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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】半導体光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20241115BHJP
   H01S 5/227 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/227
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023533022
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2021025986
(87)【国際公開番号】W WO2023281741
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】篠原 弘介
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-291416(JP,A)
【文献】特開2005-286032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0057646(US,A1)
【文献】特開2021-034388(JP,A)
【文献】特開平6-97603(JP,A)
【文献】特開2003-264342(JP,A)
【文献】特開平8-111565(JP,A)
【文献】特開昭61-032587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板と、
前記第1導電型の半導体基板上に設けられた第1導電型のクラッド層及び活性層からなるストライプ状のリッジ構造と、
前記リッジ構造の両側面を覆うように埋め込まれた埋め込み構造と、
前記リッジ構造の上部に設けられた第2導電型のリッジ上部クラッド層と、
前記埋め込み構造の表面に設けられた第2導電型のクラッド層及び第2導電型のコンタクト層と、
前記第2導電型のクラッド層及び前記第2導電型のコンタクト層内に設けられ、底面が前記リッジ上部クラッド層の上面、側面が前記第2導電型のクラッド層及び前記第2導電型のコンタクト層からなるストライプ状の凹部と、
前記リッジ構造を含み、前記第2導電型のコンタクト層から前記第1導電型の半導体基板に達するメサによって両側面が形成されたストライプ状のメサ構造と、
前記凹部の底面及び側面、前記第2導電型のコンタクト層の表面並びにメサ構造の両側面を覆う絶縁膜と、
を備える半導体光素子。
【請求項2】
前記第2導電型のコンタクト層上の前記絶縁膜に設けられたストライプ状の絶縁膜開口部と、
前記絶縁膜開口部で前記第2導電型のコンタクト層と接する第2導電側電極と、
をさらに備える請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記絶縁膜開口部は、前記凹部によって分断される前記メサ構造の上面の一方の領域及び他方の領域にそれぞれ設けられることを特徴とする請求項2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記第1導電型の半導体基板の表面に垂直な方向における前記メサ構造の中心軸に対して、前記リッジ構造及び前記凹部の中心軸が予め設定された間隔で離間していることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記凹部の共振器に垂直な方向の断面がU字状を呈することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体光素子。
【請求項6】
共振器方向において両端面から予め設定された領域では、前記第2導電型のリッジ上部クラッド層及び前記凹部が設けられていないことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体光素子。
【請求項7】
第1導電型の半導体基板と、
前記第1導電型の半導体基板上に設けられた第1導電型のクラッド層及び活性層からなるストライプ状のリッジ構造と、
前記リッジ構造の両側面を覆うように埋め込まれた埋め込み構造と、
前記リッジ構造の一方側の前記埋め込み構造の表面に設けられた第2導電型の第1クラッド層及び第2導電型のコンタクト層と、
前記リッジ構造の上部に設けられた第2導電型のリッジ上部クラッド層と、
前記リッジ構造の他方側の前記埋め込み構造の表面に設けられ、前記リッジ上部クラッド層の上面と同一の平面をなす第2導電型の第2クラッド層と、
前記第2導電型の第2クラッド層及び前記第2導電型のリッジ上部クラッド層の上面並びに前記第2導電型の第1クラッド層及び前記第2導電型のコンタクト層の側面からなる段差部と、
前記リッジ構造を含み、一方側が前記第2導電型のコンタクト層から前記第1導電型の半導体基板に達し、他方側が前記段差部から前記第1導電型の半導体基板に達するメサによって両側面が形成されたストライプ状のメサ構造と、
前記段差部、前記第2導電型のコンタクト層及び前記メサ構造の両側面を覆う絶縁膜と、
前記第2導電型のコンタクト層上の前記絶縁膜に設けられたストライプ状の絶縁膜開口部と、
前記絶縁膜開口部で前記第2導電型のコンタクト層と接する第2導電側電極と、
を備える半導体光素子。
【請求項8】
前記第2導電型のリッジ上部クラッド層の層厚が、0.3μm以上0.4μm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体光素子。
【請求項9】
前記埋め込み構造が、少なくとも第2導電型の第1埋め込み層及び第1導電型の第2埋め込み層からなることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体光素子。
【請求項10】
前記埋め込み構造が、第1導電型の第1埋め込み層、第2導電型の第2埋め込み層及び第1導電型の第3埋め込み層からなることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体光素子。
【請求項11】
前記第1導電型がn型であり、前記第2導電型がp型であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体光素子。
【請求項12】
前記第1導電型がp型であり、前記第2導電型がn型であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信システムにおけるデータ通信量は急速に増大しつつある。膨大なデータ通信量を高速に処理するには、光源である半導体レーザーに代表される半導体光素子においても、より一層の高速動作が望まれる。
【0003】
