(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】エレベータ装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/06 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
B66B5/06 Z
(21)【出願番号】P 2022567727
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045469
(87)【国際公開番号】W WO2022123624
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 広基
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-083579(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149968(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176160(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/321883(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと、
前記乗りかごに設けられる非常止め装置と、
前記乗りかごに設けられ、前記非常止め装置を駆動する駆動機構と、
前記乗りかごに設けられ、前記駆動機構を作動させる電動作動器と、
を備えるエレベータ装置において、
前記電動作動器は、
一対の可動部材と、
前記一対の可動部材と対向する一対の電磁石と、
前記一対の電磁石を直線的に移動させる機構部と、
前記駆動機構に接続され、前記一対の可動部材が前記一対の電磁石の移動方向に移動可能に接続される操作レバーと、
前記一対の電磁石が、前記一対の可動部材に向かって移動し、電磁力によって前記一対の可動部材を吸着するときに、前記一対の電磁石の移動方向と反対方向の付勢力を前記可動部材に与え、前記一対の可動部材の各々に対して設けられるバネ部と、
を備え
、
前記一対の電磁石は、前記一対の可動部材に向かって移動するときの前記一対の電磁石の前記移動方向に、前記一対の可動部材を、所定距離だけ押し込み、
前記所定距離は、前記一対の電磁石の間における寸法差の許容値よりも大きいことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
乗りかごと、
前記乗りかごに設けられる非常止め装置と、
前記乗りかごに設けられ、前記非常止め装置を駆動する駆動機構と、
前記乗りかごに設けられ、前記駆動機構を作動させる電動作動器と、
を備えるエレベータ装置において、
前記電動作動器は、
一対の可動部材と、
前記一対の可動部材と対向する一対の電磁石と、
前記一対の電磁石を直線的に移動させる機構部と、
前記駆動機構に接続され、前記一対の可動部材が前記一対の電磁石の移動方向に移動可能に接続される操作レバーと、
前記一対の電磁石が、前記一対の可動部材に向かって移動し、電磁力によって前記一対の可動部材を吸着するときに、前記一対の電磁石の移動方向と反対方向の付勢力を前記可動部材に与え、前記一対の可動部材の各々に対して設けられるバネ部と、
を備え、
前記一対の可動部材の各々には長孔が設けられ、
前記操作レバーは、前記長孔において、前記一対の可動部材の各々と接続され、
前記一対の電磁石は、前記一対の電磁石の前記移動方向に、前記一対の可動部材を、所定距離だけ押し込み、
前記所定距離は、前記一対の電磁石の間における寸法差の許容値よりも大きく、前記長孔の空き領域の長さ以下であることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエレベータ装置において、
前記バネ部はコイル状バネ部であることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベータ装置において、
前記バネ部の一端部は、前記一対の可動部材と前記操作レバーとの接続部の下方に固定され、
前記バネ部の他端部は、前記可動部材に固定されることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項5】
乗りかごと、
前記乗りかごに設けられる非常止め装置と、
前記乗りかごに設けられ、前記非常止め装置を駆動する駆動機構と、
前記乗りかごに設けられ、前記駆動機構を作動させる電動作動器と、
を備えるエレベータ装置において、
