(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】漢方薬組成物が神経障害治療薬の調製への応用
(51)【国際特許分類】
A61K 36/237 20060101AFI20241115BHJP
A61K 36/076 20060101ALI20241115BHJP
A61K 36/238 20060101ALI20241115BHJP
A61K 36/25 20060101ALI20241115BHJP
A61K 36/538 20060101ALI20241115BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20241115BHJP
A61K 36/34 20060101ALI20241115BHJP
A61K 36/233 20060101ALI20241115BHJP
A61K 36/484 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241115BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241115BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241115BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241115BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20241115BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241115BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A61K36/237
A61K36/076
A61K36/238
A61K36/25
A61K36/538
A61K36/752
A61K36/34
A61K36/233
A61K36/484
A61P25/00
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/06
A61K9/50
(21)【出願番号】P 2024510249
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 CN2022135766
(87)【国際公開番号】W WO2023098776
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】202111468002.X
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511182437
【氏名又は名称】山▲東▼新▲時▼代▲薬▼▲業▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG NEW TIME PHARMACEUTICAL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.1,North Outer Ring Road,Feixian Country,Shandong 273400,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張貴民
(72)【発明者】
【氏名】孫成磊
(72)【発明者】
【氏名】姚景春
(72)【発明者】
【氏名】関永霞
(72)【発明者】
【氏名】馬慶文
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107296935(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107281405(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104383173(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105106802(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103393863(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