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  • 特許-冷菓の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】冷菓の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/04 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
A23G9/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020164362
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056555
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】小田巻 伊都子
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-505056(JP,A)
【文献】特開2013-162758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0296859(US,A1)
【文献】特表平10-508759(JP,A)
【文献】特開2001-231457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00- 9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積が5~15mLである冷菓を製造する方法であって、
原料ミックスを、モールドに充填し、冷却し、硬化させた後、脱型する工程を含み、
前記原料ミックスは水分と甘味料と脂肪分を含み、前記原料ミックスの総質量に対して、固形分が35~45質量%、脂肪分が5~13.0質量%であり、
前記原料ミックスの凍結点が-4.5~-2.5℃であり、
前記原料ミックスの充填時の温度が、前記原料ミックスの凍結点±0.5℃であり、
充填終了から5分後の、前記モールド内の前記原料ミックスの、表面の中央部における表面温度及び中心温度がいずれも-20℃~-6℃の範囲内であり、
前記原料ミックスの充填時の温度をT ℃、充填終了から5分後の中心温度をT ℃とすると、T -T が3~15℃であり、
充填終了から、前記表面温度が-15℃に達するまでの時間が10分未満であり、かつ前記中心温度が-15℃に達するまでの時間が10分未満であり、
前記冷菓の、氷結晶の平均直径が40~100μmである、冷菓の製造方法。
【請求項2】
体積が5~15mLである冷菓本体を形成する冷菓本体形成工程と、前記冷菓本体の表面にコーティング層を設けるコーティング工程を含み、
前記冷菓本体形成工程は、原料ミックスを、モールドに充填し、冷却し、硬化させた後、脱型する工程を含み、
前記原料ミックスは水分と甘味料と脂肪分を含み、前記原料ミックスの総質量に対して、固形分が35~45質量%、脂肪分が5~13.0質量%であり、
前記原料ミックスの凍結点が-4.5~-2.5℃であり、
前記原料ミックスの充填時の温度が、前記原料ミックスの凍結点±0.5℃であり、
充填終了から5分後の、前記モールド内の前記原料ミックスの、表面の中央部における表面温度及び中心温度がいずれも-20℃~-6℃の範囲内であり、
前記原料ミックスの充填時の温度をT ℃、充填終了から5分後の中心温度をT ℃とすると、T -T が3~15℃であり、
充填終了から、前記表面温度が-15℃に達するまでの時間が10分未満であり、かつ前記中心温度が-15℃に達するまでの時間が10分未満であり、
前記冷菓本体の、氷結晶の平均直径が40~100μmである、冷菓の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷菓の製造方法、及び冷菓に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリーム等の冷菓の製造において、安定剤を添加することによって食感を改善する方法が知られている。
特許文献1には、キサンタンガム、ジェランガム及び寒天の群から選ばれる1種以上の多糖類と、ポリグルタミン酸とを含む安定剤組成物を用いることによって、滑らかさと濃厚さを保ちながら、冷たく、口溶けの良い食感を冷菓に付与する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-11784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、消費者の嗜好は多様化しており、喫食した際にねっとりとした粘り気を感じる食感(以下、ねっとり感ともいう。)を有する冷菓が注目されている。
