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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
   B62K 11/04 20060101AFI20241115BHJP
   B62J 45/415 20200101ALI20241115BHJP
   B62K 25/20 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
B62K11/04 Z
B62J45/415
B62K25/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021114508
(22)【出願日】2021-07-09
(65)【公開番号】P2023010397
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻村 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】秋元 一志
(72)【発明者】
【氏名】岩上 寛
(72)【発明者】
【氏名】住岡 忠使
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 知代
(72)【発明者】
【氏名】高柳 翔
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/059346(WO,A1)
【文献】米国特許第04429760(US,A)
【文献】特開2019-026115(JP,A)
【文献】特表2013-516354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 11/04
B62K 25/20
B62J 45/415
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、該車体の前後方向に間隔を存して配置された前輪及び後輪と、前記前輪を前記車体に支持する前輪支持機構と、前記後輪を前記車体に支持する後輪支持機構とを備える移動体であって、
前記後輪支持機構は、前記後輪が、前記車体に対してロール方向に傾動することと、該車体に対して左右方向に移動することとを行い得ると共に、該後輪の傾動に伴い該後輪が該車体に対して上下動し得るように該後輪を該車体に支持するように構成されており、
前記車体に対する前記後輪の上下動を第1のアクチュエータの駆動力により調整する上下動調整装置と、
前記車体に対する前記後輪のロール方向の傾斜角に応じて該車体に対する該後輪の上下動量を決定し、当該決定した上下動量に応じて前記第1のアクチュエータの作動制御を行う機能を有する制御装置と、を備えることを特徴とする移動体。
【請求項2】
車体と、該車体の前後方向に間隔を存して配置された前輪及び後輪と、前記前輪を前記車体に支持する前輪支持機構と、前記後輪を前記車体に支持する後輪支持機構とを備える移動体であって、
前記後輪支持機構は、前記後輪が、前記車体に対してロール方向に傾動することと、該車体に対して左右方向に移動することとを行い得ると共に、該後輪の傾動に伴い該後輪が該車体に対して上下動し得るように該後輪を該車体に支持し、前記後輪が、前記車体に対してロール方向に傾動するに伴い、該車体の左右方向に移動するように構成されており、
前記車体に対する前記後輪の上下動を第1のアクチュエータの駆動力により調整する上下動調整装置と、
前記車体に対する前記後輪のロール方向の傾斜角又は左右方向への移動量に応じて該車体に対する該後輪の上下動量を決定し、当該決定した上下動量に応じて前記第1のアクチュエータの作動制御を行う機能を有する制御装置と、を備えることを特徴とする移動体。
【請求項3】
車体と、該車体の前後方向に間隔を存して配置された前輪及び後輪と、前記前輪を前記車体に支持する前輪支持機構と、前記後輪を前記車体に支持する後輪支持機構とを備える移動体であって、
前記後輪支持機構は、前記後輪が、前記車体に対してロール方向に傾動することと、該車体に対して左右方向に移動することとを行い得ると共に、該後輪の傾動に伴い該後輪が該車体に対して上下動し得るように該後輪を該車体に支持し、前記後輪を、前記車体に対してのロール方向に傾動させながら該車体の左右方向に移動させることを第2のアクチュエータの駆動力により行い得るように構成されており、
前記車体に対する前記後輪の上下動を第1のアクチュエータの駆動力により調整する上下動調整装置と、
前記車体に対する前記後輪のロール方向への傾動及び左右方向への移動に連動させて、該車体に対する該後輪の上下動量を制御するように、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの作動制御を行う機能を有する制御装置と、を備えることを特徴とする移動体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の移動体において、
前記後輪支持機構は、前記車体に対してピッチ方向に揺動し得るように該車体に連結されており、前記上下動調整装置は、前記第1のアクチュエータの駆動力を伸縮機構又はリンク機構を介して該車体と該後輪支持機構との間に伝達することで、前記後輪支持機構を前記後輪と共に該車体に対してピッチ方向に揺動させるように構成されていることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車等の移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体の前後に前輪及び後輪を有する二輪車等の移動体では、例えば、特許文献1に見られるように、後輪を支持する後方フレームが、前輪を支持する前方フレームから後方側に後ろ下がり方向に斜めに延在する回転軸線周りに前方フレームに対して回転し得るように、後方フレームを前方フレームに連結した構造を有する移動体が提案されている。
【0003】
この移動体は、低速時に、二輪車のふらつきを軽減するふらつき軽減モードを有しており、車体が左側又は右側に傾いたときに、後輪が逆側に傾くように後方フレームを前方フレームに対して上記回転軸線周りに回転させることで、車体の傾きを抑制する方向のモーメントを発生させ、ひいては、車体のふらつきを軽減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-182091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、二輪車の如き移動体のふらつきを、後輪の傾動等により効果的に防止する上では(換言すれば、車体が左右に傾くのを抑制するモーメントを効果的に発生させる上では)、後輪が前方側の車体に対して傾くだけでなく、前方側の車体に対して車幅方向(移動体を後方から見て左右方向)に移動させ得ることが望ましい。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載された移動体では、後輪を支持する後方フレームが前方フレームに対して、上記回転軸線周りに回転し得るように連結されているだけなので、後輪は、前方フレームに対して車幅方向に移動することはできない。
【0007】
加えて、前記特許文献1に記載された移動体では、後輪を前方フレームに対して右側に傾けるように後方フレームを前方フレームに対して回転させたとき、後輪は左向きに(上方から見て反時計回り方向に)転舵されてしまう。また、後輪を前方フレームに対して左側に傾けるように後方フレームを前方フレームに対して回転させたとき、後輪は右向きに(上方から見て時計回り方向に)転舵されてしまう。
【0008】
このため、特許文献1に見られる如き移動体では、車体が左側又は右側に傾いた場合に、後輪の逆側への傾き量が小さいと、車体のさらなる傾きを抑制する効果が発生しにくい(車体のさらなる傾きを抑制するモーメントが発生しにくい)。ひいては、応答性よく車体の傾きを抑制することが困難になりやすい。
【0009】
そこで、本願発明者は、後輪を、車体に対してロール方向(車体の前後方向の軸周りの方向)に傾動させつつ、車体の左右方向に移動させ得る機構を備える移動体を開発し、該移動体に関する特許出願を行った(特願2020-081488、特願2020-081489を参照)。
【0010】
しかしながら、かかる移動体では、ロール方向での車体の傾きが一定に保たれていても、車体に対する後輪の傾動に応じて車体の上下動が発生する。そして、車体に搭乗する運転者が車体の上下動に対して違和感を覚えることがある。
【0011】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、車体に対する後輪のロール方向の傾動と左右方向(車幅方向)への移動とを行うことができると共に、車体に対する後輪の傾動に伴い発生する後輪の上下動(車体に対する相対的な上下動)を適切な態様で抑制もしくは調整することができる移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の移動体は、上記の目的を達成するために、車体と、該車体の前後方向に間隔を存して配置された前輪及び後輪と、前記前輪を前記車体に支持する前輪支持機構と、前記後輪を前記車体に支持する後輪支持機構とを備える移動体であって、