102793855(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101926903(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羌活50-100重量部、独活50-100重量部、茯苓50-100重量部、防風50-100重量部、荊芥50-100重量部、川▲きゅう▼50-100重量部、桔梗50-100重量部、柴胡50-100重量部、前胡50-100重量部、枳殻50-100重量部および甘草5-50重量部の生薬成分からなることを特徴とする漢方薬組成物の顔面神経障害治療薬の製造における使用。
【請求項2】
前記漢方薬組成物は、荊芥75重量部、防風75重量部、羌活75重量部、独活75重量部、柴胡75重量部、前胡75重量部、川▲きゅう▼75重量部、枳殻75重量部、茯苓75重量部、桔梗75重量部、甘草25重量部の生薬成分からなることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記顔面神経障害は、
病因である感染、毒性物質、遺伝的要因、栄養障害、免疫疾患、代謝異常、内分泌代謝異常、先天性奇形、血行障害、過形成、冷え、
傷のうちの一つまたは複数により起こることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記漢方薬組成物は顔面神経障害の症状を改善することができ、
前記症状は刺激症状および/または脱落症候を含み、
前記刺激症状は痛み、痺れとして現れる症状であり、前記脱落症候は感覚鈍麻/消失、運動麻痺として現れる症状であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記漢方薬組成物は顔面神経障害の症状を改善することができ、
前記症状は
、鼻唇溝(ほうれい線)が浅くなり、口角が片側に偏り、口から水がこぼれ、顔の随意動作ができなくなり、
瞼裂
開大が起こり、シワ
を寄せ
る、目を閉じる、口笛を吹
くという動きができなくなり、表情を作れなくなる
との症状のうちの一つまたは複数を含むことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記漢方薬組成物は薬学的に許容される添加物を用いて製剤を調製することができ、
前記製剤は顆粒剤、合剤、錠剤、カプセル剤、粉剤、散剤、シロップ剤、マイクロカプセル剤、軟膏剤を含むことを特徴とする
請求項1-5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記漢方薬組成物は荊防
敗毒散の製剤であり、
前記荊防
敗毒散の製剤は荊防
敗毒散の顆粒剤または荊防
敗毒散の合剤であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は漢方薬技術の分野に属し、漢方薬組成物及びその応用に関する。具体的には漢方薬組成物及びそれが神経障害治療薬への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経障害は特に末梢神経疾患を指し、末梢神経系に起こる器質的障害の一群である。神経の位置と機能によって、神経系は中枢神経系と末梢神経系に分けられる。顔面神経障害は、顔面神経麻痺とも呼ばれ、顔面表情筋の麻痺であり、主に顔面表情筋の運動障害として現れる。顔面神経麻痺の臨床症状は、主に一重一軽の両側タイプの顔面筋麻痺と片側の顔面筋麻痺である。
【0003】
中医学ではそれを「口歪眼斜(口がゆがみ、目が偏っている状態)」と呼ばれ、民間では「吊線風」「▲みゃお▼准風」とも呼ばれる。それは、人体の正気が足りなく、脈絡が空虚であり、風邪(ふうじゃ)がそのすきに乗じて中頭面の陽明脈に入り込むことにより、片方の顔が営衛不和(風邪により汗がかく症状)、気血が閉塞され、経絡に栄養が届かなくなることで、症状が現れる。その中でも風寒表証と風熱表証に分かれる。
【0004】
