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特許7588506漏洩検知システム、漏洩検知方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】漏洩検知システム、漏洩検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/38 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01M3/38 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020212424
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098817
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】下山 祐太
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-201212(JP,A)
【文献】特開平08-122197(JP,A)
【文献】特開2020-030565(JP,A)
【文献】特開2011-075425(JP,A)
【文献】特開平06-119454(JP,A)
【文献】中国実用新案第207248448(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00 - 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートと、
前記シートを撮影するカメラと、
検知装置と、
を備え、
前記検知装置は、
前記カメラが撮影した画像を取得する画像取得部と、
前記画像に基づいて、前記シートに発生する非定常事象を検知する検知部と、
前記検知部が前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知する通知部と、
を備え
前記検知部は、前記シートの定常状態の画像と前記画像取得部が取得した画像との間の色の偏差、照度の偏差、何れかの前記偏差が生じた部分のサイズ、の少なくとも1つに基づいて前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、誤検知と判定された画像に基づく油滴跡の色、照度、サイズが含まれる誤検知防止用データに基づいて、前記非定常事象が発生した可能性があると判定した前記画像が前記誤検知と判定された画像と類似するか否かを判定し、類似する場合には、前記非定常事象が発生していないと判定し、類似しない場合には、所定の周期で取得される前記画像について、連続して所定数以上、前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、且つ、前記誤検知と判定された画像と類似しないと判定した場合、前記非定常事象を検知したと判定する、
漏洩検知システム。
【請求項2】
前記シートは、狭隘部を有する空間の床面にトレーを設置することなく前記床面に直接設置される
請求項1に記載の漏洩検知システム。
【請求項3】
前記シートが、船舶の機関室の床面に直接設置され、
前記シートの原料は綿花である、
請求項1または請求項2に記載の漏洩検知システム。
【請求項4】
前記検知部が前記非定常事象を検知した場合の、前記画像取得部によって取得された前記画像に対する確認結果の入力を受け付ける入力受付部、
をさらに備える、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の漏洩検知システム。
【請求項5】
前記シートは、検知対象の物質を吸着するシートである、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の漏洩検知システム。
【請求項6】
前記シートを、検知対象の物質が漏洩する可能性がある領域の床面に設ける、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の漏洩検知システム。
【請求項7】
シートをカメラで撮影し、
前記カメラが撮影した画像を取得し、
前記画像に基づいて、前記シートに発生する非定常事象を検知し、
前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知し、
前記検知では、前記シートの定常状態の画像と前記取得した画像との間の色の偏差、照度の偏差、何れかの前記偏差が生じた部分のサイズ、の少なくとも1つに基づいて前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、誤検知と判定された画像に基づく油滴跡の色、照度、サイズが含まれる誤検知防止用データに基づいて、前記非定常事象が発生した可能性があると判定した前記画像が前記誤検知と判定された画像と類似するか否かを判定し、類似する場合には、前記非定常事象が発生していないと判定し、類似しない場合には、所定の周期で取得される前記画像について、連続して所定数以上、前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、前記誤検知と判定された画像と類似しないと判定した場合、前記非定常事象を検知したと判定する、
