(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】防振ゴム組成物および防振ゴム
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20241115BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20241115BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20241115BHJP
C08K 5/40 20060101ALI20241115BHJP
C08K 5/435 20060101ALI20241115BHJP
C08K 5/47 20060101ALI20241115BHJP
C08K 5/378 20060101ALI20241115BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20241115BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241115BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20241115BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L7/00
C08K3/06
C08K5/40
C08K5/435
C08K5/47
C08K5/378
C08L9/06
C08K3/04
F16F15/08 D
F16F1/36 C
(21)【出願番号】P 2022007656
(22)【出願日】2022-01-21
【審査請求日】2024-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】飛田 知美
(72)【発明者】
【氏名】原田 倫宏
(72)【発明者】
【氏名】山門 孝治
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-292678(JP,A)
【文献】特開平09-302148(JP,A)
【文献】特開2013-023582(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230464(WO,A1)
【文献】特開2010-111742(JP,A)
【文献】特開2021-155526(JP,A)
【文献】特開2000-026658(JP,A)
【文献】特開2008-285577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
F16F 15/00-15/36
F16F 1/00-6/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム(NR)とブタジエンゴムを主ゴム成分とし、かつ、全ゴム成分が100質量部の場合に脂肪酸アミドを10~50質量部含有する防振ゴム組成物において、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を、質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=50/50~10/90の割合で含み、加硫剤としてイオウを0.1~0.6質量部含有し、かつ、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~3.0質量部含有することを特徴とする防振ゴム組成物。
【請求項2】
該全ゴム成分が100質量部の場合に、2‐(4’‐モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール及び/または4,4’‐ジチオジモルホリンを0.3~5質量部含有することを特徴とする請求項1記載の防振ゴム組成物。
【請求項3】
該全ゴム成分100質量部中に、ハイスチレンゴムを5~30質量部含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の防振ゴム組成物。
【請求項4】
該全ゴム成分が100質量部の場合に、窒素吸着比表面積が30~100m
2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の防振ゴム組成物。
【請求項5】
該ブタジエンゴムは、シス1,4‐結合量が90%以上であり、かつ、100℃におけるムーニー粘度(ML
1+4)が50~75であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の防振ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の防振ゴム組成物を用いてなる防振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振ゴム組成物および防振ゴムに関するものであり、例えば、耐久性及び熱へたり性に優れ、優れた摺動性を維持でき、さらに生産性に優れた自動車用スタビライザブッシュ用途などの防振ゴム組成物の提供及びその防振ゴム組成物を用いてなる防振ゴムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用防振ゴム、例えばスタビライザブッシュ等金属部品を嵌め込んで使用される防振ゴムでは、発進時や急ブレーキ時、さらに左右旋回時等に、取付け金具とゴムブッシュ表面との接触部分でスティックスリップ現象により異音が発生し、その対策が求められている。
【0003】
かかる異音の対策として、脂肪酸アミドなどの潤滑剤を添加し、加硫ゴム表面に自己潤滑剤をブルームさせて摩擦係数を低減させる自己潤滑ゴム組成物が検討されている。上記自己潤滑剤としては、各種脂肪酸アミドを添加することが提案されている(特許文献1)。
【0004】
更には、スタビライザブッシュが時間の経過とともにへたると、スタビライザブッシュとスタビライザバーとの間に隙間が生じ、そこに泥などが侵入することにより異音の原因となる。このため、特定の脂肪酸アミド(オレイン酸アミドとステアリン酸アミド)とシリコーンオイルを含有させることにより、低摩擦係数と耐へたり性を両立させることが提案されている(特許文献2)
また、低温領域での摩擦低減効果と耐熱性と耐スコーチ性(ゴム焼け防止)を得るために、自己潤滑剤として不飽和脂肪酸アミドとポリエチレングリコールを用い、耐熱加硫促進剤とハイスチレンゴムを添加した自己潤滑ゴム組成物が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、摩耗が激しい場合でも長期の摩擦低減効果を維持できるようにするために、シリコーンアクリル共重合体を含有させる方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-234886号公報
