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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】臭い除去触媒およびその用途
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/44 20060101AFI20241115BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20241115BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
B01J29/44 M
A61L9/00 C
A61L9/01 B
A61L9/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022554042
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035817
(87)【国際公開番号】W WO2022071379
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2020167711
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 潤
(72)【発明者】
【氏名】永井 直
(72)【発明者】
【氏名】岡部 晃博
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 奨
(72)【発明者】
【氏名】田原 修二
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010472(WO,A1)
【文献】特開2005-047775(JP,A)
【文献】特開2002-200150(JP,A)
【文献】国際公開第2019/027057(WO,A1)
【文献】特開昭52-147590(JP,A)
【文献】特開平10-309443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
A61L 9/00-9/22
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物に、Ptを含む金属成分が担持されてなり、下記式(1)で表される還元度が60%~86%の範囲にあり、
前記複合酸化物が、シリカ/アルミナ比(SiO 2 /Al 2 3 (mol/mol))が20以上のMFI型ゼオライトである、臭い除去触媒。
還元度(%)=100-[X/Y]×100 …(1)
(上記式(1)において、Xは、前記触媒を乾燥し40℃~400℃まで昇温還元した際のTCD(熱伝導度検出器)のピーク面積を表し、Yは、前記触媒を空気または酸素雰囲気下、150℃で2時間加熱処理をしたのち40℃以下に冷却した酸化触媒を、40℃~400℃まで昇温還元した際のTCDのピーク面積を表す。)
【請求項2】
前記金属成分が、Ptと、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuから選ばれる少なくとも1つの金属元素とを含む、請求項1に記載の臭い除去触媒。
【請求項3】
前記金属成分が、Ptと、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuから選ばれる少なくとも1つの金属元素とを含む合金を含有する、請求項1または2に記載の臭い除去触媒。
【請求項4】
前記合金が固溶体を形成している、請求項3に記載の臭い除去触媒。
【請求項5】
前記MFI型ゼオライトにおけるシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol/mol))が40以下である、請求項1~4のいずれかに記載の臭い除去触媒。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の臭い除去触媒と化学吸着剤を含む、消臭剤組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の臭い除去触媒または請求項に記載の消臭剤組成物を含む、消臭製品。
【請求項8】
請求項に記載の消臭製品が、消臭繊維、消臭塗料、または消臭シートである消臭製品。
【請求項9】
請求項7または8に記載の消臭製品を用いた、椅子張り地、カーテン、カーペット、タイル、壁紙、または乗り物用内装材。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の臭い除去触媒または請求項に記載の消臭剤組成物を含む、抗菌・抗ウイルス性消臭製品。
【請求項11】
請求項10に記載の抗菌・抗ウイルス性消臭製品を用いた、椅子張り地、カーテン、カーペット、タイル、壁紙、または乗り物用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭い除去触媒およびその用途に関する。詳しくは、本発明は、Ptを含む金属成分が複合酸化物担体に担持されてなる、臭い除去触媒およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中で発生する様々な臭気(排気ガス、ゴミや食品の臭気、新築家屋・建物から排出される臭気等)は大きな社会課題であり、それぞれの環境に対して有効な対処方法が必要とされる。特に、住居、ホテル・レストランなどの公共施設、電車・自動車など交通機関等の閉鎖的な空間での臭気は問題となるが、人が共存するため安全性に懸念がある特殊な装置(オゾン脱臭、次亜塩素酸脱臭等)の設置は難しく、使い勝手の良い吸着剤が好適に用いられている。しかしながら、吸着剤は継続使用すると吸着容量を超えて破過してしまうため、頻繁に交換する必要がある。また、特に温度が高い日には、一度吸着した臭気成分が脱離することにより悪臭を発生することが問題となる。
【0003】
大気中の臭気成分を吸着・分解する技術としては、光触媒やPt担持シリカ触媒等が大気中の揮発性有機化合物(VOC)分解に有効であることが知られている。
特許文献1には、多孔質シリカに白金とルテニウムの複合体を担持させてなる触媒が、エチレンまたはメルカプタン化合物を酸化分解できることが教示されている。
【0004】
特許文献2には、有機物質に由来する揮発性有機化合物(VOC)の吸着剤として、パラジウムがドーピングされたZSM-5が開示されており、エチレンを吸着し得ることが示されている。
【0005】
特許文献3には、多孔質担体の表面にアニリン等による化学添着層を設け、ルテニウム、白金、パラジウムなどの触媒成分を担持させた脱臭剤が、また特許文献4には、活性炭に金属酸化触媒を担持した脱臭剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019-027057号
【文献】特開2015-213908号公報
【文献】特開2002-200150号公報
【文献】特開2000-312710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した光触媒やPt担持シリカ触媒等は、主に分子量が小さい低沸点物質(ホルムアルデヒド等)を対象としており、本発明者らの検討によれば、臭気強度が高い高沸点成分(ノネナール等)に対しては必ずしも十分な技術とは言えない。
【0008】
特許文献1に開示の触媒は、臭気物質として代表的な酢酸エチルなどの分解能力は不足である。
特許文献2に開示の吸着剤は、VOCの吸着除去に数日間連続的に使用することができ、使用後は空気中で加熱して再生し、再使用できるものではあるが、高温加熱による再生を行わずに長期間使用できるものではない。
【0009】
特許文献3および特許文献4に開示の脱臭剤は、いずれも脱臭効果が不足しており、活性炭を用いたものでは初期の吸着には優れていても、時間が経過すると十分な脱臭効果が得られなかった。
【0010】
このような状況において、発明者らは、安全性が高く、長期間安定して使用できる脱臭手段を追求し、より具体的には、吸着した臭気成分を分解して持続的に使用可能な吸着剤を追求した。
【0011】