前記後輪支持機構は、前記後輪が、前記車体に対してロール方向に傾動することと、該車体に対して左右方向に移動することとを行い得ると共に、該後輪の傾動に伴い該後輪が該車体に対して上下動し得るように該後輪を該車体に支持するように構成されており、
前記車体に対する前記後輪の上下動を第1のアクチュエータの駆動力により調整する上下動調整装置を備えることを特徴とする(第1発明)。
【0013】
なお、本発明において、「車体の前後方向」は、直進走行姿勢の移動体を上方から見た場合(該移動体を水平面に投影して見た場合)に、前輪及び後輪の車軸に直交もしくはほぼ直交する方向を意味し、「車体の左右方向」は、直進走行姿勢の移動体を上方から見た場合(該移動体を水平面に投影して見た場合)に、前輪及び後輪の車軸と平行もしくはほぼ平行になる方向を意味する。
【0014】
ここで、「直進走行姿勢の移動体」というのは、移動体の直進走行時の姿勢と同じ姿勢の移動体を意味する。該「直進走行姿勢の移動体」は、より詳しくは、前輪及び後輪のそれぞれの車軸が互いに平行もしくはほぼ平行になると共に、前輪及び後輪が水平面に対して垂直もしくはほぼ垂直に起立した状態の移動体を意味する。また、「車体の前後方向」及び「車体の左右方向」は、空間的には、水平面に対して傾いた方向を含み得る。
【0015】
また、「車体の上下方向」は、直進走行姿勢の移動体において鉛直方向に一致もしくはほぼ一致する方向を意味し、後輪の「上下動」は当該「車体の上下方向」での後輪の移動を意味する。また、「ロール方向」は、「車体の前後方向」に延在する軸周りの方向を意味する。
【0016】
かかる第1発明によれば、後輪が、車体に対してロール方向に傾動することと、該車体に対して左右方向に移動することとを行い得ることに加えて、後輪のロール方向への傾動時に車体に対する後輪の上下動を第1のアクチュエータの作動制御を通じて抑制もしくは調整できる。
【0017】
よって、第1発明によれば、車体に対する後輪のロール方向の傾動と左右方向(車幅方向)への移動とを行うことができると共に、車体に対する後輪の傾動に伴い発生する後輪の上下動(車体に対する相対的な上下動)を適切な態様で抑制もしくは調整することができる。
【0018】
上記第1発明では、前記後輪支持機構は、前記車体に対してピッチ方向に揺動し得るように該車体に連結されており、前記上下動調整装置は、前記第1のアクチュエータの駆動力を伸縮機構又はリンク機構を介して該車体と該後輪支持機構との間に伝達することで、前記後輪支持機構を前記後輪と共に該車体に対してピッチ方向に揺動させるように構成されているという態様を採用し得る(第2発明)。なお、「ピッチ方向」は、「車体の左右方向」に延在する軸周りの方向を意味する。
【0019】
これによれば、車体と後輪支持機構との間に第1のアクチュエータから駆動力を伝達することを簡易な構成で実現できる。このため、簡易な構成の上下動調整装置によって、車体に対する後輪の上下動を抑制もしくは調整することが可能となる。
【0020】
上記第1発明又は第2発明では、前記車体に対する前記後輪のロール方向の傾斜角に応じて該車体に対する該後輪の上下動量を決定し、当該決定した上下動量に応じて前記第1のアクチュエータの作動制御を行う機能を有する制御装置をさらに備えることが好ましい(第3発明)。
【0021】
また、上記第1発明又は第2発明では、前記後輪が、前記車体に対してロール方向に傾動するに伴い、該車体の左右方向に移動するように前記後輪支持機構が構成されている場合には、前記車体に対する前記後輪のロール方向の傾斜角又は左右方向への移動量に応じて該車体に対する該後輪の上下動量を決定し、当該決定した上下動量に応じて前記第1のアクチュエータの作動制御を行う機能を有する制御装置をさらに備えることが好ましい(第4発明)。
【0022】
これらの第3発明及び第4発明によれば、車体に対する後輪の上下動量を(ひいては、後輪の接地面に対する車体の上下動量を)、車体に対する後輪のロール方向の傾斜角に適した態様で制御できる。
【0023】
上記第1~第4発明では、前記後輪支持機構は、前記後輪を、前記車体に対してのロール方向に傾動させながら該車体の左右方向に移動させることを第2のアクチュエータの駆動力により行い得るように構成され得る。この場合、前記車体に対する前記後輪のロール方向への傾動及び左右方向への移動に連動させて、該車体に対する該後輪の上下動量を制御するように、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの作動制御を行う機能を有する制御装置をさらに備えることが好ましい(第5発明)。
【0024】
これによれば、車体に対する後輪のロール方向への傾動と左右方向の移動とにより、車体のロール方向の傾きを制御するための適切なロール方向のモーメントを該車体に作用させつつ、車体に対する後輪の上下動量を(ひいては、後輪の接地面に対する車体の上下動量を)を所要の態様で制御できる。このため、移動体の操縦性を高めることが可能となる。
【0025】
補足すると、本発明の移動体の後輪支持機構は、例えば次のような第1の態様又は第2の態様を採用し得る。その第1の態様としては、前記後輪支持機構は、前記後輪が前記車体に対して該車体の左右方向に移動し得ると共に前記車体に対してロール方向に傾動し得るように該後輪を該車体に支持する多節リンク機構と、該多節リンク機構を駆動するアクチュエータ(前記第2のアクチュエータ)とを有するように構成され得る。
【0026】
この場合、前記多節リンク機構は、上記アクチュエータ(第2のアクチュエータ)による駆動によって、前記後輪の中心部が前記車体に対して左向きに移動しつつ、該後輪が前記車体に対して左側に傾動することと、前記後輪の中心部が前記車体に対して右向きに移動しつつ、該後輪が前記車体に対して右側に傾動することとを行い得るように構成され得る。
【0027】
さらに、前記多節リンク機構は、前記車体の上下方向に間隔を有して該車体の左右方向に延在するように配置された第1リンク及び第2リンクと、該第1リンクの左側端部及び該第2リンクの左側端部のそれぞれに前記車体の前後方向の回転軸心を有する2つの関節のそれぞれを介して連結された第3リンクと、該第1リンクの右側端部及び該第2リンクの右側端部のそれぞれに前記車体の前後方向の回転軸心を有する2つの関節のそれぞれを介して連結された第4リンクとを備える四節リンク機構であり、
前記第1リンク及び前記第2リンクのうち、下側のリンクを第1リンク、上側のリンクを第2リンクと定義したとき、該第1リンクの左右の2つの前記関節のそれぞれの回転軸心の間の間隔は、該第2リンクの左右の2つの前記関節のそれぞれの回転軸心の間隔よりも小さい間隔に設定されており、
前記第1リンク及び前記第2リンクの一方が前記車体に支持され、他方に前記後輪が支持されているという態様を採用し得る。
【0028】
また、後輪支持機構に関する第2の態様では、
該後輪支持機構は、
前記車体に支持された車体側機構と、
前記後輪を支持する車輪側機構と、
ガイドレールと該ガイドレールに沿って移動し得るように該ガイドレールに係合されたスライド部材とを含み、該スライド部材が該ガイドレールに沿って移動するに伴い、前記車輪側機構に支持された前記後輪が、前記車体側機構を支持する前記車体に対して該車体の左右方向に移動することと前記車体に対してロール方向に傾動することとを行い得るように該車輪側機構を該車体側機構に支持するように構成されたガイド機構と、
前記後輪を前記車体に対して該車体の左右方向に移動させることとロール方向に傾動させることとを行わせる駆動力を前記車体側機構と前記車輪側機構との間に発生するアクチュエータ(前記第2のアクチュエータ)とを備えるように構成され得る。
【0029】
この場合、前記ガイド機構は、前記後輪を前記車体の左側に向かって移動させるとき、前記車輪側機構が前記後輪と共に、前記車体側機構に対して前記車体の左側に向かって移動しつつ、該車体の左側への前記後輪の傾きが増加していくように傾動し、前記後輪を前記車体の右側に向かって移動させるとき、前記車輪側機構が前記後輪と共に前記車体側機構に対して前記車体の右側に向かって移動しつつ、該車体の右側への傾きが増加していくように傾動するように構成され得る。
【0030】
さらに、前記ガイド機構は、前記車体の左側及び右側のそれぞれへの前記後輪の傾きが増加するに伴い、前記後輪の中心部が前記車体側機構に対して相対的に前記車体の上下方向における上方又は下方に向かって変位するように構成され得る。
【0031】
さらに、前記ガイド機構は、前記ガイドレールとして、直進走行姿勢の当該移動体の前記車体を上方から見たときに、該車体の左右方向に延在する第1ガイドレールを含むと共に、前記スライド部材として、該第1ガイドレールに係合された第1スライド部材を含み、前記車体側機構及び前記車輪側機構のうちの一方の機構であるレール側機構に前記第1ガイドレールが取り付けられ、前記車体側機構及び前記車輪側機構のうちの他方の機構であるスライド側機構に前記第1スライド部材が取り付けられているという態様を採用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】第1実施形態の移動体の全体の概略構成を側面視で示す図。
図2】第1実施形態の移動体の後輪支持機構及び上下動調整装置を側面視で示す図。
図3図3A図2の矢印Y1の方向で見た後輪支持機構の背面図、図3B図2の矢印Y1の方向で見た後輪支持機構の作動説明図。
図4】第1実施形態の移動体の背面側から見た上下動調整装置の構成を示す図。
図5】第1実施形態の移動体の作動制御に関する構成を示すブロック図。
