(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】脳腫瘍および脳転移の治療剤としての2H-インダゾール誘導体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20241115BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241115BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241115BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241115BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20241115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241115BHJP
A61K 31/4188 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P43/00 111
A61K31/4188
(21)【出願番号】P 2021544138
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 US2020015398
(87)【国際公開番号】W WO2020159980
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-10
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511008001
【氏名又は名称】ベータ・ファーマ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BETA PHARMA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】グレコ,マイケル ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】コスタンゾ,マイケル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ペン,ジロン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ドン
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522390(JP,A)
【文献】Cancer Medicine,2018年,Vol.7,p.3820-3833
【文献】Neuro-Oncology,Vol.20, No.11,p.1439-1449
【文献】Annals of Translational Medicine,2018年,Vol.6, No.9,p.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDK4および/またはCDK6活性に関連する、もう1つのがんを有する対象における、もう1つのがんからの脳転移の治療のため、または脳転移の予防のための薬剤の製造における、式:
【化1】
または
【化2】
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩、もしくは溶媒和物の使用。
【請求項2】
化合物が、
【化3】
である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
化合物またはその薬学的に許容される塩が、薬剤の製造において第2の治療剤と併せて使用される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
第2の治療剤が、別のCDK阻害剤、HER2阻害剤、mTOR阻害剤、またはEGFR阻害剤である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
もう1つのがんが、乳がん、肺がん
、結腸直腸がん、前立腺がん、腎臓がん、メラノーマ、マントル細胞リンパ腫(MCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、および急性骨髄性白血病(AML)からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1つに記載の使用。
【請求項6】
肺がんが、非小細胞肺がん(NSCLC)である、請求項5に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法119条(e)の下に、2019年1月29日出願の米国仮出願第62/798,220号に対する優先権を主張し、該出願の開示の全体は、参照することにより本出願に組み込まれる。
技術分野
本出願は、2H-インダゾール誘導体およびその組成物を使用して脳腫瘍および脳転移を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイクリン依存性キナーゼは、細胞分裂と増殖を調節するプロテインキナーゼのファミリーである。細胞周期の進行は、サイクリンと、CDK1-CDK4およびCDK6などのそれに関連するサイクリン依存性キナーゼによって制御されるが、CDK7-CDK9などの他のCDKは転写に重要である。サイクリンに結合するCDKは、セリンおよびスレオニン残基上のそれらの基質をリン酸化するヘテロ二量体複合体を形成し、これにより、細胞周期の転写と進行に必要なイベントが開始される(Malumbres、et al.、Trends Biochem. Sci. 2005、30、630-641)。制御されていない細胞増殖はがんの顕著な特徴であり、ほとんどのがん細胞はCDKの調節解除を示すため、CDKの阻害はさまざまながんの潜在的な治療法として浮上している。CDKに対する選択性の程度が異なる阻害剤が報告されている。選択的CDK4/6阻害剤は、細胞増殖の調節におけるCDK4/6の重要な役割と、他のCDKの阻害に関連する毒性作用により、現在、有望なクラスの潜在的ながん治療薬とみなされている。
【0003】
アベマシクリブ、パルボシクリブ、およびリボシクリブは、最近、HR
+/HER2
-乳がんの治療薬として承認されたCDK4/6阻害剤である。
【化1】
【化2】
【0004】
しかしながら、これらの薬剤はいずれも、前臨床薬物動態(PK)および有効性モデルにおいて好ましい血液脳関門(BBB)透過性を示さない。たとえば、Raub、T. J. et al.、Drug Metab. Dispos. 2015、43、1360-1371を参照。さらに、パルボシクリブおよびアベマシクリブは、どちらもp糖タンパク質(P-gp)基質であり、潜在的なCNS薬にとって非常に望ましくない特性であり、脳疾患に対するその開発を妨げる可能性がある。
【0005】
