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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】溶接ロボット
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20241115BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
B23K9/12 331K
B23K9/095 501A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021002245
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107353
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】楠本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】小森 慎也
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-154206(JP,A)
【文献】特開2012-061475(JP,A)
【文献】特開平06-055268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接により形成される溶接ビードをウロコ状に重ね合わせながら溶接を行う溶接ロボットであって、
アーク溶接を行う溶接部と、
溶接の施工条件に従って前記溶接部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記溶接部にアーク溶接を行なわせている間、アーク放電を行うための電流を出力させない第1期間とアーク放電を行うための電流を出力させる第2期間とを交互に繰り返し、前記第2期間において、各前記第2期間の開始時に前記溶接部に含まれる溶接トーチを前記第2期間よりも短い所定時間だけ停止させる以外は、前記アーク溶接を行なわせている間、前記溶接トーチを継続して移動させる、
溶接ロボット。
【請求項2】
前記制御部は、前記所定時間、アーク放電のための電流、及び前記第2期間の長さの少なくともいずれか一つを前記第2期間ごとに可変にする、
請求項1記載の溶接ロボット。
【請求項3】
前記制御部は、各前記第2期間のうち、時間的に前になる前記第2期間の前記所定時間を、時間的に後になる前記第2期間の前記所定時間以上にする、
請求項2記載の溶接ロボット。
【請求項4】
前記制御部は、アーク放電のための電流を、前記施工条件に含まれる溶接電流よりも高い電流に変更し、かつアーク放電のための電流の出力時間を短くする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の溶接ロボット。
【請求項5】
前記制御部は、前記第2期間において、変更後のアーク放電のための電流を出力してから変更後のアーク放電のための電流よりも低い電流を所定時間さらに出力する、
請求項4記載の溶接ロボット。
【請求項6】
前記制御部は、アーク放電のための電流の出力時間を徐々に短くするのに応じて、アーク放電のための電流を徐々に高くする、
請求項4記載の溶接ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ロボットを使用して物を生産する場合、生産物の品質を一定以上に保つことが求められる。下記特許文献1には、溶接母材に対する溶接入熱を減らすことで、生産物の品質を高めようとする溶接ロボットが開示されている。この溶接ロボットは、溶接トーチを停止させた状態でアークを発生させ、そのアークを終わらせた後に、次回のアークを発生させる位置まで溶接トーチを移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-55268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようにアークを発生させている間、ずっと溶接トーチを停止させ続けると、溶接時間が長くなってしまい、生産性が低下する。その一方、アークを発生させている間にトーチを動作させ続けると、溶接ビードにばらつきが生ずる可能性があり、品質が低下する要因になる。
【0005】
そこで、本発明は、生産性及び品質を高めることができる溶接ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る溶接ロボットは、アーク溶接により形成される溶接ビードをウロコ状に重ね合わせながら溶接を行う溶接ロボットであって、アーク溶接を行う溶接部と、溶接の施工条件に従って溶接部の動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、溶接部にアーク溶接を行なわせている間、アーク放電のための電流を出力させない第1期間とアーク放電のための電流を出力させる第2期間とを交互に繰り返し、各第2期間の開始時に溶接部に含まれる溶接トーチを所定時間停止させる以外は溶接トーチを継続して移動させる。
