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特許7588717成形性に優れた高強度厚板鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】成形性に優れた高強度厚板鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241115BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241115BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/38
C21D8/02 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023524172
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 KR2021014695
(87)【国際公開番号】W WO2022086166
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0138314
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-イル
(72)【発明者】
【氏名】ナ、 ヒュン-テク
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/111891(WO,A1)
【文献】特開2015-127444(JP,A)
【文献】特開2018-009243(JP,A)
【文献】特開2016-148105(JP,A)
【文献】特開2020-158825(JP,A)
【文献】特開2020-111771(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152172(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/039979(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/084332(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103343300(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.0%、Cr:0.005~1.0%、Al:0.01~0.1%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Ti:0.005~0.11%、及びNb:0.005~0.07%を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり
下記関係式1で定義されるR値が0.3~1.0を満たし、
断面を基準として、0~t/4の範囲の表層部(ここで、tは鋼板の厚さを意味する)とt/4~t/2の範囲の深層部(t/4は含まない)は、それぞれ面積%で、フェライトとベイナイトを合計で90%以上、パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物を5%未満、及びMA相(Martensite&Austenite)を5%未満で微細組織として含み、
降伏強度と伸び率の積(YSxT-El)は16000MPa・%以上であり、
厚さが10~25mmである、厚板鋼板。
[関係式1]
R=[C]*+0.7x[Mn]+8.5x[P]+7.5x[S]-0.9x[Si]-1.5x[Nb]
[C]*=[C]-[C]xQ
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
(前記関係式1の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[Si]、[Nb]及び[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
【請求項2】
前記鋼板の厚さは、15~25mmである、請求項1に記載の厚板鋼板。
【請求項3】
前記鋼板の深層部で面積%で、前記パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物は3%以下及び前記MA相は3%以下である、請求項1に記載の厚板鋼板。
【請求項4】
前記鋼板の表層部で面積%で、前記ベイナイトは20%以下、前記パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物は2%未満、及び前記MA相は3%以下である、請求項1に記載の厚板鋼板。
【請求項5】
前記鋼板の厚さ断面に垂直な任意の線を基準に、試験片の表層の直下0.5mm地点から裏面表層の直下0.5mm地点まで0.5mm間隔で測定した硬度値の平均硬度値と最大硬度値との差が20Hv以下である、請求項1に記載の厚板鋼板。
【請求項6】
重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.0%、Cr:0.005~1.0%、Al:0.01~0.1%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Ti:0.005~0.11%、及びNb:0.005~0.07%を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、下記関係式1で定義されるR値が0.3~1.0を満たす鋼スラブを再加熱する段階;
前記再加熱された鋼スラブを800~1150℃の温度範囲で20~50%の圧下率で、厚さが10~25mmになるように熱間圧延し、下記関係式2で定義されるTn-50~Tnの温度範囲で圧延終了する熱間圧延する段階;
前記熱間圧延された鋼板を450~550℃の温度範囲まで下記関係式3で定義されるCRMin以上の冷却速度で1次冷却した後に巻取る段階;及び
