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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ロータコア、ロータ、および回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20241115BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241115BHJP
   H02K 1/02 20060101ALI20241115BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
H01F1/147 175
H02K1/02 Z
H02K19/10 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021556175
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042444
(87)【国際公開番号】W WO2021095849
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-04-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2019206676
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】上川畑 正仁
(72)【発明者】
【氏名】冨田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
【合議体】
【審判長】小宮 慎司
【審判官】柴垣 俊男
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-223830(JP,A)
【文献】特開2019-178380(JP,A)
【文献】特開2016-192841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/22
C21D8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータのロータコアであり、複数の電磁鋼板を有するロータコアであって、
前記電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、および
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(B)式及び(D)式を満たし、
{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であることを特徴とするロータコア。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(B)
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(D)
【請求項2】
リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータのロータコアであり、複数の電磁鋼板を有するロータコアであって、
前記電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、および
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(C)式及び(F)式を満たし、
{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であることを特徴とするロータコア。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(C)
(B50D1+B50D2)/2>1.8T ・・・(F)
【請求項3】
以下の(E)式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のロータコア。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(E)
【請求項4】
前記電磁鋼板は、
質量%で、
前記Sn:0.020%~0.400%、または、前記Sb:0.020%~0.400%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のロータコア。
【請求項5】
請求項1または2に記載のロータコアを有し、リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータのロータであって、
前記ロータの少なくとも1つの磁極の周方向における中心線と、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向とが一致し、
前記磁気特性が最も優れる方向は、前記圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向の少なくとも何れか一方であることを特徴とするロータ。
【請求項6】
前記ロータの磁極の数は、4の倍数であり、
少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの第1の方向において軸心を介して相互に対向する位置に2つの前記磁極が位置し、
少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの第2の方向において軸心を介して相互に対向する位置に2つの前記磁極が位置し、
前記第1の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の前記第1の方向とが一致し、
前記第2の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の前記第2の方向とが一致することを特徴とする請求項5に記載のロータ。
【請求項7】
前記ロータの磁極の数は、4であり、
前記第1の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、前記複数の電磁鋼板の前記第1の方向とが一致し、
前記第2の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、前記複数の電磁鋼板の前記第2の方向とが一致することを特徴とする請求項6に記載のロータ。
【請求項8】
前記複数の電磁鋼板は、磁気特性が最も優れる2つの方向の向きがずれた状態で積層されていることを特徴とする請求項5~7の何れか1項に記載のロータ。
【請求項9】
前記複数の電磁鋼板は、磁気特性が最も優れる2つの方向の向きが、前記電磁鋼板の積層方向において周期的にずれた状態で積層されていることを特徴とする請求項5~8の何れか1項に記載のロータ。
【請求項10】
少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向に対し前記周方向における中心線が一致している前記磁極の全てにおいて、当該磁極の周方向における中心線に対し前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向が一致している前記電磁鋼板の数が同じであることを特徴とする請求項5~9の何れか1項に記載のロータ。
【請求項11】
前記磁極の全てにおいて、当該磁極の周方向における中心線に対し前記磁気特性が最も優れる方向が一致する前記電磁鋼板が少なくとも1枚含まれることを特徴とする請求項5~10の何れか1項に記載のロータ。
【請求項12】
前記複数の電磁鋼板のそれぞれにおいて、前記磁気特性が最も優れる方向として、前記磁極の周方向における中心線と一致する方向が少なくとも1つあることを特徴とする請求項5~11の何れか1項に記載のロータ。
【請求項13】
前記複数の電磁鋼板のそれぞれにおいて、当該電磁鋼板の各磁極を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係が同じであることを特徴とする請求項5~12の何れか1項に記載のロータ。
【請求項14】
請求項5~13の何れか1項に記載のロータを有し、リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータであることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータコア、ロータ、および回転電機に関し、特に、リラクタンスモータおよびリラクタンスジェネレータに用いて好適なものである。
本願は、2019年11月15日に、日本に出願された特願2019-206676号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リラクタンスモータは、ロータにマグネットを使用しない。従って、リラクタンスモータでは、コストがかかるレアアースを必須としない。このような観点から、近年、リラクタンスモータが注目されている。
【0003】
リラクタンスモータは、ロータの磁極とステータとが相互に対向するようにロータとステータとを配置し、ステータに巻き回された複数の励磁コイルに流す励磁電流を順次切り替えることにより、回転方向(周方向)の磁気吸引力をロータに生じさせ、ロータを回転させる。
【0004】
リラクタンスモータとして、スイッチトリラクタンスモータ(Switched Reluctance Motor)および同期リラクタンスモータ(Synchronous Reluctance Motor)がある(例えば、特許文献1、2を参照)。特許文献1、2に記載されているように、リラクタンスモータでは、周方向に間隔を有して配置される突極(凸部)を設けたり、ロータコアにスリットを形成したりすることにより、ロータの磁極を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2012-114975号公報
【文献】日本国特開2017-135878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、ロータコアに用いる電磁鋼板についての検討がなされていない。従って、従来のロータコアには、磁気特性を向上させることについて改善の余地がある。このことは、リラクタンスモータだけでなくリラクタンスジェネレータにおいても同じである。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、リラクタンスモータやリラクタンスジェネレータに用いられるロータコアの磁気特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)本発明の一態様に係るロータコアは、リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータのロータコアであり、複数の電磁鋼板を有するロータコアであって、前記電磁鋼板は質量%で、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(B)式及び(D)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であることを特徴とする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(B)
