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特許7588665RHO型ゼオライトおよびRHO型ゼオライトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】RHO型ゼオライトおよびRHO型ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/46 20060101AFI20241115BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C01B39/46
B01J20/18 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022581309
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2022003060
(87)【国際公開番号】W WO2022172764
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2021019690
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】木下 直人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 遼太郎
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130719(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005407(WO,A1)
【文献】特開2016-112563(JP,A)
【文献】特表2019-530634(JP,A)
【文献】MOUSAVI, Seyed Foad et al.,Template free crystallization of zeolite Rho via Hydrothermal synthesis: Effects of synthesis time, synthesis temperature, water content and alkalinity,Ceram. Int.,イタリア,Elsevier Ltd and Techna Group S.r.l,2013年03月04日,Vol. 39, No. 6,pp. 7149-7158,DOI: 10.1016/j.ceramint.2013.02.058
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/281
20/30-20/34
C01B 33/20-39/54
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RHO型ゼオライトであって、
粉末X線回折法による測定で格子面間隔9.96~11.25Åにおけるピークを基準ピークとし、前記基準ピークの強度を100とした場合に、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150~300であり、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200~500であり、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100~200であり、
ナトリウム/アルミニウムのモル比が0.1~1であRHO型ゼオライト
【請求項2】
請求項1に記載のRHO型ゼオライトであって、
ケイ素/アルミニウムのモル比が1~10であるRHO型ゼオライト
【請求項3】
請求項1または2に記載のRHO型ゼオライトであって、
平均粒径が0.01~1μmの粉末であるRHO型ゼオライト
【請求項4】
RHO型ゼオライトの製造方法であって、
a)水にナトリウム源、セシウム源およびケイ素源を混合し、所定時間攪拌する工程と、
b)前記a)工程により得られる溶液にRHO型ゼオライトの粉末を種結晶として混合し、所定時間攪拌する工程と、
c)前記b)工程により得られる溶液にアルミニウム源を混合し、原料溶液を得る工程と、
d)前記原料溶液を用いて水熱合成によりRHO型ゼオライトの粉末を生成する工程と、
を備え、
前記原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比が2~30であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比が3~100であり、セシウム/アルミニウムのモル比が0.4~3であり、水/アルミニウムのモル比が50~5000であるRHO型ゼオライトの製造方法
【請求項5】
請求項に記載のRHO型ゼオライトの製造方法であって、
ケイ素/アルミニウムのモル比が4~30であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比が3~15であり、セシウム/アルミニウムのモル比が0.4~2であり、水/アルミニウムのモル比が160~420であるRHO型ゼオライトの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RHO型ゼオライトおよびRHO型ゼオライトの製造方法に関する。
[関連出願の参照]
