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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20241115BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20241115BHJP
   C08F 257/00 20060101ALI20241115BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20241115BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20241115BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241115BHJP
   C08F 4/38 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C08J9/18 CET
C08K5/01
C08F257/00
C08L25/00
C08F279/02
C08F2/44 C
C08F4/38
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020215484
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101097
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 元輝
(72)【発明者】
【氏名】島 昌臣
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-106548(JP,A)
【文献】特開2016-037573(JP,A)
【文献】特開2020-147668(JP,A)
【文献】特開2017-071669(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125933(WO,A1)
【文献】特開2009-108237(JP,A)
【文献】米国特許第05693683(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60;67/20
C08F 2/00- 2/60
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤と発泡剤とを含む発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法であって、
上記難燃剤と重合開始剤とを溶解させた、スチレンを含むスチレン系単量体を水性媒体中に添加し、該水性媒体中で上記スチレン系単量体の懸濁重合を行うことにより、上記難燃剤を含むスチレン系樹脂粒子を得る重合工程を含み、
上記重合工程においては、重合開始剤として、10時間半減期温度が65℃以上90℃以下の、脂肪族パーオキシエステル型及び/又は脂肪族パーオキシケタール型の第1有機過酸化物と、10時間半減期温度が90℃超110℃以下の第2有機過酸化物とを使用し、
上記難燃剤がスチレン-ブタジエン系共重合体の臭素化物であり、
上記難燃剤の配合量がスチレン系単量体100重量部に対して0.05~2質量部であり、
上記発泡性スチレン系樹脂粒子中のスチレンの含有量が25質量ppm以下(0を含む)であるとともに、ベンゼンの含有量が1.5質量ppm以下(0を含む)である、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
上記スチレン系単量体中のフェニルアセチレン濃度が5質量ppm以上20質量ppm以下である、請求項1に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
上記第2有機過酸化物が、上記第1有機過酸化物よりも10時間半減期温度が10℃以上高い脂肪族パーオキシジカーボネート型及び/又は脂肪族パーオキシエステル型の有機過酸化物である、請求項1又は2に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
上記重合工程が、110℃以下の温度で重合転化率が90質量%以上となるまで上記スチレン系単量体の重合を行う前段重合工程と、115℃を超え135℃以下の温度で未反応のスチレンの含有量が25質量ppm以下(0を含む)となるまで上記スチレン系単量体の重合を行う後段重合工程とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
上記第1有機過酸化物がt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートからなり、上記第2有機過酸化物がt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
上記スチレン系単量体の重合転化率が90質量%以上のときに上記発泡剤を添加し、上記スチレン系樹脂粒子に上記発泡剤を含浸させる、発泡剤含浸工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
上記発泡剤含浸工程においては、上記発泡剤としてブタンとペンタンとを添加する、請求項6に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項8】
上記重合工程においては、上記スチレン系単量体の重合転化率が90%となるまでの重合速度が14%/hr以上18%/hr以下となる条件で懸濁重合を行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項9】
重合禁止剤の存在下で上記スチレン系単量体の懸濁重合を行う、請求項1~8のいずれか一項に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系単量体の懸濁重合により、難燃剤を含有する発泡性スチレン系樹脂粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性スチレン系樹脂粒子から得られるスチレン系樹脂発泡粒子成形体(以下、適宜「発泡成形体」という)は、優れた断熱性能を有するため、住宅用断熱材、保冷箱等に使用されている。また、発泡成形体は、軽量性や緩衝性能にも優れるため、緩衝材や床の嵩上げ材などの自動車内装材としても使用されている。このような用途では、難燃剤を含有させた難燃性の発泡成形体が使用される。また、発泡成形体中の未反応のスチレン系単量体(以下、適宜「残存スチレン」ともいう)等の揮発性有機化合物(つまり、VOC)の含有量を低減させることが望まれている。
【0003】
特に、自動車等の車両の内装材用途では、住宅用断熱材以上に、揮発性有機化合物の放散量の少ない発泡成形体が求められている。しかし、難燃性に優れた発泡成形体を得るために、難燃剤の存在下においてスチレン系単量体の懸濁重合を行うと、重合阻害が起こり、発泡性スチレン系樹脂粒子中の残存スチレン量を十分に低下させることが困難であった。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献1及び特許文献2には、スチレン-ブタジエン系共重合体の臭素化物からなる難燃剤の存在下において懸濁重合を行うことより、優れた難燃性を示すとともに、スチレン系単量体の含有量が少ない発泡性スチレン系樹脂粒子を製造する方法が開示されている。また、特許文献3には、特定の重合開始剤を使用することにより、難燃性を有するとともに、スチレン系単量体の含有量が少なく、不快臭が低減された発泡成形体を提供可能な発泡性スチレン系樹脂粒子を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-71669号公報
【文献】特開2020-147668号公報
【文献】特開2016-37573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の製造方法は、発泡性スチレン系樹脂粒子中の残存スチレン量を十分に低下させることが難しく、また、得られる発泡成形体の難燃性にも課題を残すものであった。特許文献2の製造方法は、得られる発泡成形体の難燃性に課題を残すものであった。また、特許文献2の製造方法は、重合開始剤として特殊な構造を有する有機過酸化物を使用する必要があり、生産性にも劣るものであった。特許文献3の製造方法は、発泡性スチレン系樹脂粒子中の残存スチレン量を十分に低下させることができるとともに、得られる発泡成形体の難燃性にも優れるものである。しかし、特許文献3の製造方法により得られた発泡性スチレン系樹脂粒子は、粒子中からベンゼンが検出されることがあり、用途によっては、改善の余地があった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れた難燃性を有し、スチレン及びベンゼンの含有量が少ないスチレン系樹脂発泡粒子成形体を容易に製造することができる発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、難燃剤と発泡剤とを含む発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法であって、
上記難燃剤を溶解させた、スチレンを含むスチレン系単量体を水性媒体中に添加し、該水性媒体中で上記スチレン系単量体の懸濁重合を行うことにより、上記難燃剤を含むスチレン系樹脂粒子を得る重合工程を含み、
上記重合工程においては、重合開始剤として、10時間半減期温度が65℃以上90℃以下の、脂肪族パーオキシエステル型及び/又は脂肪族パーオキシケタール型の第1有機過酸化物と、10時間半減期温度が90℃超110℃以下の第2有機過酸化物とを使用し、