例えば、増粘多糖類、ゼラチン、澱粉など、ゲル化又は増粘する安定剤は冷菓に粘りや重い食感を付与しやすいが、これらの添加量が増大するとフレーバーリリースが低下する傾向がある。
【0005】
本発明は、安定剤の添加量を増大させなくても、ねっとり感を向上できる、冷菓の製造方法及び冷菓を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]原料ミックスを、前記原料ミックスの凍結点±0.5℃の温度で充填し、充填後5分間で-20℃~-6℃となるように、かつ充填後10分未満で-15℃に達するように冷却し、硬化させる工程を含む、冷菓の製造方法。
[2] 前記[1]の方法で冷菓本体を形成する工程と、前記冷菓本体の表面にコーティング層を設ける工程を含む、冷菓の製造方法。
[3]氷結晶の平均直径が20~100μmである、冷菓。
[4]氷結晶の平均直径が20~100μmである冷菓本体と、前記冷菓本体の表面に設けられたコーティング層を有する、冷菓。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安定剤の添加量を増大させなくても、ねっとり感に優れた冷菓が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】モールド成形冷菓とモールドの一実施形態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において以下の定義が適用される。
本発明における冷菓は、一般的な「冷菓」に分類されるもの、及びフローズンヨーグルトを含む。「冷菓」は、具体的には、アイスクリーム類(アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス)、氷菓を挙げることができる。
アイスクリーム類とは、乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し、又は主要原料としたものを凍結させたものであって乳固形分3.0%以上を含むもの(はっ酵乳を除く)をいう。アイスクリーム類は、含まれる乳固形分と乳脂肪分の量によって、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスの3つに分類される。
一方、乳固形分3.0%未満のものは、前記アイスクリーム類ではなく、食品衛生法に基づく厚生省告示「食品、添加物等の規格基準」により、氷菓として規定されている。
また、フローズンヨーグルトは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令により、種類別「発酵乳」に分類される。発酵乳は「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの又はこれらを凍結したものをいう」と定められ、成分規格は、「無脂乳固形分8.0%以上、乳酸菌数又は酵母数1000万/mL以上」と規定されている。フローズンヨーグルトは、凍結した発酵乳に該当する。
本発明における冷菓は、氷菓、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、フローズンヨーグルトのいずれであってもよい。
【0010】
「~」で表される数値範囲は、特に断りのない限り、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
モールド内の原料ミックスの温度が「a℃~b℃」であるとは、モールド内面に接していない表面の中央部における温度(表面温度)と、中心部の温度(中心温度)の両方がa℃~b℃の範囲内であることを意味する。
モールド内の原料ミックスの温度が「c分未満でd℃に達する」とは、表面温度がd℃に達するまでの時間がc分未満であり、かつ中心温度がd℃にするまでの時間がc分未満であることを意味する。
【0011】
氷結晶の直径は、光学顕微鏡の観察画像における氷結晶の円相当径である。光学顕微鏡の視野内で確認できる氷結晶の数、及び全ての氷結晶の面積を測定し、直径=2×√(測定した面積/π)で各氷結晶の直径(円相当径)を算出する。各氷結晶の直径の算術平均を平均直径とする。
1つの視野内で確認される氷結晶の数が100未満である場合は、前記氷結晶の総数が100を超えるまで視野の数を増やす。
【0012】
凍結点は、液状にした試料を雰囲気温度-25℃で冷却しながら品温を経時的に測定し、液体が固体になる際の発熱反応により温度が下降しないポイント(凝固点)における温度である。