風寒表証は急に発症することが多く、口角が片側に偏り、閉瞼不全と伴い、悪寒、もしくは頭痛や鼻詰まり、顔の肌がの突っ張り、筋肉関節が痛くなる等の症状が現れ、舌が淡い赤色で、舌苔が薄く白く、脈が浮いてぴんと張っている状態を示す。治療法は去風散寒法を使い、痰を排除し、脈の流れをよくする。主な処方は三白五虫湯を使用する:白芍(びゃくしゃく)20g、白▲し▼(びゃくし)15g、白附子6g、僵蚕(きょうさん)15g、蝉退(せんたい)15g、炒め地龍(じりゅう)15g、全蠍(ぜんかつ)10g、蜈蚣(むかで)2本(別途)、防風10g、川▲きゅう▼10g、釣藤鈎(ちょうとうこう)20g、黄耆(おうぎ)30g。上記生薬は蜈蚣以外に、水で2回を煎じ、一日一剤、朝晩2回に分けて服用する。蜈蚣は瓦において加熱させて焦がしたら、粉末状態につぶし、2回に分けて煎じ薬に溶かして服用する。処方にある防風、白▲し▼、白附子、釣藤鈎には風邪と寒さの邪を追い出す作用があり、閉塞した脈絡を整い、血の気の循環をよくすることができる。また「五虫(僵蚕、蝉退、地龍、全蠍、蜈蚣)」でその動きの速度が速いため、風邪を追い出し、脈絡の気をよくする効能を利用する。白芍、川▲きゅう▼で血の気の循環をよくし、風邪を追い出す。黄耆で気を補い、免疫力を高め、風邪を追い出す。諸々の生薬の組み合わせで、邪を払い、免疫を高める。また風寒表証を取り除き、脈絡を養い、血流をよくさせることで、顔面麻痺が治ることができる。
【0005】
風熱表証は兆候なく急に発症し、顔面が歪み、顔が熱くなり、頭痛もしくは発熱、心がモヤモヤして口の中が苦く感じたり、また喉が乾き痛くなり、お通じが固く、小便が黄色になる等の症状が現れ、舌の先が赤く、舌苔が薄い黄色で、脈が浮いて速い状態を示す。治療法は風邪を疏散し、熱を下げ、血の気を活発させ、塞いた脈絡の気の流れをよくすることである。主な処方は加味牽正散を使用する:全蠍7g、白附子7g、僵蚕7g、蜈蚣2本、地龍7g、当帰(とうき)10g、白芍10g、川▲きゅう▼10g、防風10g、釣藤鈎10g、連翹(れんぎょう)15g、板藍根(ばんらんこん)15g、大青葉(たいせいよう)15g。処方にある白附子は辛温で、活発させて発散する効果を持ち、風邪を取り除き、痰を排除し、脈絡の気の流れを良くさせ、君薬(処方において主要な治療薬のこと)である。全蠍、白僵蚕、地龍は風邪を分散させ、けいれんを止める効果があり、その中白僵蚕は痰を排除する効果も持ち、全蠍は脈絡の気の流れを良くする効果を持っている。蜈蚣、釣藤鈎は同じく風邪を分散させ、脈絡の気の流れを良くする効果を持つ。当帰、白芍、川▲きゅう▼、防風は風邪を発散させ、経絡の気の流れを良くする効果を持ち、血の気を活発させ、「風邪を治すには先に血の気を活発させ、血液循環がよくなれば風邪が自然に治る」という意味から選択した。連翹、板藍根、大青葉は清熱、化湿、解毒の効果をもち、以上の諸生薬で、顔面経絡の気の流れをよくさせ、患部に作用し、風邪を取り除く。
【0006】
CN108201592Aが神経障害による顔面麻痺の内服漢方薬治療薬を公表した、その原料生薬及び重量部は:柴胡30g、黄▲ごん▼(おうごん)17g、荊芥14g、防風15g、白附子15g、天麻(てんま)15g、全蠍15g、甘草10g、透骨草(とうこくそう)15g、羌活20g、地龍20g。天麻は脈絡の気をよくするのにとても良い効果を持っているが、副作用が強い。また透骨草は強い刺激性を持ち、胃腸に刺激しやすく、胃粘膜を損傷する副作用を持っている。当該特許が提供する漢方製剤での治療期間が長く、大体11クールの治療を経て病気を治すことができる。
【0007】
現在荊防敗毒散に基づき原料の配合比を加減する処方で神経障害を治療する報道があった。
【0008】
中国中医薬報5版では荊防敗毒散の処方に基づき原料の配合比を加減する方法で風寒襲表中経絡型の中風(脳血管障害)顔面麻痺を治療する報道があった。1回目の診断:荊芥10g、防風10g、柴胡12g、黄▲ごん▼ 10g、羌活10g、独活10g、川▲きゅう▼12g、薄荷10g、金銀花10g、連翹10g、白▲し▼ 10g、葛根20g、白花蛇舌草15g、赤芍10g、牛蒡子10g、甘草9g。2剤。1日1剤で、3回を分けて服用する。2回目の診断:1回目の処方を元に、独活、白▲し▼を除き、当帰10g、蝉退6g、升麻10g、牛蒡子10g、石菖蒲10gを加え、2剤を処方した。3回目の診断:赤芍10g、川▲きゅう▼6g、当帰10g、地龍10g、黄耆20g、葛根20g、升麻10g、蝉退9g、全蠍6g、いれいせん20g、白花蛇舌草15g、僵蚕10g、蜈蚣1本、甘草6g。2剤、1日1剤、3回を分けて服用する。4回目の診断:上記処方を微修正し、2剤を予後のために処方する。2服後、脹面テストで左口角からの空気漏れがなくなり、顔面に違和感がなく、諸症状がなくなった、計8剤を服用した。当該公表した内容には荊防敗毒散を加減する処方を使用し、症状を診断し段階に分けて治療を行った。治療期間が短かったが、2剤ずつ処方を変えることで、患者の問診回数が増え、再び風寒表証に患う確率を高める恐れがある。