【文献】特許5399169号公報
【文献】特開2004-292678号公報
【文献】特許6525062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脂肪酸アミドが多く添加された防振ゴム組成物では、低摩擦化は可能であるが、耐スコーチ性が悪化する傾向となる。また、耐熱へたり性向上を目的とした耐熱加硫促進剤を用いると、スコーチタイムが短くなり過ぎて、ゴム焼け(スコーチ)し易くなる。このため、耐熱へたり性を改善しながら、スコーチタイムを遅延させる方法が必要になる。
【0008】
特許文献3では、ハイスチレンゴム(ハイスチレン樹脂とスチレンブタジエンゴム(SBR)の混合品)を含有させることにより、スコーチタイムの遅延化を図りながらゴム焼けを防止している。しかしながら、ハイスチレンゴムは、添加量の増加に応じて耐へたり性(耐圧縮永久歪率)が徐々に悪化する傾向にある。そこで、耐熱性加硫促進剤として、各種チウラム系加硫促進剤をゴム成分100質量部に対して0.1~5質量部、より好ましくは0.3~3質量部を併用するとされているが、耐スコーチ性(スコーチタイム遅延によるゴム焼け防止)と耐熱へたり性の両立に対しては、更なる改善が必要な場合があった。
【0009】
また、特許文献4においてシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂をゴム成分に含有させた防振ゴム組成物の硬化物は、脂肪酸アミドなどのブリード/ブルームによる低摩擦化を図ったものではないため、耐熱へたり性を付与する加硫系(例えば、加硫剤等)を用いても、容易にスコーチタイムを確保することは可能である。しかしながら、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、ゴム中において分散状態となるため、ゴム表面ではシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の存在割合が少なく、特に初期の低摩擦化は不十分となる場合があった。
【0010】
また、特許文献2のようにオレイン酸アミドとステアリン酸アミドとシリコーンオイルを含有する防振ゴム組成物は、シリコーンオイルにより、防振ゴム組成物の成形直後から脂肪酸アミド類が多量に析出し、該防振ゴム組成物の表面に固化膜が形成される場合があった。このような防振ゴム組成物の表面が擦れると、該固化膜が剥がれ、低摩擦化効果が全く得られない場合があった。また、特許文献2の防振ゴム組成物は、低イオウ量での加硫系の併用に関しては何ら記載がなく、へたり性改善効果も不十分な場合があった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、本発明の課題は、例えば、耐久性及び熱へたり性に優れ、優れた摺動性を維持でき、さらに生産性に優れた自動車用スタビライザブッシュ用途などの防振ゴム組成物の提供及びその防振ゴム組成物を用いてなる防振ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、天然ゴム(NR)とブタジエンゴムを主ゴム成分とする防振ゴム組成物であって、主ゴム成分が、質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=50/50~10/90の割合で含み、全ゴム成分が100質量部の場合に、脂肪酸アミドを10~50質量部含有し、加硫剤としてイオウを0.1~0.6質量部含有し、かつ、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~2.0質量部含有することで、摩擦低減化効果を維持しながら耐熱へたり性及び耐久性に優れ、かつ生産性に優れた防振ゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、例えば、以下の[1]~[5]に関する。
【0014】
[1] 天然ゴム(NR)とブタジエンゴムを主ゴム成分とし、かつ、全ゴム成分が100質量部の場合に脂肪酸アミドを10~50質量部含有する防振ゴム組成物において、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を、質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=50/50~10/90の割合で含み、加硫剤としてイオウを0.1~0.6質量部含有し、かつ、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~3.0質量部含有することを特徴とする防振ゴム組成物である。
【0015】
[2] 該全ゴム成分が100質量部の場合に、2‐(4’‐モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール及び/または4,4’‐ジチオジモルホリンを0.3~5質量部含有することを特徴とする[1]記載の防振ゴム組成物である。
【0016】
[3] 該全ゴム成分100質量部中に、ハイスチレンゴム(ハイスチレン樹脂混合ゴム)を5~30質量部含有することを特徴とする[1]または[2]記載の防振ゴム組成物である。
【0017】
[4] 該全ゴム成分が100質量部の場合に、窒素吸着比表面積が30~100m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有することを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の防振ゴム組成物である。
【0018】
[5] 該ブタジエンゴムは、シス1,4‐結合量が90%以上であり、かつ、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)が50~75であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の防振ゴム組成物である。
【0019】
[6] [1]乃至[5]のいずれかに記載の防振ゴム組成物を用いてなる防振ゴムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の低摩擦係数な防振ゴム組成物を用いた場合と比較して、優れた摺動性を維持でき、耐スコーチ性がよいため生産性に優れ、耐へたり性に優れた防振ゴム製造用の防振ゴム組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例で用いたスタビライザブッシュブッシュの正面図である。
【
図2】実施例で用いたスタビライザブッシュブッシュの断面図(中空部2の軸方向の断面図)である。
【
図3】実施例で用いた異音試験方法及び耐久性試験方法を説明する斜視図である。
【
図4】実施例で用いた異音試験方法及び耐久性試験方法を説明する正面図(スタビライザバー4の軸方向から臨んだ図)である。
【