図6図5に示す制御装置の処理を示すフローチャート。
図7】上下動調整装置の作動制御を説明するためのグラフ。
図8】第2実施形態の移動体の後輪支持機構及び上下動調整装置を側面視で示す図。
図9】第3実施形態の移動体の全体の概略構成を側面視で示す図。
図10】第3実施形態の移動体の後輪支持機構及び上下動調整装置を側面視で示す図。
図11図10の矢印Y2の方向で見た後輪支持機構の背面図。
図12図12Aは第3実施形態の移動体の後輪支持機構の作動に関する説明図、図12Bは該後輪支持機構での後輪のロール方向の傾斜角と移動体のシートの高さとの関係を示すグラフ。
図13】第2実施形態の移動体の後輪支持機構及び上下動調整装置を側面視で示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を図1図7を参照して以下に説明する。図1を参照して、本実施形態の移動体1Aは鞍乗型の二輪車であり、フレーム構造の車体2と、車体2の前後方向に間隔を存して配置された各1輪の前輪3f及び後輪3rとを有する。
【0034】
ここで、以降の説明では、車体2の「前後方向」(又は「車長方向」)と「左右方向」(又は「車幅方向」)とは、それぞれ、直進走行姿勢(直進走行時の姿勢と同じ姿勢)の移動体1Aを上方から見た場合(該移動体1Aを水平面に投影して見た場合)に、前輪3f及び後輪3rの車軸に直交もしくはほぼ直交する方向と、前輪3f及び後輪3rの車軸と平行もしくはほぼ平行な方向とを意味する。
【0035】
この場合、車体2の「前後方向」(又は「車長方向」)と、「左右方向」(又は「車幅方向」)とは、空間的には、水平面に平行な方向に限らず、水平面に対して傾斜した方向であってもよい。なお、移動体1Aの直進走行姿勢は、より詳しくは、前輪3f及び後輪3rのそれぞれの車軸が互いに平行もしくはほぼ平行になると共に、前輪3f及び後輪3rが水平面に対して垂直もしくはほぼ垂直に起立した状態での移動体1Aの姿勢である。
【0036】
また、車体2の「上下方向」は、直進走行姿勢の移動体1Aにおいて鉛直方向に一致もしくはほぼ一致する方向を意味する。車体2の「前後方向」(又は車長方向)、「左右方向」(又は車幅方向)、「上下方向」の意味は後述の他の実施形態でも同様である。
【0037】
車体2は、その前端部にヘッドパイプ2aを有すると共に、該ヘッドパイプ2aから後方側に延設された上側車体フレーム2bと、該上側車体フレーム2bの下側で、該ヘッドパイプ2aから下方に凸になるような形態で後方側に延設された下側車体フレーム2cとを有し、上側車体フレーム2bに、運転者が着座するシート4が装着されている。なお、下側車体フレーム2cの後端部は、上側車体フレーム2bに固定されている。
【0038】
前輪3fは、車体2の前部に前輪支持機構10を介して支持されている。該前輪支持機構10としては、例えば通常の自動二輪車の前輪支持機構と同様の構造のものを採用し得る。図示例の前輪支持機構10は、例えばダンパー(図示省略)を含むフロントフォーク11を有し、該フロントフォーク11の下端部に前輪側アクスルユニット12を介して前輪3fが軸支されている。
【0039】
フロントフォーク11は、車体2のヘッドパイプ2aの軸心周りに前輪3fと共に回転し得るように車体2に組付けられている。そして、ヘッドパイプ2aの上側に組付けられたハンドル13を運転者が操作することで、フロントフォーク11が前輪3fと共にヘッドパイプ2aの軸心周りに回転するように、ハンドル13がフロントフォーク11に連結されている。これにより、ハンドル13の操作によって、前輪3fの操舵を行うことが可能となっている。
【0040】
後輪3rは、車体2の後部に後輪支持機構20を介して支持されている。後輪支持機構20は、後輪3rを車体2に対してピッチ方向(車体2の左右方向(車幅方向)の軸周りの方向)に揺動させ得る(ひいては、後輪3rを車体2に対して上下動させ得る)ように構成されていると共に、後輪3rを車体2に対してロール方向(車体2の前後方向(車長方向)の軸周りの方向)に傾動させることと車体2に対し左右方向に移動させることとを行い得るように構成されている。
【0041】
かかる後輪支持機構20の構成を以下に図2及び図3Aを参照して具体的に説明する。なお、図3Aは、図2に示す矢印Y1の方向で後輪支持機構20を見た図である。この場合、矢印Y1の方向は、後述する関節25a~25dの回転軸心の方向と平行な方向である。
【0042】
後輪支持機構20は、スイングアーム21と、多節リンク機構の一例としての四節リンク機構23とを備える。スイングアーム21は、車体2に対してピッチ方向に揺動し得るように、該スイングアーム21の前端部が車体2に(例えば下側車体フレーム2cの後部に)軸支されている。
【0043】
四節リンク機構23は、車体2の上下方向に間隔を存して該車体2の左右方向に延在するように配置される第1リンク24a及び第2リンク24bと、第1リンク24a及び第2リンク24bのそれぞれの左側端部を連結する第3リンク24cと、第1リンク24a及び第2リンク24bのそれぞれの右側端部を連結する第4リンク24dとの4つのリンク24a~24dを備える。
【0044】
この場合、第3リンク24cと第1リンク24aとの連結、第3リンク24cと第2リンク24bとの連結、第4リンク24dと第1リンク24aとの連結、及び第4リンク24dと第2リンク24bとの連結は、各々、車体2の前後方向の回転軸心を有する関節25a,25b,25c,25dを介してなされている。
【0045】
従って、第3リンク24cは、第1リンク24aに対して関節25aの回転軸心周りに相対回転し得るように連結されていると共に、第2リンク24bに対して関節25bの回転軸心周りに相対回転し得るように連結されている。また、第4リンク24dは、第1リンク24aに対して関節25cの回転軸心周りに相対回転し得るように連結されていると共に、第2リンク24bに対して関節25dの回転軸心周りに相対回転し得るように連結されている。
【0046】
なお、本実施形態では、関節25a~25dのそれぞれの回転軸心の方向は、より詳しくは、車体2の前後方向であると共に、直進走行姿勢の移動体1Aにおいて、例えば水平もしくはほぼ水平な方向である、ただし、直進走行姿勢の移動体1Aにおける関節25a~25dの回転軸心の方向は、水平面に対して前下がり、もしくは後ろ下がりに傾いた方向であってもよい。
【0047】
また、図3Aに示すように、本実施形態では、第1リンク24aの両端部の関節25a,25cのそれぞれの回転軸心の間の間隔Daと、第2リンク24bの両端部の関節25b,25dのそれぞれの回転軸心の間の間隔Dbとは、Da<Dbとなるように設定されている。そして、第1リンク24a及び第2リンク24bの一方、例えば、下側の第1リンク24aにスイングアーム21の後端部が固定されている。これにより、四節リンク機構23の全体が、スイングアーム21と共に車体2に対してピッチ方向に揺動し得るようになっている。
【0048】
また、第1リンク24a及び第2リンク24bのうちの上側の第2リンク24bから後方に延設された支持アーム26a,26bの後端部に後輪側アクスルユニット27を介して後輪3rが軸支されている。なお、図3Aに示す後輪支持機構20は、左右一対の支持アーム26a,26b備えているが、いずれか一方の支持アーム26a又は26bだけを備えてもよい。
【0049】
四節リンク機構23には、各関節25a~25dで連結されたリンク同士の相対回転を行わせるためのアクチュエータ28が組付けられている。本実施形態では、四つの関節25a~25dのうちの一つの関節、例えば関節25aに、第1リンク24aに対して第3リンク24cを該関節25aの回転軸心周りに回転駆動するアクチュエータ28が装着されている。該アクチュエータは、本発明における第2のアクチュエータに相当するものである。
【0050】
該アクチュエータ28は、例えば減速機付きの電動モータにより構成される。この場合、アクチュエータ28のハウジンングが第1リンク24a及び第3リンク24cの一方(図2では例えば第1リンク24a)に固定され、アクチュエータ28の出力軸(回転駆動軸)が第1リンク24a及び第3リンク24cの他方(図2では例えば第3リンク24c)に固定される。
【0051】
これにより、アクチュエータ28を作動させることで、第3リンク24cが第1リンク24aに対して関節25aの回転軸心周りに回転駆動され、ひいては、各関節25a~25dで連結されたリンク同士の相対回転が互いに連動して行われる(図3Bを参照)。
【0052】
なお、四節リンク機構23を駆動するアクチュエータ28は、電動モータに限らず、例えば油圧アクチュエータであってもよい。また、回転型のアクチュエータ28の代わりに、直動型のアクチュエータを使用することも可能である。
【0053】
本実施形態の後輪支持機構20は、以上の如くスイングアーム21、四節リンク機構23、アクチュエータ28、及び支持アーム26a,26bを備えている。この後輪支持機構20の構成により、車体2に対するスイングアーム21のピッチ方向の揺動によって、後輪3rは車体2に対してピッチ方向に揺動可能である。
【0054】
また、アクチュエータ28を作動させることで、四節リンク機構23の各関節25a~25dで連結されたリンク同士の相対回転が互いに連動して行われる。これにより、図3Bに例示する如く、後輪3rが車体2に対してロール方向に傾動しつつ、車体2に対して横方向(左右方向)に移動する。
【0055】
