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特許7588582細胞内において又は細胞によって誘導された機械的歪みの評価のための装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】細胞内において又は細胞によって誘導された機械的歪みの評価のための装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20241115BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241115BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20241115BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/02
C12N5/071
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021530119
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2019082803
(87)【国際公開番号】W WO2020109421
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】2022085
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517423062
【氏名又は名称】ミメタス ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルート、ポール
(72)【発明者】
【氏名】トリエッチ、セバスチャン ヨハネ
(72)【発明者】
【氏名】バートン、トッド ピーター
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/216113(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/138034(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/059171(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0250636(US,A1)
【文献】山田侑平、外7名,オンチップ細胞機能制御のための圧電駆動型マイクロ細胞培養デバイスの開発―培養細胞への機械的ナノ振動刺激の付与―,2011年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 [online],N18,pp.993-994,<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/pscjspe/2011S/0/2011S_0_993/_pdf>,[検索日 2023.10.12]
【文献】DENKI KAGAKU,1990年,Vol.58, No.2,pp.115-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、マイクロ流体チャネル及びカバーを含むマイクロ流体ネットワークを含むマイクロ流体装置であって、
前記基材は、前記マイクロ流体チャネルの内側の面の少なくとも一部分を形成する非多孔質ダイアフラムを含み、前記マイクロ流体チャネルは、少なくとも一部分において、前記ダイアフラムによってかつ前記マイクロ流体チャネル内の毛細管圧障壁によって画定された副容積を含み、さらに、前記基材は、前記マイクロ流体チャネルへの開口であって、それにわたって前記ダイアフラムが延在する、開口を含み、前記ダイアフラムはエラストマーを含む、マイクロ流体装置。
【請求項2】
前記ダイアフラムは
明であるか又は光学的に明澄である、及び/又は、
1mm未満の厚さを有する、及び/又は、
1つ以上の電極、センサー、探針、ダイアフラムの動きを監視するための基準マーカー、強磁性粒子、接着分子又は抗体を含む機能化されたダイアフラムである、及び/又は、
前記副容積は第1副容積であり、前記ダイアフラムは前記第1副容積の表面の少なくとも一部分を形成する、請求項1に記載のマイクロ流体装置。
【請求項3】
前記カバーは、前記マイクロ流体チャネルへの入口開口を含み、前記入口開口は、前記ダイアフラムと実質的に整列している、請求項1に記載のマイクロ流体装置。
【請求項4】
前記副容積は、第1副容積であり、前記マイクロ流体チャネルは、
流路を含む第2副容積と、
前記第1副容積によって前記第2副容積から離れている第3副容積とをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項5】
ウェルを有する上層をさらに含み、前記第1副容積は、前記入口開口を介して前記ウェル内に延在する、及び/又は、第3副容積を含む場合、前記第3副容積は、前記入口開口を介して前記ウェル内に延在する、請求項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項6】
前記ダイアフラムは、前記第3副容積の表面の少なくとも一部分を形成し、前記第3副容積は、任意選択的に、さらなる毛細管圧障壁によって限定される、請求項又はに記載のマイクロ流体装置。
【請求項7】
前記基材は、
正又は負の空気圧源、
物理的アクチュエーター、
電磁的アクチュエーター、及び
膨張可能な発泡体、
の1つ以上に前記ダイアフラムを作動的に接続するように構成される、請求項1~のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項8】
前記毛細管圧障壁は、
前記マイクロ流体チャネルの内面から突出する材料の隆線、
前記マイクロ流体チャネルの拡幅部、
前記マイクロ流体チャネルの内面における溝、
前記マイクロ流体チャネルの内面に対する異なる湿潤性の材料の領域、又は
等間隔の複数の柱を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項9】
前記マイクロ流体ネットワークは、
a.前記第1副容積内に提供されたゲル、細胞外マトリクス又は足場、
b.前記マイクロ流体チャネルを内張りする上皮細胞又は内皮細胞、
c.ゲル、細胞外マトリクス又は足場の内側に位置する上皮細胞又は内皮細胞、
d.ゲル、細胞外マトリクス又は足場内又は上における間質細胞、
e.ゲル、細胞外マトリクス又は足場内又は上における筋細胞、
f.多能性細胞及び中枢神経系、末梢神経系、リンパ細網、免疫、泌尿器、呼吸器、生殖、消化管、内分泌、皮膚、筋骨格、循環器並びに乳細胞型から選択された1つ以上の他の細胞型の1以上を含む生物学的材料又はバイオミメティック材料を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項10】
細胞によって誘導された機械的歪みを評価する方法であって、
請求項1~のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置の前記マイクロ流体ネットワーク内に1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を導入するステップと、
任意選択的に、前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップと、
前記ダイアフラム上に配設された又は前記ダイアフラムに作動的に接続された1つ以上の電極、センサー、探針又はダイアフラムの動きを監視するための基準マーカーを使用して、前記ダイアフラムのたわみを監視するステップとを含む方法。
【請求項11】
1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを生じさせる方法であって、
請求項1~のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置の前記マイクロ流体ネットワーク内に1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を導入するステップと、
任意選択的に、前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップと、
前記ダイアフラムに正圧又は負圧を加えることにより、前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを生じさせるステップと
を含む方法。
【請求項12】
交互の正圧及び負圧を加えるステップを含む、及び/又は、機械的歪みは、単発、周期性又は繰り返しパターンで時間を通して変化する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記装置は、前記マイクロ流体チャネルと接触する複数のダイアフラムを含み、前記複数のダイアフラムは、所定パターンにおける前記複数のダイアフラムの1つ以上の複数回の作動が、複数の作動周期の過程にわたり、前記マイクロ流体ネットワークを通した正味の流体の動きを引き起こすように構成される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
ある体積のゲル又はゲル前駆体を前記マイクロ流体ネットワーク内に導入するステップと、
前記体積のゲル又はゲル前駆体が硬化するか又はゲル化して、硬化したゲルを形成することを可能にするステップと、
前記マイクロ流体ネットワークに流体を充填するステップと、
前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップと
を含む、請求項1013のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項14が請求項に従属し、第3副容積が前記入口開口を介して前記ウェル内に延在するとき、1つ以上の型の細胞を、前記入口開口を介して前記第3副容積に導入し、かつ前記1つ以上の型の細胞が単層又は細胞の集合体を形成することを可能にするステップをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
a.管又は血管を形成する可能性がある、前記マイクロ流体チャネルを内張りする上皮細胞又は内皮細胞、
b.ゲル、細胞外マトリクス又は足場の内側、その上又はそれに接して位置する上皮細胞又は内皮細胞、
c.ゲル、細胞外マトリクス又は足場内、その上又はそれに接する間質細胞、
d.ゲル、細胞外マトリクス又は足場内、その上又はそれに接する筋細胞、
e.多能性細胞及び中枢神経系、末梢神経系、免疫、泌尿器、呼吸器、生殖、消化管、内分泌、皮膚、筋骨格、循環器並びに乳細胞型から選択される1つ以上の他の細胞型の任意の1つ又はそれらの組合せの培養をさらに含む、請求項1015のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体装置と、マイクロ流体装置を使用して細胞内における機械的歪みを誘導又は評価する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養でこれまで以上に生理学的に関連する状態をシミュレートしようする試みに向けた努力において、薬効、ADME安全性を評価するために前臨床細胞ベースモデルで例えば灌流、共培養及び機械的歪みをシミュレートするための多くのモデルが開発されてきた。
【0003】
マイクロ流体は、複雑なマイクロ流体ネットワークの製造を容易にしかつ可能にするマイクロエンジニアリング技法の進歩とともに、使用中の液体又は培地の固有の流れに起因するこうしたインビトロ細胞培養モデルのための一般的なプラットフォーム技術となった。しかしながら、呼吸及び蠕動運動から空気/液体流によって誘導されるせん断応力に起因して、例えば肺又は消化管の細胞にかかる機械的歪みをシミュレート又は再現するモデルを生成することに依然として高い関心がもたれている。
【0004】
Emulateの肺チップモデル(Lung on a Chip)等の解決法が存在し、そこでは、2つのマイクロ流体チャネルが多孔質膜によって離れており、膜の一方の側でヒト肺胞上皮細胞が培養され、膜の他方の側でヒト肺微小血管内皮細胞が培養される(Science(2010)328,p1662-1668)。Children’s Medical Center Corporationの国際公開第2010/009307号パンフレットにも記載されている通りである。しかしながら、直接細胞間接触と、あり得るジャクスタクリンシグナル伝達(juxtacrine signaling)とは、膜の存在並びに細孔のサイズ及び分布によって妨げられる。
【0005】
