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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】燃料デブリの処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G21F9/30 519A
G21F9/30 519P
G21F9/30 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022011582
(22)【出願日】2022-01-28
(65)【公開番号】P2023110249
(43)【公開日】2023-08-09
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中原 宏尊
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-046967(JP,A)
【文献】特開2014-029319(JP,A)
【文献】特開2017-211194(JP,A)
【文献】特開2020-134425(JP,A)
【文献】日本原子力研究開発機構、日立GEニュークリア・エナジー,燃料デブリ取出しに伴い発生する廃棄物のフッ化技術を用いた分別方法の研究開発(委託研究),JAEA-Review,No.2020-034,日本,日本原子力研究開発機構,2021年01月,pp. 1-191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料デブリをガラス固化体とする燃料デブリの処理方法であって、
前記燃料デブリをハロゲン化処理工程でフッ化処理して核燃料物質を揮発させた後、残されたフッ化残渣を酸化物に転換し、その後、得られた前記酸化物をガラス母材と混ぜ合わせてガラス固化体とするにあたって、
前記ハロゲン化処理工程が多段階で実施されるものであり、
前記燃料デブリを第1のハロゲン化処理工程で余剰フッ素ガスと反応させると共に、前記第1のハロゲン化処理工程のハロゲン化により、揮発成分としてフッ化ケイ素、余剰フッ素ガスB、酸素ガスB及び核燃料物質Aが発生し、これらはガス分離工程Aに送られて前記核燃料物質Aのみが分離され、
一方、前記第1のハロゲン化処理工程においてフッ化されたフッ化残渣Aを第2のハロゲン化処理工程に送り、前記第2のハロゲン化処理工程ではフッ素ガスと反応させると共に、前記フッ化残渣Aを前記第2のハロゲン化処理工程のハロゲン化により、揮発成分として核燃料物質B、余剰フッ素ガスA及び酸素ガスAが発生し、これらはガス分離工程Bに送られて前記核燃料物質Bのみが分離され、
更に、前記第2のハロゲン化処理工程においてフッ化されたフッ化残渣Bは、酸化処理工程に送られ、前記酸化処理工程では、水蒸気と反応させることで化学形態を酸化物に転換し、得られた固体は廃棄物としてガラス固化工程に送られ、前記ガラス固化工程では、廃棄物とガラス母材を溶融し、その後、冷却して固化することでガラス固化体を得ることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【請求項2】
請求項に記載の燃料デブリの処理方法であって、
前記第1のハロゲン化処理工程に用いる余剰フッ素ガスは、前記第2のハロゲン化処理工程のオフガスから前記核燃料物質を分離したガスである余剰フッ素ガスAであることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【請求項3】
請求項又はに記載の燃料デブリの処理方法であって、
前記ガス分離工程A又は前記ガス分離工程Bでは、UFを凝縮させて回収するコールドトラップを用いて前記核燃料物質A又は核燃料物質Bのみが分離されることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【請求項4】
請求項乃至のいずれか1項に記載の燃料デブリの処理方法であって、
前記第1のハロゲン化処理工程においてハロゲン化処理する温度は、フッ化によりUFが生成しない350℃以下であり、かつ、前記第2のハロゲン化処理工程においてハロゲン化処理する温度は、フッ化によりUFが生成する350℃以上であることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【請求項5】
燃料デブリをガラス固化体とする燃料デブリの処理方法であって、
前記燃料デブリをハロゲン化処理工程でフッ化処理して核燃料物質を揮発させた後、残されたフッ化残渣を酸化物に転換し、その後、得られた前記酸化物をガラス母材と混ぜ合わせてガラス固化体とするにあたって、
前記ハロゲン化処理工程が多段階で実施されるものであり、
前記燃料デブリを第1のハロゲン化処理工程で余剰フッ化水素ガスAと反応させると共に、前記第1のハロゲン化処理工程のハロゲン化により、揮発成分としてフッ化ケイ素B、余剰フッ化水素ガスB及び水蒸気Bが発生し、これらはガス分離工程Aに送られて前記フッ化ケイ素Bのみが分離され、
一方、前記第1のハロゲン化処理工程においてフッ化されたフッ化残渣Aを第2のハロゲン化処理工程に送り、前記第2のハロゲン化処理工程ではフッ化水素ガスと反応させると共に、前記フッ化残渣Aを前記第2のハロゲン化処理工程のハロゲン化により、揮発成分としてフッ化ケイ素A、余剰フッ化水素ガスA及び水蒸気Aが発生し、これらはガス分離工程Bに送られて前記フッ化ケイ素Aのみが分離され、