図5】実施例で用いた摩擦係数測定方法を説明するヘイドン摩擦摩耗試験機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0023】
[ゴム成分]
本発明に係る防振ゴム組成物においては、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分とする。天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分とするとは、全ゴム成分中の70質量%以上が天然ゴム(NR)及びブタジエンゴム(BR)からなる(天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の合計量が全ゴム成分中の70質量%以上である)ことを意味する。
【0024】
さらに、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)は、質量比がNR/BR=50/50~10/90の割合(以下、単に本発明ゴム成分範疇と適宜称する)で含む。主ゴム成分中においてNRとBRを本発明ゴム成分範疇で含有するとき、低温から高温までの広い温度領域で、防振ゴム組成物中の脂肪酸アミドが表面に順次出てき易く、スティックスリップによる異音の発生が抑制され易く、また、耐摩耗性にも優れ、ゴム強度に優れた防振ゴム組成物が得られる。
【0025】
BRの割合が本発明ゴム成分範疇を超えて多くなると、加硫ゴム強度が大きく低下し、得られる防振ゴムに強い力が加わると破壊され易くなる可能性がある。NRの割合が本発明ゴム成分範疇を超えると、スコーチタイムが短くなる傾向にあるうえ、得られた加硫ゴムの摩擦係数が高くなり易くなる可能性がある。
【0026】
ゴム成分中には、全ゴム成分の30質量%未満の割合で、NR、BR以外のゴム成分を含有することができる。他のゴム成分としては、特に限定はされないが、ハイスチレンゴム(ハイスチレン樹脂混合ゴム)が好適に用いられる。
【0027】
特に、大きな荷重に耐えてへたり量を小さく抑える必要がある場合には、ゴム硬さを高めることにより初期変形量を小さく抑えることが有効であるが、硬さを高めるためにカーボンブラックを増量することは、摩擦係数の増加を招き、さらには、未加硫ゴムの流動性が低下するため、練り加工性や成形加工性も低下する。加硫剤であるイオウ量を多く添加すると、得られる防振ゴムの耐熱へたり性が悪化するうえ、もろくなり、壊れ易くなり(耐久性の低下を招き)好ましくない。
【0028】
一方、ハイスチレンゴムは、通常、含有量を増やすとへたり性の悪化(圧縮永久ひずみ率の増大)を招く傾向にあるが、本発明のように加硫剤および加硫促進剤を用いれば、へたり性の悪化を抑制でき、かつ、高硬度で低摩擦の防振ゴムが得られるため、好適に用いられる。ハイスチレンゴムの含有量は、全ゴム成分100質量部中に2質量部から30質量部含有することが好ましく、更には、5質量部から25質量部含有することがより好ましい。
【0029】
本発明では、ハイスチレンゴム(ハイスチレン樹脂混合ゴム)を全てゴム成分とする。本発明に用いられるハイスチレンゴムとしては、スチレン含量が50質量%以上75質量%以下のものであり、例えば、市販品のものであれば、JSR株式会社製のJSR0061(スチレン含量66質量%)やJSR0051(スチレン含量56%)等が好適に用いられるが、上記の規定に基づいて得られるものであれば特にこれに限定されるものではない。
【0030】
本発明で使用するブタジエンゴム(BR)としては、低温特性、繰り返し変形に対する耐久性の観点から、シス1,4‐結合量は高いほど好ましく、例えば、シス1,4‐結合量が90%以上である高シスBRを使用することが好ましく、93%以上であることがより好ましい。
【0031】
また、同じ化学組成のBRでは、ムーニー粘度(ML1+4)が高いほど分子量が高くなる傾向があり、耐久性が良好になるため、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)は50以上が好ましい。一方で、ムーニー粘度(ML1+4)が高くなるに従い、ゴムの流動性が低下する傾向にあり、ムーニー粘度(ML1+4)があまりにも高いと、防振ゴム材料組成物の練り加工性、成形加工性が悪化する傾向にある。そのため100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)は、75以下であることが好ましい。より好ましくは、ムーニー粘度(ML1+4)65以下である。即ち、本発明において、ブタジエンゴム(BR)は、ムーニー粘度が50以上65以下のものが好ましく使用される。
【0032】
このようなブタジエンゴムとしては、JSR BR730,JSR BR54,JSR BR740(以上、JSR社製)、ウベポール390L(宇部興産社製)、BUNA CB21,CB22,CB1221(以上、アランセオ社製)などが挙げられる。
【0033】
また、他のゴム成分として、作業環境改善や加工性改善を目的とした加硫促進剤やイオウなどのマスターバッチが使用可能で、マスターバッチに含まれるEPDMなどの他ゴム成分が少量含まれてもなんら問題はない。
【0034】
[脂肪酸アミド]
本発明においては、上記全ゴム成分を100質量部とした場合に、脂肪酸アミドを10~50質量部の割合(以下、本発明脂肪酸アミド範疇と適宜称する)で含有する。この本発明脂肪酸アミド範疇の場合、ゴム表面に肪酸アミドが適切に析出(ブルーム)し、安定した低摩擦化が得られる。より好ましくは、全ゴム成分を100質量部とした場合に、脂肪酸アミドの含有量は15~30質量部である。この本発明肪酸アミド範疇の場合、ゴム表面に析出した脂肪酸アミドが表面から削り取られても、該脂肪酸アミドが安定的かつ継続的に析出してくるため、長期にわたり低摩擦係数が持続する。
【0035】
用いる脂肪酸アミドの種類としては、各種の脂肪酸アミドが使用可能であるが、使用環境領域で適切なブルーム性を得られ易くするという観点により、融点65~120℃の脂肪酸アミドが好適に用いられる。低温領域での摩擦係数を低く保つためには、融点65~88℃の脂肪酸アミドを全ゴム成分中に8~25質量部含有することが好ましい。
【0036】
さらに、より広い温度領域の低摩擦化を図り易くするという観点により、融点65~88℃の脂肪酸アミドと融点90~120℃の脂肪酸アミドを混合して用いることは、全く問題が無い。融点65~120℃の脂肪酸アミドとしては、オレイン酸アミド(融点75℃)、エルカ酸アミド(融点81℃)、N‐ステアリルオレイン酸アミド(融点67℃)、N‐オレイルステアリン酸アミド(融点74℃)、N‐ステアリルエルカ酸アミド(融点74℃)、ラウリン酸アミド(融点87℃)、パルミチン酸アミド(融点100℃)、ステアリン酸アミド(融点101℃)、ヒドロキシステアリン酸アミド(融点107℃)、N‐ステアリルステアリン酸アミド(融点95℃)、エチレンビスオレイン酸アミド(融点119℃)、エチレンビスエルカ酸アミド(融点120℃)、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド(融点110℃)、N,N’‐ジオレイルアジピン酸アミド(融点118℃)、N,N’‐ジオレイルセバシン酸アミド(融点113℃)などが挙げられる。
