(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】船舶の風圧制御装置
(51)【国際特許分類】
B63B 15/00 20060101AFI20241115BHJP
B63H 9/061 20200101ALI20241115BHJP
【FI】
B63B15/00 B
B63H9/061
(21)【出願番号】P 2023071626
(22)【出願日】2023-04-25
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 洋一
(72)【発明者】
【氏名】龍 知宏
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111209(JP,A)
【文献】特開昭61-196892(JP,A)
【文献】特開2005-132314(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0081107(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0070421(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0070426(KR,A)
【文献】特開2017-024643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 15/00
B63H 9/061
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の甲板上の前方部分に上部構造物が設けられ、
該船舶の船首にウインドスクリーンが設けられ、
前記ウインドスクリーンは、船首部の上端縁に沿って張りめぐらせた防風用の外板であり、かつ該ウインドスクリーンの前方部分には、上端に向かうに従って後方に後傾する傾斜整流面を備えており、
船体の前方からの風が、前記ウインドスクリーンの傾斜整流面で整流されて前記上部構造物の上方へ流れる部位に、断面翼形であって上方に向けて揚力を発生する揚力発生板が配置されて
おり、
前記揚力発生板が、支持架台によって前記甲板上に支持され、かつ風に対する迎角を可変に調整できるものである
ことを特徴とする船舶の風圧制御装置。
【請求項2】
前記揚力発生板が、NACA4418の翼形を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の船舶の風圧制御装置
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の風圧制御装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、船舶の甲板上の前方に設けられた居住区等の上部構造物に対する風圧を利用して船舶の推力に変換する船舶の風圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車運搬船は乾舷が高く船体正面の風圧面積が大きい。コンテナ船は積み荷のコンテナを多く積むと風圧面積が大きくなる。上部構造物が大きい大型客船も水面上の風圧抵抗が大きくなる。これらの大形船舶では、風圧を低減して省エネルギー化する技術が既に開発されている。
【0003】
このような船舶一般における風圧を低減する装置としては、特許文献1の従来技術がある。
この従来技術では、
図6に示すように、船舶107の上甲板108の上に設けられた上部構造物109(居住区を含む)の前面の左右および上部の各コーナー部に、断面翼形の帯状付加物103,106を設けている。
上部構造物109に当たる風は、平面的には左右に分かれ、垂直方向では下から上へ吹き上げる空気の流れとなる。この場合、帯状付加物103,106には揚力が発生するので、この揚力によって風圧抵抗を低減できると説明されている。
【0004】
