(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】電力変換装置、冷凍サイクル装置、およびモータシステム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241115BHJP
【FI】
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2024552679
(86)(22)【出願日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2023044143
【審査請求日】2024-09-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203677
【氏名又は名称】山口 力
(72)【発明者】
【氏名】寺田 陽
(72)【発明者】
【氏名】古庄 泰章
(72)【発明者】
【氏名】坂廼邉 和憲
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 健太
(72)【発明者】
【氏名】田中 大貴
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-099220(JP,A)
【文献】特開平9-033117(JP,A)
【文献】特開平11-159467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機を駆動する三相モータに電力を供給する電力変換装置であって、
前記三相モータに電気的に接続された少なくとも6個の半導体スイッチを有する三相インバータと、
前記少なくとも6個の半導体スイッチを制御するインバータ制御部と、
を備え、
前記三相インバータは、
直流電源の正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側U相スイッチと、前記正極側U相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側U相スイッチとを有し、前記三相モータのU相に対応するU相レグと、
前記直流電源の前記正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側V相スイッチと、前記正極側V相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の前記負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側V相スイッチとを有し、前記三相モータのV相に対応するV相レグと、
前記直流電源の前記正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側W相スイッチと、前記正極側W相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の前記負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側W相スイッチとを有し、前記三相モータのW相に対応するW相レグと、
を有し、
前記冷媒を予熱する場合、前記インバータ制御部は、前記U相レグ、前記V相レグ、および前記W相レグのうちの2つのレグを選択し、前記選択された2つのレグのうちの第1のレグの前記正極側半導体スイッチと前記選択された2つのレグのうちの第2のレグの前記負極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、前記第1のレグの前記負極側半導体スイッチと前記第2のレグの前記正極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、前記選択された2つのレグ以外の第3のレグの前記正極側半導体スイッチおよび前記負極側半導体スイッチをオフに維持する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記半導体スイッチのオン時間は、前記冷媒の液化が抑制されるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記三相インバータから出力される電流の波形は、不連続な三角形であることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記三相インバータから出力される電流の波形は、連続的な三角形であることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記三相インバータから出力される交流電流に直流成分が重畳されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記三相インバータから出力される交流電流に交流成分が重畳されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記三相インバータから出力される電流の1周期において前記半導体スイッチが全てオフとなる時間は、冷媒圧縮動作時のデッドタイム以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記三相インバータから出力される電流の1周期において前記半導体スイッチが全てオフとなる時間は、冷媒圧縮動作時のデッドタイムよりも長いことを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第1のレグの前記正極側半導体スイッチおよび前記第2のレグの前記負極側半導体スイッチのオン時間と、前記第1のレグの前記負極側半導体スイッチと前記第2のレグの前記正極側半導体スイッチのオン時間とを互いに異ならせて、フィードバック制御またはオープンループ制御によって前記三相インバータから出力される前記交流電流に前記直流成分が重畳されていることを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記第1のレグの前記正極側半導体スイッチおよび前記第2のレグの前記負極側半導体スイッチのオン時間と、前記第1のレグの前記負極側半導体スイッチと前記第2のレグの前記正極側半導体スイッチのオン時間とを時間変化させて、フィードバック制御またはオープンループ制御によって前記三相インバータから出力される前記交流電流に前記交流成分が重畳されていることを特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記選択される前記2つのレグは、前記インバータ制御部によって順次切り替えられることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記選択された2つのレグの各半導体スイッチのスイッチング動作時間と非スイッチング動作時間との和は、前記三相インバータから出力される電流の出力電圧が正と負を繰り返す1制御周期の時間よりも長いことを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記正極側U相スイッチ、前記負極側U相スイッチ、前記正極側V相スイッチ、および前記負極側V相スイッチの各スイッチング周波数は、9kHz以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記三相インバータから出力される電力は、50W以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記冷媒の液化の量に相関した検出量に基づいて、前記予熱を開始または前記予熱を終了することを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記検出量は、温度センサーによって検出される前記冷媒の温度、または前記選択された2つのレグの前記オンオフ制御の停止時間および動作時間であること特徴とする請求項15に記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記インバータ制御部は、前記正極側U相スイッチ、前記負極側U相スイッチ、前記正極側V相スイッチ、および前記負極側V相スイッチの各スイッチング周波数を、前記三相インバータの動作中に変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項18】
