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特許7588510脱脂アーモンド麹及びその製造方法並びに脱脂アーモンド麹を用いて得られる飲食品
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  • 特許-脱脂アーモンド麹及びその製造方法並びに脱脂アーモンド麹を用いて得られる飲食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】脱脂アーモンド麹及びその製造方法並びに脱脂アーモンド麹を用いて得られる飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 25/00 20160101AFI20241115BHJP
【FI】
A23L25/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020214929
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022100750
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 順也
(72)【発明者】
【氏名】河端 弘
(72)【発明者】
【氏名】古市 佳代
(72)【発明者】
【氏名】山中 章英
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-122799(JP,A)
【文献】中国実用新案第204273146(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第103815379(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104095185(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
日経テレコン
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂アーモンド粒子の表面の一部または全面に破精込みが形成されてなる脱脂アーモンド麹。
【請求項2】
脱脂アーモンド粒子の平均粒子径が1.7~2.8mmである、請求項1に記載の脱脂アーモンド麹。
【請求項3】
脱脂アーモンド粒子の脂質含量が1~20質量%である、請求項1又は2に記載の脱脂アーモンド麹。
【請求項4】
脱脂アーモンド粒子に麹菌を接種して培養する工程を含む、脱脂アーモンド麹の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の脱脂アーモンド麹とアーモンド加工品を発酵させてなる飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱脂アーモンド麹及びその製造方法並びに脱脂アーモンド麹を用いて得られる飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
麹は、米・麦・大豆等の穀類に麹菌を繁殖させたものを言う。これらは日本古来の技術であり、土台となる穀類も日本に昔からあるものが多い。アーモンドは日本では育種・栽培は殆どされておらず、アーモンドに麹菌を繁殖させた麹は報告がない。
【0003】
特許文献1はエンドウマメに麹菌を植菌して製麹する技術を開示し、特許文献2は大豆麹菌発酵組成物を開示している。
【0004】
特許文献3は、ローストアーモンドを全粒もしくは八つ割り以上製麹し醸造してなめ味噌を製造する技術を開示し、実施例では米にアーモンドを一部混合し、製麹している。なめ味噌は、大豆、麦、米、塩などを主原料にして製造される、そのまま食品として食べる味噌であり、アーモンド以外の穀類由来の風味が強く感じられ、アーモンドの風味が損なわれる課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-134106
【文献】特開2018-193331
【文献】特開昭54-122799
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アーモンドの風味が豊かな麹を使用した発酵飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の脱脂アーモンド麹及びその製造方法並びに脱脂アーモンド麹を用いて得られる飲食品を提供するものである。
