(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241115BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P21/05
(21)【出願番号】P 2022574959
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021001079
(87)【国際公開番号】W WO2022153448
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本行 朱音
(72)【発明者】
【氏名】谷山 雄紀
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-085455(JP,A)
【文献】特開2017-046430(JP,A)
【文献】特開2005-143291(JP,A)
【文献】特開2017-017817(JP,A)
【文献】国際公開第2008/149724(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/061342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 21/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置であって、
交流電圧を直流電圧に整流する整流回路と、
前記整流回路によって整流された直流電圧を交流電圧に変換し、変換された交流電圧を電動機に出力するインバータ回路と、
前記整流回路と前記インバータ回路との間に接続される直流リンクコンデンサと、
指定された位相に応じた交流電圧が前記インバータ回路から出力されるように、前記インバータ回路を制御する信号を生成する生成器と、
前記電動機に流れる電流に基づいて、前記電動機の回転子の第1位相を推定する推定器と、
前記電動機に流れる電流に重畳されるビート成分が抑止されるように、前記第1位相を調整することにより得られる第2位相を前記指定された位相として前記生成器に出力するビート抑止制御器と、
前記整流された直流電圧の脈動周波数を検出する検出器と、を備え
、
前記ビート抑止制御器は、前記脈動周波数の積分値を用いて、前記第1位相を調整する、電力変換装置。
【請求項2】
前記ビート抑止制御器は、前記第2位相を前記指定された位相として前記生成器に出力する第1モードと、前記第1位相を前記指定された位相として前記生成器に出力する第2モードと、を切り替える切替器を含む、請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ビート抑止制御器は、前記第2位相を前記指定された位相として前記生成器に出力する第1モードと、前記第1位相を前記指定された位相として前記生成器に出力する第2モードと、を切り替える切替器を含み、
前記ビート抑止制御器は、前記切替器によって前記第2モードから前記第1モードに切り替えられる前に前記積分値を零にリセットする、請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電力変換装置は、空気調和機に適用される、請求項1から
3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路とを備える電力変換装置において、整流回路から出力される直流電圧には、整流回路に入力される交流電圧の周波数の6倍の周波数の脈動が生じる。このような脈動は、整流回路とインバータ回路との間の直流リンク部に設けられるコンデンサの容量を大きくすることにより低減される。たとえば、大容量の電解コンデンサにより脈動が低減される。しかしながら、コンデンサの容量を大きくすると、コンデンサのコストおよび体積が増大する。そのため、脈動を許容する小容量のフィルムコンデンサまたはセラミックコンデンサを直流リンク部に設ける電力変換装置(以下、「電解コンデンサレスインバータ」とも称する。)が知られている。
【0003】
直流電圧に脈動が発生すると、インバータ回路から出力される電流に、脈動周波数に応じたビート成分が重畳され得る。電力変換装置に接続される負荷が電動機である場合、ビート成分によって電動機に振動または騒音が発生する。
【0004】
