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特許7588580酸素センサ及びそれを具備する微小機械電気素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】酸素センサ及びそれを具備する微小機械電気素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021508925
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009431
(87)【国際公開番号】W WO2020195681
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2019054098
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 広平
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大山 旬春
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 康博
(72)【発明者】
【氏名】八島 勇
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-145342(JP,A)
【文献】特開昭57-097439(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111110(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0007637(US,A1)
【文献】国際公開第2017/099963(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0318960(US,A1)
【文献】特開昭62-129753(JP,A)
【文献】特開昭60-024445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導性を有する第1固体電解質膜と、該固体電解質膜の一面に配置された第1電極を備えた第1膜電極接合体と、
酸化物イオン伝導性を有する第2固体電解質膜と、該固体電解質膜の一面に配置された第2電極を備えた第2膜電極接合体とを具備し、
第1膜電極接合体における第1固体電解質膜の前記一面と、第2膜電極接合体における第2固体電解質膜の前記一面とが間隔を空けて対向するように、第1膜電極接合体と第2膜電極接合体とが配置されており、
第1膜電極接合体における第1固体電解質膜の前記一面及び第2膜電極接合体における第2固体電解質膜の前記一面の双方に接するように中間電極が配置されているとともに、該中間電極を囲繞するように設けた酸素が透過可能な壁部によって基準酸素濃度空間が画成されており、
測定対象雰囲気に第1電極が臨むように且つ該測定対象雰囲気又は外気に第2電極が臨むようにこれらの電極を配置するとともに、前記中間電極を電源の正極に接続し且つ第2電極を電源の負極に接続して、前記基準酸素濃度空間内の酸素濃度を高めた状態下におき、更に第1電極と前記中間電極との間に生じた起電力を測定することで、第1電極が臨む測定対象雰囲気中の酸素濃度を測定するように構成された酸素センサ。
【請求項2】
第1固体電解質膜と第2固体電解質膜の少なくとも一つが、A、M及びO(Aは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)を含む化合物からなる請求項1に記載の酸素センサ。
【請求項3】
第1固体電解質膜と第2固体電解質膜の少なくとも一つが、一般式:A9.33+x[T6.00-y]O26.0+z(式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表され、式中のxは-1.33以上1.50以下の数であり、式中のyは0.00以上3.00以下の数であり、式中のzは-5.00以上5.20以下の数であり、Tのモル数に対するAのモル数の比率が1.33以上3.61以下である複合酸化物を含む化合物からなる、請求項1又は2に記載の酸素センサ。
【請求項4】
第1電極、第2電極及び前記中間電極のうちの少なくとも一つが酸化物からなる請求項1、2又は3に記載の酸素センサ。
【請求項5】
前記一般式:A9.33+x[T6.00-y]O26.0+zで表される化合物が配向性アパタイト型酸化物イオン伝導体であり、ロットゲーリング法で測定した配向度が0.6以上である、請求項3に記載の酸素センサ。
【請求項6】
前記酸化物がMNO(Mは、Ca、Sr、Ba、La、Pr及びYからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Nは、Ni、Ti、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Co、Mo、Ta、Nb、Ru、Pd及びReからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表されるペロブスカイト型構造を有する請求項4に記載の酸素センサ。
【請求項7】
前記基準酸素濃度空間の圧力(Pa)を測定対象雰囲気中の気圧(Pa)に比して1.0以上3.0以下に設定した状態下におき、酸素濃度を測定する請求項1ないし6のいずれか一項に記載の酸素センサ。
【請求項8】
前記基準酸素濃度空間の酸素濃度を60%以上100%以下に設定した状態下におき、酸素濃度を測定する請求項1ないし7のいずれか一項に記載の酸素センサ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の酸素センサを具備する微小機械電気素子。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の酸素センサを用いた酸素濃度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素センサ及びそれを具備する微小機械電気素子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン透過性の固体電解質を用いた酸素センサが種々知られている。この種の酸素センサは、起電力式のものと、限界電流式のものに大別される。例えば特許文献1には、電気化学式酸素ポンプ部、密封空間及び電気化学的センサ部から構成される起電力式の酸素センサが記載されている。この酸素センサにおいては、電気化学式酸素ポンプ部の両電極間に外部電圧を印加し、密封空間に存在する酸素ガスを強制的に電気化学式酸素ポンプの原理に従って外部に排出し、基準ガス室内を所定の低酸素分圧に制御している。
