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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】半導体利得素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/026 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
H01S5/026 618
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022030960
(22)【出願日】2022-03-01
(65)【公開番号】P2023127272
(43)【公開日】2023-09-13
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 雅広
(72)【発明者】
【氏名】西川 智志
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特許第7026854(JP,B1)
【文献】特表2019-500753(JP,A)
【文献】米国特許第06282219(US,B1)
【文献】特開2018-046258(JP,A)
【文献】特開昭63-296288(JP,A)
【文献】特開昭58-155788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
導波路層と、
活性層と、
第1半導体クラッド層と、
誘電体クラッド層とを備え、
前記半導体基板は、第1主面と、前記第1主面の反対面である第2主面と、前記第1主面及び前記第2主面に連なっている側面とを有し、
前記第1主面は、第1領域と、前記第1主面の法線方向である第1方向に直交する第2方向において前記第1領域に隣接し、かつ前記側面に連なっている第2領域とを含み、
前記導波路層は、前記第1領域上に配置されている第1部分と、前記第2領域上に配置され、かつ前記第1部分と接続されている第2部分とを有し、
前記活性層は、前記第1部分上に配置されており、
前記第1半導体クラッド層は、前記活性層上に配置されており、
前記誘電体クラッド層は、前記第2部分上に配置されており、
前記第2部分の少なくとも一部には、前記活性層において発生し、かつ前記導波路層の少なくとも一部を伝搬した光を前記半導体基板側へと回折させて前記側面から出射させる回折格子が形成されている、半導体利得素子。
【請求項2】
前記第1半導体クラッド層上に配置されている第1電極及び前記第2主面の少なくとも一部の上に配置されている第2電極の少なくともいずれかを備える、請求項1に記載の半導体利得素子。
【請求項3】
前記活性層と前記導波路層との間に配置されている第2半導体クラッド層をさらに備える、請求項1又は請求項2に記載の半導体利得素子。
【請求項4】
前記導波路層の厚さは、前記光の真空中における波長の15パーセント以上35パーセント以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の半導体利得素子。
【請求項5】
前記第2部分の少なくとも一部は、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向における幅が前記第1部分から離れるにつれて大きくなっている、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の半導体利得素子。
【請求項6】
前記回折格子は、間隔を空けて配置される複数の回折格子線を有する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の半導体利得素子。
【請求項7】
前記複数の回折格子線のうちの隣り合う2つの間の距離は、前記側面から出射される前記光が収束するように、前記第2部分の前記第1部分側の端からの距離に応じて変化している、請求項6に記載の半導体利得素子。
【請求項8】
前記複数の回折格子線は、前記側面から出射される前記光が収束するように配置されている複数の楕円回折格子線である、請求項6又は請求項7に記載の半導体利得素子。
【請求項9】
前記複数の楕円回折格子線の各々の中心角は、前記第1部分から離れるにつれて大きくなっている、請求項8に記載の半導体利得素子。
【請求項10】
前記回折格子は、2段以上の多段構造になっている、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の半導体利得素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体利得素子に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンフォトニクス(SiPh:Silicon Photonics)は、シリコン基板上に光導波路、光変調器等を集積する技術であり、近年急速な発展を遂げている。シリコンフォトニクス素子は利得を持たないため、利得を持つ半導体利得素子と光学的に結合させたハイブリッドデバイスへの期待が高まっている。
【0003】
