(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ステータコア、回転電機、ステータコアの設計方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20241115BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20241115BHJP
H02K 1/14 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H02K1/16 Z
H02K1/02 Z
H02K1/14 Z
(21)【出願番号】P 2021556185
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042473
(87)【国際公開番号】W WO2021095861
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-04-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2019206649
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大杉 保郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
【合議体】
【審判長】小宮 慎司
【審判官】柴垣 俊男
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-320350(JP,A)
【文献】特開2019-178380(JP,A)
【文献】特開2005-269746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/16
H02K1/02
H02K1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の電磁鋼板を有するステータコアであって、
前記ステータコアの複数のティースのうち、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅が、磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭
く、
前記ステータコアは圧延された電磁鋼板が積層して構成され、
前記電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、および
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延方向におけるB50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50の値をB50D2としたときに、以下の(2)式且つ(3)式を満たし、
{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、
板厚が0.50mm以下であり、
前記磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が45°の方向であり、前記磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が0°および90°の方向であって、
前記圧延方向からの角度が45°の方向に沿ったティースの幅が、前記圧延方向からの角度が0°の方向に沿ったティースの幅、および前記圧延方向からの角度が90°の方向に沿ったティースの幅の何れの幅よりも狭いことを特徴とするステータコア。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(2)
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(3)
【請求項2】
積層された複数の電磁鋼板を有するステータコアであって、
前記ステータコアの複数のティースのうち、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅が、磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭く、
前記ステータコアは圧延された電磁鋼板が積層して構成され、
前記電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.0100%以下、
N:0.0100%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、および
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延方向におけるB50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50の値をB50D2としたときに、以下の(4)式且つ(5)式を満たし、
{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、
板厚が0.50mm以下であり、
前記磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が45°の方向であり、前記磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が0°および90°の方向であって、
前記圧延方向からの角度が45°の方向に沿ったティースの幅が、前記圧延方向からの角度が0°の方向に沿ったティースの幅、および前記圧延方向からの角度が90°の方向に沿ったティースの幅の何れの幅よりも狭いことを特徴とするステータコア。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
(B50D1+B50D2)/2>1.8T ・・・(4)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(5)
【請求項3】
前記ステータコアのティースにおいて、
前記ステータコアのティースの幅と、所定の磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度との積が各ティースで略一定であることを特徴する請求項1
または2に記載のステータコア。
【請求項4】
以下の(6)式を満たすことを特徴とする請求項
1または2に記載のステータコア。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(6)
【請求項5】
前記電磁鋼板は、質量%で、
前記Sn:0.020%~0.400%、または、前記Sb:0.020%~0.400%を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のロータコア。
【請求項6】
請求項1から
5の何れか1項に記載のステータコアを備えることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
積層された電磁鋼板を有するステータコアの設計方法であって、
所定の磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度の情報を取得するティース磁束密度取得工程と、
前記ステータコアのティースの幅と、前記ティース磁束密度取得工程により取得されたティースの磁束密度との積が各ティースで略一定になるように、前記ステータコアのティースの幅を決定する決定工程と、
前記ステータコアを備えた回転電機を運転させる場合の前記回転電機の運転データを取得する運転データ取得工程と、
前記運転データ取得工程により取得された運転データに基づいて、複数の運転条件ごとの運転時間の比率を特定する特定工程と、
前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報を取得する平均磁束密度取得工程と、
前記平均磁束密度取得工程により取得された、前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報から、前記複数の運転条件ごとにティースの平均磁界の強さを算出する平均磁界の強さ算出工程と、を有し、
前記ティース磁束密度取得工程では、
前記平均磁界の強さ算出工程により算出された前記複数の運転条件ごとのティースの平均磁界の強さで励磁したときの、前記複数の運転条件ごとのティースの磁束密度の情報を取得し、
前記決定工程では、
前記ステータコアのティースの幅と、前記ティース磁束密度取得工程により取得されたティースの磁束密度との積が各ティースで略一定になるように、前記複数の運転条件ごとにティースの幅を算出し、算出した前記複数の運転条件ごとのティースの幅を、前記特定工程により特定された運転時間の比率に基づいて重み付けして、重み付け後のティースの幅を決定することを特徴とするステータコアの設計方法。
【請求項8】
積層された電磁鋼板を有するステータコアの設計方法であって、
所定の磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度の情報を取得するティース磁束密度取得工程と、
前記ステータコアのティースの幅と、前記ティース磁束密度取得工程により取得されたティースの磁束密度との積が各ティースで略一定になるように、前記ステータコアのティースの幅を決定する決定工程と、
前記ステータコアを備えた回転電機を運転させる場合の前記回転電機の運転データを取得する運転データ取得工程と、
前記運転データ取得工程により取得された運転データに基づいて、複数の運転条件ごとの運転時間の比率を特定する特定工程と、
前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報を取得する平均磁束密度取得工程と、
前記平均磁束密度取得工程により取得された、前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報から、前記特定工程により特定された運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの評価磁束密度を算出する評価磁束密度算出工程と、
前記評価磁束密度算出工程により算出されたティースの評価磁束密度から、ティースの平均磁界の強さを算出する平均磁界の強さ算出工程と、を有し、
前記ティース磁束密度取得工程では、
前記平均磁界の強さ算出工程において算出されたティースの平均磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度の情報を取得することを特徴とするステータコアの設計方法。
【請求項9】
前記運転データ取得工程では、
前記ステータコアを備えた回転電機の計画データおよび実績データの少なくとも何れかの運転データを取得することを特徴とする請求項
7または8に記載のステータコアの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコア、回転電機、ステータコアの設計方法に関するものである。特に、積層された複数の電磁鋼板を有するステータコアに用いて好適なものである。
本願は、2019年11月15日に、日本に出願された特願2019-206649号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
回転電機のステータコア(鉄心)として主に電磁鋼板が用いられる。電磁鋼板は方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板とに大別される。電磁鋼板の磁気特性は一般に板面内において異方性を有している。特に方向性電磁鋼板は磁気特性の異方性が大きく、圧延方向の磁気特性が他の方向よりも極端に良好である。一方、無方向性電磁鋼板であっても方向性電磁鋼板よりも小さいものの、磁気特性に異方性がある。このような磁気特性に異方性がある電磁鋼板を積層してステータコアを構成すると、磁気特性が良好な部分とそうでない部分とが生じ、ステータコアの磁気特性の分布にばらつきが生じる。具体的には、ステータコア内の磁束密度のばらつきが生じてしまい鉄損は大きくなってしまう。
【0003】
特許文献1には、ステータコアの溝底と外周との間の磁束の通路寸法(即ち、ステータコアのヨークの径方向の長さ)を、磁気特性が良好な領域で小さくし、磁気特性が劣る領域で大きくする回転電機の技術が開示されている。特許文献1に開示された回転電機の技術では、ステータコアのヨークの断面積を磁気特性に応じて異ならせることにより、同じ磁束に対して、磁束密度が、磁気特性の劣る領域であるほど低くなるようにする。
特許文献2には、圧延方向もしくは圧延直角方向に沿う方向の磁極歯の表面積を他の磁極歯の表面積よりも狭くする3極コアの技術が開示されている。特許文献2に開示された3極コアでは、圧延方向もしくは圧延直角方向に沿う方向の磁極歯の表面積を他の磁極歯の表面積よりも狭くすることにより、安価でしかも磁束のアンバランスを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開昭59-10142号公報
【文献】日本国特開平8-214476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、ティースからヨークに磁束が曲がりながら流れ込むために、ヨークの周方向のうち何れの部位の通路寸法を大きくしたり小さくしたりするかを特定するのが容易ではない。すなわち、特許文献1の技術では、ステータコアの形状を決定するのが難しく磁束密度のばらつきを低減させることができない虞がある。
また、特許文献2に開示された技術では、圧延方向もしくは圧延直角方向に沿う方向の磁束がそれ以外の方向の磁束に比べて通り易いことを前提しているが、圧延方向もしくは圧延直角方向に沿う方向の磁束が通り難い場合がある。すなわち、特許文献2の技術のように圧延方向に基づいて3極コアの形状を決定しても、磁束密度のばらつきを低減させることができない虞がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、磁束密度のばらつきを低減して、鉄損を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)本発明の一態様に係るステータコアは、積層された複数の電磁鋼板を有するステータコアであって、前記ステータコアの複数のティースのうち、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅が、磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭く、前記ステータコアは圧延された電磁鋼板が積層して構成され、前記電磁鋼板は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、圧延方向におけるB50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50の値をB50D2としたときに、以下の(2)式且つ(3)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であり、前記磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が45°の方向であり、前記磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が0°および90°の方向であって、前記圧延方向からの角度が45°の方向に沿ったティースの幅が、前記圧延方向からの角度が0°の方向に沿ったティースの幅、および前記圧延方向からの角度が90°の方向に沿ったティースの幅の何れの幅よりも狭い。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(2)
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(3)
