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特許7588675脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群を含む発達障害の軽減又は治療のためのカルバメート化合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群を含む発達障害の軽減又は治療のためのカルバメート化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/41 20060101AFI20241115BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A61K31/41
A61P25/00
【請求項の数】 3
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023061122
(22)【出願日】2023-04-05
(62)【分割の表示】P 2020544728の分割
【原出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2023086766
(43)【公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】10-2017-0151251
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511206696
【氏名又は名称】エスケー バイオファーマスティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】シン・ヘウォン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ソングァン
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7258902(JP,B2)
【文献】特表2008-538557(JP,A)
【文献】Epilepsy Research,2015年,Vol.111,pp.85-89, 134, 135
【文献】Cell reports,2016年,Vol.16,pp.3157-3166
【文献】Intractable & Rare Diseases Research,2014年,Vol.3, No.4,pp.118-133
【文献】Cell,1994年,Vol.78,pp.23-33
【文献】Neurotherapeutics,2015年,Vol.12,pp.641-650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の下記式(1)
【化1】

(式中、R及びRが、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C-Cアルキル、ハロC-Cアルキル、C-Cチオアルコキシ及びC-Cアルコキシからなる群から選ばれ、A及びAの一方はCHであり、他方はNである。)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、自閉症スペクトラム障害の軽減又は治療用医薬であって、前記自閉症スペクトラム障害が、脆弱X症候群に起因する自閉症スペクトラム障害を含まない、医薬
【請求項2】
式(1)のカルバメート化合物が、下記式(2)
【化2】

で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルであることを特徴とする、請求項に記載の医薬。
【請求項3】
式(1)のカルバメート化合物の治療有効量が、遊離形の1日1回投与に基づいて、50~500mgであることを特徴とする、請求項またはに記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R、R、A及びRは、本明細書で定義された通りである)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物の脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群を含む発達障害の軽減又は治療用使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脆弱X症候群(FXS)、レット症候群(Rett syndrome)、アンジェルマン症候群(Angelman syndrome)などの発達障害(developmental disorder)の治療は制限的である。
【0003】
脆弱X症候群(FXS)は、自閉症の最も一般的な単一遺伝子の原因である遺伝性の疾患であり、特に少年の知的障害の遺伝的原因である。脆弱X症候群は、X染色体にあるFmr1(fragile X mental retardation 1)遺伝子の変移によって引き起こされる。Fmr1遺伝子は、最初に同定された自閉症-関連遺伝子であり、翻訳を調節するRNA結合タンパク質である脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP;fragile X mental retardation protein)をコーディングする。つまり、FMRPタンパク質はFmr1遺伝子によって作られており、このタンパク質は、正常な脳発達に必要であり、脆弱X症候群では十分に作られていない(非特許文献1)。この機能の喪失は、通常、Fmr1遺伝子の5’非番駅領域にCGGトリヌクレオチド反復の拡張(expansion)があるときに発生する。この拡張は、X染色体の弱い、又は「脆弱な(fragile-like)」末端として示される。
【0004】
脆弱X症候群は、男性と女性の両方で発生するが、女性の症状は男性に比べて比較的軽度であり、発生頻度は女性よりは男性の方が高くなっている。また、別の報告によると、この疾患は、男性4,600人に一人、女性8,000人に一人の割合で発生している(非特許文献2)。
【0005】