【0007】
この態様によれば、溶接部にアーク溶接を行なわせている間、各第2期間の開始時に溶接トーチを所定時間停止させる以外は溶接トーチを継続して移動させることができるため、アークを発生させている間に溶接トーチを停止させ続ける場合に比べ、溶接時間を短縮することが可能になるとともに、溶接トーチ22の一時的な停止により溶接入熱を増やし、溶接ビードの外観を向上させることが可能となる。
【0008】
上記態様において、制御部は、所定時間、アーク放電のための電流、及び第2期間の長さの少なくともいずれか一つを第2期間ごとに可変にすることとしてもよい。
【0009】
この態様によれば、溶接入熱が少ないときに、溶接トーチの停止時間を長くすることや、アーク放電のための電流を高くすること、第2期間を長くすることができるため、溶接入熱の不足分を効率よく補うことが可能となる。
【0010】
上記態様において、制御部は、各第2期間のうち、時間的に前になる第2期間の所定時間を、時間的に後になる第2期間の所定時間以上にすることとしてもよい。
【0011】
この態様によれば、溶接入熱が少ないほど、溶接トーチの停止時間を長くすることができるため、溶接入熱の不足分をより有効に補うことが可能となる。
【0012】
上記態様において、制御部は、アーク放電のための電流を、施工条件に含まれる溶接電流よりも高い電流に変更し、かつアーク放電のための電流の出力時間を短くすることとしてもよい。
【0013】
この態様によれば、施工条件に含まれる溶接電流を目標として制御する場合と比較して、溶接ビードの溶着量を維持しつつ、溶接ビードの冷却時間を長くすることが可能となる。
【0014】
上記態様において、制御部は、第2期間において、変更後のアーク放電のための電流を出力してから変更後のアーク放電のための電流よりも低い電流を所定時間さらに出力することとしてもよい。
【0015】
この態様によれば、溶接ビードへの入熱を抑えつつ、溶接ビードの溶着量を増やすことが可能となる。
【0016】
上記態様において、制御部は、アーク放電のための電流の出力時間を徐々に短くするのに応じて、アーク放電のための電流を徐々に高くすることとしてもよい。
【0017】
この態様によれば、アーク放電のための電流の出力時間が短くなることで不足する溶接ビードへの入熱を、電流を高めることで補うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生産性及び品質を高めることができる溶接ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る溶接ロボットとしての制御装置を含む溶接システムの概略構成を例示する図である。
図2】各オン期間の開始時に溶接トーチが一旦停止する以外は溶接トーチがアーク溶接中に継続して移動する様子を表すグラフである。
図3】停止時間を徐々に短くしながら溶接トーチを移動させる様子を表すグラフである。
図4図1の溶接システムの動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0021】
図1は、本発明に係る溶接ロボットとしての制御装置を含む溶接システムの概略構成を例示するブロック図である。溶接システム100は、例えば、制御装置1及び溶接部2を備える。溶接部2は、制御装置1において設定される施工条件に従ってアーク溶接を行う部位であり、例えばマニピュレータである。具体的に、溶接部2は、工場の床面等に固定されるベース部材上に設けられる多関節アーム21と、多関節アーム21の先端に連結される溶接トーチ22と、多関節アーム21に固定されるワイヤ送給装置23と、ワークを設置する作業台24とを有する。
【0022】
制御装置1は、例えば、プロセッサ、メモリ及び通信インタフェースを含む制御ユニットにより構成される。制御装置1は、例えば、プロセッサがメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、後述する各種機能を実現する。
【0023】
制御装置1は、単一の制御ユニットにより構成されることとしてもよいし、複数のユニットにより構成されることとしてもよい。複数のユニットにより構成される場合の一例として、制御装置本体と、ティーチペンダントと、溶接電源とにより構成されるものがある。
【0024】
ティーチペンダントは、作業者が溶接部2の動作を教示するユニットであり、例えば、制御部、記憶部、通信部、入力部及び表示部を含むことができる。
【0025】
制御装置本体は、ティーチペンダントからの指示に従い、溶接部2及び溶接電源を制御するユニットであり、例えば、制御部、記憶部及び通信部を含むことができる。
【0026】
溶接電源は、溶接ワイヤの先端とワークとの間にアークを発生させるために、予め定められた溶接の施工条件に従って、溶接電流及び溶接電圧等を溶接部2に供給するユニットである。溶接電源は、例えば、制御部、記憶部、通信部及び計測部を含むことができる。