脳転移(または「続発性脳腫瘍」)とは、体内の元の病変臓器から脳に広がるがん細胞を意味し、これは、あらゆるがんに起こりうるが、より一般的には、肺、乳房、結腸、腎臓、黒色腫から起こる。文献によれば、脳転移は、米国のすべてのがん患者の推定24~45%において(https://emedicine.medscape.com/article/1157902-overviewを参照)、および成人がん患者の10~30%において(https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/brain-metastases/symptoms-causes/syc-20350136を参照)起こる。脳転移は周囲の脳組織に圧力をかけ、激しい痛みを含むさまざまな兆候や症状を引き起こす可能性がある。脳転移の治療は、がん患者の寿命を延ばすのに役立つだけでなく、痛みやその他の症状を軽減し、患者の生活の質を向上させるのにも重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、BBB透過性の高いCDK4/6阻害剤を開発するという明らかに満たされていない医学的必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概略
本発明は、式(I)のインダゾール化合物が、良好な血液脳関門(BBB)透過性を有する強力で選択的なCDK4/6阻害剤であるという驚くべき発見に基づいている。したがって、これらの化合物は、脳腫瘍および他のさまざまながんからの脳転移の治療または予防のための有用な治療薬である。
【0008】
1つの態様では、本発明は、対象における脳腫瘍または脳転移を治療する方法であって、治療有効量の式(I):
【化3】
(I)
[式中、
R
1は、水素、C
1-C
8アルキル、C
3-C
7シクロアルキル、R
6C(O)-、またはR
7O(CO)-であり;
R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
3-C
7シクロアルキル、またはC
3-C
7シクロアルキルメチルであり;
R
4は、水素、ハロゲン、C
1-C
8アルキル、またはC
3-C
7シクロアルキルであり;
R
5は、水素またはハロゲンであり;
R
6は、水素、C
1-C
8アルキルまたはC
3-C
7シクロアルキルであり;および
R
7は、C
1-C
8アルキルまたはC
3-C
7シクロアルキルであり;
ここで、任意の前記アルキルまたはシクロアルキルは、任意に置換される]
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはプロドラッグの投与を含む方法を提供する。
【0009】
もう1つの態様では、本発明は、CDK4および/またはCDK6活性に関連する脳腫瘍または脳転移の治療のための薬剤の製造における式(I)で示される化合物の使用を提供する。
【0010】
化合物1、N-(5-((4-エチルピペラジン-1-イル)メチル)ピリジン-2-イル)-5-フルオロ-4-(3-イソプロピル-2-メチル-2H-インダゾール-5-イル)ピリミジン-2-アミンは、R
1が、エチルであり、R
2が、イソプロピルであり、R
3が、メチルであり、R
4が、水素であり、およびR
5が、フルオロである、式(I)で示される化合物の一例である。化合物1は、CDK4/6の強力な選択的阻害剤であり、疾患、障害、または特定のCDK、特にCDK4およびCDK6を介した医学的状態、たとえばさまざまな種類のがんや炎症関連状態の治療または予防に役立つ。膠芽腫などの脳腫瘍は、CDK4/6阻害剤が有効性の可能性が高いと予想される治療領域を表す。
【化4】
化合物1
【0011】
特に、本発明は、乳がん、肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)、結腸直腸がん、前立腺がん、腎臓がん、メラノーマ、マントル細胞リンパ腫(MCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)などを含むがこれらに限定されないさまざまながんの脳転移を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、アベマシクリブ/TMZの組み合わせの有効性を示す。投薬:TMZ、QD X 5;6mg/kg+アベマシクリブ、PO、QD X 21、100 mg/kg。
【
図2】
図1は、化合物1/TMZの組み合わせの有効性を示す。投薬:TMZ:QD X 5;6mg/kg+化合物1、PO、QD X 21、100 mg/kg。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な記載
本発明の1つの態様は、脳腫瘍または他のがんからの脳転移を治療する方法であって、それを必要とする対象に治療有効量の式(I):
【化5】
(I)
[式中、
R
1は、水素、C
1-C
8アルキル、C
3-C
7シクロアルキル、R
6C(O)-、またはR
7O(CO)-であり;
R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
3-C
7シクロアルキル、またはC
3-C
7シクロアルキルメチルであり;
R
4は、水素、ハロゲン、C
1-C
8アルキル、またはC
3-C
7シクロアルキルであり;
R
5は、水素またはハロゲンであり;R1は、C
1-C
8アルキルでありえ;
R
6は、水素、C
1-C
8アルキルまたはC
3-C
7シクロアルキルであり;および
R
7は、C
1-C
8アルキルまたはC
3-C
7シクロアルキルであり;
ここで、任意の前記アルキルまたはシクロアルキルは、任意に置換される]
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを含む組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0014】
1つの実施態様では、R1は、水素、メチル、エチル、プロピル、またはイソプロピルである。
【0015】
もう1つの実施態様では、R2は、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、またはC3-C6シクロアルキルメチルでありうる。
【0016】
もう1つの実施態様では、R2は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロプロピルメチル、またはシクロペンチルメチルである。
【0017】
もう1つの実施態様では、R3は、C1-C6アルキルまたはC3-C6シクロアルキルでありうる。
【0018】
もう1つの実施態様では、R3は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、またはシクロプロピルである。
【0019】
もう1つの実施態様では、R4は、水素またはハロゲンである。
【0020】
もう1つの実施態様では、R5は、水素またはフルオロである。