項1. 脱脂アーモンド粒子の表面の一部または全面に破精込みが形成されてなる脱脂アーモンド麹。
項2. 脱脂アーモンド粒子の平均粒子径が1.7~2.8mmである、項1に記載の脱脂アーモンド麹。
項3. 脱脂アーモンド粒子の脂質含量が1~20質量%である、項1又は2に記載の脱脂アーモンド麹。
項4. 脱脂アーモンド粒子に麹菌を接種して培養する工程を含む、脱脂アーモンド麹の製造方法。
項5. 項1~3のいずれかに記載の脱脂アーモンド麹とアーモンド加工品を発酵させてなる飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、脱脂アーモンドを用いることで米麹、麦麹、大豆麹などを使用することなく脱脂アーモンド麹を製造することができ、この脱脂アーモンド麹を使用して脱脂アーモンド加工品を発酵させることで優れたアーモンド風味を有する発酵飲食品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1と比較例1で得られたアーモンドの写真を示す。実施例1の脱脂アーモンドは破精込みが形成され、破精が廻っていることが確認された。比較例1の未脱脂アーモンドは、アーモンド表面に菌糸は存在するが、アーモンド内部への菌糸の食い込み(破精込み)の形成は見られず、破精落ちの状態であることが明らかになった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、脱脂アーモンド麹の製造原料として脱脂アーモンドを使用する。脱脂していないアーモンドを使用すると菌糸がアーモンド表面のみに形成されてアーモンド内部への食い込み(破精込みの形成)はなく破精(はぜ)落ちの状態となるが、脱脂アーモンドを原料として使用することで菌糸が脱脂アーモンドの内部深くまで食い込んだ破精込みが形成されて破精が廻り、良好な脱脂アーモンド麹が得られる。
【0011】
脱脂アーモンド麹の破精込みの割合は、好ましくは50~100%、より好ましくは70~100 %である。
【0012】
本発明の脱脂アーモンド麹は、脱脂アーモンドの表面全体に破精が廻っていて、破精込みの深い総破精であってもよく、脱脂アーモンド表面に斑点状に破精が廻っている突き破精であってもよい。
【0013】
脱脂アーモンドの脂質含量(油脂分)は、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1~12質量%である。脂質含量が多すぎると種麹の増殖が阻害される。
【0014】
脱脂アーモンドの平均粒子径は、好ましくは0.1~10mm、より好ましくは1.7~2.8 mmである。脱脂アーモンドの平均粒子径は、顕微鏡法または画像解析法により測定することができる。脱脂アーモンドの平均粒子径は、脱脂アーモンド麹の酵素活性に影響する。
【0015】
脱脂アーモンドは、焙煎アーモンドまたは焙煎していないアーモンドを圧搾してアーモンド油を得た後の搾りかすを使用することができる。また、脱脂アーモンドは、皮を含んでいても含んでいなくてもよい。脱脂アーモンドは、アーモンドミール、アーモンドプードル、アーモンドプロテインなどの名称で市販されているものを使用してもよく、アーモンド(焙煎または非焙煎、皮付きまたは皮無し)を圧搾してアーモンド油を除くことで製造してもよい。
【0016】
脱脂アーモンド麹は、以下のようにして製造することができる。
(1)水分添加
脱脂アーモンドに水分を添加する。水分の添加量は、脱脂アーモンド(乾燥)100質量部に対し、好ましくは33~100質量部、より好ましくは42~67質量部である。加水後の脱脂アーモンドの水分含量は、好ましくは25~50質量%、より好ましくは30~40質量%である。水分は麹菌の生育に必要である。水分添加後、水分が全体に分散するように混合する。
【0017】
(2)麹菌の植え付け
麹菌は、脱脂アーモンド100質量部に対し、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.05~0.5質量部添加する。麹菌の添加後に麹菌が全体に分散するように脱脂アーモンドを混合する。なお、水分添加と麹菌の添加はいずれを先に行ってもよく、同時に脱脂アーモンドに添加してもよい。また、麹菌の添加は1回で行ってもよく、2回以上に分けて行ってもよい。さらに、脱脂アーモンドを混合しながら麹菌を添加するのが好ましい。