【0027】
ここで、溶接の施工条件は、制御装置本体で設定されるデータであり、ワークにアーク溶接を施した結果物の品質に影響を与え得るデータ項目を含む。具体的に、溶接の施工条件には、例えば、溶接条件、溶接開始位置、溶接終了位置、アーク放電の時間、溶接距離、溶接トーチの姿勢、溶接トーチの移動速度及び溶接トーチの停止時間等のデータ項目が含まれる。施工条件に含まれる溶接条件は、アーク溶接を行う際の諸条件を定めるデータ項目である。この溶接条件には、例えば、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、ワイヤ送給速度及びワークの厚さ等のデータ項目が含まれる。
【0028】
施工条件は、例えば、制御装置1が溶接開始命令や溶接終了命令を実行するときに参照する設定ファイルに記憶される。溶接開始命令は、溶接部2にアーク溶接を開始させるための命令である。溶接終了命令は、溶接部2にアーク溶接を終了させるための命令である。
【0029】
図1の説明に戻る。本実施形態における制御装置1は、機能構成として、例えば、制御部11、記憶部12、通信部13、入力部14、表示部15及び溶接電源部16を有する。なお、制御装置1の機能は、これに限定されることなく、必要に応じて任意の機能を適宜追加することができる。
【0030】
記憶部12は、制御装置1における処理の実行に必要な各種プログラムや各種の情報を記憶する。各種の情報として、例えば、溶接の施工条件が該当する。通信部13は、例えば通信ケーブルCを介して接続される溶接部2との通信を制御する。
【0031】
入力部14及び表示部15は、例えばティーチペンダントの入力機能及び出力機能と同様の機能を含む。具体的に、入力部14は、複数のキーを有しており、各キーの操作に応じて入力信号を生成し、制御部11に出力する。表示部15は、文字や映像等をディスプレイに表示させる。
【0032】
溶接電源部16は、例えば溶接電源が有する機能と同様の機能を含む。具体的に、溶接電源部16は、溶接ワイヤの先端とワークとの間にアークを発生させるために、施工条件に従って、溶接電流及び溶接電圧を溶接部2に供給する。
【0033】
制御部11は、メモリに格納された所定のプログラムをプロセッサが実行することにより、各種機能を実現する。各種機能として、例えば、溶接の施工条件に従って溶接部2の動作を制御する機能がある。この溶接部2の動作を制御する機能の一つとして、以下の機能がある。
【0034】
その機能は、溶接部2にアーク溶接を行なわせている間、アーク放電のための電流を出力させない期間(第1期間、以下「オフ期間」とも言う。)とアーク放電のための電流を出力させる期間(第2期間、以下「オン期間」とも言う。)とを交互に繰り返し、各オン期間の開始時に溶接トーチ22を一時的に所定時間停止させる以外は溶接トーチ22を継続して移動させる機能である。この機能は、アーク溶接により形成される溶接ビードをウロコ状に重ね合わせながら溶接を行う際に適用されるものである。
【0035】
上記溶接部2にアーク溶接を行なわせている間とは、例えば、溶接開始命令を出力し、その命令により溶接トーチ22が動き始めてから、溶接終了命令を出力し、その命令により溶接トーチ22が停止するまでの期間である。
【0036】
この機能について、図2を参照して具体的に説明する。図2は、各オン期間T2の開始時に溶接トーチ22が一時的に停止する以外は溶接トーチ22がアーク溶接中に継続して移動する様子を表すグラフである。同図では、溶接トーチ22が一時的に停止する時間として、停止時間taが設定されている。
【0037】
オフ期間T1は、例えば、図2に示す、溶接電流Iwが出力されていない期間であり、具体的には、時刻t2から時刻t3までの期間や、時刻t4から時刻t5までの期間が該当する。なお、オフ期間T1は、溶接電流Iwが0[A]となることを要件にする必要はなく、溶接電流Iwがアーク放電を行うことができない電流値の範囲内であればよい。
【0038】
オン期間T2は、例えば、図2に示す、溶接電流Iwが出力されている期間であり、具体的には、時刻t1から時刻t2までの期間や、時刻t3から時刻t4までの期間、時刻t5から時刻t6までの期間が該当する。なお、オン期間T2は、溶接電流IwがIa[A]となることを要件にする必要はなく、溶接電流Iwがアーク放電を行わせることができる電流値の範囲内であればよい。
【0039】
図2に示すように、溶接トーチ22は、溶接部2がアーク溶接を行なっている間、各オン期間T2の開始時に停止時間taだけ停止する以外は速度Vaで移動することになる。これにより、アークを発生させている間に溶接トーチを停止させ続ける場合に比べ、溶接時間を短縮することができ、生産性を高めることが可能となる。また、オン期間T2の開始時に溶接トーチ22を一時的に停止させることで、溶接入熱を増やすことができ、溶接ビードの外観を向上させることが可能となる。
【0040】