前記巻取られた鋼板を2次冷却する段階を含む、厚板鋼板の製造方法。
[関係式1]
R=[C]*+0.7x[Mn]+8.5x[P]+7.5x[S]-0.9x[Si]-1.5x[Nb]
[C]*=[C]-[C]xQ
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
(前記関係式1の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[Si]、[Nb]及び[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
[関係式2]
Tn=730+92x[C]+70x[Mn]+45x[Cr]+650x[Nb]+410x[Ti]-80x[Si]-1.4x(t-8)
(前記関係式2のTnの単位は℃であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Nb]、[Ti]及び[Si]は、該当合金元素の重量%である。)
(前記関係式2のtは、最終圧延板材の厚さ(mm)である。)
[関係式3]
CRMin=76.6-157x[C]-25.2x[Si]-14.1x[Mn]-27.3x[Cr]+61x[Ti]+448x[Nb]
(前記関係式3のCRMinの単位は℃/sであり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ti]及び[Nb]は、該当合金元素の重量%である。)
【請求項7】
前記再加熱を1200~1350℃の温度範囲で行う、請求項6に記載の厚板鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記1次冷却時の冷却速度が80℃/sec以下である、請求項6に記載の厚板鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記2次冷却時に常温~200℃の温度範囲まで空冷または水冷する、請求項6に記載の厚板鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚板鋼板及びその製造方法に関するものであり、高強度特性を備えながら成形性に優れた厚板鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の商用車及び重装備の構造部材としては、厚さ12~14mmの引張強度が440MPa以上の厚板工程で製造された板材が主に用いられているが、最近では軽量化及び高強度化のために引張強度550MPa以上の高強度鋼材を用いる技術が開発されている。特に、大型商用車、特装車及び重装備部品に適用される厚さ15~25mmの極厚板材は、厚板工程で製造されていたが、価格競争力の確保のために熱延工程を適用する方法が求められている。
【0003】
但し、高強度極厚板鋼材を熱延工程で製造すると、圧延時に大圧下での困難があり、均一な微細組織を形成することが困難であって安定した降伏強度を確保し難く、部品製造時に亀裂が発生しやすく、使用中に局部的な応力集中の発生により耐久寿命が低下するという問題点がある。
【0004】
これに関して、従来の鋼材については、特許文献1のように、通常のオーステナイト域で熱間圧延を経た後、高温で巻取ってフェライト相を基地組織とし、析出物を微細に形成させて強度及び延性を確保したり、特許文献2のように、粗大なパーライト組織が形成されないように巻取り温度をベイナイト相が基地組織に形成される温度まで冷却した後に巻取る技術が提案されている。また、特許文献3のように、Ti及びNbなどを活用して熱間圧延中の未再結晶域で20~40%の2回以上の圧下を介してオーステナイト結晶粒を微細化させる技術も提案されている。
【0005】
しかし、厚板高強度鋼を製造するための上記技術で主に活用するSi、Mn、Al、Mo、及びCrなどの合金成分は、強度を向上させるのに効果的であるが、過度に添加すると却って偏析と微細組織の不均一を招いて成形性が低下し、せん断面に発生した微細な亀裂が疲労環境で容易に伝播して、部品の破損が発生することになる。特に、厚さが厚くなるほど、厚さ表層部と深層部との間の微細組織の不均一性が増加して、局部的な応力集中が増加し、疲労環境における亀裂の伝播速度も増加して、耐久性が低下するようになる。
【0006】
また、厚板材の結晶粒を微細化して析出強化の効果を得るために、Ti、Nb及びVなどの析出物形成元素を活用すると効果的であるが、析出物が形成されやすい500~700℃の高温で巻取ったり、熱延後の冷却時に冷却速度を制御しないと、厚板材の厚さ中心部に粗大な炭化物が形成されて、せん断面の品質が低下するようになる。
【0007】
さらに、熱間圧延中の未再結晶域で20~40%の圧下量を2回以上付与することは、薄物製品には容易に適用できるが、薄物製品に比べて全圧延量が小さい厚板製品を製造する際には適用し難いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本公開特許公報第2002-322541号
【文献】韓国登録特許公報第10-1528084号
【文献】日本公開特許公報第1997-143570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、厚板材の熱延工程時に均一な微細組織を確保することで、降伏強度及び伸び率に優れて、成形時にクラック発生のない高強度厚板鋼板及びその製造方法を提供する。
【0010】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば本明細書の全体内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.0%、Cr:0.005~1.0%、Al:0.01~0.1%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Ti:0.005~0.11%、Nb:0.005~0.07%、残部Fe及び不可避不純物を含み、