特許文献1には、活性層の両側面を覆う埋め込み領域が形成された光半導体デバイスが開示されている。特許文献1に記載の光半導体デバイスは、活性層及び活性層の上面及び下面に設けられたクラッド層を有するリッジ構造の両側面に、例えば鉄をドーピングしたAlInAs(アルミニウムインジウムヒ素、Aluminum Indium Arsenide)半導体からなる埋め込み領域が設けられたメサ構造を備える。かかる素子構造では、埋め込み領域によって活性層に注入する電流を狭窄できることに加えて、活性層の横方向における光閉じ込めを大きくすることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-286032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光通信用の光源として半導体光素子を高速変調させて使用する際は、半導体光素子の緩和振動周波数を受光側ローパスフィルタのカットオフ周波数よりも高くする必要がある。緩和振動周波数fは一般に下記の式(1)で示される比例関係がある。
【0006】
【数1】
【0007】
式(1)において、Γは光閉じ込め係数、Lは共振器長、Wは活性層幅、dは活性層厚、qは電荷素量、dg/dNは微分利得、ηは内部量子効率、Iopは動作電流、Ithはしきい値電流をそれぞれ表す。式(1)から分かるように、光閉じ込め係数Γが大きくなるほど、緩和振動周波数fは高くなる。
【0008】
特許文献1に記載の光半導体デバイスの素子構造では、リッジ構造の両側面に形成された埋め込み領域により活性層の横方向における光閉じ込めが大きくなることで緩和振動周波数fが高くなるものの、活性層の縦方向における光閉じ込めは充分大きいとは言えない。半導体光素子の活性層内への光閉じ込めが不十分であることに起因して、緩和振動周波数fが受光側ローパスフィルタのカットオフ周波数よりも低くなる場合は、ローパスフィルタで緩和振動をカットしきれないため、伝送特性が悪化してしまうという問題が生じた。
【0009】
本開示は上述の問題点を解決するためになされたもので、活性層への縦方向における光閉じ込めを大きくすることにより、緩和振動周波数をより高めたので、高速変調が可能となる半導体光素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示される半導体光素子は、
第1導電型の半導体基板と、
前記第1導電型の半導体基板上に設けられた第1導電型のクラッド層及び活性層からなるストライプ状のリッジ構造と、
前記リッジ構造の両側面を覆うように埋め込まれた埋め込み構造と、
前記リッジ構造の上部に設けられた第2導電型のリッジ上部クラッド層と、
前記埋め込み構造の表面に設けられた第2導電型のクラッド層及び第2導電型のコンタクト層と、
前記第2導電型のクラッド層及び前記第2導電型のコンタクト層内に設けられ、底面が前記リッジ上部クラッド層の上面、側面が前記第2導電型のクラッド層及び前記第2導電型のコンタクト層からなるストライプ状の凹部と、
前記リッジ構造を含み、前記第2導電型のコンタクト層から前記第1導電型の半導体基板に達するメサによって両側面が形成されたストライプ状のメサ構造と、
前記凹部の底面及び側面、前記第2導電型のコンタクト層の表面並びにメサ構造の両側面を覆う絶縁膜と、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示される半導体光素子によれば、メサ構造に設けた凹部によって、活性層の上部に設けられたリッジ上部クラッド層の層厚を、活性層の上部以外に設けられたクラッド層よりも薄くすることが可能となるので、縦方向における活性層への光閉じ込めが大きくなり、緩和振動周波数が高くなるため、高速変調が可能となる半導体光素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る半導体光素子の概観図である。
図2】実施の形態1に係る半導体光素子における共振器に垂直な方向の断面図である。
図3】実施の形態1に係る半導体光素子における光閉じ込め係数のリッジ上部クラッド層の層厚依存性を示す図である。
図4】実施の形態1の変形例1に係る半導体光素子における共振器に垂直な方向の断面図である。
図5】実施の形態1の変形例2に係る半導体光素子における共振器に垂直な方向の断面図である。
図6】実施の形態1の変形例3に係る半導体光素子における共振器に垂直な方向の断面図である。
図7】実施の形態2に係る半導体光素子における共振器に垂直な方向の断面図である。
図8】実施の形態3に係る半導体光素子における共振器に垂直な方向の断面図である。
図9】実施の形態4に係る半導体光素子の概観図である。
図10】実施の形態4に係る半導体光素子における凹部を含むリッジ構造の共振器方向と平行な方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る半導体光素子100の概観図であり、図2は、半導体光素子100における共振器に垂直な方向の断面図である。
実施の形態1に係る半導体光素子100は、n型InP(インジウムリン、Indium Phosphide)基板5(第1導電型の半導体基板)に順次積層されたn型InPクラッド層11(第1導電型のクラッド層)及び活性層12からなるストライプ状のリッジ構造10と、ストライプ状のリッジ構造10の両側面を埋め込むように形成されたp型InP第1埋め込み層21(第2導電型の第1埋め込み層)及びn型InP第2埋め込み層22(第1導電型の第2埋め込み層)からなる埋め込み構造20と、リッジ構造10の上部に設けられたp型InPリッジ上部クラッド層31(第2導電型のリッジ上部クラッド層)と、埋め込み構造20の上部に設けられたp型InPクラッド層30(第2導電型のクラッド層)及びp型InGaAsP(インジウムガリウムヒ素リン、Indium Gallium Arsenide Phosphide)コンタクト層40(第2導電型のコンタクト層)と、p型InPクラッド層30及びp型InGaAsPコンタクト層40内に設けられ底面がp型InPリッジ上部クラッド層31の上面であり側面がp型InPクラッド層30及びp型InGaAsPコンタクト層40からなるストライプ状の凹部51と、リッジ構造10を含み、p型InGaAsPコンタクト層40からn型InP基板5に達するメサによって両側面が形成されたストライプ状のメサ構造50と、凹部51の底面及び側面、p型InGaAsPコンタクト層40の表面並びにメサ構造50の両側面を覆う絶縁膜60と、p型InGaAsPコンタクト層40上の絶縁膜60に設けられたストライプ状の絶縁膜開口部61と、絶縁膜開口部61でp型InGaAsPコンタクト層40と接するp側電極70(第2導電側電極)と、n型InP基板5の裏面側に設けられたn側電極72(第1導電側電極)と、で構成される。
【0014】
実施の形態1に係る半導体光素子100では、埋め込み構造20により活性層12の横方向、すなわち、n型InP基板5の表面に平行な方向の光閉じ込めが大きくなることに加えて、凹部51の存在により活性層12の縦方向、すなわち、n型InP基板5の表面に垂直な方向の光閉じ込めが大きくなるため、半導体光素子100の緩和振動周波数が高くなるという効果を奏する。
【0015】