【0021】
もう1つの実施態様では、R1が、メチルまたはエチルであり;R2が、イソプロピル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、またはシクロペンチルであり;R3が、メチルまたはエチルであり;R4が、水素またはフルオロであり;およびR5が、水素またはフルオロであるのが好ましいことがある。
【0022】
もう1つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載の実施態様の任意の組み合わせを包含する。
【0023】
治療されている脳腫瘍または転移がんが、CDK4および/またはCDK6を発現するのが好ましい。脳腫瘍が、膠芽腫であるのが好ましい。
【0024】
本発明のもう1つの態様は、脳腫瘍または他のがんからの脳転移を治療する方法であって、それを必要とする対象に治療有効量の式:
【化6】
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを含む組成物を投与することを含む、方法に関する。治療されている脳腫瘍または転移がんが、CDK4および/またはCDK6を発現するのが好ましい。脳腫瘍が、膠芽腫であるのが好ましい。
【0025】
本発明のさらなる態様は、CDK4および/またはCDK6活性に関連する脳腫瘍または脳転移の治療のための薬剤の製造における式(I):
【化7】
(I)
[式中、
R
1は、水素、C
1-C
8アルキル、またはC
3-C
7シクロアルキルであり;
R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素、C
1-C
8アルキル、C
3-C
7シクロアルキル、またはC
3-C
7シクロアルキルメチルであり;
R
4は、水素、ハロゲン、C
1-C
8アルキル、またはC
3-C
7シクロアルキルであり;および
R
5は、水素またはハロゲンである]
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはプロドラッグの使用に関する。
【0026】
いくつかの実施態様では、R1は、C1-C6アルキルである。R1が、メチル、エチル、プロピル、またはイソプロピルであるのが好ましい。
【0027】
いくつかの実施態様では、R2は、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、またはC3-C6シクロアルキルメチルである。R2が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロプロピルメチル、またはシクロペンチルメチルであるのが好ましい。
【0028】
いくつかの実施態様では、R3は、C1-C6アルキルまたはC3-C6シクロアルキルである。R3が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、またはシクロプロピルであるのが好ましい。
【0029】
いくつかの実施態様では、R4は、水素またはハロゲンである。
【0030】
いくつかの実施態様では、R5は、水素またはフルオロである。
【0031】
いくつかの実施態様では、R1が、メチルまたはエチルであり;R2が、イソプロピル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、またはシクロペンチルであり;R3が、メチルまたはエチルであり;R4が、水素またはフルオロであり;およびR5が、水素またはフルオロであるのがより好ましい場合がある。
【0032】
いくつかの好ましい実施態様では、CDK4および/またはCDK6活性に関連する脳腫瘍は、膠芽腫またはもう1つのがんの脳転移である。
【0033】
本発明のもう1つの態様は、CDK4および/またはCDK6活性に関連する脳腫瘍または脳転移の治療のための薬剤の製造における
式:
【化8】
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはプロドラッグの使用に関する。脳腫瘍が、膠芽腫であるのが好ましい。
【0034】
上記実施態様のいずれにおいても、CDK4および/またはCDK6活性に関連し、脳転移を引き起こすがんは、乳がん、肺がん(特に非小細胞肺がん(NSCLC))、結腸直腸がん、前立腺がん、腎臓がん、メラノーマ、マントル細胞リンパ腫(MCL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)などを含むがこれらに限定されず、本明細書に開示されたいずれかの実施態様にしたがって、方法は、治療有効量の化合物をがん患者に投与することを含む。
【0035】
好ましい実施態様では、方法は、転移性乳がんに関する。
【0036】
もう1つの好ましい実施態様では、方法は、転移性肺がん、特に、転移性非小細胞肺がんの治療に関する。
【0037】
いくつかの実施態様では、本発明は、脳転移、すなわち、元の罹患臓器からのがん細胞の拡散を予防する予防効果のために、がん患者に本明細書に開示される化合物を使用する方法を提供する。
【0038】
すべての実施態様では、好ましくは、脳腫瘍または脳転移は、CDKの活性、特に、CDK4またはCDK6の活性に関連する。
【0039】
本発明は、本明細書に開示される任意の実施態様のすべての可能な組み合わせを包含する。
【0040】
特に明記しない限り、本明細書で使用される「アルキル」という用語は、1~8個の炭素、好ましくは1~6個、より好ましくは1~4個の炭素を含む分岐鎖および直鎖飽和脂肪族炭化水素基の両方を含むことを意図する。用語は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシルなどを含むが、これらに限定されない。
【0041】
特に明記しない限り、本明細書で使用される「アルキレン」という用語は、2つの水素原子の除去によってアルカンから誘導される二価の飽和脂肪族ラジカルを意味する。例には、メチレン(-CH2-)、エチレン(-CH2CH2-)、プロピレン(-CH2CH2CH2-)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
特に明記しない限り、本明細書で単独でまたは別の基の一部として使用される「シクロアルキル」という用語は、環を形成する3~8個、時には好ましくは3~6個の炭素を有する飽和環状炭化水素ラジカルを含む。例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書で使用される「ハロ」または「ハロゲン」は、フルオロ(F)、クロロ(Cl)、ブロモ(Br)、およびヨード(I)を意味する。
【0044】
さらに、本明細書に開示される任意の実施態様において、アルキル、アルキレン、シクロアルキル、およびシクロアルコキシメチル基は、それぞれ、任意に、1つ以上、好ましくは1~3個、時には好ましくは1~2個の、ハロゲン、C1-C4アルキル、OH、C1-C4アルコキシ、およびCNからなる群から独立して選択される置換基によって独立して置換されうる。
