(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】金属の表面粗さ評価方法、並びに、金属表面の粗面化方法及び塗膜除去方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/352 20140101AFI20241115BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20241115BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241115BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/03
B23K26/00 N
(21)【出願番号】P 2021057140
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 雄介
(72)【発明者】
【氏名】大阿見 尚弥
(72)【発明者】
【氏名】武川 哲
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/067249(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/198610(WO,A1)
【文献】特開2018-192480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0036429(US,A1)
【文献】特開2002-104686(JP,A)
【文献】特開2000-263259(JP,A)
【文献】特開2017-124418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射することで粗面化処理が成された素地調整済み面を有する金属の表面粗さ評価方法であって、
前記金属の前記素地調整済み面における線粗さ(JIS B 0601)のパラメータである最大高さRzが25~80μmである場合に、該素地調整済み面における面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる範囲を基準として評価する金属の表面粗さ評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属の表面粗さ評価方法において評価基準を満たすとされる金属の素地調整済み面を得るべく金属の表面の素地調整を行う金属表面の粗面化方法であって、
前記金属の前記表面にスパッタを含めて面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる凹凸を形成するべく設定したレーザ条件で前記金属の前記表面に対してレーザ光を照射する金属表面の粗面化方法。
【請求項3】
前記レーザ光としてパルスレーザ光を用いる請求項2に記載の金属表面の粗面化方法。
【請求項4】
前記レーザ条件は、レーザ光の平均出力を繰り返し周波数で除して成るパルスエネルギが少なくとも0.7mJであり、且つ、レーザ光のピーク出力が少なくとも7.0kWである請求項3に記載の金属表面の粗面化方法。
【請求項5】
前記レーザ条件において、パルスエネルギを少なくとも0.7mJとし、且つ、レーザ光のピーク出力を少なくとも7.0kWとするためのレーザ光のパルス幅が100.0ns以下である請求項4に記載の金属表面の粗面化方法。
【請求項6】
請求項1に記載の金属の表面粗さ評価方法において評価基準を満たすとされた既設構造物の金属における素地調整済み面上に塗装された塗膜を除去する塗膜除去方法であって、
前記金属の前記素地調整済み面に存在する面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる凹凸を残すべく設定されたレーザ条件で前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ走査する塗膜除去方法。
【請求項7】
前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ直線状に走査する請求項6に記載の塗膜除去方法。
【請求項8】
前記レーザ条件は、レーザ光の出力が1000W以下であり、レーザ光のスポット径とレーザ光の走査速度との積でレーザ光の出力を除した量であるフルエンスが0.25J/mm
2以下である請求項6又は7に記載の塗膜除去方法。
【請求項9】
フルエンスを0.25J/mm
