(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】アルミニウム製造のためのホール・エルーセルにおけるカソードアセンブリ及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
C25C 3/08 20060101AFI20241115BHJP
C25C 3/06 20060101ALI20241115BHJP
F27B 3/20 20060101ALI20241115BHJP
F27D 11/04 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C25C3/08
C25C3/06 A
F27B3/20
F27D11/04
(21)【出願番号】P 2022564130
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2020061497
(87)【国際公開番号】W WO2021213672
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591237869
【氏名又は名称】ノルスク・ヒドロ・アーエスアー
【氏名又は名称原語表記】NORSK HYDRO ASA
【住所又は居所原語表記】0240 OSLO,NORWAY
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】バーダル、アスゲイル
(72)【発明者】
【氏名】スンドハイム・イェンセン、モルテン
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-511273(JP,A)
【文献】特表2013-532771(JP,A)
【文献】米国特許第06258224(US,B1)
【文献】特表2017-534770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 3/00
F27B 3/20
F27D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコレクタバー、Cuロッド又は金属コレクタプレートにロッド加工された導電性材料の黒鉛化カソードブロックを含む、アルミニウムを製造するためのホール・エルーセル型の電解セル用のカソードアセンブリを作製する方法であって、
前記カソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、炭素質材料とともに、5~80重量%の、TiB
2、HfB
2、ZrB
2、CrB
2、
若しくはWB
2
の耐火性金属硼化物粉末、又はSiC、Cr
3C
2、B
4C、TiC、若しくはAl
2O
3
の耐火性金属炭化物粉末を含む耐摩耗性複合材料から作製され、前記カソードブロックの残りは
、黒鉛化カソード材料を含み、
前記耐摩耗性複合材料は、前記カソードブロックの端部に向かう領域に配置され、
前記耐摩耗性複合材料から作製された前記カソードブロックの表面の前記選択された領域又は部分は、前記カソードブロックの全表面の100%未満に相当し、
前記カソードアセンブリは、
(i)未乾燥のカソードブロックは、カソードブロック製造用
の振動成形型の底部におい
てカソードペーストを加えることによって調製され、次いで前記表面の選択された領域においてピットを調製する前に、レー
キで均され、前記耐摩耗性複合材料は、これらのピットに充填され、振動成形が行われ、その後
、前記未乾燥のカソードブロックの焼結又は黒鉛化
の熱処理が行われる方法、
又は、
(ii)未乾燥のカソードブロックは、上部におい
てカソードペーストを加える前に、カソードブロック製造用
の振動成形型の底部の選択された領域において前記耐摩耗性複合材料を加えることによって調製され、次いでレー
キで均され、次いで振動成形され、その後
、前記未乾燥のカソードブロックの焼結又は黒鉛化
の熱処理が行われる方法
のいずれかの方法により得られる、カソードアセンブリを作製する方法。
【請求項2】
前記耐摩耗性複合材料は、3~10cmの間の厚さを有する、請求項1に記載のカソードアセンブリを作製する方法。
【請求項3】
前記耐摩耗性複合材料から作製された前記カソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、前記カソードブロックの全表面の50%未満に相当する、請求項1に記載のカソードアセンブリを作製する方法。
【請求項4】
前記耐摩耗性複合材料から作製された前記カソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、前記カソードブロックの全表面の30%未満に相当する、請求項1に記載のカソードアセンブリを作製する方法。
【請求項5】
