(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241115BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20241115BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20241115BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327Z
G01N27/41 325Z
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2021161469
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】新妻 匠太郎
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 希来里
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-028576(JP,A)
【文献】特開2011-214852(JP,A)
【文献】特開2019-086301(JP,A)
【文献】特開2011-214848(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188613(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
G01N 27/416
G01N 27/419
G01N 27/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の固体電解質層、第2の固体電解質層及びスペーサ層により構成される積層体であって、前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層が前記スペーサ層を介して積層されることで、前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層の間に、被測定ガスが導入される内部空間が設けられる、積層体と、
前記内部空間に面するように配置される1つ以上の多孔質層と、
を備え、
前記1つ以上の多孔質層は、
少なくとも一部が、前記スペーサ層の、前記内部空間に対向する少なくとも1つの側面及び前記第1の固体電解質層の両方に接
して、前記スペーサ層と前記第1の固体電解質層との間に挟まれている、第1多孔質層、及び
少なくとも一部が、前記スペーサ層の、前記内部空間に対向する少なくとも1つの側面及び前記第2の固体電解質層の両方に接
して、前記スペーサ層と前記第2の固体電解質層との間に挟まれている、第2多孔質層
の少なくとも一方を含み、
前記1つ以上の多孔質層の各々の気孔率は、10%以上、50%以下である、
ガスセンサ素子。
【請求項2】
前記1つ以上の多孔質層の各々の厚さは40μm以下である、
請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記1つ以上の多孔質層の各々の厚さは10μm以上である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記内部空間は、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる1つ以上の空室を含み、
前記1つ以上の多孔質層のうち、1つの以上の多孔質層は、前記1つ以上の空室のうち、少なくとも1つの空室の内部に延伸しており、
前記1つの以上の多孔質層の、前記空室の内部に延伸している部分の体積の合計は、前記空室の体積の5%以上、30%以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記1つ以上の多孔質層のうち、少なくとも1つの多孔質層は、
前記スペーサ層と、前記第1の固体電解質層および前記第2の固体電解質層の少なくとも一方との間に位置する部分であって、前記スペーサ層と、前記第1の固体電解質層および前記第2の固体電解質層の少なくとも一方との両者に接し、前記内部空間に面していない部分である非露出部分を含み、
前記非露出部分の体積は、前記非露出部分を含む多孔質層の体積の10%以上である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
前記1つ以上の多孔質層のうち、少なくとも1つの多孔質層は、前記内部空間の内部に配設された少なくとも1つの電極の、前記第1の固体電解質層および前記第2の固体電解質層の少なくとも一方に接する面の対向面の少なくとも一部に、重なっている、
請求項1から5のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
前記電極の、前記多孔質層が重なっている部分の面積は、前記電極の、前記対向面の面積の0.5%以上、20%以下である、
請求項6に記載のガスセンサ素子。
【請求項8】
前記1つ以上の多孔質層の各々において、ジルコニアの含有率は50wt%以上である、
請求項1から7のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項9】
前記1つ以上の多孔質層の各々は絶縁層である、
請求項1から7のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第1および第2の固体電解質層を、固体電解質よりなる所定厚さのスペーサ層を介して積層させてなる積層構造を有し、前記第1および第2の固体電解質層の間に、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部を設けたガスセンサ素子が知られている。
【0003】
例えば、下掲の特許文献1には、被測定ガス流通部において、ガス導入口と処理空間との間に緩衝空間を設けたガスセンサが開示されている。また、特許文献2には、被測定ガス流通部が含む空室内に、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための測定電極を独立して設けたガスセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-237362号公報
【文献】特開2015-200643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者は、上述のような積層構造を有する従来のガスセンサ素子には、次のような問題点があることを見出した。すなわち、ガスセンサ素子は、例えば、排ガスセンサとして使用する等のように、過酷な環境下で使用されることがある。ガスセンサ素子は、そのような過酷な使用環境下においても、長期にわたって、例えば、検出精度の劣化、検出不能等の不具合を招くことなく、動作し続けるのが望ましい。
【0006】
しかしながら、ガスセンサ素子を繰り返し使用する間に、ガスセンサ素子の内部には様々な要因で負荷が発生し得る。例えば、温度、気圧等の変化により、ガスセンサ素子の内部空間(すなわち、被測定ガス流通部)に応力が生じ得る。この応力が繰り返し生じることによって、ガスセンサ素子の内部空間が破壊される可能性がある。特に、過酷な使用環境下では、この応力は生じやすく、そのような内部空間の破壊が生じやすくなってしまう。
【0007】
更には、内部空間において、固体電解質層及びスペーサの境界には、角部が形成される。この角部には、上記応力が集中しやすく、その結果、角部及びその近傍で、クラックが発生しやすくなってしまう。本件発明者は、上記のような原因により、内部空間の破壊が生じ、これによって、検出の不具合を招き得るとの問題点があることを見出した。
【0008】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0010】
本発明の一側面に係るガスセンサ素子は、被測定ガスが導入される内部空間が設けられる積層体と、前記内部空間に面するように配置される1つ以上の多孔質層と、を備える。前記積層体は、第1の固体電解質層、第2の固体電解質層及びスペーサ層により構成される。前記積層体には、前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層が前記スペーサ層を介して積層されることで、前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層の間に、前記内部空間が設けられる。前記1つ以上の多孔質層は、第1多孔質層および第2多孔質層の少なくとも一方を含み、前記1つ以上の多孔質層の各々の気孔率は、10%以上、50%以下である。前記第1多孔質層は、前記スペーサ層の、前記内部空間に対向する少なくとも1つの側面と、前記第1の固体電解質層と、の両方に接する。つまり、前記第1多孔質層は、前記スペーサ層の、前記内部空間に対向する少なくとも1つの側面と、前記第1の固体電解質層と、の両方に接して、前記内部空間に面するように配置される。前記第2多孔質層は、前記スペーサ層の、前記内部空間に対向する少なくとも1つの側面と、前記第2の固体電解質層と、の両方に接する。つまり、前記第2多孔質層は、前記スペーサ層の、前記内部空間に対向する少なくとも1つの側面と、前記第2の固体電解質層と、の両方に接して、前記内部空間に面するように配置される。
【0011】
当該構成では、前記第1多孔質層は、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部、特に、スペーサ層と第1の固体電解質層との境界に形成される角部(スペーサ層と第1の固体電解質層との接点)に相当する位置に、前記内部空間に面するように配置される。同様に、前記第2多孔質層は、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部、特に、スペーサ層と第2の固体電解質層との境界に形成される角部(スペーサ層と第2の固体電解質層との接点)に相当する位置に、前記内部空間に面するように配置される。つまり、前記第1多孔質層および前記第2多孔質層の少なくとも一方は、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部に相当する位置に、前記内部空間に面するように配置される。このように配置される前記第1多孔質層および前記第2多孔質層の少なくとも一方によって、つまり、前記1つ以上の多孔質層によって、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部に相当する位置に集中する応力を緩和することができる。
【0012】
そして、本件発明者は、実験(昇温試験)により、前記1つ以上の多孔質層の各々の気孔率を50%以下とすることによって、前記1つ以上の多孔質層がクラックの発生を抑制できることを確認した。また、前記1つ以上の多孔質層の各々は、「多孔質である」という性質から、気孔率を10%以上とした。そのため、前記1つ以上の多孔質層の各々の気孔率は、10%以上、50%以下とされる。
【0013】
したがって、本発明の一側面に係るガスセンサ素子は、角部およびその近傍でクラックが発生して内部空間が破壊されるという事態を防ぐことができ、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用することができる。
【0014】
一例では、前記第1多孔質層は、前記スペーサ層の、前記内部空間に面する側面の下端と、前記第1の固体電解質層の上面とに接して、前記内部空間に面するように配置されてもよい。つまり、前記スペーサ層と前記第1の固体電解質層との間に、両者に接して両者に挟まれるように、前記内部空間に面する前記第1多孔質層を配置してもよい。当該構成では、前記スペーサ層と前記第1の固体電解質層との間に配置される前記第1多孔質層によって、ガスセンサ素子の(特に、前記積層体の)ヤング率を下げ、内部空間の角部およびその近傍に集中する応力を緩和することができる。つまり、前記第1多孔質層を、前記スペーサ層と前記第1の固体電解質層との間の緩衝材として配置することによって、応力が集中して前記内部空間の角部およびその近傍にクラックが発生してしまうといった事態を防ぐことができる。
【0015】
一例では、前記第2多孔質層は、前記スペーサ層の、前記内部空間に面する側面の上端と、前記第2の固体電解質層の下面とに接して、前記内部空間に面するように配置されてもよい。つまり、前記スペーサ層と前記第2の固体電解質層との間に、両者に接して両者に挟まれるように、前記内部空間に面する前記第2多孔質層を配置してもよい。当該構成では、前記スペーサ層と前記第2の固体電解質層との間に配置される前記第2多孔質層によって、ガスセンサ素子の(特に、前記積層体の)ヤング率を下げ、内部空間の角部およびその近傍に集中する応力を緩和することができる。つまり、前記第2多孔質層を、前記スペーサ層と前記第2の固体電解質層との間の緩衝材として配置することによって、応力が集中して前記内部空間の角部およびその近傍にクラックが発生してしまうといった事態を防ぐことができる。
【0016】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記1つ以上の多孔質層の各々の厚さを40μm以下としてよい。ここで、前記内部空間に面するように配置される、前記1つ以上の多孔質層の各々の厚みを大きくし過ぎると、前記1つ以上の多孔質層の各々に取り込まれる酸素の量が増え、前記内部空間からの酸素の汲み出しまたは汲み入れに要する時間(ライトオフ時間)が大きくなる。そのため、ライトオフ時間を考慮すると、前記1つ以上の多孔質層の各々の厚みは所定の値に抑えるのが望ましく、本件発明者は、40μm以下とするのが望ましいことを確認した。前記1つ以上の多孔質層の各々の厚さを40μm以下とすることによって、ライトオフ時間をガスセンサ素子の実際の使用(通常の使用)に耐えられる範囲の時間とすることができる。
【0017】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記1つ以上の多孔質層の各々の厚さを10μm以上としてよい。前記第1多孔質層および前記第2多孔質層の各々の厚さを薄くし過ぎると、前記第1多孔質層および前記第2多孔質層の少なくとも一方によって応力の集中などを防いで、前記内部空間の破壊(クラックの発生)を抑制するという効果が十分には期待できない。そのため、前記第1多孔質層および前記第2多孔質層の各々は、つまり、前記1つ以上の多孔質層の各々は、所定の厚みを有するのが望ましく、本件発明者は、10μm以上とするのが望ましいことを確認した。当該構成によれば、前記1つ以上の多孔質層の各々の厚さを10μm未満にした場合に比べて、応力の集中などを防いで前記内部空間の破壊(クラックの発生)を抑制するとの効果を十分に発揮させることができる。
【0018】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記内部空間は、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる1つ以上の空室を含み、前記1つ以上の多孔質層のうち、1つの以上の多孔質層は、少なくとも1つの空室の内部に延伸していてもよい。その場合、前記1つの以上の多孔質層の、前記空室の内部に延伸している部分の体積の合計は、前記空室の体積の5%(パーセント)以上、30%以下とするのが望ましい。
【0019】
ここで、前記1つの以上の多孔質層の、前記空室の内部に延伸している部分の体積の合計を、前記空室の体積の30%よりも大きくすると、前記空室からの酸素の汲み出しまたは汲み入れに要する時間(ライトオフ時間)が大きくなる。ライトオフ時間を考慮すると、前記1つの以上の多孔質層の、前記空室の内部に延伸している部分の体積の合計を、前記空室の体積の30%以下にするのが望ましい。また、本件発明者は、実験(昇温試験)により、前記1つの以上の多孔質層の、前記空室の内部に延伸している部分の体積の合計を、前記空室の体積の5%以上とすることで、クラックの発生を効果的に抑制することができることを確認した。したがって、前記1つの以上の多孔質層の、前記空室の内部に延伸している部分の体積の合計を、前記空室の体積の5%以上、30%以下とすることによって、前記内部空間の破壊(クラックの発生)を効果的に抑制することができる。
【0020】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記1つ以上の多孔質層のうち、少なくとも1つの多孔質層は、非露出部分を含むように構成されてよい。前記非露出部分とは、前記スペーサ層と、前記第1の固体電解質層および前記第2の固体電解質層の少なくとも一方との間に位置する部分である。前記非露出部分は、前記スペーサ層と、前記第1の固体電解質層および前記第2の固体電解質層の少なくとも一方との両者に接し、前記内部空間に面していない。例えば、前記非露出部分は、前記スペーサ層と、前記第1の固体電解質層との間に、両者に接して両者に挟まれるように配置される部分であって、前記内部空間に面していない部分である。また、例えば、前記非露出部分は、前記スペーサ層と、前記第2の固体電解質層との間に、両者に接して両者に挟まれるように配置される部分であって、前記内部空間に面していない部分である。多孔質層が前記非露出部分を含む場合、前記非露出部分の体積は、前記非露出部分を含む当該多孔質層の体積の10%以上とするのが望ましい。
【0021】
当該構成によれば、例えば、前記スペーサ層と前記第1の固体電解質層との間に、両者に接して両者に挟まれるように前記非露出部分を配置することで、前記非露出部分を、前記スペーサ層と前記第1の固体電解質層との間の緩衝材として利用することができる。ただし、前記非露出部分の体積を小さくし過ぎると、前記スペーサ層と前記第1の固体電解質層との間の緩衝材としての前記非露出部分の効果が十分には発揮されない。そのため、前記非露出部分は、所定の体積を有するのが望ましい。そこで、本件発明者は、前記非露出部分の体積について検討を重ね、前記非露出部分の体積は、前記非露出部分を含む当該多孔質層の体積の10%以上とするのが望ましいことを確認した。前記スペーサ層と前記第2の固体電解質層との間に、両者に接して両者に挟まれるようにように配置される前記非露出部分の体積についても、同様に、前記非露出部分を含む多孔質層の体積の10%以上とするのが望ましいことを確認した。したがって、前記非露出部分の体積を、前記非露出部分を含む当該多孔質層の体積の10%以上とすることによって、応力が集中して前記内部空間の角部およびその近傍にクラックが発生してしまうといった事態を防ぐことができる。