特表2019-500753号公報(特許文献1)には、半導体利得素子が記載されている。特許文献1に記載の半導体利得素子では、導波路層の一部を除去した後に導波路層を除去した領域上に活性層の結晶再成長を行うことにより、導波路及び活性層を光軸が一致するように接合している。このような構成は、バットジョイント(Butt Joint)方式と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-500753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バットジョイント方式では、結晶再成長が行われる際に発生する導波路層と活性層との位置ずれにより、伝搬する光の結合損失及び反射が生じるおそれがある。
【0006】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、導波路層と活性層との位置ずれによる結合損失及び反射を抑制することが可能な半導体利得素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の半導体利得素子は、半導体基板と、導波路層と、活性層と、第1半導体クラッド層と、誘電体クラッド層とを備える。半導体基板は、第1主面と、第1主面の反対面である第2主面と、第1主面及び第2主面に連なっている側面とを有する。第1主面は、第1領域と、第1主面の法線方向である第1方向に直交する第2方向において第1領域に隣接し、かつ側面に連なっている第2領域とを含む。導波路層は、第1領域上に配置されている第1部分と、第2領域上に配置され、かつ第1部分に接続されている第2部分とを有する。活性層は、第1部分上に配置されている。第1半導体クラッド層は、活性層上に配置されている。誘電体クラッド層は、第2部分上に配置されている。第2部分の少なくとも一部には、活性層において発生し、かつ導波路層の少なくとも一部を伝搬した光を半導体基板側へと回折させて側面から出射させる回折格子が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示の半導体利得素子によると、導波路層と活性層との位置ずれによる結合損失及び反射を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】半導体利得素子100の平面図である。
図2図1中のII-IIにおける半導体利得素子100の断面図である。
図3図2中のIIIにおける拡大図である。
図4】半導体利得素子100の製造工程図である。
図5】成膜工程S2を説明する断面図である。
図6】第1除去工程S3を説明する断面図である。
図7】回折格子形成工程S4を説明する断面図である。
図8】誘電体クラッド層形成工程S5を説明する断面図である。
図9】第1部分21及び第2部分22の境界における光の結合損失と導波路層20の厚さとの関係を示すシミュレーション結果である。
図10】グレーティングカプラシステム300の平面図である。
図11図10中のXI-XIにおけるグレーティングカプラシステム300の断面図である。
図12】半導体利得素子100Aの断面図である。
図13】半導体利得素子100Aの製造工程図である。
図14】半導体利得素子100Aの製造方法における成膜工程S2を説明する断面図である。
図15】半導体利得素子100Aの製造方法における第1除去工程S3を説明する断面図である。
図16】半導体利得素子100Aの製造方法における第2除去工程S7を説明する断面図である。
図17】半導体利得素子100Bの拡大断面図である。
図18】半導体利得素子100Cの拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。矛盾がない範囲内において、以下の各実施の形態は、適宜組み合わせることが可能であり、その一部を変形又は省略することが可能である。
【0011】
実施の形態1.
以下に、実施の形態1に係る半導体利得素子を説明する。実施の形態1に係る半導体利得素子を、半導体利得素子100とする。
【0012】
(半導体利得素子100の構成)
図1は、半導体利得素子100の平面図である。図2は、図1中のII-IIにおける半導体利得素子100の断面図である。図1及び図2に示されるように、半導体利得素子100は、半導体基板10と、導波路層20と、活性層30と、第1半導体クラッド層40と、誘電体クラッド層50と、第1電極60と、第2電極70とを有している。半導体利得素子100は、回折格子が形成された別の光素子又は光ファイバとの間で、光結合器を構成可能である。
【0013】
半導体基板10は、例えば、InPにより形成されている。半導体基板10は、第1主面10aと、第2主面10bとを有している。第1主面10a及び第2主面10bは、半導体基板10の厚さ方向における端面である。第2主面10bは、第1主面10aの反対面である。第1主面10a(第2主面10b)の法線方向を、第1方向DR1とする。
【0014】
半導体基板10は、側面10cをさらに有している。側面10cは、第1主面10a及び第2主面10bに連なっている。側面10cは、第2方向DR2における半導体基板10の端面である。第2方向DR2は、第1方向DR1に直交する方向である。
【0015】
第1主面10aは、第1領域10aaと、第2領域10abとを有している。第2領域10abは、第2方向DR2において、第1領域10aaに隣接している。第2領域10abは、側面10cに連なっている。第2主面10bは、第3領域10baと、第4領域10bbとを有している。第3領域10baは、第1方向DR1において第1領域10aaの反対側にある第2主面10bの部分である。第4領域10bbは、第1方向DR1において第2領域10abの反対側にある第2主面10bの部分である。
