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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20241115BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20241115BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/41 325G
G01N27/419 327K
G01N27/41 325K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021161439
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023051017
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】新妻 匠太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 希来里
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-101476(JP,A)
【文献】特開2013-257215(JP,A)
【文献】特開2016-114593(JP,A)
【文献】特開2011-071045(JP,A)
【文献】特開2019-207891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ酸素イオン伝導性を有する複数の固体電解質層を積層することで構成される積層体であって、被測定ガスを外部から受け入れるように構成される内部空間、前記内部空間に隣接する第1面、及び外部の空間に隣接する第2面を備える積層体と、
前記第1面に設けられる第1ポンプ電極と、
前記第2面に設けられる第2ポンプ電極と、
前記第1面において、前記第1ポンプ電極から延びるように構成される第1リードと、
前記第2面において、前記第2ポンプ電極から延びて、前記第1リードと電気的に接続するように構成される第2リードと、
を備え、
前記第1リード及び前記第2リードの少なくとも一方は、リードの断面積が最も小さくなる部分において、酸素濃度20.5%の前記被測定ガスに対して流れる電流を測定し、測定された電流を前記断面積で除することで算出される最大電流密度が3.5A/mm2以下となる形状に構成される、
ガスセンサ素子。
【請求項2】
前記第1リード及び前記第2リードの少なくとも一方は、前記第1リード及び前記第2リードのうちの抵抗の高い方を含む、
請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記第1リード及び前記第2リードの少なくとも一方は、
それぞれ第1方向に延びる複数の柱部、及び
前記第1方向に交差する第2方向にそれぞれ延び、前記複数の柱部のうちの隣接する2つの柱部にそれぞれ接続する複数の連絡部、
を備え、
前記複数の連絡部のうち前記第1方向に隣接する2つの連絡部の間には空隙が設けられる、
請求項1又は2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記各連絡部は、前記隣接する2つの柱部それぞれにそれぞれ連結する2つの端部、及び前記2つの端部から離間する中央部を有し、
前記各連絡部において、前記2つの端部のうちの少なくとも一方の幅は、前記中央部の幅よりも大きくなっている、
請求項3に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記第1リード及び前記第2リードの少なくとも一方は、前記最大電流密度が3.1A/mm2以下となる形状に構成される、
請求項1から4のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン伝導性を有する複数の固体電解質層により構成されるガスセンサ素子がある(例えば、特許文献1)。一般的に、このガスセンサ素子では、被測定ガスを導入する内部空間が設けられ、内部空間及び外部空間それぞれに面するように一対のポンプ電極が設けられる。この一対のポンプ電極に電圧を印加することにより、外部空間へ酸素を汲み出すことができ、その際に流れるポンプ電流を測定することで、酸素又は酸化物(例えば、窒素酸化物)の濃度を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-032787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者は、従来のガスセンサ素子には、次のような問題点があることを見出した。すなわち、ガスセンサ素子には、各ポンプ電極に電気的に接続するリードが設けられている。リードの材料には、白金等の貴金属が用いられる。そのため、リードの断面積を大きくすればするほど、ガスセンサ素子の製造コストが高くなってしまう。そこで、製造コストの低減を図るために、リードの断面積を小さくすることが考えられる。しかしながら、リードの断面積を小さくすると、リードの抵抗が大きくなり、これによって、測定精度の悪化を招いてしまう可能性がある。
【0005】
一例として、特許文献1で開示されるガスセンサ素子を用いて、測定精度の悪化を招く一因を説明する。特許文献1で開示されるガスセンサ素子は、主ポンプセル、補助ポンプセル、及び測定ポンプセルを備える。主ポンプセルは、第1内部空所に面する内側ポンプ電極、外部空間に接する外側ポンプ電極、及び両電極に挟まれた固体電解質層により構成される。補助ポンプセルは、第2内部空所に面する補助ポンプ電極、外側ポンプ電極、及び両電極に挟まれた固体電解質層により構成される。測定ポンプセルは、第2内部空所に面する測定電極、外側ポンプ電極、及び両電極に挟まれた固体電解質層により構成される。このガスセンサ素子では、主ポンプセル及び補助ポンプセルにより、被測定ガスに含まれる酸素濃度が調整され、測定ポンプセルにより、被測定ガスに含まれる窒素酸化物の濃度が測定される。
【0006】
このガスセンサ素子において、主ポンプセルを構成する各電極に接続されるリードの断面積を小さくし、製造コストの低減を図ったと仮定する。この場合、リードの断面積が小さくなることで、主ポンプセルの各電極及びリードの抵抗が大きくなり、これによって、主ポンプセルに印加する電圧が大きくなる。主ポンプセルに印加する電圧が大きくなると、主ポンプセルの範囲で窒素酸化物を分解しやすくなってしまう。特に、被測定ガス中の酸素濃度が高くなるほど、窒素酸化物を分解しやすくなり、その結果、被測定ガスの酸素濃度に対するNOx電流(測定ポンプセルに流れる電流)の依存性が悪化してしまう。すなわち、被測定ガスの酸素濃度に対するNOx電流の直線性が損なわれてしまう。そうすると、被測定ガス中の酸素濃度とNOx電流との間の関係のキャリブレーションが複雑になり、窒素酸化物の濃度を測定する精度の悪化を招く可能性がある。
【0007】
なお、この問題点は、主ポンプセルの電極に接続されるリードの断面積を小さくした場合に限られず、他のポンプセルの電極に接続されるリードの断面積を小さくした場合でも同様に生じる可能性がある。また、この問題点は、窒素酸化物の濃度を測定するように構成されたガスセンサ素子だけではなく、例えば、酸素の濃度を測定するように構成されたガスセンサ素子等の他のガスセンサ素子でも同様に生じる可能性がある。
【0008】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、ガスセンサ素子の製造コストの低減を図りつつ、測定精度の悪化を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0010】