前記耐摩耗性複合材料から作製された前記カソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、前記カソードブロックの全表面の10%未満に相当する、請求項1に記載のカソードアセンブリを作製する方法。
【請求項6】
黒鉛化後の前記カソードブロックは、前記カソードブロックの全高さが25~35cmの間であるスチールコレクタバーにロッド加工される、請求項1~5のいずれか一項に記載のカソードアセンブリを作製する方法。
【請求項7】
黒鉛化後の前記カソードブロックは、前記カソードブロックの全高さが13~28cmの間であるCuロッドにロッド加工される、請求項1~5のいずれか一項に記載のカソードアセンブリを作製する方法。
【請求項8】
黒鉛化後の前記カソードブロックは、前記カソードブロックの全高さが8~28cmの間である金属コレクタプレートにロッド加工される、請求項1~5のいずれか一項に記載のカソードアセンブリを作製する方法。
【請求項9】
スチールコレクタバー、Cuロッド又は金属コレクタプレートにロッド加工された導電性材料の黒鉛化カソードブロックを含む、アルミニウムを製造するためのホール・エルーセル型の電解セル用のカソードアセンブリであって、
前記カソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、炭素質材料とともに、5~80重量%の、TiB
2、HfB
2、ZrB
2、CrB
2、
若しくはWB
2
の耐火性金属硼化物粉末、又はSiC、Cr
3C
2、B
4C、TiC、若しくはAl
2O
3
の耐火性金属炭化物粉末を含む耐摩耗性複合材料から作製され、前記カソードブロックの残りは
、黒鉛化カソード材料を含み、
前記耐摩耗性複合材料は、前記カソードブロックの端部に向かう領域に配置され、
前記耐摩耗性複合材料から作製された前記カソードブロックの表面の前記選択された領域又は部分は、前記カソードブロックの全表面の100%未満に相当し、
前記カソードアセンブリは、
(i)
前記カソードブロックは、カソードブロック製造用
の振動成形型の底部に
配置されたカソードペースト
と、前記カソードペーストの選択された領域に形成されたピットに充填され、振動成形
された、前記耐摩耗性複合材料を有し、前記カソードブロックは熱処理
品であって、
又は、
(ii)
前記カソードブロックは
、カソードブロック製造用
の振動成形型の底部の選択された領域に
配置され、振動成形された前記耐摩耗性複合材料
とその上部に配置されたカソードペーストとを有し、前記カソードブロックは熱処理
品である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの電解製造のためのホール・エルーセル(Hall--Heroult cell)におけるカソードブロックに関する。特に、本発明は、表面層の選択された領域又は部分において耐摩耗性複合材料を含むカソードブロックを有するカソード液に関し、この場合、カソードブロックの高さが結果として低減され得る。カソードロッド加工(cathode rodding)の原理に基づいて、カソードブロックの高さが更に低減され得る。次いでまた、本発明は、このようなカソード液を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製造セルにおける従来のカソードブロックは、コークス凝集体とピッチバインダーを混合することによって調製される。次いで、この混合物を振動成形型(vibromold)において押し出し又はプレスし、そして焼成し、その後黒鉛化(graphitization)する。このようなブロックは、一般的に黒鉛化カソードブロックと呼ばれている。
【0003】
その黒鉛化カソードブロックの底部には溝/スロットが加工されており、コレクタバーなどの電流リードをカソードブロックに挿入し接合することができ、カソードロッド加工と呼ばれる手順である。カソードロッド加工の間、スロットの壁とコレクタバーとの間のスペースは、前記コレクタバーを固定するために、溶融した鋳鉄又は接着用のペースト若しくは接着剤で一般的に充填されることができる。
【0004】
コレクタプレートでのロッド加工は、コレクタプレートに取り付けられたカソードブロックにおける溝と溝との間のスペースにスチールショット(steel shots)が充填されることができる他の一代替方法である。また、別の代替方法は、従来のスチールコレクタバーの代わりに、カソードブロックにおいて加工された穴に挿入された丸いCuロッドを使用することである。
【0005】
カソードブロックアセンブリは、カソードブロックと、ロッド加工プロセス後にカソードブロックに接続されたカソードバー、プレート、又はロッドとからなる。
【0006】
幾つかのカソードブロックアセンブリが、セル内に設置され、カソードパネルをともに形成する。
【0007】
一般的に、ホール・エルーセルは、主として比較的高い摩耗率(wear rate)(典型的には、50~70mm/年)により、又はナトリウムの浸透、膨張、又は亀裂により、カソードの再ライニングが必要になるまで、典型的には5~7年間作動される。カソードブロックの高さは、比較的高い摩耗率のため、セルの寿命を十分に確保するために、典型的には450~500mmの範囲にある。