2以下とするためのレーザ光の走査速度が9.0~15.0m/sである請求項8に記載の塗膜除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を照射することで粗面化処理が成された素地調整済み面を有する金属の表面粗さを評価するのに用いられる金属の表面粗さ評価方法に関するものである。
また、本開示は、上記金属の表面粗さ評価方法で良好と評価される金属の素地調整済み面を得るべく金属の表面の素地調整を行うのに用いられる金属表面の粗面化方法、及び、上記金属の表面粗さ評価方法で良好と評価された橋梁や建築物などの既設構造物の金属である鋼材の素地調整済み面上に塗装された塗膜を除去するのに用いられる塗膜除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記既設構造物、例えば、橋梁や建築物を長期にわたって安全に使用するためには、構造部材である鋼材の表面に塗装を施して鋼材の腐食を防ぐ必要がある。鋼材表面に塗装を施す際には、塗料の密着力を大きくして塗装の耐久性向上を図るために、塗装前の鋼材表面である素地調整面にレーザ光を照射する粗面化処理が実施される。
【0003】
また、構造部材である鋼材の腐食を長期にわたって防ぐためには、鋼材の表面に施された塗装の塗膜を定期的に剥がして除去し、再塗装する必要がある。鋼材表面の塗膜を剥がす際には、再塗装時の塗料の密着力を大きくするうえで、レーザ光の照射による粗面化処理が成された塗装前の素地調整済み面を極力残すことが求められる。
【0004】
そして、上述のごとく塗装前の鋼材表面に対してレーザ光を照射する粗面化処理を実施する場合には、実施後に得られる素地調整済み面の表面粗さを評価する必要があり、一方、再塗装前に鋼材表面の塗膜を剥がす場合にも、塗膜除去後に露出する鋼材の素地調整済み面の表面粗さを評価する必要がある。
【0005】
従来において、レーザ光照射による粗面化処理の実施後に得られる素地調整済み面に対する表面粗さの評価方法や、塗膜除去後に露出する鋼材の素地調整済み面に対する表面粗さの評価方法は、線粗さ(JIS B 0601)のパラメータである最大高さRzに基づいて成されるものであり、線粗さ最大高さRzが25~80μmの範囲を基準にして評価するようにしている。
なお、表面粗さの評価項目として最大高さRzを採用することが、非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「機械工学便覧」,新版第3刷,社団法人 日本機械学会編,1989年9月30日発行,第B2-206頁~第B2-207頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したように、塗装前の鋼材表面にレーザ光を照射する粗面化処理を実施したり、レーザ光の照射によって塗膜を剥がしたりする場合に、鋼材表面や露出する塗装前の素地調整済み面の線粗さ最大高さRzが25~80μmの基準を満たしたとしても、従来の表面粗さの評価方法では、線粗さ最大高さRzが幅数10μm程度の凹凸を計測対象としているので、幅が数μm程度の細かい凹凸の有無は計測することができない。
【0008】
この幅が数μm程度の細かい凹凸が、鋼材表面や露出する塗装前の素地調整済み面にある場合とない場合とでは、塗装の耐久性が異なることから、塗装の耐久性向上を図るために、幅が数μm程度の細かい凹凸の有無をも把握する表面粗さの評価方法の構築が望まれており、これを解決することが従来の課題となっている。
【0009】
本開示は、上記した従来の課題を解決するためになされたもので、例えば、塗装前の鋼材表面にレーザ光を照射する粗面化処理を実施した場合において、鋼材表面の幅が数10μm程度の凹凸の存在だけでなく、幅が数μm程度の細かい凹凸の有無をも把握することができ、その結果、塗装の耐久性を保証することが可能になる金属の表面粗さの評価方法を提供することを目的としている。
【0010】
また、本開示は、塗装の耐久性を向上させることができる金属表面の粗面化方法、及び、既設構造物における構造部材の素地調整面に及ぼす形状や組成の変化を少なく抑えつつ、構造部材の表面に施された塗装の塗膜を除去すること可能な塗膜除去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1の態様は、レーザ光を照射することで粗面化処理が成された素地調整済み面を有する金属の表面粗さ評価方法であって、前記金属の前記素地調整済み面における線粗さ(JIS B 0601)のパラメータである最大高さRzが25~80μmである場合に、該素地調整済み面における面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる範囲を基準として評価する構成としている。