更に、前記第2のハロゲン化処理工程においてフッ化されたフッ化残渣Bを第3のハロゲン化処理工程に送り、前記第3のハロゲン化処理工程ではフッ素ガスと反応させると共に、前記フッ化残渣Bを前記第3のハロゲン化処理工程のハロゲン化により、揮発成分として核燃料物質C及び余剰フッ素ガスが発生し、これらはガス分離工程Cに送られて前記核燃料物質Cのみが分離され、
更に、前記第3のハロゲン化処理工程においてフッ化されたフッ化残渣Cは、酸化処理工程に送られ、前記酸化処理工程では、水蒸気と反応させることで化学形態を酸化物に転換し、得られた固体は廃棄物としてガラス固化工程に送られ、前記ガラス固化工程では、廃棄物とガラス母材を溶融し、その後、冷却して固化することでガラス固化体を得ることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【請求項6】
請求項に記載の燃料デブリの処理方法であって、
前記第1のハロゲン化処理工程に用いる余剰フッ素ガスは、前記第2のハロゲン化処理工程のオフガスから前記フッ化ケイ素Aを分離したガスである余剰フッ化水素ガスAであることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【請求項7】
請求項又はに記載の燃料デブリの処理方法であって、
前記ガス分離工程Aでは、フッ化水素と水蒸気を凝縮させて回収するコールドトラップを用いて前記フッ化ケイ素Bのみが分離され、前記ガス分離工程Cでは、UFを凝縮させて回収するコールドトラップを用いて前記核燃料物質Cのみが分離されることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【請求項8】
請求項乃至のいずれか1項に記載の燃料デブリの処理方法であって、
前記第1のハロゲン化処理工程においてハロゲン化処理する温度は、600℃以下であることを特徴とする燃料デブリの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における燃料デブリの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所(1F)の燃料デブリは、炉内から取り出された後、しばらく保管される。燃料デブリは核燃料物質や核分裂生成物などの放射性物質を含むため、処理して安定な形態にした後、最終的には安全に処分する必要がある。
【0003】
原子力発電や再処理で発生する放射性廃棄物については、安定に固化した後、その性質に応じて各種処分場において埋設処分される。再処理で発生する高レベル放射性廃棄物は、半減期の長い放射性物質を含むため、安定なガラス固化体とした後、多重バリアを施したうえで地層処分することが考えられている。
【0004】
燃料デブリは使用済燃料が溶融して生成しているため、半減期の長い放射性物質が含まれる。そのため、燃料デブリを最終的に処分するためには、長期に渡って安定性が保たれるような廃棄体とした後に、同じく長期に渡って安全が確保されるよう処分することが必要である。
【0005】
このようなことから、再処理で発生する高レベル放射性廃棄物のように、安定なガラス固化体にして地層処分する方法は燃料デブリの処理・処分方法として有力な方法の一つである。
【0006】
高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の代表的な組成の例(単位はwt%)が非特許文献1に記載されており、これを表1に示す。
【0007】
【表1】
【0008】
ガラス固化体では、ガラスマトリクス中に放射性核種を閉じ込めることで放射性核種を放出されにくくする。表1に示されるように、ガラスの母材は主にSiOやBであり、閉じ込める放射性核種は核分裂生成物(FP)の酸化物とアクチノイド(AC)の酸化物である。表1によると、AC酸化物とFP酸化物の物量の比は、組成Aの場合はおよそ1:14、組成Bの場合はおよそ1:4である。即ち、ガラス固化体においてはFP酸化物に比べてAC酸化物が少ないという特徴があり、代表的なガラス固化体におけるAC酸化物とFP酸化物の比は1:4~1:14の範囲であると言える。
【0009】
一方、非特許文献2には、福島第一原子力発電所(1F)における燃料デブリの物量がWashiyaらによって推定されている。Washiyaらの推定に基づいて、コンクリートが核燃料物質とほぼ同等量発生すると想定して設定した燃料デブリの物量を表2に示す。
【0010】
【表2】
【0011】
一方、燃料デブリから核燃料物質を回収する方法としてフッ化処理することが、特許文献1に記載されている。
【0012】
即ち、特許文献1には、溶融した核燃料物質の回収に要する時間を短縮するために、原子炉格納容器に取り囲まれた原子炉圧力容器内にフッ素ガスを供給し、前記フッ素ガスが前記原子炉圧力容器内に存在する燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれと反応して揮発性のウランフッ化物及び揮発性のプルトニウムフッ化物を生成し、生成された前記揮発性のウランフッ化物及び前記揮発性のプルトニウムフッ化物を、前記原子炉圧力容器から、前記原子炉格納容器の外部に存在するコールドトラップに導いて前記コールドトラップ内で固化して回収することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2016-48209号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】JNC TN8400 99-085 (1999).