【0008】
一般的に作動する350kAセルでは、1つのセルのカソードプレート内のカソードブロックの質量は、25~30トンの重量に相当する。所定の数のセル、例えば700のセルの電解槽列(pot line)において、各セルの6年ごとの再ライニング作動で、再ライニングされたカソードブロック材料の質量は、年間3000~3600トンに達する。
【0009】
出願人自身の(特許文献1)によると、電極における電流導体(electric conductive particles)と炭素質材料の本体との間の充填材料として導電性粒子が適用されている。硬化型マトリックスを用いない導電性粒子の使用は、例えば、熱膨張のために幾何形状が経時的に変化する場合、電流のための導電性粒子の移動性を促進する。このような粒子を適用したカソード要素における電気抵抗は、一般的に使用される接着ペースト又は溶融した鋳鉄に関して改善されることが認められている。前記(特許文献1)の
図9には、その下部に凹部(recesses)又はスロットを有するカソードブロックの端面図が開示されている。スロットの中にはコレクタバーが配列されており、残りのスペースは、導電性粒子で満たされている。コレクタバーは、電流を収集するコレクタプレートに固定され、カソード要素の安定性を更に保証し、更なる接着領域を与える。
【0010】
他の従来技術から、電気分解によるアルミニウム製造のための還元セルで使用されるカソードブロックの炭素と混合されたTiB2粒子(「C-TiB2複合材料」)の使用に関する様々な特許及び特許出願が知られている。この場合、C-TiB2複合材料は、カソードブロックの上部の層として、又はカソードブロックの全高さに渡り存在することができる。このようなカソードブロックは、湿潤性カソード(wettable cathode)として知られており、電解セルの底部に金属プールがない、いわゆるドレインセルに適用されることが意図される。
【0011】
(特許文献2)は、二硼化チタン-炭素共晶からブロック又は形状体を製造するカソードの製造を開示している。
【0012】
(特許文献3)は、幾つかの層を有するカソードを製造する方法に関する。少なくとも1つの金属硼化物含有層が、グラファイト層の上に重なっている。金属硼化物に加え、層は、炭素を含む。耐酸化性及び耐侵食性を改善させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2009/099335A1号パンフレット
【文献】米国特許第4,544,524号明細書
【文献】国際公開第00/36187号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような湿潤性カソードブロックの1つの欠点は、C-TiB2複合材料のコストが高くなることであり、これらのブロックの高いコストを支持するために、作動中のエネルギー消費をかなり低減させる必要がある。湿潤性カソードを有するドレインセルは、理論的にはエネルギー消費を大幅に低減できるが、このような電解セルの潜在能力を活用するためには、電解セルの設計の変更及び他の新技術要素が必要である(例えば、不活性側壁及び不活性アノード)。従って、アルミニウム電解用のドレインセルは、今日に至るまで、成功裏に実施されていない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ドレインセルで使用するための湿潤性カソードブロックではなく、従来のホール・エルーセルのための意図される耐摩耗性カソードブロックと称される概念について説明する。両方の型のブロックがC-TiB2複合材料を利用することができるが、ブロックの設計、複合材料の組成及び特性並びにコストは、全く異なるであろうことから、この場合に示される耐摩耗性カソードブロック液は、ドレインセルの湿潤性カソードとして使用することはできないであろう。例えば、ドレインセルにおける湿潤性カソードの表面全体は、湿潤性複合材料(例えば、C-TiB2)で被覆されなければならないが、本発明によれば、耐摩耗性カソードブロックの表面の選択された部分のみが、耐摩耗性複合材料(例えば、C-TiB2)で被覆されることが必要である。
【0016】
耐摩耗性カソードブロックの表面の選択された領域に使用される耐摩耗性複合材料は、炭素と、5~80重量%の、TiB2、HfB2、ZrB2、CrB2、若しくはWB2などの他の硬質材料耐火性金属硼化物粉末、又はSiC、Cr3C2、B4C、TiC、若しくはAl2O3などの耐火性金属炭化物粉末、又はこれらの任意の適切な組み合わせとからなり得る。
【0017】