上記難燃剤がスチレン-ブタジエン系共重合体の臭素化物であり、
上記難燃剤の配合量がスチレン系単量体100重量部に対して0.05~2質量部であり、
上記発泡性スチレン系樹脂粒子中のスチレンの含有量が25質量ppm以下(0を含む)であるとともに、ベンゼンの含有量が1.5質量ppm以下(0を含む)である、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法では、重合開始剤として、上記特定の第1有機過酸化物と第2有機過酸化物とを使用し、上記特定の難燃剤を使用しつつ、水性媒体中で、難燃剤を溶解させたスチレン系単量体の懸濁重合を行う。これにより、スチレンの含有量が25質量ppm以下で、ベンゼンの含有量が1.5質量ppm以下である、難燃剤を含有する発泡性スチレン系樹脂粒子を製造することができる。このような発泡性スチレン系樹脂粒子によれば、優れた難燃性を有し、スチレン及びベンゼンの含有量が少ないスチレン系樹脂発泡粒子成形体の製造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、発泡性スチレン系樹脂粒子の好ましい実施形態について説明する。本明細書では、発泡性スチレン系樹脂粒子のことを、適宜「発泡性粒子」という。発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡してなるスチレン系樹脂発泡粒子のことを、適宜「発泡粒子」という。スチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるスチレン系樹脂発泡粒子成形体のことを「発泡成形体」という。本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、下限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以上であることを意味し、上限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以下であることを意味する。本明細書において、「質量部」と「重量部」、「質量%」と「重量%」とは実質的に同義である。「ppm」は、特に断らない限り「質量ppm」を意味する。
【0011】
重合工程においては、難燃剤を溶解させたスチレン系単量体を水性媒体中に添加し、水性媒体中でスチレン系単量体の懸濁重合を行う。つまり、難燃剤の存在下でスチレン系単量体を懸濁重合する。これにより、難燃剤を含むスチレン系樹脂粒子を得る。難燃剤は、スチレン-ブタジエン系共重合体の臭素化物を含有する。以降の説明では、スチレン-ブタジエン系共重合体の臭素化物のことを適宜「Br-SBC」という。Br-SBCとしては、例えば臭素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体を用いることができる。難燃剤としては、本発明の所期の目的が達成される範囲において、Br-SBC以外の他の臭素系難燃剤を併用することができる。
【0012】
重合工程におけるスチレン系単量体の懸濁重合は、例えば懸濁剤等を含む水性媒体中で行われる。水性媒体は、水などの液体である。難燃剤は、予めスチレン系単量体に溶解させた状態で水性媒体中に添加される。
【0013】
重合工程では、スチレン系単量体の懸濁重合を行う。そのため、例えばスチレン系樹脂を含有する核粒子にスチレン系単量体を含浸重合させる、所謂シード重合法とは異なり、核粒子を製造する必要がない。それ故、発泡性粒子の生産効率が高い。また、重合工程では、上記のように所定の難燃剤を溶解させたスチレン系単量体を水性媒体中に添加し、所定の重合開始剤を使用して懸濁重合を行う。これにより、スチレン系単量体の重合が進行してスチレン系単量体の濃度が低下した状態において、例えば重合開始剤に由来するベンゼンの発生が抑制されると共に、スチレン系単量体の重合が十分に進行する。その結果、難燃剤を含有すると共に、スチレンの含有量が25質量ppm以下(0を含む)かつ、ベンゼンの含有量が1.5質量ppm以下(0を含む)の発泡性粒子を製造することができる。この理由は次のように考えられる。
【0014】
一般に、難燃剤の存在下においてスチレン系単量体の懸濁重合を行うと、重合阻害が起こりやすく、発泡性粒子中にスチレン系単量体が残存する傾向にある。上記のように、難燃剤を溶解させたスチレン系単量体を水性媒体中に添加して懸濁重合を行うにあたり、難燃剤としてBr-SBCを用いることにより、重合阻害が抑制され残存スチレン量が低下すると共に、難燃性が向上する。しかし、スチレン系単量体の懸濁重合において、難燃剤としてBr-SBCを用いた場合には、発泡性粒子中からベンゼンが検出されることがあった。本発明者らは、その原因が、重合開始剤ラジカルの脱炭酸に起因することを見出した。さらに、この脱炭酸が、懸濁重合においてベンゾイルパーオキサイドなどの芳香族系の重合開始剤を用いた場合において、スチレン系単量体の重合が進行してスチレン系単量体が極少量にまで低下するときに起こり易いことを見出した。具体的には、重合開始剤として例えばベンゾイルパーオキサイドを用いた場合において、スチレン系単量体が極低濃度となった環境下では、ベンゾイルパーオキサイドラジカルとスチレン系単量体との反応が起きにくくなり、ラジカルが脱炭酸を起こすことにより、ベンゼンが生成すること見出した。本開示の製造方法のように、重合開始剤として、上記のように所定の第1有機過酸化物及び第2有機過酸化物を用いることにより、スチレン系単量体が極低濃度となった環境下でもベンゼンの生成が抑制され、ベンゼン含有量が少ない発泡性粒子を得ることができる。
【0015】
スチレン系単量体100重量部に対する難燃剤の配合量は0.05~2質量部であることが好ましい。この場合には、難燃性をより向上させることができると共に、難燃剤の配合量の増大に伴う製造コストの増大を防止することができる。さらに、スチレン系単量体の重合阻害をより防止し、発泡成形体中のスチレンの含有量をより低減させることができる。スチレンの含有量をさらに低減させるという観点からは、スチレン系樹脂100質量部に対する難燃剤の配合量は、1質量部未満であることが好ましく、0.5質量部未満であることがさらに好ましく、0.1質量部以下が特に好ましい。なお、上述の難燃剤の配合量は、通常、発泡成形体中における難燃剤の含有量に等しくなる。
【0016】
スチレン系単量体としては、スチレンを用いることができる。また、スチレンの他にもα-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4,6-トリブロモスチレン、ジビニルベンゼン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどのスチレン化合物を用いることができる。スチレン系単量体は、単独で用いても、2種類以上混合して用いても良い。製品コストの観点や、発泡成形体の成形加工のしやすさの観点から、スチレン系単量体の主成分はスチレンであることが好ましい。
【0017】
また、スチレン系単量体と共に、スチレン系単量体と共重合可能なビニル系モノマーを併用しても良い。このようなビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ニトリル基を含有するビニル系モノマー、有機酸ビニル化合物、オレフィン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル化合物、ハロゲン化ビニルビニリデン化合物、マレイミド化合物などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」と「メタクリル酸」を含む概念であり、これらの一方、又は双方を意味する。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。ニトリル基を含有するビニル系モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。有機酸ビニル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。オレフィン化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン等が挙げられる。ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。ハロゲン化ビニル化合物としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等が挙げられる。ハロゲン化ビニリデン化合物としては、例えば、塩化ビニリデン等が挙げられる。マレイミド化合物としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド等が挙げられる。
【0019】
スチレン系単量体中のフェニルアセチレン濃度は、5質量ppm以上20質量ppm以下であることが好ましい。フェニルアセチレン濃度が20質量ppm以下であることにより、スチレンの含有量をより低減することができる。また、フェニルアセチレン濃度が5質量ppm以上であっても、本開示の製造方法によればスチレンの含有量、ベンゼンの含有量を十分に低減させることが可能になるため、フェニルアセチレン濃度が5質量ppm未満(0を含む)の高コストなスチレン系単量体の使用を回避することができる。
【0020】