(2)本発明の一態様に係るステータコアは、積層された複数の電磁鋼板を有するステータコアであって、前記ステータコアの複数のティースのうち、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅が、磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭く、前記ステータコアは圧延された電磁鋼板が積層して構成され、前記電磁鋼板は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、圧延方向におけるB50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50の値をB50D2としたときに、以下の(4)式且つ(5)式を満たし、{100}<011>のX線ランダム強度比が5以上30未満であり、板厚が0.50mm以下であり、前記磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が45°の方向であり、前記磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が0°および90°の方向であって、前記圧延方向からの角度が45°の方向に沿ったティースの幅が、前記圧延方向からの角度が0°の方向に沿ったティースの幅、および前記圧延方向からの角度が90°の方向に沿ったティースの幅の何れの幅よりも狭い。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
(B50D1+B50D2)/2>1.8T ・・・(4)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(5)。
(3)上記(1)または(2)に記載のステータコアは、前記ステータコアのティースにおいて、前記ステータコアのティースの幅と、所定の磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度との積が各ティースで略一定であってよい。
(4)上記(1)または(2)の何れか1項に記載のステータコアは、
以下の(6)式を満たしてよい。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(6)
(5)上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のステータコアにおいて、
前記電磁鋼板は、質量%で、前記Sn:0.020%~0.400%、または、前記Sb:0.020%~0.400%を含有してもよい。
(6)本発明の一態様に係る回転電機は、上記(1)から(5)の何れか1項に記載のステータコアを備える。
(7)本発明の一態様に係るステータコアの設計方法は、積層された電磁鋼板を有するステータコアの設計方法であって、所定の磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度の情報を取得するティース磁束密度取得工程と、
前記ステータコアのティースの幅と、前記ティース磁束密度取得工程により取得されたティースの磁束密度との積が各ティースで略一定になるように、前記ステータコアのティースの幅を決定する決定工程と、前記ステータコアを備えた回転電機を運転させる場合の前記回転電機の運転データを取得する運転データ取得工程と、前記運転データ取得工程により取得された運転データに基づいて、複数の運転条件ごとの運転時間の比率を特定する特定工程と、前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報を取得する平均磁束密度取得工程と、前記平均磁束密度取得工程により取得された、前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報から、前記複数の運転条件ごとにティースの平均磁界の強さを算出する平均磁界の強さ算出工程と、を有し、前記ティース磁束密度取得工程では、前記平均磁界の強さ算出工程により算出された前記複数の運転条件ごとのティースの平均磁界の強さで励磁したときの、前記複数の運転条件ごとのティースの磁束密度の情報を取得し、前記決定工程では、前記ステータコアのティースの幅と、前記ティース磁束密度取得工程により取得されたティースの磁束密度との積が各ティースで略一定になるように、前記複数の運転条件ごとにティースの幅を算出し、算出した前記複数の運転条件ごとのティースの幅を、前記特定工程により特定された運転時間の比率に基づいて重み付けして、重み付け後のティースの幅を決定する。
(8)本発明の一態様に係るステータコアの設計方法は、積層された電磁鋼板を有するステータコアの設計方法であって、所定の磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度の情報を取得するティース磁束密度取得工程と、
前記ステータコアのティースの幅と、前記ティース磁束密度取得工程により取得されたティースの磁束密度との積が各ティースで略一定になるように、前記ステータコアのティースの幅を決定する決定工程と、前記ステータコアを備えた回転電機を運転させる場合の前記回転電機の運転データを取得する運転データ取得工程と、前記運転データ取得工程により取得された運転データに基づいて、複数の運転条件ごとの運転時間の比率を特定する特定工程と、前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報を取得する平均磁束密度取得工程と、前記平均磁束密度取得工程により取得された、前記複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報から、前記特定工程により特定された運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの評価磁束密度を算出する評価磁束密度算出工程と、前記評価磁束密度算出工程により算出されたティースの評価磁束密度から、ティースの平均磁界の強さを算出する平均磁界の強さ算出工程と、を有し、前記ティース磁束密度取得工程では、前記平均磁界の強さ算出工程において算出されたティースの平均磁界の強さで励磁したときのティースの磁束密度の情報を取得する。
(9)上記(7)または(8)に記載のステータコアの設計方法は、前記運転データ取得工程では、前記ステータコアを備えた回転電機の計画データおよび実績データの少なくとも何れかの運転データを取得してよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記態様によれば、磁束密度のばらつきを低減して、鉄損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】圧延方向からの角度と、磁気特性との関係を示すグラフである。
【
図5】ステータコアのうち圧延方向からの角度0°~90°を示す図である。
【
図6】トルク比率とティースの平均磁束密度との関係を示す表である。
【
図7】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度との関係を示す表である(素材A)。
【
図8】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅との関係を示す表である(素材A)。
【
図9】比較例と発明例との鉄損比率を示す表である(素材A)。
【
図11】圧延方向からの角度ごとの、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である(素材A)。
【
図12】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度との関係を示す表である(素材B)。
【
図13】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅との関係を示す表である(素材B)。
【
図14】比較例と発明例との鉄損比率を示す表である(素材B)。
【
図15】圧延方向からの角度ごとの、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である(素材B)。
【
図17】ステータコアのうち圧延方向からの角度0°~90°を示す図である。
【
図18】トルク比率とティースの平均磁束密度との関係を示す表である。
【
図19】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度との関係を示す表である(素材A)。
【
図20】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅との関係を示す表である(素材A)。
【
図21】比較例と発明例との鉄損比率を示す表である(素材A)。
【
図22】圧延方向からの角度ごとの、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である(素材A)。
【
図23】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度との関係を示す表である(素材B)。
【
図24】トルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅との関係を示す表である(素材B)。
【
図25】比較例と発明例との鉄損比率を示す表である(素材B)。
【
図26】圧延方向からの角度ごとの、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である(素材B)。
【
図27】ステータコアの設計装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図28】ステータコアの設計装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図29】ステータコアの設計装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図30】ステータコアの設計装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。尚、各図に示すX-Y-Z座標は、各図における向きの関係を示すものであり、X-Y-Z座標の原点は、各図に示す位置に限定されない。また、以下の説明において、長さ、形状、方向、大きさ、間隔、その他の物理量が同じであることは、完全に同じであることに限定されず、対象となる部分の機能が損なわれない範囲で異なっている場合も含む。
【0011】
<回転電機の構成>
図1は、回転電機100の構成の一例を示す図である。具体的に
図1は、回転電機100を、その軸Oに垂直に切った断面を示す図である。以下の説明では、回転電機100の周方向(回転電機100の軸O回りの方向)、径方向(回転電機100の軸Oから放射状に延びる方向)、高さ方向(軸Oに平行な方向(Z軸方向))を、必要に応じて、それぞれ、周方向、径方向、高さ方向と略称する。また、回転電機100の軸Oを、必要に応じて、軸Oと略称する。
【0012】
図1において、回転電機100は、ロータ110と、ステータ120とを有する。
ロータ110は、回転軸130(軸O)と同軸になるように、直接または部材を介して回転軸130に取り付けられる。ロータ110は、例えば、ロータコア(鉄心)と、永久磁石と、回転軸(シャフト)とを有する。ロータ110は、公知の技術で実現することができるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0013】
ステータ120は、回転軸130(軸O)と同軸になるように、ロータ110の外側に配置される。ステータ120は、ステータコアと、コイルとを有する。表記の都合上、
図1では、コイルの図示を省略する。ステータコアは、複数のティース121a~121pとヨーク122とを有する。ヨーク122は、概ね中空円筒形状を有する。ティース121a~121pは、ヨーク122の内周面から軸Oに向かうように径方向に延在する。ティース121a~121pは、周方向において等間隔に配置される。ティース121a~121pおよびヨーク122は一体となっている。すなわち、ティースおよびヨークに境界線はない。また、いわゆる分割コアの場合にヨーク内に存在する境界線もない。
【0014】
複数のティース121a~121pの先端面が、ロータ110のロータコアの外周面と間隔(エアギャップ)を有して対向するように、ロータ110およびステータ120の位置が決められる。また、複数のティース121a~121pのそれぞれに対してコイル(巻線)が、ティース121a~121pと電気的に絶縁された状態で配置される。コイルの巻き方は、分布巻であっても集中巻であってもよい。ステータ120のコイルに対して励磁電流を流すことにより回転磁界が発生し、当該回転磁界によりロータ110が回転する。
【0015】
ここでは、回転電機100が、インナーロータ型のモータ(電動機)である場合を例に挙げて説明する。モータの適用先としては、例えば、電気自動車(Electric Vehicle)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle)、またはコンプレッサが挙げられるが、モータの適用先は特に限定されない。
【0016】
本実施形態では、ステータコアは、電磁鋼板の一例として、無方向性電磁鋼板を用いて構成される。無方向性電磁鋼板は、例えば、JIS C 2552(2014)に規定される「無方向性電磁鋼帯」に準ずるものが用いられる。
ステータコアの平面の全体形状(
図1に示す形状)に合わせて切り抜かれた無方向性電磁鋼板として、同じ形状および大きさを有する複数の無方向性電磁鋼板を積層して固定することによりステータコアが構成される。ステータコアの固定は、例えば、加締めを用いることにより実現される。無方向性電磁鋼板を切り抜く方法は、特に限定されない。例えば、金型による打ち抜き加工や、ワイヤー放電加工等を用いて、無方向性電磁鋼板を切り抜くことができる。
【0017】
図1において、後述する説明の都合上、角度を2種類で表記する。
図1に括弧を付さずに示す角度(0°、22.5°、45°、67.5°、90°)は、無方向性電磁鋼板の圧延方向を基準とした場合の、無方向性電磁鋼板の圧延方向と、ティース121a~121pの径方向とのなす角度のうち90°以下を示す角度である。
図1に括弧を付して示す角度(0°、22.5°、45°、67.5°、90°、112.5°、135°、157.5°、180°、202.5°、225°、247.5°、270°、292.5°、315°、337.5°、360°)は、無方向性電磁鋼板の圧延方向のうちX軸の正の方向を向く方向を基準(0[°])とし、
図1の紙面に向かって反時計回りの方向を正の方向として表す場合の角度を示す。このように、
図1において、括弧を付さずに示す角度と、その後に括弧を付して示す角度とは、表記の仕方が異なるものであり、その意味は同じである。
【0018】
ここで、ティース121a~121pの径方向は、当該ティース121a~121pの周方向の中心と、軸Oとを通る仮想線であって、軸O(ステータコアの軸)に垂直な平面(X-Y平面)に平行な仮想線(
図1において破線で示す直線)が伸びる方向に平行な方向である。
図1では、無方向性電磁鋼板の圧延方向がX軸方向である場合を例に挙げて示す。
以下の説明では、無方向性電磁鋼板の圧延方向を基準とした場合の、無方向性電磁鋼板の圧延方向と、ティース121a~121pの径方向とのなす角度を、必要に応じて、圧延方向からの角度と称する。尚、以下の説明では、説明の都合上、圧延方向からの角度を、
図1に括弧を付さずに示す角度のように定義した角度として説明する場合と、
図1に括弧を付して示す角度のように定義した角度として説明する場合とがあるが、前述したように、括弧を付さずに示す角度と、その後に括弧を付して示す角度とは、表記の仕方が異なるものであり、その意味は同じである。
【0019】
本実施形態では、前述したようにして切り抜かれた複数の無方向性電磁鋼板は、圧延方向からの角度を揃えた状態で積層される。即ち、前述したようにして切り抜かれた複数の無方向性電磁鋼板の領域のうち、同一のティースに属する領域の、(
図1に括弧を付さずに示す角度のように定義とした角度として表す場合の)圧延方向からの角度は同じになる。
【0020】
本実施形態では、圧延方向からの角度に対して磁気特性が異なる、第1の無方向性電磁鋼板(素材Aと称する)と、第2の無方向性電磁鋼板(素材Bと称する)との2種類の無方向性電磁鋼板を用いて、それぞれステータコアを構成する場合について説明する。