【0022】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記1つ以上の多孔質層のうち、少なくとも1つの多孔質層は、前記内部空間の内部に配設された少なくとも1つの電極の一部に、重なっていてもよい。具体的には、前記多孔質層は、前記電極の、前記第1の固体電解質層および前記第2の固体電解質層の少なくとも一方に接する面の対向面の少なくとも一部に、重なっていてもよい。
【0023】
本件発明者は、前記内部空間の内部に配設する電極について、次のような問題が発生することがあるのに気付いた。すなわち、前記電極に例えば白金(Pt)を用いる場合、ガスセンサ素子を超時間繰り返し使用すると、酸化白金が生成することがある。そして、高温下では白金より酸化白金の方が蒸発しやすいため、酸化白金が蒸発することにより、前記電極と、前記電極が接する固体電解質層(前記第1の固体電解質層または前記第2の固体電解質層)との境界面で剥離が生じることがある。本件発明者は、前記内部空間の内部に配設する電極が、上記のような原因により固体電解質層から剥離し、これによって、ガスセンサ素子の検出の不具合を招き得るとの問題があることに気付いた。特に、ガスセンサ素子を排ガスセンサとして使用するような場合には、前記内部空間の内部に配設する電極は高温にさらされることも多く、そのため、固体電解質層からの剥離も生じやすい。
【0024】
そこで、本件発明者は、前記多孔質層を、前記内部空間の内部に配設する電極の、前記固体電解質層に接する面の対向面の少なくとも一部に重なるように配置することで、前記電極の剥離を防ぐことを考えた。すなわち、前記多孔質層によって前記電極を、前記電極が接する固体電解質層へと押さえつけることで、前記電極が前記固体電解質層から剥離するのを防ぐことができるのではないかと考えた。そして、本件発明者は、実験(電極剥離試験)により、前記多孔質層を、前記電極の、前記固体電解質層に接する面の対向面の少なくとも一部に重なるように配置することで、前記電極の剥離を抑制できることを確認した。
【0025】
したがって、当該構成によれば、前記電極が、前記電極が接する固体電解質層から剥離するのを防ぐことができ、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供することができる。
【0026】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記電極の、前記多孔質層が重なっている部分の面積は、前記電極の、前記対向面の面積の0.5%以上、20%以下としてもよい。
【0027】
ここで、前記電極の、前記電極の、前記対向面の面積に対する、前記多孔質層が重なっている部分の面積の割合を20%よりも大きくした場合、前記電極の性能(例えば、検出精度など)が低下する可能性がある。そこで、前記電極の、前記多孔質層が重なっている部分の面積は、前記電極の、前記対向面の面積の20%以下とする。
【0028】
また、本件発明者は、実験(電極剥離試験)により、前記電極の、前記多孔質層が重なっている部分の面積を、前記電極の、前記対向面の面積の0.5%以上とすることにより、前記電極の剥離を効果的に抑制できることを確認した。
【0029】
つまり、前記電極の、前記多孔質層が重なっている部分の面積を、前記電極の、前記対向面の面積の0.5%以上、20%以下とすることによって、前記電極の性能の低下を防ぎつつ、前記電極の剥離を効果的に抑制できる。したがって、当該構成によれば、前記電極の性能の低下を防ぎつつ、前記電極の剥離を効果的に抑制でき、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供することができる。
【0030】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記1つ以上の多孔質層の各々において、ジルコニア(ZrO2)の含有率を50wt%以上としてもよい。ここで、前述の通り、前記第1多孔質層は前記第1の固体電解質層に接し、また、前記第2多孔質層は前記第2の固体電解質層に接する。そして、前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層は、例えば、それぞれがジルコニア等の酸素イオンの伝導性固体電解質層により構成される。そのため、前記1つ以上の多孔質層の各々を、前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層と同様の材質とする場合、前記第1多孔質層と前記第1の固体電解質層との密着性を向上させることができ、また、前記第2多孔質層と前記第2の固体電解質層との密着性を向上させることができる。したがって、前記1つ以上の多孔質層の各々におけるジルコニア(ZrO2)の含有率を50wt%以上とすることで、前記第1多孔質層と前記第1の固体電解質層との密着性を向上させることができ、また、前記第2多孔質層と前記第2の固体電解質層との密着性を向上させることができる。
【0031】
上記一側面に係るガスセンサ素子において、前記1つ以上の多孔質層の各々は絶縁層として構成されてよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1のセンサ素子の要部を説明するための拡大図である。
【
図3】
図3は、変形例に係るセンサ素子の構成を概略的に示す断面模式図であり、被測定ガス流通部の内部に延伸していない第1多孔質層の例を示す。
【
図4】
図4は、変形例に係るセンサ素子の構成を概略的に示す断面模式図であり、測定電極44の上面の一部に重なっている第1多孔質層の例を示す。
【
図5】
図5は、変形例に係るセンサ素子の構成を概略的に示す断面模式図であり、第3内部空所に面するスペーサ層の前側面と、第2の固体電解質層とに接する第2多孔質層の例を示す。
【
図6】
図6は、変形例に係るセンサ素子の構成を概略的に示す断面模式図であり、第3内部空所に面するスペーサ層の前側面と、第1の固体電解質層と、第2の固体電解質層とに接する多孔質層の例を示す。
【
図7】
図7は、変形例に係るセンサ素子の構成を概略的に示す断面模式図であり、第1内部空所に面するスペーサ層の右側面に接する多孔質層の例を示す。
【
図8】
図8は、変形例に係るセンサ素子の構成を概略的に示す断面模式図であり、第2内部空所に面するスペーサ層の右側面に接する多孔質層の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0035】
[構成例]
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子100は、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図1に例示するガスセンサ素子100は、長手方向それぞれの端部として先端部及び後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図1の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図1の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、ガスセンサ素子100の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図1の紙面奥側をガスセンサ素子100の右側とし、紙面手前側をガスセンサ素子100の左側とする。
【0036】
ガスセンサ素子100は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオンの伝導性固体電解質層により構成される第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1の固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2の固体電解質層6の6つの層が、
図1の断面視で下側から順に積層された構造を有している。すなわち、ガスセンサ素子100は、第1の固体電解質層4、第2の固体電解質層6及びスペーサ層5により構成される積層体を備える。第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1の固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2の固体電解質層6の6つの層を形成する固体電解質は、緻密質なものであってよい。緻密質は、気孔率が5%以下であることを指す。
【0037】
ガスセンサ素子100は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに、例えば、所定の加工、配線パターンの印刷等の工程を実行した後にそれらを積層し、更に、焼成して一体化させることで製造される。一例として、ガスセンサ素子100は、複数のセラミックス層の積層体である。本実施形態では、第2の固体電解質層6の上面が、ガスセンサ素子100の上面を構成し、第1基板層1の下面が、ガスセンサ素子100の下面を構成し、各層1~6の各側面が、ガスセンサ素子100の各側面を構成する。
【0038】
ガスセンサ素子100の一先端部であって、第2の固体電解質層6の下面及び第1の固体電解質層4の上面の間には、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所20、第3拡散律速部30、第2内部空所40、第4拡散律速部16、及び第3内部空所17が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成されている。
【0039】
ガス導入口10、緩衝空間12、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所17は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた空間であって、上部を第2の固体電解質層6の下面で、下部を第1の固体電解質層4の上面で区画されるガスセンサ素子100内部の空間(内部空間)である。
【0040】
第1拡散律速部11は、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)スリットとして設けられる。また、第2拡散律速部13、第3拡散律速部30、及び第4拡散律速部16のそれぞれは、図面に垂直な方向に延びる長さが、第1内部空所20、第2内部空所40、及び3内部空所61のそれぞれよりも短い孔として設けられる。
【0041】
図1に例示するように、第2拡散律速部13および第3拡散律速部30は、いずれも、第1拡散律速部11と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリットとして設けられてもよい。これに対して、第4拡散律速部16は、第2の固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられてもよい。すなわち、第4拡散律速部16は、第1の固体電解質層4の上面に接していてもよい。第2拡散律速部13、第3拡散律速部30、及び第4拡散律速部16のそれぞれについては、後ほど詳細に説明する。ガス導入口10から第3内部空所17に至る部位(内部空間)を被測定ガス流通部8と称する。
【0042】
図1に例示するガスセンサ素子100においては、被測定ガス流通部8(具体的には、第3内部空所17)の後側は、スペーサ層5の前側面59fと、前側面59fの下端に接する第1多孔質層7aの、第3内部空所17に面する側面と、によって塞がれている。詳細は後述するが、被測定ガス流通部8の少なくとも1つの側方(前側、後側、右側、左側の少なくとも1つ)は、スペーサ層5と多孔質層7とによって塞がれる。具体的には、被測定ガス流通部8の少なくとも1つの側方は、スペーサ層5の側面59と、側面59の端部(下端、上端)に接する多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面と、によって塞がれる。
【0043】
第1多孔質層7a(多孔質層7)は多孔質な層であり、「多孔質」は、気孔率が10%以上であることを指す。多孔質層7は、例えば、ジルコニア(ZrO2)を多く含む材料により構成され、ジルコニアの含有率は50wt%以上であってもよい。また、多孔質層7は、絶縁層として構成されてもよい。多孔質層7の厚さは、例えば、10μm以上、40μm以下である。
【0044】
多孔質層7は、被測定ガス流通部8に面するように配置され、
図1に示す例では、第1多孔質層7aが被測定ガス流通部8に面するように、特に、第3内部空所17に面するように配置されている。また、多孔質層7は、スペーサ層5の少なくとも1つの側面59と接し、特に、スペーサ層5の少なくとも1つの側面59の端部(下端、上端)と接する。
図1に示す例では、第1多孔質層7aがスペーサ層5の前側面59fと接し、特に、スペーサ層5の前側面59fの下端と接している。さらに、多孔質層7は、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方に接し、特に、第1の固体電解質層4の上面および第2の固体電解質層6の下面の少なくとも一方に面している。
図1に示す例では、第1多孔質層7aが、第1の固体電解質層4に接し、特に、第1の固体電解質層4の上面に面している。このようにして、被測定ガス流通部8の側方の少なくとも1つは、スペーサ層5の側面59と、多孔質層7の被測定ガス流通部8に面する面とによって塞がれる。
図1に示す例では、被測定ガス流通部8の後側(すなわち、第3内部空所17の後側)が、スペーサ層5の前側面59fと、スペーサ層5の前側面59fに接する第1多孔質層7aの、被測定ガス流通部8に面する面と、によって塞がれている。
【0045】
被測定ガス流通部8よりも先端側(ガスセンサ素子100の前側)から遠い位置には、第3基板層3の上面及びスペーサ層5の下面の間であって、側部を第1の固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、例えば、大気等の基準ガスが導入される。ただし、ガスセンサ素子100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例として、第1の固体電解質層4は、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0046】
大気導入層48は、多孔質アルミナから成り、基準ガス導入空間43を介して基準ガスが導入されるように構成されている。加えて、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0047】
基準電極42は、第3基板層3の上面及び第1の固体電解質層4の間に挟まれるように形成され、その周囲には、上記基準ガス導入空間43に接続する大気導入層48が設けられている。基準電極42は、第1内部空所20内、第2内部空所40内、及び第3内部空所17の酸素濃度(酸素分圧)の測定に使用される。詳細は後述する。
【0048】
ガス導入口10は、被測定ガス流通部8において、外部空間に対して開口してなる部位である。ガス導入口10を通じて外部空間からガスセンサ素子100内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。本実施形態では、
図1に例示されるとおり、ガス導入口10は、ガスセンサ素子100の前面に配置される。つまり、被測定ガス流通部8は、ガスセンサ素子100の前面において開口を有するように構成される。ただし、被測定ガス流通部8が、ガスセンサ素子100の前面において開口を有するように構成されること、つまり、ガス導入口10をガスセンサ素子100の前面に配置することは、必須ではない。ガスセンサ素子100は、外部空間から被測定ガス流通部8の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、ガス導入口10を、例えば、ガスセンサ素子100の右面に配置したり、左面に配置したりしてもよい。
【0049】
ガス導入口10を、ガスセンサ素子100の前面に配置する場合、ガスセンサ素子100の各側面(右側面および左側面)では、被測定ガス流通部8は、緻密なセラミックス層により閉塞されていてもよい。セラミックス層は、例えば、ジルコニア(ZrO2)等の材料により構成されてよい。ガスセンサ素子100の各側面で、被測定ガス流通部8を、緻密なセラミックス層により閉塞する場合、ガスセンサ素子100は、当該ガス導入口10を通じて外部空間からガスセンサ素子100内に被測定ガスを取り込むように構成される。
【0050】
ただし、ガスセンサ素子100について、ガスセンサ素子100の各側面で、被測定ガス流通部8を、緻密なセラミックス層により閉塞することは必須ではない。また、ガスセンサ素子100にとって、ガス導入口10を備えることは必須ではない。すなわち、ガスセンサ素子100は、外部空間から被測定ガス流通部8の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、外部空間からガス導入口10を通じて被測定ガスを取り込むことは必須ではない。例えば、ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の側面59の少なくとも1つを緻密なセラミックス層により閉塞せずに開放しておくことによって、ガス導入口10を設けずに、外部空間から被測定ガス流通部8の内部に被測定ガスを取り込んでもよい。
【0051】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0052】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0053】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0054】