本願は、2021年2月10日に出願された日本国特許出願JP2021-19690からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトには様々な構造のものが知られており、その一つとしてRHO型がある。例えば、特許第6631663号公報(文献1)および特開2020-66564号公報(文献2)では、RHO型のゼオライトの製造方法について開示されている。具体的に、文献1の製造方法では、クラウンエーテルとアルカリと水とを混合して、クラウンエーテル-アルカリ水溶液が調製される。続いて、当該水溶液をアルミニウム原子原料溶液に添加し、均一に混合した後、ケイ素原子原料含有液を滴下することで水性ゲルが調製される。そして、当該水性ゲルを水熱合成することで、RHO型構造を有するゼオライトが得られる。また、文献2の実施例では、所定の水溶液にアルミニウムイソプロポキシドを混合して撹拌し、続いて、フッ化セシウムおよびテトラエチルオルトシリケートが当該水溶液に混合される。当該水溶液を撹拌後、フッ化水素を混合し、原料組成物が得られる。そして、当該原料組成物を用いてRHO型ゼオライトが得られる。
【0003】
ところで、ゼオライトは、特定のガスの分離や分子の吸着等、様々な用途での使用が検討または実用化されている。したがって、所望の特性を有するゼオライトの選択肢を広げるため、新規なゼオライトが常に求められている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、RHO型ゼオライトに向けられており、新規なRHO型ゼオライトを提供することを目的としている。
【0005】
本発明の好ましい一の形態に係るRHO型ゼオライトでは、粉末X線回折法による測定で格子面間隔9.96~11.25Åにおけるピークを基準ピークとし、前記基準ピークの強度を100とした場合に、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150~300であり、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200~500であり、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100~200であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比が0.1~1である。
【0006】
本発明によれば、新規なRHO型ゼオライトを提供することができる。
【0007】
好ましくは、RHO型ゼオライトにおけるケイ素/アルミニウムのモル比が1~10である。
【0009】
好ましくは、RHO型ゼオライトは、平均粒径が0.01~1μmの粉末である。
【0010】
本発明は、RHO型ゼオライトの製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るRHO型ゼオライトの製造方法は、a)水にナトリウム源、セシウム源およびケイ素源を混合し、所定時間攪拌する工程と、b)前記a)工程により得られる溶液にRHO型ゼオライトの粉末を種結晶として混合し、所定時間攪拌する工程と、c)前記b)工程により得られる溶液にアルミニウム源を混合し、原料溶液を得る工程と、d)前記原料溶液を用いて水熱合成によりRHO型ゼオライトの粉末を生成する工程とを備える。前記原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比が2~30であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比が3~100であり、セシウム/アルミニウムのモル比が0.4~3であり、水/アルミニウムのモル比が50~5000である。
【0011】
好ましくは、ケイ素/アルミニウムのモル比が4~30であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比が3~15であり、セシウム/アルミニウムのモル比が0.4~2であり、水/アルミニウムのモル比が160~420である。
【0012】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】RHO型ゼオライトの製造の流れを示す図である。
図2】RHO型ゼオライトのXRDパターンを示す図である。
図3】RHO型ゼオライトのXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るゼオライトに対する粉末X線回折法による測定で得られるX線回折(XRD)パターンは、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「RHO」であるゼオライトの構造から想定されるXRDパターンとピークの位置が一致する。したがって、本発明に係るゼオライトは、RHO型ゼオライトである。本実施の形態における測定では、X線回折装置の線源としてCuKα線が用いられるが、他の種類の線源が用いられてもよい。
【0015】
本発明に係るRHO型ゼオライト(以下、「本RHO型ゼオライト」ともいう。)では、粉末X線回折法による測定で格子面間隔9.96~11.25Å(オングストローム)におけるピークを基準ピークとし、基準ピークの強度を100とした場合に、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの強度の相対値(基準ピークの強度を100とした場合における強度の相対値を、以下単に「相対強度」という。)が150~300である。また、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200~500であり、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100~200である。
【0016】
格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度は、より好ましくは155~280であり、さらに好ましくは160~250である。格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度は、より好ましくは220~480であり、さらに好ましくは250~450である。格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度は、より好ましくは110~190であり、さらに好ましくは120~190である。