【0009】
また、荊防敗毒散製剤は荊防敗毒散の処方により開発した現代の漢方製剤であり、羌活、独活、茯苓、防風、荊芥、川▲きゅう▼、桔梗、柴胡、前胡、枳殻、甘草により調製される。防風、荊芥、羌活は辛温で発汗させることで、邪を除き、風邪を発散させる効果を持つ。柴胡はさらに発汗を促す効果を強化し、独活は風邪を追い出し、体に滞った湿を取り除き、川▲きゅう▼は風邪を追い出し、血の気を活発させ、枳殻は気の流れをよくし、胸のつかえをすっきりさせる効果を持つ。諸生薬で発汗させることで、風邪を追い出し、血液循環や脈絡の気の流れをよくさせ、痰や毒素を排除し、熱を下げ、滞った湿を取り除く。現在荊防敗毒散製剤の顔面神経障害の治療に関する内容にについて、公表されるものはまだない。
【0010】
発明内容
本発明は市販製品「荊防敗毒散顆粒」「荊防敗毒散製剤」に基づきさらにその用途に関して開発したものである。その開発のきっかけは社員のフィードバックである。その社員は長期的にエアコンの風に当たり続けられることにより顔面麻痺が起こった後、顔面麻痺の標準的治療を受ける期間中、風邪予防のため日常的に荊防敗毒散顆粒を服用し、その後顔面麻痺の症状が著しく改善され、顔面神経障害の治療期間が顕著に短縮したことに気付いた。その社員のフィードバックにインスパイアされ、発明者は神経障害、特に顔面神経障害の治療に関して、荊防敗毒散製剤の用途をさらに研究し始めた。
【0011】
本発明の一つ目の目的は、神経障害を治療できる漢方薬組成物を提供することである。前記漢方薬組成物は羌活(きょうかつ)、独活(うど)、茯苓(ぶくりょう)、防風(ぼうふう)、荊芥(けいがい)、川▲きゅう▼(せんきゅう)、桔梗(ききょう)、柴胡(さいこ)、前胡(ぜんこ)、枳殻(きこく)、甘草(かんぞう)を含む。
【0012】
さらに、前記漢方薬組成物は以下の生薬原料を含む:
荊芥50-100重量部 防風50-100重量部 羌活50-100重量部
独活50-100重量部 柴胡50-100重量部 前胡50-100重量部
川▲きゅう▼ 50-100重量部 枳殻50-100重量部 茯苓50-100重量部
桔梗50-100重量部 甘草5-50重量部。
【0013】
好ましくは、前記漢方薬組成物は以下の生薬原料を含む:
荊芥75重量部 防風75重量部 羌活75重量部
独活75重量部 柴胡75重量部 前胡75重量部
川▲きゅう▼ 75重量部 枳殻75重量部 茯苓75重量部
桔梗75重量部 甘草25重量部。
【0014】
前記神経障害は顔面神経障害、三叉神経痛、多発性神経障害を含む。
【0015】
前記神経障害は感染、毒性物質、遺伝的要因、栄養障害、免疫疾患、代謝異常、内分泌代謝異常、先天性奇形、血行障害、過形成、冷え、傷等の病因の一つあるいは複数により起こる。
【0016】
さらに、前記漢方薬組成物は神経障害の症状を改善することができる。前記症状は刺激症状と/もしくは脱落症候を含むことを特徴とする。刺激症状は痛み、麻痺として表れ、脱落症候は感覚鈍麻/消失、運動麻痺として表れる。
【0017】
具体的に、前記神経障害は好ましくは顔面神経障害である。前記漢方薬組成物は顔面神経障害の症状を改善することができる。その症状は鼻唇溝(ほうれい線)が浅くなり、口角が片側に偏り、口から水がこぼれ、顔の随意動作ができなくなり、眼裂拡大、シワ寄せ、目を閉じる、口笛を吹く等の動きができなくなり、表情を作れなくなる等を含む。
【0018】
さらに、前記漢方薬組成物は薬学的に許容される添加物と合わせて製剤することができる。
【0019】
前記製剤は顆粒剤、合剤、錠剤、カプセル剤、粉剤、散剤、シロップ剤、マイクロカプセル剤、軟膏剤を含む。好ましくは荊防敗毒散顆粒、荊防敗毒散合剤である。
【0020】
本発明の2つ目の目的は、荊防敗毒散製剤の神経障害治療薬への応用を提供することである。
【0021】
本発明の3つ目の目的は、荊防敗毒散製剤の顔面神経障害治療薬への応用を提供することである。
【0022】
本発明に記載する荊防敗毒散製剤は荊防敗毒散顆粒剤、荊防敗毒散合剤を含むが、それに限らない。上記原料生薬で調製する漢方薬組成物の製剤はすべて荊防敗毒散製剤に含まれる。
【0023】
既存の技術と比べ、本発明は顕著な効果を得られた:
(1)本発明の漢方薬組成物はラットの顔面神経障害による顔面神経麻痺、運動障害等に関連する症状を明かに改善することができる。
【0024】
