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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】潤滑状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20241115BHJP
   G01N 29/02 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N29/14
G01N29/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024502329
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007576
(87)【国際公開番号】W WO2023162083
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【弁理士】
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203677
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 力
(72)【発明者】
【氏名】荒木 宏
(72)【発明者】
【氏名】辻田 亘
(72)【発明者】
【氏名】保手浜 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山田 博之
(72)【発明者】
【氏名】長房 智之
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-194420(JP,A)
【文献】特開2010-181237(JP,A)
【文献】特開平4-203521(JP,A)
【文献】国際公開第2011/108391(WO,A1)
【文献】特開2019-127909(JP,A)
【文献】特開2004-347401(JP,A)
【文献】特開2014-126459(JP,A)
【文献】特開2012-78288(JP,A)
【文献】米国特許第4528852(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - G01H 7/00
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸を支持する軸受と、互いに向き合う前記回転軸の第1の面と前記軸受の第2の面との間に存在する潤滑油とを有する機器において、前記潤滑油の状態を判定する潤滑状態判定装置であって、
超音波又は音波である音響出力波を送信する送信部と、受信した前記音響出力波の反射波である音響入力波に応じた振幅の信号である第1の信号及び前記回転軸と前記軸受との接触に起因するアコースティックエミッション波の周波数帯の信号である第2の信号を受信する受信部と、を有するセンサと、
前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて前記潤滑油の状態を判定する制御部と
を備える、
ことを特徴とする潤滑状態判定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の信号の振幅が予め定められた第1の閾値より小さい場合に、前記第2の信号に基づいて前記機器における前記回転軸の回転動作を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の信号の振幅が予め定められた第2の閾値以上であるか否かを判定し、
前記判定の結果に基づいて前記機器における前記回転軸の回転動作を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2の信号の振幅が前記第2の閾値以上である場合に、前記機器における前記回転軸の回転速度を低下させる又は回転を停止させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1の信号の振幅が予め定められた第1の閾値より小さいか否かを判定する第1の判定と、前記第2の信号の振幅が予め定められた第2の閾値以上であるか否かを判定する第2の判定とを並列に行い、
前記第1の判定の結果及び前記第2の判定の結果に基づいて前記機器における前記回転軸の回転動作を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の信号の振幅が前記第1の閾値より小さく且つ前記第2の信号の振幅が前記第2の閾値以上である場合に、前記機器における前記回転軸の回転速度を低下させる又は回転を停止させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1の信号の振幅のピーク値の追跡結果に基づいて前記潤滑油の油膜の厚さを検出する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項8】
前記センサは、前記軸受に備えられている、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項9】
前記センサは、前記回転軸に備えられている、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の潤滑状態判定装置。
【請求項10】
前記センサは、前記回転軸の内部に備えられている、