漏洩検知方法。
【請求項8】
コンピュータに、
シートを撮影した画像を取得し、
前記画像に基づいて、前記シートに発生する非定常事象を検知し、
前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知する処理であって、
前記検知では、前記シートの定常状態の画像と前記取得した画像との間の色の偏差、照度の偏差、何れかの前記偏差が生じた部分のサイズ、の少なくとも1つに基づいて前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、誤検知と判定された画像に基づく油滴跡の色、照度、サイズが含まれる誤検知防止用データに基づいて、前記非定常事象が発生した可能性があると判定した前記画像が前記誤検知と判定された画像と類似するか否かを判定し、類似する場合には、前記非定常事象が発生していないと判定し、類似しない場合には、所定の周期で取得される前記画像について、連続して所定数以上、前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、前記誤検知と判定された画像と類似しないと判定した場合、前記非定常事象を検知したと判定する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、漏洩検知システム、漏洩検知方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の主機から燃料油が漏洩すると火災が発生するおそれがある。従って、船舶の保守において、燃料油等の漏洩を早期に検知することが重要である。現在は、船員が見回りを行って、目視によって、燃料油等の小さな漏洩の有無を確認している。しかし、船員の見回り確認では、常時監視ができないため、必ずしも漏洩を早期に検知するができない可能性がある。特許文献1には、船舶のエンジンや潤滑オイルの状態をセンサで計測し、その計測値を無線送信し、遠隔から船舶の状態を監視する監視システムが開示されているが、潤滑オイル等の漏洩を早期に検知する技術については開示が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-214560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料油等の漏洩は、露出した配管の全範囲で発生し得るが、漏洩位置は不規則である。位置が予測できない漏洩に対し、一定の範囲にトレーを設置し、トレーに落ちた液体をセンサで検知する方法が考えられる。しかし、例えば、主機が設置された機関室は、装置や配管が入り組んでおり、必要な範囲全てにトレーを設置することは難しい。また、機関室のスペースは限られており、トレー設置のために機関室の設計を変更する事はコスト的にも機能的にも不合理な場合が多い。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる漏洩検知システム、漏洩検知方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の漏洩検知システムは、シートと、前記シートを撮影するカメラと、検知装置と、を備え、前記検知装置は、前記カメラが撮影した画像を取得する画像取得部と、前記画像に基づいて、前記シートに発生する非定常事象を検知する検知部と、前記検知部が前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知する通知部と、を備え、前記検知部は、前記シートの定常状態の画像と前記画像取得部が取得した画像との間の色の偏差、照度の偏差、何れかの前記偏差が生じた部分のサイズ、の少なくとも1つに基づいて前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、誤検知と判定された画像に基づく油滴跡の色、照度、サイズが含まれる誤検知防止用データに基づいて、前記非定常事象が発生した可能性があると判定した前記画像が前記誤検知と判定された画像と類似するか否かを判定し、類似する場合には、前記非定常事象が発生していないと判定し、類似しない場合には、所定の周期で取得される前記画像について、連続して所定数以上、前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、前記誤検知と判定された画像と類似しないと判定した場合、前記非定常事象を検知したと判定する。
【0007】
本開示の漏洩検知方法では、シートをカメラで撮影し、前記カメラが撮影した画像を取得し、前記画像に基づいて、前記シートに発生する非定常事象を検知し、前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知し、前記検知では、前記シートの定常状態の画像と前記取得した画像との間の色の偏差、照度の偏差、何れかの前記偏差が生じた部分のサイズ、の少なくとも1つに基づいて前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、誤検知と判定された画像に基づく油滴跡の色、照度、サイズが含まれる誤検知防止用データに基づいて、前記非定常事象が発生した可能性があると判定した前記画像が前記誤検知と判定された画像と類似するか否かを判定し、類似する場合には、前記非定常事象が発生していないと判定し、類似しない場合には、所定の周期で取得される前記画像について、連続して所定数以上、前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、前記誤検知と判定された画像と類似しないと判定した場合、前記非定常事象を検知したと判定する。