【文献】T. Washiya et al., “Study of Treatment Scenarios for Fuel Debris Removed from FUKUSHIMA DAIICHI NPS”, Proceedings of ICONE-23, ICONE23-1953, May 17-21, 2015, Chiba, Japan (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
燃料デブリは、燃料に由来する核燃料物質、被覆管材料、構造材、コンクリートで構成され、代表的な成分は、それぞれUO、Zr、Fe、SiOと想定される。
【0016】
燃料デブリをそのままガラス固化することを検討する時、燃料デブリの各成分がガラス母材となるか閉じ込め対象となるかを分類する必要がある。
【0017】
まず、核燃料物質のウランはアクチノイド元素であるため、ガラスマトリックスに閉じ込めるAC酸化物に相当する。一方、コンクリートのSiOはガラスの成分であるため、ガラス母材に相当する。被覆管材料のZrや構造材のFeはガラス母材には含まれないか含まれる場合でもごく少量であるため、ガラスマトリックス中に閉じ込める対象とみなすことが妥当と考えられ、かつ、ZrとFeはアクチノイド元素ではないため、FP酸化物に分類することが妥当である。
【0018】
このように分類すると、表2の物量に基づいてガラス固化するAC酸化物とFP酸化物の比を評価すると、その比はおよそ1:0.8となり、燃料デブリはAC酸化物の割合が非常に高いことが分かる。即ち、燃料デブリをガラス固化する場合は既存のガラス固化体中のAC酸化物とFP酸化物の比の範囲から大きく外れるため、燃料デブリをそのままガラス固化体にすることは難しい。
【0019】
上述した特許文献1及び非特許文献1、2には、上記した課題を解決するための対策については何も記載されていない。
【0020】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、燃料デブリをフッ化処理して核燃料物質をフッ化揮発させて分離し、残されたフッ化残渣を酸化物に転換してからガラス固化することで、最終的に燃料デブリを処分に適したガラス固化体とできる上、ガラス固化する際に実績のある組成比となるためガラス固化しやすくなる燃料デブリの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
発明者らは、核燃料物質は資源であるため、燃料デブリから選択的に回収し、残された物質を廃棄物としてガラス固化することを考えた。
【0022】
即ち、本発明の燃料デブリの処理方法は、上記目的を達成するために、燃料デブリをガラス固化体とする燃料デブリの処理方法であって、前記燃料デブリをハロゲン化処理工程でフッ化処理して核燃料物質を揮発させた後、残されたフッ化残渣を酸化物に転換し、その後、得られた前記酸化物をガラス母材と混ぜ合わせてガラス固化体とするにあたって、
前記ハロゲン化処理工程が多段階で実施されるものであり、
前記燃料デブリを第1のハロゲン化処理工程で余剰フッ素ガスと反応させると共に、前記第1のハロゲン化処理工程のハロゲン化により、揮発成分としてフッ化ケイ素、余剰フッ素ガスB、酸素ガスB及び核燃料物質Aが発生し、これらはガス分離工程Aに送られて前記核燃料物質Aのみが分離され、
一方、前記第1のハロゲン化処理工程においてフッ化されたフッ化残渣Aを第2のハロゲン化処理工程に送り、前記第2のハロゲン化処理工程ではフッ素ガスと反応させると共に、前記フッ化残渣Aを前記第2のハロゲン化処理工程のハロゲン化により、揮発成分として核燃料物質B、余剰フッ素ガスA及び酸素ガスAが発生し、これらはガス分離工程Bに送られて前記核燃料物質Bのみが分離され、
更に、前記第2のハロゲン化処理工程においてフッ化されたフッ化残渣Bは、酸化処理工程に送られ、前記酸化処理工程では、水蒸気と反応させることで化学形態を酸化物に転換し、得られた固体は廃棄物としてガラス固化工程に送られ、前記ガラス固化工程では、廃棄物とガラス母材を溶融し、その後、冷却して固化することでガラス固化体を得ることを特徴とする。