ことを特徴とする請求項9に記載の潤滑状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転軸と軸受との間に存在する潤滑油の状態を判定する潤滑状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料から形成された部材同士が摺動する部分に存在する潤滑油の状態を判定する装置が知られている。例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照。
【0003】
特許文献1の装置は、エンジンのピストンとシリンダとの間に存在する潤滑油の状態を判定する。特許文献1の装置は、ピストンとシリンダとが潤滑油を介さずに接触したときに発生するアコースティックエミッション波を検出する圧電素子を有する。
【0004】
非特許文献1の装置は、超音波を用いて、回転軸と焼結軸受との間に存在する潤滑油の状態を判定する。非特許文献1の装置は、焼結軸受の外周面で反射した超音波の反射波と、回転軸の外周面で反射した超音波の反射波との干渉波を計測することによって、潤滑油の油膜厚を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭63-101847号公報
【0006】
【文献】「超音波法による多孔質焼結含油軸受の油膜厚さ測定(温度補正法による測定精度の向上検討)」、設計工学、Vol.52、No.12、2017、pp.737-752
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、回転軸と軸受との間に存在する潤滑油の状態は、潤滑油の濃度及び回転軸における表面処理の方法などによって異なるため、特許文献1の装置及び非特許文献1の装置では、潤滑油の状態を正確に判定することが困難であった。
【0008】
本開示は、回転軸と軸受との間に存在する潤滑油の状態の判定精度を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る潤滑状態判定装置は、回転軸と、前記回転軸を支持する軸受と、互いに向き合う前記回転軸の第1の面と前記軸受の第2の面との間に存在する潤滑油とを有する機器において、前記潤滑油の状態を判定する潤滑状態判定装置であって、超音波又は音波である音響出力波を送信する送信部と、受信した前記音響出力波の反射波である音響入力波に応じた振幅の信号である第1の信号及び前記回転軸と前記軸受との接触に起因するアコースティックエミッション波の周波数帯の信号である第2の信号を受信する受信部と、を有するセンサと、前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて前記潤滑油の状態を判定する制御部とを備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、回転軸と軸受との間に存在する潤滑油の状態の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る潤滑状態判定装置の構成及び潤滑状態判定装置の判定対象の機器の構成を概略的に示す構成図である。
図2】実施の形態1に係る潤滑状態判定装置の構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態1に係る潤滑状態判定装置の構成の他の例を示すブロック図である。
図4】(A)は、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置の制御装置のハードウェア構成の一例を概略的に示す図である。(B)は、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置の制御装置のハードウェア構成の他の例を概略的に示す図である。
図5図1及び2に示されるセンサから送信された超音波の反射波による油膜厚の測定原理を説明する説明図である。
図6図1に示される回転軸と軸受との間の距離と超音波の強度と潤滑油の膜厚との関係を示す図である。
図7図1に示されるセンサから出力されたエコー信号の正常時の基準波形及び異常時の第1の波形を示す図である。
図8図1に示されるセンサから出力されたエコー信号の正常時の基準波形及び異常時の第2の波形を示す図である。
図9図1に示されるセンサから出力されたエコー信号の正常時の基準波形及び異常時の第3の波形を示す図である。
図10図1に示されるセンサから出力されたAE信号の周波数スペクトルを示す図である。
図11】実施の形態1に係る潤滑状態判定装置の制御装置の処理内容の一例を示すフローチャートである。
図12】実施の形態2に係る潤滑状態判定装置の構成及び潤滑状態判定装置の判定対象の機器の構成を概略的に示す構成図である。
図13】実施の形態3に係る潤滑状態判定装置の構成を示すブロック図である。
図14】実施の形態3に係る潤滑状態判定装置の制御装置の処理内容の一例を示すフローチャートである。
図15】(A)は、実施の形態3に係る潤滑状態判定装置のセンサから出力されたエコー信号を高速フーリエ変換処理したときの周波数スペクトルを示す図である。(B)は、図15(A)に示される周波数スペクトルのピーク値の追跡結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の実施の形態に係る潤滑状態判定装置を、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態は、例にすぎず、実施の形態を適宜組み合わせること及び各実施の形態を適宜変更することが可能である。
