(登録商標)EC-6820
M2-2:0.05質量%CNT担持ネオフロン(登録商標)EC-6820
M2-3:0.10質量%CNT担持ネオフロン(登録商標)EC-6820
M2-4:0.20質量%CNT担持ネオフロン(登録商標)EC-6820
M2-5:0.10質量%CNT担持ネオフロン(登録商標)EC-6510
【0067】
[被覆用混合材料]
第1原料と、上記で得られたCNT複合樹脂材料(第2原料)とを、下記表に示す割合で撹拌混合して、被覆用混合材料を得た。
【0068】
【0069】
[実施例1~6、比較例1及び2 盛置き塗工に係る被膜構造物サンプルの作成]
サンドブラスト処理をし、離型剤を塗布した鉄板上に、50×100mmサイズの鉄枠を配置し、枠内に上記で得られた被覆用混合材料Mx1~9を、焼き付け後の膜厚が3mmになるように充填した後、280℃の電気炉で1時間焼成し、鉄板から鉄枠及び被膜構造物を取り外し、実施例1~6(それぞれ、Mx1、2、4、5、7及び8を使用)及び比較例1及び2(それぞれ、Mx3及び6を使用)の各被膜構造物に係る評価サンプルを得た。得られた評価サンプルの全部又は一部の表面状態、表面粗さ、体積抵抗率及び外観を後述する方法で測定又は観察した。その結果を
図1乃至
図3及び表2に示す。
【0070】
[実施例7 アプリケーター塗工に係る被膜構造物サンプルの作成]
上記で得られた被覆用混合材料Mx9(150g)をエチレングリコール(225g)に分散混合して分散液を調製後、当該分散液を、離型剤を塗布したSUS板(50×100mm)にベーカーアプリケーターを用いて200μmの厚みで塗工し、280℃の電気炉で1時間焼成後、SUS板から被膜構造物を取り外して、実施例7の被膜構造物に係る評価サンプルを得た。得られた評価サンプルの表面状態、表面粗及び体積抵抗率を後述する方法で測定又は観察した。その結果を
図1及び表2に示す。
【0071】
[表面状態]
走査電子顕微鏡 FlexSEM 1000(株式会社日立ハイテク製)を用いて、印加電圧10~15KV75倍の倍率で、評価サンプルの表面状態を確認した。
【0072】
[表面粗さ(Ra及びRz)]
ISO 4287:1997 に従い、サーフコーダ SE3500(株式会社小坂研究所製)を用いて表面粗さ(算術平均粗さ(Ra);最大高さ(Rz))を測定した。
【0073】
[体積抵抗率]
実施例1~7、比較例1及び2の導電性評価
評価サンプルを30×30mmの試験片とし、JIS K6911に従い、抵抗率計(三菱化学アナリテック製「ロレスター」)を用いて、体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。
【0074】
実施例8の導電性評価
後述する実施例8で作成された被覆部材について、ロトライニング後の塗工表面を、JIS K6911に従い、抵抗率計(日置電機製「IR4054」 50V印加)を用いて、表面抵抗率(Ω/sq.)を測定し、次の式に従って、体積抵抗率(Ω・cm)を計算により求めた。
体積抵抗率(ρv)=表面抵抗率(ρs)×厚み(t)
[外観]
評価サンプルの外観を目視にて観察した。
【0075】
【0076】
上記表から本発明の範囲に含まれる実施例1~7の表面状態は、比較例1及び2の表面状態と異なって全て表面状態が海島構造を呈していることが
図1の写真からわかる。また、実施例1~7は、その塗工方法に限らず、表面粗さ(Ra)が5μm以下であり、かつ、体積抵抗率が1×10
8Ω・cm以下であることが確認された。また、
図2及び3から、本発明の範囲に含まれる実施例3は、本発明の範囲に含まれない比較例2と比較して、表面の平滑性が向上し、外観に優れていることが確認された。
【0077】
[実施例8 ロトライニングによる被覆部材の作成]
上記で得られた被覆用混合材料Mx4を、ロトライニング(回転成形技術を利用したライニング塗工)により配管(基材:SS400、JIS 5K 25Aフランジ付き配管245L)の内面に280℃で塗工し、被覆部材であるロトライニング塗工配管(塗工厚み2mm)を得た。得られた塗工配管の写真を
図4に示す。
図4に示すとおり、塗工表面は平滑性を有し、外観に優れていることがわかる。また、上述した方法で計算した体積抵抗率は、4×10
3Ω・cm(計算値)であり、十分な導電性を備えていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示の被膜構造物は、導電性に優れ、且つ優れた外観を有するので、半導体製造装置等の流体が接する部分の内面処理等、種々の分野において好適に用いることが可能である。