【0016】
導波路層20は、半導体基板10上に配置されている。より具体的には、導波路層20は、第1主面10a上に配置されている。導波路層20は、例えば、InGaAsPにより形成されている。導波路層20の厚さは、活性層30において発生する光の真空中における波長の15パーセント以上35パーセント以下であることが好ましい。
【0017】
導波路層20は、第1部分21と、第2部分22とを有している。第1部分21は、第1領域10aa上に配置されている。第2部分22は、第2領域10ab上に配置されている。第2部分22は、第1部分21と接続されている。第1部分21上には活性層30があるため、第1部分21は光利得を持っている。第2部分22上から活性層30が除去されているため、第2部分22は光利得を持っていない。
【0018】
第1部分21は、第2方向DR2に沿って延在している。第2部分22の少なくとも一部は、好ましくは、第1部分21から離れるにつれて、第3方向DR3における幅が大きくなっている。第3方向DR3は、第1方向DR1及び第2方向DR2に直交する方向である。第2部分22は、第3方向DR3における第1部分21の中央を通る仮想直線に関して線対称な形状になっていてもよく、当該仮想直線に関して線対称な形状になっていなくてもよい。
【0019】
活性層30は、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)構造を有している。活性層30は、例えば、InGaAsP又はAlGaInAsにより形成されている。活性層30は、光を発生させる。活性層30は、第1部分21上に配置されている。活性層30で発生した光は、第1領域10aa上においては、第1部分21及び活性層30内に閉じ込められる。この光は、第2領域10ab上においては、第2部分22内に閉じ込められる。第1半導体クラッド層40は、活性層30上に配置されている。第1半導体クラッド層40は、例えば、InPにより形成されている。誘電体クラッド層50は、第2部分22上に配置されている。誘電体クラッド層50は、例えば、SiOにより形成されている。
【0020】
第1電極60は、第1部分21、活性層30及び第1半導体クラッド層40を覆うように、第1領域10aa上に配置されている。すなわち、第1電極60の一部は、第1半導体クラッド層40上に配置されている。第2電極70は、第3領域10ba上に配置されている。第2電極70は、第4領域10bb上にも配置されていてもよい。第1電極60及び第2電極70は、金属材料等の導体により形成されている。なお、半導体利得素子100は、第1電極60及び第2電極70のいずれか一方を有していなくてもよい。
【0021】
第2部分22の少なくとも一部には、回折格子23が形成されている。活性層30において発生され、かつ導波路層20の少なくとも一部を伝搬した光は、回折格子23において半導体基板10側へと回折される。回折格子23により回折された光は、半導体基板10内を通り、側面10cから出射される。なお、回折格子23により回折した光は、図2中において、矢印で示されている。
【0022】
図3は、図2中のIIIにおける拡大図である。図3に示されるように、回折格子23は、複数の回折格子線24を有している。複数の回折格子線24は、間隔を空けて隣り合っている。このことを別の観点から言えば、複数の回折格子線24のうちの隣り合う2つの間には、凹部25が形成されている。複数の回折格子線24は、好ましくは、複数の楕円回折格子線である。複数の回折格子線24が複数の楕円回折格子線である場合、複数の楕円回折格子線の各々の形状は、以下の式により規定される。
【0023】
【数1】
【0024】
この式において、z及びyは、それぞれ、第1方向DR1における座標及び第2方向DR2における座標における座標である。yは、回折格子23の中心で0とされる。xは、第3方向DR3における座標であり、第1部分21の第3方向DR3における中央を通る仮想直線上で0とされる。この式において、θは、回折格子23により回折された光の方向と第2方向DR2とがなす角度である(図3参照)。この式において、λ、neff及びnは、それぞれ、光の真空中での波長、導波路層20の有効屈折率及び回折格子23の周囲環境の屈折率である。
【0025】
隣り合う2つの回折格子線24のの間のピッチを、Λとする(図3参照)。以下の式により、Λ、θ、neff及びnの関係が規定される。この式において、k及びmは、それぞれ真空中の波数ベクトル及び回折次数である。nは、半導体基板10の屈折率である。真空中の波数ベクトルは、2π/λである。mは、好ましくは、1である。
【0026】
【数2】
【0027】
隣り合う2つの回折格子線24の間のピッチ(Λの値)は、側面10cから出射される光が第3方向DR3において収束するように、第2部分22の第1部分21側の端からの距離に応じて変化されていることが好ましい。
【0028】
(半導体利得素子100の製造方法)
図4は、半導体利得素子100の製造工程図である。図4に示されるように、半導体利得素子100の製造方法は、準備工程S1と、成膜工程S2と、第1除去工程S3と、回折格子形成工程S4と、誘電体クラッド層形成工程S5と、電極形成工程S6とを有している。