素材Aは、圧延方向からの角度0°が最も磁気特性の優れた方向であり比較的に異方性が小さい鋼板である。素材Bは、圧延方向からの角度45°が最も磁気特性の優れた方向であり比較的に異方性が大きい鋼板である。
【0021】
図2は、圧延方向からの角度と、素材Aおよび素材Bそれぞれの磁気特性との関係を示すグラフである。磁気特性は、一例として磁束密度の大きさであり、ここでは磁界の強さ5000[A/m]で励磁したときの磁束密度の大きさ(B50)である。
グラフ201は、素材Aの正規化された磁束密度B50を示し、グラフ502は、素材Bの正規化された磁束密度B50を示す。グラフ201およびグラフ202における正規化された磁束密度B50は、それぞれ素材Aにおける圧延方向からの角度ごとのB50の平均を1.000に規格化した際の比率で示している。また、
図2では、表記の都合上、圧延方向からの角度の表記を、
図1において括弧を付して示す角度と同様の表記とする。
【0022】
素材Aは、圧延方向からの角度0°で最も磁束密度が大きく、角度0°から90°ごとの間隔で磁束密度が大きくなっている。また、圧延方向からの角度45°近傍で磁束密度が小さく、角度45°から90°ごとの間隔で磁束密度が小さくなっている。すなわち、素材Aは、磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度0°、90°、180°、270°であり、磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度45°、135°、225°、315°の近傍である。以下では、素材Aの磁気特性の劣った方向の代表値として、圧延方向からの角度45°、135°、225°、315°と記載する。また、素材Aは、角度0°~90°の範囲での磁束密度と、角度90°~180°の範囲での磁束密度とが角度90°を境にして略対称である。更に、素材Aは、角度0°~180°の範囲での磁束密度と、角度180°~360°の範囲での磁束密度とが角度180°を境にして略対称である。
一方、素材Bは、圧延方向からの角度45°で最も磁束密度が大きく、角度45°から90°ごとの間隔で磁束密度が大きくなっている。また、圧延方向からの角度0°近傍で磁束密度が小さく、角度0°から90°ごとの間隔で磁束密度が小さくなっている。すなわち、素材Bは、磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度45°、135°、225°、315°であり、磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度0°、90°、180°、270°の近傍である。以下では、素材Bの磁気特性の劣った方向の代表値として、圧延方向からの角度0°、90°、180°、270°と記載する。また、素材Bは、角度0°~90°の範囲での磁束密度と、角度90°~180°の範囲での磁束密度とが角度90°を境にして略対称である。更に、素材Bは、角度0°~180°の範囲での磁束密度と、角度180°~360°の範囲での磁束密度とが角度180°を境にして略対称である。
【0023】
図2に示すように圧延方向からの角度によって磁束密度の大きさが異なる素材Aあるいは素材Bによりステータコアを構成した場合、ステータコアの各ティースの径方向はそれぞれ圧延方向からの角度が異なるために、所定の磁界の強さを励磁したときの各ティースの磁束密度が異なってしまうことになる。したがって、ステータコア内の磁束密度のばらつきが生じるために鉄損が大きくなってしまう。このようなステータコアを用いて回転電機を構成した場合には回転電機の効率が低下してしまう。
【0024】
本発明者らは、ステータコア内の磁束密度のばらつきを低減するには各ティースの幅を調整すればよいことに着想した。具体的に、発明者らは、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅を磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭くすればよい、あるいは磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅を磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅よりも広くすればよいという考えに到った。更に、発明者らは、磁束密度のばらつきをより低減するには「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定すればよいという考えに到った。
【0025】
上述したような着想に基づいてステータコアを構成すると、
図1に示すティース121a~121pのうち、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅が、磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭くなるようにステータコアが構成される。
具体的に、まず、素材Aを用いて
図1に示すステータコアを構成する場合、素材Aでは磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が0°の方向である。ここで、素材Aにおいて、磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が0°の方向とは、角度0°に加えて、圧延方向からの角度90°、180°、270°の方向をいう。また、素材Aでは、磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が45°の方向である。ここで、素材Aにおいて、磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が45°の方向とは、角度45°に加えて、圧延方向からの角度135°、225°、315°の方向をいう。すなわち、素材Aでは、圧延方向からの角度0°、90°、180°、270°が磁気特性の優れた方向であり、角度45°、135°、225°、315°が磁気特性の劣った方向である。したがって、ティース121a、121e、121i、121mの各ティースの幅を、ティース121c、121g、121k、121oの各ティースの幅よりも狭くすることで、ステータコア内の磁束密度のばらつきを低減できる。
一方、素材Bを用いて
図1に示すステータコアを構成する場合、素材Bでは磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が45°の方向である。ここで、素材Bにおいて、磁気特性の優れた方向が圧延方向からの角度が45°の方向とは、角度45°に加えて、圧延方向からの角度135°、225°、315°の方向をいう。また、素材Bでは、磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が0°および90°の方向である。ここで、素材Bにおいて、磁気特性の劣った方向が圧延方向からの角度が0°および90°の方向とは、角度0°および90°に加えて、圧延方向からの角度180°、270°の方向をいう。すなわち、素材Bでは、圧延方向からの角度45°、135°、225°、315°が磁気特性の優れた方向であり、角度0°、90°、180°、270°が磁気特性の劣った方向である。したがって、ティース121c、121g、121k、121oの各ティースの幅を、ティース121a、121e、121i、121mの各ティースの幅よりも狭くすることで、ステータコア内の磁束密度のばらつきを低減できる。
【0026】
ここで、ティースの幅について
図3を参照して説明する。
図3は、ティースの幅を説明するための図である。
図3の(a)は、径方向に沿って平行なティースの一例である。この例では、ティース自身が径方向に沿って平行である。
図3の(b)は、スロットが径方向に沿って平行なティースの一例である。この例では、周方向に隣り合うティース同士の間に位置するスロットが径方向に沿って平行である。
本実施形態におけるティースの幅とは、ティース直線領域の中央の位置でのステータコアの周方向の長さとする。ティース直線領域とは、ステータコアの軸に垂直な方向に切った場合のステータコアの断面において、ステータコアの周方向におけるティースの端部を構成する直線のうち最長の直線の領域を、ステータコアの周方向におけるティースの2つの端部のそれぞれについて求めたものである。
図3の(a)に示す例では、位置311、312を相互に結ぶ直線と、位置313、314を相互に結ぶ直線が、ティース直線領域である。また、
図3の(a)に示す例では、ティース直線領域の中央の位置は、位置321、322である。したがって、
図3の(a)に示すティースの幅は、位置321と位置322との間の距離TWである。
図3の(b)に示す例では、位置315、316を相互に結ぶ直線と、位置317、318を相互に結ぶ直線が、ティース直線領域である。また、
図3の(b)に示す例では、ティース直線領域の中央の位置は、位置323、324である。したがって、
図3の(b)に示すティースの幅は、位置323と位置324との間の距離TWである。
【0027】
図3の(a)では、径方向に沿って平行なティースの一例であることから、ティースの幅はティース直線領域における径方向の何れの場所によらずに一定である。
一方、
図3の(b)では、スロットが径方向に沿って平行なティースの一例であることから、実際のティースの幅がティース直線領域における径方向の何れの場所に応じて異なるために、ティースの幅は、代表値として上述した位置323と位置324との間の距離TWとする。
【0028】
<ティースの幅の決定例(スロットが径方向に沿って平行なティース(素材A))>
次に、電磁鋼板が素材Aであり、埋込永久磁石式同期モータのステータコアを設計する場合に、上述した「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるようにティースの幅を決定する一例について説明する。なお、ここで示す埋込永久磁石式同期モータの例では、ステータコアのティースが、
図3の(b)に示すようにスロットが径方向に沿って平行である。
図4は、ティースの幅を決定する前、すなわち各ティースの幅が全周において一定のモータ400の構成の一例を示す図である。
図4では、モータ400を、その軸Oに垂直に切った断面を示している。
図4において、モータ400は、埋込永久磁石式同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)であり、ロータ410と、ステータ420とを有する。
ロータ410は、回転軸430(軸O)と同軸になるように回転軸430に取り付けられる。ロータ410は、複数の永久磁石411を有する。永久磁石411はロータコア415に埋め込まれている。
図4に示すようにモータ400の極数は8である。ロータ410の外径は133[mm]である。
ステータ420は、ステータコア421とコイル422とを有する。ステータ420の外径は207[mm]であり、ステータ420の内径は135[mm]である。また、ステータコア421のスロット数は48である。また、コイル422は分布巻である。
【0029】
図5は、
図4のステータコア421のうち圧延方向からの角度0°~90°の部分を抜き出して拡大した拡大図である。ここでは、ステータコア421のティース501a~501mのうちティース501aは圧延方向からの角度0°に位置しておりティースの幅1/2を省略して図示している。また、ティース501a~501mのうちティース501mは圧延方向からの角度90°に位置しておりティースの幅1/2を省略して図示している。
また、各ティースは、
図3の(b)に示すようにスロットが径方向に沿って平行な形状である。
図5に示すように、ティースのうち根元の幅TW1が6.56mmであり、先端の幅TW2が5.16mmである。したがって、ティースの幅(
図3の(b)に示すTW)は、(6.56mm+5.16mm)÷2を計算することで5.86mmである。
【0030】
ここで、モータ400の回転数3,000[rpm]として、ステータコア421の全周においてティースの幅が一定である場合の、運転条件(トルク比率)とティースの平均磁束密度の関係について解析した結果を
図6に示す。
図6は、モータ400の運転条件であるトルク比率[%]と、ティースの平均磁束密度B[T
peak]との関係を示す表である。ここで、トルク比率とは、最大トルク時を100[%]として、各運転条件におけるトルクの比率を表す。例えば、トルク比率20[%]とは、最大トルク[Nm]×0.2のトルク値[Nm]で運転することを意味する。また、ティースの平均磁束密度とは、ティース48本において各場所における磁束密度の最大値を平均化した値である。つまり、[T
peak]におけるpeakとは、時間経過に応じて磁束密度が変化したときのピークの磁束密度を示している。
図6ではトルク比率を上げるにしたがってティースの平均磁束密度が増大している。
図6に示すトルク比率とティースの平均磁束密度との関係は、マクスウェル方程式に基づく電磁場解析(数値解析)を行ったり、製作したモータのコアにおいてサーチコイルを用いて誘起電圧を実測して誘起電圧を積分したりすることにより導くことができる。電磁場解析(数値解析)から求める場合では、有限要素法においてティース部(本例では48本のティース全て)に含まれる全要素(全メッシュ)において、それぞれ最大磁束密度を算出し、各要素の面積を考慮して平均化することで平均磁束密度が求められる。サーチコイルを用いて実測する場合では、サーチコイル毎に、測定される誘起電圧を積分して磁束密度の時間波形を求めたうえで最大磁束密度を算出し、各サーチコイルにより囲まれるコアの断面積を考慮して平均化することで、平均磁束密度が求められる。
【0031】
図6に示すティースの平均磁束密度から、ティースの平均磁界の強さH[A/m]を算出する。ティースの平均磁界の強さは、素材Aの比透磁率に基づいて算出することができる。ここでは、トルク比率ごと(すなわち
図6に示すティースの平均磁束密度ごと)にそれぞれティースの平均磁界の強さを算出する。次に、ティースの平均磁界の強さで励磁したときの、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を素材Aの材料特性に基づいて算出する。したがって、トルク比率ごと(すなわち
図6に示すティースの平均磁束密度ごと)にそれぞれ圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度が算出される。
【0032】
図7は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]との関係を示す表である。ここでは、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°を代表値として、代表値の角度を中心とした3つのティースが同じ磁束密度とする。
圧延方向からの角度0°のティースは、
図5に示す0°範囲(A1)に含まれるティース501a、501bである。また、圧延方向からの角度22.5°のティースは、
図5に示す22.5°範囲に含まれるティース501c~501eである。また、圧延方向からの角度45°のティースは、
図5に示す45°範囲(A3)に含まれるティース501f~501hである。また、圧延方向からの角度67.5°のティースは、
図5に示す67.5°範囲(A4)に含まれるティース501i~501kである。また、圧延方向からの角度90°のティースは、
図5に示す90°範囲(A5)に含まれるティース501l、501mである。
【0033】
図7に示すようにトルク比率が20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度にばらつきが生じている。また、トルク比率が40[%]、60[%]、80[%]では、圧延方向からの角度0°および90°のティースの磁束密度が大きく、圧延方向からの角度45°のティースの磁束密度が小さい。このような傾向は、
図2に示す素材Aのグラフ201に示すような圧延方向からの角度0°および90°でB50比率が大きく、圧延方向からの角度45°でB50比率が小さい傾向と合致している。一方、