しかしながら、上記従来技術における船舶107では上部構造物109に当たる風111は、当たった直後には乱流となるので、風の通り道に断面翼形の帯状付加物103,106を置いたとしても、充分な揚力を発揮することはできなかった。よって風圧低減効果も充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、船舶の上部構造物に対する風圧を低減するだけでなく、積極的に推進力に変換する風圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の船舶の風圧制御装置は、船舶の甲板上の前方部分に上部構造物が設けられ、該船舶の船首にウインドスクリーンが設けられ、前記ウインドスクリーンは、船首部の上端縁に沿って張りめぐらせた防風用の外板であり、かつ該ウインドスクリーンの前方部分には、上端に向かうに従って後方に後傾する傾斜整流面を備えており、船体の前方からの風が、前記ウインドスクリーンの傾斜整流面で整流されて前記上部構造物の上方へ流れる部位に、断面翼形であって上方に向けて揚力を発生する揚力発生板が配置されており、前記揚力発生板が、支持架台によって前記甲板上に支持され、かつ風に対する迎角を可変に調整できるものであることを特徴とする。
第2発明の船舶の風圧制御装置は、第1発明において、前記揚力発生板が、NACA4418の翼形を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)船舶の前方からの風が、船首部の上端縁に沿って張りめぐらせたウインドスクリーンの傾斜整流面によって整流されて層流となって上部構造物の上方へ流れていくが、この層流の中に揚力発生板が配置されているので、揚力発生板によって前方上向きの揚力が効果的に発生する。
b)揚力発生板は風に対する迎角を可変に調整できるので、船首からの風に対し最も高い揚力を発生できる。
c)このようにして発生させた揚力は船舶の推進力に変換できるので航行中の省エネルギー化が達成できる。
第2発明によれば、揚力発生板がNACA4418の翼形であるので、広い迎角範囲で高い揚力を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る風圧低減装置を備えた自動車運搬船Sの前方部分を示す側面図である。
【
図2】(A)は本発明におけるウインドスクリーン5の傾斜整流面6による整流作用の説明図、(B)は傾斜整流面を有しないウインドスクリーンの説明図である。
【
図3】
図1に示す風圧制御装置において揚力Dfが発生する原理の説明図である。
【
図4】(A)図は揚力発生板10の説明図、(B)図はNACA4418の翼形をもつ揚力発生板10aの説明図、(C)図は断面長四角形の揚力発生板10bの説明図である。
【
図5】
図5は揚力発生板10a,10bの船体抵抗低減効果を示すグラフであり、Iは取付角度30°、IIは取付角度45°、IIIは取付角度60°の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
以下の実施形態は、船舶のうち自動車運搬船に適用したものである。
【0011】
図1において、Sは自動車運搬船であり、1は船体である(
図1では船体1は全体でなく、船首を含む前方部分のみ示している)。船体1の甲板2における前方部分には居住区などを含む上部構造物3が設けられている。船体1の船首部4(
図1の左端部分)の上方部分にはウインドスクリーン5が設けられている。
【0012】
ウインドスクリーン5は、船首部4の上端縁に沿って張りめぐらせた防風用の外板である。船首部4に沿って設けられているので、ウインドスクリーン5は平面視では馬蹄形である。
ウインドスクリーン5の前方部分では、上端に向かうに従い後傾する傾斜整流面6が設けられている。ここでいう後傾とは、船の前方から後方に向けて上向きに傾斜することをいう。
傾斜整流面6として傾斜する始点は、ウインドスクリーン5の下端でもよく、高さ方向の途中であってもよい。
【0013】
図2(B)に示すように、ウインドスクリーン5に傾斜整流面6が無く、ウインドスクリーン5の前面が直立している場合、ウインドスクリーン5に当たった風が乱流Ftとなり、そのまま上部構造物3に当たったり、その上方を抜けることになる。
これに対し、
図2(A)に示すように、ウインドスクリーン5に傾斜整流面6が設けられていると、船首前方からウインドスクリーン5に当たった風は、傾斜整流面6に当たって整流され、層流Flとなって上部構造物3の上方に抜けていく。この層流Flを発生させることは、揚力を発生させるに当たり重要な要素である。
【0014】
図1に示すように、ウインドスクリーン5の前方部分とその後方の上部構造物3との間には、揚力発生板10が配置されている。
揚力発生板10の配置位置は、ウインドスクリーン5の傾斜整流面6で整流された層流Flが上部構造物3の上方に向けて流れていく部位である。
【0015】
揚力発生板10は、断面翼形であれば、大きな揚力を発生するので好ましい。
翼形は、翼上面で圧力が低下し翼下面で圧力が上昇する形状であればよく、任意の翼形を採用できる。