本発明の一側面に係るガスセンサ素子は、それぞれ酸素イオン伝導性を有する複数の固体電解質層を積層することで構成される積層体であって、被測定ガスを外部から受け入れるように構成される内部空間、前記内部空間に隣接する第1面、及び外部の空間に隣接する第2面を備える積層体と、前記第1面に設けられる第1ポンプ電極と、前記第2面に設けられる第2ポンプ電極と、前記第1面において、前記第1ポンプ電極から延びるように構成される第1リードと、前記第2面において、前記第2ポンプ電極から延びて、前記第1リードと電気的に接続するように構成される第2リードと、を備える。そして、前記第1リード及び前記第2リードの少なくとも一方は、最大電流密度が3.5A/mm2以下となる形状に構成される。
【0011】
当該構成に係るガスセンサ素子では、第1リード及び第2リードの少なくとも一方の最大電流密度が3.5A/mm2以下に定められる。電流密度は、関係式「電流密度=電流÷断面積(電極面積)」により導出される。この関係式によれば、断面積を大きくすれば、(最大)電流密度は小さくなり、断面積を小さくすれば、(最大)電流密度を大きくなる。上記のとおり、リードの断面積を小さくする(最大電流密度は大きくなる)ことで、ガスセンサ素子の製造コストの低減を図ることができるが、測定精度の悪化を招く恐れがある。これに対して、本件発明者は、以下で後述する実施例により、最大電流密度が3.5A/mm2以下であれば、測定精度の悪化を抑制できることを見出した。したがって、当該構成によれば、最大電流密度を基準に(すなわち、最大電流密度が3.5A/mm2以下となるように)リードの断面積を小さくすることで、製造コストの低減を図りつつ、測定精度の悪化を抑制することができる。
【0012】
なお、測定精度の悪化を抑制する観点から、第1リード及び第2リードの少なくとも一方の最大電流密度は、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1又は1.0A/mm2以下に定められてよい。最大電流密度のこれらの基準値に近くなるようにリードの断面積を大きくすることで、製造コストの低減を図ると共に、測定精度の悪化を抑制することができる。
【0013】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記第1リード及び前記第2リードの少なくとも一方は、前記第1リード及び前記第2リードのうちの抵抗の高い方を含んでよい。上記のとおり、抵抗が高くなることによって、測定セルに辿り着く前に被測定ガスが分解されやすくなることに起因する測定精度の悪化を招きやすくなる。当該構成によれば、その抵抗の高い方のリードの最大電流密度を3.5A/mm2以下に定めることにより、製造コストの低減を図りつつ、測定精度の悪化を適切に抑制することができる。
【0014】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記第1リード及び前記第2リードの少なくとも一方は、それぞれ第1方向に延びる複数の柱部、及び前記第1方向に交差する第2方向にそれぞれ延び、前記複数の柱部のうちの隣接する2つの柱部にそれぞれ接続する複数の連絡部、を備えてよい。そして、前記複数の連絡部のうち前記第1方向に隣接する2つの連絡部の間には空隙が設けられてよい。当該構成によれば、空隙が設けられる分だけ、中実な場合に比べて、リードに使用する材料の量を抑えることができ、その結果、ガスセンサ素子の製造コストの低減を図ることができる。
【0015】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記各連絡部は、前記隣接する2つの柱部それぞれにそれぞれ連結する2つの端部、及び前記2つの端部から離間する中央部を有してよい。そして、前記各連絡部において、前記2つの端部のうちの少なくとも一方の幅は、前記中央部の幅よりも大きくなっていてもよい。電流が流れる際、各連絡部の端部には応力が生じやすい。この応力に起因して、連絡部は、端部で欠損(例えば、断線)が発生しやすくなっている。当該構成によれば、端部の幅を中央部に比べて大きくすることで、端部での断線の発生を抑制することができ、その結果、リードの耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガスセンサ素子の製造コストの低減を図りつつ、測定精度の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施の形態に係るセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
図2A図2Aは、実施の形態に係るリードの一例を概略的に示す模式図である。
図2B図2Bは、実施の形態に係るリードの一例を概略的に示す模式図である。
図3図3は、変形例に係るリードの一例を概略的に示す模式図である。
図4図4は、変形例に係るリードの一例を概略的に示す拡大模式図である。
図5図5は、変形例に係るリードの一例を概略的に示す模式図である。
図6図6は、変形例に係るリードの一例を概略的に示す模式図である。
図7図7は、変形例に係るリードの一例を概略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良又は変形を行うことができることは言うまでもない。本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0019】
本実施形態に係るガスセンサ素子は、積層体、第1ポンプ電極、第2ポンプ電極、第1リード、及び第2リードを備える。積層体は、それぞれ酸素イオン伝導性を有する複数の固体電解質層を積層することで構成され、被測定ガスを外部から受け入れるように構成される内部空間、内部空間に隣接する第1面、及び外部の空間に隣接する第2面を備える。「隣接する」ことは、空間に直接的に隣接してもよいし、或いは被覆等を介して間接的に隣接してよい。第1ポンプ電極は、第1面に設けられ、第2ポンプ電極は、第2面に設けられる。第1リードは、第1面において、第1ポンプ電極から延びるように構成される。第2リードは、第2面において、第2ポンプ電極から延びて、第1リードと電気的に接続するように構成される。第1リード及び第2リードの少なくとも一方は、最大電流密度が3.5A/mm2以下となる形状に構成される。以下、これらの構成を有するガスセンサ素子の一例を説明する。
【0020】
[構成例]
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子100は、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6を図3の断面視で下側から順に積層することで構成される積層体を備える。各層1-6は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。各層1-6を形成する固体電解質は、緻密質なものであってよい。緻密質は、気孔率が5%以下であることを指す。
【0021】
本実施形態では、ガスセンサ素子100の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面62及び第1固体電解質層4の上面の間には、被測定ガスを外部の空間から受け入れるように構成される内部空間が設けられる。本実施形態に係る内部空間は、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所15、第3拡散律速部16、第2内部空所17、第4拡散律速部18、及び第3内部空所19が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成される。すなわち、本実施形態に係る内部空間は、3室構造(第1内部空所15、第2内部空所17及び第3内部空所19)を有する。
【0022】
一例では、この内部空間は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる。内部空間の上部は、第2固体電解質層6の下面62で区画される。内部空間の下部は、第1固体電解質層4の上面で区画される。内部空間の側部は、スペーサ層5の側面で区画される。