Alveolix(http://www.alveolix.com/technology/)は、国際公開第2015/032889号パンフレットにおいてUniversitaet Bernによって部分的に記載されているように、異なるタイプの解決法を有する。この装置では、上部から開放している膜上で上皮細胞が培養される。底面側では、膜は、作動時に第1膜に伸張を加えるダイアフラム下面を有するマイクロ流体チャネルに連結する。また、この例では、細胞は、人工表面上で成長する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今日まで、上皮細胞層に伸張を加えるように依然として適所にありながら、例えば微小血管網と上皮細胞層との間のジャクスタクリン相互作用を同時に可能にする構成において、異なる細胞型の培養に向けられた解決法は、存在しない。これには、人工膜のない完全に異なる解決法が必要である。
細胞における機械的歪みをシミュレートする改善された装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様では、
マイクロ流体ネットワークであって、
基材、マイクロ流体チャネル及びカバーを含むマイクロ流体ネットワークを含むマイクロ流体装置であって、
前記基材は、前記マイクロ流体チャネルの内側の面の少なくとも一部分を形成する非多孔質ダイアフラムを含み、前記マイクロ流体チャネルは、少なくとも一部分において、前記ダイアフラムによってかつ前記マイクロ流体チャネル内の毛細管圧障壁によって画定された副容積を含む、マイクロ流体装置が提供される。
【0008】
本発明の第2態様では、細胞によって誘導された機械的歪みを評価する方法であって、
第1態様によるマイクロ流体装置のマイクロ流体ネットワーク内に1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を導入するステップと、
任意選択的に、前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップと、
ダイアフラム上に配設された又は前記ダイアフラムに作動的に接続された1つ以上の電極、センサー、探針、前記ダイアフラムの動きを監視するための基準マーカー、強磁性粒子又は抗体を使用して、前記ダイアフラムのたわみを監視するステップとを含む方法が提供される。
【0009】
本発明の第3態様では、1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを生じさせる、すなわち前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを誘導する方法であって、
第1態様によるマイクロ流体装置のマイクロ流体ネットワーク内に前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を導入するステップと、
任意選択的に、前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップと、
ダイアフラムに正圧又は負圧を加えることにより、前記1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを生じさせるステップとを含む方法が提供される。
【0010】
本発明の第4態様によれば、アッセイプレートであって、毛細管圧障壁によってマイクロ流体チャネルの副容積に限定されたゲルを備えた第1態様の装置を含み、任意選択的に、ゲルは、1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む、アッセイプレートが提供される
【0011】
本発明の第5態様によれば、
本発明の第3態様のアッセイプレートと、
血管形成を誘導する、1つ以上の血管形成促進化合物とを含むキットが提供される。
【0012】
先行する研究では、上皮の作動と、上皮及び内皮の両方の作動とを実証した。しかしながら、ジャクスタクリン様式で(すなわち直接細胞間接触で)上皮と相互作用する複数の微細血管の形態の血管新生組織の機械的作動は、これまで可能ではなく、かつ実証されてこなかった。これを達成するために、フィルタ膜等の人工障壁のない何らかの形態の初期パターニングが必要であり、すなわち、上皮は、内皮に対して異なる場所において、それらの細胞が直接相互作用することを依然として可能にしながら、播種される必要がある。上述した態様の任意のものによる装置により、予期せず血管新生組織の機械的作動が可能になり、したがって薬効又はADME安全性を評価する改善されたインビトロ又はエクスビボモデルシステムの開発の可能性が開かれる。
【0013】
定義
本明細書及び特許請求の範囲を通して、本発明の装置、方法、使用及び他の態様に関する様々な用語を使用する。こうした用語には、別段の指示がない限り、本発明が関連する技術分野におけるそれらの通常の意味が与えられる。他の具体的に定義される用語は、本明細書に提供する定義と一貫するように解釈されるべきである。本発明の試験の実施には、本明細書に記載するものと同様又は均等である任意の方法及び材料を使用することができるが、本明細書では好ましい材料及び方法を記載する。
【0014】
本明細書で用いる場合の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」という単数形は、文脈上明確に別段の指示がない限り、複数の指示対象も含む。したがって、例えば「細胞」と言及する場合、それは、2つ以上等の細胞の組合せを含む。
【0015】
本明細書で用いる場合の「約」及び「およそ」:これらの用語は、量、時間的な持続時間等の測定可能な値に言及する場合、指定された値から±20%又は±10%、より好ましくは±5%、より一層好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味し、それは、こうした変動が、開示する方法を実施するために適切であるためである。
【0016】
本明細書で用いる場合の「含む」は、包括的であるとともにオープンエンドであり、排他的ではないと解釈される。具体的には、この用語及びその変形は、指定された特徴、ステップ又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は構成要素の存在を排除すると解釈されるべきではない。
【0017】
本明細書で用いる場合の「例示的な」は、「例、事例又は例示としての役割を果たすこと」を意味し、本明細書に開示する他の構成を排除するものとして解釈されるべきではない。
【0018】
本明細書で用いる場合の「マイクロ流体チャネル」という用語は、長さ、幅又は高さの寸法の少なくとも1つがサブミリメートル範囲にある、上部基板若しくはカバーによって覆われている材料の層の上若しくはそうした層を通るチャネル又は下部基板若しくは基材の上に配置された材料の下若しくはそうした材料を通るチャネルを指す。この用語は、直線状チャネルであるチャネル及び分岐しているか、又はそれらの経路内に曲がり若しくは角を有するチャネルを包含することが理解されるであろう。マイクロ流体チャネルは、典型的には、ある体積の液体を投与するための入口を含む。マイクロ流体チャネルによって囲まれた容積は、典型的には、マイクロリットル又はサブマイクロリットルの範囲にある。マイクロ流体チャネルは、典型的には、下にある材料の上部表面であり得る基材と、2つの側壁と、マイクロ流体チャネルの上に重なる上部基板の下部表面であり得る天井とを含み、必要に応じて任意の構成の入口、出口及び/又は通気口を含む。基材、側壁及び天井は、それぞれマイクロ流体チャネルの内側の面と称することができ、まとめて内側の面と称することができる。いくつかの例では、マイクロ流体チャネルは、円形又は半円形の断面を有することができ、これは、そのため、それぞれ1つ又は2つの内側の面を有するとみなされる。
【0019】
本明細書で用いる場合の「ダイアフラム」は、圧力が加えられると変形可能であるが、加圧が解除されると静止状態に戻るように弾性的に付勢されるエラストマー及び/又は非多孔質部材を指す。ダイアフラムの「作動」、「変位」、「たわみ」又は「歪み」に言及する場合、それは、ダイアフラムの「変形」と均等であるものとして理解されるべきである。
【0020】
本明細書で用いる場合の「液滴保持構造」及び「毛細管圧障壁」は、同義で使用され、液体-空気又は他の流体-流体メニスカスを毛細管力によって特定の位置にピン止めされたままにする装置の特徴に関連して使用される。毛細管圧障壁は、容積V0を有するマイクロ流体チャネルを、異なる流体を導入することができる2つの副容積V1及びV2に分割するものとみなすことができる。要するに、毛細管圧障壁は、少なくとも部分的に2つの副容積間の境界に位置することにより、マイクロ流体チャネルの1つの副容積又は複数の副容積を画定する。
【0021】
特に毛管圧障壁に関して、本明細書で用いる場合の「~と実質的に整列した」、例えば「開口と実質的に整列した」は、マイクロ流体装置を上方から見た場合、開口の外周部のある箇所に対して、毛管圧障壁の場所の有意なオフセット又は変位がないことを意味するように理解されるであろう。
【0022】
特に毛細管圧障壁に関して、本明細書で用いる場合の「閉じた幾何学的形態」は、毛細管圧障壁が、2つの端部を有する直線状の毛細管圧障壁と異なり、代わりに閉ループを形成する形態であり得る。例えば、上方から見た場合、閉じた幾何学的形態を有する毛細管圧障壁は、円形の毛細管圧障壁又は多角形の毛細管圧障壁、例えば三角形の毛細管圧障壁、若しくは正方形の毛細管圧障壁、若しくは五角形の毛細管圧障壁等を含むことができる。いくつかの例では、毛細管圧障壁の閉じた幾何学的形態は、2つの直線状の毛細管圧障壁であって、ともにマイクロ流体チャネルの同じ壁又は複数の壁と交差し、それにより2つの直線状の毛細管圧障壁及び壁によって境界が画されたマイクロ流体チャネルのエリアを閉鎖又は画定するように構成された2つの直線状の毛細管圧障壁も指すことができる。
【0023】
本明細書で用いる場合の「同心の」という用語は、中心を有する毛細管圧障壁の任意の閉じた幾何学的形態を指すものであり、毛細管圧障壁が同心である、すなわち共通の中心に合わせられる別の毛細管圧障壁又は開口の形状又は形態に対応する円形形態又は他の別の形状若しくは形態を指すものではないと理解されるべきである。例えば、「同心の」という用語は、2つの直線状毛細管圧障壁であって、ともにマイクロ流体チャネルの同じ壁又は複数の壁と交差し、それにより2つの直線状毛細管圧障壁及び壁によって境界が画されるマイクロ流体チャネルのエリアを閉鎖又は画定するように構成される、中心を有する2つの直線状毛細管圧障壁も指すものとも理解されるべきである。
【0024】
本明細書で用いる場合の「直線状の」毛細管圧障壁は、真っ直ぐな線として解釈されるべきではない、代わりに、閉じた幾何学的形態以外、すなわち2つの端部を有するが、1つ以上の曲がり又は角を有する場合がある線として解釈されるべきである。直線状の毛細管圧障壁は、典型的には、各端部においてマイクロ流体チャネルの側壁と交差する。
【0025】
本明細書で用いる場合の「歪み区画」及び「細胞培養チャンバー」という用語は、ダイアフラムの表面によって少なくとも一部分において画定されたマイクロ流体ネットワークの副容積を指す。副容積は、一部分において、マイクロ流体ネットワーク内に配置された毛細管圧障壁によっても画定することができる。
【0026】
本明細書で用いる場合の「内皮細胞」という用語は、内皮起源の細胞又は細胞を内皮細胞として特定するマーカーを発現する状態に分化した細胞を指す。
【0027】
本明細書で用いる場合の「上皮細胞」という用語は、上皮起源の細胞又は細胞を上皮細胞として特定するマーカーを発現する状態に分化した細胞を指す。
【0028】
本明細書で用いる場合の「液滴」という用語は、マイクロ流体チャネルの高さを超える場合もあれば超えない場合もあり、必ずしも丸い球形状を表すとは限らない、ある体積の液体を指す。具体的には、ゲル液滴と言及する場合、それは、歪み区画内のある体積のゲルである。
【0029】
本明細書で用いる場合の「生物学的組織」という用語は、本明細書に記載する方法において培養及び/又は検定される同一の、同様の又は異なる型の機能的に相互接続された細胞の集まりを指す。細胞は、細胞の集合体及び/又は患者由来の特定の組織サンプルであり得る。例えば、「生物学的組織」という用語は、オルガノイド、組織生検、腫瘍組織、切除された組織材料、スフェロイド及び胚様体を包含する。
【0030】
本明細書で用いる場合の「細胞の集合体」という用語は、典型的には単層で増殖する表面付着細胞とは対照的に、細胞の3Dクラスターを指す。細胞の3Dクラスターは、典型的には、よりインビボ様の状況に関連する。対照的に、表面付着細胞は、基板の特性によって強く影響を受ける可能性があり、脱分化又は他の細胞型への移行を受ける可能性がある。
【0031】
本明細書で用いる場合の「管腔細胞成分」という用語は、管腔を有する生物学的組織(すなわち細胞から構成される)、例えば先端面及び基底面を有する微細血管を指す。
【0032】
本明細書で用いる場合、ダイアフラムに関する「非多孔質」という用語は、液体、特に細胞培養実験からの栄養分又は廃棄物を含有する液体に対して実質的に又は完全に不透過性であるダイアフラムを指す。
【0033】
ここで、本発明について、図を参照して単に例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本明細書に記載する装置で使用されるマイクロ流体ネットワークのあり得る第1構成の垂直断面図を示す。