下記関係式1で定義されるR値が0.3~1.0を満たし、
断面を基準として、0~t/4の範囲の表層部(ここで、tは鋼板の厚さを意味する)とt/4~t/2の範囲の深層部(t/4は含まない)は、それぞれ面積%で、フェライトとベイナイトを合計で90%以上、パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物を5%未満、及びMA相(Martensite&Austenite)を5%未満で微細組織として含み、
降伏強度と伸び率の積(YSxT-El)は16000MPa・%以上であり、
厚さが10mm以上の厚板鋼板を提供することができる。
[関係式1]
R=[C]*+0.7x[Mn]+8.5x[P]+7.5x[S]-0.9x[Si]-1.5x[Nb]
[C]*=[C]-[C]xQ
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
(上記関係式1の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[Si]、[Nb]及び[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
【0012】
上記鋼板の厚さは15mm以上であってよい。
【0013】
上記鋼板の深層部で面積%で、上記パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物は3%以下、及び上記MA相は3%以下であってよい。
【0014】
上記鋼板の表層部で面積%で、上記ベイナイトは20%以下、上記パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物は2%未満、及び上記MA相は3%以下であってよい。
【0015】
上記鋼板の厚さ断面に垂直な任意の線を基準に、試験片の表層の直下0.5mm地点から裏面表層の直下0.5mm地点まで0.5mm間隔で測定した硬度値の平均硬度値と最大硬度値との差が20Hv以下であってよい。
【0016】
本発明の他の一側面は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.0%、Cr:0.005~1.0%、Al:0.01~0.1%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Ti:0.005~0.11%、Nb:0.005~0.07%、残部Fe及び不可避不純物を含み、下記関係式1で定義されるR値が0.3~1.0を満たす鋼スラブを再加熱する段階;
上記再加熱された鋼スラブを800~1150℃の温度範囲で20~50%の圧下率で、厚さが10mm以上になるように熱間圧延し、下記関係式2で定義されるTn-50~Tnの温度範囲で圧延終了する熱間圧延する段階;
上記熱間圧延された鋼板を450~550℃の温度範囲まで下記関係式3で定義されるCRMin以上の冷却速度で1次冷却した後に巻取る段階;及び
上記巻取られた鋼板を2次冷却する段階を含む厚板鋼板の製造方法を提供することができる。
[関係式1]
R=[C]*+0.7x[Mn]+8.5x[P]+7.5x[S]-0.9x[Si]-1.5x[Nb]
[C]*=[C]-[C]xQ
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
(上記関係式1の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[Si]、[Nb]及び[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
[関係式2]
Tn=730+92x[C]+70x[Mn]+45x[Cr]+650x[Nb]+410x[Ti]-80x[Si]-1.4x(t-8)
(上記関係式2のTnの単位は℃であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Nb]、[Ti]及び[Si]は、該当合金元素の重量%である。)
(上記関係式2のtは、最終圧延板材の厚さ(mm)である。)
[関係式3]
CRMin=76.6-157x[C]-25.2x[Si]-14.1x[Mn]-27.3x[Cr]+61x[Ti]+448x[Nb]
(上記関係式3のCRMinの単位は℃/sであり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ti]及び[Nb]は、該当合金元素の重量%)
【0017】
上記再加熱は1200~1350℃の温度範囲で行うことができる。
【0018】
上記1次冷却時に冷却速度が80℃/sec以下であってよい。
【0019】
上記2次冷却時に常温~200℃の温度範囲まで空冷または水冷することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一側面によると、引張強度、降伏強度及び伸び率に優れ、高強度特性を備えながら成形性に優れた厚板鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0021】
本発明の他の一側面によると、大型商用車のホイールリム、ディスク、メンバ類及びフレームなど構造部材に用いられる高強度厚板鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】発明鋼と比較鋼の降伏強度と伸び率の積(YSxT-El)と厚さ断面の平均硬度値と最大硬度値との差(ΔH)を示したものである。
図2】発明鋼と比較鋼の厚さ断面における硬度値分布を示したものである。
図3】発明鋼と比較鋼の厚さ断面における硬度値分布を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されるものと解釈されてはいけない。本実施例は、該当発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0024】