【0023】
核燃料物質であるUOは、(1)式に示すように、フッ素ガスと反応すると六フッ化物(昇華点:56.5℃)として揮発する。
【0024】
【化1】
【0025】
また、コンクリート成分のSiOは、(2)式に示すように、フッ素ガスと反応すると四フッ化物(昇華点:-95.7℃)として揮発する。
【0026】
【化2】
【0027】
ZrやFeは、(3)式及び(4)式に示すように、フッ素ガスと反応してフッ化物を生成するが、揮発性が低いため固体として残留する。
【0028】
【化3】
【0029】
【化4】
【0030】
フッ化揮発したウランは、回収して核燃料物質として有効利用できるため、フッ化後の残留物(以下、フッ化残渣という)が最終的には廃棄物となる。フッ化物のままではガラス固化できないため、ガラス固化する前に酸化物に転換することとし、フッ化残渣を酸化物に転換した場合の各物質の重量を表2に示した。
【0031】
なお、原理的には、UとSiは全量がフッ素ガスと反応してガスとして揮発するが、保守的にフッ化時の揮発率を90%としてフッ化残渣の重量を評価した。
【0032】
フッ化残渣をガラス固化する場合、前述の燃料デブリの場合と同様に、核燃料物質がAC酸化物、被覆管材料と構造材がその他の固化対象という位置づけでFP酸化物に相当することとなる。
【0033】
この場合、AC酸化物が30t、FP酸化物が318tとなり、AC酸化物とFP酸化物の比は、およそ1:11となる。この比は、代表的なガラス固化体におけるAC酸化物とFP酸化物の比である1:4~1:14の範囲内であり、ガラス固化しやすいといえる。
【0034】
即ち、燃料デブリをあらかじめフッ化処理した後、フッ化残渣を酸化物に転換してからガラス固化することで、燃料デブリを地層処分に適したガラス固化体とできる上、ガラス固化する際に実績のある組成比となるためガラス固化しやすくなる効果が得られる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、燃料デブリをフッ化処理して核燃料物質をフッ化揮発させて分離し、残されたフッ化残渣を酸化物に転換してからガラス固化することで、最終的に燃料デブリを処分に適したガラス固化体とできる上、ガラス固化する際に実績のある組成比となるためガラス固化しやすくなる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の燃料デブリの処理方法の実施例1を示すフローチャートである。
図2】本発明の燃料デブリの処理方法の実施例2を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の燃料デブリの処理方法を説明する。
【実施例1】
【0038】
本発明の燃料デブリの処理方法の実施例1について、図1を用いて説明する。
【0039】
図1は、燃料デブリの処理方法の実施例1を示すフローチャートである。本実施例の燃料デブリの処理方法は、図1に示すように、第1のハロゲン化処理工程1、第2のハロゲン化処理工程2、第1のハロゲン化処理工程1におけるガス分離工程A6、第2のハロゲン化処理工程2におけるガス分離工程B3、酸化処理工程4、ガラス固化工程5が実行される。
【0040】
以下に、本実施例の燃料デブリの処理方法について詳細に説明する。
【0041】
燃料デブリ10を第1のハロゲン化処理工程1でフッ素ガスと反応させる。第1のハロゲン化処理工程1に用いるガスは、第2のハロゲン化処理工程2のオフガスから核燃料物質B18を分離したガスである余剰フッ素ガスA11である。なお、余剰フッ素ガスA11には、不純物として反応生成物である酸素ガスA12が同伴している。
【0042】
第1のハロゲン化処理工程1のハロゲン化により、揮発成分としてフッ化ケイ素13と余剰フッ素ガスB14と酸素ガスB15と核燃料物質A24が発生する。これらのガスはガス分離工程A6に送られ、核燃料物質A24のみが分離される。