被測定ガスが、ガスセンサ素子100外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からガスセンサ素子100内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これにより、第1内部空間へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0055】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0056】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2の固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2の固体電解質層6の上面(ガスセンサ素子100の上面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2の固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0057】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2の固体電解質層6及び第1の固体電解質層4)、及び側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2の固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1の固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成される。そして、それら天井電極部22a及び底部電極部22bに接続するように、側部電極部(図示省略)が、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されている。つまり、内側ポンプ電極22は、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態の構造で配設されている。
【0058】
内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPt及びZrO2により構成されるサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0059】
ガスセンサ素子100は、主ポンプセル21において、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に正方向又は負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れ可能に構成される。第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出す場合に、汲み出される酸素は、外側ポンプ電極23から排出される。
【0060】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42により、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0061】
ガスセンサ素子100は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)を特定可能に構成される。更に、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0062】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0063】
第2内部空所40では、ガスセンサ素子100は、第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を更に行うように構成されている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ素子100において、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0064】
補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、ガスセンサ素子100と外側の適当な電極であれば足りる)、及び第2の固体電解質層6により構成される補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、第2内部空所40に面する第2の固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する。
【0065】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態の構造で、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2の固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1の固体電解質層4には、底部電極部51bが形成される。そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成される。これにより、補助ポンプ電極51は、トンネル形態の構造を有している。
【0066】
なお、補助ポンプ電極51も、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中の窒素酸化物成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0067】
ガスセンサ素子100は、補助ポンプセル50において、補助ポンプ電極51及び外側ポンプ電極23の間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間から第2内部空所40内に汲み入れ可能に構成される。
【0068】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51、基準電極42、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、及び第3基板層3により、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0069】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0070】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0071】
第4拡散律速部16は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所17に導く部位である。第4拡散律速部16は、第3内部空所17に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0072】
第3内部空所17は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部16を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所17において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
【0073】
図1に例示する第3内部空所17において、第3内部空所17の後側は、スペーサ層5の前側面59fと、スペーサ層5の前側面59fに接する第1多孔質層7aの、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面する面と、によって塞がれている。
【0074】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所17内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1の固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、第3内部空所17に面する第1の固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられる。
【0075】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、内側ポンプ電極22よりも高めた材料にて構成される。測定電極44は、第3内部空所17内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0076】
ガスセンサ素子100は、測定用ポンプセル41において、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出可能に構成される。
【0077】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、第3基板層3、測定電極44、及び基準電極42により、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧(起電力)V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0078】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部16を通じて第3内部空所17内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0079】
また、測定電極44、第1の固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすることで、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができる。これにより、被測定ガス中の窒素酸化物成分の濃度を求めることも可能である。
【0080】
また、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、第3基板層3、外側ポンプ電極23、及び基準電極42から電気化学的なセンサセル83が構成されている。ガスセンサ素子100は、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能に構成されている。
【0081】
以上の構成を有するガスセンサ素子100において、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50を作動させることにより、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスを測定用ポンプセル41に与えることができる。したがって、ガスセンサ素子100は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることで流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を特定可能に構成されている。
【0082】
更に、ガスセンサ素子100は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、ガスセンサ素子100を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ70を備えている。
図1の例では、ヒータ70は、ヒータ電極701、発熱部702、リード部73、ヒータ絶縁層74、及び圧力放散孔75を更に備えている。リード部73は、スルーホールにより構成されてよい。
【0083】
本実施形態では、ヒータ70は、ガスセンサ素子100において、ガスセンサ素子100の上面に対向する、ガスセンサ素子100の下面側に配置される。すなわち、ヒータ70は、ガスセンサ素子100の厚み方向(鉛直方向/積層方向)において、ガスセンサ素子100の上面よりもガスセンサ素子100の下面に近い位置に、配置されている。
【0084】
ヒータ電極701は、第1基板層1の下面(ガスセンサ素子100の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極701を外部電源と接続することにより、外部からヒータ70へ給電することができるようになっている。
【0085】
発熱部702は、第2基板層2及び第3基板層3に上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。発熱部702は、リード部73を介してヒータ電極701と接続されており、該ヒータ電極701を通して外部より給電されることにより発熱し、ガスセンサ素子100を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0086】
また、発熱部702は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、ガスセンサ素子100全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0087】
ヒータ絶縁層74は、発熱部702の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2及び発熱部702の間の電気的絶縁性、並びに第3基板層3及び発熱部702の間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0088】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0089】
<多孔質層>
図2は、
図1のガスセンサ素子100の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図2は、第3内部空所17(被測定ガス流通部8)の後側を塞ぐ第1多孔質層7a(多孔質層7)とスペーサ層5とについて、その詳細を示す図である。前述の通り、多孔質層7は、気孔率が10%以上の多孔質な層である。
【0090】
図2に例示する第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する面である前側面59fと、第1の固体電解質層4との両方に接している。すなわち、第1多孔質層7aは、被測定ガス流通部8に面して、スペーサ層5の前側面59fの下端と、第1の固体電解質層4の上面とに接している。第1多孔質層7aは、スペーサ層5の前側面59fの下端に接して、被測定ガス流通部8と第1の固体電解質層4の上面とに面していると言い換えてもよい。
【0091】
スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間に、両者に接して両者に挟まれるように、被測定ガス流通部8に面する第1多孔質層7aを配置する構成によって、以下の効果を期待することができる。すなわち、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間に配置される第1多孔質層7aによって、ガスセンサ素子100の(特に、前記積層体の)ヤング率を下げ、被測定ガス流通部8の角部およびその近傍に集中する応力を緩和することが期待できる。つまり、第1多孔質層7aを、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間の緩衝材として配置することによって、応力が集中して被測定ガス流通部8の角部およびその近傍にクラックが発生してしまうといった事態を防ぐことが期待できる。
【0092】
そして、詳細は後述するが、本件発明者は、実験(昇温試験)により、第1多孔質層7a(多孔質層7)によるクラック抑制効果を十分に発揮させるためには、第1多孔質層7aの気孔率は、50%以下とするのが望ましいことを確認した。前述の通り、第1多孔質層7a(多孔質層7)の気孔率は10%以上であるから、気孔率が10%以上、50%以下である第1多孔質層7aを、
図1~
図2に例示する位置に配置することで、クラックの発生(被測定ガス流通部8の破壊)を抑制することができる。
【0093】
ここで、ガスセンサ素子100において、第1多孔質層7a(多孔質層7)の厚さは、例えば40μm以下である。被測定ガス流通部8に面するように配置される第1多孔質層7aの厚みを大きくし過ぎると、第1多孔質層7aに取り込まれる酸素の量が増え、被測定ガス流通部8(特に、第1多孔質層7aが面する空室(
図1の例では第3内部空所17))からの酸素の汲み出しまたは汲み入れに要する時間(ライトオフ時間)が大きくなる。そのため、ライトオフ時間を考慮すると、第1多孔質層7aの厚みは所定の値に抑えるのが望ましく、本件発明者は、40μm以下とするのが望ましいことを確認した。第1多孔質層7aの厚さを40μm以下とすることによって、ライトオフ時間をガスセンサ素子100の実際の使用(通常の使用)に耐えられる範囲の時間とすることができる。
【0094】
また、ガスセンサ素子100において、第1多孔質層7a(多孔質層7)の厚さは、例えば10μm以上である。第1多孔質層7aの厚さを薄くし過ぎると、第1多孔質層7aによって応力の集中などを防いで、被測定ガス流通部8の破壊(クラックの発生)を抑制するという効果が十分には期待できない。そのため、第1多孔質層7aは、所定の厚みを有するのが望ましく、本件発明者は、10μm以上とするのが望ましいことを確認した。当該構成によれば、第1多孔質層7a(多孔質層7)の厚さを10μm未満にした場合に比べて、応力の集中などを防いで被測定ガス流通部8の破壊(クラックの発生)を抑制するとの効果を十分に発揮させることができる。
【0095】
ガスセンサ素子100において、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、例えば、ジルコニア(ZrO2)の含有率が50wt%以上の多孔質な層として構成されてもよい。ここで、前述の通り、第1多孔質層7aは第1の固体電解質層4に接する。そして、第1の固体電解質層4は、例えば、ジルコニア等の酸素イオンの伝導性固体電解質層により構成される。そのため、第1多孔質層7aを、第1の固体電解質層4と同様の材質とする場合、第1多孔質層7aと第1の固体電解質層4との密着性を向上させることができる。したがって、第1多孔質層7aにおけるジルコニアの含有率を50wt%以上とすることで、第1多孔質層7aと第1の固体電解質層4との密着性を向上させることができる。
【0096】
ガスセンサ素子100において、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、例えば、絶縁層として構成されてもよい。
【0097】
図2に例示するような、スペーサ層5の前側面59fの下端と第1の固体電解質層4の上面との間に、両者に接して両者に挟まれるように配置される第1多孔質層7aは、例えば、以下のように形成される。すなわち、第1の固体電解質層4の上面とスペーサ層5の下面とを接着する接着層として、多孔質層7を含む接着層を用いる。そして、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面する前側面59fの下端に位置する部分(および、その周辺)に、接着層(多孔質層7)を残すことによって、