図7に示すようにトルク比率が100[%]では、磁気飽和しているためにティースの磁束密度は圧延方向からの角度によらず一定である。
図7に示すトルク比率と、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度との関係は、圧延方向からの角度における素材AのB-H特性により導くことができる。
【0034】
次に、ティースの磁束密度に生じているばらつきを低減するために、圧延方向からの角度ごとに最適なティースの幅を決定する。具体的には、
図7に示す圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度に基づいて、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する。ここでは、トルク比率ごとに、それぞれティースの幅を決定する。
例えば、
図7において、トルク比率60[%]の場合を例にすると、圧延方向からの角度0°ではティースの磁束密度1.65[T]、角度22.5°ではティースの磁束密度1.61[T]、角度45°ではティースの磁束密度1.55[T]、角度67.5°ではティースの磁束密度1.56[T]、角度90°ではティースの磁束密度1.59[T]である。したがって、角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°の何れであっても、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が略一定になるようにティースの幅を決定する。このように決定されたティースの幅を最適幅という。
【0035】
図8は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとに決定されたティースの最適幅[mm]との関係を示す表である。
例えば、
図8において、トルク比率60[%]の場合を例にすると、圧延方向からの角度0°ではティースの最適幅5.64[mm]、角度22.5°ではティースの最適幅5.76[mm]、角度45°ではティースの最適幅5.99[mm]、角度67.5°ではティースの最適幅5.96[mm]、角度90°ではティースの最適幅5.85[mm]である。ここで、
図7におけるトルク比率60[%]の場合の「ティースの磁束密度」と、
図8におけるトルク比率60[%]の場合の「ティースの最適幅」とを圧延方向からの角度ごとに乗算した積は、何れも9.3であり略一定である。
【0036】
このように決定されたティースの最適幅を、圧延方向からの角度に応じたティースの幅に適用させてステータコアを設計する。
例えば、
図8において、トルク比率60[%]の場合を例にすると、
図5に示す0°範囲(A1)に含まれるティース501a、501bの幅を5.64[mm]、22.5°範囲(A2)に含まれるティース501c~501eの幅を5.76[mm]、45°範囲(A3)に含まれるティース501f~501hの幅を5.99[mm]、67.5°範囲(A4)に含まれるティース501i~501kの幅を5.96[mm]、90°範囲(A5)に含まれるティース501l、501mの幅を5.85[mm]にして設計する。
【0037】
なお、上述した
図2において、圧延方向からの角度と、素材Aの磁気特性との関係を示すグラフ201で説明したように、素材Aは、角度0°~90°の範囲での磁束密度と、角度90°~180°の範囲での磁束密度とが角度90°を境にして略対称である。更に、素材Aは、角度0°~180°の範囲での磁束密度と、角度180°~360°の範囲での磁束密度とが角度180°を境にして略対称である。
したがって、
図7に示す圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]は、圧延方向からの角度0°の範囲(角度348.75°~11.25°:A1)に加えて、
図4に示す角度168.75°~191.25°も略同様であることから、角度168.75°~191.25°に含まれるティースも0°範囲(A1)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図4に示す角度146.25°~168.75°、191.25°~213.75°、326.25°~348.75°に含まれるティースも22.5°範囲(11.25°~33.75°:A2)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図4に示す角度123.75°~146.25°、213.75°~236.25°、303.75°~326.25°に含まれるティースも45°範囲(角度33.75°~56.25°:A3)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図4に示す角度101.25°~123.75°、236.25°~258.75°、281.25°~303.75°に含まれるティースも67.5°範囲(角度56.25°~78.75°:A4)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図4に示す角度258.75°~281.25°に含まれるティースも90°範囲(78.75°~101.25°:A5)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
【0038】
このように、設計されたステータコアでは、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅が、磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭くなる。素材Aにおいて、磁気特性の優れた方向に沿ったティースとは、圧延方向からの角度が0°に沿ったティース、および圧延方向からの角度が90°に沿ったティースに限られず、これらのティースの近傍に位置するティースも含まれる。具体的に素材Aでは、磁気特性の優れた方向に沿ったティースは、角度348.75°~11.25°に含まれるティース、角度168.75°~191.25°に含まれるティース、角度78.75°~101.25°に含まれるティース、角度258.75°~281.25°に含まれるティースである。
また、素材Aにおいて、磁気特性の劣った方向に沿ったティースとは、圧延方向からの角度が45°に沿ったティース、および圧延方向からの角度が135°、225°、315°に沿ったティースに限られず、これらのティースの近傍に位置するティースも含まれる。具体的に素材Aでは、磁気特性の劣った方向に沿ったティースは、角度33.75°~56.25°に含まれるティース、角度123.75°~146.25°に含まれるティース、角度213.75°~236.25°に含まれるティース、角度303.75°~326.25°に含まれるティースである。
【0039】
図9は、トルク比率[%]ごとの、ティースの幅を最適幅で設計したステータコアとティースの幅を全周において一定にしたステータコアとの間の鉄損比率[-]の関係を示す表である。鉄損比率は、ティースの幅を最適幅で設計したステータコアを備えたモータを発明例とし、ティースの幅を全周において一定にしたステータコアを備えたモータを比較例とすると、発明例のモータの鉄損を比較例のモータの鉄損で割った値である。ここでは、トルク比率ごとにそれぞれ鉄損比率を算出している。なお、鉄損は、発明例のモータおよび比較例のモータをそれぞれ回転数3,000[rpm]で上述した各トルク比率「%」になるように動作させることを条件として電磁場解析(数値解析)を行うことにより導くことができる。また、製作したモータを実測して導出することもできる。
【0040】
図9に示す鉄損比率の結果からトルク比率20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では0.1[%]~1.3[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。一方、トルク比率100[%]では、上述したように、磁気飽和しておりティースの磁束密度は圧延方向からの角度によらず一定であるために鉄損を抑制できる効果を確認できなかった。
このように、トルク比率などの運転条件によって、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定することで磁束密度のばらつきを低減でき、磁気飽和しない領域において鉄損を抑制できることが確認できた。
【0041】
なお、一度ティースの幅を決定した上で実際に製造されたステータコアは、トルク比率などの運転条件が変わるごとにティースの幅を変更することは不可能である。したがって、ステータコアを設計するには、例えばステータコアの設計装置などが、複数の運転条件(複数のトルク比率)のうち、何れか一つの運転条件(トルク比率)を選択する。選択した運転条件において、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで一定になるようにティースの幅を決定してステータコアを設計する。これにより、選択した運転条件においてステータコアの磁束密度のばらつきを低減することができる。
一方で、設計したステータコアを備えたモータを運転させたときに、選択された運転条件で運転する時間が無かったり少なかったりする場合には、実際に磁束密度のばらつきを低減させて鉄損を抑制させることができない。したがって、ステータコアを設計するには回転電機の運転を考慮して鉄損を最も抑制できるように予めティースの幅を決定する必要がある。
以下では、ステータコアの2つの設計方法について説明する。なお、2つの設計方法は、後述するステータコアの設計装置が行ってもよく、ステータコアの設計者が行ってもよい。
【0042】
[ステータコアの第1の設計方法]
第1の設計方法は、設計するステータコアを備えた回転電機が運転することを想定した場合に、複数の運転条件のうち運転時間の全体に対する運転時間の比率の最も高い運転条件を特定して、特定した運転条件においてティースの最適幅を決定する方法である。
図10は、設計するステータコアを備えた回転電機が運転することを想定した場合の運転データの一例を示している。具体的に、
図10は、設計するステータコアを備えたモータ600において、トルク比率に応じた運転時間の比率の一例を示している。ここで、運時時間とは、モータ600が回転している時間をいう。なお、
図10に示す運転データは、ステータコアを設計する前に予め取得しておく。
【0043】
図10では、複数の運転条件のうちトルク比率30[%]~50[%]が運転時間の比率45[%]であるために、運転時間の比率の最も高い運転条件に相当する。したがって、この場合には、
図6に示すトルク比率のうちトルク比率40[%]に対応するティースの平均磁束密度1.44[T
peak]から、ティースの平均磁界強さH[A/m]を算出する。上述した<ティースの幅の決定例(スロットが径方向に沿って平行なティース(素材A))>の説明では、トルク比率ごとに、
図7に示すように圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を算出し、
図8に示すように圧延方向からの角度ごとにティースの最適幅を決定した。一方、ここでは、運転時間の比率の最も高いトルク比率40[%]のみで、
図7に示す圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を算出する。運転時間の比率の最も高いトルク比率40[%]のみで、
図8に示す圧延方向からの角度ごとにティースの最適幅を決定する。
したがって、各ティースの最適幅がそれぞれ一つに決定される。このように決定された最適幅をティースの幅に適用してステータコアを設計することで、運転時間の比率の最も高い運転条件において、磁束密度のばらつきを低減でき、鉄損を抑制することができる。
【0044】
[ステータコアの第2の設計方法]
第2の設計方法は、設計するステータコアを備えた回転電機が運転することを想定した場合に、複数の運転条件ごとの運転時間の比率を特定して、特定した複数の運転条件ごとの運転時間の比率に基づいてティースの幅を重み付けする方法である。
なお、第2の設計方法でも、
図10に示す運転データの一例を参照して説明する。また、第2の設計方法でも、
図10に示す運転データは、ステータコアを設計する前に予め取得しておく。
【0045】
第2の設計方法では、上述した<ティースの幅の決定例(スロットが径方向に沿って平行なティース(素材A))>と同様に、
図6に示すトルク比率とティースの平均磁束密度との関係を導き、
図7に示すトルク比率と圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度との関係を導く。これにより、
図8に示す圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅をトルク比率ごとに算出する。
次に、圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅を、
図10に示すトルク比率に応じた運転時間の比率に基づいて重み付けする。具体的には、
図8に示す圧延方向からの角度ごとに、各トルク比率のティースの最適幅に、それぞれ
図10に示すトルク比率に応じた運転時間の比率を乗算する。ここでは、5種類のトルク比率があることから、各トルク比率のティースの最適幅に、トルク比率に応じた運転時間の比率を乗算することで、5つの値が算出される。次に、算出された5つの値を加算して100で割ることで、所定の圧延方向からの角度において、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を算出することができる。同様に、他の圧延方向からの角度においても、同様に運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を算出する。
例えば、圧延方向からの角度0°の場合を例にすると、
図8において、トルク比率20[%]、40[%]、60[%]、80[%]、100[%]では、それぞれティースの最適幅が5.40[mm]、5.57[mm]、5.64[mm]、5.79[mm]、5.86[mm]である。ティースの最適幅に、それぞれ
図10に示すトルク比率に応じた運転時間の比率20[%]、45[%]、20[%]、10[%]、5[%]を乗算することで、108[mm・%]、250.65[mm・%]、112.8[mm・%]、57.9[mm・%]、29.3[mm・%]の5つの値が算出される。5つの値を加算して100[%]で割ることで、圧延方向からの角度0°において、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅5.58[mm]が算出される。圧延方向からの角度22.5°、45°、67.5°、90°についても、同様に運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を算出する。
【0046】
図11は、圧延方向からの角度ごとの、
図10に示す運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である。
図10では、トルク比率30[%]~50[%]の運転時間の比率が45[%]であり最も運転時間の比率が高い。したがって、
図11に示すように重み付けしたティースの幅は、
図8に示すトルク比率40[%]のときのティースの最適幅に近い値が算出されている。
このように、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を適用してステータコアを設計することで、運転時間の全体に亘って磁束密度のばらつきを低減することができる。
【0047】
ここで、
図11に示すように重み付けしたティースの幅で設計したステータコアを備えたモータを発明例とし、ティースの幅を全周において一定にしたステータコアを備えたモータを比較例とした。それぞれ回転数3,000[rpm]で
図10に示す運転時間の比率で動作させたときの鉄損比率は0.993であり、0.7[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。このように、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を適用してステータコアを設計して回転電機を構成することで鉄損を抑制することができる。