すなわち本発明は、自動車内などの空間における臭気を素早く吸着除去するとともに、吸着した臭気成分を分解することにより、持続的に長期間臭いを低減することのでき、におい戻りのない臭い除去触媒を提供すること、および、当該臭い除去触媒を用いた消臭剤組成物および消臭製品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記のような状況に鑑みて鋭意研究した結果、Ptを含む金属が複合酸化物に担持され、特定の還元度を有する触媒が、優れた臭い除去効果を長期間維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、たとえば以下の〔1〕~〔12〕の事項に関する。
〔1〕複合酸化物に、Ptを含む金属成分が担持されてなり、下記式(1)で表される還元度が60%~86%の範囲にある、臭い除去触媒。
【0014】
還元度(%)=100-[X/Y]×100 …(1)
(上記式(1)において、Xは、前記触媒を乾燥し40℃~400℃まで昇温還元した際のTCD(熱伝導度検出器)のピーク面積を表し、Yは、前記触媒を空気または酸素雰囲気下、150℃で2時間加熱処理をしたのち40℃以下に冷却した酸化触媒を、40℃~400℃まで昇温還元した際のTCDのピーク面積を表す。)
〔2〕前記金属成分が、Ptと、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuから選ばれる少なくとも1つの金属元素とを含む、〔1〕に記載の臭い除去触媒。
〔3〕前記金属成分が、Ptと、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuから選ばれる少なくとも1つの金属元素とを含む合金を含有する、〔1〕または〔2〕に記載の臭い除去触媒。
〔4〕前記合金が固溶体を形成している、〔3〕に記載の臭い除去触媒。
〔5〕前記複合酸化物がMFI型ゼオライトである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の臭い除去触媒。
〔6〕前記MFI型ゼオライトにおけるシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23 (mol/mol))が40以下である、請求項5に記載の臭い除去触媒。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の臭い除去触媒と化学吸着剤を含む、消臭剤組成物。
〔8〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の臭い除去触媒または〔7〕に記載の消臭剤組成物を含む、消臭製品。
〔9〕〔8〕に記載の消臭製品が、消臭繊維、消臭塗料、消臭シートである消臭製品。
〔10〕〔8〕または〔9〕に記載の消臭製品を用いた、椅子張り地、カーテン、カーペット、タイル、壁紙、または乗り物用内装材。
〔11〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の臭い除去触媒または〔7〕に記載の消臭剤組成物を含む、抗菌・抗ウイルス性消臭製品。
〔12〕〔11〕に記載の抗菌・抗ウイルス性消臭製品を用いた、椅子張り地、カーテン、カーペット、タイル、壁紙、または乗り物用内装材。
【発明の効果】
【0015】
本発明の臭い除去触媒は、安全性が高く、臭気成分を吸着し、吸着した臭気成分を分解することにより、温度上昇等に伴って一度吸着した臭気成分を放出する問題を生じることなく、長期間持続的に臭いを低減することができる。本発明の臭い除去触媒は、臭気を有する空間に設置することで、長期間継続的に臭いを低減することができ、自動車等の車内、室内等を効果的に脱臭することができる。
【0016】
本発明の臭い除去触媒は、そのまま脱臭剤として用いることができ、また、臭い除去効果をもたらす成分として、これを含む組成物、樹脂コート材料、内装用シート材料、自動車インナーパネル等の様々な形態で用いることができる。本発明によれば、本発明に係る臭い除去触媒、およびこれを含む製品を用いることにより、アルデヒド類、カルボン酸類、エステル類などの臭気物質を好適に分解・除去することができる。また本発明によれば、安全にかつ長期間持続的に臭気物質を分解・除去し得る、臭いの除去方法を提供することができる。
【0017】
また、本発明の臭い除去触媒は、優れた脱臭効果に加え、抗菌・抗ウイルス性にも優れる。このため本発明の臭い除去触媒およびそれを含む製品は、臭いの分解・除去および/または抗菌・抗ウイルス性が求められる用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例4の連続分解試験によるプロピオンアルデヒド濃度の経時的変化を示すグラフである。
図2図2は、実施例4の連続分解試験時の二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフである。
図3図3は、実施例5の連続分解試験による酢酸エチル濃度の経時的変化を示すグラフである。
図4図4は、実施例5の連続分解試験時の二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフである。
図5図5は、実施例6の連続分解試験によるトリメチルアミン濃度の経時的変化を示すグラフである。
図6図6は、実施例6の連続分解試験時の二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフである。
図7図7は、実施例7の連続分解試験によるメチルメルカプタン濃度の経時的変化を示すグラフである。
図8図8は、実施例7の連続分解試験時の二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフである。
図9図9は、実施例8の連続分解試験によるトルエン濃度の経時的変化を示すグラフである。
図10図10は、実施例8の連続分解試験時の二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフである。
図11図11は、実施例9の混合臭気物質分解試験の、各臭気物質濃度の経時的変化を示すグラフである。
図12図12は、実施例9,10、比較例3,4の混合臭気物質分解試験の、30時間後の各臭気物質の平均分解速度を示すグラフである。
図13図13は、臭気物質の濃度と臭気強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
<臭い除去触媒>
本発明の臭い除去触媒は、複合酸化物に、Ptを含む金属成分が担持されてなり、60%~80%という特定範囲の還元度を有する。
【0020】
複合酸化物
本発明で用いる複合酸化物は、金属成分を担持し得るものであり、好ましくは多孔質複合酸化物である。
【0021】
複合酸化物としては、金属成分を担持し得るものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、チタン酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。これらのうちでも、ゼオライト(結晶性アルミノケイ酸塩)が好ましく、MFI型ゼオライトが特に好ましい。
【0022】
複合酸化物がMFI型ゼオライトである場合、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23 (mol/mol))は通常45以下、好ましくは40以下、より好ましくは20~30の範囲であることが望ましい。シリカ/アルミナ比がこのような範囲であると、臭気物質等の吸着効果に優れるため好ましい。平均粒径は、いずれも10nm~20μmの範囲であるのがより好ましく、特に好ましい範囲は10nm~10μmである。
【0023】
金属成分
本発明の臭い除去触媒には、Pt(白金)を含む1種以上の金属成分が担持されている。金属成分に含まれるPt以外の金属としては、特に限定されるものではないが、たとえば、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuが挙げられる。担持されている金属種は、Ptのみであってもよく、Ptとその他の金属との組み合わせであってもよく、好ましくは、PtのみあるいはPtとRe、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuから選ばれる少なくとも1つとの組み合わせである。担持されている金属全体(Ptとその他の金属の合計)中のPtの割合は、通常1mol%以上、好ましくは10mol%以上である。
【0024】
本発明の臭い除去触媒は、下記式(1)により求められる還元度が、60%~86%、好ましくは70%~86%、より好ましくは80%~86%の範囲にある。この還元度は、全金属成分中における、還元された状態にある金属成分の割合を意味する。