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(D)
ここで、磁束密度B50とは、磁界の強さ5000A/mで励磁したときの磁束密度である。
(2)本発明の一態様に係るロータコアは、リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータのロータコアであり、複数の電磁鋼板を有するロータコアであって、前記電磁鋼板は質量%で、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(A)式を満たし、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、圧延方向のB50をB50L、圧延方向とのなす角度が90°の方向のB50をB50C、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向のB50のうち一方の方向のB50、他方の方向のB50を、それぞれ、B50D1、B50D2としたときに、以下の(C)式及び(F)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であることを特徴とする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(A)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(C)
(B50D1+B50D2)/2>1.8T ・・・(F)
(3)前記(1)または(2)に記載のロータコアは、以下の(E)式を満たすことを特徴としてもよい。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(E)
(4)前記(1)または(2)に記載のロータコアは、前記電磁鋼板が、質量%で、前記Sn:0.020%~0.400%、または、前記Sb:0.020%~0.400%を含有してもよい。
(5)本発明のロータは、上記(1)または(2)に記載のロータコアを有し、リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータのロータであって、前記ロータの少なくとも1つの磁極の周方向における中心線と、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向とが一致し、前記磁気特性が最も優れる方向は、前記圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向の少なくとも何れか一方であることを特徴とする。
(6)前記(5)に記載のロータの磁極の数は、4の倍数であり、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの第1の方向において軸心を介して相互に対向する位置に2つの前記磁極が位置し、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる2つの方向のうちの第2の方向において軸心を介して相互に対向する位置に2つの前記磁極が位置し、前記第1の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の前記第1の方向とが一致し、前記第2の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の前記第2の方向とが一致することを特徴としてもよい。
(7)前記(6)に記載のロータの磁極の数は、4であり、前記第1の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、前記複数の電磁鋼板の前記第1の方向とが一致し、前記第2の方向において軸心を介して相互に対向する位置に位置する2つの前記磁極の周方向における中心線と、前記複数の電磁鋼板の前記第2の方向とが一致することを特徴としてもよい。
(8)前記(5)~(7)の何れか1項に記載のロータにおける複数の電磁鋼板は、磁気特性が最も優れる2つの方向の向きがずれた状態で積層されていることを特徴としてもよい。
(9)前記(5)~(8)の何れか1項に記載のロータにおける複数の電磁鋼板は、磁気特性が最も優れる2つの方向の向きが、前記電磁鋼板の積層方向において周期的にずれた状態で積層されていることを特徴としてもよい。
(10)前記(5)~(9)の何れか1項に記載のロータは、少なくとも1枚の前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向に対し前記周方向における中心線が一致している前記磁極の全てにおいて、当該磁極の周方向における中心線に対し前記電磁鋼板の磁気特性が最も優れる方向が一致している前記電磁鋼板の数が同じであることを特徴としてもよい。
(11)前記(5)~(10)の何れか1項に記載のロータは、前記磁極の全てにおいて、当該磁極の周方向における中心線に対し前記磁気特性が最も優れる方向が一致する前記電磁鋼板が少なくとも1枚含まれることを特徴としてもよい。
(12)前記(5)~(11)の何れか1項に記載のロータは、前記複数の電磁鋼板のそれぞれにおいて、前記磁気特性が最も優れる方向として、前記磁極の周方向における中心線と一致する方向が少なくとも1つあることを特徴としてもよい。
(13)前記(5)~(12)の何れか1項に記載のロータは、前記複数の電磁鋼板のそれぞれにおいて、当該電磁鋼板の各磁極を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係が同じであることを特徴としてもよい。
(14)本発明の回転電機は、前記(1)~(13)の何れか1項に記載の前記ロータコアを有し、リラクタンスモータまたはリラクタンスジェネレータであることを特徴としてもよい。

【発明の効果】
【0009】
本発明の上記様態によれば、リラクタンスモータやリラクタンスジェネレータに用いられるロータコアの磁気特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転電機の構成の第1の例を示す図である。
図2】ロータの構成の第1の例を示す図である。
図3】ロータコアを構成する電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の第1の例を示す図である。
図4】回転電機の構成の第2の例を示す図である。
図5】ロータの構成の第2の例を示す図である。
図6】ロータコアの断面の一例を示す図である。
図7】ロータコアを構成する電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の第2の例を示す図である。
図8】回転電機の構成の第1の例を示す図である。
図9】ロータの構成の第3の例を示す図である。
図10A】ロータコアを構成する電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の第3の例を示す図である。
図10B】電磁鋼板の圧延方向と磁化容易方向の一例を示す図である。
図11】電磁鋼板の高さ方向の位置関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ロータコアに使用する電磁鋼板)
まず、後述する実施形態のロータコアに使用する電磁鋼板について説明する。
まず、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板およびその製造方法で用いられる鋼材の化学組成について説明する。以下の説明において、無方向性電磁鋼板または鋼材に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板および鋼材は、フェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じ得る化学組成であって、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。更に、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Au、Siおよびsol.Alの含有量が後述する所定の条件を満たす。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0012】
<<C:0.0100%以下>>
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.0100%超で顕著である。このため、C含有量は0.0100%以下とする。C含有量の低減は、板面内の全方向における磁気特性の均一な向上にも寄与する。尚、C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0013】
<<Si:1.50%~4.00%>>
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Si含有量は1.50%以上とする。一方、Si含有量が4.00%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.00%以下とする。
【0014】
<<sol.Al:0.0001%~1.0%>>
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、磁界の強さ5000A/mで励磁したときの磁束密度である。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。従って、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、磁束密度が低下したり、降伏比を低下させて、打ち抜き加工性を低下させたりする。従って、sol.Al含有量は1.0%以下とする。
【0015】
<<S:0.0100%以下>>
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害する。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。このような再結晶および結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.0100%超で顕著である。このため、S含有量は0.0100%以下とする。尚、S含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱硫処理のコストを踏まえ、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0016】
<<N:0.0100%以下>>
NはCと同様に、磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほどよい。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。尚、N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0017】
<<Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%>>