脆弱X症候群の症状には、発達遅延(developmental delays)、学習障害(learning disability)、社会的行動障害(目の不一致、不安症、注意力の問題、手の震え、思考せずに話したり行動したり、過活動)等を含む。男性は、中等度から重度の知的障害がり、一部の女性は正常のカテゴリー知能を持っているか、一部は知的障害を持っている。自閉症スペクトラム障害は脆弱X症候群のヒトからよく見られている(非特許文献1)。また、脆弱X症候群に発作のリスクがあり、男性の約14%、女性の約4%で発作を起こすことが知られている(非特許文献3)。
【0006】
脆弱X症候群の診断のためには、血液DNA検査によりFMR1遺伝子の異常を診断する。
【0007】
これまでのところ、FXSの根本的治療法はない。適切な教育が役立つ場合があり、行動障害や発作を軽減するために薬物が使用されることもある。
【0008】
アンジェルマン症候群(Angelman syndrome)は、15番染色体上の特定の遺伝子が遺伝的に受け継がれていないときに生じる疾患である。アンジェルマン症候群の症状には、発達遅延、知的障害、社会的行動障害(興奮しやすい性格、過活動、注意力の問題)、発作などを含む。
【0009】
また、アンジェルマン症候群のヒトでは、自閉症スペクトラム障害が頻繁に発生する。現在まで、アンジェルマン症候群の根本的治療法はない。適切な教育が役立ち、前記記載のアンジェルマン症候群の症状を軽減するために薬物が使用されることもある。
【0010】
レット症候群(Rett syndrome)は、MECP2遺伝子の遺伝子変異によって引き起こされる疾患である。レット症候群の症状は、発達遅延、知的障害、社会的行動障害(興奮しやすい性格、過活動、注意力の問題)、発作などを含む。
【0011】
また、レット症候群のヒトは、自閉症スペクトラム障害に似た症状を示す。現在まで、レット症候群の根本的治療法はない。適切な教育が役立ち、前記記載のレット症候群の症状を軽減するために薬物が使用されることもある。
【0012】
つまり、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群及びレット症候群には、発達遅延、知的障害、社会的行動障害、発作(seizure)及び自閉症スペクトラム障害(又は同様の症状)を一般的な症状がある。また、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群及びレット症候群は、根本的治療法がないため、症状を軽減するための目的で薬物を投与するという共通の特徴がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Center for Disease Control and Prevention
【文献】Genetics Home Reference, National Library of Medicine
【文献】Berry-Kravis et al., 2010, “Seizures in Fragile X Syndrome: Characteristics and Comorbid Diagnoses,” Am J Intellect Dev Disabil. 115 (6): 461-72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、発達障害(developmental disorder)を軽減又は治療するための方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、治療有効量の下記式(1)
【化2】

(式中、R、R、A及びRは、本明細書で定義された通りである)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、発達障害の軽減又は治療で使用するための使用を提供することを目的とする。
【0016】
本発明は、脆弱X症候群(fragile X syndrome)を軽減又は治療するための方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、脆弱X症候群の軽減又は治療のための、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物の使用を提供することを目的とする。
【0018】
さらに、本発明は、アンジェルマン症候群を軽減又は治療するための方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明は、アンジェルマン症候群の軽減又は治療のための、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物の使用を提供することを目的とする。
【0020】
さらに、本発明は、レット症候群を軽減又は治療するための方法を提供することを目的とする。
【0021】
また、本発明は、レット症候群の軽減又は治療のための、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物又は水和物の使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、治療有効量の下記式(1)
【化3】

(式中、R及びRが、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C-Cアルキル、ハロC-Cアルキル、C-Cチオアルコキシ及びC-Cアルコキシからなる群から選ばれ、A及びAの一方はCHであり、他方はNである。)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、発達障害の軽減又は治療用医薬を提供する。
【0023】
また、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を治療対象に投与することを含む、対象における発達障害を軽減又は治療する方法を提供する。
【0024】
さらに、本発明は、発達障害の軽減又は治療のための、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物の使用を提供する。
【0025】
また、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、脆弱X症候群(fragile X syndrome)の軽減又は治療用医薬を提供する。
【0026】