【0025】
還元度(%)=100-[X/Y]×100 …(1)
(上記式(1)において、Xは、前記触媒を40℃~400℃まで昇温還元した際のTCD(熱伝導度検出器)のピーク面積を表し、Yは、前記触媒を空気または酸素雰囲気下、150℃で2時間加熱処理をしたのち40℃以下に冷却した酸化触媒を、40℃~400℃まで昇温還元した際のTCDのピーク面積を表す。)
すなわち、本発明の臭い除去触媒においては、還元された状態にある金属成分(酸化数が0である)と、金属塩化合物等の還元され得る金属成分(金属の酸化数が1以上である)との両方が存在し、還元された状態にある金属成分が、担持された全金属成分中の60~86%の範囲にある。
【0026】
本発明の臭い除去触媒は、このような範囲の還元度を満たすことにより、全金属成分の量が同じであっても還元度が低すぎる触媒あるいは還元度が高すぎる触媒よりも、高い臭い除去性能を示す。
【0027】
還元された状態にある金属成分は、金属単体あるいは合金の状態で複合酸化物上に担持されている。還元された状態にある金属成分が、Ptとその他の金属を含む場合、Ptとその他の金属とがそれぞれ金属単体として存在してもよく、合金として存在してもよいが、少なくとも一部が合金を形成していることが好ましく、合金が固溶体を形成していることがより好ましい。Ptとその他の金属とが固溶体を形成した合金の状態である場合、(Pt使用量当たりの除去性能が上がるため好ましい。
【0028】
臭い除去触媒中における金属成分量は、金属成分全体の金属換算量で、通常0.01~10質量%、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.01~1質量%の範囲である。金属成分の担持量がこのような範囲であると、十分な臭い除去効果を達成できるため好ましい。
【0029】
本発明の臭い除去触媒は、優れた脱臭効果を有し、特に、アルデヒド類、カルボン酸類、エステル類などの臭気物質を好適に低減・除去することができる。具体的には、本発明の臭い除去触媒は、周囲の気体中の臭気物質を、複合酸化物の細孔中に吸着することで素早く低減し、吸着した臭気物質の少なくとも一部を、複合酸化物に担持されたPtを含む金属成分により分解する。このため本発明の臭い除去触媒は、臭気物質を吸着した後、高温にさらされた場合にも、臭気物質を放出して臭いを拡散するという問題を生じにくく、また、吸着した臭気物質が分解されて拡散されることにより、吸着能が著しく低下することがなく、長期にわたって脱臭に用いることができる。また、本発明の臭い除去触媒は、抗菌性・抗ウイルス性を有し、特に抗菌性に優れることから、抗菌性・抗ウイルス性が求められる用途にも好適に用いることができる。
【0030】
<臭い除去触媒の製造方法>
本発明の臭い除去触媒を製造する方法としては、上述した複合酸化物に、Pt(白金)を含む1種以上の金属成分を、上述した還元度が60%~86%の範囲となるように担持させる方法を、特に制限なく採用することができる。
【0031】
臭い除去触媒の製造方法としては、例えば、Ptを含む金属、金属化合物、あるいはそれらの混合物を、含浸担持、物理混合、イオン交換法、ポアフィリング法等により複合酸化物に担持し、必要に応じて還元する方法が挙げられる。
【0032】
好ましくは、Ptおよび必要に応じてその他の金属の化合物の溶液あるいは分散液を、ゼオライトなどの複合酸化物に含浸させ、必要に応じて乾燥した後、還元する方法が挙げられる。
【0033】
含浸に用いられるPtの化合物としては、例えば、塩化白金、酸化白金、硝酸白金、ジニトロジアミン白金、酢酸白金、シュウ酸白金等が挙げられる。また、その他の金属の化合物としては、金属塩、金属酸化物等が挙げられる。さらに、含浸に用いられる金属化合物は、Ptとその他の金属とを含む複塩等であってもよい。
【0034】
含浸により担持された金属化合物の還元は、例えば、熱分解による還元方法、水素や一酸化炭素による気体の還元剤による還元方法、エタノール、メタノール、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムのような液体の還元剤による還元方法により行うことができる。また、液相還元法を使用することにより、ゼオライト担体等の複合酸化物担体へのPtを含む金属化合物の担持と還元を同時的に行うこともでき、それによりPtを含む金属を担持した、臭い除去触媒を得ることもできる。該液相還元法は、具体的には、例えば、ゼオライトなどの複合酸化物担体に、ジニトロジアンミンPtエタノール溶液、クエン酸及びエタノールを添加し、加熱還流することにより行うことができる。
【0035】
Pt化合物を含む金属化合物の担持及び還元は、一度の操作で行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。
<消臭剤組成物>
本発明に係る臭い除去触媒は、単独で用いてもよく、その他の成分と組み合わせて用いてもよい。たとえば、本発明に係る臭い除去触媒と、臭気成分を除去、中和あるいは分解するその他の臭い除去成分とを含む消臭剤組成物として用いることができる。
【0036】
その他の臭い除去成分としては、公知のものを制限なく用いることができるが、化学吸着剤を用いることが好ましい。特に、臭気物質と化学的な相互作用により消臭する、化学吸着剤を、上述した本発明に係る臭い除去触媒と混合することにより、特に初期性能が向上した消臭剤組成物とすることができる。化学吸着剤としては、東亞合成製ケスモンNS-750(有機アミン担持シリカ;アルデヒド用)、NS-70(Ca、Mg系化合物;酸用)、NS-10(リン酸ジルコニア;アンモニア用)、NS―20C(Cu系化合物担持シリカ;硫黄化合物用);大塚化学製ケムキャッチ(アジピン酸ジヒドラジド;アルデヒド用);シナセンゼオミック製ダッシュライトS(アミン化合物担持シリカ;アルデヒド用)等を挙げることができる。
【0037】
本発明の消臭剤組成物は、消臭、脱臭の求められる用途、ならびに抗菌性、抗ウイルス性の求められる用途に好適に用いることができる。
<消臭製品(消臭剤)>
本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物は、公知の方法により液剤、固体剤またはゲル状固体剤などに適宜調製され、工業用および家庭用の種々の消臭剤用途に使用することができる。消臭液剤としては、水またはエタノールなどの適宜の有機溶媒に溶かしたもの、または適宜の界面活性剤で乳化させた液剤、あるいはこれら液剤を噴射剤とともにスプレー容器に充填したエアゾール消臭剤などが例示される。消臭固体剤としては、シリカやパーライトなどの粉末状無機物質と混合した粉末剤、紙や多孔性物質に吸着させたもの、あるいはポリエチレンなどの合成樹脂に練り込んだものなどが挙げられる。ゲル状固体消臭剤としては、寒天、カラギナン、ポリエチレングリコールなどの天然または合成高分子ゲル基剤に添加したものが例示される。また、必要に応じて、これらの剤型に界面活性剤、殺菌剤、香料や色素などを適宜添加してもよい。
【0038】
本発明の消臭剤は、家庭用としては、たとえば室内、冷蔵庫、トイレやごみ箱などにおける消臭のためおよび体臭除去・防止のために用いることができ、さらに、工業用としては、たとえば汚水処理場、魚類加工場、魚粉製造場、畜舎、畜糞あるいは鶏糞乾燥場やパルプ工場などにおける悪臭の除去のため適宜に用いることができる。
【0039】
本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物を用いた有用な消臭製品の1つは消臭繊維である。この場合、臭い除去触媒および消臭剤組成物が、原料繊維の表面に付着又は接着されている消臭繊維(1)、又は、臭い除去触媒および消臭剤組成物が、原料繊維の表面に表出するように埋設されている消臭繊維(2)とすることができる。原料繊維としては、天然繊維及び合成繊維のいずれでもよく、また、短繊維、長繊維及び芯鞘構造をもった複合繊維等いずれでもよい。消臭繊維(1)は、原料繊維の表面に、消臭剤組成物を含有した水系あるいは有機溶剤系懸濁液からなる消臭剤含有液体組成物(塗工液)を、グラビア塗布やディッピング、スプレー塗工等の方法で付着させ、溶剤等の媒体を除去することにより得ることができる。
【0040】