本発明の発明者は、上述した問題点を解決するために、様々な成分を有する極厚板圧延鋼材について、成分、熱延及び冷却条件による厚さ方向別の微細組織の分布と詳細な材質の変化を調べた。
【0025】
その結果、厚板熱延鋼板が優れた降伏強度及び延性を有するようにする方法を確認し、特に、一定厚さ以上の厚板鋼板の微細組織において、均一性が確保され、厚さ方向による硬度分布が一定であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
以下では、本発明の鋼組成について詳細に説明する。
【0028】
本発明において特に断りのない限り、各元素の含有量を表示する%は、重量を基準にする。
【0029】
本発明の一側面による鋼板は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.0%、Cr:0.005~1.0%、Al:0.01~0.1%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Ti:0.005~0.11%、Nb:0.005~0.07%、残部Fe及び不可避不純物を含むことができる。
【0030】
炭素(C):0.05~0.15%
炭素(C)は、鋼を強化するのに最も経済的かつ効果的な元素であり、添加量が増加すると析出強化の効果またはベイナイト相の分率が増加して引張強度が増加するようになる。熱延鋼板の厚さが増加すると、熱間圧延後の冷却時に厚さ中心部の冷却速度が遅くなって、炭素(C)の含有量が大きい場合、粗大な炭化物やパーライトが形成されやすい。炭素(C)の含有量が0.05%未満であると、十分な強化効果が得られ難く、その含有量が0.15%を超過すると、厚さ中心部に粗大な炭化物やパーライト相及びバンド組織の形成により成形性が低下し、耐久性が低下するという問題点があり、溶接性も劣る。
【0031】
したがって、炭素(C)の含有量は、0.05~0.15%であってよい。より好ましくは0.06%以上であり、0.12%以下であってよい。
【0032】
シリコン(Si):0.01~1.0%
シリコン(Si)は、溶鋼を脱酸させ、固溶強化の効果があり、粗大な炭化物形成を遅らせて成形性を向上させるのに有利な元素である。シリコン(Si)の含有量が0.01%未満であると、固溶強化の効果に劣り、炭化物形成を遅らせる効果も僅かであって成形性を向上させ難く、その含有量が1.0%を超過すると、相変態温度が増加して極厚板材の低温域の熱間圧延時に、表層部に局部的なフェライト域の圧延による粗大粒が形成されやすく、鋼板表面にシリコン(Si)による赤色スケールが形成されて鋼板表面の品質が非常に悪くなるだけでなく、延性及び溶接性も低下するという問題点がある。
【0033】
したがって、シリコン(Si)の含有量は0.01~1.0%であってよい。より好ましくは0.1%以上であり、0.9%以下であってよい。
【0034】
マンガン(Mn):1.0~2.0%
マンガン(Mn)は、Siと同様に鋼を固溶強化するのに効果的な元素であり、鋼の硬化能を増加させて熱延後の冷却時にベイナイト相の形成を容易にする。マンガン(Mn)の含有量が1.0%未満であると、添加による上記効果が得られず、その含有量が2.0%を超過すると、硬化能が大きく増加して、マルテンサイトの相変態が起こりやすく、高温巻取り時にパーライト形成を促進する。また、連鋳工程でスラブ鋳造時に厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、熱延後の冷却時には厚さ方向への微細組織が不均一に形成されて成形性及び耐久性が低下する。
【0035】
したがって、マンガン(Mn)の含有量は1.0~2.0%であってよい。より好ましくは1.1%以上であってよい。
【0036】
クロム(Cr):0.005~1.0%
クロム(Cr)は、鋼を固溶強化させる元素であり、冷却時のフェライトの相変態を遅らせてベイナイト形成を助ける役割を果たす。クロム(Cr)の含有量が0.005%未満であると、添加による上記効果が得られず、その含有量が1.0%を超過すると、フェライト変態を過度に遅らせてマルテンサイト相が形成され、伸び率が低下するようになる。また、Mnと同様に厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、厚さ方向の微細組織を不均一にして成形性及び耐久性を低下させる。
【0037】
したがって、クロム(Cr)の含有量は、0.005~1.0%であってよい。より好ましくは0.1%以上であり、0.9%以下であってよい。
【0038】
アルミニウム(Al):0.01~0.1%
アルミニウム(Al)は、主に脱酸のために添加する元素である。アルミニウム(Al)の含有量が0.01%未満であると、その添加効果が不足し、その含有量が0.1%を超過すると、Nと結合してAlNが形成されて連続鋳造時にスラブにコーナークラックが発生しやすく、介在物形成による欠陥が発生しやすい。
【0039】
したがって、アルミニウム(Al)の含有量は0.01~0.1%であってよい。
【0040】
リン(P):0.001~0.02%
リン(P)は、Siと同様に固溶強化及びフェライト変態の促進効果を同時に有する元素である。リン(P)の含有量が0.02%を超過すると、粒界偏析による脆性が発生し、成形時に微細な亀裂が発生しやすく、成形性及び耐久性を大きく悪化させる。一方、その含有量を0.001%未満に製造するためには、製造費用が多くかかって経済的に不利であり、強度を得るにも不十分である。
【0041】
したがって、リン(P)の含有量は、0.001~0.02%であってよい。
【0042】
硫黄(S):0.001~0.01%
硫黄(S)は、鋼中に存在する不純物であり、硫黄(S)の含有量が0.01%を超過すると、Mnなどと結合して非金属介在物を形成し、これにより鋼の切断加工時に微細な亀裂が発生しやすく、成形性及び耐久性を悪化させるという問題点がある。一方、その含有量を0.001%未満に製造するためには、製鋼操業に時間が多くかかってしまい、生産性が低下する。