【0045】
いずれかのグループが「任意に置換される」と言われる場合、特に定義されない限り、そのような置換が当業者に知られている従来の結合原理に違反しないという条件で、そのグループが置換されるかまたは置換されないことを意味する。基のリストの前に「任意に置換された」という句が使用される場合、それは、リストされた基のそれぞれが任意に置換され得ることを意味する。
【0046】
当業者は、1つまたは複数の置換基を含むと記載されている任意の分子に関して、立体的に実際的および/または合成的に実行可能な化合物のみが含まれることを意味することを理解するであろう。本明細書で別段の指定がない限り、可変部分が置換基で任意に置換されるか、または置換されると言われる場合、これは、可変部分に共有結合している水素をこれらの置換基の1つで置き換えることによって起こることを理解されたい。
【0047】
本発明の化合物は、一般に、酸、特に薬学的に許容される酸と反応して薬学的に許容される塩を形成することができる有機塩基として認識されている。
【0048】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などなしにヒトおよび下等動物の組織と接触して使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合った塩を意味する。薬学的に許容される塩は当技術分野で周知である。たとえば、S. M. Berge et al.、J. Pharm. Sci.、1977、66、1-19、を参照、この文献は、参照により本願に組み込まれる。本発明の化合物の薬学的に許容される塩には、適切な無機酸および有機酸に由来するものが含まれる。薬学的に許容される非毒性の酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸および過塩素酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸またはマロン酸などの有機酸と形成されるか、または、イオン交換などの当技術分野で使用される他の方法を使用することによって形成されるアミノ基の塩である。他の薬学的に許容される塩には、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、プロピオン酸シクロペンタン、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、バレリアン酸塩などが含まれる。好ましい薬学的に許容される塩は、塩酸塩を含む。
【0049】
本明細書で使用される「溶媒和物」という用語は、本発明の化合物と化学量論的または非化学量論的量の溶媒分子との物理的会合を意味する。たとえば、化合物の1つの分子は、1つまたは複数、好ましくは1~3個の溶媒分子と会合する。化合物の複数(たとえば、1.5または2個)の分子が、1つの溶媒分子を共有することも可能である。この物理的会合には水素結合が含まれる場合がある。特定の例では、溶媒和物は結晶性固体として単離することができる。溶媒和物中の溶媒分子は、規則的な配置および/または無秩序な配置で存在しうる。例示的な溶媒和物には、水和物、エタノレート、メタノレート、およびイソプロパノレートが含まれるが、これらに限定されない。溶媒和の方法は、一般に当技術分野で知られている。
【0050】
本明細書に開示される一般式(I)の化合物は、それ自体が「プロドラッグ」形態でありうるが、すなわち、R
1がアシル(すなわち、RC(O)-)またはエステル(すなわち、ROC(O)-)基である場合、これらの「プロドラッグ」は、他の「プロドラッグ」から生理学的条件下においてインビボで生成されうる。したがって、開示されるこれらの化合物について、本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、たとえば、血液中での加水分解によって、インビボで変換されて親化合物を生成することができる化合物の誘導体を意味する。本発明におけるプロドラッグの一般的な例には、活性アミン化合物のアミドまたはホスホルアミド形態、たとえば、式(II):
【化9】
(II)
[式中、
R
6は、アシル基(たとえば、アセチル、プロピオニル、ホルミルなど)またはホスホリル[たとえば、-P(=O)(OH)
2]基である;または代わりに、活性アミノ化合物中のR
3が水素である場合、対応するアミドまたはホスホルアミド化合物はプロドラッグとして役立ちうる]
の化合物が含まれるが、これらに限定されない。そのようなアミドまたはホスホルアミドプロドラッグ化合物は、当技術分野で知られている従来の方法に従って調製することができる。
【0051】
治療に使用するために、治療有効量の本発明の化合物、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物を未加工の化学物質として投与することができるが、有効成分を医薬組成物として提供することが可能である。したがって、本開示はさらに、本発明の任意の化合物、またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物、ならびに1つまたは複数、好ましくは1つ~3つの薬学的に許容される担体、希釈剤、または他の賦形剤を含む医薬組成物を提供する。担体、希釈剤、または他の賦形剤は、製剤の他の成分と適合性があり、治療される対象にとって有害ではないという意味で許容可能でなければならない。
【0052】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題または合併症が、合理的な利益/リスク比に見合ったものであり、それらの使用目的に効果的である、患者の組織と接触して使用するのに適している化合物、材料、組成物、および/または剤形の特性を意味する。
【0053】
医薬製剤は、単位用量あたり所定量の有効成分を含む単位剤形で提供されうる。典型的には、本開示の医薬組成物は、1日~5日ごとに1回から1日あたり約1~5回まで、または代わりに、持続注入として投与されるであろう。このような投与は、慢性または急性の治療法として使用することができる。担体材料と組み合わせて単一の剤形を生成することができる有効成分の量は、治療される状態、状態の重症度、投与時間、投与経路、使用された化合物の排泄速度、治療期間、ならびに患者の年齢、性別、体重、状態に応じて変化する。好ましい単位投与製剤は、本明細書で上に列挙したように、有効成分の1日用量またはサブ用量、あるいはその適切な画分を含むものである。一般に、治療は、化合物の最適用量よりも実質的に少ない少量で開始される。その後、その状況下で最適な効果が得られるまで、投与量は、少しずつ増やされる。一般に、化合物は、実質的な有害または有害な副作用を引き起こすことなく、一般に効果的な結果をもたらす濃度レベルで投与されることが最も望ましい。
【0054】