図2】本明細書に記載する装置で使用されるマイクロ流体ネットワークのあり得る第1構成の水平上面図を示す。
図3】本明細書に記載する装置で使用されるマイクロ流体ネットワークのあり得る第1構成の拡大垂直断面図を示す。
図4】本明細書に記載する装置で使用されるマイクロ流体ネットワークのあり得る第2構成の垂直断面図を示す。
図5】本明細書に記載する装置で使用されるマイクロ流体ネットワークのあり得る水平上面図を示す。
図6】本明細書に記載する装置で使用されるマイクロ流体ネットワークのあり得る拡大垂直断面図を示す。
図7A】本明細書に記載する装置において使用される、特に静止状態におけるダイアフラムを示す、マイクロ流体ネットワークの拡大垂直断面図を示す。
図7B】本明細書に記載する装置において使用される、特に負作動時の変形状態におけるダイアフラムを示す、マイクロ流体ネットワークの拡大垂直断面図を示す。
図7C】本明細書に記載する装置において使用される、特に正作動時の変形状態におけるダイアフラムを示す、マイクロ流体ネットワークの拡大垂直断面図を示す。
図8A】本明細書に記載する方法におけるステップの概略表現を示す。
図8B】本明細書に記載する方法におけるステップの概略表現を示す。
図8C】本明細書に記載する方法におけるステップの概略表現を示す。
図8D】本明細書に記載する方法におけるステップの概略表現を示す。
図8E】本明細書に記載する方法におけるステップの概略表現を示す。
図8F】本明細書に記載する方法におけるステップの概略表現を示す。
図9A】本明細書に記載する代替方法におけるステップの概略表現を示す。
図9B】本明細書に記載する代替方法におけるステップの概略表現を示す。
図9C】本明細書に記載する代替方法におけるステップの概略表現を示す。
図9D】本明細書に記載する代替方法におけるステップの概略表現を示す。
図9E】本明細書に記載する代替方法におけるステップの概略表現を示す。
図9F】本明細書に記載する代替方法におけるステップの概略表現を示す。
図10A】本明細書に記載する装置において使用されるマイクロ流体ネットワークの代替構成の拡大垂直断面図を示す。
図10B】本明細書に記載する装置において使用されるマイクロ流体ネットワークの代替構成の拡大垂直断面図を示す。
図10C】本明細書に記載する装置において使用されるマイクロ流体ネットワークの代替構成の拡大垂直断面図を示す。
図11A】本明細書に記載する装置において使用されるマイクロ流体ネットワークの異なる構成の毛細管圧障壁及び開口リムによってピン止めされたゲル又は細胞外マトリクスを示す。
図11B】本明細書に記載する装置において使用されるマイクロ流体ネットワークの異なる構成の毛細管圧障壁及び開口リムによってピン止めされたゲル又は細胞外マトリクスを示す。
図12】本明細書に記載する装置において使用されるマイクロ流体ネットワークの代替構成の使用を示す。
図13】本明細書に記載する装置において使用されるマイクロ流体ネットワークの代替構成の使用を示す。
図14A】本明細書に記載するマイクロ流体ネットワーク又は装置の基材にダイアフラムを固定する代替方法を示す。
図14B】本明細書に記載するマイクロ流体ネットワーク又は装置の基材にダイアフラムを固定する代替方法を示す。
図15】本発明による、本明細書に記載するマイクロ流体ネットワークのマルチウェル構成からなる装置の平面図を示す。
図16】本明細書に記載する、マイクロ流体ネットワークのマルチウェル構成からなる装置の垂直断面図を示す。
図17】本明細書に記載する、マイクロ流体ネットワークのマルチウェル構成からなる装置の垂直断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
マイクロ流体装置
マイクロ流体装置について説明する。マイクロ流体装置は、好ましくは、インビトロ細胞ベースアッセイ、薬品スクリーニングアッセイ、毒性アッセイ等におけるその使用を可能にするために、マルチアレイ形式/マルチウェル形式、特にハイスループットスクリーニング形式である。こうしたマルチウェル培養プレートは、矩形マトリクスに配置された6、12、24、48、96、384及び1536個のサンプルウェルで入手可能であり、本発明に関連して、本明細書に記載するマイクロ流体ネットワークのマルチアレイ構成がマイクロ流体装置に存在する。1つの例では、マイクロ流体装置は、標準のANSI/SLASマイクロタイタープレート形式の1つ以上の寸法に適合性がある。代替実施形態では、マイクロ流体装置は、顕微鏡ガラススライドの寸法を有するマルチアレイ形式である。
【0036】
したがって、マイクロ流体装置は、好ましくは、本明細書に記載する複数のマイクロ流体ネットワークを有する。1つの例では、複数のマイクロ流体ネットワークは、互いに流体的に分離されており、換言すれば、各マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体装置上に存在する他のいかなるマイクロ流体ネットワークからも独立して動作する。
【0037】
1つの例では、マイクロ流体装置は、
マイクロ流体ネットワークを含み、マイクロ流体ネットワークは、
基材、マイクロ流体チャネル及びカバーを含み、
基材は、マクロ流体チャネルの内側の面の少なくとも一部分を形成するダイアフラムを含み、マイクロ流体チャネルは、少なくとも一部分において、ダイアフラムによってかつマイクロ流体チャネル内の毛細管圧障壁によって画定される副容積を含む。
【0038】
1つの例では、マイクロ流体装置は、
マイクロ流体ネットワークを含み、マイクロ流体ネットワークは、
細胞培養チャネルを含むマイクロ流体チャネルと、
マイクロ流体チャネル上のカバーと、
マイクロ流体チャネルが配設された基材であって、
細胞培養チャンバーへの開口と、開口にわたって延在し、それにより細胞培養チャンバーの床の少なくとも一部分を形成するダイアフラムとを含む基材とを含む。
【0039】
1つの例では、マイクロ流体装置は、
マイクロ流体ネットワークを含み、マイクロ流体ネットワークは、
歪み区画を含むマイクロ流体チャネルと、
マイクロ流体チャネル上のカバーと、
マイクロ流体チャネルが配設された基材であって、
細胞培養チャンバーへの開口と、開口にわたって延在し、それにより歪み区画の床の少なくとも一部分を形成するダイアフラムとを含む基材とを含む。
【0040】
1つの例では、マイクロ流体装置は、
マイクロ流体ネットワークを含み、マイクロ流体ネットワークは、
マイクロ流体チャネルと、
マイクロ流体チャネル上のカバーであって、マイクロ流体チャネルへの開口を含むカバーと、
マイクロ流体チャネルが配設された基材であって、マイクロ流体チャネルの床の少なくとも一部分を形成するダイアフラムを含み、ダイアフラムは、実質的に開口と整列している、基材とを含む。
【0041】
1つの例では、マイクロ流体装置は、
マイクロ流体ネットワークを含み、マイクロ流体ネットワークは、
マイクロ流体チャネルと、
マイクロ流体チャネル上のカバーと、
マイクロ流体チャネルが配設された基材であって、基材の取り囲む部分よりも薄い断面の領域を含む基材とを含む。
【0042】
1つの例では、マイクロ流体装置は、
マイクロ流体ネットワークを含み、マイクロ流体ネットワークは、
基材と、内側の面を有するマイクロ流体チャネルと、マイクロ流体チャネル内への開口を含むカバーとを含み、
マイクロ流体チャネルは、第1毛細管圧障壁及び第2毛細管圧障壁を含み、第1毛細管圧障壁及び第2毛細管圧障壁は、同じ内側の面に配設されるとともに、実質的にカバーの開口と整列し、かつ同心である。
【0043】
概して、マイクロ流体装置は、少なくとも、マイクロ流体チャネルを有するマイクロ流体ネットワークを含むマイクロ流体装置である。マイクロ流体チャネル又はネットワークの異なる構成は、本発明の範囲内で可能であるが、ゲル、例えば細胞外マトリクスを受容及び限定するために、例えばマイクロ流体チャネル内における又はマイクロ流体チャネルと流体連通する容積又は副容積を含むことができる。
【0044】
マイクロ流体装置は、概して、マイクロ流体ネットワークを含み、その各々についてここで詳細に説明する。
【0045】
マイクロ流体ネットワーク
マイクロ流体装置のマイクロ流体ネットワークは、概して、基材と、マイクロ流体チャネル又はマイクロ流体層と、本明細書ではカバー層とも称するカバーとを含み、種々の様式で製造することができる。
【0046】
本明細書において基材層又は下部基板とも称する基材は、好ましくは、ガラス又はプラスチック等の実質的に剛性のある材料から形成され、マイクロ流体ネットワークの残りの部分のための支持表面を提供する役割を果たす。1つの例では、基材は、標準のANSI/SLASマイクロタイタープレートのウェル面積と同じ又は同様の寸法である。いくつかの例では、基材は、マイクロ流体層又はチャネルへの開口を含み、その開口にわたって、本明細書に記載するダイアフラムが延在する。いくつかの例では、基材は、マイクロ流体装置の残りの部分を支持するようにバルク形態で十分に剛性があるが、薄いシートの形態にあるときにエラストマーとして機能する材料から形成される。こうした例では、基材は、取り囲む部分、例えば基材の残りの部分と比較してより薄い断面の領域を含むことができ、そのより薄い断面の領域は、本明細書に記載するダイアフラムとして機能するために十分にエラストマー性がある。
【0047】
1つの例では、基材層は、エッチング、レーザ穴あけ又はフライス加工されたガラスの2枚のシート間に挟装され、かつそうしたシートに積層されたダイアフラムを含むことができる。
【0048】
基材は、マイクロ流体装置の使用中にダイアフラムを作動させる手段と相互作用する。例えば、基材は、ダイアフラムを1つ以上の正又は負(空気)圧源(すなわちポンプ)、物理的アクチュエーター、電磁的アクチュエーター及び膨張可能な発泡体に作動的に接続するように構成することができる。ダイアフラムを作動させるこうした方法は、当技術分野において既知であり、これ以上の考察は不要である。
【0049】
マイクロ流体装置又はネットワークは、基材の上に配設されたマイクロ流体チャネル又はマイクロ流体層を含む。いくつかの例では、マイクロ流体チャネルは、例えば、本明細書に記載する毛細管圧障壁の存在により、副容積を含むか又は副容積に分割され得る。いくつかの例では、マイクロ流体チャネルは、歪み区画又は細胞培養チャンバーとも称することができる第1副容積を含むことができる。いくつかの例では、歪み区画又は細胞培養チャンバーは、一部分において、マイクロ流体チャネル内の毛細管圧障壁及び/又はダイアフラムの存在によって画定することができる。いくつかの例では、ダイアフラムは、第1副容積の表面又は床の少なくとも一部分を形成することができる。
【0050】
いくつかの例では、マイクロ流体チャネルは、流路を含む第2副容積と、第1副容積によって第2副容積から離れている第3副容積とをさらに含む。いくつかの例では、第2副容積の流路は、使用時流路である。第3副容積は、使用時、第1副容積に隣接する第2流路であり得るか、又は概念的に少なくとも部分的に第1副容積の上方に位置し、第1副容積が例えばゲル又は細胞外マトリクス組成物で満たされたときにのみ、満たすこと/占有のために利用可能となり得る。いくつかの例では、ダイアフラムは、第3副容積の表面の少なくとも一部分を形成する。第3副容積は、さらなる毛細管圧障壁によって限定することができる。
【0051】
マイクロ流体チャネルの典型的な製造方法は、ポリジメチルシロキサン等の成形可能材料を成形型にキャストし、そのため、マイクロ流体チャネルをシリコンゴム材料にインプリントし、それによりマイクロ流体層を形成するというものである。チャネルが埋設されたゴム材料は、続いて、ガラス又は同じ材料の基材層上に配置され、したがってシールを形成する。代わりに、ガラス又はシリコン等の材料にチャネル構造をエッチングし、続いて上部又は下部基板(本明細書ではカバー層及び基材層とも称する)に接合することができる。接合前のプラスチックの射出成形又はエンボス加工は、マイクロ流体チャネルネットワークを製造する別の方法である。マイクロ流体チャネルネットワークを製造するためのさらに別の技法は、SU-8又は他の様々なドライフィルム若しくは液体フォトレジスト等のフォトパターニング可能なポリマーにマイクロ流体チャネルネットワークをフォトリソグラフィーによりパターニングし、続いて接合ステップを行うことによる。接合と言及する場合、それは、カバー又は基材によるチャネルの閉鎖を意味する。接合技法としては、とりわけ、陽極接合、共有結合、溶剤接合、接着及び熱接合が挙げられる。
【0052】
上記の様々な製造方法から推測されるように、マイクロ流体層は、基材層上に配設されたマイクロ流体チャネルを含む副層を含むことができるか、又はカバー層若しくは基材層のいずれかにパターニングされる。使用時の向きで、マイクロ流体副層は、基材層の上面に配設される。マイクロ流体チャネルは、基材層上に配設された材料の副層を通るチャネルとして形成することができる。1つの例では、副層の材料は、基材層上に配置されたポリマーであり、その中にマイクロ流体チャネルがパターニングされる。いくつかの例では、マイクロ流体層は、互いに流体連通することができる2つ以上のマイクロ流体チャネルを含む。