これらの元素は、α-γ変態を生じさせるために必要な元素であることから、これらの元素を総計で2.50%以上含有させる必要がある。一方で、総計で5.00%を超えると、コスト高となり、磁束密度が低下する場合もある。したがって、これらの元素を総計で5.00%以下とする。
【0018】
また、α-γ変態が生じ得る条件として、更に以下の条件を満たしているものとする。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、質量%で、以下の(1)式を満たすことが好ましい。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0019】
前述の(1)式を満たさない場合には、α-γ変態が生じないため、磁束密度が低くなる。
【0020】
<<Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%>>
SnやSbは冷間圧延、再結晶後の集合組織を改善して、その磁束密度を向上させる。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼を脆化させる。したがって、Sn含有量、Sb含有量はいずれも0.400%以下とする。また、Pは再結晶後の鋼板の硬度を確保するために含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼の脆化を招く。したがって、P含有量は0.400%以下とする。以上のように磁気特性等のさらなる効果を付与する場合には、0.020%~0.400%のSn、0.020%~0.400%のSb、および0.020%~0.400%のPからなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0021】
<<Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%>>
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の析出物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。粗大析出物生成元素の析出物の粒径は1μm~2μm程度であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。このため、これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害しにくくなる。これらの作用効果を十分に得るためには、これらの元素の総計が0.0005%以上であることが好ましい。但し、これらの元素の総計が0.0100%を超えると、硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の総量が過剰となり、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長が阻害される。従って、粗大析出物生成元素の含有量は総計で0.0100%以下とする。
【0022】
<<集合組織>>
次に、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の集合組織について説明する。製造方法の詳細については後述するが、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板はα-γ変態が生じ得る化学組成であり、熱間圧延での仕上げ圧延終了直後の急冷によって組織を微細化することによって{100}結晶粒が成長した組織となる。これにより、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板は{100}<011>方位の集積強度が5~30となり、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50が特に高くなる。このように特定の方向で磁束密度が高くなるが、全体的に全方向平均で高い磁束密度が得られる。{100}<011>方位の集積強度が5未満になると、磁束密度を低下させる{111}<112>方位の集積強度が高くなり、全体的に磁束密度が低下してしまう。また、{100}<011>方位の集積強度が30を超える製造方法は熱間圧延板を厚くする必要があり、製造が困難という課題がある。
【0023】
{100}<011>方位の集積強度は、X線回折法または電子線後方散乱回折(Electron Backscatter Diffraction:EBSD)法により測定することができる。X線および電子線の試料からの反射角等が結晶方位毎に異なるため、ランダム方位試料を基準にしてこの反射強度等で結晶方位強度を求めることができる。ロータコアに使用する電磁鋼板の一例として好適な無方向性電磁鋼板の{100}<011>方位の集積強度は、X線ランダム強度比で5~30となる。このとき、EBSDにより結晶方位を測定し、X線ランダム強度比に換算した値を用いても良い。
【0024】
<<厚さ>>
次に、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の厚さについて説明する。ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の厚さは、0.50mm以下である。厚さが0.50mm超であると、優れた高周波鉄損を得ることができない。従って、厚さは0.50mm以下とする。
【0025】
<<磁気特性>>
次に、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の磁気特性について説明する。磁気特性を調べる際には、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の磁束密度であるB50の値を測定する。製造された無方向性電磁鋼板において、その圧延方向の一方と他方とは区別できない。そのため本実施形態では、圧延方向とはその一方および他方の双方向をいう。圧延方向におけるB50(T)の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50(T)の値をB50D2とすると、B50D1およびB50D2が最も高く、B50LおよびB50Cが最も低いという磁束密度の異方性がみられる。尚、(T)は、磁束密度の単位(テスラ)を指す。
【0026】
ここで、例えば時計回り(反時計回りでもよい)の方向を正の方向とした磁束密度の全方位(0°~360°)分布を考えた場合、圧延方向を0°(一方向)および180°(他方向)とすると、B50D1は45°および225°のB50値、B50D2は135°および315°のB50値となる。同様に、B50Lは0°および180°のB50値、B50Cは90°および270°のB50値となる。45°のB50値と225°のB50値とは厳密に一致し、135°のB50値と315°のB50値とは厳密に一致する。しかしながら、B50D1とB50D2とは、実際の製造に際して磁気特性を同じにすることが容易でない場合があることから、厳密には一致しない場合がある。同様に、0°のB50値と180°のB50値とは厳密に一致し、90°のB50値と270°のB50値とは厳密に一致する一方で、B50LとB50Cとは厳密には一致しない場合がある。ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板では、B50D1およびB50D2の平均値と、B50LとB50Cの平均値とを用いて、以下の(2)式且つ(3)式を満たす。
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(2)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(3)
【0027】
このように、磁束密度を測定すると、(2)式のようにB50D1およびB50D2の平均値が1.7T以上となると共に、(3)式のように磁束密度の高い異方性が確認される。
【0028】
更に、(1)式を満たすことに加え、以下の(4)式のように、(3)式よりも磁束密度の異方性が高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(4)
更に、以下の(5)式のように、磁束密度の異方性がより高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(5)
更に、以下の(6)式のように、B50D1およびB50D2の平均値が1.8T以上となることが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.8T ・・・(6)
【0029】
尚、前記の45°は、理論的な値であり、実際の製造に際しては45°に一致させることが容易でない場合があることから、厳密には45°に一致していないものも含むものとする。このことは、当該0°,90°,135°,180°,225°,270°,315°についても同様である。
【0030】
磁束密度の測定は、圧延方向に対して45°、0°方向等から55mm角の試料を切り出し、単板磁気測定装置を用いて行うことができる。
【0031】
<<製造方法>>
次に、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板の製造方法の一例について説明する。ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、例えば、熱間圧延、冷間圧延(第1の冷間圧延)、中間焼鈍(第1の焼鈍)、スキンパス圧延(第2の冷間圧延)、仕上焼鈍(第3の焼鈍)、歪取焼鈍(第2の焼鈍)等が行われる。
【0032】
まず、前述した鋼材を加熱し、熱間圧延を施す。鋼材は、例えば通常の連続鋳造によって製造されるスラブである。熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延はγ域(Ar1温度以上)の温度で行う。つまり、仕上げ圧延の仕上温度がAr1温度以上、巻取り温度が250°超、600°以下となるように熱間圧延を行う。これにより、その後の冷却によってオーステナイトからフェライトへ変態することにより組織は微細化する。微細化された状態でその後冷間圧延を施すと、張出再結晶(以下、バルジング)が発生しやすくなるので、通常は成長しにくい{100}結晶粒を成長させやすくすることができる。
【0033】
また、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、更に仕上げ圧延の最終パスを通過する際の温度(仕上温度)をAr1温度以上、巻取り温度が250°超、600°以下とする。オーステナイトからフェライトへ変態することによって結晶組織を微細化するようにしている。このように結晶組織を微細化させることによって、その後の冷間圧延、中間焼鈍を経てバルジングを発生させやすくすることができる。
【0034】
その後、熱間圧延板焼鈍は行わずに巻き取り、酸洗を経て、熱間圧延鋼板に対して冷間圧延を行う。冷間圧延では圧下率を80%~95%とすることが好ましい。圧下率が80%未満ではバルジングが発生しにくくなる。圧下率が95%超ではその後のバルジングによって{100}結晶粒が成長しやすくなるが、熱間圧延鋼板を厚くしないといけなく、熱間圧延の巻取りが困難になり、操業が困難になりやすくなる。冷間圧延の圧下率はより好ましくは86%以上である。冷間圧延の圧下率が86%以上では、よりバルジングが発生しやすくなる。