原料ミックスの粘度は、B型粘度計にて、ローターNo.3を使用し、回転数60rpmで測定した、30秒後の値である。測定温度は5℃とする。
【0013】
成分等の含有量の測定方法は以下の方法を用いる。
(1)水分
常圧加熱乾燥法(乾燥助剤添加法)により測定する。
(2)固形分
固形分(質量%)=100-水分(質量%)で算出する。
【0014】
(3)冷菓の脂肪分・乳脂肪
「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に記載の、アイスクリーム類の乳脂肪分の定量法に準拠する方法で測定する。
具体的には、試料4gを小型ビーカーに採り、水3mLを加えてよく混ぜ合わせ、レーリッヒ管に移す。前記ビーカーは、水3mLでよく洗い、その洗液を前記レーリッヒ管に加え、振り混ぜる。次に、アンモニア水(アンモニアの25~30%水溶液、無色透明なもの)2mLを加え、静かに混合する。次に、前記レーリッヒ管を60℃の水浴中につけ、時々振り混ぜながら20分間加温する。さらに2mLエタノール(95~96%水溶液)10mLを加えてよく混ぜ合わせる。
次いで、前記レーリッヒ管にエーテル25mLを加え静かに回転し、均一の色調となったときエーテルガスを抜き、管を水平にして30秒間激しく振り混ぜる。次に石油エーテル(沸点60℃以下)25mLを加え、同様に30秒間振り混ぜて栓を緩め、上澄液が透明になるまで直立して2時間以上静置する。上澄液を、予め恒量を求めたビーカーに入れる。
前記レーリッヒ管に、上記と同様の手順で、エーテル25mL及び石油エーテル25mLを加えて混ぜ、上澄液を前記ビーカーに入れる。側管の先端を、エーテルと石油エーテルの等量混合液で洗浄して前記ビーカーに加える。
前記ビーカーを、約75℃に加熱して溶剤を揮発させ、雰囲気温度100~105℃の乾燥器中で1時間乾燥した後、秤量する。ビーカーの恒量からの増加分を脂肪分とする。
試料が乳脂肪以外の他の脂肪分を含まない場合は、上記で求めた脂肪分を乳脂肪の含有量とする。
試料が乳脂肪以外の他の脂肪分を含む場合は、上記で求めた脂肪分から他の脂肪分を差し引いた値を乳脂肪の含有量とする。
【0015】
(4)無脂乳固形分
「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に記載の、発酵乳及び乳酸菌飲料の無脂乳固形分の定量法に準拠する方法で測定する。
具体的には、試料(凍結状のものにあっては、40℃以下の温度でなるべく短時間に全部融解させたもの)約50gを精密に量り、フェノールフタレイン溶液数滴を加える。これをかき混ぜながら10%水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えて微アルカリ性とし、メスフラスコに採る。水を加えて100mLとし、その5mLを正確に150mLのケルダール分解フラスコに採る。これに硫酸カリ9gと硫酸銅1gの混合粉末0.2gを加え、更にフラスコの内壁を伝わらせて硫酸10mLを加える。次に、このフラスコを徐々に加熱し、亜硫酸ガスの白煙が生じたとき少し加熱を強める。泡末の大部分が消失した後、強熱し、中の液が透明な淡青色を呈し、かつ、フラスコの内壁に炭化物を認めなくなったとき加熱を止める。放冷後、注意しながら水30mLを加え、再び冷却した後フラスコを蒸留装置に連結する。この場合、200mLの吸収フラスコ中には0.05mol/L硫酸30mL及びメチルレッド溶液数滴を入れ、冷却器の下端が液中につかるようにする。
次に、ケルダール蒸留装置の漏斗から30%水酸化ナトリウム溶液40mLを入れ、水10mLで洗い込み、ピンチコツクを閉じ、直ちに蒸留をはじめる。留出液が80mL~100mLの量に達したとき冷却器の下端を液面から離し、更に留出液の数mLを採る。
蒸留終了後、冷却器の液に浸った部分を少量の水で洗い、その洗液を吸収フラスコ中の液に合し、これを0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で滴定する。
無脂乳固形分(単位:質量%)は、次式によって計算する。
無脂乳固形分={0.0014×(A-B)}/試料の採取量(単位:g)×6.38×2.82×100
A:0.05mol/Lの硫酸30mLを中和するのに要する0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の量(単位:mL)
B:滴定に要した0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の量(単位:mL)