【0053】
マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体チャネルを覆うカバー又はカバー層を含む。カバー又はカバー層は、当技術分野で既知である任意の好適な材料、例えばマイクロ流体チャネルを含む副層に接合されたガラス層から形成することができる。1つの例では、カバー層には、規定された箇所に予め形成された孔又は開口が設けられる。開口は、本明細書では入口開口とも称することができ、マイクロ流体層のマイクロ流体チャネルと、その上に配設されたマイクロ流体装置の他の構成要素との流体連通を可能にする。概して、入口開口は、外界又は開口の上部に配設されたウェルとのインターフェースとしての機能を果たす。
【0054】
マイクロ流体チャネルには、細胞培養装置のマイクロ流体ネットワークの任意の特定の使用に対する必要に応じて、1つ以上の追加の流体入口及び1つ以上の出口又は通気口を設けることができる。マイクロ流体ネットワークを通して流体を満たし、空にし、灌流を行うことを可能にするために、マイクロ流体チャネルには、好ましくは、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口又は通気口が設けられる。1つの例では、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口又は通気口の各々は、好ましくは、カバー層の予め形成された開口である。典型的には、入口と出口との間に幾何学的識別はなく、多くの場合、それらは、入口又は出口として交換可能に使用できることが理解されるであろう。
いくつかの例では、マイクロ流体装置は、上述したカバー層の上に配設された上層をさらに含み、上層は、マイクロ流体装置の残りの部分と流体連通する1つ又は少なくとも1つのウェルを有する。いくつかの例では、上層は、複数のこうしたウェルを有し、少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、例えば少なくとも3つのウェルは、装置のマイクロ流体ネットワーク又はチャネルと連通している。例えば、上層は、マイクロ流体ネットワークのカバー層に設けられた入口開口を介してマイクロ流体ネットワークと流体連通するウェルを含むことができ、それによりSLAS準拠ウェルプレートを形成する。ウェル及び入口開口は、本明細書に記載するマイクロ流体装置のダイアフラムと実質的に整列している。いくつかの例では、少なくとも1つのウェルとマイクロ流体層とを有する上層は、一体的に形成される。例えば、マイクロ流体チャネルは、少なくとも1つのウェルを有する射出成形されたマイクロタイタープレートの下側にパターニングすることができる。
【0055】
ダイアフラム
いくつかの例では、本開示のマイクロ流体装置は、概して、エラストマー及び/又は非多孔質膜の形態であるダイアフラムを含む。本開示のダイアフラムのこれらの特性により、ダイアフラムは、培養されている細胞に対する透過性支持体としての役割を果たしながら、細胞を、栄養分を提供し、及び/又は廃棄物を除去する灌注チャネルから、又は共培養される他の細胞から物理的に分離する、マイクロ流体装置において細胞培養に典型的に使用されるタイプの膜とは区別される。
【0056】
記載する装置のダイアフラムの機能は、体内の筋肉作動を、例えば呼吸、蠕動運動又は心拍を模倣する繰り返しパターン或いは血管の拡張若しくは狭窄を模倣するか、又は例えば虹彩等における筋収縮/弛緩を模倣する非繰り返しパターンでたわませることにより、模倣することである。
【0057】
いくつかの例では、ダイアフラムは、マイクロ流体チャネルの内側の面、例えば床を少なくとも部分的に形成する。いくつかの例では、ダイアフラムは、マイクロ流体チャネルの副容積、例えば第1副容積、及び/又は第2副容積、及び/又は第3副容積の内側の面、例えば床を少なくとも部分的に形成する。いくつかの例では、ダイアフラムは、細胞培養チャンバーの内側の面、例えば床を少なくとも部分的に形成する。いくつかの例では、ダイアフラムは、歪み区画の内側の面、例えば床を少なくとも部分的に形成する。いくつかの例では、ダイアフラムは、マイクロ流体装置のカバーに設けられた入口開口と実質的に整列している。
【0058】
いくつかの例では、基材は、2つの副層を含み、それらの間にエラストマーのシートが挟装される。これらの例では、基材の2つの副層は、相互に整列した開口を有し、エラストマーは、ダイアフラムを形成するように完全に開口にわたって延在する。他の例では、ダイアフラムを形成するエラストマーシートは、開口と同様の寸法であり、接着剤、締付、表面張力、共有結合、繋止、成形又は他の製造技法等による標準接合技法を使用して、基材の上部表面、基材の下部表面又は開口の内側の側壁に取り付けられる。
【0059】
ダイアフラムは、生体適合ダイアフラムであり得、それは、ダイアフラムが、生体適合性でありかつ細胞培養目的に好適であるエラストマーから形成されることを意味する。当業者であれば、生体適合性であるとともに、細胞培養に好適であるとみなされるために材料にいかなる要件が課されるかが分かるであろう。しかしながら、例としては、良好な細胞親和性、低ガス透過性、低細胞毒性、化学的不活性、低溶出性、低自家蛍光性を挙げることができる。
【0060】
ダイアフラムは、ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレン、ブチルゴム、スチレンブタジエン、ニトリル、エチレンプロピレン、エチレンプロピルジエン、エピクロルヒドリン、ポリアクリルゴム、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、フルオロシリコーン、フルオロエラストマー、パーフルオロエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン、多硫化物、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、超低密度ポリエチレン(ULDPE)、エチレンビニルアルコール(EVOH)から選択されるエラストマーを含むことができる。市販のエラストマーの例としては、Viton(登録商標)、Tecnoflon(登録商標)、Fluorel(登録商標)、Aflas(登録商標)、Dai-El(商標)、Tecnoflon(登録商標)、Kalrez(登録商標)、Chemraz(登録商標)、and Perlast(登録商標)が挙げられる。
当業者であれば、ダイアフラムとして、可逆的に変形する多くの粘弾性材料を使用できることが分かるであろう。
【0061】
いくつかの例では、ダイアフラムは、透明又は光学的に明澄であり、かつ好ましくは1mm未満、より好ましくは250μm未満、より好ましくは100μm未満の厚さを有する。
【0062】
いくつかの例では、ダイアフラムは、1つ以上の電極、センサー、探針、ダイアフラムの動きを監視するための基準マーカー、強磁性粒子又はダイアフラムの表面への細胞の接着を促進する接着分子若しくは抗体を含む機能化されたダイアフラムである。
【0063】
このようなダイアフラムの機能化は、実験により、ダイアフラムに配設された細胞から発出する機械的歪みを監視することとともに、加えられた作動力に対する変形の程度を監視することによりダイアフラムの外部作動を制御することを可能にする。
【0064】
ダイアフラム及び/又はそれにわたってダイアフラムが延在する基材の開口の形状は、いかなる特定の形状にも限定されないが、例えば円形、楕円形、矩形、丸みのある矩形、ドッグボーン形又は星形に対応することができる。
【0065】
ダイアフラムのサイズは、典型的には、384ウェルプレートレイアウトの場合、1~2mmである。しかしながら、いくつかの用途では、特に、例えば96ウェルマイクロタイタープレートとともに、より大きいダイアフラムが有益である場合がある。この後者の場合、2~4mm又はそれよりも大きいダイアフラムが有益であり得る。
【0066】
毛細管圧障壁
マイクロ流体装置のマイクロ流体ネットワークは、毛細管圧障壁を含むことができる。
【0067】
いくつかの例では、毛細管圧障壁は、カバーの開口と実質的に整列している。いくつかの例では、毛細管圧障壁は、マイクロ流体チャネルを第1副容積及び第2副容積に分割する。いくつかの例では、毛細管圧障壁は、少なくとも部分的に、ダイアフラムと組み合わせてマイクロ流体チャネルの副容積を画定する。
【0068】
毛細管圧障壁の機能及びパターンニングは、例えば、国際公開第2014/038943A1号パンフレットにすでに記載されている。以下に記載する例示的な実施形態から明らかとなるように、本明細書において液滴保持構造とも称する毛細管圧障壁は、例えば、1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む液滴で満たすことができる壁又は空洞と理解されるべきではなく、そうした液滴が表面張力によって広がらないことを確実にする構造からなるか又はそうした構造を有する。この概念は、メニスカスピン止めと称される。したがって、装置のマイクロ流体チャネルの副容積への、1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む液滴の安定した限定を達成することができる。1つの例では、毛細管圧障壁は、細胞培養装置の通常の使用中又は細胞培養装置を第1流体によって最初に満たす間、オーバーフローしないように構成された限定フェーズガイドと称することができる。液滴の限定の性質については、本発明の方法の説明と関連して後述する。
【0069】
1つの例では、毛細管圧障壁は、マイクロ流体チャネルの内面から突出する材料のリム若しくは隆線又はマイクロ流体チャネルの内面における溝を含むか又はそうしたものからなる。リム又は隆線の側壁は、リム又は隆線の上部に対して、好ましくは可能な限り大きい角度αを有することができる。良好な障壁を提供するためには、角度αは、70°よりも大きく、典型的には約90°であるべきである。隆線の側壁と、毛細管圧障壁が配置されるマイクロ流体チャネルの内面との間の角度αについても同じことが言える。同様の要件は、溝として形成された毛細管圧障壁にも課される。
【0070】
毛細管圧障壁の代替形態は、毛細管力/表面張力による広がり止めとして作用する、マイクロ流体チャネルの内面に対して異なる湿潤性を有する材料の領域である。1つの例では、マイクロ流体チャネルの内面は、親水性材料を含み、毛細管圧障壁は、疎水性材料又は親水性の低い材料の領域である。1つの例では、マイクロ流体チャネルの内面は、疎水性材料を含み、毛細管圧障壁は親水性又材料は、疎水性の低い材料の領域である。
【0071】
したがって、本発明の特定の実施形態では、毛細管圧障壁は、リム若しくは隆線、溝、孔又は疎水性の材料の線或いはそれらの組合せから選択される。他の実施形態では、毛細管圧障壁は、マイクロ流体チャネルの拡幅部又は選択された間隔における柱により生成することができ、その配置は、ゲルによって占有される第1副容積又は面積を画定する。1つの例では、柱は、マイクロ流体チャネルの高さ全体に延在する。
毛細管圧障壁が存在する結果として、液体は、毛細管圧障壁を越えて流れることが阻止され、マイクロチャネル内において、例えば第1副容積、第2副容積又は第3副容積の1つ以上において、安定して限定された容積の形成を可能にし、それらの任意のものが歪み区画又は細胞培養チャンバーと称され得るか又はそのように機能することができる。
【0072】
毛細管圧障壁は、マイクロ流体ネットワーク内において流体の液滴の広がりを制限するようにカバー層の開口と実質的に整列していることができる。1つの例では、毛細管圧障壁は、開口に実質的に隣接するカバー層の下側に配置される。1つの例では、毛細管圧障壁は、少なくとも一部分において開口自体によって形成される。
【0073】
1つの例では、毛細管圧障壁は、カバーの開口に面するマイクロ流体チャネルの内面に設けられる。より特定の実施形態では、毛細管圧障壁は、マイクロ流体層の基材上又は実質的にカバーの開口と対向するか若しくはそれに面するマイクロ流体チャネルの内面に存在する。1つの例では、毛細管圧障壁は、カバーの開口と整列したマイクロ流体層の副容積に流体の液滴を限定するために、先に定義されたように存在する。
【0074】
1つの例では、毛細管圧障壁は、少なくとも一部分において、細胞培養チャンバー又は歪み区画とも称することができる、マイクロ流体チャネルの第1副容積の表面、例えば床を画定する。毛細管圧障壁は、マイクロ流体チャネルの第1副容積に流体を限定するように構成される。
【0075】
1つの例では、毛細管圧障壁は、閉じた幾何学的形態を有する。1つの例では、毛細管圧障壁は、カバー層の開口と同心である。
【0076】