さらに、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を治療対象に投与することを含む、対象における脆弱X症候群を軽減又は治療する方法を提供する。
【0027】
また、本発明は、脆弱X症候群の軽減又は治療のための、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物の使用を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、アンジェルマン症候群(Angelman syndrome)の軽減又は治療用医薬を提供する。
【0029】
また、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を治療対象に投与することを含む、対象におけるアンジェルマン症候群を軽減又は治療する方法を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、アンジェルマン症候群の軽減又は治療のための、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物の使用を提供する。
【0031】
また、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、レット症候群(Rett syndrome)の軽減又は治療用医薬を提供する。
【0032】
さらに、本発明は、治療有効量の前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を治療対象に投与することを含む、対象におけるレット症候群を軽減又は治療する方法を提供する。
【0033】
また、本発明は、レット症候群の軽減又は治療のための、前記式(1)のカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物の使用を提供する。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、前記式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン及びC-Cアルキルからなる群から選ばれる。
【0035】
一実施形態では、ハロC-Cアルキルは、ペルフルオロアルキルである。
【0036】
本発明の別の実施形態によれば、前記式(1)のカルバメート化合物は、下記式(2)
【化4】

で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルである。
【0037】
前記式(1)及び(2)のカルバメート化合物の製造は、当業界で化合物合成に関する通常の知識を有した者であれば、既知の化合物又はそれにより容易に製造できる化合物を使用して製造することができる。特に、前記式(1)化合物の製造方法は、国際公開特許WO2006/112685A1、WO2010/150946A1及びWO2011/046380A2に詳細に記載されており、前記文献は、本明細書に参考として援用される。式(1)化合物は、前記文献に記載されているいずれの方法に従って化学的に合成することができるが、これらの方法は一例であり、必要に応じて単位操作の順序などを選択的に入れ替えてもよい。従って、本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0038】
前記式(1)のカルバメート化合物は、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群を含む発達障害の軽減又は治療に用いることができる。
【0039】
また、前記式(1)のカルバメート化合物は、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群を含む発達障害の症状の予防、軽減又は治療に適用することができる。
【0040】
発達障害の症状には、発達遅延(developmental delays)、学習障害(learning disability)、社会的行動障害社会的行動障害(目の不一致、不安症、注意力の問題、手の震え、思考せずに話したり行動したり、過活動)又は発作等を含む。
【0041】
脆弱X症候群の症状には、発達遅延(developmental delays)、学習障害(learning disability)、社会的行動障害(目の不一致、不安症、注意力の問題、手の震え、思考せずに話したり行動したり、過活動)等を含む。男性は、中等度から重度の知的障害がり、一部の女性は正常のカテゴリー知能を持っているか、一部は知的障害を持っている。自閉症スペクトラム障害は脆弱X症候群のヒトからよく見られている(非特許文献1)。また、脆弱X症候群に発作のリスクがあり、男性の約14%、女性の約4%で発作を起こすことが知られている(非特許文献3)。
【0042】
アンジェルマン症候群及びレット症候群の症状には、発達遅延、知的障害、社会的行動障害(興奮しやすい性格、過活動、注意力の問題)、発作などを含む。
【0043】
従って、本発明の医薬及び医薬組成物は、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群を含む発達障害の症状の予防、軽減又は治療に用いることができ、症状は、発達遅延、学習障害、社会的行動障害及び発作が含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
また、本発明の医薬は、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群及びレット症候群に起因する自閉症スペクトラム障害、又は脆弱X症候群、アンジェルマン症候群及びレット症候群と同様の症状を示す自閉症スペクトラム障害の軽減又は治療に用いることができる。
【0045】
脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群を含む発達障害に対する前記式(1)化合物の効能は、既知のモデルを利用することにより確認することができる。例えば、Fmr1遺伝子欠損マウスモデルは、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群等の発達障害で観察されるいくつかの臨床症状を表しており、疾患のメカニズムの研究及び治療法の開発のための薬物効能検証する手段として利用されている(Bakker et al., 1994, “Fmr1 knockout mice: A model to study fragile X mental retardation”, Cell, 15; 78 (1): 23-33)。このマウスモデルの典型的な表現型は、聴覚性発作、過度な活動性、認知機能障害及び注意力の問題などが含まれる。
【0046】
前記疾患の軽減又は治療のための式(1)のカルバメート化合物の投与量は、通常的に、疾患の重症度、治療対象の体重及び代謝状態に応じて変わる。個々の患者の「治療有効量」は、前記薬理学的効果、即ち、治療効果を達成するのに十分な活性化合物の量を意味する。式(1)化合物の治療有効量は、ヒトへの投与時、遊離形の1日1回投与に基づいて、50~500mg、50~400mg、50~300mg、100~400mg、100~300mg、50~200mg,又は100~200mgである。
【0047】
本発明の化合物は、経口、非経口、静脈内、筋肉内、皮下又は直腸投与などの治療剤の投与に使用される通常の方法で投与することができる。
【0048】
本発明の一実施形態による医薬又は医薬組成物は、本発明のカルバメート化合物、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる化合物の治療有効量を含むことができる。
【0049】
前記式(1)のカルバメート化合物の薬学的に許容される塩には、例えば、独立して、アセテート、ベンゼンスルホネート、ベンゾエート、ビタルトラート、酢酸カルシウム、カンシラート、カーボネート、シトラート、エデタート、エジシラート、エストレート、エシレート、フマレート、グルセプテート、グルコネート、グルタメート、グリコロイルアルサニレート、ヘキシルレゾルシネート、ヒドラバミン、ヒドロブロミド、ヒドロクロリド、ヒドロゲンカーボネート、ヒドロキシナフトアート、ヨージド、イセチオナート、ラクテート、ラクトビオナート、マラート(malate)、マレエート(maleate)、マンデラート、メシレート、メチルニトラート、メチルスルフェート、ムカート、ナプシラート、ニトラート、パモアート(エンボナート)、パントテナート、ホスフェート/ジホスフェート、ポリガラクツロナート、サリチラート、ステアレート、サブアセテート、スクシナート又はヘミ-スクシナート、スルフェート又はヘミ-スルフェート、タンネート、タルトラート、オキサレート(oxalate)又はヘミ-タルトラート、テオクレート、トリエチオジド、ベンザチン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン、プロカイン、アルミニウム、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛などが含まれる。
【0050】
本発明の一実施形態による医薬又は医薬組成物は、経口又は非経口的に投与することができる。非経口投与には、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、内皮投与、局所投与、鼻腔内投与、膣内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与することができる。経口投与の場合、一実施形態による医薬組成物は、素錠(コーティングされていない錠剤)として、又は活性剤がコーティングされているか、又は胃での分から保護されるように製剤化することができる。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意のディバイスによって投与することができる。投与経路は、治療対象の一般的な状態及び年齢、治療条件の性質及び選ばれる有効成分に応じて変わる。
【0051】
本発明の一実施形態による医薬又は医薬組成物の適した投与量は、製剤方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食餌、投与時間、投与経路、排せつ速度及び反応感受性などの要因によって変わり、通常の熟練技能を有した医師は、所望の治療又は予防に有効な投与量を容易に決定及び処方することができる。一実施形態による前記医薬組成物は、1回以上の投与量で、例えば、一日当たり1回~4回投与することができる。一実施形態による前記医薬組成物は、式(1)の化合物を、遊離形に基づいて、50~500mg、50~400mg、50~300mg、100~400mg、100~300mg、50~200mg、又は100~200mgである。
【0052】
本発明の一実施形態による医薬又は医薬組成物は、当業者が容易に実施できる方法に従って、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を使用して製剤化することで、単位用量形態で製造されるか、又は多用量容器内に含ませて製造することができる。 前記製剤は、油性または水性媒体中の溶液、懸濁液又は乳化液形態、抽出物剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤形態であってもよく、分散剤又は安定化剤を追加的に含むことができる。また、前記医薬組成物は、座薬、スプレー、軟膏、クリーム、ゲル、吸入剤又は皮膚パッチの形態で投与することができる。また、前記医薬組成物は、哺乳類投与用のために、さらに好ましくはヒト投与のために製造することができる。
【0053】
薬学的に許容される担体は、固体や液体であってもよく、賦形剤、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、分散剤、吸着剤、界面活性剤、結合剤、防腐剤、崩壊剤、甘味剤、香味剤、滑沢剤、放出調節剤、湿潤剤、安定化剤、懸濁化剤及び潤滑剤から選ばれる1種以上であってもよい。さらに、薬学的に許容される担体は、生理食塩水、滅菌数、リンガー液、緩衝食整理塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの混合物から選ぶことができる。
【0054】