【0023】
第1拡散律速部11は、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)スリットとして設けられる。第2拡散律速部13及び第3拡散律速部16それぞれは、図面に垂直な方向に延びる長さが各内部空所(15、17、19)よりも短い孔として設けられる。第4拡散律速部18は、図面に垂直な方向の上側のみ開口した孔として設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所19に至る部位(内部空間)は、ガス流通部とも称されてよい。
【0024】
ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面及びスペーサ層5の下面の間であって、第1固体電解質層4の側面で側部を区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられる。基準ガス導入空間43には、例えば、大気等の基準ガスが導入される。
【0025】
基準ガス導入空間43に隣接する第3基板層3の上面の一部には、大気導入層48が設けられる。大気導入層48は、多孔質アルミナから成り、基準ガス導入空間43を介して基準ガスが導入されるように構成される。加えて、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0026】
基準電極42は、第3基板層3の上面及び第1固体電解質層4の間に挟まれるように形成され、その周囲には、上記基準ガス導入空間43に接続する大気導入層48が設けられている。基準電極42は、第1内部空所15内及び第2内部空所17内の酸素濃度(酸素分圧)の測定に使用される。詳細は後述する。
【0027】
ガス導入口10は、ガス流通部において、外部空間に対して開口してなる部位である。ガスセンサ素子100は、当該ガス導入口10を通じて外部空間から内部に被測定ガスを取り込むように構成される。
【0028】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0029】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0030】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所15に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0031】
被測定ガスは、ガスセンサ素子100の外部空間から第1内部空所15内まで導入されるにあたり、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって、ガス導入口10からガスセンサ素子100内部に急激に取り込まれる場合がある。この場合であっても、当該構成では、取り込まれる被測定ガスは、直接第1内部空所15へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所15へ導入される。これにより、第1内部空所15へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0032】
第1内部空所15は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0033】
主ポンプセル21は、内側ポンプ電極22、外側ポンプ電極23、及びこれらの電極に挟まれた第2固体電解質層6によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22は、第1内部空所15に隣接する(面する)第2固体電解質層6の下面62のほぼ全面に設けられる天井電極部22aを有する。外側ポンプ電極23は、第2固体電解質層6の上面63の天井電極部22aに対応する領域に外部空間に隣接する態様にて設けられる。
【0034】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所15を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6及び第1固体電解質層4)、及び側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所15の天井面を与える第2固体電解質層6の下面62には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成される。そして、それら天井電極部22a及び底部電極部22bに接続するように、側部電極部(図示省略)が、第1内部空所15の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されている。つまり、内側ポンプ電極22は、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態の構造で配設されている。
【0035】
内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPt及びZrO2により構成されるサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0036】
ガスセンサ素子100は、主ポンプセル21において、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に正方向又は負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所15内の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間の酸素を第1内部空所15に汲み入れ可能に構成される。
【0037】
また、第1内部空所15における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42により、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0038】
ガスセンサ素子100は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所15内の酸素濃度(酸素分圧)を特定可能に構成される。更に、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所15内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0039】
第3拡散律速部16は、第1内部空所15で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所17に導く部位である。
【0040】
第2内部空所17は、第3拡散律速部16を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を更に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。
【0041】
補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、ガスセンサ素子100と外側の適当な電極であれば足りる)、及び第2固体電解質層6により構成される補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、第2内部空所17に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する。