【0017】
【表1】
【0018】
本RHO型ゼオライトは、例えば、表1に記載のX線回折(XRD)ピークを有する。表1では、上述の格子面間隔以外の格子面間隔におけるピークの相対強度の範囲も示している。具体的には、格子面間隔5.89~6.32Åにおけるピークの相対強度が10~55であり、格子面間隔5.13~5.44Åにおけるピークの相対強度が10~80である。また、格子面間隔3.90~4.10Åにおけるピークの相対強度が30~90であり、格子面間隔3.27~3.46Åにおけるピークの相対強度が100~250である。なお、ピークの相対強度は、XRDパターンにおける底部のライン、すなわち、バックグラウンドノイズ成分を除いた高さを用いるものとする。XRDパターンにおける底部のラインは、例えば、Sonneveld-Visser法またはスプライン補間法により求められる。
【0019】
後述する製造方法により生成される、本RHO型ゼオライトのXRDパターンは、特許第6631663号公報(上記文献1)が示すRHO型ゼオライトのXRDパターン、および、特開2020-66564号公報(上記文献2)が示すRHO型ゼオライトのXRDパターンと相違する。例えば、本RHO型ゼオライトでは、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150~300であり、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200~500であり、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100~200である点で、上記文献1および2のRHO型ゼオライトと相違する。したがって、本RHO型ゼオライトは、上記文献1および2のRHO型ゼオライトと結晶の形状が相違している、新規なRHO型ゼオライトであるといえる。本RHO型ゼオライトは、表1に記載のピーク以外のピークを含んでもよい。本願発明の新規ゼオライトを用いて分離膜を形成すると、配向性に優れたRHO型ゼオライト膜を形成することができる。即ち、本願発明の新規ゼオライトは例えば、高透過量かつ良好な分離性能を有した分離膜を得る用途に適している。
【0020】
本RHO型ゼオライトの一例は、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO)の中心に位置する原子(T原子)がケイ素(Si)とアルミニウム(Al)とからなるゼオライトである。T原子の一部は、他の元素(ガリウム、チタン、バナジウム、鉄、亜鉛、スズ等)に置換されていてもよい。これにより、細孔径や吸着特性を変えることが可能となる。本RHO型ゼオライトにおけるケイ素/アルミニウムのモル比(ケイ素原子のモル数をアルミニウム原子のモル数で除して得た値である。以下同様。)は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1.5~4.5である。これにより、RHO型ゼオライトの親水性を向上することができる。ケイ素/アルミニウムのモル比は、EDS(エネルギー分散型X線分光)分析により測定可能である。後述する原料溶液中のケイ素源とアルミニウム源との配合割合等を調整することにより、RHO型ゼオライトにおけるケイ素/アルミニウム比を調整することが可能である(他の元素の比率についても同様である。)。
【0021】
典型的には、本RHO型ゼオライトは、ナトリウム(Na)を含む。RHO型ゼオライトにおけるナトリウム/アルミニウムのモル比は、好ましくは0.1~1であり、より好ましくは0.2~0.8である。これにより、RHO型ゼオライトの構造が安定なものになる(結晶の崩壊が抑制される等)。RHO型ゼオライトは、セシウム(Cs)をさらに含むことが好ましい。RHO型ゼオライトにおけるセシウム/アルミニウムのモル比は、好ましくは0.1~0.9であり、より好ましくは0.15~0.85である。RHO型ゼオライトは、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)等の他のアルカリ金属を含んでいてもよい。また、一部またはすべてのカチオンがイオン交換等によりプロトン(H)やアンモニウムイオン(NH )等に置換されていてもよい。
【0022】
本RHO型ゼオライトの一例は、構造規定剤(Structure-DirectingAgent、以下「SDA」とも呼ぶ。)と呼ばれる有機物を用いることなく製造され、この場合、RHO型ゼオライトはSDAを含まない。SDAを含まないRHO型ゼオライトでは、細孔が適切に確保される。本RHO型ゼオライトの他の例は、SDAを用いて製造される。この場合に、RHO型ゼオライトの形成後にSDAがほとんど、もしくは完全に除去されることが好ましい。SDAとして、例えば18-クラウン-6-エーテル等を用いることができる。
【0023】
本RHO型ゼオライトは粉末として製造される。RHO型ゼオライトの粉末の平均粒径は、例えば0.01~1μmであり、好ましくは0.1~0.5μmである。これにより、RHO型ゼオライトの構造が安定なものになる(結晶の崩壊が抑制される等)。粉末の平均粒径は、例えば、レーザー散乱法により求めた粒径分布におけるメディアン径(D50)である。
【0024】