重合工程においては、例えば、撹拌装置の付いた密閉容器内に、難燃剤を溶解させたスチレン系単量体を水性媒体中に分散させて重合反応を開始させることができる。重合工程は、重合開始剤として特定の第1有機過酸化物を使用して重合を行う前段重合工程と、重合開始剤として特定の第2有機過酸化物を使用して重合を行う後段重合工程とを含むことができる。前段重合工程は、比較的低温にて大部分のスチレン系単量体を重合させる工程であり、後段重合工程は、前段重合工程よりも高温にて残存する未反応のスチレン系単量体を重合させる工程である。具体的には、重合工程が、110℃以下の温度で重合転化率が90質量%以上となるまでスチレン系単量体の重合を行う前段重合工程と、115℃を超え135℃以下の温度で未反応のスチレン系単量体の含有量が25質量ppm以下(0を含む)となるまでさらにスチレン系単量体の重合を行う後段重合工程とを含むことが好ましい。この場合には、スチレン系樹脂の重量平均分子量の低下を抑制し、発泡成形体の機械的強度を向上させることができると共に、残存スチレン量をより一層低減させることができる。
【0021】
重合開始剤は、有機過酸化物であり、上記のごとく、第1有機過酸化物と第2有機過酸化物とが用いられる。第1有機過酸化物は、10時間半減期温度が65℃以上90℃以下であり、脂肪族パーオキシエステル型及び/又は脂肪族パーオキシケタール型の有機過酸化物である。第1有機過酸化物の10時間半減期温度が90℃よりも高い場合には、残存スチレン量を低減させることが困難となるおそれがある。また、得られる発泡成形体の機械強度が低下するおそれがある。残存スチレン量をより低減させる観点、発泡成形体の機械強度をより向上させる観点から、第1有機過酸化物の10時間半減期温度は、85℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。一方、第1有機過酸化物の10時間半減期温度が65℃未満である場合には、残存スチレン量を低減させることが困難となるおそれがある。残存スチレン量をより低減させる観点から、第1有機過酸化物の10時間半減期温度は、68℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。第1有機過酸化物は、例えば、主に前段重合工程における重合開始剤として用いられる。第1有機過酸化物を適宜「第1重合開始剤」という。
【0022】
第2有機過酸化物は、10時間半減期温度が90℃超110℃以下の有機過酸化物である。第2有機過酸化物の10時間半減期温度が110℃よりも高い場合には、残存スチレン量を低減させることが困難となるおそれがある。残存スチレン量をより低減させる観点から、第2有機過酸化物の10時間半減期温度は、105℃以下であることが好ましく、102℃以下であることがより好ましい。一方、第2有機過酸化物の10時間半減期温度が90℃以下である場合には、残存スチレン量を低減させることが困難となるおそれがある。残存スチレン量をより低減させる観点から、第2有機過酸化物の10時間半減期温度は、92℃以上であることが好ましく、95℃以上であることがより好ましい。第2有機過酸化物は、例えば、主に後段重合工程における重合開始剤として用いられる。第2有機過酸化物を適宜「第2重合開始剤」という。
【0023】
第2有機過酸化物は、第1有機過酸化物よりも10時間半減期温度が10℃以上高いことが好ましい。この場合には、第2有機過酸化物が後段重合工程での重合開始剤(つまり、第2重合開始剤)としてより好適になる。第2有機過酸化物は、脂肪族パーオキシジカーボネート型及び/又は脂肪族パーオキシエステル型の有機過酸化物であることが好ましい。脂肪族パーオキシジカーボネート型及び/又は脂肪族パーオキシエステル型の有機過酸化物は、汎用的な重合開始剤であり、安価な入手が可能であるため、発泡性粒子の製造コストを低減できる。また、本開示の製造方法では、第2重合開始剤として、脂肪族パーオキシジカーボネート型及び/又は脂肪族パーオキシエステル型の有機過酸化物を用いても、十分にスチレンの含有量、ベンゼンの含有量を低減させることができる。
【0024】
10時間半減期温度とは、有機過酸化物を不活性溶媒中に仕込み、有機過酸化物の仕込み量の50%が10時間で熱分解する温度と定義される。10時間半減期温度は、例えば次のようにして測定することができる。まず、有機過酸化物をベンゼンに溶解して濃度0.1mol/リットルの溶液を得る。この溶液を、予め内部の空気を窒素により置換したガラス管内に封入する。次いで、ガラス管を所定温度にセットした恒温槽に浸すことにより、有機過酸化物を熱分解させる。ここで、分解速度定数をk、時間をt、有機過酸化物の初期濃度を[PO]0、時間t後の有機過酸化物の濃度を[PO]tとすると、kt=ln[PO]0/[PO]tの関係が成り立つ。そこで、時間tとln[PO]0/[PO]tとの関係をグラフにプロットすると、その傾きから分解速度定数kを求めることができる。
【0025】
半減期時間t1/2では[PO]0/[PO]t=2の関係が成り立つので、t1/2=ln2/kの関係式より、ある温度での半減期時間t1/2を求めることができる。複数の温度について半減期時間t1/2を求め、lnt1/2と1/Tとの関係をグラフにプロットすることにより、10時間半減期温度を得ることができる。Tは絶対温度(単位:K)である。
また、10時間半減期温度の値として、有機過酸化物の製造会社が発行するカタログや技術資料に記載された10時間半減期温度のデータを利用することもできる。
【0026】
第1有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート
、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどが挙げられる。
第2有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、t-ヘキシルパーオキシアセテート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン等が挙げられる。
【0027】
上記有機過酸化物の中でも、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートからなる第1有機過酸化物を重合開始剤として用い、かつt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートからなる第2有機過酸化物を重合開始剤として用いることが好ましい。この場合には、発泡性粒子中の残存スチレン量をより低減できると共に、重合工程においてスチレン系単量体が極低濃度の状態におけるベンゼンの生成をより抑制できるため、ベンゼンの含有量をより低減できる。さらに、発泡性粒子の平均粒子径のばらつき(具体的には、分散度)を小さくすることができる。
【0028】
有機過酸化物の添加量は、スチレン系単量体100質量部に対して0.01~2質量部であることが好ましい。この場合には、有機過酸化物の使用量に伴う製造コストの増大を抑制しつつ、重合速度を高めて生産性を十分に高めることができる。同様の観点から、有機過酸化物の添加量は、スチレン系単量体100質量部に対して、0.1~1質量部であることがより好ましい。
【0029】
第1有機過酸化物として、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを用いる場合には、スチレン系単量体の重合を阻害しない範囲で、水性媒体中に重合禁止剤を添加することが好ましい。この場合には、発泡性粒子の平均粒子径のばらつきを小さくすることができる。重合禁止剤としては、4-t-ブチルカテコール(p-TBC)、ヒドロキノン、p-ベンゾキノン、クロローp-ベンゾキノン、2,5-ジクロロベンゾキノン、2,6-ジクロロベンゾキノン、2,3-ジメチル-p-ベンゾキノン、2,5-ジメチル-p-ベンゾキノン、メトキシ-p-ベンゾキノン、テトラブロモ-p-ベンゾキノン、テトラクロロ-p-ベンゾキノン、ジメチル-p-ベンゾキノン、、o-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン、p-ジニトロベンゼン、2,4-ジニトロトルエン、1,3,5-トリニトロベンゼン、1,3,5-トリニトロアニソール、2,4,6-トリニトロフェノール等の油溶性重合禁止剤;亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸アンモニウム、L-アスコルビン酸、クエン酸等の水溶性重合禁止剤が例示される。
重合禁止剤を添加するタイミングは特に制限はないが、重合工程において、難燃剤と重合開始剤と重合禁止剤とを溶解させたスチレン系単量体を水性媒体中に添加することが好ましい。重合禁止剤の添加量は、スチレン系単量体100質量部に対して0.0001~0.01質量部であることが好ましい。
【0030】
また、重合工程では、上記のごとく、難燃剤としてBr-SBCを用いている。Br-SBCは、1,2,5,6,9,10-ヘキサブロモシクロドデカン、2,2-ビス[4’-(2”,3”-ジブロモ-2”-メチルプロポキシ)-3’,5’-ジブロモフェニル]プロパン等の従来使用されてきた臭素系難燃剤と比べてスチレン系単量体の重合を阻害しにくく、後段側の重合温度を高くすることによって未反応のスチレン系単量体の減少を可能にし、かつ後段側の重合温度を高くしてもスチレン系樹脂の分子量を著しく低下させない。そのため、上記のごとく多段階の重合工程を行うことにより、難燃剤を含みながらも、未反応のスチレンの含有量がより少なく、高い分子量を有する樹脂粒子を得ることができる。なお、後段重合工程における重合温度を適宜「最終重合温度」という。
【0031】