【0035】
冷間圧延が終了すると、続いて中間焼鈍を行う。ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を製造する際には、オーステナイトへ変態しない温度で中間焼鈍を行う。つまり、中間焼鈍の温度をAc1温度未満とすることが好ましい。このように中間焼鈍を行うことによってバルジングが生じ、{100}結晶粒が成長しやすくなる。また、中間焼鈍の時間は、5秒間~60秒間とすることが好ましい。
【0036】
中間焼鈍が終了すると、次にスキンパス圧延を行う。前述したようにバルジングが発生した状態でスキンパス圧延、焼鈍を行うと、バルジングが発生した部分を起点に{100}結晶粒が更に成長する。これはスキンパス圧延により、{100}<011>結晶粒には歪がたまりにくく、{111}<112>結晶粒には歪がたまりやすい性質があり、その後の焼鈍で歪の少ない{100}<011>結晶粒が歪の差を駆動力に{111}<112>結晶粒を蚕食するためである。歪差を駆動力にして発生するこの蚕食現象は歪誘起粒界移動(以下、SIBM)と呼ばれる。スキンパス圧延の圧下率は5%~25%とすることが好ましい。圧下率が5%未満では歪量が少なすぎるため、この後の焼鈍でSIBMが起きなくなり、{100}<011>結晶粒は大きくならない。一方、圧下率が25%超では歪量が多くなり過ぎ、{111}<112>結晶粒の中から新しい結晶粒が生まれる再結晶核生成(以下Nucleation)が発生する。このNucleationでは殆どの生まれてくる粒が{111}<112>結晶粒のため、磁気特性が悪くなる。
【0037】
スキンパス圧延を施した後、歪を開放して加工性を向上させるために仕上げ焼鈍を行う。仕上げ焼鈍も同様にオーステナイトへ変態しない温度とし、仕上げ焼鈍の温度をAc1温度未満とする。このように仕上げ焼鈍を行うことによって、{100}<011>結晶粒が{111}<112>結晶粒を蚕食し、磁気特性を向上させることができる。また、仕上げ焼鈍時に600℃~Ac1温度となる時間を1200秒以内とする。この焼鈍時間が短すぎるとスキンパスで入れた歪がほとんど残り、複雑な形状を打ち抜くときに反りが発生する。一方、焼鈍時間が長すぎると結晶粒が粗大になり過ぎ、打ち抜き時にダレが大きくなり、打ち抜き精度が出なくなる。
【0038】
仕上焼鈍が終了すると、所望の鉄鋼部材とすべく、無方向性電磁鋼板の成形加工等が行われる。そして、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材に成形加工等(例えば打ち抜き)により生じた歪等を除去すべく、鉄鋼部材に歪取焼鈍を施す。本実施形態では、Ac1温度よりも下で、SIBMが発生し、結晶粒径も粗大に出来るようにするため、歪取焼鈍の温度を例えば800℃程度とし、歪取焼鈍の時間を2時間程度とする。歪取焼鈍により、磁気特性を向上させることができる。
【0039】
ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板(鉄鋼部材)では、前述の製造方法のうち、主に熱間圧延工程においてAr1温度以上で仕上げ圧延をすることにより、前記(1)式の高いB50および前記(2)式の優れた異方性が得られる。更に、スキンパス圧延工程において圧下率を10%程度にすることで前記(4)式のより優れた異方性が得られる。
なお、本実施形態においてAr1温度は、1℃/秒の平均冷却速度で冷却中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。また、本実施形態においてAc1温度は、1℃/秒の平均加熱速度で加熱中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。
【0040】
以上のようにロータコアに使用する電磁鋼板の一例として、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材を製造することができる。
【0041】
次に、ロータコアに使用する電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、無方向性電磁鋼板のあくまでも一例にすぎず、無方向性電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0042】
<<第1の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表1から表2に示す成分のインゴットを作製した。ここで、式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での温度(仕上温度)は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。尚、γ-α変態が起こらないNo.108については、仕上温度を850℃とした。また、巻取り温度については表1に示す条件にて行った。
【0043】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、表1に示す冷間圧延後の圧下率で圧延した。そして、無酸化雰囲気で700℃で30秒の中間焼鈍を行った。次いで、表1に示す2回目の冷延圧延(スキンパス圧延)圧下率で圧延した。
【0044】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50を測定した。測定試料は55mm角の試料を圧延方向に0°と45°の2種類の方向に採取した。そして、この2種類の試料を測定し、圧延方向に対して0°、45°、90°、135°の磁束密度B50をそれぞれB50L、B50D1、B50C、B50D2とした。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1から表2中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.101~No.107、No.109~No.111、No.114~No.130は、いずれも45°方向および全周平均共に磁束密度B50は良好な値であった。ただし、No.116とNo.127は適切な巻取り温度から外れたため、磁束密度B50はやや低かった。No.129とNo.130は冷間圧延の圧下率が低かったため、同等の成分、巻取り温度であるNo.118と比べて磁束密度B50はやや低かった。一方、比較例であるNo.108はSi濃度が高く、式左辺の値が0以下であり、α-γ変態しない組成であったことから、磁束密度B50はいずれも低かった。比較例であるNo.112は、スキンパス圧延率を低くしたため、{100}<011>強度を5未満であり、磁束密度B50がいずれも低かった。比較例であるNo.113は{100}<011>強度が30以上となり、本発明から外れている。No.113は熱間圧延板の厚みが7mmもあったため、操業しづらいという難点があった。
【0048】
<<第2の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表3に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での仕上温度は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。
【0049】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、板厚が0.385mmになるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中で中間焼鈍を行い、再結晶率が85%となるように中間焼鈍の温度を制御した。次いで、板厚が0.35mmになるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0050】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50と鉄損W10/400を測定した。磁束密度B50に関しては第1の実施例と同様の手順で測定した。一方で鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけた時に試料に生じるエネルギーロス(W/kg)として測定した。鉄損は圧延方向に対して0°、45°、90°、135°に測定した結果の平均値とした。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
No.201~No.214は全て発明例であり、いずれも磁気特性が良好であった。特に、No.202~No.204はNo.201、No.205~No.214よりも磁束密度B50が高く、No.205~No.214はNo.201~No.204よりも鉄損W10/400が低かった。
【0054】
本発明者らは、かかる無方向性電磁鋼板の特性を有効に活用できるように、リラクタンスモータやリラクタンスジェネレータのロータコアを構成するためには、ロータコアの周方向における磁気特性が可及的に均一になることと、均一化した磁気特性が可及的に優れるようにすることとの双方が実現されるように、ロータコアを構成することが重要であることを見出した。以下に説明する実施形態のロータコアは、このような着想に基づいてなされたものである。
【0055】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。尚、以下の説明では、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の説明において、圧延方向から45°傾いた方向と、圧延方向から135°傾いた方向を、必要に応じて、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向と総称する。尚、当該45°は、時計回りおよび反時計回りの何れの向きの角度も正の値を有するものとして表記したものである。時計回りの方向を負の方向とし、反時計回りの方向を正の方向とする場合、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、圧延方向となす角度のうち絶対値の小さい方の角度が45°、-45°となる2つの方向となる。その他、圧延方向からθ°傾いた方向を、必要に応じて、圧延方向となす角度がθ°の方向と称する。このように、圧延方向からθ°傾いた方向と、圧延方向となす角度がθ°の方向は、同じ意味である。また、以下の説明において、特に断りがなければ、電磁鋼板は、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した無方向性電磁鋼板であるものとする。また、以下の説明において、長さ、方向、位置等が厳密に一致する場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲内(例えば、製造工程において生じる誤差の範囲内)で一致する場合も含むものとする。
【0056】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態を説明する。