実施の形態1に係る半導体光素子100では、さらに、ストライプ状のメサ構造50の上面において、凹部51の横方向に沿って形成された絶縁膜開口部61を介してp型InGaAsPコンタクト層40に接するp側電極70を設ける素子構造としたので、活性層12とp型InGaAsPコンタクト層40との距離を長く設定できるため、活性層12で発したレーザー光がp型InGaAsPコンタクト層40で吸収されることによって生じる損失が抑制されるという効果を奏する。
【0016】
実施の形態1に係る半導体光素子100の製造方法の一例を以下に説明する。
まず、Si(シリコン、Silicon)をドーピングしたキャリア濃度が4.0×1018cm-3であるn型InP基板5の(001)結晶面からなる主面上に、キャリア濃度が4.0×1018cm-3、層厚が0.5μmであるn型InPクラッド層11と、層厚が0.2μmのAlGaInAs(アルミニウムガリウムインジウムヒ素、Aluminum Gallium Indium Arsenide)系あるいはInGaAsP系半導体材料からなる活性層12を、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)あるいは分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)等の結晶成長方法によって順次結晶成長する(第1結晶成長工程)。
【0017】
なお、n型InPクラッド層11の構成材料はInPに限定されるわけではなく、InP系半導体材料であれば良い。
【0018】
上述の素子構造において、活性層12は多重量子井戸構造を含んでも良い。また、活性層12の上面及び下面に、n型InPクラッド層11よりも屈折率を大きく設定したAlGaInAs系あるいはInGaAsP系半導体材料からなる光閉込層を設けても良い。また、以上の説明ではInP系半導体材料の例を挙げたが、GaAs(ガリウムヒ素、Gallium Arsenide)系、あるいは、GaN(窒化ガリウム、Gallium Nitride)系等の半導体材料を用いても良い。
【0019】
上記各層の結晶成長後、活性層12の表面に、SiO(二酸化ケイ素、Silicon dioxide)等の絶縁体材料を成膜する。SiO膜の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法等が挙げられる。SiO膜の成膜後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、所望の幅を有し、共振器方向に延びるストライプ状のSiO膜にパターニングする。ストライプ状のSiO膜は、リッジ構造10を形成するためのエッチングマスクとして機能する。なお、エッチングマスクはSiO膜に限らず、SiN(窒化シリコン、Silicon Nitride)膜でも良い。
【0020】
SiO膜からなるエッチングマスクを用いて、n型InP基板5あるいはn型InPクラッド層11に達する深さまでエッチングして、幅1.2μmのリッジ構造10を形成する(リッジ構造形成工程)。エッチング方法としては、ドライエッチングが好適ではあるが、ウェットエッチングを用いても良い。
【0021】
リッジ構造10の形成後、リッジ構造10の両側面を覆うように、Zn(亜鉛、Zinc)をドーピングしたキャリア濃度が5.0×1017cm-3であるp型InP第1埋め込み層21と、Siをドーピングしたキャリア濃度が6.0×1018cm-3であるn型InP第2埋め込み層22とをMOCVD法等により順次結晶成長して、埋め込み構造20を形成する(第2結晶成長工程)。
【0022】
なお、p型InP第1埋め込み層21の構成材料はInPに限定されるわけではなく、InP系半導体材料であれば良い。n型InP第2埋め込み層22も同様である。
【0023】
埋め込み構造20の各埋め込み層は、Ru(ルテニウム、Ruthenium)、あるいは、Fe(鉄、Ferrum)をドーピングしたInP等の半絶縁性材料を用いても良い。また、埋め込み構造20の構成は上述の2層の構成に限られるものではなく、キャリア濃度あるいは導電性が異なる半導体層、さらにはこれらの複数の半導体層を組み合わせた積層体でも良い。埋め込み構造20の結晶成長後、ドライエッチング等により、ストライプ状のSiO膜を除去する。
【0024】
次に、リッジ構造10の上部及び埋め込み構造20の表面に、Znをドーピングしたキャリア濃度が1.0×1018cm-3、層厚が2.0μmであるp型InPクラッド層30及びZnをドーピングしたキャリア濃度が1.6×1019cm-3、層厚が0.3μmであるp型InGaAsPコンタクト層40を、MOCVD法等により順次結晶成長する(第3結晶成長工程)。
【0025】
なお、p型InPクラッド層30の構成材料はInPに限定されるわけではなく、InP系半導体材料であれば良い。また、p型InGaAsPコンタクト層40の構成材料はInGaAsPに限定されるわけではなく、InGaAsP系半導体材料であれば良い。
【0026】
上述の例では、p型InGaAsPコンタクト層40のキャリア濃度を1.6×1019cm-3としたが、かかる数値に限定されるわけではなく、p型InPクラッド層30よりも高いキャリア濃度であれば良い。
【0027】
次に、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、p型InGaAsPコンタクト層40の表面に、共振器方向に延びるストライプ状のレジストパターンを形成する。かかるレジストパターンからなるエッチングマスクを用いて、n型InP基板5あるいはn型InPクラッド層11に達する深さまでエッチングして、リッジ構造10を内部に含む幅10μmのメサ構造50を形成する(メサ構造形成工程)。エッチング方法としては、ウェットエッチングが好適であるが、ドライエッチングを用いても良い。
【0028】
メサ構造50の形成後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、メサ構造50の上面でリッジ構造10の上部に対応する部位に、共振器方向に延びるストライプ状のレジストパターンを形成する。かかるレジストパターンからなるエッチングマスクを用いて、リッジ構造10の上部に対応した部位をエッチングする。すなわち、エッチングマスクの開口部のp型InGaAsPコンタクト層40の全てとp型InPクラッド層30の一部をエッチングにより除去して、幅1.2μmの凹部51を形成する(凹部形成工程)。
【0029】
凹部51の形成によって生じるp型InPクラッド層30においてリッジ構造10の上部に残った部位が、p型InPリッジ上部クラッド層31として機能する。p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚は、上述のエッチングにより、0.3~0.4μmの範囲内に制御される。
【0030】