特開2013-85455号公報(特許文献1)には、電解コンデンサレスインバータにおいて発生するビート成分を抑止するために、直流電圧の脈動成分に応じて、電動機のd軸電圧ベクトルおよびq軸電圧ベクトルの合成電圧ベクトルのq軸から見た位相を脈動させる制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、たとえばパルスエンコーダやレゾルバ等の位置センサを用いて、電動機のd軸電圧ベクトルおよびq軸電圧ベクトルを取得する必要がある。そのため、位置センサの分だけコストが増大する。さらに、電動機が空気調和機の圧縮機に含まれる場合、圧縮機が高温高圧状態となるため、位置センサを取り付けることが困難である。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、コストを増大させることなく、電動機に流れる電流に重畳されるビート成分を抑止可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面の電力変換装置は、交流電圧を直流電圧に整流する整流回路と、インバータ回路と、直流リンクコンデンサと、生成器と、を備える。インバータ回路は、整流回路によって整流された直流電圧を交流電圧に変換し、変換された交流電圧を電動機に出力する。直流リンクコンデンサは、整流回路とインバータ回路との間に接続される。生成器は、指定された位相に応じた交流電圧がインバータ回路から出力されるように、インバータ回路を制御する信号を生成する。さらに、電力変換装置は、推定器と、ビート抑止制御器と、を備える。推定器は、電動機に流れる電流に基づいて、電動機の回転子の第1位相を推定する。ビート抑止制御器は、電動機に流れる電流に重畳されるビート成分が抑止されるように、第1位相を調整することにより得られる第2位相を上記の指定された位相として生成器に出力する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電動機に流れる電流に基づいて、電動機の回転子の第1位相が推定される。そのため、特許文献1に記載の技術のように、電動機の回転子の位置を検出する位置センサが不要となる。さらに、電動機に流れる電流に重畳されるビート成分が抑止されるように、第1位相を調整することにより第2位相が生成される。そして、第2位相に応じた交流電圧がインバータ回路から出力されるように、インバータ回路が制御される。これにより、ビート成分が抑止される。以上から、コストを増大させることなく、電動機に流れる電流に重畳されるビート成分を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の全体構成の一例を示す図である。
【
図2】スイッチング信号生成器およびビート抑止制御器の内部構成の一例を示す図である。
【
図3】ビート抑止制御器を含まない電力変換装置における、直流電圧、電動機に流れる電流、および推定位相に加算される脈動位相の波形を示す図である。
【
図4】ビート抑止制御器を含む電力変換装置における、直流電圧、電動機に流れる電流、および推定位相に加算される脈動位相の波形を示す図である。
【
図5】実施の形態2に係る電力変換装置の構成の一部を示す図である。
【
図6】実施の形態2に係る電力変換装置におけるビート抑止制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態3に係る空気調和機を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰り返さない。以下の図は各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0012】
実施の形態1.
(電力変換装置の全体構成)
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置100の全体構成の一例を示す図である。
図1に示されるように、電力変換装置100には、交流電源1と負荷である電動機2とが接続されている。交流電源1は、たとえば三相の商用電源である。電動機2は、たとえば永久磁石同期モータである。
【0013】
電力変換装置100は、整流回路3と、直流リンクコンデンサ4と、インバータ回路5と、電流検出器6と、スイッチング信号生成器7と、を備える。
【0014】
整流回路3は、交流電源1から入力された交流電圧を整流して直流電圧に変換する。整流回路3によって整流された直流電圧は、交流電源1の電圧周波数の6倍の周波数で脈動する低次高調波成分(以下、「脈動成分」と称する。)を含む。整流回路3は、たとえば、6つの整流用ダイオードを備えたフルブリッジ回路である。なお、整流回路3は、整流用ダイオードの代わりに、トランジスタなどのスイッチング素子を用いてもよい。
【0015】
インバータ回路5は、整流回路3によって整流された直流電圧を交流電圧に変換し、変換された交流電圧を電動機2に出力する。インバータ回路5は、たとえば、6つのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を備えたフルブリッジ回路である。各IBGTには、還流用ダイオードが逆並列で接続される。各IGBTは、スイッチング信号生成器7から出力されるスイッチング信号に従って、独立にオン状態およびオフ状態のいずれかに制御される。当該制御により、インバータ回路5は、直流電圧を交流電圧に変換する。なお、インバータ回路5は、IGBTの代わりに、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などのスイッチング素子を用いてもよい。