請求項1または2に記載の前記電力変換装置と、
圧縮機と
を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項19】
請求項1または2に記載の前記電力変換装置と、
前記三相モータと
を備えることを特徴とするモータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、冷凍サイクル装置、およびモータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル装置の長寿命化等に向けて圧縮機内部の冷媒の液化を抑制するためには、冷媒を予熱することが必要である。このため、外付けのヒータを圧縮機に巻き付けて冷媒を予熱する手法があるが、システムの高コスト化と大型化を招いてしまう。一方で、通常運転時に使用する三相インバータのスイッチング動作で直流または交流電流を圧縮機内の三相モータの巻き線に流すことで、巻線銅損またはコア鉄損による予熱を冷媒に加える手法がある。これにより、システムの低コスト化と小型化が実現される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、コモンモードノイズが大きいという課題がある。
【0005】
本開示の目的は、コモンモードノイズを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電力変換装置は、
冷媒を圧縮する圧縮機を駆動する三相モータに電力を供給する電力変換装置であって、
前記三相モータに電気的に接続された少なくとも6個の半導体スイッチを有する三相インバータと、
前記少なくとも6個の半導体スイッチを制御するインバータ制御部と、
を備え、
前記三相インバータは、
直流電源の正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側U相スイッチと、前記正極側U相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側U相スイッチとを有し、前記三相モータのU相に対応するU相レグと、
前記直流電源の前記正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側V相スイッチと、前記正極側V相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の前記負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側V相スイッチとを有し、前記三相モータのV相に対応するV相レグと、
前記直流電源の前記正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側W相スイッチと、前記正極側W相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の前記負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側W相スイッチとを有し、前記三相モータのW相に対応するW相レグと、
を有し、
前記冷媒を予熱する場合、前記インバータ制御部は、前記U相レグ、前記V相レグ、および前記W相レグのうちの2つのレグを選択し、前記選択された2つのレグのうちの第1のレグの前記正極側半導体スイッチと前記選択された2つのレグのうちの第2のレグの前記負極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、前記第1のレグの前記負極側半導体スイッチと前記第2のレグの前記正極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、前記選択された2つのレグ以外の第3のレグの前記正極側半導体スイッチおよび前記負極側半導体スイッチをオフに維持する。
本開示の一態様に係る冷凍サイクル装置は、
前記電力変換装置と、
圧縮機と
を備える。
本開示の一態様に係るモータシステムは、
前記電力変換装置と、
前記三相モータと
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、コモンモードノイズを低減することが可能な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置を有する冷凍サイクル装置1の一例を示す図である。
【
図2】電源部および三相インバータの一例を示す図である。
【
図3】冷媒圧縮動作時のインバータ制御部の一例を示す図である。
【
図4】冷媒予熱制御時のインバータ制御部の動作の一例を示す図である。
【
図5】冷媒予熱制御時のインバータ制御部の一例を示す図である。
【
図6】三相モータの三相のうちのU相およびV相に通電する場合における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
【
図7】実施の形態2における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態3における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態4における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
【
図10】三角形交流電流に交流成分を重畳する場合における電流波形の一例を示す図である。
【
図11】インバータ制御部によって選択される2つのレグの切り替えの一例を示す図である。
【
図12】バースト加熱を行う場合における通電パターンの一例を示す図である。
【
図13】バースト加熱時の電流波形の一例を示す図である。
【
図14】実施の形態8に係る電力変換器における予熱制御のインバータ制御部の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図15】スイッチング周波数の可変制御におけるスイッチング周波数の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態の形態について図を参照して説明する。なお、各図中、同一符号は、同一または相当する部分を示すものとする。
<実施の形態1>
以下、実施の形態1に係る電力変換装置100について、図を参照して説明する。
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置100を有する冷凍サイクル装置1の一例を示す図である。