1つの例では、毛細管圧障壁の周囲によって画定された直径又は面積は、カバーの開口の周囲によって画定された直径又は面積よりも大きく、換言すれば、毛細管圧障壁は、開口の周囲にあり、かつ開口よりも大きい。別の例では、開口の周囲によって画定された直径又は面積は、毛細管圧障壁の周囲によって画定された直径又は面積よりも大きく、換言すれば、開口は、毛細管圧障壁の周囲にあり、かつ毛細管圧障壁よりも大きい。毛細管圧障壁は、その形状にかかわらず、好ましい実施形態では、マイクロ流体チャネル内に導入された1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む液体又はゲル組成物の液滴の、マイクロ流体チャネルの基材との接触エリアの輪郭を描き、すなわち1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む液滴の、マイクロ流体チャネルの基材との接触エリアの周囲にある。
【0077】
1つの例では、毛細管圧障壁は、マイクロ流体チャネルの幅全体にわたり、かつ各端部でマイクロ流体チャネルの側壁と交差する、実質的に直線状の毛細管圧障壁である。
【0078】
マイクロ流体ネットワークの一部分として、毛細管圧障壁は、ネットワークを少なくとも2つの副容積に分割する。
【0079】
第2毛細管圧障壁
いくつかの例では、本装置のマイクロ流体ネットワークには、第2毛細管圧障壁が設けられ、その形態及び機能は、実質的に上述した通りである。誤解を避けるために、「毛細管圧障壁」と言及する場合、本装置に第2毛細管圧障壁が存在する場合、「第1毛細管圧障壁」への言及であると理解されるべきである。
【0080】
いくつかの例では、第2毛細管圧障壁は、マイクロ流体ネットワーク内において流体の液滴の広がりを制限するようにカバー層の開口と実質的に整列している。1つの例では、第2毛細管圧障壁は、開口に実質的に隣接するカバー層の下側に配置される。1つの例では、第2毛細管圧障壁は、少なくとも一部分において開口自体によって形成される。
【0081】
1つの例では、第2毛細管圧障壁は、カバーの開口に面するマイクロ流体チャネルの内面に設けられる。より特定の実施形態では、第2毛細管圧障壁は、マイクロ流体層の基材上又は実質的に開口と対向するか又は開口に面するマイクロ流体チャネルの内面に存在する。1つの例では、第2毛細管圧障壁は、開口と整列したマイクロ流体層の領域に流体の液滴を限定するために、開口又はウェルに関して先に定義したように存在する。
【0082】
1つの例では、第2毛細管圧障壁は、第1毛細管圧障壁と組み合わさって、マイクロ流体層の基材上、マイクロ流体チャネルの基材上及び/又はダイアフラム上で歪み区画又は細胞培養チャンバーの表面を少なくとも一部分において画定する。第2毛細管圧障壁は、第1毛細管圧障壁と組み合わさって、歪み区画及び/又は細胞培養チャンバーを含む第1副容積に流体を限定するように構成される。1つの例では、第2毛細管圧障壁は、閉じた幾何学的形態を有する。1つの例では、第2毛細管圧障壁は、カバー層の開口及び/又は第1毛細管圧障壁と同心である。1つの例では、第2毛細管圧障壁の周囲によって画定される直径又は面積は、開口及び/又は第1毛細管圧障壁の周囲によって画定される直径又は面積よりも大きく、換言すれば、第2毛細管圧障壁は、第1毛細管圧障壁及び/又は開口の周囲にあり、かつ第1毛細管圧障壁及び/又は開口よりも大きい。1つの例では、第2毛細管圧障壁は、第1毛細管圧障壁と同心であり、第1毛細管圧障壁の周囲内にある。別の例では、開口の周囲によって画定される直径又は面積は、第2毛細管圧障壁の周囲によって画定される直径又は面積よりも大きく、換言すれば、開口は、第2毛細管圧障壁の周囲にあり、かつ第2毛細管圧障壁よりも大きい。第2毛細管圧障壁は、その形状にかかわらず、好ましい実施形態では、歪み区画内に導入された1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む液体又はゲル組成物の液滴の、歪み区画の基材との接触エリアの輪郭を描き、すなわち1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む液滴の、歪み区画の基材との接触エリアの周囲にある。
【0083】
1つの例では、第2毛細管圧障壁は、マイクロ流体チャネルの幅全体にわたり、かつ各端部でマイクロ流体チャネルの側壁と交差する、実質的に直線状の毛細管圧障壁である。この例では、第1毛細管圧障壁及び第2毛細管圧障壁は、それらが交差する壁とともに、カバー層の開口と整列しかつカバーの開口と同心でもあり得るエリアを画定することができる。この例では、第1毛細管圧障壁は、マイクロ流体ネットワークを、歪み区画又は細胞培養チャンバーを含む第1副容積と、マイクロ流体チャネルを含む第2副容積とに分割し、第2毛細管圧障壁は、マイクロ流体ネットワークを、細胞培養チャンバー又は歪み区画を含む第1副容積と、第2マイクロ流体チャネルを含む第3副容積とに分割するとみなすことができる。
【0084】
マイクロ流体ネットワークの一部分として、第2毛細管圧障壁は、ネットワークを少なくとも2つの副容積、すなわち歪み区画又は細胞培養チャンバーを含む上述した第1副容積である第1のものと、第3副容積とに分割する。1つの例では、第3副容積は、第1副容積とは別個の、すなわち第1副容積内に収容されないマイクロ流体チャネルの一部分を含む。1つの例では、第3副容積は、完全に第1副容積内に収容され、すなわち、第1毛細管圧障壁及び第2毛細管圧障壁は、いずれも閉じた幾何学的形態であり、第2毛細管圧障壁は、第1毛細管圧障壁によって完全に包囲される。
【0085】
いくつかの例では、第1毛細管圧障壁及び第2毛細管圧障壁は、両方ともマイクロ流体チャネルの基材若しくは床上又はマイクロ流体チャネルの上部表面若しくは天井上に配設される。いくつかの例では、第1毛細管圧障壁は、開口と整列したマイクロ流体チャネルの第1副容積を画定する。いくつかの例では、第1毛細管圧障壁及び第2毛細管圧障壁は、第1副容積及び開口と同心でありかつ第1副容積を囲む、マイクロ流体チャネルの第2副容積を画定する。いくつかの例では、第1毛細管圧障壁及び第2毛細管圧障壁は、閉じた幾何学的形態(例えば、円形)であり、第2毛細管圧障壁は、第1毛細管障壁を包囲する。いくつかの例では、第1毛細管圧障壁は、開口の両側に配置されるとともに第1副容積を画定するように、対向する内側の面まで延在する、直線状の毛細管圧障壁の第1対を含み、第2毛細管圧障壁は、開口の両側に配置され、対向する内側の面まで延在し、第2副容積及び第3副容積を画定するように、第1毛細管圧障壁からかつその外側に間隔を空けて配置された直線状の毛細管圧障壁の第2対を含む。これらの例では、外部組織サンプル、例えば組織切片又はオルガノイドは、ピン止めされたゲル又はECM内においてかつそれによって生成された空洞内に配置し、血管新生床と同じ平面であるため、より容易に(ゲルが血管新生されると)血管新生させることができる。この構成により、すべての構成要素が同じ焦点面にあるため、システム全体の撮像のために組織をよりよく位置決めすることも可能になる。
【0086】
貯留部
いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体チャネルへの培地入口と流体連通する貯留部又はウェルを含む。貯留部は、ある体積の液体、例えば培養培地を保持するために存在し得る。典型的な実施形態では、貯留部は、マイクロ流体チャネルにより保持されるか又はマイクロ流体チャネルが保持することができるよりも大きい体積の流体を保持することができる。貯留部は、マイクロ流体層の上部に配設された底なしマイクロタイタープレート上の細胞培養チャンバーへの入口開口と整列したウェルに隣接するウェルであり得る。他の例では、貯留部は、同じマイクロタイタープレート上であるが、歪み区画のウェルから空間的に離れたウェルであり得る。歪み区画のウェルに貯留部が近接していることは、これらの2つがマイクロ流体層を介して流体連通している限り、本装置の動作にとって必須ではないことが理解されるであろう。
【0087】
いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体層と、細胞培養チャンバー又は歪み区画及びマイクロ流体ネットワーク内に存在する他の任意の貯留部とに流体連通する2つ以上、例えば2つ又はそれより多くの貯留部を含む。各貯留部は、必要に応じてマイクロ流体層の、入口又は出口と称することができるカバー層の開口を介してマイクロ流体層と流体連通することができる。マイクロ流体ネットワーク内に少なくとも2つの貯留部が存在する実施形態では、第1貯留部は、流体、例えば培地をマイクロ流体ネットワーク内に導入するために使用することができ、第2貯留部は、本発明の方法の実施中、通気口又は流体を受容するオーバーフロー区画として機能することができる。
【0088】
いくつかの例では、本装置のマイクロ流体ネットワークは、
a.例えば、第1副容積内に提供されるゲル、細胞外マトリクス又は足場、
b.例えば、管又は血管を形成する、マイクロ流体チャネル及び/又はゲルを内張りする上皮細胞又は内皮細胞、
c.好ましくは管腔構造を形成する、より好ましくは血管床を形成する、ゲル、細胞外マトリクス又は足場の内側、その上又はそれに接して位置する上皮細胞又は内皮細胞、
d.ゲル、細胞外マトリクス又は足場内、その上又はそれに接する間質細胞、
e.ゲル、細胞外マトリクス又は足場内、その上又はそれに接する筋細胞、
f.多能性細胞、中枢神経系、末梢神経系、免疫、泌尿器、呼吸器、生殖(男性及び女性)、消化管、内分泌、皮膚、筋骨格、循環器並びに乳細胞型から選択される1つ以上の他の細胞型
の1つ以上を含む生物学的材料又はバイオミメティック材料をさらに含む。
【0089】
こうした装置は、例えば、血管網及び細胞外マトリクスの上部表面に配設された任意選択的な生物学的組織の形態の細胞が存在するため、アッセイプレートとみなすこともでき、したがって本明細書に記載するアッセイ又は方法に使用できる状態にある。本開示から理解されるように、こうした装置の製造は、以下に記載する方法の任意のものを使用して実現することができる。1つの例では、内皮細胞の芽は、細胞外マトリクスゲル中に延び、血管床を形成する。任意選択的に、これらの芽は、血管形成又は脈管形成の結果である微細血管である。
【0090】
上述した異なる細胞型の任意の1つ以上の形態である生物学的組織は、健康な又は疾患のある組織を含むか又はそうした組織に由来する可能性があり、患者から得られるか又は患者に由来する可能性がある。血管網を形成する内皮細胞は、患者、例えば生物学的組織が得られたか又は由来した患者と同じ患者から得られるか又は由来する可能性がある。1つの例では、内皮細胞は、(例えば、Nature Protocols 7,1709-1715(2012)に記載されるような)血液増生内皮細胞又は限定されないが、誘導多能性幹細胞を含む幹細胞由来の内皮細胞を含む。
【0091】
方法
1つの例では、細胞によって誘導された機械的歪みを評価する方法であって、
本明細書に記載するマイクロ流体装置のマイクロ流体ネットワーク内に1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を導入するステップと、
任意選択的に、1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップと、
ダイアフラム上に配設されるか又はダイアフラムに作動的に接続された1つ以上の電極、センサー、探針、ダイアフラムの動きを監視するための基準マーカー、強磁性粒子又は抗体を使用して、ダイアフラムのたわみを監視するステップとを含む方法が提供される。
【0092】
1つの例では、1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを生じさせる、すなわち1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを誘導する方法であって、
第1態様によるマイクロ流体装置のマイクロ流体ネットワーク内に1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を導入するステップと、
任意選択的に、1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップと、
ダイアフラムに正圧又は負圧を加えることにより、1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体に機械的歪みを生じさせるステップとを含む方法が提供される。
【0093】
いくつかの例では、本明細書に記載する方法は、
ある体積のゲル又はゲル前駆体をマイクロ流体ネットワーク内に導入するステップと、
その体積のゲル又はゲル前駆体が硬化するか又はゲル化して、硬化したゲルを形成することを可能にするステップと、
マイクロ流体ネットワークに流体を充填するステップと、
1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップとを含む。
【0094】
いくつかの例では、本明細書に記載する方法は、
第1副容積内にある体積のゲル又はゲル前駆体を導入し、かつその体積のゲル又はゲル前駆体が毛細管圧障壁によって限定されることを可能にするステップと、
その体積のゲル又はゲル前駆体が硬化するか又はゲル化して、硬化したゲルを形成することを可能にするステップと、
マイクロ流体ネットワークに流体を充填するステップと、