(2)本発明の漢方薬組成物はラットの術後側面神経中にあるVEGFB、VEGFR1及びVEGFR2タンパク質の発見を著しく高め、損傷した軸索の回復と再生を促進させることができる。
【0025】
(3)本発明の漢方薬組成物はラットの顔面神経伝達を刺激し、神経伝達速度を高めることができる。
【0026】
(4)本発明の漢方薬組成物はラットの顔面神経にあるBeclin1タンパク質の発見を抑制し、P62の発見を高め、オートファジー制御機構へ関与し、顔面神経機能回復を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1-2: 薬物を14日間投与後、各組のラットの術後片側の顔面神経伝達速度の比較
【
図2】
図1-2: 薬物を14日間投与後、各組のラットの術後片側の顔面神経伝達速度の比較
【
図3】
図3-4: 薬物を14日間投与後、各組のラットの顔面神経組織内にあるBeclin1タンパク質の発見量の比較
【
図4】
図3-4: 薬物を14日間投与後、各組のラットの顔面神経組織内にあるBeclin1タンパク質の発見量の比較
【
図5】
図5-6: 薬物を14日間投与後、各組のラットの顔面神経組織内にあるP62タンパク質の発見量の比較
【
図6】
図5-6: 薬物を14日間投与後、各組のラットの顔面神経組織内にあるP62タンパク質の発見量の比較
【0028】
詳細な実験方法
本発明の目的及び技術的解決策をより明確かつ理解しやすくするために、本発明の内容を実施例によりさらに詳細に説明するが、この点で、本発明が、上述した本発明の主題の範囲内で以下の実施例に限定されると理解すべきではない。また、本発明の上記技術的前提を逸脱することなく、当該分野における通常の技術的知見及び慣用手段に従ってなされる対応する置換又は変更の修正は、本発明に含まれる。
実施例1 顆粒剤の製剤(市販荊防敗毒散顆粒)
処方:
荊芥75g 防風75g 羌活75g 独活75g 柴胡75g 前胡75g
川▲きゅう▼ 75g 枳殻75g 茯苓75g 桔梗75g 甘草25g。
【0029】
調製方法:
以上11味の生薬について、荊芥、防風、羌活、独活、前胡、川▲きゅう▼と枳殻はそれぞれ揮発性オイルを抽出し、川▲きゅう▼と枳殻が別途蒸留により水溶液を抽出する。川▲きゅう▼と枳殻の水溶液抽出後の残留物と茯苓はろ過法により、上記水溶液で25%エタノール溶液を作り、ろ過して抽出液を得る。 荊芥、防風、羌活、独活と前胡の水溶液抽出後の残留物は柴胡、桔梗、甘草等の3種類の生薬と合わせて、水で一回あたり1.5時間ずつ2回を煎じて抽出し、得られた2回分の煎じ薬を合わせてろ過し、濃縮させペーストを得る。抽出液とペーストを混ぜ合わせ、静置後ろ過し、ろ過物を密度1.30( 80-85℃ )のペーストに濃縮させる。質量比1のペーストに対し、6のスクロースを加え、均等に混ぜ合わせ、乾燥させ、上記得られた荊芥等の揮発性オイルに入れ、均等に混ぜ合わせて調製する。
【0030】
実施例2 顆粒剤の製剤
処方:
荊芥50g 防風50g 羌活50g 独活50g 柴胡50g 前胡50g
川▲きゅう▼ 50g 枳殻50g 茯苓50g 桔梗50g 甘草5g。
【0031】
調製方法:実施例1と同様。
【0032】
実施例3 顆粒剤の製剤
処方:
荊芥100g 防風100g 羌活100g 独活100g 柴胡100g 前胡100g
川▲きゅう▼ 100g 枳殻100g 茯苓100g 桔梗100g 甘草50g。
【0033】
調製方法:実施例1と同様。
【0034】
実施例4 合剤の製剤(市販荊防敗毒散合剤)
処方:
荊芥97g 防風97g 羌活97g 独活97g 柴胡97g 前胡97g
川▲きゅう▼ 97g 枳殻97g 茯苓97g 桔梗97g 甘草32.4g。
【0035】
調製方法:
荊芥、防風、羌活、独活、枳殻、川▲きゅう▼と前胡はぞれぞれ蒸留法による揮発性オイルを抽出し、蒸留後の水溶液は別途保存する。川▲きゅう▼、枳殻の水溶液抽出後の残留物と茯苓はろ過法により、上記水溶液で25%エタノール溶液を作り、ろ過して抽出液を得、減圧法によりエタノールを取り除く。残りの5味生薬の水溶液抽出後の残留物は柴胡、桔梗、甘草と合わせ、水で3回を煎じ、ろ過後、ろ過液を合わせ1300mlまで濃縮する。濃縮液を上記エタノールを取り除いた溶液と合わせ、静置後ろ過を行い、1000mlまで濃縮する。最後安息香酸ナトリウム3gと前記の揮発性オイルを加え、攪拌し、水で1000mlまで足し調製する。
【0036】
対照実施例1:煎じ薬(水剤)
柴胡30g 黄▲ごん▼ 17g 荊芥14g 防風15g 白附子15g 天麻15g