図2に例示するような第1多孔質層7aを形成してもよい。
【0098】
すなわち、第1の固体電解質層4の上面とスペーサ層5の下面とを接着する、多孔質層7を含む接着層を、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59の一つの下端に位置する部分(および、その周辺)に残すことで、第1多孔質層7aを形成してもよい。
【0099】
図2において、第1多孔質層7aは、スペーサ層5の前側面59fの下端と、第1の固体電解質層4の上面との間に、両者に接して両者に挟まれた状態で、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面している。第1多孔質層7aは、スペーサ層5の前側面59fの下端と、第1の固体電解質層4の上面とが接しないよう、両者の間に挟まった状態で、被測定ガス流通部8に面していると捉えてもよい。
【0100】
ここで、
図1を用いて説明したように、ガスセンサ素子100において、被測定ガス流通部8は、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる1つ以上の空室を含み、例えば、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所17を含む。そして、
図2に例示する第1多孔質層7aは、第3内部空所17に面する部分である露出部分71と、第3内部空所17に面していない部分である非露出部分72と、を含んでいる。
【0101】
露出部分71は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)の内部に延伸している部分であり、つまり、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)の内部に露出している部分である。
図2に例示する露出部分71は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)の内部に延伸して、スペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4との両方に接している。露出部分71は、スペーサ層5の前側面59fの下端に接して、被測定ガス流通部8と第1の固体電解質層4の上面とに面していると言い換えてもよい。露出部分71は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の端部(下端、上端)と、多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、被測定ガス流通部8の内部へと延伸する部分である。
図2に例示する露出部分71は、スペーサ層5の前側面59fの下端と、多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、被測定ガス流通部8の内部へと延伸して、第1の固体電解質層4の上面に面している。
【0102】
図2に例示する第1多孔質層7aにおいて、第3内部空所17の内部に延伸している露出部分71の体積は、例えば、第3内部空所17の体積の5%以上、30%以下である。
【0103】
図2に例示する第1多孔質層7aについて、露出部分71の体積を、第3内部空所17の体積の30%よりも大きくすると、第3内部空所17からの酸素の汲み出しまたは汲み入れに要する時間(ライトオフ時間)が大きくなる。ライトオフ時間を考慮すると、第1多孔質層7aの、露出部分71の体積は、第3内部空所17の体積の30%以下にするのが望ましい。また、本件発明者は、後述する実験(昇温試験)により、第1多孔質層7aの、露出部分71の体積を、第3内部空所17の体積の5%以上とすることで、クラックの発生を効果的に抑制することができることを確認した。したがって、第1多孔質層7aの、露出部分71の体積を、第3内部空所17の体積の5%以上、30%以下とすることによって、被測定ガス流通部8の破壊(クラックの発生)を効果的に抑制することができる。
【0104】
非露出部分72は、多孔質層7の、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間に位置する部分であって、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との両者に接して(面して)、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面していない部分である。
図2に例示する非露出部分72は、スペーサ層5と第1の固体電解質層4とに挟まれている。非露出部分72は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の端部(下端、上端)と、多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸する部分である。
図2に例示する非露出部分72は、スペーサ層5の前側面59fの下端と、多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸して、第1の固体電解質層4の上面に面している。
【0105】
当該構成によれば、例えば、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間に、両者に接して両者に挟まれるように非露出部分72を配置することで、非露出部分72を、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間の緩衝材として利用することができる。
【0106】
ただし、非露出部分72の体積を小さくし過ぎると、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間の緩衝材としての非露出部分72の効果が十分には発揮されない。そのため、非露出部分72は、所定の体積を有するのが望ましい。そこで、本件発明者は、非露出部分72の体積について検討を重ね、非露出部分72の体積は、非露出部分72を含む多孔質層7の体積の10%以上とするのが望ましいことを確認した。
【0107】
そのため、
図2に例示する第1多孔質層7aにおいて、非露出部分72の体積は、例えば、
図2に例示する第1多孔質層7aの体積の10%以上である。したがって、非露出部分72の体積を、非露出部分72を含む多孔質層7の体積の10%以上とすることによって、応力が集中して被測定ガス流通部8の角部およびその近傍にクラックが発生してしまうといった事態を防ぐことができる。
【0108】
なお、以下に
図5などを用いて説明する第2多孔質層7b(多孔質層7)についても、第1多孔質層7aと同様に、例えば、気孔率は10%以上、50%以下であり、また、厚さは10μm以上、40μm以下であることが望ましい。また、第2多孔質層7b(多孔質層7)は、第1多孔質層7aと同様に、例えば、ジルコニアの含有率が50wt%以上の多孔質な層として構成されてもよいし、例えば、絶縁層として構成されてもよい。さらに、第2多孔質層7b(多孔質層7)についても、第1多孔質層7aと同様に、非露出部分72を含む場合、非露出部分72の体積は、例えば、非露出部分72を含む多孔質層7(第2多孔質層7b)の体積の10%以上である。
【0109】
図1および
図2には、第3内部空所17(被測定ガス流通部8)に面して、スペーサ層5の前側面59fに接する第1多孔質層7a(多孔質層7)の例を示した。しかしながら、第3内部空所17に面する多孔質層7は、第3内部空所17(被測定ガス流通部8)を区画するスペーサ層5の右側面59rおよび左側面59lの少なくとも一方に接してもよい。また、ガス導入口10をガスセンサ素子100の前面に配置しない場合、被測定ガス流通部8に面する多孔質層7は、被測定ガス流通部8の前側を区画するスペーサ層5の後側面59bに接してもよい。
【0110】
<特徴>
図1を用いて説明したように、ガスセンサ素子100は、被測定ガスが導入される内部空間である被測定ガス流通部8が設けられる積層体と、被測定ガス流通部8に面するように配置される1つ以上の多孔質層7と、を備える。前記積層体は、第1の固体電解質層4、第2の固体電解質層6及びスペーサ層5により構成される。前記積層体には、第1の固体電解質層4及び第2の固体電解質層6がスペーサ層5を介して積層されることで、第1の固体電解質層4及び第2の固体電解質層6の間に、被測定ガス流通部8が設けられる。
【0111】
ガスセンサ素子100が備える、被測定ガス流通部8に面するように配置される1つ以上の多孔質層7は、
図1~
図2に例示したような第1多孔質層7a、および、
図5、
図7~
図8を用いて説明するような第2多孔質層7bの少なくとも一方を含む。第1多孔質層7aは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の少なくとも1つ(例えば、前側面59f、後側面59b、右側面59r、左側面59lのいずれか1つ)と、第1の固体電解質層4と、の両方に接する。つまり、第1多孔質層7aは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の少なくとも1つと、第1の固体電解質層4と、の両方に接して、被測定ガス流通部8に面するように配置される。第2多孔質層7bは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の少なくとも1つ(例えば、前側面59f、後側面59b、右側面59r、左側面59lのいずれか1つ)と、第2の固体電解質層6と、の両方に接する。つまり、第2多孔質層7bは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の少なくとも1つと、第2の固体電解質層6と、の両方に接して、被測定ガス流通部8に面するように配置される。そして、ガスセンサ素子100が備える、前記1つ以上の多孔質層7の各々の気孔率は、10%以上、50%以下である。
【0112】
当該構成では、第1多孔質層7aは、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部、特に、スペーサ層と第1の固体電解質層との境界に形成される角部(スペーサ層と第1の固体電解質層との接点)に相当する位置に、前記内部空間に面するように配置される。同様に、第2多孔質層7bは、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部、特に、スペーサ層と第2の固体電解質層との境界に形成される角部(スペーサ層と第2の固体電解質層との接点)に相当する位置に、前記内部空間に面するように配置される。つまり、第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの少なくとも一方は、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部に相当する位置に、前記内部空間に面するように配置される。このように配置される第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの少なくとも一方によって、つまり、多孔質層7によって、従来のガスセンサ素子における内部空間の角部に相当する位置に集中する応力を緩和することができる。
【0113】
そして、本件発明者は、実験(後述する昇温試験)により、多孔質層7の気孔率を50%以下とすることによって、多孔質層7がクラックの発生を抑制できることを確認した。また、多孔質層7は、「多孔質である」という性質から、気孔率を10%以上である。そのため、多孔質層7(第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7b)の気孔率は、10%以上、50%以下とされる。
【0114】
したがって、ガスセンサ素子100は、角部およびその近傍でクラックが発生して内部空間(被測定ガス流通部8)が破壊されるという事態を防ぐことができ、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用することができる。
【0115】
ガスセンサ素子100において、多孔質層7は被測定ガス流通部8に面するように配置されればよく、例えば、被測定ガス流通部8に含まれる第1内部空所20、第2内部空所40、および第3内部空所17の少なくとも1つに面するように配置されればよい。すなわち、多孔質層7は、被測定ガス流通部8(内部空間)の含む、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる空室(第1内部空所20、第2内部空所40、および、第3内部空所17)の少なくとも1つに面していればよい。
【0116】
ガスセンサ素子100において、第1多孔質層7aは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59の少なくとも1つと、第1の固体電解質層4とに接して、被測定ガス流通部8に面するように配置されればよい。第1多孔質層7aは、例えば、前側面59f、後側面59b、右側面59r、左側面59lのいずれかの下端と、第1の固体電解質層4の上面とに接して、被測定ガス流通部8に面するように配置されればよい。
【0117】
ガスセンサ素子100において、第2多孔質層7bは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59の少なくとも1つと、第2の固体電解質層6とに接して、被測定ガス流通部8に面するように配置されればよい。第2多孔質層7bは、例えば、前側面59f、後側面59b、右側面59r、左側面59lのいずれかの上端と、第2の固体電解質層6の下面とに接して、被測定ガス流通部8に面するように配置されればよい。
【0118】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良及び変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状及び寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0119】
(被測定ガス流通部の内部への延伸の要否)
図3は、変形例に係るガスセンサ素子100の構成を概略的に示す断面模式図であり、被測定ガス流通部8の内部に延伸していない第1多孔質層7aの例を示す。
図1および
図2に例示した多孔質層7(第1多孔質層7a)は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)の内部に延伸している部分である露出部分71を含んでいた。しかしながら、多孔質層7にとって、露出部分71を含むことは必須ではなく、例えば、
図3に例示するように、多孔質層7は、非露出部分72を含み、露出部分71を含まなくてもよい。
【0120】
すなわち、
図3に例示する第1多孔質層7a(多孔質層7)は、
図1および
図2に例示した多孔質層7(第1多孔質層7a)と同様に、スペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4との両方に接している。すなわち、
図3に例示する第1多孔質層7aは、スペーサ層5の前側面59fの下端に接すると共に、第1の固体電解質層4の上面に接している(面している)。そして、
図3に例示する第1多孔質層7aは、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面しているが、被測定ガス流通部8の内部には延伸しておらず、つまり、露出部分71を含んでいない。
【0121】
図3に例示したように、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する少なくとも1つの側面(例えば、前側面59f)と、第1の固体電解質層4とに接して、被測定ガス流通部8に面していればよい。第1多孔質層7aは、被測定ガス流通部8の内部に延伸していなくともよく、つまり、被測定ガス流通部8の内部に延伸する露出部分71を含まなくてもよい。
【0122】
同様に、
図5等を用いて後述する第2多孔質層7b(多孔質層7)は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する少なくとも1つの側面(例えば、前側面59f)と、第2の固体電解質層6とに接して、被測定ガス流通部8に面していればよい。第2多孔質層7bは、被測定ガス流通部8の内部に延伸していなくともよく、つまり、被測定ガス流通部8の内部に延伸する露出部分71を含まなくてもよい。
【0123】
(電極の、被測定ガス流通部に面する面の一部への重なりの要否)
図4は、変形例に係るガスセンサ素子100の構成を概略的に示す断面模式図であり、測定電極44の上面の一部に重なっている第1多孔質層7aの例を示す。
図1および
図2に例示した多孔質層7(第1多孔質層7a)は、測定電極44の、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面する面に重なっていなかった。しかしながら、
図4に例示するように、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、測定電極44の、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面する面の一部に重なっていてもよい。
【0124】
すなわち、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極(例えば、測定電極44)の、第1の固体電解質層4に接する(面する)面の対向面の少なくとも一部に、重なっていてもよい。
図4に示す例では、第1多孔質層7aが、測定電極44の上面の一部に、重なっている。
【0125】
同様に、第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極(例えば、天井電極部22a、天井電極部51a)の、第2の固体電解質層6に接する(面する)面の対向面の少なくとも一部に、重なっていてもよい。第2多孔質層7bが、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極の、第2の固体電解質層6に接する(面する)面の対向面の少なくとも一部に、重なっている構成について、詳細は、
図7および
図8を用いて後述する。
【0126】