【0037】
[加硫系薬品(加硫剤、加硫促進剤、および加硫遅延剤)]
一般的には、加硫剤と加硫促進剤は、分けて分類されるが、通常、加硫促進剤と分類されている大部分のチウラム類などは、加硫剤として用いられることも知られている。そこで、以下においては、加硫剤、加硫促進剤、および加硫遅延剤のそれぞれを単に加硫系薬品と称したり、加硫剤、加硫促進剤、および加硫遅延剤を適宜纏めて加硫系と称するものとする。
【0038】
本発明において、加硫剤は、イオウを0.1~0.6質量部の割合(以下、本発明イオウ範疇と適宜称する)で含有する。この本発明イオウ範疇の場合、耐熱へたり性に優れた防振ゴム用加硫ゴム組成物を得ることができる。
【0039】
本発明の防振ゴム組成物の加硫系としては、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを8~30質量部含有するとともに、N‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド0.5~5.0質量部を必須成分として含有する。
【0040】
耐熱へたり性を良好にするためには、各種チウラムを含有させることが好ましいが、ゴム成分として天然ゴムとブタジエンゴムの混合物を主ゴム成分として用いて、上記脂肪酸アミドを10~50質量部含有すると、加硫開始時間が極めて早くなり、耐スコーチ性が悪くなる。テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~5.0質量部含有することにより、耐スコーチ性と耐へたり性の両立が可能となる。
【0041】
脂肪酸アミドを含有しない防振ゴム組成物においては、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有し、さらにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~5.0質量部含有することは、加硫速度が遅くなり、生産性の悪化を招き易いが、本発明の防振ゴム組成物においては、適正な加硫速度と耐スコーチ性及び良好な耐へたり性が得られる。
【0042】
テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドは、多量に含有しても、耐スコーチ性は悪化せずに、耐へたり性が向上するが、あまりにも多量に添加すると材料費が高くなる。このため、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドの含有量においては、例えば30質量部以下にし、好ましくは7~20質量部にし、より好ましくは8~16質量部にすることが挙げられる。
【0043】
脂肪酸アミドを多く含有し、イオウ含有量が少なく、チウラム系加硫促進剤が多量に含有する本防振ゴム組成物では、よく知られているスコーチ防止剤(リターダー)であるCTP(N‐シクロヘキシルチオフタルイミド)は、スコーチ防止効果を発揮しない。一方で、N‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドは、本防振ゴム組成物のような系でもスコーチ防止効果を十分発揮する。
【0044】
N‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドは、含有量が0.5質量部より少ないとスコーチ防止効果が小さく、5質量部より多く含有させても更なるスコーチ防止効果は得られない。そのため、N‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドの含有量においては、例えば0.5~5質量部にし、より好ましくは0.5~3質量部にすることが挙げられる。
【0045】
また、より高硬度で耐へたり性に優れる防振ゴムを得ることを望む場合には、全ゴム成分を100質量部として、2‐(4’‐モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール及び/または4,4’‐ジチオジモルホリンを0.3~5質量部の割合(以下、本発明加硫系範疇と適宜称する)で含有することが好ましい。この本発明加硫系範疇の場合、適度な耐スコーチ性有し、かつ高硬度でかつ耐熱へたり性をもった防振ゴムが得られ易い。2‐(4’‐モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール及び/または4,4’‐ジチオジモルホリンを0.3~5質量部含有することで、より高硬度で耐C‐set性に優れた加硫ゴムを得るのにあたり、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドの添加量を減量することができ、ゴム材料費が高くなることを抑制することができる。
【0046】
前記2‐(4’‐モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール及び/または4,4’‐ジチオジモルホリンを0.3~5質量部とは、2‐(4’‐モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールと4,4’‐ジチオジモルホリンの合計量として0.3~5質量部という意味である。
【0047】
また、さらにチアゾール系加硫促進剤及び/またはスルフェンアミド系加硫促進剤を含有することが好ましい。具体的には、2‐メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤、N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N‐オキシジエチレン‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N‐ジイソプロピル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤、などが好ましく使用することができる。特に、ジベンゾチアジルジスルフィドが、耐スコーチ性と耐へたり性の両立の観点から好ましく使用することができる。
【0048】
さらに、ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン、ジオルソニトリルグアニジン、オルソニトリルバイグアナイド、ジフェニルグアニジンフタレート等のグアニジン加硫促進剤や、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系化合物、各種ジチオカルバミン酸金属塩系加硫促進剤なども、少量添加で使用することは可能であるが、これらの加硫促進剤を併用すると耐スコーチ性が悪化し易い傾向にあるため、該加硫促進剤の含有量は、全ゴム成分を100質量部とした場合に、0.3質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以下とすることがより好ましい。