この場合、前記したように、四節リンク機構23の関節25a,25cのそれぞれの回転軸心の間の間隔Daと、関節25b,25dのそれぞれの回転軸心の間の間隔DbとがDa<Dbとなるように設定されていると共に、後輪3rが第2リンク24bから延設された支持アーム26a,26bの後端部に後輪側アクスルユニット27を介して軸支されている。
【0056】
このため、後輪3rを車体2の右側に傾けるようにアクチュエータ28を作動させたとき、図3Bに例示するように、後輪3rが車体2に対して右側に(移動体1Aの後方から見て時計回り方向に)傾きつつ、車体2に対して右側に移動する。また、後輪3rを車体2の左側に傾けるようにアクチュエータ28を作動させたときには、後輪3rは、上記と逆に、車体2に対して左側に(移動体1Aの後方から見て反時計回り方向に)傾きつつ、車体2に対して左側に移動する。
【0057】
補足すると、車体2に対する後輪3rのロール方向の傾動は、単一の傾動中心軸線の周りに行われるものではないものの、上記の如く四節リンク機構23を有する本実施形態の移動体1Aでは、直進走行姿勢の移動体1Aにおける後輪3rの車輪幅中心面(後輪3rの中心を通って該後輪3rの車軸に直交する平面)と、後輪3rが車体2に対してロール方向に傾いた状態での該後輪3rの車輪幅中心面との交線(疑似的な傾動中心軸線)が、後輪3rの接地面の下側を通って車体2の前後方向に延在する。
【0058】
また、本実施形態では、後輪3rを後輪側アクスルユニット27を介して軸支する支持アーム26a,26bが第1リンク24a及び第2リンク24bのうちの上側の第2リンク24bから延設されているため、車体2に対するスイングアーム21の揺動量が一定である場合、後輪3rのロール方向への傾動に伴い、後輪3rの接地面(下端面)が車体2に対して相対的に上下動する。
【0059】
より詳しくは、車体2に対する後輪3rのロール方向の傾きが大きくなるに伴い、後輪3rの接地面(下端面)が車体2に対して相対的に下方に移動する。このため、図3A及び図3Bを比較してわかるように、車体2に対するスイングアーム21の揺動量が一定である場合、後輪3rの接地面からの車体2の高さ(ひいては、シート4の高さ)は、車体2に対する後輪3rのロール方向の傾きが大きくなるに伴い、高くなる。
【0060】
そこで、本実施形態の移動体1Aには、さらに車体2に対する後輪3rの上下動を調整(制御)するための上下動調整装置30が搭載されている。この上下動調整装置30は、車体2に対する後輪支持機構20のスイングアーム21の揺動量を制御することで、車体2に対する後輪3rの上下動を調整し得るように構成されている。
【0061】
かかる上下動調整装置30の具体的な構成を、以下に図2及び図4を参照して説明する。なお、図4は、移動体1Aの背面側から見た上下動調整装置30を、その一部を破断して示している。上下動調整装置30は、伸縮可能な伸縮機構としてのシリンダ31と、シリンダ31に短縮方向の荷重が付与された場合に、伸長方向の弾性力を発生するバネ32と、シリンダ31を伸縮させる駆動力をボールネジ機構33を介して発生するアクチュエータ34とを備える。
【0062】
シリンダ31は、アウターチューブ31aと、該アウターチューブ31aに同軸心に摺動自在に挿入されると共に該アウターチューブ31aの一端側から突出されたインナーチューブ31bとを備え、スイングアーム21の車体2に対する連結部(揺動支点)よりも後方側で概略上下方向に延在し、且つ、インナーチューブ31bがアウターチューブ31aの下方側に突出するように配置されている。
【0063】
そして、アウターチューブ31aの上端部(インナーチューブ31bが突出する側と反対側の端部)に、支持基板35がアウターチューブ31aの径方向外方に張り出すように固定されている。さらに、支持基板35の上側で該支持基板35に固定された取付部材36が、車体2に(例えば下側車体フレーム2cの後部に)ピッチ方向に揺動し得るように軸支されている。これにより、アウターチューブ31aが、車体2にピッチ方向に揺動し得るように連結されている。
【0064】
また、インナーチューブ31bの突出部分の先端部(下端部)に固定された取付部材37が、スイングアーム21の前端部と後端部との間の中間部に設けられた軸受け部21aに、ピッチ方向に揺動し得るように軸支されている。これにより、インナーチューブ31bが、スイングアーム21にピッチ方向に揺動し得るように連結されている。
【0065】
インナーチューブ31bの下端部寄りの部分には、アウターチューブ31aの上端部側の支持基板35と平行に対面する支持基板38が固定されている。そして、これらの支持基板35,38の間には、コイルスプリングから成るバネ32が、シリンダ31の周囲で該シリンダ31と同軸心に配置されている。該バネ32は、移動体1Aの前輪3f及び後輪3rが直進姿勢状態で接地した状態で、車体2の自重により圧縮されて、シリンダ31の伸長方向の弾性力を発生する。
【0066】
アウターチューブ31aには、ボールネジ機構33のネジ部33aとこれに螺合されたナット部33bとが挿入されている。ナット部33bは、アウターチューブ31a内のインナーチューブ31bの端部(上端部)に固定されている。ネジ部33aは、支持基板35の上方側から該支持基板35を貫通してアウターチューブ31a内に同軸心に挿入され、さらに、ナット部33bを貫通してインナーチューブ31b内に挿入されている。この場合、ネジ部33aは、支持基板35に軸受け部39を介して回転可能に支持されている。
【0067】
アクチュエータ34は、本発明における第1のアクチュエータに相当するものである。このアクチュエータ34は、例えば減速機付きの電動モータにより構成される。該アクチュエータ34は、そのハウジングがアウターチューブ31aの側方で支持基板35に固定されている。また、アクチュエータ34の出力軸(回転駆動軸)34aが支持基板35を貫通して、該支持基板35の上方側に突出されている。そして、出力軸34aの回転に連動してボールネジ機構33のネジ部33aが回転するように、出力軸34aとネジ部33aとが支持基板35の上側で動力伝達機構40を介して接続されている。
【0068】
該動力伝達機構40は、例えば、アクチュエータ34の出力軸34aの先端部(上端部)に固定されたプーリ40aと、ボールネジ機構33のネジ部33aの上端部に固定されたプーリ40bと、これらのプーリ40a,40bに巻き掛けられたタイミングベルト40cとにより構成される。ただし、動力伝達機構40は、プーリ40a,40b及びタイミングベルト40cを有する機構に限らず、他の構造の動力伝達機構(例えば、ギヤやスプロケット等の動力伝達要素を有する機構)であってもよい。また、アクチュエータ34の出力軸34aがボールネジ機構33のネジ部33aに同軸心に連結されていてもよい。
【0069】
本実施形態の上下動調整装置30は、上記の如く構成されているので、車体2に対するスイングアーム21の揺動時に、シリンダ31が揺動しながら伸縮するようになっている。また、アクチュエータ34によりボールネジ機構33のネジ部33aを回転駆動することで、シリンダ31のインナーチューブ31bがボールネジ機構33のナット部33bと共にアウターチューブ31aの軸心方向に移動し、ひいては、アウターチューブ31aからのインナーチューブ31bの突出部分を伸縮させることが可能となっている。これにより、車体2に対するスイングアーム21の揺動量をアクチュエータ34を介して制御することが可能となっている。
【0070】
補足すると、上下動調整装置30のシリンダ31は、車体2に対するスイングアーム21の揺動を制動するダンパーとしての機能を含むように構成されていてもよい。あるいは、車体2に対するスイングアーム21の揺動を制動するダンパーは、上下動調整装置30と別体構成で、移動体1Aに備えられていてもよい。また、本実施形態では、シリンダ31のアウターチューブ31aを車体2に連結し、インナーチューブ31bをスイングアーム21に連結したが、これと逆にアウターチューブ31aをスイングアーム21に連結し、インナーチューブ31bを車体2に連結してもよい。
【0071】
次に、図5を参照して、移動体1Aには、さらに、前記アクチュエータ28,34の作動制御を含めて移動体1Aの作動制御を行い得る制御装置50が搭載されていると共に、その制御のためのセンサとして、例えば、車体2のロール方向の傾斜角を検出するための傾斜センサ51と、アクチュエータ28(以降、姿勢制御用アクチュエータ28)の出力軸(図示省略)の回転角を検出するための回転角センサ52と、アクチュエータ34(以降、上下動調整用アクチュエータ34という)の出力軸34aの回転角を検出するための回転角センサ53とが搭載されている。
【0072】
なお、図5において、姿勢制御用アクチュエータに関する括弧内の参照符号100は、後述の第3実施形態又は第4実施形態における姿勢制御用アクチュエータの参照符号であり、上下動調整用アクチュエータに関する括弧内の参照符号61,111は、それぞれ、後述の第2実施形態及び第4実施形態のそれぞれにおける上下動調整用アクチュエータの参照符号である。
【0073】
傾斜センサ51は、例えば、車体2に取り付けられた慣性センサ(加速度センサおよび角速度センサ)を含み、該慣性センサで検出される加速度及び角速度からストラップダウン方式の演算処理等により車体2のロール方向の傾斜角を計測し得るように構成されている。
【0074】
回転角センサ52,53は、例えば、姿勢制御用アクチュエータ28及び上下動調整用アクチュエータ34のそれぞれに組付けられたロータリーエンコーダ、レゾルバ、ポテンショメータ等により構成される。