ここで、本件発明者は、被測定ガス流通部8の内部に配設する電極について、次のような問題が発生することがあるのに気付いた。すなわち、前記電極に例えば白金(Pt)を用いる場合、ガスセンサ素子を超時間繰り返し使用すると、酸化白金が生成することがある。そして、高温下では白金より酸化白金の方が蒸発しやすいため、酸化白金が蒸発することにより、前記電極と、前記電極が接する固体電解質層(第1の固体電解質層4または第2の固体電解質層6)との境界面で剥離が生じることがある。本件発明者は、被測定ガス流通部8の内部に配設する電極が、上記のような原因により固体電解質層から剥離し、これによって、ガスセンサ素子の検出の不具合を招き得るとの問題があることに気付いた。特に、ガスセンサ素子を排ガスセンサとして使用するような場合には、被測定ガス流通部8の内部に配設する電極は高温にさらされることも多く、そのため、固体電解質層からの剥離も生じやすい。
【0127】
そこで、本件発明者は、多孔質層7を、被測定ガス流通部8の内部に配設する電極の、前記固体電解質層に接する面の対向面の少なくとも一部に重なるように配置することで、前記電極の剥離を防ぐことを考えた。すなわち、多孔質層7によって前記電極を、前記電極が接する固体電解質層へと押さえつけることで、前記電極が前記固体電解質層から剥離するのを防ぐことができるのではないかと考えた。そして、本件発明者は、実験(後述する電極剥離試験)により、多孔質層7を、前記電極の、前記固体電解質層に接する面の対向面の少なくとも一部に重なるように配置することで、前記電極の剥離を抑制できることを確認した。
【0128】
したがって、当該構成によれば、前記電極が、前記電極が接する固体電解質層から剥離するのを防ぐことができ、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供することができる。
【0129】
図4に例示するガスセンサ素子100おいて、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)の内部に配設された測定電極44の、第1の固体電解質層4に接する(面する)面の対向面の一部に、重なっている。したがって、ガスセンサ素子100は、測定電極44が、測定電極44の接する第1の固体電解質層4から剥離するのを防ぐことができ、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用することができる。
【0130】
図4に例示するガスセンサ素子100において、測定電極44の、第1多孔質層7aが重なっている部分の面積は、例えば、測定電極44の、第1の固体電解質層4に接する面の対向面の面積の0.5%以上、20%以下である。
【0131】
ここで、測定電極44の、第1の固体電解質層4に接する面の対向面の面積全体に対する、第1多孔質層7aが重なっている部分の面積の割合を20%よりも大きくした場合、測定電極44の性能(例えば、検出精度など)が低下する可能性がある。そこで、測定電極44の、第1多孔質層7aが重なっている部分の面積は、測定電極44の、第1の固体電解質層4に接する面の対向面の面積の20%以下とする。
【0132】
また、本件発明者は、実験(電極剥離試験)により、測定電極44の、第1多孔質層7aが重なっている部分の面積を、測定電極44の、第1の固体電解質層4に接する面の対向面の面積の0.5%以上とすることにより、測定電極44の剥離を効果的に抑制できることを確認した。
【0133】
つまり、測定電極44の、第1多孔質層7aが重なっている部分の面積を、測定電極44の、第1の固体電解質層4に接する面の面積の0.5%以上、20%以下とすることによって、測定電極44の性能の低下を防ぎつつ、測定電極44の剥離を効果的に抑制できる。したがって、ガスセンサ素子100は、測定電極44の性能の低下を防ぎつつ、測定電極44の剥離を効果的に抑制でき、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用することができる。電極剥離試験について、その詳細は後述する。
【0134】
(第2多孔質層を備える例)
図5は、変形例に係るガスセンサ素子100の構成を概略的に示す断面模式図であり、第3内部空所17に面するスペーサ層5の前側面59fと、第2の固体電解質層6とに接する第2多孔質層7bの例を示す。これまでに
図1~
図4を用いて説明してきたガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4とに接する第1多孔質層7aを備えていた。しかしながら、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7は、第1多孔質層7aに限られるものではなく、第2多孔質層7bであってもよい。
図5に例示するガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第2の固体電解質層6とに接する第2多孔質層7bを備えている。
【0135】
すなわち、
図5に例示するように、第2多孔質層7bは、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第2の固体電解質層6との両方に接している。すなわち、第2多孔質層7bは、被測定ガス流通部8に面して、スペーサ層5の前側面59fの上端と、第2の固体電解質層6の下面とに接している。第2多孔質層7bは、スペーサ層5の前側面59fの上端に接して、被測定ガス流通部8と第2の固体電解質層6の下面とに面していると言い換えてもよい。
【0136】
図5に例示するような、スペーサ層5の前側面59fの上端と第2の固体電解質層6の下面との間に、両者に接して両者に挟まれるように配置される第2多孔質層7bは、例えば、以下のように形成される。すなわち、第2の固体電解質層6の下面とスペーサ層5の上面とを接着する接着層として、多孔質層7を含む接着層を用いる。そして、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面する前側面59fの上端に位置する部分(および、その周辺)に、接着層(多孔質層7)を残すことによって、
図5に例示するような第2多孔質層7bを形成してもよい。
【0137】
すなわち、第2の固体電解質層6の下面とスペーサ層5の上面とを接着する、多孔質層7を含む接着層を、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59の一つの上端に位置する部分(および、その周辺)に残すことで、第2多孔質層7bを形成してもよい。
【0138】
一例では、第2多孔質層7bは、
図5、
図7~
図8に例示するように、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59の上端と、第2の固体電解質層6の下面とに接して、被測定ガス流通部8に面するように配置されてもよい。つまり、スペーサ層5と第2の固体電解質層6との間に、両者に接して両者に挟まれるように、被測定ガス流通部8に面する第2多孔質層7bを配置してもよい。当該構成では、スペーサ層5と第2の固体電解質層6との間に配置される第2多孔質層7bによって、ガスセンサ素子の(特に、前記積層体の)ヤング率を下げ、内部空間の角部およびその近傍に集中する応力を緩和することができる。つまり、第2多孔質層7bを、スペーサ層5と第2の固体電解質層6との間の緩衝材として配置することによって、応力が集中して被測定ガス流通部8の角部およびその近傍にクラックが発生してしまうといった事態を防ぐことができる。
【0139】
図5に例示する第2多孔質層7b(多孔質層7)おいて、第1多孔質層7aと同様に、例えば、気孔率は10%以上、50%以下であり、また、厚さは10μm以上、40μm以下であることが望ましい。被測定ガス流通部8に面するように配置される第2多孔質層7bの厚みを大きくし過ぎると、第2多孔質層7bに取り込まれる酸素の量が増え、被測定ガス流通部8(特に、第2多孔質層7bが面する空室(
図5の例では第3内部空所17))からの酸素の汲み出しまたは汲み入れに要する時間(ライトオフ時間)が大きくなる。そのため、ライトオフ時間を考慮すると、第2多孔質層7bの厚みは所定の値に抑えるのが望ましく、本件発明者は、40μm以下とするのが望ましいことを確認した。第2多孔質層7bの厚さを40μm以下とすることによって、ライトオフ時間をガスセンサ素子100の実際の使用(通常の使用)に耐えられる範囲の時間とすることができる。また、第2多孔質層7b(多孔質層7)は、第1多孔質層7aと同様に、例えば、ジルコニアの含有率が50wt%以上の多孔質な層として構成されてもよい。前述の通り、第2多孔質層7bは第2の固体電解質層6に接する。そして、第2の固体電解質層6は、例えば、ジルコニア等の酸素イオンの伝導性固体電解質層により構成される。そのため、第2多孔質層7bを、第2の固体電解質層6と同様の材質とする場合、第2多孔質層7bと第2の固体電解質層6との密着性を向上させることができる。したがって、第2多孔質層7bにおけるジルコニアの含有率を50wt%以上とすることで、第2多孔質層7bと第2の固体電解質層6との密着性を向上させることができる。さらに、第2多孔質層7b(多孔質層7)は、例えば、絶縁層として構成されてもよい。
【0140】
図5に例示する第2多孔質層7b(多孔質層7)は、
図1~
図2を用いて説明した第1多孔質層7aと同様に、第3内部空所17に面する部分である露出部分71と、第3内部空所17に面していない部分である非露出部分72と、を含んでいる。
図5に例示する第2多孔質層7bにおいて、露出部分71は、スペーサ層5の前側面59fの上端と、第2多孔質層7bの、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、第3内部空所17の内部へと延伸して、第2の固体電解質層6の下面に面している。
図5に例示する第2多孔質層7bにおいて、第3内部空所17の内部に延伸している露出部分71の体積は、例えば、第3内部空所17の体積の5%以上、30%以下である。
【0141】
図5に例示する第2多孔質層7b(多孔質層7)において、非露出部分72は、第2多孔質層7bの、スペーサ層5と第2の固体電解質層6との間に位置する部分である。非露出部分72は、スペーサ層5と第2の固体電解質層6との両者に接して(面して)、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面していない。
図5に例示する第2多孔質層7bにおいて、非露出部分72は、スペーサ層5の前側面59fの上端と、多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸して、第2の固体電解質層6の下面に面している。そして、
図5に例示する第2多孔質層7bにおいて、非露出部分72の体積は、例えば、
図5に例示する第2多孔質層7bの体積の10%以上である。
【0142】
ガスセンサ素子100は、
図1~
図4を用いて説明してきた第1多孔質層7a、および、
図5を用いて説明した第2多孔質層7bの少なくとも一方を備えればよく、例えば、第1多孔質層7aと第2多孔質層7bとを両方備えてもよい。
【0143】
(第1の固体電解質層と第2の固体電解質層とに接する多孔質層を備える例)
図6は、変形例に係るガスセンサ素子100の構成を概略的に示す断面模式図であり、第3内部空所17に面するスペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4と、第2の固体電解質層6とに接する多孔質層7の例を示す。これまでに
図1~
図5を用いて説明してきたガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4または第2の固体電解質層6とに接する多孔質層7を備えていた。しかしながら、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7は、第1の固体電解質層4または第2の固体電解質層6に接するものに限られるものではなく、第1の固体電解質層4と第2の固体電解質層6との両方に接するものであってもよい。
【0144】
図6に例示する多孔質層7は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する前側面59fと、第1の固体電解質層4と、第2の固体電解質層6とに接している。
図6に例示する多孔質層7は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4との両方に接する第1多孔質層7aがさらに第2の固体電解質層6に接して(面して)いる例と捉えることができる。また、
図6に例示する多孔質層7は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第2の固体電解質層6との両方に接する第2多孔質層7bがさらに第1の固体電解質層4に接して(面して)いる例と捉えることもできる。
【0145】
図6に例示するように、ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4と、第2の固体電解質層6とに接する多孔質層7を備えてもよい。
【0146】
図6に例示する多孔質層7は、これまでに説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、気孔率は10%以上、50%以下であり、また、厚さは10μm以上、40μm以下であることが望ましい。また、
図6に例示する多孔質層7は、第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、ジルコニアの含有率が50wt%以上の多孔質な層として構成されてもよいし、例えば、絶縁層として構成されてもよい。
【0147】
(第1内部空所に面する多孔質層を備える例)
図7は、変形例に係るガスセンサ素子100の構成を概略的に示す断面模式図であり、第1内部空所20に面するスペーサ層5の右側面59rに接する多孔質層7(第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7b)の例を示す。これまでに
図1~
図6を用いて説明してきたガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8(第3内部空所17)に面して、スペーサ層5の前側面59fと、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方とに接する多孔質層7を備えていた。しかしながら、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7が面するのは、第3内部空所17に限られるものではない。また、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7が接するのは、スペーサ層5の前側面59fに限られるものではない。
【0148】
図7に例示する第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第1内部空所20)に面して、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する面である右側面59rと、第1の固体電解質層4との両方に接している。すなわち、第1多孔質層7aは、被測定ガス流通部8に面して、スペーサ層5の右側面59rの下端と、第1の固体電解質層4の上面とに接している。第1多孔質層7aは、スペーサ層5の右側面59rの下端に接して、被測定ガス流通部8と第1の固体電解質層4の上面とに面していると言い換えてもよい。
【0149】
同様に、
図7に例示する第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第1内部空所20)に面して、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する面である右側面59rと、第2の固体電解質層6との両方に接している。すなわち、第2多孔質層7bは、被測定ガス流通部8に面して、スペーサ層5の右側面59rの上端と、第2の固体電解質層6の下面とに接している。第2多孔質層7bは、スペーサ層5の右側面59rの上端に接して、被測定ガス流通部8と第2の固体電解質層6の下面とに面していると言い換えてもよい。
【0150】
図7に例示する第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第1内部空所20)の内部に配設された底部電極部22bの、第1の固体電解質層4に接する(面する)面の対向面(図では上面)の少なくとも一部に、重なっている。
【0151】
同様に、
図7に例示する第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第1内部空所20)の内部に配設された天井電極部22aの、第2の固体電解質層6に接する(面する)面の対向面(図では下面)の少なくとも一部に、重なっている。
【0152】
図7には、ガスセンサ素子100が第1多孔質層7aと第2多孔質層7bとを備える例を示した。しかしながら、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7は、第1多孔質層7aと第2多孔質層7bとの少なくとも一方であればよく、第1多孔質層7aと第2多孔質層7bとを両方とも備えることは必須ではない。
【0153】
また、
図7において、第1多孔質層7aは底部電極部22bの上面の一部に重なり、第2多孔質層7bは、天井電極部22aの下面の一部に重なっている。しかしながら、ガスセンサ素子100にとって、第1多孔質層7aが底部電極部22bの上面の一部に重なっていることは必須ではなく、第1多孔質層7aは底部電極部22bの上面の一部に重なっていなくてもよい。同様に、ガスセンサ素子100にとって、第2多孔質層7bが天井電極部22aの下面の一部に重なっていることは必須ではなく、第2多孔質層7bは天井電極部22aの下面の一部に重なっていなくてもよい。
【0154】
図7に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、気孔率は10%以上、50%以下であり、また、厚さは10μm以上、40μm以下であることが望ましい。
図7に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、ジルコニアの含有率が50wt%以上の多孔質な層として構成されてもよい。また、
図7に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、絶縁層として構成されてもよい。
【0155】
図7に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに
図1~
図2、
図4~5を用いて説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、露出部分71と非露出部分72とを含んでいる。
【0156】
図7に例示する第1多孔質層7aにおいて、露出部分71は、スペーサ層5の右側面59rの下端と、第1多孔質層7aの、第1内部空所20に面する面とが接触する位置から、第1内部空所20の内部へと延伸して、第1の固体電解質層4の上面に面している。
図7に例示する第2多孔質層7bにおいて、露出部分71は、スペーサ層5の右側面59rの上端と、第2多孔質層7bの、第1内部空所20に面する面とが接触する位置から、第1内部空所20の内部へと延伸して、第2の固体電解質層6の下面に面している。
【0157】
図7において、第1多孔質層7aの露出部分71の体積と、第2多孔質層7bの露出部分71の体積との合計は、例えば、第1内部空所20の体積の5%以上、30%以下である。
【0158】
図7に例示する第1多孔質層7aにおいて、非露出部分72は、第1多孔質層7aの、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間に位置して、第1内部空所20(被測定ガス流通部8)に面していない部分である。
図7に例示する第1多孔質層7aの非露出部分72は、スペーサ層5の右側面59rの下端と、第1多孔質層7aの、第1内部空所20に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸して、第1の固体電解質層4の上面に面している。そして、
図7に例示する第1多孔質層7aにおいて、非露出部分72の体積は、例えば、
図7に例示する第1多孔質層7aの体積の10%以上である。
【0159】
図7に例示する第2多孔質層7bにおいて、非露出部分72は、第2多孔質層7bの、スペーサ層5と第2の固体電解質層6との間に位置して、第1内部空所20(被測定ガス流通部8)に面していない部分である。
図7に例示する第2多孔質層7bの非露出部分72は、スペーサ層5の右側面59rの上端と、第2多孔質層7bの、第1内部空所20に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸して、第2の固体電解質層6の下面に面している。そして、
図7に例示する第2多孔質層7bにおいて、非露出部分72の体積は、例えば、
図7に例示する第2多孔質層7bの体積の10%以上である。
【0160】
図7に例示するガスセンサ素子100おいて、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第1内部空所20)の内部に配設された底部電極部22bの、第1の固体電解質層4に接する(面する)面の対向面の一部に、重なっている。特に、
図7に例示するガスセンサ素子100において、底部電極部22bの、第1多孔質層7aが重なっている部分の面積は、例えば、底部電極部22bの、第1の固体電解質層4に接する面の対向面の面積の0.5%以上、20%以下である。
【0161】
また、
図7に例示するガスセンサ素子100おいて、第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第1内部空所20)の内部に配設された天井電極部22aの、第2の固体電解質層6に接する(面する)面の対向面の一部に、重なっている。特に、
図7に例示するガスセンサ素子100において、天井電極部22aの、第2多孔質層7bが重なっている部分の面積は、例えば、天井電極部22aの、第2の固体電解質層6に接する面の対向面の面積の0.5%以上、20%以下である。
【0162】
図7には、第1内部空所20(被測定ガス流通部8)に面して、スペーサ層5の右側面59rに接する多孔質層7(第1多孔質層7a、第2多孔質層7b)の例を示した。しかしながら、第1内部空所20に面する多孔質層7は、第1内部空所20(被測定ガス流通部8)を区画するスペーサ層5の左側面59lに接してもよい。また、ガス導入口10をガスセンサ素子100の前面に配置しない場合、被測定ガス流通部8に面する多孔質層7は、被測定ガス流通部8の前側を区画するスペーサ層5の後側面59bに接してもよい。
【0163】
(第2内部空所に面する多孔質層を備える例)
図8は、変形例に係るガスセンサ素子100の構成を概略的に示す断面模式図であり、第2内部空所40に面するスペーサ層5の右側面59rに接する多孔質層7(第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7b)の例を示す。
【0164】
図8に例示する第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第2内部空所40)に面して、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する面である右側面59rと、第1の固体電解質層4との両方に接している。すなわち、第1多孔質層7aは、被測定ガス流通部8に面して、スペーサ層5の右側面59rの下端と、第1の固体電解質層4の上面とに接している。第1多孔質層7aは、スペーサ層5の右側面59rの下端に接して、被測定ガス流通部8と第1の固体電解質層4の上面とに面していると言い換えてもよい。
【0165】
同様に、
図8に例示する第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第2内部空所40)に面して、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する面である右側面59rと、第2の固体電解質層6との両方に接している。すなわち、第2多孔質層7bは、被測定ガス流通部8に面して、スペーサ層5の右側面59rの上端と、第2の固体電解質層6の下面とに接している。第2多孔質層7bは、スペーサ層5の右側面59rの上端に接して、被測定ガス流通部8と第2の固体電解質層6の下面とに面していると言い換えてもよい。
【0166】
図8に例示する第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第2内部空所40)の内部に配設された底部電極部51bの、第1の固体電解質層4に接する(面する)面の対向面(図では上面)の少なくとも一部に、重なっている。
【0167】
同様に、
図8に例示する第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第2内部空所40)の内部に配設された天井電極部51aの、第2の固体電解質層6に接する(面する)面の対向面(図では下面)の少なくとも一部に、重なっている。
【0168】
図8には、ガスセンサ素子100が第1多孔質層7aと第2多孔質層7bとを備える例を示した。しかしながら、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7は、第1多孔質層7aと第2多孔質層7bとの少なくとも一方であればよく、第1多孔質層7aと第2多孔質層7bとを両方とも備えることは必須ではない。
【0169】
また、
図8において、第1多孔質層7aは底部電極部51bの上面の一部に重なり、第2多孔質層7bは、天井電極部51aの下面の一部に重なっている。しかしながら、ガスセンサ素子100にとって、第1多孔質層7aが底部電極部51bの上面の一部に重なっていることは必須ではなく、第1多孔質層7aは底部電極部51bの上面の一部に重なっていなくてもよい。同様に、ガスセンサ素子100にとって、第2多孔質層7bが天井電極部51aの下面の一部に重なっていることは必須ではなく、第2多孔質層7bは天井電極部51aの下面の一部に重なっていなくてもよい。
【0170】
図8に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、気孔率は10%以上、50%以下であり、また、厚さは10μm以上、40μm以下であることが望ましい。
図8に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、ジルコニアの含有率が50wt%以上の多孔質な層として構成されてもよい。また、
図8に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、例えば、絶縁層として構成されてもよい。
【0171】
図8に例示する第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの各々は、これまでに
図1~
図2、
図4~5を用いて説明してきた第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bと同様に、露出部分71と非露出部分72とを含んでいる。
【0172】
図8に例示する第1多孔質層7aにおいて、露出部分71は、スペーサ層5の右側面59rの下端と、第1多孔質層7aの、第2内部空所40に面する面とが接触する位置から、第2内部空所40の内部へと延伸して、第1の固体電解質層4の上面に面している。
図8に例示する第2多孔質層7bにおいて、露出部分71は、スペーサ層5の右側面59rの上端と、第2多孔質層7bの、第2内部空所40に面する面とが接触する位置から、第2内部空所40の内部へと延伸して、第2の固体電解質層6の下面に面している。
【0173】
図8において、第1多孔質層7aの露出部分71の体積と、第2多孔質層7bの露出部分71の体積との合計は、例えば、第2内部空所40の体積の5%以上、30%以下である。
【0174】
図8に例示する第1多孔質層7aにおいて、非露出部分72は、第1多孔質層7aの、スペーサ層5と第1の固体電解質層4との間に位置して、第2内部空所40(被測定ガス流通部8)に面していない部分である。
図8に例示する第1多孔質層7aの非露出部分72は、スペーサ層5の右側面59rの下端と、第1多孔質層7aの、第2内部空所40に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸して、第1の固体電解質層4の上面に面している。そして、
図8に例示する第1多孔質層7aにおいて、非露出部分72の体積は、例えば、
図8に例示する第1多孔質層7aの体積の10%以上である。
【0175】
図8に例示する第2多孔質層7bにおいて、非露出部分72は、第2多孔質層7bの、スペーサ層5と第2の固体電解質層6との間に位置して、第2内部空所40(被測定ガス流通部8)に面していない部分である。
図8に例示する第2多孔質層7bの非露出部分72は、スペーサ層5の右側面59rの上端と、第2多孔質層7bの、第2内部空所40に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸して、第2の固体電解質層6の下面に面している。そして、
図8に例示する第2多孔質層7bにおいて、非露出部分72の体積は、例えば、
図8に例示する第2多孔質層7bの体積の10%以上である。
【0176】
図8に例示するガスセンサ素子100おいて、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第2内部空所40)の内部に配設された底部電極部51bの、第1の固体電解質層4に接する(面する)面の対向面の一部に、重なっている。特に、
図7に例示するガスセンサ素子100において、底部電極部51bの、第1多孔質層7aが重なっている部分の面積は、例えば、底部電極部51bの、第1の固体電解質層4に接する面の対向面の面積の0.5%以上、20%以下である。
【0177】
また、
図8に例示するガスセンサ素子100おいて、第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8(第2内部空所40)の内部に配設された天井電極部51aの、第2の固体電解質層6に接する(面する)面の対向面の一部に、重なっている。特に、
図8に例示するガスセンサ素子100において、天井電極部51aの、第2多孔質層7bが重なっている部分の面積は、例えば、天井電極部51aの、第2の固体電解質層6に接する面の対向面の面積の0.5%以上、20%以下である。
【0178】
図8には、第2内部空所40(被測定ガス流通部8)に面して、スペーサ層5の右側面59rに接する多孔質層7(第1多孔質層7a、第2多孔質層7b)の例を示した。しかしながら、第2内部空所40に面する多孔質層7は、第2内部空所40(被測定ガス流通部8)を区画するスペーサ層5の左側面59lに接してもよい。また、ガス導入口10をガスセンサ素子100の前面に配置しない場合、被測定ガス流通部8に面する多孔質層7は、被測定ガス流通部8の前側を区画するスペーサ層5の後側面59bに接してもよい。
【0179】
図4、
図6~
図8に例示したように、ガスセンサ素子100において、多孔質層7(第1多孔質層7a、第2多孔質層7b)のうち、少なくとも1つの多孔質層7は、被測定ガス流通部8の内部に配設された少なくとも1つの電極の一部に、重なっている。具体的には、多孔質層7は、前記電極の、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方に接する面の対向面の少なくとも一部に、重なっている。
図4および
図6には、測定電極44の上面の一部に第1多孔質層7a(多孔質層7)が重なっている例を示した。また、
図7には、第1多孔質層7aが底部電極部22bの上面の一部に重なり、第2多孔質層7bが天井電極部22aの下面の一部に重なる例を示した。さらに、
図8には、第1多孔質層7aが底部電極部51bの上面の一部に重なり、第2多孔質層7bが天井電極部51aの下面の一部に重なる例を示した。測定電極44、天井電極部22a、底部電極部22b、天井電極部51a、底部電極部51bは、被測定ガス流通部8(内部空間)の内部に配設された電極の例である。
【0180】
そして、ガスセンサ素子100において、前記電極の、多孔質層7が重なっている部分の面積は例えば、、前記電極の、前記対向面の面積の0.5%以上、20%以下である。
【0181】
これまでに説明してきたガスセンサ素子100について、留意すべき事項を以下に例示する。
【0182】
(I)多孔質層が面する空室について
ガスセンサ素子100において、多孔質層7は、被測定ガス流通部8に面している。被測定ガス流通部8は、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる空室を1つ以上含み、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7は、少なくとも1つの空室に面している。例えば、多孔質層7は、被測定ガス流通部8に含まれる空室のうち、
図1~6に例示したように第3内部空所17に面していてもよいし、
図7に例示したように第1内部空所20に面していてもよいし、
図8に例示したように第2内部空所40に面していてもよい。
【0183】
ガスセンサ素子100は、1つ以上の多孔質層7を備えていればよく、多孔質層7が面している空室は1つであってもよいし、複数であってもよい。例えば、ガスセンサ素子100が備える1つ以上の多孔質層7がいずれも、第1内部空所20にのみ面していてもよいし、第2内部空所40にのみ面していてもよいし、第3内部空所17にのみ面していてもよい。
【0184】
同様に、ガスセンサ素子100は、第1内部空所20に面する1つ以上の多孔質層7と、第2内部空所40に面する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。また、ガスセンサ素子100は、第1内部空所20に面する1つ以上の多孔質層7と、第3内部空所17に面する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。さらに、ガスセンサ素子100は、第2内部空所40に面する1つ以上の多孔質層7と、第3内部空所17に面する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。ガスセンサ素子100は、第1内部空所20に面する1つ以上の多孔質層7と、第2内部空所40に面する1つ以上の多孔質層7と、第3内部空所17に面する1つ以上の多孔質層7と、を備えてもよい。
【0185】
例えば、ガスセンサ素子100は、第1内部空所20に面する第1多孔質層7a、第2内部空所40に面する第1多孔質層7a、第3内部空所17に面する第1多孔質層7a、第1内部空所20に面する第2多孔質層7b、第2内部空所40に面する第2多孔質層7b、第3内部空所17に面する第2多孔質層7bの少なくとも1つを備えていればよい。
【0186】
なお、多孔質層7のうち、第1多孔質層7aは、スペーサ層5の側面59の1つと第1の固体電解質層4との両方に接する多孔質層7であり、第2多孔質層7bは、スペーサ層5の側面59の1つと第2の固体電解質層6との両方に接する多孔質層7である。
【0187】
なお、被測定ガス流通部8が、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる空室として、第1内部空所20、第2内部空所40、および第3内部空所17を含むことは必須ではない。被測定ガス流通部8が、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する1つ以上の拡散律速部(第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、第3拡散律速部30、第4拡散律速部16の少なくとも1つ)によって2つ以上の空室に区切られていることは必須ではない。被測定ガス流通部8が含む空室は、1つであっても、複数であってもよく、被測定ガス流通部8が、第1内部空所20、第2内部空所40、および第3内部空所17に区切られている例は、ガスセンサ素子100の一例でしかない。ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8が含む1つ以上の空室の少なくとも1つに面して、スペーサ層5の、前記空室に対向する側面59と、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方とに接する多孔質層7を備えればよい。
【0188】
(II)多孔質層が接するスペーサ層の側面について
ガスセンサ素子100において、被測定ガス流通部8に面している多孔質層7は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の少なくとも1つに接する。例えば、多孔質層7は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59のうち、