図1は、回転電機の構成の一例を示す図である。尚、本実施形態では、回転電機がスイッチトリラクタンスモータである場合を例に挙げて説明する。尚、回転電機は、モータ(電動機)ではなく、ジェネレータ(発電機)であってもよい。また、各図において、X-Y-Z座標は、各図における向きの関係を示すものである。○の中に●が付されている記号は、紙面の奥側から手前側の向かう方向を示す。○の中に×が付されている記号は、紙面の手前側から奥側に向かう方向を示す。
【0057】
図1は、回転電機をその上方から見た図(平面図)の一例を示す。
図1において、回転電機100は、ロータ110と、ステータ120と、回転軸130と、を有する。尚、回転電機100は、この他に、ステータ120を固定するケース等、回転電機100が有する公知の構成を有する。
ステータ120は、相対的に回転電機100の外側に配置される。ロータ110は、その外周面がステータ120の内周面と間隔を有して対向するように、相対的に回転電機100の内側に配置される。回転軸130は、その外周面がロータ110の内周面と対向し、且つ、ロータ110に直接または間接的に接続された状態で回転電機100の中心部に配置される。ロータ110とステータ120の軸心Oは回転軸130の軸心Oと一致している。尚、以下の説明では、回転電機100のロータ110が回転する方向を、必要に応じて、周方向と称する。回転電機100の高さ方向(=電磁鋼板の積層方向)を、必要に応じて、高さ方向と称する。高さ方向に垂直な方向であって、軸心Oを通る方向を、必要に応じて、径方向と称する。
【0058】
ステータ120は、ステータコアと巻線とを有する。ステータコアは、周方向に延在するヨークと、ヨークの内周側から軸心方向に延在する複数のティースとを有する。複数のティースは、周方向において等間隔で設けられている。図1では、6個のティースがあり、ステータ120が6極である場合を例に挙げて示す。ステータコアには、巻線が巻き回される。ステータコアに巻き回される巻線の巻回方法は、集中巻である。ステータ120は、公知の構成で実現することができる。
【0059】
図2は、ロータ110の構成の一例を示す図である。図2(a)は、ロータ110をその上方から見た図(平面図)の一例を示す。尚、図2(a)は、図1のロータ110の部分を抜き出したものとなる。図2(b)は、図2(a)のI-I断面図である。
【0060】
ロータ110は、ロータコア111を有する。ロータコア111は、図2(a)に示す形に打ち抜かれた複数の電磁鋼板を、図2(a)および図2(b)に示すように、当該複数の電磁鋼板の外縁が合うように積層することにより形成される。これら複数の電磁鋼板の板面には絶縁処理が施されている。複数の電磁鋼板は、例えば、カシメ加工や接着剤を用いることにより固定される。尚、打ち抜きに替えて、例えば、レーザ加工により、図2(a)に示す形に電磁鋼板を加工してもよい。尚、ロータコア111は、周方向において分割されていない。
ロータコア111は、周方向に延在するヨークと、ヨークの外周側から軸心方向と反対方向(ステータ120側)に(放射状に)延在する複数の突極と、を有する。複数の突極は、周方向において等間隔で設けられている。当該複数の突極がロータコア111の磁極になる。図2(a)では、4個の突極がある。このように本実施形態では、ロータ110が4極である場合を例に挙げて示す。
【0061】
図3は、ロータコア111を構成する電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の一例を示す図である。
図3は、ロータコア111を構成する複数の電磁鋼板のうちの1枚を示す。電磁鋼板300は、フープ(母材)を図2(a)に示す形に打ち抜くことにより構成される。このとき、ロータコア111を構成する全ての電磁鋼板300において、当該電磁鋼板300の各突極(図2(a)に示す例では4個の突極)を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係が、同じになるようにする。
【0062】
電磁鋼板300の各磁極(突極)を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係は、例えば、圧延方向と、電磁鋼板300の各磁極を構成する領域の中心線とのなす角度で表される。
図3において、一点鎖線で示す仮想線310は、電磁鋼板300の圧延方向である。破線で示す仮想線320a~320bは、電磁鋼板300の磁極(突極)を構成する領域の中心線であり、ここでは、電磁鋼板300の磁気特性が最も優れる方向と一致する場合を例に挙げて示す。電磁鋼板300の磁極を構成する領域の中心線320a~320bは、電磁鋼板300の板面に平行な方向(高さ方向(Z軸方向)に垂直な方向)に延びる直線であって、電磁鋼板300(ロータコア111)の軸心Oと当該磁極を構成する領域の周方向の中心とを通る仮想的な直線である。このように、本実施形態では、電磁鋼板300の磁極を構成する領域の中心線320a~320bの全てが、電磁鋼板300の磁気特性が最も優れる方向の何れかと一致する場合を例に挙げて説明する。以下の説明では、磁気特性が最も優れる方向を、必要に応じて磁化容易方向と称する。
【0063】
図3に示す例では、何れのフープ(母材)を打ち抜く場合も、圧延方向310と中心線320a~320bとのなす角度が同じになるようにする。このようにするには、例えば、フープ(母材)に対する金型の位置関係を一定にして打ち抜き加工を行えばよい。このようにしてフープ(母材)を打ち抜くことにより、ロータコア111を構成する電磁鋼板300が複数得られる。即ち、ロータコア111を構成する電磁鋼板は、全て図3に示す電磁鋼板300と同じものになる。従って、何れの電磁鋼板300においても、電磁鋼板300の磁極を構成する領域の中心線320a~320bが、2つの磁化容易方向ED1~ED2の何れかと一致する。
【0064】
前述したように、圧延方向310となす角度が45°となる2つの方向が磁化容易方向ED1~ED2である。尚、前述したように、X軸からY軸に向かう方向(紙面に向かって反時計回りの方向)およびY軸からX軸に向かう方向の何れの方向の角度も正の値の角度であるものとする。また、2つの方向のなす角度は、何れも、当該角度のうち小さい方の角度である。
【0065】
図2(a)に示す例では、4個の磁極(突極)が周方向において等間隔に配置される。従って、周方向において間隔をあけて相互に隣り合う位置にある2つの磁極の中心線のなす角度(中心角)は、90°(=360÷4)である。尚、磁化容易方向ED1~ED2は、電磁鋼板300に存在する磁化容易方向のうち、軸心Oを通る磁化容易方向である。また、磁極の中心線は、磁極の周方向における中心線であって、径方向の延びる軸であり、前述した電磁鋼板300の磁極を構成する領域の中心線320a~320bと同じである。また、磁化容易方向ED1、ED2のなす角度は90°である。
従って、複数の電磁鋼板300を、例えば、磁化容易方向ED1、ED2を揃えて積層することにより、電磁鋼板300が配置される高さ方向の全ての位置において、ロータコア111の全ての磁極(突極)の中心線に2つの磁化容易方向ED1~ED2の何れかを一致させることができる。本実施形態では、例えば、磁化容易方向ED1、ED2が第1の方向、第2の方向に対応する。
【0066】
以上のように本実施形態では、全ての磁化容易方向が、磁極(突極)の中心線に一致するようにすることで、ロータコア111の磁気特性が優れるものになるようにする(磁極の領域に位置する磁化容易方向と、当該領域の中心線とが破線320a~320b(=ED1~ED2)で表されることを参照)。ロータコア111の磁気特性が最も良くなるからである。
【0067】
また、本実施形態では、ロータコア111の全ての磁極(突極)において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板300の数は同じである。従って、ロータコア111の周方向における磁気特性を均一化することができる。前述したように、本実施形態では、電磁鋼板300が配置される高さ方向の全ての位置において、ロータコア111の全ての磁極の中心線に2つの磁化容易方向ED1~ED2の何れかを一致させる。従って、各磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板300の数は、それぞれ、ロータコア111を構成する電磁鋼板300の数と同じになる。例えば、ロータコア111を構成する電磁鋼板300の数を100枚とする。この場合、ロータコア111の全ての磁極において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板300の数は、それぞれ100になり、同じになる。即ち、磁極の中心線に磁化容易方向が一致している電磁鋼板300の数を、磁極毎に個別に数え、数えた数が、何れの磁極においても100になり、同じになる。
また、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明したように、ロータコア111に対して、仕上げ焼鈍および歪取焼鈍が行われる。
【0068】
[計算例]
次に、計算例を説明する。
本計算例では、計算対象の回転電機を、スイッチトリラクタンスモータとする。ロータの極数は4極とし、ステータの極数は6極とする。ロータコアの外径は、90mm、高さ(積厚)は、75mmとする。ステータコアの外径は160mm、内径は90.6mm、高さ(積厚)は75mmとする。ステータの各相には、直流150V、の電圧が印加されるものとし、これに伴い、ロータが回転数600rpmで回転するものとする。
【0069】
回転電機のロータコアに用いる電磁鋼板として、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板と、公知の無方向性電鋼板とを用いる。何れの電磁鋼板も、厚みは0.25mmである。公知の無方向性電磁鋼板として、W10/400が12.8W/kgの無方向性電磁鋼板を用いた。W10/400は、磁束密度が1.0T、周波数が400Hzのときの鉄損である。また、当該公知の無方向性電磁鋼板は、圧延方向のみで磁気特性が優れている。
(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板は、図2(a)を参照しながら説明したようにして打ち抜かれるものとした。
このようにして打ち抜かれた、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板を、磁化容易方向を揃えて積層することにより構成されるステータコアを、第1の解析対象のステータコアとした。
【0070】
また、公知の無方向性電鋼板は、以下のようにして打ち抜かれるものとした。即ち、ロータコアの各領域の、圧延方向に対する位置関係が、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板における当該位置関係と同じになるように打ち抜かれるものとした。
このようにして打ち抜かれた、公知の無方向性電鋼板を、圧延方向を揃えて積層することにより構成されるロータコアを、第2の解析対象のステータコアとした。
【0071】