【0016】
直流リンクコンデンサ4は、整流回路3とインバータ回路5との間に接続される。直流リンクコンデンサ4の容量は、整流回路3から出力された直流電圧の脈動成分を平滑しない程度に小さい。ただし、直流リンクコンデンサ4の容量は、インバータ回路5のスイッチング動作による高次高調波成分を平滑する程度に大きい。直流リンクコンデンサ4は、たとえば、フィルムコンデンサまたはセラミックコンデンサである。
【0017】
電流検出器6は、電動機2に流れる電流を検出し、検出された電流を示す電流情報を出力する。電流検出器6は、たとえば、CT(Current Transformer)と呼ばれる計器用変流器を用いた電流センサである。なお、電流検出器6は、1シャント電流検出方式または3シャント電流検出方式を用いて、電動機2に流れる電流を検出してもよい。1シャント電流検出方式は、電力変換装置100の負側直流母線に設けられるシャント抵抗を用いる方式である。3シャント電流検出方式は、インバータ回路5の下側のスイッチング素子と直列に設けられるシャント抵抗を用いる方式である。
【0018】
スイッチング信号生成器7は、外部から入力される速度指令やトルク指令などの運転指令に基づいて、インバータ回路5を制御するスイッチング信号を生成する。スイッチング信号生成器7は、指定された位相に応じた交流電圧がインバータ回路5から出力されるように、スイッチング信号を生成する。生成されたスイッチング信号は、インバータ回路5に出力される。
【0019】
速度やトルクの制御方法として、たとえば、dq座標系を用いて電動機2に流れる電流をフィードバック制御するベクトル制御が採用され得る。電動機2に流れる電流は、電流検出器6から出力される電流情報によって示される。スイッチング信号生成器7は、電流検出器6から出力される電流情報を用いたベクトル制御により、dq座標系の電圧指令を計算する。それから、スイッチング信号生成器7は、指定された位相を用いて、dq座標系で計算された電圧指令を三相座標系に変換する。これにより、指定された位相に応じた交流電圧がインバータ回路5から出力される。
【0020】
なお、スイッチング信号生成器7は、電動機2の運転周波数に比例した電圧を出力するV/f一定制御、または、電動機2の磁束及びトルクを制御する直接トルク制御を用いて、スイッチング信号を生成してもよい。
【0021】
上述したように、整流回路3によって整流された直流電圧には、交流電源1の電圧周波数の6倍の周波数で脈動する脈動成分が含まれる。この脈動成分は、直流リンクコンデンサ4によって平滑化されない。そのため、電動機2に流れる電流に、脈動成分に起因するビート成分が重畳され得る。脈動成分の周波数(以下、「脈動周波数」と称する。)とインバータ回路5から出力される交流電圧の周波数(以下、「電動機2の運転周波数」と称する。)との差が小さい場合に、大きなビート成分が発生しやすい。本実施の形態に係る電力変換装置100は、ビート成分を抑止するための構成として、速度推定器8と、脈動検出器9と、ビート抑止制御器10と、をさらに備える。
【0022】
速度推定器8は、電流検出器6から出力される電流情報と、スイッチング信号生成器7によって計算された電圧指令とを用いて、電動機2の回転子の回転速度と磁極位置とを推定する。速度推定器8は、公知の推定方法を用いて、電動機2の回転子の回転速度と磁極位置とを推定する。推定方法としては、電動機2の速度起電力から算出する方法が一般的である。たとえば、アークタンジェント法または適応磁束オブザーバ方式などの方法が採用され得る。速度推定器8は、推定した磁極位置、すなわち、推定位相をビート抑止制御器10へ出力する。
【0023】
脈動検出器9は、直流リンクコンデンサ4の両端にかかる直流電圧から脈動周波数を検出し、検出結果をビート抑止制御器10へ出力する。上述したように、直流リンクコンデンサ4が小容量であるため、直流リンクコンデンサ4の両端にかかる直流電圧は、交流電源1の電圧周波数の約6倍の脈動周波数で脈動している。脈動検出器9は、この脈動周波数を検出する。たとえば、脈動検出器9は、直流電圧の値をバンドパスフィルタに通すことにより、脈動周波数を検出する。あるいは、脈動検出器9は、直流電圧の値をノッチフィルタに通すことにより得られる結果を、元の直流電圧の値から減算することにより、脈動周波数を検出してもよい。
【0024】