標示薬:メチルレッド溶液:メチルレッド1gをエタノール50mLに溶かし、これに水を加えて100mLとし、必要があればろ過する。
(5)乳固形分
前記(3)の方法で求めた乳脂肪分と、前記(4)の方法で求めた無脂乳固形分との合計を乳固形分とする。
【0016】
以下、本発明の冷菓の好ましい実施形態としてモールド成形冷菓を説明するが、本発明はこれに限らない。例えば、紙や樹脂製等の容器に原料ミックスを充填して硬化させた容器入り冷菓でもよい。
本実施形態は以下の態様を有する。
原料ミックスを、前記原料ミックスの凍結点±0.5℃の温度でモールドに充填し、充填後5分間で-20℃~-6℃となるように、かつ充填後10分未満で-15℃に達するように冷却し、硬化させた後、脱型してモールド成形冷菓を得る、冷菓の製造方法。さらに、前記モールド成形冷菓の表面にコーティング層を設けてもよい。
氷結晶の平均直径が20~100μmである、モールド成形冷菓。前記モールド成形冷菓と、前記モールド成形冷菓の表面に設けられたコーティング層を有してもよい。
【0017】
<冷菓>
本実施形態の冷菓は、モールド成形冷菓を有する。モールド成形冷菓とは、モールド(成形型)内で硬化したものを、脱型して得られる冷菓を意味する。
本実施形態の冷菓は、モールド成形冷菓のほかに、モールド成形以外の方法で成形された部位を有してもよい。モールド成形冷菓からなる冷菓本体と、コーティング層を有してもよい。
【0018】
[モールド成形冷菓]
図1は、モールド成形冷菓1とその製造に用いられるモールド2の一実施形態を模式的に示した断面図である。
モールド2の形状は中空の円錐台形であり、円形の底面2aと、円形の開口部2cに向かって漸次拡径する側面2bを有する。モールド2は金属製が好ましい。
モールド成形冷菓1の外面は、モールド2の底面2a及び側面2bに密着した状態で硬化したモールド密着面1aと、開口部2c内で硬化した天面1bとからなる。モールド密着面1aには、モールド2の内面形状が転写されている。天面1bは、開放空間内で硬化した面であり、硬化時の体積増加に起因して外方にやや膨出している。
符号3は、モールド成形冷菓1の天面1bの中央部であり、モールド内の原料ミックスの表面温度の測定位置を示す。
符号4は、モールド成形冷菓1の中心部であり、モールド内の原料ミックスの中心温度の測定位置を示す。
【0019】
モールド成形冷菓1の大きさは特に限定されない。例えば、1個の全部が口に入る大きさとする場合、モールド成形冷菓1の体積が5~15mLであることが好ましく、7~13mLがより好ましい。
【0020】
モールド成形冷菓1は、原料ミックスを冷却して硬化させた硬化物である。
硬化前の原料ミックスの質量基準の組成と、モールド成形冷菓1の質量基準の組成とは同じである。
【0021】
原料ミックスの原料は、冷菓の原料として公知の原料を適宜選択して用いることができる。例えば、水、乳製品、炭水化物、甘味料、油脂、乳化剤、安定剤、酸味料、植物蛋白質、卵、香料、着色料、果汁、果肉、食物繊維、各種食材(酒類、抹茶、ジャム、チョコレート)、その他の食品添加剤等が挙げられる。
甘味料としては、砂糖(上白糖、グラニュー糖、三温糖、黒砂糖、甜菜糖)、水あめ、粉あめ、砂糖混合異性化糖、異性化糖、乳糖、ぶどう糖、麦芽糖、果糖、転化糖、還元麦芽水あめ、蜂蜜、トレハロース、パラチノース、D-キシロース等の糖類;キシリトール、ソルビトール、マルチロール、エリスリトール等の糖アルコール類;サッカリンナトリウム、サイクラメート及びその塩、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、ステビア抽出物に含まれるステビオサイドなどの高甘味度甘味料;等が挙げられる。甘味料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
乳製品としては、生乳、牛乳、クリーム、バター、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、練乳、チーズ、ホエイ、ホエイ蛋白濃縮物等が挙げられる。乳製品は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
原料ミックスの総質量に対して、固形分は30~50質量%が好ましく、35~45質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると冷菓の滑らかな食感に優れ、上限値以下であると冷菓が過度に融けやすくなることを防ぐことができる。