以上の第1~第2の解析対象のロータのそれぞれを用いて前述した寸法および形状となるように構成される回転電機を、計算対象の回転電機とした。そして、各回転電機を前述した条件で運転した場合の、第1~第2の解析対象のロータコアの平均トルクを、有限要素法による数値解析(コンピュータシミュレーション)を行うことにより導出した。尚、数値解析には、JSOL株式会社製の有限要素法電磁場解析ソフトJMAGを利用した。その結果を、表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5において、開発材は、第1の解析対象のスタータコアに対する結果を示す。従来材は、第2の解析対象のスタータコアに対する結果を示す。表5に示す値は、従来材の値を1.000とする場合の相対値である。
【0074】
表5に示すように、公知の無方向性電鋼板(従来材)を用いる場合に比べ、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板(開発材)を用いる方が、平均トルクが1.0%大きくなる。このように、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板を積層することにより、ロータタコアにおけるトルクを大きくすることができる。
【0075】
[まとめ]
以上のように本実施形態では、ロータコア111の4つの磁極(突極)の中心線と磁化容易方向ED1またはED2とが一致するように電磁鋼板300を形成する。そして、磁化容易方向ED1、ED2が揃うように電磁鋼板300を積層する。従って、ロータコア111の周方向における磁気特性が可及的に均一になることと、均一化した磁気特性が可及的に優れるようにすることとの双方が実現されるように、電磁鋼板を積層することが可能になる。従って、ステータコイルに流す電流の大きさを小さくしても所望のトルクを発生させることができると共に回転電機(ステータ)の銅損を低減することができる。
【0076】
[変形例]
<変形例1>
本実施形態では、複数の電磁鋼板300を、磁化容易方向ED1、ED2(の双方)を揃えて積層する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、2つの磁化容易方向ED1、ED2の磁気特性は、理論的には同じであるので、圧延方向310を揃えていれば、必ずしもこのようにする必要はない。このようにする場合、磁化容易方向ED1、ED2を区別せずに、複数の電磁鋼板300を、磁化容易方向ED1またはED2を揃えて積層する。
【0077】
<変形例2>
本実施形態では、インナーロータ型の回転電機を例に挙げて説明した。しかしながら、アウターロータ型の回転電機であってもよい。尚、前述したように回転電機は、電動機(モータ)であっても発電機であってもよい。
【0078】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、回転電機がスイッチトリラクタンスモータである場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、回転電機が同期リラクタンスモータである場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1の実施形態とは、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板の適用先となるロータコアが主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1図3に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0079】
図4は、回転電機の構成の一例を示す図である。前述したように、本実施形態では、回転電機が同期リラクタンスモータである場合を例に挙げて説明する。尚、回転電機は、モータ(電動機)ではなく、ジェネレータ(発電機)であってもよい。
図4は、回転電機をその上方から見た図(平面図)の一例を示す。
図4において、回転電機400は、ロータ410と、ステータ420と、回転軸430と、を有する。尚、回転電機400は、この他に、ステータ420を固定するケース等、回転電機400が有する公知の構成を有する。
【0080】
ステータ420は、相対的に回転電機400の外側に配置される。ロータ410は、その外周面がステータ420の内周面と間隔を有して対向するように、相対的に回転電機400の内側に配置される。回転軸430は、その外周面がロータ410の内周面と対向し、且つ、ロータ410に直接または間接的に接続された状態で回転電機400の中心部に配置される。ロータ410とステータ420の軸心Oは回転軸430の軸心Oと一致している。
【0081】
ステータ420は、ステータコアと巻線とを有する。ステータコアは、周方向に延在するヨークと、ヨークの内周側から軸心方向に延在する複数のティースとを有する。複数のティースは、周方向において等間隔で設けられている。図4では、6個のティースがあり、ステータ420が6極である場合を例に挙げて示す。ステータコアには、巻線が巻き回される。ステータコアに巻き回される巻線の巻回方法は、分布巻である。ステータ420は、公知のもので実現することができる。
【0082】
図5は、ロータ410の構成の一例を示す図である。図5は、ロータ410をその上方から見た図(平面図)の一例を示す。尚、図5は、図4のロータ410の部分を抜き出したものとなる。図6は、ロータコアの断面の一例を示す図である。図6(a)は、図5(a)のI-I断面図であり、図6(b)は、図5(b)のII-II断面図である。
【0083】
ロータ410は、ロータコア411を有する。ロータコア411は、図5に示す形に打ち抜かれた複数の電磁鋼板を、図5図6(a)、および図6(b)に示すように、当該複数の電磁鋼板の外縁およびスリット510a~510fが合うように積層することにより形成される。これら複数の電磁鋼板の板面には絶縁処理が施されている。尚、打ち抜きに替えて、例えば、レーザ加工により、図5に示す形に電磁鋼板を加工してもよい。尚、ロータコア411は、周方向において分割されていない。
ロータコア411は、概ね、中空円筒形状に対して、高さ方向(Z軸方向)において貫通する複数のスリット510a~510lを有する形状を有する。複数のスリット510a~510lには、特許文献2に記載のように、金属や、絶縁性の樹脂や、導体棒が配置されてもよい。
【0084】
スリット510a、510d、510g、510jの形状および大きさは同じである。スリット510b、510e、510h、510kの形状および大きさは同じである。スリット510c、510f、510i、510lの形状および大きさは同じである。
スリット510a、510d、510g、510jは、他のスリット510b、510c、510e、510f、510h、510i、510k、510lよりもロータコア411の外周面に近い位置に配置される。スリット510c、510f、510i、510lは、他のスリット510a、510b、510d、510e、510g、510h、510j、510kよりもロータコア411の軸心Oに近い位置に配置される。スリット510b、510e、510h、510kは、それぞれ、スリット510a、510cの間、510d、510fの間、510g、510iの間、510j、510lの間に配置される。
【0085】
スリット510a~510lの平面形状は、高さ方向(Z軸方向)から見た場合に長手方向の中央から両端のそれぞれに向けてロータコア411の外周面に接近する湾曲形状を有する。スリット510a~510lは、長手方向の中央がロータコア411の軸心Oに最も接近し、長手方向の両端のそれぞれがロータコア411の外周面に最も接近する。
【0086】
スリット510a~510cを第1のスリット群、スリット510d~510fを第2のスリット群、スリット510g~510iを第3のスリット群、スリット510j~510lを第4のスリット群とすると、第1のスリット群、第2のスリット群、第3のスリット群、第4のスリット群は、周方向に90°の等ピッチで配列され、ロータコア411の軸心Oを回転軸とする4回対称の関係となるように配置される。
【0087】
ロータコア411の外周面の位置であって、スリット510c、510fの間の周方向における中間の位置520aと、ロータコア411の外周面の位置であって、スリット510f、510lの間の周方向における中間の位置520bと、ロータコア411の外周面の位置であって、スリット510i、510lの間の周方向における中間の位置520cと、ロータコア411の外周面の位置であって、スリット510c、510iの間の周方向における中間の位置520dと、が磁極の周方向の中心の位置となる。図5に示す例では、これらの位置520a~520dと軸心Oとを相互に結ぶ線に沿う方向が、磁極の長手方向になる。このように本実施形態では、ロータ410が4極である場合を例に挙げて示す。
尚、スリットの数や形状は、図5図6(a)、図6(b)に示すものに限定されない。
【0088】
図7は、ロータコア411を構成する電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の一例を示す図である。
図7は、ロータコア411を構成する複数の電磁鋼板のうちの1枚を示す。前述したように電磁鋼板700は、フープ(母材)を図5に示す形に打ち抜くことにより構成される。このとき、ロータコア411を構成する全ての電磁鋼板700において、当該電磁鋼板700の、各磁極(の周方向の中心の位置520a~520d)を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係が、同じになるようにする。
【0089】
電磁鋼板700の各磁極を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係は、例えば、圧延方向と、電磁鋼板700の各磁極を構成する領域の中心線とのなす角度で表される。
図7において、一点鎖線で示す仮想線710は、電磁鋼板700の圧延方向である。破線で示す仮想線720a~720bは、電磁鋼板700の磁極を構成する領域の中心線であり、ここでは、電磁鋼板700の磁化容易方向と一致する場合を例に挙げて示す。電磁鋼板700の磁極を構成する領域の中心線720a~720bは、電磁鋼板700の板面に平行な方向(高さ方向(Z軸方向)に垂直な方向)に延びる仮想的な直線であって、電磁鋼板700(ロータコア411)の軸心Oと当該領域の周方向の中心の位置520a~520dとを通る仮想的な直線である。このように、本実施形態では、電磁鋼板700の磁極を構成する領域の中心線720a~720bの全てが、電磁鋼板700の磁化容易方向の何れかと一致する場合を例に挙げて説明する。
【0090】
図7に示す例では、何れのフープ(母材)を打ち抜く場合も、圧延方向710と中心線720a~720bとのなす角度が同じになるようにする。このようにするには、例えば、フープ(母材)に対する金型の位置関係を一定にして打ち抜き加工を行えばよい。このようにしてフープ(母材)を打ち抜くことにより、ロータコア411を構成する電磁鋼板700が複数得られる。即ち、ロータコア411を構成する電磁鋼板は、全て図7に示す電磁鋼板700と同じものになる。従って、何れの電磁鋼板700においても、電磁鋼板700の磁極を構成する領域の中心線720a~720bが、2つの磁化容易方向ED1~ED2の何れかと一致する。
【0091】
前述したように、圧延方向710となす角度が45°となる2つの方向が磁化容易方向ED1~ED2である。尚、前述したように、X軸からY軸に向かう方向(紙面に向かって反時計回りの方向)およびY軸からX軸に向かう方向の何れの方向の角度も正の値の角度であるものとする。また、2つの方向のなす角度は、何れも、当該角度のうち小さい方の角度である。