冷凍サイクル装置1は、電力変換装置100と、圧縮機10とを有する。冷凍サイクル装置1は、例えば、空気調和機(Air To Air:ATA)、冷凍冷蔵装置、または冷房・暖房・給湯装置(Air To Water:ATW)である。
【0010】
図1における電力変換装置100は、電源部101と三相インバータ102とを有する。電力変換装置100は、圧縮機10に電気的に接続されている。
図1に示される例では、三相インバータ102は、圧縮機10に電気的に接続されている。電力変換装置100は、圧縮機10の内部に備えられた三相モータ11に電力を供給する。
【0011】
電力変換装置100(具体的には、三相インバータ102)は、三相モータ11に電気的に接続されている。
図1に示されるモータシステム2は、電力変換装置100と三相モータ11とを有する。
【0012】
圧縮機10は、三相モータ11と圧縮機構12とを有する。圧縮機10は、ヒートポンプサイクル内で使用する冷媒を圧縮する。圧縮機10に内包される三相モータ11は、冷媒圧縮動作に際し、圧縮機10の圧縮機構12を駆動する。三相インバータ102は、三相モータ11に所望の周波数や振幅の電圧を印加する。
【0013】
電源部101と三相インバータ102は、電力線PL1、三相インバータ102と三相モータ11は電力線PL2で接続されている。電源部101の一端は、電源接地線PGLで接地線GLに接続されている。三相インバータ102と接地線GL、三相モータ11と接地線GLの間には、対地寄生容量SCが存在している。
【0014】
図2は、電源部101および三相インバータ102の一例を示す図である。
電源部101は、ダイオード整流器101aと平滑コンデンサ101bとを有する。電源部101は、三相交流系統電源103に電気的に接続されている。
図2に示される例では、ダイオード整流器101aは、三相交流系統電源103に電気的に接続されている。
【0015】
三相交流系統電源103の交流電圧はダイオード整流器で整流して直流電圧に変換される。平滑コンデンサ101bは、直流電圧のリプル成分を低減する。電源部101が出力する直流電圧は、電力線PL1を介して三相インバータ102に供給される。三相交流系統電源103は、例えば直流(蓄電池等)、交流(発電機、変換器等)、単相(二線式または三線式)、三相(三線式または四線式)であってもよい。電源部101は、例えば、半導体スイッチを用いた力率改善回路、昇圧チョッパ回路、降圧チョッパ回路、アクティブフィルタ回路を含んでいてもよい。または、これらの複数回路の組み合わせであってもよい。電源部101が出力する直流電圧は、大きく脈動していてもよい。
【0016】
三相インバータ102は、少なくとも6個の半導体スイッチと、インバータ制御部102aとを備えている。
図2に示される例では、三相インバータ102は、半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNを有する。半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNの各々は、逆並列ダイオードを有する。半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNは、三相モータ11に電気的に接続されている。
【0017】
半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNは、U相レグ102Uと、V相レグ102Vと、W相レグ102Wとを有する。U相レグ102Uは、三相モータ11のU相に対応する。V相レグ102Vは、三相モータ11のV相に対応する。W相レグ102Wは、三相モータ11のW相に対応する。U相を「第1相」と称してもよく、V相を「第2相」と称してもよく、W相を「第3相」と称してもよい。U相レグ102Uを「第1のレグ」と称してもよく、V相レグ102Vを「第2のレグ」と称してもよく、W相レグ102Wを「第3のレグ」と称してもよい。
【0018】
<U相レグ102U>
U相レグ102Uは、直流電源(例えば、電源部101)の正極側に接続される正極側半導体スイッチである半導体スイッチUPと、直流電源(例えば、電源部101)の負極側に接続される負極側半導体スイッチである半導体スイッチUNとを有する。半導体スイッチUNは、半導体スイッチUPに直列に接続されている。半導体スイッチUPを「正極側U相スイッチUP」とも称する。半導体スイッチUNを「負極側U相スイッチUN」とも称する。正極側半導体スイッチを「正極側スイッチ」とも称し、負極側半導体スイッチを「負極側半導体スイッチ」とも称する。
【0019】
<V相レグ102V>
V相レグ102Vは、直流電源(例えば、電源部101)の正極側に接続される正極側半導体スイッチである半導体スイッチVPと、直流電源(例えば、電源部101)の負極側に接続される負極側半導体スイッチである半導体スイッチVNとを有する。半導体スイッチVNは、半導体スイッチVPに直列に接続されている。半導体スイッチVPを「正極側V相スイッチVP」とも称する。半導体スイッチVNを「負極側V相スイッチVN」とも称する。正極側半導体スイッチを「正極側スイッチ」とも称し、負極側半導体スイッチを「負極側半導体スイッチ」とも称する。
【0020】
<W相レグ102W>
W相レグ102Wは、直流電源(例えば、電源部101)の正極側に接続される正極側半導体スイッチである半導体スイッチWPと、直流電源(例えば、電源部101)の負極側に接続される負極側半導体スイッチである半導体スイッチWNとを有する。半導体スイッチWNは、半導体スイッチWPに直列に接続されている。半導体スイッチWPを「正極側W相スイッチWP」とも称する。半導体スイッチWNを「負極側W相スイッチWN」とも称する。正極側半導体スイッチを「正極側スイッチ」とも称し、負極側半導体スイッチを「負極側半導体スイッチ」とも称する。
【0021】
3つのレグ(すなわち、U相レグ102U、V相レグ102V、およびW相レグ102W)は、並列に接続されている。各レグはU相、V相、W相にそれぞれ対応する出力端子U、V、Wに接続され、出力端子U、V、Wを介して電力線PL2に接続される。
【0022】
半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNは、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の自己消弧形の半導体素子を用いている。また半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNは、複数の半導体スイッチを並列または直列に接続して構成してもよい。
【0023】
インバータ制御部102aは、半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNにそれぞれ接続されている。インバータ制御部102aは、半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNを制御する。三相インバータ102は、インバータ制御部102aが出力する制御信号を基に、半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNをオンとオフのスイッチング動作させることで所望の電圧を三相インバータ102に印加する。
【0024】
三相インバータ102は、少なくとも2つの動作モードを有する。動作モードは、通常動作である冷媒圧縮動作と、冷媒を予熱する動作である冷媒予熱制御とを含む。冷媒予熱制御を、予熱制御ともいう。インバータ制御部102aは、予め定められた条件に従って、三相インバータ102の動作モードを切り替えることができる。