また、本開示の製造方法では、難燃剤を溶解させたスチレン系単量体を水性媒体中に添加して懸濁重合を行う。これにより、懸濁重合の安定性を高めることができる。これに対し、たとえば水性媒体中に難燃剤と重合開始剤とを溶解させておき、難燃剤を予め溶解させていないスチレン系単量体を水性媒体中に添加して懸濁重合を行った場合には、発泡性粒子中に難燃剤が均一に含浸されず、発泡成形体の難燃性が損なわれるおそれがある。未反応のスチレンの含有量(つまり、残存スチレン量)をより低減する観点からは、難燃剤と重合開始剤とを溶解させたスチレン系単量体を水性媒体中に添加して懸濁重合を行ことが好ましい。なお、難燃剤を溶解させたスチレン系単量体と重合開始剤を溶解させたスチレン系単量体とを別々に水性媒体中に添加して懸濁重合を行うこともできる。
【0032】
スチレン系樹脂の重量平均分子量の低下を抑制し、発泡成形体の機械的強度を向上させるという観点から、前段重合工程における重合温度は、上述のごとく110℃以下であることが好ましく、105℃以下であることがより好ましい。一方、重合効率の観点からその下限は概ね70℃程度である。また、前段重合工程に続いて行われる後段重合工程において未反応のスチレン系単量体をより十分に低減させるという観点から、前段重合工程においてはスチレン系単量体の重合転化率が上述のように90質量%以上となるまで重合を行うことが好ましく、95質量%以上となるまで重合を行うことがより好ましく、98質量%以上となるまで重合を行うことがさらに好ましい。
【0033】
未反応のスチレン系単量体を効率的に減らすことができると共に、スチレン系樹脂の重量平均分子量の低下をより防止するという観点から、後段重合工程における最終重合温度は、上述のように115℃を超え135℃以下であることが好ましく、118℃~130℃であることがより好ましい。なお、後段重合工程における未反応のスチレン系単量体の量は、最終重合温度の保持時間により制御することができる。
【0034】
重合工程においては、重合転化率が90%となるまでの重合速度が14%/hr以上18%/hr以下となる条件で懸濁重合を行うことが好ましい。この場合には、残存スチレン量をより減らすことができるとともに、発泡性粒子の平均粒子径のばらつきを小さすることができる。なお、重合温度、重合開始剤の種類や量等を変更することにより重合速度を上記範囲内に制御することができる。
重合転化率が90%となるまでの重合速度は、重合転化率90%を、重合転化率が90%になるまでに要する時間(hr:時間)で割ることにより求めることができる。
【0035】
また、重合工程においては、必要に応じて難燃助剤を用いることができる。難燃助剤としては、1時間半減期温度が130℃を超えるラジカル発生剤を用いることができる。難燃剤と難燃助剤との質量比は、1:0.1~1:5(ただし、難燃剤:難燃助剤)であることが好ましい。この場合には、発泡成形体の難燃性をより向上させることができる。難燃助剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クミルヒドロパーオキサイド、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、ポリ(1,4-ジイソプロピルベンゼン)などを用いることができる。
【0036】
スチレン系単量体の懸濁重合においては、懸濁剤を用いることができる。即ち、懸濁剤が添加された水等の分散媒中においてスチレン系単量体の重合を行うことができる。懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子を用いることができる。また、懸濁剤としては、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、酸化アルミニウム、タルク、カオリン、ベントナイト等の難水溶性無機塩を用いることもできる。また、懸濁剤とともに、必要に応じて界面活性剤を併用することができる。なお、懸濁剤として難水溶性無機塩を使用する場合には、アルキルスルホン酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤を併用することが好ましい。
【0037】
懸濁剤の使用量は、スチレン系単量体100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましい。上記のごとく難水溶性無機塩からなる懸濁剤とアニオン性界面活性剤を併用する場合には、スチレン系単量体100質量部に対して、懸濁剤を0.05~3質量部、アニオン性界面活性剤を0.0001~0.5質量部用いることが好ましい。
【0038】
また、スチレン系単量体には、本発明の効果を損なわない限り、気泡核剤(気泡調整剤)、可塑剤、連鎖移動剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、導電性フィラー、有機系抗菌剤、無機系抗菌剤等の添加剤を添加することができる。
【0039】
気泡核剤としては、例えばポリエチレンワックス、タルク、シリカ、エチレンビスステアリルアミド、メタクリル酸メチル系共重合体、シリコーン等を用いることができる。
可塑剤としては、例えば流動パラフィン、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリステアレート、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル等を用いることができる。
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、α―メチルスチレンダイマー等を用いることができる。
【0040】
リン系難燃剤としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレアジルホスフェート等を用いることができる。
無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、膨張性黒鉛、赤リン等を用いることができる。
【0041】
帯電防止剤としては、アルキルジエタノールアミン、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルスルホン酸ナトリウム等を用いることができる。
酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、硫黄系等の酸化防止剤を用いることができる。
【0042】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤を用いることができる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン系等の光安定剤を用いることができる。
【0043】
導電性フィラーとしては、導電性カーボンブラック、黒鉛粉、銅亜鉛合金粉、銅粉、銀粉、金粉等を用いることができる。
有機系抗菌剤としては、例えば銀系、銅系、亜鉛系、酸化チタン系等の抗菌剤を用いることができる。
また、スチレン系単量体には、本発明の効果を損なわない限り、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン-プロピレンゴムなどのゴム成分を添加しても良い。
【0044】
次に、発泡剤含浸工程においては、懸濁重合中及び/又は上記懸濁重合後に発泡剤を添加し、スチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性粒子を得る。発泡剤含浸工程における発泡剤の含浸は、重合途中にある樹脂粒子に対して行ってもよいし、重合後の樹脂粒子に対して行ってもよいし、これらの両方でもよい。すなわち、発泡剤含浸工程における「樹脂粒子」は、重合途中の樹脂粒子及び重合後の樹脂粒子の少なくともいずれか一方を含む概念である。スチレン系単量体の重合転化率が80質量%以上で発泡剤を添加することが好ましい。この場合には、未反応のスチレンの含有量を減らすことができる。
【0045】
発泡剤含浸工程においては、スチレン系単量体の重合転化率が90質量%以上のときに発泡剤を添加することがより好ましい。この場合には、発泡剤による重合阻害が抑制されるため、発泡性粒子中のスチレン量がより低下する。この効果が向上するという観点から、発泡剤を添加するタイミングは、重合転化率が95質量%以上のときであることがさらに好ましく、98質量%以上のときであることが特に好ましい。一方、重合時間の短縮化が可能になると共に、例えば表面の陥没の発生を防ぎ、発泡成形体の外観を向上させるという観点から、発泡剤を添加するタイミングは、重合転化率が99.5質量%以下のときであることがより好ましく、99質量%以下のときであることがさらに好ましい。
【0046】
有機物理発泡剤としては、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭素数が3~6個の炭化水素を用いることができる。これらの発泡剤は、単独で、あるいは2種類以上を併用することができる。
【0047】
発泡剤含浸工程においては、発泡剤としてブタンとペンタンとを添加することが好ましい。この場合には、発泡剤保持性が高く、発泡成形体の気泡が微細化しすぎることがなく、表面陥没がおこりにくくなるという効果が得られる。
【0048】
発泡性粒子中の発泡剤含有量は、2~10質量%であることが好ましい。発泡剤含浸工程では、発泡性粒子中の発泡剤含有量が2~20質量%になる程度の量の発泡剤が例えば密閉容器内に供給される。
【0049】