凹部51の形成後、凹部51の底面及び側面、p型InGaAsPコンタクト層40の表面並びにメサ構造50の両側面を覆うように、SiO等の絶縁体材料からなり膜厚が0.4μmである絶縁膜60を成膜する。絶縁膜60の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0031】
絶縁膜60の成膜後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、絶縁膜60上に共振器方向に延びるストライプ状のレジストパターンを形成した後、p型InGaAsPコンタクト層40の表面が露出するように絶縁膜60をエッチングして、絶縁膜開口部61を形成する。
【0032】
次に、絶縁膜開口部61を介して、p型InGaAsPコンタクト層40と接するように、p側電極70を真空蒸着法あるいはスパッタリング法のような成膜技術を用いて成膜する。さらに、n型InP基板5の裏面側には、n側電極72を同様な成膜方法によって成膜する(電極形成工程)。
【0033】
n側電極72とp側電極70は、それぞれ、Au(金、Aurum)、Pt(白金、Platinum)、Zn、Ge(ゲルマニウム、Germanium)、Ni(ニッケル、Nikkel)、Ti(チタン、Titanium)等を含む金属単体、あるいはこれらの金属の2種類以上の組み合わせで構成される。
【0034】
半導体光素子100は、レーザー光の光軸方向に劈開により形成された前端面と後端面とを備え、長さ200μmの共振器が形成される。
以上の各工程により、実施の形態1に係る半導体光素子100が製造される。
【0035】
なお、上述の説明では、各半導体層のドーピング濃度、層厚、幅等の数値は典型的な一例を示しており、例示された数値あるいは範囲に限定されるわけではない。
【0036】
図3は、実施の形態1に係る半導体光素子100において、図2の断面図に示される、p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚hを変えた場合の光閉じ込め係数Γの変化について、ビーム伝搬法(Beam Propagation Method:BPM)によりシミュレーションを行った結果を示している。なお、シミュレーションに際しては、活性層12の屈折率は3.42、n型InPクラッド層11、p型InPクラッド層30、p型InPリッジ上部クラッド層31の屈折率はそれぞれ3.21と仮定した。
【0037】
p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚が0.3μm以上の場合は、p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚hが厚いほど光閉じ込め係数Γは小さくなり、層厚hが薄いほど光閉じ込め係数Γは大きくなる。
【0038】
しかしながら、p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚が0.3μm未満の場合は、p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚hが薄くなるほど、光閉じ込め係数Γは急激に小さくなる。
【0039】
以上のシミュレーション結果から、p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚hは0.3~0.4μmの範囲内に設定することが好適である。また、p型InPリッジ上部クラッド層31の層厚hだけでなく、n型InPクラッド層11の層厚あるいは活性層12の上面及び下面に形成した光閉込層の層厚を調整することで、さらに光閉じ込め係数Γを大きくしても良い。
【0040】
以上、実施の形態1に係る半導体光素子によれば、メサ構造に設けた凹部によって、活性層の上部に設けられたリッジ上部クラッド層の層厚を、活性層の上部以外に設けられたクラッド層よりも薄くすることが可能となるので、縦方向における活性層への光閉じ込めが大きくなり、緩和振動周波数が高くなるため、高速変調が可能となる半導体光素子が得られるという効果を奏する。
【0041】
実施の形態1の変形例1.
図4は、実施の形態1の変形例1に係る半導体光素子200における共振器に垂直な方向の断面図である。なお、図4において、n型InP基板5は省略している。実施の形態1に係る半導体光素子100の断面図を示す図2において、凹部51の光軸方向に垂直な方向の断面は、上方に開口を有する矩形状を呈しているが、実施の形態1の変形例1に係る半導体光素子200では、凹部52の底面が曲面を呈している。すなわち、凹部52の光軸方向に垂直な方向における断面は、U字状を呈している。
【0042】
凹部52は、例えば、臭化水素(Hydrogen Bromide:HBr)のようなBr系薬液等をエッチャントとして用いたウェットエッチングにより形成される。
【0043】
実施の形態1の変形例1に係る半導体光素子200では、実施の形態1に係る半導体光素子100と同様、凹部52を設けることにより、縦方向における活性層12への光閉じ込めが大きくなり、緩和振動周波数が高くなるため、高速変調が可能となる半導体光素子が得られるという効果を奏する。
【0044】
実施の形態1の変形例1に係る半導体光素子200では、さらに、n型InP第2埋め込み層22と凹部52の間の間隔が広がるため、半導体光素子200の素子抵抗が低減されるので、動作電流を小さくできるという効果を奏する。
【0045】
実施の形態1の変形例2.
図5は、実施の形態1の変形例2に係る半導体光素子300における共振器に垂直な方向の断面図である。なお、図5において、n型InP基板5は省略している。実施の形態1に係る半導体光素子100の断面図を示す図2において、絶縁膜開口部61は凹部51によって分断されるメサ構造50の上面の一方の領域のみに形成されている。
【0046】
一方、実施の形態1の変形例2に係る半導体光素子300では、メサ構造50の上面のもう一方の領域、つまり、他方の領域にも絶縁膜開口部62を設け、絶縁膜開口部62においてp型InGaAsPコンタクト層40の表面と接するようにp側電極71が形成されている。
【0047】
すなわち、メサ構造50の上面において、凹部51を挟んで対向する位置に絶縁膜開口部61及び絶縁膜開口部62がそれぞれ設けられ、さらに、各開口部において、p型InGaAsPコンタクト層40の表面と接するように、p側電極70及びp側電極71がそれぞれ設けられている。なお、凹部51はBr系薬液等を用いたウェットエッチングによりU字状を呈するように形成しても良い。
【0048】
実施の形態1の変形例2に係る半導体光素子300では、実施の形態1に係る半導体光素子100と同様、凹部51を設けることにより、縦方向における活性層12への光閉じ込めが大きくなり、緩和振動周波数が高くなるため、高速変調が可能となる半導体光素子が得られるという効果を奏する。
【0049】
実施の形態1の変形例2に係る半導体光素子300では、さらに、2つのp側電極70及びp側電極71から活性層12へ均等に電流注入することが可能となるため、半導体光素子の発熱を抑制し、かつ、消費電力を抑える効果を奏する。
【0050】
実施の形態1の変形例3.