原料ミックスの総質量に対して、脂肪の含有量(脂肪分)は下限値として0.5質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。上限値としては15.0質量%以下が好ましく、13.0質量%以下がより好ましい。また好適な範囲は0.5~15.0質量%が好ましく、5~13.0質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であるとアイス部分の氷晶感を抑えられるため、ねっとり感に優れ、上限値以下であると良好な冷菓の組織が得られやすい。
原料ミックスが乳製品を含む場合、原料ミックスの総質量に対して、乳固形分は下限値として3.0質量%以上が好ましく、10.0質量%以上がより好ましい。上限値としては30.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以下がより好ましい。また好適な範囲は3.0~30.0質量%が好ましく、10.0~25.0質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であるとアイス部分に空気を含有させる際、任意の空気量をアイス部分に安定して保持することができ、上限値以下であると良好な冷菓の組織が得られやすい。
原料ミックスの総質量に対して、乳脂肪の含有量は下限値として0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましい。上限値としては15.0質量%以下が好ましく、13.0質量%以下がより好ましい。また好適な範囲は0~15.0質量%が好ましく、3.0~13.0質量%がより好ましい。乳脂肪を含むと乳脂肪由来の良好な風味が得られやすい。乳脂肪の含有量が上限値以下であると良好な冷菓の組織が得られやすい。
【0023】
原料ミックスの凍結点は下限値として-7.0℃以上が好ましく、-4.5℃以上がより好ましい。上限値としては-0.5℃以下が好ましく、-2.5℃以下がより好ましい。また好適な範囲は-7.0~-0.5℃が好ましく、-4.5~-2.5℃がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると冷菓が過度に融けやすくなることを防ぐことができ、上限値以下であると冷菓の適度な柔らかさが得られやすく、ねっとり感も得られやすい。
原料ミックスの好ましい態様として、例えば、水分と甘味料を含む態様、水分と甘味料と脂肪分を含む態様、水分と甘味料と乳製品を含む態様等が挙げられる。
【0024】
原料ミックスは安定剤を含んでもよい。安定剤の添加量を増大させると、原料ミックスの粘度が上昇し、硬化後にねっとり感が得られやすい。一方で、安定剤の含有量が多いほど、フレーバーリリースが低下する傾向がある。
安定剤としてはゼラチン、ペクチン、繊維素グルコール酸ナトリウム(カルボキシメチルセルロース)、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギナン、微結晶セルロース、アラビアガム、カラヤガム、キサンタンガム、タラガム、ジェランガム、ネイティブジェランガム、マクロホモプシルガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、大豆多糖類等が例示される。安定剤は1種又は2種以上用いてもよい。
氷結晶の粗大化を防止しやすい点では、安定剤としてローカストビーンガムとグアーガムを併用することが好ましい。
【0025】
本実施形態によれば、原料ミックスの粘度を上昇させなくても、硬化後のねっとり感を向上できる。したがって、安定剤の含有量を少なくして、良好なフレーバーリリースと良好なねっとり感を両立することができる。
例えば、原料ミックスの粘度は50~2000mPa・sの範囲で設定することが好ましい。特に、ねっとり感を高める場合には150~2000mPa・sがより好ましい。フレーバーリリースとねっとり感を両立させる場合には150~500mPa・sがより好ましい。
【0026】
モールド成形冷菓1の氷結晶の平均直径は20~100μmであり、30~100μmが好ましく、30~90μmがより好ましく、40~70μmがさらに好ましい。上記範囲内であると、ねっとり感の向上効果に優れる。
モールド成形冷菓1の氷結晶の平均直径は、原料ミックスの組成、硬化条件等によって調整できる。
【0027】
モールド成形冷菓1は空気を含んでもよい。モールド成形冷菓1のオーバーランは0~40%が好ましく、0~20%がより好ましい。オーバーランが上記上限値以下であると冷菓の濃厚感やねっとり感を得られ、40%以上であると軽い食感となる。