【0029】
準備工程S1では、半導体基板10が準備される。図5は、成膜工程S2を説明する断面図である。図5に示されるように、成膜工程S2では、半導体基板10(第1主面10a上)に、導波路層20、活性層30及び第1半導体クラッド層40が順次形成される。導波路層20、活性層30及び第1半導体クラッド層40は、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により行われる。
【0030】
図6は、第1除去工程S3を説明する断面図である。図6に示されるように、第1除去工程S3では、第2領域10ab上にある活性層30及び第1半導体クラッド層40が除去される。第1除去工程S3では、第1に、第1領域10aa上にある第1半導体クラッド層40上に、絶縁層81が形成される。絶縁層81は、例えばSiOにより形成されている。第2に、絶縁層81をマスクとして、第2領域10ab上にある活性層30及び第1半導体クラッド層40が、例えばドライエッチングにより除去される。これにより、第2部分22が露出することになる。
【0031】
図7は、回折格子形成工程S4を説明する断面図である。図7に示されるように、回折格子形成工程S4では、第2部分22に回折格子23が形成される。回折格子形成工程S4では、第1に、第2部分22上に、パターンニングされたフォトレジスト層82が形成される。フォトレジスト層82は、フォトリソグラフィ法によりパターンニングされる。フォトレジスト層82は、凹部25に対応する位置に、開口を有している。第2に、フォトレジスト層82をマスクとして、例えばドライエッチングにより、フォトレジスト層82の開口から露出している第2部分22が部分的に除去される。以上により、第2部分22に回折格子23(複数の回折格子線24)が形成されることになる。なお、回折格子形成工程S4では、回折格子23は、回折格子線24となる部分に結晶成長を行うことにより形成されてもよい。
【0032】
図8は、誘電体クラッド層形成工程S5を説明する断面図である。図8に示されるように、誘電体クラッド層形成工程S5では、第2部分22上に誘電体クラッド層50が形成される。電極形成工程S6では、第1半導体クラッド層40上及び第3領域10ba上に第1電極60及び第2電極70がそれぞれ形成される。以上により、図1から図3に示される構造の半導体利得素子100が形成される。
【0033】
(半導体利得素子100の効果)
バットジョイント方式では、導波路層の一部を除去した後に導波路層を除去した領域上に活性層の結晶再成長を行うことにより、導波路層と活性層との接合が行われる。そのため、バットジョイント方式では、導波路層と活性層との間の位置ずれが生じてしまうことがあり、この位置ずれに起因して光の結合損失及び反射が生じることがある。
【0034】
半導体利得素子100では、第1主面10a上に導波路層20、活性層30及び第1半導体クラッド層40を順次積層した後に第2領域10ab上にある活性層30及び第1半導体クラッド層40が除去されることにより形成される構造になっているため、導波路層20と活性層30との間で光軸中心を一致させる必要がない。そのため、半導体利得素子100によると、導波路層20と活性層30との間の位置ずれに起因した光の結合損失及び反射を抑制することができる。また、半導体利得素子100では、活性層の結晶再成長のための工程が不要であるため、製造工程が簡略化される。
【0035】
第1部分21及び第2部分22の境界における光の結合損失をSとすると、Sは、第1部分21及び第2部分22における基底モードの電界強度分布の重なり積分を以下の式で計算することにより求められる。この式では、E(x,z)が第1部分21における光の強度分布であり、E(x,z)が第2部分22における光の強度分布である。
【0036】
【数3】
【0037】
図9は、第1部分21及び第2部分22の境界における光の結合損失と導波路層20の厚さとの関係を示すシミュレーション結果である。なお、図9に示されるシミュレーションでは、光の真空中における波長が1550nmとされた。図9に示されるように、導波路層20の厚さを導波路層20を伝搬する光の真空中における波長の15パーセント以上とすることにより、結合損失が低減される。また、導波路層20の厚さが導波路層20を伝搬する光の真空中における波長の35パーセント超とされると、導波路層20においてマルチモード伝搬が生じ、伝送損失が大きくなる。そのため、導波路層20の厚さが導波路層20を伝搬する光の真空中における波長の35パーセント以下とされることにより、導波路層20の伝送損失が低減される。
【0038】
半導体利得素子100では、隣り合う2つの回折格子線24の間のピッチを第2部分22の第1部分21側の端からの距離に応じて変化させることにより、側面10cから出射される光を第3方向DR3において収束させることができる。また、半導体利得素子100では、複数の回折格子線24を複数の楕円回折格子線とすることにより、側面10cから出射される光を第2方向DR2において収束させることができる。さらに、第1部分21から離れるにつれて第2部分22の少なくとも一部の第3方向DR3における幅を大きくすることにより、側面10cから出射される光のビーム径を大きくすることができる。
【0039】
実施の形態2.