【0048】
[運転データの取得方法]
上述した[ステータコアの第1の設計方法]では、ステータコアを設計する前に、設計するステータコアを備えた回転電機において、複数の運転条件のうち運転時間の比率の最も高い運転条件を特定しておく必要がある。また、上述した[ステータコアの第2の設計方法]では、ステータコアを設計する前に、設計するステータコアを備えた回転電機において、運転条件に応じた運転時間の比率を特定しておく必要がある。
すなわち、第1の設計方法および第2の設計方法の何れの場合でもステータコアを設計するには、設計するステータコアを備えた回転電機が運転することを想定した場合の運転データを予め取得する必要がある。
【0049】
ここで、運転データは計画データと実績データとの2つに大別される。
計画データとは、回転電機の動作が予め定められており運転条件に応じた運転時間が計画されたデータである。例えば、所定の生産設備に使用される回転電機は、一定の動作を継続したり、一定の動作を繰り返したりする場合が多い。このような回転電機では、計画データを予め取得することができる。計画データを取得することで、運転時間の比率の最も高い運転条件の情報を特定したり、運転条件に応じた運転時間の比率を特定したりすることができる。
【0050】
一方、実績データとは、既に同種の回転電機が動作しており運転条件に応じた運転時間が実績として蓄積されたデータである。例えば、HEV(Hybrid Electric Vehicle)やEV(Electric Vehicle)に使用される回転電機は、使用者(運転者)によって運転条件に応じた運転時間が異なるために計画データを取得することができない。このような場合には、実際に車両が運転されている膨大なデータを収集し、収集したビッグデータを解析することで実績データを予め取得することができる。例えば、日本の燃費計測基準であるJC08モードで車両を走行させるときの回転電機の運転条件に応じた運転時間を解析することでデータを取得してもよい。実績データを取得することで、運転時間の比率の最も高い運転条件の情報を特定したり、運転条件に応じた運転時間の比率を特定したりすることができる。
【0051】
このように、運転データを計画データあるいは実績データにより取得することで、ステータコアを設計する前に、複数の運転条件のうち運転時間の比率の最も高い運転条件を特定したり、運転条件に応じた運転時間の比率を特定したりすることができる。
【0052】
<ティースの幅の決定例(スロットが径方向に沿って平行なティース(素材B))>
次に、電磁鋼板が素材Bであり、埋込永久磁石式同期モータのステータコアを設計する場合に、上述した「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する一例について説明する。なお、上述した<ティースの幅の決定例(スロットが径方向に沿って平行なティース(素材A))>と同様の内容は適宜、説明を省略する。
ここでは、
図4に示すモータ400の回転数3,000[rpm]として、ステータコア421の全周においてティースの幅が一定である場合の、運転条件(トルク比率)とティースの平均磁束密度の関係について解析した結果は
図6と同様である。
図6に示すティースの平均磁束密度から、ティースの平均磁界の強さH[A/m]を算出する。次に、ティースの平均磁界の強さで励磁したときの、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を素材Bの材料特性に基づいて算出する。
【0053】
図12は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]との関係を示す表である。
図12に示すようにトルク比率が20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度にばらつきが生じている。また、トルク比率が20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では、圧延方向からの角度45°のティースの磁束密度が大きく、圧延方向からの角度0°および90°のティースの磁束密度が小さい。このような傾向は、
図2に示す素材Bのグラフ202に示すような圧延方向からの角度45°でB50比率が大きく、圧延方向からの角度0°および90°でB50比率が小さい傾向と合致している。一方、
図12に示すようにトルク比率が100[%]では、磁気飽和しているためにティースの磁束密度は圧延方向からの角度によらず一定である。
次に、
図12に示す圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度に基づいて、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する。
【0054】
図13は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとに決定されたティースの最適幅[mm]との関係を示す表である。決定されたティースの最適幅を、圧延方向からの角度に応じたティースの幅に適用させてステータコアを設計する。
このように、設計されたステータコアでは、磁気特性の優れた方向に沿ったティースの幅が、磁気特性の劣った方向に沿ったティースの幅よりも狭くなる。素材Bにおいて、磁気特性の優れた方向に沿ったティースとは、圧延方向からの角度が45°に沿ったティース、および圧延方向からの角度が135°、225°、315°に沿ったティースに限られず、これらのティースの近傍に位置するティースも含まれる。具体的に素材Bでは、磁気特性の劣った方向に沿ったティースは、角度33.75°~56.25°に含まれるティース、角度123.75°~146.25°に含まれるティース、角度213.75°~236.25°に含まれるティース、角度303.75°~326.25°に含まれるティースである。
また、素材Bにおいて、磁気特性の劣った方向に沿ったティースとは、圧延方向からの角度が0°および90°に沿ったティースに限られず、これらのティースの近傍に位置するティースも含まれる。具体的に素材Bでは、磁気特性の優れた方向に沿ったティースは、角度348.75°~11.25°に含まれるティース、角度168.75°~191.25°に含まれるティース、角度78.75°~101.25°に含まれるティース、角度258.75°~281.25°に含まれるティースである。
【0055】
図14は、トルク比率[%]ごとの、ティースの幅を最適幅で設計したステータコアとティースの幅を全周において一定にしたステータコアとの間の鉄損比率[-]の関係を示す表である。
図14に示す鉄損比率の結果からトルク比率20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では0.6[%]~6.4[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。一方、トルク比率100[%]では、磁気飽和しておりティースの磁束密度は圧延方向からの角度によらず一定であるために鉄損を抑制できる効果を確認できなかった。
このように、トルク比率などの運転条件によって、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定することで磁束密度のばらつきを低減でき、磁気飽和しない領域において鉄損を抑制できることが確認できた。
【0056】
次に、上述した[ステータコアの第2の設計方法]と同様に、圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅を、
図10に示すトルク比率に応じた運転時間の比率に基づいて重み付けする。
図15は、圧延方向からの角度ごとの、
図10に示す運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である。
ここで、
図15に示すように重み付けしたティースの幅で設計したステータコアを備えたモータを発明例とし、ティースの幅を全周において一定にしたステータコアを備えたモータを比較例とした。それぞれ回転数3,000[rpm]で
図10に示す運転時間の比率で動作させたときの鉄損比率は0.958であり、4.2[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。
【0057】
<ティースの幅の決定例(径方向に沿って平行なティース(素材A))>
次に、電磁鋼板が素材Aであり、誘導モータのステータコアを設計する場合に、上述した「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるようにティースの幅を決定する一例について説明する。なお、上述した<ティースの幅の決定例(スロットが径方向に沿って平行なティース(素材A))>と同様の内容は適宜、説明を省略する。誘導モータは、ステータコアのティースが、
図3の(a)に示すように径方向に沿って平行である。
図16は、ティースの幅を決定する前、すなわち各ティースの幅が全周において一定のモータ1600の構成の一例を示す図である。
図16では、モータ1600を、その軸Oに垂直に切った断面を示している。
図16において、モータ1600は、誘導モータ(Induction motor)であり、ロータ1610と、ステータ1620とを有する。
ロータ1610は、回転軸1630(軸O)と同軸になるように回転軸1630に取り付けられる。ロータ1610は、複数のコイルを有する。
図16に示すようにモータ1600の極数は4である。また、ロータ1610の外径は134[mm]である。
ステータ1620は、ステータコア1621とコイル1622とを有する。ステータ1620の外径は220[mm]であり、ステータ1620の内径は136[mm]である。ステータコア1621のスロット数は60である。また、コイル1622は分布巻である。
【0058】
図17は、
図16のステータコア1621のうち圧延方向からの角度0°~90°の部分を抜き出して拡大した拡大図である。ここでは、ステータコア1621のティース1701a~1701pのうちティース1701aは圧延方向からの角度0°に位置しておりティースの幅1/2を省略して図示している。また、ティース1701a~1701pのうちティース1701pは圧延方向からの角度90°に位置しておりティースの幅1/2を省略して図示している。また、各ティースは、
図3の(a)に示すように径方向に沿って平行な形状である。各ティースの幅は4mmである。
【0059】
ここで、モータ1600の回転数3,000[rpm]として、ステータコア1621の全周においてティースの幅が一定である場合の、運転条件(トルク比率)とティースの平均磁束密度の関係について解析した結果を
図18に示す。
図18は、モータ1600の運転条件であるトルク比率[%]と、ティースの平均磁束密度B[T
peak]との関係を示す図である。
図18に示すティースの平均磁束密度から、ティースの平均磁界の強さH[A/m]を算出する。次に、ティースの平均磁界の強さで励磁したときの、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を素材Aの材料特性に基づいて算出する。
【0060】
図19は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]との関係を示す表である。
図19に示すようにトルク比率が20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度にばらつきが生じている。また、トルク比率が40[%]、60[%]、80[%]では、圧延方向からの角度0°および90°のティースの磁束密度が大きく、圧延方向からの角度45°のティースの磁束密度が小さい。このような傾向は、
図2に示す素材Aのグラフ201に示すような圧延方向からの角度0°および90°でB50比率が大きく、圧延方向からの角度45°でB50比率が小さい傾向と合致している。一方、
図19に示すようにトルク比率が100[%]では、磁気飽和しているためにティースの磁束密度は圧延方向からの角度によらず略一定である。
次に、
図19に示す圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度に基づいて、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する。
【0061】
図20は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとに決定されたティースの最適幅[mm]との関係を示す表である。
例えば、
図20において、トルク比率60[%]の場合を例にすると、圧延方向からの角度0°ではティースの最適幅3.85[mm]、角度22.5°ではティースの最適幅3.96[mm]、角度45°ではティースの最適幅4.08[mm]、角度67.5°ではティースの最適幅4.06[mm]、角度90°ではティースの最適幅3.96[mm]である。ここで、
図19におけるトルク比率60[%]の場合の「ティースの磁束密度」と、
図20におけるトルク比率60[%]の場合の「ティースの最適幅」とを圧延方向からの角度ごとに乗算した積は、何れも6.7であり略一定である。
【0062】
このように決定されたティースの最適幅を、圧延方向からの角度に応じたティースの幅に適用させてステータコアを設計する。
例えば、
図20において、トルク比率60[%]の場合を例にすると、
図17に示す0°範囲(A1)に含まれるティース1701a~1701bの幅を3.85[mm]、22.5°範囲(A2)に含まれるティース1701c~1701fの幅を3.96[mm]、45°範囲(A3)に含まれるティース1701g~1701jの幅を4.08[mm]、67.5°範囲(A4)に含まれるティース1701k~1701nの幅を4.06[mm]、90°範囲(A5)に含まれるティース1701o~1701pの幅を3.96[mm]にして設計する。
【0063】
また、
図19に示す圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]は、圧延方向からの角度0°の範囲(角度11.25°~33.75:A1)に加えて、
図16に示す角度168.75°~191.25°も略同様であることから、角度168.75°~191.25°に含まれるティースも0°範囲(A1)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図16に示す角度146.25°~168.75°、191.25°~213.75°、326.25°~348.75°に含まれるティースも22.5°範囲(A2)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図16に示す角度123.75°~146.25°、213.75°~236.25°、303.75°~326.25°に含まれるティースも45°範囲(角度33.75°~56.25°:A3)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図16に示す角度101.25°~123.75°、236.25°~258.75°、281.25°~303.75°に含まれるティースも67.5°範囲(角度56.25°~78.75°:A4)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
同様に、
図16に示す角度258.75°~281.25°に含まれるティースも90°範囲(78.75°~101.25°:A5)に含まれるティースの幅と略同一の幅に設計する。
なお、0°範囲(A1)と22.5°範囲(A2)との間に位置するティース1701cを22.5°範囲としたが、0°範囲にしてもよい。また、67.5°範囲(A4)と90°範囲(A5)との境界に位置するティース1701nを67.5°範囲としたが、90°範囲にしてもよい。
【0064】
図21は、トルク比率[%]ごとの、ティースの幅を最適幅で設計したステータコアとティースの幅を全周において一定にしたステータコアとの間の鉄損比率[-]の関係を示す表である。