1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体を培養するステップとを含むことができる。
【0095】
いくつかの例では、その体積のゲル又はゲル前駆体は、単一の液滴又は液滴サイズの体積のゲル又はゲル前駆体であり得る。
【0096】
いくつかの例では、ダイアフラムへの加圧に続き、機械的歪みに対する細胞応答が監視される。いくつかの例では、細胞応答は、ゲル液滴の上部表面に形成された細胞の単層又はゲル内に形成された血管床からのものであり得る。いくつかの例では、細胞応答は、マイクロ流体装置のマイクロ流体チャネル内に収容された管腔細胞成分からのものであり得る。いくつかの例では、細胞応答は、ダイアフラムの表面上に形成された管腔細胞成分からのものであり得る。
【0097】
細胞応答は、当技術分野において既知である任意の方法で監視することができる。方法は、pHの変化の1つ以上を監視するステップと、分泌因子(例えば、代謝産物、増殖因子、サイトカイン)の変化を監視するステップと、細胞及び/又は組織を採取するステップと、特定のタンパク質のアップレギュレーション若しくはダウンレギュレーションを監視するか、又は活性酸素種のレベルを監視するステップとを含むことができる。代わりに又はさらに、例えば、免疫組織化学的染色又は他のハイブリダイゼーションベースの染色に基づき、細胞又は組織応答を視覚的に(顕微鏡を使用して)監視することができる。
【0098】
いくつかの例では、1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体は、管又は血管を形成する可能性がある、マイクロ流体チャネルを内張りする上皮細胞又は内皮細胞、好ましくは管腔構造を形成する、より好ましくは血管床を形成する、ゲル、細胞外マトリクス又は足場の内側に位置する上皮細胞又は内皮細胞、ゲル、細胞外マトリクス又は足場内又上における間質細胞、ゲル、細胞外マトリクス又は足場内又は上における筋細胞、多能性細胞及び中枢神経系、末梢神経系、免疫、泌尿器、呼吸器、生殖(男性及び女性)、消化管、内分泌、皮膚、筋骨格、循環器並びに乳細胞型から選択される1つ以上の他の細胞型から選択することができる。
【0099】
ゲル又はゲル前駆体は、細胞培養に好適である、当技術分野で既知である任意のヒドロゲルを含む。細胞培養に使用されるヒドロゲルは、広範囲の機械的特性及び化学的特性を提供する幅広い天然材料及び合成材料から形成することができる。ヒドロゲル合成に使用される材料及び方法の概説については、Lee及びMooney(Chem Rev 2001;101(7):1869-1880)を参照されたい。好適なヒドロゲルは、天然材料から形成される場合に細胞機能を促進し、合成材料から形成される場合に細胞機能を許容する。細胞培養のための天然ゲルは、典型的には、コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸又はMatrigel等のタンパク質及びECM成分とともに、キトサン、アルギン酸塩又は絹線維等の他の生物学的源に由来する材料から形成される。それらは、天然源に由来するため、これらのゲルは、本質的に生体適合性であり、生物活性がある。許容合成ヒドロゲルは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)及びポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)等の純粋に非天然の分子から形成することができる。PEGヒドロゲルは、カプセル化細胞の生存能力を維持し、分解するに従ってECM沈着を可能にすることが示されており、合成ゲルが、インテグリン結合リガンドがなくても3D細胞培養プラットフォームとして機能できることを実証している。こうした不活性ゲルは、再現性が高く、機械的特性の容易な調整を可能にし、簡単に加工及び製造される。
【0100】
ゲル前駆体は、マイクロ流体細胞培養装置、例えば上述したような装置の歪み区画に提供することができる。ゲルが提供された後、さらなる流体の導入前にゲル化が引き起こされる。好適な(前駆体)ゲルは、当技術分野で既知である。例として、ゲル前駆体は、ヒドロゲルであり得、典型的には細胞外マトリクス(ECM)ゲルである。ECMは、例えば、コラーゲン、フィブリノゲン、フィブロネクチン及び/又はMadrigel若しくは合成ゲル等の基底膜抽出物を含むことができる。ゲル前駆体は、例として、ピペットを用いて歪み区画に導入することができる。
【0101】
ゲル又はゲル前駆体は、基底膜抽出物、ヒト又は動物の組織又は細胞培養由来の細胞外マトリクス、動物組織由来の細胞外マトリクス、合成細胞外マトリクス、ヒドロゲル、コラーゲン、軟寒天、卵白及びMadrigel等の市販の製品を含むことができる
【0102】
基底板を含む基底膜は、インビボで上皮細胞の下にある薄い細胞外マトリクスであり、タンパク質及びプロテオグリカン等の細胞外マトリクスから構成される。1つの例では、基底膜は、コラーゲンIV、ラミニン、エンタクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及び多数の他の微量成分から構成される(Quaranta et al,Curr.Opin.Cell Biol.6,674-681,1994)。無傷の基底膜とともに、これらの成分も単体で生物学的に活性であり、細胞接着、移動並びに多くの場合に増殖及び分化を促進する。基底膜に基づくゲルの例は、Matrigel(米国特許第4829000号明細書)と呼ばれる。この材料は、上皮細胞の基層としてインビトロで生物学的に非常に活性である。
【0103】
本発明の方法で使用するのに好適な多くの種々のゲルは、市販されており、そうしたゲルとしては、限定されないが、Matrigel rgf、BME1、BME1rgf、BME2、BME2rgf、BME3(すべてMatrigel変異体)、コラーゲンI、コラーゲンIV、コラーゲンI及びIVの混合物若しくはコラーゲンI及びIV並びにコラーゲンII及びIIIの混合物)、プラマトリックス(puramatrix)、ヒドロゲル、Cell-TakTM、コラーゲンI、コラーゲンIV、Matrigel(登録商標)マトリクス、フィブロネクチン、ゼラチン、ラミニン、オステオポンチン、ポリリジン(PDL、PLL)、PDL/LM及びPLO/LM、PuraMatrix(登録商標)又はビトロネクチンを含むものが挙げられる。1つの好ましい実施形態では、マトリクス成分は、市販のCorning(登録商標)MATRIGEL(登録商標)マトリクス(Corning、NY14831、USA)として得られる。
【0104】
ゲル又はゲル前駆体は、本明細書に記載する装置に導入され、マイクロ流体装置内の毛細管圧障壁により、例えば歪み区画(その基材に本装置のダイアフラムを有する)を含むネットワークの第1副容積に限定され、その後、ゲル化が引き起こされるか又はゲル化する。
【0105】
1つの例では、硬化したゲルが、マイクロ流体層内にある歪み区画の一部分内に実質的に完全に配置されるように、十分な体積の液滴が導入される。1つの例では、ゲル化した液滴の体積は、その液滴がマイクロ流体カバー層の開口を完全には閉鎖しないような体積であり、その場合、開口の閉鎖されない又は開放した領域を通気口として使用することができる。したがって、通気口は、概して、入口からマイクロ流体チャネルを充填するときに排気を可能にするカバー層の開口部又は開口を含む。1つの例では、液滴が毛細管圧障壁によって限定され、液滴体積の大部分が、マイクロ流体層の外部である歪み区画の一部分内に収容され、例えば液滴体積の大部分が上層のウェル内に収容されるように、十分な体積の液滴が導入される。
【0106】
1つの例では、ゲル又はゲル前駆体は、対象の1つの細胞又は複数の細胞を事前に充填されており、すなわち、細胞は、マイクロ流体細胞培養装置内への導入前かつゲル化前にゲル又はゲル前駆体の液滴中に存在する。別の例では、細胞は、マイクロ流体細胞培養装置内、例えば本明細書に記載する装置の歪み区画に導入された後、部分的又は完全に硬化した液滴中に挿入される。したがって、代替的な方法は、細胞培養ヒドロゲルの硬化した液滴に対象の細胞を播種するステップを含む。別の例では、ゲル又はゲル前駆体は、マイクロ流体細胞培養装置内に導入され、ゲル化に続き、細胞混合物、組織又は組織の集合体が、ゲルの上部又はゲルに隣接するマイクロ流体チャネルの領域内に配置される。
【0107】
硬化したゲル内、その上又はその付近の細胞混合物、組織又は細胞の集合体は、上皮細胞又は内皮細胞、間質細胞、筋細胞、多能性細胞及び中枢神経系、末梢神経系、免疫、泌尿器、呼吸器、生殖(男性及び女性)、消化管、内分泌、皮膚、筋骨格、循環器並びに乳細胞型から選択される1つ以上の他の細胞型を含むことができる。
【0108】
1つの例では、ゲル又はゲル前駆体の液滴中又は液滴上に存在する少なくとも1つの型の細胞又は細胞の集合体は、培養中、培地の組成、存在する可能性がある他の細胞型及び細胞外マトリクスに応じて増殖及び/又は分化することができる上皮細胞を含む。したがって、水性培地、好ましくは増殖培地を使用するか、又はゲル(前駆体)を使用することにより、マイクロ流体ネットワークへの導入後、上皮細胞は、増殖及び/又は分化する。1つ以上の型の細胞又は細胞の集合体、例えば上皮細胞の培養は、培地をマイクロ流体チャネルに導入することによって達成され、細胞が培養されるように好適な条件下で継続される。誤解を避けるために、「液滴」という用語の使用は、ゲルが典型的な液滴形態又は形状を有することを意味するものとして解釈されるべきではない。代わりに、本明細書に記載する細胞培養装置内に導入され、その後、その中に限定される体積のゲルを意味するものとして解釈されるべきである。
【0109】
1つの例では、マイクロ流体ネットワークの第1副容積、例えば歪み区画内でのゲル前駆体のゲル化に続き、1つ以上の細胞又は細胞の集合体は、マイクロ流体ネットワークの第2副容積、例えばゲル及び毛細管圧障壁に隣接するマイクロ流体チャネルの領域内に導入される。1つ以上の細胞又は細胞の集合体は、上皮細胞又は内皮細胞であり得る。概して、内皮細胞は、心臓から最小のリンパ毛細管まで循環系全体の内面を内張りする細胞として知られている。血液と接触する場合、これらの細胞は、血管内皮細胞と称され、リンパ系と接触する場合、それらは、リンパ内皮細胞と称される。特定の実施形態では、培養方法は、内皮細胞をマイクロ流体ネットワークのマイクロ流体チャネルに導入するステップと、前記内皮細胞にマイクロ流体チャネルを内張りさせるか又はそうした内張りを可能にする、すなわち内皮細胞にマイクロ流体チャネル内に血管を形成させるか又はそうした形成を可能にするステップとを含む。細胞又は細胞の集合体は、任意の好適な培地を使用してマイクロ流体ネットワーク内に導入することができる。
【0110】
正しい条件、例えば血管形成を促進するのに好適な条件下で内皮細胞をマイクロ流体チャネルに導入することにより、マイクロ流体チャネル及び場合により後に透過性になる細胞外マトリクスゲルの内面を内張りする血管組織の形成だけでなく、新たな微細血管の増生をもたらすこともできる。血管形成の促進に好適な条件としては、とりわけ、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオポエチン-1(Ang1)、アンジオポエチン-2(Ang2)、ホルボールミリスチン酸-13-アセテート(PMA)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、IGFBP-2、肝細胞増殖因子(HGF)、プロリル水酸化酵素阻害剤(PHi)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及びエフリン等の血管形成促進化合物を加えることが挙げられる。
【0111】
1つ以上の血管形成促進化合物は、勾配として適用される場合、限定されたゲル液滴に向かいかつ限定されたゲル液滴内で指向性血管形成を促進する化学誘引物質として作用するとみなすことができる。このように、内皮細胞は、刺激されてマイクロ流体層及びゲルにおいて血管組織の層を形成し、この層は、その後、透過化して、新たな微細血管の増生をもたらす。1つ以上の血管形成促進化合物は、マイクロ流体ネットワーク内に導入される前にゲル又はゲル前駆体の液滴に加えることができるか、又はゲル液滴の形成後に例えばゲルの上部表面上に加えることができる。別の例では、1つ以上の血管形成促進化合物は、マイクロ流体チャネルへの別の入口、例えば培地が導入される入口から下流の及び/又は歪み区画から下流の入口を介してマイクロ流体ネットワークに加えることができる。
【0112】
いくつかの例では、マイクロ流体層及びゲル内での血管組織の形成に続き、本方法は、好ましくは、少なくとも1つの型の上皮細胞を含む1つ以上の型の細胞を、入口開口を介してマイクロ流体ネットワークの第3副容積に導入し、かつ1つ以上の型の細胞が(単)層又は細胞の集合体を形成することを可能にするステップをさらに含むことができる。例えば、1つ以上の型の細胞は、第1副容積に限定されたゲルの上部に細胞の単層を形成することができる。