【0012】
また、本開示の第2の態様は、請求項1に記載の金属の表面粗さ評価方法において評価基準を満たすとされる金属の素地調整済み面を得るべく金属の表面の素地調整を行う金属表面の粗面化方法であって、前記金属の前記表面にスパッタを含めて面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる凹凸を形成するべく設定したレーザ条件で前記金属の前記表面に対してレーザ光を照射する構成としている。
【0013】
さらに、本開示の第3の態様は、前記レーザ光としてパルスレーザ光を用いる構成としている。
【0014】
さらにまた、本開示の第4の態様において、前記レーザ条件は、レーザ光の平均出力を繰り返し周波数で除して成るパルスエネルギが少なくとも0.7mJであり、且つ、レーザ光のピーク出力が少なくとも7.0kWである構成としている。
【0015】
さらにまた、本開示の第5の態様は、前記レーザ条件において、パルスエネルギを少なくとも0.7mJとし、且つ、レーザ光のピーク出力を少なくとも7.0kWとするためのレーザ光のパルス幅(パルスの時間幅)が100.0ns以下である構成としている。
【0016】
さらにまた、本開示の第6の態様は、請求項1に記載の金属の表面粗さ評価方法において評価基準を満たすとされた既設構造物の金属における素地調整済み面上に塗装された塗膜を除去する塗膜除去方法であって、前記金属の前記素地調整済み面に存在する面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる凹凸を残すべく設定されたレーザ条件で前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ走査する構成としている。
【0017】
さらにまた、本開示の第7の態様は、前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ直線状に走査する構成としている。
【0018】
さらにまた、本開示の第8の態様において、前記レーザ条件は、レーザ光の出力が1000W以下であり、レーザ光のスポット径とレーザ光の走査速度との積でレーザ光の出力を除した量であるフルエンスが0.25J/mm2以下である構成としている。
【0019】
さらにまた、本開示の第9の態様は、フルエンスを0.25J/mm2以下とするためのレーザ光の走査速度が9.0~15.0m/sである構成としている。
【0020】
本開示において、レーザにはファイバーレーザや半導体レーザやYAGレーザを用いるのが一般的であるが、これらのレーザに限定されない。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係る金属の表面粗さ評価方法によれば、例えば、塗装前の鋼材表面にレーザ光を照射する粗面化処理を実施した場合において、鋼材表面の幅が数10μm程度の凹凸の存在だけでなく、幅が数μm程度の細かい凹凸の有無をも把握することができ、その結果、塗装の耐久性を保証することが可能になるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示の一実施形態に係る金属の表面粗さ評価方法の評価対象である複数の素地調整済み面の各全体図及びこれらの全体図にそれぞれ併せて示すレーザ顕微鏡による分析図である。
【
図2】
図1の1段目の素地調整済み面及び4段目の素地調整済み面について面粗さを比較するための展開面積比の分布を他の4つのパラメータの分布とともに示す分布図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る金属表面の粗面化方法に用いられる粗面化装置を示す概略説明図である。
【
図4】
図3における金属表面の粗面化装置のレーザヘッドから照射されるパルスレーザ出力の経時変化を示すグラフである。
【
図5】本開示の一実施形態に係る塗膜除去方法に用いられる塗膜除去装置を示す概略説明図である。
【
図6】
図5のレーザ塗膜除去装置による塗膜除去状況の拡大斜視説明図である。
【
図7】
図5のレーザ塗膜除去装置によるレーザ条件であるフルエンスを説明するためのレーザ光の走査面積概念図である。
【