【0092】
図5に示す例では、4個の磁極が周方向において等間隔に配置される。従って、周方向において間隔をあけて相互に隣り合う位置にある2つの磁極の中心線のなす角度(中心角)は、90°(=360÷4)である。尚、磁化容易方向ED1~ED2は、電磁鋼板700に存在する磁化容易方向のうち、軸心Oを通る磁化容易方向である。また、磁極の中心線は、磁極の周方向における中心線であって、径方向の延びる軸であり、前述した電磁鋼板700の磁極を構成する領域の中心線720a~720bと同じである。また、磁化容易方向ED1、ED2のなす角度は90°である。
従って、複数の電磁鋼板700を、例えば、磁化容易方向ED1、ED2を揃えて積層することにより、電磁鋼板700が配置される高さ方向の全ての位置において、ロータコア411の全ての磁極の中心線に2つの磁化容易方向ED1~ED2の何れかを一致させることができる。本実施形態では、例えば、磁化容易方向ED1、ED2が第1の方向、第2の方向に対応する。
【0093】
以上のように本実施形態でも第1の実施形態と同様に、全ての磁化容易方向が、磁極の中心線に一致するようにすることで、ロータコア411の磁気特性が優れるものになるようにする(磁極の領域に位置する磁化容易方向と、当該領域の中心線とが破線720a~720bで表されることを参照)。ロータコア411の磁気特性が最も良くなるからである。
【0094】
また、本実施形態では、ロータコア411の全ての磁極において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板700の数は同じである。従って、ロータコア411の周方向における磁気特性を均一化することができる。前述したように、本実施形態では、電磁鋼板700が配置される高さ方向の全ての位置において、ロータコア411の全ての磁極の中心線に2つの磁化容易方向ED1~ED2の何れかを一致させる。従って、各磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板700の数は、それぞれ、ロータコア411を構成する電磁鋼板700の数と同じになる。例えば、ロータコア411を構成する電磁鋼板700の数を100枚とする。この場合、ロータコア411の全ての磁極において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板700の数は、それぞれ100になり、同じになる。
また、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明したように、ロータコア411に対して、仕上げ焼鈍および歪取焼鈍が行われる。
【0095】
[まとめ]
以上のように、同期リラクタンスモータのロータコアにも、第1の実施形態で説明したスイッチトリラクタンスモータのロータコアと同じように(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明した電磁鋼板を適用することができ、第1の実施形態で説明したのと同じ効果を奏する。
【0096】
[変形例]
尚、ロータコアの方式は、本実施形態で説明したものに限定されず、同期リラクタンスモータに採用される公知のロータコアの方式とすることができる。
その他、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0097】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を説明する。第1の実施形態では、ロータコア111の磁極が4極である場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、ロータコアの磁極が4を上回る場合について説明する。このように、本実施形態と第1の実施形態は、回転電機の極数が異なることによる構成が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1図3に付した符号と同一の符号を付すなどして詳細な説明を省略する。
【0098】
図8は、回転電機の構成の一例を示す図である。図8は、回転電機をその上方から見た図(平面図)の一例を示す。
図8において、回転電機800は、ロータ810と、ステータ820と、回転軸830と、を有する。尚、回転電機800は、この他に、ステータ820を固定するケース等、回転電機800が有する公知の構成を有する。
ステータ820は、相対的に回転電機800の外側に配置される。ロータ810は、その外周面がステータ820の内周面と間隔を有して対向するように、相対的に回転電機800の内側に配置される。回転軸830は、その外周面がロータ810の内周面と対向し、且つ、ロータ810に直接または間接的に接続された状態で回転電機800の中心部に配置される。ロータ810とステータ820の軸心Oは回転軸830の軸心Oと一致している。
【0099】
ステータ820は、ステータコアと巻線とを有する。ステータコアは、周方向に延在するヨークと、ヨークの内周側から軸心方向に延在する複数のティースとを有する。複数のティースは、周方向において等間隔で設けられている。図8では、8個のティースがあり、ステータ820が8極である場合を例に挙げて示す。ステータコアには、巻線が巻き回される。ステータコアに巻き回される巻線の巻回方法は、集中巻である。ステータ820は、公知のもので実現することができる。
【0100】
図9は、ロータ810の構成の一例を示す図である。図9(a)は、ロータ810をその上方から見た図(平面図)の一例を示す。尚、図9(a)は、図8のロータ810の部分を抜き出したものとなる。図9(b)は、図9(a)のI-I断面図である。
【0101】
ロータ810は、ロータコア811を有する。ロータコア811は、図9(a)に示す形に打ち抜かれた複数の電磁鋼板を、図9(a)および図9(b)に示すように、当該複数の電磁鋼板の外縁が合うように積層することにより形成される。これら複数の電磁鋼板の板面には絶縁処理が施されている。尚、打ち抜きに替えて、例えば、レーザ加工により、図9(a)に示す形に電磁鋼板を加工してもよい。尚、ロータコア811は、周方向において分割されていない。
ロータコア811は、周方向に延在するヨークと、ヨークの外周側から軸心方向と反対方向(ステータ820側)に放射状に延在する複数の突極と、を有する。複数の突極は、周方向において等間隔で設けられている。当該複数の突極がロータコア811の磁極部になる。図9(a)では、6個の突極がある。このように本実施形態では、ロータ810が6極である場合を例に挙げて示す。
【0102】
図10Aは、ロータコア811を構成する電磁鋼板の圧延方向に対する位置関係の一例を示す図である。
図10Aは、ロータコア811を構成する複数の電磁鋼板のうちの1枚を示す。前述したように電磁鋼板1000は、フープ(母材)を図9(a)に示す形に打ち抜くことにより構成される。このとき、ロータコア811を構成する全ての電磁鋼板1000において、当該電磁鋼板1000の各突極(図9(a)に示す例では6個の突極)を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係が、同じになるようにする。
【0103】
電磁鋼板1000の各磁極(突極)を構成する領域の、圧延方向に対する位置関係は、例えば、圧延方向と、電磁鋼板1000の各磁極を構成する領域の中心線とのなす角度で表される。
図10Aにおいて、一点鎖線で示す仮想線1010は、電磁鋼板1000の圧延方向である。破線で示す仮想線1020a~1020cは、電磁鋼板1000の磁極(突極)を構成する領域の中心線である。電磁鋼板1000の磁極を構成する領域の中心線1020a~1020cは、第1の実施形態で説明したようにして定められる。第1の実施形態では、ロータコア111の磁極が極であるので、電磁鋼板300の磁極を構成する領域の中心線320a~320bは、2つであるが、本実施形態では、ロータコア811の磁極が6極であるので、電磁鋼板1000の磁極を構成する領域の中心線1020a~1020cは、3つである。
【0104】
図10Aに示す例では、何れのフープ(母材)を打ち抜く場合も、圧延方向1010と中心線1020a~1020cとのなす角度が同じになるようにする。このようにするには、例えば、フープ(母材)に対する金型の位置関係を一定にして打ち抜き加工を行えばよい。このようにしてフープ(母材)を打ち抜くことにより、ロータコア811を構成する電磁鋼板1000が複数得られる。即ち、ロータコア811を構成する電磁鋼板は、全て図10Aに示す電磁鋼板1000と同じものになる。
【0105】
図10Bは、電磁鋼板1000の圧延方向1010と磁気特性が最も優れる方向(磁化容易方向)の一例を示す図である。
図10Bにおいて、破線の仮想線ED1~ED2は、電磁鋼板1000の磁化容易方向である。前述したように、圧延方向1010となす角度が45°となる2つの方向が磁化容易方向である。尚、前述したように、X軸からY軸に向かう方向(紙面に向かって反時計回りの方向)およびY軸からX軸に向かう方向の何れの方向の角度も正の値の角度であるものとする。また、2つの方向のなす角度は、何れも、当該角度のうち小さい方の角度である。
【0106】
図10Bに示す例では、磁化容易方向ED1、ED2が、磁気特性が最も優れる2つの方向である。尚、磁化容易方向ED1、ED2は、電磁鋼板1000に存在する磁化容易方向のうち、軸心Oを通る磁化容易方向である。図8に示す例では、6個の磁極(突極)が周方向において等間隔に配置される。従って、周方向において間隔をあけて相互に隣り合う位置にある2つの磁極の中心線のなす角度(中心角)は、60°(=360÷6)である。尚、磁極の中心線は、前述した電磁鋼板1000の磁極を構成する領域の中心線1020a~1020cと同じである。一方、磁化容易方向ED1、ED2のなす角度は90°である。従って、2つの磁化容易方向ED1、ED2を電磁鋼板1000の磁極を構成する領域の中心線1020a~1020cに一致させることはできない。そこで、2つの磁化容易方向ED1、ED2のうち、1つの磁化容易方向ED1を磁極の中心線に一致させ、残りの1つの磁化容易方向ED2の領域を磁極の中心線に一致させない。
【0107】
図10Bに示す例では、電磁鋼板1000(ロータコア811)の軸心Oを介して相互に対向する位置に磁極(突極)が存在する。従って、1枚の電磁鋼板1000において、磁化容易方向ED1が、2つの磁極の中心線に一致する。
これに対し、例えば、磁極の数が5である場合には、電磁鋼板(ロータコア)の軸心を介して相互に対向する位置に磁極が存在しない。このような場合には、磁化容易方向は、1つの磁極の中心線にだけ一致することになる。
また、図10Bに示す例では、1枚の電磁鋼板1000において、磁化容易方向ED1が、2つの磁極の中心線に一致する。これに対し、磁極の数が4を上回る4の倍数(例えば、8)である場合には、磁化容易方向ED1、ED2は、4つの磁極の中心線に一致する。
【0108】
以上のように本実施形態でも、可及的に多くの磁化容易方向が可及的に多くの磁極の中心線に一致するようにすることで、ロータコア811の磁気特性が可及的に優れるものになるようにする。
【0109】