【0049】
[カーボンブラック]
本発明に係る防振ゴム組成物においては、カーボンブラックとして、窒素吸着比表面積が30~100m2/gのカーボンブラックを40~80質量部含有することが好ましい。窒素吸着比表面積は、カーボンブラックの粒子径の指標とされているものであり、窒素吸着比表面積が大きいことは、粒子径が小さいことを示す。
【0050】
本発明で使用するゴム成分には、上記ゴム成分の項目で説明した通り、ブタジエンゴム(BR)が多く含まれる。ブタジエンゴム(BR)は、カーボンブラックなどの補強剤無しではゴム強度が極めて低い。窒素吸着比表面積が小さい(粒子径が大きい)微粒子カーボンブラックを含有することにより、大きな補強効果が得られ、耐摩耗性などの物性向上が得られる。
【0051】
一方で、微粒子カーボンブラックを多く含有すると、グリップ性が高まり、摩擦抵抗が上昇(滑り性が低下)する。また、微粒子のカーボンブラックを多量添加することは、圧縮永久歪み性の悪化につながる。さらに、カーボンブラックの粒子径と添加量は、脂肪酸アミドのゴム表面への析出性にも影響する。
【0052】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積が小さい(粒子径が大きい)と、摩擦係数が小さく、耐圧縮永久歪み性補強性が良好な加硫ゴムが得られ易くなるが、補強性が低く防振ゴムとしての耐久性が不十分となり易い。
【0053】
30~100m2/gの窒素吸着比表面積のカーボンブラックを、ゴム成分100質量部に対して40~80質量部の範囲で含有することで、低摩擦の持続性を確保しつつ、十分なゴム強度確保と圧縮永久歪みの悪化を抑制することが可能となる。このようなカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネスブラックとして知られるHAF級、HAF‐HS級、HAF‐LS級、MAF級、FEF級などのカーボンブラックが該当する。また、カラー用カーボンブラックや導電性カーボンブラックでも、窒素吸着比表面積が30~100m2/gのものであれば、好ましく使用することができる。
【0054】
本発明の防振ゴム組成物においては、天然ゴム(NR)とブタジエンゴムを主ゴム成分とし、かつ、全ゴム成分を100質量部とした場合に、脂肪酸アミドを10~50質量部含有する防振ゴム組成物において、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)が、質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=50/50~10/90の割合で含み、加硫剤としてイオウを0.1~0.6質量部含有し、かつ、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~3.0質量部含有するものであれば、上記記載の各種配合資材以外にも、通常のゴム配合資材として用いられる加硫助剤、老化防止剤、充填剤、プロセスオイル、加工助剤、カップリング剤等を、必要に応じて適宜に含有させることが可能である。その一例として、以下に示すように適宜に含有させることが挙げられる。
【0055】
[加硫助剤]
本発明の防振ゴム組成物は、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、複合亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛等の加硫助剤を併用することが好ましい。これらの加硫助剤は、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0056】
ここで、複合亜鉛華とは、表面に酸化亜鉛(亜鉛華)の層を有し、コア成分として内部に無機金属塩を含有するものなどが知られており、例えば井上石灰工業社製のMETA‐Z Lシリーズ(META‐Z L40、L50、L60)などが例示される。
【0057】
酸化亜鉛若しくは複合亜鉛華の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上15質量部以下とすることが挙げられる。ステアリン酸若しくはステアリン酸亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。
【0058】
[老化防止剤]
本発明の防振ゴム組成物には、老化防止剤を含有させることが好ましい。本発明で使用するジエン系ゴム(天然ゴム、ブタジエンゴム)は、ゴム成分として耐オゾン性や耐熱性が高いというものではないため、公知の老化防止剤により改良することが好ましい。老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等が挙げられる。これらは、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0059】
上記老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、1~15質量部の範囲が好ましく、3~10質量部の範囲がより好ましい。
【0060】
[充填剤]
本発明の防振ゴム組成物には、硬さ等の調整や加工性の改善を目的として、充填剤を含有させることができる。充填剤としては、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ、炭酸カルシウム、クレー、タルク等の通常のゴム組成物に使用される充填剤を、適用することができる。これらの充填剤は、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0061】
[プロセスオイル]
本発明の防振ゴム組成物には、硬さ等の調整や加工性の改善を目的として、プロセスオイルを含有させることができる。プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等が挙げられる。これらは、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0062】
[加工助剤]
本発明の防振ゴム組成物には、加工性の改善を目的として、加工助剤を含有させることができる。加工助剤としては、通常のゴムの加工に使用される化合物を適用することができる。具体的には、リシノール酸、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸や、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸の塩や、リシノール酸、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸のエステル類などが、挙げられる。これらは、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0063】