溶接トーチ22を移動させる速度、及び溶接トーチ22を停止させる時間は、アーク溶接を施す結果物の外観及び品質と溶接時間とを勘案して適宜設定することができ、施工条件のデータとして結果物ごとに設定できる。
【0041】
溶接トーチ22を停止させる時間は、各オン期間T2に対し、同じ時間を設定することに限定されず、オン期間T2ごとに異なる時間を設定してもよい。これにより、オン期間T2ごとの溶接状況に応じて溶接入熱や溶接ビードの外観をコントロールすることが可能となる。
【0042】
溶接トーチ22の停止時間を異ならせる場合、例えば、時間的に前になるオン期間T2の停止時間を、時間的に後になるオン期間T2の停止時間以上になるように設定することが好ましい。言い換えると、時間の経過とともに、停止時間が徐々に短くなる(一部同じである場合も含む)ように設定することが好ましい。溶接入熱は、アーク溶接を開始してから徐々に増える傾向にあるため、溶接入熱が少ない間は、停止時間を長くすることで溶接入熱の不足分を補うことが可能となる。特に、アーク溶接を開始した直後は溶接入熱が少なくなるため、アーク溶接を開始してから最初のオン期間T2の停止時間が最長になるように、溶接トーチ22の停止時間を設定することが好ましい。
【0043】
なお、溶接トーチ22の停止時間を徐々に短くするのではなく、溶接トーチ22の停止時間を変えずに、オン期間T2を徐々に短くすることや、溶接電流をオン期間T2ごとに徐々に低下させることとしてもよい。これにより、アーク溶接を開始して溶接入熱が少ない期間は、オン期間T2を長くすることや、溶接電流を高くすることで、溶接入熱の不足分を補うことが可能となる。
【0044】
ここで、本実施形態において、オン期間T2を徐々に短くすることとしてもよいが、その場合、オン期間T2の短縮に応じて、アーク放電のための電流を徐々に高くすることが好ましい。オン期間T2が短くなることで不足する溶接ビードへの入熱を、電流を高めることで補うことが可能となるためである。
【0045】
溶接トーチ22の停止時間を異ならせる場合について、図3を参照して具体的に説明する。図3は、停止時間を徐々に短くしながら溶接トーチ22を移動させる様子を表すグラフである。
【0046】
図3に示すように、溶接トーチ22は、溶接部2がアーク溶接を行なっている間、各オン期間T2の開始時に一時的に停止する以外は一定の速度Vaで移動し続ける。溶接トーチ22が停止する時間は、オン期間T2ごとに徐々に短くなるように設定されている。具体的に、時刻t1から時刻t2までのオン期間T2の停止時間は、停止時間taとなり、時刻t3から時刻t4までのオン期間T2の停止時間は、停止時間taよりも短い停止時間tbとなり、時刻t5から時刻t6までのオン期間T2の停止時間は、停止時間tbよりも短い停止時間tcとなる。
【0047】
このように溶接トーチ22の停止時間を異ならせることで、溶接入熱が少ないほど、停止時間を長くして溶接入熱の不足を補うことができるため、溶接入熱を効率よく増やし、より大きなうろこ状の溶接ビードを形成させることが可能になる。
【0048】
次に、図4を参照して、実施形態における溶接システム100の動作の一例について説明する。
【0049】
最初に、制御部11は、溶接を開始させるタイミングになった場合に、溶接開始命令を出力する(ステップS101)。これにより、アーク溶接が開始される。
【0050】
続いて、制御部11は、溶接の施工条件に従って、各オン期間の開始時に溶接トーチ22を一時的に停止させる以外は溶接トーチ22を継続して移動させる(ステップS102)。溶接トーチ22を停止させる時間は、各オン期間とも同じであってもよいし、オン期間ごとに可変であってもよい。可変の場合には、徐々に短くしていくことが好ましい。
【0051】
続いて、制御部11は、溶接を終了させるタイミングになったか否かを判定する(ステップS103)。この判定がNOである場合(ステップS103;NO)に、制御部11は、アーク溶接が行われていると判定し、上記ステップS102の処理を継続する。
【0052】
上記ステップS103の判定で溶接を終了させるタイミングになったと判定した場合(ステップS103;YES)に、制御部11は、溶接終了命令を出力し(ステップS104)、溶接部2の溶接トーチ22を停止させる(ステップS105)。これにより、アーク溶接が終了するとともに、本動作も終了する。
【0053】
前述したように、実施形態における溶接システム100によれば、溶接部2にアーク溶接を行なわせている間、アーク放電のための電流を出力させないオフ期間と、アーク放電のための電流を出力させるオン期間と、を交互に繰り返し、各オン期間の開始時に溶接トーチ22を一時的に停止させる以外は溶接トーチ22を継続して移動させることができる。
【0054】
これにより、アークを発生させている間に溶接トーチを停止させ続ける場合に比べ、溶接時間を短縮することができるとともに、溶接トーチ22の一時的な停止により溶接入熱を増やし、溶接ビードの外観を向上させることができる。
【0055】
それゆえ、実施形態における溶接システム100によれば、生産性及び品質を高めることが可能となる。