【0025】
三相インバータ102は、冷媒圧縮動作に伴う三相モータ11の回転駆動制御とは別に、圧縮機10の内部の冷媒の液化を抑制のために三相モータ11の巻線に直流または交流の電流を通電させて巻線銅損やコア鉄損で冷媒を予熱する制御もできる。冷媒予熱制御を行うことで、圧縮機10に従来は外付けしていたヒータを削減することができる。
【0026】
図3は、冷媒圧縮動作時のインバータ制御部102aの一例を示す図である。
インバータ制御部102aは、例えば、各相の電圧指令Vu_ref,Vv_ref,Vw_ref、キャリア102b(圧縮動作用)、大小判定する比較器102c、AND回路102d、NOR回路102e、Td遅延器102fを有する。比較器102c、AND回路102d、NOR回路102e、およびTd遅延器102fは、各レグの正極側半導体スイッチと負極側半導体スイッチとの間でレグ短絡が生じないように、各レグの正極側半導体スイッチおよび負極側半導体スイッチが共にオフとなる時間であるデッドタイムを設けるための回路を構成する。Td遅延器102fは、挿入する任意のデッドタイムの時間Td分を遅延させる。
【0027】
冷媒圧縮動作では、例えば、各相120度位相シフトした正弦波状の電圧指令Vu_ref,Vv_ref,Vw_refと三角形状のキャリア波形とを比較器で比較し、半導体スイッチのオンおよびオフの信号のベース電流を作成する。そして、その電流をAND回路102d、NOR回路102e、Td遅延器102fに通すことで、デッドタイムを挿入し、最終的な半導体スイッチのオンとオフの信号を作成する。これにより、三相モータ11に所望の三相交流電圧を印加し、三相モータ11を回転動作させて冷媒を圧縮する。
【0028】
なお、デッドタイムは、レグ短絡が生じない必要最小時間以上であれば任意に設定可能である。また、出力電圧または電流の歪みを小さくするためには、デッドタイムを短く設定することが望ましい。
【0029】
冷媒予熱制御では、冷媒圧縮動作制御と比較して、加熱性能または騒音などの観点から半導体スイッチUP、VP、WP、UN、VN、WNのスイッチング周波数を高く設定する場合が多く、特にコモンモードノイズが問題となりうる。そのため本願では電力変換装置100の予熱制御において、コモンモードノイズを低減する制御手法を開示する。コモンモードノイズとは、半導体スイッチのスイッチング動作に伴い接地線GLに流れる電流を指すこととして定義される。
【0030】
<冷媒予熱制御>
三相インバータ102の冷媒予熱制御を以下に具体的に説明する。
図4は、冷媒予熱制御時のインバータ制御部102aの動作の一例を示す図である。
三相モータ11は、例えば、Y結線モータであり、各相のモータ巻き線インピーダンスをZu、Zv、Zwとする。ただし、三相モータ11は、デルタ巻線モータでもよく、複数の巻線は、直列接続または並列接続した構成でもよく、二重三相モータを採用しもよい。極数はいくつでもよい。
【0031】
予熱制御では、三相のうち二相を選択し、その選択された二相を一定時間通電する方式としている。
図4では、U相とV相を選択した例を示している。この場合、冷媒を予熱するための電流Ioutは、電力変換装置100のU相電圧VuとV相電圧Vvとの差の線間出力電圧VoutによってU相とV相のみ流れ、W相は理想的には流れない。また、電力変換装置100の半導体スイッチは、U相とV相の半導体スイッチUP、UN、VP、VNのみオンとオフのスイッチング動作をさせる。W相の半導体スイッチWP,WNは、ともにオフである。
図4では、各相電圧を直流電圧の負極側ラインから各相出力端子をみた電圧を正と定義する。また、出力電流はU相出力端子から、U相V相のインピーダンスを経由してV相出力端子に流れ込む向きを正と定義する。直流電源部の電圧をVdcとする。
【0032】
予熱制御では、二相のうちの第1の相の正極側半導体スイッチと第2の相の負極側半導体スイッチ、第1の相の負極側半導体スイッチと第2の相の正極側半導体スイッチを対角のペアのスイッチとし、選択された二相の対角のペアの半導体スイッチのオンとオフを同じパターンとする。
図3に示すU相V相巻線通電時では、半導体スイッチUPと半導体スイッチVNとが対角ペアのスイッチであり、半導体スイッチUNと半導体スイッチVPとが対角ペアのスイッチであり、半導体スイッチUPと半導体スイッチVNとを同じスイッチングパターンとし、半導体スイッチUNと半導体スイッチVPとを同じスイッチングパターンとする。
【0033】
すなわち、冷媒を予熱する場合、インバータ制御部102aは、U相レグ102U、V相レグ102V、およびW相レグ102Wのうちの2つのレグを選択し、選択された2つのレグのスイッチングを制御するとともに、選択された2つのレグ以外の1つのレグの正極側半導体スイッチおよび負極側半導体スイッチをオフとする。
【0034】
具体的には、冷媒を予熱する場合、インバータ制御部102aは、U相レグ102U、V相レグ102V、およびW相レグ102Wのうちの2つのレグを選択し、選択された2つのレグのうちの第1のレグの正極側半導体スイッチと選択された2つのレグのうちの第2のレグの負極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、第1のレグの負極側半導体スイッチと第2のレグの正極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、選択された2つのレグ以外の第3のレグの正極側半導体スイッチおよび負極側半導体スイッチをオフに維持する。
【0035】
本実施の形態では、インバータ制御部102aは、例えば、U相レグ102U、V相レグ102V、およびW相レグ102WのうちU相レグ102UおよびV相レグ102Vを選択し、選択されたU相レグ102UおよびV相レグ102Vのスイッチングを制御する。具体的には、インバータ制御部102aは、正極側U相スイッチUPおよび負極側V相スイッチVNを同じタイミングでオンオフ制御し、負極側U相スイッチUNおよび正極側V相スイッチVPを同じタイミングでオンオフ制御し、W相レグ102Wの正極側W相スイッチWPおよび負極側W相スイッチWNをオフに維持する。
【0036】
インバータ制御部102aによって選択された二相の半導体スイッチのスイッチング周波数は、例えば、9kHz以上である。本実施の形態では、U相レグ102UおよびV相レグ102Vの各半導体スイッチのスイッチング周波数は、9kHz以上である。すなわち、正極側U相スイッチUP、負極側U相スイッチUN、正極側V相スイッチVP、および負極側V相スイッチVNの各スイッチング周波数は、9kHz以上である。この場合、鉄損増加による加熱効率が向上し、加熱時間の短時間化が可能となる。
【0037】
図5は、冷媒予熱制御時のインバータ制御部102aの一例を示す図である。
各半導体スイッチのスイッチパターン生成に使用するキャリア102bは、180度反転した2つを一例として示している。一方で、キャリア102bは例えば1つであってもよい。この場合も
図4と同様のスイッチングパターンを生成する信号論理または回路であればよい。本願の趣旨の範囲内で、スイッチングパターン生成にはキャリア102bを1つまたは複数使ってもよいし、スイッチの信号論理をスイッチごとに適切に切り替えてもよい。
【0038】
DUTYとは、後述する
