(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】スイッチング素子の短絡検出方法、インバータ装置及び手乾燥装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241115BHJP
【FI】
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2022531228
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024210
(87)【国際公開番号】W WO2021255928
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】藤村 達也
(72)【発明者】
【氏名】福田 勇輝
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特許第3397620(JP,B2)
【文献】特開平11-122941(JP,A)
【文献】特開2014-143782(JP,A)
【文献】特開2009-022084(JP,A)
【文献】特開2006-144556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42~7/98
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の正極側に接続された上アームのスイッチング素子と前記直流電源の負極側に接続された下アームのスイッチング素子とが直列に接続されたレグを
n個備え
(nは2以上の整数)、
n個の前記レグが直流電源に対して互いに並列に接続されるインバータ回路と、複数の前記スイッチング素子のそれぞれを駆動する駆動回路と、それぞれが前記上アームのスイッチング素子の前記駆動回路の駆動用電源として使用され、当該上アームのスイッチング素子と同じレグの下アームのスイッチング素子をオンさせることで充電されるコンデンサと、を備えたインバータ装置に適用されるスイッチング素子の短絡検出方法であって、
任意1つの第1の
レグの下アームのスイッチング素子を前
記下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オン
し、前記第1のレグの短絡有無を確認する第1の
確認ステップと、
前
記第1のレグの短絡が確認されない場合、前記第1のレグとは異なる相のレグである第2のレグの短絡有無を確認する際に、
短絡が無いことを前回確認したレグ
の下アームのスイッチング素子をオンにし、
前記第2のレグの下アームのスイッチング素子を前記第2の
レグの下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンする
処理を、nが2の場合には1回実施し、nが3以上の場合には前記第2のレグの相を変更しながらn-1回実施する第2の
確認ステップと、
前
記第2の
確認ステップ
を実施した後に
、短絡の確認を最後に終えたレグの下アームのスイッチング素子をオンにして全ての前記コンデンサの充電完了を確認する第3の
確認ステップと、
全てのレグの前記下アームのスイッチング素子をオフにし、任意1つ
の上アームのスイッチング素子を前
記上アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、前
記上アームのスイッチング素子を含むレグの短絡有無を確認する第4の
確認ステップと、
を含
み、
前記第1から第4の確認ステップを前記インバータ装置によって負荷を駆動する前に実施する
ことを特徴とするスイッチング素子の短絡検出方法。
【請求項2】
複数の前記スイッチング素子のうちの何れかの短絡故障を検出したとき、全ての前記スイッチング素子をオフすることを特徴とする請求項1に記載のスイッチング素子の短絡検出方法。
【請求項3】
前記インバータ装置が搭載され、請求項1又は2に記載のスイッチング素子の短絡検出方法を適用して前記インバータ装置を動作させることを特徴とする手乾燥装置。
【請求項4】
直流電源の正極側に接続された上アームのスイッチング素子と前記直流電源の負極側に接続された下アームのスイッチング素子とが直列に接続されたレグを
n個備え
(nは2以上の整数)、
n個の前記レグが直流電源に対して互いに並列に接続されるインバータ回路と、
複数の前記スイッチング素子のそれぞれを駆動する駆動回路と、
それぞれが前記上アームのスイッチング素子の前記駆動回路の駆動用電源として使用され、当該上アームのスイッチング素子と同じレグの下アームのスイッチング素子をオンさせることで充電されるコンデンサと、
前記インバータ回路の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、任意1つの第1の
レグの下アームのスイッチング素子を前
記下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、前
記第1のレグの短絡有無を確認し、前記第1のレグの短絡が確認されない場合、前記第1のレグとは異なる相のレグである第2のレグの短絡有無を確認する際に、
短絡が無いことを前回確認したレグ
の下アームのスイッチング素子をオンにし、
前記第2のレグの下アームのスイッチング素子を前記第2の
レグの下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オン
する処理を、nが2の場合には1回実施し、nが3以上の場合には前記第2のレグの相を変更しながらn-1回実施した後に、短絡の確認を最後に終えたレグの下アームのスイッチング素子をオンにして全ての前記コンデンサの充電完了を確認し、全ての前記コンデンサの充電が完了した後、
全てのレグの下アームのスイッチング素子をオフにし、任意1つ
の上アームのスイッチング素子を前
記上アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、前