脱脂アーモンド麹を製造するために使用する麹菌としては、Aspergillus属の糸状菌、例えばAspergillus oryzae、Aspergillus sojae、Aspergillus kawachii、Aspergillus awamori、Aspergillus saitoi、Aspergillus nigerなどが挙げられる。またクモノスカビ(Monascus)属、例えば紅コウジカビ(Monascus purpureus)やクモノスカビ(Rizopus)、ケカビ(Mucor)属の糸状菌(カビ)も使用できる。並びに、これら糸状菌の自然変異株、人工的突然変異株、及び遺伝子操作による変異株などを使用してもよい。好ましい麹菌は、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojaeである。
【0018】
(3)製麹
麹菌を植え付け後に製麹し、脱脂アーモンド表面に麹菌の破精を形成させる。製麹の温度は、好ましくは30~40℃であり、湿度は好ましくは60~100%であり、時間は、好ましくは40~64時間である。このような条件で脱脂アーモンドを処理することで脱脂アーモンド麹を得ることができる。得られた脱脂アーモンド麹は、ホモジカッターなどの粉砕機で処理することにより微細化させることが好ましい。
得られた脱脂アーモンド麹は乾燥して保存性と風味を高めることができる。
【0019】
(4)飲食品
本発明で得られた脱脂ア-モンド麹は、ア-モンド加工品とともに発酵させることで、アーモンド風味の飲食品を得ることができる。飲食品の製造は、アーモンド加工品100質量部に対し、脱脂アーモンド麹を好ましくは10~500質量部、水を好ましくは100~3000質量部添加し、撹拌しながら30~70℃で、 1時間~6ヶ月程度発酵させ、その後必要に応じて殺菌工程を行うことで、アーモンド風味の飲食品を得ることができる。飲食品が甘酒の場合、アーモンド加工品100質量部に対し、脱脂アーモンド麹を好ましくは100~200質量部、水を好ましくは1000~1700質量部添加し、撹拌しながら50~65℃で、6~10時間発酵させ、その後必要に応じて殺菌工程を行うことで、アーモンド風味の飲食品を得ることができる。アーモンド加工品としては、アーモンドペースト、アーモンドミルク、皮むきアーモンド、焙煎アーモンド、アーモンドスライス、アーモンドパウダー、脱脂アーモンドなどが挙げられる。本発明の1つの好ましい実施形態において、アーモンド加工品は脱脂アーモンドである。本発明の他の好ましい実施形態において、アーモンド加工品はアーモンドペースト、アーモンドパウダーである。アーモンド風味の飲食品としては、甘酒、味噌、醤油、発酵食品、発酵調味料、さらにこれらを原料として製造されたビスケット、チョコレート、キャラメル、アイスクリーム、プリン、飲料、カレー、レトルト食品などが包含される。
【実施例
【0020】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1及び比較例1
同じ粒度4mm~10mmに粉砕度を揃えた脱脂アーモンド(実施例1)と未脱脂アーモンド(比較例1)を用意した。脱脂は圧搾により実施し、脱脂後の脂質含量は7質量%であった。なお、未脱脂のアーモンドの脂質含量は52質量%であった。
【0021】
それぞれの水分含量を測定し、吸水後35%(w/w)の水分含量となるよう水を加え、1~1.5時間静置し麹原料とした。
【0022】
麹原料の0.05%(w/w)の種麹(Aspergillus oryzae 麹名BF-1)を加え、よく攪拌した。それらを容器に入れ、容器のフタを0.5~1.0cm程度開けた状態で恒温恒湿培養器(エスペック製、プラチナスPR-3KP)内にて製麹を行った。製麹条件としては、温度33℃・湿度98%(18h)→33℃・90%(7h)→35℃・70%(16h)→38℃・70%(2h)とした。
【0023】
実施例1と比較例1で製麹処理を行ったアーモンド麹をメスで切断し断面を露出させて、露出させた断面を、オプトデジタルマイクロスコープ DSX500(オリンパス株式会社製)を用い、明視野、1390倍の撮影条件で撮影した。撮影した写真を図1に示す。
【0024】