【0043】
したがって、硫黄(S)の含有量は、0.001~0.01%であってよい。
【0044】
窒素(N):0.001~0.01%
窒素(N)は、Cと共に代表的な固溶強化の元素であり、Ti及びAlなどと共に粗大な析出物を形成する。一般的に、窒素(N)の固溶強化の効果はCより優れるが、鋼中に窒素(N)の量が増加するほど靭性が大きく低下するという問題点があり、その上限を0.01%とする。一方、その含有量を0.001%未満に製造するためには製鋼操業時に時間が多くかかってしまい、生産性が低下する。
【0045】
したがって、窒素(N)の含有量は、0.001~0.01%であってよい。
【0046】
チタン(Ti):0.005~0.11%
チタン(Ti)は、代表的な析出強化の元素であり、Nとの強い親和力により鋼中に粗大なTiNを形成する。TiNは、熱間圧延のための加熱過程で結晶粒が成長することを抑制する効果がある。また、Nと反応して残ったチタン(Ti)は、鋼中に固溶してCと結合することでTiC析出物が形成され、鋼の強度を向上させるのに有用である。チタン(Ti)の含有量が0.005%未満であると、上記効果が得られず、その含有量が0.11%を超過すると、粗大なTiNの発生及び析出物の粗大化により、成形時に局部的には応力集中を起こして、亀裂が発生しやすいという問題点がある。
【0047】
したがって、チタン(Ti)の含有量は、0.005~0.11%であってよい。より好ましくは0.01%以上であり、0.1%以下であってよい。
【0048】
ニオブ(Nb):0.005~0.07%
ニオブ(Nb)は、Tiと共に代表的な析出強化の元素であり、熱間圧延中に析出して再結晶遅延による結晶粒微細化の効果により鋼の強度及び衝撃靭性の向上に効果的である。ニオブ(Nb)の含有量が0.005%未満であると、上記効果が得られず、その含有量が0.07%を超過すると、熱間圧延中に過度の再結晶遅延によって延伸した結晶粒形成及び粗大な複合析出物の形成によって成形性及び耐久性が低下するという問題点がある。
【0049】
したがって、ニオブ(Nb)の含有量は、0.005~0.07%であってよい。より好ましくは0.01%以上であってよい。
【0050】
本発明の鋼材は、上述した組成以外に、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は、通常の製造工程で意図せずに混入される可能性があるため、これを排除することはできない。このような不純物は、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば誰でも分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書では言及しない。
【0051】
本発明の鋼は、下記関係式1で定義されるR値が0.3~1.0であってよい。
【0052】
関係式1のRを制御することで、連鋳工程で鋼の凝固及びスラブの冷却時に発生するC、Mn、P、Sなどの偏析及びMnSの形成を最小化して、微細組織の均一性を向上させることができる。凝固時に形成される鋳造組織にC、Mnなどの合金元素の偏析が発生することは通常的に知られており、Pは鋼板が熱間圧延及び冷却された後、高温で維持されるときに結晶粒界に主に偏析される特徴があって、結晶粒系の脆化の原因となる。このような偏析は、合金元素の含有量に対する依存性が大きい。特に、C及びMnは熱間圧延後の冷却中に粗大な炭化物及びパーライト組織を形成し、これはせん断面品質を低下させる原因となる。また、MnはSと共に非金属介在物であるMnSを形成し、これは圧延中に延伸されて最終製品の成形性を大きく低下させるという問題点がある。一方、Siは粗大な炭化物が形成されることを抑制し、少ない合金量でも固溶強化の効果が大きく、NbとTiは微細な析出物を形成して結晶粒径を微細にするのに効果があり、上記偏析及び結晶粒界の脆化問題を改善する上で効果がある。
【0053】
本発明では、様々な合金成分を有する鋼を熱間圧延し、厚板材を製造した後に断面での硬度を測定した結果、微細組織の均一性、合金成分及びその含有量に相関性があることを確認して、関係式1を導出するに至った。
【0054】
下記関係式1で定義されるR値が0.3未満であると、本発明で目標とした物性を確保し難いのに対し、その値が1.0を超過すると微細組織の不均一性が増加して、断面での硬度値が大きく変動した。より好ましくは、R値の下限が0.5であり、上限は0.8であってよい。
[関係式1]
R=[C]*+0.7x[Mn]+8.5x[P]+7.5x[S]-0.9x[Si]-1.5x[Nb]
[C]*=[C]-[C]xQ
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
(上記関係式1の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[Si]、[Nb]及び[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
【0055】
以下では、本発明の鋼微細組織について詳細に説明する。
【0056】
本発明で特に断りのない限り、微細組織の分率を表示する%は、面積を基準とする。
【0057】
本発明の一側面による合金組成を満たす鋼は断面を基準に、0~t/4の範囲の表層部(ここで、tは鋼板の厚さを意味する)とt/4~t/2の範囲の深層部(t/4は含まない)は、それぞれ面積%で、フェライトとベイナイトを合計で90%以上、パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物を5%未満、及びMA相(Martensite&Austenite)を5%未満で微細組織として含むことができる。
【0058】
厚板高強度鋼の微細組織は、冷却時に決定されるものとして冷却速度が速い表層部にはベイナイトとMA相(Martensite&Austenite)の形成が容易であるのに対し、冷却速度が遅い深層部には粗大な炭化物及びパーライトが形成されやすい。