記上アームのスイッチング素子を含むレグの短絡有無を確認することを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインバータ装置を搭載した手乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インバータ装置、インバータ装置に具備されるスイッチング素子の短絡検出方法、及びインバータ装置を搭載した手乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置は、駆動素子であるスイッチング素子を有する。インバータ装置は、スイッチング素子をパルス幅変調制御することにより、直流入力を交流出力に変換する電力変換装置である。
【0003】
この種のインバータ装置では、2つのスイッチング素子が互いに直列接続されて1相分のレグを構成し、直列接続された少なくとも2つのレグが互いに並列に接続されてブリッジ回路を構成している。ブリッジ回路の両端には、直流電源が接続される。直列に接続されたスイッチング素子群のうち、直流電源の正極側に接続されるスイッチング素子は「上アームのスイッチング素子」又は単に「上アーム」と呼ばれ、直流電源の負極側に接続されるスイッチング素子は「下アームのスイッチング素子」又は単に「下アーム」と呼ばれる。
【0004】
上アーム又は下アームのスイッチング素子の何れかが短絡故障している場合、故障していないスイッチング素子をオン動作させるとアーム短絡となり、これらの2つのスイッチング素子を含む回路に大電流が流れてしまう。このため、下記特許文献1に示されるように、一般的なインバータ装置では、過電流保護回路が搭載される。
【0005】
特許文献1に示されるインバータ装置では、上アームのスイッチング素子の駆動用電源は、下アームのスイッチング素子をオンさせて充電するように構成されている。この構成の場合、上アームのスイッチング素子が短絡故障しているとアーム短絡となる。このアーム短絡を回避するため、特許文献1では、まず、それぞれの相の下アームのスイッチング素子を順に短時間オンし、過電流保護回路で短絡故障の有無を確認する。そして、短絡故障がないと判定された場合に、上アームのスイッチング素子の駆動用電源を充電するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、上アームのスイッチング素子の短絡故障は検出できても、下アームのスイッチング素子の短絡故障は検出できないという課題がある。また、特許文献1のように、過電流保護回路でスイッチング素子をオフする方法では、スイッチング素子の負荷短絡耐量によっては、スイッチング素子をオフする前にスイッチング素子が故障してしまうおそれがある。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、上アーム及び下アームのスイッチング素子の短絡故障を確実に検出することができるスイッチング素子の短絡検出方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係るスイッチング素子の短絡検出方法は、インバータ回路、駆動回路、及び上アームのスイッチング素子の駆動回路の駆動用電源として使用され、当該上アームのスイッチング素子と同じレグの下アームのスイッチング素子をオンさせることで充電されるコンデンサを備えたインバータ装置に適用可能である。インバータ回路は、直流電源の正極側に接続された上アームのスイッチング素子と直流電源の負極側に接続された下アームのスイッチング素子とが直列に接続されたレグをn個備える(nは2以上の整数)。n個のレグは、直流電源に対して互いに並列に接続される。駆動回路は、複数のスイッチング素子のそれぞれを駆動する。同方法は、任意1つの第1のレグの下アームのスイッチング素子を当該下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、第1のレグの短絡有無を確認する第1の確認ステップと、第1のレグの短絡が確認されない場合、第1のレグとは異なる相のレグである第2のレグの短絡有無を確認する際に、短絡が無いことを前回確認したレグの下アームのスイッチング素子をオンにし、第2のレグの下アームのスイッチング素子を当該第2のレグの下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンする処理を、nが2の場合には1回実施し、nが3以上の場合には第2のレグの相を変更しながらn-1回実施する第2の確認ステップと、第2の確認ステップを実施した後に、短絡の確認を最後に終えたレグの下アームのスイッチング素子をオンにして全てのコンデンサの充電完了を確認する第3の確認ステップと、全てのレグの下アームのスイッチング素子をオフにし、任意1つの上アームのスイッチング素子を当該上アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、上アームのスイッチング素子を含むレグの短絡有無を確認する第4の確認ステップとを含み、第1から第4の確認ステップをインバータ装置によって負荷を駆動する前に実施する。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るスイッチング素子の短絡検出方法によれば、上アーム及び下アームのスイッチング素子の短絡故障を確実に検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係るインバータ装置の構成例を示す回路図
【
図2】実施の形態に係るインバータ装置の動作説明に供するフローチャート
【
図3】実施の形態に係るインバータ装置の動作説明に供するタイムチャート
【
図4】実施の形態に係るインバータ装置が搭載される手乾燥装置の構成例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係るスイッチング素子の短絡検出方法、インバータ装置及び手乾燥装置について詳細に説明する。
【0013】
実施の形態.