本開示の組成物が、本開示の化合物と1つまたは複数、好ましくは1つまたは2つの追加の治療薬または予防薬との組み合わせを含む場合、化合物および追加の薬剤の両方は、通常、単剤療法投与計画で通常投与される投与量の約10~150%、より好ましくは約10~80%の用量レベルで存在する。
【0055】
医薬製剤は、任意の適切な経路、たとえば、経口(頬側または舌下を含む)、直腸、鼻、局所(頬側、舌下、または経皮を含む)、膣、または非経口(皮下、皮内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨下、髄腔内、病巣内、静脈内、または皮内注射もしくは注入を含む)経路による投与に適合させることができる。そのような製剤は、調剤学の当技術分野で知られている任意の方法によって、たとえば、有効成分を担体または賦形剤と組み合わせることによって調製することができる。経口投与または注射による投与が好ましい。
【0056】
経口投与に適合した医薬製剤は、カプセルまたは錠剤;粉末または顆粒;水性または非水性液体中の溶液または懸濁液;食用フォームまたはホイップ;または水中油型液体エマルジョンまたは油中水型オイルエマルジョンなどの個別の単位として提供することができる。
【0057】
たとえば、錠剤またはカプセルの形態での経口投与の場合、活性薬物成分は、エタノール、グリセロール、水などの経口、非毒性の薬学的に許容される不活性担体と組み合わせることができる。粉末は、化合物を適切な微細サイズに粉砕し、たとえば、デンプンまたはマンニトールなどの食用炭水化物などの同様に粉砕された医薬担体と混合することによって調製される。香味料、防腐剤、分散剤、および着色剤も存在することができる。
【0058】
カプセルは、上記のように粉末混合物を調製し、形成されたゼラチンシースを充填することによって作製される。コロイダルシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、または固体ポリエチレングリコールなどの流動促進剤および滑沢剤を、充填操作の前に粉末混合物に添加することができる。寒天、炭酸カルシウム、または炭酸ナトリウムなどの崩壊剤または可溶化剤を添加して、カプセルが摂取されたときの薬剤の利用可能度を改善することもできる。
【0059】
さらに、必要に応じて、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、および着色剤も混合物に組み込むことができる。適切な結合剤には、デンプン、ゼラチン、グルコースまたはベータラクトースなどの天然糖、トウモロコシ甘味料、アカシア、トラガカントまたはアルギン酸ナトリウムなどの天然および合成ガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコールなどが含まれる。これらの剤形で使用される滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含まれる。崩壊剤には、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが含まれるが、これらに限定されない。錠剤は、たとえば、粉末混合物を調製し、造粒またはスラッギングし、滑沢剤および崩壊剤を添加し、そして錠剤に圧縮することによって製剤される。粉末混合物は、適切に粉砕された化合物を、上記の希釈剤または基剤、および任意に、カルボキシメチルセルロース、アリギン酸塩、ゼラチン、またはポリビニルピロリドンなどの結合剤、パラフィンなどの溶液遅延剤、四級塩などの吸収促進剤および/またはベントナイト、カオリン、またはリン酸二カルシウムなどの吸収剤と混合することによって調製される。粉末混合物は、シロップ、デンプンペースト、アカディア粘液(acadia mucilage)、またはセルロースもしくはポリマー材料の溶液などの結合剤と湿らせ、スクリーンに通すことによって造粒することができる。造粒の代わりとして、粉末混合物を錠剤機に通すことができ、その結果、不完全に形成されたスラグが顆粒に粉砕される。顆粒は、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、または鉱油を添加することにより、錠剤形成金型への付着を防ぐために潤滑化されうる。次に、潤滑化された混合物は、錠剤に圧縮される。本開示の化合物はまた、自由流動性の不活性担体と組み合わせて、造粒またはスラッギング工程を経ることなく直接錠剤に圧縮することができる。シェラックのシーリングコート、砂糖またはポリマー材料のコーティング、およびワックスのポリッシュコーティングからなる透明または不透明の保護コーティングを提供することができる。染料をこれらのコーティングに添加して、異なる単位投与量を区別することができる。
【0060】
溶液、シロップ、およびエリキシルなどの経口液剤は、所与の量が所定量の化合物を含むように、投与単位剤形の形態で調製することができる。シロップは、化合物を適切に香味付けされた水溶液に溶解することによって調製することができ、一方、エリキシルは、非毒性ビヒクルを使用することによって調製する。エトキシル化イソステアリルアルコールおよびポリオキシエチレンソルビトールエーテルなどの可溶化剤および乳化剤、防腐剤、ペパーミント油または天然甘味料などの香味添加剤、またはサッカリンもしくは他の人工甘味料なども添加することができる。
【0061】
必要に応じて、経口投与用の投与単位製剤をマイクロカプセル化することができる。配合物はまた、たとえば、粒子状物質をコーティングまたはポリマー、ワックスなどに埋め込むことによって、放出を延長または持続するように調製することができる。
【0062】
特に上記の成分に加えて、製剤は、問題の製剤のタイプに関して当技術分野で慣行の他の薬剤を含むことができ、たとえば、経口投与に適したものは、香味料を含みうることを理解されたい。
【0063】
「対象」または「患者」という用語は、ヒトおよび他の哺乳動物の両方を含み、これらに限定されないが、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、サルなどを含み、ヒトが好ましい。
【0064】
「治療有効量」という用語は、疾患を治療するために対象に投与された場合に、疾患のそのような治療を達成するのに十分である化合物または組成物の量を意味する。「治療有効量」は、とりわけ、化合物、疾患およびその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重、または他の要因に応じて変化しうる。単独で投与される個々の有効成分に適用される場合、この用語はその成分のみを意味する。組み合わせに適用される場合、この用語は、組み合わせて、連続して、または同時に投与されるかどうかにかかわらず、治療効果をもたらす有効成分の組み合わせ量を意味する。
【0065】