【0008】
本開示のプログラムは、シートを撮影した画像を取得し、前記画像に基づいて、前記シートに発生する非定常事象を検知し、前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知する処理であって、前記検知では、前記シートの定常状態の画像と前記取得した画像との間の色の偏差、照度の偏差、何れかの前記偏差が生じた部分のサイズ、の少なくとも1つに基づいて前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、誤検知と判定された画像に基づく油滴跡の色、照度、サイズが含まれる誤検知防止用データに基づいて、前記非定常事象が発生した可能性があると判定した前記画像が前記誤検知と判定された画像と類似するか否かを判定し、類似する場合には、前記非定常事象が発生していないと判定し、類似しない場合には、所定の周期で取得される前記画像について、連続して所定数以上、前記非定常事象が発生した可能性があると判定し、前記誤検知と判定された画像と類似しないと判定した場合、前記非定常事象を検知したと判定する処理を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
上述の漏洩検知システム、漏洩検知方法及びプログラムによれば、検知対象の漏洩を早期に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る漏洩検知システムの一例を示す図である。
図2】実施形態に係る吸着シートを上から見た図である。
図3】実施形態に係る監視対象領域の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る漏洩検知処理の一例を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る検知装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本開示の実施形態に係る漏洩検知システムについて、図1図5を参照して説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係る漏洩検知システムの一例を示す図である。
漏洩検知システム100は、船舶における、検知対象の燃料油等が封入されているタンク、主機、補機、配管(以下、これらを総称して配管P1と記載する。)からの油の漏洩を検知する為のシステムである。漏洩検知システム100は、吸着シートSHと、吸着シートSHの表面を撮影するカメラ20と、カメラ20が撮影した画像を解析して吸着シートSH表面の非定常事象を検知する検知装置10とを備える。図1に配管P1を断面方向から見た図を示す。吸着シートSHは、配管P1下の床面FLに敷かれている。例えば、吸着シートSHは、綿花などを原料とする白色のシートであり、選択的に油を吸着する。配管P1から油O1が漏洩し、吸着シートSHに滴下すると、吸着シートSHは、その油O1を吸着し、滴下した位置には黒色や褐色のシミ状の吸着跡ができる。図2に吸着シートSHを上から見た図を示す。図2の油滴跡SPは、漏洩した油の吸着跡である。配管P1の下は狭隘であることがあるが、吸着シートSHであれば、狭隘部にも敷くことができる。また、配管P1の下に吸着シートSHを敷くことにより、油が漏洩した場合にその油滴跡SPを確実に残すことができる。カメラ20は、吸着シートSH表面の全範囲を撮影できるように設置され、常時又は所定の時間間隔で継続的に吸着シートSHの表面を撮影する。配管P1から油O1が漏洩すると、カメラ20が撮影する画像には、油滴跡SPが写る。吸着シートSH表面を監視し、油滴跡SPの発生を検知することで、油O1の漏洩を検知することができる。検知装置10は、油が滴下していない定常状態で吸着シートSHを撮影して得られた画像と、油滴跡SPが写った画像とを比較し、その変化を解析する。画像上の変化が、所定の基準を満たすと、検知装置10は、吸着シートSHに非定常事象が生じたと判定し、アラームを発報する。
【0012】
図1に例示する漏洩検知システム100では、検知装置10に対し、カメラ20が1台のみ接続されているが、検知装置10には、複数台のカメラ20が接続されていてもよい。その場合、複数のカメラ20は、それぞれ異なる位置に敷かれた吸着シートSHを撮影するように設けられていてもよい。
【0013】
図3に船内にある監視対象領域(機関室)の様子を示す。図3のQ1は主機、C1は主機に接続されたカバーである。カバーC1は、主機Q1からX方向に繋がる燃料管P1の上部及び側面に設置され、下面は解放されている。カバーC1の下には、図示しないC1内燃料管が設けられている。この例の場合、C1内燃料管の下部に吸着シートSHを敷き、吸着シートSHを撮影できる位置にカメラ20を配置する。これにより、吸着シートSHの表面を常時監視することができる。図示するように、C1内燃料管の下部は狭隘な空間となっているが、吸着シートSHであれば、狭隘部でも設置することができ、機関室の設計を変更する必要が無い。なお、C1内燃料管は、配管P1の一例である。