【0003】
特許文献2には、外側電極と内側電極との間に電流を印加して検出ガス中の酸素を内側電極の近傍に導入し、当該導入した酸素を参照ガスとして用いるようにした酸素センサが記載されている。この酸素センサでは、検出ガス中の酸素を内側電極の近傍に導入することを目的として、内側電極の外面に、ジルコニア及びアルミニウムを含む多孔質構造の緩和層を設け、該緩和層中に酸素が進入できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平05-240833号公報
【文献】特開2006-112918号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1の酸素センサは、基準ガス室内の酸素分圧を低い基準に制御することで、被検ガス中の酸素濃度を精度よく測定しようとするものである。しかし、基準ガス室内の酸素分圧を低い値に制御していることに起因して、酸素分圧が僅かに変化するだけでも起電力が大きく影響を受けるので、検出精度を高めることが容易でない。
【0006】
特許文献2に記載の酸素センサは、内側電極の近傍に導入した酸素の分圧を大気中の酸素分圧よりも高くすることで、該酸素を参照ガスとして用いており、円柱状の素子を形成している。このことに起因して、緩和層を多孔質且つ高強度にする必要がある。しかし、緩和層を多孔質且つ高強度にすることは、酸素センサの小型化の点からは不利である。このような多孔質層の形成や円柱状の素子の製造を、例えばMEMS(MicroElectro Mechanical Systems)と呼ばれる微小機械電気素子に適用することは容易でない。
【0007】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る酸素センサを提供することにある。
【0008】
本発明は、酸化物イオン伝導性を有する第1固体電解質膜と、該固体電解質膜の一面に配置された第1電極を備えた第1膜電極接合体と、
酸化物イオン伝導性を有する第2固体電解質膜と、該固体電解質膜の一面に配置された第2電極を備えた第2膜電極接合体とを具備し、
第1膜電極接合体における第1固体電解質膜と、第2膜電極接合体における第2固体電解質膜とが間隔を空けて対向するように、第1膜電極接合体と第2膜電極接合体とが配置されており、
第1膜電極接合体における第1固体電解質膜と、第2膜電極接合体における第2固体電解質膜との間に、両固体電解質膜に接するように、中間電極が配置されているとともに、該中間電極を囲繞するように設けた酸素が透過可能な壁部によって基準酸素濃度空間が画成されており、
測定対象雰囲気に第1電極が臨むように第1電極を配置するとともに、前記中間電極を電源の正極に接続し且つ第2電極を電源の負極に接続して、前記基準酸素濃度空間内の酸素濃度を高めた状態下におき、更に第1電極と前記中間電極との間に生じた起電力を測定することで、第1電極が臨む測定対象雰囲気中の酸素濃度を測定するように構成された酸素センサを提供するものである。
【0009】
また本発明は、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質膜と、該固体電解質膜の各面に配置された第1電極及び第2電極とを備えた膜電極接合体を具備し、
第2電極と対向するように電極対向部材が配置されており、
前記固体電解質膜と前記部材との間に、第2電極を囲繞するように設けた壁部によって基準酸素濃度空間が画成されており、
前記部材と、前記壁部の少なくとも一方が酸素を透過可能な材料で構成されており、
測定対象雰囲気に第1電極が臨むように第1電極を配置するとともに、第2電極を電源の正極に接続し且つ第1電極を電源の負極に接続して、前記基準酸素濃度空間内の酸素濃度を高めた状態下におき、第1電極及び第2電極の電源への接続を解除するとともに、更に第1電極と第2電極との間に生じた起電力を測定することで、第1電極が臨む測定対象雰囲気中の酸素濃度を測定する酸素センサを提供するものである。
【0010】
更に本発明は、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質膜と、該固体電解質膜の一面に配置された第1電極及び第2電極、並びに該固体電解質膜の他面に配置された中間電極とを備えた膜電極接合体を具備し、
前記中間電極と対向するように電極対向部材が配置されており、
前記固体電解質膜と前記部材との間に、前記中間電極を囲繞するように設けた壁部によって基準酸素濃度空間が画成されており、
前記部材と、前記壁部の少なくとも一方が酸素を透過可能な材料で構成されており、
測定対象雰囲気に第1電極が臨むように且つ該測定対象雰囲気又は外気に第2電極が臨むように、第1電極及び第2電極を配置するとともに、前記中間電極を電源の正極に接続し、且つ第2電極を電源の負極に接続して、前記基準酸素濃度空間内の酸素濃度を高めた状態下におき、更に第1電極と前記中間電極との間に生じた起電力を測定することで、第1電極が臨む測定対象雰囲気中の酸素濃度を測定する酸素センサを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の酸素センサの一実施形態の構造を示す模式図である。
図2図2は、被検ガス中の酸素ガスの濃度と、濃淡電池の起電力との関係が、参照ガス中に含まれる酸素ガスの濃度にどのように依存するかを示すグラフである。
図3図3は、本発明の酸素センサの別の実施形態の構造を示す模式図である。
図4図4は、本発明の酸素センサの更に別の実施形態の構造を示す模式図である。
図5図5は、本発明の酸素センサの更に別の実施形態の構造を示す模式図である。
図6図6は、図5に示す実施形態の酸素センサを用いて酸素ガスの濃度を測定するときの電圧の経時変化を示すグラフである。
図7図7は、本発明の酸素センサの更にまた別の実施形態の構造を示す模式図である。
図8図8は、本発明の酸素センサの更にまた別の実施形態の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の酸素センサの一実施形態が示されている。同図に示す酸素センサ1は、第1膜電極接合体10と、第2膜電極接合体20とを具備している。
【0013】
第1膜電極接合体10は、酸化物イオン伝導性を有する第1固体電解質膜100と、該固体電解質膜100の一面に配置された第1電極101とを備えている。一方、第2膜電極接合体20は、酸化物イオン伝導性を有する第2固体電解質膜200と、該固体電解質膜200の一面に配置された第2電極102とを備えている。