オーバーランは、空気を含有させる前の原料ミックスの容量に対する、原料ミックスの硬化物(モールド成形冷菓)の含有空気容量の百分率の値である。例えばオーバーラン値が100%の場合、原料ミックスの硬化物(モールド成形冷菓)は、原料ミックスと同容量の空気を含むことを意味する。
【0028】
[コーティング層]
モールド成形冷菓1の外面の少なくとも一部を覆うように、コーティング層(図示せず)を設けてもよい。コーティング層としては、チョコレートや植物性油脂を含む油性組成物の硬化層、又は水、糖類、果汁等を含み油脂を含まない水性組成物の硬化層が例示できる。
【0029】
<冷菓の製造方法>
モールド成形冷菓1は、原料ミックスをモールド2に充填し、硬化させた後、脱型する方法で製造できる。
原料ミックスは、原料を混合した後、凍結点付近まで冷却してモールドに充填する。原料ミックスを凍結点付近まで冷却すると、部分的に凍結し流動性を有する部分凍結状態となる。
【0030】
具体的には、まず原料ミックスの全原料を混合して混合液とする。原料を混合する際、成分の変質が生じない温度範囲、例えば60~80℃程度に加温してもよい。
得られた混合液を加熱殺菌することが好ましい。加熱殺菌時の熱によって変性しやすい原料(例えば香料等)は、加熱殺菌後に添加してもよい。必要に応じて、加熱殺菌の前又は後に、混合液の濾過又は均質化を行ってもよい。加熱殺菌装置は、プレート式殺菌機、チューブラー式殺菌機、インフュージョン式殺菌機、インジェクション式殺菌機、バッチ式殺菌機等、公知の装置を使用できる。
【0031】
次に、混合液を凍結点付近まで冷却する。この工程は、冷菓の製造において公知のフリーザーを用いて行うことができる。混合液に空気を含有させつつ冷却してもよい。空気の量を調整することによって原料ミックスのオーバーランを制御できる。なお、硬化前の原料ミックスのオーバーランと、硬化後のモールド成形冷菓のオーバーランとは同じである。
【0032】
次に、原料ミックスをモールド2に充填する(充填工程)。充填工程は、公知の充填装置を用いて行うことができる。
充填時の原料ミックスの温度は凍結点±1.0℃の範囲内とする。好ましくは(凍結点-0.8)℃~(凍結点+0.5)℃の範囲内であり、(凍結点-0.5)℃~(凍結点+0.3)℃の範囲内がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると流動性が高く、モールドに充填しやすく、形状不良が生じ難い。上限値以下であると、モールド成形冷菓の氷結晶が小さくなりやすい。
【0033】
次に、原料ミックスをモールド2に充填した状態で冷却し、硬化させる(硬化工程)。硬化工程では、モールド2内の原料ミックスの中心温度及び表面温度の両方が-20℃以下になるように冷却する。硬化工程終了時の中心温度及び表面温度の下限は、冷菓の強度の点からは-50℃以上が好ましく、-40℃以上がより好ましい。
硬化工程における冷却は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、モールド2の外面を液体又は気体の冷媒と接触させて熱交換する方法、開口部2c内の原料ミックスの表面(天面1b)を気体の冷媒と接触させて熱交換する方法、及びこれらを組み合わせる方法が例示できる。
液体の冷媒は、ブライン液として公知の液体を使用できる。気体の冷媒は、例えば低温の空気を使用できる。
冷媒の種類、冷媒の温度、冷媒との接触面積、冷媒の流速等によって冷却速度を調整できる。
【0034】
硬化工程では、原料ミックスをモールド2に充填後5分間で-20℃~-6℃となるように、かつ充填後10分未満で-15℃に達するように冷却する。
充填時の原料ミックスの温度をT℃、充填終了から5分後の中心温度をT℃とすると、T℃からT℃を減じた差(T-T)は3~15℃が好ましく、5~10℃がより好ましい。
充填終了から、中心温度が-15℃に達するまでの時間は、10分未満であり、3~9分が好ましく、5~8分がより好ましい。
充填終了から、表面温度が-15℃に達するまでの時間は、10分未満であり、3~9分が好ましく、3~8分がより好ましい。
【0035】
硬化工程の後、硬化したモールド成形冷菓1をモールド2から取り出す(脱型工程)。
脱型方法としては、以下の方法が例示できる。
方法(1):モールド成形冷菓1のモールド密着面1aがわずかに融解する程度に、モールド2の温度を上昇させた後、モールド2の上下を反転させてモールド成形冷菓1を取り出す。