【0075】
制御装置50は、例えば、マイクロコンピュータ等のプロセッサ、メモリ、インターフェース回路等を含む1つ以上の電子回路ユニットにより構成され、上記傾斜センサ51、回転角センサ52,53を含めて移動体1Aに搭載された複数のセンサの検出信号が入力される。
【0076】
そして、制御装置50は、実装されたハードウェア構成及びプログラム(ソフトウェア構成)により実現される機能として、車体2に対する後輪3rの傾動及び移動を姿勢制御用アクチュエータ28を介して制御することで、車体2のロール方向の姿勢(傾斜角)を制御する機能と、車体2に対するスイングアーム21の揺動を上下動調整用アクチュエータ34を介して制御することで、車体2に対する後輪3rの上下動を制御する機能とを含む。
【0077】
なお、図示は省略するが、移動体1Aには、走行用の動力源としての走行用アクチュエータも搭載されている。該走行用アクチュエータは、例えば、前輪側アクスルユニット12又は後輪側アクスルユニット27に前輪3f又は後輪3rを回転駆動し得るように装着される電動モータにより構成され得る。あるいは、例えば、走行用アクチュエータとして電動モータ、油圧モータ、もしくは内燃機関等を車体2に搭載し、該走行用アクチュエータから適宜の動力伝達機構を介して前輪3f又は後輪3rに回転駆動力を伝達し得るようにしてもよい。
【0078】
次に、本実施形態の移動体1Aの作動を説明する。本実施形態の移動体1Aでは、移動体1Aの走行停止状態、あるいは、低速走行時(運転者がハンドル13を把持しながら移動体1Aの側方で歩行することで移動体1Aを移動させる場合を含む)に、制御装置50は、車体2のロール方向の傾斜を抑制するように、姿勢制御用アクチュエータ28の作動制御を行うと共に、後輪3rの接地面からの車体2の高さが、後輪3rの傾動に応じて所定の目標パターンで変化するように上下動調整用アクチュエータ34の作動制御を行う。
【0079】
具体的には、制御装置50は、傾斜センサ51で検出される車体2のロール方向の傾斜角が所定の目標傾斜角から所定量以上、変化した状態で、図6のフローチャートに示す処理を実行する。なお、車体2のロール方向の目標傾斜角(以降、車体目標傾斜角という)としては、例えば、移動体1Aの直進走行姿勢での車体2の鉛直方向からの傾斜角(=0deg)を採用し得る。ただし、例えば、移動体1Aに運転者が搭乗している状態であるのか、あるいは、運転者がハンドル13を把持しながら移動体1Aの側方で歩行することで、該移動体1Aを移動させている状態であるのか等の状況に応じて、車体目標傾斜角を移動体1Aの直進走行姿勢での傾斜角からずらした傾斜角に設定してもよい。
【0080】
図6のSTEP1では、制御装置50は、車体2に対する後輪3rのロール方向の目標傾斜角(以降、後輪目標傾斜角という)を決定する。該後輪目標傾斜角は、例えば、移動体1Aの車体2のロール方向の傾斜角の検出値、あるいは、該傾斜角の検出値と車体目標傾斜角との偏差から、あらかじめ作成されたマップもしくは演算式により決定される。
【0081】
この場合、車体2が車体目標傾斜角の姿勢から左側に傾いた場合(移動体1Aの後方から見て反時計回り方向に車体2が傾いた場合)には、目標後輪傾斜角は、後輪3rを車体2に対して左側に傾けるように決定される。また、該目標後輪傾斜角は、基本的には、車体目標傾斜角からの車体2の左側への傾き量が大きいほど、後輪3rの、車体2に対する左側への傾き量が大きくなるように決定される。
【0082】
また、車体2が車体目標傾斜角の姿勢から右側に傾いた場合(移動体1Aの後方から見て時計回り方向に車体2が傾いた場合)には、上記の場合(左側に傾いた場合)と逆の態様で目標後輪傾斜角が決定される。
【0083】
なお、STEP1では、後輪目標傾斜角の代わりに、車体2に対する後輪3rの左右方向への目標移動量(以降、後輪目標移動量という)を決定してもよい。この場合には、車体2が車体目標傾斜角の姿勢から左側に傾いた場合には、目標後輪移動量は、後輪3rを車体2に対して左側に移動させるように決定される。また、該目標後輪移動量は、基本的には、車体目標傾斜角からの車体2の左側への傾き量が大きいほど、後輪3rの、車体2に対する左側への移動量が大きくなるように決定される。また、車体2が車体目標傾斜角の姿勢から右側に傾いた場合には、左側に傾いた場合と逆の態様で目標後輪移動量が決定される。
【0084】
次いでSTEP2において、制御装置50は、車体2の目標上下動量を決定する。該目標上下動量は、車体2の代表点(例えばシート4の装着部)の、基準の高さ位置からの上下方向の変位量の目標値である。この場合、車体2の代表的の基準の高さ位置は、車体2に対して後輪3rが傾斜していない状態(車体2の対する後輪3rの傾斜角がゼロである状態)での該代表点の高さ位置である。
【0085】
そして、目標上下動量は、後輪目標傾斜角に応じて、あらかじめ定められたパターンで決定される。例えば、図7にグラフa1又はa2又はa3又はa4で示すパターンで車体2の目標上下動量が後輪目標傾斜角に応じて決定され得る。なお、図7では横軸の後輪の傾斜角は、後輪3rが車体2に対して右側に傾いた場合の傾斜角を正の傾斜角、後輪3rが車体2に対して左側に傾いた場合の傾斜角を負の傾斜角と定義している。また、縦軸の車体の目標上下動量は、後輪3rが車体2に対して傾斜していない状態からの車体2の代表点の上昇量の目標値を示している。
【0086】
グラフa1で示すパターンは、車体2の目標上下動量を、車体2に対する後輪3rの傾斜角が変化しても一定に維持するパターン(車体2の代表点の高さ位置が変化しないようにするパターン)である。また、グラフa2で示すパターンは、車体2に対する後輪3rの傾斜角(絶対値)が大きくなるに伴い、車体2の目標上下動量を増加させると共に、後輪3rの傾斜角(絶対値)の単位増加量当たりの車体2の目標上下動量の変化量(増加量)を大きくするパターンである。
【0087】
また、グラフa3で示すパターンは、車体2に対する後輪3rの傾斜角(絶対値)が大きくなるに伴い、車体2の目標上下動量をリニアに(線形態様で)増加させるパターンである。また、グラフa4で示すパターンは、車体2に対する後輪3rの傾斜角(絶対値)が大きくなるに伴い、車体2の目標上下動量を増加させると共に、後輪3rの傾斜角(絶対値)がある程度大きくなると、後輪3rの傾斜角(絶対値)の単位増加量当たりの車体2の目標上下動量の変化量(増加量)をゼロもしくはほぼゼロに飽和させるパターンである。
【0088】
なお、グラフa2~a4に係る車体2の目標上下動量(上昇量)の最大値hmaxは、車体2に対するスイングアーム21の揺動量を、移動体1Aの直進走行姿勢での揺動量に維持した場合における、後輪3rの傾動に応じた車体2の代表点の最大の上昇量(直進走行姿勢での高さ位置からの上昇量)よりも小さい値である。補足すると、目標上下動量を、後輪目標移動量に応じて決定してもよい。この場合、後輪目標移動量に対する目標上下動量の変化パターンは、後輪目標傾斜角に対する変化パターンと同様の態様で設定し得る。
【0089】
図6に戻って、制御装置50は、次にSTEP3、4のそれぞれにおいて、姿勢制御用アクチュエータ28の出力軸の回転角指令と、上下動調整用アクチュエータ34の出力軸34aの回転角指令とを各々決定する。
【0090】
この場合、STEP3では、例えば、STEP1で決定した後輪目標傾斜角(又は後輪目標移動量)から、あらかじめ作成されたマップもしくは演算式により、後輪目標傾斜角(又は後輪目標移動量)を実現するための姿勢制御用アクチュエータ28の出力軸の回転角指令が決定される。
【0091】
また、STEP4では、例えば、STEP1で決定した後輪目標傾斜角(又は後輪目標移動量)と、STEP2で決定した車体2の目標上下動量とから、あらかじめ作成されたマップもしくは演算式により、車体2の目標上下動量を実現するための、スイングアーム21の目標揺動量(車体2に対する目標揺動量)が決定される。そして、スイングアーム21の目標揺動量から、あらかじめ作成されたマップもしくは演算式により、上下動調整用アクチュエータ34の出力軸34aの回転角指令が決定される。
決定される。
【0092】
次いで、STEP5において、制御装置50は、姿勢制御用アクチュエータ28及び上下動調整用アクチュエータ34をそれぞれの回転角指令に応じて制御する。この場合、制御装置50は、回転角センサ52を介して検出される姿勢制御用アクチュエータ28の出力軸の回転角を、該出力軸の回転角指令により規定される回転角に一致させるように姿勢制御用アクチュエータ28の作動制御を行う。
【0093】
また、制御装置50は、回転角センサ53を介して検出される上下動調整用アクチュエータ34の出力軸34aの回転角を、該出力軸34aの回転角指令により規定される回転角に一致させるように上下動調整用アクチュエータ34の作動制御を行う。
【0094】
以上の如く、姿勢制御用アクチュエータ28の作動制御を行うことで、車体2が車体目標傾斜角よりも左側に傾いた場合には、後輪3rを車体2に対して左側に傾けるように姿勢制御用アクチュエータ28が動作する。このとき、後輪3rが車体2に対して左側に傾きつつ、車体2に対して左側に移動することで、車体2を車体目標傾斜角の姿勢に戻す方向のモーメントが応答性よく発生する。これにより、車体2がさらに左側に傾くのが速やかに抑制される。
【0095】