図6でのインバータ出力電流Ioutが正と負を繰り返す1制御周期(例えばt1からt7)に対する各半導体スイッチのオン時間割合である。本実施の形態では、正極側U相スイッチUPおよび負極側V相スイッチVNにおけるDUTYを、「DUTY1」として示し、正極側V相スイッチVP及び負極側U相スイッチUNにおけるDUTYを、「DUTY2」として示す。各半導体スイッチにおいて、DUTYを1つまたは3以上に設定してもよい。または、複数のDUTYを切り替える機構であってもよい。
【0039】
図6は、三相モータ11の三相のうちのU相およびV相に通電する場合における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
図6において、インバータ制御部102aが出力する各半導体スイッチの駆動信号について、「1」の場合に半導体スイッチはオンであり、「0」の場合に半導体スイッチはオフである。
図6では、正極側U相スイッチUPと負極側V相スイッチVN、負極側U相スイッチUNと正極側V相スイッチVPのオンとオフのスイッチングパターンが同じとなっている。正極側W相スイッチWPと負極側W相スイッチWNは、ともにオフであるため
図6では省略している。
【0040】
例えば、半導体スイッチのオン時間は、冷媒の液化が抑制されるように設定されている。これにより、様々な負荷のインピーダンスに応じて、所望の加熱量を得ることができる。
【0041】
本実施の形態では、三相インバータ102から出力される電流(すなわち、インバータ出力電流Iout)の波形は、不連続な三角形である。これにより、所望の加熱量を得ることができる。
【0042】
図6では、三角形で不連続な交流電流を出力するDUTY1=DUTY2=0.15の場合を一例で示している。DUTYの定義や指定できるDUTYは、これに限らない。実際の電流波形は、三相モータ巻き線のインピーダンスがインダクタンスと抵抗、コンデンサ成分の複合であるため完全な三角形ではない。
【0043】
図6に示される出力電流Ioutの動作を以下に説明する。
時刻t1から時刻t2の間では、正極側U相スイッチUPと負極側V相スイッチVNのみオンする。これにより、V相からみたU相出力端子間である出力電圧Voutが正となる。よって、出力電流Ioutは増加する。
【0044】
時刻t2から時刻t3の間では、全半導体スイッチがオフとなる。このときモータ巻き線のインダクタンス成分によって出力電流Ioutが流れ続けようとする。これにより、VPとUNの逆並列ダイオードが導通する。よって、出力電圧Voutが負となり、出力電流Ioutは減少する。
【0045】
時刻t3から時刻t4の間では、引き続き全半導体スイッチがオフである。時刻t3で出力電流Ioutが0電流に到達すると、逆並列ダイオードが非導通となって0電流が継続される。
【0046】
これら時刻t1から時刻t4の動作により、正の電流が出力される。一方で負の電流については、負極側U相スイッチUNと正極側V相スイッチVPをスイッチング動作させる。電流の動作については、正の電流と同様である。
【0047】
時刻t4から時刻t5の間では、負極側U相スイッチUNと正極側V相スイッチVPのみオンする。これにより、V相からみたU相出力端子間である出力電圧Voutが負となる。よって、出力電流Ioutは減少する。
【0048】
時刻t5から時刻t6の間では、全半導体スイッチがオフとなる。このときモータ巻き線のインダクタンス成分によって出力電流Ioutが流れ続けようとする。これにより、負極側V相スイッチVNと正極側U相スイッチUPの逆並列ダイオードが導通する。よって、出力電圧Voutが正となり、出力電流Ioutは増加する。
【0049】
時刻t6から時刻t7の間では、引き続き全半導体スイッチがオフである。時刻t6で出力電流Ioutが0電流に到達すると、逆並列ダイオードが非導通となって0電流が継続される。
【0050】
指定するDUTYは、それぞれのモータの巻線インピーダンスに応じて、所望の加熱電力を達成するように決定される。つまり、半導体スイッチのオン時間で電力を制御する。
【0051】
特にモータの巻き線インピーダンスが低い場合には、加熱電力が過剰となる傾向がある。この場合、
図4に示す1制御周期内で全半導体スイッチをオフにし、0電流区間を設けて加熱電力を調整する方式が効果的である。この全半導体スイッチをオフとする時間は、予熱制御ではなく冷媒圧縮動作時のデッドタイムよりも大きくした所定の時間とする。すなわち、三相インバータ102から出力される出力電流Ioutの1周期において半導体スイッチが全てオフとなる時間は、冷媒圧縮動作時のデッドタイムよりも長い。これにより冷媒の液化を抑制のための適切な電力とすることで、加熱時間の短時間化または省エネ化が可能となる。
【0052】
一方で、所望の電力から決定される半導体スイッチのオフ時間を通常の冷媒圧縮動作時のデッドタイムにしてもよい。したがって、三相インバータ102から出力される出力電流Ioutの1周期において半導体スイッチが全てオフとなる時間は、冷媒圧縮動作時のデッドタイム以上でもよい。この場合でも、冷媒の液化を抑制のための適切な電力とすることで、加熱時間の短時間化または省エネ化が可能となる。
【0053】
上述の一連の制御動作により、電力変換装置100から三相モータ11の巻線に電流を流して冷媒を予熱する。
【0054】
所望の加熱電力は、例えば冷媒の液化を抑制するために必要な電力量と加熱時間から決定される。その他には、モータを焼損しない最大の電力や、日本国内で高周波利用設備申請が不要となる50W以下などがある。本実施の形態では、三相インバータ102から出力される電力は、50W以下である。この場合、高周波利用設備が不要となるという利点がある。
【0055】
電力変換装置100の予熱制御によってコモンモードノイズが低減するメカニズムを以下に説明する。
【0056】
電力変換装置100の予熱制御では、
図6に示すように対角ペアを構成する2つの半導体スイッチを同じスイッチングパターンとする。そして、対角ペアの2つの半導体スイッチを同じDUTYとし、180度位相差を持つ2つのキャリアとそれぞれ比較することで、各相出力電圧が互いに反転となる。そのため、
図6に示される波形の例では、U相とV相の出力電圧Vu,Vvが反転されている。これにより、U相とV相との間の線間電圧VoutによってU相V相巻線に予熱電流Ioutが流れる。一方で、各相の出力電圧Vu,Vvが反転されていることで、各相の対地容量にもそれぞれ反転された対地電流が流れる。これにより、接地線GLに流れる電流が打ち消される。
【0057】
実施の形態1によれば、電力変換装置100の予熱制御で発生するコモンモードノイズを低減することができる。三相インバータ102の制御は、本質的には冷媒予熱制御のみに限定されない。例えば、誘導加熱装置、太陽光発電、電動車や蓄電池システムなどの三相インバータまたはコンバータの制御に適用可能である。この場合においても、コモンモードノイズを低減することができる。
【0058】
<実施の形態2>
以下、実施の形態2に係る電力変換装置100について、図を用いて説明する。
図7は、実施の形態2における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
本実施の形態では、三相インバータ102から出力される電流(すなわち、インバータ出力電流Iout)の波形は、連続的な三角形である。実施の形態2では、DUTY1=DUTY2=0.25としている点で実施の形態1と異なる。出力電流波形Ioutは、0電流が継続する区間がなく、連続的な三角形交流電流となっている。三角形交流電流を三角波形信号ともいう。