図1は、実施の形態に係るインバータ装置60の構成例を示す回路図である。インバータ装置60は、
図1に示すように、直流電源1から供給される電力を負荷であるモータ30への交流電力に変換して、モータ30に供給する電力変換装置である。インバータ装置60は、下アーム駆動用電源2と、インバータ回路50と、駆動回路9~14と、コンデンサ15~17と、ダイオード18~20と、制御部21と、電流検知回路22とを備える。なお、直流電源1は、インバータ装置60に含まれていてもよい。
【0014】
次に、インバータ回路50の構成について説明する。インバータ回路50は、スイッチング素子3~8を備える。上アームのスイッチング素子3~5は直流電源1の正極側に接続され、下アームのスイッチング素子6~8は直流電源1の負極側に接続される。スイッチング素子3とスイッチング素子6は、直列に接続されてレグ40を構成する。スイッチング素子4とスイッチング素子7は、直列に接続されてレグ41を構成する。スイッチング素子5とスイッチング素子8は、直列に接続されてレグ42を構成する。レグ40~42は、直流電源1に対して互いに並列に接続される。
【0015】
図1に示すモータ30は、三相モータである。モータ30における図示しない各相巻線は、レグ40~42のそれぞれから引き出された配線44に接続される。なお、モータ30は単相モータであってもよい。モータ30が単相モータである場合、インバータ回路50は、2つのレグで動作可能である。また、モータ30は多相モータであってもよい。モータ30が多相モータである場合、インバータ回路50は、多相モータに対応した数のレグを備えるように構成される。
【0016】
コンデンサ15~17は、上アームのスイッチング素子3~5の駆動用電源として使用される。コンデンサ15は、ダイオード18を介して下アーム駆動用電源2に接続されている。コンデンサ16,17も同様であり、コンデンサ16はダイオード19を介して下アーム駆動用電源2に接続され、コンデンサ17はダイオード20を介して下アーム駆動用電源2に接続されている。
【0017】
駆動回路9~11は、それぞれ上アームのスイッチング素子3~5の駆動回路である。駆動回路9にはコンデンサ15の電圧が印加され、当該電圧を使用してスイッチング素子3を駆動する。駆動回路10,11も同様の構成であり、駆動回路10はコンデンサ16から印加される電圧を使用してスイッチング素子4を駆動する。また、駆動回路11はコンデンサ17から印加される電圧を使用してスイッチング素子5を駆動する。
【0018】
駆動回路12~14は、それぞれ下アームのスイッチング素子6~8の駆動回路である。駆動回路12~14のそれぞれには、下アーム駆動用電源2の電圧が印加される。駆動回路12~14のそれぞれは、下アーム駆動用電源2から印加される電圧を使用してスイッチング素子6~8を駆動する。
【0019】
電流検知回路22は、レグ40~42の接続点と直流電源1の負極側との間に接続される。電流検知回路22は、直流電源1の電流、即ち直流電源1に流出入する電流を検出する。
【0020】
制御部21は、プロセッサ23と、メモリ24とを備える。制御部21は、駆動回路9~14及び電流検知回路22に接続されている。プロセッサ23は、下述する制御部21の機能を実行する処理部である。メモリ24には、プロセッサ23によって読みとられるプログラムが保存される。メモリ24は、プロセッサ23が演算処理を行う際の作業領域としても使用される。なお、プロセッサ23は、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、マイコン、又はDSP(Digital Signal Processor)などと称されるものであってもよい。また、メモリ24は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリが一般的である。
【0021】
次に、実施の形態に係る実施の形態に係るインバータ装置60の動作について、
図1から
図3の図面を参照して説明する。
図2は、実施の形態に係るインバータ装置60の動作説明に供するフローチャートである。
図3は、実施の形態に係るインバータ装置60の動作説明に供するタイムチャートである。なお、
図2では、駆動回路9~14のそれぞれに動作信号を出力することを、それぞれ「U上出力」、「V上出力」、「W上出力」、「U下出力」、「V下出力」及び「W下出力」と表記している。また、
図3では、駆動回路9~14への動作信号をそれぞれ「U上」、「V上」、「W上」、「U下」、「V下」及び「W下」と表記している。
【0022】