ただし、断面翼形のうちでも、とくにNACA4418の翼形が好ましい。NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)が定めたNo.4418の翼形は広い迎角範囲で揚抗比が高いことが知られている。
【0016】
揚力発生板10の材料には、とくに制限はないが、鋼製あるいはFRP(繊維強化樹脂材料)など、充分な強度を持ちつつ、加工性が優れた材料を用いることが好ましい。また、FRPのうちではCFRP(炭素繊維を強化材とした樹脂材料)が高剛性、高強度であるので、より好ましい。
【0017】
図1には示していないが、揚力発生板10は、図示しない支持架台によって、甲板2上に支持され、かつ迎角を可変に調整できるように取付けられている。
支持架台としては、とくに制限はなく、甲板2上に立設されたポストに、適宜の軸を介して揚力発生板10を支持したものを例示できる。ここに例示した支持架台であると、軸を少し回転させれば、迎角を調整することができる。
このため、船首からの風に対し最も高い揚力が発生するように調整できるので、発生する揚力を大きくできる。
【0018】
図3に示すように、揚力発生板10を、ウインドスクリーン5の傾斜整流面6で整流された層流Flの中におき、層流Flの流れに沿うよう迎角を調整すると揚力Dfが生ずる。この揚力Dfは、揚抗比が高い断面形状の揚力発生板10と空気流れが層流Flとなっていることによる相乗作用により生ずるので、非常に大きいものとなる。
この揚力Dfが生ずることによって、自動車運搬船Sに対する風圧を利用して自動車運搬船Sの推進力に変換でき、航行中の省エネルギー化が達成できる。
【実施例】
【0019】
揚力発生板10につき、翼形状による風圧抵抗の相違を計測した。
図4(A)は風洞実験用の模型を示し、
図1と実質的に同じ構成としている。揚力発生板10としては、
図4(B)に示すNACA4418の翼形状をもつ揚力発生板10aと同図(C)に示す断面長方形の揚力発生板10bを用いた。
揚力発生板10a,10bは甲板2上に角度θをつけて設置して風圧抵抗の違いを計測した。揚力発生板10a,10bのコード長は30mm(模型船サイズ)とした。
【0020】
揚力発生板10a,10bの取付角度θは、30度、45度、60度の3種類とした。
風向きに対する船舶の角度(deg.)、すなわち計測角度は、10度ピッチで変更した。つまり、
図5のI、II、IIIにおける各図の横軸は-45、-30、-20、-10、0、10、20、30、45とされている。各図の縦軸は風圧抵抗係数を示している。
上記の条件で、断面形状の異なる揚力発生板10a,10bについて風圧抵抗を計測し、揚力発生板10aの船体抵抗の風圧抵抗係数を実線で示し、揚力発生板10bの風圧抵抗係数を点線で示した。
【0021】
試験結果を以下に示す。
I:試験結果(取付角度30度、
図5(I)参照)
断面翼形の揚力発生板10aは箱形の揚力発生板10bと比べて、計測角度プラスマイナス10度の範囲で、約4~7%の船体抵抗低減効果が確認できた。
II:試験結果(取付角度45度、
図5(II)参照)
断面翼形の揚力発生板10aは箱形の揚力発生板10bと比べて、計測角度プラスマイナス30度の範囲で、約5~8%の船体抵抗低減効果が確認できた。
III:試験結果(取付角度60度、
図5(III)参照)
断面翼形の揚力発生板10aは箱形の揚力発生板10bと比べて、計測角度プラスマイナス45度の範囲で、約3~7%の船体抵抗低減効果が確認できた。
【0022】
以上のように、取付角度30、45、60度にて風洞試験を実施した結果、翼形断面の揚力発生板10aは、同サイズの断面長方形の揚力発生板10bと比して、船体正面からの風による模型船にかかる風圧抵抗を約3~8%多く低減する効果が確認できた。
【0023】
以上のように、翼断面形状の揚力発生板10を装備することにより風圧抵抗が減少していることは、揚力発生板10が揚力を発生していることを意味し、その揚力は船の推進力に転換されることになる。
そして、この優れた効果は、ウインドスクリーン5の傾斜整流面6による風の整流効果と揚力発生板10に翼形断面を採用したことの相乗効果と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の風圧低減装置は、自動車運搬船S以外のコンテナ船や大型客船にも適用でき、さらにはあらゆる種類の船舶に適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 船体
2 甲板
3 上部構造物
4 船首部
5 ウインドスクリーン
6 傾斜整流面
10 揚力発生板