発泡性粒子中のスチレンの含有量は25質量ppm以下(0を含む)である。この場合には、発泡成形体中のスチレンの含有量を例えば10質量ppm以下(0を含む)にまで低下させやすくなる。発泡成形体中のスチレンの含有量をより確実に10質量ppm以下(0を含む)にまで低下させ、発泡成形体からのスチレンの放散量をより低減させるという観点から、発泡性粒子中のスチレンの含有量は、20質量ppm以下(0を含む)であることがより好ましく、18質量ppm以下(0を含む)であることがさらに好ましい。発泡性粒子中のスチレンの含有量の下限は特に制限はないが、概ね5質量ppm以上である。発泡性粒子中のスチレン含有量は、ヘッドスペース法ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定することができる。測定試料としては、発泡性粒子をジメチルホルムアミドに溶解させて得られる溶解物を用いることができる。
【0050】
発泡性粒子中のベンゼンの含有量は1.5質量ppm以下(0を含む)である。この場合には、発泡成形体中のベンゼンの含有量を例えば0.4質量ppm以下(0を含む)にまで低下させやすくなる。発泡成形体中のベンゼンの含有量をより確実に0.4質量ppm以下(0を含む)にまで低下させ、発泡成形体からのベンゼンの放散量をより低減させるという観点から、発泡性粒子中のベンゼンの含有量は、1質量ppm以下(0を含む)であることがより好ましく、0.8質量ppm以下(0を含む)であることがさらに好ましい。発泡性粒子中のベンゼンの含有量の下限は特に制限はないが、概ね0.1質量ppm以上である。発泡性粒子中のベンゼン含有量は、ヘッドスペース法ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定することができる。測定試料としては、発泡性粒子をジメチルホルムアミドに溶解させて得られる溶解物を用いることができる。
【0051】
発泡性粒子中の水分量は1.5質量%以下であることが好ましい。難燃剤としてBr-SBCを用いることにより発泡性粒子中の水分量を上記範囲内にまで減らすことができる。この場合には、発泡性粒子を用いて得られる発泡粒子の気泡の粗大化をより抑制しやすくなり、気泡の大きさが均一化するまでの熟成期間をより短くすることができる。そして発泡性粒子の熟成期間をより短くしても、発泡成形体の機械的強度の低下をより抑制したり、発泡成形体の外観をより向上させることが可能になる。なお、熟成期間は、例えば10℃以下の低温環境下で密閉容器内に発泡性粒子を保管する期間のことである。発泡性粒子の水分量は、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましく、0.3質量%以下がさらにより好ましい。発泡性粒子中の水分量は、加熱気化装置を備えたカールフィッシャー水分計により求めることができる。
【0052】
発泡性粒子は、発泡粒子の製造に用いられる。具体的には、発泡性粒子を発泡させる発泡工程を行うことにより、発泡粒子を得ることができる。発泡工程においては、発泡性粒子をスチーム等の加熱媒体で加熱することにより発泡させることにより、発泡粒子を得る。発泡粒子は、一般に予備発泡粒子とも呼ばれる。発泡工程は、例えば、撹拌装置の付いたバッチ式予備発泡機内に導入された発泡性粒子にスチームを供給することにより行うことができる。
【0053】
発泡粒子の嵩密度は、発泡条件を調整することで制御することができる。発泡条件としては、例えば、スチーム圧力(具体的には、ゲージ圧)、スチームによる加熱時間等がある。発泡粒子の嵩密度を高くすると発泡成形体の強度が向上し、嵩密度を低くするとより軽量で、原料コストを抑えることができる。このような観点から、発泡粒子の嵩密度は、12~100kg/m3であることが好ましく、16~50kg/m3であることがより好ましく、20~50kg/m3であることがさらに好ましい。
【0054】
発泡粒子の嵩密度は、以下の方法により求めることができる。一昼夜、風乾させた発泡粒子を1Lのメスシリンダー内の1Lの標準位置まで充填し、発泡粒子の重量(=Wp)を小数点第1位まで秤量する。そして、発泡粒子の重量Wp(g)から以下の式(1)により発泡粒子の嵩密度(kg/m)を求めることができる。
発泡粒子の嵩密度(kg/m)=Wp(g)÷1(L) ・・・・・(1)
【0055】
発泡粒子は、発泡成形体の製造に用いられる。成形工程は、型内成形法によって行うことができる。具体的には、成形型内において発泡粒子同士を相互に融着させて所望の形状に成形することにより発泡成形体を得ることができる。型内成形法では、成形型内に充填した発泡粒子にスチーム等の加熱媒体を供給して加熱を行うことにより発泡成形体を得ることができる。
【0056】
次に、発泡成形体の好ましい実施形態を説明する。発泡成形体は、上述のように難燃剤の存在下でスチレン系単量体を懸濁重合してなるスチレン系樹脂を基材樹脂とする。発泡成形体においては、難燃剤を含む多数の発泡粒子が相互に融着している。発泡成形体中に含まれる難燃剤については、上述の通りであり、少なくともスチレン-ブタジエン系共重合体の臭素化物を含有する。
【0057】
発泡成形体中のスチレン系樹脂の重量平均分子量Mwは15万以上であることが好ましい。この場合には、発泡成形体の強度が十分に高くなる。発泡成形体の強度をより向上させるという観点から、重量平均分子量Mwは18万以上が好ましく、20万以上がさらに好ましい。また、発泡性粒子の発泡性を向上できるという観点からは、重量平均分子量Mwは35万以下が好ましく、30万以下がより好ましい。また、発泡成形体の強度が向上するという観点から、スチレン系樹脂の数平均分子量Mnは、8万以上が好ましく、8.5万以上がより好ましく、9万以上がさらに好ましい。発泡性が向上するという観点から、スチレン系樹脂の数平均分子量Mnは、15万以下が好ましく、14万以下がより好ましく、12万以下がさらに好ましい。また、発泡成形体の強度が向上するという観点から、スチレン系樹脂のz平均分子量Mzは、30万以上が好ましく、40万以上がより好ましく、45万以上がさらに好ましい。発泡性が向上するという観点から、スチレン系樹脂のz平均分子量Mzは、70万以下が好ましく、60万以下がより好ましく、55万以下がさらに好ましい。重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、z平均分子量Mz、は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(すなわち、GPC法)により測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0058】
発泡成形体中のスチレンの含有量は10質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、発泡成形体からのスチレンの放散量を十分に低減させることができる。これにより、発泡成形体が自動車内装材等の狭い空間内での用途により好適になる。同様の観点から成形体中のスチレンの含有量は5質量ppm以下であることが好ましい。また、発泡成形体のスチレンの放散量は、50μg/m以下であることが好ましい。発泡成形体中のスチレンの含有量は、上述の発泡性粒子と同様に、ヘッドスペース法ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定することができる。測定試料としては、発泡成形体から採取した試験片をジメチルホルムアミドに溶解させて得られる溶解物を用いることができる。
【0059】
発泡成形体中のベンゼンの含有量は0.4質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、発泡成形体からのベンゼンの放散量を十分に低減させることができる。これにより、発泡成形体が自動車内装材等の狭い空間内での用途により好適になる。同様の観点から発泡成形体中のベンゼンの含有量は0.3質量ppm以下であることが好ましい。また、発泡成形体のベンゼンの放散量は、11μg/m以下であることが好ましい。発泡成形体中のベンゼンの含有量は、上述の発泡性粒子と同様の方法により測定することができる。測定試料としては、発泡成形体から採取した試験片をジメチルホルムアミドに溶解させて得られる溶解物を用いることができる。
【0060】
発泡成形体の見掛け密度は、12~100kg/m3であることが好ましい。この場合には、発泡成形体の強度や難燃性などの物性と軽量性とを両立することができる。この効果が向上するという観点から、発泡成形体の見掛け密度は、16~50kg/m3であることがより好ましく、20~50kg/m3であることがさらに好ましい。
発泡成形体の見掛け密度は、発泡成形体の質量をその外形寸法から求められる体積で除することにより求めることができる。
【0061】
発泡成形体は、自動車等の車両用の内装材、外装材、住宅用断熱材、保冷箱等に用いられる。発泡成形体は、難燃性に優れ、スチレン及びベンゼンの含有量が少ないため、車両用の内装材により好適であり、ディビアパッド、フロアスペーサに特に好適である。
【実施例
【0062】
以下に、発泡性粒子、発泡成形体の実施例及び比較例について説明する。
【0063】
(実施例1)