【0042】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所15内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態の構造で、第2内部空所17内に配設されている。つまり、第2内部空所17の天井面を与える第2固体電解質層6の下面62に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所17の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが形成される。そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所17の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成される。これにより、補助ポンプ電極51は、トンネル形態の構造を有している。
【0043】
なお、補助ポンプ電極51も、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中の窒素酸化物成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0044】
ガスセンサ素子100は、補助ポンプセル50において、補助ポンプ電極51及び外側ポンプ電極23の間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間から第2内部空所17内に汲み入れ可能に構成される。
【0045】
また、第2内部空所17内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51、基準電極42、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、及び第3基板層3により、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0046】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0047】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部16から第2内部空所17内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所17内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0048】
第4拡散律速部18は、第2内部空所17で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所19に導く部位である。
【0049】
第3内部空所19は、第4拡散律速部18を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。本実施形態では、第1内部空所15において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整された後、第2内部空所17において、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が更に行われる。これにより、第2内部空所17から第3内部空所19に導入される被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。そのため、本実施形態に係るガスセンサ素子100は、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0050】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所19内において、被測定ガス中の窒素酸化物濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。図1の一例では、測定電極44は、第3内部空所19に隣接する(面する)第1固体電解質層4の上面に設けられる。
【0051】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所19内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。図1の一例では、測定電極44は、第3内部空所19内で露出している。他の一例では、測定電極44は、拡散律速部により被覆されていてよい。該拡散律速部は、アルミナ(Al23)を主成分とする多孔体の膜により構成されてよい。該拡散律速部は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うと共に、測定電極44の保護膜としても作用する。
【0052】
ガスセンサ素子100は、測定用ポンプセル41において、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出可能に構成される。
【0053】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、測定電極44、及び基準電極42により、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧(起電力)V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0054】
第3内部空所19内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0055】
また、測定電極44、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすることで、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができる。これにより、被測定ガス中の窒素酸化物成分の濃度を求めることも可能である。
【0056】
また、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、外側ポンプ電極23、及び基準電極42から電気化学的なセンサセル83が構成されている。ガスセンサ素子100は、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能に構成されている。
【0057】
以上の構成を有するガスセンサ素子100において、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50を作動させることにより、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスを測定用ポンプセル41に与えることができる。したがって、ガスセンサ素子100は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることで流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を特定可能に構成されている。
【0058】
更に、ガスセンサ素子100は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、ガスセンサ素子100を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ70を備えている。図1の一例では、ヒータ70は、ヒータ電極71、発熱部72、リード部73、ヒータ絶縁層74、及び圧力放散孔75を備えている。リード部73は、スルーホールにより構成されてよい。
【0059】