【0059】
三相モータのインピーダンスが高い場合には、所望の加熱量を達成するためにDUTY1,DUTY2を大きくし、電流値を増やす必要がある。DUTY1=DUTY2=0.25未満では不連続、DUTY1=DUTY2=0.25以上では連続的な三角形電流となる。DUTY1=DUTY2=0.25では、DUTY1=DUTY2=0.25未満の場合と比較して、逆並列ダイオードが非導通となるタイミングと同時に、逆極性の電圧を出力する対角ペアのスイッチをオンするという制御上の特徴がある。
【0060】
実施の形態2によれば、三角形で連続的な交流電流を出力することで、実施の形態1の三角形で不連続な交流電流波形と比較して、加熱電力を増強することができる。
【0061】
<実施の形態3>
以下、実施の形態3に係る電力変換装置100について、図を用いて説明する。
図8は、実施の形態3における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
図8に示される例では、実施の形態2とは異なる三角形で連続な交流電流を出力する各構成要素の波形の一例が示されている。実施の形態1、2の
図6,7において、DUTY1=DUTY2=0.5とした場合である。DUTY1=DUTY2=0.5とした場合には、正極半導体スイッチと負極半導体スイッチの上下アーム短絡を防ぐために全半導体スイッチをオフとするデッドタイムを挿入する必要がある。よって実施上では、DUTY1=DUTY2=0.5の時間からデッドタイムを差し引いた時間が、各半導体スイッチの実際のオン時間となる。
【0062】
図7のDUTY1=DUTY2=0.25と同様に、出力電流波形Ioutは0電流となる区間がなく、連続的な三角形交流電流となっている。よって、
図7のDUTY1=DUTY2=0.25と
図8の0.5で、加熱電力はおよそ変わらない。これらの差異は、半導体スイッチのオン時の電流状態である。DUTY1=DUTY2=0.25以下では、半導体スイッチのオン時に出力電流が0である。一方で、DUTY1=DUTY2=0.5では0ではない。また、半導体スイッチにMOSFETを使用した場合には、半導体スイッチをオンするタイミングにおいて自身の逆並列ダイオードを導通しており、オンによって通常は逆並列ダイオードからチャネルに逆導通経路が切り替わる。半導体にIGBTを使用した場合には、半導体スイッチをオンしてもチャネルは逆導通不可のため、自身の逆並列ダイオードを導通している。出力電流の極性が切り替わるタイミングで、オンしていた自身の半導体スイッチが順方向導通する特徴がある。
【0063】
DUTYは、0.25より大きく0.5未満の範囲も選択することができる。このDUTYの範囲内では、同様に連続的な三角形交流電流となっており、前述のDUTY=0.5と同様の動作をする。
【0064】
実施の形態3によれば、三角形で連続的な交流電流を出力することで、実施の形態1の三角形で不連続な交流電流波形に対して、加熱電力を増強することができる。
【0065】
<実施の形態4>
以下、実施の形態4に係る電力変換装置100について、図を用いて説明する。
図9は、実施の形態4における各構成要素の動作(波形)の一例を示す図である。
図9に示される例では、三角形交流電流に対して直流電流を重畳させる場合の過渡状態を含めた各部波形の一例が示されている。実施の形態4に係る電力変換装置100では、三相インバータ102から出力される交流電流に直流成分が重畳されている。
【0066】
具体的には、正の出力電圧に相当する正極側U相スイッチUPと負極側V相スイッチVNのDUTY1、および、負の出力電圧に相当する負極側U相スイッチUNと正極側V相スイッチVPのDUTY2について、正電圧DUTY1を負電圧DUTY2よりも大きくすることで、正の直流電流を重畳させる。
【0067】
図9に示されるように、定常状態ではDUTY1とDUTY2が0.5となっている。実際にはモータ巻き線の抵抗成分によって、DUTY1は0.5よりわずかに大きく、DUTY2は0.5よりわずかに小さい。
【0068】
直流電流を重畳させる制御手段としては、出力電流Ioutをセンシングして所定の直流電流成分とするフィードバック制御がある。また、出力電流Ioutをセンシングせずに、固定のDUTY1とDUTY2として、所定の直流電流成分とするオープンループ制御がある。上述の所定の直流成分は、実施の形態1と同様に、所定の加熱電力から決定される。
【0069】
例えば、U相レグ102U、V相レグ102V、およびW相レグ102Wの中から選択された2つのレグのうちの第1のレグの正極側半導体スイッチおよび第2のレグの負極側半導体スイッチのオン時間と、第1のレグの負極側半導体スイッチと第2のレグの正極側半導体スイッチのオン時間とを互いに異ならせて、フィードバック制御またはオープンループ制御によって三相インバータ102から出力される交流電流に直流成分が重畳される。
【0070】
図9では、デッドタイムを省略しているが、実際にはデッドタイムを挿入する必要がある。
図9では省略したが、正電圧DUTY1よりも負電圧DUTY2を大きくすることで、負の直流電流を重畳させることができ、同様の効果が得られる。
【0071】
実施の形態4によれば、実施の形態1から3の三角形交流電流の加熱電力分に対して、直流電流による加熱電力分を追加することができる。これは、モータの巻線インピーダンスが高い場合に、加熱電力を増強する手段として有効である。すなわち、実施の形態4では、加熱電力を増強することができる。
【0072】
<実施の形態5>
以下、実施の形態5に係る電力変換装置100について、図を用いて説明する。
図10は、三角形交流電流に交流成分を重畳する場合における電流波形の一例を示す図である。
実施の形態5に係る電力変換装置100では、三相インバータ102から出力される交流電流に交流成分が重畳されている。また、実施の形態5では、実施の形態4(例えば、
図9)と同様に、デッドタイムを挿入する。
【0073】
具体的には、実施の形態4の正電圧DUTY1と負電圧DUTY2の割合を時間変化させ、三角形交流電流に対して交流成分を重畳させる。重畳させる交流の周波数は、低周波から高周波まで幅広く選択可能である。例えば可聴周波数の下限値である20Hz以下の低周波でもよいし、スイッチング周波数に近い10kHz以上の高周波でもよい。選択可能な周波数は、上述の例に限らない。
【0074】
交流電流成分を重畳させる手段としては、出力電流Ioutをセンシングして所定の交流電流成分とするフィードバック制御がある。また、出力電流Ioutをセンシングせずに、固定のDUTY1とDUTY2として、所定の交流電流成分とするオープンループ制御がある。この所定の交流電流成分は、実施の形態1と同様に、所定の加熱電力から決定される。
【0075】
例えば、U相レグ102U、V相レグ102V、およびW相レグ102Wの中から選択された2つのレグのうちの第1のレグの正極側半導体スイッチおよび第2のレグの負極側半導体スイッチのオン時間と、第1のレグの負極側半導体スイッチと第2のレグの正極側半導体スイッチのオン時間とを時間変化させて、フィードバック制御またはオープンループ制御によって三相インバータ102から出力される交流電流に交流成分が重畳される。
【0076】
実施の形態5によれば、交流電流に交流成分を重畳することによって加熱電力を増強することができる。
【0077】
<実施の形態6>
以下、実施の形態6に係る電力変換装置について、図を用いて説明する。