まず、ステップS11において、制御部21は、駆動回路12を介して下アームのスイッチング素子6を短時間オンする。オン時間は、下アームのスイッチング素子6の負荷短絡耐量より十分短く、且つアーム短絡した場合に電流検知回路22にて電流が検出可能な時間をあらかじめプロセッサ23に設定しておく。オン時間の例は、各スイッチング素子の負荷短絡耐量の50%程度である。
【0023】
スイッチング素子6をオンすると、コンデンサ15の負側の電位は、直流電源1の負側の電位とほぼ同電位となる。このとき、コンデンサ15には下アーム駆動用電源2からダイオード18を介して充電電流が流れる。これにより、コンデンサ15は、下アーム駆動用電源2とほぼ同電位に充電される。その後、下アームのスイッチング素子6をオフしてもダイオード18により下アーム駆動用電源2へ電流が流れることはなく、コンデンサ15の電荷は保持される。なお、下アームのスイッチング素子6がオンしているとき、コンデンサ16,17の負側の電位もモータ30を介して電気的に接続されているので、直流電源1の負側の電位に近づく。コンデンサ16,17の充電はモータ30を介するので、コンデンサ15の充電速度よりも遅くなるが、充電電圧はコンデンサ15と同一又は同等になる。
【0024】
次のステップS12において、制御部21は、電流検知回路22の電流検知信号に基づいて、下アームのスイッチング素子6を含むレグ40におけるアーム短絡の有無を判断する。アーム短絡と判断した場合(ステップS12,Yes)、ステップS30に移行して全ての出力を停止する。アーム短絡ではないと判断した場合(ステップS12,No)、ステップS13に移行する。
【0025】
ステップS13において、制御部21は、駆動回路12を介して下アームのスイッチング素子6をオンすると共に、ステップS11と同様に駆動回路13を介して下アームのスイッチング素子7を短時間オンする。ここで、上下アームのスイッチング素子3,6を具備するレグ40は、ステップS12において、下アームのスイッチング素子6をオンしてもアーム短絡しないことが既に確認できている。このため、制御部21は、コンデンサ15~17の充電が完了するまでの間、スイッチング素子6のオンを継続させる。
【0026】
次のステップS14において、制御部21は、電流検知回路22の電流検知信号に基づいて、下アームのスイッチング素子7を含むレグ41におけるアーム短絡の有無を判断する。アーム短絡と判断した場合(ステップS14,Yes)、ステップS30に移行して全ての出力を停止する。アーム短絡ではないと判断した場合(ステップS14,No)、ステップS15に移行する。
【0027】
ステップS15において、制御部21は、駆動回路13を介して下アームのスイッチング素子7をオンすると共に、駆動回路14を介して下アームのスイッチング素子8を短時間オンする。ここで、上下アームのスイッチング素子4,7を具備するレグ41は、ステップS14において、下アームのスイッチング素子7をオンしてもアーム短絡しないことが既に確認できている。このため、制御部21は、コンデンサ15~17の充電が完了するまでの間、下アームのスイッチング素子7のオンを継続させる。つまり、下アームのスイッチング素子6,7は、コンデンサ15~17の充電が完了するまでオンを継続する。
【0028】
次のステップS16において、制御部21は、電流検知回路22の電流検知信号に基づいて、下アームのスイッチング素子8を含むレグ42におけるアーム短絡の有無を判断する。アーム短絡と判断した場合(ステップS16,Yes)、ステップS30に移行して全ての出力を停止する。アーム短絡ではないと判断した場合(ステップS16,No)、ステップS17に移行する。
【0029】
ステップS16までの処理により、各レグにおける下アームのスイッチング素子6~8をオンしてもアーム短絡しないこと、即ち上アームのスイッチング素子3~5が短絡故障していないことが確認できている。また、下アームのスイッチング素子6を含むレグ40と、下アームのスイッチング素子7を含むレグ41とがアーム短絡していないことを確認して以降、下アームのスイッチング素子6,7は、常時オンに制御されている。これにより、コンデンサ15,16の充電は当然行われており、コンデンサ17の充電もモータ30を介して行われている。
【0030】
次のステップS17において、制御部21は、駆動回路14を介して下アームのスイッチング素子8をオンする。これにより、下アームのスイッチング素子6~8は、全てオン状態となる。
【0031】
次のステップS18において、制御部21は、コンデンサ15~17の充電が完了したか否かを判断する。コンデンサ15~17の充電が完了していなければ(ステップS18,No)、ステップS18の判定処理を適宜繰り返す。コンデンサ15~17の充電が完了していれば(ステップS18,Yes)、ステップS19に移行する。なお、充電完了までの時間は、コンデンサ15~17の容量、モータ30におけるモータ定数などに基づいて予め決定しておき、メモリ24に記憶しておく。制御部21は、設定した時間の経過をもって充電完了と判断する。