この消臭剤含有液体組成物(塗工液)には、原料繊維表面への消臭剤組成物の付着力を向上させるためのバインダーを配合しておいてもよい。バインダーの種類としては、アクリル系バインダー、アクリルシリコーン系バインダー、スチレン系バインダー、アクリルスチレン系バインダー等を挙げることができる。消臭剤とバインダーの比率(消臭剤/バインダー)は、通常95/5~10/90、好ましくは90/10~30/70、更に好ましくは80/20~40/60であり、用途により適切な比率を選ぶことができる。バインダー比率が少ないほど消臭剤の性能が出やすいが、繊維から脱落し易くなる傾向がある。
【0041】
消臭剤含有液体組成物の粘度が低く、消臭剤が沈降する場合は、増粘剤を添加することができる。増粘剤としては、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガムなどの多糖類、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸系増粘剤などを上げることができる。塗工液への添加量としては、0.01~10%、好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2%~2%である。塗工液の繊維への濡れ性が不充分な場合は、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸ナトリウム、アセチレングリコール系界面活性剤などを挙げることができる。塗工液への添加量としては、0.01~10%、好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2%~2%である。消臭剤組成物を含有する水系の塗工液のpHは、特に制限はないが、消臭剤組成物の性能を十分に発揮させるために、好ましくはpHが6~8付近である。
【0042】
また、消臭繊維(2)は、液状繊維用樹脂の溶融物又は溶解した繊維用樹脂溶液に、本発明の消臭剤組成物を配合し、得られた消臭剤含有樹脂組成物を繊維化することにより得ることができる。この方法で用いることができる繊維用樹脂は、特に限定されず、公知の化学繊維を使用することができる。好ましい樹脂は、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニル、ポリビニリデン、ポリウレタン及びポリスチレン等である。これらの樹脂は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。共重合体の場合、単量体の重合割合は、特に限定されない。
【0043】
消臭剤含有樹脂組成物に含まれる臭い除去触媒および消臭剤組成物の割合は、特に限定されない。一般に、臭い除去触媒および消臭剤組成物の含有量を増やせば、消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に含有させても、消臭効果に大きな差が生じないこと、あるいは消臭繊維の強度が低下することがあるので、繊維用樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0044】
本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物の主要な他の消臭製品は、消臭剤含有塗料組成物である。消臭剤含有塗料組成物を製造するに際し、使用される塗料ビヒクルの主成分となる油脂又は樹脂は、特に限定されず、天然植物油、天然樹脂、半合成樹脂及び合成樹脂のいずれであってもよい。使用できる油脂及び樹脂としては、例えば、あまに油、しなきり油、大豆油等の乾性油又は半乾性油、ロジン、ニトロセルロース、エチルセルロース、酪酸セルロース、ベンジルセルロース、ノボラック型又はレゾール型のフェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂及びポリ塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。尚、消臭剤含有塗料組成物は、熱可塑性及び硬化性のいずれでもよい。
【0045】
消臭剤含有塗料組成物に含まれる本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物の割合は、特に限定されない。一般に、臭い除去触媒および消臭剤組成物の含有量を増やせば、消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に含有させても、消臭効果に大きな差が生じないこと、あるいは、塗装面の光沢がなくなったり、割れが生じたりする。従って、臭い除去触媒および消臭剤組成物の含有割合は、組成物100質量%に対して、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.5~10質量%である。
【0046】
本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物は、液体塗料、粉体塗料のいずれにも使用可能である。また、上記消臭剤含有塗料組成物は、いかなる機構により皮膜化するタイプでもよく、塗膜を硬化させる場合には、酸化重合型、湿気重合型、加熱硬化型、触媒硬化型、紫外線硬化型、及びポリオール硬化型等とすることができる。また、焼き付けによる硬化型の焼結塗装にも適用できる。また、組成物に配合される顔料、分散剤その他の添加剤は、本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物と化学的反応を起す可能性のあるものを除けば、特に制限はない。上記消臭剤含有塗料組成物は、容易に調製することができ、具体的には、原料成分を、例えば、ボールミル、ロールミル、デイスパーやミキサー等の一般的な混合装置を用いて、十分に分散、混合すればよい。
【0047】
また、本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物を用いた更に他の消臭製品は、消臭シート( 消臭フィルムを含む) である。加工前の原料シートは、特に限定されず、その材質、微細構造等も、用途等に応じたものとすることができる。原料シートの好ましい材質は、樹脂、紙等の有機材料、無機材料、あるいはこれらの複合物である。原料シートは、1 面側から他面側に通気性を有するものが好ましく用いられる。原料シートの他の好ましい具体例としては、和紙、合成紙、不織布、樹脂フィルム等が挙げられ、特に好ましい原料シートは、天然パルプ及び/又は合成パルプからなる紙である。天然パルプを使用すると、微細に枝分かれした繊維間に消臭剤粒子が挟まれやすく、特に結合剤を使用しなくても実用的な担持体になり得る。一方、合成パルプは、耐薬品性に優れるという長所がある。合成パルプを使用する場合には、繊維間に粉体を挟み込むことにより消臭剤粒子を担持することが困難となることがあるので、それを抑制するために、抄紙後の乾燥工程において繊維の一部を溶融し、粉末と繊維との間の付着力を増加させてもよく、繊維の一部に別の熱硬化性樹脂繊維を混在させてもよい。天然パルプと合成パルプとを適当な割合で混合して使用すると、種々の特性を調整した紙を得ることができるが、一般に合成パルプの割合を多くすると、強度、耐水性、耐薬品性及び耐油性等に優れた紙を得ることができ、一方、天然パルプの割合を多くすると、吸水性、ガス透過性、親水性、成形加工性及び風合い等に優れた紙を得ることができる。
【0048】
上記消臭シートとしては、消臭剤組成物が、原料シートの1面側から他面側への全体に渡って含まれるものであってよいし、1面側又は他面側の表面層に配されたものであってもよいし、表面層を除く内部に配されたものであってもよい。
【0049】
上記消臭シートに含まれる本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物の担持量は、特に限定されない。一般に、臭い除去触媒および消臭剤組成物の担持量を増やせば、消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に担持させても、消臭効果に大きな差が生じない。従って、臭い除去触媒および消臭剤組成物の担持量は、原料シート100質量部あたり、好ましくは0.1~10質量部である。
【0050】
上記消臭シートを製造する方法は、特に限定されない。本発明の臭い除去触媒および消臭剤組成物の担持は、原料シートの製造と同時又は原料シートの製造後のいずれでもよい。例えば、紙に担持する場合、抄紙工程のいずれかの工程において臭い除去触媒および消臭剤組成物を導入する方法や、バインダーを含む消臭剤含有液体組成物(塗工液)を、予め製造した紙に塗布、浸漬又は吹き付ける方法等を適用することができる。バインダーの種類、塗工液に添加可能な増粘剤および界面活性剤は、消臭繊維の項で説明したものと同じである。消臭剤含有液体組成物を用いる場合、臭い除去触媒および消臭剤組成物の担持量が、0.05~10g/m2程度となるように塗工することが好ましい。