カソードブロックは、幾つかの方法で製造することができ、例えば、未乾燥の(green)カソードブロックは、カソードブロック製造における従来の振動成形型の底部において従来のカソードペーストを加えることによって調製されることができ、次いで、レーキ(rake)(又は他の別の同様のツール)で均された後、同じレーキを使用して表面の選択された領域においてピットを調製し、これらのピットに耐摩耗性複合材料が充填された後に振動成形が行われる。次いで、未乾燥の耐摩耗性カソードブロックは、従来のカソードブロックと同様の方法で熱処理(即ち、焼成及び黒鉛化)される。
【0018】
或いは、未乾燥のカソードブロックは、カソードブロック製造用の従来の振動成形型の底部の選択された領域において複合材料を加えた後、上部において従来のカソードペーストを加えることによって調製されることができ、次いでレーキ(又は同様のツール)で均され、次いで振動成形される。このように、耐摩耗性カソードブロックは、上下逆さまに調製される。次いで、従来のカソードブロックと同様の方法で、未乾燥の耐摩耗性カソードブロックは、熱処理(即ち、焼成及び黒鉛化)される。
【0019】
本発明の1つの態様によれば、耐摩耗性複合材料から作製されたカソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、カソードブロックの全表面の100%未満に相当し、第2の態様では、耐摩耗性複合材料から作製されたカソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、カソードブロックの全表面の50%未満に相当し、第3の態様では、耐摩耗性複合材料から作製されたカソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、カソードブロックの全表面の30%未満に相当する。本発明の第4の態様では、耐摩耗性複合材料から作製されたカソードブロックの表面の選択された領域又は部分は、カソードブロックの全表面の10%未満に相当する。
【0020】
本発明の更なる態様によれば、耐摩耗性複合材料は、3~10cmの間の厚さを有する。本発明の別の態様によれば、耐摩耗性複合材料は、カソードの摩耗率が高く、モデル化によって予測されることができる、又は検視によって決定されることができるカソード表面の選択された領域に配列される。
【0021】
本発明の更なる態様によれば、耐摩耗性複合材料は、カソードブロックの端部に向かう領域(即ち、カソードブロックの端部から0~80cmの領域)に配置される。
【0022】
好ましい実施形態では、出願人自身の国際公開第2009/099335A1号パンフレット及びノルウェー国特許出願公開第20180369号明細書の幾つかの原理を組み合わせることによって、従来から、カソードブロックとフレキシブル(flexible)との間のコネクタとして使用されていたスチールカソードバーの代わりに、スチール及びCu挿入物を有するコレクタプレート構造体をバスバーシステムに有利に適用することができる。
【0023】
更に、これらのコレクタプレートをスチール球などの金属粒子及び熱膨張力によってカソードブロックに接続し、カソードブロックの特定の領域に耐摩耗性複合材料を利用することによって、カソードブロックの高さを典型的な450~500mmの高さから80~230mmの高さに大幅に低減することができ、依然として同じセル寿命を維持する又はセル寿命を延ばすことさえする。これにより、所定の電解槽列において、カソード材料の年間消費量を45~85%以上低減することができる。更に、カソードブロックの特定の領域に耐摩耗性複合材料を適用することのみで、コストのかかる耐摩耗性材料の使用を最小限に抑えることができる。本発明は、アルミニウム金属製造における従来の電解セルにて使用されるので、カソードブロックの表面全体が例えばTiB2-炭素複合材料で被覆されなければならないドレインセルにおける湿潤性カソードと比較して、表面の一部のみが耐摩耗性複合材料で被覆されるカソードブロック設計を有することができる。
【0024】
代替実施形態として、従来のカソードバーの代わりに丸いCuロッドを使用することにより、カソードブロックの高さを130~280mmの高さに低減することができ、カソードブロックの特定の領域に耐摩耗性複合材料を用いた特別に設計されたカソードブロックを利用することによって可能になる。これにより、所定の電解槽列において、カソード材料の消費量を年間約45~75%以上低減することができる。
【0025】
更に別の代替実施形態として、従来のカソードバーを使用し鋳鉄でロッド加工することにより、カソードブロックの高さを170~370mmの高さに低減することができ、カソードブロックの特定の領域における耐摩耗性複合材料を用いた特別に設計されたカソードブロックを適用することによって可能になる。これにより、所定の電解槽列において、カソード材料の消費量を年間約25~65%以上低減することができる。
【0026】
以下の2つの要素を組み合わせることにより、1つの好ましい実施形態を実現することができる:
i)カソードブロックの特定の領域における耐摩耗性複合材料電極材料、