一実施形態において、適切な賦形剤(filler)としては、糖(例えば、デキストロース、スクロース、マルトース及びラクトース)、デンプン(例えば、トウモロコシデンプン)、糖アルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、エリトリトール及びキシリトール)、デンプン加水分解物(例えば、デキストリン及びマルトデキストリン)、セルロールロス又はセルロース誘導体(例えば、微晶質セルロース)又はこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
一実施形態において、適切な結合剤には、ポビドン、コポビドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン、ガム類、スクロース、デンプン又はこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
一実施形態において、適切な防腐剤には、安息香酸、ナトリウムベンゾエート、ベンジルアルコール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、クロルブトール、ガレート(gallate)、ヒドロキシベンゾエート、EDTA又はこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
一実施形態において、適切な崩壊剤には、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、架橋カルボキシメチルセルロース、デンプン、微晶質セルロース又はこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
一実施形態において、適切な甘味剤には、スクラロース、サッカリン、ナトリウム又はカリウム又はカルシウムサッカリン、アセスルファムカリウム又はナトリウムシクラメート、マンニトール、フルクトース、スクロース、マルトース又はこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
一実施形態において、適切な滑沢剤には、シリカ、コロイド性シリコーンジオキシド、タルクなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
一実施形態において、適切な潤滑剤には、長鎖脂肪酸及びその塩、例えば、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸、タルク、グリセリドワックス又はこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
本明細書に使用された用語「予防する」、「予防すること」及び「予防」は、疾患にかかる可能性を減少又は排除することをいう。
【0062】
本明細書に使用された用語「軽減する」、「軽減すること」及び「軽減」は、疾患及び/又はこれに付随する症状を全部又は一部緩和することをいう。
【0063】
本明細書に使用された用語「治療する」、「治療すること」及び「治療」は、疾患及び/又はこれに付随する症状を全部又は一部除去することをいう。
【0064】
本明細書に使用された用語「対象」は、治療、観察又は実験の態様である動物、好ましくは、哺乳類(例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなど)、最も好ましくはヒトを意味する。
【0065】
本明細書に使用された用語「治療有効量」は、治療される疾患又は障害の症状を軽減させることを含む、系、動物又はヒトにおける生物学的又は医学的反応を誘導する活性化合物又は医薬製剤の量を意味する。ここで、前記量は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって求められる。
【0066】
本明細書に使用された用語「組成物」は、特定の量の特定成分を含む製品、及び特定量の特定成分の配合物から直接又は間接的に生成される任意の製品を含む。
本発明のさらなる態様を、以下に記載する:
[項1]
治療有効量の下記式(1)
【化5】

(式中、R1及びR2が、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1-C8アルキル、ハロC1-C8アルキル、C1-C8チオアルコキシ及びC1-C8アルコキシからなる群から選ばれ、A1及びA2の一方はCHであり、他方はNである。)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、発達障害の軽減又は治療用医薬。
[項2]
発達障害が、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群であることを特徴とする、項1に記載の医薬。
[項3]
発達障害の症状に対する予防、軽減又は治療に用いられることを特徴とする、項1に記載の医薬。
[項4]
発達障害の症状が、発達遅延、学習障害、社会的行動障害、又は発作であることを特徴とする、項3に記載の医薬。
[項5]
式(1)のカルバメート化合物の治療有効量が、遊離形の1日1回投与に基づいて、50~500mgであることを特徴とする、項1から4のいずれか一項に記載の医薬。
[項6]
治療有効量の下記式(1)
【化6】

(式中、R1及びR2が、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1-C8アルキル、ハロC1-C8アルキル、C1-C8チオアルコキシ及びC1-C8アルコキシからなる群から選ばれ、A1及びA2の一方はCHであり、他方はNである。)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、脆弱X症候群の軽減又は治療用医薬。
[項7]
式(1)のカルバメート化合物が、下記式(2)
【化7】

で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルであることを特徴とする、項6に記載の医薬。
[項8]
脆弱X症候群の症状に対する予防、軽減又は治療に用いられることを特徴とする、項6に記載の医薬。
[項9]
症状が、発達遅延、学習障害、社会的行動障害、又は発作であることを特徴とする、項8に記載の医薬。
[項10]
脆弱X症候群に原因する自閉症スペクトラム障害又は脆弱X症候群と同様の症状を示す自閉症スペクトラム障害の軽減又は治療に用いられることを特徴とする、項6に記載の医薬。