図6は、実施の形態1の変形例3に係る半導体光素子400における共振器に垂直な方向の断面図である。なお、図6において、n型InP基板5は省略している。実施の形態1に係る半導体光素子100の断面図を示す図2において、リッジ構造10及び凹部51はメサ構造50の中央に設けられているが、実施の形態1の変形例3に係る半導体光素子400では、リッジ構造10及び凹部51をメサ構造50の中央から共振器方向と垂直な方向へずらした位置に設けている。
【0051】
すなわち、n型InP基板5の表面に垂直な方向におけるメサ構造50の中心軸に対して、メサ構造50内で、リッジ構造10及び凹部51の中心軸が予め設定された間隔で離間している。なお、凹部51はBr系薬液等を用いたウェットエッチングによりU字状に形成しても良い。
【0052】
実施の形態1の変形例3に係る半導体光素子400では、実施の形態1に係る半導体光素子100と同様、凹部51を設けることにより、縦方向における活性層12への光閉じ込めが大きくなり、緩和振動周波数が高くなるため、高速変調が可能となる半導体光素子が得られるという効果を奏する。
【0053】
実施の形態1の変形例3に係る半導体光素子400では、さらに、メサ構造50内で、メサ構造50の中心軸に対してリッジ構造10及び凹部51の中心軸が予め設定された間隔で離間しているので、メサ構造50の上面の一方側の面積が広くなるため、絶縁膜開口部61の開口幅も広くできるので、p型InGaAsPコンタクト層40とp側電極70の接触面積も広くすることが可能となるため、接触抵抗が低減する結果、半導体光素子の素子抵抗が低減され、動作電流を小さくできるという効果を奏する。
【0054】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2に係る半導体光素子500における共振器に垂直な方向の断面図である。
実施の形態2に係る半導体光素子500は、p型InP基板6(第1導電型の半導体基板)に順次積層されたp型InPクラッド層14(第1導電型のクラッド層)及び活性層12からなるストライプ状のリッジ構造13と、ストライプ状のリッジ構造13の両側面を埋め込むように形成されたp型InP第1埋め込み層23a(第1導電型の第1埋め込み層)、n型InP第2埋め込み層21a(第2導電型の第2埋め込み層)及びp型InP第3埋め込み層22a(第1導電型の第3埋め込み層)からなる埋め込み構造24と、リッジ構造13の上部に設けられ層厚が0.3~0.4μmの範囲内であるn型InPリッジ上部クラッド層33(第2導電型のリッジ上部クラッド層)と、埋め込み構造24の上部に設けられたn型InPクラッド層32(第2導電型のクラッド層)及びn型InGaAsPコンタクト層41(第2導電型のコンタクト層)と、n型InPクラッド層32及びn型InGaAsPコンタクト層41内に設けられ底面がn型InPリッジ上部クラッド層33の上面であり側面がn型InPクラッド層32及びn型InGaAsPコンタクト層41からなるストライプ状の凹部51と、リッジ構造13を含みn型InGaAsPコンタクト層41からp型InP基板6に達するメサによって両側面が形成されたストライプ状のメサ構造53と、凹部51の底面及び側面、n型InGaAsPコンタクト層41の表面並びにメサ構造53の両側面を覆う絶縁膜60と、n型InGaAsPコンタクト層41上の絶縁膜60に設けられたストライプ状の絶縁膜開口部61と、絶縁膜開口部61でn型InGaAsPコンタクト層41と接するn側電極72(第2導電側電極)と、p型InP基板6の裏面側に設けられたp側電極70(第1導電側電極)と、で構成される。
【0055】
実施の形態2に係る半導体光素子500では、実施の形態1に係る半導体光素子100と同様、埋め込み構造24により活性層12の横方向、すなわち、p型InP基板6の表面に平行な方向の光閉じ込めが大きくなることに加えて、凹部51の存在により活性層12の縦方向、すなわち、p型InP基板6の表面に垂直な方向の光閉じ込めが大きくなるため、半導体光素子500の緩和振動周波数が高くなるという効果を奏する。
【0056】
実施の形態2に係る半導体光素子500では、さらに、ストライプ状のメサ構造53の上面において凹部51の横方向に沿って形成された絶縁膜開口部61を介してn側電極72を設けることで、活性層12とn型InGaAsPコンタクト層41との距離を長く設定できるため、レーザー光がn型InGaAsPコンタクト層41で吸収されることによって生じる損失が抑制されるという効果を奏する。
【0057】
実施の形態2に係る半導体光素子500の製造方法の一例を以下に説明する。
まず、Znをドーピングしたキャリア濃度が1.2×1018cm-3であるp型InP基板6の(001)結晶面からなる主面上に、キャリア濃度が1.2×1018cm-3、層厚が1.8μmであるp型InPクラッド層14と、層厚が0.2μmであるAlGaInAs系あるいはInGaAsP系半導体材料からなる活性層12を、MOCVD法あるいはMBE法等の結晶成長方法によって順次結晶成長する(第1結晶成長工程)。
【0058】
上述の素子構造において、活性層12は多重量子井戸構造を含んでも良い。また、活性層12の上面及び下面に、p型InPクラッド層14よりも屈折率を大きく設定したAlGaInAs系あるいはInGaAsP系半導体材料からなる光閉込層を設けても良い。また、以上の説明ではInP系半導体材料の例を挙げたが、GaAs系あるいはGaN系等の半導体材料を用いても良い。
【0059】
上記各層の結晶成長後、活性層12の表面に、SiO等の絶縁体材料を成膜する。SiO膜の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。SiO膜の成膜後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、所望の幅を有し、共振器方向に延びるストライプ状のSiO膜にパターニングする。ストライプ状のSiO膜は、リッジ構造13を形成するためのエッチングマスクとして機能する。なお、エッチングマスクはSiO膜に限らず、SiN膜でも良い。