ii)カソードブロックとバスバーシステムに接続するカソードフレキシブルとの間の接続部としてのコレクタプレート。
【0027】
以下の2つの要素を組み合わせることにより、Cuロッドを用いた代替実施形態を実現することができる:
i)カソードブロックの特定の領域における耐摩耗性複合材料電極材料、
i)カソードブロックとバスバーシステムに接続するカソードフレキシブルとの間の接続部としてのCuロッド。
【0028】
以下の2つの要素を組み合わせることにより、従来のスチールコレクタバーを用いた代替実施形態を実現することができる:
i)カソードブロックの特定の領域における耐摩耗性複合材料電極材料、
i)カソードブロックとバスバーシステムに接続するカソードフレキシブルとの間の接続部としてのカソードバー。
【0029】
この本発明の実現が、以下によって可能となった:
i)耐摩耗性複合材料で経験される低い侵食率により、十分なカソードの寿命を確保するために従来の高さ(典型的には450~500mm)のカソードブロックを有する必要性を回避する。従来のカソードブロックの最大摩耗率が年間50~70mmの範囲であり得るのに対し、耐摩耗性複合材料の最大摩耗率は、大幅に低くなる(典型的には10~30mmの範囲であるが、更に低くなることもある)。更に、カソード表面の摩耗率は、表面に渡り均一に分布していない(即ち、幾つかの場所は、他の場所よりも著しく高い摩耗率を有する)。この摩耗の正確なメカニズムは、完全には解明されていないが、電流密度の増加及び磁気的に誘導された金属流によってカソード表面において摩耗率が増加すると考えられている。カソード表面のカソード摩耗率は、セルを停止して検査したときの経験によって決定することができ、この検査の結果は、セルの再ライニングのための耐摩耗性カソードブロックのモデル化と設計のための情報として使用することができる。高コストのため、耐摩耗性複合材料は、摩耗率が高い選択された領域、典型的には、これに限定されるものではないが、カソードブロックの端部に向かってのみ使用されるべきである。
ii)好ましい実施形態である、コレクタプレートの幾何形状、又は代替実施形態である、Cuロッドは、従来のカソードバーの周りに15~18cmの炭素を有する必要性を回避し、カソード要素の建築高さを更に低くすることを可能にする。
【0030】
本発明は、カソードブロックのカソードブロックアセンブリ製造プロセスの機械的設計、カソードブロックとコレクタプレート又はCuロッドとの間の接合プロセス、及びカソードバーアセンブリを含むカソードシェル-カソードライニング全体の熱電的/熱機械的設計を実施することによって実現される。
【0031】
それは、過去に実現されたものとは異なるカソードの設計である。当業者の先入観に基づく慣例的な考え方は、タップアウトの危険性、Naの膨潤、安定性の理由などから、カソードブロックは一定の高さでなければならないというものである。
【0032】
本発明は、好ましい実施形態では、コレクタプレートに基づくカソード液、又は代替実施形態ではCuロッド又は従来のコレクタバーに基づくカソード液に関し、両方とも導電体を有し、この場合、その構造において、特に高さの低減のため、幾つかの新規の及び発明的特徴が含まれる。幾つかの主要な要素は、以下に関する:
i)カソードのコスト低減(一般にカソード材料がより少なく、特に高価なカソード材料は、カソードの選択的領域又は部分のみに適用されるため、使用量がより少ない)、
ii)エネルギー消費を低減するカソードによるmV損失低減(高さがより低いため電流経路がより少ない)、
iii)断熱のためにカソードブロックの下のスペースをより大きくし、エネルギー消費を低減すること、
iv)カソードブロックの上の空洞を増加させ、より高い従ってより長持ちするアノード、より少ないアノード消費、より少ないアノード処理、より良好なアノード被覆、金属及び槽の高さに関してより柔軟であること、基礎部でのアノード被覆材料のこぼれがより少ないこと、などの幾つかの作動上の利点をもたらすこと。
【0033】
これら及び更なる利点は、添付の特許請求の範囲に定義される本発明によって達成される。
【0034】
本発明は、以下において、図及び実施例によって更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】ホール・エルーセルの主要部分を断面図で示す主な概略図である。
【
図2】カソードバー用の2つのスロットを有する従来のカソードブロックの端面図を開示している。
【
図3】
図2のものと同様のカソードブロックの側面図を開示している。
【
図4】カソードバー用の2つのスロットを有するカソードブロックの端面図を開示しており、この場合、カソードブロックは、本発明に従って、その上部層の選択された領域において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。
【
図5】
図4のものと同様のカソードブロックの側面図を開示しており、耐摩耗性複合材料は、カソードブロックの端部に向かう選択された領域に配置される。