いくつかの実施態様では、「治療する」または「治療」という用語は、(i)疾患、障害または状態を阻害すること、すなわち、その発症を停止すること;(ii)疾患、障害または状態を軽減すること、すなわち、疾患、障害、および/または状態の退行を引き起こすこと;または(iii)疾患、障害、および/または状態の素因がある可能性があるが、まだそれを有すると診断されていない対象において、疾患、障害または状態が発生するのを防ぐことを意味する。したがって、いくつかの実施態様では、「治療する」または「治療」は、疾患または障害を改善することを意味し、これは、治療される対象によって識別できない可能性がある1つまたは複数の身体的パラメータを改善することを含みうる。いくつかの実施態様では、「治療する」または「治療」は、身体的(たとえば、識別可能な症状の安定化)または生理学的(たとえば、身体的パラメータの安定化)またはその両方のいずれかで、疾患または障害を調節することを含む。さらにいくつかの実施態様では、「治療する」または「治療」は、疾患または障害の発症を遅らせることを含む。
【0066】
マウスにおける同所性U87MG-lucヒト神経膠芽腫に対する、テモゾロミド(TMZ)と組み合わせた化合物1とアベマシクリブの有効性および比較研究を実施した。各研究において、TMZは、POにて6 mg/kgを、QD X 5で投与され、化合物1またはアベマシクリブは、POにて100 mg/kgを投与された。腫瘍の増殖は、生物発光によって観察された。アベマシクリブ/TMZの組み合わせは、42日目まで腫瘍体積の減少を示し、その後、49日目に再成長した(
図1)。対照的に、化合物1/TMZの組み合わせは、28日目に有意な腫瘍体積の減少を示し、63日目まで持続的な腫瘍体積の減少を示した(
図2)。化合物1とアベマシクリブのインビトロ効力が同等であることを考慮すると、神経膠芽腫モデルにおけるアベマシクリブと比較して化合物1の優れたインビボ有効性は、化合物1対アベマシクリブのより好ましいBBB透過性プロファイルに起因する可能性がある。広い観点から、脳疾患モデルにおける化合物1とアベマシクリブの有意な差異は、それらの異なる分子構造にたどることができる。
【0067】
化合物1とアベマシクリブの分子構造の主な違いは、化合物1には2H-インダゾール核が含まれているのに対し、アベマシクリブにはベンズイミダゾール核が含まれていることである:
【化10】
対
【化11】
【0068】
この構造的差異は、驚くべきことに、2つの化合物の間に有意なBBB透過性プロファイルの違いをもたらす。実施例3は、化合物1の脳濃度がアベマシクリブの脳濃度よりも約3倍高いことが観察され、化合物1の脳/血漿(B/P)比がアベマシクリブの0.43に対して1.43であった、インビボマウス研究を記載する(表1および2を参照)。さらに、そして特に、化合物1は、P-gp基質ではない(実施例2を参照のこと)。
【0069】
表1:10 mg/kgでp.o.したマウスにおける化合物1の脳濃度およびB/P比
【表1】
【0070】
表2:10 mg/kgでp.o.したマウスにおけるアベマシクリブの脳濃度およびB/P比
【表2】
【0071】
限定されることを意図するものではないが、本発明に使用することができる化合物の図示された非限定的な例を表3に列挙する。
【0072】
表3:式(I)で示される化合物の選択された例
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【実施例】
【0073】
実施例1:マウスにおけるインビボ有効性研究
材料および方法
D-ルシフェリン(ロット番号0000204125)を、プロメガから白色粉末として入手し、露光を最小限に抑えるために蓋付きの箱に入れて-80℃で保管した。生理食塩水をD-ルシフェリン粉末に添加して、インビボイメージング用の透明な黄色の15 mg/ml溶液を作成した。D-ルシフェリンは、各生物発光イメージングセッションの直前に調製し、使用中は湿った氷上で光から保護して保管した。
【0074】
テモゾロミド(親99.0%、MW 194 g/mol、FW 194 g/mol、純度99%、C6H6N6O2、ロット番号S123705)を、SelleckChemからピンク色の微粉末として入手した。受領後、-20℃で遮光して保管した。化合物を、滅菌水のビヒクルに配合した。投与製剤をボルテックスして、pH値6.3の透明で無色の溶液を形成した。投与溶液を毎週調製し、処理の合間は光から保護して4℃で保管した。
【0075】
化合物1(親92.8%、MW 489 g/mol、FW 525 g/mol、純度99.7%、C27H33FN8・HCl)を、窒素が豊富な環境で4℃にて光から保護して保管した。この化合物を、10%エタノール、10%CREMOPHOR(登録商標)、および80%生理食塩水(0.9%NaCl)のビヒクルに配合した。最初に、約42℃に設定された水浴中で、すべてのビヒクル成分を温めることによって、投与製剤を調製した。最初に、事前に秤量されたBPI-1178粉末を含む滅菌投薬バイアルに、エタノールを加えた。次に、混合物をボルテックスして、すべての粉末が完全に溶解したことを確認した。次に、CREMOPHOR(登録商標)を溶液に加え、ボルテックスして混合した。最後に、生理食塩水を加え、最終混合物をボルテックスして、pH値5.7の透明で無色の溶液を作成した。投与溶液は、毎日新たに調製した。
【0076】
アベマシクリブ(親83.7%、MW 506 g/mol、FW 603 g/mol、純度99.6%、C27H32F2N8・H3CSO3H)を、Beta Pharmaから白色のフレーク状粉末として入手した。受領後、窒素が豊富な環境で4℃にて光から保護して保管した。化合物を、10%エタノール、10%CREMOPHOR(登録商標)、および80%生理食塩水(0.9%NaCl)のビヒクルに配合した。最初に、約42℃に設定された水浴中で、すべてのビヒクル成分を温めることによって、投与製剤を調製した。最初に、事前に秤量されたアベマシクリブを含む滅菌投薬バイアルに、エタノールを加えた。次に、混合物をボルテックスして、すべての粉末が完全に溶解したことを確認した。次に、CREMOPHOR(登録商標)を溶液に加え、ボルテックスして混合した。最後に、生理食塩水を加え、最終混合物をボルテックスして、pH値4.0の透明で無色の溶液を作成した。投与溶液は、毎日新たに調製した。
【0077】
動物および飼育
この研究では、雌性Envigoヌードマウス(Hsd:Athymic Nude-Foxn1nu)を使用した。実験1日目は6~7週齢であった。動物は、照射されたハーラン2918.15齧歯動物用餌と水を自由に与えられた。動物は、バブル環境にH.E.P.Aでろ過された空気を1時間あたり100回の完全な空気交換で供給する、BIOBUBBLE(登録商標)クリーンルーム内のトウモロコシの穂軸の寝具を備えたINNOVIVE(登録商標)使い捨て換気ケージに収容された。すべての治療、体重測定、および腫瘍測定は、バブル環境で実施された。環境は、70°±2°Fの温度範囲および30~70%の湿度範囲に制御された。
【0078】