また、車体2が車体目標傾斜角よりも右側に傾いた場合には、後輪3rを車体2に対して右側に傾けるように姿勢制御用アクチュエータ28が動作する。このとき、後輪3rが車体2に対して右側に傾きつつ、車体2に対して右側に移動することで、車体2を車体目標傾斜角の姿勢に戻す方向のモーメントが応答性よく発生する。これにより、車体2がさらに右側に傾くのが速やかに抑制される。
【0096】
さらに、後輪3rの傾動が上記のよう制御されることに連動して、上下動調整用アクチュエータ34の作動制御が前記した如く行われる。このため、後輪3rが車体2に対して傾動しても、車体2の代表点の高さ(例えばシート4の装着部の高さ)が変化しないようにすること(前記グラフa1のパターンで目標上下動量を決定する場合)や、あるいは、車体2の代表点の高さの変動量を十分に小さい範囲に留めること(前記グラフa2~a4のパターンで目標上下動量を決定する場合)を実現できる。このため、車体2の高さの変動に起因する違和感を運転者に及ぼすのを防止もしくは抑制することができる。
【0097】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図8を参照して説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態と同一の構成要素については第1実施形態と同一の参照符号を用いると共に、第1実施形態と同一の事項については、詳細な説明を省略する。
【0098】
本実施形態の移動体1Bは、車体2に対する後輪3rの上下動を調整(制御)するための上下動調整装置として、第1実施形態の上下動調整装置30と異なる構造の上下動調整装置60を備えている。この上下動調整装置60は、第1実施形態と同じ構成の後輪支持機構20のスイングアーム21を車体2に対して揺動させる駆動力(回転駆動力)を発生するアクチュエータ61と、該アクチュエータ61の出力軸61aからスイングアーム21に回転駆動力を伝達する動力伝達機構としてのリンク機構62とを備える。
【0099】
アクチュエータ61は、本発明における第1のアクチュエータに相当するものである。このアクチュエータ61(以降、上下動調整用アクチュエータ61という)は、例えば減速機付きの電動モータにより構成され、そのハウジングが車体2の適宜の部位、例えば、下側車体フレーム2cの後部に固定されている。この場合、上下動調整用アクチュエータ61の出力軸(回転駆動軸)61aは、車体2に対するスイングアーム21の揺動軸と平行な方向に向けられている。なお、アクチュエータ61は、電動モータに限らず、例えば油圧アクチュエータ(油圧モータ)により構成されていてもよい。
【0100】
リンク機構62は、例えば第1リンク62a、第2リンク62b及び第3リンク62cの3つのリンクにより構成されている。この場合、第1リンク62aは、その一端部が上下動調整用アクチュエータ61の出力軸61aに固定されている。そして、第1リンク62aの他端部に、第2リンク62bの一端部が回転可能に軸支され、第2リンク62bの他端部に、第3リンク62cの一端部が回転可能に軸支されている。さらに、第3リンク62cの他端部が、スイングアーム21の前端部(車体2への連結部)に固定されている。
【0101】
リンク機構62が上記の如く構成されているので、上下動調整用アクチュエータ61の出力軸61aからリンク機構62を介してスイングアーム21に回転駆動力が伝達される。これにより、上下動調整用アクチュエータ61の回転駆動力によりスイングアーム21を車体2に対して揺動させ、ひいては、車体2に対する後輪3rの上下動を調整することが可能になっている。
【0102】
また、本実施形態の移動体1Bには、車体2に対するスイングアーム21の揺動を制動するためのシリンダ型のダンパー65と、車体2とスイングアーム21と間に弾性力を発生するバネ66とが搭載されている。
【0103】
ダンパー65は、第1実施形態の上下動調整装置30のシリンダ31と同様に、一端部(例えばアウターチューブ65a側の端部)が車体2にピッチ方向に揺動し得るように軸支され、他端部(例えばインナーューブ65b側の端部)がスイングアーム21の中間部の軸受け部21aにピッチ方向に揺動し得るように軸支されている。
【0104】
また、バネ66は、コイルスプリングにより構成され、ダンパー65に圧縮方向の荷重が作用した場合に、ダンパー65の伸長方向の弾性力を発生するように、ダンパー65の周囲に該ダンパー65と同軸心に配置されている。この場合、バネ66とダンパー65との係合構造は、例えば、第1実施形態の上下動調整装置30のバネ32とシリンダ31との係合構造と同じでよい。
【0105】
本実施形態の移動体1Bの構成は、以上説明した事項以外は、第1実施形態と同じである。そして、本実施形態の移動体1Bの姿勢制御用アクチュエータ28の作動制御と、上下動調整用アクチュエータ61の作動制御とは、第1実施形態の制御処理(図7のフローチャートに示した制御処理)と同様の制御処理により行われる。
【0106】
これにより、第1実施形態と同様に、車体2が車体目標傾斜角よりも左側又は右側に傾いた場合に、その傾きを解消する方向のモーメントを発生させるように、後輪3rのロール方向の傾動と左右方向の移動とを行うことができる。
【0107】
さらに、第1実施形態と同様に、後輪3rが車体2に対して傾動しても、車体2の代表点の高さ(例えばシート4の装着部の高さ)が変化しないようにすることや、あるいは、車体2の代表点の高さの変動量を十分に小さい範囲に留めることを実現できる。
【0108】
[第3実施形態]
次に、本発明に第3実施形態を図9図12Bを参照して説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態と同一の構成要素については第1実施形態と同一の参照符号を用いると共に、第1実施形態と同一の事項については、詳細な説明を省略する。
【0109】
本実施形態の移動体1Cは、第1実施形態の後輪支持機構20と異なる構造の後輪支持機構70を備えている。この後輪支持機構70の構成を以下に図10及び図11を参照して具体的に説明する。ここで、図11は、図10に示す矢印Y2の方向で後輪支持機構70を見た図である。この場合、矢印Y2の方向は、後述するベースプレート72の後表面に垂直な方向である。
【0110】
後輪支持機構70は、車体2に対してピッチ方向に揺動し得るように該車体2に支持された車体側機構71と、車体側機構71に対して車幅方向に移動しつつ、ロール方向に傾動し得るように該車体側機構71にガイド機構80を介して支持された車輪側機構90とを備え、車輪側機構90に後輪3rが支持されている。
【0111】
車体側機構71は、概略板状のベースプレート72を有し、該ベースプレート72がその厚み方向を車体2の前後方向に向けて車体2の後部寄りの位置に配置されている。そして、ベースプレート72の前表面に突設された軸支部72aが、車体2に対してピッチ方向に揺動し得るように車体2に(例えば下側車体フレーム2cに)軸支されている。これにより、ベースプレート72は、車体2に対してピッチ方向に揺動し得るように車体2に支持されている。
【0112】
ガイド機構80は、車体側機構71に対する車輪側機構90の車幅方向の移動とロール方向の傾動とを案内するためにベースプレート72に固定されたガイドレール81と、該ガイドレール81に沿ってスライドし得るように該ガイドレール81に各々係合された左右一対のガイドブロック82L,82Rとを備え、該ガイドブロック82L,82Rに車輪側機構90の構成要素としての概略板状の可動プレート91が固定されている。
【0113】
ガイドレール81は、図11に示すように、上方に凸となるように山型形状に湾曲形成されており、ベースプレート72の後表面の上部に固定されている。本実施形態では、ガイドレール81は、その曲率半径が、左右の両端部間の中央部(直進走行姿勢の移動体1Cにおいて、車幅中心面上に位置する部分)から左右の各端部に近づくに伴い、小さくなるように形成されている。上記車幅中心面は、直進走行姿勢の移動体1Cの前輪3f及び後輪3rのそれぞれの中心を通って、前輪3f及び後輪3rのそれぞれの車軸に直交する平面を意味する。
【0114】
なお、ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線の方向は、ベースプレート72の後表面に垂直な方向であり、直進走行姿勢の移動体1Cを上方から見た場合、車体2の前後方向である。この場合、該中心軸線の空間的な方向は、移動体1Cの直進走行委姿勢において、水平面に平行な方向でもよいが、水平面に対して前下がり、もしくは後ろ下がりに傾いた方向であってもよい。
【0115】
また、ガイドレール81は、ベースプレート72の後表面に敷設されたものに限らず、例えば該後表面と間隔を存して配設されたロッド状のものであってもよい。また、ガイドレール81は、連続的に延在するものに限らず、車幅中心面の左側の部分と右側の部分とが分離されていてもよい。
【0116】
ガイドブロック82L,82Rのうち、左側のガイドブロック82Lが、車幅中心面よりも左側でガイドレール81に係合され、右型のガイドブロック82Rが車幅中心面よりも右側でガイドレール81に係合されている。
【0117】
また、車輪側機構90の可動プレート91は、ベースプレート72の後表面と間隔を存して該後表面に対面するように配置され、該可動プレート91とベースプレート72との間にガイドブロック82L,82Rが配置されている。そして、ガイドブロック82L,82Rは、それぞれ、車体2の前後方向の回転軸心周り(詳しくは、ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線と同方向の回転軸心周り)に可動プレート91に対して回転し得るように該可動プレート91の上部に軸支されている。