【0056】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。このため、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。例えば、前述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、又は並列に実行することができる。
【0057】
[第1変形例]
前述した実施形態におけるアーク放電のための電流は、施工条件の溶接条件に設定された溶接電流に従って出力されるが、出力される電流を調整することとしてもよい。例えば、アーク放電のための電流を、施工条件に設定された溶接電流よりも高い電流に変更し、かつ電流の出力時間を短くすることとしてもよい。
【0058】
その一例として、施工条件に設定された溶接電流が、100[A]で0.5[s]間出力するように設定されている場合に、アーク放電のための電流を、130[A]で0.3[s]間出力するように変更することが挙げられる。
【0059】
このように、アーク放電のための電流に対応するパルスの出力時間を短くし、その分電流値を高くすることで、施工条件に設定された溶接電流を目標として制御する場合と比較して、溶接ビードの溶着量を維持しつつ、溶接ビードの冷却時間を長くすることが可能となる。これにより、ビード形状のリップルの高さ(うろこ状の高さ)を高くして、ビードの外観を向上させることができる。
【0060】
施工条件に設定された溶接電流に対して電流値を高くする度合い及び電流の出力時間を短縮する度合いは、溶接ビードの溶着量を維持しつつ、溶接ビードの冷却時間を長くできる範囲で適宜設定することができ、そのような度合いを施工条件の溶接条件等に設定することが好ましい。また、前述のように施工条件に設定された溶接電流を変更して調整するのではなく、調整後の電流値及び出力時間を施工条件の溶接電流等に設定し、その設定した溶接電流を目標として制御することとしてもよい。
【0061】
[第2変形例]
前述した第1変形例では、アーク放電のための電流を、施工条件に設定された溶接電流よりも高い電流に変更し、かつ出力時間を短くして出力しているが、変更後の電流を出力し、その出力に続けて、施工条件に設定された溶接電流よりも低い電流を所定時間さらに出力することとしてもよい。この場合、溶接電流よりも高い電流を出力している期間と溶接電流よりも低い電流を出力している期間とを合わせた期間が、オン期間となる。
【0062】
その一例として、施工条件に設定された溶接電流が、100[A]で0.5[s]間出力し、溶接電流の間隔が0.5[s]になるように設定されている場合に、アーク放電のための電流を、130[A]で0.3[s]間出力し、引き続き70[A]の電流を0.4[s]間出力し、その後次回のアーク放電のための電流を0.3[s]後に出力するように変更することが挙げられる。
【0063】
前述した第1変形例のように、アーク放電のための電流に対応するパルスの出力時間を短くして電流値を高めた場合には、電流パルスの出力時間が短くなるため、溶接ビードの溶着量を増やすことが難しくなる。
【0064】
その問題を解決するために、本第2変形例では、第1変形例における電流パルスを出力した直後に、施工条件に設定された溶接電流よりも低い電流に対応する二段目のパルスを引き続き出力する。これにより、第1変形例と比較して、溶接ビードの溶着量を増やすことが可能となる。また、二段目の電流が低いため、溶接ビードへの入熱を抑えることが可能となり、電流を出力しつつ溶接ビードの冷却を進行させることができる。
【0065】
施工条件に設定された溶接電流に対して電流値を低くする度合い、電流の出力時間及び電流を出力する間隔は、溶接ビードの溶着量を増やしつつ、溶接ビードの冷却を進行させることができる範囲で適宜設定することができ、そのような条件を施工条件の溶接条件等に設定することが好ましい。また、前述のように施工条件に設定された溶接電流を変更して調整するのではなく、調整後の電流値及び出力時間等を施工条件の溶接電流等に設定し、その設定した溶接電流を目標として制御することとしてもよい。
【0066】
[第3変形例]
前述した第2変形例では、アーク放電のための電流として、オン期間に二段のパルスを出力しているが、パルスを二段出力することに限定されない。例えば、オン期間において、第1変形例における電流パルスを出力し、その出力に続けてスロープ状に電流値を低下させながら所定時間さらにアーク放電のための電流を出力することとしてもよい。このときスロープ状に低下させる電流が、施工条件に設定された溶接電流よりも低い電流になるように電流の遷移状態を設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0067】
1…制御装置、2…溶接部、11…制御部、12…記憶部、13…通信部、14…入力部、15…表示部、16…溶接電源部、21…多関節アーム、22…溶接トーチ、23…ワイヤ送給装置、24…作業台、100…溶接システム
図1
図2
図3
図4