方法(2):硬化工程において、予めモールド2内の原料ミックスに、針状部材の一方の端部を挿入した状態で硬化させ、針状部材とモールド成形冷菓1とが一体化した一体化物を形成する。脱型工程において、モールド成形冷菓1のモールド密着面1aがわずかに融解する程度に、モールド2の温度を上昇させた後、針状部材の他方の端部を把持してモールド2から一体化物を取り出す。この後、一体化物から針状部材を引き抜いてモールド成形冷菓1を得る。この方法で得られるモールド成形冷菓1は、天面1bに針状部材の引き抜き痕を有する。針状部材の外径は、例えば1.2~2mmが好ましい。
方法(3):硬化工程において、予めモールド2内の原料ミックスに、スティックの一方の端部を挿入した状態で硬化させ、スティックとモールド成形冷菓1とが一体化した一体化物を形成する。脱型工程において、モールド成形冷菓1のモールド密着面1aがわずかに融解する程度に、モールド2の温度を上昇させた後、スティックの他方の端部を把持してモールド2から一体化物を取り出す。この方法によればスティック付きモールド成形冷菓が得られる。
【0036】
冷菓がコーティング層を有する場合、脱型工程後にコーティング層を形成する(コーティング工程)。
コーティング工程では、流動性を有するコーティング液を用いてコーティング層を形成する。コーティング法としてはディッピング法、スプレー法、又はエンロービング法を用いることができる。
ディッピング法は、例えば前記方法(2)又は(3)において、針状部材又はスティックとモールド成形冷菓との一体化物を、針状部材又はスティックを把持した状態でコーティング液に漬けて引き上げた後、コーティング液を硬化させる方法で、コーティング層を形成することができる。
【0037】
なお、モールドの形状は円錐台形に限らず、硬化工程において原料ミックスを所望の形状に保持することができ、かつ硬化物を脱型できる形状であればよい。
また、上記実施形態は、原料ミックスをモールド(成形型)に充填し、硬化させ、脱型してモールド成形冷菓を製造する方法であるが、本発明はこれに限らず、充填工程と硬化工程を経て冷菓を製造する方法に適用できる。例えばモールドを容器に代えてもよい。すなわち、原料ミックスを紙や樹脂製等の容器に充填し、硬化させ、脱型せずに容器入り冷菓を製造する実施形態でもよく、同様の効果が得られる。
前記容器入り冷菓は、原料ミックスを容器に充填して硬化させた硬化物からなる冷菓本体のほかに、前記冷菓本体の表面に設けたコーティング層など、前記冷菓本体以外の部位を有してもよい。
【実施例
【0038】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<測定方法>
[温度の測定方法]
モールド内の原料ミックスの表面温度と中心温度を、熱電対を用いて経時的に測定した。
【0039】
[氷結晶の平均直径]
測定対象のモールド成形冷菓を、-35℃の冷凍庫内で18時間以上保管して温度調整した。
測定装置は、光学顕微鏡(Nikon Co. Ltd.製品名Nikon Eclipse E400)、プレパラート(Matsunami Glass Ind., Ltd.製品名S1225型)を使用した。
温度調節可能な冷凍グローブボックスの庫内を-15℃に設定し、光学顕微鏡及び使用する実験器具を庫内に収容した。庫内が十分に冷えた後、測定対象のモールド成形冷菓を庫内に移送し、約12時間保管して温度調節した。薬さじを用いて、モールド成形冷菓の中心部から少量の試料を採取した。
試料をプレパラートの中央に乗せ、その上にイソブタノールを数滴たらして脂肪分を除去した。この上にもう一枚のプレパラートを、気泡を追い出すようにかぶせた。プレパラートの、試料から離れた位置を持ち、前後左右にゆっくり動かして試料中の氷結晶が重ならないように分散させた。その状態でプレパラートを観察ステージに乗せ、倍率350倍で試料中の氷結晶を観察した。
得られた視野の画像について、画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製品名Image Pro Plus ver7.0)を用い、氷結晶を上から2次元的に観測した面積を測定した。測定した面積(A)を円と想定したときの直径(R、円相当径)を、以下の数式で算出した。
R=2×√(A/π)
視野内に確認した全ての氷結晶の数及び直径(R、単位:μm)を測定し、平均直径を求めた。
【0040】
[官能評価]
冷菓の開発歴1年以上の経験者である11名のパネリスト(a~k)が、予め口腔内を冷却するために参考例1で製造した基準の冷菓を喫食した後、評価対象の冷菓と、前記基準の冷菓を、咀嚼しながら喫食し、下記の項目について評価した。なお、冷菓は-25℃の冷凍庫に保管しておき、冷凍庫から出してから1分以内に喫食した。
各項目について、基準の冷菓と評価が同じである場合を0とし、下記の基準で(-3)から(+3)の範囲で評価した。
ねっとり感の強さ:基準の冷菓と比較して「弱い(-3)」「同じ(0)」「強い(+3)」。