前記電動作動器は、
一対の可動部材と、
前記一対の可動部材と対向する一対の電磁石と、
前記一対の電磁石を直線的に移動させる機構部と、
前記駆動機構に接続され、前記一対の可動部材が前記一対の電磁石の移動方向に移動可能に接続される操作レバーと、
前記一対の電磁石が、前記一対の可動部材に向かって移動し、電磁力によって前記一対の可動部材を吸着するときに、前記一対の電磁石の移動方向と反対方向の付勢力を前記可動部材に与え、前記一対の可動部材の各々に対して設けられるバネ部と、
を備え、
前記バネ部は板バネ部であり、
前記板バネ部の一端部は固定端であり、
前記板バネ部の他端部は、前記一対の可動部材と前記操作レバーとの接続部の下方の空間内に延び、自由端であることを特徴とするエレベータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動で作動する非常止め装置を備えるエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ装置には、乗りかごの昇降速度を常時監視して、所定の過速状態に陥った乗りかごを非常停止させるために、ガバナおよび非常止め装置が備えられている。一般に、乗りかごとガバナはガバナロープによって結合されており、過速状態を検出すると、ガバナがガバナロープを拘束することで乗りかご側の非常止め装置を動作させ、乗りかごを非常停止するようになっている。
【0003】
このようなエレベータ装置では、昇降路内に長尺物であるガバナロープを敷設するため、省スペース化および低コスト化が難しい。また、ガバナロープが振れる場合、昇降路内における構造物とガバナロープとが干渉しやすくなる。
【0004】
これに対し、ガバナロープを用いず、電動で作動する非常止め装置が提案されている。このような非常止め装置に関する従来技術として、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0005】
本従来技術では、乗りかご上に、非常止め装置を駆動する駆動軸と、駆動軸を作動させる作動機構が設けられる。作動機構は、駆動軸に機械的に接続される可動鉄心と、可動鉄心を吸着する電磁石を備えている。駆動軸は、駆動バネによって付勢されているが、通常時は、電磁石が通電され可動鉄心が吸着されているため、作動機構によって駆動軸の動きが拘束されている。
【0006】
非常時には、電磁石が消磁されて駆動軸の拘束が解かれ、駆動バネの付勢力によって駆動軸が駆動される。これにより、非常止め装置が動作して、乗りかごが非常停止する。
【0007】
また、非常止め装置を通常状態に復帰させるときには、非常時に移動した可動鉄心に電磁石を移動して近付ける。電磁石が可動鉄心に当接したら、電磁石を通電し、可動鉄心を電磁石に吸着する。さらに、可動鉄心が電磁石に吸着された状態で、電磁石を駆動して、可動鉄心および電磁石を通常時の待機位置に戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術では、構成部品の寸法公差や組立公差によって、電磁石と可動鉄心の吸着が不安定となり、非常止め装置の動作の信頼性が低下する恐れがある。
【0010】
そこで、本発明は、電動で作動しながらも、動作の信頼性を向上できる非常止め装置を備えるエレベータ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明によるエレベータ装置は、乗りかごと、乗りかごに設けられる非常止め装置と、乗りかごに設けられ、非常止め装置を駆動する駆動機構と、乗りかごに設けられ、駆動機構を作動させる電動作動器と、を備えるものであって、電動作動器は、一対の可動部材と、一対の可動部材と対向する一対の電磁石と、一対の電磁石を直線的に移動させる機構部と、駆動機構に接続され、一対の可動部材が一対の電磁石の移動方向に移動可能に接続される操作レバーと、一対の電磁石が、一対の可動部材に向かって移動し、電磁力によって一対の可動部材を吸着するときに、一対の電磁石の移動方向と反対方向の付勢力を可動部材に与え、一対の可動部材の各々に対して設けられるバネ部と、を備え、さらに、次のいずれかの手段を備える。
第1の手段は、一対の電磁石は、一対の可動部材に向かって移動するときの一対の電磁石の移動方向に、一対の可動部材を、所定距離だけ押し込み、所定距離は、一対の電磁石の間における寸法差の許容値よりも大きいことである。
第2の手段は、一対の可動部材の各々には長孔が設けられ、操作レバーは、長孔において、一対の可動部材の各々と接続され、一対の電磁石は、一対の電磁石の移動方向に、一対の可動部材を、所定距離だけ押し込み、所定距離は、一対の電磁石の間における寸法差の許容値よりも大きく、長孔の空き領域の長さ以下であることである。