【0014】
第1固体電解質膜100及び第2固体電解質膜200は、酸化物イオンの伝導性を有する限りにおいて、同種の材料であってもよく、あるいは異種の材料であってもよい。第1電極101及び第2電極102に関しては、それらが導電性を有する限りにおいて同種の材料であってもよく、あるいは異種の材料であってもよい。
【0015】
酸素センサ1においては、第1膜電極接合体10における第1固体電解質膜100の他面(すなわち第1電極101が配置されていない面)と、第2膜電極接合体20における第2固体電解質膜200の他面(すなわち第2電極102が配置されていない面)とが間隔を空けて対向するように、第1膜電極接合体10と第2膜電極接合体20とが配置されている。図1においては、いずれも平板状である第1固体電解質膜100と第2固体電解質膜200とが一定の距離を隔てて略平行に配置されている状態が示されている。第1固体電解質膜100と第2固体電解質膜200との間隔は、本発明において臨界的ではなく、酸素センサ1の大きさや使用場面等に応じて適切な値に設定すればよい。一般的には第1固体電解質膜100と第2固体電解質膜200との間隔を0.05mm以上10mm以下に設定すれば、酸素ガスの濃度を高精度に測定可能である。
【0016】
第1膜電極接合体10における第1固体電解質膜100の他面と、第2膜電極接合体20における第2固体電解質膜200の他面との間には、両固体電解質膜100,200のいずれにも接するように、中間電極120が配置されている。中間電極120は、導電性を有する限りにおいて、先に述べた第1電極101及び第2電極102と同種の材料であってもよく、あるいは異種の材料であってもよい。
【0017】
酸素センサ1においては、第1膜電極接合体10における第1固体電解質膜100と、第2膜電極接合体20における第2固体電解質膜200との間に、酸素が透過可能な環状壁部30が設けられている。環状壁部30は、壁部の内外を酸素ガスの流通が可能な構造になっている。環状壁部30は、中間電極120を囲繞するように設けられている。その結果、酸素センサ1においては、環状壁部30によって、第1固体電解質膜100と第2固体電解質膜200との間に、基準酸素濃度空間Sが画成されている。図1においては、環状壁部30と、第1固体電解質膜100と、第2固体電解質膜200と、中間電極120とによって基準酸素濃度空間Sが画成されている。基準酸素濃度空間Sは、酸素が透過可能な材料、例えば多孔質材料からなる環状壁部30を通じて外界と通じている。
【0018】
基準酸素濃度空間Sの体積は、本発明において臨界的ではなく、酸素センサ1の大きさや使用場面等に応じて適切な値に設定すればよい。一般的には基準酸素濃度空間Sの体積を0.01mm以上1000mm以下に設定すれば、酸素ガスの濃度を高精度に測定可能である。なお、中間電極120が多孔質材料等からなり空隙を有する場合は、当該空隙を基準酸素濃度空間Sとすることもできる。したがって中間電極120と環状壁部30の間に完全な空間を設けることを要さない。
【0019】
環状壁部30は、環状である限り、横断面の形状に特に制限はない。例えば横断面が円形や矩形である筒型の環状壁部を用いることができる。どのような形状の環状壁部30を用いるかは、各固体電解質膜100,200の形状や、酸素センサ1の大きさ等に応じて適切に選択すればよい。
【0020】
酸素センサ1においては、第1固体電解質膜100とその各面に配置された第1電極101及び中間電極120とが第1単セルを構成している。同様に、第2固体電解質膜200とその各面に配置された第2電極102及び中間電極120とが第2単セルを構成している。中間電極120は、第1単セルの電極と、第2単セルの電極とを兼ねている。第1単セルは濃淡電池として作用するものである。一方、第2単セルは酸素ポンプとして作用するものである。詳細には図1に示すとおり、第1単セルにおける第1電極101と中間電極120との間に電圧計60が接続され、濃淡電池の両電極間に生じる起電力が測定できるようになっている。第2単セルにおいては、第2電極102と中間電極120との間に直流電源40が接続されて、両電極間に電圧が印加されるようになっている。この場合、中間電極120が直流電源40の正極に接続され、第2電極102が直流電源40の負極に接続される。
【0021】
以上の構成を有する酸素センサ1によって被検ガス中の酸素濃度を測定する方法は次に述べるとおりである。先ず、測定対象雰囲気に第1電極101が臨み且つ第2電極102が外気(一般には大気)に臨むようにこれらの電極を配置する。この状態下に、酸素センサ1の全体を加熱して、第1及び第2固体電解質膜100,200に酸化物イオン伝導性が発現するようにする。加熱温度は、第1及び第2固体電解質膜100,200の構成材料によって異なるが、例えば後述する材料から第1及び第2固体電解質膜100,200を構成した場合には、約600℃未満でも実用可能な酸化物イオン伝導性が発現する。加熱温度は200℃以上が好ましく、中でも300℃以上、その中でも400℃以上であることが好ましい。酸素センサ1の全体を加熱して、第1及び第2固体電解質膜100,200を上記温度以上に到達させることにより、十分な測定精度を得ることができる。なお、この温度は設定温度ではなく、第1及び第2固体電解質膜100,200の実際の温度のことである。
【0022】
第1及び第2固体電解質膜100,200に酸化物イオン伝導性が発現したら、中間電極120を直流電源40の正極に接続し且つ第2電極102を直流電源40の負極に接続する。これによって、第2単セルの酸素ポンプ作用が発現し、外気に含まれる酸素ガスが還元されて酸化物イオンとなる。該酸化物イオンは第2固体電解質膜200中を移動して中間電極120に達する。中間電極120に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスに変化する。このようにして生じた酸素ガスは、基準酸素濃度空間S内に蓄積される。尤も、基準酸素濃度空間Sはその一部が、酸素が透過可能な材料からなる環状壁部30によって画成されており、基準酸素濃度空間Sは外部と連通しているので、基準酸素濃度空間S内の圧力が過度に上昇することはない。その結果、基準酸素濃度空間S内は、ある圧力を維持したまま、酸素ガスの分圧が高い状態となる。この状態の酸素濃度のことを基準酸素濃度という。基準酸素濃度は酸素100vol%とすることが、高精度な測定を行い得る点から好ましい。空間S内の酸素濃度が100vol%であるか否かは、例えば、通常の大気中の酸素濃度20.9%など、既知の被検ガス濃度雰囲気下において、電極間の起電力を計測することによって判断することができる。