【0059】
通常、表層部に形成されるMA相は、硬質相として周辺微細組織に比べて高い硬度を示し、不均一な硬度分布を有させて、成形時のMA相と基地組織との間の硬度差による微細亀裂も発生する。また、深層部に形成される粗大な炭化物及びパーライトは、周辺微細組織に比べて高い硬度を示すと同時に脆弱であって、せん断成形時に微細亀裂が発生するようになる。
【0060】
したがって、本発明では、上記表層部と深層部の問題点を同時に解決するために、パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物を5%未満、MA相を5%未満に制限する。このとき、パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物とMA相の分率は表層部及び深層部のそれぞれに同様に適用されることができる。
【0061】
本発明においてフェライトとベイナイトを90%以上含むことは、粗大な炭化物及びパーライトの不必要な形成を抑制し、厚さ位置別の均一な硬度分布を有するようにするとともに、優れた降伏強度と伸び率を確保するためであり、90%未満含む場合、本発明で目標とする降伏強度と伸び率の積(YSxT-El)値を確保することは困難である。したがって、本発明においてフェライトとベイナイトは合計で90%以上含むことができる。
【0062】
本願発明が目的とする物性確保の側面から、より好ましくは、深層部において上記パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物は3%以下及び上記MA相は3%以下であり、表層部において上記ベイナイトは20%以下、上記パーライト及び直径0.5μm以上の炭化物は2%未満、及び上記MA相は3%以下であってよい。
【0063】
本発明における微細組織は、鋼の表層部と深層部で同じ特徴を有し、本発明で提案する微細組織は鋼の全体に同様に適用される。また、本発明における表層部は、断面を基準に0~t/4(tは鋼板の厚さ)の範囲の領域を意味し、深層部はt/4~t/2の範囲の領域(t/4は含まない)を意味する。
【0064】
以下では、本発明の鋼製造方法について詳細に説明する。
【0065】
本発明の一側面による鋼は、上述した合金組成を満たす鋼スラブを再加熱、熱間圧延、1次冷却、巻取り、及び2次冷却して製造されることができる。
【0066】
スラブ再加熱
上述した合金組成を満たす鋼スラブを1200~1350℃の温度範囲で再加熱することができる。
【0067】
再加熱温度が1200℃未満であれば、析出物が十分に再固溶されず、熱間圧延後の工程での析出物生成が減少し、粗大なTiNが残存するようになる。一方、その温度が1350℃を超過すると、オーステナイト結晶粒の異常粒成長によって強度が低下する。
【0068】
熱間圧延
再加熱された鋼スラブを800~1150℃の温度範囲で20~50%の圧下率で熱間圧延し、下記関係式2で定義されるTn-50~Tnの温度範囲で圧延終了することができる。
【0069】
熱間圧延温度が1150℃を超過すると、鋼板の温度が過度に高くなって、結晶粒径が粗大になり、熱延鋼板の表面品質が低下するようになる。一方、その温度が800℃未満であると、過度の再結晶の遅延によって延伸した結晶粒が発達して、異方性及び成形性も悪くなり、オーステナイト温度域以下の温度で圧延されると、不均一な微細組織がより大幅に発達するようになる。これにより、成形時に不均一な部位で微細な亀裂が発生しやすくなり、延性も減少するという問題がある。
【0070】
圧延終了温度がTnを超過すると、鋼の微細組織が粗大かつ不均一になり、その温度がTn-50未満であれば、鋼板の厚さが15~25mmに該当する極厚板高強度鋼において、温度が比較的低い表層部でフェライト相変態の促進により、微細なフェライト相分率は増加するが、延伸した結晶粒形状を有するようになり、亀裂が急速に伝播する原因となり、中心部には不均一な微細組織が残存し得るため、耐久性が不利になる。
【0071】
本発明の関係式2によって決定される圧延終了温度は、熱間圧延終了時点の熱延鋼板の温度を意味する。
[関係式2]
Tn=730+92x[C]+70x[Mn]+45x[Cr]+650x[Nb]+410x[Ti]-80x[Si]-1.4x(t-8)
(上記関係式2のTnの単位は℃であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Nb]、[Ti]及び[Si]は、該当合金元素の重量%である。)
(上記関係式2のtは、最終圧延板材の厚さ(mm)である)
【0072】
熱間圧延の温度範囲内での圧下量は、20~50%であってよい。
【0073】
圧下量が20%未満であると、再結晶の遅延効果が得られ難く、不均一な粗大粒が形成されやすく、圧下量が50%を超過すると、過度に延伸した微細組織が形成され、炭化物が粒界に沿って形成されると成形時に粒界に沿って亀裂が発生しやすい。また、微細な析出物も減少して、析出強化の効果も減少するようになる。
【0074】
1次冷却及び巻取り
上記熱間圧延された鋼板を450~550℃の温度範囲まで下記関係式3で定義されるCRMin以上の冷却速度で1次冷却した後に巻取ることができる。
【0075】
熱間圧延の直後から冷却終了温度までの温度領域は、冷却中のフェライトの相変態が発生する温度区間に該当し、厚さ中心部の冷却速度が圧延板の厚さ表層部に比べて遅いため、厚さ中心部で粗大なフェライト相と粗大な炭化物が形成され、不均一な微細組織を有するようになる。したがって、これを抑制するために、本発明では特定の冷却速度CRMinより速く冷却する必要がある。但し、上記温度領域での平均冷却速度が80℃/secを超過すると、表層部と深層部との間の冷却速度の差異が過度に大きくなって、表層部と深層部との間の硬度差が大きく増加するため、成形性と耐久性が劣る。
【0076】
本発明の関係式3によって決定される冷却速度は、熱間圧延後の熱延鋼板の冷却速度を意味する。
[関係式3]