本実施形態では、ヒータ70は、ガスセンサ素子100の厚み方向(鉛直方向/積層方向)において、ガスセンサ素子100の上面よりもガスセンサ素子100の下面に近い位置に配置されている。ただし、ヒータ70の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0060】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(ガスセンサ素子100の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することにより、外部からヒータ70へ給電することができるようになっている。
【0061】
発熱部72は、第2基板層2及び第3基板層3に上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。発熱部72は、リード部73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、ガスセンサ素子100を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0062】
また、発熱部72は、第1内部空所15から第2内部空所17の全域に渡って埋設されており、ガスセンサ素子100全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0063】
ヒータ絶縁層74は、発熱部72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2及び発熱部72の間の電気的絶縁性、並びに第3基板層3及び発熱部72の間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0064】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0065】
製造方法の一例として、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに、所定の加工、配線パターンの印刷等の工程を実行する。当該工程を実行した後、各シートを積層し、焼成して一体化させる。これにより、ガスセンサ素子100を製造することができる。
【0066】
<リード構造>
図2A及び図2Bは、主ポンプセル21のリード構造の一例を概略的に示す模式図である。図2Aは、外側ポンプ電極23に接続されるリード92の一例を概略的に示し、図2Bは、内側ポンプ電極22に接続されるリード93の一例を概略的に示す。
【0067】
図2Bの一例では、リード93は、第2固体電解質層6の下面62に設けられる。第2固体電解質層6の下面62は、内部空間に隣接する第1面の一例である。また、下面62に設けられる内側ポンプ電極22は、第1ポンプ電極の一例である。
【0068】
ただし、本実施形態では、内側ポンプ電極22はトンネル形態の構造を有するため、リード93を設ける面は、第2固体電解質層6の下面62に限られなくてよい。他の一例では、リード93は、第1固体電解質層4の上面及びスペーサ層5の側面のいずれかに設けられてよい。この場合、リード93が設けられる面が、第1面の一例である。
【0069】
なお、図2Bの一例では、内側ポンプ電極22(天井電極部22a)は、矩形状に形成されている。ただし、内側ポンプ電極22の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0070】
リード93は、内側ポンプ電極22(天井電極部22a)から端子T2の方に延びるように構成されている。端子T2は、実施の形態に応じて適宜配置されてよい。図2A及び図2Bの一例では、端子T2は、上面63の後端(図の右端)側に配置される。リード93は、下面62に配置された内側ポンプ電極22(天井電極部22a)から後端側へ延び、後端側において下面62から上面63に回り込んで端子T2まで延びるように構成されている。リード93は、第1リードの一例である。
【0071】
一方、図2Aの一例では、リード92は、第2固体電解質層6の上面63に設けられる。第2固体電解質層6の上面63は、外部空間に隣接する第2面の一例である。また、上面63に設けられる外側ポンプ電極23は、第2ポンプ電極の一例である。
【0072】
なお、図2Aの一例では、外側ポンプ電極23は、矩形状に形成されている。ただし、外側ポンプ電極23の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0073】
リード92は、外側ポンプ電極23から端子T1の方に延びるように構成されている。端子T1は、実施の形態に応じて適宜配置されてよい。図2Aの一例では、端子T1は、上面63の後端(図の右端)側に配置される。端子T1は、端子T2と電気的に接続するように構成される。これにより、リード92は、リード93と電気的に接続するように構成される。リード92は、第2リードの一例である。
【0074】
各リード(92、93)の形状は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。図2A及び図2Bの一例では、各リード(92、93)は、直線状に形成される。各面(62、63)上には、絶縁材料(不図示)が塗布されてよく、各リード(92、93)は、その絶縁材料上に形成されてよい。各リード(92、93)の材料には、白金等の貴金属が用いられてよい。
【0075】
本実施形態では、リード92及びリード93の少なくとも一方は、最大電流密度が3.5A/mm2以下となる形状に構成される。リード92及びリード93の少なくとも一方は、リード92及びリード93のうちの抵抗の高い方を含んでよい。
【0076】
測定精度の悪化を抑制する観点から、リード92及びリード93の少なくとも一方の最大電流密度は、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1又は1.0A/mm2以下となるように構成されてよい。また、リード92及びリード93の少なくとも一方の最大電流密度は、0.05A/mm2以上となるように構成されてよい。
【0077】
寸法の一例として、リード92及びリード93の少なくとも一方は、長さが20~60mm、かつ断面積が0.001~0.01mm2となるように形成されることで、最大電流密度が上記範囲を満たすように構成されてよい。
【0078】
また、最大電流密度の算出方法の一例として、リードの断面積が最も小さくなる部分において、酸素濃度20.5%の被測定ガスに対して流れる電流を測定し、測定された電流を該断面積で割り算することで、該リードの最大電流密度が算出されてよい。
【0079】
なお、一例では、補助ポンプセル50及び測定用ポンプセル41の少なくとも一方も、主ポンプセル21と同様のリード構造を有してもよい。
【0080】
補助ポンプセル50が主ポンプセル21と同様のリード構造を有する場合、補助ポンプ電極51が第1ポンプ電極の一例であり、外側ポンプ電極23が第2ポンプ電極の一例である。補助ポンプ電極51が配置される第2固体電解質層6の下面62、第1固体電解質層4の上面、及びスペーサ層5の側面のいずれかに補助ポンプ電極51から延びるリードが設けられてよく、リードの設けられる面が第1面の一例である。補助ポンプ電極51から延びる該リードは、第1リードの一例である。外側ポンプ電極23から延びるリードが、第2リードの一例である。補助ポンプセル50のリード構造におけるその他の構成は、主ポンプセル21のリード構造と同様であってよい。
【0081】
測定用ポンプセル41が主ポンプセル21と同様のリード構造を有する場合、測定電極44が第1ポンプ電極の一例であり、外側ポンプ電極23が第2ポンプ電極の一例である。測定電極44が配置される第1固体電解質層4の上面が第1面の一例である。測定電極44から延びるリードは、第1リードの一例である。外側ポンプ電極23から延びるリードが、第2リードの一例である。測定用ポンプセル41のリード構造におけるその他の構成は、主ポンプセル21のリード構造と同様であってよい。
【0082】
他の一例では、補助ポンプセル50及び測定用ポンプセル41は、主ポンプセル21と異なるリード構造を有してもよい。
【0083】