図1~6に例示したように前側面59f接してもよいし、
図7および
図8に例示したように右側面59rに接してもよい。また、図示しないが、多孔質層7は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59のうち、左側面59lに接してもよいし、後側面59bに接してもよい。
【0189】
図1に例示したガスセンサ素子100において、ガス導入口10はガスセンサ素子100の前側面に配置されている。しかしながら、ガスセンサ素子100において、ガス導入口10を設けるか否か、設けるとしてガスセンサ素子100のいずれの側面に設けるかは任意であり、例えば、ガス導入口10をガスセンサ素子100の右側面に配置してもよい。そして、例えば、ガス導入口10を設けない場合、また、ガス導入口10をガスセンサ素子100の右側面に配置する場合、被測定ガス流通部8に面する多孔質層7は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する後側面59bに接してもよい。ガス導入口10を設けるか否か、設けるとしてガスセンサ素子100のいずれの側面に設けるかについて、詳細は後述する。
【0190】
ガスセンサ素子100は、1つ以上の多孔質層7を備えていればよく、多孔質層7が接するスペーサ層5の側面59は1つであってもよいし、複数であってもよい。例えば、ガスセンサ素子100が備える1つ以上の多孔質層7がいずれも、スペーサ層5の前側面59fにのみ接してもよいし、後側面59bにのみ接してもよいし、右側面59rにのみ接してもよいし、左側面59lにのみ接してもよい。
【0191】
同様に、スペーサ層5の前側面59f、後側面59b、右側面59r、および左側面59lのうちの2つ以上の側面59が、多孔質層7に接してもよい。例えば、ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の前側面59fに接する1つ以上の多孔質層7と、スペーサ層5の後側面59bに接する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の前側面59fに接する1つ以上の多孔質層7と、スペーサ層5の右側面59rに接する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の前側面59fに接する1つ以上の多孔質層7と、スペーサ層5の左側面59lに接する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の後側面59bに接する1つ以上の多孔質層7と、スペーサ層5の右側面59rに接する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の後側面59bに接する1つ以上の多孔質層7と、スペーサ層5の左側面59lに接する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の右側面59rに接する1つ以上の多孔質層7と、スペーサ層5の左側面59lに接する1つ以上の多孔質層7とを備えてもよい。
【0192】
ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の前側面59f、後側面59b、および右側面59rの各々に接する1つ以上の多孔質層7を備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の前側面59f、後側面59b、および左側面59lの各々に接する1つ以上の多孔質層7を備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の前側面59f、右側面59r、および左側面59lの各々に接する1つ以上の多孔質層7を備えてもよい。ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の後側面59b、右側面59r、および左側面59lの各々に接する1つ以上の多孔質層7を備えてもよい。
【0193】
ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の前側面59f、後側面59b、右側面59r、および左側面59lの各々に接する1つ以上の多孔質層7を備えてもよい。
【0194】
(III)多孔質層が接する固体電解質層について
ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8に面するように配置される多孔質層7として、第1の固体電解質層4に接する第1多孔質層7a、および、第2の固体電解質層6に接する第2多孔質層7bの少なくとも一方を備えればよい。すなわち、ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8に面するように配置され、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方に接する多孔質層7を備えればよい。
【0195】
ガスセンサ素子100は、例えば、
図1~
図4に例示したように第1多孔質層7aを備えてもよいし、
図5に例示したように第2多孔質層7bを備えてもよいし、
図7および
図8に例示したように、第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bを備えてもよい。また、ガスセンサ素子100が備える多孔質層7は、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6のいずれか一方にのみ接する例に限られず、
図6に例示したように第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の両方に接してもよい。
【0196】
(IV)多孔質層の個数
ガスセンサ素子100は、第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの少なくとも一方を備えればよく、第1多孔質層7aのみを備えてもよいし、第2多孔質層7bのみを備えてもよいし、第1多孔質層7aおよび第2多孔質層7bの両方を備えてもよい。
【0197】
これまで、
図1~
図6には、1つの空室に面して、スペーサ層5の側面59の1つに接する、1つの多孔質層7を備えるガスセンサ素子100の例を示した。また、
図7~
図8には、1つの空室に面して、スペーサ層5の側面59の1つに接する、2つの多孔質層7を備えるガスセンサ素子100の例を示した。しかしながら、ガスセンサ素子100は、1つの空室に面する複数の多孔質層7を備えていてもよく、そのうちの或る多孔質層7はスペーサ層5の右側面59rに接し、別の多孔質層7はスペーサ層5の左側面59lに接していてもよい。また、被測定ガス流通部8が2つ以上の空室に区切られている場合、ガスセンサ素子100は、各々が、複数の空室の各々に面する複数の多孔質層7を備えていてもよい。例えば、ガスセンサ素子100は、第1内部空所20に面する多孔質層7と、第2内部空所40に面する多孔質層7と、第3内部空所17に面する多孔質層7とを備えてもよい。ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8(被測定ガス流通部8に含まれる空室の1つ)に面して、スペーサ層5の側面59と、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方とに接する多孔質層7を備えていればよい。
【0198】
(V)被測定ガス流通部の内部への延伸の要否
ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部8に面するように配置され、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59と、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方とに接する接する多孔質層7を備えればよい。ガスセンサ素子100が備える多孔質層7が、被測定ガス流通部8の内部に延伸していることは必須ではなく、多孔質層7は、被測定ガス流通部8の内部に延伸していてもよいし、被測定ガス流通部8の内部に延伸していなくてもよい。すなわち、
図1、
図2、
図4~
図8に例示したように、多孔質層7は、被測定ガス流通部8の内部に延伸していてもよく、つまり、露出部分71を含んでいてもよい。また、
図3に例示したように、多孔質層7は、被測定ガス流通部8の内部に延伸していなくてもよく、つまり、露出部分71を含んでいなくてもよい。
【0199】
上述の通り、露出部分71は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の端部(下端、上端)と、多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、被測定ガス流通部8の内部へと延伸する部分である。
【0200】
ガスセンサ素子100において、被測定ガス流通部8の含む1つの空室の内部に、1つ以上の多孔質層7が延伸している場合、それら1つ以上の多孔質層7の露出部分71の体積の合計は、前記空室の体積の5%以上、30%以下とするのが望ましい。例えば、
図1~
図2、
図4~
図5に例示したように、1つの空室の内部に、1つの多孔質層7のみが延伸している場合、その1つの多孔質層7の露出部分71の体積は、その1つの空室の体積の5%以上、30%以下とするのが望ましい。また、例えば、
図7~
図8に例示したように、1つの空室の内部に、複数の多孔質層7が延伸している場合、それら複数の多孔質層7の露出部分71の体積の合計は、その1つの空室の体積の5%以上、30%以下とするのが望ましい。
【0201】
なお、1つの空室の内部に、複数の多孔質層7が延伸している場合、それら複数の多孔質層7は、各々が、スペーサ層5の、同じ1つの側面59に接していてもよいし、スペーサ層5の、互いに異なる複数の側面59の各々に接していてもよい。例えば、第3内部空所17に面する2つの多孔質層7が、共に、スペーサ層5の右側面59rに接してもよく、この場合、これら2つの多孔質層7の露出部分71の体積の合計は、第3内部空所17の体積の5%以上、30%以下であればよい。また、例えば、第3内部空所17に面する、或る多孔質層7は、スペーサ層5の右側面59rに接し、第3内部空所17に面する、別の多孔質層7は、スペーサ層5の左側面59lに接してもよい。この場合、その或る多孔質層7の露出部分71の体積と、その別の多孔質層7の露出部分71の体積との合計が、第3内部空所17の体積の5%以上、30%以下であればよい。
【0202】
(VI)スペーサ層の内部への延伸の要否
これまでに説明してきたガスセンサ素子100において多孔質層7は、非露出部分72を含んでいた。すなわち、これまでに説明してきた多孔質層7は、第1の固体電解質層4または第2の固体電解質層6と、スペーサ層5とに挟まれて、被測定ガス流通部8に面していない部分である非露出部分72を含んでいた。
図1~
図8のガスセンサ素子100は、第1の固体電解質層4とスペーサ層5との間に、両者に接して配置される第1多孔質層7a、および、第2の固体電解質層6とスペーサ層5との間に、両者に接して配置される第2多孔質層7bの少なくとも一方を備えていた。例えば
図2に例示するガスセンサ素子100においては、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59(特に、その下端)と、第1の固体電解質層4(特に、その上面)とが接しないように、両者の間に、両者に接する第1多孔質層7aが配置されていた。例えば
図5に例示するガスセンサ素子100においては、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59(特に、その上端)と、第2の固体電解質層6(特に、その下面)とが接しないように、両者の間に、両者に接する第2多孔質層7bが配置されていた。
【0203】
しかしながら、ガスセンサ素子100において多孔質層7は、被測定ガス流通部8に面するように配置され、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59と、第1の固体電解質層4および第2の固体電解質層6の少なくとも一方と、に接すればよい。すなわち、多孔質層7が非露出部分72を含むことは、ガスセンサ素子100にとって必須ではなく、多孔質層7は、非露出部分72を含んでいてもよいし、非露出部分72を含んでいなくてもよい。
【0204】
例えば、多孔質層7は、被測定ガス流通部8に面するように、従来の被測定ガス流通部の角部分に相当する位置に配置されてもよい。具体的には、第1多孔質層7aは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59(特に、その下端)と、第1の固体電解質層4(特に、その上面)との接触位置に接して、被測定ガス流通部8の内部に配置されてもよい。同様に、第2多孔質層7bは、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59(特に、その上端)と、第2の固体電解質層6(特に、その下面)との接触位置に接して、被測定ガス流通部8の内部に配置されてもよい。
【0205】
すなわち、ガスセンサ素子100において、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59と、第1の固体電解質層4の上面(または第2の固体電解質層6の下面)とは接触していてもよい。スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に面する側面59と、第1の固体電解質層4の上面(または第2の固体電解質層6の下面)とが接触する場合、ガスセンサ素子100は、両者の接触位置に接して、被測定ガス流通部8に面する多孔質層7を備えていればよい。
【0206】
従来の被測定ガス流通部の角部分に相当する位置に、被測定ガス流通部8に面するように多孔質層7を配置することによって、角部分に集中していた応力を緩和することができ、角部分およびその近傍でのクラックの発生を抑止できる。したがって、ガスセンサ素子100は、「被測定ガス流通部8の角部分に応力が集中して角部分およびその近傍でクラックが発生する」という事態を回避することができ、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用できる。
【0207】
なお、上述の通り、非露出部分72は、スペーサ層5の、被測定ガス流通部8に対向する側面59の端部(下端、上端)と、多孔質層7の、被測定ガス流通部8に面する面とが接触する位置から、スペーサ層5の内部へと延伸する部分と言い換えてもよい。
【0208】
(VII)電極との重なりの要否
ガスセンサ素子100において多孔質層7は、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極の、被測定ガス流通部8に面する面の一部に、重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。
【0209】
例えば、
図1~
図3、
図5に例示するように、第1多孔質層7aは、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極(図では測定電極44)の、被測定ガス流通部8に面する面の一部に、重なっていなくてもよい。また、
図4、
図6~
図8に例示するように、第1多孔質層7a(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極(図では測定電極44、底部電極部22b、底部電極部51b)の、被測定ガス流通部8に面する面の一部に、重なっていてもよい。また、
図6~
図8に例示するように、第2多孔質層7b(多孔質層7)は、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極(図では測定電極44、天井電極部22a、天井電極部51a)の、被測定ガス流通部8に面する面の一部に、重なっていてもよい。
【0210】
図4、
図6~
図8に例示したガスセンサ素子100において、被測定ガス流通部8の内部に配設された電極の、多孔質層7が重なっている部分の面積は、例えば、前記電極の、被測定ガス流通部8に面する面の面積の0.5%以上、20%以下である。
【0211】
(VIII)ガスセンサ素子の構成
上記実施形態におけるガスセンサ素子100の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。固体電解質層を積層することでガスセンサ素子100を構成する場合、ガスセンサ素子100は、複数の固体電解質層を含んでいれば、積層する固体電解質層の数は、適宜変更されてよい。
【0212】
また、ガスセンサ素子100にとって、被測定ガス流通部8が、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する1つ以上の拡散律速部によって2つ以上の空室に区切られていることも必須ではない。これまでに説明してきた例では、被測定ガス流通部8は、第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、第3拡散律速部30、第4拡散律速部16によって、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所17に区切られていた。しかしながら、被測定ガス流通部8は、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる空室を1つ以上含んでいればよく、被測定ガス流通部8に含まれる空室が複数であることは必須ではない。例えば、被測定ガス流通部8は、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる空室を2つ含んでもよいし、1つだけ含んでいてもよい。また、ガスセンサ素子100にとって、1つ以上の拡散律速部を備えることも必須ではない。
【0213】
(IX)ガス導入口及びガス排出部の配置
上記実施形態では、ガス導入口10が、ガスセンサ素子100の前面に設けられる例を説明したが、ガス導入口10が、ガスセンサ素子100の前面に設けられることは、ガスセンサ素子100にとって、必須ではない。ガスセンサ素子100は、外部空間から被測定ガス流通部8の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、ガス導入口10を、例えば、ガスセンサ素子100の右面に配置したり、左面に配置したりしてもよい。