CRMin=76.6-157x[C]-25.2x[Si]-14.1x[Mn]-27.3x[Cr]+61x[Ti]+448x[Nb]
(上記関係式3のCRMinの単位は℃/sであり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ti]及び[Nb]は、該当合金元素の重量%である。)
【0077】
冷却終了温度及び巻取り温度が550℃を超過すると、パーライト相がバンド組織で形成されるか、粗大な炭化物が多量形成されて、鋼の成形性及び耐久性が低下し、その温度が450℃未満であると、マルテンサイト相及びMA相が過度に形成されて、成形性及び耐久性が低下する。
【0078】
2次冷却
上記巻取られた鋼板を常温~200℃の温度範囲まで2次冷却することができ、上記2次冷却は、空冷または水冷であってよい。
【0079】
本発明における空冷は、冷却速度が0.001~10℃/hourで常温の大気中に冷却することを意味する。冷却速度が10℃/hourを超過しても上記の巻取り温度及び1次冷却条件を満たすと、鋼中の一部未変態された相がMA相に変態されることを抑制することができるため、水冷をしても構わない。本発明における水冷は、常温の水槽にコイルを装入して冷却することを意味する。但し、冷却速度が0.001℃/hour未満に制御するためには、別途の加熱及び保熱設備などが必要であって経済的に不利であるため、冷却速度の下限は0.001℃/hourであってよい。
【0080】
上記のように製造された本発明の鋼板は、10mm以上の厚さを有する厚板鋼板であり、より好ましくは15mm以上の厚さを有することができ、厚さの上限が25mmの厚板鋼板であってよい。本発明の鋼板は、厚さ断面に垂直な任意の線を基準に、試験片の表層の直下0.5mm地点から裏面表層の直下0.5mm地点まで0.5mm間隔で測定した平均硬度値と最大硬度値との差が20Hv以下であり、より詳細には、平均硬度値は160~300Hvであってよい。また、降伏強度と伸び率の積(YSxT-El)の値が16000MPa・%以上であり、高強度でありながら成形性に優れた特性を備えることができる。
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。
【実施例
【0082】
下記表1に各鋼種の鋼組成と最終熱延板の厚さを示した。下記表2には、表1に示した鋼種について圧延終了温度(FDT)、圧下量(%)の合計、巻取り温度(CT)、熱間圧延後の冷却終了温度である巻取り温度までの冷却速度(CR*)、関係式2で定義されるTn、Tn-50及び関係式3で定義される最小冷却速度(CRMin)の値を示した。表2に開示されていない再加熱温度は1250℃、熱間圧延温度は800~1150℃、巻取り後鋼板の冷却速度は1℃/hourと同様に適用した。
【0083】
【表1】
[関係式1]
R=[C]*+0.7x[Mn]+8.5x[P]+7.5x[S]-0.9x[Si]-1.5x[Nb]
[C]*=[C]-[C]xQ
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
(上記関係式1の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[Si]、[Nb]及び[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
【0084】
【表2】
[関係式2]
Tn=730+92x[C]+70x[Mn]+45x[Cr]+650x[Nb]+410x[Ti]-80x[Si]-1.4x(t-8)
(上記関係式2のTnの単位は℃であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Nb]、[Ti]及び[Si]は、該当合金元素の重量%である。)
(上記関係式2のtは、最終圧延板材の厚さ(mm)である。)
[関係式3]
CRMin=76.6-157x[C]-25.2x[Si]-14.1x[Mn]-27.3x[Cr]+61x[Ti]+448x[Nb]
(上記関係式3のCRMinの単位は℃/sであり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ti]及び[Nb]は、該当合金元素の重量%である。)
【0085】
下記表3及び4は、鋼種の微細組織の特徴及び機械的性質を示した。
【0086】
表3の微細組織は、熱延板の表層の直下0.5mm地点と深層部で分析した結果である。本発明における表層部は、厚さt基準0~t/4の範囲を意味し、深層部はt/4~t/2の範囲(t/4は含まない)を意味する。表3の表層部の微細組織は、表層の直下0.5mm、深層部の微細組織は、厚さ中心部であるt/2で分析した結果である。MA相の面積分率の測定はLeperaエッチング法でエッチングした後、光学顕微鏡及びImage分析器を用い、1000倍率で分析した結果である。Martensite&Austenite相(MA)、Ferrite相(F)、Bainite相(B)及びPearlite相(P)の面積分率は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて3000倍及び5000倍率で分析した結果である。ここで、フェライト(F)は等軸晶形状を有するポリゴナルフェライトであり、ベイナイト(B)はベイナイトと針状フェライト、ベイニティックフェライトなどの低温域で観察されるフェライト相を意味する。また、パーライト(P)の面積分率とは、パーライトと0.5μm以上の炭化物の面積分率の合計を意味する。
【0087】
表4のYS、TS及びT-Elは、0.2%off-set降伏強度、引張強度及び破壊伸び率を意味し、JIS5号規格試験片を圧延方向に平行に試験片を採取して試験した結果である。また、試験片の断面における硬度を測定して併せて示した。硬度測定は、試験片の厚さ断面に垂直な任意の線を基準に、試験片の表層の直下0.5mm地点から裏面表層の直下0.5mm地点まで0.5mm間隔でMicro-vickers試験機で測定し、荷重は500gを適用した。表4には、測定された硬度値のうち厚さ断面における最大硬度値と平均硬度値を示し、2つの硬度値の差を示した。Peak(個数)は、厚さ地点の硬度値と平均硬度値との差が20Hvを超える部分の個数を意味する。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