【0013】
《実施の形態1》
〈潤滑状態判定装置100の構成〉
図1は、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置100の構成及び潤滑状態判定装置100の判定対象の機器5の構成を概略的に示す構成図である。潤滑状態判定装置100は、回転軸1と軸受2と潤滑油3とを有する機器5において、回転軸1と軸受2との間に存在する潤滑油3の状態(以下、「潤滑状態」とも呼ぶ。)を判定する。潤滑状態判定装置100は、例えば、回転軸1が軸線Axを中心に回転しているときの潤滑油3の状態を判定する。なお、潤滑状態判定装置100は、回転軸1が回転していないときの潤滑油3の状態を判定することもできる。
【0014】
図1に示される機器5は、例えば、冷凍サイクル装置(例えば、空気調和装置)に備えられた圧縮機などの回転機械である。軸受2は、例えば、円筒状の滑り軸受(すなわち、ジャーナル軸受)である。潤滑油3は、第1の面としての回転軸1の外周面1aと第2の面としての軸受2の内周面2bとの間に存在している。回転軸1の外周面1aは、回転軸1と潤滑油3との境界面であり、軸受2の内周面2bは、軸受2と潤滑油3との境界面である。なお、軸受2は、滑り軸受に限らず、転がり軸受であってもよく、潤滑状態判定装置100は、回転軸1と当該転がり軸受との間の潤滑油3の状態を判定してもよい。
【0015】
図2は、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置100の構成を示すブロック図である。図1及び2に示されるように、潤滑状態判定装置100は、センサ10と、制御部としての制御装置20とを有する。
【0016】
センサ10は、例えば、超音波センサである。実施の形態1では、センサ10は、軸受2に備えられている。図1に示す例では、センサ10の一部が、軸受2の内部に固定されている。なお、後述する図12に示されるように、センサ10は、回転軸201に備えられていてもよい。
【0017】
図2に示されるように、センサ10は、送信部11と、受信部12とを有する。送信部11及び受信部12はそれぞれ、圧電素子(例えば、セラミック振動子)を有する。送信部11は、後述するパルサーレシーバ31から送信された駆動信号(電圧信号)によって発生した超音波を潤滑油3に向けて送信する。受信部12は、送信部11から送信された超音波の反射波の干渉波を受信する。受信部12は、当該干渉波に応じた振幅の信号をパルサーレシーバ31に出力する。なお、干渉波については、後述する図5を用いて説明する。
【0018】
図3は、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置100の構成の他の例を示すブロック図である。図3に示されるように、センサ10は、図2に示される送信部11及び受信部12が一体化された送受信部13を有していてもよい。送受信部13は、パルサーレシーバ31から送信された駆動信号によって発生した超音波を潤滑油3に向けて送信し、当該超音波の反射波の干渉波を受信する。
【0019】
制御装置20は、信号処理部30と、回転軸制御部40とを有する。
【0020】
信号処理部30は、パルサーレシーバ31と、信号波形処理部32とを有する。パルサーレシーバ31は、送信部11を駆動させる駆動信号を送信し、且つ受信部12から出力された信号を受信する。信号波形処理部32は、パルサーレシーバ31から出力された信号に基づいて潤滑油3(図1参照)の状態を判定する。
【0021】
回転軸制御部40は、信号波形処理部32における判定結果に基づいて、機器5における回転軸1(図1参照)の回転動作を制御する。具体的には、信号波形処理部32が回転軸1と軸受2との間の潤滑状態が正常であると判定した場合には、回転軸制御部40は、回転軸1の回転を継続させる。一方、信号波形処理部32が回転軸1と軸受2との間の潤滑状態が不良であると判定した場合には、回転軸制御部40は、回転軸1の回転速度を低下又は回転軸1の回転を停止させる。なお、潤滑状態が不良であると判定された場合に、回転軸制御部40は、回転軸1における回転負荷の調整を行ってもよい。
【0022】
図4(A)は、潤滑状態判定装置100の制御装置20のハードウェア構成の一例を概略的に示す図である。図4(A)に示されるように、潤滑状態判定装置100の制御装置20は、例えば、ソフトウェアとしてのプログラムを格納する記憶装置としてのメモリ20aと、メモリ20aに格納されたプログラムを実現する情報処理部としてのプロセッサ20bとを用いて(例えば、コンピュータによって)実現することができる。なお、制御装置20の一部が、図4(A)に示されるメモリ20aと、プログラムを実行するプロセッサ20bとによって実現されてもよい。また、制御装置20は、電気回路によって実現されてもよい。
【0023】
図4(B)は、潤滑状態判定装置100の制御装置20のハードウェア構成の他の例を概略的に示す図である。図4(B)に示されるように、制御装置20は、単一回路又は複合回路等の専用のハードウェアとしての処理回路20cを用いて実現されていてもよい。この場合、制御装置20の機能は、処理回路20cで実現される。
【0024】
〈油膜の厚さの測定〉