以下に、実施の形態2に係るグレーティングカプラシステムを説明する。実施の形態2に係るグレーティングカプラシステムを、グレーティングカプラシステム300とする。
【0040】
図10は、グレーティングカプラシステム300の平面図である。図11は、図10中のXI-XIにおけるグレーティングカプラシステム300の断面図である。図10及び図11に示されるように、グレーティングカプラシステム300は、半導体利得素子100と、シリコンフォトニクス素子200とを有している。
【0041】
シリコンフォトニクス素子200は、半導体基板210と、第1クラッド層220と、導波路層230と、第2クラッド層240とを有している。
【0042】
半導体基板210は、Siにより形成されている。半導体基板210は、第3主面210aと、第4主面210bとを有している。第3主面210a及び第4主面210bは、半導体基板210の厚さ方向(第1方向DR1)における端面である。第4主面210bは、第3主面210aの反対面である。
【0043】
第1クラッド層220は、SiOにより形成されている。第1クラッド層220は、半導体基板210上に配置されている。より具体的には、第1クラッド層220は、第3主面210a上に配置されている。導波路層230は、Siにより形成されている。導波路層230は、第1クラッド層220上に配置されている。導波路層230には、回折格子231が形成されている。第2クラッド層240は、SiOにより形成されている。第2クラッド層240は、導波路層230上に配置されている。シリコンフォトニクス素子200は、第2クラッド層240において、第2主面10bに取り付けられている。
【0044】
半導体利得素子100では、回折格子23により回折された光の方向と第2方向DR2とがなす角度(θの値)が10°未満である場合、光の側面10cからの出射角度が小さくなり、シリコンフォトニクス素子200との結合効率が低下する。他方で、回折格子23により回折された光の方向と第2方向DR2とがなす角度が20°超となる場合、光が側面10cにおいて反射されてしまい、出射効率が低下する。
【0045】
そのため、半導体利得素子100では、回折格子23により回折された光の方向と第2方向DR2とがなす角度が10°以上20°以下となるように、隣り合う2つの回折格子線24の間のピッチ(Λの値)及び回折格子線24の幅(図3中のWの値)が、第2部分22の第1部分21側の端からの距離に応じて変化されることが好ましい。
【0046】
実施の形態3.
以下に、実施の形態3に係る半導体利得素子を説明する。実施の形態3に係る半導体利得素子を、半導体利得素子100Aとする。ここでは、半導体利得素子100と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0047】
図12は、半導体利得素子100Aの断面図である。図12には、図1中のII-IIに対応する位置における半導体利得素子100Aの断面が示されている。図12に示されているように、半導体利得素子100Aは、さらに、第2半導体クラッド層90を有している。第2半導体クラッド層90は、例えばInPにより形成されている。第2半導体クラッド層90は、導波路層20(第1部分21)と活性層30との間に配置されている。すなわち、第2半導体クラッド層90は導波路層20上に配置されており、活性層30は第2半導体クラッド層90上に配置されている。
【0048】
図13は、半導体利得素子100Aの製造工程図である。図13に示されるように、半導体利得素子100Aの製造方法は、第2除去工程S7をさらに有している。第2除去工程S7は、第1除去工程S3の後であって回折格子形成工程S4の前に行われる。
【0049】
図14は、半導体利得素子100Aの製造方法における成膜工程S2を説明する断面図である。図14に示されるように、半導体利得素子100Aの製造方法における成膜工程S2では、例えばMOCVDにより、第1主面10a上に導波路層20、第2半導体クラッド層90、活性層30及び第1半導体クラッド層40が順次形成される。
【0050】
図15は、半導体利得素子100Aの製造方法における第1除去工程S3を説明する断面図である。図15に示されるように、半導体利得素子100Aの製造方法における第1除去工程S3では、絶縁層81をマスクとして、第2領域10ab上にある活性層30及び第1半導体クラッド層40が例えばドライエッチングにより除去される。これにより、第2領域10ab上にある第2半導体クラッド層90が露出することになる。
【0051】
図16は、半導体利得素子100Aの製造方法における第2除去工程S7を説明する断面図である。図16に示されるように、半導体利得素子100Aの製造方法における第2除去工程S7では、第2領域10ab上にある第2半導体クラッド層90が除去される。半導体利得素子100Aの製造方法における第2除去工程S7では、第1に、第2領域10ab上にある第2半導体クラッド層90上に、パターンニングされたフォトレジスト層83が形成される。フォトレジスト層83は、フォトリソグラフィ法によりパターンニングされる。第2に、フォトレジスト層83をマスクとして、例えばドライエッチングにより第2領域10ab上にある第2半導体クラッド層90が除去される。
【0052】
誘電体クラッド層形成工程S5及び電極形成工程S6に関して、半導体利得素子100Aの製造方法は、半導体利得素子100の製造方法と同様である。以上により、図12に示される構造の半導体利得素子100Aが形成される。半導体利得素子100Aでは、導波路層20と活性層30との間に第2半導体クラッド層90が配置されているため、第1除去工程S3において選択的なエッチングが行えるようになり、半導体利得素子100Aの製造工程が簡略化されることになる。
【0053】
実施の形態4.