脱脂アーモンドを用いた実施例1では、脱脂アーモンド内部深くまで菌糸が食い込んだ破精込みが形成され、破精が十分に廻っているアーモンド麹が得られたことが明らかになった。一方、未脱脂アーモンドを用いた比較例1では菌糸が未脱脂アーモンドの表面のみに形成され、菌糸の未脱脂アーモンド内部への食い込み(破精込み)は全く形成されず、いわゆる破精落ちの状態になっていた(図1)。
【0025】
実施例2
脱脂アーモンドを東京スクリーン(株)で目開き10mm、4.0mm、2.8mm、1.7mmの篩(ステンレス製JIS Z 8801)を使用し、粒度に応じて3種類(粒径4.0mm~10mm 、2.8mm~4.0mm、1.7mm~2.8mm)脱脂アーモンドを用意した。
【0026】
それぞれの水分含量を測定し、吸水後35%(w/w)の水分含量となるよう水を加え、1~1.5時間静置し麹原料とした。
【0027】
麹原料の0.05%(w/w)の種麹(Aspergillus oryzae 麹名BF-1)を加え、よく攪拌した。それらを容器に入れ、容器のフタを0.5~1.0cm程度開けた状態で恒温恒湿培養器(エスペック製、プラチナスPR-3KP)にて製麹を行った。製麹条件としては、温度33℃・湿度98%(18h)→33℃・90%(7h)→35℃・70%(16h)→38℃・70%(2h)とした。
【0028】
得られたアーモンドの麹に対し、各種酵素の活性を測定した。α-アミラーゼと酸性カルボキシペプチダーゼは醸造分析キット(キッコーマンバイオケミファ(株)製)を用いて酵素力価測定を行った。酸性プロテアーゼは、酒類総合研究所標準分析法(独立行政法人 酒類総合研究所)の「個体こうじ」分析方法にならい酵素力価測定を行った。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
その結果、1.7mm~2.8mmの範囲の粒子径で、各種酵素の活性が最も高くなる結果が得られた。
【0031】
比較例2:米麹で、アーモンドペーストを発酵させた場合の分解前後の風味評価結果
市販のアーモンドペースト(粉砕物)50gを水850g(20℃)に分散させ、攪拌しながら95℃までウォーターバスで加温し、アーモンドペーストを十分に分散させるとともに、必要最低限の殺菌を行った。
【0032】
麹発酵の設定温度である55℃まで冷却し、米麹(市販のマルコメ社「プラス糀 乾燥米こうじ」を100g添加し、よく攪拌した後、インキュベーターで55℃8時間静置した。
【0033】
反応終了後、速やかに、90℃まで昇温し、90℃で15分間攪拌し、麹菌の反応を停止させた。その後、ホモジカッターで米麹の粒子を微細化させた。
【0034】
実施例3:脱脂アーモンドから得られたアーモンド麹で、アーモンドペーストを発酵させた場合の風味評価結果
粒子径1.7mm~2.8mmに粉砕した脱脂アーモンドを使用し、限定吸水度35%で製麹したアーモンド麹を調製した。
【0035】
市販のアーモンドペースト(粉砕物)50gを水850g(20℃)に分散させ、攪拌しながら95℃までウォーターバスで加温し、アーモンドペーストを十分に分散させるとともに、必要最低限の殺菌を行った。麹発酵の設定温度である55℃まで冷却し、上記のアーモンド麹を100g添加し、よく攪拌した後、インキュベーターで55℃8時間静置した。
【0036】
反応終了後、速やかに、90℃まで昇温し、90℃で15分間攪拌し、麹菌の反応を停止させた。その後、ホモジカッターで米麹の粒子を微細化させた。
比較例2と実施例3の発酵後の飲料を、訓練された官能評価パネラー6名で評価を実施した。なお、評価の観点は、アーモンドの風味を5段階で評価した。
評価基準は下記のとおり設定した。アーモンドの風味は、未脱脂アーモンドを◎(4点)として、香り、甘味、旨味を考慮して総合的に評価した。事前にパネラーと評価基準に対するすり合わせを十分に行い実施した。
【0037】
[風味評価の評価基準]
×(0点):アーモンドの風味(香り、甘味、旨味)が全く感じられない
△(1点):アーモンドの風味(香り、甘味、旨味)が僅かに感じられる
〇(2点):アーモンドの風味(香り、甘味、旨味)がやや感じられる
〇~◎(3点):アーモンドの風味(香り、甘味、旨味)が適度に感じられる
◎(4点):アーモンドの風味(香り、甘味、旨味)が十分感じられる
評価結果を表2に示す。アーモンドペースト水を米麹で発酵させた場合(比較例2)と比較して、脱脂アーモンド麹(実施例3)で発酵させた場合に、アーモンドの風味(香り、甘味、旨味)を強く感じられるとの評価が得られた。
【0038】
【表2】
図1