第3の手段は、バネ部は板バネ部であり、板バネ部の一端部は固定端であり、板バネ部の他端部は、一対の可動部材と操作レバーとの接続部の下方の空間内に延び、自由端であることである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動作動器の動作の信頼性が向上するので、電動で作動する非常止め装置の信頼性が向上する
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1であるエレベータ装置の概略構成図である。
【
図2】実施例1における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。電動作動器は作動状態である。
【
図3】実施例1における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における平面図である。電動作動器は作動状態である。
【
図4】実施例1における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。電動作動器は復帰動作中である。
【
図5】実施例1における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における平面図である。電動作動器は復帰動作中である。
【
図6】実施例1における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。電動作動器は待機状態に復帰した状態である。
【
図7】実施例1における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における平面図である。電動作動器は待機状態に復帰した状態である。
【
図8】実施例2における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。電動作動器は作動状態である。
【
図9】実施例2における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。電動作動器は復帰動作中である。
【
図10】実施例2における電動作動器の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。電動作動器は待機状態に復帰した状態である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態であるエレベータ装置について、実施例1-2により、図面を用いながら説明する。なお、各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1であるエレベータ装置の概略構成図である。
【0016】
図1に示すように、エレベータ装置は、乗りかご1と、位置センサ3と、電動作動器10と、駆動機構(12~20)と、引上げロッド21と、非常止め装置2とを備えている。
【0017】
乗りかご1は、建築物に設けられる昇降路内に主ロープ(図示せず)により吊られており、ガイド装置を介してガイドレール4に摺動可能に係合している。駆動装置(巻上機:図示せず)により主ロープが摩擦駆動されると、乗りかご1は昇降路内を昇降する。
【0018】
位置センサ3は、乗りかご1に備えられ、昇降路内における乗りかご1の位置を検出するとともに、検出された乗りかご1の位置から乗りかご1の昇降速度を常時検出する。したがって、位置センサ3により、乗りかごの昇降速度が所定の過速度を超えたことを検出することができる。
【0019】
本実施例1では、位置センサ3は、画像センサを備え、画像センサによって取得されるガイドレール4の表面状態の画像情報に基づいて、乗りかご1の位置および速度を検出する。例えば、予め計測され記憶装置に記憶されるガイドレール4の表面状態の画像情報と、画像センサによって所得される画像情報を照合することにより、乗りかご1の位置が検出される。
【0020】
なお、位置センサとしては、乗りかごに設けられ、乗りかごの移動とともに回転するロータリーエンコーダを用いてもよい。
【0021】
電動作動器10は、本実施例では電磁操作器であり、乗りかご1の上部に配置される。電磁操作器は、例えば、ソレノイドもしくは電磁石によって作動する可動片もしくは可動杆を備えるものである。電動作動器10は、位置センサ3が乗りかご1の所定の過速状態を検出したときに作動する。このとき、操作レバー11に機械的に接続されている駆動機構(12~20)により、引上げロッド21が引き上げられる。これにより、非常止め装置2が制動状態となる。