本例の発泡性粒子、発泡成形体の製造方法について以下に説明する。まず、撹拌装置の付いた内容積が50Lのオートクレーブ内に、脱イオン水16kg、第三リン酸カルシウム(懸濁剤)14.4g、α―オレフィンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.6g、アルキルビフェニルジスルホン酸ジナトリウム(界面活性剤)0.2g、及び酢酸ナトリウム(電解質)24.4gを投入した。次いで、10時間半減期温度が72.1℃の有機過酸化物であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の「パーブチルO」、第1重合開始剤)43.2g、10時間半減期温度が99℃の有機過酸化物であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油(株)製の「パーブチルE」、第2重合開始剤)25.6g、臭素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体(ケムチュラ・ジャパン(株)製の「Emerald Innovation 3000」、難燃剤)12.8g、1時間半減期温度が136℃の有機過酸化物であるジクミルパーオキサイド(日油(株)製の「パークミルD」、難燃助剤)51.2g、流動パラフィン((株)MORESCO製の「モレスコホワイトP-60」、可塑剤)128g、及びポリエチレンワックスパウダー(東洋アドレ(株)製の「ポリエチレンワックス1000」、気泡調整剤)3.2g、4-t-ブチルカテコール(DIC社製の「DIC-TBC」、重合禁止剤)0.32gをスチレン16kgに混合し、混合物を回転数210rpmで撹拌しながらオートクレーブ内に投入した。なお、本例で用いた難燃剤を、以下適宜「E3000」という。
【0064】
次いで、オートクレーブ内の空気を窒素により置換した後、1時間半かけて温度90℃まで昇温させ、その温度90℃への到達後、さらに温度100℃まで6時間30分かけてオートクレーブ内を昇温させた(前段重合工程)。その後、温度120℃まで2時間かけてオートクレーブ内をさらに昇温させ、その温度120で5時間オートクレーブ内を保持した(後段重合工程)。その後、温度30℃まで約6時間かけて冷却した。上述の温度90℃から温度100℃への昇温途中であって、90℃に到達してから5時間30分経過時に、発泡剤として、ペンタン(n-ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)320gと、ブタン(n-ブタン70%とイソブタン30%の混合物)880gとを30分間かけてオートクレーブ内に圧入した。発泡剤の添加開始時、すなわち90℃に到達してから5時間30分経過時におけるスチレンの重合転化率は98質量%であった。また、前段重合工程の終了時、すなわち100℃到達時におけるスチレンの重合転化率は99質量%であった。各重合転化率の測定方法は、後述の通りである。また、重合転化率90%までの重合速度は15%/hrであった。重合速度の測定方法は、後述の通りである。
【0065】
冷却後、オートクレーブから内容物(発泡性粒子)を取り出し、発泡性粒子の表面に付着した第三リン酸カルシウムを除去するため、発泡性粒子に硝酸を添加した後、遠心分離機で脱水し、流動乾燥装置で表面に付着した水分を除去した。このようにして、平均粒子径が約1.0mmの発泡性粒子を得た。
【0066】
次いで、発泡性粒子を篩いにかけて0.5~1.4mmの粒子を選別して取り出した。その後、発泡性粒子100質量部に対して、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン(帯電防止剤)0.005質量部を添加することにより、発泡性粒子を帯電防止剤で被覆した。さらに、発泡性粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.1質量部と、グリセリントリステアレート0.05質量部と、グリセリンモノステアレート0.05質量部とを添加し、これらの混合物で発泡性粒子を被覆した。その後、発泡性粒子を密閉容器に入れ、6℃の保冷庫内に保管することにより熟成を行った。
【0067】
発泡性粒子の重合条件を表1に示す。なお、重合転化率の測定方法は下記の通りである。
【0068】
「前段重合工程終了時の重合転化率」
発泡性粒子の作製時に行った前段重合工程と同じ条件で、別途前段重合工程を行った。この前段重合工程が終了すると同時にオートクレーブの内容物の温度を10分以内で30℃以下にまで急冷し、重合反応を停止させた。冷却後、オートクレーブから重合途中のスチレン系樹脂粒子を取り出し、遠心分離機で脱水し、流動乾燥装置で表面に付着した水分を除去した。このようにして、前段重合工程終了時のスチレン系樹脂粒子を得た、得られたスチレン系樹脂粒子中の未反応のスチレン系単量体の含有量をガスクロマトグラフィーにより求めた。ガスクロマトグラフィーによるスチレン系単量体の含有量の測定方法については、後述する。そして、下式(2)より、重合転化率を求めた。この操作を3回行い、各重合転化率の算術平均値を求めた。
重合転化率(質量%)=100-スチレン系単量体の含有量(質量%)・・・(2)
【0069】
「発泡剤含浸時の重合転化率」
発泡性粒子の作製時と同じ条件で、別途重合を行い、発泡剤の添加を開始する直前にオートクレーブの内容物の温度を10分以内で30℃以下にまで急冷し、重合反応を停止させた。そして、上述の前段重合工程終了時の重合転化率の測定と同様の操作を行うことにより、発泡剤含浸時の重合転化率を求めた。この操作を3回行い、各重合転化率の算術平均値を表中に示した。
【0070】
「重合転化率90%までの重合速度」
発泡性粒子の作製時と同じ条件で、別途重合を行い、オートクレーブの昇温後、任意の時間経過後においてオートクレーブの内容物の温度を10分以内で30℃以下にまで急冷し、重合反応を停止させた。そして、上術の前段重合工程終了時の重合転化率の測定方法と同様の方法により、重合転化率を求めた。この操作を複数の時間ごとに行い、重合転化率とその重合転化率になるまでに要した時間との関係をプロットした図を作成した。そして、得られた重合転化率とその重合転化率になるまでに要した時間との関係から、重合転化率が90%になるまでに要する時間(hr:時間)を求めた。重合転化率が90%となるまでの重合速度は、重合転化率90%を、重合転化率が90%になるまでに要した時間(hr:時間)で割ることにより求めた。
【0071】
本例の発泡性粒子について、発泡剤含有量、スチレン含有量、ベンゼン含有量、水分含有量(つまり、WC)、平均粒子径d63、平均粒子径のばらつき、スチレン系樹脂の平均分子量、発泡性を測定した。その結果を表3に示す。
【0072】
「発泡剤の含有量」
発泡剤の含有量は、発泡性粒子をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させて得られる溶解物のガスクロマトグラフィーを行うことにより測定した。具体的には、まず、100mlのメスフラスコにシクロペンタノール約5gを小数点以下第3位まで精秤した。この重量を、以下、Wi(g)という。さらに、メスフラスコ内にDFMを加えて全体の容積を100mLにした。このDMF溶液をさらにDMFで100倍に希釈した。これを内部標準溶液とした。次いで、測定対象となる発泡性粒子約1gを小数点以下第3位まで精秤した。この重量を、以下、Ws(g)という。精秤した発泡性粒子の試料を約18mlのDMFに溶解させ、さらに内部標準溶液をホールピペットにて正確に2ml加えた。このようにして得られた溶液1μLをマイクロシリンジにて採集し、ガスクロマトグラフィーに導入し、クロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムから発泡剤成分、及び、内部標準のピーク面積を求め、下式(4)から各成分の濃度を求めた。
【0073】
成分濃度(質量%)=(Wi/10000)2×(An/Ai)×Fn/Ws×100 ・・・・(4)
Wi:内部標準溶液を作成したときのシクロペンタノール重量(g)、Ws:DMFに溶解させた試料重量(g)、An:ガスクロマトグラフ測定時の各成分のピーク面積、Ai:ガスクロマトグラフ測定時の内部標準物質のピーク面積、Fn:あらかじめ作成した検量線より求めた各成分の補正係数。
【0074】
また、上記ガスクロマトグラフでの分析条件は以下の通りである。
使用機器:(株)島津製作所製のガスクロマトグラフGC-6AM
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
カラム材質:内径3mm、長さ5000mmのガラスカラム
カラム充填剤:[液相名]FFAP(遊離脂肪酸)、[液相含有率]10質量%、[担体名]ガスクロマトグラフ用珪藻土Chomasorb W、[担体粒度]60/80メッシュ、[担体処理方法]AW-DMCS(水洗・焼成・酸処理・シラン処理)、[充填量]90ml
注入口温度:250℃
カラム温度:120℃
検出部温度:250℃
キャリーガス:N2
液量:40ml/分
【0075】
「スチレンの含有量、ベンゼンの含有量」
ヘッドスペース法のガスクロマトグラフ質量分析計にて発泡性粒子中の未反応スチレン系単量体とベンゼンの含有量を測定した。試料としては、発泡性粒子をジメチルホルムアミド(すなわち、DMF)に溶解させて得られる溶解物を用いた。具体的には、まず、DMF中のスチレンまたはベンゼン濃度が5質量ppm、50質量ppm、500質量ppmとなるように標準溶液を調整する。次に、容積20mlのバイアル瓶に標準溶液0.2gを精秤し、DMF1mlを入れて密封した。ヘッドスペースサンプラーにて保温し、気相部をガスクロマトグラフ質量分析計により測定し、得られたクロマトグラムから検量線を作成した。次に、20mlのバイアル瓶に試料0.2gを精秤し、DMF1mlを入れて密封し、室温で1日保持して完全に溶解させた。ヘッドスペースサンプラーにて保温し、気相部をガスクロマトグラフ質量分析計により測定して、得られたクロマトグラムからあらかじめ作成した検量線から、未反応のスチレンとベンゼンの含有量を求めた。
【0076】
スチレンの含有量、ベンゼンの含有量の測定おけるガスクロマトグラフ質量分析の条件は、以下の通りである。
ガスクロマトグラフ質量分析計:(株)島津製作所製GCMS-QP2020
ヘッドスペースサンプラー:(株)島津製作所製HS-20
キャピラリーカラム:ジーエルサイエンス(株)Stabilwax、内径0.32mm、長さ30m
ヘッドスペースサンプラー保温条件:90℃1時間