【0060】
エッチングマスクを用いて、p型InP基板6あるいはp型InPクラッド層14に達する深さまでエッチングして、幅1.2μmのリッジ構造13を形成する(リッジ構造形成工程)。エッチング方法としては、ドライエッチングが好適ではあるが、ウェットエッチングを用いても良い。
【0061】
リッジ構造13の形成後、リッジ構造13の両側面を覆うように、Znをドーピングしたキャリア濃度が1.0×1017cm-3であるp型InP第1埋め込み層23aと、Siをドーピングしたキャリア濃度が7.0×1018cm-3であるn型InP第2埋め込み層21aと、Znをドーピングしたキャリア濃度が2.0×1018cm-3であるp型InP第3埋め込み層22aとをMOCVD法等により順次結晶成長して、埋め込み構造24を形成する(第2結晶成長工程)。
【0062】
なお、p型InP第1埋め込み層23aの構成材料はInPに限定されるわけではなく、InP系半導体材料であれば良い。n型InP第2埋め込み層21aとp型InP第3埋め込み層22aも同様である。
【0063】
埋め込み構造24の各埋め込み層は、RuあるいはFeをドーピングしたInP等の半絶縁性材料を用いても良い。また、埋め込み構造24の構成は、上述の3層の構成に限られるものではなく、キャリア濃度あるいは導電性が異なる半導体層、さらには、これらの複数の半導体層を組み合わせた積層体でも良い。埋め込み構造24の結晶成長後、ドライエッチング等によりストライプ状のSiO膜を除去する。
【0064】
次に、リッジ構造13の上面及び埋め込み構造24の表面に、Siをドーピングしたキャリア濃度が9.0×1017cm-3、層厚が2.0μmであるn型InPクラッド層32、Siをドーピングしたキャリア濃度が6.6×1018cm-3、層厚が0.5μmであるn型InGaAsPコンタクト層41を、MOCVD法等により順次結晶成長する(第3結晶成長工程)。
【0065】
なお、n型InPクラッド層32の構成材料はInPに限定されるわけではなく、InP系半導体材料であれば良い。また、n型InGaAsPコンタクト層41の構成材料はInGaAsPに限定されるわけではなく、InGaAsP系半導体材料であれば良い。
【0066】
上述の例では、n型InGaAsPコンタクト層41のキャリア濃度を6.6×1018cm-3としたが、かかる数値に限定されるわけではなく、n型InPクラッド層32よりも高いキャリア濃度であれば良い。
【0067】
次に、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、n型InGaAsPコンタクト層41の表面に、共振器方向に延びるストライプ状のレジストパターンを形成する。かかるレジストパターンからなるエッチングマスクを用いて、p型InP基板6あるいはp型InPクラッド層14に達する深さまでエッチングして、リッジ構造13を内部に含む幅10μmのメサ構造53を形成する(メサ構造形成工程)。エッチング方法としては、ウェットエッチングが好適であるが、ドライエッチングを用いても良い。
【0068】
メサ構造53の形成後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、メサ構造53の上面でリッジ構造13の上部に対応する部位に、共振器方向に延びるストライプ状のレジストパターンを形成する。かかるレジストパターンからなるエッチングマスクを用いて、リッジ構造13の上部に対応した部位をエッチングする。すなわち、エッチングマスクの開口部のn型InGaAsPコンタクト層41の全てとn型InPクラッド層32の一部をエッチングにより除去して、幅1.2μmの凹部51を形成する(凹部形成工程)。
【0069】
凹部51の形成によって生じるn型InPクラッド層32においてリッジ構造13の上面に残った部位が、n型InPリッジ上部クラッド層33として機能する。n型InPリッジ上部クラッド層33の層厚は、上述のエッチングにより、0.3~0.4μmの範囲内に制御される。
【0070】
凹部51の形成後、凹部51の底部及び側面、n型InGaAsPコンタクト層41の表面並びにメサ構造53の両側面を覆うように、SiO等の絶縁体材料からなり膜厚が0.4μmである絶縁膜60を成膜する。絶縁膜60の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0071】
絶縁膜60の成膜後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、共振器方向に延びるストライプ状のレジストパターンを形成した後、n型InGaAsPコンタクト層41の表面が露出するように絶縁膜60をエッチングして、絶縁膜開口部61を形成する。
【0072】
次に、絶縁膜開口部61を介して、n型InGaAsPコンタクト層41と接するように、n側電極72を真空蒸着法あるいはスパッタリング法のような成膜技術を用いて成膜する。さらに、p型InP基板6の裏面側には、p側電極70を同様な成膜方法によって成膜する(電極形成工程)。
【0073】
n側電極72とp側電極70は、それぞれ、Au、Pt、Zn、Ge、Ni、Ti等を含む金属単体、あるいはこれらの金属の2種類以上の組み合わせで構成される。
【0074】
半導体光素子500は、レーザー光の光軸方向に劈開により形成された前端面と後端面とを備え、長さ200μmの共振器が形成される。
以上の各工程により、実施の形態2に係る半導体光素子500が製造される。
【0075】
なお、上述の説明では、各半導体層のドーピング濃度、層厚、幅等の数値は典型的な一例を示しており、例示された数値あるいは範囲に限定されるわけではない。
【0076】