図8】種々のフルエンスに対応するレーザ光の出力とレーザ光の走査面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、レーザ光を照射することで粗面化処理が成された複数の素地調整済み面の各全体図を示しており、この
図1には素地調整済み面の各全体図にそれぞれ対応するレーザ顕微鏡による分析図を併せて示している。
【0024】
図1において、1段目は、レーザ出力300Wのレーザ光を1回走査させた場合の素地調整済み面の全体図及びその分析図であり、2段目は、レーザ出力300Wのレーザ光を5回走査させた場合の素地調整済み面の全体図及びその分析図である。
【0025】
一方、
図1における3段目は、レーザ出力500Wのレーザ光を1回走査させた場合の素地調整済み面の全体図及びその分析図であり、4段目は、レーザ出力500Wのレーザ光を5回走査させた場合の素地調整済み面の全体図及びその分析図である。
そして、
図1における5段目は、ブラスト処理を行った素地調整済み面の全体図及びその分析図である。
【0026】
この
図1の1~4段目の素地調整済み面の各全体図及び分析図から、レーザ光を数多く走査するほど、細かい凹凸が消失していることが判る。
【0027】
この実施形態では、本開示に係る金属の表面粗さ評価方法により、
図1の1段目の素地調整済み面及び4段目の素地調整済み面について、それぞれの面粗さを評価した。
【0028】
具体的には、金属の素地調整済み面における線粗さ(JIS B 0601)のパラメータである最大高さRzが25~80μmの範囲にある場合において、
図1の1段目の素地調整済み面及び4段目の素地調整済み面のそれぞれについて、
図2に示すように、面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータである界面の展開面積比Sdrの値を測定して、各々の分布を比較した。なお、
図2におけるSpcは凹凸の山頂点の算術平均曲率、Sdqは、素地調整済み面の二乗平均平方根傾斜、Spdは山頂点密度、Szは最大高さであり、これら4つのパラメータの分布をSdrの分布とともに示した。
【0029】
界面の展開面積比であるSdrは、レーザ出力300Wのレーザ光を1回走査させた場合の素地調整済み面では、0.10~0.30において末広がりに分布しているのに対して、レーザ出力500Wのレーザ光を5回走査させた場合の素地調整済み面では、分布が0.00~0.15に集中している。
【0030】
図2の面粗さ(国際規格 ISO 25178)におけるパラメータSdrの値の分布を比較した結果、レーザ出力300Wのレーザ光を1回走査させた場合の素地調整済み面の面粗さが、レーザ出力500Wのレーザ光を5回走査させた場合の素地調整済み面よりも大きい(平面粗度が大きい)評価が得られ、その結果、レーザ出力300Wのレーザ光を1回走査させた場合の素地調整済み面の方が、レーザ出力500Wのレーザ光を5回走査させた場合の素地調整済み面よりも
表面積が多くなっている分だけ塗装の密着力が増して塗装の耐久性に優れていることが判った。
【0031】
図3は、本開示の一実施形態に係る金属表面の粗面化方法に用いられる粗面化装置を示している。
図3に概略的に示すように、この粗面化装置1は、例えば、橋梁を構成する鋼材(金属)Wの表面Waの素地調整を行うためのものであって、レーザ発振器2と、レーザ発振器2から光ファイバ5を介して供給されるレーザ光Lを内蔵された光学系3により集光して鋼材Wの表面Waに照射するレーザヘッド4と、レーザヘッド4を鋼材Wの長辺方向に沿って移動させるヘッド駆動機構6と、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lを反射して鋼材Wの表面Waで往復移動させる走査機構8と、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの出力等を後述するレーザ条件に基づいて制御する制御部10を備えている。
この実施形態では、レーザ発振器2として加工精度が高く且つ熱影響の少ない粗面化処理を行い得るパルスレーザ発振器を採用している。
【0032】
ヘッド駆動機構6は、鋼材Wの長辺方向に沿って配置されるレール6aと、このレール6a上を往復移動するスライダ6bを具備している。この場合、レーザヘッド4は、鋼材Wの表面Waと平行で且つレール6aと直交する方向にレーザ光照射方向を合わせるようにしてスライダ6bに固定されている。
【0033】