本実施形態では、第1の実施形態のように、電磁鋼板1000が配置される高さ方向の全ての位置において、ロータコア811の全ての磁極(突極)の中心線に2つの磁化容易方向ED1~ED2の何れかを一致させることはできない。従って、第1の実施形態のように、磁化容易方向ED1~ED2を揃えて電磁鋼板1000を積層すると、磁化容易方向ED1~ED2に対し中心線が一致する2つの磁極(突極)の領域の磁気特性が、その他の磁極の領域の磁気特性に比べて極端に良くなる。このため、特定のロータコア811の周方向における磁気特性に大きな偏りが生じる。そこで、ロータコア811の周方向における磁気特性を可及的に均一化するために、電磁鋼板1000を回し積みする。
【0110】
回し積みとは、ロータコア(電磁鋼板)の軸心Oを回転軸として一方向に、1枚の電磁鋼板、または、基準となる方向(の向き)を揃えた複数枚の電磁鋼板の単位で、電磁鋼板を、所定の角度で回しながら、電磁鋼板を積層することである。所定の角度は、通常は、一定であるが、一定でなくてもよい。回し積みを行うことにより、複数の電磁鋼板は、磁化容易方向の向きがずれた状態で積層されるようになる。
【0111】
ロータコア811において、少なくとも1枚の電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する磁極(突極)の数が、1枚の電磁鋼板1000において、磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する磁極(突極)の数よりも多くなるようにしていれば、回し積みを行う方法は特に限定されない。図10Bに示す例では、1枚の電磁鋼板1000において、磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する磁極(突極)の数は、2である(図10Bの磁化容易方向ED1が通る磁極(突極)を参照)。この場合、少なくとも1枚の電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する磁極(突極)の数は、3以上であればよい。
【0112】
ただし、ロータコア811の全ての磁極(突極)において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000が少なくとも1つ存在するようにするのが好ましい。即ち、ロータコア811の磁極毎に、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000の数を個別に数えた場合に、何れの磁極においても、数えた数が1以上になるようにするのが好ましい。ロータコア811の周方向における磁気特性を均一化することができるからである。また、少なくとも1枚の電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する全ての磁極(突極)において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000の数は同じであるのが好ましい。即ち、ロータコア811の磁極毎に、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000の数を個別に数えた場合に、数えた数が同じになるようにするのが好ましい。ロータコア811の周方向における磁気特性を均一化することができるからである。尚、この場合、ロータコア811の磁極毎に、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000の数を個別に数えた場合に、数えた数が0になる磁極があってもよい。そして、これらを同時に満たすようにするのがより好ましい。即ち、ロータコア811の全ての磁極(突極)において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000の数が同じになるようにするのがより好ましい。即ち、ロータコア811の磁極毎に、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000の数を個別に数えた場合に、何れの磁極においても、数えた数が1以上の同じ数になるようにするのが好ましい。ロータコア811の周方向における磁気特性をより均一化することができるからである。
【0113】
図11は、回し積みを行うことにより構成されるロータコア811における、電磁鋼板1000の高さ方向(Z軸方向)の位置関係の一例を示す図である。
ここでは、電磁鋼板1000の基準となる方向を、ロータコア811(電磁鋼板1000)の軸心Oを回転軸として紙面に向かって反時計回り方向に、図10Aに示す電磁鋼板1000を、1枚の電磁鋼板1000の単位で、360°÷ロータコアの磁極数で回しながら、電磁鋼板を積層する場合を例に挙げて説明する。ロータコア811の磁極の数は6であるので、回し積みを行う際の回し積みの角度は60(=360÷6)°になる。
【0114】
1番上(最もZ軸の正の方向側)に配置される電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1に対し中心線が一致する磁極(突極)は(A)であり、上から2番目に配置される電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1に対し中心線が一致する磁極(突極)は(B)であり、上から3番目に配置される電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1に対し中心線が一致する磁極(突極)は(C)である。上から4番目以降も、上から1番目から3番目までと同様に、電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1に対し中心線が一致する磁極(突極)は、それぞれ、上から順に(A)、(B)、(C)の順になる。即ち、nを1以上の整数とすると、上からn番目、n+1番目、n+2番目、n+3番目に配置される電磁鋼板300の磁化容易方向ED1に対し中心線が一致する磁極(突極)は、それぞれ、(A)、(B)、(C)である。
【0115】
このようにすれば、ロータコア811の全ての磁極(突極)に、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致する電磁鋼板1000が少なくとも1つ存在する。ロータコア811を構成する電磁鋼板1000の数を3の倍数とすれば、ロータコア811の全ての磁極(突極)において、当該磁極の中心線に一致する磁化容易方向ED1またはED2の数が同じになる。例えば、ロータコア811を構成する電磁鋼板1000の数が300枚であるとする。この場合、ロータコア811の全ての磁極(突極)において、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致している電磁鋼板1000の数は、100(=300÷3)になる。
また、(ロータコアに使用する電磁鋼板)の項で説明したように、ロータコア811に対して、仕上げ焼鈍および歪取焼鈍が行われる。
【0116】
[まとめ]
以上のように本実施形態では、ロータコア811において、少なくとも1枚の電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する磁極(突極)の数が、1枚の電磁鋼板1000において、磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する磁極(突極)の数よりも多くなるように、電磁鋼板1000を回し積みして、電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1、ED2の向きが高さ方向(Z軸方向)において周期的に異なるようにする。従って、1枚の電磁鋼板1000において、ロータコア811の全ての磁極(突極)の中心線に磁化容易方向ED1またはED2の領域を一致させることができない場合でも、ロータコア111の周方向における磁気特性が可及的に均一になることと、均一化した磁気特性が可及的に優れるようにすることとの双方が実現されるようにすることができる。
【0117】
また、ロータコア811の全ての磁極(突極)に、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致する電磁鋼板1000が少なくとも1つ存在するようにする。また、少なくとも1枚の電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1またはED2に対し中心線が一致する磁極(突極)の全てにおいて、当該磁極の中心線に対し磁化容易方向ED1またはED2が一致する電磁鋼板1000の数を同じにする。これらのうち少なくとも1つを採用することにより、ロータコア811の周方向における磁気特性をより均一化することができる。
【0118】
[変形例]
<変形例1>
本実施形態では、スイッチトリラクタンスモータのロータコア811を例に挙げて説明したが、同期リラクタンスモータのロータコアの磁極の数が4を上回る場合、本実施形態で説明したのと同様に、電磁鋼板を回し積みすることにより、本実施形態と同様の効果が得られる。即ち、本実施形態は、第2の実施形態に対しても適用することができる。
【0119】
<変形例2>
前述したように、ロータコアの磁極の数は、4の倍数以外であっても、4の倍数であってもよい。また、ロータコアの磁極の数は4であってもよい(ロータコアの磁極の数が4の場合であっても、本実施形態のように回し積みを行ってもよい)。ここで、磁化容易方向ED1、ED2の磁気特性は、ほぼ一致しているが、厳密には同じではない。従って、ロータコアの磁極の数が4の場合であっても回し積みをすることによって、ロータコアの周方向における磁気特性を均一にする効果を(ロータコアの磁極の数が8以上の4の倍数である場合に比べれば小さくなるが)得られる。また、例えば、打ち抜き加工により電磁鋼板1000を形成する場合、打ち抜き加工時に電磁鋼板に形成されるバリが揃うことを抑制することができ、ロータコアの磁気特性をより向上させることができる。
【0120】
<変形例3>
電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1、ED2の向きの、高さ方向(Z軸方向)における変化は、周期的でなくてもよい。例えば、本実施形態のステータコア611を構成する際に、回し積みの角度を60°として、回し積みを行う回数を5回とし、電磁鋼板1000の磁化容易方向ED1、ED2の向きが元に戻らないようにしてもよい。
その他、本実施形態においても、第1および第2の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0121】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、ロータの磁気特性を向上させることができる。よって、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0123】
100,400,800:回転電機
110,410,810:ロータ
111,411,811:ロータコア
120:ステータ
300,700,1000:電磁鋼板
310,710,1010:圧延方向
ED1~ED2:磁化容易方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11