【0051】
<臭いの除去方法>
本発明の臭いの除去方法は、上述した本発明の臭い除去触媒またはそれを含む消臭剤組成物あるいは消臭製品(以下、臭い除去触媒等ともいう)を用いて、臭気物質による臭いを低減・除去する方法であり、好ましくは、アルデヒド類、カルボン酸類、エステル類、アミン類、チオール類、炭化水素類から選ばれる少なくとも1種の臭気物質による臭いを低減する方法である。臭い除去触媒は、そのままの形態で用いてもよく、また、他の素材と組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明の臭い除去方法は、上述した本発明の臭い除去触媒等を、臭い除去の対象となる気体(臭気物質を含む気体)と接触させることにより達成することができ、具体的には、本発明の臭い除去触媒等を臭い除去の対象となる空間に静置すること、本発明の臭い除去触媒等の存在する空間に、臭気物質を含む気体を通気することなどの方法が挙げられる。
【0053】
本発明に係る臭い除去触媒等を用いて臭いの除去を行うと、臭い除去触媒を構成するゼオライトなどの複合酸化物が、周囲の臭気物質を吸着するため初期の臭気低減効果が高く、また、担持されたPtを含む金属成分により吸着した臭気物質が分解されるため、吸着した臭気物質が放出されることがなく、吸着能も回復することから、臭気物質による臭気を長期間にわたって軽減・除去することができる。また、本発明に係る臭い除去触媒とともに、臭気物質と化学的な相互作用により消臭する化学吸着剤を含む消臭剤組成物または消臭製品を用いた場合には、初期の臭気低減効果をさらに向上させることができる。
【0054】
<用途>
本発明の臭い除去触媒およびこれを含む消臭剤組成物、消臭製品は、上述のように、周囲の臭気物質を吸着し、分解することにより、臭いを長期にわたり軽減・除去することができ、特に、アルデヒド類、カルボン酸類、エステル類、アミン類、チオール類、炭化水素類から選ばれる臭気物質による臭気を軽減・除去することができる。また、本発明の臭い除去触媒およびこれを含む消臭剤組成物、消臭製品は、抗菌性・抗ウイルス性を有し、特に抗菌性に優れることから、製品表面等に抗菌性・抗ウイルス性が求められる用途にも好適に用いることができる。
【0055】
このような本発明の臭い除去触媒およびこれを含む消臭剤組成物は、大気中の臭気物質による臭気の軽減・除去に好適に用いることができ、たとえば自動車内などの室内の脱臭に特に好適に用いることができる。
【0056】
また本発明の臭い除去触媒、消臭剤組成物および消臭製品は、特に制限なく種々の用途に適用することができ、たとえば、椅子張り地、カーテン、カーペット、タイル、壁紙、または乗り物用内装材等に適用することができる。これらの用途に対しては、上記消臭製品のどの形態を用いてもよい。
【0057】
乗り物用内装の、乗り物としては、自動車、電車、旅客機、船舶をあげることができる。
乗り物用内装材としては、天井材、インナーパネル、ドアトリム、ヘッドレスト、ハンドル、シフトレバー、インストルメンツパネル、シートカバー、床材、床マット、バックドアパネルをあげることができる。
【0058】
本発明の消臭製品の他の用途として、特に消臭繊維は、例えば、肌着、靴下、エプロン等の衣類、介護用衣類、布団、座布団、毛布、じゅうたん、ソファ、エアーフィルター、布団カバー、カーテン、カーシート等の消臭シートを加工した製品等の繊維製品に使用することができる。
【0059】
本発明の消臭製品の他の用途として、特に消臭塗料組成物は、例えば、建物、車両、鉄道等の内壁及び外壁、ゴミ焼却場の施設、生ゴミ容器等に対して好適に使用することができる。特にVOC濃度の高い工場の床材や内壁、魚市場の床材や内壁などの建築材料に使用することができる。
【0060】
本発明の臭い除去触媒およびこれを含む消臭剤組成物、消臭製品は、抗菌性・抗ウイルス性を有することから、抗菌・抗ウイルス性消臭製品として使用することができる。具体的な用途は、上述と同様であり、たとえば、椅子張り地、カーテン、カーペット、タイル、壁紙、または乗り物用内装材などが挙げられる。
【実施例
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
臭い除去触媒Aの調製
Ptを含む化合物として、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(富士フイルム和光純薬(株)製)0.05gを秤量し、50ccの蒸留水に溶解させた。この溶液を200ccナス型フラスコに投入し、次いでMFI型ゼオライト(H-ZSM‐5、東ソー(株)製 HSZ 822HOA、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23 比(mol/mol)):23、平均粒径:5μm)を2.0g投入して、1%Pt/ゼオライトとなるようにして、Pt化合物溶液をゼオライトに含浸させた。次いでフラスコをエバポレーター装置に取り付け、80℃、真空下にて水を蒸発させ、残った粉体を回収した。回収した粉体を、100%H2流通下で、5℃/minで120℃まで昇温して2時間水素還元を行い、Pt/ゼオライト触媒である、臭い除去触媒Aを調製した。
におい除去度の評価(プロピオンアルデヒド)
上記で得た臭い除去触媒Aを2mg秤量し、2Lサンプリングバック:フレックサンプラー(近江オドエアーサービス株式会社製)に入れる。ブランク試験の場合は触媒を入れないで実施する。
【0062】
活性炭フィルターを通した空気を1.5L導入する。次いでサンプリングバック中のプロピオンアルデヒド濃度が1ppmになるように導入する。
室温で24時間静置したのち、臭いセンサー(神栄テクノロジー株式会社製 型番:OMX-TDM)を用いて、においの評価を行い、下記の式にてにおい除去度を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
におい除去度(%)=(1-センサー値(触媒有り)/センサー値(ブランク))×100
還元度の評価
上記で得た臭い除去触媒Aを0.2g秤量し、サンプル管に固定した。サンプル管を、熱伝導度検出器(TCD)を備えた触媒分析装置(日本ベル株式会社製 触媒分析装置 BELCAT‐A)に取付け、He流通下で120℃2時間処理し吸着水を除去し、He流通下のまま40℃まで降温した。次いで、水素流通下で5℃/minで昇温させながら、TCD(熱伝導度検出器)にてガスの分析を実施し、40℃から400℃まで昇温還元した際のピーク面積Xを測定した。
【0064】
一方、調製した臭い除去触媒を0.2g秤量し、サンプル管に固定した。サンプル管を、熱伝導度検出器(TCD)を備えた触媒分析装置(日本ベル株式会社製 触媒分析装置 BELCAT‐A)に取付け、酸素流通下で150℃2時間処理して担持された金属成分を完全に酸化し、He流通下で常温まで降温して酸化触媒とした。次いで、水素流通下で5℃/minで昇温させながら、TCD(熱伝導度検出器)にてガスの分析を実施し、40℃から400℃まで昇温還元した際のピーク面積Yを測定した。
【0065】
得られたピーク面積XおよびYから、下記式(1)により還元度を求めた。結果を表1に示す。
還元度(%)=100-[X/Y]×100 …(1)
(上記式(1)において、Xは、前記触媒を乾燥し40℃~400℃まで昇温還元した際のTCD(熱伝導度検出器)のピーク面積を表し、Yは、前記触媒を空気または酸素雰囲気下、150℃で2時間加熱処理をしたのち40℃以下に冷却した酸化触媒を、40℃~400℃まで昇温還元した際のTCDのピーク面積を表す。)
[実施例2,3および比較例1,2]
臭い除去触媒B、C、D、Eの調製
実施例1において、水素還元時の昇温温度(還元温度)を表1に示す温度としたことの他は、実施例1と同様にしてPt/ゼオライト触媒である臭い除去触媒B、C、D、Eをそれぞれ調製した。得られた各臭い除去触媒について、実施例1と同様にして、におい除去度および還元度を求めた。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
実施例1~3および比較例1,2より、Ptが担持され還元度が60%~86%という特定範囲を満たす臭い除去触媒が、優れた臭い除去効果を示すことが分かった。