【0118】
従って、ガイドブロック82L,82Rは、それらの間の間隔が一定に保たれるように可動プレート91に取り付けられている。そして、可動プレート91は、ガイドブロック82L,82Rがガイドレール81に沿ってスライドすることで、ベースプレート72に対して(ひいては、車体2に対して)、ロール方向に傾動しつつ、車幅方向に移動し得るようになっている。
【0119】
なお、ガイドレール81と各ガイドブロック82L,82Rとの係合構造は、様々な態様を採用し得る。該係合構造としては、例えば、凹凸の嵌合構造、ロッド状のガイドレール81に各ガイドブロック82L,82Rを摺動自在に外挿した構造、各ガイドブロック82L,82Rをガイドレール81にボールもしくはローラを介して係合させる構造等を採用し得る。
【0120】
ガイド機構80は、さらに、ベースプレート72に対する可動プレート91のピッチ方向の揺動を制限(抑制)する機構として、可動プレート91の下部をベースプレート72に連結するリンク機構85を備える。
【0121】
該リンク機構85は、例えば2つのリンク85a,85bを備える。そして、リンク85aの一端部が、可動プレート91に対して、前後方向(ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線と同方向)の回転軸心周りに回転し得るように可動プレート91に軸支されいている。また、リンク85bの一端部が、ベースプレート72に対して前後方向((ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線と同方向)の回転軸心周りに回転し得るようにベースプレート72に軸支されている。さらに、リンク85a,85bの他端部同士が、前後方向((ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線と同方向)の回転軸心周りに互いに相対回転し得るように連結されている。
【0122】
これにより、可動プレート91は、ガイドブロック82L,82Rと共にガイドレール81に沿って移動するとき、ベースプレート72に対してピッチ方向に揺動するのが制限(抑制)されるようになっている。ただし、ガイドブロック82L,82Rがガイドレール81に沿ってスライドするのを円滑に行わせるために、リンク機構85は、ベースプレート72に対する可動プレート91のピッチ方向の多少の揺動を許容するように構成され得る。例えば、リンク機構85は、ある程度のガタを有するように構成され得る。
【0123】
なお、各ガイドブロック82L,82Rとガイドレール81との係合構造が、ガイドレール81に対する各ガイドブロック82L,82Rの円滑なスライドを可能としつつ、ベースプレート72に対する可動プレート91のピッチ方向の揺動を十分に抑制し得るように構成されている場合には、リンク機構85を省略してもよい。例えば各ガイドブロック82L,82Rが、ロッド状のガイドレール81にその横断面の周囲の三方向から挟み込むようにして当接された三つのローラを介して該ガイドレール81に係合されていてもよい。また、ガイドレール81に係合させるガイドブロックは、2つに限らず、3つ以上であってもよい。
【0124】
車輪側機構90は、前記可動プレート91の他、さらに、該可動プレート91の後表面(ベースプレート72と反対側の表面)から後方に延設された支持アーム92を備えており、この支持アーム92の後端部に後輪側アクスルユニット27を介して後輪3rが軸支されている。なお、図11に示す車輪側機構90は、後輪3rの片側にだけ支持アーム92を備えているが、後輪3rの両側のそれぞれに支持アームを備えていてもよい。
【0125】
後輪支持機構70は、さらに、車体側機構71に対して車輪側機構90をガイドレール81に沿って移動させるための駆動力を発生するアクチュエータ100(図11に示す)を備えている。なお、図9及び図10では、アクチュエータ100の図示を省略している。
【0126】
アクチュエータ100は、本発明における第2のアクチュエータに相当するものである。このアクチュエータ100は、例えば減速機付きの電動モータにより構成され、そのハウジングがベースプレート72及び可動プレート91のうちの一方、例えばベースプレート72の側部に固定されている。この場合、アクチュエータ100の出力軸(回転駆動軸)は、前後方向(ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線と同方向)に向けられている。そして、アクチュエータ100の出力軸が動力伝達機構の一例としてのリンク機構101を介して可動プレート91に連結されている。
【0127】
該リンク機構101は、2つのリンク101a,101bを有し、リンク101aの一端部がアクチュエータ100の出力軸と一体に回転するように該出力軸に固定され、リンク101bの一端部が可動プレート91に対して前後方向(ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線と同方向)回転軸心周りに回転し得るように該可動プレート91の側部に軸支されている。そして、リンク101a,101bの他端部同士が、前後方向(ガイドレール81の各部の曲率半径の中心軸線と同方向)の回転軸心周りに互いに相対回転し得るように連結されている。
【0128】
これにより、アクチュエータ100(以降、姿勢制御用アクチュエータ100という)の出力軸を回転駆動することで、車輪側機構90がガイドレール81に沿って移動するように駆動される。ひいては、後輪3rが車体2に対してロール方向に傾動しつつ、車幅方向(車体2の左右方向)に移動する。なお、姿勢制御用アクチュエータ100は、電動モータに限らず、例えば油圧アクチュエータであってもよい。また、姿勢制御用アクチュエータ100として、回転型のアクチュエータの代わりに、直動型のアクチュエータを使用することも可能である。
【0129】
本実施形態の後輪支持機構70は、以上の如く、車体側機構71、ガイド機構80、車輪側機構90、及び姿勢制御用アクチュエータ100を備えている。この後輪支持機構70の構成により、車体2に対する車体側機構71のピッチ方向の揺動によって、後輪3rは車体2に対してピッチ方向に揺動可能である。
【0130】
また、姿勢制御用アクチュエータ100を作動させることで、車輪側機構90が、車体2に対して、ガイド機構80のガイドレール81に沿って移動する。この場合、ガイドレール81は前記したように湾曲形成されているので、車輪側機構90は、車体2に対してロール方向傾動しつつガイドレール81に沿って移動する。これにより、第1実施形態の移動体1Aと同様の態様で、後輪3rが車体2に対してロール方向に傾動しつつ、車幅方向(左右方向)に移動する。
【0131】
さらに、この場合、ガイドレール81が前記したように湾曲形成されているので、車輪側機構90の可動プレート91と後輪3rとが、車体2に対してロール方向に傾動しつつ車幅方向(左右方向)に移動するとき、車体2に対する車体側機構71のベースプレート72のピッチ方向の揺動量が一定に保たれる場合、後輪3rのロール方向の傾斜角(車体2の上下方向に対する傾斜角)の絶対値が大きくなるに伴い、後輪3rの中心部が、ベースプレート72に対して(ひいては車体2に対して)相対的に下方に移動する。
【0132】
具体的には、図12Aにおいて、実線の曲線L1は、ガイドレール81の延在方向を示すライン、点P1,P2はガイドレール81に対するガイドブロック82L,82Rのそれぞれの係合位置を示す点、点P3は、ベースプレート72を背面側から見た場合の後輪3rの中心部の位置を示す点である。
【0133】
また、図12Aにおいて、実線の三角形は、可動プレート91及び後輪3rが車体2に対してロール方向に傾いていない状態(非傾斜状態)での点P1,P2,P3を結ぶ三角形、破線の三角形は、可動プレート91及び後輪3rが、非傾斜状態から、ある角度だけ車体2の右側に傾いた状態(第1傾斜状態)での点P1,P2,P3を結ぶ三角形、二点鎖線の三角形は、可動プレート91及び後輪3rが、上記第1傾斜状態よりもさらに車体2の右側に傾いた状態(第2傾斜状態)での点P1,P2,P3を結ぶ三角形を示している。また、一点鎖線Ca,Cb,Ccは、それぞれ、上記非傾斜状態、第1傾斜状態、第2傾斜状態での後輪3rの中心線(後輪3rの車軸に直交する方向の中心線)を示している。なお、ここでは、車体2に対するベースプレート72のピッチ方向の揺動量は一定に保たれるものとしている。
【0134】
図12Aに示す如く、後輪3rの中心点P3は、車体2に対する後輪3rの傾きが大きくなるほど、ベースプレート72に対して(ひいては車体2に対して)相対的に、下方に変位する。従って、車体2の代表点の高さ、例えばシート4の装着部の高さ(後輪3rの接地面(下端面)からの高さ)は、図12Bのグラフで示すごとく、車体2に対する後輪3rのロール方向の傾き角としてのロール角の絶対値が大きくなるに伴い、高くなる。
【0135】
そこで、本実施形態の移動体1Cには、さらに車体2に対する後輪3rの上下動を調整(制御)するための上下動調整装置30が搭載されている。この上下動調整装置30は、車体2に対する車体側機構71の揺動量を制御することで、車体2に対する後輪3rの上下動を調整し得るように構成されている。