カラム温度:50℃、2分⇒(昇温速度:10℃/分)⇒90℃⇒(昇温速度:5℃/分)⇒120℃⇒(昇温速度:20℃/分)⇒230℃、2分
イオン源温度:200℃
キャリーガス:ヘリウム
キャリーガスのカラム流量 2ml/分
スプリット比:1/10
【0077】
「水分量」
カールフィッシャー水分計により発泡性粒子の水分量を測定した。具体的には、発泡性粒子の試料約0.28gを精秤した。次いで、京都電子工業(株)製の水分気化装置CHK-501により、温度160℃で試料を加熱して水分を気化させ、その水分量を京都電子工業(株)製のカールフィッシャー水分計(電量滴定方式)MKC-610を用いて測定した。
【0078】
「分子量」
発泡性粒子中のスチレン系樹脂の分子量(数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量)は、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定することができる。具体的には、東ソー(株)製のHLC-8320GPC EcoSECを用いて、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、THF流量:0.6ml/分、試料濃度:0.1wt%という測定条件で測定した。カラムとしては、TSKguardcolumn SuperH-H×1本、TSK-GEL SuperHM-H×2本を直列に接続したカラムを用いた。即ち、発泡性粒子から採取した試験片をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で分子量を測定した。そして、測定値を標準ポリスチレンで校正して、数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量をそれぞれ求めた。
【0079】
「平均粒子径、分散度」
発泡性粒子について、63%体積平均粒子径d63、90%体積平均粒子径d90、及び10%体積平均粒子径d10を測定した。63%体積平均粒子径d63、90%体積平均粒子径d90、及び10%体積平均粒子径d10は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布において、それぞれ体積積算値63%、90%、10%での粒径である。なお、表中の平均粒子径の値は、63%体積平均粒子径d63の値を示した。
具体的な測定方法は次の通りである。機装株式会社の粒度分布測定装置「ミリトラック JPA」を用いて発泡性粒子の粒度分布を測定した。具体的には、まず、測定装置の試料供給フィーダーから発泡性粒子30gを自由落下させ、投影像をCCDカメラで撮像した。次いで、撮像した画像情報に対して演算・結合処理を順次行い、粒度分布・形状指数結果を出力する画像解析方式の条件で測定した。このようにして、粒度分布における体積積算値10%、63%、90%での各粒径(d10、d63、d90)mmを求めた。これらの値より以下の式(5)に基づいて63%平均粒子径の分散度を算出した。なお、平均粒子径は、製造直後の発泡性粒子についてのものであり、篩い分けなどによる分級を行っていない発泡性粒子についての値である。分散度の値が小さいほど、粒径のばらつきが小さいことを意味している。
63%体積平均粒子径の分散度=(d90-d10)/d63 ・・・・(5)
【0080】
「発泡性」
棚式発泡器内で、熟成が完了した発泡性粒子を3kPa(ゲージ圧)の蒸気により270秒間加熱することにより、発泡させた。その後、発泡粒子を一昼夜、風乾させた。次いで、発泡粒子を1Lのメスシリンダー内の1Lの標準位置まで充填し、発泡粒子の重量(=Wp)を小数点第1位まで秤量した。そして、発泡粒子の重量Wp(g)から以下の式(5)により発泡粒子の嵩密度(Kg/m3)を求めた。この発泡粒子の嵩密度から発泡性を判定した。
発泡粒子の嵩密度(Kg/m3)=Wp(g)÷1(L) ・・・・・(5)
【0081】
次に、熟成後の発泡性粒子3.6kgを、加圧バッチ発泡機(ダイセン工業社DYHL-500U)に投入し、発泡機内の圧力(ただし、ゲージ圧)が0.023MPaになるようゲージ圧0.15MPaのスチームを供給して130秒間加熱し、発泡倍率約50倍(嵩密度20kg/m)の発泡粒子を得た。
【0082】
次に、発泡粒子を室温(具体的には、23℃)で1日間熟成後、DABO(株)製の型物成形機の金型内に充填し、0.08MPaのスチーム圧力(ただし、ゲージ圧)で15秒間加熱した。次いで、所定時間冷却後、発泡成形体を金型から取り出した。このようにして、多数の発泡粒子が相互に融着した300mm×300mm×25mmの板状の発泡成形体を得た。次いで、発泡成形体について、見掛け密度、未反応のスチレンとベンゼンの含有量、スチレンとベンゼンの放散量、曲げ強度を測定し、難燃性(具体的には、燃焼速度、自己消火性)、成形性の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0083】
「見掛け密度」
発泡成形体の質量をその外形寸法から求められる体積で除することにより見掛け密度を算出した。
【0084】
「スチレン及びベンゼンの含有量」
試料としては、発泡成形体の一部をジメチルホルムアミド(すなわち、DMF)に溶解させて得られる溶解物を用いた点を除いては、上述の発泡性粒子と同様にして測定した。
【0085】
「スチレン及びベンゼンの放散量」
寸法が100mm×80mm×15mmの板状の発泡成形体を成形するための成形金型を用いた以外は、上記成形条件と同条件にて発泡成形体を作製した。この発泡成形体を40℃で1日乾燥させた。その後、10Lテドラー(登録商標)バッグに発泡成形体を入れ、3回の窒素パージにより、バッグ内の気体(具体的には、空気)を追い出した後、バッグ内に窒素を4L注入し、温度40℃で2時間保持した。発泡成形体から発生するスチレンとベンゼンをTenax-TA捕集管に捕集した。捕集管への流量は、0.1ml/分であり、捕集量は1.0Lである。次いで、加熱脱離-ガスクロマトグラフ質量分析計により捕集管内のスチレンとベンゼンを定量し、気体1m3あたりのスチレン量とベンゼン量(単位:μg/m3)を求めた。なお、放散量が5μg/m3未満の場合には、表中に「<5」と表記した。
【0086】
「難燃性(燃焼速度)」
燃焼速度の評価は、FMVSS No.302に準拠して行った。具体的には、まず、発泡成形体を温度40℃で3日間放置し、さらに室温で1日間放置することにより、熟成を行った。その後、発泡成形体を温度40℃3日間放置し、さらに室温で1日間放置することにより、養生を行った。その後、発泡成形体から縦356mm×横102mm×厚さ13mmの平板状の試験片を5つ切り出し、スガ試験機社製のMVSS燃焼性試験器MVSS-2を用いて燃焼試験を行った。具体的には、試験片をU字形の取り付け具に水平に固定し、試験片の自由端を、炎の長さを38mmに調整したブンゼンバーナーの炎に15秒間あて、試験片に着火させた。そして、試験片の自由端の反対側に位置する固定端から38mmの地点まで燃焼するのに要した時間を計測し、燃焼距離と燃焼時間より燃焼速度(mm/分)を求めた。規程の端部に達しない場合は、炎が停止した地点までの燃焼距離と燃焼時間より燃焼速度を求めた。また、試験片が着火しなかった場合の燃焼速度は、0mm/分とした。5つの試験片の燃焼速度の算術平均値を燃焼速度とし、FMVSS No.302への適合性(燃焼速度が102mm/分以下)を判断した。
【0087】
「難燃性(自己消火性)」
発泡成形体の自己消火性を、JIS A 9511:2006Rの燃焼試験(A法)に基づき評価した。具体的には、まず、発泡成形体を温度40℃で3日間放置し、さらに室温で1日間放置することにより、養生を行った。その後、発泡成形体から縦200mm×横25mm×厚さ10mmの直方体状の試験片を5つ切り出した。次いで、ろうそくを用いて、着火限界指示線及び燃焼限界指示線まで試験片を着火させた後、ろうそくをすばやく試験片から後退させた。そして、ろうそくを後退させた瞬間から試験片の炎が消えるまでの時間(消炎時間)を計測し、5つの試験片の消炎時間の算術平均を求めた。この消炎時間の算術平均値から自己消火性(消炎時間が3秒以下)を判断した。なお、消炎時間が10秒を超える場合には、表中に「>10」と表記した。
【0088】
「曲げ強度」
発泡成形体を切断して、縦300mm×横75mm×厚さ25mmの直方体状の試験片を作製した。JIS K 7221-2 付属書1に準拠して、試験片の3点曲げ試験を行い、曲げ強度を測定することにより、発泡成形体の機械的強度を評価した。
【0089】
「成形性」
発泡成形体の表面を目視で確認し、陥没がない場合を「○(無)」と評価し、陥没がある場合を「×(有)」と評価した。
【0090】
(実施例2~9)
重合条件を表1、表2に示す通り変更し、実施例1と同様の測定、評価を行った。なお、実施例4では、発泡粒子の発泡倍率を30倍にして、発泡成形体の評価を行った。また、実施例5では、発泡粒子の発泡倍率を20倍にして、発泡成形体の評価を行った。また、実施例6では、第1重合開始剤を10時間半減期温度が72.1℃のt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の「パーブチルO」)から10時間半減期温度が65.3℃の1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の「パーオクタO」)に変更した。また、実施例7では、第1重合開始剤を10時間半減期温度が72.1℃のt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の「パーブチルO」)から10時間半減期温度が87.1℃の1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油(株)製の「パーヘキサHC」)に変更した。また、実施例8では、1時間半かけて温度100℃まで昇温させ、その温度100℃への到達後、さらに温度110℃まで6時間30分かけてオートクレーブ内を昇温させた。その後、温度120℃まで2時間かけてオートクレーブ内をさらに昇温させ、その温度120で5時間オートクレーブ内を保持した。その後、温度30℃まで約6時間かけて冷却した。上述の温度100℃から温度110℃への昇温途中であって、100℃に到達してから5時間30分経過時に、発泡剤として、ペンタン(n-ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)320gと、ブタン(n-ブタン70%とイソブタン30%の混合物)880gとを30分間かけてオートクレーブ内へ圧入に変更した。