【
図6】2つのCuバーでロッド加工されたカソードブロックの端面図を開示しており、この場合、カソードブロックは、本発明に従って、その上部層の選択された領域において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。
【
図7】
図6のものと同様のカソードブロックの側面図を開示しており、この場合、耐摩耗性複合材料は、カソードブロックの端部に向かう選択された領域に配置される。
【
図8】コレクタプレートロッドにロッド加工されたカソードブロックの端面図を開示しており、この場合、カソードブロックは、本発明に従って、その上部層の選択された領域において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。
【
図9】
図8のものと同様のカソードブロックの側面図を開示しており、この場合、耐摩耗性複合材料は、カソードブロックの端部に向かう選択された領域に配置される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1より、従来のホール・エルーセルの主要部分の断面図がわかる。この図は、アルミナ/フッ化物ホッパー、アノードスタブ、バスバー、及び供給装置を含む上部構造を示している。更に、クラスト(crust)で部分的に被覆された一対のアノードが液体槽に浸されている。液体槽の下には、液体アルミニウムの層が示されている。カソードは、液体アルミニウムの下に配列されている。カソードには、各端部から内側に2つのコレクタバーが埋め込まれている。
【0037】
図2は、従来のカソードブロック24の端面図を開示しており、鋳鉄21、21’によって凹部においてロッド加工された2つのカソードバー22、22’を有する。カソードブロックの幅は、40~60cmの範囲にあり得、高さは、40~60cmの範囲にあり得る。
【0038】
図3は、
図2のものと同様の従来のカソードブロック24の側面図を開示している。ブロックの長さは、250~350cmの範囲にあり得、高さは、40~60cmの範囲にあり得る。
【0039】
図4は、カソードバー22、22’用の2つのスロットを有するカソードブロックの端面図を開示しており、この場合、カソードブロック24は、本発明に従って、その上部層25の選択された領域において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。この実施形態における上部層は、5~10cmの厚さであり得、一方、カソードブロックは、25~35cmの厚さであり得る。幅は、40~60cmの範囲にあり得る。
【0040】
図5は、カソードブロック24の側面図を開示しており、この場合、カソードブロック24は、
図4のものと同様に、本発明に従って、その上部層25、25’の選択された領域において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。前記領域は、この実施形態では、カソードブロックの端部領域に配列され、5~10cmの厚さである。
【0041】
図6は、端面図において、2つのCuロッド50、50’でロッド加工されたカソードブロックを開示しており、この場合、カソードブロック24は、本発明に従って、その上部層25の選択された領域において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。耐摩耗性上部層の厚さは、5~10cmであり得、一方、カソードブロックの全高さは、13~28cmであり得る。
【0042】
図7は、
図6のものに対応するカソードブロックの側面図を開示しており、この場合、カソードブロック24は、本発明に従って、その上部層の選択された領域25、25’において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。カソードブロックの長さは、300~350cmの範囲にあり得る。
【0043】
図8は、端面図において、コレクタプレート20にロッド加工されたカソードブロック24を開示している。コレクタプレート20は、この例では、コレクタプレート20と電気的に接触している5つのコレクタ要素、30、30’、30’’、30’’’、30’’’’を備える。好ましくは、これらの部品は、容易に溶接できるスチール品質で作製され、好ましくは、部品は一緒に溶接される。カソードブロックは、国際公開第2009/099335A1号パンフレットに開示されているのと同様の方法で、コレクタ要素にロッド加工されることができ、この場合、その液は、導電性金属粒子を伴うことができる。コレクタプレートにおけるコレクタ要素の数は、示されるような5つと異なり得、例えば1~7つ、或いは全くなくてもよく、この場合、ロッド加工材料は、プレートとカソードブロックとの間の層として配列される。カソードブロック24は、本発明に従って、その上部層の選択された領域25において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。この材料の厚さは、5~10cmであり得、一方、カソードブロックの全高さは、8~28cmの範囲にあり得る。耐摩耗性複合材料を有するカソードブロックにコレクタ要素を有するコレクタプレートをロッド加工することの組み合わせは、特に低いカソードブロックの高さを可能にし、本発明の好ましい実施形態と考えられる。