【0022】
なお、駆動機構(12~20)については後述する。
【0023】
非常止め装置2は、乗りかご1の左右に一台ずつ配置される。各非常止め装置2が備える図示しない一対の制動子は、制動位置および非制動位置の間で可動であり、制動位置においてガイドレール4を挟持し、さらに、乗りかご1の下降により相対的に上昇すると、制動子とガイドレール4との間に作用する摩擦力により制動力を生じる。これにより、非常止め装置2は、乗りかご1が過速状態に陥ったときに作動し、乗りかご1を非常停止させる。
【0024】
本実施例1のエレベータ装置は、ガバナロープを用いない、いわゆるロープレスガバナシステムを備えるものであり、乗りかご1の昇降速度が定格速度を超えて第1過速度(例えば、定格速度の1.3倍を超えない速度)に達すると、駆動装置(巻上機)の電源およびこの駆動装置を制御する制御装置の電源が遮断される。また、乗りかご1の下降速度が第2過速度(例えば、定格速度の1.4倍を超えない速度)に達すると、乗りかご1に設けられる電動作動器10が電気的に駆動され、非常止め装置2を作動させて、乗りかご1が非常停止される。
【0025】
本実施例において、ロープレスガバナシステムは、前述の位置センサ3と、位置センサ3の出力信号に基づいて、乗りかご1の過速状態を判定する安全制御装置とから構成される。この安全制御装置は、位置センサ3の出力信号に基づいて乗りかご1の速度を計測し、計測される速度が第1過速度に達したと判定すると、駆動装置(巻上機)の電源およびこの駆動装置を制御する制御装置の電源を遮断するための指令信号を出力する。また、安全制御装置は、計測される速度が第2過速度に達したと判定すると、電動作動器10を作動するための指令信号を出力する。
【0026】
前述のように、非常止め装置2が備える一対の制動子が引上げロッド21によって引き上げられると、一対の制動子がガイドレール4を挟持する。引上げロッド21は、電動作動器10に接続される駆動機構(12~20)によって駆動される。
【0027】
以下、この駆動機構の構成について説明する。
【0028】
電動作動器10の操作レバー11と第1の作動片16が連結され、略T字状の第1リンク部材が構成される。操作レバー11および第1の作動片16はそれぞれT字の頭部および足部を構成する。略T字状の第1リンク部材は、操作レバー11と第1の作動片16の連結部において、第1の作動軸19を介してクロスヘッド50に回動可能に支持される。T字の足部となる作動片16における操作レバー11と作動片16の連結部とは反対側の端部に、一対の引上げロッド21の一方(図中左側)の端部が接続される。
【0029】
接続片17と第2の作動片18が連結され、略T字状の第2リンク部材が構成される。接続片17および第2の作動片18はそれぞれT字の頭部および足部を構成する。略T字状の第2リンク部材は、接続片17と第2の作動片18の連結部において、第2の作動軸20を介してクロスヘッド50に回動可能に支持される。T字の足部となる第2の作動片18における接続片17と第2の作動片18の連結部とは反対側の端部に、一対の引上げロッド21の他方(図中左側)の端部が接続される。
【0030】
筐体30の内部から外部に伸びる操作レバー11の端部と、接続片17の両端部の内、第2の作動軸20よりも乗りかご1の上部に近い端部とが、それぞれ、乗りかご1上に横たわる駆動軸12の一端(図中左側)と他端(図中右側)とに接続される。駆動軸12は、クロスヘッドに固定される固定部14を摺動可能に貫通している。また、駆動軸12は、押圧部材15を貫通し、押圧部材は駆動軸12に固定されている。なお、押圧部材15は、固定部14の第2リンク部材(接続片17、第2の作動片18)側に位置する。固定部14と押圧部材15の間に、弾性体である駆動バネ13が位置し、駆動バネ13には駆動軸12が挿通される。
【0031】
電動作動器10が作動すると、すなわち本実施例1では電磁石への通電が遮断されると、駆動バネ13の付勢力に抗して操作レバー11の動きを拘束する電磁力が消失するので、押圧部材15に加わる駆動バネ13の付勢力によって、駆動軸12が長手方向に沿って駆動される。このため、第1リンク部材(操作レバー11、第1の作動片16)が第1の作動軸19の回りに回動するとともに、第2リンク部材(接続片17、第2の作動片18)が第2の作動軸20の回りに回動する。これにより、第1リンク部材の第1の作動片16に接続される一方の引上げロッド21が駆動されて引き上げられるとともに、第2リンク部材の第2の作動片18に接続される他方の引上げロッド21が駆動されて引き上げられる。
【0032】