全体的な濃厚感の強さ:基準の冷菓と比較して「弱い(-3)」「同じ(0)」「強い(+3)」。
氷晶感の弱さ:基準の冷菓と比較して「強い(-3)」「同じ(0)」「弱い(+3)」。
【0041】
「ねっとり感」は、咀嚼しながら喫食した際にねっとりとした粘り気を感じる食感と定義した。
「全体的な濃厚感」は、喫食した際に濃さや厚みを感じる味及び食感と定義した。
「氷晶感」は、喫食した際に感じるシャリシャリとした食感や冷たく感じる氷感と定義した。
【0042】
[硬化方法]
円錐台形(底面の内径:18mm、開口部の内径:31mm、高さ:16mm、材質:ステンレス)のモールドを用い、下記(1)~(5)のいずれかの硬化方法を用いた。
(1)庫内温度-35℃の冷凍庫内で、モールド側面から風速8m/秒の風を当てる方法。
(2)モールドの下部(底面から高さ18mmまでの部分)を、-37℃、流速23cm/秒のブライン液に浸漬する方法。
(3)モールドの下部(底面から高さ5mmまでの部分)を、-23℃、流速18cm/秒のブライン液に浸漬する方法。
(4)庫内温度-35℃、ほとんど無風(風速0.4~0.7m/秒)の冷凍庫内に静置する方法。
(5)モールドの下半分(底面から高さ8mmまでの部分)を、液体窒素槽に浸漬する方法。
【0043】
<例1~5>
例1、2は実施例、例3~5は比較例である。
表1に示す配合で原料ミックスを調製した。
具体的には、表1に示す全原料を混合し、70℃で30分間撹拌して溶解した後、85℃、15秒間の条件で加熱殺菌し、均質化処理し、5℃に冷却して混合液を得た。得られた混合液をバッチ式フリーザーに供給し、オーバーラン15%(測定値)に達した部分凍結品をフリーザーから取り出し、凍結点である-3.3℃に温度調整して原料ミックスを得た。
乳製品としては、無塩バター(森永乳業社製、乳脂肪分83.0質量%、無脂乳固形分1.4質量%、固形分84.4質量%)、及び脱脂粉乳(森永乳業社製、乳脂肪分1.0質量%、無脂乳固形分95.2質量%、固形分96.2質量%)を用いた。
安定剤としては、ローカストビーンガム45.0質量%と、グアーガム45.0質量%と、カラギナン10.0質量%との混合物(太陽化学社製)を用いた。
【0044】
得られた原料ミックスを、モールドに10mL充填し、表2に示す硬化方法で-30℃に達するまで冷却して硬化させた(硬化工程)後、脱型してモールド成形冷菓を得た。
硬化工程において、モールド内の原料ミックスの表面温度と中心温度を経時的に測定した。原料ミックスの充填終了から5分後の表面温度と中心温度を表2に示す。また、-15℃に達するまでの時間を表2に示す。
得られたモールド成形冷菓を、庫内温度-35℃の冷凍庫内で保管し、上記の方法で氷結晶の平均直径の測定を行った。結果を表2に示す。
また、得られたモールド成形冷菓を、庫内温度-25℃の冷凍庫内で保管し、上記の方法で官能評価を行った。各パネリストの評価結果を表3に示し、平均点を表2に示す。
【0045】
<参考例1:基準の冷菓の製造>
硬化方法(4)を用いた例4において、硬化時間を13分間とした以外は例4と同様にして基準の冷菓を製造した。
すなわち、-3.3℃に温度調整した原料ミックスを、モールドに10mL充填し、-35℃の冷凍庫内に13分間静置した後、脱型してモールド成形冷菓を得た。
脱型直後のモールド成形冷菓について、上記の方法で氷結晶の平均直径の測定を行ったところ102μmであった。
得られたモールド成形冷菓を、庫内温度-25℃の冷凍庫内で保管し、上記官能評価方法における基準の冷菓として用いた。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表2の結果に示されるように、原料ミックスの充填時の温度が凍結点±0.5℃であり、充填終了から5分後の温度が-20℃~-6℃であり、かつ充填終了から10分未満で-15℃に達するように冷却した例1、2は、氷結晶の平均直径が20~100μmであるモールド成形冷菓が得られ、得られたモールド成形冷菓はねっとり感の強さに優れていた。
一方、例3、4は、充填終了から5分後の温度が高く、充填終了から-15℃に達するまでに12分以上かかった。得られたモールド成形冷菓の氷結晶の平均直径は120μmより大きく、ねっとり感が劣った。
例5は、充填終了から3分未満で-15℃に達し、充填終了から5分後の温度が低すぎるため、氷結晶の平均直径が20μmより小さく、ねっとり感が劣った。
【符号の説明】
【0050】
1 モールド成形冷菓
1a モールド密着面
1b 天面
2 モールド
2a 底面
2b 側面
2c 開口部
3 表面温度の測定位置
4 中心温度の測定位置
図1