ビート抑止制御器10は、電動機2に流れる電流に重畳されるビート成分が抑止されるように、速度推定器8から出力された推定位相を調整することにより得られる調整位相をスイッチング信号生成器7に出力する。スイッチング信号生成器7は、調整位相を指定された位相として用いる。
【0025】
(スイッチング信号生成器およびビート抑止制御器の内部構成)
図2は、スイッチング信号生成器7およびビート抑止制御器10の内部構成の一例を示す図である。
図2に示されるように、スイッチング信号生成器7は、変換器11を含む。変換器11は、指定された位相θを用いて、以下の変換式に従って、dq座標系の電圧指令Vd*,Vq*を三相座標系の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換する。スイッチング信号生成器7は、電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を用いて、インバータ回路5を制御するスイッチング信号を生成する。
【0026】
【0027】
ビート抑止制御器10は、アンプ12と、積分器13と、加算器14と、を含む。アンプ12は、脈動検出器9から出力される脈動周波数にゲインKを乗算する。ゲインKは、交流電源1の電圧周波数および直流リンクコンデンサ4の両端間の直流電圧の大きさに応じて決定される。ゲインKは、予め決定された固定値であってもよい。あるいは、ゲインKは、交流電源1および電動機2の状態に応じて決定される可変の値であってもよい。
【0028】
積分器13は、アンプ12の出力の積分値を出力する。積分値は、直流電圧に含まれる脈動成分の位相(以下、「脈動位相」と称する。)を示す。
【0029】
加算器14は、速度推定器8から出力される推定位相と積分器13から出力される脈動位相とを加算することにより得られる位相を調整位相として出力する。このように、ビート抑止制御器10は、脈動周波数の積分値である脈動位相を用いて、推定位相を調整する。
【0030】
(ビート成分の抑止)
図3は、ビート抑止制御器10を含まない電力変換装置における、直流電圧、電動機に流れる電流、および推定位相に加算される脈動位相の波形を示す図である。
図4は、ビート抑止制御器10を含む電力変換装置100における、直流電圧、電動機に流れる電流、および推定位相に加算される脈動位相の波形を示す図である。
図3および
図4において、上段のグラフの縦軸は直流電圧、中段のグラフの縦軸は電動機2に流れる電流、下段のグラフの縦軸は脈動位相を示す。各グラフの横軸は経過時間を示す。
【0031】
図3に示されるように、ビート抑止制御器10を含まない電力変換装置の場合、推定位相に加算される脈動位相は零である。この場合、スイッチング信号生成器7は、推定位相を用いて、dq座標系の電圧指令を三相座標系の電圧指令に変換する。そのため、電動機2に流れる電流は、直流電圧に含まれる脈動成分の影響を受け、
図3の中段に示されるようにビート成分を含む。特に、脈動周波数と電動機2の運転周波数とが近
いときに、大きなビート成分が現われる。
【0032】
図4に示されるように、ビート抑止制御器10を含む電力変換装置100の場合、スイッチング信号生成器7は、推定位相に下段に示される脈動位相を加算することにより得られる調整位相を用いて、dq座標系の電圧指令を三相座標系の電圧指令に変換する。これにより、インバータ回路5から出力される交流電圧から、直流電圧に含まれる脈動成分の影響が打ち消される。そのため、中段に示されるように、電動機2に流れる電流にビート成分が現われない。
【0033】
このように、実施の形態1に係る電力変換装置100によれば、電動機2に流れる電流に基づいて、電動機2の回転子の推定位相が推定される。そのため、特許文献1に記載の技術のように、電動機2の回転子の位置を検出する位置センサが不要となる。さらに、電動機2に流れる電流に重畳されるビート成分が抑止されるように、推定位相を調整することにより調整位相が生成される。そして、調整位相に応じた交流電圧がインバータ回路5から出力されるように、インバータ回路5が制御される。これにより、ビート成分が抑止される。以上から、コストを増大させることなく、電動機2に流れる電流に重畳されるビート成分を抑制できる。
【0034】
さらに、特許文献1に開示の技術では、dq座標系における電圧の位相情報が必要である。位相情報は、たとえば、d軸電圧Vdとq軸電圧Vqから、逆正接関数(Arctan)を利用して算出される。しかしながら、逆正接関数の計算は演算負荷が大きく、高性能なマイコンを必要とし、コスト増大につながる。しかしながら、実施の形態1に係る電力変換装置100では、演算負荷が軽減され、マイコンに要するコストの増大が抑制される。
【0035】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2に係る電力変換装置の構成の一部を示す図である。