図2は、本実施例1における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。また、
図3は、本実施例1における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における平面図である。なお、
図2および
図3において、非常止め装置は制動状態であり、電動作動器10は作動状態である。すなわち、エレベータ装置は、停止状態である。
【0033】
エレベータ装置が通常運転されているとき、電動作動器10は、待機状態にある。待機状態(
図6参照)においては、操作レバー11に接続される可動部材34が、磁極面が可動部材34に対向し、コイルが通電されて励磁されている電磁石35に、電磁力によって吸着されている。なお、電磁石35は、
図2に示す電磁石35の位置で、可動部材34を吸着している。これにより、駆動バネ13(圧縮バネ)の付勢力に抗して、操作レバー11の動きが拘束されている。
【0034】
操作レバー11は、可動部材34に回動可能に設けられる接続部材である接続ブラケット38を介して、可動部材34に接続される。操作レバー11の一端は接続ブラケット38に固定される。接続ブラケット38は、接続ブラケット38に設けられる長孔44に挿通される係合ピン43によって、可動部材34と回動可能に係合する。
【0035】
本実施例1において、可動部材34は、磁性体からなる。磁性体として、好ましくは、低炭素鋼やパーマロイ(鉄・ニッケル合金)などの軟磁性体が適用される。なお、可動部材34おいて、少なくとも電磁石35と吸着する部分が磁性体であればよい。
【0036】
次に、
図2に示すような、電動作動器10の作動状態について説明する。
【0037】
図示しない安全制御装置からの指令により、電磁石35の励磁が停止されると、可動部材34に作用する電磁力が消失する。これにより、可動部材34が電磁石35に吸着されることによる操作レバー11の拘束が解けるので、駆動バネ13の付勢力によって駆動軸12が駆動される。
【0038】
駆動軸12が駆動されると、駆動軸12に接続される操作レバー11および第1の作動片(第1リンク部材)が第1の作動軸19の回りに回動する。これにより、第1の作動片16に接続される引上げロッド21が引き上げられる。
【0039】
上述のように操作レバー11が回動すると、操作レバー11に接続される可動部材34は、操作レバー11の回動方向に沿って、
図2に示す可動部材34の位置まで移動する。
【0040】
図3に示すように、本実施例1においては、一対の可動部材34が、送りねじ36の回転軸を対称軸として線対称に配置される。一対の可動部材34の各々は、電磁石35の磁極面に対向し、電磁石35との吸着部となる第1の部分と、接続ブラケット38との係合部となる第2の部分を有する。第2の部分には、係合ピン43が挿通する長孔44が設けられる。
【0041】
長孔44の長手方向は、可動部材34の移動する方向に沿っている。このため、待機状態から制動状態に移行する時、可動部材34は、長孔44の長手方向における両端部の内、電磁石35から遠い方の端部における可動部材34の内壁が係合ピン43によって押圧されて、移動する。したがって、制動状態においては、
図2に示すように、係合ピン43は、電磁石35から遠い方の長孔44の端部における可動部材34の内壁に接する。また、長孔44において、電磁石に近い方の長孔44の端部と係合ピン43との間は空いている。なお、
図2および
図3において、長孔44の長手方向における両先端の内、電磁石35から遠い方の先端と、係合ピン43の軸との距離がΔYである長孔44の領域が空いている。すなわち、ΔYは長孔44の空き領域の長さである。
【0042】
本実施例1においては、
図3に示すように、一対の可動部材34の一方および他方の吸着部が、それぞれ、一対の電磁石35の一方および他方の磁極面に対向する。なお、一対の電磁石35は、送りねじ36の回転軸を対称軸として線対称に配置される。また、一対の電磁石35は、送りねじ36と螺合する送りナット39を備える支持板49に固定されている。
【0043】
本実施例1では、一対の電磁石35の間に寸法の差違があり、このため、
図2および
図3に示すように、一方の電磁石35(
図3中上側)の磁極面と他方の電磁石35(
図3中下側)の磁極面とが、同一平面上になく、距離にしてΔXだけ離れている。このため、復帰動作時に、一対の電磁石35を一対の可動部材34に近付けるとき、一方の電磁石35(
図3中上側)による一方の可動部材34(
図3中上側)の吸着が不十分となり、一対の可動部材34によって構成される可動部全体として、電磁石との吸着が不安定になる恐れがある。
【0044】