【0113】
1つの実施形態では、1つ以上の細胞又は細胞の集合体は、少なくとも部分的に硬化したゲルの上部表面を完全に覆い、それにより少なくとも部分的に硬化したゲルの上部表面に組織の障壁層を形成する。障壁層は、単層の細胞又は多層の細胞若しくは細胞の集合体を含むことができる。1つの実施形態では、単層の細胞又は多層を培養して、少なくとも部分的に硬化したゲル内への少なくとも1つの微細血管の血管形成前又は後に増殖及び/又は分化を可能にすることができる。平坦な層状組織の例としては、(例えば、ケラチノサイト、脂肪組織及び線維芽細胞を含む)皮膚組織、腸上皮とともに、肺及び網膜等の他の上皮組織が挙げられる。
【0114】
培養培地又は分化培地は、上述したようなマイクロ流体チャネルに加えることができ、血管網を通る流体フローの確立も、上述したように達成して、細胞の増殖及び/又は分化を可能にすることができる。同様に、流体の組成は、上述したように制御することができる。したがって、記載した方法によって確立された、血管新生された灌流可能なネットワークは、装置のマイクロ流体チャネル内の微細血管内の流体と、硬化したゲルの上の細胞又は細胞の集合体との間の代謝産物、栄養素及び酸素の自由な交換を可能にする。
【0115】
本明細書において先にすでに説明したように、毛細管圧障壁を使用することにより、例えばマイクロ流体ネットワークの副容積内において安定した限定された体積のゲルの形成が可能になり、それにより、ゲル又はその成分を変位させることなく、第2流体の追加を行うことができる。したがって、本発明の装置は、上述したように、他の細胞との空間的に制御された共培養を行うように構成され、取り囲む培地の組成を制御する手段を提供する。したがって、本発明の方法の範囲内において、(本明細書ではウェルとも称する)貯留部内に充填される流体は、細胞培養培地、試験溶液、緩衝液、さらなるヒドロゲル等の任意のものであり、任意選択的に細胞又は細胞の集合体を含むことができる。
【0116】
貯留部に導入される組成物を制御することにより、本発明の細胞培養装置は、異なる様式の細胞培養を可能にする。例えば、貯留部又はウェル内に導入される流体の組成を変更することができる。こうした交換は、貯留部の1つに新たな組成物を導入し、同時に、完全な交換が起こるまで、同じマイクロ流体ネットワーク内の別の貯留部から流体を除去することによる勾配交換であり得る。こうした交換は、貯留部から流体を吸引し、貯留部を新たな組成物で満たすことにより、個別であり得る。貯留部内の流体体積は、マイクロ流体チャネル内の流体体積よりもはるかに大きく、貯留部間のレベリングは、略瞬時に発生し、それにより、手順中にマイクロ流体チャネルネットワークを空にする必要なく、新たな流体でマイクロ流体ネットワークが確実にフラッシングされる。
【0117】
1つの例では、本装置内に第2毛細管圧障壁が存在することにより、層状ゲル組成物の形成がさらに可能になる。この例では、第1毛細管圧障壁、例えば円形の毛細管圧障壁は、第1ゲル又はゲル前駆体を含む液体組成物をマイクロ流体ネットワークの基材層の上、例えばダイアフラムの上の定在液滴としてピン止めする。この第1液体組成物が固化した後、任意選択的に細胞を収容する第2ゲル又はゲル前駆体が充填される。この第2組成物は、第2毛細管圧障壁、例えば第1毛細管圧障壁よりも直径が大きく、第1毛細管圧障壁と同心であり、第1毛細管圧障壁を包囲する円形の毛細管圧障壁によって保持される。この構成により、第2毛細管圧障壁は、この第2組成物がマイクロ流体チャネルに流入することを阻止し、第1ゲルを封入する。したがって、2つの毛細管圧障壁が存在することにより、マイクロ流体ネットワークが個々の空間容積に分割され、ユーザにマイクロ流体ネットワークにおける空間的構成の可能性が与えられる。
【0118】
ここまで、方法に関する考察は、本明細書に記載するマイクロ流体装置内に細胞又は細胞の集合体をどのように組み込むことができるかについて説明した。装置に細胞又は細胞の集合体が充填され、細胞の任意の必要な培養が行われると、本方法は、細胞に機械的歪みを生じさせ、及び/又は細胞から発出する機械的歪みを測定する1つ以上のステップを含むことができる。
【0119】
細胞に機械的歪みを生じさせるステップは、ダイアフラムに正圧又は負圧、1つの例では交互の正圧及び負圧を加えるステップを含むことができる。加圧により、(ダイアフラムの下面から加えられる正圧の場合に)マイクロ流体チャネル内又は(ダイアフラムの下面から加えられる負圧の場合に)マイクロ流体チャネルから離れて基材層内へのダイアフラムの変形がもたらされる。これらの方法において、マイクロ流体チャネル内に面するダイアフラムの表面は、その上に直接配設された1つ以上の細胞又は細胞の集合体を有することができる。さらに又は代わりに、1つ以上の細胞又は細胞の集合体は、ダイアフラムに近接するマイクロ流体の表面上において、例えばマイクロ流体チャネルの表面を内張りして配設することができる。1つ以上の細部又は細胞の集合体は、マイクロ流体チャネル内の1つ以上の毛細管圧障壁によりダイアフラムの表面に限定されたゲル内又は上にも配設することができる。1つ以上の細胞又は細胞の集合体は、概して、ダイアフラムの変位が依然として影響を与える可能性があるマイクロ流体ネットワーク内の場所に配設される。細胞又は細胞の集合体がダイアフラムから遠いほど、細胞に対して影響を及ぼすために必要な変位が大きくなることが理解されるであろう。したがって、1つの例では、1つ以上の細胞又は細胞の集合体は、マイクロ流体チャネルに面するダイアフラムの表面上に配設されたゲル内又は上に存在する。
【0120】
本明細書に記載する方法のいくつかの例では、機械的歪みは、ダイアフラムを単発、周期性又は繰り返しパターンで変位させることにより、時間を通して変化する。すなわち、ダイアフラムは、特定の律動又は順序で複数回変位させることができる。例えば、ダイアフラムを呼吸と同様の律動様式で変位させて、肺組織における機械的歪みを再現することができる。別の例では、ダイアフラムを腸組織の蠕動運動を再現するような様式で変位させることができる。
【0121】
マイクロ流体装置においてダイアフラムを変位又は変形させる方法は、当技術分野で既知であり、マイクロ流体装置に関連して上で考察した。いくつかの例では、本装置は、マイクロ流体チャネルと接触する複数のダイアフラムを含むことができる。複数のダイアフラムは、所定パターンにおける複数のダイアフラムの1つ以上の複数回の作動が、複数の作動周期の過程にわたり、マイクロ流体ネットワークを通した正味の流体の動きを引き起こすように構成することができる。
【0122】
いくつかの例では、ダイアフラムの変位は、ダイアフラムの上部表面に存在するゲルの上部表面上の細胞の単層に機械的歪みを加えることができるような程度である。上述したように、機械的歪みは、こうした細胞の単層に対して、正若しくは負の空気圧を加えることにより又は機械的アクチュエーターから力を加えることにより、加えることができる。
【0123】
上述した方法のいくつかの例では、ダイアフラムの変位は、外部から作動するのではなく、代わりに、マイクロ流体層に存在する、例えばダイアフラム上、例えばダイアフラム上のゲル又はECM内又は上に存在する1つ以上の細胞又は細胞の集合体によって引き起こされるか又は誘導される。1つ以上の細胞又は細胞の集合体は、任意選択的に、ダイアフラムの上の細胞接着分子のコーティングにより補助して、ダイアフラムの上に直接配設することもできる。これらの例では、ダイアフラムは、有利には、1つ以上の電極、センサー又はダイアフラムの動きを監視するための基準マーカーによって機能化される。
【0124】
1つの例では、マーカーは、ダイアフラムの同じ材料内において、すなわちエッチング、フライス加工により又は膜が形成される型内にマーカーを含めることによりインプリントされる。別の例では、マーカー、センサー又はトランスデューサーは、例えば、製造中に材料に追加することにより、ダイアフラム材料に追加することができる。例えば、ダイアフラムを構成するポリマーと、後に作動又は検知に使用される磁気ビーズとを混合することができる。代わりに、ポリマーにコイルを埋設することができる。さらに別の例では、材料は、前記材料の表面堆積により、例えばスパッタリング、プラズマ蒸着、スクリーン印刷又は他の形態の印刷若しくは堆積によりダイアフラムに付与される。こうしたプロセスを使用して、インク、金属又はたわみを監視するために使用することができる他の材料からマーカーを印刷することができる。
【0125】
アッセイプレート
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載する装置の任意のものを含むアッセイプレートを提供する。血管網及び任意選択的に細胞の単層等の生物学的成分も含む細胞培養装置に言及する場合、それは、アッセイプレートを指すとも理解されるべきである。
【0126】
1つの例では、アッセイプレートであって、毛細管圧障壁によってマイクロ流体チャネルの第1副容積に限定されたゲルを備える、本明細書に記載するマイクロ流体装置を含み、マイクロ流体ネットワークは、例えば、ゲル内若しくは上及び/又はマイクロ流体チャネル内に存在する1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含む、アッセイプレートが提供される。
【0127】
アッセイプレートは、本明細書に記載する方法によって培養された1つ以上の細胞又は細胞の集合体を含むことができる。1つの例では、アッセイプレートの装置のマイクロ流体チャネルの少なくとも一部分は、ゲル内に延在する内皮細胞を含む血管組織の層を含む。
【0128】
アッセイプレートの寸法は、標準のANSI/SLASマイクロタイタープレート形式と一致又は適合することができる。特に、アッセイプレートのフットプリント又は周囲の寸法は、マイクロタイタープレートのためのANSI/SLAS標準と一貫することができる。
【0129】
本明細書に記載する方法の任意のものによって製造されるアッセイプレート又は細胞培養装置についても記載する。
【0130】
キット
本開示は、本明細書に記載するマイクロ流体装置及びアッセイプレートを使用するためのキット及び製品も提供する。1つの実施形態では、キットは、血管形成を誘導するための、本明細書に記載する装置又はアッセイプレートと、1つ以上の血管形成促進化合物とを含む。いくつかの例では、キットは、本明細書に記載する装置又はアッセイプレートと、ゲル、ゲル前駆体組成物又は他の細胞外マトリクス組成物と、1つ以上の細胞又は細胞型と、増殖培地と、1つ以上の血管新生促進化合物を含む1つ以上の試薬組成物との1つ以上とを含むことができる。
【0131】
キットの細胞培養装置又はアッセイプレートは、好ましくは、血管床を含み、換言すれば、細胞外マトリクスゲルであって、血管新生させる少なくとも1つの細胞をその上部表面に受容するように配置された細胞外マトリクスゲルと、マイクロ流体チャネルの内面を内張りする内皮細胞の血管網とを含む。
【0132】
キットは、包装材料及び包装材料内に収容された、1つ以上の血管形成促進化合物を使用して細胞培養装置又はアッセイプレートにおいて血管形成を誘導するための説明書を提供するラベル又は添付文書をさらに含むことができる。
【0133】
1つ以上の血管形成促進化合物は、とりわけ、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオポエチン-1(Ang1)、アンジオポエチン-2(Ang2)、ホルボールミリスチン酸-13-アセテート(PMA)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、IGFBP-2、肝細胞増殖因子(HGF)、プロリル水酸化酵素阻害剤(PHi)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及びエフリン等の1つ以上を含むことができる。
【0134】
キットは、1つ以上の血管形成促進化合物を導入するのに好適な培地を含む第2容器等の付属構成要素と、培地の使用に関する説明書とをさらに含むことができる。
【0135】
ここで、本発明について、図面を参照して単に例として説明する。
【0136】
図1図3にマイクロ流体装置の第1例を概略的に示す。図1に示す装置(100)は、概して、基材(101)と、マイクロ流体層内のマイクロ流体チャネル(102)と、カバー(103)とを含む(すべて実線で示す)。マイクロ流体層のカバー層に培地入口(104)が存在する。装置の基材(101)上に毛細管圧障壁(105)が存在し、それは、カバー層(103)の開口(107)を介してアクセス可能である。この特定の例では、基材(101)にも開口が設けられ、この開口にわたってダイアフラム(106)が延在する。カバー層の上部に、マルチウェル底なしプレートの形態である上層(108)が配設され、それは、入口開口(107)及び培地入口(104)の各々の上方に位置決めされたウェル(109)を含む。
【0137】