図21に示す鉄損比率の結果からトルク比率20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では0.1[%]~1.4[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。一方、トルク比率100[%]では、磁気飽和しておりティースの磁束密度は圧延方向からの角度によらず略一定であるために鉄損を抑制できる効果を確認できなかった。
【0065】
次に、上述した[ステータコアの第2の設計方法]と同様に、圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅を、
図10に示すトルク比率に応じた運転時間の比率に基づいて重み付けする。
図22は、圧延方向からの角度ごとの、
図10に示す運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である。
ここで、
図22に示すように重み付けしたティースの幅で設計したステータコアを備えたモータを発明例とし、ティースの幅を全周において一定にしたステータコアを備えたモータを比較例とした。それぞれ回転数3,000[rpm]で
図10に示す運転時間の比率で動作させたときの鉄損比率は0.995であり、0.5[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。
【0066】
<ティースの幅の決定例(径方向に沿って平行なティース(素材B))>
次に、電磁鋼板が素材Bであり、誘導モータのステータコアを設計する場合に、上述した「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する一例について説明する。なお、上述した<ティースの幅の決定例(径方向に沿って平行なティース(素材A))>と同様の内容は適宜、説明を省略する。
ここでは、
図16に示すモータ1600の回転数3,000[rpm]として、ステータコア1621の全周においてティースの幅が一定である場合の、運転条件(トルク比率)とティースの平均磁束密度の関係について解析した結果は
図18と同様である。
図18に示すティースの平均磁束密度から、ティースの平均磁界の強さH[A/m]を算出する。次に、ティースの平均磁界の強さで励磁したときの、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を素材Bの材料特性に基づいて算出する。
【0067】
図23は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]との関係を示す表である。
図23に示すようにトルク比率が何れの場合でも、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度にばらつきが生じている。また、トルク比率が何れの場合でも、圧延方向からの角度45°のティースの磁束密度が大きく、圧延方向からの角度0°および90°のティースの磁束密度が小さい。このような傾向は、
図2に示す素材Bのグラフ202に示すような圧延方向からの角度45°でB50比率が大きく、圧延方向からの角度0°および90°でB50比率が小さい傾向と合致している。
次に、
図23に示す圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度に基づいて、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する。
【0068】
図24は、トルク比率[%]と、圧延方向からの角度ごとに決定されたティースの最適幅[mm]との関係を示す表である。
図25は、トルク比率[%]ごとの、ティースの幅を最適幅で設計したステータコアとティースの幅を全周において一定にしたステータコアとの間の鉄損比率[-]の関係を示す表である。
図25に示す鉄損比率の結果からトルク比率20[%]、40[%]、60[%]、80[%]では1.1[%]~5.6[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。一方、トルク比率100[%]では、磁気飽和しておりティースの磁束密度は圧延方向からの角度によらず略一定であるために鉄損を抑制できる効果を確認できなかった。
このように、トルク比率などの運転条件によって、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるように、各ティースの幅を決定することで磁束密度のばらつきを低減でき、磁気飽和しない領域において鉄損を抑制できることが確認できた。
【0069】
次に、上述した[ステータコアの第2の設計方法]と同様に、圧延方向からの角度ごとのティースの最適幅を、
図10に示すトルク比率に応じた運転時間の比率に基づいて重み付けする。
図26は、圧延方向からの角度ごとの、
図10に示す運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅を示す表である。
ここで、
図26に示すように重み付けしたティースの幅で設計したステータコアを備えたモータを発明例とし、ティースの幅を全周において一定にしたステータコアを備えたモータを比較例とした。それぞれ回転数3,000[rpm]で
図10に示す運転時間の比率で動作させたときの鉄損比率は0.972であり、2.8[%]の鉄損を抑制できることを確認できた。
【0070】
<ステータコアの設計装置>
次に、上述した[ステータコアの第1の設計方法]および[ステータコアの第2の設計方法]をステータコアの設計装置2700を用いて実施する場合について説明する。ステータコアの設計装置2700のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDDおよび各種のハードウェアを有する情報処理装置、または、専用のハードウェアを用いることにより実現される。
【0071】
図27は、ステータコアの設計装置2700の機構構成の一例を示す図である。
ステータコアの設計装置2700は、運転データ取得部2701と、運転条件/運転比率特定部2702と、平均磁束密度取得部2703と、評価磁束密度算出部2704と、平均磁界の強さ算出部2705と、ティース磁束密度取得部2706と、ティース幅決定部2707と、ステータコア設計部2708とを有する。
【0072】
図28は、ステータコアの設計装置2700の処理の一例を示すフローチャートである。
図28のフローチャートは、上述した[ステータコアの第1の設計方法]をステータコアの設計装置2700により実現する一例を示している。なお、上述した説明と同様の説明は適宜、説明を省略する。
S101では、運転データ取得部2701は、設計するステータコアを備えた回転電機を運転させる場合の回転電機の運転データを取得する。すなわち、運転データ取得部2701は、設計するステータコアを備えた回転電機が運転することを想定した場合の運転データを取得する。
上述したように、運転データには計画データと実績データとがある。運転データ取得部2701は、動作が予め定められている回転電機の場合には計画データを取得し、既に同種の回転電機が動作しており実績として蓄積されている場合には実績データを取得する。なお、運転データ取得部2710は、計画データまたは実績データの何れかの運転データに限られず、計画データおよび実績データの少なくとも何れかの運転データを取得してもよい。S101の処理により、例えば、
図10に示す運転データが取得される。
【0073】
S102では、運転条件/運転比率特定部2702は、S101において取得された運転データに基づいて、複数の運転条件のうち運転時間の比率の最も高い運転条件を特定する。S102の処理により、例えば、
図10に示す運転データに基づいて、運転時間の比率が最も高い運転条件としてトルク比率30[%]~50[%]、すなわちトルク比率40[%]が特定される。
【0074】
S103では、平均磁束密度取得部2703は、S102において特定された運転条件に対応するティースの平均磁束密度の情報を取得する。具体的には、平均磁束密度取得部2703は、S102において特定された運転条件であって、ステータコアの全周においてティースの幅が一定である場合に、マクスウェル方程式に基づく電磁場解析(数値解析)を行ったり、サーチコイルを用いて誘起電圧を実測して誘起電圧を積分したりすることにより、ティースの平均磁束密度を取得する。
S103の処理により、例えば、
図6に示すトルク比率とティースの平均磁束密度との関係のように、運転時間の比率が最も高い運転条件であるトルク比率40[%]に対応するティースの平均磁束密度1.44[T
peak]が取得される。
【0075】
S104では、平均磁界の強さ算出部2705は、S103により取得されたティースの平均磁束密度の情報から、ティースの平均磁界の強さを算出する。ティースの平均磁界の強さは、電磁鋼板の比透磁率に基づいて算出することができる。
【0076】
S105では、ティース磁束密度取得部2706は、S104により算出されたティースの平均磁界の強さで励磁したときの、ティースの磁束密度の情報を取得する。具体的には、ティース磁束密度取得部2706は、ティースの平均磁界の強さで励磁したときの、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を材料特性、より詳しくは電磁鋼板の圧延方向からの角度ごとのB-H特性に基づいて取得する。
S105の処理により、例えば、
図7に示す運転時間の比率が最も高い運転条件であるトルク比率40[%]において、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°においてそれぞれティースの磁束密度1.51[T]、1.47[T]、1.42[T]、1.42[T]1.44[T]が取得される。
【0077】
S106では、ティース幅決定部2707は、「ティースの幅」と、S105により取得された「ティースの磁束密度」との積が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する。このように決定されたティースの幅がティースの最適幅である。
S106の処理により、例えば、
図8に示すように、運転時間の比率が最も高い運転条件であるトルク比率40[%]において、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°においてそれぞれティースの最適幅5.57[mm]、5.72[mm]、5.95[mm]、5.93[mm]、5.85[mm]が決定される。
【0078】
S107では、ステータコア設計部2708は、決定されたティースの最適幅を、圧延方向からの角度に応じたティースの幅に適用させてステータコアを設計する。
S107の処理により、例えば、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°でのティースの最適幅を、
図4に示す0°範囲(2つのA1)、22.5°範囲(4つのA2)、45°範囲(4つのA3)、67.5°範囲(4つのA4)、90範囲(2つのA5)にそれぞれ含まれるティースの幅に適用させてスタータコアが設計される。
【0079】
このように、ステータコアの設計装置2700がステータコアを設計することにより、運転時間の比率の最も高い運転条件において、磁束密度のばらつきを低減でき、鉄損を抑制することができる。
なお、上述した説明では、S102では複数の運転条件のうち運転時間の比率の最も高い運転条件を特定し、S103では特定された運転条件に対応するティースの平均磁束密度の情報を取得し、S104ではティースの平均磁束密度の情報からティースの平均磁界の強さを算出する場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、S101~S104までの処理を省略して、ステータコアの設計装置2700のオペレータが所定の磁界の強さを入力することで、ステータコアの設計装置2700のティース磁束密度取得部2706はティースの平均磁界の強さの情報を取得してもよい。この場合には、S105において、ティース磁束密度取得部2706は、入力されたティースの平均磁界の強さの情報を取得して、取得したティースの平均磁界の強さの情報からティースの磁束密度を取得することができる。
【0080】
図29は、ステータコアの設計装置2700の処理の一例を示すフローチャートである。
図29のフローチャートは、上述した[ステータコアの第2の設計方法]をステータコアの設計装置2700により実現する一例を示している。なお、
図28のフローチャートと同様の処理は適宜、説明を省略する。
【0081】
S201では、運転データ取得部2701は、設計するステータコアを備えた回転電機を運転させる場合の回転電機の運転データを取得する。この処理は、S101の処理と同様である。S201の処理により、例えば、
図10に示す運転データが取得される。
S202では、運転条件/運転比率特定部2702は、S101において取得された運転データに基づいて、複数の運転条件ごとの運転時間の比率を特定する。S202の処理により、例えば、
図10に示す運転データに基づいて、トルク比率に応じた運転時間の比率が特定される。
【0082】
S203では、平均磁束密度取得部2703は、複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報を取得する。具体的には、平均磁束密度取得部2703は、複数の運転条件ごと、ステータコアの全周においてティースの幅が一定である場合に、マクスウェル方程式に基づく電磁場解析(数値解析)を行ったり、サーチコイルを用いて誘起電圧を実測して誘起電圧を積分したりすることにより、複数の運転条件ごとに、ティースの平均磁束密度を取得する。
S203の処理により、例えば、
図6に示すトルク比率とティースの平均磁束密度との関係のように、トルク比率ごとにティースの平均磁束密度が取得される。
【0083】
S204では、平均磁界の強さ算出部2705は、S203により取得された、複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報から、複数の運転条件ごとにティースの平均磁界の強さを算出する。ティースの平均磁界の強さは、電磁鋼板の比透磁率に基づいて算出することができる。
【0084】
S205では、ティース磁束密度取得部2706は、S204により算出された、複数の運転条件ごとのティースの平均磁界の強さで励磁したとき、複数の運転条件ごとのティースの磁束密度の情報を取得する。具体的には、ティース磁束密度取得部2706は、複数の運転条件ごとに、ティースの平均磁界の強さで励磁したときの、圧延方向からの角度ごとのティースの磁束密度B[T]を材料特性、より詳しくは電磁鋼板の圧延方向からの角度ごとのB-H特性に基づいて取得する。
S205の処理により、例えば、
図7に示すように、トルク比率ごとに、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°においてそれぞれティースの磁束密度が取得される。
【0085】
S206では、ティース幅決定部2707は、「ティースの幅」と、S205により取得された「ティースの磁束密度」との積が各ティースで略一定になるように、複数の運転条件ごとにティースの幅を算出する。このように算出されたティースの幅がティースの最適幅である。
S206の処理により、例えば、
図8に示すように、トルク比率ごとに、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°においてそれぞれティースの最適幅が算出される。
【0086】
S207では、ティース幅決定部2707は、S206で算出された複数の運転条件ごとのティースの最適幅を、S202により特定された複数の運転条件ごとの運転時間の比率に基づいて重み付けして、重み付け後のティースの幅を決定する。
S207の処理により、例えば、
図11に示すように、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅が決定される。
【0087】
S208では、ステータコア設計部2708は、重み付けしたティースの幅を、圧延方向からの角度に応じたティースの幅に適用させてステータコアを設計する。