【0023】
空間S内が基準酸素濃度に達したら、第1単セルにおける第1電極101と中間電極120との間に生じる起電力を電圧計60によって測定する。測定の間、第2単セルにおける第2電極102と中間電極120との間には直流電圧を印加し続けておき、基準酸素濃度空間S内の酸素濃度を、ある一定の高い状態に維持する。測定された起電力に基づき測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を以下に示すネルンストの式から算出する。
E=(RT/4F)ln(PO2 /PO2
式中、Eは、第1電極101と中間電極120との間に生じる起電力(V)を表し、Rは気体定数を表し、Tは絶対温度(K)を表し、Fはファラデー定数を表し、PO2 は測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を表し、PO2 は基準酸素濃度空間S内の酸素ガスの濃度を表す。前記の式において、E、R、T、F及びPO2 は既知であることから、PO2 、すなわち測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を算出することができる。
【0024】
酸素センサ1において、第2単セルを酸素ポンプとして用い、基準酸素濃度空間Sを高濃度にする利点を、図2を参照しながら説明する。同図は、本実施形態の酸素センサ1について、ネルンストの式に従い酸素ガス濃度と起電力との関係を描いたグラフである。同図中、直線A及びBは、T=600℃、基準酸素濃度を0.010vol%及び0.020vol%に設定したときのシミュレーション結果である。直線AとBとの対比から明らかなとおり、基準酸素濃度が0.010vol%という僅かな値しか異ならない場合であっても、起電力は十数mVも異なり、そのことに起因して、算出される酸素ガスの濃度も大きく異なってしまう。このこととは対照的に、直線CないしEは、T=600℃、基準酸素濃度を80vol%、90vol%及び100vol%に設定したときのシミュレーション結果である。直線CないしEの対比から明らかなとおり、基準酸素濃度が最大で20vol%も相違する場合であっても、起電力にはほとんど相違がないことが理解される。このことに起因して、算出される酸素ガスの濃度もほとんど相違しない。このように本発明によれば、基準酸素濃度を高くした状態で酸素ガスの濃度を測定することで、測定精度を高めることができるという有利な効果が奏される。
【0025】
特に、図2から明らかなとおり、本実施形態の酸素センサ1によれば、測定に誤差が生じやすい濃度領域である、被検ガス中の酸素ガスの濃度が低い領域ほど起電力の絶対値が大きくなるので、酸素ガスの濃度が低くても測定に誤差が生じにくいという利点もある。
【0026】
しかも本実施形態の酸素センサ1は、濃淡電池の参照ガスとして、従来と異なり大気を使用しないので、大気中に含まれる不純物の影響を一層受けづらい。このことによっても、酸素ガスの濃度を高精度で測定できる。
【0027】
以上の利点を一層顕著なものとする観点から、基準酸素濃度空間Sの酸素ガスの濃度を好ましくは60vol%以上100vol%以下、更に好ましくは80vol%以上100vol%以下、一層好ましくは90vol%以上100vol%以下に設定した状態下に酸素ガスの濃度を測定することが有利である。基準酸素濃度空間Sの酸素ガスの濃度は、例えば、通常大気中の酸素濃度20.9%など、既知の被検ガス濃度雰囲気下において、電極間の起電力を計測することによって測定される。
【0028】
基準酸素濃度空間Sの酸素ガスの濃度を前記の範囲に設定するには、例えば直流電源の電圧を好ましくは0.05V以上3V以下に設定したり、基準酸素濃度空間Sの体積を0.01mm以上800mm以下に設定したり、環状壁部30を通じて透過する酸素の量を減らしたりすればよい。
【0029】
基準酸素濃度空間Sの酸素ガスの濃度に加えて、基準酸素濃度空間Sの圧力を特定の範囲に維持することが、安定した測定を行い得る点から有利である。この観点から、基準酸素濃度空間Sの圧力(Pa)を、測定対象雰囲気中の気圧(Pa)に比して(つまり、基準酸素濃度空間Sの圧力(Pa)/測定対象雰囲気中の気圧(Pa)の値を)、好ましくは1.0以上3.0以下、更に好ましくは1.0以上2.0以下、一層好ましくは1.0以上1.5以下に設定した状態下に酸素ガスの濃度を測定することが有利である。
【0030】
基準酸素濃度空間Sの圧力を前記の範囲に設定するには、例えば直流電源の電圧を好ましくは1.0V以上3.0V以下に設定したり、基準酸素濃度空間Sの体積を0.01mm以上1000mm以下に設定したり、環状壁部30を通じて透過する酸素の量を調整したりすればよい。これら基準酸素濃度空間Sの酸素ガス濃度、及び圧力の調整方法は、後述する酸素センサの別の実施形態にも適応することができる。
【0031】
図3には、図1に示す酸素センサの別の実施形態が示されている。図3に示す酸素センサ1は、図1に示す酸素センサが備えていた中間電極120が、第1固体電解質膜100にのみ接している第3電極103と、第2固体電解質膜200にのみ接している第4電極104に分かれており互いに独立している点が、図1に示す酸素センサ1と相違している。電極を独立させることにより、電極の劣化が起きにくくなるため、センサ寿命の向上が期待できる。
【0032】
図3に示す酸素センサ1における第1膜電極接合体10は、第1固体電解質膜100と、該固体電解質膜100の各面に配置された第1電極101及び第3電極103とを備えている。一方、第2膜電極接合体20は、第2固体電解質膜200と、該固体電解質膜200の各面に配置された第2電極102及び第4電極104とを備えている。第1電極101ないし第4電極104は、それらが導電性を有する限りにおいて同種の材料であってもよく、あるいは異種の材料であってもよい。
【0033】
酸素センサ1においては、第1膜電極接合体10における第3電極103と、第2膜電極接合体20における第4電極104とが間隔を空けて対向するように、第1膜電極接合体10と第2膜電極接合体20とが配置されている。図1においては、いずれも平板状である第3電極103と第4電極104とが一定の距離を隔てて略平行に配置されている状態が示されている。第3電極103と第4電極104との間隔は、本発明において臨界的ではなく、酸素センサ1の大きさや使用場面等に応じて適切な値に設定すればよい。一般的には第3電極103と第4電極104との間隔を0.05mm以上10mm以下に設定すれば、酸素ガスの濃度を高精度に測定可能である。