【0067】
[実施例4]
プロピオンアルデヒドの連続分解試験
実施例2で得た臭い除去触媒Bを10mg用いて、固定床流通式にて、プロピオンアルデヒドを臭気物質として含むガスを連続的に処理する、連続分解試験を次のように実施した。
【0068】
臭い除去触媒B 10mgを反応管に設置し、80℃にてプロピオンアルデヒド10ppm混合ガス(空気希釈)を3L/hで流通させた。分析は、反応管入口ガスと出口ガスをGC-MSに導入し、プロピオンアルデヒド濃度、二酸化炭素濃度の分析を行った。
【0069】
分析結果より、図1にプロピオンアルデヒド濃度の経時的変化を示すグラフを、図2にプロピオンアルデヒド連続分解試験時の二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフを示す。図1により定常的にプロピオンアルデヒド濃度が減少していることが分かり、また図2により継続的に二酸化炭素が発生していることが分かり、臭い除去触媒Bによって長期にわたり継続的に臭気物質であるプロピオンアルデヒド(アルデヒド類)の除去が可能なことが分かった。
【0070】
[実施例5]
酢酸エチルの連続分解試験
実施例4において、プロピオンアルデヒド10ppm混合ガスに代えて、酢酸エチル10ppm混合ガス(空気希釈)を用いたことの他は実施例4と同様にして、連続分解試験を行い、反応管入口ガスと出口ガスの酢酸エチル濃度および二酸化炭素濃度の分析を行った。
【0071】
分析結果より、図3に酢酸エチル濃度の経時的変化を示すグラフを、図4に二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフを示す。図3により定常的に酢酸エチル濃度が減少していることが分かり、また図4により継続的に二酸化炭素が発生していることが分かり、臭い除去触媒Bにより長期にわたり継続的に臭気物質である酢酸エチル(カルボン酸類)の除去が可能なことが分かった。
【0072】
[実施例6]
トリメチルアミンの連続分解試験
実施例4において、プロピオンアルデヒド10ppm混合ガスに代えて、トリメチルアミン10ppm混合ガス(空気希釈)を用いたことと、温度を120℃にしたことの他は実施例4と同様にして、連続分解試験を行い、反応管入口ガスと出口ガスのトリメチルアミン濃度および二酸化炭素濃度の分析を行った。
【0073】
分析結果より、図5にトリメチルアミン濃度の経時的変化を示すグラフを、図6に二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフを示す。図5により定常的に酢酸エチル濃度が減少していることが分かり、また図6により継続的に二酸化炭素が発生していることが分かり、臭い除去触媒Bにより長期にわたり継続的に臭気物質であるトリメチルアミン(アミン類)の除去が可能なことが分かった。
【0074】
[実施例7]
メチルメルカプタンの連続分解試験
実施例4において、プロピオンアルデヒド10ppm混合ガスに代えて、メチルメルカプタン10ppm混合ガス(空気希釈)を用いたことと、温度を160℃にしたことの他は実施例4と同様にして、連続分解試験を行い、反応管入口ガスと出口ガスのメチルメルカプタン濃度および二酸化炭素濃度の分析を行った。
【0075】
分析結果より、図7にメチルメルカプタン濃度の経時的変化を示すグラフを、図8に二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフを示す。図7により定常的に酢酸エチル濃度が減少していることが分かり、また図8により継続的に二酸化炭素が発生していることが分かり、臭い除去触媒Bにより長期にわたり継続的に臭気物質であるメチルメルカプタン(硫黄化合物)の除去が可能なことが分かった。
【0076】
[実施例8]
トルエンの連続分解試験
実施例4において、プロピオンアルデヒド10ppm混合ガスに代えて、トルエン10ppm混合ガス(空気希釈)を用いた以外は実施例4と同様にして、連続分解試験を行い、反応管入口ガスと出口ガスのトルエン濃度及び二酸化炭素濃度の分析を行った
分析結果より、図9にトルエン濃度の経時的変化を示すグラフを、図10に二酸化炭素濃度の経時的変化を示すグラフを示す。図9により定常的にトルエン濃度が減少していることが分かり、また図10により継続的に二酸化炭素が発生していることが分かり、臭い除去触媒Bにより長期にわたり継続的に臭気物質であるトルエン(芳香族炭化水素)の除去が可能なことが分かった。
【0077】
[実施例9]
混合臭気物質分解試験
実施例2で得た臭い除去触媒B 10mgを500mlヘッドスペースボトルに投入し、大気雰囲気にて密封後、内部ガスを10ml採取・排気した。ここに、各臭気物質(プロピオンアルデヒド、酢酸エチル、n-酪酸)の濃度がそれぞれ12,500 vol.ppmの混合ガスを10ml注入した(容器内の各臭気物質の初期濃度は250ppm)。注入した時刻を0hとし、容器を80℃の空気恒温器内に静置した。2、4、6、22、24、26、28、30時間後に、サンプリングおよびフレッシュガスの添加を次の工程1~3により実施した。
(工程1)反応容器より内部ガスを1ml採取し、下記表2に記載の条件によりGC-M
S分析を行う、
(工程2)反応容器より内部ガスを9ml採取・排気する、
(工程3)臭気物質混合ガスを10ml添加する。
【0078】
なお、混合ガス添加直後の各臭気物質の濃度は計算値により求めた。各臭気物質濃度の経時的変化のグラフを図11に示した。図11の各グラフ中、丸(●)は上記工程1でのサンプリングによる各臭気物質濃度(GC-MS分析値)を、四角(□)は上記工程3で臭気物質混合ガス添加直後の各臭気物質濃度(計算値)を示す。また、各臭気物質の濃度変化から、30時間後の触媒1gあたりの各臭気物質の平均分解速度(mmol/g/h)を求め、図12のグラフに示した。なお、図12のグラフ中の値は、左から、プロピオンアルデヒドの平均分解速度、酢酸エチルの平均分解速度、n-酪酸の平均分解速度をそれぞれ示す。
【0079】
【表2】
[実施例10]
塗工フィルム作成
実施例2で得た臭い除去触媒B 6g、5%アルギン酸ナトリウム 10g、アクリルシリコーンバインダー ライトエポックS-65(北広ケミカル(株)製、固形分25%)40g、水44gを混合し、撹拌を行うことにより、粒子が均一に分散された塗工用水性液を得た。オートフィルムアプリケーター(テスター産業(株)製)を用い、当該塗工水溶液をPETフィルム(東洋紡(株)製、厚さ25μm)上に塗工後、130℃、15分乾燥することにより、均一に粒子が分散した塗工フィルムを得た。塗工量は、2.5g/m2であった。
混合臭気物質分解試験
実施例9において、臭い除去触媒Bに代えて、上記で得られた塗工フィルム4×10cm(臭い除去触媒B 10mgに相当)を用いたことの他は、実施例9と同様の操作を行った。30時間後の触媒1gあたりの各臭気物質の平均分解速度(mmol/g/h)を求め、図12のグラフに示した。
【0080】
[比較例3]
実施例9において、臭い除去触媒Bに代えて、やし殻活性炭(ナカライテスク(株)製)10mgを用いた以外は実施例9と同様の操作を行った。30時間後の触媒1gあたりの各臭気物質の平均分解速度(mmol/g/h)を求め、図12のグラフに示した。
【0081】
[比較例4]
実施例9において、臭い除去触媒Bに代えて、MFI型ゼオライト(H-ZSM‐5、東ソー(株)製 HSZ 822HOA、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23 比(mol/mol)):23、平均粒径:5μm)10mgを用いた以外は実施例9と同様の操作を行った。30時間後の触媒1gあたりの各臭気物質の平均分解速度(mmol/g/h)を求め、図12のグラフに示した。
【0082】
[実施例11]
化学吸着剤を含む消臭剤組成物