【0044】
図9は、
図8のものと同様のカソードブロックの側面図を開示しており、この場合、カソードブロック24は、本発明に従って、コレクタプレート20にロッド加工される、その上部層の選択された領域25、25’において、より低い高さ及び耐摩耗性複合材料を用いた特別な設計を有する。
【0045】
適切なコレクタプレートは、少なくとも1つの側に少なくとも1つの水平電流アウトレット(current outlet)、及び/又はコレクタプレートに接続された少なくとも1つの垂直金属電流アウトレットを含むことができる。
【0046】
一実施形態では、少なくとも1つの熱電対(TC)がコレクタプレートの内側又はその下の金属部品に挿入され、その位置で温度を監視することができる。
【0047】
更なる実施形態では、コレクタプレートと一体化された各端部において少なくとも1つの水平電流アウトレットを含む。
【0048】
一実施形態では、カソードブロックとは反対側のコレクタプレートにおいて少なくとも1つの垂直電流アウトレットが配列される。
【0049】
他の一実施形態では、少なくとも1つの金属コレクタ要素が、金属コレクタプレートの上側に配列され、前記コレクタ要素は、カソードブロックの底部における対応する凹部に埋め込まれ、凹部は、コレクタ要素より広く、導電性粒子を含む導電性材料で充填されている。
【0050】
別の実施形態では、1つ以上のコレクタ要素が存在し、好ましくは3つ~7つが、典型的には50mm~150mmの距離で分離されている。
【0051】
更に別の実施形態では、少なくとも1つのコレクタ要素は、カソードブロックと同じ長さ又はそれよりも短い長さである。
【0052】
有利には、コレクタプレートは、銅のようなより高い導電率を有する材料の1つ~5つの挿入を有することができる。
【0053】
本カソード設計は、それが設置されたセルの磁気流体力学的安定性に関して有利であり、作動において寿命サイクルが改善され得、使用スペースが少なくなり得、従来のカソード設計に関してカソード電圧降下が低いことも示す。
【0054】
コレクタプレート20の端部には、水平電流アウトレット(図示せず)を配列することができる。水平電流アウトレットは、銅又は銅合金のような良好な導電性材料の導体から作製することができ、更に、少なくともそのアウトレット端で、好ましくはスチールなどの金属から作製されるシート材料で被覆されている。その対応する導体を有する水平電流アウトレットは、コレクタプレート20に作製されたスロットに組み込まれることができる。この組み込みは、圧入公差又は予熱されたプレート区域に基づき、熱膨張を使用してぴったりと適合することができる。しかしながら、溶接を含む任意の適切な固定が適用され得る。スロット内の導電性材料は、上側と下側において保護的なスチールプレートで被覆されることができる。
【0055】
有利なことに、カソードブロック24及びコレクタプレート20を有するアセンブリ全体は、粒子の充填手順中に幾分傾けられ、粒子が凹部を滑らかに且つ完全に充填できるようにする。更に、粒子で均一に充填するために、プレート又はプレート区域に幾らか振動を加えることができる。
【0056】
カソードブロックの底部の凹部又はスロットは、一般的に使用される技術によって炭素質体の未乾燥の状態で、又は一般的に入手可能なプロセス装置によって焼成又は黒鉛化された状態で作製することができる。スロットの幾何形状は、プレートを適合する必要がある。
【0057】
導電性固体又は粒子は、スチール、鉄、銅、アルミニウムなど、又はこれらの合金などの任意の適切な金属であり得ることが理解されるべきである。更に、固体の形状は、球形、楕円形又は長円形、フレーク状であり得る、又は任意の適切な形状を有することができる。サイズ及び粒子分布は、変動し得る。最大サイズは、一般に、充填されるスペースの幅によって制限される。粒子サイズの不均一な分布は、粒子間のスペースがほとんどない、可能な限りコンパクトな充填を得るのに都合よくあり得る。
【0058】
適用される材料は、良好な導電特性を有するだけでなく、良好な機械的特性(破砕特性)を有し、高温に耐えることができる必要がある。後述するように、磁気特性が有利であり得る。
【0059】
更に、前記固体のサイズは、0.1ミリメートルから、炭素質体と導体プレートとの間の最小開口部に近いものであり得る。一般的に、サイズは、最大2mmであり得る。
【0060】