次に、図5を用いて、超音波を用いた潤滑油3の油膜の厚さ(以下、「油膜厚L」と呼ぶ。)の測定について説明する。図5は、図1及び2に示されるセンサ10から送信された超音波U1の反射波による油膜厚Lの測定原理を説明する説明図である。
【0025】
図5に示されるように、センサ10から送信された超音波U1は、軸受2の内部を透過して、軸受2の内周面2bで内部反射する。また、超音波U1は、軸受2及び潤滑油3を透過して、回転軸1の外周面1aで反射する。図5において、軸受2の内周面2bで内部反射した超音波U1の反射波をR1、回転軸1の外周面1aで反射した超音波U1の反射波をR2とする。図2に示される受信部12(又は、図3に示される送受信部13)は、反射波R1、R2の干渉波を受信する。なお、センサ10は、超音波U1に代えて、例えば、振動数が20kHzよりやや小さい音波を送信してもよい。言い換えれば、図2に示される送信部11は、超音波又は音波である音響出力波を送信し、受信部12は、音響出力波の反射波である音響入力波を受信する。
【0026】
ここで、超音波U1の波長(単位:mm)をλ、軸受2内での音速(単位:m/s)をc、駆動周波数(単位:MHz)をfとしたとき、波長λは、以下の式(1)で示される。
λ=c/f (1)
例えば、音速c=5600m/s、駆動周波数f=2MHzであるとき、波長λは、2.8mmである。なお、「駆動周波数」とは、図2に示される送信部11(又は、図3に示される送受信部13)のセラミック振動子に印加される電圧信号の周波数である。
【0027】
軸受2の強度を十分に確保するために、軸受2の材質が、例えば、鉄であるとき、図5において、軸受2と潤滑油3との境界面である軸受2の内周面2bからセンサ10までの距離(以下、「離隔距離」とも呼ぶ。)は、超音波U1の1波長以上の距離である。具体的には、離隔距離は、2.8mm以上である。なお、離隔距離は、機器5の負荷及び軸受2の形状などに応じて、適宜変更してもよい。
【0028】
パルサーレシーバ31(図2参照)は、受信部12から出力された反射波R1、R2の干渉波に応じた振幅の信号である第1の信号(以下、「エコー信号」とも呼ぶ。)を、信号波形処理部32に出力する。信号波形処理部32(図2参照)は、エコー信号に基づいて干渉波の大きさ(強度)を検出し、当該干渉波の大きさに基づいて油膜厚Lを測定する。
【0029】
次に、図6を用いて、油膜厚Lと干渉波の大きさとの関係について説明する。図6は、油膜厚Lと干渉波の大きさとの関係を示すグラフである。図6において、縦軸は、干渉波の波形成分中のピーク値である振幅ピークを示し、横軸は、油膜厚L(単位:μm)を示す。図6において、破線で示されるグラフは、油膜厚Lとエコー信号の振幅ピークとの理想的な関係を示す。また、図6に示される複数のプロットはそれぞれ、実際の測定値を示す。
【0030】
図6に示されるように、エコー信号の振幅ピークは、油膜厚Lに比例して大きくなる。言い換えれば、油膜厚Lが厚ければ振幅ピークは大きく、油膜厚Lが薄ければ振幅ピークは小さい。これにより、信号波形処理部32は、エコー信号の振幅ピークに基づいて、回転軸1と軸受2との間に存在する潤滑油3の状態を判定することができる。
【0031】
〈温度上昇によるエコー信号の変化〉
次に、図7から9を用いて、軸受2及び潤滑油3の温度上昇によるエコー信号の変化について説明する。図7は、図1に示されるセンサ10から出力された正常時のエコー信号の波形を示す基準波形W0と、エコー信号の異常時の第1の波形(以下、「第1の異常波形」と呼ぶ。)W1とを示すグラフである。図7において、基準波形W0は破線のグラフによって表されていて、第1の異常波形W1は実線のグラフによって表されている。また、図7、後述する図8及び9において、横軸は、時間(単位:μs)を示し、縦軸は、エコー信号の振幅を示す。
【0032】
基準波形W0は、回転軸1と軸受2との間の油膜厚Lが正常であって、且つ軸受2(又は潤滑油3)の温度が30℃であるときに検出されたエコー信号の波形である。ここで、「油膜厚Lが正常」とは、例えば、油膜厚Lが予め定められた設定値より厚いことをいう。また、第1の異常波形W1は、油膜厚Lが不良であって潤滑油3の温度が30℃であるときに検出されたエコー信号の波形である。言い換えれば、第1の異常波形W1は、油膜厚Lが設定値より薄いことで回転軸1に軸受2が接近し、回転軸1及び軸受2の少なくとも一方に焼き付きが発生する前のエコー信号の波形を示す。図7に示されるように、例えば、時間が1.0μsから3.0μsまでの範囲内では、第1の異常波形W1におけるエコー信号の振幅は、基準波形W0におけるエコー信号の振幅より小さい。
【0033】
図8は、基準波形W0と、エコー信号の異常時の第2の波形(以下、「第2の異常波形」と呼ぶ。)W2とを示すグラフである。図9は、基準波形W0と、エコー信号の異常時の第3の波形(以下、「第3の異常波形」と呼ぶ。)W3とを示すグラフである。図8に示される第2の異常波形W2は、油膜厚Lが設定値より薄く且つ軸受2(又は潤滑油3)の温度が70℃であるときに検出されたエコー信号の波形を示す。また、図9に示される第3の異常波形W3は、油膜厚Lが設定値より薄く且つ軸受2(又は潤滑油3)の温度が120℃であるときに検出されたエコー信号の波形を示す。図8及び9に示されるように、時間が1.0μsから3.0μsまでの範囲内では、第2の異常波形W2におけるエコー信号の振幅及び第3の異常波形W3におけるエコー信号の振幅はそれぞれ、基準波形W0におけるエコー信号の振幅より小さい。