図1は、本RHO型ゼオライトの製造の流れを示す図である。本製造例では、まず、アルカリ源であるナトリウム源およびセシウム源が水に混合され、溶解される。ナトリウム源およびセシウム源は、カチオン源でもある。ナトリウム源は、例えば水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等である。セシウム源は、例えば水酸化セシウム、塩化セシウム等である。溶液には、SDAが混合されてもよい。SDAとして、既に例示した材料が利用可能である。当該溶液には、ケイ素源がさらに混合され、その後、所定時間攪拌される(ステップS11)。ケイ素源は、例えばコロイダルシリカ、フュームドシリカ、水ガラス等である。アルカリ源およびケイ素源を水に混合した後における攪拌時間は、例えば5時間以上であり、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは24時間以上である。これにより、ケイ素源が溶液中に十分に溶解する。当該攪拌時間は、例えば72時間以下である。
【0025】
続いて、別途準備されたRHO型ゼオライトの粉末が種結晶として溶液に混合され、所定時間攪拌される(ステップS12)。種結晶であるRHO型ゼオライトの粉末は、公知の製造方法により生成される。当該RHO型ゼオライトのXRDパターンでは、例えば、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150未満であり、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200未満であり、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100未満である。すなわち、種結晶であるRHO型ゼオライトは、本RHO型ゼオライトと相違する。種結晶を溶液に混合した後における攪拌時間は、例えば1時間以上であり、好ましくは3時間以上であり、より好ましくは5時間以上である。当該攪拌時間は、例えば24時間以下である。
【0026】
その後、溶液にアルミニウム源が混合され、原料溶液が得られる(ステップS13)。アルミニウム源は、例えば水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム等である。原料溶液では、ナトリウム源、セシウム源、ケイ素源、種結晶およびアルミニウム源が、水に溶解または分散する。原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比は2~30であり、好ましくは4~30である。ナトリウム/アルミニウムのモル比は3~100であり、好ましくは3~15である。セシウム/アルミニウムのモル比は0.4~3であり、好ましくは0.4~2である。水/アルミニウムのモル比は50~5000であり、好ましくは160~420である。また、原料溶液における種結晶の質量比は、例えば0.0001~0.1であり、好ましくは0.001~0.05であり、より好ましくは0.005~0.01である。
【0027】
続いて、原料溶液の水熱合成が行われ、RHO型ゼオライトの粉末が生成される(ステップS14)。水熱合成時の温度は、例えば60~120℃である。水熱合成時間は、例えば1~60時間である。水熱合成が完了すると、得られた結晶は純水で洗浄される。そして、洗浄後の結晶を乾燥させることにより、本RHO型ゼオライトの粉末が得られる。原料溶液がSDAを含む場合には、当該粉末を酸化性ガス雰囲気下で加熱処理することにより、粉末中のSDAが燃焼除去される。好ましくは、SDAはおよそ完全に除去される。SDAの除去における加熱温度は、例えば350~700℃である。加熱時間は、例えば1~100時間である。酸化性ガス雰囲気は、酸素を含む雰囲気であり、例えば大気中である。
【0028】
以上のように、図1の製造方法は、水にナトリウム源、セシウム源およびケイ素源を混合し、所定時間攪拌する工程(ステップS11)と、ステップS11により得られる溶液にRHO型ゼオライトの粉末を種結晶として混合し、所定時間攪拌する工程(ステップS12)と、ステップS12により得られる溶液にアルミニウム源を混合し、原料溶液を得る工程(ステップS13)と、原料溶液を用いて水熱合成によりRHO型ゼオライトの粉末を生成する工程(ステップS14)とを備える。原料溶液において、ケイ素/アルミニウムのモル比が2~30であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比が3~100であり、セシウム/アルミニウムのモル比が0.4~3であり、水/アルミニウムのモル比が50~5000である。これにより、新規なRHO型ゼオライトを容易に製造することができる。
【0029】
ここで、比較例の製造方法について述べる。比較例の製造方法では、上記文献1のように、アルカリ源の溶液にアルミニウム源を混合した後、ケイ素源が混合され、原料溶液が調製される。この場合、原料溶液においてケイ素源が溶解しにくくなる。上記文献2のように、アルミニウム源の溶液にアルカリ源およびケイ素源を混合して、原料溶液を調製する場合も同様である。
【0030】
これに対し、図1の製造方法では、アルカリ源の水溶液に、アルミニウム源を混合することなく、ケイ素源および種結晶を混合し、十分な攪拌(エージング)が行われる。その後、アルミニウム源を混合することにより、原料溶液が調製される。この場合、アルカリ源によりケイ素源および種結晶が溶解しやすくなる。その結果、水熱合成においてRHO型ゼオライトの核が生成しやすくなり、特異なXRDピークの強度を有する本RHO型ゼオライトの生成が可能になったと推定される。
【0031】
次に、本RHO型ゼオライトの製造の実施例について説明する。表2では、実施例1~7、並びに、比較例1および2にて調製される原料溶液の組成(酸化物換算での組成)を示している。表2では、後述のSi/Al比、Na/Al比、平均粒径、合成温度および合成時間も示している。
【0032】
【表2】
【0033】
(実施例1)