[項11]
式(1)のカルバメート化合物の治療有効量が、遊離形の1日1回投与に基づいて、50~500mgであることを特徴とする、項6から10のいずれか一項に記載の医薬。
[項12]
治療有効量の下記式(1)
【化8】

(式中、R1及びR2が、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1-C8アルキル、ハロC1-C8アルキル、C1-C8チオアルコキシ及びC1-C8アルコキシからなる群から選ばれ、A1及びA2の一方はCHであり、他方はNである。)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、アンジェルマン症候群の軽減又は治療用医薬。
[項13]
式(1)のカルバメート化合物が、下記式(2)
【化9】

で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルであることを特徴とする、項12に記載の医薬。
[項14]
アンジェルマン症候群の症状に対する予防、軽減又は治療に用いられることを特徴とする、項12に記載の医薬。
[項15]
症状が、発達遅延、学習障害、社会的行動障害、又は発作であることを特徴とする、項14に記載の医薬。
[項16]
アンジェルマン症候群に起因する自閉症スペクトラム障害又はアンジェルマン症候群と同様の症状を示す自閉症スペクトラム障害の軽減又は治療に用いられることを特徴とする、項12に記載の医薬。
[項17]
式(1)のカルバメート化合物の治療有効量が、遊離形の1日1回投与に基づいて、50~500mgであることを特徴とする、項12から16のいずれか一項に記載の医薬。
[項18]
治療有効量の下記式(1)
【化10】

(式中、R1及びR2が、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1-C8アルキル、ハロC1-C8アルキル、C1-C8チオアルコキシ及びC1-C8アルコキシからなる群から選ばれ、A1及びA2の一方はCHであり、他方はNである。)
で示されるカルバメート化合物、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、レット症候群の軽減又は治療用医薬。
[項19]
式(1)のカルバメート化合物が、下記式(2)
【化11】

で示されるカルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルであることを特徴とする、項18に記載の医薬。
[項20]
レット症候群の症状に対する予防、軽減又は治療に用いられることを特徴とする、項18に記載の医薬。
[項21]
症状が、発達遅延、学習障害、社会的行動障害、又は発作であることを特徴とする、項20に記載の医薬。
[項22]
レット症候群に起因する自閉症スペクトラム障害又はレット症候群と同様の症状を示す自閉症スペクトラム障害の軽減又は治療に用いられることを特徴とする、項18に記載の医薬。
[項23]
式(1)のカルバメート化合物の治療有効量が、遊離形の1日1回投与に基づいて、50~500mgであることを特徴とする、項18から22のいずれか一項に記載の医薬。
【発明の効果】
【0067】
本発明による医薬及び医薬組成物は、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群等の発達障害を効率的に軽減及び治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルを利用して行った聴覚性発作(audiogenic seizure)試験において、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)及び陽性対照群MPEP(2-メチル-6-(フェニルエチニル)ピリジン)の発作発生に対する抑制効果を示す結果である。
図2】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルを使用して行った聴覚性発作試験において、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)及び陽性対照群MPEPの発作による呼吸停止の予防効果を示す結果である。
図3】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルを利用して行った聴覚性発作試験において、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)及び陽性対照群MPEPの発作強度に対する調節効果を示す結果である。
図4】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルを利用して行った聴覚性発作試験において、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)及び陽性対照群MPEPのマウス生存率に対する効果を示す結果である。
図5】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルを利用して行った聴覚性発作試験において、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)及び陽性対照群MPEPのマウス発作(seizure)発生率に対する効果を示す結果である。
図6】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルにおいて、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)が活動性(locomotor activity)に及ぼす影響を示す結果である。
図7】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルにおいて、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)が増加した後足で立つ行動(rearing activity)に及ぼす影響を示す結果である。