[特徴]
以上のとおり、本実施形態に係るガスセンサ素子100では、主ポンプセル21において、リード92及びリード93の少なくとも一方の最大電流密度が3.5A/mm2以下に定められる。上記関係式によれば、断面積を大きくすれば、(最大)電流密度は小さくなり、断面積を小さくすれば、(最大)電流密度を大きくなる。後述する実施例により、最大電流密度が3.5A/mm2以下であれば、測定精度の悪化を抑制できることが見出された。したがって、本実施形態によれば、最大電流密度を基準にリード92及びリード93の少なくとも一方の断面積を小さくすることで、ガスセンサ素子100の製造コストの低減を図りつつ、主ポンプセル21の動作に起因する測定精度の悪化を抑制することができる。補助ポンプセル50及び測定用ポンプセル41の少なくとも一方に主ポンプセル21と同様のリード構造を採用することで、測定精度の悪化を更に抑制することができる。
【0084】
また、本実施形態では、リード92及びリード93の少なくとも一方は、リード92及びリード93のうちの抵抗の高い方を含んでよい。上記のとおり、抵抗が高くなることによって、測定精度の悪化を招きやすくなる。本実施形態によれば、その抵抗の高い方のリードの最大電流密度を3.5A/mm2以下に定めることにより、ガスセンサ素子100の製造コストの低減を図りつつ、測定精度の悪化を適切に抑制することができる。
【0085】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良及び変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状及び寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0086】
(I)リード構造の適用先
以上では、本発明の実施形態に係るリード構造を主ポンプセル21に適用したケースの一例を説明した。しかしながら、上記リード構造の適用先は、主ポンプセル21に限られなくてよい。上記のとおり、補助ポンプセル50及び測定用ポンプセル41の少なくとも一方が、上記リード構造を有してもよい。同様に、基準電極42に関するセル80-83の少なくともいずれかも、上記リード構造を有してよい。少なくともいずれかのセルが上記リード構造を有する場合に、主ポンプセル21は、上記実施形態と異なるリード構造を有してもよい。
【0087】
(II)リードの形状
上記実施形態では、第2リードの一例であるリード92及び第1リードの一例であるリード93は共に直線状に形成されている。しかしながら、第1リード及び第2リードの形状は、このような例に限定されなくてよい。他の一例では、第1リード及び第2リードの少なくとも一方は、それぞれ第1方向に延びる複数の柱部、及び第1方向に交差する第2方向にそれぞれ延び、複数の柱部のうちの隣接する2つの柱部にそれぞれ接続する複数の連絡部を備えるように形成されてよい。そして、複数の連絡部のうちの第1方向に隣接する2つの連絡部の間には空隙が設けられてよい。
【0088】
図3は、本変形例に係る形態を外側ポンプ電極23から延びるリード92Aに適用したケースの一例を概略的に示す模式図である。図3の一例では、リード92Aは、2つの柱部(921、922)及び11個の連絡部925を備える。なお、図3では、図2Aにおける内側ポンプ電極22から延びるリード93に関する構成を省略する。後述する図5図7でも同様に、リード93に関する構成を省略する。
【0089】
図3の左右方向(ガスセンサ素子の長手方向)が、第1方向の一例であり、図3の上下方向(ガスセンサ素子の幅方向)が、第2方向の一例である。なお、図3の一例では、第1方向及び第2方向の交差する角度は、直角であるが、このような例に限定されなくてよい。第1方向及び第2方向は、鋭角又は鈍角で交差してよい。
【0090】
各連絡部925は、第2方向に延びて、第2方向に隣接する2つの柱部(921、922)それぞれにそれぞれの端部で接続する。第1方向に隣接する2つの連絡部925の間には空隙Gが設けられる。これにより、リード92Aは、はしご状に形成されている。
【0091】
各連絡部925の形状は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、各連絡部925の幅(第2方向に垂直な方向の長さ)は一定であってよい。他の一例では、各連絡部925は、中央部の幅が端部よりも大きくなるように形成されてもよい。ただし、リードに電流が流れる際、各連絡部の端部(すなわち、各柱部と各連絡部との連結部分)には、応力が生じやすく、この応力により、連絡部は、端部において欠損が生じやすくなっている。そこで、更に他の一例では、各連絡部は、隣接する2つの柱部それぞれにそれぞれ連結する2つの端部、及び2つの端部から離間する中央部を有してよい。そして、各連絡部において、2つの端部のうちの少なくとも一方の幅は、中央部の幅よりも大きくなるように形成されてよい。
【0092】
図4は、当該連絡部の形態をリード92Aに適用したケースの一例を概略的に示す拡大模式図である。図4の一例では、各連絡部925は、隣接する2つの柱部(921、922それぞれにそれぞれ連結する2つの端部(9251、9252)、及び2つの端部(9251、9252)から離間する中央部9255を有する。各連絡部925において、2つの端部(9251、9252)のうちの少なくとも一方の幅は、中央部9255の幅よりも大きくなるように形成される。
【0093】
なお、図4の一例では、2つの端部(9251、9252)共に、中央部9255よりも幅が広くなるように形成されている。このように両方の端部の幅が、中央部よりも広くなるように形成されるのが好ましい。ただし、連絡部の形態は、このような例に限定されなくてよい。他の一例では、2つの端部(9251、9252)のうちの少なくとも一方の幅は、中央部9255の幅と同じ又は小さくなるように形成されていてもよい。
【0094】
本形態によれば、各連絡部925の端部(9251、9252)の幅を中央部9255に比べて大きくすることで、端部(9251、9252)での断線の発生を抑制することができる。その結果、リード92Aの耐久性を高めることができる。リード92Aのその他の構成は、上記実施形態に係るリード92と同様であってよい。
【0095】
<柱部の数>
上記本変形例に係るリードの形態の一例では、柱部の数は、2つである。しかしながら、柱部の数は、このような例に限定されなくてよく、3つ以上であってよい。
【0096】
図5は、本変形例に係るリード92Bの一例を概略的に示す模式図である。リード92Bは、上記リード92Aと同様に、外側ポンプ電極23から端子T1の方に延びるように構成される。図5の一例では、リード92Bは、3つの柱部(921B、922B、923B)、及び12個の連絡部925Bを備える。
【0097】
各連絡部925Bは、隣接する2つの柱部(921B、923B)(923B、922B)に接続するように形成される。第1方向に隣接する2つの連絡部925Bの間には空隙GBが設けられる。
【0098】
各連絡部925Bの形状は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、各連絡部925Bの幅は一定であってよい。他の一例では、各連絡部925Bは、中央部の幅が端部よりも大きくなるように形成されてもよい。更に他の一例では、各連絡部925Bは、図4に例示される上記連絡部925の形態と同様に形成されてよい。リード92Bのその他の構成は、上記実施形態に係るリード92と同様であってよい。
【0099】
<連絡部の延びる方向>
上記変形例に係るリードの形態の一例では、各連絡部(925、925B)は、一方向に延びている。しかしながら、各連絡部の延びる方向は、一方向に限られなくてよい。複数の連絡部のうちの少なくとも一つの連絡部は、他の連絡部と異なる方向に延びてよい。
【0100】