【0014】
検知装置10は、画像取得部11と、入力受付部12と、学習部13と、判定部14と、通知部15と、記憶部16と、を備える。
画像取得部11は、カメラ20が撮影した画像を取得し、記憶部16に保存する。撮影された画像は、動画であっても静止画であってもよい。動画の場合、画像取得部11は、1フレームごとに画像を保存する。
入力受付部12は、漏洩監視の開始指示、終了指示など各種入力を受け付ける。例えば、検知装置10が非定常事象を検知してアラームを出力したときに、乗務員はアラームに対して、画像を確認し、油の漏洩が発生しているか否かを確認し、その確認結果を検知装置10へ入力する。入力受付部12は、乗務員が入力した確認結果を取得する。
【0015】
学習部13は、吸着シートSHの定常状態(油が滴下していない状態)の画像を学習する(a)。例えば、学習部13は、吸着シートSHの表面に油が滴下していない状態で撮影された多数の画像から、油滴が無い状態での吸着シートSHの各画素の輝度値の範囲を算出し、この範囲を閾値として設定してもよいし、定常状態の画像の各位置の画素ごとに平均値を算出し、この値を閾値として設定してもよい。1日のうちの時間帯や天候などによって、吸着シートSH表面を撮影した画像の各画素の輝度値が異なる場合、学習部13は、時間帯別、天候別に定常状態の閾値を設定してもよい。また、学習部13は、乗務員により誤検知の確認結果が入力されたときの誤検知の元となった画像に基づいて、誤検知の原因となる画像の特徴を学習し、誤検知防止用データを作成する(b)。(b)の誤検知防止用データには、例えば、誤検知と判定された画像に基づく、油滴跡SPの色、照度、サイズ、数、分布パターンなどが含まれる。更に、漏洩検知システム100の運転により、正確に油漏洩を検知することができた事例が多数蓄積された場合、学習部13は、正確に検知できたときの画像に基づいて、油漏洩が発生した場合にできる油滴跡SPのパターンを学習してもよい(c)。油滴跡SPのパターンとは、例えば、油滴跡SPの色、サイズ、数、分布パターンなどである。
【0016】
判定部14は、吸着シートSHに生じた非定常事象を検知する。例えば、判定部14は、画像取得部11が取得した画像を解析して、学習部13が設定した定常状態を示す画像の閾値と比較して、(A)色の偏差、(B)照明反射率の偏差(照度の偏差)、(C)色や照度に所定以上の偏差が生じた部分のサイズ(面積)、などを確認する。(A)~(C)のうち、少なくとも1つについて所定の閾値以上の偏差がある場合、その偏差が吸着シートSHの表面に生じた非定常事象を示すか否かを判定する。例えば、画像取得部11が取得した画像について(A)の偏差が確認された場合、判定部14は、その偏差が、誤検知防止用データによって示される特徴に合致しなければ、画像取得部11が取得した画像は、吸着シートSHに非定常事象が生じた可能性があることを示していると判定する。判定部14は、非定常事象が生じた可能性があると判定する状態が所定の時間以上継続すると(次々と取得される画像について、非定常事象が生じた可能性があると判定される状態が続くと)、吸着シートSHに非定常事象が生じたと判定する。
【0017】
通知部15は、判定部14が吸着シートSHに非定常事象が生じたと判定すると、アラームを出力する。例えば、通知部15は、検知装置10に接続された表示装置に油が漏洩した可能性があることを通知するメッセージを表示したり、乗務員が使用する携帯端末やコンピュータへ、アラーム情報が含まれるメッセージや電子メールを送信したりしてもよい。また、通知部15は、検知装置10に接続されている報知機へ非定常事象が生じたことを示す信号を出力してもよい。
記憶部16は、画像取得部11が取得した画像、学習部13が設定した閾値や誤検知防止用データ、油滴跡SPのパターン等を記憶する。
【0018】
(動作)
次に漏洩検知システム100の動作について説明する。
図4は、実施形態に係る漏洩検知処理の一例を示すフローチャートである。
漏洩検知システム100は、漏洩検知システム100が監視処理を行っている間、以下の処理を所定の制御周期で繰り返し行う。
前提として、記憶部16には、少なくとも(a)学習部13が設定した定常状態を示す閾値が記憶されている。例えば、記憶部16には、カメラ20の撮影位置から見た吸着シートSH表面の画素ごとの定常状態の輝度値が記憶されている。