[カップリング剤]
本発明の防振ゴム組成物には、振動特性の調整を目的として、カーボンブラックとのカップリング剤や、シランカップリング剤が使用できる。カーボンブラックとのカップリング剤としては、例えば、ヒドラジド化合物系カップリング剤、スルフィド化合物系カップリング剤、ピラゾロン系化合物系カップリング剤などが挙げられ、シランカップリング剤としては、例えば、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤等が挙げられ、それぞれ単独もしくは二種以上併せて用いられる。中でも、上記シランカップリング剤は、メルカプト系シランカップリング剤やスルフィド系シランカップリング剤などが好適なものとして挙げられ、これらは単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0064】
[防振ゴム組成物の調製方法]
本発明の防振ゴム組成物は、ゴム成分、カーボンブラック成分、脂肪酸アミドおよび必要に応じて上記列記したその他の材料を用い、これら各種材料を加圧ニーダー,バンバリーミキサー,インターミックスミキサー,オープンロール等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0065】
本発明の防振ゴム組成物は、成形機等によって加硫条件(加硫温度と加硫時間)は異なるが、例えば、加硫温度145~170℃,3~60分間で加硫することにより、弾性体となる。そして、本発明の防振ゴム組成物の加硫した弾性体からなる摺接部を備えた防振ゴム部材によれば、自動車等の車両に用いられるスタビライザブッシュ等のように、摺動性が要求される防振ゴム部材として、好適に用いることができる。
【0066】
なお、上記摺接部の形状は、摺接する相手側部材の形状に依存する。そのため、例えば、相手側部材が金属シャフトのようなものであれば、上記摺接部の形状は、上記金属シャフトを挿入するための挿入孔が設けられた形状となることが挙げられる。そして、これらの防振ゴム部材は、温度環境や継続的使用に起因する摺動性の低下を解消することができ、相手側部材との間の摩擦抵抗の上昇を効果的に抑えることができる。そのため、摺動時に異音(スティックスリップ音)が発生したり、車両の乗り心地が悪くなる等の問題を、解消することができる。
【0067】
図1及び
図2は、上記防振ゴム組成物を用いてなる防振ゴムとして、スタビライザブッシュ1の一例を示したものである。図示するように、スタビライザブッシュ1は、断面円形状をなす中空部2にスタビライザバー(後述の異音試験では鉄製バー)4を挿通保持するように構成されている。また、厚肉筒状をなすスタビライザブッシュ1の本体(ゴム部)3は、略U字形のブラケット(不図示)内に保持されて、該ブラケットを介して車体側に固定されるように構成されている。
【0068】
このようなスタビライザブッシュ1は、金属部品であるスタビライザバー4を嵌め込んで使用されるため、発進時や急ブレーキ時、旋回時等に、スタビライザバー4とスタビライザブッシュ1内孔表面(中空部2内周面)との接触部分において回転力や拗れ力がかかり、スティックスリップ現象により異音が発生し易い。そのため、スタビライザブッシュ1を本発明のような防振ゴム組成物(自己潤滑ゴム組成物)で形成することにより、潤滑成分(脂肪酸アミド)が徐々にゴム表面析出して自己潤滑剤として働き、広い温度範囲で摩擦係数を低減させることで異音の発生を防止することができる。また、この場合、仮にスタビライザブッシュ1が時間の経過とともにへたると、スタビライザブッシュ1とスタビライザバー4との間に隙間が生じ、そこに泥水などが侵入することにより異音の原因となることも考えられ得るが、本発明のような防振ゴム組成物によれば耐へたり性に優れるので、このような泥水の侵入も効果的に防止することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
≪防振ゴム組成物の作成≫
後記の表1~表3に示す割合で各種材料を配合して混練することにより、防振ゴム組成物を調製した。なお、上記混練は、まず、加硫剤と加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いて5分間混練し、ついで、オープンロールを用いて、冷却水温度を約20℃冷却しながらバンバリーミキサーで混錬したゴムに加硫剤と加硫促進剤を添加し、5分間混練することにより防振ゴム組成物(実施例1~16,比較例1~8)を作成した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
なお、表1~表3に記載した材料は、次の通りである。
・天然ゴム:SVR CV60
・ブタジエンゴム‐1:シス1,4‐結合量94%、ムーニー粘度(ML1+4)55、JSR株式会社製「BR‐730」
・ブタジエンゴム‐2:シス1,4‐結合量96%、ムーニー粘度(ML1+4)44、JSR株式会社製「BR‐01」
・ハイスチレンゴム:商品名「JSR 0061」、JSR社製、結合スチレン量66質量%
・酸化亜鉛:堺化学工業社製「亜鉛華2種」
・ステアリン酸:日本油脂株式会社製「ステアリン酸つばき」
・老化防止剤‐1:(N‐フェニル‐N’‐(1,3‐ジメチルブチル)‐p‐フェニレンジアミン)、LANXESS社製「ブルカノックス4020」
・老化防止剤‐2:(2‐メルカプトベンズイミダゾール)大内振興株式社製「ノクラックMB」
・老化防止剤‐3:(ワックス)日本精蝋株式会社「オゾエース0100」
・カーボンブラック‐1:窒素吸着比表面積47m2/g(MAF級)、日鉄カーボン株式会社製「ニテロン#10」
・カーボンブラック‐2:窒素吸着比表面積39m2/g(FEF級)、日鉄カーボン株式会社製「HTC#100」
・カーボンブラック‐3:窒素吸着比表面積76m2/g(HAF級)、キャボットジャパン株式会社製「VULCAN3D」
・カーボンブラック‐4:窒素吸着比表面積108m2/g(ISAF級)、キャボットジャパン株式会社製「VULCAN6J」
・カーボンブラック‐5:窒素吸着比表面積26m2/g(GPF級)、日鉄カーボン株式会社製「ニテロン55S」
・脂肪酸アミド‐1:エルカ酸アミド 融点81℃、三菱ケミカル株式会社製「ダイヤミッドL‐200」
・脂肪酸アミド‐2:パルミチン酸アミド 融点100℃、三菱ケミカル株式会社製「ダイヤミッドKP」
・オイル:ENEOS株式会社製「クリセフオイルH56」
・加硫系‐1 (硫黄):鶴見化学工業社製「金華印微粉硫黄200Mesh」
・加硫系‐2 テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィド:大内振興化学工業株式会社製「ノクセラーTOT‐N」