図8】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルを利用した環境的恐怖条件化(contextual fear conditioning)実験において、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)が減少された恐怖条件化(fear conditioning)に及ぼす影響を示す結果である。
図9】Fmr1遺伝子欠損マウスモデルを利用した刺激信号による恐怖条件化(cued fear conditioning)実験において、試験化合物(10mg/kg、20mg/kg)が減少された恐怖条件化(fear conditioning)に及ぼす影響を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、一つ以上の実施形態を例示することのみを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例
【0070】
製造例:カルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステルの製造
カルバミン酸(R)-1-(2-クロロフェニル)-2-テトラゾール-2-イル)エチルエステル(試験化合物)を国際公開番号WO2010/150946号の製造例50に記載された方法に従って製造した。
【0071】
実施例1:FMR1遺伝子欠損マウスモデルでの聴覚性発作(audiogenic seizure)に対する抗痙攣効能試験
Fmr1遺伝子欠損ノックアウトマウスモデルは、Fmr1遺伝子の破壊によりFMRPタンパク質が欠いており、このマウスの典型的な表現型は、聴覚性発作、過度な活動性(locomotor activity)、認知機能障害(cognitive deficit)及び注意障害などがある。このように、Fmr1遺伝子欠損マウスモデルは、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群又はレット症候群などの発達障害で観察されるいくつかの臨床症状を示し、発達障害のメカニズムの研究及び治療剤開発のための薬効を検証する手段として利用されている((Kazdoba et al., 2014, “Modeling fragile X syndrome in the Fmr1 knockout mouse”, Intractable Rare Dis Res. 2014 Nov; 3(4): 118-133; Bakker et al., 1994, “Fmr1 knockout mice: A model to study fragile X mental retardation”, Cell, 15; 78(1): 23-33)。
【0072】
実験動物
雄性FVB.129P2-Pde6b+ Tyrc-ch Fmr1tm1Cgr/J伝子欠損マウスは、Jackson Laboratoriesから入手し、3週齢に聴覚性発作実験を行った。入手後、実験動物は制御された照明環境(12時間の照明/12時間の非照明)下で生育され、20~23℃の温度と約50%の相対湿度で維持された。餌と水は自由に与えられた。マウスはランダムに群分けした。試験は照明下で行われた。
【0073】
薬物
陽性対照群として、MPEP(2-メチル-6-(フェニルエチニル)ピリジン)HClが使用し、無菌の注射用生理食塩水に溶解して、30mg/kg用量で腹腔内投与した。MPEPは、10mL/kgの容量で調製され、試験30分前に投与された。
【0074】
試験化合物を30%PEG300に溶解し、10mg/kg及び20mg/kgの2用量を使用した。10mL/kgの容量で調製し、試験30分前に腹腔内投与された。陰性対照群として、ビヒクル(30%PEG300)を投与した。
【0075】
試験群
1.Fmr1遺伝子欠損マウス-ビヒクル投与
2.Fmr1遺伝子欠損マウス-MPEP30mg/kg投与
3.Fmr1遺伝子欠損マウス-試験化合物10mg/kg投与
4.Fmr1遺伝子欠損マウス-試験化合物20mg/kg投与
1群当たり10匹のマウスを使用した。
【0076】
聴覚性発作試験
ビヒクル、MPEP又は試験化合物を、試験の30分前の21日齢のマウスに投与した。マウスをプレキシグラス(Plexiglas)チャンバーに15秒間入れ、135デシベル(dB)の音にさらした。5分間の試験中、マウスの反応、反応までに必要な時間、及び発作の強度に基づいて、以下の基準に従ってマウスにスコアを付けた。
0:無反応
1:ワイルドなランニングとジャンピング
2:間代発作
3:強直間代性発作
4:強直発作
5:呼吸停止
【0077】
以下の評価項目が測定及び観察され、反応がなかった動物の場合、反応までの時間が分析の便宜上300秒に設定された。
1.発作発生までの時間(発作が発生しなかった場合、300秒)
2.呼吸停止までの時間(呼吸停止なしで生存した場合、300秒)
3.発作強度
4.生存率
5.発作発生率
【0078】
統計的分析
データは分散分析によって分析され、適切な場合は、Fisher PLSD post-hoc分析を行った。平均発作強度は、ノンパラメトリックに分析された。効果は、p<0.05の場合に有意的であると定義された。結果は、平均値±標準誤差として表された。
【0079】
試験結果
1.体重
試験当日の投与前に測定した体重を1元配置分散分析で分析したところ、群による有意差が認められなかった。
【0080】
2.発作発生までの時間
MPEP(30mg/kg)と試験化合物(10、20mg/kg)を投与した群は、ビヒクル投与群と比較して、発作の発症に必要な時間が有意に増加した。MPEPと試験化合物投与群のマウスは、発作を惹き起こさなかったため、発作の発生に必要な時間は300秒と記録された(図1)。
【0081】
3.呼吸停止までの時間
MPEP(30mg/kg)と試験化合物(10、20mg/kg)を投与した群は、ビヒクル投与群と比較して、呼吸停止に必要な時間が有意に増加した。MPEPと試験化合物投与群のマウスは、呼吸停止を惹き起こさなかったため、呼吸停止に必要な時間は300秒と記録された(図2)。
【0082】
4.平均発作強度
MPEP(30mg/kg)と試験化合物(10、20mg/kg)を投与群では、ビヒクル投与群と比較して、マウスの発作強度数値が有意に低下した(図3)。
【0083】
5.生存率