図6は、本変形例に係るリード92Cの一例を概略的に示す模式図である。図6の一例では、リード92Cは、上記リード92Aと同様に、外側ポンプ電極23から端子T1の方に延びるように構成され、2つの柱部(921C、922C)を備える。更に、リード92Cは、複数の連絡部925Cを備える。
【0101】
複数の連絡部925Cのうちの一部は、第1方向に対して鋭角に傾斜する方向に延びて、隣接する2つの柱部(921C、922C)に接続するように形成される。複数の連絡部925Cのうちの残りは、第1方向に対して鈍角に傾斜する方向に延びて、隣接する2つの柱部(921C、922C)に接続するように形成される。それぞれの方向は、第2方向の一例である。
【0102】
図6の一例では、鋭角に傾斜する方向に延びる連絡部925Cと鈍角に傾斜する方向に延びる連絡部925Cとが互いに交差している。そして、第1方向に隣接し、交差する2つの連絡部925Cの間に、空隙GCが設けられる。これにより、リード92Cは、網目状に形成されている。
【0103】
このように、2つ以上の連絡部は、互いに異なる方向に延びることで、部分的に交差するように構成されてもよい。ただし、リードの形態は、このような例に限定されなくてよい。複数の連絡部が異なる方向に延びる場合に、各連絡部は、交差しないように配置されてもよい。
【0104】
各連絡部925Cの形状は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、各連絡部925Cの幅は一定であってよい。他の一例では、各連絡部925Cは、中央部の幅が端部よりも大きくなるように形成されてもよい。更に他の一例では、各連絡部925Cは、図4に例示される上記連絡部925の形態と同様に形成されてよい。リード92Cのその他の構成は、上記実施形態に係るリード92と同様であってよい。
【0105】
<連絡部の配置>
上記変形例に係るリードの形態の一例では、各連絡部(925、925B、925C)は、互いに離れた位置に独立的に配置されるように構成されている。しかしながら、各連絡部の配置は、このような例に限定されなくてよい。複数の連絡部のうちの少なくとも2つ以上の連絡部は、一体的に形成されるように配置されてよい。
【0106】
図7は、本変形例に係るリード92Dの一例を概略的に示す模式図である。図7の一例では、リード92Dは、上記リード92Bと同様に、外側ポンプ電極23から端子T1の方に延びるように構成され、3つの柱部(921D、922D、923D)を備える。更に、リード92Dは、複数の連絡部925Dを備える。
【0107】
複数の連絡部925Dのうちの第1連絡部は、第1方向に対して鋭角に傾斜する方向に延びて、隣接する2つの柱部(921D、923D)(923D、922D)に接続するように形成される。複数の連絡部925Dのうちの第2連絡部は、第1方向に対して垂直な方向に延びて、隣接する2つの柱部(921D、923D)(923D、922D)に接続するように形成される。複数の連絡部925Dのうちの第3連絡部は、第1方向に対して鈍角に傾斜する方向に延びて、隣接する2つの柱部(921D、923D)(923D、922D)に接続するように形成される。各連絡部の延びる方向は、第2方向の一例である。第1方向に隣接する2つの連絡部925Dの間には空隙GDが設けられる。
【0108】
図7の一例では、それぞれの第2方向において、2つの柱部(921D、923D)を接続する連絡部、及び2つの柱部(923D、922D)を接続する連絡部が、一体的に形成されるように配置されている。このように、複数の連絡部のうちの少なくとも2つ以上の連絡部が、一体的に形成されるように配置されてよい。すなわち、この一体的に形成される2つ以上の連絡部を1つの連絡部として捉えて、3つ以上の柱部に接続するように連絡部を配置してもよい。
【0109】
各連絡部925Dの形状は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、各連絡部925Dの幅は一定であってよい。他の一例では、各連絡部925Dは、中央部の幅が端部よりも大きくなるように形成されてもよい。更に他の一例では、各連絡部925Dは、図4に例示される上記連絡部925の形態と同様に形成されてよい。リード92Dのその他の構成は、上記実施形態に係るリード92と同様であってよい。
【0110】
<特徴>
本変形例によれば、中実な場合に比べて、空隙(G、GB、GC、GD)が設けられる分だけ、リード(92A、92B、92C、92D)に使用する材料の量を抑えることができる。その結果、ガスセンサ素子の製造コストの低減を図ることができる。
【0111】
なお、上記各変形例では、外側ポンプ電極23から延びるリードに各形態を適用したケースの一例を説明した。しかしながら、上記各形態の適用先は、このような例に限定されなくてよい。本変形例に係るリード(92A、92B、92C、92D)の形態は、内側ポンプ電極22から延びるリード93にも適用されてよい。本変形例に係る形態がリード93に適用される場合には、外側ポンプ電極23から延びるリードには、上記実施形態等の本変形例以外の他の形態が適用されてよい。第1リード及び第2リードそれぞれには、上記各変形例に係るリード(92A、92B、92C、92D)の形態及び上記実施形態に係る形態のうちの異なる形態が採用されてもよい。補助ポンプセル50、測定用ポンプセル41及び基準電極42に関するセル80-83の少なくともいずれかにも同様のリード構造が採用されてよい。
【0112】
(III)その他
上記実施形態では、ガスセンサ素子100の積層体は、6層の固体電解質層により構成されている。しかしながら、積層体を構成する固体電解質層の数は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0113】
また、上記実施形態では、被測定ガスを導入する内部空間は、第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6により区画される位置に設けられる。しかしながら、内部空間の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。第1面、第2面、第1ポンプ電極、第2ポンプ電極、第1リード、及び第2リードの配置は、積層体及び内部空間の構成に応じて適宜選択されてよい。
【0114】
また、上記実施形態では、内部空間は、3室構造を有するように構成されている。しかしながら、内部空間の構成は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。他の一例では、第4拡散律速部18及び第3内部空所19が省略されてよく、これにより、内部空間は、2室構造を有するように構成されてよい。この場合、測定電極44は、第2内部空所17に隣接する第1固体電解質層4の上面における、第3拡散律速部16から離れた位置に設けられてよい。
【0115】
また、図1では、第1ポンプ電極の一例である内側ポンプ電極22及び第2ポンプ電極の一例である外側ポンプ電極23は共に空間に対して露出している。しかしながら、空間に隣接することは、このような形態に限定されなくてよく、被覆等を介して間接的に隣接してもよい。他の一例として、外側ポンプ電極23は、保護部材等によって被覆されていてよい。
【0116】
また、上記実施形態では、基準ガス導入空間43が設けられている。しかしながら、ガスセンサ素子100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例では、第1固体電解質層4は、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0117】