S208の処理により、例えば、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°においてそれぞれ重み付けしたティースの幅を、
図4に示す0°範囲(2つのA1)、22.5°範囲(4つのA2)、45°範囲(4つのA3)、67.5°範囲(4つのA4)、90°範囲(2つのA5)にそれぞれ含まれるティースの幅に適用させてスタータコアが設計される。
このように、ステータコアの設計装置2700がステータコアを設計することにより、運転時間の全体に亘って磁束密度のばらつきを低減でき、鉄損を抑制することができる。
【0088】
なお、
図29のフローチャートでは、S207において、複数の運転条件ごとのティースの最適幅を、複数の運転条件ごとの運転時間の比率に基づいて重み付けする場合について説明したが、この場合に限られない。
図30は、ステータコアの設計装置2700の処理の一例を示すフローチャートである。
図30のフローチャートは、上述した[ステータコアの第2の設計方法]とは異なる方法をステータコアの設計装置2700により実現する一例を示している。なお、
図28のフローチャートおよび
図29のフローチャートと同様の処理は適宜、説明を省略する。
【0089】
S301では、運転データ取得部2701は、設計するステータコアを備えた回転電機を運転させる場合の回転電機の運転データを取得する。この処理は、S101およびS201の処理と同様である。S301の処理により、例えば、
図10に示す運転データが取得される。
S302では、運転条件/運転比率特定部2702は、S301において取得された運転データに基づいて、複数の運転条件ごとの運転時間の比率を特定する。この処理は、S202の処理と同様である。
【0090】
S303では、平均磁束密度取得部2703は、複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報を取得する。この処理は、S203と同様の処理である。S303の処理により、例えば、
図6に示すトルク比率とティースの平均磁束密度との関係のように、トルク比率ごとにティースの平均磁束密度が取得される。
【0091】
S304では、評価磁束密度算出部2704は、S303により取得された複数の運転条件ごとに対応するティースの平均磁束密度の情報から、S302により特定された運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの評価磁束密度を算出する。評価磁束密度は、ティースの平均磁束密度を、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの磁束密度である。具体的に、評価磁束密度算出部2704は、トルク比率ごとに、ティースの平均磁束密度と運転時間の比率とを乗算し、乗算した値を加算して100で割ることにより評価磁束密度を算出することができる。
例えば、
図6に示すようなトルク比率とティースの平均磁束密度との関係であり、
図10に示すような運転データである場合には、S304の処理により、ティースの評価磁束密度Bv[T
peak]は、(1.22[T
peak]×20[%]+1.44[T
peak]×45[%]+1.59[T
peak]×20[%]+1.82[T
peak]×10[%]+2.04[T
peak]×5[%])を100で割ることで算出される。
【0092】
S305では、平均磁界の強さ算出部2705は、S304により算出されたティースの評価磁束密度から、ティースの平均磁界の強さを算出する。ティースの平均磁界の強さは、電磁鋼板の比透磁率に基づいて算出することができる。
S306では、ティース磁束密度取得部2706は、S305により算出されたティースの平均磁界の強さで励磁したときの、ティースの磁束密度の情報を取得する。この処理は、S105と同様の処理である。
【0093】
S307では、ティース幅決定部2707は、「ティースの幅」と、S306により取得された「ティースの磁束密度」との積が各ティースで略一定になるように、ティースの幅を決定する。この処理は、S106と同様の処理である。
S307の処理により、例えば、
図11に示すように、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの幅が決定される。
【0094】
S308では、ステータコア設計部2708は、決定されたティースの幅を、圧延方向からの角度に応じたティースの幅に適用させてステータコアを設計する。この処理は、S107と同様の処理である。
このように、ステータコアの設計装置2700がステータコアを設計することにより、運転時間の全体に亘って磁束密度のばらつきを低減でき、鉄損を抑制することができる。また、ティースの平均磁束密度を、運転時間の比率に基づいて重み付けしたティースの評価磁束密度を算出し、算出したティースの評価磁束密度に基づいて以降の処理を行うことで、処理の低減を図ることができる。
【0095】
以上のように、本実施形態によれば、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」が各ティースで略一定になるようにティースの幅を決定することで、磁束密度のばらつきを低減して、鉄損を抑制することができる。
なお、各ティースとは、上述したように例えば、圧延方向からの角度0°、22.5°、45°、67.5°、90°のように所定の間隔ごとのティースであってもよく、全てのティースであってもよい。また、略一定とは完全に一定である場合に限られず、比較例よりも鉄損を抑制できる範囲が略一定に含まれる。具体的に、略一定とは、「ティースの幅」×「ティースの磁束密度」の最大値と最小値との差異が±1%以内、好ましくは±0.5%以内である。上述したように、
図7におけるトルク比率60[%]の場合の「ティースの磁束密度」と、
図8におけるトルク比率60[%]の場合の「ティースの最適幅」とを圧延方向からの角度ごとに乗算した積は、何れも9.3であり略一定であるとして説明した。具体的には、圧延方向からの角度0°ではティースの磁束密度1.65[T]×ティースの最適幅5.64[mm]=9.306≒9.3、圧延方向からの角度22.5°ではティースの磁束密度1.61[T]×ティースの最適幅5.76[mm]=9.2736≒9.3、圧延方向からの角度45°ではティースの磁束密度1.55[T]×ティースの最適幅5.99[mm]=9.2845≒9.3、圧延方向からの角度67.5°ではティースの磁束密度1.56[T]×ティースの最適幅5.96[mm]=9.2976≒9.3、圧延方向からの角度90°ではティースの磁束密度1.59[T]×ティースの最適幅5.85[mm]=9.3015≒9.3である。この場合の最大値と最小値の差異は9.306÷9.2736≒1.0035になるために、略一定は0.5%以内である。また、9.3の四捨五入の範囲として9.25~9.34を許容すると、9.34÷9.25≒1.0097になるために、略一定は1%以内である。
【0096】
次に、上述した電磁鋼板のうち素材Bは、素材Aよりも鉄損を抑制することができる。
ここで、素材Bに係る電磁鋼板について説明する。
なお、以下の説明では、圧延方向からの角度が45°の方向を、圧延方向から45°傾いた方向と称し、圧延方向からの角度135°の方向を、圧延方向から135°傾いた方向と称する。その他、圧延方向からの角度θ°の方向を、圧延方向からθ°傾いた方向と称する。このように、圧延方向からの角度θ°の方向と、圧延方向からθ°傾いた方向とは、同じ意味である。
【0097】
まず、素材Bに係る電磁鋼板の一例である無方向性電磁鋼板(以下、本実施形態の無方向性電磁鋼板という)およびその製造方法で用いられる鋼材の化学組成について説明する。以下の説明において、本実施形態の無方向性電磁鋼板または鋼材に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。無方向性電磁鋼板および鋼材は、フェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じ得る化学組成であって、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.0100%以下、N:0.0100%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、およびMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。更に、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Au、Siおよびsol.Alの含有量が後述する所定の条件を満たす。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0098】
<<C:0.0100%以下>>
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。したがって、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.0100%超で顕著である。このため、C含有量は0.0100%以下とする。C含有量の低減は、板面内の全方向における磁気特性の均一な向上にも寄与する。尚、C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0099】
<<Si:1.50%~4.00%>>
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。したがって、Si含有量は1.50%以上とする。一方、Si含有量が4.00%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。したがって、Si含有量は4.00%以下とする。
【0100】
<<sol.Al:0.0001%~1.0%>>
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、磁界の強さ5000A/mで励磁したときの磁束密度である。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。したがって、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、磁束密度が低下したり、降伏比を低下させて、打ち抜き加工性を低下させたりする。したがって、sol.Al含有量は1.0%以下とする。
【0101】
<<S:0.0100%以下>>
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害する。したがって、S含有量は低ければ低いほどよい。このような再結晶および結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.0100%超で顕著である。このため、S含有量は0.0100%以下とする。尚、S含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱硫処理のコストを踏まえ、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0102】
<<N:0.0100%以下>>
NはCと同様に、磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほどよい。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。尚、N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0103】
<<Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%~5.00%>>
これらの元素は、α-γ変態を生じさせるために必要な元素であることから、これらの元素を総計で2.50%以上含有させる必要がある。一方で、総計で5.00%を超えると、コスト高となり、磁束密度が低下する場合もある。したがって、これらの元素を総計で5.00%以下とする。
【0104】
また、α-γ変態が生じ得る条件として、更に以下の条件を満たしているものとする。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、質量%で、以下の(1)式を満たすことが好ましい。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0105】
前述の(1)式を満たさない場合には、α-γ変態が生じないため、磁束密度が低くなる。
【0106】
<<Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%>>
SnやSbは冷間圧延、再結晶後の集合組織を改善して、その磁束密度を向上させる。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼を脆化させる。したがって、Sn含有量、Sb含有量はいずれも0.400%以下とする。また、Pは再結晶後の鋼板の硬度を確保するために含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼の脆化を招く。したがって、P含有量は0.400%以下とする。以上のように磁気特性等のさらなる効果を付与する場合には、0.020%~0.400%のSn、0.020%~0.400%のSb、および0.020%~0.400%のPからなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0107】
<<Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、およびCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0000%~0.0100%>>
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の析出物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、ZnおよびCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。粗大析出物生成元素の析出物の粒径は1μm~2μm程度であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。このため、これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長を阻害しにくくなる。これらの作用効果を十分に得るためには、これらの元素の総計が0.0005%以上であることが好ましい。ただし、これらの元素の総計が0.0100%を超えると、硫化物若しくは酸硫化物またはこれらの両方の総量が過剰となり、中間焼鈍における再結晶および結晶粒の成長が阻害される。したがって、粗大析出物生成元素の含有量は総計で0.0100%以下とする。
【0108】
<<集合組織>>
次に、本実施形態の無方向性電磁鋼板の集合組織について説明する。製造方法の詳細については後述するが、本実施形態の無方向性電磁鋼板はα-γ変態が生じ得る化学組成であり、熱間圧延での仕上げ圧延終了直後の急冷によって組織を微細化することによって{100}結晶粒が成長した組織となる。これにより、本実施形態の無方向性電磁鋼板は{100}<011>方位の集積強度が5~30となり、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50が特に高くなる。このように特定の方向で磁束密度が高くなるが、全体的に全方向平均で高い磁束密度が得られる。{100}<011>方位の集積強度が5未満になると、磁束密度を低下させる{111}<112>方位の集積強度が高くなり、全体的に磁束密度が低下してしまう。また、{100}<011>方位の集積強度が30を超える製造方法は熱間圧延板を厚くする必要があり、製造が困難という課題がある。
【0109】