また、走査機構8は、ヘッド駆動機構6のスライダ6bに支持台7を介して取り付けられたケース9に保持されており、レーザヘッド4からのレーザ光Lを反射するスキャナミラー8aと、このスキャナミラー8aを所定の範囲で小刻みに回動させるスキャナモータ8bとから構成されている。
【0034】
つまり、この粗面化装置1では、ヘッド駆動機構6及び走査機構8の双方をそれぞれ動作させることで、鋼材Wの表面Wa全体をカバーするようにレーザ光Lを移動させ、これによって生じるスパッタを含めた数μmオーダーの高低差の微小凹凸を鋼材Wの表面Waに形成するようになっている。
【0035】
より詳述すれば、レーザ光Lを反射する走査機構8のスキャナミラー8aを小刻みに回動させて、
図1の拡大長円内に示すように、鋼材Wの表面Wa上においてレーザスポットSを鋼材Wの短辺方向に沿って1パルス毎に所定量ずつ(この実施形態ではレーザスポットSの直径の1/4ずつ)移動させるようになっている。
【0036】
一方、ヘッド駆動機構6は、鋼材Wの短辺方向に沿うレーザスポットSの移動が終了する毎に作動して、レーザスポットSを鋼材Wの長辺方向に沿って所定量(この実施形態ではレーザスポットSの直径の1/4)移動させるようになっている。
【0037】
なお、ヘッド駆動機構6及び走査機構8による1パルス毎のレーザスポットSの移動量は、上記したレーザスポットSの直径の1/4に限定されるものではないが、隣接するレーザスポットS間に隙間が空くのを回避するうえで、レーザスポットSの直径の1/4~3/4の範囲で移動させることが望ましい。
【0038】
この場合、制御部10では、鋼材Wの表面Waにスパッタを含めて面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる凹凸を形成するべく設定したレーザ条件でレーザヘッド4,ヘッド駆動機構6及び走査機構8を制御するようになっている。
つまり、上記した金属の表面粗さ評価方法において評価基準を満たすとされる金属の素地調整済み面を得るべく設定したレーザ条件でレーザヘッド4,ヘッド駆動機構6及び走査機構8を制御するようになっている。
【0039】
ここで、
図4に粗面化装置1のレーザヘッド4から照射されるパルスレーザ出力の経時変化を示す。
図4において、符号Pa,Ppはそれぞれ平均出力及びピーク出力を示し、符号In,wはそれぞれレーザ光Lのパルス間隔及びパルス幅(パルスの時間幅)を示す。また、
図4において、符号PEはパルスエネルギを示す。
【0040】
上記レーザ条件を決めるにあたっては、まず、スポット径を60μm程度に設定したうえで、レーザ光Lの平均出力Paをパルス間隔Inの逆数で表される繰り返し周波数で除して成るパルスエネルギPEを少なくとも0.7mJに設定し、且つ、レーザ光Lのピーク出力Ppを少なくとも7.0kWに設定する。なお、レーザ光Lの平均出力Paを少なくとも1.5mJに設定し、且つ、レーザ光Lのピーク出力Ppを少なくとも15.0kWに設定することが望ましく、レーザ光Lの平均出力Paを少なくとも3.0mJに設定し、且つ、レーザ光Lのピーク出力Ppを少なくとも30.0kWに設定することが望ましい。
【0041】
そして、上記のようにパルスエネルギPEを少なくとも0.7mJとすると共に、レーザ光Lのピーク出力Ppを少なくとも7.0kWとするために、レーザ光Lのパルス幅wを100.0ns以下に設定する。
【0042】
このように、本実施形態において、制御部10では、レーザ光Lの平均出力Paをパルスの繰り返し周波数で除して成るパルスエネルギPEを少なくとも0.7mJとすると共に、レーザ光Lのピーク出力Ppを少なくとも7.0kWとするために、レーザ光Lのパルス幅wが100.0ns以下となるようにレーザヘッド4,ヘッド駆動機構6及び走査機構8を制御するようになっている。
【0043】
本実施形態に係る金属表面の粗面化方法では、塗装前の鋼材(金属)Wの表面Waにスパッタを含めて数μmオーダーの高低差の微小な凹凸を形成することができ、したがって、塗装の耐久性を向上させることが可能である。
【0044】
図5は、本開示の一実施形態に係る塗膜除去方法に用いられるレーザ塗膜除去装置を示している。
図5に概略的に示すように、このレーザ塗膜除去装置11は、例えば、橋梁を構成する鋼材(構造部材)Wの表面に塗装された塗膜Wmを剥がして除去するためのものであって、レーザ発振器12と、内蔵した光学系13によりレーザ発振器12から供給されるレーザ光Lを集光して鋼材Wの表面に照射するレーザヘッド14と、レーザ発振器12からのレーザ光Lをレーザヘッド14へ導く光ファイバ15と、レーザヘッド14からのレーザ光Lを鋼材Wの表面上で走査させる走査機構16と、レーザヘッド14から照射されるレーザ光Lの出力,レーザ光Lのスポット径及び走査機構16によるレーザ光Lの走査速度等を制御する制御部20を備えている。