なお、距離ΔXは、電磁石35の寸法公差のほか組立公差などによっても生じる。
【0045】
本実施例1では、可動部材34と電磁石35との吸着を安定にするために、バネ51を用いる安定化手段が設けられる。
【0046】
図3に示すように、バネ51は、接続ブラケット38と基板40との間の空間内において、一対の可動部材34の各々に対して設けられる。
図2および
図3が示すように、バネ51の一端は、接続ブラケット38に対向する基板40の平面上に固定されるバネ支持部材52に固定される。また、バネ51の他端は、可動部材34の吸着部の吸着面の裏面に固定されるバネ支持部材53に固定される。
【0047】
なお、上述したように、可動部材34は、電磁石35との吸着部となる第1の部分と、長孔44を有し接続ブラケット38との係合部となる第2の部分と、を有する。
図2に示すように、第2の部分の下辺部は基板40の平面から離れているが、第1の部分の下辺部は、基板40の平面に向かって延びている。このような第1の部分の下辺部における吸着面の裏面に、バネ支持部材53が固定されている。
【0048】
本実施例1において、バネ51は、コイル状の圧縮バネであり、圧縮されると、可動部材34に対して電磁石35に向かう方向に付勢力を与える。このようなバネ51によって、後述するように、可動部材34と電磁石35の吸着が安定化される。
【0049】
図4は、本実施例1における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。また、
図5は、本実施例1における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における平面図である。なお、
図4および
図5において、非常止め装置は制動状態であり、電動作動器10は復帰動作中である。すなわち、エレベータ装置は、復旧中である。
【0050】
図4および
図5に示すように(
図2および
図3も同様)、電動作動器10は、可動部材34を駆動するために基板40の平面部上に位置する送りねじ36を有する。送りねじ36は、基板40の平面上に固定される送りねじ支持部材41および送りねじ支持部材42によって、いわば両持ち状態で、回転可能に支持される。電磁石35は送りナット39を備えており、この送りナット39が送りねじ36と螺合する。送りねじ36は、モータ37によって回転される。なお、モータ37は、モータ固定ブラケット55によって基板40の平面上に固定的に支持される。
【0051】
電動作動器10を待機状態(
図6および
図7参照)に復帰させるには、まず、電磁石35を励磁しながら、モータ37を駆動して送りねじ36を回転させる。回転する送りねじ36と電磁石35が備える送りナット39とによって、モータ37の回転が、送りねじ36の軸方向に沿った電磁石35の直線的移動に変換される。これにより、電磁石35は、前述の
図2に示す可動部材34の位置に近づき、可動部材34は、電磁石35による電磁力が作用して、電磁石35に吸着する。
【0052】
このとき、長孔44においては、係合ピン43の電磁石35側に位置する領域が空いているので、電磁石35は、
図2に示す可動部材34の位置に到達後、さらに所定距離(d)を移動し続けて、バネ51を圧縮しながら、移動方向に可動部材34を押し込む。このとき、電磁石の移動方向と反対方向、すなわち可動部材34から電磁石35へ向かう方向に、バネ51の付勢力が可動部材34に作用する。これにより、電磁石35と可動部材34が密着するので、電磁石35による可動部材34の吸着の信頼性が向上する。
【0053】
本実施例1では、
図3に示すように、一方の電磁石35(
図3中上側)の磁極面と他方の電磁石35(
図3中下側)の磁極面とが、距離にしてΔXだけ離れている。すなわち、一方の電磁石35(
図3中上側)と一方の可動部材34(
図3中上側)の距離は、他方の電磁石35(
図3中下側)と他方の可動部材34(
図3中下側)の距離よりも大きい。このため、他方の電磁石35(
図3中下側)が他方の可動部材34(
図3中下側)の位置に到達した時には、一方の電磁石35(
図3中上側)は一方の可動部材34(
図3中上側)の位置にまだ到達していない。
【0054】
他方の電磁石35(
図3中下側)は、他方の可動部材34(
図3中下側)の位置に到達した後に、上述のように、他方の可動部材34(
図3中下側)を押し込みながら所定距離(d)を移動し続けるので、一方の電磁石35(
図3中上側)も移動し続け、一方の可動部材34(
図3中上側)の位置に到達して、一方の可動部材34(
図3中上側)を押圧する。このとき、バネ51(
図3中上側)も押圧されるので、バネ51(