全蠍15g 甘草10g 透骨草15g 羌活20g 地龍20g
調製方法:
一般的な煎じ方により500ml煎じ薬を作る。
【0037】
対照実施例2:煎じ薬(水剤)
荊芥10g 防風10g 柴胡12g 黄▲ごん▼ 10g 羌活10g 独活10g 川▲きゅう▼ 12g
薄荷(はっか)10g 金銀花(きんぎんか)10g 連翹10g 白▲し▼ 10g 葛根(かっこん)20g 白花蛇舌草(はくかじゃぜつそう)15g
赤芍10g 牛蒡子(ごぼうし)10g 甘草9g
調製方法:一般的な煎じ方により500ml煎じ薬を作る。
【0038】
対照実施例3:煎じ薬(水剤)
荊芥10g 防風10g 柴胡12g 黄▲ごん▼10g 羌活10g 川▲きゅう▼12g 当帰10g
薄荷10g 金銀花10g 連翹10g 葛根20g 白花蛇舌草15g 蝉退6g
赤芍10g 牛蒡子10g 甘草9g 升麻(しょうま)10g 石菖蒲(せきしょうぶ)10g
調製方法:一般的な煎じ方により500ml煎じ薬を作る。
【0039】
薬力学的実験
本発明者は、本発明における顔面神経障害の治療に対する荊防敗毒散製剤の有効性を証明するため、関連する薬力学的実験研究を実施する。なお、以下の実験研究は、薬物の安全性を証明するために急性毒性試験と長期毒性試験に基づいて実施され、実験研究における薬物の投与量は安全な投与量の範囲内であった。以下の薬力学試験に選択された薬物は本発明の代表的な製剤であり、本発明の他の製剤についても、本発明者は薬力学実験を行い、その結果は同一または類似の効果を有するが、紙面の都合上、ここには記載しない。
【0040】
また、以下の薬力学的実験では、いくつかの動物モデルを例にして本発明の有効性を検証しているに過ぎず、本説明書では、顔面神経障害がに対する本発明の漢方薬組成物の薬力学的実験の結果のみを示し、本発明で言及した他の種類の神経障害および他の原因による神経神経障害についても、本発明者は関連する薬力学実験を行い、その結果、同一または類似の効果を有することを明らかにしており、薬力学的実験の結果についてここでは列挙しない。
【0041】
1. 材料
1.1 実験用薬物と試薬
1.1.1 薬物
本発明の実施例1、2、3で得られた顆粒剤、
実施例4合剤、
対照実施例1-3で得られた煎じ薬。
【0042】
1.1.2 投与量
実施例1顆粒剤:2.02g/kg(少量)、4.05g/kg(中等量)、8.10g/kg(多量)、
実施例2顆粒剤:4.05g/kg、
実施例3顆粒剤:4.05g/kg、
実施例4合剤:4.05ml/kg、
対照実施例1煎じ薬:18ml/kg、
対照実施例2煎じ薬:18ml/kg、
対照実施例3煎じ薬:18ml/kg、
1.2 実験動物
SPF級のSDラット、体重180-220g、実験動物許可証号:SYXK(魯) 20180008、魯南製薬集団股▲ふん▼有限公司により提供、馴化のため1週間の予備飼育期間を設けた。
【0043】
2. 実験方法
2.1 モデル作製手技及びグループ分け
雌雄半々のラットを数匹用意し、適量のエーテルを小ピーカンに注ぎ、コットンを完全に浸潤させ、エーテル容器を締めた。エーテルをいれたピーカンをラットの麻酔ボックスに入れ、素早くラットをボックスに移し、麻酔ボックスをしっかり閉じた。ラットが倒れ、呼吸が遅くなったことを観察した後に麻酔ボックスから取り出し、その角膜反射及び痛覚による反射を検証した。止血鉗子の先端で優しくラットの角膜に触れ、閉眼及び回避行動がなければ、角膜反射がなくなったことを示す。続いて、止血鉗子で適度な力でラットの足指を挟み、もがくや回避行動がなければ、痛みにより反射がなくなったことを示す、これで全身麻酔ができたということになる。その後、ラットの右側の顔を上向きにして、操作台に固定させた。右側の顔面は手術部位であるため、1%ヨードにより消毒した。 ラットの右側耳介の中心点から右目の瞳孔に繋ぐラインの中心点から約1cmの皮膚切開を行い、切開口はラインと垂直し、切開口の皮下剥離を行い、筋肉層に達した。剥離されたラットの顔面神経のBuccal branchesに沿って、ラットの右側耳介方向に向け、右側顔面神経本幹が暴露されるまで剥離した。顔面神経本幹を剥離し、持針器の先端で顔面神経を90sクランプした。クランプにより損傷を完成した後に、傷口を3-0ナイロン系で閉創し、感染予防のため、エリスロマイシン軟膏を塗った。モデル作製に成功したラットを用意し、モデル組、実施例1(多量組、中等量組、少量組)の3組、実施例2-4組、対照実施例1-3組に分け、各組は10匹(雌雄5匹ずつ)ずつ、雌雄半分ずつにする。コントロール組はラット10匹(雌雄5匹ずつ)で、手術操作は前記内容とほぼ同じで、ただし、右側の顔面神経本幹は剥離させるだけで、損傷させる処理は行わなかった。