図11は、インバータ制御部102aによって選択される2つのレグの切り替えの一例を示す図である。
実施の形態6では、通電する二相を順次切り替える。すなわち、実施の形態6では、冷媒を予熱する場合、インバータ制御部102aによって選択される2つのレグは、インバータ制御部102aによって順次切り替えられる。
【0078】
図11に示される例では、「UV」は、U相レグ102UおよびV相レグ102V(すなわち、U相およびV相)を示し、「VW」は、V相レグ102VおよびW相レグ102W(すなわち、V相およびW相)を示し、「WU」は、W相レグ102WおよびU相レグ102U(すなわち、W相およびU相)を示す。すなわち、
図11に示される例では、インバータ制御部102aによって選択される2つのレグは、U相レグ102UおよびV相レグ102Vの組(第1グループともいう)、V相レグ102VおよびW相レグ102Wの組(第2グループともいう)、W相レグ102WおよびU相レグ102Uの組(第3グループともいう)の順に切り替えられる。
【0079】
相の順番は全て選択可能であり、例えばWU相、VW相、UV相の順でもよい。またUV相、VW相、WU相の全相を加熱しなくてもよく、例えばUV,VW相のみの2つの組み合わせだけでもよい。予熱動作の開始時や終了時の通電相も、全て選択可能である。また各相の切り替えは連続的でなくてもよく、全相休止時間があってもよい。各相の通電時間は、1制御周期の極短時間でもよいし、数ミリ秒、数秒、数分、数時間単位でもよい。
【0080】
実施の形態6によれば、各相の加熱ムラを低減することができる。
【0081】
<実施の形態7>
以下、実施の形態7に係る電力変換装置について、図を用いて説明する。
図12は、バースト加熱を行う場合における通電パターンの一例を示す図である。
実施の形態7では、選択する二相について、一定時間の通電時間と非通電時間を設ける。例えば、インバータ制御部102aによって選択された2つのレグの各半導体スイッチのスイッチング動作時間と非スイッチング動作時間との和は、三相インバータ102から出力される電流の出力電圧が正と負を繰り返す1制御周期の時間よりも長い。
図12は、UV相を選択した場合を一例として示している。通電時間と非通電時間は、1制御周期の極短時間でもよいし、数ミリ秒、数秒、数分、数10分単位でもよい。
【0082】
図13は、バースト加熱時の電流波形の一例を示す図である。
図13では、連続的な三角形交流電流を流した場合を示している。電流波形については、不連続な三角形電流や直流重畳、低周波または交流重畳であってよい。または、これらの電流波形を組み合わせた場合など、多様な形態がある。通電時間と非通電時間は、同一でなくてもよい。
【0083】
実施の形態7によれば、通電時間と非通電時間を設けることで、時間平均した場合に所望の加熱量を実現することができる。また、バースト方式とすることで0電流からの電流立ち上がるまたは立ち下がるタイミングの頻度が下がり、高周波帯域のノイズを低減することができる。
【0084】
<実施の形態8>
以下、実施の形態8に係る電力変換装置100について、図を用いて説明する。
図14は、実施の形態8に係る電力変換装置100における予熱制御時のインバータ制御部102aの動作の一例を示すフローチャートである。
実施の形態8では、冷媒の液化の量に相関した検出量に基づいて、予熱を開始または終了する。
【0085】
まず、インバータ制御部102aは、冷媒の液化の量に相関した検出量を取得する(ステップS1)。この検出量は、例えば、温度センサーによって検出される冷媒の温度、または選択された2つのレグのオンオフ制御の停止時間および動作時間である。
【0086】
インバータ制御部102aは、検出量が予熱制御開始の判定基準を満たしているかどうかを判定する(ステップS2)。検出量が予熱制御開始の判定基準を満たしている場合には、インバータ制御部102aは、予熱制御を開始する(ステップS3)。検出量が予熱制御開始の判定基準を満たしていない場合には、インバータ制御部102aは、検出量を再度取得する。インバータ制御部102aは、予熱制御開始の判定基準を満たすまで検出量を取得し続けて待機する。
【0087】
予熱制御を実施した場合には、ステップS1と同様に検出量を取得する(ステップS4)。ステップS1と同様にこの検出量は例えば温度センサー、予熱制御の停止時間と動作時間である。
【0088】
インバータ制御部102aは、検出量が予熱制御終了の判定基準を満たしているかどうかを判定する(ステップS5)。検出量が予熱制御終了の判定基準を満たしている場合には、インバータ制御部102aは、予熱制御を終了する。検出量が予熱制御終了の判定基準を満たしていない場合には、インバータ制御部102aは、予熱制御を再度実施し、検出量を取得する。インバータ制御部102aは、予熱制御終了の判定基準を満たすまで検出量を取得し続けて予熱を継続する。
【0089】
実施の形態8によれば、所定の加熱量を実現することができる。また、冷媒液化状態の必要なタイミングのみ予熱制御することで、省エネ化が可能となる。
【0090】
<実施の形態9>
以下、実施の形態9に係る電力変換装置100について、図を用いて説明する。
図15は、スイッチング周波数の可変制御におけるスイッチング周波数の変化の一例を示す図である。
実施の形態1から8では、スイッチング周波数を固定とした一例を示したが、実施の形態9ではスイッチング周波数を動的に変化させる。すなわち、インバータ制御部102aは、インバータ制御部102aによって選択された二相のレグの各半導体スイッチのスイッチング周波数を、三相インバータ102の動作中に変化させる。例えば、インバータ制御部102aは、正極側U相スイッチUP、負極側U相スイッチUN、正極側V相スイッチVP、および負極側V相スイッチVNの各スイッチング周波数を、三相インバータ102の動作中に変化させる。
【0091】
図15では、三角形状にスイッチング周波数を変化させた場合を一例として示している。この他には、正弦波状やステップ変化させる四角形状などがある。また、スイッチング周波数の上限値や下限値、中央値も動的に変化させる。
【0092】
実施の形態9によれば、スイッチング周波数を変化させることでノイズスペクトラムを拡散し、準尖頭値または平均値のノイズを低減することができる。
【0093】
以上に説明した各実施の形態における特徴は、互いに組み合わせることができる。
【0094】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
冷媒を圧縮する圧縮機を駆動する三相モータに電力を供給する電力変換装置であって、
前記三相モータに電気的に接続された少なくとも6個の半導体スイッチを有する三相インバータと、
前記少なくとも6個の半導体スイッチを制御するインバータ制御部と、
を備え、
前記三相インバータは、
直流電源の正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側U相スイッチと、前記正極側U相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側U相スイッチとを有し、前記三相モータのU相に対応するU相レグと、
前記直流電源の前記正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側V相スイッチと、前記正極側V相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の前記負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側V相スイッチとを有し、前記三相モータのV相に対応するV相レグと、