{100}<011>方位の集積強度は、X線回折法または電子線後方散乱回折(electron backscatter diffraction:EBSD)法により測定することができる。X線および電子線の試料からの反射角等が結晶方位毎に異なるため、ランダム方位試料を基準にしてこの反射強度等で結晶方位強度を求めることができる。本実施形態の好適な無方向性電磁鋼板の{100}<011>方位の集積強度は、X線ランダム強度比で5~30となる。このとき、EBSDにより結晶方位を測定し、X線ランダム強度比に換算した値を用いても良い。
【0110】
<<厚さ>>
次に、本実施形態の無方向性電磁鋼板の厚さについて説明する。本実施形態の無方向性電磁鋼板の厚さは、0.50mm以下である。厚さが0.50mm超であると、優れた高周波鉄損を得ることができない。したがって、厚さは0.50mm以下とする。
【0111】
<<磁気特性>>
次に、本実施形態の無方向性電磁鋼板の磁気特性について説明する。磁気特性を調べる際には、本実施形態の無方向性電磁鋼板の磁束密度であるB50の値を測定する。製造された無方向性電磁鋼板において、その圧延方向の一方と他方とは区別できない。そのため本実施形態では、圧延方向とはその一方および他方の双方向をいう。圧延方向におけるB50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向におけるB50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向におけるB50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向におけるB50の値をB50D2とすると、B50D1およびB50D2が最も高く、B50LおよびB50Cが最も低いという磁束密度の異方性がみられる。
【0112】
ここで、例えば時計回り(反時計回りでもよい)の方向を正の方向とした磁束密度の全方位(0°~360°)分布を考えた場合、圧延方向を0°(一方向)および180°(他方向)とすると、B50D1は45°および225°のB50値、B50D2は135°および315°のB50値となる。同様に、B50Lは0°および180°のB50値、B50Cは90°および270°のB50値となる。45°のB50値と225°のB50値とは厳密に一致し、135°のB50値と315°のB50値とは厳密に一致する。しかしながら、B50D1とB50D2とは、実際の製造に際して磁気特性を同じにすることが容易でない場合があることから、厳密には一致しない場合がある。同様に、0°のB50値と180°のB50値とは厳密に一致し、90°のB50値と270°のB50値とは厳密に一致する一方で、B50LとB50Cとは厳密には一致しない場合がある。本実施形態の無方向性電磁鋼板では、B50D1およびB50D2の平均値と、B50LとB50Cの平均値とを用いて、以下の(2)式且つ(3)式を満たす。
(B50D1+B50D2)/2>1.7T ・・・(2)
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(3)
【0113】
このように、磁束密度を測定すると、(2)式のようにB50D1およびB50D2の平均値が1.7T以上となると共に、(3)式のように磁束密度の高い異方性が確認される。
【0114】
更に、(1)式を満たすことに加え、以下の(4)式のように、(3)式よりも磁束密度の異方性が高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(4)
更に、以下の(5)式のように、磁束密度の異方性がより高いことが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.2×(B50L+B50C)/2・・・(5)
更に、以下の(6)式のように、B50D1およびB50D2の平均値が1.8T以上となることが好ましい。
(B50D1+B50D2)/2>1.8T ・・・(6)
【0115】
尚、前記の45°は、理論的な値であり、実際の製造に際しては45°に一致させることが容易でない場合があることから、厳密には45°に一致していないものも含むものとする。このことは、当該0°,90°,135°,180°,225°,270°,315°についても同様である。
【0116】
磁束密度の測定は、圧延方向に対して45°、0°方向等から55mm角の試料を切り出し、単板磁気測定装置を用いて行うことができる。
【0117】
<<製造方法>>
次に、本実施形態の無方向性電磁鋼板の製造方法の一例について説明する。本実施形態の無方向性電磁鋼板を製造する際には、例えば、熱間圧延、冷間圧延(第1の冷間圧延)、中間焼鈍(第1の焼鈍)、スキンパス圧延(第2の冷間圧延)、仕上焼鈍(第3の焼鈍)、歪取焼鈍(第2の焼鈍)等が行われる。
【0118】
まず、前述した鋼材を加熱し、熱間圧延を施す。鋼材は、例えば通常の連続鋳造によって製造されるスラブである。熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延はγ域(Ar1温度以上)の温度で行う。つまり、仕上げ圧延の仕上温度がAr1温度以上、巻取り温度が250℃超、600℃以下となるように熱間圧延を行う。これにより、その後の冷却によってオーステナイトからフェライトへ変態することにより組織は微細化する。微細化された状態でその後冷間圧延を施すと、張出再結晶(以下、バルジング)が発生しやすくなるので、通常は成長しにくい{100}結晶粒を成長させやすくすることができる。
【0119】
また、本実施形態の無方向性電磁鋼板を製造する際には、更に仕上げ圧延の最終パスを通過する際の温度(仕上温度)をAr1温度以上、巻取り温度が250℃超、600℃以下とする。オーステナイトからフェライトへ変態することによって結晶組織を微細化するようにしている。このように結晶組織を微細化させることによって、その後の冷間圧延、中間焼鈍を経てバルジングを発生させやすくすることができる。
【0120】
その後、熱間圧延板焼鈍は行わずに巻き取り、酸洗を経て、熱間圧延鋼板に対して冷間圧延を行う。冷間圧延では圧下率を80%~95%とすることが好ましい。圧下率が85%未満ではバルジングが発生しにくくなる。圧下率が95%超ではその後のバルジングによって{100}結晶粒が成長しやすくなるが、熱間圧延鋼板を厚くしないといけなく、熱間圧延の巻取りが困難になり、操業が困難になりやすくなる。冷間圧延の圧下率はより好ましくは86%以上である。冷間圧延の圧下率が86%以上では、よりバルジングが発生しやすくなる。
【0121】
冷間圧延が終了すると、続いて中間焼鈍を行う。本実施形態の無方向性電磁鋼板を製造する際には、オーステナイトへ変態しない温度で中間焼鈍を行う。つまり、中間焼鈍の温度をAc1温度未満とすることが好ましい。このように中間焼鈍を行うことによってバルジングが生じ、{100}結晶粒が成長しやすくなる。また、中間焼鈍の時間は、5秒間~60秒間とすることが好ましい。
【0122】
中間焼鈍が終了すると、次にスキンパス圧延を行う。前述したようにバルジングが発生した状態でスキンパス圧延、焼鈍を行うと、バルジングが発生した部分を起点に{100}結晶粒が更に成長する。これはスキンパス圧延により、{100}<011>結晶粒には歪がたまりにくく、{111}<112>結晶粒には歪がたまりやすい性質があり、その後の焼鈍で歪の少ない{100}<011>結晶粒が歪の差を駆動力に{111}<112>結晶粒を蚕食するためである。歪差を駆動力にして発生するこの蚕食現象は歪誘起粒界移動(以下、SIBM)と呼ばれる。スキンパス圧延の圧下率は5%~25%とすることが好ましい。圧下率が5%未満では歪量が少なすぎるため、この後の焼鈍でSIBMが起きなくなり、{100}<011>結晶粒は大きくならない。一方、圧下率が25%超では歪量が多くなり過ぎ、{111}<112>結晶粒の中から新しい結晶粒が生まれる再結晶核生成(以下Nucleation)が発生する。このNucleationでは殆どの生まれてくる粒が{111}<112>結晶粒のため、磁気特性が悪くなる。
【0123】
スキンパス圧延を施した後、歪を開放して加工性を向上させるために仕上げ焼鈍を行う。仕上げ焼鈍も同様にオーステナイトへ変態しない温度とし、仕上げ焼鈍の温度をAc1温度未満とする。このように仕上げ焼鈍を行うことによって、{100}<011>結晶粒が{111}<112>結晶粒を蚕食し、磁気特性を向上させることができる。また、仕上げ焼鈍時に600℃~Ac1温度となる時間を1200秒以内とする。この焼鈍時間が短すぎるとスキンパスで入れた歪がほとんど残り、複雑な形状を打ち抜くときに反りが発生する。一方、焼鈍時間が長すぎると結晶粒が粗大になり過ぎ、打ち抜き時にダレが大きくなり、打ち抜き精度が出なくなる。
【0124】
仕上焼鈍が終了すると、所望の鉄鋼部材とすべく、無方向性電磁鋼板の成形加工等が行われる。そして、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材に成形加工等(例えば打ち抜き)により生じた歪等を除去すべく、鉄鋼部材に歪取焼鈍を施す。本実施形態では、Ac1温度よりも下で、SIBMが発生し、結晶粒径も粗大に出来るようにするため、歪取焼鈍の温度を例えば800℃程度とし、歪取焼鈍の時間を2時間程度とする。歪取焼鈍により、磁気特性を向上させることができる。
【0125】
本実施形態の無方向性電磁鋼板(鉄鋼部材)では、前述の製造方法のうち、主に熱間圧延工程においてAr1温度以上で仕上げ圧延をすることにより、前記(1)式の高いB50および前記(2)式の優れた異方性が得られる。更に、スキンパス圧延工程において圧下率を10%程度にすることで前記(4)式のより優れた異方性が得られる。
なお、本実施形態においてAr1温度は、1℃/秒の平均冷却速度で冷却中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。また、本実施形態においてAc1温度は、1℃/秒の平均加熱速度で加熱中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。
【0126】
以上のように本実施形態の無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材を製造することができる。
【0127】
次に、本実施形態の無方向性電磁鋼板について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、無方向性電磁鋼板のあくまでも一例にすぎず、無方向性電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0128】
<<第1の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表1から表2に示す成分のインゴットを作製した。ここで、式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での温度(仕上温度)は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。尚、γ-α変態が起こらないNo.108については、仕上温度を850℃とした。また、巻取り温度については表1に示す条件にて行った。
【0129】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、表1に示す冷間圧延後の圧下率で圧延した。そして、無酸化雰囲気で700℃で30秒の中間焼鈍を行った。次いで、表1に示す2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)圧下率で圧延した。
【0130】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50を測定した。測定試料は55mm角の試料を圧延方向に0°と45°の2種類の方向に採取した。そして、この2種類の試料を測定し、圧延方向に対して0°、45°、90°、135°の磁束密度B50をそれぞれB50L、B50D1、B50C、B50D2とした。
【0131】
【0132】
【0133】
表1から表2中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.101~No.107、No.109~No.111、No.114~No.130は、いずれも45°方向および全周平均共に磁束密度B50は良好な値であった。ただし、No.116とNo.127は適切な巻取り温度から外れたため、磁束密度B50はやや低かった。No.129とNo.130は冷間圧延の圧下率が低かったため、同等の成分、巻取り温度であるNo.118と比べて磁束密度B50はやや低かった。一方、比較例であるNo.108はSi濃度が高く、式左辺の値が0以下であり、α-γ変態しない組成であったことから、磁束密度B50はいずれも低かった。比較例であるNo.112は、スキンパス圧延率を低くしたため、{100}<011>強度を5未満であり、磁束密度B50がいずれも低かった。比較例であるNo.113は{100}<011>強度が30以上となり、本発明から外れている。No.113は熱間圧延板の厚みが7mmもあったため、操業しづらいという難点があった。
【0134】
<<第2の実施例>>
溶鋼を鋳造することにより、以下の表3に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での仕上温度は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。
【0135】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、板厚が0.385mmになるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中で中間焼鈍を行い、再結晶率が85%となるように中間焼鈍の温度を制御した。次いで、板厚が0.35mmになるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0136】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で30秒の仕上げ焼鈍を行い、55mm角の試料を剪断加工で作成した後、800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50と鉄損W10/400を測定した。磁束密度B50に関しては第1の実施例と同様の手順で測定した。一方で鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけた時に試料に生じるエネルギーロス(W/kg)として測定した。鉄損は圧延方向に対して0°、45°、90°、135°に測定した結果の平均値とした。
【0137】
【0138】
【0139】
No.201~No.214は全て発明例であり、いずれも磁気特性が良好であった。特に、No.202~No.204はNo.201、No.205~No.214よりも磁束密度B50が高く、No.205~No.214はNo.201~No.204よりも鉄損W10/400が低かった。
【0140】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上述した説明では、運転条件がトルク比率である場合について説明したが、この場合に限られず、運転条件は、回転数比率であってもよく、回転数比率ごとのトルク比率であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、磁束密度のばらつきを低減して、鉄損を抑制することができる。よって、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0142】
100:回転電機
110:ロータ
120:ステータ
121a~121p:ティース
122:ヨーク
130:回転軸
400:モータ
410:ロータ
411:永久磁石
421:ステータコア
422:コイル
501a~501m:ステータ
1600:モータ
1610:ロータ
1621:ステータコア
1622:コイル
1701a~1701p:ステータ
2700:ステータコアの設計装置
2701:運転データ取得部
2702:運転条件/運転比率特定部
2703:平均磁束密度取得部
2704:評価磁束密度算出部
2705:平均磁界の強さ算出部
2706:ティース磁束密度取得部
2707:ティース幅決定部
2708:ステータコア設計部