カメラ20が、吸着シートSHを撮影する(ステップS1)。カメラ20は、撮影した画像を検知装置10へ出力する。検知装置10では、画像取得部11が、その画像を取得する(ステップS2)。画像取得部11は、取得した画像を記憶部16に保存するとともに判定部14へ出力する。次に判定部14は、画像を解析する(ステップS3)。例えば、判定部14は、定常状態を示す閾値などの情報を記憶部16から読み出す。閾値には、油滴が無い状態で吸着シートSHを撮影したときの画素ごとの輝度値などが含まれている。輝度値が時間帯によって変化するような場合、判定部14は、現在の時間帯の画像情報を読み出す。次に判定部14は、定常状態を示す画像の各画素の輝度値と、今回画像取得部11によって取得された画像の各画素の輝度値とを比較して、各画素について、色の偏差や照度の偏差の有無を判定する。例えば、判定部14は、対応する画素(同じ位置の画素)の輝度値が所定以上乖離していれば、最新の画像と定常状態の画像の間に、色や照度の偏差があると判定する。また、判定部14は、色や照度の偏差があると判定した画素数に基づいて、偏差が生じた部分のサイズを算出する。判定部14は、例えば、色や照度の偏差が所定のサイズ以上で存在していれば、その画像について、定常状態から変化したと判定する。また、記憶部16に(b)が記憶されている場合、判定部14は、定常状態から変化したと判定した部分について、(b)と照らし合わせて、検知した変化が、過去に誤検知したと確認された画像の色や照度の偏差、偏差があると判定した部分のサイズなどと近しいかどうかを比較して、今回検知した変化と(b)が示す変化との差が所定の範囲内であれば、今回検知された変化は、油漏洩によるものでは無いと判定してもよい。判定部14は、今回検知した変化と(b)が示す変化とが所定以上乖離していれば、油漏洩の可能性があると判定する。油漏洩の可能性があると判定した場合、判定部14は、さらに所定時間以上(所定数以上の画像について)連続して、油漏洩の可能性があると判定していれば、吸着シートSHを撮影した画像に非定常事象が検知されたと判定し(ステップS4;Yes)、油漏洩の可能性があるとの判定が所定時間継続していない場合、判断を保留する(ステップS4;No)。これにより、一時的に人や物がカメラ20の視線を横切った場合等に生じる画像の変化を、非定常事象の発生と誤検知すること防止することができる。判定部14は、画像に非定常事象が検知されたと判定すると、その判定結果を通知部15へ出力する。通知部15は、判定部14の判定結果に基づいて、吸着シートSHに非定常事象が検知された旨のアラームとともに非定常事象が検知された場所の情報を出力する(ステップS5)。
【0019】
アラームが出力されると、乗務員は、非定常事象が検知された画像を確認する。乗務員は、確認結果を検知装置10へ入力する。例えば、実際に油漏洩が発生していたら、乗務員は、正確に検知されたことを検知装置10へ入力し、実際には油漏洩が発生していなければ、誤検知であったことを検知装置10へ入力する。入力受付部12は、乗務員によって入力された確認結果を取得する(ステップS6)。
漏洩が発生していない場合、乗務員は、アラームを停止する。漏洩が発生している場合、乗務員は、現場を確認し、補修等の対処を行う。
【0020】
次に学習部13が、確認結果に基づいて学習を行う(ステップS7)。例えば、ステップS6の入力が誤検知の場合、学習部13は、誤検知の原因となった画像群に基づいて、油滴跡SPと誤検知された部分の色、サイズ、油滴と誤検知された部分の分布パターンなどを解析し、解析結果を誤検知防止用データとして、記憶部16に登録する。
また、例えば、ステップS6の入力が正確な検知であった場合、学習部13は、油漏洩の正確な検知を行った元の画像群に基づいて、色、油滴サイズ、油滴数、油滴の分布パターンなどを解析し、解析結果をパターン認識による判定用データとして、記憶部16に登録する。判定用データが多数蓄積された場合、判定部14は、ステップS3~S4における非定常事象の検知を判定用データに基づいて行ってもよい。例えば、画像取得部11によって取得された画像に含まれる油滴が疑われる部分の画像が、判定用データが示すパターンに近ければ、判定部14は、それらが油滴であると判定する。また、例えば、判定用データを用いてクラスタリングを行い、油漏洩が生じた場合の画像の特徴を示すクラスタを作成し、判定対象の画像の特徴をクラスタと比較して、油漏洩の有無を判定するようにしてもよい。
【0021】
(効果)
これまでに説明したように、本実施形態によれば、吸着シートSHを配管P1の下に敷くことによって、配管P1からの油の漏洩跡を検知可能な状態で残すことができる。また、カメラ20によって、吸着シートSHを常時撮影し、画像の変化をリアルタイムに解析することで、吸着シートSHを撮影した画像に生じた非定常事象を即座に検知することができる。また、非定常事象を検知した場合、アラームを発報することで、油の漏洩を早期に検知することができる。油漏洩の早期検知により、火災のリスクを低減することができる。
【0022】
油漏洩が生じるときの油滴のパターンは様々である。また、油漏洩は、早期に検知しなければ、火災等のリスクが高くなってしまう。その為、本実施形態では、画像に検知された定常状態との偏差が、油の漏洩によるものであるか否かを精緻に判別することよりも、油漏洩の可能性があれば、早急にアラームを出力することに重きを置いて構成されている。これにより、油漏洩を漏れなく、早期に検出することができる。その一方で、アラームが出力された場合に、実際に油の漏洩が生じていたか否かに基づいて、正確な検知又は誤検知の原因となった画像群から画像の特徴を学習し、それ以降の判定に役立てることができるので、検知精度を向上することができる。なお、誤検知防止用データによって油漏洩が発生していないと判定された場合、通知部15は、念のため、誤検知防止のためにアラームが発報されなかったことを表示装置等に出力してもよい。
【0023】