【0034】
図3に示す酸素センサ1においては、環状壁部30は、第3電極103及び第4電極104を囲繞するように設けられている。その結果、酸素センサ1においては、環状壁部30によって、第1固体電解質膜100と第2固体電解質膜200との間に、基準酸素濃度空間Sが画成されている。図3においては、環状壁部30と、第1固体電解質膜100と、第2固体電解質膜200と、第3電極103と、第4電極104とによって基準酸素濃度空間Sが画成されている。基準酸素濃度空間Sは、酸素ガスが透過可能な材料からなる環状壁部30を通じて外界と通じている。
【0035】
図3に示す酸素センサ1においては、第1膜電極接合体10が単セルを構成している。同様に、第2膜電極接合体20も単セルを構成している。第1膜電極接合体10は濃淡電池として作用するものである。一方、第2膜電極接合体20は酸素ポンプとして作用するものである。詳細には図3に示すとおり、第1膜電極接合体10における第1電極101と第3電極103との間に電圧計60が接続され、濃淡電池の両電極間に生じる起電力が測定できるようになっている。第2膜電極接合体20においては、第2電極102と第4電極104との間に直流電源40が接続されて、両電極間に電圧が印加されるようになっている。この場合、第4電極104が直流電源40の正極に接続され、第2電極102が直流電源40の負極に接続される。
【0036】
図3に示す酸素センサ1によって被検ガス中の酸素濃度を測定する方法は次に述べるとおりである。先ず、測定対象雰囲気に第1電極101が臨み且つ第2電極102が外気(一般には大気)に臨むようにこれらの電極を配置する。この状態下に、酸素センサ1の全体を加熱して、第1及び第2固体電解質膜100,200に酸化物イオン伝導性が発現するようにする。次いで第4電極104を直流電源40の正極に接続し且つ第2電極102を直流電源40の負極に接続する。これによって、第2膜電極接合体20の酸素ポンプ作用が発現し、外気に含まれる酸素ガスが還元されて酸化物イオンとなる。該酸化物イオンは第2固体電解質膜200中を移動して第4電極104に達して酸素ガスに変化する。このようにして生じた酸素ガスは、基準酸素濃度空間S内に蓄積される。その結果、基準酸素濃度空間S内は、ある圧力を維持したまま、酸素ガスの分圧が高い状態となる。
【0037】
空間S内が基準酸素濃度に達したら、第1膜電極接合体10における第1電極101と第3電極103との間に生じる起電力を電圧計60によって測定し、上述したネルンストの式に従い測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を算出する。
【0038】
図4には、図1に示す酸素センサの更に別の実施形態が示されている。図4に示す酸素センサ1は、図1に示す酸素センサと同様に、第1膜電極接合体10及び第2膜電極接合体20を具備している。第1膜電極接合体10は、第1固体電解質膜100と、該固体電解質膜100の一面に配置された第1電極101を備えている。第2膜電極接合体20は、第2固体電解質膜200と、該固体電解質膜200の一面に配置された第2電極102を備えている。
【0039】
本実施形態の酸素センサは、第1膜電極接合体10及び第2膜電極接合体20の配置の仕方が、図1に示す実施形態と相違している。詳細には、第1固体電解質膜100の2つの面のうち、第1電極101が配置された面と、第2固体電解質膜200の2つの面のうち、第2電極102が配置された面とが間隔を空けて対向するように、第1膜電極接合体10と第2膜電極接合体20とが配置されている。そして、中間電極120は、第1固体電解質膜100における第1電極101が配置された面、及び第2固体電解質膜200における第2電極102が配置された面の双方に接するように配置されている。しかし、第1電極101は第2固体電解質膜200に接しておらず、且つ第2電極102は第1固体電解質膜100に接していない。したがって、第1固体電解質膜100に関しては、該第1固体電解質膜100の同一面に第1電極101と中間電極120が配置されており、第2固体電解質膜200に関しては、該第2固体電解質膜200の同一面に第2電極102と中間電極120が配置されている。なお、図4においては、酸素センサ1の厚み方向、すなわち同図における紙面の上下方向に沿って見たときに第1電極101と第2電極102とが重なるように配置されていないが、これに代えて両電極101,102が重なるように配置されていてもよい。
【0040】
図4に示す酸素センサ1においては、第1固体電解質膜100並びに第1電極101及び中間電極120が第1単セルを構成している。また、第2固体電解質膜200並びに第2電極102及び中間電極120が第2単セルを構成している。第1単セルは濃淡電池として作用するものである。一方、第2単セルは酸素ポンプとして作用するものである。詳細には図4に示すとおり、第1単セルにおける第1電極101と中間電極120との間に電圧計60が接続され、濃淡電池の両電極間に生じる起電力が測定できるようになっている。第2単セルにおいては、第2電極102と中間電極120との間に直流電源40が接続されて、両電極間に電圧が印加されるようになっている。この場合、中間電極120が直流電源40の正極に接続され、第2電極102が直流電源40の負極に接続される。
【0041】
図4に示す酸素センサ1によって被検ガス中の酸素濃度を測定する方法は次に述べるとおりである。先ず、測定対象雰囲気に第1電極101が臨むように且つ該測定対象雰囲気又は外気(一般には大気)に第2電極102が臨むようにこれらの電極を配置する。この状態下に、酸素センサ1の全体を加熱して、第1及び第2固体電解質膜100,200に酸化物イオン伝導性が発現するようにする。次いで中間電極120を直流電源40の正極に接続し且つ第2電極102を直流電源40の負極に接続する。これによって、第2単セルの酸素ポンプ作用が発現し、酸素ガスが基準酸素濃度空間S内に蓄積される。空間S内が基準酸素濃度に達したら、第1電極101と中間電極120との間に生じる起電力を電圧計60によって測定し、上述したネルンストの式に従い測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を算出する。
【0042】
本実施形態の酸素センサ1によっても基準酸素濃度を高くした状態で、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を測定するので、測定精度を高めることができるという有利な効果が奏される。しかも本実施形態の酸素センサ1によれば、第1固体電解質膜100の同一面上に第1電極101と中間電極120とを配置し、また第2固体電解質膜200の同一面上に第2電極102と中間電極120とを配置することから、酸素センサ1の製造工程を簡略化できるという利点もある。