実施の形態2の変形例として、凹部51を、Br系薬液等を用いたウェットエッチングによりU字状に形成しても良い。かかる変形例においても、凹部51により活性層12の縦方向における光閉じ込めが大きくなることによる効果を得ることができる。また、p型InP第3埋め込み層22aと凹部51との間の距離が広がるため、素子抵抗が低減するので、動作電流を小さくできる効果を奏する。
【0077】
実施の形態2に係る半導体光素子500では、絶縁膜開口部61は凹部51の横方向のメサ構造53の上面の一方側にのみに形成されているが、もう一方のメサ構造53の上面にも絶縁膜開口部を設け、2つ目のn側電極を形成しても良い。この場合、活性層12から2つのn側電極へ均等に電流を流すことができるようになるため、半導体光素子の発熱を抑制し消費電力を抑えるという効果を奏する。
【0078】
また、実施の形態2の他の変形例として、リッジ構造13及び凹部51をメサ構造53の中央から共振器方向と垂直な方向へずらした位置に設けてもよい。かかる変形例においても、凹部51により活性層12の縦方向における光閉じ込めが大きくなることによる効果を奏する。
【0079】
以上、実施の形態2に係る半導体光素子では、実施の形態1に係る半導体光素子とは反対の導電型の半導体基板及び層構成を採用しても、メサ構造に設けた凹部によって、活性層の上部に設けられたリッジ上部クラッド層の層厚を、活性層の上部以外に設けられたクラッド層よりも薄くすることが可能となるので、縦方向における活性層への光閉じ込めが大きくなり、緩和振動周波数が高くなるため、高速変調が可能となる半導体光素子が得られるという効果を奏する。
【0080】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3に係る半導体光素子600における共振器に垂直な方向の断面図である。なお、図8において、n型InP基板5は省略している。
実施の形態3に係る半導体光素子600は、n型InP基板5(第1導電型の半導体基板)に順次積層されたn型InPクラッド層11(第1導電型のクラッド層)及び活性層12からなるストライプ状のリッジ構造10と、ストライプ状のリッジ構造10の両側面を埋め込むように形成されたp型InP第1埋め込み層21(第2導電型の第1埋め込み層)及びn型InP第2埋め込み層22(第1導電型の第2埋め込み層)からなる埋め込み構造20と、リッジ構造10の上部に設けられ層厚が0.3~0.4μmの範囲内であるp型InPリッジ上部クラッド層31(第2導電型のリッジ上部クラッド層)と、リッジ構造10の一方側の埋め込み構造20の表面に設けられたp型InP第1クラッド層30a(第2導電型の第1クラッド層)及びp型InGaAsPコンタクト層40(第2導電型のコンタクト層)と、リッジ構造10の他方側の埋め込み構造20の表面に設けられp型InPリッジ上部クラッド層31と同一の平面をなすp型InP第2クラッド層30b(第2導電型の第2クラッド層)と、p型InP第2クラッド層30b及びp型InPリッジ上部クラッド層31の上面並びにp型InP第1クラッド層30a及びp型InGaAsPコンタクト層40の側面からなる段差部54と、リッジ構造10を含み、一方側がp型InGaAsPコンタクト層40からn型InP基板5に達し、他方側が段差部54からn型InP基板5に達するメサによって両側面が形成されたストライプ状のメサ構造50と、段差部54、p型InGaAsPコンタクト層40及びメサ構造50の両側面を覆う絶縁膜60と、p型InGaAsPコンタクト層40上の絶縁膜60に設けられたストライプ状の絶縁膜開口部61と、絶縁膜開口部61でp型InGaAsPコンタクト層40と接するp側電極70(第2導電側電極)と、n型InP基板5の裏面側に設けられたn側電極72(第1導電側電極)と、で構成される。
【0081】
実施の形態3に係る半導体光素子600では、埋め込み構造20により活性層12の横方向における光閉じ込めが大きくなることに加えて、段差部54により活性層12の縦方向における光閉じ込めが大きくなるため、半導体光素子600の緩和振動周波数が高くなるという効果を奏する。
【0082】
実施の形態3に係る半導体光素子600では、さらに、ストライプ状のメサ構造50において、段差部54とは反対側の上面に形成された絶縁膜開口部61を介してp型InGaAsPコンタクト層40と接するp側電極70を設ける素子構造としたので、活性層12とp型InGaAsPコンタクト層40との距離を長く設定できるため、活性層12で発したレーザー光がp型InGaAsPコンタクト層40で吸収されることによって生じる損失が抑制されるという効果を奏する。
【0083】
実施の形態3に係る半導体光素子600の段差部54は、例えば以下のように作製できる。まず、メサ構造50の上面をSiO等の絶縁体材料を用いて共振器方向に延びるストライプ状のエッチングマスクを形成する。エッチングマスクを用いて、メサ構造50の一方の側面からリッジ構造10の上部までのp型InP第1クラッド層30a及びp型InGaAsPコンタクト層40をエッチングして除去することにより、層厚が0.3~0.4μmの範囲内であるp型InPリッジ上部クラッド層31及び段差部54を形成する。この際、p型InPリッジ上部クラッド層31と同一の平面をなすp型InP第2クラッド層30bも同時に形成される。半導体光素子600のその他の構成は実施の形態1に係る半導体光素子100と同様であるので、上述した実施の形態1に係る半導体光素子100と同様の製造方法で作製できる。
【0084】
以上、実施の形態3に係る半導体光素子では、メサ構造に設けた段差部によって、活性層の上部に設けられたリッジ上部クラッド層の層厚を、活性層の上部以外に設けられたクラッド層よりも薄くすることが可能となるので、縦方向における活性層への光閉じ込めが大きくなるという効果に加えて、活性層とp型InGaAsPコンタクト層との距離を長く設定できるため、活性層で発したレーザー光がp型InGaAsPコンタクト層で吸収されることによって生じる損失が抑制されるという効果も奏する。
【0085】
実施の形態4.