【0032】
次のステップS19において、制御部21は、下アームのスイッチング素子6~8を全てオフし、駆動回路9を介して上アームのスイッチング素子3を短時間オンする。短時間の意味は、ステップS11,S13,S15と同じである。
【0033】
次のステップS20において、制御部21は、電流検知回路22の電流検知信号に基づいて、上アームのスイッチング素子3を含むレグ40におけるアーム短絡の有無を判断する。アーム短絡と判断した場合(ステップS20,Yes)、ステップS30に移行して全ての出力を停止する。アーム短絡ではないと判断した場合(ステップS20,No)、ステップS21に移行する。
【0034】
ステップS21において、制御部21は、駆動回路10を介して上アームのスイッチング素子4を短時間オンする。
【0035】
次のステップS22において、制御部21は、電流検知回路22の電流検知信号に基づいて、上アームのスイッチング素子4を含むレグ41におけるアーム短絡の有無を判断する。アーム短絡と判断した場合(ステップS22,Yes)、ステップS30に移行して全ての出力を停止する。アーム短絡ではないと判断した場合(ステップS22,No)、ステップS23に移行する。
【0036】
ステップS23において、制御部21は、駆動回路11を介して上アームのスイッチング素子5を短時間オンする。
【0037】
次のステップS24において、制御部21は、電流検知回路22の電流検知信号に基づいて、上アームのスイッチング素子5を含むレグ42におけるアーム短絡の有無を判断する。アーム短絡と判断した場合(ステップS24,Yes)、ステップS30に移行して全ての出力を停止する。アーム短絡ではないと判断した場合(ステップS24,No)、
図2の処理フローを終了する。
【0038】
ステップS24において、アーム短絡ではないと判断された場合、スイッチング素子3~8に短絡故障がないことが分かる。また、ステップS18の判定により、コンデンサ15~17の充電完了が確認できているので、インバータ装置60は動作可能な状態となる。
【0039】
上記の動作をタイミングチャートで示したものが
図3である。
図3には、上段側から順に駆動回路9~14への動作信号が示されている。駆動回路9~14への動作信号は、スイッチング素子3~8の状態を表している。
【0040】
なお、
図2及び
図3の例では、下アームのスイッチング素子6~8をこの順でオンし、コンデンサ15~17の充電完了後に、上アームのスイッチング素子3~5をこの順でオンするようにしているが、これに限定されない。各スイッチング素子をオンする順序は、任意に変更してもよい。
【0041】
また、実施の形態では、故障箇所を特定するために下アームのスイッチング素子6~8及び上アームのスイッチング素子3~5のそれぞれを、順にオンするようにしているが、これに限定されない。故障箇所の特定が不要であれば、下アームのスイッチング素子6~8のうちの2つ又は3つを同時に短時間オンしてアーム短絡の有無を確認してもよい。同様に、故障箇所の特定が不要であれば、上アームのスイッチング素子3~5のうちの2つ又は3つを同時に短時間オンしてアーム短絡の有無を確認してもよい。このように動作させることで、インバータ装置60が動作可能になるまでの時間を更に短くすることができる。
【0042】
以上説明した通り、実施の形態に係るスイッチング素子の短絡検出方法は、インバータ装置によって負荷を駆動する前に、下アームのスイッチング素子を当該下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンする第1のステップを含む。また、同方法は、下アームのスイッチング素子を含む第1のレグの短絡有無を確認した後、第1のレグとは異なる相のレグである第2のレグの短絡有無を確認する際に、第1のレグの下アームのスイッチング素子をオンにする第2のステップを含む。これらの第1及び第2のステップによる処理は、上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子とが直列に接続されたレグを2つ以上備え、2つ以上のレグが直流電源に対して互いに並列に接続される構成のインバータ装置に適用可能である。これにより、上アームのスイッチング素子の短絡故障を検出しつつ、上アームのスイッチング素子の駆動回路の電源となるコンデンサの充電時間を短縮することができる。
【0043】