実施例2で得た臭い除去触媒B 5mgと、化学吸着剤であるケスモンNS-750(東亞合成製)2.5mgおよびケスモンNS-70(東亞合成製)2.5mgとを、消臭剤組成物として2Lサンプリングバック(フレックサンプラー、近江オドエアーサービス株式会社製)に入れた。活性炭フィルターを通した空気をこの2Lサンプリングバックに導入し、導入口にシリコーン製キャップをした。次いで、1500vol.ppmのプロピオンアルデヒド/空気1mLを、ガスタイトシリンジを用いてサンプリングバックに注入し、袋内のプロピオンアルデヒド濃度を約1ppmになるよう調整した。室温で、1h、5h、24h静置したときの臭気強度を官能評価した。ここで、臭気強度は、下記表3に示す臭いの程度を数値化した指標である。なお、この官能評価における指標は以下の実施例および比較例においても同様に用いた。官能評価は、日本健康住宅協会 空気環境部会による各臭気物質の濃度と臭気強度の関係(http://kjknpo.com/html#j/bukai/kuki/qa/a11.htm)に基づくグラフ(図13)に示すプロピオンアルデヒド濃度と臭気強度の関係から、各臭気強度のサンプルを作成し、それらとの比較から評価した。評価結果を表4に示す。
【0083】
【表3】
[比較例5]
実施例11において、消臭剤組成物を、やし殻活性炭(ナカライテスク(株)製)10mgに変更したこと以外は、同様の操作を行い、官能評価結果を表4に示した。
【0084】
[比較例6]
実施例11において、消臭剤組成物を用いなかったこと以外は、同様の操作を行い、官能評価結果を表4に示した。
【0085】
【表4】
[実施例12]
昇温による臭い戻り評価
実施例2で得た臭い除去触媒B 25mg、ケスモンNS-750 12.5mg、ケスモンNS-70 12.5mgを、消臭剤組成物として、2Lサンプリングバック(フレックサンプラー、近江オドエアーサービス株式会社製)に入れた。活性炭フィルターを通した空気を2.0Lサンプリングバックに導入し、導入口にシリコーン製キャップをした。次いで、1500vol.ppmのプロピオンアルデヒド/空気1mLを、ガスタイトシリンジを用いてサンプリングバックに注入し、袋内のプロピオンアルデヒド濃度を約1ppmになるよう調整した。室温で、2日間静置したときの臭気強度は0となっていた。当該試験袋をそのままオーブンの中に入れ、40℃に昇温して1時間静置後、官能評価を行った。その後、60℃、80℃で同様の評価を行った。結果を表5に示した。
【0086】
[比較例7]
実施例12において、消臭剤組成物を、やし殻活性炭(ナカライテスク(株)製)50mgに変更した以外は実施例12と同様の操作を行い、官能評価を行った。結果を表5に示した。
【0087】
[比較例8]
実施例12において、消臭剤組成物を用いなかったこと以外は、実施例12と同様の操作を行い、官能評価を行った。結果を表5に示した。
【0088】
【表5】
[実施例13]
(臭い除去触媒と化学吸着剤の組合せ;酪酸)
実施例2で得た臭い除去触媒B 5mgと、化学吸着剤であるケスモンNS-750(東亞合成製)2.5mgおよびケスモンNS-70(東亞合成製)2.5mgとを、消臭剤組成物として2Lサンプリングバック(フレックサンプラー、近江オドエアーサービス株式会社製)に入れた。活性炭フィルターを通した空気をこの2Lサンプリングバックに導入し、導入口にシリコーン製キャップをした。次いで、1500vol.ppmのn-酪酸/空気1mLをガスタイトシリンジを用いてサンプリングバックに注入し、袋内のn-酪酸濃度を約1ppmになるよう調整した。室温で、1h、5h、24h静置したときの臭気強度を官能評価した。なお、臭気強度は、表3に示す臭いの程度を数値化した指標である。官能評価は、図13のグラフに示すn-酪酸の濃度と臭気強度の関係から、各臭気強度のサンプルを作成し、それらとの比較から評価した。評価結果を表6に示した。
【0089】
[比較例9]
実施例14において、消臭剤組成物を、やし殻活性炭(ナカライテスク(株)製)10mgに変更した以外は実施例13と同様の操作を行い、官能評価を行った。結果を表6に示した。
【0090】
[比較例10]
実施例13において、消臭剤組成物を用いなかったこと以外は、実施例13と同様の操作を行い、官能評価を行った。結果を表6に示した。
【0091】
【表6】
[実施例14]
(臭い除去触媒と化学吸着剤の組合せ;トリメチルアミン)
実施例2で得た臭い除去触媒B 5mgと、化学吸着剤であるケスモンNS-750(東亞合成製)2.5mgおよびケスモンNS-70(東亞合成製)2.5mgとを、消臭剤組成物として2Lサンプリングバック(フレックサンプラー、近江オドエアーサービス株式会社製)に入れた。活性炭フィルターを通した空気をこの2Lサンプリングバックに導入し、導入口にシリコーン製キャップをした。次いで、1500vol.ppmのトリメチルアミン/空気1mLを、ガスタイトシリンジを用いてサンプリングバックに注入し、袋内のトリメチルアミン濃度を約1ppmになるよう調整した。室温で、1h、5h、24h静置したときの臭気強度を官能評価した。なお、臭気強度は、表3に示す臭いの程度を数値化した指標である。官能評価は、図7のグラフに示すトリメチルアミンの濃度と臭気強度の関係から、各臭気強度のサンプルを作成し、それらとの比較から評価した。評価結果を表7に示した。
【0092】
[比較例11]
実施例14において、消臭剤組成物を、やし殻活性炭(ナカライテスク(株)製)10mgに変更した以外は実施例14と同様の操作を行い、官能評価を行った。結果を表7に示した。
【0093】
[比較例12]
実施例14において、消臭剤組成物を用いなかったこと以外は、実施例15と同様の操作を行い、官能評価を行った。結果を表7に示した。
【0094】
【表7】
[実施例15]
昇温による臭い戻り評価
実施例14で24h後に得られた消臭剤組成物入り袋をそのままオーブンの中に入れ、80℃に昇温して1時間静置後、官能評価を行った。におい強度は0のまま変化はなかった。
【0095】
[比較例13]
昇温による臭い戻り評価
比較例11で24h後に得られた消臭剤組成物入り袋をそのままオーブンの中に入れ、80℃に昇温して1時間静置後、官能評価を行った。臭気強度は0.5から2.5に強まり、加熱による臭い戻りが確認された。
【0096】
[実施例16]
消臭性能評価(トリメチルアミン)
実施例2で得た臭い除去触媒B 3mgを、3Lサンプリングバック(フレックサンプラー、近江オドエアーサービス(株)製)に入れ、空気2.5Lを導入し、導入口にシリコーン製キャップをした。次いで、20000vol.ppmのトリメチルアミン/空気5.5mLを、ガスタイトシリンジを用いてサンプリングバックに注入し、袋内のトリメチルアミン濃度を約45ppmになるよう調整した。80℃で16h静置したときの袋内のトリメチルアミン濃度を検知管180(ガステック(株)製)で評価した。ブランクとして臭い除去触媒を入れずに同様の評価を行い、ブランクの値を100%とした相対濃度は、12%であった。
【0097】
[実施例17]
バインダー1の製造
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水550g及びドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら72℃まで昇温した。内温を72℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム3gを添加し、溶解後、予めイオン交換水400g、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム3gにアクリルアミド15g、メチルメタクリレート590g、n-ブチルアクリレート330g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート20g、メタクリル酸20g、エチレングリコールジメタクリレート15g、t-ドデシルメルカプタン1gを撹拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間の熟成を行った。得られたバインダー1を含む水溶液を常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニウム水溶液とを添加して固形分50%、pH7.5に調整し、50%バインダー1水溶液を得た。
塗工液調製・塗工(塗工不織布N1の製造)
実施例2で得た臭い除去触媒B 3g、50%バインダー1水溶液4g、5%シックナーSN615(サンノブコ(株)製)水溶液6g、10%DOWFAX2A1(ダウ(株)製)水溶液2g、水32gを混合し、撹拌することにより、粒子が均一に分散された塗工液を得た。得られた塗工液を金属製バットに流し入れ、A5サイズ(148×210mm)のPET不織布(05TH-80、広瀬製紙(株)製)を2分間浸漬し、絞り器で余分な塗工液を搾り取った後、80℃で10分間加熱乾燥することにより、均一に粒子が分散塗工された塗工不織布N1を得た。塗工量は3.23g/m2であり、塗工品上のPt量のICP分析から、臭い除去触媒Bの塗工量は、1.5g/m2、1.8重量%であった。