水にカチオン源である水酸化ナトリウムと、水酸化セシウムとを入れて溶解させた。その溶液にケイ素源であるコロイダルシリカを投入し、シェイカーで24時間激しく攪拌した。得られた溶液100gに、種結晶であるRHO型ゼオライトの粉末を0.3g添加し、さらにシェイカーで2時間激しく攪拌した。その後、溶液にアルミニウム源である水酸化アルミニウムを添加し、組成が9(SiO):1(Al):7(NaO):2(CsO):500(HO)の原料溶液を調製した。得られた溶液を100℃で20時間加熱し(水熱合成を行い)、RHO型ゼオライト粉末を得た。得られた結晶を回収して純水で十分に洗浄した後、120℃で乾燥させた。
【0034】
こうして得られたゼオライトに対して粉末X線回折法による測定(XRD測定)を行った。リガク社製のX線回折装置(装置名:MiniFlex600)を用いた。粉末X線回折測定は、管電圧40kV、管電流15mA、走査速度0.5°/min、走査ステップ0.02°で行った。また、発散スリット1.25°、散乱スリット1.25°、受光スリット0.3mm、入射ソーラースリット5.0°、受光ソーラースリット5.0°とした。モノクロメーターは使用せず、CuKβ線フィルターとして0.015mm厚ニッケル箔を使用した。図2は、XRD測定にて得られたXRDパターンを示す図である。表3では、当該XRDパターンにおける各ピークの相対強度を示している。
【0035】
【表3】
【0036】
表3中の左端の番号は、表1中の左端の番号に対応する(後述の表4ないし表7において同様)。実施例1のRHO型ゼオライトでは、2θ=8.3°付近のピークに対する2θ=18.7°付近のピークの相対強度、すなわち、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150~300の範囲内であった(番号4参照)。また、2θ=8.3°付近のピークに対する2θ=25.1°付近のピークの相対強度、すなわち、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200~500の範囲内であった(番号6参照)。さらに、2θ=8.3°付近のピークに対する2θ=30.3°付近のピークの相対強度、すなわち、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100~200の範囲内であった(番号8参照)。実際には、表3の各ピークの相対強度は、表1に示す相対強度の範囲に含まれており、実施例1のRHO型ゼオライトは、表1に記載のXRDピークを有していた。
【0037】
表2では、EDS分析により測定した、RHO型ゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比(Si/Al比)、および、ナトリウム/アルミニウムのモル比(Na/Al比)を示している。実施例1のゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比は3.5であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比は0.5であった。また、表2では、RHO型ゼオライトの平均粒径も示している。平均粒径は、レーザー散乱法により求めた粒径分布におけるメディアン径(D50)である。実施例1のゼオライトの平均粒径は、0.40μmであった。
【0038】
(実施例2)
水にカチオン源である水酸化ナトリウムと、水酸化セシウムと、構造規定剤である18-クラウン-6-エーテル(以下、「18C6」とも表記する。)とを入れて溶解させた。その溶液にケイ素源であるコロイダルシリカを投入し、シェイカーで24時間激しく攪拌した。得られた溶液100gに、種結晶であるRHO型ゼオライトの粉末を0.3g添加し、さらにシェイカーで2時間激しく攪拌した。その後、溶液にアルミニウム源である水酸化アルミニウムを添加し、組成が10(SiO):1(Al):3(NaO):0.4(CsO):2(18C6):500(HO)の原料溶液を調製した。得られた溶液を110℃で20時間加熱し、RHO型ゼオライト粉末を得た。得られた結晶を回収して純水で十分に洗浄した後、120℃で乾燥させた。さらに、大気中500℃で10時間焼成することで、18-クラウン-6-エーテルを除去した。
【0039】
こうして得られたゼオライトのXRD測定を行ったところ、図3に示すXRDパターンが得られた。表4では、当該XRDパターンにおける各ピークの相対強度も示している。
【0040】
【表4】
【0041】
実施例2のRHO型ゼオライトでは、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150~300の範囲内であった(番号4参照)。また、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200~500の範囲内であり(番号6参照)、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100~200の範囲内であった(番号8参照)。実際には、表4の各ピークの相対強度は、表1に示す相対強度の範囲に含まれており、実施例2のRHO型ゼオライトは、表1に記載のXRDピークを有していた。表2のように、ゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比は4.2であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比は0.6であった。平均粒径は、0.35μmであった。
【0042】
(実施例3~7)
実施例3~7は、原料溶液の組成を表2のように変更した点を除き、実施例1と同様である。表5では、得られたゼオライトのXRDパターンにおける各ピークの相対強度を示している。表5中の番号は、表1中の左端の番号に対応する。なお、表5では、実施例1,2、並びに、比較例1,2のゼオライトの各ピークの相対強度も示している。