図5に示されるように、実施の形態2に係る電力変換装置100Aは、実施の形態1に係る電力変換装置100と比較して、ビート抑止制御器10の代わりにビート抑止制御器10Aを備える点で相違する。
【0036】
ビート抑止制御器10Aは、ビート抑止制御器10と比較して、積分器13の代わりに積分器13Aを含むとともに、切替器15を含む点で相違する。積分器13Aは、積分器13と同様に、アンプ12の出力を積分することにより積分値(つまり脈動位相)を出力する。積分器13Aは、リセット信号の入力に応じて、積分値を零にリセットする。
【0037】
切替器15は、調整位相をスイッチング信号生成器7に出力する第1モードと、推定位相をスイッチング信号生成器7に出力する第2モードと、を切り替える。切替器15は、予め定められた操作条件を満たすことに応じて、第2モードから第1モードに切り替え、操作条件を満たさないことに応じて、第1モードから第2モードに切り替える。
【0038】
操作条件は、たとえば、電動機2が加減速中ではないという条件である。あるいは、操作条件は、直流リンクコンデンサ4の両端間の直流電圧に含まれる脈動の大きさ(振幅)が基準値以上であるという条件であってもよい。あるいは、操作条件は、複数の条件を含んでもよい。操作条件が複数の条件を含む場合、当該複数の条件の全てが満たされるときに操作条件が満たされたと判断されてもよいし、当該複数の条件のうちの少なくとも1つが満たされるときに操作条件が満たされたと判断されてもよい。
【0039】
ビート抑止制御器10Aは、切替器15によって第2モードから第1モードに切り替えられる前に、脈動位相を零にリセットするためのリセット信号を積分器13Aに入力する。具体的には、ビート抑止制御器10Aは、切替器15が第2モードを選択している間、積分器13Aにリセット信号を入力する。
【0040】
図6は、実施の形態2に係る電力変換装置100Aにおけるビート抑止制御処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示されるステップS1~S6は、繰り返し実行される。
【0041】
ステップS1において、ビート抑止制御器10Aは、脈動周波数にゲインKが乗算された値を積分することにより、脈動位相を計算する。次にステップS2において、ビート抑止制御器10Aは、推定位相に脈動位相を加算することにより、調整位相を生成する。
【0042】
次にステップS3において、切替器15は、操作条件を満たすか否かを判断する。操作条件が満たされる場合(ステップS3でYES)、切替器15は、第1モードを選択し、調整位相をスイッチング信号生成器7に出力する(ステップS4)。ステップS4の後、電力変換装置100Aは、ビート抑止制御処理を終了する。
【0043】
操作条件が満たされない場合(ステップS3でNO)、ビート抑止制御器10Aは、リセット信号を積分器13Aに入力する(ステップS5)。切替器15は、推定位相をスイッチング信号生成器7に出力する(ステップS6)。ステップS6の後、電力変換装置100Aは、ビート抑止制御処理を終了する。
【0044】
電動機2が加減速中である場合、速度推定器8の出力値が安定しない。そのため、スイッチング信号生成器7が調整位相を用いた変換を行なうと、ビート成分の抑止効果が十分に発揮されなかったり、制御が発散したりし得る。操作条件に電動機2が加減速中ではないという条件を含めることにより、電動機2が加減速中である場合に推定位相がスイッチング信号生成器7に出力される。その結果、制御の発散を防止できる。
【0045】
直流電圧に含まれる脈動成分が小さい場合、電動機2に流れる電流にビート成分が重畳されにくいため、調整位相を用いたビート成分の抑止が必要ではない。そのため、操作条件に直流リンクコンデンサ4の両端間の直流電圧に含まれる脈動の大きさが基準値以上であるという条件を含めることにより、直流電圧に含まれる脈動成分が小さい場合に、調整位相を用いたビート成分の抑止が実施されない。
【0046】
第2モードから第1モードに切り替わるときにスイッチング信号生成器7に入力される位相の値が大きく変化すると、電動機2において脱調が発生し得る。脱調とは、電動機2がパルス信号に追従できなくなり回転しなくなる現象である。
【0047】
上記のように、ステップS5においてリセット信号が積分器13Aに入力されることにより、第2モード中において、積分器13Aから出力される脈動位相が零にリセットされる。すなわち、第2モードから第1モードに切り替わる前に、脈動位相が零にリセットされる。そのため、第2モードから第1モードに切り替わるときに、スイッチング信号生成器7に入力される位相の値の変化量が抑制される。これにより、第2モードから第1モードに切り替わるときに、電動機2における脱調の発生が抑制され、徐々にビート抑止効果が発揮される。
【0048】
実施の形態3.