【0043】
図1図3及び図4に示す酸素センサ1において、第1固体電解質膜100及び第2固体電解質膜200としては、酸化物イオン伝導性を有する材料を特に制限なく用いることができる。例えば第1固体電解質膜100及び第2固体電解質膜200の少なくとも一つが、A、M及びO(Aは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)を含む化合物からなることが好ましい。特に、第1固体電解質膜100がA、M及びOを含む化合物からなる場合には、酸化物イオンの輸率を高くすることができ、安定な起電力が得られる点から好ましい。
【0044】
また、第1固体電解質膜100及び第2固体電解質膜200の少なくとも一つが一般式:A9.33+x[T6.00-y]O26.0+z(式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表され、式中のxは-1.33以上1.50以下の数であり、式中のyは0.00以上3.00以下の数であり、式中のzは-5.00以上5.20以下の数であり、Tのモル数に対するAのモル数の比率が1.33以上3.61以下である複合酸化物を含む化合物からなることも好ましい。特に、酸素ポンプとして作用する第2膜電極接合体20に用いられる第2固体電解質膜200が、一般式:A9.33+x[T6.00-y]O26.0+zで表される複合酸化物を含む化合物からなる場合には、一層低温で酸素ポンプ作用が顕著に奏されるので好ましい。
【0045】
前記一般式:A9.33+x[T6.00-y]O26.0+zで表される化合物は、配向性アパタイト型酸化物イオン伝導体であり、ロットゲーリング法で測定した配向度が0.6以上であることが、酸化物イオン伝導度を高める観点から好ましい。
【0046】
第1固体電解質膜100及び第2固体電解質膜200の厚みは、本発明において臨界的ではなく、酸素センサ1の使用に耐え得る強度を有すればよい。これらの電解質膜の厚みは一般に0.1μm以上1.0mm以下とすることができる。これらの電解質膜の厚みは同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0047】
第1電極101ないし第4電極104及び中間電極120に関しては、これらが金属材料から構成されていてもよいが、これらのうちの少なくとも一つが導電性の酸化物からなることが、酸化物イオンの導電性の向上の点から好ましい。特に、酸化物がMNO(Mは、Ca、Sr、Ba、La、Pr及びYからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Nは、Ni、Ti、V、Zr、Cr、Mn、Fe、Co、Mo、Ru、Pd及びReからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表されるペロブスカイト型構造を有することが、固体電解質膜と電極との間での酸化物イオン伝導性を一層高める観点から好ましい。固体電解質膜と電極との間に、SmがドープされたCeOなどの中間層を設けてもよい。
【0048】
第1電極101ないし第4電極104及び中間電極120電極の平面形状としては、円形、多角形等、様々な形状を採用することができる。また、必要に応じて公知の手法で表面積を増加させる加工を施してもよい。例えば電極の表面に凹凸を付ける等して表面積を増加させることができる。この加工によって酸素の移動を更に促進することができる。
【0049】
固体電解質膜の厚みと同様に、第1電極101ないし第4電極104及び中間電極120の厚みは本発明において臨界的ではなく、酸素センサ1の使用に耐え得る強度を有すればよい。これらの電極の厚みは一般に0.01μm以上100μm以下とすることができる。これらの電極の厚みは同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0050】
酸素が透過可能な環状壁部30は、酸素センサ1の動作温度において安定な材料、例えばセラミックス材料から構成することができる。セラミックス材料としては、例えばアルミナ、ジルコニア、シリカ、ゼオライトなどを用いることができる。酸素センサ1に環状壁部30を組み込むには、例えば環状壁部30の上端面及び下端面に接着剤を塗布したのち、該環状壁部30を第1膜電極接合体10及び第2膜電極接合体20に接合すればよい。接着剤としては、例えばジルコニア系接着剤を用いることができる。
【0051】
次に本発明の酸素センサの別の実施形態を、図5ないし図8を参照しながら説明する。これらの実施形態については、先に述べた図1ないし図4に示す実施形態と異なる点について説明し、特に説明しない点については図1ないし図4に示す実施形態に関する説明が適宜適用される。また図5ないし図8において、図1ないし図4と同じ部材には同じ符号を付してある。
【0052】
図5に示す酸素センサ1aは、膜電極接合体10aを具備している。この膜電極接合体10aは、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質膜100aと、該固体電解質膜100aの各面に配置された第1電極101a及び第2電極102aとを備えている。膜電極接合体10aは、スイッチ70の切り替えに応じて濃淡電池としても作用し、また酸素ポンプとしても作用する。
【0053】
固体電解質膜100aとしては、図1及び図3に示す実施形態の酸素センサ1における第1固体電解質膜100又は第2固体電解質膜200を構成する材料と同様のものを用いることができる。第1電極101a及び第2電極102aに関しては、図1及び図3に示す実施形態の酸素センサ1における第1電極101ないし第4電極104及び中間電極120を構成する材料と同様のものを用いることができる。また、第1電極101aを構成する材料と、第2電極102aを構成する材料とは、同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0054】
酸素センサ1aにおいては、第2電極102aと対向するように電極対向部材50が配置されている。図5においては、電極対向部材50は平板状の部材として表されている。また図5においては、電極対向部材50と第2電極102aとが隙間なく密着している状態が示されているが、これに限られず、電極対向部材50と第2電極102aとが間隔を空けて配置されていてもよい。