【0043】
ガス分離工程A6で用いる機器は、具体的にはUFを凝縮させて回収するコールドトラップである。コールドトラップの温度は、フッ素ガスや酸素ガスは凝縮せずにUFのみが凝縮する温度で、例えば、0℃程度が望ましい。凝縮させて回収したUFは、核燃料物質としてリサイクルする。核燃料物質が分離された残りのガスは2次廃棄物として処理・処分されるが、フッ化ケイ素は酸化物に転換してSiOとした後にガラス母材としてガラス固化工程5で使用してもよい。
【0044】
なお、第1のハロゲン化処理工程1においてハロゲン化処理する温度は、フッ化によりUFが生成しない350℃以下としても良い。その場合の反応を以下の(5)式に示す。
【0045】
【化5】
【0046】
本反応では、固体のUOが生成するため、核燃料物質A24のような揮発性の核燃料物質が発生しないため、核燃料物質A24を気体中から回収する必要がなくなる。この場合、ガス分離工程A6を省略できる効果が生まれる。
【0047】
一方、反応速度を向上しつつ、不純物成分のフッ化揮発ガスの反応容器への付着を抑制する観点から、ハロゲン化処理の温度は100℃以上が望ましい。
【0048】
フッ化残渣A16は、第2のハロゲン化処理工程2に送られる。第2のハロゲン化処理工程2では、フッ素ガス17を用いる。本工程では、核燃料物質B18をフッ化揮発したいため、ハロゲン化処理する温度は、フッ化によりUFが生成する350℃以上が望ましい。
【0049】
第2のハロゲン化処理工程2のハロゲン化により、揮発成分として核燃料物質B18と余剰フッ素ガスA11と酸素ガスA12が発生する。これらのガスはガス分離工程B3に送られ、核燃料物質B18のみが分離される。
【0050】
ガス分離工程B3で用いる機器は、具体的には、UFを凝縮させて回収するコールドトラップである。コールドトラップの温度は、フッ素ガスや酸素ガスは凝縮せずUFのみが凝縮する温度で、例えば、0℃程度が望ましい。凝縮させて回収したUFは核燃料物質としてリサイクルする。
【0051】
なお、第1のハロゲン化処理工程1で温度を350℃以下としていた場合、第2のハロゲン化処理工程2の反応は、以下の(6)式のようになる。
【0052】
【化6】
【0053】
フッ化残渣B19は、酸化処理工程4に送られる。ここでは、水蒸気20と反応させることで、化学形態を酸化物に転換する。得られた固体は廃棄物21としてガラス固化工程5に送られる。ここでは、廃棄物21とガラス母材22を高温で溶融し、その後で冷却して固化することでガラス固化体23を得る。
【0054】
本実施例におけるフッ素ガスの使用量を説明する。
【0055】
表3に、燃料デブリに含まれる物質の物量と、それらを完全にフッ化するために必要なフッ素量をフッ化反応式に基づいて評価した結果を示す。
【0056】
【表3】
【0057】
燃料デブリの全量を826.6tと想定すると、表3のように、各物質が代表化合物であると仮定して全物質量を概算すると、9.4Mmol(9.4×10mol)となる。また、フッ化反応式に基づいてフッ化に必要なフッ素量を評価すると、燃料デブリの全量をフッ化するために必要なF量は18.9Mmolとなる。実施例1では、第1のハロゲン化処理工程1で18.9Mmolのフッ素ガスを供給する。フッ素は強い反応剤であるため、原理的には完全にフッ化反応で消費される。
【0058】
本実施例では、保守的に90%がフッ化反応で消費されると想定する。その場合、10%が未反応のフッ素ガス(余剰フッ素ガスB14)として2次廃棄物(1.9Mmol)となる。
【0059】
なお、この時のフッ素のマスバランスを評価した結果を表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