好ましくは、カソード内の温度を監視するために、カソードプレートに取り付けられた又はカソードプレートに挿入された幾つかの熱電対が存在し得る。例えば、熱電対を受け入れるための適切な位置で、カソードプレートの中心までの穴をカソードプレートに開けることができる。スチールプレートは、作動中の化学的攻撃環境に耐えられるように、熱電対のための保護的な筺体をもたらす。
【0061】
水平アウトレットの挿入の長さは、好ましくは、カソードプレートの中央部分を被覆しないように制限されることができる。挿入の長さは、例えば、そのプレート内の垂直アウトレットの存在、及び導体を介した次のセルへの電流の経路長を反映するように設計されることができる。並んで配列されたセルでは、挿入の長さを上流側でより長くして、よりバランスが取られるようカソードブロックでの電流ピックアップのバランスを取ることができる。
【0062】
各カソード要素には、例えば端から端まで配列されたセルの場合にのみ、若しくはセルの下にバスバーにおけるスペースがない場合にのみ水平アウトレットを、又は幾つかの水平アウトレット及び1つの垂直アウトレットを取り付けることができる。磁場を最適化するために、1つ又は2つの垂直アウトレットのみを有し水平アウトレットを有さない構成も、カソードパネルの一部の選択されたカソードブロックに対して可能であり得る。
【0063】
異なるコレクタプレートの構成の組み合わせを1つのセルに適用して、電流分布から有利な磁場を生成する、又は、例えば、角が近くにあるため、より冷たくなる傾向があるセルの短い端部において、熱損失が望ましくないアウトレットの数を減らしてセルの熱特性を強化することができる。一部のコレクタプレートのみに取り付けられた垂直アウトレットは、電流の流れ及び磁場を最適化するのに役立ち得る。これにより、セルの電流分布及び磁気流体力学的安定性が十分である場合、設置のコストが低減されることもできる。
【0064】
非常に低い高さのカソードブロックを有する特許請求されるコレクタプレートカソードは、コレクタバーが埋め込まれた炭素質体を含む慣例的な設計と比較して、複数の利点を有する:
-好ましい実施形態では、ブロックは著しく低くなり、TiB2-炭素複合材料の浸食速度が著しく低いため、寿命は依然として長くなる。
-カソードブロックの高さが低いこと、アウトレットの数、材料の電気的特性、粒子の初期移動性によるより良好な電気接触、接触抵抗の全表面、及び垂直アウトレットの存在によるより短い電流経路により、カソード電圧降下(CVD)が大幅に低くなる(150mV程度低い)。
-プレートの幾何形状、挿入のコンダクタンス、及び垂直アウトレットの存在により、上部カソードブロック表面への電流分布は、より均一になり、従ってカソードブロック表面の上の液体アルミニウムパッドにおいて水平電流を引き起こす望ましくない不安定性を回避する。セルのより高い安定性を使用して、セル電圧及びエネルギー消費を更に低減することができる又はアンペア数及び製造量を増加させることができる。
-上記のより良好な電流分布により、炭素質材料の浸食がより均一になり、従ってセルの寿命が長くなる。
-配列の垂直スペースの使用は、従来の設計よりも少なく、従ってカソードシェルをより低くすることができる、又は、-シェルの高さが保たれている場合、余分なスペースを使用して底部の断熱をより良好にし、アノードブロックをより高くしより長持ちさせ、又は液体アルミニウム又は槽における高さをより上げる。
-設計は、高い電流密度及び熱流の最も重要な場所で導電率と熱伝導率のより良好な比を有し、従ってセルのエネルギー効率が向上する(熱損失がより少なくなり、カソード電圧降下CVDがより低くなる)。
-既存のセル設計に後取り付けされる場合、特許請求の範囲に記載の垂直アウトレットは、アンペア数を上げることができ、従ってセルあたりの製造を増加させることができる。
-カソード表面への電流分布がより良好になり、MHDの安定性が向上し、従ってACDを低減する、又はアンペア数レベルを最大15%増加させる選択肢という改善がもたらされる。
-特にエネルギー消費を低減するために技術が使用されている場合、底部が凍結する冷たいカソードを回避するHOとVOの断面積及び露出された表面がより小さいため熱損失がより少ない。
-鋳鉄が存在しない実施形態ではロッド加工のコストがより低い。
-鋳込みコレクタバー(鋳鉄)を使用しない実施形態では、炭素ブロックが割れるリスクがない。
-カソードブロックをライニングに配置した後のVOの柔軟な設置。
-上流/下流/底側への電流の流れのバランスをより良好にして、MHDの安定性をより良好にする。
-アセンブリの全高を大幅に低くすることで、底部の断熱をより増加させる又は空洞をより大きくするためのスペースを与える。その差は最大300mmであり得るであろう。
-コレクタバーにおいてよりも穴開けの深さが浅いため、プレート内に熱電対を容易に設置する、又は底面から直接アクセスする。
-従来のカソード材料の量を低減すると、一般にコストが節約されるが、カソードの表面の摩耗が最も過度であると予想される選択された領域のみに複合材料を配列することで、従来の設計と比較して高価な耐摩耗性材料の量を低減する。