【0214】
また、ガスセンサ素子100にとって、ガス導入口10を備えることは必須ではない。すなわち、ガスセンサ素子100は、外部空間から被測定ガス流通部8の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、外部空間からガス導入口10を通じて被測定ガスを取り込むことは必須ではない。例えば、ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の側面59の少なくとも1つを緻密なセラミックス層により閉塞せずに開放しておくことによって、ガス導入口10を備えずに、外部空間から被測定ガス流通部8の内部に被測定ガスを取り込んでもよい。
【0215】
[実施例A(昇温試験)]
本発明の効果(特に、クラック発生を抑止する効果であるクラック抑止効果)を検証するため、以下の実施例及び比較例に係るガスセンサを作製した。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0216】
ガスセンサ素子の構成に上記
図1および
図2に示される構成を採用し、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係るガスセンサ素子を作製した。また、比較例1は、多孔質層7を備えない従来のガスセンサ素子であり、つまり、被測定ガス流通部8(例えば、第3内部空所17)の後側をスペーサ層5の前側面59fによって塞ぎ、被測定ガス流通部8に面する多孔質層7を備えないガスセンサ素子である。多孔質層7を備えない点を除いて、比較例1は、これまでに説明してきたガスセンサ素子100(例えば、
図1のガスセンサ素子100)と同様の構造を備える。すなわち、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3と、比較例1との違いは、多孔質層7を備えるか否かである。
【0217】
なお、前述の通り、多孔質層7は多孔質な層であり、「多孔質な」とは、気孔率が10%以上であることを意味する。そのため、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係るガスセンサ素子が備える多孔質層7の気孔率は、10%以上とした。また、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係るガスセンサ素子が備える多孔質層7の気孔率は、多孔質層7を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察して得たSEM画像を解析して測定した値である。
【0218】
図1および
図2に示される構成を備える実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係るガスセンサ素子のうち、実施例1~実施例11については、ガスセンサ素子が備える多孔質層7(第1多孔質層7a)の気孔率を、50%以下とした。これに対して、比較例2および比較例3については、ガスセンサ素子が備える多孔質層7の気孔率を、50%よりも大きな値とした。
【0219】
具体的には、多孔質層7の気孔率は、実施例1および実施例2において10%であり、実施例3において15%であり、実施例4において20%であり、実施例5において25%であり、実施例6において30%である。また、実施例7において40%であり、実施例8において45%であり、実施例9および実施例10において50%であり、実施例11において25%である。これに対して、比較例2において多孔質層7の気孔率は55%であり、比較例3において多孔質層7の気孔率は60%である。
【0220】
また、
図1および
図2に示される構成を備える実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係るガスセンサ素子のうち、実施例1~実施例10、および、比較例2~比較例3と、実施例11とは、以下の点において、異なる。すなわち、実施例1~実施例10、および、比較例2~比較例3と、実施例11とは、「多孔質層7(第1多孔質層7a)が内部に延伸している空室(第3内部空所17)の体積に対する、多孔質層7の露出部分71の体積の割合」が異なる。以下では、「多孔質層7(第1多孔質層7a)が内部に延伸している空室(第3内部空所17)の体積に対する、多孔質層7の露出部分71の体積の割合」を、単に「露出部分71の体積割合」と称することがある。
【0221】
すなわち、「露出部分71の体積割合」は、実施例1~実施例10、および、比較例2~比較例3において5%以上であるのに対して、実施例11においては、5%未満とした。
【0222】
具体的には、露出部分71の体積割合は、実施例1において5.3%であり、実施例2において20%であり、実施例3および実施例5において5%であり、実施例4において16%であり、実施例6において7%である。また、露出部分71の体積割合は、実施例7において25%であり、実施例8において30%、実施例9において12%であり、実施例10において24%である。さらに、露出部分71の体積割合は、比較例2において18%であり、比較例3において20%である。これに対して、実施例11において、露出部分71の体積割合は3%である。
【0223】
実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3の各々の「露出部分71の体積割合」を調整するため、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係る多孔質層7(第1多孔質層7a)の厚さは、特に、露出部分71の厚さは、10~40μmとした。すなわち、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係る露出部分71の厚さを、10~40μmとすることによって、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3の各々について、「露出部分71の体積割合」を調整した。
【0224】
なお、実施例1~実施例11、比較例2、および、比較例3に係るガスセンサ素子において、露出部分71の体積割合は、以下の理由から30%以下とした。すなわち、露出部分71の体積割合を30%より大きくすると、多孔質層7(第1多孔質層7a)が内部に延伸している空室(第3内部空所17)からの酸素の汲み出し(排出)、および、前記空室への酸素の汲み入れに要する時間が大きくなる。つまり、露出部分71の体積割合を30%より大きくすると、ライトオフ時間(発熱部702に通電を開始してからNOx濃度を正しく検出可能になるまでの時間)が大きくなる。そのため、ライトオフ時間をガスセンサ素子の実際の使用(通常の使用)に耐えられる範囲の時間とするために、露出部分71の体積割合は30%以下とした。
【0225】
上述の各実施例及び各比較例に係るガスセンサ素子について、以下の昇温試験を行なって、クラックの発生(クラック抑制)について評価した。すなわち、昇温試験では、ガスセンサ素子の実際の使用時(通常の使用時)よりも大きな電流を発熱部702に一時的に流して、ガスセンサ素子に熱的過負荷を与えた。その後、当該ガスセンサ素子の状態を検査し、クラックの発生(クラック抑制)について評価した。
【0226】
評価においては、熱的過負荷を与えた後にもクラックが発生しなかったもの(クラック無し)について、「クラック抑制」を「〇」とした。熱的過負荷を与えた後に微小なクラックが発生していたもの(微小なクラック有り)について、「クラック抑制」を「△」とした。熱的過負荷を与えた後に微小とはいえないクラックが発生していたもの(クラック有り)について、「クラック抑制」を「×」とした。以下の表1は、クラックの発生を評価した結果を示す。表1の「多孔質層有無」は多孔質層7を備えるか否かを示し、「気孔率」は多孔質層7を備える場合に、備えている多孔質層7の気孔率を示す。また、「クラック抑制」は、熱的過負荷を与えた後のクラックの発生の有無、クラックが発生した場合のクラックの規模(大きさ)を示している。
【0227】
【0228】
表1の評価結果に示されるとおり、各実施例は、各比較例に比べて、クラック抑制が良好であった。この結果から、本発明によれば、内部空間の破壊(具体的には、クラックの発生)を抑止することによって過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供可能であることが分かった。
【0229】
特に、表1において、比較例1の「クラック抑制」は「×」となっており、また、多孔質層7の気孔率を55%とした比較例2、および、多孔質層7の気孔率を60%とした比較例3についても、「クラック抑制」は「×」となっている。これに対して、実施例1から実施例10の「クラック抑制」は「〇」となっており、また、実施例11の「クラック抑制」は「△」となっている。つまり、多孔質層7を備えない比較例1、気孔率が50%よりも大きい多孔質層7を備える比較例2~比較例3に比べて、気孔率が50%以下である多孔質層7を備える実施例1~実施例11によれば、クラック抑制を改善することができた。
【0230】
そして、前述の通り、多孔質層7の気孔率は10%以上である。したがって、ガスセンサ素子は、気孔率が10%以上、50%以下である多孔質層7を備えることによって、クラックの発生(内部空間の破壊)を抑制し得ることが分かった。
【0231】
また、気孔率が50%以下である多孔質層7を備えるガスセンサ素子のうち、実施例1~実施例10の「クラック抑制」は「〇」であるのに対し、実施例11の「クラック抑制」は「△」である。つまり、露出部分71の体積割合が5%未満である実施例11に比べて、露出部分71の体積割合が5%以上である実施例1~実施例10によれば、クラック抑制を改善することができた。
【0232】
そして、前述の通り、ライトオフ時間を考慮すると、露出部分71の体積割合は30%以下とするのが望ましい。したがって、気孔率が10%以上、50%以下である多孔質層7を備えるガスセンサ素子は、露出部分71の体積割合を5%以上、30%以下にすることによって、より効果的にクラックの発生(内部空間の破壊)を抑制し得ることが分かった。
【0233】
これらの結果から、上記実施形態及び変形例によれば、過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供可能であることが検証できた。
【0234】
なお、ガスセンサ素子100が、或る空室に面する1つ以上の多孔質層7を備える場合は、それら1つ以上の多孔質層7の露出部分71の体積の合計の、その或る空室の体積に対する割合を、5%以上、30%以下とすることが好ましい。
【0235】
例えば、ガスセンサ素子100が、スペーサ層5の、第3内部空所17に対向する右側面59rに接する第1多孔質層7a(r)と、スペーサ層5の、第3内部空所17に対向する左側面59lに接する第1多孔質層7a(l)とを備える場合、以下のようになる。すなわち、第1多孔質層7a(r)の露出部分71a(r)の体積と、第1多孔質層7a(l)の露出部分71a(l)の体積との合計は、第3内部空所17の体積の5%以上、30%以下である。
【0236】
[実施例B(電極剥離試験)]
本発明の効果(特に、電極の剥離を抑制する効果である電極剥離抑制効果)を検証するため、以下の実施例に係るガスセンサを作製した。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0237】
上述の昇温試験でクラックが発生しなかったガスセンサ素子を用いて、実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子を作製した。具体的には、上記
図1及び
図2に示される構成を備え、多孔質層7の気孔率を25%とし、露出部分71の体積割合を15%としたガスセンサ素子を用いて、実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子を作成した。具体的には、実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子において、多孔質層7(第1多孔質層7a)の厚さを、特に、露出部分71の厚さを、一定とし、具体的には20μmとすることによって、実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子の「露出部分71の体積割合」を15%とした。前述の通り、「露出部分71の体積割合」とは、「多孔質層7(第1多孔質層7a)が内部に延伸している空室(第3内部空所17)の体積に対する、多孔質層7の露出部分71の体積の割合」を指す。
【0238】
特に、実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子においては、
図4に例示するように、多孔質層7(第1多孔質層7a)が、空室(第3内部空所17)の内部に配設された電極(測定電極44)の、空室に面する面の一部に重なっている。実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子は、互いに、「電極(測定電極44)の、空室(第3内部空所17)に面する面全体の面積に対する、電極の、空室に面する面の、多孔質層7が重なっている部分の面積の割合」が異なる。以下では、「電極の、空室に面する面全体の面積に対する、電極の、空室に面する面の、多孔質層7が重なっている部分の面積の割合」を、単に「面積割合」と称することがある。
【0239】
具体的には、面積割合は、実施例1において0.25%であり、実施例2において5%であり、実施例3において10%であり、実施例4において15%であり、実施例5において20%である。
【0240】
なお、実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子において、面積割合は、以下の理由から20%以下とした。すなわち、面積割合を20%よりも大きくした場合、電極の性能(例えば、検出精度など)が低下する可能性がある。そのため、実施例1~実施例5に係るガスセンサ素子において、面積割合は、20%以下とした。
【0241】
上述の各実施例に係るガスセンサ素子について、以下の評価システムESを用いた電極剥離試験を行なって、電極剥離抑制効果について評価した。すなわち、評価システムESは、空気ブロワBLと、空気ブロワBLに接続されたガス流路FPと、ガス流路FPに固定された、各実施例に係るガスセンサ素子と、を含んでいる。
【0242】
電極剥離試験においては、先ず、室温の大気雰囲気下に評価システムESを配置する。そして、空気ブロワBLによるガス流(空気流)の流速を0m/秒に設定する。この条件下で、測定用ポンプセル41の電極間電圧を測定する(第1電圧と呼ぶ)。次に、1分間の通常制御(通常の使用)と、通常制御に続く1分間の制御停止との1サイクルを、80000回繰り返す。通常制御によって、ヒータ70に対する電力供給と、各実施例に係るガスセンサ素子の電極に対する信号の送受信とが、行われる。制御停止によって、ヒータ70に対する電力供給と、各実施例に係るガスセンサ素子の電極に対する信号の送受信との両方が、停止される。80000回のサイクルの最中では、空気ブロワBLによる流速は0m/秒に維持されている。次に、第1電圧と同じ条件下で、測定用ポンプセル41の電極間電圧を測定する(第2電圧と呼ぶ)。第2電圧の測定後、各実施例に係るガスセンサ素子を切断する。そして、断面における電極(測定電極44)と固体電解質層(第1の固体電解質層4)との境界を、SEMを用いて観察した。
【0243】
80000回のサイクルの後、測定電極44と第1の固体電解質層4との境界を観察して、剥離が発生していなかったものについて、「電極剥離抑制」を「A」と評価し、微小な剥離が発生していたものについて、「電極剥離抑制」を「B」と評価した。以下の表2は、電極剥離抑制(電極剥離抑制効果)を評価した結果を示す。表2の「電極において、多孔質層が重なっている部分の面積割合(%)」は、上述の「面積割合」を示す。すなわち、「電極において、多孔質層が重なっている部分の面積割合(%)」は、「電極の、空室に面する面全体の面積に対する、電極の、空室に面する面の、多孔質層7が重なっている部分の面積の割合」を言い換えたものである。また、「電極剥離抑制」は、80000回のサイクルを実施した後の、電極(測定電極44)の固体電解質層(第1の固体電解質層4)からの剥離の有無および規模(大きさ)を示している。
【0244】
【0245】
表2の評価結果に示されるとおり、各実施例は、電極剥離抑制効果が良好であった。すなわち、多孔質層7を、被測定ガス流通部8(内部空間)の内部に配設した電極の、被測定ガス流通部8の面する面の一部に重なるように配置することによって、電極が固体電解質層から剥離するのを抑制し得ることを確認することができた。この結果から、本発明によれば、内部空間の破壊(具体的には、被測定ガス流通部8(内部空間)の内部に配設した電極の、固体電解質層からの剥離)を抑止することによって過酷な使用環境下であっても、比較的に長期にわたって不具合を招くことなく使用可能なガスセンサ素子を提供可能であることが分かった。
【0246】
特に、表2において、実施例1の「電極剥離抑制」は「B」となっているのに対して、実施例2~5の「電極剥離抑制」は「A」となっている。つまり、面積割合が5%未満である実施例1に比べて、面積割合が5%以上である実施例2~実施例5によれば、電極剥離抑制効果を改善することができた。
【0247】
そして、前述の通り、電極の性能を考慮すると、面積割合は20%以下とするのが望ましい。したがって、被測定ガス流通部8の内部に配設した電極に重なるように多孔質層7を配置したガスセンサ素子において、面積割合を0.5%以上、20%以下とすることで、電極の剥離(内部空間の破壊)をより効果的に抑制し得ることが確認できた。
【符号の説明】
【0248】
100…センサ素子、4…第1の固体電解質層4…第2の固体電解質層、
5…スペーサ層、59f…前側面(スペーサ層の、内部空間に対向する側面)、
59b…後側面(スペーサ層の、内部空間に対向する側面)、
59l…左側面(スペーサ層の、内部空間に対向する側面)、
59r…右側面(スペーサ層の、内部空間に対向する側面)、
7…多孔質層、8…被測定ガス流通部(内部空間)、
20…第1内部空所(空室)、40…第2内部空所(空室)、
17…第3内部空所(空室)、44…測定電極(電極)、
22a…天井電極部(電極)、22b…底部電極部(電極)、
51a…天井電極部(電極)、51b…底部電極部(電極)、
71…露出部分(多孔質層の、空室の内部に延伸している部分)、72…非露出部分