次いで、フッ化残渣A16を第2のハロゲン化処理工程2で18.9Mmolのフッ素ガスと反応させる。フッ化残渣A16は、第1のハロゲン化処理工程1で余剰フッ素ガスA11と反応して90%がフッ化されている。そのため、フッ化残渣A16のフッ化に必要なフッ素量は1.9Mmolであり、第2のハロゲン化処理工程2では、フッ化に必要なフッ素量の10倍のフッ素を供給していることとなる。かなり過剰なフッ素を供給してフッ化しているため、フッ化残渣A16は完全にフッ化される。余剰フッ素ガスA11は、第1のハロゲン化処理工程1で再利用されるため、2次廃棄物は発生しない。なお、余剰フッ素ガスA11は、不足する分だけフッ素ガスを足して第1のハロゲン化処理工程1で使用する。
【0062】
第2のハロゲン化処理工程2におけるフッ素のマスバランスを評価した結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
比較のため、実施例1のように2段階でハロゲン化処理せずに、1回のハロゲン化処理で完全にフッ化する場合に発生する2次廃棄物の量を評価した結果を表6に示す。
【0065】
【表6】
【0066】
完全にフッ化するため、フッ化に必要な10倍のフッ素量(189Mmol)を供給することを想定した。この場合、2次廃棄物となるフッ素量は170.1Mmolとなる。
【0067】
以上の検討結果から、実施例1のように2段階でハロゲン化処理することで、2次廃棄物となるフッ素の量をおよそ170.1Mmolから1.9Mmolに大幅に低減できる。
【0068】
本実施例によれば、燃料デブリをフッ化処理して核燃料物質をフッ化揮発させて分離し、残されたフッ化残渣を酸化物に転換してからガラス固化することで、最終的に燃料デブリを処分に適したガラス固化体とできる上、ガラス固化する際に実績のある組成比(AC酸化物とFP酸化物の比)となるため、ガラス固化しやすくなる効果が得られる。また、フッ化処理を多段階で実施することにより、2次廃棄物の発生量を低減する効果が得られる。
【実施例2】
【0069】
本発明の燃料デブリの処理方法の実施例2について、図2を用いて説明する。
【0070】
図2は、燃料デブリの処理方法の実施例2を示すフローチャートである。本実施例では、ハロゲン化剤としてフッ化水素を用いる。
【0071】
本実施例の燃料デブリの処理方法は、図2に示すように、本実施例は、第1のハロゲン化処理工程30、第2のハロゲン化処理工程31、第1のハロゲン化処理工程30におけるガス分離工程A32、第2のハロゲン化処理工程31におけるガス分離工程B33、第3のハロゲン化処理工程34、第3のハロゲン化処理工程34におけるガス分離工程C35、酸化処理工程36、ガラス固化工程37が実行される。
【0072】
以下に、本実施例の燃料デブリの処理方法について詳細に説明する。
【0073】
本実施例では、先ず燃料デブリ40を第1のハロゲン化処理工程30でフッ化処理する。フッ化処理に用いるガスは、第2のハロゲン化処理工程31のオフガスからフッ化ケイ素A48を分離したガスである余剰フッ化水素ガスA41である。余剰フッ化水素ガスA41には、不純物として反応生成物である水蒸気A42が同伴している。
【0074】
フッ化水素でUOをフッ化処理する際の反応式を、以下の(7)式に示す。
【0075】
【化7】
【0076】
ハロゲン化処理する温度は、装置材料の腐食を考慮して600℃以下が望ましい。
【0077】
なお、実施例1とは異なり、余剰フッ化水素ガスA41によるフッ化では反応温度を350℃以上にしてもウランは不揮発性の四フッ化ウランになるため、ウランのフッ化揮発を抑制するために反応温度を350℃以下にする必要はなく、反応速度を高めるために処理温度を高温にすることができる。
【0078】
また、実施例1と同様に、反応速度を向上しつつ、不純物成分のフッ化揮発ガスの反応容器への付着を抑制する観点から、ハロゲン化処理の温度は100℃以上が望ましい。
【0079】
第1のハロゲン化処理工程30のハロゲン化により、揮発成分としてフッ化ケイ素B43と余剰フッ化水素ガスB44と水蒸気B45が発生する。これらのガスは、ガス分離工程A32に送られる。
【0080】