【0091】
(比較例1)
本例においては、重合禁止剤を使用せず、第1重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の「パーブチルO」)を過酸化ベンゾイル(日油(株)製の「ナイパーBW」、水希釈粉体品、重合開始剤)用いた以外は、実施例1と同様に行なった。
【0092】
(比較例2、比較例3)
比較例2、比較例3は、発泡剤の添加量を比較例1とは変更した例である。具体的には、比較例2においては、重合禁止剤を使用せず、発泡剤として、ペンタン(n-ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)320g、ブタン(n-ブタン70%とイソブタン30%の混合物)928gを用いた以外は、比較例1と同様に行なった。比較例3においては、重合禁止剤を使用せず、発泡剤の添加量をペンタン(n-ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)320gと、ブタン(n-ブタン70%とイソブタン30%の混合物)976gを用いた以外は、比較例1と同様に行なった。
【0093】
(比較例4)
重合禁止剤を使用せず、オートクレーブ内の空気を窒素により置換した後、1時間半かけて温度90℃まで昇温させ、重合温度を90℃到達後、100℃まで6時間30分かけてオートクレーブ内を昇温させるまでの操作は比較例1と同様にして行った。次いで、さらに温度115℃まで2時間かけて昇温し、その温度115℃で5時間保持した。その後、30℃まで約6時間かけて冷却した。冷却操作以降は、比較例1と同様に行った。
【0094】
(比較例5)
本例においては、重合禁止剤を使用せず、難燃剤として、2,2-ビス(4‘-(2“,3”-ジブロモ-2“-メチルプロポキシ-3’,5‘-ジブロモフェニル)プロパン 160gを用いた以外は、比較例1と同様に行った。なお、本例で使用した難燃剤を以下、適宜「SR130」と表記する。
【0095】
(比較例6)
本例においては、難燃剤として、SR130を160g用い、第1重合開始剤としてパーブチルOを用いた以外は、比較例1と同様に行った。
【0096】
(比較例7)
本例においては、重合禁止剤を使用せず、難燃剤、第1重合開始剤、第2重合開始剤をスチレン系単量体に溶解させることなく、水相に添加した以外は、比較例1と同様に行った。
【0097】
(比較例8)
本例では、難燃剤、第1重合開始剤、第2重合開始剤をスチレン系単量体に溶解させることなく、水相に添加し、第1重合開始剤としてパーブチルOを用いた。そして、オートクレーブ内の空気を窒素により置換した後、1時間半かけて温度90℃まで昇温させ、重合温度を90℃到達後、100℃まで6時間30分かけてオートクレーブ内を昇温させるまでの操作は比較例1と同様にして行った。次いで、さらに温度115℃まで2時間かけて昇温し、その温度115℃で5時間保持した。その後、30℃まで約6時間かけて冷却した。冷却操作以降は、比較例1と同様に行った。
【0098】
(比較例9)
比較例9は、発泡剤の添加時期を比較例1とは変更した例である。具体的には、比較例9においては、発泡剤の添加時期を、90℃到達5.5時間後を6.5時間後にした以外は、比較例1と同様に行なった。
【0099】
(比較例10)
本例では、第1重合開始剤をt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油(株)製の「パーブチルI」)を用いた以外は、実施例1と同様に行なった。
【0100】
なお、表中の有機過酸化物の詳細は以下の通りである。
パーブチルOは、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートであり、その構造は、下記構造式(1)で表される。
【0101】
【化1】
【0102】
パーヘキサHC(日油(株)製)は、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサンであり、その構造は、下記構造式(3)で表される。
【0103】
【化2】
【0104】
BPO(具体的には、日油(株)製の「ナイパーBW」、水希釈粉体品)は、ジベンゾイルパーオキサイドであり、その構造は、下記構造式(3)で表される。
【0105】
【化3】
【0106】
パーブチルI(日油(株)製)は、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートであり、その構造は、下記構造式(4)で表される。
【0107】
【化4】
【0108】
パーブチルE(日油(株)製)は、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートであり、その構造は、下記構造式(5)で表される。
【0109】
【化5】
【0110】
パーオクタO(日油(株)製)は、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートであり、その構造は、下記構造式(6)で表される。
【0111】
【化6】
【0112】
各実施例、各比較例について、重合条件、発泡性粒子の性状、および、発泡・成形評価の結果を表1~6に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
表1~表3から理解されるように、実施例1~5、実施例8は、重合禁止剤を使用し、第1重合開始剤として、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを用いた例であり、実施例9は、重合禁止剤を使用せず、第1重合開始剤として、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを用いた例であり、実施例6は、重合禁止剤を使用し、第1重合開始剤として、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを用いた例であり、実施例7は、重合禁止剤を使用し、第1重合開始剤として、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサンを用いた例である。実施例1~9の発泡性粒子、発泡成形体は、スチレンやベンゼンの含有量が少ない。そのため、発泡成形体からのスチレンやベンゼンの放散量が低い。また、スチレン系樹脂の重量平均分子量が15万以上を維持しているため、曲げ強度に優れ、難燃剤として、スチレンーブタジエン共重合体の臭素化物を含有し、FMVSS No302の燃焼性試験に適合している。なお、実施例3は、難燃剤を増量した例であり、JIS A 9511:2006Rの燃焼試験(A法)にも合格している。
【0120】
特に、第1重合開始剤として、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを用い、かつ第2重合開始剤として、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートを用いた場合、分散度が小さく、得られる発泡性粒子の粒子径のばらつきが小さい。また、第1重合開始剤として、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを用いるとともに、重合禁止剤を添加した場合、分散度が小さく、得られる発泡性粒子の粒子径のばらつきが小さい。
【0121】
一方、表4~表6より理解されるように、第1重合開始剤として過酸化ベンゾイル(日油(株)製の「ナイパーBW」、水希釈粉体品)を用いた比較例1~4、比較例7、比較例9は、スチレンの含有量、スチレン系単量体の放散量は低いが、ベンゼンの含有量が多く、ベンゼンの放散量が高い。
【0122】
比較例5、比較例6は、難燃剤として、2,2-ビス(4‘-(2”,3”-ジブロモ-2”-メチルプロポキシー3’,5‘-ジブロモフェニル)プロパンを用いた例である。この場合には、重合工程におけるスチレン系単量体の重合が阻害されやすくなり、発泡性粒子中のスチレンの含有量が増大していた。そして、発泡成形体中のスチレンの含有量も増大した。また、スチレン系樹脂の重量平均分子量が14万と低いため、発泡成形体は、曲げ強度などの機械的強度が低い。比較例5、比較例6においては、ベンゼン含有量が多く検出されることはなかった。
【0123】
比較例7、比較例8は、難燃剤を水相に添加して懸濁重合を行った例である。この場合には、燃焼速度が速く、難燃性が不十分であった。これは、難燃剤が発泡性粒子の内部にまで十分に配合されにくいためであると考えられる。また、成形性の評価が不十分であった。比較例10は、第1重合開始剤として、10時間半減期温度が高い有機過酸化物を用いた例である。その結果、重合阻害が起こりやすくなり、発泡性粒子中のスチレン含有量が高い。