前記直流電源の前記正極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの正極側半導体スイッチである正極側W相スイッチと、前記正極側W相スイッチに直列に接続されるとともに前記直流電源の前記負極側に接続される前記少なくとも6個の半導体スイッチのうちの負極側半導体スイッチである負極側W相スイッチとを有し、前記三相モータのW相に対応するW相レグと、
を有し、
前記冷媒を予熱する場合、前記インバータ制御部は、前記U相レグ、前記V相レグ、および前記W相レグのうちの2つのレグを選択し、前記選択された2つのレグのうちの第1のレグの前記正極側半導体スイッチと前記選択された2つのレグのうちの第2のレグの前記負極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、前記第1のレグの前記負極側半導体スイッチと前記第2のレグの前記正極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、前記選択された2つのレグ以外の第3のレグの前記正極側半導体スイッチおよび前記負極側半導体スイッチをオフに維持する、
ことを特徴とする電力変換装置。
(付記2)
前記半導体スイッチのオン時間は、前記冷媒の液化が抑制されるように設定されていることを特徴とする付記1に記載の電力変換装置。
(付記3)
前記三相インバータから出力される電流の波形は、不連続な三角形であることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記4)
前記三相インバータから出力される電流の波形は、連続的な三角形であることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記5)
前記三相インバータから出力される交流電流に直流成分が重畳されていることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記6)
前記三相インバータから出力される交流電流に交流成分が重畳されていることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記7)
前記三相インバータから出力される電流の1周期において前記半導体スイッチが全てオフとなる時間は、冷媒圧縮動作時のデッドタイム以上であることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記8)
前記三相インバータから出力される電流の1周期において前記半導体スイッチが全てオフとなる時間は、冷媒圧縮動作時のデッドタイムよりも長いことを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記9)
前記第1のレグの前記正極側半導体スイッチおよび前記第2のレグの前記負極側半導体スイッチのオン時間と、前記第1のレグの前記負極側半導体スイッチと前記第2のレグの前記正極側半導体スイッチのオン時間とを互いに異ならせて、フィードバック制御またはオープンループ制御によって前記三相インバータから出力される前記交流電流に前記直流成分が重畳されていることを特徴とする付記5に記載の電力変換装置。
(付記10)
前記第1のレグの前記正極側半導体スイッチおよび前記第2のレグの前記負極側半導体スイッチのオン時間と、前記第1のレグの前記負極側半導体スイッチと前記第2のレグの前記正極側半導体スイッチのオン時間とを時間変化させて、フィードバック制御またはオープンループ制御によって前記三相インバータから出力される前記交流電流に前記交流成分が重畳されていることを特徴とする付記6に記載の電力変換装置。
(付記11)
前記選択される前記2つのレグは、前記インバータ制御部によって順次切り替えられることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記12)
前記選択された2つのレグの各半導体スイッチのスイッチング動作時間と非スイッチング動作時間との和は、前記三相インバータから出力される電流の出力電圧が正と負を繰り返す1制御周期の時間よりも長いことを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記13)
前記正極側U相スイッチ、前記負極側U相スイッチ、前記正極側V相スイッチ、および前記負極側V相スイッチの各スイッチング周波数は、9kHz以上であることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記14)
前記三相インバータから出力される電力は、50W以下であることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記15)
前記冷媒の液化の量に相関した検出量に基づいて、前記予熱を開始または前記予熱を終了することを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記16)
前記検出量は、温度センサーによって検出される前記冷媒の温度、または前記選択された2つのレグの前記オンオフ制御の停止時間および動作時間であること特徴とする付記15に記載の電力変換装置。
(付記17)
前記インバータ制御部は、前記正極側U相スイッチ、前記負極側U相スイッチ、前記正極側V相スイッチ、および前記負極側V相スイッチの各スイッチング周波数を、前記三相インバータの動作中に変化させることを特徴とする付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記18)
付記1または2に記載の前記電力変換装置と、
圧縮機と
を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
(付記19)
付記1または2に記載の前記電力変換装置と、
前記三相モータと
を備えることを特徴とするモータシステム。
【符号の説明】
【0095】
1 冷凍サイクル装置、 2 モータシステム、 10 圧縮機、 11 三相モータ、 100 電力変換装置、 101 電源部、 102 三相インバータ、 102a インバータ制御部、 102U U相レグ、 102V V相レグ、 102W W相レグ、 UP,VP,WP,UN,VN,WN 半導体スイッチ。
【要約】
電力変換装置(100)は、冷媒を圧縮する圧縮機(10)を駆動する三相モータ(11)に電力を供給する。電力変換装置(100)は、少なくとも6個の半導体スイッチを有する三相インバータ(102)と、インバータ制御部(102a)とを有する。三相インバータ(102)は、U相レグ(102U)と、V相レグ(102V)と、W相レグ(102W)とを有する。冷媒を予熱する場合、インバータ制御部(102a)は、U相レグ(102U)、V相レグ(102V)、およびW相レグ(102W)のうちの2つのレグを選択する。インバータ制御部(102a)は、第1のレグの正極側半導体スイッチと第2のレグの負極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、第1のレグの負極側半導体スイッチと第2のレグの正極側半導体スイッチとを同じタイミングでオンオフ制御し、第3のレグの正極側半導体スイッチおよび負極側半導体スイッチをオフに維持する。