図9は実施の形態4に係る半導体光素子700の概観図であり、図10は、図9における半導体光素子700のA-A部分の断面図、すなわち、凹部55を含むリッジ構造10における共振器方向と平行な方向の断面図である。なお、図9及び図10において、n型InP基板5は省略している。
【0086】
実施の形態4に係る半導体光素子700は、n型InP基板5(第1導電型の半導体基板)に順次積層されたn型InPクラッド層11(第1導電型のクラッド層)及び活性層12からなるストライプ状のリッジ構造10と、ストライプ状のリッジ構造10の両側面を埋め込むように形成されたp型InP第1埋め込み層21(第2導電型の第1埋め込み層)及びn型InP第2埋め込み層22(第1導電型の第2埋め込み層)からなる埋め込み構造20と、リッジ構造10の上部に設けられ層厚が0.3~0.4μmの範囲内であり共振器方向の両端部を除く領域に形成されたp型InPリッジ上部クラッド層31(第2導電型のリッジ上部クラッド層)と、埋め込み構造20の表面に設けられたp型InPクラッド層30(第2導電型のクラッド層)及びp型InGaAsPコンタクト層40(第2導電型のコンタクト層)と、p型InPクラッド層30及びp型InGaAsPコンタクト層40内に設けられ底面がp型InPリッジ上部クラッド層31の上面であり側面がp型InPクラッド層30及びp型InGaAsPコンタクト層40からなり、p型InPリッジ上部クラッド層31の形状と対応するように共振器方向の両端部を除く領域に形成されたストライプ状の凹部55と、リッジ構造10を含み、p型InGaAsPコンタクト層40からn型InP基板5に達するメサによって両側面が形成されたストライプ状のメサ構造50と、凹部55の底面及び側面、p型InGaAsPコンタクト層40の表面並びにメサ構造50の両側面を覆う絶縁膜60と、p型InGaAsPコンタクト層40上の絶縁膜60に設けられたストライプ状の絶縁膜開口部61と、絶縁膜開口部61でp型InGaAsPコンタクト層40と接するp側電極70(第2導電側電極)と、n型InP基板5の裏面側に設けられたn側電極72(第1導電側電極)と、で構成される。
【0087】
実施の形態4に係る半導体光素子700では、埋め込み構造20により活性層12の横方向における光閉じ込めが大きくなることに加えて、凹部55の存在により活性層12の縦方向における光閉じ込めが大きくなるため、半導体光素子700の緩和振動周波数が高くなるという効果を奏する。
【0088】
また、実施の形態4に係る半導体光素子700では、ストライプ状のメサ構造50の上面において、凹部55の横方向に沿って形成された絶縁膜開口部61を介してp側電極70を設ける素子構造としたので、活性層12とp型InGaAsPコンタクト層40との距離を長く設定できるため、活性層12で発したレーザー光がp型InGaAsPコンタクト層40で吸収されることによって生じる損失が抑制されるという効果を奏する。
【0089】
実施の形態4に係る半導体光素子700では、さらに、凹部55は半導体光素子700の共振器方向の両端部を除く領域に形成されている。すなわち、共振器方向において両端面から予め設定された領域では、p型InPリッジ上部クラッド層31及び凹部55が設けられていない。
【0090】
かかる素子構造の採用により、半導体光素子700の両端面の近傍の領域における活性層12の光閉じ込めは、凹部55が設けられている領域の光閉じ込めと比べて相対的に小さくなるので、半導体光素子において光閉じ込めを大きく設定した際に発生する光密度の増大による端面損傷の発生が抑制される結果、高出力動作が可能であり、かつ、高信頼性の半導体光素子が得られるという効果を奏する。
【0091】
実施の形態4に係る半導体光素子700の凹部55は、例えば以下のように作製できる。
まず、メサ構造50の上面に、SiO等の絶縁体材料を用いてエッチングマスクを形成する。次に、リッジ構造10の上部に、共振器方向の両端部を除く領域をエッチングできるようにレジストをパターニングする。レジストマスクの形成後、p型InPクラッド層30及びp型InGaAsPコンタクト層40をエッチングすることにより、層厚が0.3~0.4μmであるp型InPリッジ上部クラッド層31及び凹部55を形成する。
【0092】
凹部55の形成に際しては、図10の共振器方向に沿った断面図に示すように、半導体光素子700の前端面と凹部55との距離a及び後端面と凹部55との距離bを、劈開時の位置ずれを考慮して10μm程度とするのが望ましい。しかしながら、距離a及び距離bはかかる数値に限定されるわけではない。半導体光素子700のその他の構成は実施の形態1に係る半導体光素子100と同様であるので、上述した実施の形態1に係る半導体光素子100と同様の製造方法で作製できる。
【0093】
以上、実施の形態4に係る半導体光素子では、メサ構造に設けた凹部によって、活性層の上部に設けられたリッジ上部クラッド層の層厚を、活性層の上部以外に設けられたクラッド層よりも薄くすることが可能となるので、縦方向における活性層への光閉じ込めが大きくなり、緩和振動周波数が高くなるという効果に加えて、半導体光素子の両端面の近傍の領域における活性層の光閉じ込めを、凹部が設けられている領域の光閉じ込めと比べて相対的に小さくしたので、光密度の増大による端面損傷の発生が抑制される結果、高出力動作が可能であり、かつ、高信頼性の半導体光素子が得られるという効果も奏する。
【0094】
本開示は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0095】
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0096】
5 n型InP基板(第1導電型の半導体基板)、6 p型InP基板(第1導電型の半導体基板)、10、13 リッジ構造、11 n型InPクラッド層(第1導電型のクラッド層)、12 活性層、14 p型InPクラッド層(第1導電型のクラッド層)、20、24 埋め込み構造、21 p型InP第1埋め込み層(第2導電型の第1埋め込み層)、21a n型InP第2埋め込み層(第2導電型の第2埋め込み層)、22 n型InP第2埋め込み層(第1導電型の第2埋め込み層)、22a p型InP第3埋め込み層(第1導電型の第3埋め込み層)、23a p型InP第1埋め込み層(第1導電型の第1埋め込み層)、30 p型InPクラッド層(第2導電型のクラッド層)、30a p型InP第1クラッド層(第2導電型の第1クラッド層)、30b p型InP第2クラッド層(第2導電型の第2クラッド層)、31 p型InPリッジ上部クラッド層(第2導電型のリッジ上部クラッド層)、32 n型InPクラッド層(第2導電型のクラッド層)、33 n型InPリッジ上部クラッド層(第2導電型のリッジ上部クラッド層)、40 p型InGaAsPコンタクト層(第2導電型のコンタクト層)、41 n型InGaAsPコンタクト層(第2導電型のコンタクト層)、50、53 メサ構造、51、52、55 凹部、54 段差部、60 絶縁膜、61、62 絶縁膜開口部、70、71 p側電極(第2導電側電極)、72 n側電極(第1導電側電極)、100、200、300、400、500、600、700 半導体光素子
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図10