【0055】
固体電解質膜100aと電極対向部材50との間には環状壁部31が設けられている。環状壁部31は第2電極102aを囲繞するように設けられている。その結果、酸素センサ1aにおいては、環状壁部31よって、固体電解質膜100aと電極対向部材50との間に、基準酸素濃度空間Sが画成されている。図5においては、環状壁部31と、固体電解質膜100aと、電極対向部材50と、第2電極102aとによって基準酸素濃度空間Sが画成されている。
【0056】
電極対向部材50及び環状壁部31は、それらのうちの少なくとも一方が酸素を透過可能な材料で構成されている。そのような材料としては、例えば多孔質材料を用いることができる。したがって基準酸素濃度空間Sは、電極対向部材50及び環状壁部31のうちの少なくとも一方を介して外部と通じている。酸素センサ1aを小型化するときの製造のしやすさの観点からは、環状壁部31のみが酸素を透過可能な材料で構成されていることが好ましい。
【0057】
図1図3及び図4に示す実施形態の環状壁部30と異なり、本実施形態の酸素センサ1aにおける環状壁部31は、上述のとおり必ずしも酸素が透過可能であることを要さない。環状壁部31は、酸素センサ1aの使用温度に耐え得る材料であればよい。
【0058】
以上の構成を有する酸素センサ1aによって被検ガス中の酸素濃度を測定する方法は次に述べるとおりである。先ず、測定対象雰囲気に第1電極101aが臨み且つ電極対向部材50が外気(一般には大気)に臨むようにこれらの部材を配置する。この状態下に、酸素センサ1aの全体を加熱して、固体電解質膜100aに酸化物イオン伝導性が発現するようにする。加熱温度は、図1図3及び図4に示す実施形態と同様とすることができる。
【0059】
固体電解質膜100aに酸化物イオン伝導性が発現したら、第2電極102aを直流電源40の正極に接続し且つ第1電極101aを直流電源40の負極に接続する。これによって、酸素ポンプ作用が発現し、測定対象雰囲気に含まれる酸素ガスが還元されて酸化物イオンとなる。該酸化物イオンは固体電解質膜100a中を移動して第2電極102aに達する。第2電極102aに達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスに変化する。このようにして生じた酸素ガスは、基準酸素濃度空間S内に蓄積される。尤も、基準酸素濃度空間Sはその一部が、酸素が透過可能な材料によって画成されており、基準酸素濃度空間Sは外部と連通しているので、基準酸素濃度空間S内の圧力が過度に上昇することはない。その結果、基準酸素濃度空間S内は、ある圧力を維持したまま、酸素ガスの分圧が高い状態である基準酸素濃度となる。基準酸素濃度は酸素100vol%とすることが、高精度な測定を行い得る点から好ましい。空間S内の酸素濃度が100vol%であるか否かの判断は、上述したとおりである。
【0060】
基準酸素濃度空間S内の酸素濃度が高まり、該空間S内が基準酸素濃度に達したら、その状態下に、スイッチ70によって、第1電極101a及び第2電極102aの直流電源40への接続を解除する。これとともに、第1電極101aと第2電極102aとの間に生じる起電力を電圧計60によって測定する。その後は、図1に示す実施形態と同様の手順によって、ネルンストの式に従い、第1電極101aが臨む測定対象雰囲気中の酸素濃度を算出する。
【0061】
本実施形態によっても、基準酸素濃度を高くした状態で、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を測定するので、測定精度を高めることができるという有利な効果が奏される。しかも本実施形態の酸素センサ1aは、先に述べた特許文献2に記載のものと異なり、高濃度の酸素ガスを基準酸素濃度空間S内に存在させればよいので、電極対向部材50を高強度にする必要がない。
【0062】
図6には、酸素センサ1aを用いて第1電極101aと第2電極102aとの間の電圧を測定した結果の一例が示されている。同図に示すとおり、スイッチ70をオンにして、第1電極101aと第2電極102aとの間に直流電源40の電圧を印加すると、両電極間には、直流電源40の電圧であるEが観察される。電圧Eを印加している間は、酸素ポンプ作用によって、基準酸素濃度空間S内に酸素ガスが蓄積され、酸素ガスの濃度が高まっていく。この間は、酸素センサ1aは、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を測定していない。
【0063】
基準酸素濃度空間S内に酸素ガスが十分に蓄積され、酸素ガスの濃度が十分に高まったら、スイッチ70をオフにする。この時点から酸素センサ1aによる測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度の測定が開始される。このときの第1電極101aと第2電極102aとの間の電圧、つまり濃淡電池の原理によって生じる起電力は図6に示すとおり、Eよりも低下し、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度に対応した値を示す。図6に示す起電力は、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度が一定である場合の例である。酸素センサ1aによる酸素ガスの濃度の測定継続時間、すなわちスイッチ70がオフになっている間の時間は、基準酸素濃度空間S内の酸素ガスの濃度変化に依存する。詳細には、基準酸素濃度空間S内の酸素ガスの濃度が一定である限りは精度の高い測定を継続できる。基準酸素濃度空間S内の酸素ガスの濃度が減少してきたら(酸素ガスは電極対向部材50及び環状壁部31の少なくとも一方を通じて外部に散逸する。)、図6に示すとおりスイッチ70を再びオンにして、基準酸素濃度空間S内に酸素ガスを蓄積させる。その後は、上述の手順によって、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を測定する。
【0064】
このように、本実施形態の酸素センサ1aは、第1電極101aと第2電極102aとの間に電圧をパルス的に印加することで、基準酸素濃度空間S内への酸素の供給と、起電力の測定とを交互に行っている。スイッチ70の切り替えによって、濃淡電池と酸素ポンプ作用を適宜使い分けることで、センサの省電力化を達成することができるので、本実施形態の酸素センサ1aは、これをポータブル機器へ適用するのに好適である。
【0065】