消臭性能評価(トリメチルアミン)
上記塗工不織布N1の、臭い除去触媒B 3mgに相当する20cm2を切り出した。実施例16の消臭性能評価において、臭い除去触媒Bの代わりに、当該塗工不織布N1 20cm2を用いた以外は、同様の方法でトリメチルアミンの消臭性能を評価した。相対濃度は、17%であった。
【0098】
[実施例18]
バインダー2の製造
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000g及びドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸アンモニウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水300g、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム3.5gにアクリルアミド7g、スチレン690g、ジビニルベンゼン6g、アクリル酸15gを撹拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間の熟成を行った。得られたバインダー2を含む水溶液を常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニウム水溶液とを添加して固形分35重量%、pH8.0に調整し、35%バインダー2水溶液を得た。
塗工液調製・塗工(塗工フィルムN2の製造)
実施例2で得た臭い除去触媒B 3g、35%バインダー2水溶液5.7g、5%シックナーSN615(サンノブコ(株)製)水溶液6g、10%DOWFAX2A1(ダウ(株)製)水溶液2g、水30gを混合し、撹拌することにより、粒子が均一に分散された塗工液を得た。スリット幅40μmのアプリケーターを用い、オートフィルムアプリケーター(テスター産業(株)製)にて、当該塗工水溶液をPETフィルム(東洋紡(株)製、厚さ25μm)上に塗工後、120℃、10分乾燥することにより、均一に粒子が分散した塗工フィルムN2を得た。塗工量は、7.5g/m2、臭い除去触媒Bの塗工量は3.6g/m2であった。
消臭性能評価(トリメチルアミン)
上記塗工フィルムN2の、臭い除去触媒B 3mgに相当する8cm2を切り出した。実施例16の消臭性能評価において、臭い除去触媒Bの代わりに、当該塗工フィルムN2 8cm2を用いた以外は、同様の方法でトリメチルアミンの消臭性能を評価した。相対濃度は、25%であった。
【0099】
[実施例19]
塗工液調製・塗工(塗工不織布N3の製造)
実施例2で得た臭い除去触媒B 9g、8%ポリビニルアルコール(Mw、Mw/Mn)水溶液6g、水9gを混合し、撹拌を行うことにより、粒子が均一に分散された塗工用水溶液を得た。スリット幅40μmのアプリケーターを用いオートフィルムアプリケーター(テスター産業(株)製)にて、当該塗工水溶液をPET不織布(05TH-80、広瀬製紙(株)製)上に塗工後、80℃、10分乾燥することにより、均一に粒子が分散した塗工不織布N3を得た。塗工量は、25.8g/m2、臭い除去触媒Bの塗工量は24.5g/m2、23.6重量%であった。
消臭性能評価(トリメチルアミン)
上記塗工不織布N3の、臭い除去触媒B 3mgに相当する1.2cm2を切り出した。実施例16の消臭性能評価において、臭い除去触媒Bの代わりに、当該塗工不織布N3 1.2cm2を用いた以外は、同様の方法でトリメチルアミンの消臭性能を評価した。相対濃度は、14%であった。
【0100】
[比較例14]
塗工液調製・塗工(塗工フィルムN4の製造)
35%バインダー2水溶液5.7g、5%シックナーSN615(サンノブコ(株)製)水溶液6g、10%DOWFAX2A1(ダウ(株)製)水溶液2g、水30gを混合し、撹拌することにより塗工液を得た。スリット幅40μmのアプリケーターを用いオートフィルムアプリケーター(テスター産業(株)製)にて、当該塗工水溶液をPETフィルム(東洋紡(株)製、厚さ25μm)上に塗工後、80℃、10分乾燥することにより、塗工フィルムN4を得た。塗工量は、3.4g/m2であった。
消臭性能評価(トリメチルアミン)
上記塗工フィルムN4 8cm2を切り出した。実施例16の消臭性能評価において、臭い除去触媒Bの代わりに、当該塗工フィルム 8cm2を用いた以外は、同様の方法でトリメチルアミンの消臭性能を評価した。相対濃度は、97%であった。
【0101】
[実施例20]
抗菌性評価
JIS L1902に準拠して、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC12732)、大腸菌(Escherichia coli NBRC3301)を用いて抗菌性評価を行った。試験菌液は1/20ニュートリエントブロス培地を用い、菌濃度1.5×105(CFU/mL)の物を使用した。対照として標準綿布を用いた。
【0102】
実施例19で得られた、塗工不織布N3 0.4gをバイアル瓶に入れ、試験菌液0.2mlを滴下後、バイアル瓶のふたをし、37℃で18時間培養した。試験片から試験菌を洗い出し、洗い出し液中の生菌数を、普通寒天培地を用いて培養して大腸菌のコロニーの数をカウントした(混釈平板培養法)。同様の操作を3回繰り返し、平均値を表8、表9に示した。抗菌活性値は下記式により算出した。なお、抗菌活性値≧2.0で抗菌性有りと判定される。
抗菌活性値=[Log(対照試料・培養後生菌数)-Log(対照試料・接種直後生菌数)]-[Log(試験試料・培養後生菌数)-Log(試験試料・接種直後生菌数)]
[比較例15]
実施例20において、塗工不織布N3の代わりに、不織布(05TH-80、広瀬製紙(株)製)を用いた以外は同様の方法で抗菌性評価を実施した。結果を表8、表9に示した。
【0103】
[実施例21]
実施例17で得られた塗工液を、PET不織布(05TH-80、広瀬製紙(株)製)に、小型スプレーWIDER1-10E1G(アネスト岩田(株)製)を用いてスプレー塗工することにより、均一に粒子が分散塗工された塗工不織布N4を得た。塗工量は6.4g/m2、臭い除去触媒Bの塗工量は3.9g/m2、4.6重量%であった。
【0104】
実施例20において、塗工不織布N3の代わりに、塗工不織布N4を用いた以外は同様の方法で抗菌性評価を実施した。結果を表8、表9に示した。
[実施例22]
実施例20において、塗工不織布N3の代わりに、実施例17で得られた塗工不織布N1を用いた以外は同様の方法で抗菌性評価を実施した。結果を表8、表9に示した
【0105】
【表8】
【0106】
【表9】
[実施例23]
実施例17で得られた塗工不織布N1 20cm2を、消臭製品として3Lテドラーバッグ(臭い除去済み品、GLサイエンス(株)製)に入れた。活性炭フィルターを通した空気2.5Lを導入し、導入口にシリコーン製キャップをした。次いで、20000vol.ppmのトリメチルアミン/空気5.5mLを、ガスタイトシリンジを用いてサンプリングバックに注入し、袋内のトリメチルアミン濃度を約45ppmになるよう調整した。80℃で、1h、5h、24h静置したときの臭気強度を官能評価した。臭気強度および評価方法は、実施例11に記載の通りである。評価結果を表10に示した。
【0107】
[比較例16]
実施例23において消臭製品を用いなかったこと以外は、同様の操作を行い、官能評価結果を表10に示した。
【0108】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の臭い除去触媒、消臭剤組成物および消臭製品は、大気中の臭気物質による臭気の軽減・除去に好適に用いることができ、たとえば自動車内などの室内の脱臭に特に好適に用いることができる。また、本発明の臭い除去触媒、消臭剤組成物および消臭製品は、抗菌性、抗ウイルス性を求められる用途にも好適に用いることができる。本発明の臭い除去触媒、消臭剤組成物および消臭製品は、そのままの形態で用いてもよく、樹脂等の他の素材と組み合わせて、樹脂コート材料、内装用シート材料、自動車インナーパネル等の用途に用いてもよい。また本発明の臭い除去触媒、消臭剤組成物および消臭製品は、特に制限なく種々の用途に適用することができ、たとえば、椅子張り地、カーテン、カーペット、タイル、壁紙、または乗り物用内装材等に適用することができる。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13