また、油の漏洩は配管P1のどこから生じるか予測できないが、本実施形態によれば、配管P1の全範囲に吸着シートSHを敷くことにより、何処で漏洩が生じたとしても、確実に油の漏洩を検知することができる。また、吸着シートSHであれば、配管P1の周囲の空間的な制約に対し、比較的自由に敷設することができ、油漏洩の検知対象領域を広げることができる。
【0024】
図5は、実施形態に係る検知装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の検知装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0025】
なお、検知装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0026】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、実施形態では、綿花を原料とする油を選択的に吸着する吸着シートを用いることとしたが、油滴跡を検出可能な状態で残すことができる他の原料のシートを用いてもよい。
【0027】
<付記>
各実施形態に記載の漏洩検知システム、漏洩検知方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0028】
(1)第1の態様に係る漏洩検知システム100は、シート(吸着シートSH)と、前記シートを撮影するカメラ20と、検知装置10と、を備え、前記検知装置10は、前記カメラ20が撮影した画像を取得する画像取得部11と、前記画像に基づいて、前記シート(吸着シートSH)に発生する非定常事象を検知する検知部(判定部14)と、前記検知部が非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知する通知部15と、を備える。
吸着シートSHを用いることにより、油滴を検知可能な状態で残すことができ、また、油の漏洩が生じる可能性がある範囲全体にわたって検知対象領域を設定することができる。シートSHをカメラ20で撮影し、その画像を監視することで、早期に油漏洩を検知することができる。
【0029】
(2)第2の態様に係る漏洩検知システム100は、(1)の漏洩検知システム100であって、前記検知部(判定部14)は、前記シートの定常状態の画像と前記画像取得部が取得した画像との間の色の偏差、照度の偏差、何れかの前記偏差が生じた部分のサイズの少なくとも1つに基づいて、前記非定常事象が発生したと判定する。
これにより、油の漏洩を早期に検知することができる。
【0030】
(3)第3の態様に係る漏洩検知システム100は、(1)の漏洩検知システム100であって、前記検知部(判定部14)は、前記シートに生じる前記非定常事象のパターンを記憶した学習済みモデル(判定用データや油漏洩が生じた場合の画像の特徴を示すクラスタ)に基づいて、前記非定常事象が発生したと判定する。
これにより、油の漏洩を正確に検知することができる。
【0031】
(4)第4の態様に係る漏洩検知システム100は、(1)~(3)の漏洩検知システム100であって、前記検知部(判定部14)が前記非定常事象を検知したときの前記画像に対する確認結果の入力を受け付ける入力受付部12をさらに備え、前記検知部(判定部14)は、前記画像取得部11によって取得された画像が、前記確認結果が誤検知であった場合の前記画像と類似するか否かを判定し、類似する場合には、前記非定常事象が発生していないと判定する。
これにより、検知精度を向上することができる。例えば、配管P1の下に敷いた吸着シートSHに油滴と似た色やサイズの物体が落ちているような状況が頻繁に発生するような場合、そのような状況でアラームが出力されるのを防ぐことができる。
【0032】
(5)第5の態様に係る漏洩検知システム100は、(1)~(4)の漏洩検知システム100であって、前記シートは、検知対象の物質を吸着するシートである。
これにより、油滴を検出可能な状態で残すことができる。
【0033】
(6)第6の態様に係る漏洩検知システム100は、(1)~(5)の漏洩検知システム100であって、前記シートを、検知対象の物質が漏洩する可能性がある領域の床面に設ける。
これにより、油の漏洩が何処から生じても漏れなく検知することができる。
【0034】
(7)第7の態様に係る漏洩検知方法は、シートをカメラで撮影し、前記カメラが撮影した画像を取得し、前記画像に基づいて、前記シートに生じる非定常事象の発生を検知し、前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知する。
【0035】
(8)第8の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、シートを撮影した画像を取得し、前記画像に基づいて、前記シートに生じる非定常事象の発生を検知し、前記非定常事象の発生を検知したときにアラームを通知する処理を実行させる。
【符号の説明】
【0036】
100・・・漏洩検知システム
10・・・検知装置
11・・・画像取得部
12・・・入力受付部
13・・・学習部
14・・・判定部
15・・・通知部
16・・・記憶部
20・・・カメラ
SH・・・シート
SP・・・油等
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5