以下に、実施の形態4に係る半導体利得素子を説明する。実施の形態4に係る半導体利得素子を、半導体利得素子100Bとする。ここでは、半導体利得素子100と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0054】
図17は、半導体利得素子100Bの拡大断面図である。図17には、図2中のIIIに対応する位置における半導体利得素子100Bの拡大断面が示されている。図17に示されるように、半導体利得素子100Bでは、回折格子23が、多段構造になっている。より具体的には、半導体利得素子100Bでは、隣り合う2つの回折格子線24の間にある凹部25の各々の底面に、凹部26が形成されている。図17に示される例では、回折格子23が2段構造を有している場合が説明されているが、回折格子23は、3段以上の多段構造を有していてもよい。
【0055】
一般的に、回折格子は1次(すなわち、m=1)の成分が最も強い回折強度になるが、高次の成分も無視できない強度となることがある。そのため、1次光の回折効率を改善するためには、高次光を削減する必要がある。回折光の各次数の強度は、回折格子の空間周波数成分(フーリエ成分)に関係している。半導体利得素子100Bでは、回折格子23が多段構造を有しており、実質的に平滑化されているため、回折格子23のフーリエ成分から高次成分が削減されている。その結果、半導体利得素子100Bによると、回折格子23により回折された光の高次回折光が削減され、活性層30において発生した光を効率よく側面10cから出射させることができる。
【0056】
実施の形態5.
以下に、実施の形態5に係る半導体利得素子を説明する。実施の形態4に係る半導体利得素子を、半導体利得素子100Cとする。ここでは、半導体利得素子100と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0057】
図18は、半導体利得素子100Cの拡大平面図である。なお、図18中では、活性層30、第1半導体クラッド層40及び誘電体クラッド層50の図示が省略されている。図18に示されるように、半導体利得素子100Cでは、複数の回折格子線24の各々の中心角が、第1部分21から離れるにつれて大きくなっている。より具体的には、1本目の回折格子線24の中心角をΦ1、2本目の回折格子線24の中心角をΦ2とすると、Φ2はΦ1よりも大きい。このことは、3本目以降の回折格子線24についても同様である。これにより、回折格子23で反射される光の角度が変化し、第1部分21に戻る光が削減されることになる。
【0058】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であり、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の基本的な範囲は、上記の実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
10 半導体基板、10a 第1主面、10aa 第1領域、10ab 第2領域、10b 第2主面、10ba 第3領域、10bb 第4領域、10c 側面、20 導波路層、21 第1部分、22 第2部分、23 回折格子、24 回折格子線、25,26 凹部、30 活性層、40 第1半導体クラッド層、50 誘電体クラッド層、60 第1電極、70 第2電極、81 絶縁層、82,83 フォトレジスト層、90 第2半導体クラッド層、100,100A,100B,100C 半導体利得素子、200 シリコンフォトニクス素子、210 半導体基板、210a 第3主面、210b 第4主面、220 第1クラッド層、230 導波路層、231 回折格子、240 第2クラッド層、300 グレーティングカプラシステム、DR1 第1方向、DR2 第2方向、DR3 第3方向、S1 準備工程、S2 成膜工程、S3 第1除去工程、S4 回折格子形成工程、S5 誘電体クラッド層形成工程、S6 電極形成工程、S7 第2除去工程。
図1
図2
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