すべての手順は、米国国立衛生研究所(NIH)のすべての法律、規制、およびガイドラインに準拠し、Molecular Imaging、Inc. の動物管理使用委員会の承認を得て実施された。Molecular Imaging、Inc.は、AAALAC公認施設である
【0079】
実施例1A:細胞調製
MG-Luc細胞をATCCから入手した。それらを、1% 100mMピルビン酸ナトリウム、1% 100X NEAA(非必須アミノ酸)、200 μg/mL G418で修飾され、10%非熱不活化ウシ胎児血清(FBS)および1% 100Xペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン(PSG)が補充されたアールズ塩(Earle's Salt)を含む最小必須培地(MEM)で培養した。増殖環境を、37℃、5%CO2雰囲気のインキュベーター内で維持した。増殖が完了したとき、0.25%トリプシン-EDTA溶液を使用して細胞をトリプシン処理した。細胞剥離後、完全増殖培地で希釈することによりトリプシンを不活化し、細胞の塊をピペッティングにより分離した。細胞を200rcfで4℃にて8分間遠心分離し、上清を吸引し、ペレットをピペッティングにより冷ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)に再懸濁させた。均一な細胞懸濁液のアリコートをトリパンブルー溶液で希釈し、Luna自動セルカウンターを使用してカウントした。細胞懸濁液を200rcfで8分間4℃にて遠心分離した。上清を吸引し、細胞ペレットを冷無血清培地に再懸濁させて、1.0E+08トリパン排除細胞/mlの最終濃度を生成した。移植中、細胞懸濁液を湿った氷上に維持した。移植後、残りの細胞のアリコートをトリパンブルー溶液で希釈し、カウントして、移植後の細胞生存率を決定した。
【0080】
【0081】
実施例1B:頭蓋内移植
試験マウスは、0、1、および2日目に頭蓋内に10μlあたり1.0E+06個の細胞を移植された。無菌外科的移植のために、マウスに0.2mg/kgのブプレノルフィンを注射し、空気中の2%イソフルランを使用して麻酔した。次に、マウスを、ノンラプチャー・イヤーバーを使用して定位固定フレーム(ASI instruments, Inc.)に固定した。手術中の乾燥を防ぐために、マウスの眼に眼軟膏を塗布した。再循環37℃水加熱パッドを使用して、移植手順中の動物の体温を維持した。
【0082】
定位固定フレームに入れたら、頭蓋をクロルヘキシジン溶液と70%エタノール飽和ぬぐい液で交互に拭き取り、皮膚表面を消毒して切開の準備をした。#15 BD外科用メスの刃を使用して、頭蓋のブレグマの中央に1cmの縦切開を行った。小さな鋸歯状の止血小鉗子を使用して切開を引き込めた。頭蓋骨の表面を覆っている結合組織の薄層を、軽い圧力下で、乾いた綿棒を使用して除去した。出血を防ぐために出血している血管を焼灼した。次に、0.9mmのドリルビットをブレグマの中心に置き、冠状縫合の2mm右側、1mm前方にに動かし、定位電極マニピュレーターアームを使用して頭蓋骨の表面に切れ目を入れるために下げた。ドリルを定位固定フレームから取り外し、頭蓋骨から硬膜の表面までの穿頭孔を手作業で完成させた。
【0083】
細胞懸濁液(湿った氷上に保存)を十分に混合し、50μlの気密ハミルトンシリンジに吸い上げた。標準の27gの針に細胞懸濁液を充填してエアポケットをなくし、注射器のルアーチップを針ハブに挿入した。注射器を特注の注射器ホルダー(ASI Instruments, Inc.)に固定し、定位固定フレームマニピュレーターアームに取り付けた。注射針を穿頭孔の中心に置き、斜めになった先端が硬膜の表面で頭蓋骨の下側と同じ高さになるまで下げた。次に、針を脳内に3mm下げ、1mm引っ込めて、細胞懸濁液を沈着させるための「リザーバー」を形成した。次に、10μlの細胞懸濁液((1x106細胞/マウス)をゆっくりと脳組織に注入し、わずかな漏れ(IC移植では一般的)を乾いた綿棒で吸収した。
【0084】
注射後、針を引き抜き、移植された細胞の損失を最小限に抑えるために、穿頭孔を直ちにボーンワックスで密封した。次に、頭蓋骨の表面を、乾燥した綿棒と70%エタノールで飽和させた綿棒を交互に使用して洗浄して、外来細胞を除去し、頭蓋外腫瘍の成長を阻止した。マウスを定位固定フレームから取り外し、ステンレス鋼の創傷クリップを使用して切開を閉じた。マウスが意識と仰向け姿勢を取り戻したら、ケージに戻した。2017年2月20日から22日までマウスは移植された。
【0085】
実施例1C:処置
すべてのマウスを、腫瘍組織量の生物発光イメージング(BLI)推定に基づいて研究グループに分類した。すべてのグループの平均腫瘍組織量が研究集団の全体の平均腫瘍組織量の10%以内になるようにマウスを割りふった。移植は3日間にわたって行われたため、0日目を移植の中間日(2017年2月21日)と定義した。処置は、最初の移植日に関係なく、すべてのグループについて、21日目に開始された。
【0086】
グループ1:ビヒクルコントロール(10% EtOH、10% CREMOPHOR(登録商標)、80%生理食塩水 (0.9% NaCl))、0.2 mL/20g、PO、QDx21 (21-41日目)
グループ2:テモゾロミド、6 mg/kg、PO、QDx5 (21-25日目)
グループ3:化合物1、100 mg/kg、PO、QDx21 (21-41日目)
グループ4:アベマシクリブ、100 mg/kg、PO、QDx21 (21-41日目)
グループ5:テモゾロミド、6 mg/kg、PO、QDx5 (21-25日目)+化合物1、100 mg/kg、PO、QDx21 (21-41日目)
グループ6:テモゾロミド、6 mg/kg、PO、QDx5 (21-25日目)+アベマシクリブ、100 mg/kg、PO、QDx21 (21-41日目)
【0087】
実施例1D:インビボ生物発光イメージング(BLI)
インビボ生物発光イメージング(BLI)は、IVISスペクトル(Caliper Life Sciences, Hopkinton、MA)を使用して行った。動物を、約1~2%イソフルランガス麻酔下で、一度に最大5匹まで画像化した。各マウスに、150 mg/kg (15 mg/ml)のD-ルシフェリンを皮下注射し、注射の10分後にうつ伏せで画像化した。CCDチップの大きなビニングを使用し、露光時間を調整して(2秒から2分)、画像ごとに少なくとも数百カウントを取得し、CCDチップの飽和を回避した。BLI画像を21、28、35、42、49、56、および64日目に収集した。
【0088】
MatlabR2015aソフトウェアを使用して画像を分析した。一次脳固定体積(primary brain fixed-volume)ROIを、脳腫瘍組織量を推定するために、個々の動物のうつ伏せ画像に配置した。グループ間の分析を容易にするために、すべてのROIについて総フラックス(光子/秒)を計算し、エクスポートした。
【0089】
実施例1E:副作用の評価
すべての動物を、少なくとも1日1回臨床徴候について観察した。処置の各日に動物の体重を測定した。個々の体重を週に3回記録した。