図7は、実施の形態3に係る空気調和機400を示す概略図である。空気調和機400は、冷凍サイクル装置300と送風機401とを備えている。冷凍サイクル装置300は、冷媒圧縮装置200、凝縮器301、膨張弁302及び蒸発器303を含む。冷媒圧縮装置200は、圧縮機201と上記の電力変換装置100とを有する。
【0049】
図7に示されるように、圧縮機201と凝縮器301とは配管で接続される。同様に、凝縮器301と膨張弁302とが配管で接続され、膨張弁302と蒸発器303とが配管で接続され、蒸発器303と圧縮機201とが配管で接続される。これにより、圧縮機201、凝縮器301、膨張弁302および蒸発器303には冷媒が循環する。
【0050】
図7に示す電動機2は、空気調和機400の圧縮機201内に設けられ、冷媒ガスを圧縮して高圧のガスにするために、電力変換装置100によって可変速制御される。冷凍サイクル装置300では、冷媒の蒸発、圧縮、凝縮、膨張という工程が繰り返し行われる。冷媒は、液体から気体へ変化し、さらに気体から液体へ変化することにより、冷媒と機外空気との間で熱交換が行われる。したがって、冷凍サイクル装置300と機外空気を循環させる送風機401とを組み合わせることで、空気調和機400が構成される。
【0051】
近年の空気調和機において、快適性が求められることはもちろん、省エネルギー規制の強化により高効率化が要求されている。また、新興国での空気調和機の需要も高まっている。したがって、電力変換装置を用いて電動機を可変速制御する空気調和機を安価に提供することには意義がある。電力変換装置100は、安価な小容量の直流リンクコンデンサ4を備えるため、これらの要求に応えることができる。
【0052】
電動機2の運転周波数と直流電圧の脈動周波数とが近いときに、電動機2に流れる電流にビート成分が現れると、圧縮機201または圧縮機201に接続されている配管から振動および騒音が発生し得る。その結果、ユーザーの快適性が損なわれる。さらに、電動機2の行なう仕事量に脈動が重畳されるため、冷媒ガスの圧縮効率も低下する。また、ビート成分の発生する運転周波数を避けて運転をした場合、冷凍サイクル装置の最適な運転ができず、サイクル効率の低下を招く。しかしながら、ビート抑止制御器10を備える電力変換装置100を用いることにより、ビート成分の発生が抑制される。その結果、これらの問題が解決される。
【0053】
以上のように、空気調和機400は、小容量の直流リンクコンデンサ4およびビート抑止制御器10を備える電力変換装置100を備える。これにより、安価かつ快適かつ高効率の空気調和機400が提供される。なお、空気調和機400は、電力変換装置100の代わりに電力変換装置100Aを備えてもよい。この場合でも、安価かつ快適かつ高効率の空気調和機400が提供される。
【0054】
上記の説明では、電力変換装置100,100Aの応用例として空気調和機400を説明したが、その他の機械にも利用できることは、言うまでもない。例えば、ファンやポンプといった機械装置に電力変換装置100,100Aを適用してもよい。
【0055】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1 交流電源、2 電動機、3 整流回路、4 直流リンクコンデンサ、5 インバータ回路、6 電流検出器、7 スイッチング信号生成器、8 速度推定器、9 脈動検出器、10,10A ビート抑止制御器、11 変換器、12 アンプ、13,13A 積分器、14 加算器、15 切替器、100,100A 電力変換装置、200 冷媒圧縮装置、201 圧縮機、300 冷凍サイクル装置、301 凝縮器、302 膨張弁、303 蒸発器、400 空気調和機、401 送風機。