また、実施の形態に係るスイッチング素子の短絡検出方法は、第2のステップの後にコンデンサの充電完了を確認する第3のステップと、上アームのスイッチング素子を当該上アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、上アームのスイッチング素子を含むレグの短絡有無を確認する第4のステップと、を含んでいてもよい。これにより、下アームのスイッチング素子の短絡故障を確実に検出しつつ、インバータ装置が動作可能になるまでの時間を短縮することができる。
【0044】
また、実施の形態に係るスイッチング素子の短絡検出方法は、インバータ装置によって負荷を駆動する前に、複数の下アームのスイッチング素子を各々のスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間同時にオンする第1のステップを含む。また、同方法は、第1のステップの後に各々の下アームのスイッチング素子を含む複数のレグにおける個々の短絡有無を確認する第2のステップを含む。故障箇所の特定が不要であれば、この方法を用いてもよい。この方法によれば、インバータ装置が動作可能になるまでの時間の更なる短縮が可能となる。
【0045】
また、実施の形態に係るスイッチング素子の短絡検出方法は、第2のステップの後にコンデンサの充電完了を確認する第3のステップと、複数の上アームのスイッチング素子を各々の上アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間同時にオンする第4のステップと、を含んでいてもよい。これにより、下アームのスイッチング素子の短絡故障を確実に検出しつつ、インバータ装置が動作可能になるまでの時間の更なる短縮が可能となる。
【0046】
また、実施の形態に係るインバータ装置によれば、制御部は、下アームのスイッチング素子を当該下アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、下アームのスイッチング素子を含む第1のレグの短絡有無を確認する。また、制御部は、第1のレグとは異なる相のレグである第2のレグの短絡有無を確認する際に、第1のレグの下アームのスイッチング素子をオンにする。これらの制御は、上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子とが直列に接続されたレグを2つ以上備え、2つ以上のレグが直流電源に対して互いに並列に接続される構成のインバータ装置に適用可能である。これにより、上アームのスイッチング素子の短絡故障を検出しつつ、上アームのスイッチング素子の駆動回路の電源となるコンデンサの充電時間を短縮することができる。
【0047】
また、実施の形態に係るインバータ装置によれば、制御部は、コンデンサの充電が完了した後、上アームのスイッチング素子を当該上アームのスイッチング素子の負荷短絡耐量よりも短い時間オンし、上アームのスイッチング素子を含むレグの短絡有無を確認する。これにより、下アームのスイッチング素子の短絡故障を確実に検出しつつ、インバータ装置が動作可能になるまでの時間を短縮することができる。
【0048】
次に、実施の形態に係るインバータ装置60の適用例について説明する。
図4は、実施の形態に係るインバータ装置60が搭載される手乾燥装置90の構成例を示す斜視図である。
【0049】
手乾燥装置90は、ケーシング91、手検知センサ92、水受け部93、ドレン容器94、カバー96、センサ97、及び吸気口98を備える。ここで、センサ97は、ジャイロセンサ及び人感センサの何れかである。手乾燥装置90では、ケーシング91内に図示しない電動送風機を有する。電動送風機は、上述したインバータ装置60及びモータ30を備えて構成される。手乾燥装置90では、水受け部93の上部にある手挿入部99に手を挿入することで電動送風機による送風で水を吹き飛ばし、水受け部93からドレン容器94へと水を溜めこむ構造となっている。
【0050】
手乾燥装置90は、起動までの時間が性能に直結する製品である。実施の形態に係るインバータ装置60によれば、スイッチング素子の短絡故障を短時間で検出することができる。また、実施の形態に係るインバータ装置60によれば、上アームのスイッチング素子の駆動用電源を短時間で充電することができる。このため、実施の形態に係るインバータ装置60を搭載した手乾燥装置90は、これらの効果を享受することが可能となる。
【0051】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 直流電源、2 下アーム駆動用電源、3~8 スイッチング素子、9~14 駆動回路、15~17 コンデンサ、18~20 ダイオード、21 制御部、22 電流検知回路、23 プロセッサ、24 メモリ、30 モータ、40~42 レグ、44 配線、50 インバータ回路、60 インバータ装置、90 手乾燥装置、91 ケーシング、92 手検知センサ、93 水受け部、94 ドレン容器、96 カバー、97 センサ、98 吸気口、99 手挿入部。