・加硫系‐3 N‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド:ランクセス社製「ブルカレントE/C」
・加硫系‐4 (4,4’‐ジチオジモルホリン):川口化学株式会社製「アクターR」
・加硫系‐5 (2‐(4’‐モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール):大内振興化学株式会社製「ノクセラーMDB‐P」
・加硫系‐6 ジ‐2‐ベンゾチアゾリルジスルフィド:大内振興化学株式会社製「ノクセラーDM」
・加硫系‐7 (N‐オキシジエチレン‐2‐ベンゾチアゾリルスルフェンアミド:川口化学株式会社製「アクセルNS」
・加硫系‐8 :テトラブチルチウラムジスルフィド:川口化学株式会社製「アクセルTBT」
・加硫系‐9 テトラメチルチウラムジスルフィド):大内振興化学株式会社製「ノクセラーTT‐P」
・加硫系‐10 N‐シクロヘキシルチオフタルイミド:東レ株式会社製「リターダーCTP」
表1~表3に記載の防振ゴム組成物(実施例1~16,比較例1~8)の評価方法および評価サンプルの作成方法、及び各項目の判定基準は、以下の通りである。各評価結果及び判定結果は、後記の表4、表5及び表6に示す。
【0075】
≪加硫特性試験‐加硫速度の測定(未加硫試験)≫
JIS K6300‐2に準拠し、キュラストメータV型を用い、測定温度150℃、振幅角度±1°、振動数100cpmにて20分間加硫曲線を描き、当該加硫曲線からtC(10),tC(90)値を求めた。
【0076】
評価判断として、tC(10)が2分未満のものは、加硫開始時間が短く、成形加工中にスコーチ(ゴム焼け)を起こし易いため×、tC(10)が2分以上3分未満のものは、スコーチに注意が必要なため△、tC(10)が3分以上のものは〇とした。
【0077】
≪ムーニースコーチタイム≫
実施例1~16,比較例1~8の各防振ゴム組成物において、JIS 6300‐1に準拠して、ムーニー粘度計にてL形ロータを用い、測定温度125℃におけるムーニー粘度の最低値をVmとし、当該Vmより5M上昇する時間t5を測定し、当該t5をムーニースコーチタイムとした。
【0078】
評価判断として、ムーニースコーチタイムが10分未満ものは、スコーチを起こし易いため×、ムーニースコーチタイムが10分以上15分未満のものは、未加硫ゴムの保存期間や防振ゴム成形方法に制限が出てくるため△とし、ムーニースコーチタイムが15分以上のものは〇とした。
【0079】
≪評価サンプル(加硫ゴム)の作成≫
・厚み2mm加硫ゴムシートの作成:実施例1~16,比較例1~8の各防振ゴム組成物において、ゴムの厚みが2mmとなるキャビティの2mmシート用金型を用いたコンプレッション成形により、150℃での加硫時間(tC(90)+5)分の加硫成型を行って、厚み2mm加硫ゴムシート(以下、単に評価用ゴムシートと適宜称する)を得た。
【0080】
・圧縮永久歪み試験用加硫ゴム試験片の作成:実施例1~16,比較例1~8の各防振ゴム組成物において、直径29.0mm×高さ12.5mmの円柱状の試験片作成用金型を用い、150℃での加硫時間(tC(90)+10)分の加硫成型を行って、直径29.0mm×高さ12.5mmの円柱状の圧縮永久歪試験用加硫ゴム試験片(以下、単にゴム試験片と適宜称する)を得た。
【0081】
・防振ゴムの成形:実施例1~16,比較例1~8の各防振ゴム組成物において、型締め力50tonのインジェクション成形機を用いて、
図1に示すスタビライザブッシュ1のような形状となるように150℃にて8分間加硫成形して防振ゴム(スタビライザブッシュ;以下、単に評価用防振ゴムと適宜称する)を成形した。
【0082】
このようにして得られた実施例1~16,比較例1~8の防振ゴム組成物の加硫ゴム(評価用ゴムシート,ゴム試験片,評価用防振ゴム)を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果は、後記の表4~表6に併せて示した。なお、各評価項目の評価方法は次の通りである。
【0083】
≪引っ張り物性≫
実施例1~16,比較例1~8の各防振ゴム組成物において得られた評価用ゴムシートを、JIS3号ダンベルで打ち抜き、JIS K 6251に準拠して破断強度(TB)、破断伸び(EB)を測定し、およびJIS K 6253‐3に準拠してゴム硬さ(HA:JIS A)を測定した。評価判断として、破断強度(TB)が10MPa以上のものは〇、10MPaよりも小さいものは、強度が低いため、防振ゴムによっては使用が難しい場合もあるため△とした。
【0084】
≪耐へたり性‐圧縮永久歪み率≫
実施例1~16,比較例1~8の各防振ゴム組成物において得られたゴム試験片を、JIS K6262(圧縮永久歪み)に準拠して、治具を用い、高さ方向に25.0%圧縮した状態(高さ9.38mm)で、雰囲気温度100℃の恒温槽中に下記時間放置した後、治具ごと取り出して速やかに当該ゴム試験片を解放した。この解放後、23℃の雰囲気下で木製の台上に30分放置してゴム試験片の高さを測定して、圧縮永久歪みCS(%)を算出した。100℃恒温槽中の放置時間は、22時間、72時間、150時間、500時間の4種類実施した。圧縮永久歪みが小さいほど、耐へたり性に優れる。そこで、評価判断として、上記圧縮永久歪みCS(%)‐500時間が40%未満のものは〇とし、40%以上50%未満ものは△、50%を超えるものは×とした。
【0085】
≪摩擦係数≫
〔摩擦係数測定方法〕
実施例1~16,比較例1~8の各防振ゴム組成物において得られた評価用ゴムシートを作成後23℃にて24時間放置してから50mm×10mmに切り取ったサンプルS作成し、即座に23℃雰囲気下で
図5に示すヘイドン摩擦摩耗試験機6を用いて摩擦係数を測定した。すなわち、可動方向50mm・幅10mmの厚み2mmのサンプルSを、
図5に示すように固定台60上を移動可能な可動台61上に接着し、この可動台61を面方向(図中黒抜き矢印方向)に毎秒16.7mmの速度で16.7mm移動させたとき、ロードセル62に固定されて移動不可能な相手材63に加わる力(F)をロードセル62で測定した。符号64は、ロードセル62と相手材63との間を支点にして当該相手材63を位置調整するする操作レバーであり、符号65は、ロードセル62と前記支点との間に装着されるバランサーである。
【0086】
ここで、相手材63としては、接触面が10mm×10mm、面粗度(Rmax)が5~10μmのステンレス製のものを使用した。また、相手材63には、100gの荷重(ウェイト)Wを載置した。摩擦係数μは、F=μMの式にて算出されるμ値である。なお、可動台61を移動し始めて最初に得られる摩擦係数ピークを静摩擦係数(μs)、その後16.7mm移動する間に得られる摩擦係数の平均値を動摩擦係数(μd)とした。
【0087】
〔摩擦係数の判定〕