【0045】
走査機構16は、レーザヘッド14とともにケース19に保持されており、レーザヘッド14からのレーザ光Lを反射するスキャナミラー16aと、このスキャナミラー16aを所定の範囲で回動させるスキャナモータ16bとから構成されている。
【0046】
この実施形態では、レーザヘッド14からのレーザ光Lをスキャナミラー16aによって鋼材Wに向けて反射し、このスキャナミラー16aを所定の範囲で回動させることで、
図6にも示すように、レーザ光Lを鋼材Wの表面上で直線状に走査させて(ジグザグに往復移動させて)塗膜Wmを除去するようになっている。
【0047】
この場合、制御部20では、レーザ光Lを鋼材Wの素地調整済み面Waに照射した場合でもこの素地調整済み面Waに存在する凹凸、すなわち、鋼材Wの素地調整済み面Waに存在する面粗さ(国際規格 ISO 25178)のパラメータのうちの少なくとも展開面積比Sdrが0.15以上となる凹凸が残るように設定したレーザ条件でレーザヘッド14及び走査機構16のスキャナモータ16bを制御するようになっている。
つまり、上記した金属の表面粗さ評価方法において評価基準を満たすとされた既設構造物の鋼材Wの素地調整済み面Waを得るべく設定したレーザ条件でレーザヘッド14及び走査機構16のスキャナモータ16bを制御するようになっている。
【0048】
上記レーザ条件を決めるにあたっては、まず、レーザ光Lの出力を高く設定し過ぎると他の条件に関係なく素地調整済み面Waの微小な凹凸が消滅してしまうので、レーザ光Lの出力の上限を1000Wとする。
【0049】
レーザ光Lの出力を
図7に示すレーザ光LのスポットSの面積SAで除したエネルギ密度(W/mm
2)は、スポット径Dが小さい程大きくなって単位時間当たりの入熱量が増えるので、確実な塗膜の除去を行ううえでスポット径Dを0.15mmとしてエネルギ密度を大き目に設定する。
【0050】
また、レーザ光Lのスポット径Dと
図7に示すレーザ光Lの走査速度V(m/s)との積(走査面積A(m
2/s))でレーザ光Lの出力を除した量であるフルエンスは、0.25J/mm
2以下とすることが望ましく、より望ましくは0.15J/mm
2以下であり、より望ましくは0.13J/mm
2以下とする。
【0051】
ここで、種々のフルエンスに対応するレーザ光Lの出力とレーザ光Lの走査面積Aとの関係を
図8に示す。この
図8のグラフから判るように、レーザ光Lの出力とレーザ光Lの走査面積Aとの関係において、フルエンスは基準線I~IIIの各傾きとして表されており、本実施形態では、フルエンスが0.13J/mm
2の傾きの基準線Iを指標として、この基準線I上ないし近傍にレーザ光Lの出力及びレーザ光Lの走査面積Aがそれぞれ位置するようにエネルギ密度及びレーザ光Lの走査速度Vを設定するようにしている。
【0052】
これにより、フルエンスを0.25J/mm2以下とするために、レーザ光Lの走査速度Vは、9.0m/s以上とすることが望ましく、より望ましくは12.0m/s以上であり、より望ましくは15.0m/s以上となるように設定している。
【0053】
このように、本実施形態において、制御部20では、レーザ光Lの出力の上限を1000Wとすると共にスポット径Dを0.15mmとしたうえで、フルエンスを0.25J/mm2以下とするために、レーザ光の走査速度が9.0~15.0m/sとなるように走査機構16のスキャナモータ16bを制御するようになっている。
【0054】
本実施形態に係る塗膜除去方法によれば、既設構造物における鋼材Wの素地調整済み面Waに施された塗装の塗膜Wmを除去することができるのは言うまでもなく、鋼材Wの素地調整済み面Waにレーザ光Lが照射されるような場合であったとしても、その素地調整済み面Waに及ぼす形状や組成の変化を少なく抑えることが可能である。
【0055】
本開示に係る金属の表面粗さ評価方法、並びに、金属表面の粗面化方法及び塗膜除去方法の各構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0056】
In パルス間隔
L レーザ光
PE パルスエネルギ
Pa 平均出力
Pp ピーク出力
W 鋼材(金属,構造部材)
Wa 鋼材の表面(金属表面,素地調整済み面)
Wm 塗膜
w パルスの時間幅