酸素センサ1aの寸法や、電極対向部材50の多孔質の程度にもよるが、スイッチ70をオンにしている時間は、0.5秒以上10秒以下であることが好ましい。一方、スイッチ70をオフにして、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を測定し得る持続時間は、一般に3秒以上200秒以下である。
【0066】
図7に示す酸素センサ1bは、膜電極接合体10bを具備している。この膜電極接合体10bは、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質膜100bと、該固体電解質膜100bの一面に配置された第1電極101b及び第2電極102b並びに該固体電解質膜100bの他面に配置された中間電極120bとを備えている。膜電極接合体10bは、その一つの構造中に、濃淡電池と酸素ポンプとを具備している。
【0067】
固体電解質膜100bとしては、図1及び図3に示す実施形態の酸素センサ1における第1固体電解質膜100又は第2固体電解質膜200を構成する材料と同様のものを用いることができる。第1電極101b及び第2電極102b並びに中間電極120bに関しては、図1及び図3に示す実施形態の酸素センサ1における第1電極101ないし第4電極104及び中間電極120を構成する材料と同様のものを用いることができる。また、第1電極101b、第2電極102b及び中間電極120bを構成する材料は、同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0068】
酸素センサ1bにおいては、中間電極120bと対向するように電極対向部材50が配置されている。図7においては、電極対向部材50は平板状の部材として表されている。また図7においては、電極対向部材50と中間電極120bとが隙間なく密着している状態が示されているが、これに限られず、電極対向部材50と中間電極120bとが間隔を空けて配置されていてもよい。
【0069】
固体電解質膜100bと電極対向部材50との間には環状壁部31が設けられている。環状壁部31は中間電極120bを囲繞するように設けられている。その結果、酸素センサ1bにおいては、環状壁部31よって、固体電解質膜100bと電極対向部材50との間に、基準酸素濃度空間Sが画成されている。図7においては、環状壁部31と、固体電解質膜100bと、電極対向部材50と、中間電極120とによって基準酸素濃度空間Sが画成されている。
【0070】
以上の構成を有する酸素センサ1bによって被検ガス中の酸素濃度を測定する方法は次に述べるとおりである。先ず、測定対象雰囲気に第1電極101b及び第2電極102bが臨み且つ電極対向部材50が外気(一般には大気)に臨むようにこれらの部材を配置する。この状態下に、酸素センサ1bの全体を加熱して、固体電解質膜100bに酸化物イオン伝導性が発現するようにする。別の方法として、第1電極101bが測定対象雰囲気に臨み、且つ第2電極102b及び電極対向部材50が外気(一般には大気)に臨むようにこれらの部材を配置してもよい。
【0071】
次に、中間電極120bを直流電源40の正極に接続し且つ第2電極102bを直流電源40の負極に接続する。これによって、酸素ポンプ作用が発現し、酸素ガスが基準酸素濃度空間S内に蓄積される。基準酸素濃度空間S内は、ある圧力を維持したまま、酸素ガスの分圧が高い状態である基準酸素濃度となる。この状態下に、第1電極101bと中間電極120bとの間に生じる起電力を電圧計60によって測定する。その後は、図1に示す実施形態と同様の手順によって、ネルンストの式に従い、第1電極101bが臨む測定対象雰囲気中の酸素濃度を算出する。
【0072】
本実施形態によっても、基準酸素濃度を高くした状態で、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を測定するので、測定精度を高めることができるという有利な効果が奏される。しかも本実施形態の酸素センサ1bは、測定精度の向上や酸素ポンピング時間を短縮できるという利点がある。
【0073】
図8には、図7に示す酸素センサの別の実施形態が示されている。図8に示す酸素センサ1bは、図7に示す酸素センサが備えていた中間電極120bが、第3電極103bと第4電極104bに分割されており互いに独立している点が、図7に示す酸素センサ1と相違している。第3電極103b及び第4電極104bを構成する材料は、同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。第3電極103b及び第4電極104bは、環状壁部31によって囲繞されている。その結果、酸素センサ1bにおいては図8に示すとおり、環状壁部31と、固体電解質膜100bと、電極対向部材50と、第3電極103bと、第4電極104bとによって基準酸素濃度空間Sが画成されている。
【0074】
以上の構成を有する酸素センサ1bによって被検ガス中の酸素濃度を測定する方法は次に述べるとおりである。先ず、測定対象雰囲気に第1電極101b及び第2電極102bが臨み且つ電極対向部材50が外気に臨むようにこれらの部材を配置する。この状態下に、酸素センサ1bの全体を加熱して、固体電解質膜100bに酸化物イオン伝導性が発現するようにする。
【0075】
次に、第4電極104bを直流電源40の正極に接続し且つ第2電極102bを直流電源40の負極に接続する。これによって、酸素ポンプ作用が発現し、酸素ガスが基準酸素濃度空間S内に蓄積される。この状態下に、第1電極101bと第3電極103bとの間に生じる起電力を電圧計60によって測定する。その後は、図1に示す実施形態と同様の手順によって、ネルンストの式に従い、第1電極101bが臨む測定対象雰囲気中の酸素濃度を算出する。本実施形態によっても、基準酸素濃度を高くした状態で、測定対象雰囲気中の酸素ガスの濃度を測定するので、測定精度を高めることができるという有利な効果が奏される。
【0076】
上述の各実施形態の酸素センサ1,1a,1bは、その構造に起因して小型化、微小化が可能となり、大幅な消費電力の低減が可能となる。したがって酸素センサ1,1a,1bを、微小機械電気素子(MEMS)に具備させることが可能である。これによって、該酸素センサを例えばパーソナルコンピュータや携帯端末などのモバイル機器に搭載することで微小な空間における酸素ガスの濃度測定が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、被検ガス中の酸素濃度を高精度に測定することが可能な酸素センサが提供される。また本発明によれば、小型化が可能な酸素センサが提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8