【0043】
【表5】
【0044】
実施例3~7のRHO型ゼオライトでは、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150~300の範囲内であった(番号4参照)。また、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200~500の範囲内であり(番号6参照)、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100~200の範囲内であった(番号8参照)。実際には、実施例3~7のRHO型ゼオライトのいずれにおいても、各ピークの相対強度が、表1に示す相対強度の範囲に含まれており、実施例3~7のRHO型ゼオライトは、表1に記載のXRDピークを有していた。また、表2のように、実施例3~7のゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比は3.5~4.0であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比は0.2~0.3であった。平均粒径は、0.35~0.42μmであった。
【0045】
(比較例1)
水にカチオン源である水酸化ナトリウムと、水酸化セシウムとを入れ、さらに、アルミニウム源である水酸化アルミニウムと、ケイ素源であるコロイダルシリカとを投入し、シェイカーで24時間激しく攪拌した。これにより、組成が9(SiO):1(Al):7(NaO):2(CsO):500(HO)の原料溶液を調製した。得られた溶液100gに、種結晶であるRHO型ゼオライトの粉末を0.3g添加し、100℃で20時間加熱し、RHO型ゼオライト粉末を得た。
【0046】
こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、表6に示すXRDピークの相対強度が得られた。
【0047】
【表6】
【0048】
比較例1のRHO型ゼオライトでは、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150未満であり(番号4参照)、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200未満であり(番号6参照)、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100未満であった(番号8参照)。このように、表6の一部のピークの相対強度は、表1に示す相対強度の範囲に含まれておらず、比較例1のRHO型ゼオライトは、表1に記載のXRDピークを有していなかった。表2のように、ゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比は3.0であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比は0.4であった。平均粒径は、0.45μmであった。
【0049】
(比較例2)
水にカチオン源である水酸化ナトリウムと、水酸化セシウムとを入れ、構造規定剤である18-クラウン-6-エーテルを入れ、さらに、アルミニウム源である水酸化アルミニウムと、ケイ素源であるコロイダルシリカとを投入し、シェイカーで24時間激しく攪拌した。これにより、組成が10(SiO):1(Al):0.4(NaO):0.1(CsO):0.1(18C6):10(HO)の原料溶液を調製した。得られた溶液100gに、種結晶であるRHO型ゼオライトの粉末を0.3g添加し、110℃で20時間加熱し、RHO型ゼオライト粉末を得た。さらに、大気中500℃で10時間焼成することで、18-クラウン-6-エーテルを除去した。
【0050】
こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、表7に示すXRDピークの相対強度が得られた。
【0051】
【表7】
【0052】
比較例2のRHO型ゼオライトでは、格子面間隔4.59~4.85Åにおけるピークの相対強度が150未満であり(番号4参照)、格子面間隔3.55~3.64Åにおけるピークの相対強度が200未満であり(番号6参照)、格子面間隔2.98~3.06Åにおけるピークの相対強度が100未満であった(番号8参照)。このように、表7の一部のピークの相対強度は、表1に示す相対強度の範囲に含まれておらず、比較例2のRHO型ゼオライトは、表1に記載のXRDピークを有していなかった。表2のように、ゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比は4.5であり、ナトリウム/アルミニウムのモル比は0.5であった。平均粒径は、0.33μmであった。
【0053】
上記RHO型ゼオライトおよびRHO型ゼオライトの製造方法では様々な変形が可能である。
【0054】
本RHO型ゼオライトの粉末は、図1以外の製造方法により製造されてもよい。
【0055】
本RHO型ゼオライトにおけるケイ素/アルミニウムのモル比が、10より大きくてもよい。同様に、ナトリウム/アルミニウムのモル比が、0.1未満または1より大きくてもよい。RHO型ゼオライトの平均粒径が、0.01μm未満または1μmより大きくてもよい。
【0056】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0057】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のRHO型ゼオライトは、ゼオライトが用いられる様々な用途に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
S11~S14 ステップ
図1
図2
図3