【0034】
また、図7において、第1の異常波形W1が受信された時点をt1、図8において、第2の異常波形W2が受信された時点をt2としたとき、時点t2は時点t1より早い。更に、図9において、第3の異常波形W3が受信された時点をt3としたとき、時点t3は、図8に示される時点t2より早い。これは、超音波U1が伝搬する媒質中の温度、すなわち、軸受2及び潤滑油3の温度の影響を受けて、超音波U1の音速cが変化したためである。具体的には、軸受2及び潤滑油3の温度が上昇するにつれて、音速cは速くなる。そのため、図7から9に示されるように、軸受2及び潤滑油3の温度が上昇するほど、第2の異常波形W2及び第3の異常波形W3のそれぞれが、パルサーレシーバ31に受信された時点が早くなる。
【0035】
このように、軸受2及び潤滑油3の温度上昇によって、超音波U1の音速cが変化する。従来の装置は、例えば、図7に示される第1の異常波形W1において選択したピーク値を追跡することで、油膜厚Lの測定を実現していた。しかしながら、実機において、エコー信号のピーク値を常時追跡することは困難である。また、潤滑油3が枯渇した状態、すなわち、焼き付きが発生する直前の状態では、回転軸1及び軸受2の温度上昇が想定される。この場合、エコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生するため、油膜厚Lの測定が困難である。よって、従来の装置では、エコー信号のみに基づいて焼き付きの予兆があるか否かを判定することが困難である。また、機器5が圧縮機である場合、ガス冷媒によって潤滑油が発泡する可能性があることによっても、エコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生する。
【0036】
〈焼き付きの予兆の有無の判定〉
次に、潤滑状態判定装置100において、回転軸1及び軸受2における焼き付きの予兆の有無の判定方法について説明する。一般的に、超音波センサのセラミック振動子は、駆動周波数fと同じ共振周波数を持つ。受信感度を高めるために、超音波センサでは、共振周波数と同じ周波数におけるエコー信号が検出される。共振周波数以外の周波数におけるエコー信号は、大きく減衰するため、油膜厚Lの測定に用いられていなかった。
【0037】
本願発明者は、セラミック振動子の共振周波数以下の低い周波数帯域に着目した。本願発明者による研究の結果、セラミック振動子の共振周波数以下の低い周波数帯の信号、具体的には、回転軸1と軸受2との接触に起因するアコースティックエミッション波の周波数帯の第2の信号(以下、「AE信号」とも呼ぶ。)が、超音波センサによって得られることが判明した。すなわち、実施の形態1では、単一のセンサ10が、エコー信号及びAE信号の両方を受信する。なお、実施の形態1のセンサ10に備えられたセラミック振動子の共振周波数は、例えば、2MHzである。
【0038】
図10は、センサ10によって検出されたAE信号の周波数スペクトルを示すグラフである。図10は、センサ10によって検出されたAE信号にFFT(Fast Fourier Transform)処理を行った後の解析結果を示す。図10において、横軸は、周波数(単位:Hz)を示し、縦軸は、振幅ピークを示す。
【0039】
図10に示されるように、セラミック振動子の共振周波数2MHzより低い周波数帯である100kHz周辺、具体的には、20kHz周辺において、軸受2の打音時のAE信号が検出されている。なお、「軸受2の打音時」とは、回転軸1と軸受2とが潤滑油3を介さずに摺動して、音が発生しているときをいう。
【0040】
信号波形処理部32は、AE信号を増幅し、特徴量を抽出する。具体的には、信号波形処理部32は、パルサーレシーバ31を介してセンサ10から出力された共振周波数以下の信号(すなわち、AE信号)をFFT処理した後に、大きな振幅ピークを持つ周波数を抽出する。
【0041】
信号波形処理部32は、例えば、AE信号の振幅が予め定められた第2の閾値である閾値Th2以上であるか否かを判定する。これにより、回転軸1と軸受2との間の潤滑油3の枯渇などによって、エコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生した場合でも、信号波形処理部32は、AE信号に基づいて焼き付きの予兆の有無を判定することができる。よって、焼き付きによる機器5の故障を予め防止することができるため、機器5の安全性を向上させることができる。また、潤滑状態判定装置100は、AE信号を受信する他のセンサ(例えば、加速度センサ)を設けずに、焼き付きの予兆の有無を判定することができる。よって、潤滑状態判定装置100における部品点数を削減することができる。なお、信号波形処理部32は、センサ10から出力された信号をFFT処理した後に自己相関処理を行うことで、回転軸1及び軸受2における焼き付きの予兆の有無を判定してもよい。例えば、信号波形処理部32は、自己相関処理によって算出された自己相関値が閾値より大きい場合に、焼き付きの予兆が有ると判定する。
【0042】
〈制御装置20の処理内容〉
次に、図11を用いて、潤滑状態判定装置100の制御装置20の処理内容について説明する。図11は、潤滑状態判定装置100の制御装置20の処理内容の一例を示すフローチャートである。
【0043】