本発明で提案した合金組成、製造方法及び関係式1~3を満たす発明鋼1~7は、表4に示したように、本発明で目標とする機械的性質を全て確保した。
【0091】
図1は、発明鋼と比較鋼の降伏強度と伸び率の積と厚さ断面の平均硬度値と最大硬度値との差を示したものであり、発明鋼は硬度値の差が20Hv以下であり、YSxT-Elの値が16000MPa・%以上であることが確認できる。
【0092】
図2及び図3は、それぞれ発明鋼と比較鋼の厚さ断面における硬度値の分布を示したものである。比較鋼の場合、厚さ中心部の硬度値が表層部と比較して比較的低く表れ、厚さ位置による差異も大きく表れることが確認できる。
【0093】
比較鋼1~4は、本発明で提案した関係式1を満たさなかった場合であり、比較鋼1は、Cの含有量が本発明の範囲を満たしたが、偏析を考慮した関係式1の提案範囲を超過した場合である。したがって、微細組織中の深層部と表層部にわたって過度のパーライトが形成され、厚さ方向への硬度測定時に局部的に高い硬度差を示した。延性も不足して本発明で提案する範囲から外れた結果を示した。比較鋼2及び3は、本発明で提案したMnの成分範囲から外れると同時に、関係式1を満たしていない場合である。比較鋼2は、Mnの含有量が少なくて圧延板の厚さ方向への偏析や粗大炭化物及び不均一なパーライトは形成されなかったが、降伏強度及び引張強度が不足して、本発明で目的とする性質を有さなかった。比較鋼3は、Mn含有量が過度で、硬化能が高くて表層部ではベイナイトが形成されたのに対し、深層部ではパーライトが過度に形成され、延伸したMnS介在物も観察された。特に、厚さ方向への硬度測定時に、局部的に高い硬度差を示し、延性も不足した。比較鋼4は、Pの含有量において、本発明で提案する範囲から外れると同時に、関係式1を満たしていない場合である。比較鋼4の微細組織は、本発明で提案する範囲を満たし、強度及び伸び率も良好であったが、硬度測定時に一部分で局部的な硬度差を示し、これは部品製造後に使用する際に脆性が発生する可能性が高いという問題がある。
【0094】
比較鋼5は、関係式1を満たしたが、本発明のSi含有量の範囲を満していない場合であり、微細組織中の表層部に粗大なフェライトが形成され、表層部と深層部にMA相も形成されたことを確認した。また表層部でやや低い硬度値を示し、降伏強度と伸び率の積において本発明が目的とする範囲から外れた。これは過度のSi添加により相変態温度が上昇して、熱間圧延中の表層部にフェライトが形成されて2相域圧延され、一部未変態されたフェライトがMA相から形成されたためである。
【0095】
比較鋼6は、本発明の合金成分の範囲を満たしたが、関係式1を満たしていない場合である。この場合、成分の偏析は観察されず、微細組織中のMA相と粗大な炭化物もほとんど形成されず、粒界の周辺に微細なパーライトのみが観察された。したがって、厚さ方向への硬度分布も比較的均一であった。但し、本発明で目標とする強度値を確保することができなかった。
【0096】
比較鋼7及び8は、関係式2と圧下率を満していない場合である。比較鋼7は、関係式2を満たす温度範囲で圧延が終了されたが、圧下率が不足して冷却時に不均一の微細組織が形成された場合である。したがって、微細組織の構成上の分率は本発明を満たしたが、フェライト基地組織中に粗大粒が混在して低い降伏強度を示した。このような微細組織を有する鋼は、部品の使用中に耐久性が劣るおそれがある。比較鋼8は、関係式2及び圧下率条件の全てを満たしていない場合であり、圧下量が大きくて圧延中の再結晶の遅延により表層部には過度に延伸した微細組織が形成されたのに対し、深層部には等軸晶フェライトとパーライトが主に形成され、厚さ位置に応じて不均一な微細組織で構成されており、これは部品の耐久性を低下させる原因となり、また伸び率も低下したことを確認することができる。
【0097】
比較鋼9及び10は、巻取り温度の条件を満たしていない場合である。比較鋼9は、冷却終了温度及び巻取り温度が本発明で提案する温度範囲より高い場合であり、パーライトが局部的に形成され、特に深層部にはパーライトのバンド組織が観察された。これにより、厚さ方向への硬度測定時に局部的に高い硬度差を示した。比較鋼10は、冷却終了温度及び巻取り温度が本発明で提案する範囲より低く製造された場合である。比較鋼10は、表層部の微細組織中のベイナイトが過度に多く形成され、伸び率が不足した。
【0098】
比較鋼11は、冷却速度の関係式3の冷却速度条件を満たしていない場合であり、熱間圧延後の冷却時に冷却速度が本発明の範囲より低い場合であって、厚さ深層部でパーライト及び粗大炭化物が形成されて局部的に高い硬度差を示した。
【0099】
比較鋼12及び13は、圧下量及び冷却終了温度の条件を満たしていない場合である。比較鋼12は、熱間圧延時の再結晶遅延する温度領域で圧下量が不足し、巻取り温度も低くてフェライトの結晶粒径が不均一であり、表層部の微細組織中のベイナイトが過度に形成された。また、厚さ深層部には局部的にパーライトも観察され、これにより伸び率が低かった。比較鋼13は、再結晶遅延される温度領域で圧下量が不足し、巻取り温度は高く、冷却速度は関係式3を満たしていない場合である。これにより、微細組織が不均一であり、パーライトがバンド組織で形成され、降伏強度が低いことを確認した。
【0100】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる他の形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載される特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施形態に限定されない。
図1
図2
図3