【0044】
2.2 投与
各組のラットに対し、上記定めた薬物を経口投与した。コントロール組とモデル組に対し同量の生理食塩水を与え、一日に一回、14日間を継続した。
【0045】
3.統計解析
統計解析には、統計ソフトウェア SPSS 22.0を用いた。計測資料は
で表示し、全群による比較には1元配置分散分析を用いた。各2群間の比較に独立標本T検定を行った。P < 0.05を統計学的有意水準とした。
【0046】
4 検討指標及び実験結果
4.1 ラットの行動学スコア
4.1.1 評価基準
4.1.2 統計学的な結果
【0047】
【0048】
各組のラットの顔面神経障害行動学スコアの比較結果により、投与0d時、コントロール組とモデル組はそれぞれ実施例1(多量組、中等量組、少量組)の3組、実施例2-4組、対照実施例1-4組と比べ、有意差が認めた(P<0.01)、モデルの作製は成功したと示した。また、投与14d時、コントロール組とモデル組はそれぞれ実施例1(多量組、中等量組、少量組)の3組、実施例2-4組、対照実施例1-4組と比べ、有意差が認めた(P<0.01)。
【0049】
4.2 投与14d時、ラットの術後片側の顔面神経にあるVEGFb、VEGFR1及びVEGFR2タンパク質の発見量
【0050】
【0051】
【0052】
したがって、上記薬力学実験の結果から、本発明の漢方薬組成物は、ラットの顔面神経障害に伴う顔面麻痺およびその他の症状を有意に緩和することができる、ラットの術後の片側の顔面神経にあるVEGFb、VEGFR1及びVEGFR2タンパク質の発見を著しく高め、損傷した軸索の回復と再生を促進させることができ、本発明の漢方薬組成物は顔面神経障害の治療に効果があることを示している。
【0053】
4.3 投与14d時、ラットの術後片側の顔面神経伝達速度に関して
14日間投与を経たラットに対し、注射で腹腔内麻酔を行い、顔面神経を剥離した。剥離された顔面神経に近端から遠端の順で刺激電極と記録電極をセットした。神経伝達速度CV(m-s-1)=刺激電極と記録電極の間の距離/伝達時間、10回を測定し、平均値を計算した。
【0054】
図1のように、各組のラットが14日間の投与を経て、神経伝達速度テストを行い、モデル組、コントロール組はそれぞれ実施例1(多量組、中等量組、低量組)の3組、実施例2-4組と比べ、有意差が認めた(P<0.01)。
【0055】
図2はモデル組、コントロール組と実施例1-3組のラットの顔面神経伝達速度の比較であり、データから、本発明の実施例に与える漢方薬組成物はラットの顔面神経に刺激を与えることができ、顔面神経障害の治療に効果があることを示している。
【0056】
4.4 ラットの顔面神経組織にあるBeclin1タンパク質、P62タンパク質の発見量について
14日間の投与を経たラットに対し、免疫組織化学染色により顔面神経組織にあるBeclin1タンパク質の発見量を計測し、RT-PCRにより顔面神経組織にあるP62タンパク質の発見量を計測した。
【0057】
図3-6はラットが投与を経た14日間後に、顔面神経組織にあるBeclin1タンパク質とP62タンパク質の発見量の比較である。結果により本発明の漢方薬組成物はラットの顔面神経組織にあるBeclin1タンパク質の発見量を抑え、P62タンパク質の発見量を高め、顔面神経の機能回復を促進した。モデル組、コントロール組はそれぞれ実施例1(多量組、中等量組、低量組)の3組、実施例2-4組と比べ、有意差が認めた(P<0.01)。
【0058】
以上ラットの行動スコアが示したように、本発明の漢方薬組成物は、ラットの顔面神経障害に伴う顔面麻痺、運動障害およびその他の症状を有意に緩和することができた。ラットの術後の片側の顔面神経にあるVEGFb、VEGFR1及VEGFR2タンパク質の発現量を著しく高め、損傷した軸索の回復と再生を促進させることができた。また、ラットの顔面神経に刺激を与え、神経の伝達速度を高めることができた。顔面神経組織にあるBeclin1タンパク質の発見量を抑え、P62タンパク質の発見量を高め、顔面神経の機能回復を促進した。したがって、本発明の漢方薬組成物は顔面神経障害に対し効果があり、顔面神経障害の関連症状を緩和することができる。