先ず、ステップST1において、信号波形処理部32は、パルサーレシーバ31から出力されたエコー信号の振幅(例えば、振幅ピーク)が予め定められた第1の閾値である閾値Th1より小さいか否かを判定する第1の判定を行う。信号波形処理部32は、エコー信号の振幅ピークが閾値Th1より小さいと判定した場合(つまり、ステップST1において、判定がYesである場合)、処理をステップST2へ進める。なお、ステップST1において、信号波形処理部32は、エコー信号の振幅ピークの積分値が予め定められた閾値以下であるか否かを判定してもよい。
【0044】
ステップST2において、信号波形処理部32は、パルサーレシーバ31から出力された信号のうちAE信号の振幅(例えば、振幅ピーク)が閾値Th2以上であるか否かを判定する第2の判定を行う。信号波形処理部32は、AE信号の振幅ピークが閾値Th2以上であると判定した場合(つまり、ステップST2において、判定がYesである場合)、処理をステップST3へ進める。なお、ステップST2において、信号波形処理部32は、AE信号の振幅ピークの積分値が予め定められた閾値以であるか否かを判定してもよい。
【0045】
ステップST3において、回転軸制御部40は、回転軸1の回転速度を低下又は回転軸1の回転を停止させる。これにより、焼き付きによる機器5の故障を予め防止することができるため、機器5の安全性を向上させることができる。
【0046】
なお、信号波形処理部32は、ステップST1における第1の判定処理と、ステップST2における第2の判定処理とを並列に行ってもよい。これにより、信号波形処理部32は、エコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生した場合、直ちにAE信号に基づいて潤滑油3の状態を判定することができる。よって、回転軸1及び軸受2の少なくとも一方に焼き付きの予兆が有るか否かを早期に判定することができる。この場合、回転軸制御部40は、エコー信号の振幅ピークが閾値Th1より小さく、且つAE信号の振幅ピークが閾値Th2以上である場合に、回転軸1の回転速度を低下又は回転軸1の回転を停止させる。
【0047】
〈実施の形態1の効果〉
以上に説明した実施の形態1によれば、潤滑状態判定装置100は、エコー信号及びAE信号を受信するセンサ10と、センサ10から出力されたエコー信号及びAE信号に基づいて潤滑油3の状態を判定する制御装置20とを有する。これにより、潤滑油3の枯渇などによってエコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生した場合であっても、AE信号に基づいて潤滑油3の状態を判定することができる。言い換えれば、潤滑状態判定装置100は、エコー信号の振幅ピーク(又は当該振幅ピークの積分値)が0に近い値であっても、AE信号に基づいて潤滑油3の状態を判定することができる。よって、実施の形態1によれば、潤滑油3の状態の判定精度を向上させることができる。
【0048】
また、実施の形態1によれば、エコー信号の振幅ピーク(又は当該振幅ピークの積分値)が予め定められた閾値Th1より小さい場合には、信号波形処理部32は、センサ10によって検出された信号のうち、AE信号を抽出する。これにより、潤滑油3の枯渇などによって、エコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生した場合でも、制御装置20は、AE信号に基づいて回転軸1及び軸受2のうちの少なくとも一方における焼き付きの予兆の有無を判定することができる。
【0049】
また、実施の形態1によれば、制御装置20は、AE信号の振幅ピークが閾値Th2以上であると判定した場合には、回転軸1の回転速度を低下又は回転軸1の回転を停止させる。これにより、回転軸1及び軸受2の少なくとも一方の焼き付きによる機器5の故障を予め防止することができるため、機器5の安全性を向上させることができる。
【0050】
また、実施の形態1によれば、センサ10は、軸受2に備えられている。これにより、潤滑油3の枯渇などによって、エコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生した場合でも、センサ10は、回転軸1が回転しているときの回転軸1と軸受2との接触に起因するAE信号を検出し易くなる。
【0051】
《実施の形態2》
図12は、実施の形態2に係る潤滑状態判定装置200の構成及び潤滑状態判定装置200の判定対象の機器205の構成を概略的に示す構成図である。図12において、図1に示される構成要素と同一又は対応する構成要素には、図1に示される符号と同じ符号が付される。実施の形態2に係る潤滑状態判定装置200は、センサ10が回転軸201に備えられている点で、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置100と相違する。これ以外の点については、実施の形態2に係る潤滑状態判定装置200は、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置100と同じである。そのため、以下の説明では、図2を参照する。
【0052】
実施の形態2では、センサ10は、機器205の回転軸201に備えられている。具体的には、センサ10は、回転軸201の内部に備えられている。図12に示す例では、回転軸201は、z軸方向に延びる中空部としての孔201cが設けられていて、センサ10は、当該孔201cに設けられている。これにより、上述した実施の形態1のように、センサ10が軸受2に取り付けられている構成と比較して、回転軸201の内部の全周に亘ってエコー信号及びAE信号を検出することができる。よって、油膜厚Lの判定及び焼き付きの予兆の有無の判定を早期に実現することができる。