上面図(図2)に示すように、円形の毛細管圧障壁は、マイクロ流体ネットワークを2つの副容積に分割する。一方の副容積、この実施形態では毛細管圧障壁内の中央容積は、歪み区画又は細胞培養チャンバーを含み、第2副容積は、第1副容積に通じるとともにそれを取り囲むマイクロ流体チャネル(102)によって画定される。マイクロ流体チャネル(102)は、図2では、毛細管圧障壁を取り囲む実線の円として概略的に表されており、開口(107)は、点線で示されている。
【0138】
壁又は膜等のいかなる介在構造もなしに互いに直接接触する2つの副容積の形成は、装置及びアッセイプレートの重要な特徴の1つである。さらに、壁及びマイクロ流体チャネルを通して、例えば歪み実験前又は歪み実験中、ゲルを取り囲む培地を制御し適合させることもさらに可能である。図3は、マイクロ流体ネットワークの一部分の垂直断面の拡大図を提供し、基材層上の毛細管圧障壁(105)と、ダイアフラム(106)とを示す。毛細管圧障壁(105)が存在することにより、ゲル又はゲル前駆体が例えば上方から充填されるときにマイクロ流体チャネルを満たすことが防止され、換言すれば、使用時、ゲル又はゲル前駆体は、毛細管圧障壁(105)にピン止めされる。図3は、基材層にダイアフラムを取り付ける、すなわち基材層の下部表面にダイアフラムを固定することによって取り付ける、1つのあり得る構成も示す。
【0139】
図2の開口(107)は、円形状の開口として描かれている。しかしながら、開口は、任意の形状を有することができ、円形及び正方形が好ましいことが理解されるであろう。
【0140】
毛細管圧障壁によって限定されたゲル組成物を取り囲む培地組成物を制御する目的で、マイクロ流体チャネル(102)のさらなる分岐が存在する場合がある。1つのこうした例を図4~6に提供する。この実施形態では、中央歪み区画は、交差構成(図5を参照されたい)で4つの培地入口(104)に接続され、2つの直線状の毛細管圧障壁(105)が存在し、各々は、歪み区画を含む第1副容積を一部分において画定する。
【0141】
図7A図7Cは、歪み実験前又は歪み実験中にダイアフラムが存在する可能性がある様々な状態を示す。概して、ダイアフラムは、図7Aに示すように、静止しているときであっても、比較的張られた状態で存在する。図7Bは、真空ポンプを使用して加えられ得るような、ダイアフラムの下方から負圧が加えられて、歪んだ状態にあり、マイクロ流体チャネル102から離れるようにたわんでいるダイアフラムを示す。
【0142】
しかしながら、ダイアフラムの上方から正圧を加えることによっても同じ効果を達成できることが理解されるであろう。図7Cは、ポンプ、ピン等の機械的アクチュエーター又は膨張可能な発泡体を使用して加え得るような、ダイアフラムの下方から正圧が加えられて、別の歪んだ状態にあり、マイクロ流体チャネル102内にたわんでいるダイアフラムを示す。しかしながら、ダイアフラムの上方から負圧を加えることによっても同じ効果を達成できることが理解されるであろう。
【0143】
図8A図8Fに、本明細書に記載する装置を使用する方法における種々のステップを示す。第1ステップでは、ゲル又はゲル前駆体(110)の第1液滴が導入され、毛細管圧障壁上にピン止めされ、固化(硬化、ゲル化)する。この場合にも、すでに上述したように、第1液体組成物は、典型的には、ゲル又はゲル前駆体、例えば細胞培養で使用されるヒドロゲル(又はその前駆体)を含み、当技術分野において既知でありかつ目的に好適な任意のヒドロゲルを含む。ゲルは、任意選択的に、細胞の懸濁液を含むことができる。
【0144】
ゲルの液滴が固化すると、マイクロ流体チャネルに第2液滴が充填され、それにより内皮細胞(111)がマイクロ流体チャネル内に導入される(図8B)。これらは、細胞培養又は増殖培地の成分として導入することができるか又は後に導入することができる。このように播種された装置の培養時、第2液体(マイクロ流体チャネル内に充填された液体)の組成に応じて、内皮細胞(114)は、血管新生するか、又はマイクロチャネルの内面、すなわち壁、基材及び上部、可能性としてECMゲル表面も内張りすることができる。
【0145】
さらなるステップでは、ゲル(110)の上部に血管形成促進剤を含む流体(112)を追加することにより、血管床を形成するマイクロ流体チャネル内のゲル液滴の侵入及び/又は毛細血管形成により、マイクロ流体チャネルに形成された血管の血管形成を可能にするか又は誘導することができる(図8C)。血管形成を可能にする培養条件は、当業者に既知であり、そうした条件としては、例えば、酸素の欠乏、機械的刺激及び前述した血管形成促進タンパク質等の血管形成促進剤を使用する化学的刺激が挙げられる。
【0146】
典型的な発芽混合物は、VEGF、MCP-1、HGF、bFGF、PMA、S1Pを、VEGF、MCP-1、HGF、bFGF及びPMAの各々に対して37.5ng/ml~150ng/ml及びS1Pに対して250nM~1000nMの量で含む。代替的な典型的な発芽混合組成物は、S1P500nM、VEGF50ng/ml、FGF20ng/ml、PMA20ng/mlを含む。
【0147】
このように、マイクロ流体チャネルの入口と出口とを接続し、チャネル表面を内張りし、ゲル内に延在する血管が形成される。
【0148】
この方法の好ましい結果は、増殖培地、血清又は他の流れを適用することができる1つ以上のマイクロ流体チャネルを介してより大きい血管に接続する微細血管の血管床を含むゲルである。したがって、本装置を使用して、ゲルを含むネットワークの第1の限定された副容積内の第1型の細胞を、マイクロ流体チャネルを含む第2副容積内の内皮細胞の培養物と共培養して、マイクロ流体チャネル内に形成された内皮血管によって貯留部に接続される、ゲル液滴内又はゲル液滴の上部に存在する細胞の集合体の血管新生モデルを達成することができる。
【0149】
血管床又は血管新生組織を達成するために血管形成化合物のカクテルを使用することは、本質的ではない。血管床を生成する代替方法では、組織は、ゲルの上部に配置される。組織自体は、血管形成を誘導する因子を排出し、その結果、主血管が発芽し、血管床又はさらに血管新生組織が形成される。
【0150】
図8Dは、後に単層を形成する、ゲル(110)の上部の細胞(113)の追加を示す。この細胞は、任意の型であり得るが、典型的には、実施されている歪み実験に応じて上皮細胞又は内皮細胞である。最後に、図8E及び図8Fは、歪み実験中のダイアフラム(106)の双方向変形を示し、その双方向変形の結果として、微細血管(110)を含むゲルの上部の細胞(114)の単層に歪みが加えられることになる。
【0151】
図9A図9Fは、図8A図8Fに示す方法に対する代替方法を示す。この代替方法では、最初の2つのステップ及び最後の3つのステップは、図8の方法と同一であり、相違は、(i)細胞(113)がゲル(110)の表面に加えられ、(ii)内皮細胞(111)によるゲル(110)の血管新生が発生する順序のみである。
【0152】
図10A図10Cは、マイクロ流体ネットワークの代替構成の拡大垂直断面図を示す。具体的には、図10Aは、それにわたってダイアフラム(106)が延在する開口を示し、毛細血管圧障壁(105)は、開口の外部にある。この特定の構成では、ダイアフラム(106)は、入口開口(107)と整列しているが、ダイアフラム(106)の露出した又は利用可能な表面は、入口開口(107)の断面よりも狭い一方、毛細管圧障壁(105)は、ダイアフラム(106)から入口開口(107)の外部で距離が置かれている。対照的に、図10Bの構成では、それにわたってダイアフラム(106)が延在する開口は、ダイアフラム(106)の露出した又は利用可能な表面積が、入口開口(107)の断面積と大まかに同じ寸法であるように、入口開口(107)と大まかに同じ寸法であるが、2つの毛細管圧障壁(105a、105b)は、カバー(103)の下側に配置される。最後に、図10Cでは、それにわたってダイアフラム(106)が延在する開口は、ダイアフラム(106)の露出した又は利用可能な表面積が入口開口(107)の断面積よりも大きいように、入口開口(107)よりも大きく、毛細管圧障壁(105)は、ダイアフラム(106)に隣接する。一般的に、ダイアフラムが大きく及び/又は開口が大きいほど、上皮のより多くが機械的歪みにさらされる可能性がある。対照的に、ダイアフラムが小さいほど、(加えられる力が同じ場合)より大きいダイアフラムほど変位せず、特に入口の縁部の領域の周囲で、歪んだ組織に対する変位及び/又は損傷が小さくなる。全体的な要件は、ダイアフラムが、装置内への材料の導入を容易にするために入口開口と実質的に整列していることのみであることが理解されるであろう。
【0153】
図11A及び図11Bは、それぞれ図10B及び図10Aに示すようなマイクロ流体ネットワークの構成の毛細管圧障壁(105a、105b)と開口(107)のリムとによってピン止めされたゲル又は細胞外マトリクス(108)示す。これらの構成では、ゲルは、いかなる重要な程度にまでダイアフラム上に配置されるようにいかなる毛細管圧障壁によってもピン止めされず、代わりに主にマイクロ流体チャネル内でピン止めされる。これらの構成では、外部組織サンプル、例えば組織切片又はオルガノイドは、ピン止めされたゲル又はECM内においてかつそれによって生成された空洞内に配置され、血管新生床と同じ平面であるため、(ゲル108が血管新生されると)より容易に血管新生することができる。この構成により、すべての構成要素が同じ焦点面にあるため、システム全体の撮像のための組織のより適切な位置決めも可能になる。
【0154】
図12及び図13は、装置、具体的にはカバー(103)に、ダイアフラム(106)と整列した開口がない装置で使用される、マイクロ流体ネットワークの代替構成の使用を示す。図12は、細胞(114)から発出する機械的歪み又は動き、例えば筋細胞、線維芽細胞、心筋細胞の収縮を測定するか、又は脳細胞、骨細胞に対する誘導された圧力若しくは他の生物学的組織の圧迫を測定する構成を示す。図13は、この特定構成の代替的な使用を示し、そこでは、細胞(111)は、例えば、毛細管圧障壁(105)によってピン止めされたゲルの周囲でダイアフラムの上に管腔構造を形成する。細胞は、血管を形成する内皮細胞、腸型管腔又は尿細管型管腔を形成する上皮細胞又は心房若しくは心室型管腔を形成する心筋細胞を含むことができる。したがって、このタイプの装置により、血管拡張/血管収縮、消化管蠕動、尿細管圧迫、血管圧迫及び心筋細胞作動からもたらされるか若しくはそれを模倣するか、又は場合により実際にそうした活動を誘導する機械的歪みの監視又は誘導が可能になる。
【0155】
図14A及び図14Bは、本明細書に記載したマイクロ流体ネットワーク又は装置の基材にダイアフラムを固定する代替方法を示す。図14Aは、基材層の2つの副層(101a、101b)間に締め付けられたダイアフラム(106)を示し、図14Bは、基材層(101)の上部表面に固定されたダイアフラム(106)を示す。
【0156】
図15は、本発明による、本明細書に記載したマイクロ流体ネットワークのマルチウェル構成からなるマルチウェル装置(115)の平面図を示す。記載したように、本装置は、好ましくは、図15に示すように、ANSI/SLAS寸法によって定義されているようなマイクロタイタープレートフットプリントに適合するか又はそれに基づき、図15は、例えば、図1に記載したような128個の別個のマイクロ流体ネットワークを含むこうしたプレートの底面図を示す。各マイクロ流体ネットワークの中心にダイアフラム(106)を示す。図16は、個々のダイアフラムが各マイクロ流体ネットワークにおいて開口にわたって延在する、図15のマルチウェル構成の断面を示す。図17は、単一のシート状のエラストマーが装置(115)の幅全体に延在し、したがって独立したマイクロ流体ネットワークの個々の開口にわたって延在する、図16のものに対する代替構成を示す。
【0157】
(実施例)
ここで、装置で使用されるように基材層を構成する方法について説明する。
【0158】
概して、基材層は、各々に直径が2mmの複数の開口がある、フライス加工されたガラスの2枚のシートと、可撓性ダイアフラム、例えばポリウレタンダイアフラムとを含む。ダイアフラムは、ガラスの2枚のシート間に配置され、ガラスシートは、開口が整列するように整列している。次いで、3つの層は、4バール及び95℃で熱及び圧力下に置かれる。完成した製品は、マイクロ流体装置用の基材層であり、この基材層は、マイクロ流体ネットワークのマイクロ流体チャネルに作動を提供することができるポリウレタンダイアフラムと積層された、フライス加工された2枚のガラスからなる。
【0159】
基材層を、10mm厚さのポリカーボネートのシートと、加圧された空気源に接続されたシリコーンガスケットとを含むマニホールドに接続した。1バールの圧力を加えた。顕微鏡及び/又は写真撮影による視覚的調査により、圧力が加えられた各ダイアフラムの変位が確認された。
【0160】
上記の説明は、本発明を実施する方法を当業者に教示することを目的とし、説明を読むと明らかになるであろうすべての変更形態及び変形形態を詳述することを意図していない。しかしながら、こうしたすべての変更形態及び変形形態は、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17