【0090】
20%を超える処置関連の体重減少は、一般に容認できないほど有毒であると考えられている。この研究では、処置に関連する体重減少(処置中および処置後2週間)が20%未満であり、致命的な腫瘍組織量がない場合のこの期間の死亡率が10%以下の場合、投与量レベルは許容されると記載されている。
【0091】
死亡または安楽死の際、すべての動物を剖検して、潜在的な死因およびおそらく毒性の標的臓器の一般的な評価を提供した。転移の有無も留意した。臨床徴候および剖検所見の顕著な観察を記録し、個体およびグループの毒性所見を要約した。
【0092】
実施例2:化合物1の細胞透過性研究
要約
【表24】
試験品は、ルシファーイエロー単層完全性試験基準(≦0.8×10
-6cm/s)に合格した。
【0093】
目的
この研究の目的は、MDR1-MDCK単層を使用して1つの試験品のP-gp基質電位を決定することであった。
【0094】
実験手順
MDR1-MDCK細胞単層を、12ウェルアッセイプレートのコラーゲンコーティングされた微多孔膜上でコンフルエントになるまで増殖させた。プレートの詳細とその認定を以下に示す。透過性アッセイ緩衝液は、10 mM HEPESと15mMグルコースを含むpH7.4のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)であった。レシーバー室内の緩衝液には、1%のウシ血清アルブミンも含まれていまれた。投与溶液の濃度は、アッセイ緩衝液中の5μMの試験品+/-1μMのバルスポダールであった。細胞は、最初に、+/-1μMのバルスポダールを含むHBSSとともに30分間プレインキュベートされた。細胞単層を頂端側(A-to-B)または基底外側(B-to-A)に投与し、加湿インキュベーター内で5%CO2、37℃でインキュベートした。サンプルを、120分で、ドナーおよびレシーバー室から採取した。各測定は、2回行った。ルシファーイエローのフラックスを、各単層について、フラックス期間中に細胞単層に損傷が与えられていないことを確認するために、実験後にも測定した。すべてのサンプルを、エレクトロスプレーイオン化を使用したLC-MS MSによって分析した。分析条件は別表1に概説する。見かけの膜透過性(Papp)および回収%を以下の通り計算した:
Papp=(dCr/dt)×Vr/(A×CA) (1)
回収%=100×((Vr×Cr
final)+(Vd×Cd
final))/(Vd×CN) (2)
ここで、
dCr/dtは、レシーバー区画内の累積濃度 対 時間の傾きである(μM s-1);
Vrは、レシーバー区画の容積(cm3)である;
Vdは、ドナー区画の体積(cm3)である;
Aは、インサートの面積(12ウェルの場合は1.13 cm2)である;
CAは、公称投与濃度と測定された120分のドナー濃度の平均(μM)である;
CNは、投与溶液の公称濃度(μM)である;
Cr
finalは、インキュベーション期間の終了時の累積レシーバー濃度(μM)である;
Cd
finalは、インキュベーション期間の終了時のドナーの濃度(μM)である。
【0095】
排出比(ER)は、Papp (B-to-A)/Papp (A-to-B)として定義される。
【0096】
【0097】
【0098】
P-gp基質分類基準:
ER ≧ 2.0 バルスポダールなし、およびバルスポダールありで50%以上減少:陽性
ER ≧ 2.0 バルスポダールなし、およびバルスポダールありで50%未満の減少:陰性
ER < 2.0 バルスポダールの有無にかかわらず:陰性
上記の結果に基づいて、化合物1はP-gpの基質ではない。
【0099】
分析方法
液体クロマトグラフィー
カラム:Waters ACQUITY UPLC(登録商標) BEH フェニル 30×2.1 mm、1.7 μm
M.P.緩衝液:25 mMギ酸アンモニウム緩衝液、pH 3.5
水性リザーバー(A):90%水、10%緩衝液
有機リザーバー(B):90%アセトニトリル、10%緩衝液
流速:0.7 mL/分
勾配プログラム:
【表27】
合計実行時間:1.0分
オートサンプラー:注入体積5 μL
洗浄1:水/メタノール/2-プロパノール:1/1/1;0.2%ギ酸を含む
洗浄2:0.1%ギ酸水溶液
【0100】
質量分析
装置:PE SCIEX API 4000
インターフェイス:ターボ・イオンスプレー
モード:多重反応モニタリング
方法:1.0分の持続時間
設定:
【表28】
TEM:500;CAD:7;CUR:30;GS1:50;GS2:50
【0101】
実施例3:マウスにおけり脳内濃度および脳/血漿比
マウスに10mg/kgをp.o.投与した。表1および表2に示すように、化合物1の脳内濃度は、アベマシクリブの脳内濃度の約3倍であり、化合物1の脳/血漿(B/P)比は、1.43であったのに対し、アベマシクリブではわずか0.43であった。
【0102】
本明細書に開示されるように、いくつかの値の範囲が提供される。文脈が明確に別段の指示をしない限り、下限の単位の10分の1までの各介在値もまた、その範囲の上限と下限との間で具体的に開示されることが理解される。記載された値または記載された範囲内の介在値と、その記載された範囲内の他の記載された値または介在する値との間のそれぞれのより小さな範囲は、本発明に含まれる。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立して、該範囲に含まれるかまたは除外され得、そして、どちらか、どちらでもない、または両方の限界がより小さな範囲に含まれる各範囲もまた、本発明に含まれ、記載された範囲内で特に除外された限定の対象となる。記載された範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれかまたは両方を除外する範囲も本発明に含まれる。「約」という用語は、一般に、示された数の±10%までを含む。たとえば、「約10%」は、9%~11%の範囲を示しえ、「約20」は、18~22を意味しうる。好ましくは、「約」は、示された値の±6%までを含む。あるいは、「約」は、示された値の±5%までを含む。「約」の他の意味は、四捨五入などの文脈から明らかである可能性があるので、たとえば、「約1」は、0.5~1.4を意味することもできる。
【0103】
本明細書で引用されるすべての刊行物は、すべての目的のためにその全体が参照により組み込まれる。本明細書に記載の実施態様は、本発明の範囲を限定することなく、例示としてのみ考慮されるべきであることを理解されたい。各実施態様内の特徴または態様の説明は、通常、他の実施態様における他の同様の特徴または態様に利用可能であると見なされるべきである。
【0104】
いくつかの実施態様が上記の実施例に記載されるが、以下の特許請求の範囲によって定義される開示の真の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細のさまざまな変更を行うことができることが当業者によって理解されるであろう。