図3中上側)の付勢力により、一方の電磁石35(
図3中上側)と一方の可動部材34(
図3中上)が密着するので、一方の電磁石35(
図3中上側)による一方の可動部材34(
図3中上側)の吸着の信頼性が向上する。
【0055】
図4および
図5は、上述のような電動作動器10の動作を経て、電磁石35の駆動が一旦停止されたときの電動作動器10の状態を示している。
図5に示すように、一方の可動部材34(
図5中上側)と他方の可動部材34(
図5中下側)とが独立に、バネ51の付勢力を受けながら押し込まれるので、押し込み量の違いによって
図2および
図3に示すΔXが補償される。これにより、一対の可動部材34によって構成される可動部と、一対の電磁石35から構成される電磁石部との吸着の安定性が向上する。したがって、電動作動器10の動作の信頼性が向上する。
【0056】
なお、好ましくは、上述のΔY(=長孔44の長さ-係合ピン43の軸の直径)は、上述のΔX(ただし、寸法公差や組立公差から予測される最大値(許容値))よりも大きな値に設定される(ΔY)。上述のd(>0)は、ΔY以下の範囲で適宜設定される。これにより、可動部と電磁石部との吸着の安定性が確実に向上する。
【0057】
図6は、本実施例1における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。また、
図7は、本実施例1における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における平面図である。なお、
図6および
図7において、非常止め装置は復帰状態であり、電動作動器10は待機状態に復帰した状態である。すなわち、エレベータ装置は、復旧状態である。
【0058】
図4および
図5に示すように可動部材34が電磁石35に吸着したら、電磁石35の励磁を継続しながら、モータ37の回転方向を逆にして、送りねじ36を逆転させる。これにより、可動部材34は、電磁石35とともに、待機時の位置まで移動する。
【0059】
このような電動作動器10の復帰動作により、バネ51は伸ばされる。このため、待機状態では、可動部材34に対して、電磁石35に向かう方向とは反対方向にバネ51の付勢力が作用する。これにより、電動作動器10が作動する時に、すなわち、待機状態(
図6)から作動状態(
図2)に移行する時に、一対の可動部材34からなる可動部の移動が高速化できる。
【0060】
なお、本実施例においては、可動部と電磁石部との吸着を安定化するための一対のバネ51の弾性力は、駆動軸12を駆動する駆動バネ13の弾性力よりも小さい。したがって、バネ51が設けられても、電磁石35の電磁力を強めなくてもよい。
【0061】
上述したように、本実施例1によれば、電動作動器10における可動部と電磁石部との吸着の安定性が向上する。したがって、電動作動器10の動作の信頼性が向上する。
【0062】
なお、本実施例1によれば、乗りかごの過速状態を検知した時に限らず、停電時においても、同様に、電動作動器10の動作の信頼性が向上する。
【実施例2】
【0063】
次に、本発明の実施例2であるエレベータ装置について説明する。
【0064】
実施例2においては、実施例1において電動作動器10に適用されている圧縮バネ(
図3中の「バネ51」)に替えて、板バネが適用される。なお、板バネ以外の構成は、実施例1と同様である。
【0065】
以下、主に、実施例1と異なる点について説明する。
【0066】
図8は、実施例2における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。なお、
図8においては、
図2と同様に、非常止め装置は制動状態であり、電動作動器10は作動状態である。すなわち、エレベータ装置は、停止状態である。
【0067】
図8に示すように、板バネ61の一端部は、基板40の平面上に固定される。すなわち、板バネ61の一端部は固定端である。板バネ61の他端部は、基板40の平面に対して斜め方向に、固定された他端部から、可動部材34と操作レバー11とを接続する接続ブラケット38の下方における接続ブラケット38と基板40との間の空間内に延在している。この他端部は自由端である。
【0068】
可動部材34は、実施例1と同様に、電磁石35との吸着部となる第1の部分と、長孔44を有し接続ブラケット38との係合部となる第2の部分と、を有する。本実施例2では、
図8に示すように、第1の部分および第2の部分の各下辺部は共に基板40の平面から離れている。また、第1の部分および第2の部分の各下辺は連続している。
【0069】
板バネ61の他端部すなわち自由端部は、第1の部分の下辺部における吸着面の裏面に隣接している。