MPEP(30mg/kg)と試験化合物(10、20mg/kg)を投与した群では、ビヒクル投与群と比較して、マウスの生存率が有意に増加し、100%生存率を示した(図4)。
【0084】
6.発作発生率
MPEP(30mg/kg)と試験化合物(10、20mg/kg)を投与した群では、全く発作が発生しなかった(図5)。
【0085】
実施例2:FMR1遺伝子欠損マウスモデルにおけるオープンフィールド試験及び恐怖条件化試験
実験動物
雄性FVB.129P2-Pde6b+ Tyrc-ch Fmr1tm1Cgr/J伝子欠損マウスは、JacksonLa boratoriesから入手し、入手後、制御された照明環境(12時間の照明/12時間の非照明)下で生育され、20~23℃の温度と約50%の相対湿度で維持された。餌と水は自由に与えられた。マウスをランダムに群分けした。薬物は8週齢で1日1回6日間投与された。試験は照明下で行われた。
【0086】
薬物
試験化合物を30%PEG300に溶解し、10mg/kg及び20mg/kgの2用量が使用された。試験化合物を10mL/kgの容量で調製し、試験の30分前に腹腔内投与した。
【0087】
試験群
1.野生型マウス-ビヒクル投与
2.Fmr1遺伝子欠損マウス-ビヒクル
3.Fmr1遺伝子欠損マウス-試験化合物10mg/kg
4.Fmr1遺伝子欠損マウス-試験化合物20mg/kg
群当たり10匹のマウスを使用した。
【0088】
オープンフィールド試験及び恐怖条件化試験
1.活動性(Locomotor activity):8週齢のマウスに6日間毎日1回投与過程で、投与4日目に活動性試験を行った。
【0089】
赤外線に囲まれたプレキシグラスの正方形のチャンバー(27.3×27.3×20.3cm)を使用して、水平方向及び垂直方向の動きを測定した。マウスは、試験前の少なくとも1時間は実験室に慣れさせ、その後、チャンバーの中央に置いて、オープンフィールドでの活動を1時間測定した。試験実行空間は、マウスを交換するたびに清掃された。移動距離は、マウスの動きによる水平光線の遮断によって測定された。活動性と飼育活動(後ろ足立ち)の時間別変化は5分単位で表した。移動距離の合計と後ろ足立ちの合計回数は、60分間の値の合計である。
【0090】
2.恐怖条件化試験:投与5、6日目、投与後30分にそれぞれ訓練(training)と薬効確認試験を実施した。試験は、Coulbourn Instruments社(PA、USA)で製造された恐怖条件化システムを利用して行われた。
【0091】
訓練は、投与5日目の投与30分後に行った。マウスを条件化チャンバーに入れ、120秒間環境に慣れさせ、6kHz、75dBの音刺激(条件化刺激)に20秒間さらした。条件化刺激の終了から30秒後、マウス足に0.5mAの電気刺激ショック(非条件化刺激)を加えた。マウスをさらに60秒間条件化チャンバーに入れ、その後、元のゲージに戻した。
【0092】
6日目の朝、投与後30分のマウスを前日と同じチャンバーに入れ、環境的記憶の薬効試験を実施するために、ショックや他の障害物なしで5分間訓練した。6日目の午後、環境的条件化試験4時間後、刺激信号による記憶(cued memory)に対する薬効試験を行った。マウスを新しい環境に2分間(刺激信号前)さらし、条件と刺激を20秒間、計3回を加えた。行動停止(Freezing behavior)は、完全な動きの喪失として定義され、ビデオシステムとFreeze Viewソフトウェア(Coulbourn Instruments社、PA、USA)を利用してキャッチした。チャンバーは、マウスを交換するたびに70%エタノールで洗浄した。
【0093】
統計的分析
データは、ANOVAによって分析後、適切な場合は、Stat view softwareを利用してFisher PLSD post-hoc分析を行った。効果は、p<0.05の場合に有意であると定義された。結果は平均値±標準誤差として表された。
【0094】
オープンフィールド試験結果
1.活動性(Locomotor activity)
60分間の時間経過に伴う活動性の変化を図6Aに示し、総移動距離の合計は図6Bに示した。ANOVA分析の結果、ビヒクルが投与されたFmr1遺伝子欠損マウスは、野生型マウスと比較して有意に増加した活動性を示した。また、Fmr1遺伝子欠損マウスでビヒクル投与群と比較して、試験化合物20mg/kg投与群で活動性が有意に低下した。
【0095】
2.後ろ足立ち(Rearing)
60分間、後ろ足で立つ頻度の時間ごとの変化は、図7Aに示し、後ろ足で立つ回数は図7Bに示した。ANOVA分析の結果、ビヒクルが投与されたFmr1遺伝子欠損マウスは、野生型マウスと比較して、後ろ足で立つ回数が増加したが、有意ではなかった。また、Fmr1遺伝子欠損マウスでは、ビヒクル投与群と比較して、試験化合物20mg/kg投与群で後ろ足で立つ回数が低下した。
【0096】
恐怖条件化(Fear conditioning)試験結果
1.環境的恐怖条件化(Contextual fear conditioning)
環境的恐怖条件化試験中の行動停止(freezing)比率を図8に示した。ANOVA分析の結果、ビヒクルが投与されたFmr1遺伝子欠損マウスは、野生型マウスと比較して有意に減少された行動停止を示した。さらに、Fmr1遺伝子欠損マウスで、ビヒクル投与群と比較して試験化合物10mg/kg、20mg/kg投与群で有意に増加した行動停止を示し、野生型マウスと同様に行動停止を示した。
【0097】
2.刺激信号による恐怖条件化試験(Cue test)
刺激信号による恐怖条件と試験中の行動停止割合を図9に示した。全ての群を分析したところ、野生型マウスとFmr1遺伝子欠損マウスと間に有意な差がなかった。但し、t-検定は、野生型マウスとFmr1遺伝子欠損マウスと間に有意な差を示した。Fmr1遺伝子欠損マウスでは、1元配置分散分析を行って、ビヒクル投与群と試験化合物投与群を比較した。刺激信号を与える時間を刺激信号の後と比較すると、行動停止割合に有意な投与効果があった。刺激信号が与えられる間、試験化合物を2種類の用量でFmr1遺伝子欠損マウスの行動停止割合を有意に増加させた。刺激信号後には、試験化合物20mg/kg用量で行動停止の有意な増加があった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9