ガス分離工程A32は、余剰フッ化水素ガスB44と水蒸気B45を凝縮させて回収するコールドトラップである。コールドトラップの温度は、フッ化ケイ素B43が凝縮せずに余剰フッ化水素ガスB44と水蒸気B45のみが凝縮する温度で、例えば、0℃程度が望ましい。凝縮させて回収した余剰フッ化水素ガスB44は、ハロゲン化剤としてリサイクルする。
【0081】
なお、実施例1ではフッ素ガスを用いるため、フッ化ケイ素(昇華点:-95.7℃)はフッ素ガス(沸点:-188℃)と共存しており、揮発する温度が低いためコールドトラップでは分離しにくい課題があった。
【0082】
実施例2ではフッ化水素でハロゲン化しており、フッ化水素(点:19.5℃)とフッ化ケイ素は容易にコールドトラップで分離できる。そのため、フッ化水素を2次廃棄物に移行させずにリサイクルできる効果がある。廃棄物となるフッ化ケイ素は、酸化物に転換してSiOとした後に、ガラス母材としてガラス固化工程37で使用してもよい。
【0083】
次いで、第1のハロゲン化処理工程30において、ほぼフッ化されたフッ化残渣A46を第2のハロゲン化処理工程31に送り、フッ化水素ガス47と反応させて完全にフッ化する。第2のハロゲン化処理工程31のハロゲン化により、揮発成分としてフッ化ケイ素A48と余剰フッ化水素ガスA41と水蒸気A42が発生する。これらのガスはガス分離工程B33に送られ、フッ化ケイ素A48が分離される。凝縮させて回収したフッ化水素は、ハロゲン化剤としてリサイクルする。
【0084】
第2のハロゲン化処理工程31によるフッ化残渣B49は、第3のハロゲン化処理工程34に送られる。ここでは、フッ素ガス50と反応させることで、フッ化残渣中のウランを六フッ化ウランにフッ化して揮発させる。発生したガスはガス分離工程C35に送り、実施例1で説明したコールドトラップにより核燃料物質C51と余剰フッ素ガス52を分離する。分離したフッ素ガス(余剰フッ素ガス52)は、ハロゲン化剤としてリサイクルする。フッ化残渣C53は酸化処理工程36に送られる。
【0085】
以下、実施例1と同様に、酸化処理工程36では、フッ化残渣C53を水蒸気54と反応させることで、化学形態を酸化物に転換する。得られた固体は廃棄物55としてガラス固化工程37に送られる。ここでは、廃棄物55とガラス母材56を高温で溶融し、その後で冷却して固化することで最終的にガラス固化体57を得る。
【0086】
本実施例によれば、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、ハロゲン化剤としてフッ化水素を用いることで、プロセス中においてハロゲン化剤とフッ化ケイ素を分離しやすくなる効果と、フッ化水素によるハロゲン化工程において反応温度を高くして反応を促進できる効果が得られる。
【0087】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加える事も可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をする事が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1、30…第1のハロゲン化処理工程、2、31…第2のハロゲン化処理工程、3、33…第2のハロゲン化処理工程におけるガス分離工程B、4、36…酸化処理工程、5、37…ガラス固化工程、6、32…第1のハロゲン化処理工程におけるガス分離工程A、10、40…燃料デブリ、11…余剰フッ素ガスA、12…酸素ガスA、13…フッ化ケイ素、14…余剰フッ素ガスB、15…酸素ガスB、16、46…フッ化残渣A、17、50…フッ素ガス、18…核燃料物質B、19、49…フッ化残渣B、20、54…水蒸気、21、55…廃棄物、22、56…ガラス母材、23、57…ガラス固化体、24…核燃料物質A、34…第3のハロゲン化処理工程、35…第3のハロゲン化処理工程におけるガス分離工程C、41…余剰フッ化水素ガスA、42…水蒸気A、43…フッ化ケイ素B、44…余剰フッ化水素ガスB、45…水蒸気B、47…フッ化水素ガス、48…フッ化ケイ素A、51…核燃料物質C、52…余剰フッ素ガス、53…フッ化残渣C。
図1
図2