【0053】
図12に示されるように、センサ10が孔201cに設けられている場合、センサ10とパルサーレシーバ31とを繋ぐ信号線は、例えば、スリップリングによって接続されている。なお、孔201cは、回転軸201を軸線Axの方向に貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。また、孔201cは、回転軸201の内部を径方向に延びていてもよい。また、センサ10は、回転軸201の外周面201aに備えられていてもよい。更に、センサ10は、回転軸201の外周面201aに設けられた凹部に埋め込まれていてもよい。
【0054】
〈実施の形態2の効果〉
以上に説明した実施の形態2によれば、センサ10は、回転軸201に備えられている。これにより、潤滑油3の枯渇などによって、エコー信号の信号強度レベルの低下又はエコー信号の消失が発生した場合でも、センサ10は、回転軸201が回転しているときの回転軸201と軸受2との接触に起因するAE信号を検出し易くなる。
【0055】
また、実施の形態2によれば、センサ10は、回転軸201の内部に備えられている。これにより、実施の形態1のように、センサ10が軸受2に備えられている構成(図1参照)と比較して、回転軸201内部の全周に亘ってエコー信号及びAE信号を検出することができる。よって、油膜厚Lの判定並びに回転軸201及び軸受2についての焼き付きの判定を早期に検出することができる。
【0056】
《実施の形態3》
図13は、実施の形態3に係る潤滑状態判定装置300の構成を示すブロック図である。実施の形態3に係る潤滑状態判定装置300は、エコー信号の振幅ピークを追跡することで得られた油膜厚Lの時間変化に基づいて潤滑油3の状態を判定する点で、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置100と相違する。これ以外の点については、実施の形態3に係る潤滑状態判定装置300は、実施の形態1に係る潤滑状態判定装置100と同じである。そのため、以下の説明では、図1及び5を参照する。
【0057】
図13に示されるように、潤滑状態判定装置300は、センサ10と、制御装置320とを有する。なお、実施の形態3のセンサ10は、上述した図3と同様に、送受信部13(すなわち、送信部11及び受信部12が一体化された構成)を有していてもよい。
【0058】
制御装置320は、信号処理部330と、回転軸制御部40とを有する。信号処理部330は、パルサーレシーバ31と、信号波形処理部32と、増幅部としての可変アンプ333と、A/Dコンバータ334とを有する。
【0059】
ここで、上述した実施の形態1では、油膜厚Lとエコー信号の振幅ピークとの相関曲線(図6参照)は、制御装置20の記憶部(図示せず)に予め記憶されている。しかしながら、機器5(図1参照)では、様々な種類の軸受2が用いられ、軸受2の種類に応じて、上記相関曲線も異なる可能性がある。機器5に用いられる軸受2毎に、相関曲線を取得することは困難である。潤滑状態判定装置300の信号波形処理部32は、エコー信号の振幅ピークを追跡することで得られた油膜厚Lの時間変化に基づいて、潤滑油3の状態を判定する。
【0060】
〈制御装置320の処理内容〉
次に、図14を用いて、潤滑状態判定装置300における制御装置320の処理内容について説明する。図14は、潤滑状態判定装置300の制御装置320の処理内容の一例を示すフローチャートである。
【0061】
先ず、ステップST301において、パルサーレシーバ31は、所定の時間長のエコー信号を受信する。
【0062】
ステップST302において、可変アンプ333は、パルサーレシーバ31から出力されたエコー信号を増幅する。
【0063】
ステップST303において、A/Dコンバータ334は、ステップST302において増幅されたエコー信号をデジタル信号に変換する。
【0064】
ステップST304において、信号波形処理部32は、ステップST303においてデジタル信号に変換されたエコー信号のうちの帯域外のノイズを、フィルタリングによって除去する。
【0065】
ステップST305において、信号波形処理部32は、ノイズ除去されたエコー信号をFFT処理することにより、エコー信号の周波数スペクトルを取得する。
【0066】
ステップST306において、信号波形処理部32は、ステップST305において取得された周波数スペクトルのうちの所定の周波数の振幅成分についてのピーク値を追跡する。
【0067】
ここで、ステップST306におけるピーク値の追跡の詳細について説明する。図15(A)は、図14に示されるステップST305において取得されたエコー信号の周波数スペクトルを示す図である。図15(A)において、横軸は周波数を示し、縦軸はFFT振幅を示す。図15(A)において、実線で示されるグラフは、第1の時点におけるエコー信号の周波数スペクトルS1を示す。また、一点鎖線で示されるグラフは、第1の時点から時間が経過した第2の時点におけるエコー信号の周波数スペクトルS2を示す。
【0068】
図15(A)に示されるように、周波数スペクトルS1のピーク周波数fpにおける振幅と、周波数スペクトルS2のピーク周波数fpにおける振幅とは、互いに異なる。このように、回転軸1(図1参照)の回転に伴い、周波数スペクトルS1、S2のピーク周波数における振幅が変動する。