【0070】
図9は、本実施例2における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。なお、
図9においては、
図4と同様に、非常止め装置は制動状態であり、電動作動器10は復帰動作中である。すなわち、エレベータ装置は、復旧中である。
【0071】
実施例1と同様に、送りねじ36に駆動される電磁石35が可動部材34の位置に到達すると、電磁石35は、電磁石35の移動方向に、可動部材34を所定量(≦長孔の空き領域の長さΔY(
図8))押し込む。このとき、可動部材31における電磁石35との吸着面の裏面が、板バネ61における傾斜部に当接する。このため、板バネ61の傾斜部が基板40に向かって押し下げされるので、板バネ61は、実施例1におけるバネ51と同様に、可動部材34に対して、電磁石35に向かう方向に付勢力を与える。板バネ61の付勢力により、電磁石35と可動部材34が密着するので、電磁石35による可動部材34の吸着の信頼性が向上する。
【0072】
また、実施例1と同様に、一対の可動部材34の各々が独立に、板バネ61の付勢力を受けながら押し込まれるので、押し込み量の違いによって、一対の電磁石35における磁極面の位置の違いΔXが補償される。これにより、一対の可動部材34によって構成される可動部と、一対の電磁石35から構成される電磁石部との吸着の安定性が向上する。したがって、電動作動器10の動作の信頼性が向上する。
【0073】
図10は、本実施例2における電動作動器10の機構部を示し、
図1の設置状態における正面図である。なお、
図10においては、
図6と同様に、非常止め装置は復帰状態であり、電動作動器10は待機状態に復帰した状態である。すなわち、エレベータ装置は、復旧状態である。
【0074】
図9に示すように可動部材34が電磁石35に吸着したら、電磁石35の励磁を継続しながら、モータ37の回転方向を逆にして、送りねじ36を逆転させる。これにより、可動部材34は、電磁石35とともに、待機時の位置まで移動する。電動作動器10は、このような復帰動作により、
図10に示すような待機状態に復帰する。
【0075】
可動部材34を吸着する電磁石35が、待機時の位置に向かって移動し出すと、板バネ61と可動部材34との接触が解かれるので、移動中、可動部材34は板バネ61からの付勢力を受けない。このため、板バネ61を設けても、電磁石35の電磁力を増大する必要はない。
【0076】
上述したように、本実施例2によれば、電動作動器10における可動部と電磁石部との吸着の安定性が向上する。したがって、電動作動器10の動作の信頼性が向上する。
【0077】
また、可動部材34などの構成を変更することなく、板バネ61を基板40上に固定すればよいので、電動作動器10の構成や組立を複雑化することなく、電動作動器10の動作の信頼性を向上することができる。また、板バネ61が平板もしくは薄板状であり、また基板40に対して傾斜しているので、接続ブラケット38や送りねじ36と、基板40の平面との間の狭い空間内に、板バネ61に設けることができる。したがって、電動作動器10のサイズを大きくしたり、構成を複雑化したりすることなく、板バネ61を設けることができる。
【0078】
本実施例2によれば、実施例1と同様に、乗りかごの過速状態を検知した時に限らず、停電時においても、電動作動器10の動作の信頼性が向上する。
【0079】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0080】
例えば、電動作動器10は、乗りかご1の上方部のほか、下方部や側方部に設けられてもよい。
【0081】
また、バネとしては、コイル状バネや板バネに限らず、可動部材に付勢力を与えることができる種々のバネを適用してもよい。また、バネは、金属からなるものでもよいし、ゴムなどの弾性体からなるものでもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…乗りかご、2…非常止め装置、3…位置センサ、4…ガイドレール、10…電動作動器、11…操作レバー、12…駆動軸、13…駆動バネ、14…固定部、15…押圧部材、16…作動片、17…接続片、18…作動片、19…作動軸、20…作動軸、21…引上げロッド、30…筐体、34…可動部材、35…電磁石、36…送りねじ、37…モータ、38…接続ブラケット、39…送りナット、40…基板、41…送りねじ支持部材、42…送りねじ支持部材、43…係合ピン、44…長孔、49…支持板、50…クロスヘッド、51…バネ、52…バネ支持部材、53…バネ支持部材、55…モータ固定ブラケット、61…板バネ