また、上記実施形態では、ガスセンサ素子100は、窒素酸化物(NOx)の濃度を測定するように構成されている。しかしながら、本発明のガスセンサ素子は、このようなNOxの濃度を測定するように構成されるガスセンサ素子に限られなくてよい。他の一例では、本発明のガスセンサ素子は、例えば、酸素の濃度を測定するように構成されたガスセンサ素子等の他のガスセンサ素子であってよい。例えば、上記実施形態に係るガスセンサ素子100について、補助ポンプセル、測定ポンプセルを省略し、基準電極を主ポンプ電極の下に配置することで、酸素濃度を測定するためのガスセンサ素子を構成することができる。この場合、ガスセンサ素子は、主ポンプセルにより酸素を汲み出すことで、被測定ガス中の酸素濃度を測定することができる。
【0118】
[実施例]
本発明の効果を検証するために、以下の実施例及び比較例に係るガスセンサ素子を作製した。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
ガスセンサ素子の構成に上記図1に示される構成を採用し、主ポンプセルのリード構造に図2A及び図2Bに示される構造を採用することで、第1実施例に係るガスセンサ素子(タイプ:NOxセンサ)を作製した。第1実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、0.67A/mm2であった。
【0120】
第1実施例に係るガスセンサ素子のリードの断面積を変更して、第2実施例から第5実施例に係るガスセンサ素子を作製した。第2実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、0.83A/mm2であった。第3実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、0.89A/mm2であった。第4実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、0.18A/mm2であった。第5実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、1.14A/mm2であった。
【0121】
第1実施例に係るガスセンサ素子において、補助ポンプセル、測定ポンプセルを省略し、基準電極を主ポンプ電極の下に配置することで、第6実施例に係るガスセンサ素子を作製した(タイプ:O2センサ)。第6実施例に係るガスセンサ素子の主ポンプセルのリード構造には、図3に示される構造を採用した。第6実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、1.59A/mm2であった。
【0122】
第6実施例に係るガスセンサ素子のリード構造を図5に示される構造に変更することで、第7実施例に係るガスセンサ素子を作製した。第7実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、0.40A/mm2であった。第6実施例に係るガスセンサ素子のリードの断面積を変更して、第8実施例に係るガスセンサ素子を作製した。第8実施例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、3.06A/mm2であった。
【0123】
一方、第1実施例に係るガスセンサ素子のリードの断面積を変更して、第1比較例に係るガスセンサ素子を作製した。第1比較例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、6.00A/mm2であった。また、第6実施例に係るガスセンサ素子のリードの断面積を変更して、第2比較例に係るガスセンサ素子を作製した。第2比較例に係るガスセンサ素子の2つのリードのうちの一方の最大電流密度は、4.29A/mm2であった。
【0124】
次に、各実施例及び各比較例に係るガスセンサ素子により、被測定ガスに含まれる酸素濃度を測定することにより、酸素感度の変化率及び酸素濃度依存性を評価した。
【0125】
具体的に、酸素濃度が0%、5%、10%、18%の4つのモデルガス(NO濃度が500ppmで一定である)及びNO濃度が0ppmで酸素濃度が20.5%である1つのモデルガスの合計5つのモデルガスを用意した。そして、これら5つのモデルガス(いずれも残余はN2)を用いて、加速耐久試験の開始前、開始後1000時間経過後、開始後2000時間経過後、及び終了時(開始後3000時間経過後)の各時点で、各実施例及び各比較例に係るガスセンサ素子により、各モデルガスのO2電流Ip0及びNOx電流Ip2を測定した。いずれの場合も、素子駆動温度は850℃とした。また、加速耐久試験は、ガスセンサ素子をディーゼルエンジンの排気管に取り付けたうえで3000時間排ガスに曝すものとした。
【0126】
そして、上記各時点における、NO濃度が0ppmの場合の酸素濃度(20.5%)にて、当該濃度におけるO2電流Ip0の測定値を除した値を、感度特性の傾き(酸素濃度値に対するO2電流の変化率)として算出したうえで、加速耐久試験の開始前の時点における感度特性の傾きを基準(初期値)として、経過時間毎の当該傾きの変化率である酸素感度変化率を算出し、その値に基づいて、各実施例及び各比較例に係るガスセンサ素子における酸素感度の変化の程度を判定した(第1判定)。
【0127】
続いて、NOxセンサタイプのガスセンサ素子(第1-第5実施例及び第1比較例)に対して、各モデルガスに対する測定の結果から、測定電流(Ip2)の酸素濃度依存性の指標として決定係数R2を算出した。そして、算出された決定係数R2の値に基づいて、酸素濃度に対する測定電流の直線性の程度を判定した(第2判定)。
【0128】
【表1】
【0129】
上記表1は、上記第1判定及び第2判定の評価結果を示す。なお、第1判定では、酸素感度変化率の絶対値が10%以下である場合に、「A:酸素感度の変化は好適に抑制される」と評価した。酸素感度変化率の絶対値が10%を超えて20%以内である場合に、「B:酸素感度の変化は実使用に際して許容される範囲には抑制される」と評価した。酸素感度変化率の絶対値が20%を超える場合、「C:酸素感度は、許容される範囲を超えて変化してしまう」と評価した。
【0130】
一方、第2判定では、決定係数R2の値が0.975以上である場合に、「A:酸素濃度に対する測定電流の直線性は良好に維持される」と評価した。決定係数R2の値が0.950以上0.975未満である場合に、「B:酸素濃度に対する測定電流の直線性は実使用に際して許容される範囲で維持される」と評価した。決定係数R2の値が0.950未満である場合に、「C:酸素濃度に対する測定電流の直線性は大きく損なわれる」と評価した。
【0131】
第1-第4実施例の評価は、第1判定及び第2判定共に「A」であった。第5実施例の評価は、第1判定及び第2判定共に「B」であった。第6-第7実施例の第1判定の評価は「A」であり、第8実施例の第1判定の評価は「B」であった。一方、第1比較例の第1判定及び第2判定の評価は共に「C」であった。第2比較例の第1判定の評価は「C」であった。
【0132】
これらの結果から、2つのリードの少なくとも一方を、第8実施例及び第2比較例の間である3.5A/mm2以下に最大電流密度がなるように構成することで、ガスセンサ素子の測定精度の悪化を抑制できることが推測された。また、2つのリードの少なくとも一方を、(各実施例を含むように)最大電流密度が3.1A/mm2以下になるように構成することで、ガスセンサ素子の測定精度の悪化を好適に抑制可能であることが分かった。したがって、これらの最大電流密度を基準にリードの断面積を小さくすることで、ガスセンサ素子の製造コストの低減を図りつつ、測定精度の悪化を抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0133】
100…ガスセンサ素子、
22…内側ポンプ電極、23…外側ポンプ電極、
62…下面、63…上面、
92・93…リード、T…端子、
921・922…柱部、925…連絡部、
9251・9252…端部、9255…中央部、
G…空隙
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7