【0136】
この場合、本実施形態の上下動調整装置30は、第1実施形態のものと同じ構造の上下動調整装置である。そして、上下動調整装置30のシリンダ31のアウターチューブ31a及びインナーチューブ31bのうち、アウターチューブ31aが、例えば、ヘッドパイプ2aとシート4との間で上側車体フレーム2bに設けられた軸受け部2dに、ピッチ方向に揺動し得るように取付部材36を介して連結されている。また、インナーチューブ31bがベースプレート72の上部に設けられた軸受け部72bに、ピッチ方向に揺動し得るように取付部材37を介して連結されている。なお、上記と逆に、シリンダ31のアウターチューブ31aをベースプレート72の軸受け部72bに連結し、インナーチューブ31bを車体2の軸受け部2dに連結してもよい。
【0137】
本実施形態の上下動調整装置30によれば、車体2に対する車体側機構71のベースプレート72の揺動時に、シリンダ31が揺動しながら伸縮する。また、第1実施形態と同様に、上下動調整用アクチュエータ34によりボールネジ機構33のネジ部33aを回転駆動することで、アウターチューブ31aからのインナーチューブ31bの突出部分を伸縮させることができる。これにより、車体2に対する車体側機構71の揺動量を上下動調整用アクチュエータ34を介して制御することが可能となっている。
【0138】
補足すると、第1実施形態の場合と同様に、本実施形態の上下動調整装置30のシリンダ31は、車体2に対する車体側機構71の揺動を制動するダンパーとしての機能を含むように構成されていてもよい。あるいは、車体2に対する車体側機構71の揺動を制動するダンパーは、上下動調整装置30と別体構成で、移動体1Cに備えられていてもよい。
【0139】
本実施形態の移動体1Cの構成は、以上説明した事項以外は、第1実施形態と同じである。そして、本実施形態の移動体1Cの姿勢制御用アクチュエータ100の作動制御と、上下動調整用アクチュエータ34の作動制御とは、第1実施形態の制御処理(図7のフローチャートに示した制御処理)と同様の制御処理により行われる。
【0140】
これにより、第1実施形態と同様に、車体2が車体目標傾斜角よりも左側又は右側に傾いた場合に、その傾きを解消する方向のモーメントを発生させるように、後輪3rのロール方向の傾動と左右方向の移動とを行うことができる。
【0141】
さらに、第1実施形態と同様に、後輪3rが車体2に対して傾動しても、車体2の代表点の高さ(例えばシート4の装着部の高さ)が変化しないようにすることや、あるいは、車体2の代表点の高さの変動量を十分に小さい範囲に留めることを実現できる。
【0142】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を図13を参照して説明する。なお、本実施形態は、第3実施形態と一部の構成だけが相違するものであり、第3実施形態と同一の構成要素については第3実施形態と同一の参照符号を用いると共に、第3実施形態と同一の事項については、詳細な説明を省略する。
【0143】
本実施形態の移動体1Dは、車体2に対する後輪3rの上下動を調整(制御)するための上下動調整装置として、第3実施形態(又は第1実施形態)の上下動調整装置30と異なる構造の上下動調整装置110を備えている。この上下動調整装置110は、第1実施形態と同じ構成の後輪支持機構70の車体側機構71を車体2に対して揺動させる駆動力(回転駆動力)を発生するアクチュエータ111と、該アクチュエータ111の出力軸111aから車体側機構71のベースプレート72に回転駆動力を伝達する動力伝達機構としてのリンク機構112とを備える。
【0144】
アクチュエータ111は、本発明における第1のアクチュエータに相当する。このアクチュエータ111(以降、上下動調整用アクチュエータ111という)は、例えば減速機付きの電動モータにより構成され、そのハウジングが車体2の適宜の部位、例えば、下側車体フレーム2cの中間部に固定されている。この場合、上下動調整用アクチュエータ111の出力軸(回転駆動軸)111aは、車体2に対するベースプレート72の揺動軸と平行な方向に向けられている。なお、アクチュエータ111は、電動モータに限らず、例えば油圧アクチュエータ(油圧モータ)により構成されていてもよい。
【0145】
リンク機構112は、例えば第1リンク112a及び第2リンク112bの2つのリンクにより構成されている。この場合、第1リンク112aは、その一端部が上下動調整用アクチュエータ111の出力軸111aに固定されている。そして、第1リンク112aの他端部に、第2リンク112bの一端部が回転可能に軸支され、第2リンク112bの他端部が、ベースプレート72の軸受け部72b(車体2への連結部)の上側で該ベースプレート72に回転可能に軸支されている。
【0146】
これにより、上下動調整用アクチュエータ111の回転駆動力により車体側機構71を車体2に対して揺動させ、ひいては、車体2に対する後輪3rの上下動を調整することが可能になっている。
【0147】
また、本実施形態の移動体1Dには、車体2に対する車体側機構71の揺動を制動するためのシリンダ型のダンパー65と、車体2と車体側機構71と間に弾性力を発生するバネ66とが搭載されている。これらのダンパー65及びバネ66は、第2実施形態の移動体1Bに備えたものと同一構造のものである。
【0148】
この場合、ダンパー65は、その一端部(例えばアウターチューブ65a側の端部)が車体2の軸受け部2dにピッチ方向に揺動し得るように軸支され、他端部(例えばインナーューブ65b側の端部)がベースプレート72の軸受け部72bにピッチ方向に揺動し得るように軸支されている。
【0149】
本実施形態の移動体1Dの構成は、以上説明した事項以外は、第3実施形態と同じである。そして、本実施形態の移動体1Bの姿勢制御用アクチュエータ100の作動制御と、上下動調整用アクチュエータ111の作動制御とは、第1実施形態の制御処理(図7のフローチャートに示した制御処理)と同様の制御処理により行われる。
【0150】
これにより、第1実施形態と同様に、車体2が車体目標傾斜角よりも左側又は右側に傾いた場合に、その傾きを解消する方向のモーメントを発生させるように、後輪3rのロール方向の傾動と左右方向の移動とを行うことができる。
【0151】
さらに、第1実施形態と同様に、後輪3rが車体2に対して傾動しても、車体2の代表点の高さ(例えばシート4の装着部の高さ)が変化しないようにすることや、あるいは、車体2の代表点の高さの変動量を十分に小さい範囲に留めることを実現できる。
【0152】
[他の実施形態]
本発明は以上説明した第1~第4実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態を採用することもできる。以下に他の実施形態を例示する。
【0153】
前記第1実施形態及び第2実施形態では、後輪支持機構20として、特願2020-081488の明細書の第1実施形態で説明した構造のものを例示した。また、前記第3実施形態及び第4実施形態では、後輪支持機構70として、特願特願2020-081489の明細書の第1実施形態で説明した構造のものを例示した。ただし、本発明の移動体の後輪支持機構は、例えば、特願2020-081488の明細書の第2実施形態もしくは他の実施形態で説明した構造のものであってもよい。あるいは、後輪支持機構は、例えば、特願特願2020-081489の明細書の第1~第3実施形態、第5~第10実施形態もしくは他の実施形態で説明した構造のものであってもよい。実施形態で説明した構造のものであってもよい。
【0154】
また、前記第1~第4実施形態では、車体2に対する後輪3rの傾動時における後輪3rの上下動(車体2に対する上下動)を抑制するように上下動調整用アクチュエータ34,61,111の作動制御を行うようにした。ただし、例えば、低速走行時の移動体の運転を、移動体に搭乗した運転者が極力行いやすくなるように、後輪3rの接地面に対して車体2を上下動させるように、上下動調整用アクチュエータ34,61,111の作動制御を行うようにしてもよい。
【0155】
また、図7に示したグラフa2~a4では、後輪3rのロール方向の傾斜角の絶対値の増加に伴い、車体の目標上下動量が、上昇側に増加するものを例示した。ただし、例えば、後輪3rのロール方向の傾斜角の絶対値の増加に伴い(又は後輪3rの左右方向への移動量の絶対値の増加に伴い)、車体の目標上下動量を、下降側に増加させるように設定することも可能である。
【0156】
また、前記第1~第4実施形態では、車体2に対する後輪3rのロール方向の傾動と左右方向への移動とが単一の姿勢制御用アクチュエータ28又は100の駆動力により連動動して行われるように後輪支持機構20又は70を構成したが、後輪3rのロール方向の傾動と左右方向への移動とを各別のアクチュエータにより行い得るように後輪支持機構を構成してもよい。
【符号の説明】
【0157】
1A,1B,1C,1D…移動体、2…車体、3f…前輪、3r…後輪、20,70…後輪支持機構、30,60,110…上下動調整装置、34,61,111…上下動調整用アクチュエータ(第1のアクチュエータ)、31…シリンダ(伸縮機構)、62,112…リンク機構、28,100…姿勢制御用アクチュエータ(第2のアクチュエータ)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13