上記摩擦試験の評価判断において、静摩擦係数が0.8未満を〇、0.8以上1.0未満は使用できる可能性があるため△、1.0以上は×とし、動摩擦係数が0.6未満を〇、0.6以上1.0未満を△、1.0以上は×とし、静摩擦係数と動摩擦係数のそれぞれの〇/△/×判定した中で何れかでも×があれば、摩擦係数試験判定×とし、×が1つもなく何れかの判定が△があれば△判定とし、何れも〇のものを〇判定とした。
【0088】
≪防振ゴム評価‐スタビライザブッシュ評価≫
図1及び
図2に示すように中空部2(直径20mm)を有したスタビライザブッシュ1(外寸42mm)において、以下に示す項目〔異音試験〕,〔耐熱耐久試験‐亀裂発生〕,〔耐熱耐久試験‐へたり〕に基づいて亀裂発生有無、へたり量(耐へたり性判定)を測定した。
【0089】
〔異音試験〕
まず、
図3,
図4に示すように、スタビライザブッシュ1の本体3に設けられている直径20mmの中空部2に、表面が電着塗装(カチオン塗装)された直径21.0mmの鉄製バー4を挿通してから、当該スタビライザブッシュ1を、略U字状ブラケット5により中空部2径方向の寸法(
図4では図示上下方向の高さ)が37mmとなるように圧縮をかけた状態で、固定台50に固定した。
【0090】
次に、鉄製バー4を、ねじり方向(
図4中では矢印で示すねじり方向)へ±10°,周波数1Hzで軸回転(入力)した。この軸回転を、雰囲気温度‐30℃、及び100℃で10分間行い、その際の異音の発生の有無を測定した。評価判断としては、上記軸回転開始から10分までの間に異音発生が無かったものを〇、異音発生が生じたものを×とした。
【0091】
〔耐熱耐久試験〕
まず、前記項目〔異音試験〕と同じように、鉄製バー4が挿通されたスタビライザブッシュ1を略U字状ブラケット5により圧縮しながら固定台50に固定した状態のものを、100℃にて500時間放置した後、さらに常温(23℃)雰囲気下に24時間放置してから、耐久性試験を実施した。
【0092】
この耐久性試験の方法は、スタビライザブッシュ1に対して軸直角方向(
図4では図示上方向)に±8000Nを加えながら、ねじり方向±5°の軸回転(周波数;1Hz)による2軸耐久試験を常温(23℃)にて10万回実施した。
【0093】
〔耐熱耐久試験‐亀裂発生〕
前記項目〔耐熱耐久試験〕終了後、スタビライザブッシュ1の亀裂発生の有無を確認することにより行った。評価判断としては、亀裂発生がなかったものを〇、亀裂が発生したものを×とした。
【0094】
〔耐熱耐久試験‐へたり〕
前記項目〔耐熱耐久試験〕終了後、鉄製バー4及び略U字状ブラケット5を取り外し、耐熱耐久試験後のスタビライザブッシュ1の外寸及び本体3に設けられている初期直径(20mm)の中空部2の外径を測定し、スタビライザブッシュ1の外寸と中空部2の外径の差を〔耐熱耐久試験〕終了後のゴム厚さとした。初期(耐熱耐久試験前)のスタビライザブッシュ1のゴム厚さは外寸略42mm-中空部外径略20mm=略22mmである。一方、鉄製バー4挿入及び略U字状ブラケット5組付け時のゴム厚さは、37mm-21mm=16mmである。この初期ゴム厚さと〔耐熱耐久試験〕終了後のゴム厚さの差を求め、この値をへたり量とした。即ち、耐熱耐久試験前後でゴム厚さに差が無いものは、へたり量が0mm(0%)であり、〔耐熱耐久試験〕終了後、鉄製バー4及び略U字状ブラケット5を取り外しても全く復元しないものは、へたり量22mm-16mm=6mm(100%)である。評価判断としては、へたり量が0mm以上から2.5mm以下のものを〇、2.5mmを超えて4mm以下のものを△、4mmを超えるものを×とした。
【0095】
≪総合判定≫
上記評価項目の全てが〇のものは総合判定〇、△が3個以下含まれるが他は〇のものは使用できる可能性があるため総合判定〇△、一つでも判定に×が含まれるものは総合判定×とした。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
表4~表6に示す通り、天然ゴム(NR)とブタジエンゴムを主ゴム成分とし、かつ、全ゴム成分を100質量部としたとき脂肪酸アミドを10~50質量部含有する防振ゴム組成物において、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)が、質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=50/50~10/90の割合で含み、加硫剤としてイオウを0.1~0.6質量部含有し、かつ、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~3.0質量部含有した防振ゴム組成物を用いたものは、総合判定において、全て〇△~〇であった(実施例1~16)
一方で、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)が、質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=50/50~10/90の割合から外れるものや、加硫剤としてイオウを0.1~0.6質量部含有し、かつ、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~3.0質量部含有していないものは、総合判定において×となった。
【0100】
[本発明による防振ゴム組成物の効果]
以上のように、本発明の防振ゴム組成物は、天然ゴム(NR)とブタジエンゴムを主ゴム成分とし、かつ、全ゴム成分を100質量部としたとき脂肪酸アミドを10~50質量部含有する防振ゴム組成物において、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)が、質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=50/50~10/90の割合で含み、加硫剤としてイオウを0.1~0.6質量部含有し、かつ、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィドを7~30質量部含有するとともにN‐フェニル‐N‐(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを0.5~3.0質量部含有することで、摩擦係数の低減効果が充分に発揮され、耐スコーチ性に優れるため生産性が良く、圧縮永久歪に優れることから耐へたり性に優れ、安定したゴム強度をもった防振ゴム組成物およびそれを用いた防振ゴムを得ることができる。
【0101】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る防振ゴム組成物は、スタビライザブッシュなどの防振ゴムとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
1…スタビライザブッシュ
2…中空部
3…本体(ゴム部)
4…スタビライザバー
5…ブラケット