【0069】
図15(B)は、図15(A)に示される周波数スペクトルS1、S2のピーク値の追跡結果を示すグラフである。図15(B)において、横軸は時間を示し、縦軸はFFT振幅のピーク値を示す。ここで、図15(B)の縦軸のFFT振幅のピーク値は、油膜厚Lに比例する。そのため、図15(B)に示されるグラフは、油膜厚Lの時間変化を示す。図15(B)に示されるグラフは、回転軸1と軸受2との間の潤滑状態が正常であることを示す。これは、時間が経過するにつれて、FFT振幅のピーク値が大きく変化しているためである。
【0070】
一方、回転軸1と軸受2との間の油膜厚Lが減少した場合、FFT処理後のエコー信号の振幅も減少する。この場合、回転軸1が回転しているときの振幅の大きさが変化しないため、例えば、FFT振幅のピーク値が小さい値で且つ当該ピーク値が変化しない、概ね一定の直線のグラフが得られる。このように、周波数スペクトルS1、S2のピーク値の追跡結果によって、小さいピーク値(例えば、閾値より小さいピーク値)が維持されるグラフが得られた場合、信号波形処理部32は、回転軸1と軸受2との間の油膜厚Lが薄く、潤滑状態が不良であると判定する。なお、回転軸1と軸受2との間の油膜厚Lが減少した場合、図15(B)に示されるグラフは、FFT振幅のピーク値が時間変化に伴って徐々に低下するグラフ、又は振幅変化の小さいグラフになる場合もある。
【0071】
図14に戻って、ステップST307以降の処理内容について説明する。ステップST307において、信号波形処理部32は、ピーク値の追跡結果を示す波形信号を記録する。
【0072】
ステップST308において、所定の時間記録された波形信号から特徴量を抽出する。ここで、ステップST308における「特徴量」は、例えば、上述したステップST305のFFT処理によって得られたFFT振幅のピーク値、当該ピーク値を規格化した値、当該ピーク値を時間微分した値、又は当該ピーク値を時間積分した値などである。
【0073】
ステップST309において、信号波形処理部32は、ステップST308において抽出された特徴量を、機器5の情報を示す機器情報と共にデータベースに保存する。なお、機器情報とは、例えば、回転軸1、軸受2及び潤滑油3の種類などを示す情報、並びに機器5の品番などを示す情報である。
【0074】
ステップST310において、信号波形処理部32は、ステップST309においてデータベースに保存された情報を機械学習する。なお、ステップST309及びST310の処理は、省略されてもよい。
【0075】
ステップST311において、信号波形処理部32は、ステップST306において追跡されたFFT振幅のピーク値の変化に基づいて、回転軸1と軸受2の間の潤滑状態の良否、言い換えれば、機器5における回転の品質の良否についての判定を行う。なお、ステップST311において、信号波形処理部32は、回転軸1及び軸受2の少なくとも一方についての焼き付きの有無を判定してもよい。
【0076】
なお、上述したステップST310における特徴量の抽出は、ステップST306におけるピーク値の追跡と同時に行われてもよい。また、ステップST306におけるピーク値の追跡は、1つのピーク値、言い換えれば、図15(A)に示される周波数スペクトルS1、S2のそれぞれの極大点P1、P2を追跡するのではなく、1つの周波数スペクトルにおける複数のピーク値を追跡してもよい。また、図14に示される処理において、油膜厚Lを測定するためのエコー信号が検出されなかった場合及びAE信号が検出されなかった場合、信号波形処理部32は、回転軸1と軸受2との間の潤滑状態が不良である又はセンサ10が異常であると判定してもよい。この場合、回転軸制御部40は、回転軸1の回転を停止してもよい。
【0077】
〈実施の形態3の効果〉
以上に説明した実施の形態3によれば、信号波形処理部32は、エコー信号の振幅ピーク値の追跡結果に基づいて、回転軸1と軸受2との間の油膜厚Lを検出する。これにより、油膜厚Lとエコー信号の振幅ピークとの相関を示す相関曲線の事前取得が困難であっても、当該潤滑油3の状態を判定することができる。
【0078】
また、実施の形態3によれば、信号波形処理部32は、軸受2及び潤滑油3の温度変化に伴う超音波U1(図5参照)の音速cの変化に追従した判定を行うことができる。よって、信号波形処理部32は、回転軸1と軸受2との間に存在する潤滑油3の状態の判定を、広い温度範囲で実現することができる。
【符号の説明】
【0079】
1、201 回転軸、 1a、201a 外周面(第1の面)、 2 軸受、 2b 内周面(第2の面)、 3 潤滑油、 5、205 機器、 10、210 センサ、 11 送信部、 12 受信部、 13 送受信部、 20、320 制御装置、 20a メモリ、 20b プロセッサ、 20c 処理回路、 30、330 信号処理部、 31 パルサーレシーバ、 32 信号波形処理部、 40 回転軸制御部、 100、200、300 潤滑状態判定装置、 201c 孔、 333 可変アンプ、 334 A/Dコンバータ、 Ax 軸線、 L 油膜厚、 R1、R2 反射波、 S1、S2 周波数スペクトル、 Th1、Th2 閾値、 U1 超音波、 W0 基準波形、 W1 第1の異常波形、 W2 第2の異常波形、 W3 第3の異常波形。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15